説明

アセチルシステイン組成物及びその使用

本発明は、アセチルシステインを含み、そして金属キレート剤、例えばEDTAを実質的に含まない、溶液中の新規なアセチルシステイン組成物に関する。更に、本発明は、アセチルシステイン組成物の製造及び使用方法に関する。本発明の組成物及び方法は、患者の耐容性及びコンプライアンスを改善するように工夫されているが、同時に医薬製剤の安定性を持続する。本発明の組成物及び方法は、アセトアミノフェン過剰摂取、急性肝不全、種々の癌、メタクリロニトリル中毒、心臓バイパス手術中の再かん流傷害及び放射線造影剤誘発腎症の治療に有用であり、そして粘液溶解剤としても使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中のアセチルシステイン組成物及びそれらの使用に関する。本発明の一定の実施形態において、アセチルシステイン組成物はキレート剤を実質的に含まず、これは製剤の安定性に有意な影響を与えない。本発明の他の実施形態において、アセチルシステイン組成物はEDTAを実質的に含まない。
【背景技術】
【0002】
アセチルシステインは 163.2 の分子量及び下記の化学構造:
【化1】

【0003】
を有する抗酸化剤である (Merck Index 13th ed,, n90, page 17)。アセチルシステインは米国及び世界中で、ノーブランド(ジェネリック)で、並びにに Acetadote(登録商標)、Mucomyst(登録商標)、Pavbolex(登録商標)、Fluimucil(登録商標)、その他の商品名で販売されている。それはアセトアミノフェン過剰摂取の治療を包含する幾つかの適応症のための注射物質及び経口剤として、並びに粘液溶解剤として、吸入用製品として認可されている。アセチルシステインはまた、肝不全、種々の癌、メタクリロニトリル中毒、放射線造影剤誘発腎症の低減及び心臓バイパス手術中の再かん流傷害の低減を包含する他の適応症を治療するために使用又は研究されている。
【0004】
アセチルシステインは安定な分子ではなく、そして溶液中で又は空気暴露に際して酸化及び分解される。幾つかの米国特許はこの問題及び扱っている。例えば、米国特許第 5,691,380 号は、アセチルシステインの安定性を改善するために局所用のシリコーンに基づくエマルジョン系の使用を記載しているようである。
【0005】
他の米国特許は、アセチルシステインを安定化するためにキレート剤の使用によってこの問題を取り扱っているようである。キレート剤、又はキレート化剤は、遊離金属イオンと結合してそれを溶液から除去する有機物質である。広く使用されるキレート化剤は、EDTAと一般に呼ばれるエデト酸又はエチレンジアミン四酢酸であり、これは 292.24 の分子量及び下記の化学構造:
【化2】

【0006】
を有する (Merck Index 13th ed,, n3546, page 620-621)。EDTAは遊離酸として、また種々の塩、例えばEDTA二ナトリウム、EDTA四ナトリウム、EDTA二カリウム及びEDTAカルシウム二ナトリウムとして市販されている。
【0007】
例えば国特許第 5,807,894 号は、シロップ製剤中でのアセチルシステインの高い反応性を改善するためにキレート剤EDTAの使用を記載しているようである。米国特許第 6,114,387 号は、個体投与形態中のアセチルシステインを安定化するためにEDTAの使用を記載しているようである。市場に出ているアセチルシステインの水溶液、例えば Acetadote(登録商標)、Mucomyst(登録商標)、Pavbolex(登録商標)、Fluimucil(登録商標) の商品名の水溶液も、医薬製品を安定化するのに役立つEDTAを、塩であるエデト酸二ナトリウムの形態で含有する。
【0008】
アセチルシステイン製剤の安定性を改善する一方で、キレート剤、例えばEDTAは、ヒト又は動物に投与されると望ましくない効果を引き起こし得る。これらの望ましくない効果の幾つかは血清カルシウム濃度の有意な低下を包含し(Handbook of Pharmaceutical Excipients 226 (R. Rowe et al. eds., 4th ed., 2003))、これは死亡、低カリウム血症、低マグネシウム血症、低血圧症を招くことがあり、そしてEDTAはまた、試験動物において生殖発生毒性を生じることも示されている。EDTAはまた、噴霧溶液中で保存剤として使用された場合に用量依存性の気管支収縮と関係があるとされている。同文献。EDTAの有害効果に基づいて、腎臓障害、肝臓毒性、結核及び心臓機能障害の患者にEDTAを投与する場合には細心の注意を払うべきである。同文献。
【0009】
アセチルシステインは、肝臓損傷を包含する種々の障害及び症状の予防又は治療に使用できるので、キレート化剤、例えばEDTAをアセチルシステイン医薬製品に添加することが懸念される。キレート剤は、アセチルシステイン組成物を安定化する一方で、組成物の有効性を低下させることもある。加えて、一部の個体はキレート剤に対してアレルギーがあるので、彼らはキレート剤を含有するアセチルシステイン組成物の投与を受けることができないか又はこのような組成物の投与を受けた後に追加の手当てを必要とすることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、投与に際して有害効果を生じない安定なアセチルシステイン薬液製品を得ることが望まれるだろう。一定の状況において、例えばアセトアミノフェン過剰摂取に起因する肝臓損傷を軽減又は予防するためにアセチルシステインを使用する際に、EDTA又は他のキレート剤の除去は、キレート剤による何らかの更なる肝臓毒性を制限することによって効能を改善できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、アセチルシステイン、滅菌水及びpH調節剤を含有する水性生成物は、キレート剤を添加しなくても安定であることを見出した。従って、本発明は、キレート剤を実質的に含まない、アセチルシステイン含有溶液に関する。
【0012】
本発明の水性医薬組成物のpHは5〜9、6〜8、6.5〜7.0、又は6.8であってよい。組成物のpHはpH調節剤、例えば水酸化ナトリウムの添加によって調節できる。
【0013】
本発明の一つの実施形態において、水性医薬組成物はキレート剤を実質的に含まない。
【0014】
本発明のもう一つの実施形態において、水性医薬組成物はEDTA又はその医薬上許容される塩を実質的に含まない。
【0015】
本発明の更なる実施形態において、水性医薬組成物は 0.05% 未満、0.02% 未満のキレート剤を含有するか又はそれらを含有しない。本発明の更に他の実施形態において、水性医薬組成物は 0.05% 未満、0.02% 未満のEDTA若しくはその医薬上許容される塩を含有するか又はそれらを含有しない。
【0016】
本発明のまた別の実施形態において、水性医薬組成物は、脱気水に溶解した、10〜400 mg/mL のアセチルシステイン、及び6〜8の最終pHを得るのに十分な量のpH調節剤から構成される。
【0017】
本発明の別の実施形態は、アセチルシステインを含む水性医薬組成物の製造方法であって、該組成物のpHが6〜8であり、そして該組成物が0.05% 未満のキレート剤を含有するか、又はキレート剤、例えばEDTAを実質的に含まない上記方法である。
【0018】
本発明の更に他の実施形態は、アセチルシステインを含む水性組成物を投与することを含む、アセトアミノフェン過剰摂取、肝不全、種々の癌、メタクリロニトリル中毒、放射線造影剤誘発腎症の低減、心臓バイパス手術中の再かん流傷害の低減、及び粘液溶解剤が望ましい疾患の治療方法であって、該組成物のpHが6〜8であり、そして該組成物が0.05% 未満のキレート剤を含有するか又はキレート剤、例えばEDTAを実質的に含まない上記方法である。
【0019】
本発明の更なる目的及び利点は、一部は以下の説明に記載され、そして一部は該説明から自明であるか又は本発明の実施により知ることができる。本発明の目的及び利点は、添付の請求項で特別に指摘した要素及び組み合わせにより実現及び達成されるだろう。
【0020】
前記の一般的な説明及び下記の詳細な説明の両者は例示的及び説明的なものであるにすぎず、特許請求した発明を限定するものではないと理解すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
発明の詳細な説明
A.定義
本発明をより容易に理解できるために、一定の用語を最初に定義する。更なる定義は詳細な説明全体にわたって記載される。
【0022】
「安定な」又は「安定性」という用語は、任意の形態の組成物の、例えば溶液の物理的及び化学的安定性の両者を指す。組成物は、それが製造された時に関して最小限の経時変化を示すならば安定である。安定性は、予定の製品有効期限が終わるまでの種々の時点で、治療活性、外観、粒子状物質のレベル、pH、活性成分の含有量、及び分解生成物、不純物又は関連物質のレベルなどの項目を包含する基準の評価により測定される。組成物の安定性は実施例3に記載したようにして測定することができる。
【0023】
本明細書で用いられるように、「塩」又は「医薬上許容される塩」という用語は、無機及び/又は有機酸で形成された酸塩、並びに無機及び/又は有機塩基で形成された塩基塩を指す。これらの酸及び塩基の例は当業者に周知である。本発明に係る塩は種々の形態で使用できる。水溶液又は他の水性溶液中で、塩は典型的には「陰イオン」、すなわちマイナスに帯電したサブコンポーネントに、及び「陽イオン」、すなわちプラスに帯電したサブコンポーネントに解離する。塩はまた、患者により生理的に耐容されるもの、例えば過度の毒性、不適合性、不安定性及びアレルギー反応のないものであってもよい。
【0024】
「実質的に含まない」という用語は、キレート剤のレベルが有意に減少した組成物を指す。一つの実施形態において、キレート剤は組成物に添加されないが、そうでなければ存在していてもよい。例として、キレート剤は不純物又は望ましくない汚染物質として存在することがある。
【0025】
B.発明の説明
本発明者らは、キレート剤を必要とすることなく、周囲条件で少なくとも1年間及び加速条件(40℃)で6ヵ月間の、溶液中で医薬上許容される安定性を有するアセチルシステインの液体組成物を製造できることを見出した。この安定性は、アセチルシステインの一般的に不安定な性質を考えると驚くべきことである。
【0026】
キレート剤、又はキレート化剤は遊離金属イオンと結合し、従って溶液からそれを捕捉する。広く使用されるキレート化剤は、普通はEDTAと呼ばれるエデト酸又はエチレンジアミン四酢酸である。キレート剤の更なる例は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸 (TTHA)、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’− 四酢酸(CDTA)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、ジヒドロキシエチルグリシン、クエン酸、コハク酸及び酒石酸を包含するが、これらに限定されない。キレート化剤はその酸の形態で使用できるが、その塩の一つとして使用することもできる。EDTAの塩は、例えばエデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム及びエデト酸二カリリウムを包含する。
【0027】
一つの実施形態において、本発明の組成物はキレート剤を含有しないか又はキレート剤、例えばEDTAを実質的に含まない。別の実施形態において、本発明の組成物は 0.05% 未満のキレート剤、例えばEDTAを含有する。例えば、本発明の組成物は、0.050%、0.045%、0.040%、0.035、0.030%、0.025%、0.020%、0.015%、0.010%、0.0050%、0.0025%、0.0010% 未満のキレート剤、例えばEDTAを含有していてもよい。
【0028】
アセチルシステインは、自然に存在するアミノ酸である L−システインの N−アセチル誘導体(N−アセチル−L−システイン及びNACとしても知られている)に対する一般名称である。本発明の一つの実施形態において、本発明の水性組成物は有効量のアセチルシステインを含有する。アセチルシステインは、アセチルシステインの誘導体及びその医薬上許容される塩を包含する。アセチルシステインの誘導体は、エステル、アミド、無水物、並びにスルフヒドリル部分のチオ−エステル及びチオ−エーテルを包含するが、これらに限定されない。アセチルシステイン及びアセチルシステイン誘導体の医薬上許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩及びアンモニウム塩を包含するが、これらに限定されない。
【0029】
アセチルシステインの量は溶液の望ましい特性に応じて変動でき、そして当業者により決定することができる。本発明の一つの実施形態において、アセチルシステインは、0.1〜50% を占め、別の実施形態においては 1.0〜25% を、もう一つの実施形態においては 10% を、そして更に別の実施形態においては 20% を占める。
【0030】
本発明者らは更に、キレート剤を実質的に含まないか又は 0.05% のキレート剤を含有し、注射又は吸入に適したpHを有し、そして経口的にも使用できるアセチルシステインの液体組成物を製造できることを見出した。従って、本発明の別の実施形態は、組成物のpHが5〜9であるアセチルシステインの水溶液を含む医薬組成物である。本発明の更に別の実施形態において、組成物のpHが6〜8であるアセチルシステインの水溶液を含む医薬組成物である。本発明のもう一つの実施形態は、pHが 約 6.8 であるアセチルシステインの水溶液を含む医薬組成物である。更に他の実施形態において、組成物のpHは、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9 又は 9.0 である。
【0031】
本発明の製剤は、pH調節剤、例えば塩基性物質を含むことができる。このような物質は、使用される投与量範囲内で医薬上許容される多数の無機又は有機塩基(一価金属アルカリ及び/又は二価金属アルカリを包含する)、例えば水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア、第三燐酸ナトリウム、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン又は L−リジン及び/又はその混合物を包含する。本発明の一つの実施形態において、組成物のpHを調節するために水酸化ナトリウムが組成物に添加される。
【0032】
pH調節剤の量は、組成物の望ましいpH及び溶液中のアセチルシステインの量に応じて変動することができ、そして当業者により決定することができる。例えば、一般的に、本発明の製剤中のpH調節剤、例えば水酸化ナトリウムの量は、アセチルシステインの望ましい濃度に応じて直接に変動するだろう。使用すべきpH調節剤の正確な量は、特定の調節剤に、並びに水性媒質の緩衝能及び用いられる製剤の他の成分に依存するだろう。従って、当業者は、pH調節剤の最適量が例えば所望のpHへの滴定方法によって容易に決定されることが分かるだろう。
【0033】
本発明はまた、脱気水に溶解した、10〜400 mg/mL のアセチルシステイン、及び組成物の望ましいpH、例えば6〜8を得るための滴定量の水酸化ナトリウム又は他の塩基から構成される水性の医薬組成物を提供する。
【0034】
一定の実施形態において、医薬組成物は、例えば、組成物のオスモル濃度、粘度、透明度、色、等張性、におい、滅菌性、溶解若しくは放出、吸着又は浸透の速度を変更、維持又は保存するための製剤物質を含有することができる。一定の実施形態において、好適な製剤物質は、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸又はメタ重亜硫酸ナトリウム);増量/粘結剤(例えばマンニトール、乳糖又はトレハロース);賦形剤及び/又は製薬助剤を包含するが、これらに限定されない。(Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, A.R. Gennaro, ed., Mack Publishing Company (1990))。
【0035】
本発明者らは更に、アセチルシステインの水溶液及びpH調節剤を含む医薬組成物の製造方法であって、該組成物がキレート剤を実質的に含まないか又は 0.05% 未満のキレート剤を含有する上記方法を見出した。この方法は以下のこと;アセチルシステインを脱気水に加え、約 6.8 のpHに達するまでpH調節剤を加えること、及び、アセチルシステインを完全に溶解することを含む。別法として、pH調節剤を含有する脱気水溶液にアセチルシステインを加えてもよい。生じた生成物は、滅菌フィルター、例えば 0.2 ミクロンフィルターを容易に通過できる透明な無色ないし淡紫色の溶液である。次いでこの生成物をバイアルに充填し、そして密封する前に溶液の上を不活性雰囲気にする。当業者は、投与形態を最適化するため又は大量生産用に生成物の量を増大するために、製造方法を変更する方法を認めるであろう。
【0036】
アセチルシステインの投与は、アセトアミノフェン過剰摂取に続く肝傷害の程度を低減することが示されている。本発明者らは、治療を必要とする患者に有効量のアセチルシステインの水性組成物を投与することを含むアセトアミノフェン過剰摂取の治療方法であって、該組成物がEDTA若しくはその医薬上許容される塩を実質的に含まないか又は 0.05% w/v 未満のEDTA若しくはその医薬上許容される塩を含有する上記方法を見出した。本発明の水性アセチルシステイン組成物により軽減される他の症状は、肝不全、種々の癌、メタクリロニトリル中毒、放射線造影剤誘発腎症の低減、心臓バイパス手術中の再かん流傷害の低減、及び粘液溶解剤が望ましい疾患を包含するが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の医薬組成物は注射(静脈内又は筋肉内)により、吸入により、又は経口ルートにより投与することができる。一つの実施形態において、本発明の組成物は投与の前にデキストロース及び塩化ナトリウムの少なくとも一方を含有する水溶液に溶解される。本発明の別の実施形態において、本発明の組成物は 0.45% 又は 0.90% 塩化ナトリウム(それぞれ2分の1生理食塩水及び生理食塩水)に溶解される。更に別の本発明の組成物において、それは投与の前に5%のデキストロース水溶液に溶解される。本発明の組成物はまた、投与の前に注射用水に溶解してもよい。当業者に公知の他の希釈剤も使用できる。医薬組成物の投与量は、投与当たり 10 mg のアセチルシステインから医薬組成物中 400 mg/kg のアセチルシステインまでの範囲に及び、そして当業者により決定できる。
【0038】
本発明の一つの実施形態において、医薬組成物はアセトアミノフェン毒性を治療するために投与される。本発明の組成物を5%デキストロース中で混合し、そして 150 mg/kg の薬剤を15分間〜2時間かけて負荷用量として与え、その直後に4時間にわたる 50 mg/kg の第二の投与、次いで20時間にわたる 100 mg/kg の第三の投与が続く。必要に応じて追加のコースを与えてもよい。
【0039】
当業者は、水性アセチルシステイン組成物の適切な投与量が治療される個体及び目的に応じて変動し得ることを認めるだろう。例えば、個々の患者の年齢、体重及び病歴は治療の有効性に影響を与えることがある。更に、例えば、より軽い患者はより低用量の組成物が必要なことがあり、その一方、より重い患者はより高用量のアセチルシステインを必要とする。有能な医師はこれらのファクターを考慮し、そして過度の実験を行うことなく投与計画を調節して用量が所望の治療成果を達成しているこを確保できる。臨床医及び/又は治療医は、個々の患者の反応に関連して治療を中断、調節及び/又は終了する方法及び時期を知っていることも注目される。
【0040】
本明細書で引用した全ての文献は、全体として、並びにそれぞれ個々の刊行物又は特許又は特許出願が全体として全ての目的のために参照により組み込まれると明確かつ個々に指摘されたのと同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる刊行物及び特許又は特許出願が本明細書に含まれる開示と矛盾する範囲内において、本明細書はこのような何らかの矛盾する構成要素に取って代わり、そして/又はそれに優先することを意図している。
【0041】
明細書及び請求項で使用した成分、反応条件及びその他の量を表現する全ての数は、全ての場合に「約」という用語により修飾されると理解すべきである。従って、反対のことが示されていない限り、明細書及び添付の請求項に記載された数値パラメーターは、本発明が得ようと求める望ましい特性に応じて変動できる。少なくとも、また請求項の範囲と同等の原則の適用を限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメーターは有効数字の数及び通常の概数化法を考慮して解釈すべきである。
【0042】
明細書及び請求項で使用した成分、構成要素及びその他のパーセンテージを表現する全ての数は、全ての場合に「w/v」という用語により修飾されると理解すべきである。従って、反対のことが示されていない限り、明細書及び添付の請求項に記載されたパーセンテージは、単位体積当たりの重量で表現される。
【0043】
当業者に明らかであるように、本発明の多くの変更及び変化をその精神及び範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書に記載した特定の実施形態は例としてのみ提供され、そして決して限定を意味するものではない。詳細な説明及び実施例は例示としてのみ考慮され、本発明の真実の範囲及び精神は請求項により示されることを意図している。
【0044】
以下の実施例は上記の発見の特定の実施形態を表すが、それらは本発明の範囲全体を代表するものではない。アセチルシステイン、水、水酸化ナトリウム及びエデト酸二ナトリウムは薬局方グレードであるが、他の医薬上許容される材料を利用することができる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は、説明の目的のためにのみ提供される。
【0046】
実施例1:アセチルシステイン製剤の製造
20キログラムのアセチルシステインを約60リットルの注射用脱気水に加え、この溶液を混合した。水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを約 6.5〜7.0 に調節し、溶解するまで混合した。十分な量の注射用脱気水を加えて20%溶液にした(総体積100リットル)。酸素を窒素で置き換えることにより空気への暴露を最小限にした。この溶液を 0.2 ミクロン滅菌フィルターに通した。生成物をバイアル又はアンプルに充填し、上部空間を窒素で置き換えることにより酸素への暴露を最小限にした。
【0047】
実施例2:アセチルシステイン製剤の製造
10kgのアセチルシステインを約60リットルの注射用脱気水に加え、混合する。水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを約 6.5〜7.0 に調節し、溶解するまで混合を続ける。十分な量の注射用脱気水を加えて10%溶液にする(総体積100リットル)。酸素を窒素又は他の医薬上不活性なガスで置き換えることにより空気への暴露を最小限にする。この溶液を 0.2 ミクロンの又は他の滅菌フィルターに通す。生成物をバイアル又はアンプルに充填し、上部空間を窒素又は他の医薬上不活性なガスで置き換えることにより酸素への暴露を最小限にする。
【0048】
実施例3:本発明のアセチルシステイン組成物の安定性
アセチルシステイン溶液の安定性にEDTAが必要であるかどうかを決定するために、異なる濃度のエデト酸二ナトリウムを含有する三つの溶液を製造した。0.05% のエデト酸二ナトリウムを含有する溶液、この量の 40% 、すなわち 0.02% のエデト酸二ナトリウムを含有する溶液、及びエデト酸二ナトリウムを含有しない(0.00%)溶液を調べた。これら三つの溶液は実施例1に記載したのと同様の方法を用いて製造した。簡単に述べると、もしあれば、エデト酸二ナトリウムを、必要な脱気水の約 60% に加え、溶解するまで混合した。次いでアセチルシステインを加え、溶解するまで混合した。pHを水酸化ナトリウムで約 6.8 に調節し、脱気水を目標レベルまで加えた。窒素を用いて溶液をパージした。次いで生成物を 0.2 ミクロンのフィルターに通して潜在的な微生物汚染を除去し、バイアルに充填した。
【0049】
初期時点で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて三つの溶液のアセチルシステイン含有量及びクロマトグラフィー純度を評価した。L−システイン、不純物C(ジスルフィド)、不純物D、及び他の不純物又は分解生成物を包含する種々の不純物の測定値を得た。これらのHPLC測定のピーク面積を表1に示す。クロマトグラムにおける未知ピークの分析も行った。「最高の未知」は、クロマトグラムにおける単一の最高の未確認ピークの面積を表し、その一方、「総計の未知」は、クロマトグラムにおける未確認ピークの総面積を表す。表1参照。HPLCに加えて、三つの溶液それぞれの視覚的外観、pH及び粒子状物質レベルを調べた。次いで三つの溶液を含有するバイアルを25℃又は40℃の何れかに置き、バイアルを3ヵ月目、6ヵ月目及び12ヵ月目に取り出し、上記のパラメーターについてアッセイした。表1参照。
【0050】
外観、pH及び粒子状物質は三つの製剤間で経時的に一定に保たれた。表1に示すように、三つの溶液のそれぞれの間でアセチルシステイン含有量及び純度に有意差はなかった。これらの結果は、医薬上許容される安定性を有する製品を製造するためにエデト酸塩が必要でないことを示している。これらの結果は、アセチルシステインの一般的に不安定な性質を考えると驚くべきことである。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチルシステインを含む水性医薬組成物であって、該組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を実質的に含まない上記組成物。
【請求項2】
アセチルシステインを含む水性医薬組成物であって、該組成物が0.05%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する上記組成物。
【請求項3】
組成物が 0.02%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する、請求項2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を含有しない、請求項3に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
組成物のpHが6〜8である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
組成物のpHが6.5〜7.0である、請求項5に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
組成物のpHが6.8である、請求項6に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
組成物が25℃で少なくとも12ヵ月間安定である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
組成物が40℃で少なくとも6ヵ月間安定である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
脱気水に溶解した10〜400mg/mLのアセチルシステインからなる、pHがpH調節剤で6〜8に調節されている水性医薬組成物。
【請求項11】
治療を必要とする患者に有効量のアセチルシステインの水性組成物を投与することを含むアセトアミノフェン過剰摂取の治療方法であって、該組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を実質的に含まない、上記方法。
【請求項12】
治療を必要とする患者に有効量のアセチルシステインの水性組成物を投与することを含むアセトアミノフェン過剰摂取の治療方法であって、該組成物が0.05%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する上記方法。
【請求項13】
組成物が0.02%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を含有しない、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物のpHが6〜8である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項16】
組成物のpHが6.5〜7.0である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物のpHが6.8である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
投与が静脈内注射、経口又は吸入により行われる、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項19】
投与が静脈内注射により行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
組成物を投与の前にデキストロース及び塩化ナトリウムの少なくとも一方の水溶液中で混合する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項21】
組成物を投与の前に5%w/vデキストロース水溶液中で混合する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
組成物を投与の前に0.45%又は0.90%w/v塩化ナトリウム水溶液中で混合する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
アセチルシステインを脱気水に溶解すること、及び、6〜8のpHを得るために塩基性物質を添加することを含む水性アセチルシステイン医薬組成物の製造方法であって、該組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を実質的に含まない上記方法。
【請求項24】
アセチルシステインを脱気水に溶解すること、及び、6〜8のpHを得るために塩基性物質を添加することを含む水性アセチルシステイン医薬組成物の製造方法であって、該組成物が0.05%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する上記方法。
【請求項25】
溶液を滅菌フィルターに通すこと及び不活性雰囲気下に充填することを更に含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
組成物が0.02%w/v未満のEDTA又はその医薬上許容される塩を含有する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
組成物がEDTA又はその医薬上許容される塩を含有しない、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
組成物のpHが6.5〜7.0である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項29】
組成物のpHが6.8である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
組成物が25℃で少なくとも6ヵ月間安定である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項31】
組成物が40℃で少なくとも6ヵ月間安定である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項32】
塩基性物質が水酸化ナトリウムである、請求項23又は24に記載の方法。

【公表番号】特表2009−506030(P2009−506030A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527905(P2008−527905)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/020691
【国際公開番号】WO2007/024311
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(504154171)カンバーランド ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】