説明

アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品

アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品に関し、アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品に関し、さらに詳細には、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有するアセチル化セルロースエーテル、及びそれを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは単位構造当たり3個の水酸基(−OH)が存在するが、このような水酸基は、規則的に分子間及び分子内の水素結合を形成している。このような水素結合は強力な結晶構造を形成するために、これを含むセルロースは水や有機溶媒に溶けない安定した構造を有する。
【0003】
しかし、セルロース構造内の水酸基のうち一部をエーテル化反応によってブロッキングしたり、前記水酸基の水素を他の置換体で置換させて形成したセルロースエーテルは、水素結合が破壊されて非結晶構造に変換されるために、水に容易に溶ける。このような水溶性セルロースエーテルのいくつかの例は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースを含む。このようなセルロースエーテルは、水に容易に溶解し、保水(water retention)性及びフィルム形成能にすぐれ、建築用増粘剤、医薬用カプセル、洗剤及び化粧品などに広く使われる。
【0004】
しかし、前記セルロースエーテルは、水に容易に溶ける特性により、包装紙として使われるフィルムのように、耐水性を必要とする用途には使用が不可能であるという問題点がある。また、前記セルロース、セルロースエーテル、及びセルロースエーテル誘導体は、溶融点なしに熱分解が起きるために、射出成形のような溶融加工に適用することができないという問題点も有している。
【0005】
一方、セルロースエーテルに、有機溶媒に対する溶解性を付与するために、セルロースエーテルのヒドロキシプロピル基置換度(MS)を0.5以上に高めたり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースをアセチル化する方法(特許文献1)が試みられた。しかし、前者の方法によって製造されたセルロースエーテルは、限定された有機溶媒のみに溶解性があり、水溶性でもあるので、耐水性を必要とする用途には使用が不可であるだけではなく、溶融点がないため射出成形のような溶融加工に適用することができないという問題点がある。また、特許文献1の方法によって製造されたアセチル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、耐水性は有するが、メチル基置換度(DS)が低く(DS=0.1〜1)、ヒドロキシプロピル基置換度(MS)が高い(MS=2〜8)ために、限定された有機溶媒にのみ溶解性があり、アセトンのような有機溶媒には溶解されず、また溶融点がないため、射出成形のような溶融加工に適用することができないという問題点がある。
【0006】
また、強酸を触媒として使用して合成される酢酸セルロースは、メンブレン、フィルム及びファイバなどの製造に商業的に使われているが、合成時に強酸によって、主鎖の加水分解が起き、セルロース固有の機械的強度が喪失されるだけではなく、このような酢酸セルロースを溶解させる有機溶媒の種類がきわめて制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,940,384号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有するアセチル化セルロースエーテルを提供するものである。
本発明の他の具現例は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む物品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有するアセチル化セルロースエーテルを提供する。
【0010】
前記アセチル化セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルが、アセチル化されて形成されたものであってもよい。
【0011】
ブルックフィールド粘度計を用い、20℃、20rpmで測定した場合において、アセチル化セルロースエーテルの2重量%アセトン溶液の粘度が、5〜100,000cps(centipoise)の範囲であってもよい。
【0012】
前記アセチル化セルロースエーテルの溶融点は、180〜250℃の範囲であってもよい。
【0013】
本発明の他の具現例は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む物品を提供する。
【0014】
前記物品は、包装材、ファイバ、家電製品ケース、携帯電話ケース、またはペイントリムーバーであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一具現例によるアセチル化セルロースエーテルは、水には不溶性であるが、有機溶媒には容易に溶解され、機械的強度にすぐれるために、包装用フィルム及びファイバの物品用途に使われもする。また、前記アセチル化セルロースエーテルは、溶融点を有するので、射出成形などを介して家電製品及び携帯電話ケースなどの用途に使われもする。また、前記アセチル化セルロースエーテルは、生分解性にすぐれるために、親環境プラスチック用途に使われもする。また、前記アセチル化セルロースエーテルは、アセチル基を含むという点で酢酸セルロースと類似しているが、前記酢酸セルロースは、合成時に、加水分解が起きて高分子量を有することができず、機械的強度が良好ではない一方、前記アセチル化セルロースエーテルは、高分子量を有することができ、機械的強度が非常に優秀である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一具現例によるアセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品について詳細に説明する。
本発明の一具現例によるアセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアルキル基置換度(DS)、及び0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)を有するセルロースエーテルが、アセチル化されて形成されたものである。ここで、アルキル基は、1〜16の炭素数を有することができる。
【0017】
前記アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアセチル基置換度(DS)を有することができる。
前記範囲のアルキル基置換度(DS)及びヒドロキシアルキル基置換度(MS)を有するセルロースエーテルをアセチル化すれば、水には溶解されず、アセトンのような有機溶媒には好ましく溶解され、溶媒鋳型(solvent casting)、湿式放射(wet spinning)、または乾式放射(dry spinning)などの加工が可能であり、溶融点を有し、射出成形のような溶融加工及び溶融放射(melt spinning)などに適用され、高分子量を有して機械的強度にすぐれるアセチル化セルロースエーテルを得ることができる。
【0018】
前記アセチル化セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルが、アセチル化されて形成されたものであってもよい。
【0019】
また、前記アセチル化セルロースエーテルをアセトンに溶解させた溶液(アセチル化セルロースエーテルの濃度:2重量%)の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて20℃及び20rpmの条件で測定するとき、5〜100,000cpsの範囲であってもよい。前記粘度が前記範囲以内であるならば、前記アセチル化セルロースエーテルは機械的強度にすぐれる。
【0020】
前記アセチル化セルロースエーテルは、180〜250℃の範囲の溶融点を有することができる。前記溶融点が前記範囲以内であるならば、前記アセチル化セルロースエーテルは射出成形のような溶融加工に適用される。
【0021】
以下、本発明の一具現例によるアセチル化セルロースエーテルの製造方法について詳細に説明する。
【0022】
まず、セルロースの水酸基をエーテル化し、セルロースエーテルを製造する。その後、製造されたセルロースエーテルに含まれる水酸基の水素原子を、アセチル基(CHCO)で置換し(この置換反応をアセチル化という)、アセチル化セルロースエーテルを製造する。下記化学式1及び2に、セルロースの基本反復単位である無水グルコース(anhydroglucose)が順にエーテル化及びアセチル化され、アセチル化セルロースエーテルの基本反復単位に転換される過程を示している。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
前記化学式1は、セルロースがエーテル化されてヒドロキシアルキルアルキルセルロースに転換された後、前記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがアセチル化され、アセチル化セルロースエーテルに転換される過程を示したものであり、前記化学式2は、セルロースがエーテル化されてアルキルセルロースに転換された後、前記アルキルセルロースがアセチル化されてアセチル化セルロースエーテルに転換される過程を示したものである。
【0026】
前記化学式1で、R及びRは互いに独立して、H、CH、CHCHOHまたはCHCH(CH)OHであり、Rは、HまたはCHであってもよい。
【0027】
前記化学式2で、R及びRは、それぞれHまたはCHであり、前記R及びRのうち、少なくとも一つは、CHである。
【0028】
本明細書で、アルキル基置換度(DS:degree of substitution)とは、無水グルコース単位当たり、アルキル基で置換された水酸基の平均個数を意味する。無水グルコース単位当たり、最大3個の水酸基が存在するので、単官能性置換体で置換される場合には、理論的な最大アルキル基置換度(DS)は3である。しかし、多官能性または重合性の置換体は、無水グルコース単位に含まれた水酸基の水素と反応するだけではなく、それ自体とも反応するので、その置換度(DS)が3に限定されるものではない。また本明細書で、ヒドロキシアルキル基置換度(MS:degree of molar substitution)とは、無水グルコース単位当たり置換されたヒドロキシアルキル基のモル数を意味する。このようなヒドロキシアルキル基置換度(MS)の理論的な最大値は存在しない。また本明細書で、アセチル基置換度(DS:degree of substitution)とは、無水グルコース単位当たり置換されたアセチル基のモル数を意味する。
【0029】
本発明の一具現例によるアセチル化セルロースエーテルは、セルロースエーテルに存在するほとんどの水酸基の水素が、疎水性基であるアセチル基で置換されて形成されたものであってもよい。従って、前記アセチル化セルロースエーテルは水には溶解されないが、有機溶媒には溶解されるという性質を有する。
【0030】
一方、本発明の一具現例による物品は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む。このような物品は、例えば、包装材、ファイバ、家電製品ケース、携帯電話ケース、またはペイントリムーバーであってもよい。
【0031】
以下、実施例を挙げ、発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、このような実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1〜9及び比較例1:アセチル化セルロースエーテルの製造
撹拌器が装着された3L反応器に、セルロースエーテル70g、無水酢酸1120g及びピリジン350gを投入した後、200rpmで撹拌しつつ、90℃で3時間反応させ、アセチル化セルロースエーテルを製造した。このとき、ピリジンは触媒として使われた。各実施例1〜9及び比較例で使用したセルロースエーテルのメチル基置換度(DS)、ヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び粘度を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

*表1で、実施例に使われたセルロースエーテルは、三星精密化学(株)製の商業化された規格であり、比較例1で使われたHPMC1は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
*表1で、粘度は、2重量%のセルロースエーテル水溶液をブルックフィールド粘度計で20℃及び20rpmの条件で測定したものである。
【0034】
(評価例)
評価例:アセチル化セルロースエーテルの物性評価
前記実施例1〜9及び比較例1で製造したそれぞれのアセチル化セルロースエーテルの粘度、置換度、溶融点、及び各種有機溶媒に係わる溶解性を、それぞれ下記のような方法で測定し、下記表2に示す。
【0035】
(置換度測定)
アセチル化セルロースエーテル試料の石鹸化反応によって形成される遊離酢酸をアルカリで滴定し、それぞれのアセチル化セルロースエーテルのアセチル基置換度(DS)を測定した(ASTMD871−96)。
【0036】
(粘度測定)
それぞれのアセチル化セルロースエーテルをアセトンに溶解させ、2重量%のアセチル化セルロースエーテル溶液を製造した。その後、製造された各溶液の粘度を、ブルックフィールド粘度計で20℃及び20rpmで測定した。
【0037】
(溶融点測定)
それぞれのアセチル化セルロースエーテル50mgを、DSC(NETZSCH、STA409PC)機器を利用し、1℃/min速度で、20℃から1000℃まで昇温させつつ溶融点を測定した。
【0038】
(有機溶媒に対する溶解性測定)
それぞれのアセチル化セルロースエーテルを、塩化メチレン(MeCl)、酢酸(AA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン(Prd)、アセトン(AT)、テトラヒドロフラン(THF)及びジメチルアセトアミド(DMAc)にそれぞれ混合した後で撹拌し、それぞれアセチル化セルロースエーテルが溶解されているか否かを観察した。表2において、有機溶媒に対する溶解性を有する場合には、○で、溶解性を有さない場合には、×で表示した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2を参照すれば、実施例1〜9で製造したアセチル化セルロースエーテルは、比較例1で製造したアセチル化セルロースエーテルに比べ、さらに多種の有機溶媒に溶解され、185〜218℃範囲の溶融点を有すると分かった。一方、比較例1で製造したアセチル化セルロースエーテルは、アセトン、THF及びジメチルアセトアミドには溶解されず、熱を加える場合、溶けないで熱分解すると分かった。従って、実施例1〜9で製造したアセチル化セルロースエーテルは、比較例1で製造したアセチル化セルロースエーテルに比べ、多様な分野に活用が可能であり、射出成形のような溶融加工にも適用される。
【0041】
本発明は、実施例を参考にして説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有するアセチル化セルロースエーテル。
【請求項2】
メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルが、アセチル化されて形成された請求項1に記載のアセチル化セルロースエーテル。
【請求項3】
ブルックフィールド粘度計を用い、20℃及び20rpmで測定した場合において、2重量%アセトン溶液の粘度が、5〜100,000cpsの範囲である請求項1に記載のアセチル化セルロースエーテル。
【請求項4】
溶融点が180〜250℃の範囲である請求項1に記載のアセチル化セルロースエーテル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアセチル化セルロースエーテルを含む物品。
【請求項6】
前記物品は、包装材、ファイバ、家電製品ケース、携帯電話ケース、またはペイントリムーバーである請求項5に記載の物品。


【公表番号】特表2013−518968(P2013−518968A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551900(P2012−551900)
【出願日】平成22年10月11日(2010.10.11)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006938
【国際公開番号】WO2011/093573
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(500323513)三星精密化学株式会社 (22)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG FINE CHEMICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】190 YEOCHEON−DONG, NAM−GU, ULSAN−CITY 680−090, REPUBLIC OF KOREA
【Fターム(参考)】