説明

アゾ色素、該色素を含有する異方性色素膜用組成物、異方性色素膜及び偏光素子

【課題】 調光素子、液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子などの表示素子に具備される異方性色素膜などに有用なアゾ色素を提供することを課題とする。
【解決手段】 遊離酸の形が、下記式(1)で表されることを特徴とする、アゾ色素。


(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基または水酸基を表す。mおよびnは、それぞれ独立に、0または1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光板等に有用なアゾ色素、該色素を含む組成物、異方性色素膜及び偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光膜や円偏光膜が用いられている。OLEDにおいても、外光の反射防止のために円偏光膜が使用されている。
従来、これらの偏光膜(異方性色素膜)にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために、偏光膜に使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。そのため、有機系色素を二色性物質として使用する偏光膜が検討されている。
【0003】
そのような偏光膜の製造方法の一つとして、例えば、特許文献1では、二色性を有する有機系色素を、ポリビニルアルコール等の高分子材料に溶解または吸着させ、一方向にフィルム状に延伸させることにより色素を配向させて、偏光膜を得る方法が挙げられている。
また、別の方法として、例えば、特許文献2では、ガラスや透明フィルムなどの基板上に、湿式成膜法を用いて色素を含む膜を形成し、分子間相互作用などを利用して色素を配向させることにより偏光膜を得る方法が挙げられている。
【0004】
しかしながら、いずれの方法においても、有機系色素を用いた偏光膜は、偏光膜として使用するための十分な性能を得られていないという問題点があった。
【特許文献1】特開平3−12606号公報
【特許文献2】特表平8−511109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、偏光膜などの異方性色素膜に有用な、有機系色素を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、分子両末端に会合性を向上させるための特徴的な基を有する、下記式(1)または下記式(2)で表されるアゾ色素が、偏光膜に使用する有機系色素として有用であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、遊離酸の形が下記式(1)または下記式(2)で表されることを特徴とするアゾ色素に存する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基または水酸基を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0または1を表す。)
【0009】
【化2】



【0010】
(式(2)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
また、本発明は、上記式(1)または上記式(2)で表されるアゾ色素及び溶剤を含有する異方性色素膜用組成物、上記式(1)または上記式(2)で表されるアゾ色素を含有する異方性色素膜並びに該異方性色素膜を用いることを特徴とする偏光素子に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の色素は、直線性に優れており、異方性色素膜、特に偏光機能を必要とする偏光膜に有用である。また、本発明の色素は、耐熱性にも優れていることから、耐熱性が必要とされる種々の用途の異方性色素膜に用いることができる。以上のような性能を有することからも、本発明の色素は、異方性色素膜用に限らず、インクジェット用にも使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
尚、本発明でいう異方性色素膜とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0013】
本発明の異方性色素膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
本発明は、遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とするアゾ色素に関する。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基または水酸基を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0または1を表す。)
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基または水酸基を表す。
【0016】
及びRとしての置換基を有していてもよいアミノ基は、通常、−NH、−NHR11、−NR1213で表される。R11〜R13は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは3以下である。該アルキル基及び該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、2−スルホエチルアミノ基、3−スルホフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0017】
及びRとしての置換基を有していてもよいアルコキシ基は、通常、炭素数が1以上、6以下、好ましくは3以下である。該アルコキシ基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、2,3−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換基を有していてもよいアルコキシ基が挙げられ、特に置換基を有していてもよい低級アルコキシ基が好ましい。
【0018】
及びRのいずれかがスルホ基が1以上置換したフェニルアミノ基、スルホ基が1以上置換したアルキルアミノ基または水酸基が1以上置換したアルキルアミノ基であることが好ましい。特に、Rが水酸基でRがスルホフェニルアミノ基であること、または、R及びRが水酸基が1以上置換したアルキルアミノ基であることが、水への溶解度が向上するため好ましい。
【0019】
m及びnは、それぞれ独立に、0または1を表すが、m及びnがいずれも0であることが好ましい。
式(1)で表されるアゾ色素の分子量は、遊離酸の形で、1500以下が好ましく、1200以下がさらに好ましい。
また、本発明は遊離酸の形が下記式(2)で表されることを特徴とするアゾ色素に関する。
【0020】
【化4】

【0021】
(式(2)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
としての置換基を有していてもよいアルキル基は、通常、炭素数が1以上、4以下、好ましくは3以下である。該アルキル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。
【0022】
としての置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、フェニル基またはナフチル基が好ましい。該フェニル基および該ナフチル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。
1,8−ナフタルイミド環に結合するアゾ基は、1,8−ナフタルイミド環の3位或いは4位に結合していることが好ましい。また、1,8−ナフタルイミド環に結合する水酸基は、1,8−ナフタルイミド環の3位或いは4位に結合していることが好ましい。特に、3位に水酸基及び4位にアゾ基が置換していることが分子平面性および分子直線性の観点から好ましい。
【0023】
式(2)で表されるアゾ色素の分子量は、遊離酸の形で、1500以下が好ましく、1200以下がさらに好ましい。
本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素は、通常、水溶性の色素である。
本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素は、遊離酸の形(遊離酸型)のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。塩型の交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
1) 塩型で得られた色素の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
2) 塩型で得られた色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化リチウム)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換を行う方法。
3) 塩型で得られた色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
4) 予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた色素の水溶液を作用させ、塩交換を行う方法。
【0024】
また、本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素の酸性基が遊離酸型をとるか、塩型を取るかは、色素のpKaと色素水溶液のpHに依存する。
上記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。
【0025】
有機アミンの例として、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
以下に、本発明の式(1)で表されるアゾ色素の具体例を以下の表に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の具体例は、遊離酸の形で記載する。
【0026】
尚、表1中のR21及びR22は、以下の式(1−1)で表される色素中のR21及びR22に対応する。式(1−1)で表される色素中のR21は、式(1)で表される色素のRに対応し、R22はRに対応する。
また、表2中のR23及びR24は、以下の式(1−2)で表される色素中のR23及びR24に対応する。式(1−2)で表される色素中のR23は、式(1)で表される色素のRに対応し、R24はRに対応する。
【0027】
【化5】

【0028】
【表1】

【0029】
【化6】

【0030】
【表2】

【0031】
以下に、本発明の式(2)で表されるアゾ色素の具体例を以下の表に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の具体例は、遊離酸の形で記載する。
尚、表3中のR31は、以下の式(2−1)で表される色素中のR31に対応する。式(2−1)で表される色素中のR31は、式(2)で表される色素のRに対応する。
また、表4中のR32は、以下の式(2−2)で表される色素中のR32に対応する。式(2−2)で表される色素中のR32は、式(2)で表される色素のRに対応する。
【0032】
【化7】

【0033】
【表3】

【0034】
【化8】

【0035】
【表4】

【0036】
本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。例えばNo.(I−2)で示される色素は、下記(A)、(B)の工程で製造できる。
(A)6−アミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸(J酸)と塩化シアヌルを反応させ、ついで、3−アミノベンゼンスルホン酸(メタニル酸)と縮合反応を行う。
(B)4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸を常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照]に従って、テトラゾ化し、工程(A)で得られた化合物とカップリングを行う。反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて強アルカリ性とし、加水分解反応を行うことにより、目的の色素No.(I−2)が得られる。
【0037】
本発明の異方性色素膜用組成物は、式(1)または式(2)で表されるアゾ色素及び溶剤を含有する。組成物中において、これらの各式で表される色素を単独で使用できるが、各式に記載の色素同士、或いは異なった式で表される色素同士、更には配向を低下させない程度に他の色素と混合して用いることができる。これにより、各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
【0038】
配合用として好ましい色素の例としては、例えばC.I.Direct Yellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Red 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0039】
本発明の異方性色素膜用組成物に使用される溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等の単独又は二種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0040】
色素を溶解する場合の濃度としては、色素の溶解性や会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
また、本発明の異方性色素膜用組成物は、基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。その添加濃度は通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
【0041】
本発明の異方性色素膜は、式(1)または式(2)で表されるアゾ色素を含有することを特徴とする。本発明の異方性色素膜は、式(1)または式(2)で表されるアゾ色素の他に、必要に応じて上記のような界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。
異方性色素膜の作製方法としては、
(a)延伸したポリビニルアルコールなどの高分子基材を、色素を含有する溶液等で染色する方法
(b)ポリビニルアルコールなどの高分子基材の溶液に色素を溶解し、フィルム状に成膜した後に延伸する方法
(c)色素を適当な溶剤に溶解して、異方性色素膜用組成物を調製し、この異方性色素膜用組成物を用いてガラス板などの各種基材表面に湿式成膜法にて成膜し、組成物中に含まれる色素を配向、積層して得る方法
など公知の方法が挙げられる。
【0042】
本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素を用いて、異方性色素膜を形成する場合、例えば前記(a)〜(c)のいずれの方法においても、二色性アゾ色素を適当な溶剤に溶解して使用する。 溶剤としては、前記異方性色素膜用組成物に含有する溶剤が挙げられる。
本発明の式(1)または式(2)で表されるアゾ色素を用い、前記(c)の方法で異方性色素膜を形成するには、前記異方性色素膜用組成物を調製後、ガラス板などの各種基材に塗布し、色素を配向、積層して得る方法など公知の方法が採用される。
【0043】
具体的に、湿式成膜法としては、原崎勇次著 「コーティング工学」 株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行、253頁から277頁や市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行、118頁から149頁などに記載の公知の方法や、例えば、あらかじめ配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、フリースパンコート法、ダイコート法などで塗布することが挙げられる。
【0044】
塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。乾燥時の温度は好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
本発明に使用される基材として、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。また、この基材表面には、二色性色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」 丸善株式会社、平成12年10月30日発行、226頁から239頁などに記載の公知の方法により、配向処理層を施していてもよい。
【0045】
このような方法で製造された異方性色素膜は機械的強度が低い場合もあるので、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜を積層して形成され、実用に供する。
本発明の異方性色素膜、特に前記(c)の方法で基材上に形成される異方性色素膜の膜厚は、通常乾燥後の膜厚で好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、最も好ましくは10μm以下で、好ましくは50nm以上である。この膜厚が上記下限を下回ると膜内での均一な膜厚が得にくく、上記上限を超えると膜内での色素分子の均一な配向が得にくい。
【0046】
なお、前記(a)の方法における色素溶液で染色する基材や、前記(b)の方法において色素とともに延伸されてなる基材としては、ポリビニルアルコールなど、色素との親和性の高い高分子材料が挙げられる。
前記(a)及び(b)の方法における、染色及び成膜並びに延伸は、一般的な下記の方法で行うことができる。
【0047】
本発明の異方性色素膜用組成物及び必要に応じて塩化ナトリウム、ボウ硝等の無機塩、界面活性剤等の染色助剤を加えた染浴中に、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、通常80℃以下、好ましくは50℃以下で、通常1分以上、好ましくは3分以上、通常60分以下、好ましくは20分以下、高分子フィルムを浸漬して染色し、次いで必要に応じてホウ酸処理し、乾燥する。あるいは、高分子重合体を水及び/又はアルコール、グリセリン、ジメチルホルムアミド等の親水性有機溶媒に溶解し、本発明の異方性色素膜形成用組成物を添加して原液染色を行い、この染色原液を流延法、溶液塗布法、押出法等により成膜して染色フィルムを作成する。溶媒に溶解させる高分子重合体の濃度としては、高分子重合体の種類によっても異なるが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上程度で、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下程度である。また、溶媒に溶解する色素の濃度としては、高分子重合体に対して通常0.1重量%以上、好ましくは0.8重量%以上程度で、通常5重量%以下、好ましくは2.5重量%以下程度である。
【0048】
上記のようにして染色及び成膜して得られた未延伸フィルムは、適当な方法によって一軸方向に延伸する。延伸処理することによって色素分子が配向し、二色性が発現する。一軸に延伸する方法としては、湿式法にて引っ張り延伸を行う方法、乾式法にて引っ張り延伸を行う方法、乾式法にてロール間圧縮延伸を行う方法等があり、いずれの方法を用いて行ってもよい。延伸倍率は2倍以上、9倍以下にて行われるが、高分子重合体としてポリビニルアルコール及びその誘導体を用いた場合は2.5倍以上、6倍以下の範囲が好ましい。延伸配向処理したあとで、該延伸フィルムの耐水性向上と偏光度向上の目的でホウ酸処理を実施する。ホウ酸処理により、異方性色素膜の光線透過率と偏光度が向上する。ホウ酸処理の条件としては、用いる親水性高分子重合体及び色素の種類によって異なるが、一般的にはホウ酸濃度としては、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上程度で、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下程度である。また、処理温度としては通常30℃以上、好ましくは50℃以上で、通常80℃以下の範囲にあることが望ましい。ホウ酸濃度が1重量%未満であるか、処理温度が30℃未満の場合は、処理効果が小さく、また、ホウ酸濃度が15重量%を超えるか、処理温度が80℃以上を超える場合は異方性色素膜がもろくなり好ましくない。
【0049】
(a)及び(b)の方法により得られる異方性色素膜の膜厚は通常50μm以上、特に80μm以上で、200μm以下が好ましく、特に100μm以下であることが好ましい。
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能するほか、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折率異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に適用可能な偏光素子とすることができる。
【0050】
本発明の異方性色素膜を偏光素子として使用する場合、前記(a)〜(c)に代表される方法で作成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また該色素膜上に保護層、粘着層、反射防止層、位相差層など、様々な機能をもつ層を積層形成し、積層体として使用してもよい。
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性色素膜を用いたものであるが、異方性色素膜のみからなる偏光素子であってもよいし、基板上に異方性色素膜を有する偏光素子であってもよい。基板上に異方性色素膜を有する偏光素子は、基板も含めて偏光素子とよぶ。
【0051】
本発明の異方性色素膜を基板上に形成して偏光素子として使用する場合、形成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0052】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開 2002-169025号公報や特開 2003-29030 号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0053】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0054】
本発明の色素を用いた異方性色素膜は、高耐熱性の偏光素子を得ることができるという点から、液晶ディスプレーや有機ELディスプレーだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例中、二色比は、ヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計で異方性色素膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
【0056】
(実施例1)
6−アミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸(J酸)48重量部を水にpH=6として溶かし、0〜5℃に冷却する。このものに塩化シアヌル37重量部を加え、0〜5℃を保持して、2時間反応を行った。ついで、室温にて3−アミノベンゼンスルホン酸(メタニル酸)水溶液35重量部を加えてpH=6〜7で4時間縮合反応を行い、J酸誘導体化合物を得た。
【0057】
塩酸酸性条件下、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸37重量部に亜硝酸ナトリウム14重量部を加えてテトラゾ化し、上記方法で得られたJ酸誘導体化合物とアルカリ条件下、カップリングを行った。反応終了後、60℃に昇温し、25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、強アルカリ性とし、加水分解することにより、目的の色素No.(I−2)をナトリウム塩として得た。この色素の10ppmでの極大吸収波長(λmax)を表5に示す。
【0058】
【化9】

【0059】
(実施例2)
2−アミノエタン−1−スルホン酸(タウリン)32重量部を水酸化ナトリウム水溶液で中和、溶解し、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタル酸無水物50重量部と90〜95℃で2時間反応させ、ナフタルイミド誘導体化合物を得た。ついで、塩酸酸性条件下、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸39重量部に亜硝酸ナトリウム15重量部を加えてテトラゾ化し、上記方法で得られたナフタルイミド誘導体化合物とアルカリ条件下、カップリングを行うことにより、目的の色素No.(II−6)をナトリウム塩として得た。この色素の10ppmでの極大吸収波長(λmax)を表5に示す。
【0060】
【化10】

【0061】
(実施例3)
水90重量部に例示色素No.I−2の色素のナトリウム塩を0.05重量部、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製:GL−05)10重量部を加えて、水浴中で撹拌溶解後、厚さ約1mmに展開、乾燥することにより色素含有のポリビニルアルコール(PVA)フィルムを得た。
このPVAフィルムを5重量%のホウ酸水溶液に浸漬後、3倍に引き伸ばして異方性色素膜を得た。この異方性色素膜の単体透過率は図1に示す通りであり、571nmにおける二色比は3であった。
【0062】
(実施例4)
色素No.I−2のナトリウム塩を、例示色素No.II−6のナトリウム塩に変更した以外は実施例3に記載の方法と同様の方法により色素含有のポリビニルアルコール(PVA)フィルムを得た。
このPVAフィルムを5重量%のホウ酸水溶液に浸漬後、3倍に引き伸ばして異方性色素膜を得た。この異方性色素膜の単体透過率は図2に示す通りであり、533nmにおける二色比は2であった。
【0063】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】異方性色素膜の単体透過率(実施例3)
【図2】異方性色素膜の単体透過率(実施例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする、アゾ色素。
【化1】


(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基または水酸基を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0または1を表す。)
【請求項2】
遊離酸の形が下記式(2)で表されることを特徴とする、アゾ色素。
【化2】



(式(2)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のアゾ色素及び溶剤を含有することを特徴とする、異方性色素膜用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアゾ色素を含有することを特徴とする、異方性色素膜。
【請求項5】
請求項4に記載の異方性色素膜を用いることを特徴とする、偏光素子。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−291246(P2007−291246A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121110(P2006−121110)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】