説明

アダマンタノール類の製造方法

【課題】アダマンタノール類の製造に際して用いられる高価なルテニウム触媒を高収率で容易に分離回収し、廃水中に流出するルテニウム化合物を低減化することで環境に対する負荷を低減させる。
【解決手段】 アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸塩により反応させてアダマンタノール類を製造する方法において、(1)反応後の混合液にアルカリを添加し、(2)混合液を水相と有機相に分離した後、水相中の炭素数8以下のアルコール濃度を0.1重量%以下とした後、(4)洗浄後の水相に、次亜塩素酸塩及び有機溶媒を添加し、ルテニウム化合物を回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性ポリマー、合成潤滑油や可塑剤などの中間原料、あるいは医農薬等の有機薬品の中間体として有用なアダマンタノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸又はその塩により反応させる方法により、アダマンタノール類を高選択率かつ高収率で得ることができる(特許文献1)。用いるルテニウム化合物は、高価であるため、工業的に実施するためには、回収し再利用する必要がある。そこで、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸塩により反応させてアダマンタノール類を製造させる方法において、反応後の混合液に酸化剤を添加して四酸化ルテニウムとしてルテニウム化合物を有機相に抽出する方法が提案されている(特許文献2、3)。
【0003】
この方法では、ルテニウム化合物を基本的には液の移送・攪拌のみで分離回収することができる。一方、反応後アダマンタノール類を効率良く抽出、回収するためにアダマンタノール類の溶解度が高い難水溶性アルコール類を使用する方法がある(特許文献4参照)。その場合、水相中にその難水溶性のアルコールが微量ながら残存し、ルテニウム化合物を有機溶媒中に抽出する際の還元剤となり、ルテニウムの回収率を低下させ、また水相を廃水とする場合にルテニウム触媒を流出させ、経済的、環境的に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4182307号公報
【特許文献2】特開2001−031603号公報
【特許文献3】特開2004−339105号公報
【特許文献4】特開2001−26563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アダマンタノール類の製造に際して用いられる高価なルテニウム触媒を高収率で容易に分離回収し、廃水中に流出するルテニウム化合物を低減化することで環境に対する負荷を低減させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、非水溶性有機溶媒により水相を洗浄して、水相中に含まれる炭素数8以下のアルコール体を一定量以下にすることにより、ルテニウム化合物を四酸化ルテニウムとして高回収率で容易に分離回収でき、廃水中に流出するルテニウム化合物が低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸塩により反応させてアダマンタノール類を製造する方法において、(1)反応後の混合液にアルカリを添加し、(2)混合液を水相と有機相に分離した後、(3)水相を非水溶性有機溶媒で洗浄し、水相中の炭素数8以下のアルコール濃度を0.1重量%以下とした後、(4)洗浄後の水相に、次亜塩素酸塩及び有機溶媒を添加し、ルテニウム化合物を回収することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ルテニウム化合物の回収率を容易に高めることが可能であり、経済的にアダマンタノール類を製造することができると共に、廃水に流出するルテニウム化合物を削減することで環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において原料となるアダマンタン類は、下記一般式で表されるものである。
【0010】
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示す)
【0011】
ここでアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル基などの炭素数1〜10アルキル基、好ましくは炭素数1〜6アルキル基、特に炭素数1〜4アルキル基が含まれる。アリール基には、フェニル基、ナフチル基等が含まれ、シクロアルキル基には、シクロヘキシル、シクロオクチル基等が含まれる。アルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10アルコキシ基が含まれる。アリールオキシ基には、例えば、フェノキシ基等が含まれる。アシルオキシ基には、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ基等の炭素数2〜6アシルオキシ基等が含まれる。ハロゲン基には、クロル基、ブロム基、ヨード基等が含まれる。
【0012】
本発明で得られるアダマンタノール類は、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、1,3,5−アダマタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、3,5−ジメチル−1−アダマンタノール、5,7−ジメチル−1,3−アダマンタンジオール等が例示され、更に前記した各種置換基を有していてもよい。
【0013】
アダマンタン類の酸化に用いられるルテニウム化合物は、ルテニウム金属、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硫酸ルテニウムまたはそれらの水和物等を単独または混合物で用いることができる。
【0014】
ルテニウム化合物の使用量は、原料のアダマンタン1モルに対して0.005〜2.0モル、より好ましくは0.01〜0.4モルの割合である。使用量がこの範囲より少ないと反応速度が低下し、多いと高価なルテニウム化合物を多量に使用することになり、共に工業的見地から好ましくない。
【0015】
本発明の次亜塩素酸塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられるが、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。次亜塩素酸塩類は、6〜35重量%の水溶液として使用する。次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より低いと水相の量が多くなり、生成物の水相からの抽出効率が低下し、廃液処理にも負担をかける。一方、次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より高いと副反応が起こりやすくなりアダマンタノール類の収率が低下する。
【0016】
次亜塩素酸塩類の添加量は、アダマンタン類1モルに対し、目的とするアダマンタノール類の種類により0.5〜4.0モル、好ましくは1.0〜3.0モルの範囲を選択することが出来る。この範囲より少ない場合は、酸化反応が不十分で原料転化率が低く、効率的ではない。一方、高い場合は、消費されたアダマンタン類に対するアダマンタノール類の選択率が低下し、その後の分離操作が複雑になる。次亜塩素酸塩類の添加は、一時的に添加しても連続的に添加しても構わない。
【0017】
反応中のpHは、3〜10の範囲で任意に選ぶことができる。pHが10を超えると触媒活性の低い過ルテニウムイオンが生成するため好ましくない。また、pHが3を下回ると塩素が発生し、除害設備等が必要になるほか、塩化物誘導体の副生等反応に悪影響を及ぼし、好ましくない。
【0018】
反応中のpHを調整するために酸を添加することができる。添加する酸としては、水溶性の酸であるギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸のいずれでも良いが、生成物の精製から考えると無機酸が好ましく、反応に影響を与える可能性が低い塩酸および硫酸が更に好ましい。用いる酸の濃度に特に制限はない。
【0019】
反応に使用する有機溶媒としては、水との相溶性が低く、高酸化状態のルテニウムの溶解性が高く、反応に対し不活性な溶媒を選択する。相溶性が高いと溶媒回収コストが上昇し、高酸化状態のルテニウムの溶解性が低いと反応が進行しにくくなる。そのような有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類を例示することができる。この中で特に1,2−ジクロロエタン、酢酸エチルが好ましい。これらの溶媒は、単独でも2種以上の溶媒を混合した系でも使用できる。溶媒は、原料として用いるアダマンタン1重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは3〜10重量部の割合で使用する。
【0020】
反応温度は10〜100℃、好ましくは30〜70℃の範囲である。反応温度がこの範囲よりも低い場合は反応速度が著しく低下し、逆に高い場合は、次亜塩素酸塩の分解や副反応の増加による選択率の低下が起こり、いずれも不利になる場合が多い。使用する反応器は、特に制限はなく公知の攪拌機付き反応器で行うことができる。
【0021】
本発明では、反応後の混合液にアルカリを添加し、反応水相のpHを7以上にすることによりルテニウム化合物を水相側に分離後、生成したアダマンタノール類を有機相として分離する。添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムもしくは水酸化バリウム等の金属水酸化物、またはアンモニア水溶液、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。この中で水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。添加するアルカリの濃度は特に制限はなくそのまま添加しても、予めアルカリの水溶液を調製し、この水溶液を滴下してもよい。
【0022】
アダマンタノール類がアダマンタンジオール類、アダマンタントリオール類など、反応に使用した溶媒に対する溶解度が低い場合や、水に対する溶解度が高い場合は、抽出溶媒を添加して有機相に抽出することができる。抽出溶媒としては、炭素数4〜8のアルコールが好ましい。炭素数4〜8のアルコールとしては1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノールまたはベンジルアルコールなどが挙げられる。添加する抽出溶媒量は、反応水相に対して重量比で0.1〜10倍、好ましくは0.2〜5倍であり、反応水相から繰り返し抽出することもできる。反応液とアルコールを混合した後、静置分離あるいは遠心分離によってバッチ式あるいは連続式で有機相とルテニウム化合物が含まれる水相とを分離する。有機相からは、濾過、濃縮、蒸留、晶析、再結晶等の公知方法でアダマンタノール類が分離される。
【0023】
濃縮後のアダマンタノール類を含む溶液については、そのままの形態で提供することもできるが、貧溶媒を添加して/あるいは添加せずに、冷却温度を制御して晶析する等の公知の方法により固形物として得ることができる。
【0024】
本発明では、生成したアダマンタノール類を分離後、ルテニウム化合物が含まれる水相を非水溶性有機溶媒で洗浄し、水相中に含まれる炭素数8以下のアルコール濃度を0.1重量%以下とする。非水溶性有機溶媒としては、飽和炭化水素類、酢酸エステル類又はハロゲン化炭化水素類が挙げられる。飽和炭化水素類としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロオクタン等が挙げられ、酢酸エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が挙げられ、ハロゲン化炭化水素類としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。これら中でも、酢酸エステル類又はハロゲン化炭化水素類が、抽出溶媒、反応溶媒を統一できることから好ましい。
【0025】
非水溶性有機溶媒は水相に対して、重量比で0.05〜10倍、好ましくは0.2〜2.0倍の割合で使用する。それ以下では、水相中のアルコール濃度を効果的に低下させることが出来ず、それ以上では有機溶媒の使用量が多すぎて経済的ではない。洗浄・分離は、上述のアルコール抽出と同様な方法を用いてもよい。洗浄は、水相中の炭素数8以下のアルコール濃度が0.1重量%以下となるように混合時の接触時間、温度、洗浄回数を適宜決定する。
【0026】
洗浄後のルテニウム化合物が含まれる水相に対して、有機溶媒と酸化剤とを添加し、懸濁状態で存在していたルテニウム化合物が有機溶媒と親和性の高い四酸化ルテニウムとし、有機相に回収する。この操作で、アルコール体濃度は0.1%重量以下であれば抽出によるルテニウム化合物の回収率に影響は少ないが、これ以上含まれる場合、高酸化状態のルテニウムが直ちに還元され水相に戻るため回収率が低下し、工業上好ましくない。
【0027】
酸化剤としては、入手の容易さ、価格及び反応の後処理等を考慮すると、反応と同一の酸化剤である次亜塩素酸塩類を用いるのが好ましい。酸化剤の添加量は、ルテニウム化合物1モルに対し、0.01〜50モル、好ましくは0.05〜30モルの範囲である。添加量がこの範囲より少ない場合は、酸化剤および有機溶媒を添加後の混合液を分液している間にルテニウム化合物が高酸化状態を維持できなくなり、ルテニウム化合物が水相に移ってしまう。一方、この範囲より多い場合は水相中の酸化剤濃度が高くなり、廃水処理コストが上昇する。
【0028】
ルテニウム化合物を抽出する有機溶媒としては、反応に用いた溶媒を用いることで抽出した高酸化状態のルテニウムを含有したまま次の反応操作を開始することができる。触媒回収に用いる有機溶剤の量は水相に対し重量比で0.1〜10倍、好ましくは0.5〜5倍であり、水相から繰り返し抽出することもできる。抽出温度は、高温なほど抽出速度が高くなるが、高酸化状態のルテニウム化合物の揮発性から、適用する温度は常圧において5〜80℃、好ましくは10〜40℃である。
【0029】
酸化剤と有機溶媒を添加する際の水相のpHは2〜10、好ましくは3〜7に調節する。その調節には、酸を用いることが出来、水溶性の酸であるギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸のいずれでも良いが、有機相への混入を考えると無機酸が好ましい。用いる酸の濃度に特に制限はない。pH調節の際、pHが10を超えるとルテニウム化合物の抽出効率が低下する。また、pHが3を下回ると塩素が発生し、除害設備等が必要になるほか、塩化物誘導体の副生等反応に悪影響を及ぼし、好ましくない。
【0030】
有機相と水相の混合・分液には、攪拌機付きの反応槽の他、単段又は多段のミキサーセトラー、抽出塔等の公知の抽出装置を使用することができる。また、分離した有機相は、次の反応に再利用することができる。すなわち、有機溶媒に抽出した回収ルテニウム化合物は、そのまま次の反応に利用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。水相中に含まれるアルコール濃度については、FID検出器を有したガスクロマトグラフィーにより、絶対検量線法にて分析を行った。また、水相中に含まれるルテニウム化合物の定量については、ロータリーエバポレーターで濃縮させ、濃塩酸で加温抽出することで均一溶液とした後にICP発光分析にて行った。ルテニウムの回収率については仕込みルテニウム量と系外に廃棄する廃水中のルテニウム量の差分から算出した。
【0032】
実施例1
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3Lの5つ口ジャケット付きフラスコにアダマンタン65.5g(0.48mol)、酢酸エチル434g、塩化ルテニウム・n水和物3.18g(ルテニウム含有量1.37g)、水77gを仕込んだ後、45℃に加温した。pHコントローラーに次亜塩素酸ナトリウム(13重量%水溶液)注入用定量ポンプ及び硫酸注入用定量ポンプを接続し、pH5を維持するように両者を滴下していき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を551g(0.96mol)添加した。
【0033】
次亜塩素酸ナトリウムの添加終了後、25重量%NaOHを15g加え、pH=9とし、ルテニウム触媒をスラリーとして水相側に移動させた。有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は95%、1−アダマンタノール収率は29%、1,3−アダマンタンジオール収率57%、1,3,5−アダマンタントリオールは8%であった。
【0034】
反応後の液から、単蒸留により酢酸エチルを留出除去した後、1−ペンタノール500gを入れ50℃にてアダマンタノール類を抽出した。静置後、液々分離によりルテニウム化合物を含む水相とアルコール相に分けた。本操作をもう一度実施し、同様の方法で分離した。水相中のアルコール濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、0.20重量%の1−ペンタノールが検出された。反応に使用したままの3L反応器にルテニウム化合物を含む水相のみを戻し、酢酸エチル60gで混合攪拌し、洗浄後、静置し水相と酢酸エチル相に分離した。水相中の1−ペンタノール濃度は0.04重量%まで減少していた。
【0035】
水相側を反応液に戻し、新規の酢酸エチル80gを加え、希塩酸を使用し、pH=4とした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH=5まで滴下することで、水相中のルテニウム化合物を高酸化状態とし、酢酸エチル相に抽出した。分液後の水相について、さらに新規の酢酸エチル90gを添加し、再び次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下し、酢酸エチル相側に抽出を行った。水相中に含まれるルテニウム化合物を定量したところ、0.025gが検出された。ルテニウムの回収率は98.2%であった。
【0036】
実施例2
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3Lの5つ口ジャケット付きフラスコにアダマンタン65.5g(0.48mol)、酢酸エチル434g、塩化ルテニウム・n水和物3.18g(ルテニウム含有量1.37g)、水77gを仕込んだ後、45℃に加温した。pHコントローラーに次亜塩素酸ナトリウム(13重量%水溶液)注入用定量ポンプ及び硫酸注入用定量ポンプを接続し、pH5を維持するように両者を滴下していき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を413g(0.72mol)添加した。
【0037】
次亜塩素酸ナトリウムの添加終了後、25重量%NaOHを15g加え、pH=9とし、ルテニウム触媒をスラリーとして水相側に移動させた。有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は92%、1−アダマンタノール収率は45%、1,3−アダマンタンジオール収率40%、1,3,5−アダマンタントリオールは6%であった。
【0038】
反応後の液から、単蒸留により酢酸エチルを留出除去した後、1−ヘキサノール500gを入れ60℃にてアダマンタノール類を抽出した。静置後、液々分離によりルテニウム化合物を含む水相とアルコール相に分けた。本操作をもう一度実施し、同様の方法で分離した。水相中のアルコール濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、0.15重量%の1−ヘキサノールが検出された。反応に使用したままの3L反応器にルテニウム化合物を含む水相のみを戻し、酢酸エチル60gで混合攪拌し、洗浄後、静置し水相と酢酸エチル相に分離した。水相中の1−ヘキサノール濃度は0.05重量%まで減少していた。
【0039】
水相側を反応液に戻し、新規の酢酸エチル80gを加え、希塩酸を使用しpH=4とした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH=5まで滴下することで、水相中のルテニウム化合物を高酸化状態とし、酢酸エチル相に抽出した。分液後の水相について、さらに新規の酢酸エチル90gを添加し、再び次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下し、酢酸エチル相側に抽出を行った。水相中に含まれるルテニウム化合物を定量したところ、0.02gが検出された。ルテニウムの回収率は98.5%であった。
【0040】
比較例1
1−ペンタノール抽出を二回実施するところまでは、実施例1と同様に行った。水相中のアルコール濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、0.18重量%の1−ペンタノールが検出された。
【0041】
反応に使用したままの3L反応器にルテニウム化合物を含む水相のみを戻し、酢酸エチルでの洗浄操作は実施しなかった。続いて、新規の酢酸エチル80gを加え、希塩酸を使用しpH=4とした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH=5まで滴下することで、同様に水相中のルテニウム化合物を高酸化状態とし、酢酸エチル相に抽出した。分液後の水相について、さらに新規の酢酸エチル90gを添加し、再び次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下し、酢酸エチル相側に抽出を行った。水相中に含まれるルテニウム化合物を定量したところ、0.08gが検出された。ルテニウムの回収率は94.2%であった。
【0042】
比較例2
1−ヘキサノール抽出を二回実施するところまでは、実施例2と同様に行った。水相中のアルコール濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、0.25重量%の1−ヘキサノールが検出された。
【0043】
反応に使用したままの3L反応器にルテニウム化合物を含む水相のみを戻し、酢酸エチルでの洗浄操作は実施しなかった。続いて、新規の酢酸エチル80gを加え、希塩酸を使用しpH=4とした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH=5まで滴下することで、同様に水相中のルテニウム化合物を高酸化状態とし、酢酸エチル相に抽出した。分液後の水相について、さらに新規の酢酸エチル90gを添加し、再び次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下し、酢酸エチル相側に抽出を行った。水相中に含まれるルテニウム化合物を定量したところ、0.07gが検出された。ルテニウムの回収率は94.9%であった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸塩により反応させてアダマンタノール類を製造する方法において、(1)反応後の混合液にアルカリを添加し、(2)混合液を水相と有機相に分離した後、(3)水相を非水溶性有機溶媒で洗浄し、水相中の炭素数8以下のアルコール濃度を0.1重量%以下とした後、(4)洗浄後の水相に、次亜塩素酸塩及び有機溶媒を添加し、ルテニウム化合物を回収することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法。
【請求項2】
非水溶性有機溶媒が、酢酸エステル類又はハロゲン化炭化水素類である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
回収したルテニウム化合物をそのまま次の反応に利用することを特徴とする請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−265210(P2010−265210A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117567(P2009−117567)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】