説明

アップライト型ピアノ

【課題】 アコースティック演奏を行う第1演奏モード時にソフトペダル効果が得られ、第2演奏モード時には、ソフトペダルの踏込みの影響を受けることなく、ハンマーの回動位置を適切に検出しながら、演奏を良好に行えるアップライト型ピアノを提供する。
【解決手段】 第2演奏モード時にハンマー4の回動位置を検出するセンサ7,8と、離鍵状態でハンマー4が当接するハンマーレール15と、ソフトペダル23と、ソフトペダル23の踏込みに伴い、ハンマーレール15を突き上げ、弦S側に回動させる突上げ棒29と、突上げ棒29とハンマーレール15の間に介在するばね30と、突上げ棒29によるハンマーレール15の作動を許容する許容位置と、ハンマーレール15に当接し、その作動を阻止する阻止位置に移動自在のストッパ60と、ストッパ60を、第1演奏モード時に許容位置に、第2演奏モード時に阻止位置に駆動するストッパ駆動機構61と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンマーによる打弦によってアコースティック演奏を行う第1演奏モードと、ハンマーの回動位置を検出しながら演奏を行う第2演奏モードに、演奏モードを切り替えて演奏されるアップライト型ピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のアップライト型ピアノとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このアップライト型ピアノは、アコースティック音による通常演奏モードと、電子音による消音演奏モードに切り替えて演奏される消音ピアノである。この消音ピアノは、鍵と、鍵の押鍵に連動して回動するハンマーと、鍵に設けられた第1シャッタと、第1シャッタの下方に設けられた第1光センサと、ハンマーに設けられた第2シャッタと、第2シャッタの回動経路付近に設けられた第2および第3光センサなどで構成されている。第1〜第3光センサは、楽音発生装置に接続されている。
【0003】
消音演奏モードでは、鍵の押鍵に連動してハンマーが回動するのに伴い、第1シャッタが第1光センサの光路を遮断し、第2シャッタが第2および第3光センサの光路を遮断することによって、それに応じた検出信号が第1〜第3光センサから楽音発生装置に出力される。楽音発生装置は、第2および第3光センサの検出信号に基づいて発音タイミングおよび音量を設定し、第1光センサの検出信号に基づいて止音タイミングを設定するとともに、設定したこれらの制御パラメータに基づいて楽音を生成する。
【0004】
また、特許文献1には記載されていないが、アップライト型の消音ピアノには一般に、通常演奏モード時にソフトペダル効果を付与するためのソフトペダルが設けられている。このソフトペダルは、ペダル天秤や突上げ棒を介して、回動自在のハンマーレールに連結されており、鍵の離鍵状態では、このハンマーレールにハンマーが当接している。ソフトペダルが踏み込まれると、ハンマーレールが突上げ棒で突き上げられ、弦側に回動することによって、離鍵状態におけるハンマーの位置(以下「ハンマーの離鍵位置」という)が弦側に近づく。これにより、ハンマーの離鍵位置から弦までの距離(以下「ハンマーストローク」という)が短くなることによって、通常演奏モード時にソフトペダル効果が得られる。
【0005】
以上のような構成の従来の消音ピアノでは、消音演奏モード時にソフトペダルが踏み込まれると、それに伴うハンマーレールの作動によって、ハンマーの離鍵位置、すなわち押鍵に伴って回動するハンマーの初期位置が弦側に近づくため、ハンマーに設けられた第2シャッタによる第2および第3光センサの光路の遮断タイミングが、ソフトペダルの非踏込み状態における本来の遮断タイミングに対してずれてしまう。その結果、検出された遮断タイミングに基づく発音タイミングや音量の設定を適切に行えず、消音演奏を適切に行えなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、アコースティック演奏を行う第1演奏モード時に、ソフトペダルの踏込みに伴うソフトペダル効果を得ることができるとともに、第2演奏モード時には、ソフトペダルが踏み込まれても、その影響を受けることなく、ハンマーの回動位置を適切に検出しながら、演奏を良好に行うことができるアップライト型ピアノを提供することを目的とする。
【0007】
【特許文献1】特開2007−79312号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーで弦を打弦することによってアコースティック演奏を行う第1演奏モードと、ハンマーの回動位置を検出しながら演奏を行う第2演奏モードに、演奏モードを切り替えて演奏されるアップライト型ピアノであって、ハンマーの回動経路付近に設けられ、第2演奏モード時にハンマーの回動位置を検出するセンサと、鍵の離鍵状態においてハンマーが当接する回動自在のハンマーレールと、ソフトペダル効果を付与するために踏み込まれるソフトペダルと、下端部がソフトペダルに連結され、ソフトペダルの踏込みに伴って上方に移動することにより、ハンマーレールを突き上げ、弦側に回動させるための突上げ棒と、突上げ棒とハンマーレールの間に介在するばねと、ハンマーレールから退避し、突上げ棒の突上げによるハンマーレールの作動を許容する許容位置と、ハンマーレールに当接し、ハンマーレールの作動を阻止する阻止位置とに移動自在のストッパと、ストッパを、第1演奏モード時に許容位置に駆動するとともに、第2演奏モード時に阻止位置に駆動するストッパ駆動機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このアップライト型ピアノによれば、ハンマーは、鍵の離鍵状態ではハンマーレールに当接しており、鍵が押鍵されると、それに伴って回動し、弦を打弦する。アコースティック演奏を行う第1演奏モードでは、ストッパは、ストッパ駆動機構による駆動によって、許容位置に位置し、ハンマーレールから退避している。この状態でソフトペダルが踏み込まれると、それに伴って突上げ棒が上方に移動し、ハンマーレールをばねを介して突き上げる。この場合、ストッパが許容位置に位置しているため、ハンマーレールは、ストッパで邪魔されることなく、弦側に回動する。これにより、ハンマーの離鍵位置が弦に近づくことによって、ソフトペダル効果が得られる。
【0010】
一方、第2演奏モードでは、ハンマーの回動経路付近に設けられたセンサによってハンマーの回動位置を検出しながら、演奏が行われる。また、この第2演奏モードでは、ストッパは、ストッパ駆動機構による駆動によって、阻止位置に位置し、ハンマーレールに当接している。この状態でソフトペダルが踏み込まれると、突上げ棒が上方に移動し、ハンマーレールを押圧するものの、阻止位置に位置するストッパがハンマーレールに当接しているため、突上げ棒との間に介在するばねが変形するだけであり、ハンマーレールは回動しない。これにより、ハンマーの離鍵位置が、ソフトペダルの非踏込み時と同じ位置に保持される結果、ソフトペダルの踏込み時における鍵の押鍵ストロークとハンマーの回動位置との関係が、ソフトペダルの非踏込み時と変わらずに保持される。したがって、第2演奏モード時に、ソフトペダルが踏み込まれた場合でも、その影響を受けることなく、押鍵ストロークに応じたハンマーの回動位置をセンサで適切に検出しながら、演奏を良好に行うことができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライト型ピアノにおいて、ストッパ駆動機構は、演奏モードを第1演奏モードと第2演奏モードに切り替えるために操作される切替えペダルと、切替えペダルの操作に連動して作動し、ストッパを許容位置と阻止位置に駆動する駆動部材と、を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、切替えペダルを操作することによって、演奏モードが第1演奏モードと第2演奏モードに切り替えられるとともに、この切替えペダルの操作に連動して駆動部材が作動し、ストッパを許容位置と阻止位置に駆動する。このように、演奏モードを切り替えるための切替えペダルの操作に機械的に連動して、ストッパを許容位置と阻止位置に駆動するので、演奏モードの切替えに伴うストッパの駆動を、センサなどを用いることなく、確実かつ容易に行うことができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライト型ピアノにおいて、ストッパは、阻止位置においてハンマーレールに上方から当接する主ストッパ部と、阻止位置においてハンマーレールに後方から当接する副ストッパ部と、を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、ストッパが阻止位置にあるときに、ストッパの主ストッパ部がハンマーレールに上方から当接するのに加えて、副ストッパ部がハンマーレールに後方から当接する。このように、ハンマーレールを主ストッパ部および副ストッパ部によって上方および後方から同時に押さえつけるので、突上げ棒による押圧によって回動しようとするハンマーレールを確実に保持することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のアップライト型ピアノにおいて、主ストッパ部と副ストッパ部は互いに別体で構成されており、ストッパは、主ストッパ部の取付位置を上下方向に調整する上下調整機構と、副ストッパ部の取付位置を前後方向に調整する前後調整機構と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成では、上下調整機構によって主ストッパ部の取付位置が上下方向に調整され、前後調整機構によって副ストッパ部の取付位置が前後方向に調整される。したがって、部品の製造誤差や取付誤差などによって、主ストッパ部および副ストッパ部とハンマーレールとの位置関係がずれた場合でも、このずれを補償し、両ストッパ部がハンマーレールに最適な状態で当接するように、両ストッパ部の取付位置を容易に調整することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライト型ピアノにおいて、第2演奏モードは、センサで検出されたハンマーの回動位置に応じて生成された楽音信号に基づく電子音によって消音演奏を行う消音演奏モードであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、消音演奏モード時にソフトペダルが踏み込まれても、押鍵ストロークに応じたハンマーの回動位置をセンサで適切に検出できる。したがって、検出した回動位置に応じて、楽音の発音タイミングや止音タイミング、音量などを適切に設定しながら、消音演奏を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるアップライト型の消音ピアノ1を示している。なお、以下の説明では、消音ピアノ1を演奏者から見た場合の手前側(図1の右側)を「前」、奥側(図1の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」として、説明を行うものとする。
【0020】
図1に示すように、この消音ピアノ1は、棚板2に左右方向に並んだ状態で載置された複数(例えば88個)の鍵3(1つのみ図示)と、鍵3の後部上方に設けられたアクション40と、鍵3ごとに設けられた回動自在のハンマー4と、各ハンマー4の後方に張設された弦Sと、ペダル装置20(図2参照)を備えている。この消音ピアノ1は、ハンマー4で弦Sを打弦することによって発生するアコースティック音によるアコースティック演奏(第1演奏モード)と、後述する楽音発生装置17で生成された楽音信号に基づく電子音による消音演奏(第2演奏モード)に、演奏モードを切り替えて演奏される。
【0021】
鍵3は、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、棚板2上のバランスレール2aに立設されたバランスピン5に、回動自在に支持されている。
【0022】
アクション40は、鍵3の押鍵に伴ってハンマー4を回動させるためのものであり、ウイッペン41、ジャック42およびバット43を鍵3ごとに有している。ウイッペン41およびバット43は、センターレール10に取り付けられたウイッペンフレンジ41aおよびバットフレンジ43aに、それぞれ回動自在に支持されている。ジャック42は、ウイッペン41に回動自在に取り付けられている。また、センターレール10の後端部には、ダンパー44が回動自在に取り付けられている。ダンパー44は、後述するラウドペダル25が操作されていない状態で、鍵3が押鍵後に離鍵されたときに、振動する弦Sに当接することによって止音動作を行う。
【0023】
一方、ハンマー4は、バット43から上方に延びるハンマーシャンク4aと、ハンマーシャンク4aの上端部に取り付けられたハンマーヘッド4bなどで構成されている。
【0024】
図2に示すように、ペダル装置20は、左側から順に配置され、それぞれ前後方向に延びるソフトペダル23、消音ペダル24およびラウドペダル25(図3参照)と、左右方向に延びるソフトペダル23用のペダル天秤26およびラウドペダル25用のペダル天秤(図示せず)と、消音ペダルワイヤ27などを備えている。
【0025】
上記の3つのペダル23〜25は、後端部において、底板9に取付金具9aを介して上下方向に回動自在に取り付けられており、消音ペダル24はさらに、左右方向にスライド自在に取り付けられている。図3に示すように、ペダル23〜25は、前土台13に形成されたペダル孔14を通って前方に突出している。また、ソフトペダル23およびラウドペダル25用のペダル孔14が矩形状であるのに対し、消音ペダル24用のペダル孔14は、下半部から左方に延びる係止部14aを有している。この構成により、消音ペダル24は、これを踏み込んだ後、左方にスライドさせ、係止部14aに係止させることによって、踏込み状態に保持される。
【0026】
ソフトペダル23用のペダル天秤26は、その中央において、天秤台28に揺動自在に支持されており、右端部がソフトペダル23に連結され、左端部には突上げ棒29が連結されている。
【0027】
突上げ棒29は、丸棒で構成され、ペダル天秤26からハンマーレール15の左端部付近まで、上方に延びている。図4に示すように、突上げ棒29の上端部は、他の部分よりも小径のばね取付部29aになっており、このばね取付部29aは、中空のハンマーレール15の底壁に形成された孔を通って、その内部に突出している。また、ばね取付部29aには、所定のばね力および長さを有するコイルばね30が取り付けられており、このコイルばね30は、ハンマーレール15の下壁に設けられたばね受け部18に下方から当接している。
【0028】
ハンマーレール15は、例えばアルミニウム合金の押出し成形品で構成されており、棚板2の左右の端部に設けられたブラケット12(1つのみ図示)の間に、左右方向に延びるように設けられている(図2参照)。図1および図4に示すように、ハンマーレール15は、扇状の中空の断面を有し、その背面には、左端部以外の部分に、例えばフェルトから成る緩衝材15aが貼り付けられている。
【0029】
ハンマーレール15の左右の端部には、アーム16(1つのみ図示)の前端部がねじ止めされ、このアーム16の後端部は、ブラケット12に形成された係合孔12cに係合している。これにより、ハンマーレール15は、アーム16を介して、ブラケット12に水平軸線回りに回動自在に支持されている。
【0030】
以上の構成により、ソフトペダル23が踏み込まれていない状態では、ハンマーレール15は、停止位置(図7の実線位置)に位置し、ブラケット12のレール載置部12aに緩衝材12bを介して載置されている。また、離鍵状態では、ハンマー4のハンマーシャンク4aが、ハンマーレール15に緩衝材15aを介して斜めに当接しており、したがって、ハンマー4の離鍵位置はハンマーレール15の位置に応じて定められる。
【0031】
また、ソフトペダル23が踏み込まれると、ペダル天秤26の天秤台28よりも右側の部分が押し下げられ、左側の部分が上方に回動することによって、突上げ棒29が上方に移動し、コイルばね30を介してハンマーレール15を突き上げる。これにより、ハンマーレール15は、停止位置から後方に所定角度、回動することにより、作動位置(図7の2点鎖線位置)に移動し、それに伴い、ハンマー4の離鍵位置も弦S側に移動する(同2点鎖線位置)。
【0032】
消音ペダル24は、演奏モードをアコースティック演奏と消音演奏に切り替える際に踏込み操作されるものであり、消音ペダルワイヤ27を介して消音装置50に連結されている。図2に示すように、消音装置50は、駆動ロッド51と、ハンマー4の回動を阻止するためのストップレール52と、駆動ロッド51とストップレール52を連結する4つの連結部材53と、駆動ロッド51を駆動するための駆動レバー54などで構成されている。
【0033】
駆動ロッド51は、丸棒で構成され、ブラケット12の後方においてアクション40の左右方向の全体にわたって延びており、ブラケット12に、それに固定された支持金具12d(図7参照)を介して、回動自在に支持されている。また、駆動レバー54は、駆動ロッド51に固定されるとともに、消音ペダルワイヤ27に連結されている。
【0034】
各連結部材53は、上下方向に延びており、下端部が駆動ロッド51に固定されるとともに、上端部にはストップレール52が固定されている。このストップレール52は、すべてのハンマー4にわたるよう左右方向に延びている。
【0035】
以上の構成により、消音ペダル24が踏み込まれていない状態では、ストップレール52は、ハンマー4のハンマーシャンク4aの回動範囲内から退避した退避位置(図4の実線位置)に位置する。また、消音ペダル24が踏み込まれると、消音ペダルワイヤ27が引き下げられるのに伴い、駆動レバー54およびこれと一体の駆動ロッド51が、図4の時計方向に所定角度、回動することによって、ストップレール52は、ハンマーシャンク4aの回動範囲内に進入した進入位置(図4の2点鎖線位置)に回動する。
【0036】
図2に示すように、ハンマーレール15の左端部付近には、ストッパ60が設けられている。このストッパ60は、消音演奏時に、突上げ棒29の突上げによるハンマーレール15の作動を阻止するためのものである。図5および図6に示すように、ストッパ60は、基部62、主ストッパ63および副ストッパ64を備えており、これらは、いずれも折り曲げた鋼板などで構成され、互いに同じ幅を有している。
【0037】
基部62は、前壁62aと左右の側壁62b,62bから、後方に開放した断面コ字状に形成され、上下方向に延びている。側壁62b,62bの下部には、半円形の切欠62c,62c(1つのみ図示)が互いに対向するように形成されており、基部62は、これらの切欠62c,62cを駆動ロッド51の半部に係合させた状態で、前壁62a側から駆動ロッド51に皿ねじ65をねじ込むことによって、駆動ッド51に固定されている。また、皿ねじ65の頭部は、前壁62aに形成された座ぐり穴62dに収容されており、主ストッパ63を前壁62aに取り付ける際に邪魔にならないようになっている。
【0038】
主ストッパ63は、L字状の側面形状を有しており、基部62の前壁62aに取り付けられた取付部63aと、その上端からハンマーレール15の上方付近まで前方に延びる当接部63bで構成されている。取付部63aには上下方向に延びる長孔63cが形成され、当接部63bには前後方向に延びる長孔63dが形成されている。主ストッパ63は、この長孔63cに通した2つのねじ66,66を、前壁62aに形成された上下2つのねじ孔62e,62eにねじ込むことによって、基部62に固定されている。
【0039】
以上の構成により、ねじ66を締め付ける前に、主ストッパ63を長孔63cに沿って前壁62aに対して上下方向にスライドさせることにより、主ストッパ63の取付位置を上下方向に無段階に調整することが可能である。すなわち、本実施形態では、主ストッパ63の長孔63c、基部62の2つのねじ孔62e,62eおよびねじ66,66によって、上下調整機構71が構成されている。
【0040】
副ストッパ64は、平板状のものであり、主ストッパ63の当接部63bの下面に取り付けられている。具体的には、副ストッパ64は、当接部63bの長孔63dに通した2つのねじ67,67を、副ストッパ64に形成された前後2つのねじ孔64a,64aにねじ込むことによって、主ストッパ63に固定されている。
【0041】
以上の構成により、ねじ67を締め付ける前に、副ストッパ64を長孔63dに沿って当接部63bに対して前後方向にスライドさせることにより、副ストッパ64の取付位置を前後方向に無段階に調整することが可能である。すなわち、本実施形態では、主ストッパ63の長孔63d、副ストッパ64の2つのねじ孔64a,64aおよびねじ67,67によって、前後調整機構72が構成されている
【0042】
また、ハンマーレール15のストッパ60に対応する部位には、その背面から前面にわたり、薄いシート状のフェルトなどから成る緩衝材15bが貼り付けられている(図1および図4参照)。
【0043】
以上の構成によれば、消音ペダル24が踏み込まれていない状態では、ストッパ60は、図7に示す許容位置に位置する。この許容位置では、主ストッパ63の当接部63bおよび副ストッパ64は、ハンマーレール15から離れた上方に退避している。それにより、ソフトペダル23が踏み込まれたときに、突上げ棒19の突上げによるハンマーレール15の作動が許容され、ハンマーレール15は2点鎖線で示す作動位置に位置する。
【0044】
一方、消音ペダル24が踏込み操作されると、消音ペダルワイヤ27および駆動レバー54を介して駆動ロッド51が回動するのに伴い、これと一体のストッパ60が、上記の許容位置から時計方向に所定角度、回動し、図8に示す阻止位置に移動する。この阻止位置では、ハンマーレール15の背面と前面との境界部である頂部付近に、主ストッパ63の当接部63bが上方から、副ストッパ64の前端が後方から、緩衝材15bを介して当接する。これにより、ソフトペダル23が踏み込まれたときの、突上げ棒29の突上げによるハンマーレール15の作動が阻止され、ハンマーレール15は停止位置に保持される。
【0045】
以上のように、消音ペダル24の踏込み操作に伴い、ストッパ60は、消音ペダルワイヤ27、駆動レバー54および駆動ロッド51によって駆動される。すなわち、本実施形態では、これらの4つの要素24,27,54および51によって、ストッパ駆動機構61が構成されている。
【0046】
また、ペダル天秤26の付近にはソフトペダルスイッチ33が設けられ、消音ペダル24の付近には消音ペダルスイッチ34が設けられている(図9参照)。これらのスイッチ33,34は、例えばマイクロスイッチで構成され、ソフトペダル23および消音ペダル24の踏込みの有無に応じたON/OFF信号を楽音発生装置17に出力する。また、ラウドペダル25にはラウドペダルセンサ35が設けられており(図9参照)、このラウドペダルセンサ35は、ラウドペダル25の踏込み量を表す検出信号を楽音発生装置17に出力する。
【0047】
楽音発生装置17は、消音演奏時に電子的な楽音を発生させるものであり、鍵3の押鍵情報を検出するためのシャッタ6、第1および第2光センサ7,8や、楽音生成部17a、スピーカ17bおよびヘッドホン17cなどで構成されている。
【0048】
図4に示すように、シャッタ6は、矩形の板状に形成され、ハンマー4のハンマーシャンク4aの背面に固定され、後方に延びている。第1および第2光センサ7,8は、シャッタ6の後方の所定位置に設けられている。
【0049】
第1および第2光センサ7,8は、一対の発光ダイオードおよびフォトトランジスタ(いずれも図示せず)でそれぞれ構成されており、プリント基板11に電気的に接続されている。第1および第2光センサ7,8は、シャッタ6の回動経路に沿い、前後方向に並んで配置されており、それらの光路がシャッタ6で遮断されているときにLレベルの信号を、開放されているときにHレベルの信号を、検出信号として楽音生成部17aに出力する。また、プリント基板11は、取付レール(図示せず)に取り付けられており、この取付レールは、左右のブラケット12,12の間に渡されている。
【0050】
楽音生成部17aは、消音ペダルスイッチ34からON信号が出力されているとき、すなわち消音ペダル24が踏込み状態にあるときに、第1および第2光センサ7,8の検出信号に応じて楽音信号を生成する。具体的には、第1および第2光センサ7,8の検出信号に応じて発音タイミングや止音タイミング、音量を決定するとともに、その結果に応じて楽音信号を生成し、スピーカ17bまたはヘッドホン17cに出力する。なお、ヘッドホン17cへの楽音信号の出力は、ヘッドホン17cのジャック(図示せず)が差し込まれているときに行われる。
【0051】
また、楽音生成部17aは、ソフトペダルスイッチ33からON信号が出力されているときに、楽音信号のレベルを小さくすることによって、電子音にソフトペダル効果を付与する。さらに、ラウドペダルセンサ35からの検出信号に応じて楽音信号に所定の残響効果を付加することにより、電子音にラウドペダル効果を付与する。
【0052】
次に、以上の構成の消音ピアノ1の動作を説明する。アコースティック演奏を行う場合には、消音ペダル24は非踏込み状態に保持される。前述したように、この消音ペダル24の非踏込み状態では、ストップレール52は退避位置(図4の実線位置)に位置し、ストッパ60は許容位置(図7の位置)に位置している。この状態で鍵3が押鍵されると、それに伴って回動するウイッペン41とともにジャック42が上方に移動し、バット43を突き上げることにより、ハンマー4は図1の反時計方向に回動する。この場合、ストップレール52は退避位置に位置しているので、ハンマー4は、ストップレール52に邪魔されることなく回動し、ハンマーヘッド4bが弦Sを打弦することによって、アコースティック演奏が行われる。
【0053】
このアコースティック演奏中、ソフトペダル23が踏み込まれると、ペダル天秤26を介して突上げ棒29が駆動され、上方に移動することにより、コイルばね30を介してハンマーレール15を突き上げる。この場合、ストッパ60は許容位置に位置しているので、ハンマーレール15は、ストッパ60に邪魔されることなく、図7の反時計方向に回動し、停止位置(実線位置)から作動位置(2点鎖線位置)に移動する。これに伴い、ハンマー4もまた、弦S側に回動し、ハンマー4の離鍵位置が弦Sに近づくことによって、ソフトペダル効果が得られる。
【0054】
一方、消音演奏を行う場合には、消音ペダル24が踏み込まれ、ペダル孔14の係止部14aに係止される。このように消音ペダル24が踏み込まれると、前述した動作により、ストップレール52は進入位置(図4の2点鎖線位置)に移動し、ストッパ60は阻止位置(図8の位置)に移動する。この状態で鍵3が押鍵されると、回動するハンマー4のハンマーシャンク4aが、進入位置に位置するストップレール52に当接し、ハンマー4のそれ以上の回動が阻止されることによって、弦Sの打弦が阻止される。また、第1および第2光センサ7,8で検出されたハンマー4の回動位置に応じた電子音が楽音生成部17aで生成され、スピーカ17bまたはヘッドホン17cから放音される。
【0055】
この消音演奏中、ソフトペダル23が踏み込まれた場合には、図8に示すように、突上げ棒29が上方に移動し、ハンマーレール15を押圧するものの、阻止位置に位置するストッパ60がハンマーレール15に当接しているため、コイルばね30が圧縮されるだけで、ハンマーレール15は、回動せず、停止位置に保持される。これにより、ハンマー4の離鍵位置もまた、ソフトペダル23の非踏込み時と同じ位置に保持される結果、ソフトペダル23の踏込み時における鍵3の押鍵ストロークとハンマー4の回動位置との関係が、ソフトペダル23の非踏込み時と変わらずに保持される。したがって、消音演奏中にソフトペダル23が踏み込まれた場合でも、その影響を受けることなく、押鍵ストロークに応じたハンマー4の回動位置を第1および第2光センサ7,8で適切に検出しながら、消音演奏を良好に行うことができる。
【0056】
また、演奏モードを切り替えるための消音ペダル24の操作に伴い、ストッパ駆動機構61によって、ストッパ60を機械的に駆動するので、演奏モードの切替えに伴うストッパ60の駆動を、センサなどを用いることなく、確実かつ容易に行うことができる。さらに、ストッパ駆動機構61の構成要素、すなわち消音ペダル24、消音ペダルワイヤ27、駆動レバー54および駆動ロッド51は、演奏モードを切り替えるストップレール52の駆動機構としても用いられているので、このような構成部品の共用化によって、部品点数および製造コストの削減を図ることができる。
【0057】
また、ストッパ60が阻止位置にあるときには、その主ストッパ63が上方から、副ストッパ64が後方から、ハンマーレール15に同時に当接するので、突上げ棒29の押圧によって回動しようとするハンマーレール15を確実に保持することができる。さらに、主ストッパ63および副ストッパ64が長孔63cおよび63dを介してねじ止めされていることにより、主ストッパ63を上下方向に、副ストッパ64を前後方向に、互いに独立してそれぞれ無段階に調整できる。したがって、部品の製造誤差や取付誤差などによって、主ストッパ63および副ストッパ64とハンマーレール15との位置関係がずれた場合でも、このずれを補償し、両ストッパ63,64がハンマーレール15に最適な状態で当接するように、両ストッパ63,64の取付位置を容易に調整することができる。
【0058】
なお、本実施形態は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ストッパ60を駆動するストッパ駆動機構61を、消音ペダル24や駆動ロッド51などで構成し、ストップレール52の駆動機構と共用しているが、その構成は、演奏モードの切替えに応じてストッパ60を適切に駆動できるものであれば、任意である。
【0059】
また、実施形態では、ストッパ60の主ストッパ63および副ストッパ64が互いに別体で構成されているが、これらは一体でもよい。あるいは、ストッパをより単純化し、ストッパがハンマーレール15に上方または後方のみから当接するようにすることも、本発明の範囲内である。さらに、ストッパ60の取付位置を上下方向および前後方向に調整するための上下調整機構および前後調整機構として、長孔およびねじなどを用いているが、これに代えて、他の適当な手段を採用できることはもちろんである。また、ハンマーレールと突上げ棒の間に介在するばねとして、コイルばねを用いているが、他の種類のばね、例えば板ばねを用いてもよい。
【0060】
さらに、実施形態は、本発明を消音ピアノに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、自動演奏ピアノに適用することが可能である。その場合、演奏データの記録時にソフトペダルが踏み込まれても、ハンマーの離鍵位置をソフトペダルの非踏込み時と同じに保持できるので、検出されたハンマーの回動位置に応じて適切な演奏データを得ることができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態によるアップライト型の消音ピアノの概略構成を示す側面図である。
【図2】ペダル装置の斜視図である。
【図3】ペダル装置の部分拡大斜視図である。
【図4】ストップレールの動作を示す側面図である。
【図5】ハンマーレールのストッパを示す斜視図である。
【図6】ストッパの断面図である。
【図7】ストッパが許容位置にあるときの動作を示す側面図である。
【図8】ストッパが阻止位置にあるときの動作を示す側面図である。
【図9】楽音発生装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0062】
1 消音ピアノ(アップライト型ピアノ)
3 鍵
4 ハンマー
7 第1光センサ(センサ)
8 第2光センサ(センサ)
15 ハンマーレール
23 ソフトペダル
24 消音ペダル(切替えペダル)
27 消音ペダルワイヤ
29 突上げ棒
30 コイルばね(ばね)
51 駆動ロッド(駆動部材)
60 ストッパ
61 ストッパ駆動機構
63 主ストッパ(主ストッパ部)
64 副ストッパ(副ストッパ部)
71 上下調整機構
72 前後調整機構
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って回動するハンマーで弦を打弦することによってアコースティック演奏を行う第1演奏モードと、前記ハンマーの回動位置を検出しながら演奏を行う第2演奏モードに、演奏モードを切り替えて演奏されるアップライト型ピアノであって、
前記ハンマーの回動経路付近に設けられ、前記第2演奏モード時に前記ハンマーの回動位置を検出するセンサと、
前記鍵の離鍵状態において前記ハンマーが当接する回動自在のハンマーレールと、
ソフトペダル効果を付与するために踏み込まれるソフトペダルと、
下端部が前記ソフトペダルに連結され、前記ソフトペダルの踏込みに伴って上方に移動することにより、前記ハンマーレールを突き上げ、前記弦側に回動させるための突上げ棒と、
当該突上げ棒と前記ハンマーレールの間に介在するばねと、
前記ハンマーレールから退避し、前記突上げ棒の突上げによる前記ハンマーレールの作動を許容する許容位置と、前記ハンマーレールに当接し、当該ハンマーレールの作動を阻止する阻止位置とに移動自在のストッパと、
当該ストッパを、前記第1演奏モード時に前記許容位置に駆動するとともに、前記第2演奏モード時に前記阻止位置に駆動するストッパ駆動機構と、
を備えることを特徴とするアップライト型ピアノ。
【請求項2】
前記ストッパ駆動機構は、
前記演奏モードを前記第1演奏モードと前記第2演奏モードに切り替えるために操作される切替えペダルと、
当該切替えペダルの操作に連動して作動し、前記ストッパを前記許容位置と前記阻止位置に駆動する駆動部材と、
を有することを特徴とする、請求項1に記載のアップライト型ピアノ。
【請求項3】
前記ストッパは、
前記阻止位置において前記ハンマーレールに上方から当接する主ストッパ部と、 前記阻止位置において前記ハンマーレールに後方から当接する副ストッパ部と、 を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のアップライト型ピアノ。
【請求項4】
前記主ストッパ部と前記副ストッパ部は互いに別体で構成されており、
前記ストッパは、
前記主ストッパ部の取付位置を上下方向に調整する上下調整機構と、
前記副ストッパ部の取付位置を前後方向に調整する前後調整機構と、
を有することを特徴とする、請求項3に記載のアップライト型ピアノ。
【請求項5】
前記第2演奏モードは、前記センサで検出された前記ハンマーの回動位置に応じて生成された楽音信号に基づく電子音によって消音演奏を行う消音演奏モードであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライト型ピアノ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−93087(P2009−93087A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265867(P2007−265867)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】