説明

アニール処理方法およびアニール処理装置

【課題】結晶性樹脂フィルムに対して適正に結晶化させて効率よく歪を除去することのできるアニール処理を施すことができるアニール処理方法およびアニール処理装置を提供すること。
【解決手段】結晶性樹脂フィルム2を軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理方法において、結晶性樹脂フィルム2を樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送するとともに、搬送方向に温度差をもって加温することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニール処理方法およびアニール処理装置に係り、特に結晶性樹脂フィルムのアニール処理に好適なアニール処理方法およびアニール処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、結晶性樹脂フィルムは非晶性樹脂フィルムに比較して、例えば分子鎖が規則正しく配列しており、ガラス転移温度および融点が存在し、硬く剛性が優れている等の特徴がある。このような特徴を備えた結晶性樹脂フィルムは、例えば、太陽電池の発電素子を封止するフィルム材、液晶パネルのバックフィルム、電子材料フィルム、窓ガラス用フィルム、一般の民生用フィルム等の各種の産業分野に広く利用されている。
【0003】
また、結晶性樹脂フィルムにおいては、インフレーション成形やTダイ成形によって成形された後に固化しても、成形時の応力により歪が残るので、この歪を除去する必要がある。
【0004】
そこで、従来においては、前記太陽電池の封止用の樹脂フィルムに対してアニール処理を施して歪を除去することが提案されている(特許文献1、図1参照)。
【0005】
この特許文献1においては、水平方向に並列された複数のローラを有する搬送コンベアによって樹脂フィルムを樹脂の流れ方向(MD)に搬送しながら加温手段によって樹脂の軟化点以上に加温してアニール処理を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−084996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のアニール処理には次のような不都合があった。
【0008】
第1に、樹脂フィルムをローラの上に載せて水平に搬送するものであるために、樹脂フィルムの樹脂の幅方向(TD)に偏肉が存在すると、樹脂フィルムが蛇行して搬送されてしまうために、樹脂が結晶化しても歪の除去を効率的に行うことができない。
【0009】
第2に、樹脂フィルムをローラの上に載せて水平に搬送するものであり、樹脂フィルムに対して積極的に展張力や曲げ応力を付与するものではないので、樹脂の結晶化に対する刺激が少なく、歪の除去を効率的に行うことができない。
【0010】
第3に、樹脂フィルムをその搬送方向の全体に亘って均一の温度をもって樹脂の軟化点以上に加温するものであるために、樹脂の結晶化に対する刺激が少なく、歪の除去を効率的に行うことができない。
【0011】
第4に、樹脂フィルムの樹脂の流れ方向(MD)および幅方向(TD)の歪み度合い(加熱熱収縮率)が相違するために、樹脂フィルムの平面性の精度が悪く、各種の産業分野において良好に用いることができない。
【0012】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、結晶性樹脂フィルムに対して適正に結晶化させて効率よく歪を除去することのできるアニール処理を施すことができるアニール処理方法およびアニール処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は鋭意研究し、結晶性樹脂フィルムに対して樹脂の結晶化に対して刺激を付与しながらアニール処理を施すことにより効率的に歪を除去することを発見して本発明を完成させた。前記樹脂の結晶化に対する刺激としては、結晶性樹脂フィルムを鉛直方向に搬送させながら搬送方向に温度差を設けたり、結晶性樹脂フィルムに内部応力を付与することが挙げられる。
【0014】
前述した目的を達成するため本発明の第1の態様のアニール処理方法は、結晶性樹脂フィルムを軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理方法において、前記結晶性樹脂フィルムを樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送するとともに、搬送方向に温度差をもって加温することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第2の態様のアニール処理方法は、前記結晶性樹脂フィルムの搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第3の態様のアニール処理方法は、前記結晶性樹脂フィルムに対して、搬送方向に展張力を付与するとともに曲げ応力を付与することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第4の態様のアニール処理方法は、結晶性樹脂フィルムに対して、厚さ方向の一面側から加温することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第1の態様のアニール処理装置は、結晶性樹脂フィルムを軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理室と、前記アニール処理室内において前記結晶性樹脂フィルムを樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送する搬送手段と、前記結晶性樹脂フィルムをその搬送方向に温度差をもって加温する加温手段とを有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2の態様のアニール処理装置は、前記搬送手段が、前記結晶性樹脂フィルムの搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させる搬送路を備えていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第3の態様のアニール処理装置は、前記搬送手段が、鉛直方向に搬送される前記結晶性樹脂フィルムに対して、搬送方向に展張力を付与するとともに曲げ応力を付与する搬送ロールを備えていることを特徴とする。
また、本発明の第4の態様のアニール処理装置は、前記加温手段が前記結晶性樹脂フィルムに対して、厚さ方向の一面側から加温するように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアニール処理方法に従って本発明のアニール処理装置を運転することにより、結晶性樹脂フィルムに対して樹脂の結晶化に対して刺激を付与しながらアニール処理を施すこととなり、結晶性樹脂フィルムに対して適正に結晶化させて効率よく歪を除去することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るアニール処理装置の一実施形態を示す縦断面図
【図2】本発明に係るアニール処理装置の他の実施形態を示す縦断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1および図2を用いて本発明のアニール処理装置の実施形態について説明する。
【0024】
図1は本発明のアニール処理装置の1実施形態を示す。
【0025】
本実施形態のアニール処理装置1は、図1に示すように、結晶性樹脂フィルム2を軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理室3を備えている。このアニール処理室3は下方に結晶性樹脂フィルム2を出入させる開口4が設けられている。また、アニール処理室3内の中央部分には、結晶性樹脂フィルム2を樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送する搬送手段5を設けている。この搬送手段5は、水平軸回りに回転自在な搬送ロール6を鉛直方向に2本を平行に配設した組を左右方向に2組平行に配設して形成されている。本実施形態においては、図1において、結晶性樹脂フィルム2は開口4を右下側から入り、続いて右下の搬送ロール6から右上の搬送ロール6まで鉛直方向の上向きに掛けまわされ、右上の搬送ロール6から左上の搬送ロール6に移り、続いて左上の搬送ロール6から左下の搬送ロール6まで鉛直方向の下向きに掛けまわされ、最後に左下側から開口4を出て行くように搬送される。本実施形態の搬送手段5においては、結晶性樹脂フィルム2の搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させる搬送路7を備えていることとなる。左右の各2本の搬送ロール6とアニール処理室3の側壁との間には、結晶性樹脂フィルム2をその搬送方向に温度差をもって加温する加温手段としての上部ヒータ8および下部ヒータ9とがそれぞれ設置されている。下部ヒータ9は結晶性樹脂フィルム2の軟化点より所定温度だけ高い温度T1の温風を結晶性樹脂フィルム2に向けて送出し、上部ヒータ8は下部ヒータ9の温風の温度T1より所定温度(例えば、20℃程度)高い温度T2の温風を結晶性樹脂フィルム2に向けて送出するように形成されている。各ヒータ8、9には図示しない温風源より温風が供給されるようになっているとともに、結晶性樹脂フィルム2の厚さ方向の一面側のみから加温するように形成されている。また、温度管理するために、アニール処理室3内の必要個所に図示しない温度センサを設置するとよい。
【0026】
次に、本実施形態のアニール処理装置1を用いて本発明のアニール処理方法を施す場合を説明する。
【0027】
<準備工程>
最初に成形されて固化している結晶性樹脂フィルム2をアニール処理装置1のアニール処理室3内に図1に示すように掛けまわす。
【0028】
この結晶性樹脂フィルム2としては、公知の結晶性樹脂フィルム2を用いることができる。例えば、PA、POM、PET、PBT、PPS、PEEK、PTFE等を目的に応じて用いるとよい。
【0029】
次に、下部ヒータ9から結晶性樹脂フィルム2の軟化点より所定温度だけ高い温度T1の温風を結晶性樹脂フィルム2に向けて送出させ、上部ヒータ8から下部ヒータ9の温風の温度T1より所定温度(例えば、20℃程度)高い温度T2の温風を結晶性樹脂フィルム2に向けて送出させる。
【0030】
<アニール処理工程>
次に、結晶性樹脂フィルム2を所定速度で搬送路7に沿って搬送させる。
【0031】
これにより結晶性樹脂フィルム2は樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送されるので、結晶性樹脂フィルム2の幅方向に偏肉が存在しても蛇行することなく鉛直方向に搬送される。これによりアニール処理の効率が向上する。
【0032】
更に、上部ヒータ8から送風される温風の温度T2が下部ヒータ9から送風される温風の温度T1より高いので、結晶性樹脂フィルム2は搬送路7を鉛直方向に搬送される際に搬送方向に温度差をもって加温されることとなり、結晶化する強い刺激を受けて、結晶化が適正に進行される。更に、両ヒータ8、9によって結晶性樹脂フィルム2の厚さ方向の一面側のみから加温するので、結晶性樹脂フィルム2はその厚さ方向においても一方向からの加温を受けて結晶化する強い刺激を受けて、結晶化が適正に進行される。
【0033】
更に、結晶性樹脂フィルム2は、搬送路7を鉛直方向に搬送させることにより自重による展張力と搬送力による展張力を受けるとともに、搬送ロール6を巻回しつつ進行する際に曲げ応力を受けることとなり、結晶化する強い刺激を受けて、結晶化が適正に進行される。ここで、搬送路7の鉛直方向の長さは、結晶性樹脂フィルム2に対して自重による展張力が作用するために十分な長さとするとよい。
【0034】
更に、本実施形態においては、左右の各6本の搬送ロール6の2組により、結晶性樹脂フィルム2が搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させられので、結晶化する強い刺激を受けて、結晶化が適正に進行される。
【0035】
このように本実施形態においては、結晶性樹脂フィルム2に対して樹脂の結晶化に対して刺激を付与しながらアニール処理を施すことができ、効率的に歪を除去することができる。特に、結晶性樹脂フィルム2の樹脂の流れ方向(MD)および幅方向(TD)の歪み度合いが同一となるために、結晶性樹脂フィルムの平面性の精度が極めて良くなり、各種の産業分野において良好に用いることができる。
【0036】
また、結晶性樹脂フィルム2の厚さ、搬送速度、温度上昇速度等との関係により、必要に応じて、両ヒータ8、9に相当する2つのヒータ(図示せず)を図1において結晶性樹脂フィルム2の内側にも設置して結晶性樹脂フィルム2の両面側から加温するようにしてもよい。
【0037】
図2は本発明のアニール処理装置の他の実施形態を示す。
【0038】
本実施形態のアニール処理装置1aは、鉛直方向に搬送される結晶性樹脂フィルム2の搬送時における結晶性樹脂フィルム2の幅方向の偏肉が原因とされる搬送方向の蛇行を有効に補正して蛇行を確実に抑えるために、上下端の搬送ロール6の高さ方向の中間位置に更に1本の搬送ロール6を追加したものである。中間位置に設けた搬送ロール6に対する結晶性樹脂フィルム2の搬送方向は、図2の鎖線の経路としてもよい。その他の構成は図1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0039】
本実施形態によれば、前記実施形態の作用と同様に作用するとともに、高さ方向の中間位置に追加した搬送ロール6によって、結晶性樹脂フィルム2の搬送路7における結晶性樹脂フィルム2の幅方向の偏肉が原因とされる搬送方向の蛇行を有効に補正して蛇行を確実に防止することができ、更に当該搬送ロール6を巻回して搬送される結晶性樹脂フィルム2に樹脂の流れ方向(MD)の展張力と曲げ応力とを追加して負荷することができる。これにより結晶性樹脂フィルム2に対して更に樹脂の結晶化に対する刺激を付与することができ、より一層効率的なアニール処理を施すことができ、極めて良好に歪を除去することができる。
【実施例】
【0040】
結晶性樹脂フィルム2として、材質:PET、厚さ:50μm、幅:1300mmに対して、図1の実施形態を用いて次の処理条件でアニール処理を施した。
下部ヒータ9の温度T1:180℃
上部ヒータ8の温度T2:200℃
フィルムの搬送速度:80m/分
搬送路7の長さ:35m
搬送路7の長さは、図1に示すアニール処理装置1を直列接続する個数を調整して設定するとよい。
【0041】
これにより、結晶性樹脂フィルム2の加熱熱収縮率は、JIS C−2318に基づき、150℃×30分の状態でMD方向の加熱熱収縮率=0.13%、TD方向の加熱熱収縮率=0.01%となり、非常に優れたアニール処理が施されたことがわかった。更に説明すると、結晶性樹脂フィルム2のアニール処理を施す前のMD方向の加熱熱収縮率とTD方向の加熱熱収縮率との差が0.5%台であったものが、本発明に基づくアニール処理を施すことによりMD方向の加熱熱収縮率とTD方向の加熱熱収縮率との差が0.1%近傍に低減させられたので、当該アニール処理後の結晶性樹脂フィルム2は、その後に各種の加工を受けてもその平面性が極めて高く維持され、歪み性も極めて低く維持されことがわかる。従って、得られた結晶樹脂フィルム2の平面性および耐歪み性が非常に高いものであることがわかった。
【0042】
なお、本発明は前記実施形態、実施例に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができるものである。
【0043】
例えば、アニール処理の対象となる結晶性樹脂フィルムとしては、結晶性樹脂フィルムの表面の一面若しくは両面に塗工剤を予めコーティングして乾燥させたものに対しても本発明を良好に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1a アニール処理装置
2 結晶性樹脂フィルム
3 アニール処理室
5 搬送手段
6 搬送ロール
7 搬送路
8 上部ヒータ
9 下部ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂フィルムを軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理方法において、
前記結晶性樹脂フィルムを樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送するとともに、搬送方向に温度差をもって加温する
ことを特徴とするアニール処理方法。
【請求項2】
前記結晶性樹脂フィルムの搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させることを特徴とする請求項1に記載のアニール処理方法。
【請求項3】
前記結晶性樹脂フィルムに対して、搬送方向に展張力を付与するとともに曲げ応力を付与することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアニール処理方法。
【請求項4】
前記結晶性樹脂フィルムに対して、厚さ方向の一面側から加温することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアニール処理方法。
【請求項5】
結晶性樹脂フィルムを軟化点以上かつ融点以下の温度に加温してアニール処理を施すアニール処理室と、
前記アニール処理室内において前記結晶性樹脂フィルムを樹脂の流れ方向を鉛直方向に向けて搬送する搬送手段と、
前記結晶性樹脂フィルムをその搬送方向に温度差をもって加温する加温手段とを有する
ことを特徴とするアニール処理装置。
【請求項6】
前記搬送手段は、前記結晶性樹脂フィルムの搬送方向を鉛直方向の上向きおよび下向きに少なくとも1回変更させる搬送路を備えていることを特徴とする請求項5に記載のアニール処理装置。
【請求項7】
前記搬送手段は、鉛直方向に搬送される前記結晶性樹脂フィルムに対して、搬送方向に展張力を付与するとともに曲げ応力を付与する搬送ロールを備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアニール処理装置。
【請求項8】
前記加温手段は、前記結晶性樹脂フィルムに対して、厚さ方向の一面側から加温するように形成されていることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のアニール処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−111970(P2013−111970A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263533(P2011−263533)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【特許番号】特許第5198649号(P5198649)
【特許公報発行日】平成25年5月15日(2013.5.15)
【出願人】(591091629)株式会社康井精機 (9)
【Fターム(参考)】