説明

アポトーシスを促進し、かつ転移を阻害する方法

本発明は、腫瘍細胞のアポトーシスを促進する方法であって、有効量の接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤の投与により、腫瘍増殖を阻害するか、または腫瘍の転移を阻害するか、または腫瘍アポトーシスを促進するか、またはそれらの任意の組み合わせをもたらすことができる方法を提供する。阻害剤は、低分子有機化合物である。したがって、接着斑キナーゼ阻害剤は、悪性のがんなどの腫瘍の処置に使用することができる。たとえば、有効量のFAK阻害剤PND−1186の投与は、乳がんおよび卵巣がんのマウスモデルで腫瘍細胞を阻害することが明らかになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2009年8月12日に出願された米国仮特許出願61/233,351号への優先権を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
政府支援の陳述
本発明は、国立衛生研究所によるNIH助成金CA107263およびCA102310、ならびに米軍研究所助成金OC080051の下、政府支援によりなされた。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
アポトーシスは、細胞が内部の生化学的シグナルに応答してプログラム死を起こす細胞現象である。典型的には、アポトーシスは発生および分化に関与して生体に有利に働く。場合によっては、腫瘍はアポトーシスが起こらないため増殖すると考えられる。腫瘍の増殖および転移は、腫瘍を持つ生体にとって負のプロセスである。腫瘍の転移は、がん関連死の主要な原因である。
【0004】
腫瘍細胞は、足場非依存的様式で増殖することができる。これには、インテグリン細胞表面受容体により制御される通常の増殖抑制を回避する生存シグナルが、一部介在している。
【0005】
接着斑キナーゼ(FAK:focal adhesion kinase)は、FAKの活性が細胞の生存、遊走および浸潤の制御に関与するインテグリン媒介性マトリックス結合部位にリクルートされる細胞質チロシンキナーゼである。接着斑キナーゼ(FAK)は、インテグリンに結合し、増殖、生存および遊走など様々な細胞プロセスを調節する。
【0006】
FAKは、腫瘍細胞内でシグナル伝達キナーゼおよび細胞接着に関連する足場の両方として機能してp130Casおよびパキシリンなど様々な細胞骨格関連タンパク質の位置的な動員およびリン酸化を調整する。Schlaepfer DD,Hauck CR,Sieg DJ.,Signaling through focal adhesion kinase,Prog Biophys Mol Biol 1999,71:435−78;Zouq NK,Keeble JA,Lindsay J,Valentijn AJ,Zhang L,Mills D,et al.,FAK engages multiple pathways to maintain survival of fibroblasts and epithelia:differential roles for paxillin and p130Cas,J Cell Sci 2009,122:357−67を参照されたい。Y397でのFAK自己リン酸化の増大は、FAKの活性化のマーカーである。インテグリンを介してY397でのFAKリン酸化により、SrcファミリーチロシンキナーゼのFAKへの結合が促進され得、FAK介在性のc−Src活性化を引き起こすことができる。Wu L,Bernard−Trifilo JA,Lim Y,Lim ST,Mitra SK,Uryu S,et al.,Distinct FAK−Src activation events promote alpha5beta1 and alpha4beta1 integrin−stimulated neuroblastoma cell motility,Oncogene 2008,27:1439-48を参照されたい。FAKおよびc−Srcは共にp130Casなどの共通の下流標的をリン酸化し得るため、FAKおよび/またはc−Srcの阻害作用が下流標的のリン酸化現象に異なる結果を与えるかどうかは、特定されていない。Defilippi P,Di Stefano P,Cabodi S.p130Cas:a versatile scaffold in signaling networks,Trends Cell Biol 2006,16:257−63を参照されたい。マウスの4T1乳癌細胞では、FAKが浸潤および転移の細胞表現型を促進することが明らかになっている。Mitra SK,Lim ST,Chi A,Schlaepfer DD,Intrinsic focal adhesion kinase activity controls orthotopic breast carcinoma metastasis via the regulation of urokinase plasminogen activator expression in a syngeneic tumor model,Oncogene 2006,25:4429−40を参照されたい。浸潤性ヒトがんではFAKの発現が増加し(Mitra SK,Schlaepfer DD.,Integrin−regulated FAK−Src signaling in normal and cancer cells,Curr Opin Cell Biol 2006,18:516−23)、FAKのシグナル伝達は、方向性を持った細胞運動を促進する(Mitra SK,Hanson DA,Schlaepfer DD.,Focal adhesion kinase:in command and control of cell motility,Nat Rev Mol Cell Biol 2005,6:56−68;Tomar A,Schlaepfer DD.,Focal adhesion kinase:switching between GAPs and GEFs in the regulation of cell motility,Curr Opin Cell Biol 2009,21:676−83)。
【0007】
FAKに対するATP競合低分子阻害剤が、Novartis(TAE−226)およびPfizer(PF−573,228、PF−562,271)により開発されてきた。加えて、主要なFAKのチロシン−397自己リン酸化、およびFAKに結合するSrcファミリーキナーゼへのアクセスを阻止する化合物(Y15など)も同定されてきた。たとえば、Shi Q,Hjelmeland AB,Keir ST,Song L,Wickman S,Jackson D,et al.,A novel low−molecular weight inhibitor of focal adhesion kinase,TAE226,inhibits glioma growth,Mol Carcinog 2007,46:488−96;Slack−Davis JK,Martin KH,Tilghman RW,Iwanicki M,Ung EJ,Autry C,et al.,Cellular characterization of a novel focal adhesion kinase inhibitor,J Biol Chem 2007,282:14845−52;Roberts WG,Ung E,Whalen P,Cooper B,Hulford C,Autry C,et al.,Antitumor activity and pharmacology of a selective focal adhesion kinase inhibitor,PF−562,271,Cancer Res 2008,68:1935−44;and Golubovskaya VM,Nyberg C,Zheng M,Kweh F,Magis A,Ostrov D,et al.,A small molecule inhibitor,1,2,4,5−benzenetetraamine tetrahydrochloride,targeting the y397 site of focal adhesion kinase decreases tumor growth,J Med Chem 2008,51:7405−16を参照されたい。
【0008】
PND−1186などのFAKの様々な阻害剤は、2008年3月10日に出願され、特許文献1として公開されたPCT特許出願PCT/US2008/003205号に開示されており、その全体を本明細書に緩用する。PND−1186の調製については、その公開された特許出願に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008/115369号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、患者における細胞のアポトーシスを促進する、または転移を阻害する、またはインビボで、例えば患者においてその両方を行う方法であって、有効量の接着斑キナーゼの低分子阻害剤を、それを必要とする患者に投与する方法を対象とする。たとえば、阻害剤は、下記式の化合物またはその任意の薬学的に許容される塩であってもよい。
【0011】
【化1】

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ポリGlu:Tyr(4:1)のリン酸化を測定する、GST−FAK411−686およびHisタグ付きFAK411−686(Millipore)のK−LISA(Calbiochem)活性プロファイルを示す。バキュロウイルス発現、グルタチオンアガロース結合およびサイズ分画クロマトグラフィー後、GST−FAK411−686の純度は、SDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色により可視化したところ、90%超であった(図示)。三重測定により平均値±SDを算出した。
【図2A】図2Aは、表記のタンパク質について免疫ブロッティングした一連のSDS−PAGEのバンドを示し、これはFAK、c−Srcおよびp130Casのチロシンリン酸化(phosphylation)に対するPND−1186の作用を示す。Y397でのFAKの自己リン酸化の増加は、FAKの活性化のマーカーである。4T1細胞は70%コンフルエントで、10μg/mLのフィブロネクチンでコートした組織培養プレートに播種した。細胞をビヒクル(DMSO)またはPND−1186で1時間処理した。細胞ライセート内のFAK、p130Cas、Srcまたはアクチンの総レベルを示す。同時に、FAKまたはSrc活性(pY397のFAKまたはpY416のSrc)、およびp130Casのチロシン(typrosine)リン酸化(pY249のp130Cas)の変化について、ホスホ特異的免疫ブロッティングを行った。
【図2B】図2Bは、表記のタンパク質について免疫ブロッティングした一連のSDS−PAGEのバンドを示し、これはFAK、c−Srcおよびp130Casのチロシンリン酸化(phosphylation)に対するPND−1186の作用を示す。Y397でのFAKの自己リン酸化の増加は、FAKの活性化のマーカーである。4T1細胞は70%コンフルエントで、10μg/mLのフィブロネクチンでコートした組織培養プレートに播種した。細胞をビヒクル(DMSO)またはダサチニブ(LC Labs Inc.)で1時間処理した。細胞ライセート内のFAK、p130Cas、Srcまたはアクチンの総レベルを示す。同時に、FAKまたはSrc活性(pY397のFAKまたはpY416のSrc)、およびp130Casのチロシン(typrosine)リン酸化(pY249のp130Cas)の変化について、ホスホ特異的免疫ブロッティングを行った。
【図2C】図2Cは、1時間の処理(PND−1186、1μM)、続いてPBSによる洗浄後の4T1細胞におけるFAKのpY397のリン酸化の経時変化を示す。PBSによる洗浄後、表記の時間にタンパク質ライセートを作製した。
【図3A】図3Aは、ビヒクル(DMSO)または1μMのPND−1186の存在下、0時間、11時間および22時間(スケールバーは250μM)に創傷アッセイから得た一連のコマ撮り顕微鏡画像を示す。
【図3B】図3Bは、3回の実験のうち代表的な1実験のコマ撮り画像を定量化したものを示す。
【図3C】図3Cは、1μMのPND−1186の存在下で4時間後の、フィブロネクチンコートMilliCellトランスウェルの細胞の運動性を、DMSO対照に対する比率で示す(±SD)。
【図4A】図4Aは、72時間にわたるビヒクルおよび表記の濃度のPND−1186の存在下での培養プレート上の4T1細胞の接着増殖および懸濁(非接着)増殖を示す。
【図4B】図4Bは、ヨウ化プロピジウム染色を用いた、細胞の接着増殖および懸濁増殖の細胞周期解析を示し、相対的なDNA量を示す。
【図4C】図4Cは、カスパーゼ3切断を示す接着細胞または懸濁細胞由来のライセートを示している、染色したSDS−PAGEのバンドを示す。
【図4D】図4Dは、表記の濃度のPND−1186の存在下、フローサイトメトリーを用いて決定した接着細胞と懸濁細胞のアネキシンV陽性細胞のグラフを示す。
【図5A】図5Aは、表記の濃度のPND−1186の存在下での4T1細胞スフェロイド懸濁物の顕微鏡写真を示す。
【図5B】図5Bは、72時間(n=40)でのスフェロイドの大きさに関するグラフを示す(±SD)。
【図5C】図5Cは、表記のタンパク質に対する表記の濃度のPND−1186の活性を示す、免疫ブロッティングしたSDS−PAGEのバンドを示す。
【図6A】図6Aは、表記の濃度のPND−1186の存在下での軟寒天上の4T1細胞コロニーの顕微鏡写真である。
【図6B】図6Bは、表記の濃度のPND−1186の存在下でのコロニー数の関係を示すグラフである。
【図6C】図6Cは、表記の濃度のPND−1186の存在下でのコロニーの大きさの関係を示すグラフである。
【図6D】図6Dは、表記の濃度のPND−1186の存在下での軟寒天上の4T1細胞コロニーの顕微鏡写真である。
【図6E】図6Eは、表記の濃度のPND−1186の存在下での細胞アポトーシス比率の関係を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、100mg/kgのPND−1186の存在下と、対照の存在下とでの、マウスに皮下移植してから8日後のmCherry4T1腫瘍の顕微鏡写真を示す。
【図7B】図7Bは、表記の量のPND−1186の存在下での、マウスに皮下移植してから8日後の腫瘍の腫瘍重量を示すグラフを示す。
【図7C】図7Cは、表記の量のPND−1186に対する蛍光TUNEL染色の平均強度を定量化したものを示す。
【図7D】図7Dは、表記の量のPND−1186の存在下、TUNEL染色した腫瘍の代表的な顕微鏡写真画像を示す。
【図7E】図7Eは、100mg/kgのPND−1186に曝露された移植腫瘍由来の細胞内で切断型カスパーゼ−3を示す、蛍光染色した顕微鏡写真を対照と比較して示す。
【図8A】図8Aは、表記の濃度のPND−1186の存在下で培養した卵巣癌腫瘍ID8細胞由来の細胞数を示す。
【図8B】図8Bは、表記の濃度のPND−1186の存在下で培養した卵巣癌腫瘍ID8細胞由来の生存細胞数を示す。
【図8C】図8Cは、ID8細胞を腹腔内注射した46日後のC57BI6マウスの写真を示す。試験マウスには、0.5mg/mLのPND−1186(5%スクロース溶液中)と対照とを経口的に自由に与えた。
【図8D】図8Dは、ID8を注射したマウスと対照との腹膜腔から採取した腹水関連細胞のグラフを示す。
【図8E】図8Eは、0.5mg/mLのPND−1186と対照とで処置したマウスを用いて抗FAK、続いてホスホ特異的抗FAKで免疫ブロッティングしたSDS−PAGEのバンドを示す。
【図8F】図8Fは、マウス由来の腹水細胞における総FAKに対するFAKリン酸化の割合を示すグラフを示す。
【図8G】図8Gは、0.5mg/mLのPND−1186と対照とに曝露後の、ID8を注射したマウス由来の腹膜組織の明視野顕微鏡写真画像および蛍光顕微鏡写真画像を示す。
【図8H】図8Hは、上記のようにID8を注射したマウス由来の腹膜関連腫瘍を定量化したもの示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の意味を含む。
【0014】
本明細書で使用する場合、「個体」または「患者」(処置の被験体と同様)は、哺乳動物および非哺乳動物を共に意味する。哺乳動物として、たとえば、ヒト;非ヒト霊長類、たとえば類人猿およびサル;ならびに非霊長類、たとえばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジおよびヤギが挙げられる。非哺乳動物としては、たとえば、魚類および鳥類が挙げられる。
【0015】
「有効量」という表現は、障害に罹患している個体の治療の説明に使用する場合、障害に関与するFAKが活性である個体の組織内のFAKを阻害するか、または他の方法でFAKに作用し、そうした阻害または他の作用が有利な治療効果を発揮するのに十分な程度に起こる、本発明の化合物の量をいう。
【0016】
本明細書の意味の範囲内における「処置する」または「処置」とは、障害または疾患に関連する症状の軽減、あるいは、これらの症状のさらなる進行または悪化の阻害、あるいは、疾患もしくは障害の防止または予防、あるいは、疾患または障害の治癒をいう。
【0017】
本明細書で使用する場合、本発明の化合物の「有効量」または「治療有効量」とは、障害もしくは状態に関連する症状の全部または一部を軽減する、あるいは、これらの症状のさらなる進行もしくは悪化を阻止または遅延させる、あるいは、障害もしくは状態を防止または予防する化合物の量をいう。特に、「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投与量および期間における有効な量をいう。治療有効量はまた、発明の化合物の任意の毒性または有害な作用を、治療上有益な作用が上回る量である。
【0018】
本明細書で使用される用語としての「アポトーシス」は、内因性または外因性シグナルから内部の生化学的機構が働き、最終的に細胞の死を引き起こす細胞または細胞群のプログラム死をいう。アポトーシス「を促進する」とは、外因性シグナル、FAKキナーゼ阻害剤分子による作用の結果、本来ならば存在し続けることが可能な細胞、たとえば、腫瘍でアポトーシスが起こることをいう(すなわち、「腫瘍アポトーシスを促進する」とは、その作用が、正常な細胞と比較して腫瘍の細胞に対してある程度選択的である、こうしたプロセスをいう)。
【0019】
「腫瘍増殖を阻害する」とは、腫瘍の大きさまたは塊の増加に対する作用をいい、この場合、有効量のFAK阻害剤の非存在下で予想されるものと比較して、その増加が小さくなる。
【0020】
「腫瘍の転移を阻害する」とは、腫瘍細胞の集団における細胞の転移もしくは悪性形質転換の発生または速度を低下させ、遊走癌細胞により正常な細胞で癌状態が誘導されるのを阻害する作用をいう。
【0021】
当該技術分野において周知のように「塩」は、イオン形態のカルボン酸、スルホン酸またはアミンなどが対イオンと組み合わされた有機化合物を含む。たとえば、アニオン形態の酸は、金属カチオン、たとえばナトリウム、カリウムおよび同種のものなどのカチオン;NHなどのアンモニウム塩、もしくはテトラメチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム塩など様々なアミンのカチオン、またはトリメチルスルホニウムなどの他のカチオンおよび同種のものと塩を形成することができる。「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」塩は、ヒトでの摂取が認められており、クロリド塩またはナトリウム塩など一般に無毒であるイオンから形成される塩である。「両性イオン」は、分子内に形成され得、かつ一方はアニオンを形成し、他方はカチオンを形成し、相互にバランスをとる働きをする少なくとも2つのイオン性基を持つ分子内塩である。たとえば、グリシンなどのアミノ酸は、両性イオン形態で存在することができる。「両性イオン」は、本明細書の意味の範囲内にある塩である。本発明の化合物は、塩の形態をとってもよい。「塩」という用語は、本発明の化合物である遊離酸または遊離塩基の付加塩を包含する。塩は、「薬学的に許容される塩」であってもよい。「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的用途に有用性を与える範囲内の毒性プロファイルを有する塩をいう。ただし、薬学的に許容されない塩は、高い結晶化度などの特性を有する場合があり、こうした特性は、本発明の実施に有用性があり、たとえば本発明の化合物の合成、精製または処方のプロセスに有用性がある。
【0022】
好適な薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸から調製しても、または有機酸から調製してもよい。無機酸の例として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸およびリン酸が挙げられる。適切な有機酸は、脂肪族、脂環式、芳香族、アラリファティック(araliphatic)、複素環式のカルボン酸およびスルホン酸クラスの有機酸から選択してもよく、その例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、粘液酸およびガラクツロン酸が挙げられる。薬学的に許容されない酸付加塩の例として、たとえば、ペルクロラートおよびテトラフルオロボレートが挙げられる。
【0023】
本発明は、患者において細胞のアポトーシスを促進するかまたは転移を阻害するか、あるいはインビボでその両方を行うPND−1186などのFAKの低分子阻害剤の使用を対象とする。その低分子FAK阻害剤は、腫瘍細胞アポトーシスを誘導または促進することにより、インビボでFAKのTyr−397リン酸化を阻止することができ、腫瘍の大きさの縮小、および腫瘍の転移の防止などの抗腫瘍効果を示し得る。
【0024】
本発明は、患者において細胞のアポトーシスを促進するかまたは転移を阻害するか、あるいは患者などでその両方を行う方法であって、有効量の接着斑キナーゼの阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法を対象とする。たとえば、本阻害剤は、下記式の化合物
【0025】
【化2】

またはその任意の薬学的に許容される塩であってもよい。様々な薬学的に許容される塩については以下で考察する。他の関連するFAK阻害剤は、参照によって本明細書に援用する、2008年3月10日に出願され、国際公開第2008/115369号として公開されたPCT特許出願PCT/US2008/003205号に開示されている。
【0026】
種々の実施形態では、細胞のアポトーシスを促進すると、腫瘍に罹患した患者の腫瘍増殖を阻害するか、腫瘍の転移を阻害するか、または腫瘍アポトーシスを促進するか、あるいはそれらの任意の組み合わせをもたらし得る。たとえば、腫瘍は、悪性のがんであってもよい。たとえば、腫瘍は、乳がんまたは卵巣がんを含んでいてもよい。
【0027】
種々の実施形態では、薬学的に許容される賦形剤を含む処方物として上記阻害剤を上記患者に投与してもよい。様々な薬学的に許容される賦形剤については以下で考察する。
【0028】
種々の実施形態では、上記阻害剤を上記患者に経口投与してもよい。他の実施形態では、上記阻害剤を上記患者に非経口投与してもよい。経口投与または非経口投与に適した上記阻害剤を含む様々な処方物については、以下で考察する。
【0029】
上記アポトーシスを促進するFAK阻害剤の投与には、様々な投薬レジメンを使用してもよい。たとえば、上記患者に有益な作用を与えるのに十分な持続期間および頻度で一定期間にわたり、上記患者に上記阻害剤の複数回投与を行ってもよい。種々の実施形態では、上記患者が処置される条件に応じて、有効量の第2の薬物を上記患者に投与してもよい。
【0030】
種々の実施形態では、本発明は、細胞のアポトーシスを促進する薬物の調製のための、接着斑キナーゼ阻害剤に属する阻害剤の使用であって、該阻害剤は、下記式の化合物
【0031】
【化3】

またはその任意の薬学的に許容される塩を含む、使用を提供する。種々の実施形態では、細胞のアポトーシスを促進すると、腫瘍増殖を阻害するか、または腫瘍の転移を阻害するか、または腫瘍アポトーシスを促進するか、あるいはそれらの任意の組み合わせをもたらし得る。種々の実施形態では、悪性または非悪性の腫瘍を含む悪い状態を処置するため、本薬物を使用してもよい。
【0032】
本明細書の発明者らにより、PND−1186はFAKのTyr−397リン酸化をインビボで阻止し、同所性のヒト乳癌のマウス腫瘍モデル、およびマウスの乳癌のマウス腫瘍モデルで抗腫瘍効果を示すことが明らかになっている。PND−1186を投与(100mg/kg i.p.)したところ、腫瘍におけるFAKのTyr−397リン酸化の阻害(60%超)が12時間持続した(12時間で、血漿中に平均15.1μM、腫瘍中に平均10.4μg/g)。PND−1186を150mg/kg、1日2回p.o.投与すると、同所性および同系乳癌腫瘍増殖、および腫瘍細胞の肺への自然転移を顕著に阻害した。驚いたことに、0.5mg/mlのPND−1186を含む飲料水を自由に与えたマウス(血漿中に平均1.0μMおよび腫瘍中に平均0.52μg/g)は、腫瘍増殖、および腫瘍性のFAK−p130Casのリン酸化の著しい低下を示した。PND−1186は培養細胞に対して細胞毒性を示さなかったが、PND−1186を自由に与えられた動物由来の腫瘍では、腫瘍芯で壊死領域を示し、TUNEL染色が増加し、白血球の浸潤が低下していた。PND−1186処置により、腫瘍関連の巨脾腫が抑制され、腫瘍壊死因子−α誘発性のインターロイキン−6サイトカイン発現を抑制することから、FAKの阻害は腫瘍に影響を与え得ることが示唆された。したがってPND−1186は、腫瘍細胞のアポトーシスの促進または誘導などにより、腫瘍細胞と支質細胞の両方への作用を介して腫瘍増殖および転移または進行を抑制するのに臨床的に有用であり得る。参照によってその全体を本明細書に援用するC.Walsh,et al.,Oral delivery of PND−1186 FAK inhibitor decreases tumor growth and spontaneous breast to lung metastasis in pre−clinical models,Cancer Biology & Therapy (2010),9:10,778−790;I.Tanjoni,et al.,PND−1186 FAK inhibitor selectively promotes tumor cell apoptosis in three−dimensional environments,Cancer Biology & Therapy (2010),9:10,764−777を参照されたい。
【0033】
PND−1186は、FAKのTyr−397に対する抗ホスホ特異的免疫ブロッティングにより測定したところ、マウスおよびヒト乳癌細胞におけるIC50が約100nMであることが明らかになっている。FAKの阻害は、培養腫瘍細胞においてc−Src、p130Casまたはパキシリンのチロシンリン酸化を変化させない。細胞の増殖および運動性の阻害には、驚くほどの高濃度(IC50を5倍超上回る)が必要であった。それにもかかわらず、軟寒天を用いて、または非接着条件下で細胞をコロニーとして増殖させた場合、100nMのPND−1186は、細胞増殖、FAK−Casリン酸化を阻害し、細胞死を誘導した。これに合わせて、マウスの飲料水に0.5mg/mlという低レベルのPND−1186を加えると、腫瘍量が減少し、カスパーゼ3切断が増加し、腫瘍のTUNEL染色が増加した。したがってFAKの活性は、三次元環境における腫瘍細胞の生存の促進に予想外に決定的な役割を果たしており、その種の環境でFAKを阻害すると、腫瘍細胞の死をもたらし得る。
【0034】
インビトロキナーゼアッセイで組換えFAKキナーゼドメインをグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質として用いると(図1参照)、PND−1186は、1.5nMのIC50でFAKの活性を阻害した。Millipore KinaseProfilerサービスを用いて、PND−1186の選択性を評価した。組換えタンパク質キナーゼを用いたこのスクリーニングでは、0.1μMのPND−1186は、FAKだけでなく、Flt3(FMS−like tyrosine kinase 3:FMS様チロシンキナーゼ3)キナーゼの阻害にも特異性を示した。より高いPND−1186レベル(1μM)では、FAKおよびFlt3の活性は無視できる程度であり、ACK1(activated Cdc42−associated tyrosine kinase 1:活性化Cdc42関連チロシンキナーゼ1)、Aurora−A、CDK2(cyclin−dependent kinase 2:サイクリン依存性キナーゼ2)/サイクリンA、インスリン受容体(IR)、Lck(lymphocyte−specific protein tyrosine kinase:リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ)およびTrkA(tropomyosin−related kinase A:トロポミオシン関連キナーゼA)など他のキナーゼも50%超阻害した。Flt3の発現は、造血系の細胞で認められ、本明細書で使用した4T1細胞、MDA−MB−231細胞またはID8細胞では検出できる程度に発現しない。下記表1を参照されたい。
【0035】
表1:PND−1186のキナーゼプロファイル解析
【0036】
【表1】

マウスの4T1乳癌細胞では、FAKは、浸潤および転移の細胞表現型を促進する。4T1細胞に加えるPND−1186の濃度を上げると(0.1μMから1.0μMまで)、FAKのTyr−397リン酸化(pY397)を阻害し、その結果、1時間以内で総FAKタンパク質のレベルが上昇した(図2A参照)。PND−1186をヒトMD−MBA−231乳癌細胞およびマウスID8卵巣癌細胞に加えても、同様の結果が得られた。PND−1186の、FAKのpY397阻害に対する細胞のIC50は、デンシトメトリー解析により約0.1μMと測定され、FAKのpY397リン酸化の最大減少率は、約80%であった(図2A参照)。
【0037】
PND−1186によるFAKの阻害は、洗い出し実験により、FAKのpY397リン酸化が60分以内に十分に回復することが示されたように、可逆的であった(図2C)。驚いたことに、PND−1186を1μMまで加えても、接着4T1細胞におけるSrcのTyr−416リン酸化(pY416)またはp130CasのTyr−249リン酸化(pY249)に対するホスホ特異的抗体の反応性により測定した場合、c−Src活性に影響を与えなかった(図2A)。対照的に、ダサチニブ(BMS−354825)を4T1細胞に加えた場合(Abelsonマウス白血病ウイルスオンコジーンホモログ1、AblおよびSrcファミリーキナーゼを共に阻害)、SrcのpY416およびp130CasのpY249が共に用量依存的に減少した(図2B)。とりわけ、ダサチニブは、FAKのpY397レベルに影響を与えず(図2B)、MD−MBA−231細胞、またはPP1として一般に知られる4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジンなど別のSrc阻害剤を用いても、同様の結果が得られた。以上を総合すると、これらの結果は、PND−1186は、FAKリン酸化を可逆的に強力に阻害すること、さらに、SrcのpY416リン酸化およびp130CasのpY249リン酸化は、接着4T1細胞においては、Srcの活性に依存するが、FAKの活性には依存しないことを示す。
【0038】
PND−1186はまた、DMSO(ジメチルスルホキシド、対照)または1μMのPND−1186(図3A)の存在下で22時間行った時間経過創傷治癒アッセイにより示されたように、4T1細胞の遊走も阻害する。PND−1186は、4T1細胞の移動を防ぎ、これは、隆起形成が見られないこと、および4T1エッジ細胞の集団の単層から分離が稀にしか起こらないことと関連していた。1μMのPND−1186を用いた場合、22時間にわたり4T1細胞の剥離または死の証拠が観察されず、目を引くのは、1.0μMのPND−1186の存在下で細胞分裂を行っている細胞が可視化されたことであった。22時間かけていくつかの創傷領域の定量化を行なったところ、DMSO処理4T1細胞は、89%の創傷閉鎖を示すのに対して、PND−1186処理細胞の閉鎖は、40%にすぎないことが明らかになった(図3B)。
【0039】
創傷アッセイの結果を検証するため、フィブロネクチンでコートした膜、および走化性刺激物として加えた血清を用いて、Millicellチャンバー運動アッセイを行った(図3C)。Millicell運動アッセイにPND−1186を加えると、用量依存的様式で4T1細胞の移動が妨げられ、0.4μMのPND−1186を4時間添加した際に約50〜60%の最大阻害率となった。重要な点として、PND−1186は、マイクロモル以下のレベルでダサチニブを添加した場合と同様に、4T1細胞のフィブロネクチンへの接着には影響を与えなかった。これらの結果は、4T1細胞の運動性を促進する際のFAK活性の重要性を裏付ける。
【0040】
4T1細胞の細胞増殖に対する作用を決定するため、PND−1186の濃度を上げたもの(0.1μMから1.0μMまで)を、接着または懸濁(非接着)4T1細胞に加え、24時間、48時間および72時間後に総細胞数を計数した(図4A)。接着細胞では、24時間および48時間で差は観察されなかった。しかしながら、72時間では、1.0μMのPND−1186で処理した細胞の数が減少し、ヨウ化プロピジウム(PI)染色と組み合わせたフローサイトメトリー解析により、DMSO対照と比較して、細胞周期のSおよびG2/M期で若干の蓄積が明らかになった(図4B)。懸濁4T1細胞では、PND−1186の全濃度で、48時間での細胞数が低減され、この差は、DMSOと比較して72時間での0.1μM PND−1186で有意であった(p<0.001)(図4A)。興味深いことに、懸濁物中1.0μMのPND−1186で処理した細胞のPI染色解析からは、細胞周期の差は明らかではなかった(図4B)。しかしながら、他の細胞型のアポトーシスのマーカーである、PI染色により検出される2倍体未満(1N)の細胞の蓄積があった。これらの結果は、細胞周期の進行に対するPND−1186の作用は限定的であり、総細胞数に対する作用は、細胞死と関連し得ることを示す。
【0041】
PND−1186が懸濁4T1細胞アポトーシスを誘発しているかどうかを決定するため、PND−1186で24時間処理した接着および懸濁4T1細胞のライセートを、免疫ブロッティングにより解析した(図4C)。PND−1186は0.1μMで接着および懸濁細胞におけるFAKのpY397リン酸化を阻害するのに十分であった。目を引くのは、PND−1186処理懸濁細胞では切断型カスパーゼ3の検出が増加する(0.4μMで最大)けれども、PND−1186処理接着細胞では検出できないことであった(図4C)。カスパーゼ3切断はカスパーゼ3活性化と関連しており、それは、細胞アポトーシスのイニシエーターである。PND−1186を添加したときの懸濁物中の4T1細胞アポトーシスに関する独立した検証として、細胞を24時間処理し、フローサイトメトリーによりアネキシンV結合について解析した(図4D)。接着条件では、検出されたアネキシンV陽性細胞は低レベルにすぎず、これは、PND−1186を最大1.0μM添加しても上昇しなかった。対照的に、懸濁4T1対照細胞は、アネキシンV染色の増加を示し、これは、0.1μMから0.4μMまでのPND−1186を添加したときにアネキシンV陽性染色が50〜60%までさらに増加した(図4D)。以上を総合すると、懸濁条件下、低レベルのPND−1186を添加したときの4T1細胞アポトーシスの誘発から、足場非依存的条件下での細胞の生存にとって、FAKの活性が不可欠であり得ることが示唆される。
【0042】
PND−1186は懸濁細胞条件下で4T1細胞アポトーシスを選択的に促進するため、4T1細胞を3Dスフェロイドとして培養し、PND−1186の濃度を上げたもの(0.1μMから1.0μMまで)を72時間にわたり加えておき、スフェロイドの大きさに対する作用を測定した(図5AおよびB)。0.1μMのPND−1186では、スフェロイドの平均の大きさが約3倍縮小し、0.2μMのPND−1186では最大作用が観察された。これまで、マイクロモル以下のレベルで生物学的反応の最大阻害を示した、本出願人に公知のFAK阻害剤は他にない。
【0043】
4T1細胞のスフェロイドにおけるPND−1186によるFAK阻害の特異性を決定するため、免疫ブロッティングを行った(図5C)。3Dスフェロイド条件下では、接着4T1条件と比較してFAKのpY397リン酸化の総レベルが低下した。接着条件と3Dスフェロイド条件とでp130CasのpY249リン酸化またはp130CasのpY410リン酸化に差は確認されなかった(図5C、レーン1および2)。しかしながら、4T1のスフェロイドでは0.1μMのPND−1186が、FAKのpY397、p130CasのpY249およびp130CasのpY410のリン酸化を強力に阻害した(図5C、レーン3)。PND−1186の添加を増加させると、総FAKレベルは上昇し、p130Casの発現に変化はなく、FAKの阻害およびp130Casのチロシンリン酸化は持続した(図5C)。接着4T1細胞、スフェロイド4T1細胞、またはPND−1186処理スフェロイド4T1細胞内のSrcのpY416発現レベル、あるいはSrcの発現レベルに変化はなかった(図5C)。重要なのは、4T1のスフェロイドにおけるPND−1186によるp130Casのリン酸化の阻害が、二次元(2D)単層としての4T1細胞に対するPND−1186の作用の欠如と異なることである。p130Casなどの標的のFAKリン酸化は、3D条件で4T1細胞の生存を促進することができる。
【0044】
4T1細胞を軟寒天中でコロニーとして増殖させ、PND−1186添加の作用を評価した(図6)。10日間までに、PND−1186の添加により、4T1軟寒天コロニーの総数および大きさが共に用量依存的に阻害された(図6A〜C)。軟寒天中で4T1細胞を確立してから4日後にPND−1186を加えたときも、同様の結果が得られた(図7)。0.2μMのPND−1186では、4T1軟寒天コロニーの大きさが77%抑制され(図6C)、これは、膜のブレビングおよび細胞収縮により測定した場合、4T1細胞アポトーシスの増加(50%超)に対応した(図6DおよびE)。以上を総合すると、本発明者らの結果は、PND−1186は、一般的な細胞傷害性薬物としては作用しないが、3D環境で細胞の生存を選択的かつ強力に妨害するという仮説を裏付ける。
【0045】
PND−1186投与に対する4T1腫瘍増殖の感受性を決定するため、mCherryで蛍光標識した4T1細胞をBALB/cマウスの皮下で増殖させた(図7)。8日間かけて一次腫瘍を確立してから、ビヒクルまたは30mg/kgまたは100mg/kgのPND−1186で12時間ごとに(1日2回、b.i.d.)5日間投与し、その後、mCherry 4T1腫瘍をin situで可視化し、続いて抽出し、秤量した(図7AおよびB)。ビヒクル処置4T1腫瘍は、鮮やかな蛍光を発し、全体的に多葉性で周囲の組織に浸潤していたのに対して、100mg/kgのPND−1186で処置したマウスの腫瘍は、暗い非蛍光中心を含み、全体的に丸みを帯び、皮下組織に緩やかに接着していた(図7A)。100mg/kgのPND−1186で処置すると、最終的な4T1腫瘍重量が有意に1/2に減少する(n=8、p<0.05)一方、30mg/kgのPND−1186では、最終的な腫瘍重量はわずかに減少したものの、対照と比較して有意差はなかった(n=8、p>0.05)。100mg/kgのPND−1186の腫瘍の中心におけるmCherry蛍光の消失が細胞アポトーシスの増加と関連していたかを決定するため、中央切片(medial section)をTUNEL染色(図7CおよびD)、および抗切断型カスパーゼ3染色(図7E)により解析した。30mg/kgおよび100mg/kgのPND−1186の投与は、ビヒクル処置対照と比較して腫瘍のTUNEL染色を著しく増加させた(図7D)。PND−1186処置マウスの腫瘍では、切断型カスパーゼ−3染色の増加も認められたことから(図7E)、これらの結果は、本発明者らのインビトロ解析と一致しており、PND−1186が3D条件で4T1細胞のアポトーシスを促進し、インビボでの腫瘍増殖の阻害をもたらすことを示す。
【0046】
卵巣癌腫瘍細胞の進行過程で、細胞は一次腫瘍から分離し、腹膜腔内で多細胞スフェロイドとして増殖することができる。PND−1186は3D環境で4T1乳癌アポトーシスを選択的に促進するため、マウスID8卵巣癌の細胞増殖に対するPND−1186の作用をインビトロおよびインビボで評価した(図8)。スフェロイドとして懸濁させた細胞培養物では、0.1μM、0.4μMおよび1.0μMのPND−1186は、72時間でID8細胞数を有意に抑制し(図8A)、15日後には生細胞が劇的に減少した(図8B)。低レベルのPND−1186がインビボでID8の増殖に影響を与えられるかどうかを決定するため、dsRedで蛍光標識したID8細胞をC57Bl6マウスに腹腔内注射し、11日後、マウスに、飲料水の代わりに5%スクロース(対照)、または5%スクロースに加えた0.5mg/mlのPND−1186を自由に与えた。PND−1186投与による有害作用および体重の減少は、認められなかった。30日間の処置後、飲料水中のPND−1186で処置したマウスは、対照マウスが腹部の腫脹を示したのに対して、腹部の腫脹を示さなかった(図8C)。これは、5%スクロース対照と比較して、腹水関連細胞数が少ないこと(図8D)、および0.5mg/mlのPND−1186投与によりFAKのpY397が2倍超阻害されることと対応していた(図8EおよびF)。腹水関連のID8スフェロイド増殖を阻害するだけでなく、PND−1186処置マウスは、インビボでのdsRed蛍光イメージングにより検出した腹膜腔内の腫瘍小結節が著しく少なかった(図8GおよびH)。これらの結果は、低レベルのPND−1186投与がインビトロおよびインビボで卵巣癌細胞の増殖を阻害することを示す。三次元環境で細胞のアポトーシスを促進するPND−1186の選択的作用から、足場非依存的生存シグナル生成におけるFAK活性の新しい役割が示される。
【0047】
PND−1186の経口投与は、動物の罹患率、死亡または体重減少をもたらすことなく、2種類(4T1およびMDA−MB−231)の同所性乳癌マウス腫瘍モデルで著しい抗腫瘍作用および抗転移作用を発揮した。PND−1186は、同系4T1腫瘍のマウスの腫瘍関連炎症細胞の浸潤および巨脾腫を著しく抑制したことから、PND−1186が腫瘍関連炎症を低減し得ることが示唆される。
【0048】
静脈内(i.v.)投与、腹腔内(i.p.)投与および経口(p.o.)投与後のBalb/cマウスにおいて、PND−1186の薬物動態(PK:pharmacokinetics)を測定した(以下の表2)。PND−1186は、i.v.注射後、多指数関数的消失を示し、その消失半減期(t1/2)は1.72時間であった。i.p.およびp.o.投与後、PND−1186は速やかに吸収され)、消失半減期(t1/2)は2.15〜2.65時間、バイオアベイラビリティー(%F)は14.8〜42.2%であった。PND−1186のバイオアベイラビリティーは経口投与に比べ腹腔内投与で高く、 PND−1186の血漿中濃度、最高濃度(Cmax)およびゼロ時から無限大時間(0〜inf)までの血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)は、用量の関数として直線的に増加した。
【0049】
表2:静脈内(i.v.)投与後、腹腔内投与(i.p.)投与後、経口(p.o.)投与後および自由投与後のマウスにおけるPND−1186の薬物動態(PK)パラメーター。
【0050】
【表2】

上記のPKパラメーターは、i.p.投与またはp.o.投与後に観察された最高血漿中濃度(Cmax)および最高濃度到達時間(Tmax)、ゼロ時から無限大時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積AUC(0〜inf)、分布容積(V)、全身クリアランス(Cl)、対数線形消失半減期(t1/2)、ならびにバイオアベイラビリティー(%F)を含む。PK解析は、i.p.およびp.o.についてはWinNonlin Professional 4.1(Pharsight Corp.,Mountain View,CAのモデル200、およびi.v.についてはそのモデル201を用いてノンコンパートメント解析により行った)。
【0051】
PND−1186が充実性腫瘍のFAKおよびp130Casに影響を与えたかどうかを決定するため、皮下4T1乳癌腫瘍を確立し、ビヒクル(50%PEG400のPBS溶液)またはPND−1186の単回i.p.注射を施した。100mg/kgのPND−1186では、最高血漿レベル(117μM)に30分以内に到達し、腫瘍における最高PND−1186(16.1μg/g)には1時間以内に達し、12時間まで持続した(12時間での血漿レベルは1.1μM)。100mg/kgのPND−1186では、腫瘍のFAKのTyr−397リン酸化(pY397 FAK)の阻害(60%超)が12時間持続し、p130CasのTyr−410リン酸化(pY410Cas)は3時間までに顕著に低下した。p130CasのpTyr−249に対するホスホ特異的抗体を使用したときも、同様の結果が得られた。30mg/kgのPND−1186では、最高血漿レベル(35μM)に15以内に到達し、腫瘍における最高PND−1186(0.75μg/g)には1時間以内に達した。これは、FAKのpY397リン酸化を3〜6時間阻害するのに十分であり、その後腫瘍のPND−1186レベルは、12時間で0.04μg/gまで低下し(血漿レベルは0.1μM)、この時点で腫瘍のFAKのpY397リン酸化は顕著には阻害されなかった。これらの結果は、PND−1186がインビボで腫瘍のFAKおよびp130Casのチロシンリン酸化を用量依存的に阻害し、かつ1μM以上の血漿レベルであれば、腫瘍関連のFAK阻害を促進するのに十分であることを示す。
【0052】
PND−1186水溶液の経口バイオアベイラビリティーは、腹腔内投与するときよりも低い(上記の表2)。PND−1186を150mg/kg経口投与すると、最高血漿レベルは4時間までに約14μMとなり、3μMを上回るPND−1186の血漿レベルが12時間持続した。これを1日2回(b.i.d.)経口(p.o)投与し、同所性移植したmCherry蛍光4T1腫瘍細胞を用いて、抗腫瘍効果を試験した。7日目までには、150mg/kgのPND−1186は、ビヒクル対照と比較して腫瘍容積を著しく減少させた。16日間までには、150mg/kgのPND−1186は、ビヒクル対照と比較して最終腫瘍容積を3倍減少させ、最終腫瘍重量は、全体重に影響を与えることなく3.1倍減少した一次乳房脂肪パッド4T1腫瘍の解析から、抗CD31染色により検出される血管数が多いことが明らかになった。肺癌異種移植片のこれまでの研究により、PF−562,271の投与後に腫瘍の微小血管密度が低下することは示されたが、PND−1186処置4T1同所性腫瘍において、抗CD31染色で測定されるような血管に大きな差は観察されていなかった。PND−1186処置4T1腫瘍の大きさが小さくなることを説明し得る分子機構を決定するため、デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)により中央切片を解析した。PND−1186を投与したマウスは、乳房脂肪パッド腫瘍におけるTUNEL染色がビヒクル処置対照と比較して2.8倍の増加を示した。したがって、腫瘍細胞アポトーシスの増加は、PND−1186による腫瘍増殖の阻害に関わるメカニズムであり得る。
【0053】
4T1の腫瘍切片を、マクロファージおよび他の造血細胞に存在する共通のマーカー、CD45染色について解析した。無処置およびビヒクル処置マウスでは、4T1一次腫瘍内に多数のCD45陽性細胞が存在した。150mg/kgのPND−1186で処置したマウスは、CD45腫瘍関連の染色が2.8倍の減少を示し、このことにより、PND−1186処置で4T1腫瘍への免疫細胞の浸潤が減少することが裏付けられた。
【0054】
これが局所的であるか、または全身性反応であるかどうかを決定するため、ビヒクルもしくはPND−1186で処置した正常Balb/cマウスまたは腫瘍を担持するマウスを用いて、脾臓の大きさを解析した。ビヒクル処置マウスの脾臓の重量は、PND−1186処置マウスの2倍超であった。目を引くのは、PND−1186処置マウスの脾臓は、健康であり、無処置で腫瘍を担持しないマウスと見分けが付かなかった。巨脾腫は、一部は炎症性サイトカイン産生の増加が原因であるため、4T1培養細胞を腫瘍壊死因子−α(TNFα:tumor necrosis factor−α)の添加により刺激し、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA:enzyme−linked immunosorbent assay)によりインターロイキン−6(IL−6)サイトカインの産生を測定した。TNFαは、4T1のIL−6産生の増加を4倍超誘発し、PND−1186の添加(0.25μMから1.0μMまで)は、IL−6の放出を用量依存的に阻害した。PND−1186による処置の抗炎症作用は、4T1の腫瘍進行を抑える働きをすることができる。
【0055】
4T1腫瘍は、後期の乳がんの進行モデルとして使用される。たとえば、Heppner GH,Miller FR,Shekhar PM.,Nontransgenic models of breast cancer,Breast Cancer Res 2000,2:331−4を参照されたい。乳房脂肪パッドに移植された4T1細胞は、血液循環に侵入し、7〜10日以内に肺転移を形成する。PND−1186は、4T1の腫瘍増殖および関連する炎症をどちらも阻害するため、同所性乳房脂肪パッドの注射、および15日間のPND−1186(150mg/kg p.o.、b.i.d.)による処置後に、mCherry蛍光4T1細胞の転移分布を測定した。背側および腹側肺画像のmCherry蛍光を直接可視化したものを定量化し、肺転移数をカウントして分布をわずか、中程度または大きいに分類した。ビヒクル対照マウスの場合、過半数(7/12)が、肺転移負荷が中程度および大きかったのに対し、PND−1186マウスでは、過半数(7/12)が、肺転移がわずかであり、転移負荷が大きいマウスは認められなかった。これらの知見は、肺切片のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色により確認され、そこでは、対照は検出可能な4T1肺転移を示したが、PND−1186処置マウスは検出可能な4T1肺転移を示さなかった。したがって、低分子FAK阻害剤PND−1186は、自然乳がん転移のプロセスを妨害することができる。
【0056】
腫瘍増殖に対する作用を決定するため、mCherry−4T1同所性腫瘍の移植から48時間後、マウスへのPND−1186の自由な経口投与を開始した。13日目には、ノギス測定により測定した腫瘍の大きさが著しく異なっており、22日目には、PND−1186投与は、毒性または体重減少をともなわずに、最終腫瘍量を1.8倍超抑制した。一次4T1腫瘍の免疫ブロッティング解析では、PND−1186の自由投与は、FAKのpY397リン酸化およびp130CasのpY410リン酸化を共に阻害するのに十分であった。自由なPND−1186はさらに、腫瘍内のpY118パキシリンリン酸化も阻害したが、pY416 Srcのリン酸化も、pY402 Pyk2、pS473 AktおよびpT308 Aktのリン酸化も阻害しなかった。脾臓の比較から、PND−1186により自由に処置したマウスは、大きさが正常であるのに対し、対照マウスには脾肥大があることが明らかになった。5%スクロースを摂取した対照マウスは、中程度ないし大きな肺転移負荷を示した(9/11)のに対して、自由なPND−1186マウスの大部分は、肺転移負荷が、わずかないし中程度であった(13/15)。このため、低レベルのPND−1186投与は、インビボで4T1腫瘍の進行を遅延させるのに有効である。
【0057】
4T1の知見をヒト乳癌に拡大するため、K−RasおよびB−Rafに活性化変異を含むMDA−MB−231細胞を、NOD/重症複合免疫不全(SCID:severe combined immunodeficiency)マウスの乳房脂肪パッドに移植した。12日後、腫瘍が触知可能になったとき、0.5mg/mlのPND−1186または対照の5%スクロースを飲料水として自由に与えた。実験の27日間(PND−1186投与から15日間)に、対照の腫瘍は、ノギス測定により測定して著しく大きくなり、PND−1186の自由投与では70日目に、最終腫瘍重量が5倍超減少した。低レベルのPND−1186処置は、MDA−MB−231腫瘍内のFAKのpY397リン酸化を著しく低下させるのに十分であった。MDA−MB−231の自然転移に対する作用を決定するため、NOD/SCIDマウスの肺を切除し、H&E染色し、微小転移を数えた。対照マウスは、検出可能な転移を呈したが、PND−1186の自由処置では、転移肺病変の数が3.5倍超減少した。
【0058】
PND−1186処置が、腫瘍細胞の転移に影響するいくつかの因子に影響を与え得る一次腫瘍の大きさを減少させるため、mCherry蛍光タンパク質を発現するMDA−MB−231細胞を尾静脈注射して、実験的転移アッセイを行った。マウスに150mg/kgのPND−1186または水(ビヒクル)をp.o.で前投与し、1時間または6時間後、蛍光イメージングにより肺毛細管内の腫瘍細胞の蓄積または逗留を定量した。1時間および6時間のどちらも、PND−1186は、肺内の腫瘍細胞の蓄積を著しく阻害した。実験的転移アッセイにおけるPND−1186の血漿レベルは、1μMを超えると考えられるので、細胞を懸濁させPND−1186とインキュベートすることにより、MDA−MB−231のアポトーシスをインビトロで解析した。アネキシンV結合により測定し、フローサイトメトリーにより定量化したところ、10μMまでの濃度のPND−1186は、6時間以内にMDA−MB−231のアポトーシスの増加を促進しなかった。したがって、PND−1186の経口投与は、インビボでFAKのチロシンリン酸化を低下させ、その結果、2種類の同所性乳癌モデルで強い抗腫瘍活性および抗転移活性がもたらされる。
【0059】
本発明の方法のための薬学的組成物およびその投与
本発明の実施形態のもう1つの態様は、低分子FAK阻害剤を単独または別の薬物と組み合わせてヒトまたはヒト以外の患者に投与するための、本発明の化合物の組成物を提供する。本発明の化合物を含む組成物は、たとえば、参照によって本明細書に援用するRemington:The Science and Practice of Pharmacy,19th Ed.,1995、またはその新版に記載されているような従来の技術により調製することができる。本組成物は、たとえばカプセル、錠剤、エアロゾル、溶液、懸濁物または局所外用薬など従来の形態であってもよい。
【0060】
典型的な組成物は、本発明の化合物と、キャリアでも、または希釈剤でもよい薬学的に許容される賦形剤とを含む。たとえば、活性化合物は通常、キャリアと混合するか、またはキャリアで希釈するか、またはアンプル、カプセル、サッシェ、紙または他の容器の形態であってもよいキャリア内に封入する。活性化合物をキャリアと混合する場合、またはキャリアが希釈剤としての役割を果たす場合、キャリアは、活性化合物のビヒクル、賦形剤または媒体として機能する固体材料でも、半固体材料でも、または液体材料でもよい。活性化合物は、顆粒状の固体キャリアに吸着させ、たとえばサッシェに入れてもよい。好適なキャリアの一部の例として、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエトキシル化ヒマシ油、ピーナッツ油、オリーブ油、ゼラチン、ラクトース、白土、スクロース、デキストリン、炭酸マグネシウム、糖、シクロデキストリン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸、もしくはセルロースの低級アルキルエーテル、ケイ酸、脂肪酸、脂肪酸アミン、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペンタエリトリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ヒドロキシメチルセルロース、ならびにポリビニルピロリドンがある。同様に、キャリアまたは希釈剤としては、単独もしくはワックスと混合したモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの当該技術分野において公知の任意の持続放出材料を挙げることもできる。
【0061】
本処方物は、活性化合物と有害な反応を起こさない助剤と混合してもよい。こうした添加剤として、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝剤および/または着色物質 保存剤、甘味剤もしくは香味剤を挙げることができる。本組成物はさらに、必要に応じて滅菌してもよい。
【0062】
投与経路は、経口、鼻、肺、頬、皮下、皮内、経皮、または非経口、たとえば、直腸、デポー、皮下、静脈内、尿道内、筋肉内、鼻腔内、点眼剤または軟膏など、適切または所望の作用部位に本発明の活性化合物を効率的に輸送するのであれば、どのような経路であってもよいが、経口経路が好ましい。
【0063】
経口投与に固体キャリアを使用する場合、調製物は、錠剤化しても、粉末もしくはペレット形態で硬質ゼラチンカプセルに充填してもよいし、あるいは、トローチまたはロゼンジ形態であってもよい。液体キャリアを使用する場合、調製物は、シロップ、エマルジョン、軟質ゼラチンカプセル、または水性もしくは非水性液体懸濁物または溶液など無菌の注射用液体の形態であってもよい。
【0064】
注射用剤形としては一般に、好適な分散剤または湿潤剤、および懸濁化剤を用いて調製することができる水性懸濁物または油性懸濁物が挙げられる 注射用形態は、溶媒または希釈剤で調製される溶液相でも、または懸濁物の形態でもよい。許容可能な溶媒またはビヒクルとして、滅菌水、リンゲル液または等張食塩水溶液が挙げられる。あるいは、無菌の油を溶媒または懸濁化剤として利用してもよい。好ましくは、油または脂肪酸は、天然油または合成油、脂肪酸、モノ−、ジ−またはトリ−グリセリドなど不揮発性である。
【0065】
注射の場合、処方物はまた、上記のような適切な溶液で再構成するのに好適な粉末であってもよい。それらの例として、凍結乾燥粉末、ロータリー乾燥粉末もしくは噴霧乾燥粉末、非晶質粉末、顆粒、沈殿物または微粒子が挙げられるが、これに限定されるものではない。注射の場合、処方物は必要に応じて、安定剤、pH調整剤、界面活性剤、バイオアベイラビリティーモディファイヤー、およびこれらの組み合わせを含んでもよい。本化合物は、ボーラス注射または持続注入など注射による非経口投与用に処方してもよい。注射用単位剤形は、アンプル中または複数用量容器中に存在してもよい。
【0066】
本発明の処方物は、当該技術分野において周知の手順を用いることにより、患者への投与後に活性成分を迅速放出、持続放出または遅延放出するように設計してもよい。したがって、処方物はまた、制御放出または徐放できるように処方してもよい。
【0067】
本発明が意図している組成物は、たとえば、ミセルもしくはリポソーム、またはいくつかの別の封入形態を含んでもよく、あるいは、長期の貯蔵および/または送達効果を提供するため、徐放性放出形態で投与してもよい。したがって、処方物をペレットまたはシリンダーに圧縮し、筋肉内または皮下にデポー注射剤として埋め込んでもよい。こうした埋没物は、シリコーンおよび生分解性ポリマー、たとえば、ポリラクチド−ポリグリコリドなど既知の不活性材料を利用してもよい。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。
【0068】
鼻腔投与の場合、調製物は、エアロゾルに使用するため、液体キャリア、好ましくは水性キャリアに溶解または懸濁させた本発明の化合物を含み得る。キャリアは、可溶化剤、たとえば、プロピレングリコール、界面活性剤、レシチン(ホスファチジルコリン)またはシクロデキストリンなどの吸収促進剤、またはパラベンなどの防腐剤など、添加剤を含んでもよい。
【0069】
非経口用途の場合、特に好適なのは、注射用溶液または懸濁物、好ましくは活性化合物をポリヒドロキシ化ヒマシ油に溶解させた水溶液である。
【0070】
タルクおよび/または炭水化物キャリアもしくはバインダー、または同種のものを含む錠剤、糖剤またはカプセル剤は、経口用途に特に好適である。錠剤、糖剤またはカプセル剤に好ましいキャリアとして、ラクトース、コーンスターチ、および/またはポテトスターチが挙げられる。甘味ビヒクルを利用してもよい場合、シロップ剤またはエリキシル剤を使用してもよい。
【0071】
従来の錠剤化技術により調製できる典型的な錠剤として、下記がある:
【0072】
【表3】

*フィルムコーティング用の可塑剤として使用されるアシル化モノグリセリド。
【0073】
本発明の化合物は、広い投薬量範囲にわたり有効である。たとえば、成人ヒトの処置の場合、1日約0.05〜約5000mg、好ましくは約1〜約2000mg、一層好ましくは約2〜約2000mgの投与量を使用してもよい。典型的な投与量は、1日約10mg〜約1000mgである。患者のレジメンを選択する際、頻繁には、比較的多い投与量から始め、患者の状態がコントロールされたとき、投与量を減らす必要がある場合がある。正確な投与量は、化合物の活性、投与モード、所望の治療法、投与される形態、処置対象の被験体および処置対象の被験体の体重、ならびに担当の医師または獣医師の優先度および経験によって異なる。
【0074】
一般に、本発明の化合物は、単位投与量につき約0.05mg〜約1000mgの活性成分と薬学的に許容されるキャリアを含む単位剤形に小分けにする。
【0075】
通常、経口投与、鼻投与、肺投与または経皮投与に好適な剤形は、約125μg〜約1250mg、好ましくは約250μg〜約500mg、一層好ましくは約2.5mg〜約250mgの化合物を薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤と混合したものを含む。
【0076】
剤形は、毎日投与しても、または1日2回もしくは3回など1日2回以上投与してもよい。あるいは、処方する医師により望ましいことが分かった場合、剤形は、1日おきまたは週1回など毎日より少ない頻度で投与してもよい。
【実施例】
【0077】
化合物(chemical compound):2008年3月10日に出願され国際公開第2008/115369号として公開されたPCT特許出願PCT/US2008/003205号に記載されているように、PND−1186を合成し、HCl塩として使用した。インビボアッセイのため、PND−1186を水に溶解させた(溶解度=22mg/ml)。
【0078】
バキュロウイルスFAK触媒ドメインおよびインビトロキナーゼアッセイ:プライマー5’−cgatcgaattctcgaccagggattatgagattca−3’ 5’−tagctgtcgacttactgcaccttctcctcctccagg−3’を用いてポリメラーゼ連鎖反応により、FAK触媒ドメイン領域(411−686)を作製し、GSTとの融合体としてpGEX4Tにクローニングし、pAcG2Tバキュロウイルス発現ベクター(Pharmingen,Baculogold)に導入した。プラークアッセイによりウイルスクローンを特定し、増幅した。タンパク質発現のため、SF9細胞に2〜5pfu/細胞の感染多重度で形質導入し、27℃で48時間培養した。グルタチオンアガロースアフィニティークロマトグラフィーを用いて、GST−FAK(411−686)を精製し、続いてhiload 16/60 Superdexクロマトグラフィー(GE Healthcare)を使用してサイズ分画を行った。タンパク質を濃縮し、50mMのトリス pH8.0、150mMのNaCl、1mMのオルトバナジン酸Na、0.5mMのEDTA、0.5mMのEGTA、0.1%β−メルカプトエタノール、および20%グリセロール中で凍結保存した。純度は、SDS−PAGEにより90%超と推定された。K−LISAスクリーニングキット(Calbiochem)、およびマイクロタイタープレートに固定した基質としてポリ(Glu:Tyr)(4:1)コポリマー(P0275、Sigma)を用いて、GST−FAKインビトロキナーゼ活性を測定し、Hisタグ付きFAK411−686(Millipore)と比較した。50μMのATPおよび10mMのMnCl、50mMのHEPES(pH7.5)、25mMのNaCl、0.01%BSAおよび0.1mMのオルトバナジン酸Naを含む緩衝液中に試験化合物を様々な濃度で用いて、IC50値を室温で5分間測定した。1/2対数濃度で段階希釈(1μMから開始)した化合物を3回ずつ試験した。西洋わさびペルオキシダーゼ−結合体化抗pTyr抗体(PY20,Santa Cruz Biotechnology)を用い、分光光度法による(spetrophotometic)色の定量化により、基質のリン酸化を測定した。Hill−Slopeモデルを用いてIC50値を決定した。KinaseProfilerサービス(Millipore)を利用して、キナーゼ選択性プロファイリングを行った。
【0079】
試薬および細胞:β−アクチン(AC−17)に対する抗体は、Sigma−Aldrich社製であった。Src(Src−2)およびAktに対する抗体は、Santa Cruz Biotechnology社製であった。FAK(4.47)に対する抗体は、Millipore社製であった。pY249 p130Cas、pY410 p130Cas、pY416 Srcに対する部位およびホスホ特異的抗体および抗切断型カスパーゼ−3は、Cell Signaling Technology社製であった。抗pY397 FAKおよびTOPRO−3は、Invitrogen社製であった。抗GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)はChemicon社製、ウシ血漿フィブロネクチンはSigma社製、ダサチニブおよびPP1はそれぞれLC Laboratories社製およびCalbiochem社製であった。4T1マウス乳癌細胞およびMDA−MB−231ヒト乳癌細胞は、American Type Culture Collectionから得た。ID8マウス卵巣癌細胞は、Katherine Robyから提供された(Roby KF,Taylor CC,Sweetwood JP,Cheng Y,Pace JL,Tawfik O,et al.Development of a syngeneic mouse model for events related to ovarian cancer.Carcinogenesis 2000;21:585−91)。細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS:fetal bovine serum)、1mMの非必須アミノ酸、2mMのグルタミン、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地で培養した。インビトロ試験では、PND−1186をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、使用時まで−80℃で保存した。最終の実験DMSO濃度は、0.1%〜0.2%であった。赤色蛍光mCherryまたはdsRedタンパク質(Clontech)のコード配列をレンチウイルス発現ベクター(pCDH−MSC1,System Biociences)にサブクローニングし、Mitra SK,Lim ST,Chi A,Schlaepfer DD.Intrinsic focal adhesion kinase activity controls orthotopic breast carcinoma metastasis via the regulation of urokinase plasminogen activator expression in a syngeneic tumor model.Oncogene 2006;25:4429−40に記載されているように、組換えレンチウイルスを作製した。形質導入した4T1またはID8細胞を、蛍光標示式細胞分取(FACSAria,Becton−Dickinson)で富化し、安定な細胞集団を得た。高転移性のmCherry 4T1細胞の選択は、肺転移細胞の単離および増殖により行った。mCherry−4T1細胞を採取し、8〜10週齢雌Balb/cマウスのT4乳房(mammary)脂肪パッドに注射した。4週間後、肺を除去し、エラスターゼおよびコラゲナーゼ処理により単一の細胞に分離し、次いで60μMの6−チオグアニン(Sigma)とともに2週間培養し、4T1細胞を選択した。mCherry−4T1細胞(4T1−L)の集団を蛍光標示式細胞分取(FACS:fluorescence−activated cell sorting)により採取し、シプロフロキサシン(10μg/ml)で処理し、ポリメラーゼ連鎖反応(Stratagene)によりマイコプラズマ陰性であることを確認し、乳房脂肪パッド注射から10日以内に自然肺転移コロニーの確立を再確認した。
【0080】
足場依存性スフェロイドおよび軟寒天細胞増殖アッセイ:接着(組織培養処理)条件下、および非接着(ポリ−HEMAコート)条件下、増殖培地を用いて6ウェルプレート(Costar)に、35mmウェル当たり細胞(2×10)を培養した。24時間から168時間の間に、全細胞を集めて、限定的なトリプシン−EDTA処理により単細胞懸濁物を調製し、トリパンブルー染色および計算により生細胞を計数した(ViCell XR、Beckman)。スフェロイドの面積測定のため、72時間後、Olympus IX51顕微鏡を用いて細胞の位相差画像を取得した。Image Jソフトウェア(バージョン1.43)を用いて、面積を計算した。軟寒天アッセイでは、2%寒天(EM Science)を含む0.2mlの増殖培地の1:4ミックスで48ウェルプレートをコートした(下層)。0.3%寒天を含む0.2mlの増殖培地の混合物(上層)中に、1ウェル当たり5×10個の細胞を(3連で)培養した。寒天の凝固後、DMSOまたはPND−1186を含む0.2mlの増殖培地を加えた(0.6mlについての最終濃度)。別の実験では、4日後にPND−1186を加えた。10日後、コロニーの位相差画像を取得し、9視野(1ウェル当たり3視野)をカウントして計数し、Image Jを用いて総面積を測定した。すべての解析では、実験ポイントを3連で行い、実験は、少なくとも2回繰り返した。
【0081】
免疫ブロッティング:1%トリトンX−100、1%デオキシコール酸ナトリウムおよび0.1%SDSを含む溶解緩衝液を用いて、細胞のタンパク質抽出物を作製し、4〜12%SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)により分離し、Mitra SK,Lim ST,Chi A,Schlaepfer DD.Intrinsic focal adhesion kinase activity controls orthotopic breast carcinoma metastasis via the regulation of urokinase plasminogen activator expression in a syngeneic tumor model.Oncogene 2006;25:4429−40に記載されている(describedin)ように逐次的な免疫ブロッティングを行った。Image J(バージョン1.42q)を用いた、ブロットのデンシトメトリー解析により、相対的な発現レベルおよびホスホ特異的抗体反応性を測定した。pY397 FAKタンパク質と総FAKとの比率を算出することにより、FAKおよびp130Casのチロシンリン酸化の阻害を定量化した。pY410 p130Casおよび総p130Casのブロットデータを用いてp130Casについても、同様の解析を行った。
【0082】
免疫組織化学:アポトーシスの検出のため、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)キット(Roche)を用いて、切片(7μm)を解析した。CD45染色のため、切片(7μm)を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldhyde)で固定し、PBSでリンスし、5%BSA、1%ヤギ血清および0.1%トリトンXを含むPBS溶液でブロッキングした。5%BSAおよびPBS中で1μg/mlのFITC結合体化抗CD45抗体(Invitrogen)を2時間インキュベートした。同じ濃度のFITC結合体化IgG2bアイソタイプ抗体(Invitrogen)を陰性対照として使用した。1:25,000希釈のHeochst 33342(Invitrogen)とのインキュベーションにより、細胞核を可視化した。画像は、単色電荷結合カメラ(ORCA ER;Hamamatsu)、倒立顕微鏡(IX51;Olympus)およびSlidebookソフトウェア(v5.0、Intelligent Imaging)を用いて40×(UPLFL対物レンズ、1.3NA;Olympus)で逐次的に撮像した。画像は、Photoshop CS3(Adobe)を用いて擬似カラー表示し、重ねてマージした。蛍光の定量は、Image J(v1.43)を用いて行った。
【0083】
細胞遊走アッセイ:以前に記載されているように、Millicell(12mmの直径、8μmの細孔を有する;Millipore)チャンバーを用いて、血清刺激による走化を行った49。膜の両側をフィブロネクチン(10μg/ml)でコーティングし、10%FBSを底部チャンバーに加えて走化を刺激した。データポイントは、少なくとも2つの独立した実験における3つの遊走チャンバーからの細胞数(9視野)を表す。掻傷閉鎖運動アッセイでは、フィブロネクチンコート(10μg/ml)ガラス底12ウェルプレート(MatTek)に細胞を播種し、16時間血清飢餓状態にした(0.5%FBS)。細胞をピペット先端で傷つけ、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、細胞に、FAK阻害剤(1μM)を含むかあるいは含まない10%FBS培地を補充した。自動ステージ(Olympus IX81)上で10×対物レンズを用いて、湿度およびCOを調節しながら37℃で22時間まで10分間隔で画像を取得することにより、一連のコマ撮り画像を得た。Image Jを用いて経時的に核位置を追跡して、移動した細胞の軌跡および距離を測定した。
【0084】
細胞増殖およびアポトーシスアッセイ:細胞増殖の解析のため、表記の時間にわたり、接着細胞または懸濁細胞をPND−1186で処理し、限定トリプシン処理により単一細胞懸濁物として集め、70%エタノールで固定し、遠心分離により集めて、PBSで洗浄した。細胞ペレットを、ヨウ化プロピジウム(PI)(10μg/ml)、DNAseを含まないRNAse(100μg/ml、Qiagen)を含む300μlのPBSに懸濁し、次いで撹拌しながら1時間37℃でインキュベートした。フローサイトメトリー(FACSCalibur,Becton−Dickinson)によりサンプルを解析し、ModFit LT3.2ソフトウェア(Verity software house)により細胞周期の解析を行った。記載されているように29、PI染色により、細胞アポトーシスの指標としての低二倍体DNA量を検出した。細胞アポトーシス解析では、接着細胞または懸濁細胞をPND−1186で処理し、上述のように集めて、フィコエリトリン(PE:phycoerythrin)結合体化アネキシンV結合および7−アミノ−アクチノマイシン(7−AAD:7−amino−actinomycin)反応性(BD Pharmingen)に対して染色し、1時間以内にフローサイトメトリーにより解析した。細胞の自家蛍光(陰性)スタウロスポリン処理(陽性)対照に基づき、四分円ゲート(quadrant gate)を設定した。アポトーシスを、アネキシンV陽性細胞の割合として計算した。軟寒天アッセイでは、少なくとも200個の細胞の目視検査によりアポトーシスを定量化し、膜のブレッビングまたは細胞収縮が出現した場合に、アポトーシスと定義した。さらに、免疫ブロッティングによる、タンパク質ライセート中での切断型カスパーゼ−3抗体反応性の出現によってもアポトーシスを検出した。
【0085】
IL−6 ELISA:2百万個の4T1細胞を培養し、10%FBS中で4時間伸張させ、その後、DMSO(対照)または表記の濃度のPND−1186を加えた。1時間後、組換え腫瘍壊死因子−α(TNFα eBioScience)(10ng/ml)を加え、24時間後、抗マウスIL−6ELISAキット(eBioScience)を用いて、順化培地中のIL−6レベルを測定した。
【0086】
腫瘍におけるアポトーシスの検出:新鮮な腫瘍を最適切削温度(OCT:Optimal Cutting Temperature)化合物(Tissue Tek)内で急速凍結し、クライオミクロトーム(Leica 3050S)を用いて薄切り(7μM)にし、スライドガラスにマウントした。切片を3%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%トリトンを含むPBSで3分間透過処理し、8%ヤギ血清を含むPBSを用いて60分間RTでブロッキングした。活性化カスパーゼ−3検出では、切片を、切断型カスパーゼ3抗体(2%ヤギ血清を含むPBSで1:200に希釈)と18時間4℃でインキュベートし、PBSで洗浄し、フルオレセインイソチオシアネート結合体化抗ウサギおよびTOPRO−3(青)とインキュベートしてDNA検出を行った。切片の画像を、30μmのピンホール設定、1.4NA、60×オイル対物レンズを用いて、Nikon Eclipse C1共焦点顕微鏡で取得し、EZ−C1 3.50ソフトウェア(Nikon)を用いて解析した。腫瘍アポトーシスはまた、製造者(Roche)の指示どおりテトラメチルローダミン(TMR:tetramethylrhodamine)キットを用いて、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)染色によっても測定した。INFINITY1−3C:デジタルカラーカメラおよび4×対物レンズを備えたZeiss M2−Bio Stereo 顕微鏡を用いて、全腫瘍切片の明視野画像および蛍光画像を取得した。
【0087】
マウス腫瘍の研究:6〜8週齡雌C57Bl6マウスおよびBALB/cマウスをHarlan Laboratories(Indianapolis,IN)から入手し、国際実験動物管理公認協会(Association for the Assessment and Accreditation for Laboratory Animal Care, International)のガイドラインに従い、病原体フリーの条件で飼育した。インビボ研究はすべて、承認された施設の実験動物管理および使用プロトコルの下で実施した。限定トリプシン処理により、増殖させた腫瘍細胞を採取し、PBSで洗浄し、注射の前にViCell XR(Beckman)を用いてカウントした。トリパンブルー排除法により測定した細胞生存率は、95%超であった。皮下腫瘍増殖では、1×10個のmCherry標識4T1細胞を含む100μlのPBSを、Balb/cマウスの後側腹部に注射した。8日後、同容積の腫瘍(ノギスで測定し、(長さ×幅の2乗)/2で決定)を持つマウスを群分け(各群n=8)し、ポリエチレングリコール400(PEG400)を含むPBS(1:1)に可溶化したPND−1186を、12時間ごとに30mg/kgまたは100mg/kgで頸部領域に皮下注射した(100μl)。対照動物にはPEG400:PBS注射を施し、13日目にOlympus OV100 Intravital Fluorescence Molecular Imaging Systemを用いてin situで腫瘍の画像を取得し、腫瘍を切除および秤量し、半分をOCTで凍結させ、FAKリン酸化解析のためもう半分をタンパク質溶解緩衝液に可溶化した。ID8卵巣癌腫瘍増殖では、1×10個のID8細胞を含むPBS0.8mLを、C57Bl6マウスに腹腔内注射した。11日後、5%スクロースを含む水に溶解した0.5mg/mLのPND−1186を飲用として与え、対照マウスには5%スクロースを与えた(各群n=8)。投与は、自由に30日間継続し、その後マウスを安楽死させ、腹水を集め、遠心分離により(2000rpm、5分間)細胞を得、細胞容積をピペットにより測定してから、免疫ブロッティング解析のためタンパク質溶解緩衝液に可溶化した。
【0088】
PND−1186の薬物動態(PK)評価:静脈内(i.v.)注射では、マウスに、ビヒクル、または、10%DMSO、10%Tween80および80%水中の2mg/kgのPND−1186を投与した。腹腔内(i.p.)注射では、マウスに、50%PEG400を含むPBS中の30mg/kgまたは100mg/kgのPND−1186を投与した。経口(p.o.)投与では、マウスに、150mg/kgのPND−1186水溶液を投与した。p.o.投与の場合、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間および48時間、i.p.投与およびi.v.投与の場合、0.083時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間および48時間での終末心臓穿刺により、血液サンプルを集めた。各時点につき3匹のマウスを使用した。自由投与では、各群で5匹のマウスを使用して7日後に血液サンプルを集めた。各サンプルを、0.5MのEDTA0.05mlを含むチューブに集め、室温、900×gで15分間遠心分離し、血漿を集めた。PND−1186量は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC:high−performance liquid chromatography)および質量分析解析により決定した(補足方法を参照されたい)。
【0089】
PND−1186の薬力学的(PD:Pharmacodynamic)評価:4T1細胞をBalb/cマウスの側腹部に注射し、腫瘍(300〜400mm)として10日間増殖させた。ビヒクル(50%PEG400を含むPBS)、30mg/kgのPND−1186または100mg/kgのPND−1186をi.p.注射し、マウスを1時間、3時間、6時間および12時間で屠殺した。各群につき5匹のマウスを使用した。腫瘍を切除し、1%トリトン−X100、50mMのHepes pH7.4、150mMのNaCl、10%グリセロール、1.5mMのMgCl、1mMのEGTA、10mMのピロリン酸ナトリウム、100mMのNaF、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム、10μg/mlのロイペプチン、10μg/mlのアプロチニンを含む溶解緩衝液でPro200組織ホモジナイザー(Pro Scientific)を用いて、ホモジナイズした。ライセートのタンパク質濃度は、マイクロビシンコニン酸キット(Thermo)を用いて決定した。均等のタンパク質ライセートをSDS−PAGEにより分離、免疫ブロッティングにより解析した。
【0090】
アポトーシスアッセイ:懸濁細胞をPND−1186で処理し、集めて、フルオレセイン結合体化アネキシンV結合に対して染色し(30分)、1時間以内にフローサイトメトリーにより解析した。細胞の自家蛍光(陰性)スタウロスポリン処理(陽性)対照に基づき、四分円ゲートを設定した。アポトーシスを、アネキシンV陽性細胞の割合として計算した。
【0091】
同所性乳がんモデル:100万個の4T1細胞またはMDA−MB−231細胞を含む10μlのPBSを、Hamiltonシリンジを用いて8〜10週齡マウスのT4乳房脂肪パッドに注射した。腫瘍が触知可能になったとき(4T1では24〜48時間後、MDA−MB−231では12日後)、PND−1186処置(経口強制または自由)を開始した。腫瘍を3〜4日ごとにデジタルノギスで測定し、式:V=(a×b)/2(a=長さ、mm;b=幅、mm)を用いて腫瘍容積(mm)を算出した。体重は、週1回測定して毒性を評価した。肺、脾臓および一次腫瘍を外科的に切除し、秤量した。免疫ブロッティングのため、タンパク質溶解緩衝液中で腫瘍切片をホモジナイズするか、または最適切削温度(OCT)化合物(Tissue Tek)に埋め込み、液体窒素で凍結させ、クライオスタット(Leica 3050S)を用いて薄切り(7μM)にし、スライドガラスにマウントした。
【0092】
4T1腫瘍の転移解析では、肺をPBSでリンスし、OV100 Small Animal Imaging System(Olympus)を用いて、背側および腹側の蛍光画像を取得した。すべての画像で共通のmCherry蛍光閾値を設定し、Image Jソフトウェアを用いて各肺に存在するマイクロ腫瘍の平均積分画素密度を決定して、肺転移負荷を算出した。転移性腫瘍負荷(転移病変の数または平均画素体積)を決定し、各群(わずか、中程度および大きい)を分布数に基づき分類した。画像取得後、肺をブアン溶液(Sigma)で固定し、パラフィン包埋し、薄切りにして組織学的評価のためヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。Slidebook(v5.0)ソフトウェアを用いて、微分干渉コントラストOlympus IX81倒立顕微鏡およびOlympus DP71デジタルカラーカメラにより、画像を取得した。MDA−MB−231腫瘍の転移研究では、25ゲージ(guage)針を用いて、OCTを含む滅菌水の1:1溶液の気管内注射により、肺を膨張させた。肺を切除し、OCTに包埋し、液体窒素で凍結させた。H&E切片における肺病変を数えて1葉ごとの肺転移の平均数を決定した(スクロースではn=11葉、PND−1186ではn=13葉)。
【0093】
実験的転移アッセイ:mCherry蛍光タンパク質を安定発現している50万個(100μlのPBS中)のMDA−MB−231細胞をi.v.(尾静脈経由)注射する14時間前および2時間前に、12週齡ヌードマウスに150mg/kgのPND−1186または水(ビヒクル)をp.o.投与した。実験的転移負荷を決定するため、細胞注射の1時間後および6時間後に肺を除去し、PBSでリンスし、OV100イメージングを用いて背側と腹側の蛍光画像を取得した。すべての画像で共通のmCherry蛍光閾値を設定し、Image Jを用いて、蛍光を発する肺の総面積を算出した。
【0094】
統計的方法:群間の有意差は、1元ANOVAとTukeyの事後検定を用いて決定した。データ対間の差は、対応のない両側スチューデントのt検定または両側マンホイットニー検定を用いて決定した。転移発生間の差は、両側フィッシャーの正確確率検定を用いて決定した。統計解析はすべて、GraphPad Prism(バージョン5.0b、GraphPad Software,San Diego CA)を用いて行った。p値が<0.05である場合、有意と見なした。
【0095】
参考文献
【0096】
【数1】

【0097】
【数2】

【0098】
【数3】

【0099】
【数4】

【0100】
【数5】

本発明について、当業者が製造し、使用できるよう十分に詳細に説明および例示を行ってきたが、特許請求の範囲の精神および範囲を逸脱しない範囲で様々な代替、修正および改善が当業者には明らかになるであろう。
【0101】
本明細書に言及した特許および刊行物についてはすべて、参照によって援用するために1つ1つの特許を具体的に個々に示してしてあるのと同じ程度に参照によってその全体を本明細書に援用する。
【0102】
使用してきた用語および表現は、説明の用語として使用しており、限定の用語として使用しているものではない。こうした用語の使用および表現は、図示および説明された特徴の任意の等価物またはその一部を除外することを意図するものではない。一方、特許請求されている本発明の範囲内で、様々な修正が可能であることが認められる。したがって、好ましい実施形態および任意の特徴により本発明を具体的に開示してきたが、当業者は、本明細書に開示された概念の修正および変形を行ってもよく、こうした修正および変形は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内と見なされることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腫瘍細胞のアポトーシスを促進するか、または患者における転移を阻害するか、またはその両方を行う方法であって、有効量の接着斑キナーゼの阻害剤を、それを必要としている該患者に投与することを含み、該阻害剤は、下記式の化合物
【化4】

またはその任意の薬学的に許容される塩である、方法。
【請求項2】
アポトーシスの促進により、腫瘍に罹患した前記患者の腫瘍増殖を阻害するか、腫瘍の転移を阻害するか、または腫瘍アポトーシスを促進するか、またはそれらの任意の組み合わせをもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍は悪性のがんである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍は乳がんまたは卵巣がんを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤は薬学的に許容される賦形剤を含む処方物として前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤は前記患者に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害剤は前記患者に非経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者に有益な作用を与えるのに十分な持続期間および頻度で一定期間にわたり、該患者に前記阻害剤を複数回投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者に有効量の第2の薬物を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者の腫瘍細胞のアポトーシスを促進するか、または転移を阻害するか、またはその両方を行う薬物を調製するための、接着斑キナーゼ阻害剤に属する阻害剤の使用であって、該阻害剤は、下記式の化合物
【化5】

またはその任意の薬学的に許容される塩である、使用。
【請求項11】
アポトーシスの促進により、腫瘍増殖を阻害するか、または腫瘍の転移を阻害するか、または腫瘍アポトーシスを促進するか、またはそれらの任意の組み合わせを行う、請求項10に記載の使用。

【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4D】
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【図5B】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6E】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8D】
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【図8F】
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【図8H】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8C】
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【図8E】
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【図8G】
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【公表番号】特表2013−501808(P2013−501808A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524880(P2012−524880)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/045359
【国際公開番号】WO2011/019943
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(398003681)ポニアード ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】