説明

アポトーシス誘導能を有する組成物

【課題】 安全性が高く、ガン細胞増殖抑制効果の強い、アポトーシス誘導組成物と、該組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品と、ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、アポトーシス誘導能を有する組成物と、を提供すること。
【解決手段】 酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有する、アポトーシス誘導能を有する組成物と、前記組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシス誘導能(誘導作用)を有する組成物に関し、さらに詳細には、酢酸菌体の脂溶性有機溶媒抽出物を有効成分とする、アポトーシス誘導能を有する組成物と、前記アポトーシス誘導能を有する組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンは、男女ともに死亡数が戦後増加し続け、2004年のガン死亡数は、1960年の3倍以上、1980年の約2倍となっており、現代人の生活習慣病のひとつとして、非常に問題となっている。そのため研究が盛んに行われているが、抗ガン剤として使用されている医薬品は、吐き気や、脱毛、下痢などの様々な副作用があるものが多く、副作用のない治療薬の開発が望まれている。
【0003】
抗ガン活性を示す物質の中には、培養細胞でアポトーシスを誘導することが知られており、アポトーシス誘導がガン抑制に結びつくと考えられている。アポトーシス誘導による抗ガン作用は、ネクローシス(壊死)のように周囲の細胞や組織に炎症を起こさせないため、アポトーシスを誘導する物質を用いてガン細胞を細胞死に誘導することは、有効にガン細胞の増殖を抑制すると考えられる。また、アポトーシス誘導能を有する物質を飲食品として日常的に摂取することができれば、ガンの予防につながることが期待される。
また、アルツハイマー症のような神経疾患などにもアポトーシスは関係していることから、これらの疾患の予防につながることも期待される。
これまでに種々のアポトーシス誘導物質が見出されてきているが、物質の安全性を考えると、食品中に存在する成分や食品製造に使用されている微生物が含有する成分であればその懸念が少なく、特に歴史的に食品製造に長く使用されてきた醸造微生物は有望と考えられる。
【0004】
醸造微生物の中で、特に酢酸菌は、古くから食酢製造に用いられており、ナタデココ、紅茶きのこなどの製造にも使用されており、またヨーロッパの伝統食であるカスピ海ヨーグルトにおいても発酵に関与し、ヨーグルト中に存在していることから、歴史的に安全性が高いことが知られており、酢酸菌を利用することが注目されている。
酢酸菌を使用して製造した醸造酢にアポトーシス誘導活性物質が含まれていることが知られている。
例えば、酢酸菌体を除去した黒酢の酢酸エチルで抽出することによって得られる抗酸化組成物がガン細胞増殖抑制効果を示すことが知られており(例えば、特許文献1参照)、アポトーシス誘導能を有する可能性が示唆されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、この効果は、ジヒドロフェルラ酸及びジヒドロシナピンによるものであることが明らかにされており、いずれも黒酢原料に由来する物質とされ、酢酸菌体に由来するものではない。
また、サトウキビ酢を吸着クロマトグラフィーに供し、100%メタノールで溶出される画分にアポトーシスを誘導する活性が見出されているが(例えば、非特許文献2参照)、前記黒酢の場合と同様に、特定の原料を使用したことによって見出された活性であり、アポトーシスの誘導能も低いものであった。
【0005】
一方、酢酸菌に属する微生物またはその菌体内酵素産生物を有効成分とする抗腫瘍剤が開示されており(例えば、特許文献2参照)、ガン細胞のアポトーシス誘導活性が見出されているが、実際には菌体を除去したろ過液に見出された活性であり、さらに該活性の本体はF−2702と命名された水溶性の物質であり、菌体成分というよりは菌体代謝産物とすべきものであり、また、もともと抗かび物質として発見された物質であるため、副作用の恐れがあった。
【0006】
上記以外にも、酢酸菌体或いは酢酸菌菌体破砕物や細胞膜画分や水溶性画分に抗腫瘍性が見出されているが(例えば、特許文献3〜7参照)、免疫系を介しての抗腫瘍性であると推定され、ガン細胞特異的ではなかった。また、夾雑物を含むため十分な効果がなく、投与量も多量になるため摂取者の負担も大きく、夾雑蛋白質等によって免疫応答が引き起こされるため、発熱などの副作用の懸念があった。
【0007】
このように、醸造酢や酢酸菌分泌物において、アポトーシス誘導活性を有する物質が知られているが、いずれもその効果は充分満足できるものではなかった。
即ち、安全性が高く、より効果の強いガン細胞のアポトーシスを誘導する組成物の開発が求められていた。
【0008】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・クリニカル・キャンサー・リサーチ」(J. Exp.Clin. Cancer Res.)23巻,69頁〜75頁(2004年)
【非特許文献2】「九州沖縄農業研究センターにおける最近の主要研究成果 第7集 平成16年」,14頁(2004年)
【特許文献1】特開2003−95976号公報
【特許文献2】特開2001−97869号公報
【特許文献3】特開昭57−70821号公報
【特許文献4】特開昭57−70822号公報
【特許文献5】特開昭57−144220号公報
【特許文献6】特開昭57−144221号公報
【特許文献7】特開昭58−180426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、安全性が高く、ガン細胞増殖抑制効果の強い、アポトーシス誘導組成物と、該組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品と、ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、アポトーシス誘導能を有する組成物と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者らは、食品製造に古来より使用されており、安全性が高いことが認知されている酢酸菌の菌体について、従来、全く検討されていなかった脂溶性物質に着目し、有機溶剤で抽出した脂溶性抽出物に、アポトーシス誘導能があることを見出し、さらに、アポトーシス誘導能を有する脂溶性抽出物にはガン細胞の増殖抑制活性があることを見出した。
また、前記脂溶性抽出物を有機溶剤で抽出する方法において、特定の有機溶剤を使用して抽出した脂溶性組成物が有効であること、さらに抽出した脂溶性抽出物を特定の方法で分離精製した場合に、特定の画分に高いガン細胞の増殖抑制活性があることを見出した。
加えて、前記脂溶性の有機溶剤抽出物のアポトーシス誘導活性、さらにはガン細胞の増殖抑制活性を有する組成物を飲食品に応用する方法を見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、次の(1)〜(9)に関する。
(1)酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有する、アポトーシス誘導能を有する組成物。
(2)脂溶性有機溶剤抽出物が、酢酸菌体のアセトン抽出物である、(1)に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
(3)脂溶性有機溶剤抽出物が、前記酢酸菌体のアセトン抽出物を、さらに酢酸エチルで抽出した抽出物である、(2)に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
(4)脂溶性有機溶剤抽出物が、前記アセトン抽出物又は前記酢酸エチル抽出物を、さらにシリカゲルに吸着し、クロロホルム及びメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=99:1〜81:19である溶液を用いて溶出させて得られる画分である、(2)又は(3)に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
(5)脂溶性有機溶剤抽出物が、クロロホルム及びメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10である溶液を用いて溶出させて得られる画分である、(4)に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のアポトーシス誘導能を有する組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品。
(7)飲食品が食酢である、(6)に記載のアポトーシス誘導能を有する飲食品。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載のアポトーシス誘導組成物を添加することを特徴とする、アポトーシス誘導能を有する飲食品の製造方法。
(9)ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、(1)〜(5)のいずれかに記載のガン細胞のアポトーシス誘導能を有する組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有する、安全性が高く、強いガン細胞増殖抑制効果を示す、アポトーシス誘導能を有する組成物が提供される。
また、本発明によれば、該組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品が提供され、さらに、ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、アポトーシス誘導能を有する組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有する、アポトーシス誘導組成物と、該組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品と、ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、アポトーシス誘導能を有する組成物と、に関するものである。
【0014】
本発明において用いられる酢酸菌としては、酢酸菌であれば特に限定はないが、例えば、グルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、アサイア(Asaia)属、アシドモナス(Acidomonas)属などに属する酢酸菌が例示される。
【0015】
グルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属の酢酸菌としては、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・インタメデイウス(Gluconacetobacter intermedius)、グルコンアセトバクター・サッカリ(Gluconacetobacter sacchari)などが例示される。
【0016】
アセトバクター(Acetobacter)属の酢酸菌としては、アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シジギイ(Acetobacter syzygii)、アセトバクター・シビノンゲンシス(Acetobacter cibinongensis)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オルレアネンシス(Acetobacter orleanensis)、アセトバクター・ロバニエンシス(Acetobacter lovaniensis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・ポモラム(Acetobacter pomorum)などが例示される。
【0017】
また、グルコノバクター(Gluconobacter)属としては、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)などが例示される。
【0018】
さらに、アサイア(Asaia)属の酢酸菌としては、アサイア・ボゴレンシス(Asaia bogorensis)、アサイア・シアメンシス(Asaia siamensis)などが例示される。
【0019】
また、アシドモナス(Acidomonas)属の酢酸菌は、アシドモナス・メタノリカ(Acidomonas methanolica)が例示される。
【0020】
さらに、酢酸菌としては、上記の他、食酢製造やヨーグルトなどの発酵食品に用いられている酢酸菌や、自然界より分離されたもの、また、既存の微生物保存機関に保存されていて分譲可能な保存菌株などが適宜利用可能である。
なお、上記酢酸菌は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、具体的には、グルコンアセトバクター・ザイリナスを用いることが好ましく、特には、グルコンアセトバクター・ザイリナス NBRC15237株を用いることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に用いる酢酸菌の培養は通常の方法で行えばよく、生育可能な培地及び培養条件であれば、特に限定はなく、得られた培養液をろ過や遠心分離などの一般的な方法で固液分離して菌体を得る。
具体的には、培地としては、炭素源、窒素源、無機物、微量栄養源等、使用する菌株が生育するのに必要な成分を含有していれば特にその組成に限定はなく、炭素源としてはグルコースをはじめ各種炭水化物が用いられるが、特にグルコースが好適である。窒素源としては、酵母エキスやペプトンなどが使用されるが、酵母エキスやペプトンは無機栄養物や微量栄養源も含有することから、好適に使用される。培地のpHは通常2.5〜6.5の範囲である。培地としては、エタノールを含有する酢酸発酵用の培地も好適に使用することができる。培養方法は、静置培養、振とう培養、通気攪拌培養等の好気的な条件で培養することが必要で、培養温度は、通常は25〜35℃にて、1日〜21日間培養する。培養終了後、固液分離することで、本発明に用いる酢酸菌体を得ることができる。
また、食酢製造における酢酸発酵工程を終了後、固液分離等によって除去され、廃棄されている菌体も使用することができる。
【0022】
本発明において、酢酸菌体からアポトーシス誘導能を有する脂溶性有機溶剤抽出物を製造するには、例えば、酢酸菌体を破砕した後、脂溶性有機溶剤溶液で抽出することによって行うことができる。
【0023】
本発明の原料である酢酸菌体は、上記の固液分離した酢酸菌体をそのまま用いてもよいが、凍結乾燥機などを用いて乾燥させた、乾燥菌体を用いることが望ましい。
酢酸菌体の破砕は、超音波破砕処理、高圧ホモジナイザー処理、圧力式細胞破砕処理などにより行うことができる。
具体的な酢酸菌体の破砕方法としては、原料として用いる酢酸菌体の乾燥質量に対して、1〜100質量倍、好ましくは20質量倍程度(例えば、乾燥菌体1kgに対して水20L程度)の水で懸濁し、フレンチプレス圧力式細胞破砕機を用いて、500〜50,000psi、好ましくは10,000〜20,000psi程度の破砕圧力で、1〜3回破砕する方法が挙げられ、これによって、次工程の脂溶性有機溶剤抽出に用いることのできる、酢酸菌体破砕物を得ることができる。
【0024】
なお、上記工程は、酢酸菌体を破砕しない方法で行ってもよい。
例えば、上記の固液分離した酢酸菌体を凍結乾燥し、この凍結乾燥菌体に対して、エタノールを加え、ソックスレー抽出器を用いて加熱還流し、凍結乾燥機,減圧乾燥機,エバポレーターなど、好ましくはエバポレーターを用いて濃縮乾固させることによって、次工程の脂溶性有機溶剤抽出に用いることのできる酢酸菌体エタノール抽出濃縮乾固物を得ることができる。
【0025】
本発明で使用される脂溶性有機溶剤としては、具体的には、アセトン,酢酸エチル,プロパノール,イソプルパノール,ブタノールなどのアルコール類、酢酸メチル,酢酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、その他アセトンなどの有機溶剤又はそれらを組み合わせた溶剤、或いはそれらを含有する水溶液と定義される。
【0026】
本発明では、上記脂溶性有機溶剤のうちの1種を単独で、もしくは2種以上を混合して用いることができ、常法に従って抽出することで、目的とするアポトーシス誘導能を有する組成物を得ることができる。好ましくは、アセトンを単独、より好ましくは、アセトンで抽出した後、酢酸エチルを用い、以下に記載の方法で抽出を行うことが望ましい。
【0027】
上記工程で得られた酢酸菌体破砕物が、細胞破砕処理などによって、水又は溶液に懸濁されたものである場合、脂溶性有機溶剤の添加量は、酢酸菌体破砕物を含む溶液量の1質量倍以上、好ましくは4〜90質量倍程度であることが望ましい。
なお、この場合の脂溶性有機溶剤の添加量が、1倍量より少ない場合、夾雑物により分離ができなかったり、抽出効率が低下するため好ましくない。
【0028】
一方、上記工程で得られた酢酸菌体の破砕物が乾固物の場合、もしくは酢酸菌体エタノール粗抽出濃縮乾固物である場合、脂溶性有機溶剤の添加量は、原料として用いた酢酸菌体の乾燥質量に対して、1質量倍以上、好ましくは3〜32質量倍(例えば、アセトンを用いる場合、乾燥菌体1kgに対して、アセトン(比重0.79)3.8〜41L)であることが望ましい。
なお、この場合の脂溶性有機溶剤の添加量が、1質量倍より少ない場合、夾雑物により分離ができなかったり、抽出効率が低下するため好ましくない。
【0029】
本工程の脂溶性有機溶剤による抽出は、前記酢酸菌体の破砕物もしくは酢酸菌体エタノール粗抽出濃縮乾固物と脂溶性有機溶剤とをよく混合し、0.1〜10時間の攪拌、振盪又は静置することによって、行うことができる。なお、好ましくは、前記酢酸菌体の破砕物もしくは酢酸菌体エタノール粗抽出濃縮乾固物と脂溶性有機溶剤とをよく混合し、1時間程度の攪拌をすることによって行うことが望ましい。
振盪や攪拌などの操作は、ローテーター、シェーカー、ボルテックスなどで行ってもよい。
【0030】
得られた脂溶性有機溶剤抽出液は、ろ紙、布、ガーゼなどでろ過することで残渣を分離し、ろ液を抽出液として回収してもよいし、遠心分離により、上清を抽出液として回収してもよい。
脂溶性有機溶剤層と水層とを分離する場合は、分液漏斗などによって分液し、脂溶性有機溶剤層を回収してもよいし、或いは遠心分離により、脂溶性有機溶剤層を回収してもよい。
【0031】
また、前記ろ過により分離した残渣、又は前記遠心分離により分離した沈殿に対して、アセトンの再抽出を行なうこともできる。残渣又は沈殿に対する溶性有機溶剤の再抽出は、原料として用いた酢酸菌体の乾燥質量に対して、1質量倍以上、好ましくは3〜32質量倍の脂溶性有機溶剤(例えば、アセトンを用いる場合、乾燥菌体1kgに対して、アセトン(比重0.79)3.8〜41L)を用いて行うことができる。
なお、残渣又は沈殿に対する脂溶性有機溶剤の再抽出は、回収率の向上の観点から、1〜10回、好ましくは2回、繰り返して行うことが望ましい。
このようにして得られた脂溶性有機溶剤の再抽出液は、上記1回目の脂溶性有機溶剤抽出液と混合し、次の濃縮工程に用いることができる。
【0032】
本発明において、「濃縮する」とは、有機溶剤抽出液を行った後に、該抽出液に含まれる有機溶剤を完全に気化させる工程を意味しており、酢酸菌体の破砕物の懸濁液に含まれた水分が残存する状態も含有する。
即ち、本発明における「濃縮物」とは、有機溶剤及び水分が完全に気化した「濃縮乾固物」と「有機溶剤は気化したが水分は残存した濃縮液」を含むものであるが、好ましくは、「濃縮乾固物」になるまで有機溶剤及び水分を気化したものであることが望ましい。なお、濃縮乾固物は、通常、油脂状、粉末状であるが、砕粒状の形態のものも含まれる。
【0033】
従って、上記工程で得られた脂溶性有機溶剤抽出液に含まれる脂溶性有機溶剤を気化し、濃縮するには、該抽出液に含まれる脂溶性有機溶剤が完全に気化するまで行えばよいが、好ましくは、乾固するまで脂溶性有機溶剤及び水分を気化させた「濃縮乾固物」にすることが望ましい。
本発明における脂溶性有機溶剤抽出液の濃縮は、減圧乾燥機、エバポレーター、凍結乾燥機、恒温機などを用いることで行うことができるが、具体的には、遠心エバポレーター(型式CVE200D(EYELA社製))を用いて、減圧濃縮を行うことができる。
また、脂溶性有機溶剤抽出物の濃縮の後、得られた濃縮物に1〜10質量倍のエタノールを添加し、再度濃縮することで、脂溶性有機溶剤及び水分の気化をより完全に行うことで、濃縮乾固物を得ることができる。
【0034】
上記工程を経ることにより、本発明の酢酸菌体の酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を得ることができる。
なお、本発明において、脂溶性有機溶剤による抽出は、例えばアセトンを用いて1回目の抽出を行い濃縮乾固した後、前記したアセトン以外の脂溶性有機溶剤を用いて、2回目の抽出を行ってもよい。特に酢酸エチルが好適に使用される。
なお、2回目の脂溶性有機溶剤抽出として、酢酸エチルを用いて抽出を行う場合、添加する酢酸エチルの容液量に対して、0.5〜1質量倍の水を、同時に加えて抽出操作を行うことがさらに望ましい。抽出操作の後、水層を分液除去することで、水溶性成分を積極的に分離することが可能となり、より純度の高い脂溶性有機溶剤抽出物を得ることができる。
【0035】
上記工程を経て得られた、本発明の脂溶性有機溶剤抽出物は、そのまま、或いは濃縮してアポトーシス誘導組成物として用いることもできるが、さらに、該抽出物中に含有される、アポトーシス誘導能を有する成分を分離精製し採取し、純度及び活性のより高い、アポトーシス誘導組成物を得ることもできる。
【0036】
分離精製の方法としては、イオン交換樹脂や疎水性樹脂クロマトグラフィー、膜やゲルろ過による分子量分画など一般的な方法を用いることができるが、シリカゲルを充填したカラムに吸着させた後、脂溶性有機溶媒を用いて通液し、分画する方法により行うことが好ましい。
即ち、本発明において、純度及び活性のより高い、ガン細胞のアポトーシス誘導組成物を分離精製する方法としては、シリカゲルを充填したカラムに吸着させた後、脂溶性有機溶媒を用いて通液し、分画する方法により行うことができる。
具体的には、シリカゲルカラム(Wakogel C−300、径4cm×長さ55cm)を用いることができるが、カラムの径や長さは任意のものを用いることができる。
【0037】
シリカゲル充填カラムへの吸着物を溶出させる溶媒としては、クロロホルム、メタノール、酢酸エチル、アセトン、エタノール、ブタノール、1−プロパノール、ジエチルエーテルなど挙げることができるが、これらの中で、好適なものは、クロロホルムとメタノールであり、より好ましくはクロロホルムとメタノールの混合液である。
本発明において、シリカゲル充填カラムに吸着した酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物から、アポトーシス誘導能を持つ有効成分の含有画分を分画するためには、クロロホルムとメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=99:1〜81:19の混合液、好ましくは、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10の混合液を通液し、溶出液を回収することによって、当該画分を回収できることができる。
【0038】
また、シリカゲル充填カラムに吸着した後、前記容量比のクロロホルムとメタノールの混合液を通液する前に、クロロホルム、クロロホルム:メタノール=100:1の溶液を順に通液することが、低極性の不純物を除去することができるため、純度を上げる観点から望ましい。
【0039】
本発明の酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物のカラム精製画分は、カラム精製前の酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物よりも、純度及び活性のより高い、アポトーシス誘導能を有する組成物として、用いることができる。
【0040】
なお、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物のカラム精製画分は、クロロホルム及びメタノールが完全に気化するまで濃縮した濃縮物、好ましくは濃縮乾固物として、用いることがさらに望ましい。
カラム精製画分の濃縮は、減圧乾燥機、エバポレーター、凍結乾燥機、恒温機などを用いることで行うことができる。具体的には、ロータリーエバポレーター(型式 ニュー・ロータリー・バキューム・エバポレーター NE(EYELA社製))を用いて、減圧濃縮を行うことができる。
また、カラム精製画分の濃縮の後、もしくは濃縮の途中において、得られた濃縮物にエタノールを添加し、再度濃縮することで、有機溶剤及び水分の気化をより完全にすることができる。
【0041】
本発明においては、上記の酢酸菌体中から脂溶性有機溶剤を用いて抽出した有効成分を含む抽出物を用いて、アポトーシス誘導能を有する組成物が構成され、該抽出物を有効成分として含有するものであれば、摂取した場合に十分な誘導効果を示し、発熱作用などの副作用がない場合には、菌体や破砕処理した菌体などを含んでいてもよい。
【0042】
本発明の酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物が奏する、アポトーシス誘導効果やガン細胞増殖抑制効果については、常法で確認することができ、例えば、アポトーシスの誘導効果については、ガン細胞の培養系において、本発明の酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物を添加し、アポトーシスに特徴的に見られる核DNAの断片化を観察すればよい。
また、ガン細胞増殖抑制効果は、ガン細胞の培養系において、本発明の酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物を添加し、トリパンブルー色素排除能を示す細胞数を血球計算盤を用いて測定することにより全細胞数に対する生細胞数の割合を算出することによって確認できる。
【0043】
本発明のアポトーシス誘導組成物は、酢酸菌の菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有するが、それ以外の各種原料と混合・均一化した後に、必要に応じて界面活性剤を混合して、安定化を図ることもできる。
これらの界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンなどを用いることができる。
さらに、例えば、ビタミンE,コエンザイムQ10などの抗酸化物質、海草抽出物、サメなどの魚類、大豆などの植物、牛乳などの乳製品、メシマコブ,アガリクス,ヤマブシタケなどのキノコ類を原料とした破砕物や抽出物を併用して、本発明のアポトーシス誘導組成物とすることもできる。
【0044】
本発明のアポトーシス誘導組成物の形態としては、粉末状、砕粒状、顆粒状などとすることができ、さらにこのような形態のアポトーシス誘導組成物をそのままカプセルに充填する形態の他、水やエタノールに分散した溶液の形態、又は脂溶性有機溶剤抽出物を賦型剤等と混和して得られる錠剤の形態などとして用いることができる。
【0045】
さらに、健康補助食品、飲食品、医薬品など、その形態は特に限定されるものではない。飲食品の形態としては、具体的にはトマト,にんじん,セロリ,たまねぎ,紫蘇,キャベツ等を原料とした野菜ジュース、キノコ類を原料としたジュース、リンゴ,ブドウ,パイナップル,グレープフルーツ,レモン,オレンジ,桃等を原料とした果物ジュース、又は野菜ジュースと果物ジュースとの混合品、アルコール飲料、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳製品及び乳酸菌、スポーツ飲料、コーヒー、紅茶,緑茶,ウーロン茶などの茶製品、又は黒酢、穀物酢、米酢、玄米酢、アルコール酢、リンゴ酢やぶどう酢など果実を原料に含む果実酢、野菜を原料に含む野菜酢などの食酢製品、キャンデイ,ガム,ゼリー,アイスクリーム,クッキー,チョコレート,スナック等の菓子類、食パン,米飯,麺等の主食品等に混合することが挙げられる。
【0046】
上記の如き形態でアポトーシス誘導能を有する組成物を添加することで、その他の天然物由来の健康機能成分が含有され、相加或いは相乗効果が期待できる。
即ち、上記の如き形態でアポトーシス誘導能を有する組成物を添加することによって、その他の天然物由来の健康機能成分が含有され、相加或いは相乗効果の期待できる、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物を含有する、錠剤や飲食品を製造することができる。
【0047】
上記製剤や飲食品の例として、具体的には、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物を含有する錠剤を製造する場合、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物を0.001〜95%(w/w)、好ましくは0.7%(w/w)程度含有する形態で製造し、提供することができる。
また、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物を含有する飲料を製造する場合、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物を0.001〜30(w/v)%、好ましくは0.04%(w/v)程度(例えば、500mlの飲料中に0.2g程度の本発明のガン細胞のアポトーシス誘導能を有する組成物を含む)を含有する形態で製造し、提供することができる。
【0048】
なお、本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物としての酢酸菌体中の脂溶性有機溶剤抽出物の投与量は、成人1日当たり0.001mg〜100g、好ましくは0.1mg〜10gである。
【0049】
本発明のアポトーシス誘導能を有する組成物は、ガン細胞増殖抑制作用を有しており、ガンの進行の抑制ないしはガンの発生の予防に有効であることが期待される。対象となるガンとしては、胃、大腸、乳房、肺、咽頭、舌、皮膚、脳、肝臓、すい臓、食道、骨髄、前立腺、子宮、滑膜などが例示されるが、特に大腸ガンに有効であることが期待される。
また、アポトーシスが関与するアルツハイマー病等の神経疾患にも有効であることが期待される。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例等によって詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものである。
【0051】
製造例1(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物の調製)
酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物の調製は、以下のようにして行った。
酢酸菌として、グルコンアセトバクター・ザイリナスNBRC15237(Gluconacetobacter xylinus NBRC15237)株を用いた。この株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存されており、譲受可能な酢酸菌である。
【0052】
酢酸菌の乾燥菌体1.8Kgを水35Lに懸濁し、フレンチプレス圧力式細胞破砕機(Niro Soavi社製)を用い、10,000psiの破砕圧力で破砕後、菌体波砕物懸濁溶液の4倍量のアセトンと混合する。その後、混合によってできた夾雑物を除去するため濾過を行い、ろ液を回収した。その後、再度、残渣にアセトン7Lを混合して、濾過を行い夾雑物を除去し、ろ液を回収した。この再抽出を合計2回繰り返した。
得られた濾過液をロータリーエバポレーター(型式TN N−N(EYELA社製))を用いて減圧濃縮し乾固させ、この濃縮乾固物を酢酸エチル35Lおよび水17.5Lを加えて混合した後、分液を行い、有機層を得た。再度水層に酢酸エチルを加えて、同様に分液し有機層を回収した。
得られた有機層を上記ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し乾固させ、エタノールに溶解した後、再度、上記ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し乾固させ、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物108gを得た。これを本発明実施品1とした。
【0053】
製造例2(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物のシリカゲルカラムクロマトグラフィー分画物の調製)
シリカゲルカラム(Wakogel C−300、径4cm×長さ55cm)に、製造例1で得られた酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)2gを負荷した後、クロロホルムを通液し、得られた溶出液の画分を濃縮乾固したものを比較製造品1とした。
次いで、クロロホルムとメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=100:1の溶液を通液し、得られた溶出液の画分を濃縮乾固したものを比較製造品2とした。
次いで、クロロホルムとメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10の溶液を通液し、得られた溶出液の画分を濃縮乾固したものを「本発明実施品2」とした。ここでクロロホルム:メタノール=95:5〜90:10の溶液を通液し、得られた溶出液の画分とは、クロロホルム:メタノール=95:5の溶液を通液して得られた溶出液の画分と、次にクロロホルム:メタノール=90:10の溶液を通液して得られた溶出液の画分とを合わせたものを指す。
次いで、クロロホルムとメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=80:20の溶液を通液し、得られた溶出液の画分を濃縮乾固したものを比較製造品3とした。
次いで、クロロホルムとメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=70:30〜0:100の溶液を通液し、得られた溶出液の画分を濃縮乾固したものを比較製造品4とした。ここでクロロホルム:メタノール=70:30〜0:100の溶液を通液し、得られた溶出液の画分とは、クロロホルム:メタノール=70:30の溶液を通液して得られた溶出液の画分と、次にクロロホルム:メタノール=0:100の溶液を通液して得られた溶出液の画分とを合わせたものを指す。
【0054】
製造例3(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物(アセトン抽出物)の調製)
酢酸発酵液10キロリッターを、高速遠心機器を用いて、回転数8000rpmで20分間、遠心分離を行って集菌し、湿菌体10Kgを得た。得られた湿菌体10Kgを等量の蒸留水に分散させた。この酢酸菌分散液20kgを高圧ホモジナイザー(処理条件20000psi)に3回通過させて、細胞破壊処理を施した後に、大型凍結乾燥機で凍結減圧乾固し、乾燥菌体粉末1.5Kgを得た。
得られた乾燥菌体粉末5gを、アセトン200mlに懸濁し、1時間攪拌した後、懸濁液を3500rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
回収した上清を減圧乾固した後、エタノール100mlに溶解し、再度蒸発乾固を行い、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(アセトン抽出物)0.24gを得た。これを本発明実施品3とした。
【0055】
実施例1(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物のガン細胞のアポトーシス誘導能)
ヒト結腸ガン細胞HT−29細胞を直径6cmのディッシュ(コーニング社製)を用いて、37℃、5%二酸化炭素に設定したインキュベーター中で培養した。培地は、DMEM培地(GIBCO−BRL社製、L-グルタミン4mM、グルコース25mM含有)1L中に、ペニシリンGカリウム(明治製菓)100,000U、ストレプトマイシン硫酸塩(和光純薬工業)100mg、ゲンタマイシン硫酸塩(和光純薬工業)50mgを加えた後、8%炭酸水素ナトリウムでpH7.0に調整し、これに細胞培養用ウシ胎児血清(FCS)を10%となるように混合したものを用いた。
培地交換は、細胞の状態に応じて2日に1回行った。
培養して、60〜70%コンフルエントになった状態で、製造例1で得た酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)を100μg/mlの濃度となるようにジメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、溶解した液を添加し、添加3日後にリン酸緩衝整生理食塩水10mlにトリプシン0.025gを溶解して調製したトリプシン溶液を数滴加えて、37℃で数分間インキュベートし、細胞をディッシュから遊離させたのち、血清入り培地を加えて、トリプシンの反応を止めた。次に、遠心して培地を取り除いて細胞を回収した。
【0056】
なお、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物の代わりに、該抽出物と等量のDMSOを前記培地に添加し、HT−29を培養したものをネガティブコントロール(陰性対照)とした。
また、前記培地の代わりに、200mM 酪酸ナトリウム溶液200μLを40mlの5%FCSを溶解したDMEM培地に添加した培地を用いて、HT−29を培養したものをポジティブコントロール(陽性対照)とした。
【0057】
次いで、回収した細胞をリン酸緩衝整生理食塩水によって洗浄後、100μLのcell lysis buffer(10mM Tris−HClpH7.5、10mM EDTA、0.5%Triton X−100)を添加後、4℃で10分間静置後、15,000rpmで20分遠心し、上清を0.5mlチューブに移して、4μlのRNAase(10mg/mL、Wako製)を加えた。37℃で1時間置いた後、2μlのプロテナーゼK(20mg/mlをcell lysis bufferに溶解)を加え、さらに1時間静置した。20μLの5M NaClと120μLのイソプロパノールを加え、一晩フリーザーに置いた。
その後、15000rpmで30分遠心し上清を取り除きTEバッファーを10μL加えて、ピペッティング後、2μLのローディングバッファー(ブロムフェノールブルー(BPB)を含む)を加えて、2%のアガロースゲル電気泳動に供した。BPBが5mm移動するまでの間、電気泳動にかけ、Tris―酢酸―EDTA溶液(TAEバッファー)を加え、BPBがゲルの端に到達したところで電気泳動を止め、SYBR Gold(Molecular Probes社製、50μL/50mL)で40分間染色して、ゲルの写真撮影を行った。結果を図1に示す。
【0058】
図1が示すように、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)を添加した場合、ヒト結腸ガン細胞HT−29細胞のゲノムDNAに、アポトーシスに特徴的なDNA断片化が起こっていることが検出された。
なお、ネガティブコントロール(陰性対照)では、DNAの断片化が見られないのに対し、ポジティブコントロール(陽性対照)ではアポトーシスに伴っておこるDNAの断片化を示す特徴的なDNAのラダーが検出された。
この結果から、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)には、ヒト結腸ガン細胞HT−29のアポトーシスを誘導する作用があることが明らかになった。
【0059】
実施例2(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物のガン細胞増殖抑制効果)
実施例1と同様に、ヒト結腸ガン細胞HT−29を培養し、60〜70%コンフルエントになった状態で、製造例1で得た酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)を100μg/mlの濃度となるように溶解して添加し、培養1日後、2日後、3日後にPBS10mlにトリプシン0.025gを溶解したトリプシン溶液を数滴加えて、37℃で数分間インキュベートし、細胞をディッシュから遊離させ、血清入り培地を加え、トリプシンの反応を止めた。
遠心して培地を取り除いてから、一定量のPBSに懸濁させた状態でトリパンブルーを用いて、細胞を染色し細胞数を観測し、細胞生存率を調べた。細胞数の観測は血球計算板を用いて行った。なお、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物の代わりに、抽出物と等量のDMSOを添加したものをネガティブコントロール(陰性対照)として用いた。結果を図2に示す。
【0060】
図2が示すように、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)を添加した場合、添加しない場合(陰性対照)に比べ、ヒト結腸ガン細胞HT−29の生存率が顕著に低くなることが明らかになった。
この結果から、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品1)には、ガン細胞増殖抑制作用があることが確認された。
【0061】
実施例3(酢酸菌体脂溶性有機溶剤抽出物のシリカゲルカラムクロマトグラフィー分画物のガン細胞増殖抑制効果)
製造例2で得られた各溶出液画分(本発明実施品2及び比較製造品1〜4)について、ヒト結腸ガン細胞HT−29の増殖に対する影響を調べた。
実施例1と同様に、ヒト結腸ガン細胞HT−29を培養し、60〜70%コンフルエントになった状態で、製造例2で得た酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物の各溶出液画分(本発明実施品2及び比較製造品1〜4)を、100μg/mlの濃度となるように各々溶解して添加し、培養3日後にPBS10mlにトリプシン0.025gを溶解したトリプシン溶液を数滴加えて、37℃で数分間インキュベートし、細胞をディッシュから遊離させ、血清入り培地を加え、トリプシンの反応を止めた。
遠心して培地を取り除いてから、一定量のPBSに懸濁させた状態でトリパンブルーを用いて、細胞を染色し細胞数を観測し、細胞生存率を調べた。細胞数の観測は血球計算板を用いて行った。なお、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物の代わりに、抽出物と等量のDMSOを添加したものをネガティブコントロール(陰性対照)として用いた。結果を図3に示す。
【0062】
図3の結果から、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物をシリカゲルカラムに負荷し、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10の溶液を通液し得られた抽出物(本発明実施品2)を添加した場合、クロロホルム、クロロホルム:メタノール=100:1、クロロホルム:メタノール=80:20、クロロホルム:メタノール=70:30〜0:100の溶液を通液し得られた抽出物(比較製造品1〜4)やDMSOのみを添加した場合(陰性対照)と比べ、ヒト結腸ガン細胞HT−29の生存率が顕著に低くなることが明らかになった。
この結果から、酢酸菌の脂溶性有機溶剤抽出物をシリカゲルカラムに負荷し、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10の溶液を通液し得られた画分(本発明実施品2)には、ガン細胞増殖抑制作用があることが分かった。
【0063】
実施例4(錠剤の調製)
酢酸発酵液10キロリッターを高速遠心機器(8000rpm、20分)で集菌し、湿菌体10Kgを得た。得られた湿菌体10Kgを蒸留水にて洗浄後に大型凍結乾燥機で凍結減圧乾固し、乾燥菌体1.8Kgを得た。
得られた乾燥菌体1Kgをエタノール10リッターと共にソックスレー抽出器に仕込み、20時間加熱還流した。得られた抽出液を減圧乾固し、5リットルのアセトンに溶解した。沈殿物をろ過で除去し、ろ液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固した後、5Lの酢酸エチルと5Lの蒸留水を添加し、分液して有機層をロータリーエバポレーターで蒸発乾固した後、淡黄褐色の酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物、約200gを得た。
得られた酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物1g(0.7重量%)、結晶セルロース35g(26.9重量%)、乾燥コーンスターチ67g(51.5重量%)、乳糖22g(16.9重量%)、ステアリン酸カルシウム2g(1.5重量%)、及び結合剤としてポリビニルピロリドン3g(2.3重量%)を加え、混合粉末化した後に、ゼラチン硬カプセルに充填した。調製された錠剤は、アポトーシス誘導組成物として、有効であることが期待できる。
【0064】
実施例5(食酢飲料の製造)
製造例3で得られた酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物(本発明実施品3)0.2gを、りんご酢75ml、りんご果汁100ml、はちみつ22.5g、果糖41.6g、グラニュー糖10.4g、レモン果汁5mからなる溶液に加え、水を加えて全容量を500mlとした。
この溶液を超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、型式450)にて超音波処理し、該抽出物を十分に分散させた。
その後、全量500mlを500ml容の瓶に分注し、75℃まで加熱して殺菌し、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を含有する食酢飲料を得た。調製された食酢は、アポトーシス誘導組成物を有する食品として有効であることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、食品製造に古来より使用されており、安全性が高いことが認知されている酢酸菌の菌体から、安全性が高く、且つ、ガン細胞増殖抑制効果の強い、アポトーシス誘導組成物を提供することを可能にする。
さらに、本発明は、前記のアポトーシス誘導組成物を、摂取のしやすい飲食品に含有させて、提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1における、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物のガン細胞のアポトーシス誘導能を示す電気泳動図である。100bpラダーは、分子量マーカーを示す。
【図2】実施例2における、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物のガン細胞生存率への影響を示す図である。横軸は、脂溶性有機溶剤抽出物で処理した後の経過日数(日目)を示し、縦軸はガン細胞の生存率(%)を示す。
【図3】実施例3における、酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を分画した各画分のガン細胞生存率を示す図である。縦軸はガン細胞の生存率(%)を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌体の脂溶性有機溶剤抽出物を有効成分として含有する、アポトーシス誘導能を有する組成物。
【請求項2】
脂溶性有機溶剤抽出物が、酢酸菌体のアセトン抽出物である、請求項1に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
【請求項3】
脂溶性有機溶剤抽出物が、前記酢酸菌体のアセトン抽出物を、さらに酢酸エチルで抽出した抽出物である、請求項2に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
【請求項4】
脂溶性有機溶剤抽出物が、前記アセトン抽出物又は前記酢酸エチル抽出物を、さらにシリカゲルに吸着し、クロロホルム及びメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=99:1〜81:19である溶液を用いて溶出させて得られる画分である、請求項2又は3に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
【請求項5】
脂溶性有機溶剤抽出物が、クロロホルム及びメタノールの容量比が、クロロホルム:メタノール=95:5〜90:10である溶液を用いて溶出させて得られる画分である、請求項4に記載のアポトーシス誘導能を有する組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアポトーシス誘導能を有する組成物を含有する、アポトーシス誘導能を有する飲食品。
【請求項7】
飲食品が食酢である、請求項6に記載のアポトーシス誘導能を有する飲食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のアポトーシス誘導組成物を添加することを特徴とする、アポトーシス誘導能を有する飲食品の製造方法。
【請求項9】
ガンの進行の抑制能及び/又はガンの発生の予防能を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のガン細胞のアポトーシス誘導能を有する組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−214215(P2008−214215A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51166(P2007−51166)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】