説明

アミノ基含有アダマンタン誘導体とその製造方法、絶縁膜形成材料、ポリマー及び絶縁膜

【課題】 半導体の製造に有用な高い耐熱性及び極めて低い比誘電率を有するポリマー及び絶縁膜と、これらを形成しうるアミノ基含有アダマンタン誘導体及びその製造方法並びに絶縁膜形成材料を提供する。
【解決手段】 本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体は、下記式(1)
【化1】


[式中、X1等は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、R1等は、アダマンタン環又は環X1等に結合している置換基であって、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、アシル基、若しくは下記式
【化2】


(式中、環Yは、同一又は異なって、単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、R5等は、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示す)
で表される基を示す]
で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造等に用いる絶縁膜、特に耐熱性や機械的強度に優れ低い比誘電率を示す絶縁膜とその製造法、該絶縁膜を得るために有用なアミノ基含有アダマンタン誘導体とその製造方法、該アミノ基含有アダマンタン誘導体を含む絶縁膜形成材料、及び空孔構造を有するポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路パターンの微細化が進む半導体プロセスにおいて、層間絶縁膜の低誘電率化が求められている。層間絶縁膜の低誘電率化には空孔構造の構築が効果的であるとされており、酸化ケイ素系の層間絶縁膜では、発泡剤等を用いた空孔構造の導入が提案されている。しかし、この方法では、空孔の形成は可能なものの、空孔の結合(空孔の連続化)が避けがたいため、機械的強度、熱的安定性に難点があり、半導体の製造における配線プロセスにおいて、膜破壊が生じるなどの重大な問題を抱えていた。
【0003】
本発明者らは、多官能性の架橋性モノマーの重合により、分子レベルの空孔が形成された絶縁膜によれば、低誘電率化と高い機械的強度を両立しうることを見出した(例えば、特開2004−307804号公報参照)。しかし、半導体の高集積化が進行する現状においては、より一層の低比誘電率化が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開2004−307804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、半導体の製造に有用な高い耐熱性及び極めて低い比誘電率を有するポリマー及び絶縁膜と、これらを形成しうるアミノ基含有アダマンタン誘導体及びその製造方法並びに絶縁膜形成材料を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、高い空孔率を有するポリマー及び絶縁膜と、これらを形成しうるアミノ基含有アダマンタン誘導体とその製造方法、及び絶縁膜形成材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、空孔構造を有するポリマー架橋体の製造を2段階で行う、すなわち、所望の空孔サイズを構成しうる巨大分子を予め形成し、次いでこの巨大分子と特定のモノマーとの重合反応を進行させることにより、比誘電率が極めて低く且つ所望の厚みを有する絶縁膜が効率よく得られることを見出した。より具体的には、アダマンタン骨格の3又は4の各橋頭位において官能基同士の反応によりポリマーを形成させる重合反応において、各橋頭位における重合反応を一段階で留めた巨大分子を予め調整し、これとモノマー成分とを適宜な溶媒に溶解させて基材上に塗布した後に、例えば熱処理等を施すと、鎖延長、環化、架橋等の反応が円滑に進行して確実に空孔が形成され、耐熱性や機械的強度が高く比誘電率の極めて低い、空孔構造を有する高分子量重合体からなる絶縁膜が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

[式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、R1、R2、R3、R4は、アダマンタン環又は環X1、X2、X3、X4に結合している置換基であって、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、アシル基、若しくは下記式(2A)、(2B)又は(2C)
【化2】

(式(2A)、(2B)、(2C)中、環Yは、同一又は異なって、単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、R5、R6、R7は、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示し、R′はハロホルミル基以外のアシル基からカルボニル基を除した基を示す)
で表される基を示す。但し、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも3つは、同一又は異なって、式(2A)、(2B)又は(2C)で表される基を示す]
で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体を提供する。
【0009】
本発明は、また、下記式(3)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す)
で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体と、下記式(4)
【化4】

(式中、環Yは単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、Re、Rf、Rg、Rhは環Yに結合している置換基であって、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示す)
で表されるテトラアミン誘導体との反応により請求項1記載のアミノ基含有アダマンタン誘導体を得るアミノ基含有アダマンタン誘導体の製造方法を提供する。前記製造方法において、カルボニル基含有アダマンタン誘導体を、化学量論量を超える過剰のテトラアミン誘導体を溶解した溶液に逐次添加してもよい。
【0010】
また、本発明は、上記本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体と、下記式(3)
【化5】

(式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す)
で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体とを溶媒に溶解して得られる重合性組成物からなる絶縁膜形成材料を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体と、前記式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体との重合反応により得られる空孔構造を有するポリマーを提供する。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の空孔構造を有するポリマーからなる絶縁膜を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体によれば、嵩高い立体構造を有しているため、重合反応時の立体障害により高密度化を防ぎ、容積の大きい空孔が均一に形成された高品質なポリマーを生成することができる。このため、極めて低い比誘電率を達成でき、しかも耐熱性及び機械的強度の高い絶縁膜を得ることができる。また、アミノ基含有アダマンタン誘導体は溶媒に対する溶解性に優れるので、層間絶縁膜用途として必要な膜厚を有する絶縁膜を容易に形成することができる。
【0014】
本発明のポリマー及び絶縁膜は高い空孔率を有するため、極めて低い比誘電率を示す。また、高い耐熱性と機械的強度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体は、前記式(1)で表される化合物であり、空孔構造を有するポリマーのモノマー成分となるものである。
【0016】
式(1)中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示す。R1、R2、R3、R4は、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、アシル基、若しくは前記式(2A)、(2B)又は(2C)で表される基を示す。但し、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも3つは、同一又は異なって、(2A)、(2B)又は(2C)で表される基を示す。式(1)中のアダマンタン骨格は、反応や高分子架橋体の物性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0017】
1、X2、X3、X4における2価の芳香族性環式基に対応する芳香族性環には、単環または多環の芳香族炭素環及び芳香族複素環が含まれる。なお、本明細書において「多環」とは、隣接する2つの環が2個以上の原子を共有した縮合環構造を有するもののほか、2つ以上の環が単結合、2価の炭化水素基(メチレン基、ビニレン基等)、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子等の1又は2以上の連結基を介して結合した構造を有するものも含む意味に用いる。
【0018】
単環の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環が挙げられる。多環の芳香族炭化水素環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環などの2つ以上の芳香環がそれぞれ2個以上の原子を共有した縮合環構造をもつもの;ビフェニル環、ビフェニレン環、フルオレン環、スチルベン環などの2つ以上の芳香環が単結合等の連結基を介して結合した構造のものなどが挙げられる。芳香族複素環としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を1又は2以上含む単環または多環の芳香族複素環が挙げられる。芳香族複素環の具体例としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピコリン環などの単環;キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、フェナジン環などの多環などが挙げられる。これらの環は、反応や高分子架橋体の物性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0019】
1、X2、X3、X4における2価の非芳香族性環式基に対応する非芳香族性環には、単環又は多環の脂環式炭素環及び非芳香族性複素環が含まれる。脂環式炭素環としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜12員)程度のシクロアルカン環;シクロプロペン環、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜10員)程度のシクロアルケン環などの単環の脂環式炭素環;アダマンタン環、パーヒドロインデン環、デカリン環、パーヒドロフルオレン環、パーヒドロアントラセン環、パーヒドロフェナントレン環、トリシクロデカン環、トリシクロウンデカン環、テトラシクロドデカン環、パーヒドロアセナフテン環、パーヒドロフェナレン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環など2〜6環程度の橋かけ環式炭素環などが挙げられる。非芳香族性複素環としては、例えば、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する5又は6員の複素環、これらを含む縮合環などが挙げられる。前記非芳香族性環式基は、反応や高分子架橋体の物性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0020】
なかでも、X1、X2、X3、X4としては、重合により形成される空孔の容積が大きく、低密度な構造が得られやすい点で、2価の芳香族性又は非芳香族性環式基が好ましく、耐熱性及び機械的強度の点で特に2価の芳香族性環が好ましく用いられる。また、生産効率及び取扱性の点で、2価の芳香族性環式基に対応する芳香族性環として、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環等が用いられる場合が多い。
【0021】
1、R2、R3、R4における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基などが含まれる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル、3−メチル−4−ペンテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜5)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜5)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基などが挙げられる。
【0022】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜12員)程度のシクロアルキル基、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜10員)程度のシクロアルケニル基などの単環の脂環式炭化水素基;アダマンタン環、パーヒドロインデン環、デカリン環、パーヒドロフルオレン環、パーヒドロアントラセン環、パーヒドロフェナントレン環、トリシクロデカン環、トリシクロウンデカン環、テトラシクロドデカン環、パーヒドロアセナフテン環、パーヒドロフェナレン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環など2〜4環程度の橋かけ環式炭素環などを有する橋かけ環炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜20(好ましくは6〜14)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0023】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)が含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが含まれる。
【0024】
前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基は、置換基を有していてもよい。置換基としては反応や高分子架橋体の物性を損なわないものであれば特に限定されない。
【0025】
1、R2、R3、R4における保護基で保護されていてもよいカルボキシル基の「保護基」としては、例えば、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシなどのC1-10アルコキシ基;メトキシメチルオキシ、メトキシエトキシメチルオキシ基などの(C1-4アルコキシ)1−2C1-4アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基(シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシなどのC3-20シクロアルキルオキシ基など)、テトラヒドロフラニルオキシ基、テトラヒドロピラニルオキシ基、アリールオキシ基(フェノキシ、メチルフェノキシ基などのC6-20アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ、ジフェニルメチルオキシ基などのC7-18アラルキルオキシ基)、トリアルキルシリルオキシ基(トリメチルシリルオキシ、トリエチルシリルオキシ基などのトリC1-4アルキルシリルオキシ基)、置換基を有してもよいアミノ基(アミノ基;メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノまたはジ置換C1-6アルキルアミノ基;ピロリジノ、ピペリジノ基などの環状アミノ基)、置換基を有してもよいヒドラジノ基[ヒドラジノ基、N−フェニルヒドラジノ基、アルコキシカルボニルヒドラジノ基(t−ブトキシカルボニルヒドラジノ基などのC1-10アルコキシカルボニルヒドラジノ基など)、アラルキルオキシカルボニルヒドラジノ基(ベンジルオキシカルボニルヒドラジノ基などのC7-18アラルキルオキシカルボニルヒドラジノ基)など]、アシルオキシ基(アセトキシ、プロピオニルオキシ基などのC1-10アシルオキシ基など)、アシル基(アセチル、プロピオニル基などのC1-10アシル基など)などが挙げられる。カルボキシル基の保護基は、これらに限定されず、有機合成の分野で用いられる他の保護基も使用できる。
【0026】
保護基で保護されたカルボキシル基の好ましい例には、C1-6アルコキシ−カルボニル基、(C1-4アルコキシ)1−2−C1-4アルコキシ−カルボニル基、N−置換カルバモイル基、テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基、テトラヒドロフラニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、トリアルキルシリルオキシカルボニル基、トリアルコキシメチル基が含まれる。
【0027】
1、R2、R3、R4におけるアシル基としては、脂肪族アシル基(ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル基などのC1-10の脂肪族アシル基)、脂環式アシル基(シクロヘキシルカルボニル基などのC4-20脂環式アシル基)、芳香族アシル基(ベンゾイル、ナフトイル基などのC7-20芳香族アシル基)、ハロホルミル基(ハロゲン化カルボニル基)[クロロホルミル基(塩化カルボニル基)、ブロモホルミル基(臭化カルボニル基)、フルオロホルミル基(フッ化カルボニル基)、ヨードホルミル基(ヨウ化カルボニル基)]、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニルなどのC1-4アルコキシ−カルボニル基など);アラルキルオキシ−カルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基などのC7-20アラルキルオキシカルボニル基)などが挙げられる。なかでも、ホルミル基等が好ましく用いられる。
【0028】
式(2A)、(2B)、(2C)中、環Yは、単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、R5、R6、R7は、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示す。式(1)中、式(2A)、(2B)、(2C)で表される基は単独又は組み合わせて存在していてもよく、複数の式(2A)、(2B)、(2C)で表される基が有する環Y及びR5等は同一でもよく、異なっていてもよい。
【0029】
環Yにおける単環又は多環の芳香族性環には芳香族炭素環及び芳香族複素環が含まれる。単環の芳香族炭素環としては、ベンゼン環が挙げられる。多環の芳香族炭素環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環などの2つ以上の芳香環がそれぞれ2個以上の原子を共有した縮合環構造をもつもの;ビフェニル環、ビフェニレン環、フルオレン環、スチルベン環などの2つ以上の芳香環が1又は2以上の連結基[例えば、単結合、2価の炭化水素基(メチレン基、ビニレン基等)、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子等]を介して結合した構造を有するものなどが挙げられる。芳香族複素環としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を1又は2以上含む単環または多環の芳香族複素環が挙げられる。芳香族複素環の具体例としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピコリン環などの単環;キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、フェナジン環などの多環などが挙げられる。
【0030】
環Yにおける単環又は多環の非芳香族性環には脂環式炭化水素環及び非芳香族性複素環が含まれる。該非芳香族性環としては、前記Yにおける非芳香族性環式基に対応する非芳香族性環などが挙げられる。環Yにおける単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環は、反応や高分子架橋体の物性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0031】
5、R6、R7における保護基で保護されていてもよいアミノ基の「保護基」としては、例えば、脂肪族アシル基(ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基など)、芳香族アシル基(ベンゾイル、ナフトイル基などの炭素数6〜20程度の芳香族アシル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニルなどのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシ−カルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基などのC7-20アラルキルオキシカルボニル基)、アルキリデン基(メチリデン、エチリデン、プロピリデン、イソプロピリデン、ブチリデン、イソブチリデン、ペンチリデン、シクロペンチリデン、ヘキリデン、シクロヘキシリデン基などの脂肪族アルキリデン基;ベンジリデン、メチルフェニルメチリデンなどの芳香族アルキリデン基など)などが挙げられる。
【0032】
上記以外のアミノ基の保護基としては、複数のアミノ基を同時に保護しうる保護基(多官能保護基)を使用することもできる。このような保護基には、例えば、カルボニル基、オキサリル基、ブタン−2,3−ジイリデン基などが含まれる。このような保護基を使用した場合には、R5、R6、R7のうちの2つの基が同時に一つの多官能保護基に保護され、環Yに隣接する環が形成される。また、R5、R6、R7における保護基で保護されていてもよいアミノ基には、反応や最終的な高分子架橋体の物性を損なわない範囲で、モノ置換アミノ基も含まれる。モノ置換アミノ基の例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基などのアルキルアミノ基;シクロヘキシルアミノ基などのシクロアルキルアミノ基;フェニルアミノ基などのアリールアミノ基;ベンジルアミノ基などのアラルキルアミノ基などが挙げられる。アミノ基の保護基としては、これらに限定されず、有機合成の分野で慣用のものを使用できる。
【0033】
また、保護基で保護されていてもよいアミノ基には、反応や最終的な高分子架橋体の物性を損なわない範囲で、モノ置換アミノ基も含まれる。モノ置換アミノ基の例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基などのアルキルアミノ基;シクロヘキシルアミノ基などのシクロアルキルアミノ基;フェニルアミノ基などのアリールアミノ基;ベンジルアミノ基などのアラルキルアミノ基などが挙げられる。
【0034】
式(2A)におけるR′は、ハロホルミル基以外のアシル基からカルボニル基を除した基を示す。具体的には、例えば、ハロホルミル基以外のアシル基がホルミル基である場合には水素原子であり、ハロホルミル基以外のアシル基がアセチル基の場合にはメチル基であることを意味している。
【0035】
式(2A)、(2B)、(2C)中、環Yに結合するN、R5、R6、R7のうち一対の基(例えばNとR5、R6とR7)は、環化の容易さの点から、環Yの構成原子の1,2位(α位)又は1,3位(β位)の位置に結合しているのが好ましい。このような一対の基のうち、例えばR5とNは、隣接する基とともに環を形成可能である。すなわち、式(2A)で表される基は分子内のイミンと環Yに結合するR5との環化反応により、式(2B)で表される基は分子内のアミドと環Yに結合するR5との環化反応により、それぞれイミダゾール等の環が形成され、対応する式(2C)で表される基を生成しうる。また、上記の一対の基のうち、例えばR6とR7は、1個のカルボニル基を有する化合物(例えば、式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体等)と環を形成可能である。
【0036】
式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体の代表的な化合物として、R1、R2、R3、R4が全て式(2A)、(2B)又は(2C)で表される基である化合物を以下に例示する。
【0037】
【化6】

【0038】
前記式(1A)、(1B)、(1C)中、環Ya、Yb、Yc、Ydは、同一又は異なって、式(1)における環Yと同様であり、環Yaに結合するR5a、R6a、R7a、環Ybに結合するR5b、R6b、R7b、環Ycに結合するR5c、R6c、R7c、環Ydに結合するR5d、R6d、R7dは、同一又は異なって、式(2A)等におけるR5等と同様である。本願明細書中では、上記式(1A)等に代表される分子内に3以上のイミンを含有する化合物を「イミン型アダマンタン誘導体」、式(1B)に代表される分子内に3以上のアミド結合を含有する化合物を「アミド型アダマンタン誘導体」、式(1C)に代表される分子内に3以上のイミダゾール等の環を含有する化合物を「イミダゾール型アダマンタン誘導体」と称する場合がある。
【0039】
式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体において、式(1A)等で表されるイミン型アダマンタン誘導体及び(1B)等で表されるアミド型誘導体は、式(1C)で表されるイミダゾール型アダマンタン誘導体の中間体という関係にある。具体的には、式(1A)又は式(1B)で表される化合物は、分子内のイミン又はアミドが、それぞれ環Yに結合するR5との結合により環を形成して、式(1C)で表されるイミダゾール型アダマンタン誘導体を生成しうる。なお、式(1C)で表される化合物の中間体としては、上記式(1A)及び(1B)に限定されず、例えば、分子内に式(2A)と(2B)とを共に有する化合物であってもよい。
【0040】
また、式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体の代表的な化合物として、R1、R2、R3が全て式(2A)、(2B)又は(2C)で表される基であり、R4が非反応性基(水素原子又は炭化水素基)又は反応性官能基(保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基)である化合物を以下に例示する。
【0041】
【化7】

【化8】

【化9】

【0042】
前記式(1A-Z)、(1B-Z)、(1C-Z)中、Zは保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示し、式(1A-R)、(1B-R)、(1C-R)中、Rは水素原子又は炭化水素基を示しており、これらは、前記式(1)中のR1等における基と同様である。環Ya、R6a等は前記と同様である。上記式(1A-Z)、(1A-R)は、分子内に3つのイミンを含有するイミン型アダマンタン誘導体、上記式(1B-Z)、(1B-R)は、分子内に3つのアミド結合を含有するアミド型アダマンタン誘導体を表している。上記式(1C-Z)、(1C-R)で表される化合物は、分子内に3つのイミダゾール等の環を形成したイミダゾール型アダマンタン誘導体を表しており、上記前記イミン型アダマンタン誘導体やアミド型アダマンタン誘導体等より誘導可能である。
【0043】
本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体は、前記式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体と、前記式(4)で表されるテトラアミン誘導体との反応により得られる。
【0044】
前記式(3)中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す。式(3)中のアダマンタン骨格は、反応や高分子架橋体の物性を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0045】
1、X2、X3、X4における2価の芳香族性又は非芳香族性環式基等、及びRa、Rb、Rc、Rdにおける炭化水素基等は、前記式(1)におけるX1等及びRa等として例示のものと同様である。
【0046】
式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体には、例えば、下記式(3A)及び(3B)で表される化合物等が含まれる。
【化10】

【0047】
前記式(3A)、(3B)中、Z1、Z2、Z3、Z4は、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示し、Rは水素原子又は炭化水素基を示しており、これらの基には式(3)におけるRa等として例示のものを利用できる。X1等は式(3)と同様である。本願明細書中では、上記式(3A)で表される化合物を「4官能アダマンタン誘導体」、式(3B)で表される化合物を「3官能アダマンタン誘導体」と称する場合がある。また、式(3)におけるRa、Rb、Rc、Rdのうち3又は4つ[式(3A)、(3B)中、Z1、Z2、Z3、Z4のうち3又は4つ]が、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はハロホルミル基である化合物を「カルボキシル類」、ホルミル基である化合物を「アルデヒド類」、ホルミル基及びハロホルミル基を除くアシル基である化合物を「ケトン類」と称する場合がある。
【0048】
式(3A)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体の代表的な例として、例えば、1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、1,3,5,7−テトラキス(4−カルボキシフェニル)アダマンタン、1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸テトラクロリド、1,3,5,7−テトラキス(4−クロロホルミルフェニル)アダマンタン、1−カルボキシ−3,5,7−トリカルボキシフェニルアダマンタン等のカルボン酸類;1,3,5,7−アダマンタンテトラアルデヒド、1,3,5,7−アダマンタンテトラキスベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;フェニルアダマンチルケトン(1,3,5,7−テトラベンゾイルアダマンタン)などのケトン類などが挙げられる。
【0049】
式(3B)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体の代表的な例として、例えば、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、1,3,5−トリカルボキシ−7−メチルアダマンタン、1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)アダマンタン、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸クロリド、1,3,5−トリス(4−クロロホルミルフェニル)アダマンタンなどの等のカルボン酸類、1−カルボキシ−3−カルボキシフェニル−5−メチルアダマンタン等のカルボン酸類;1,3,5−アダマンタントリアルデヒド、1,3,5−トリホルミル−4−メチルアダマンタン、1,3,5−アダマンタントリスベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;1,3,5−トリスベンゾイルアダマンタン)などのケトン類などが挙げられる。
【0050】
これらのカルボニル基含有アダマンタン誘導体は、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。なかでも、式(3A)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体(4官能アダマンタン誘導体)は、嵩高い構造を有し、反応時の立体障害により疎な空孔をより効率よく形成しうる点で好ましく用いられる。
【0051】
また、カルボニル基含有アダマンタン誘導体としてアルデヒド類(例えば1,3,5−アダマンタンテトラキスベンズアルデヒド、1,3,5,7−アダマンタンテトラキスベンズアルデヒド等)を用いると、テトラアミン誘導体との反応を制御し易く、式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体を効率よく生成することができる点で有利である。
【0052】
前記式(3)(3A及び3B)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体は、公知の方法により、又は公知の有機合成反応、公知のカルボキシル基への保護基の導入法(例えば、エステル化、アミド化による方法等)等を利用することにより得ることができる。
【0053】
前記式(4)中、環Yは単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、Re、Rf、Rg、Rhは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示す。環Yにおける多環の芳香族性又は非芳香族性環、及びRg等における保護基で保護されていてもよいアミノ基は、それぞれ前記式(1)における環Y及びR5等として例示のものと同様である。
【0054】
式(4)で表されるテトラアミン誘導体としては、(i)Re、Rf、Rg、Rhのうちの保護基で保護されていてもよいアミノ基が全て保護基で保護されていないアミノ基である化合物、(ii)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアルキリデン基で保護されたアミノ基である化合物(すなわち、イミン誘導体)、(iii)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアシルアミノ基である化合物(すなわち、アミド誘導体)、(iv)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアルコキシカルボニル基やアラルキルオキシカルボニル基で保護されたアミノ基である化合物(すなわち、カルバミン酸エステル誘導体)、(v)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがモノ置換アミノ基である化合物などが例示される。
【0055】
前記(i)〜(v)に例示されるテトラアミン誘導体の代表的な化合物として、環Yをベンゼン環に限り、また、保護基を有している場合の保護基の数も4置換体又は2置換体に限定した化合物を以下に例示するが、これらに限られるものではない。すなわち、環Yがビフェニル環等の場合にも、以下の化合物に対応する化合物が例示される。
【0056】
前記(i)Re、Rf、Rg、Rhのうちの保護基で保護されていてもよいアミノ基が全て保護基で保護されていないアミノ基である化合物の代表的な例として、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンなどが挙げられる。
【0057】
前記(ii)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアルキリデン基で保護されたアミノ基である化合物(すなわち、イミン誘導体)の代表的な例として、下記式で表される化合物などが挙げられる。
【化11】

【0058】
前記イミン誘導体には、式(4)におけるRe、Rfが共にアルキリデン基で保護されたアミノ基であって、N,N″−ジイソプロピリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジイソプロピリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジシクロヘキシリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジシクロヘキシリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジベンジリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジベンジリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンなどのRg、Rhが共にアミノ基であるイミン誘導体;N,N′,N″,N′′′−テトライソプロピリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′,N″,N′′′−テトラシクロヘキシリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′,N″,N′′′−テトラベンジリデン−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンなどのRg、Rhが共にアルキリデン基で保護されたアミノ基であるイミン誘導体などが含まれる。
【0059】
さらに、前記イミン誘導体には、式(4)におけるRe、Rfが共にアルキリデン基で保護されたアミノ基であって、N,N″−ジイソプロピリデン−N′,N′′′−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジイソプロピリデン−N′,N″−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジシクロヘキシリデン−N′,N′′′−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジシクロヘキシリデン−N′,N′′′−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジベンジリデン−N′,N′′′−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジベンジリデン−N′,N′′′−ジメチル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジイソプロピリデン−N′,N′′′−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジイソプロピリデン−N′,N″−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジシクロヘキシリデン−N′,N′′′−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジシクロヘキシリデン−N′,N′′′−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N″−ジベンジリデン−N′,N′′′−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミン、N,N′′′−ジベンジリデン−N′,N′′′−ジフェニル−1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンなどのRg、Rhが共にモノ置換アミノ基であるイミン誘導体が含まれる。
【0060】
前記(iii)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアシルアミノ基である化合物(すなわち、アミド誘導体)としては、下記式で表される化合物などが例示される。
【化12】

【0061】
前記アミド誘導体には、式(4)におけるRe、Rfが共にアシルアミノ基であって、1,2,4,5−テトラキス(アセトアミノ)ベンゼンなどのRg、Rhが共にアシルアミノ基であるアミド誘導体;1,4−ビス(アセトアミノ)−2,5−ビス(メチルアミノ)ベンゼン、1,5−ビス(アセトアミノ)−2,4−ビス(メチルアミノ)ベンゼン、1,4−ビス(アセトアミノ)−2,5−ビス(フェニルアミノ)ベンゼン、1,5−ビス(アセトアミノ)−2,4−ビス(フェニルアミノ)ベンゼンなどのRe、Rhが共にモノ置換アミノ基であるアミド誘導体が含まれる。
【0062】
前記(iv)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがアルコキシカルボニル基やアラルキルオキシカルボニル基で保護されたアミノ基である化合物(すなわち、カルバミン酸エステル誘導体)としては、下記式で表される化合物などが例示される。
【化13】

【0063】
前記カルバミン酸エステル誘導体には、式(4)におけるRe、Rfが共にアルコキシカルボニル基であって、1,2,4,5−テトラキス(アセチルアミノ)ベンゼンなどのRg、Rhが共にアルコキシカルボニル基であるカルバミン酸エステル誘導体;1,4−ビス(メトキシカルボニルアミノ)−2,5−ビス(フェニルアミノ)ベンゼン、1,5−ビス(メトキシカルボニルアミノ)−2,4−ビス(フェニルアミノ)ベンゼンなどRg、Rhが共にモノ置換アミノ基であるカルバミン酸エステル誘導体等が含まれる。
【0064】
前記(v)Re、Rf、Rg、Rhの少なくとも1つがモノ置換アミノ基である化合物の代表的な例としては、式(4)におけるRe、Rfが共にモノ置換アミノ基であって、1,2,4,5−テトラキス(メチルアミノ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(フェニルアミノ)ベンゼンなどのRg、Rhが共にモノ置換アミノ基である化合物;1,4−ジアミノ−2,5−ビス(メチルアミノ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,4−ビス(メチルアミノ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2,5−ビス(フェニルアミノ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,4−ビス(フェニルアミノ)ベンゼンなどのRg、Rhが共にアミノ基である化合物などが挙げられる。
【0065】
前記式(4)で表されるテトラアミン誘導体には、上記の他に、Re、Rf、Rg、Rhのうち少なくとも2つが互いに結合して隣接する原子とともに環を形成した化合物が含まれる。このようなテトラアミン誘導体としては、例えば、分子内のアミノ基が前記複数のアミノ基を同時に保護しうる保護基(多官能保護基)で保護された化合物などが挙げられる。このような化合物の代表的な例としては、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンが2つのオキサリル基で保護された化合物[式(4)において、環Z1がベンゼン環であって、ReとRf、RgとRhがそれぞれオキサリル基で保護されたアミノ基である化合物]、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンが2つのブタン−2,3−ジイリデン基で保護された化合物[式(4)において、環Zがベンゼン環であって、ReとRf、RgとRhがそれぞれブタン−2,3−ジイリデン基で保護されたアミノ基である化合物]などが挙げられる。
【0066】
これらのテトラアミン誘導体は、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
前記式(4)で表されるテトラアミン誘導体は、公知の方法により、又は公知の有機合成反応、公知のアミノ基への保護基の導入法(例えば、アシル化、イミノ化、アルキル化による方法等)等を利用することにより得ることができる。
【0068】
式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体と式(4)で表されるテトラアミン誘導体との反応は、一般的なアミド化反応、イミン誘導体(シッフ塩基)生成反応、イミダゾール環形成反応等に準じて行うことができる。このような反応としては、例えば、 E. W. Neuse, Advances in Polymer Science 47, p1-p42 (1982)に記載されているポリベンズイミダゾール合成法;アミン化合物と、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸ハライド、オルトエステル及びケトンから選択される少なくとも一つの化合物とを反応させる公知の方法等を利用できる。
【0069】
反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、原料を溶解し反応を阻害しないものであればよく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルイミダゾリジン、ジメチルイミダゾリジノン(ジメチルイミダゾリジン−ジオン)等の環状アミノアセタール類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステル、γ―ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのエステル類;ジオキサン、テトラヒロドフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種類以上を混合して使用できる。
【0070】
なかでも、アミド類、環状アミノアセタール類、スルホン類などの非プロトン性極性溶媒が好ましく、特に、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルイミダゾリジン、ジメチルイミダゾリジノン(ジメチルイミダゾリジン−ジオン)等の環状アミノアセタール類などが好ましく用いられる。
【0071】
溶解は、テトラアミン誘導体等が酸化されない限度において、例えば空気雰囲気下で行われ、好ましくは窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。また、カルボニル基含有アダマンタン誘導体として、式(3)におけるRa、Rb、Rc、Rdの少なくとも一つがアシル基(例えばホルミル基等)である場合には、反応系内に酸素を供給するのが好ましい。酸素は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスで希釈した混合ガス(空気等)を使用することもできる。
【0072】
反応温度は、式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体の種類、式(4)で表されるテトラアミン誘導体の種類等によって異なるが、一般には0℃〜280℃の範囲で適宜選択できる。反応温度は、一定でもよく、連続又は逐次的に変化させてもよい。例えば、カルボニル基含有アダマンタン誘導体がアダマンタンテトラキスベンズアルデヒドであり、テトラアミン誘導体が保護基を有しないアミンである場合には、反応温度は、−30℃〜150℃程度である。
【0073】
前記カルボニル基含有アダマンタン誘導体とテトラアミン誘導体との使用割合は広い範囲で選択でき、両者を当量用いてもよく、何れか一方を過剰量用いてもよい。本発明においては、好ましくは、カルボニル基含有アダマンタン誘導体に対し、化学量論量を超える過剰のテトラアミン誘導体が用いられる。この方法によれば、高分子量化(架橋構造からなる高分子化)に伴うゲル化を抑制することができ、目的の化合物を収率よく得ることができ好ましい。テトラアミン誘導体の仕込量は、カルボニル基含有アダマンタン誘導体に対して、例えば0.1〜1000当量、好ましくは1〜800当量、さらに好ましくは20当量以上(特に20〜500当量)程度である。テトラアミン誘導体の使用量が少なすぎると、1分子のカルボニル基含有アダマンタン誘導体に結合するテトラアミン誘導体の分子数が少なくなる場合があり、また、カルボニル基含有アダマンタン誘導体の橋頭位方向に結合したテトラアミン誘導体が、別のカルボニル基含有アダマンタン誘導体とアミド結合を形成する反応が進行しやすく、式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体を得ることが困難となる傾向にある。また、テトラアミン誘導体の使用量が多すぎると、未反応の残存アミンと式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体との分離、精製が非効率、不経済となりやすい。
【0074】
反応は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。本発明においては、好ましくは、カルボニル基含有アダマンタン誘導体を、テトラアミン誘導体を溶媒に溶解した溶液中に逐次添加する方法が行われる。カルボニル基含有アダマンタン誘導体を、化学量論量を超える過剰のテトラアミン誘導体を溶解した溶液に逐次添加する
【0075】
反応には、原料として用いるカルボニル基含有アダマンタン誘導体及びテトラアミン誘導体の種類に応じて、保護基を脱離するための適当な触媒(塩基触媒、酸触媒等)や反応剤、トラップ剤(塩基、脱水剤等)、縮合化剤(ポリリン酸等)などを使用してもよい。
【0076】
このようにして、前記カルボニル基含有アダマンタン誘導体のRa、Rb、Rc、Rdにおける保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基と、前記テトラアミン誘導体のRe、Rf、Rg、Rhにおける保護基で保護されていてもよいアミノ基との反応により式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体が生成する。具体的には、式(3)におけるRa等の種類に応じて、例えば、Ra等がハロホルミル基を除くアシル基の場合は、イミン(シッフ塩基)生成反応により式(2A)で表される基を有するイミン型アダマンタン誘導体が生成する。また、Ra等が保護基で保護されていてもよいカルボキシル基及び/又はハロホルミル基の場合は、アミド化反応により式(2B)で表される基を有するアミド型アダマンタン誘導体が生成する。これらのイミン型アダマンタン誘導体及びアミド型アダマンタン誘導体は、さらにイミン及びアミドにおける環化反応の進行により、式(2C)で表される基を有するイミダゾール型アダマンタン誘導体を生成する。
【0077】
生成するアミノ基含有アダマンタン誘導体の分子量は、例えば500〜30000、好ましくは700〜10000、さらに好ましくは1100〜1500程度である。アミノ基含有アダマンタン誘導体の分子量は、原料となるカルボニル基含有アダマンタン誘導体の分子量と、テトラアミン誘導体の分子量の3乃至4倍数の和とほぼ同等であり、これらの原料を適宜選択することにより調整できる。
【0078】
生成したアミノ基含有アダマンタン誘導体は、例えば、沈殿、再沈殿、晶析、再結晶、濾過、抽出、乾燥等の分離精製手段により単離することができる。
【0079】
上記のアミノ基含有アダマンタン誘導体には、(i)前記式(3A)で表される4官能アダマンタン誘導体と式(4)で表されるテトラアミン誘導体との反応により得られる、式(1A)又は(1A-Z)で表されるイミン型化合物、式(1B)又は(1B-Z)で表されるアミド型化合物、式(1C)又は(1C-Z)で表されるイミダゾール型化合物、及び(ii)前記式(3B)で表される3官能アダマンタン誘導体と式(4)で表されるテトラアミン誘導体との反応により得られる、式(1A-R)で表されるイミン型3官能化合物、(1B-R)で表されるアミド型3官能化合物、(1C-R)で表されるイミダゾール型3官能化合物が含まれる。
【0080】
本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体は溶媒に可溶である。このような溶媒として、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルイミダゾリジン、ジメチルイミダゾリジノン(ジメチルイミダゾリジン−ジオン)等の環状アミノアセタール類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステル、乳酸エチル、γ―ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのエステル類;ジオキサン、テトラヒロドフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)などのエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロメタンなどのニトロ化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種類以上を混合して使用できる。
【0081】
本発明の絶縁膜形成材料は、前記本発明の式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体と式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体を溶媒に溶解して得られる重合性組成物で構成される。前記アミノ基含有アダマンタン誘導体とカルボニル基含有アダマンタン誘導体とは、モノマー成分を構成しており、各成分は単独又は複数の種類を組み合わせて用いてもよい。溶媒としては、アミノ基含有アダマンタン誘導体を溶解可能で、重合や環化反応等を阻害しないものであればよく、例えば前記例示の溶媒を使用できる。なかでも、アミド類、環状アミノアセタール類、スルホン類などの非プロトン性極性溶媒が好ましく、特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルイミダゾリジン、ジメチルイミダゾリジノン(ジメチルイミダゾリジン−ジオン)等の環状アミノアセタール類;及びこれらの混合溶媒などが好ましく用いられる。
【0082】
アミノ基含有アダマンタン誘導体は、カルボニル基含有アダマンタン誘導体との反応により高分子量化した高分子架橋体を得ることができる。アミノ基含有アダマンタン誘導体とカルボニル基含有アダマンタン誘導体との使用量比(モル比)は、例えば1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜80/20程度であり、当量で用いることもできる。
【0083】
本発明の絶縁膜形成材料は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。このような成分として、アミノ基含有アダマンタン誘導体の原料として用いた成分(カルボニル基含有アダマンタン誘導体及び/又はテトラアミン誘導体)が挙げられる。上記以外の他の成分としては、例えば、重合反応を促進するための触媒を添加してもよい。触媒の代表的な例としては、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒が挙げられる。触媒の使用量は、上記モノマー成分(アダマンタンポリカルボン酸と芳香族ポリアミン)の総量に対して、例えば0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%程度である。
【0084】
また、本発明の絶縁膜形成材料には、塗布性を改善するため、溶液の粘性を高める増粘剤を添加してもよい。増粘剤の代表的な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルキレングリコール類やポリアルキレングリコール類などが挙げられる。増粘剤の使用量は、絶縁膜形成材料全体に対して、例えば0〜20重量%、好ましくは0〜10重量%程度である。さらに、本発明の絶縁膜形成材料には、重合後の分子量を調整するためのモノカルボン酸類、及び/又は重合後の架橋度を調整するためのジカルボン酸類を添加してもよい。モノカルボン酸類の代表的な例としては、アダマンタンカルボン酸、安息香酸などのモノカルボン酸;アダマンタンカルボン酸メチルエステル、安息香酸メチルエステルなどのモノカルボン酸誘導体などが挙げられ、ジカルボン酸類の代表的な例としては、テレフタル酸などのジカルボン酸;テレフタル酸ジメチルエステルなどのジカルボン酸誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸類の使用量は、絶縁膜形成材料を構成するモノマー成分(アミノ基含有アダマンタン誘導体及びカルボニル基含有アダマンタン誘導体)の総量に対して、例えば0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%程度であり、ジカルボン酸類の使用量は、プレポリマーを構成するモノマー成分(アミノ基含有アダマンタン誘導体及びカルボニル基含有アダマンタン誘導体)の総量に対して、例えば0〜100モル%、好ましくは0〜50モル%程度である。
【0085】
本発明の絶縁膜形成材料には、形成される絶縁被膜の基盤密着性を高めるための密着促進剤を添加してもよい。密着促進剤の代表的な例としては、トリメトキシビニルシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレートなどが挙げられる。密着促進剤の使用量は、上記モノマー成分の総量に対して、例えば0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%程度である。
【0086】
溶解は、アミノ基含有アダマンタン誘導体等が酸化されない限度において、例えば空気雰囲気下で行われ、好ましくは窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。溶解させる温度は、特に限定されず、モノマー成分(アミノ基含有アダマンタン誘導体及びカルボニル基含有アダマンタン誘導体)の溶解性や安定性、溶媒の沸点に応じて加熱してもよく、例えば0〜200℃、好ましくは10〜150℃程度である。
【0087】
本発明の絶縁膜は、上記アミノ基含有アダマンタン誘導体とカルボニル基含有アダマンタン誘導体とから形成されるポリマー(高分子架橋体)により構成される。絶縁膜は、例えば、重合性組成物からなる絶縁膜形成材料を基材上に塗布した後、加熱して重合反応させることにより形成される。前記基材としては、例えば、シリコンウェハー、金属基板、セラミック基板などが挙げられる。塗布方法としては、特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などの慣用の方法を用いることができる。
【0088】
加熱温度は、用いる重合性成分が重合する温度であれば特に制限されないが、例えば室温(25℃程度)〜500℃、好ましくは室温(25℃程度)〜400℃程度であり、一定温度又は段階的温度勾配が付されてもよい。前記段階的温度勾配としては、単純温度上昇(連続昇温)であってもよく、多段階(不連続)の温度変化であってもよい。加熱は、形成される薄膜の性能に影響がない限り、例えば空気雰囲気下で行われてもよく、好ましくは不活性ガス(窒素、アルゴンなど)雰囲気下、又は真空雰囲気下で行われる。
【0089】
加熱により、絶縁膜形成材料に含まれるアミノ基含有アダマンタン誘導体の「保護基を有していてもよいアミノ基(アミノ基類)」とカルボニル基含有アダマンタン誘導体の「保護基を有していてもよいカルボキシル基又はアシル基(カルボニル含有基類)」との結合による重合反応が進行する。より詳細には、アミノ基含有アダマンタン誘導体のアミノ基類と、カルボニル基含有アダマンタン誘導体のカルボニル含有基類とが、必要に応じて保護基の脱離を伴って重縮合し、重合生成物としてアダマンタン骨格含有ポリベンズイミダゾール類が形成される。例えば、カルボニル基含有アダマンタン誘導体の1個のカルボニル含有基類と、アミノ基含有アダマンタン誘導体の1,2位又は1,3位の炭素原子に結合した2個のアミノ基との組み合わせによりイミダゾール環等の2つの窒素原子を有する5員又は6員環が形成される。
【0090】
特に、本発明では、モノマー成分同士の立体障害により重合反応時に密度の低下を防ぐことができるため、巨大分子レベルの空孔構造を有するポリマーを得ることができる。すなわち、一方のモノマー成分に用いる式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体は、中心のアダマンタン骨格を中心とし、R1、R2、R3、R4を頂点とする四面体(ほぼ正四面体)であって、前記R1、R2、R3、R4の少なくとも3つが式(2A)、(2B)、(2C)の何れかで表される基で構成されている立体的に嵩高い構造(容積の大きい構造)を有する巨大分子である。他方のモノマー成分に用いる式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体は、中心のアダマンタン骨格を中心とし、Ra、Rb、Rc、Rdを頂点とする四面体(ほぼ正四面体)である。これらをモノマー成分とする重合反応においては、式(1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体が有するR1、R2、R3、R4を頂点とする巨大四面体と、式(3)で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体が有するRa、Rb、Rc、Rdを頂点とする四面体とは、極めて大きい立体障害により互いの四面体構造の空間内部への貫入を防ぎ、さらに、伸長中のオリゴマー、ポリマー等の侵入も制限される。このため、両モノマー成分が本来有する四面体構造が保持され、これらの四面体の容積に対応するサイズの空孔が規則正しく配置された密度の低い構造を有するポリマーを形成することができる。
【0091】
こうして得られる本発明の絶縁膜は、上記のような空孔構造を有するポリマーで構成される。このように、内部に多数の巨大分子レベルの空孔を均一に分散して有するため、極めて優れた比誘電率を示す。
【0092】
加熱により形成される絶縁膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定できるが、一般には50nm以上(50〜2000nm程度)、好ましくは100nm以上(100〜2000nm程度)、さらに好ましくは300nm以上(300〜2000nm程度)である。膜厚が50nm未満では、リーク電流が発生するなどの電気的特性に悪影響を及ぼしたり、半導体製造工程における化学的機械研磨(CMP)による膜の平坦化が困難となるなどの問題が生じやすいため、特に層間絶縁膜用途としては適さない。
【0093】
なお、予め製造したポリマー(高分子架橋体)を基板上に塗布して絶縁膜を形成することが考えられるが、このような高分子量重合体は、溶媒への溶解性が極めて低い高分子量範囲の成分を含むため、塗布により薄膜を形成する際、未溶解成分の影響による塗布ムラ等の塗布不良が顕著に現れる。このような塗布不良を防止するためには、塗布液調製時に厳密な濾過処理を施すなど未溶解成分の除去工程が必要であり、その工程自体に多大な労力を要するなど経済的に不利となりやすい。また、モノマー成分(カルボニル基含有アダマンタン誘導体及びテトラアミン誘導体)を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布して絶縁膜を形成することも考えられるが、この場合には、基板上での重合の際、モノマー成分が生成した高分子量重合体の空孔内に入り込んだり、形成された高分子量重合体の空孔内を新たに生成したポリマー鎖が貫通して、空孔が閉塞されやすいため、空孔率が低下しやすい。
【0094】
一方、上記モノマー成分を部分的に重合したプレポリマー(重量平均分子量が8000以上程度の重合体:例えば特開2005−139271号公報に記載のプレポリマー等)と、モノマー成分とを組み合わせて溶媒へ溶解した溶液を基板上に塗布して絶縁膜を形成した場合、反応性の観点からは、上記プレポリマーとモノマー成分の分子サイズの差があまりに大きいため、プレポリマーが主として形成する固体状態(プレポリマーで構成される固相)においては、熱運動によるモノマー成分の拡散が阻害され、官能基の衝突頻度が下がり、官能基の反応が進みにくくなるという問題があった(反応率20〜30%)。また、立体構造の観点からは、プレポリマー内部に立体障害を形成して大きい空孔が保持される部分を有するためある程度の低比誘電化を達成できるが、プレポリマーには、嵩が低い構造部位も含まれ、このような部位に容易にモノマー成分が入り込み、またポリマー鎖が貫通することにより空孔が閉塞されやすいため、空孔率の低下が損なわれやすかった。
【0095】
これに対して、本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体とモノマー成分との組み合わせによれば、分子のサイズ差が遙かに小さくなっており、熱運動による分子の衝突頻度が十分に上がるため、反応率を上昇させることができ(例えば反応率60%以上)、膜質、機械特性共に優れた膜を形成することができる。また、立体構造の観点からは、本発明のアミノ基含有アダマンタン誘導体は、嵩高い構造を有する巨大分子であって、やはり立体障害を有するモノマー成分との重合反応によって、空孔内へのモノマー成分の浸入やポリマー鎖の貫通が抑制される。そのため、内部に均一且つ大きいサイズの分子レベルの空孔が多数分散した高秩序の空孔構造を容易に構築することができる。このように形成されたポリマーからなる絶縁膜は、空孔率が高いので比誘電率が低く、架橋により十分な耐熱性及び機械的強度を有する上、配線からの銅の拡散が極めて少ないという利点を有する。本発明の絶縁膜は、上記空孔構造を有するポリマーで構成されるため、比誘電率(K値)が、例えば3未満(好ましくは2.8未満、より好ましくは2.3未満程度)であり、極めて低い比誘電率を発揮することができる。
【0096】
本発明の絶縁膜は、低誘電率且つ高耐熱性を示すため、例えば、半導体装置等の電子材料部品における絶縁被膜として使用することができ、特に層間絶縁膜として有用である。また、本発明の方法により得られる膜あるいは形成される組成物は、その用途を半導体用層間絶縁膜に限られるものでなく、燃料電池用材料、有機EL等の電子デバイスにおける電荷移動層形成材料、発光層形成材料、またはガスバリア層形成材料、特定物質の選択的透過膜等の形成材料としても用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、高分子膜の膜厚はエリプソメーターを用いて測定し、高分子膜の密度は、X線反射率測定の解析により求め、高分子膜の比誘電率は膜の表面にAl電極を形成して測定した。赤外線吸収スペクトルの測定はうす膜による透過法を採用した。重量平均分子量はポリスチレン換算の値である。密度は25℃の値である。
【0098】
実施例1
下記式(1C-1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体の合成
【化14】

反応容器(3つ口フラスコ)に、上記式(2-1)で表される3,3’−ジアミノベンジジン77.68g(0.362mmol)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)307gを加えて溶解させた後、氷浴で0℃以下に保った。この反応容器へ、上記式(3A-1)で表されるアダマンタンテトラキスベンズアルデヒド1.01g(1.8mmol)をDMAc501gに溶解させた溶液を、滴下ロートを用いて6ml/minの速度で滴下した。滴下中、反応溶液内の液温が0℃を超えないように注意した。滴下終了後、滴下ロートをDMAc105gで洗浄し、これも反応容器内に滴下した。反応液に、テフロン(登録商標)チューブを用いて酸素濃度5モル%の酸素窒素混合ガスを導入しながら、反応容器をオイルバスにより加熱して液温を90℃に保ち、9時間反応させた。反応終了後、反応液を、別の容器中の水9.13kgへ滴下し、沈殿と上澄みからなるスラリーを、滴下終了後から約1時間撹拌した。撹拌中、反応液は、アミンの酸化を防止するため窒素をバブリングさせた。生成した沈殿物を濾別し、反応容器に再度移し、水1.83kgを加えて窒素雰囲気下、加熱還流を30分施して熱水洗浄を施した。温度が下がらないうちに沈殿物を濾別した後、得られた濾過物を真空乾燥機で乾燥させた。
乾燥終了後、得られた沈殿を還流管を備えた反応容器へ移し、テトラヒドロフラン(THF)1.83kgを加え、窒素雰囲気下で加熱還流することによりTHF洗浄を施した。再度固形分を濾別し、真空乾燥機で乾燥した生成物の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、図1に示されるNMRスペクトルデータ及び図2に示される赤外線吸収スペクトルデータにより、上記式(1C-1)で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体が形成されていることを確認した。アミノ基含有アダマンタン誘導体の収量は24.5g、収率は90%であった。
[NMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6) δ(ppm):2.32(12H<−CH2−>), 4.60(16H<−NH2>),6.62−6.97(12H<芳香環プロトン>), 7.53−7.78(12H<芳香環プロトン>),7.87(8H),8.24(8H) 12.85(4H)
[赤外線吸収スペクトルデータ(cm-1)]
3419(N−H<伸縮振動>),2933(−CH2−のC−H<伸縮振動>),1623( −C=N−<伸縮振動>),1420−1520(芳香環<面内振動>),1280(芳香族−NH2<伸縮振動>)
【0099】
実施例2
3方コックを備えた30mlフラスコに撹拌子を入れ、容器内に窒素を導入しながら、実施例1で得たアミノ基含有アダマンタン誘導体50mg、アダマンタンテトラキス安息香酸23.2mg、及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)とジメチルイミダゾリジノン(DMI)との混合溶媒[混合比1:1(重量比)]を加えて、60℃で1時間攪拌し、基質を溶解させて固形分濃度10重量%の塗布液を調製した。
室温に戻した塗布液を、細孔径0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターでろ過した後、8インチのシリコンウェハ上に2〜3ml滴下し、回転数100〜3000rpmでスピンコートした。これを窒素雰囲気下、石英製チャンバー内で室温〜400℃で120分間加熱焼成して膜を形成した。こうして得られた高分子膜の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、図3に示される赤外線吸収スペクトルデータにより、目的の架橋ポリベンズイミダゾール膜が形成されていることが確認された。得られた膜の膜厚は160nmであった。膜の密度は1.20g/cm3、比誘電率は2.0であった。
[赤外線吸収スペクトルデータ(cm-1)]
3419(N−H<伸縮振動>),2933(−CH2−<C−H伸縮振動>),1623(−C=N−<伸縮振動>),1420−1520(芳香環<面内振動>),1280(芳香族−NH2<伸縮振動>)
【0100】
比較例1
1,3,5−アダマンタントリカルボン酸5.37g(20mmol)と3,3’−ジアミノベンジジン6.43g(30mmol)を、窒素雰囲気下、室温にて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、濃度25重量%の塗布液を調製した。この塗布液を、細孔径0.2μmのフィルターを通した後、8インチのシリコンウェハ上にスピンコートした。これを窒素雰囲気下、室温〜400℃で120分間加熱焼成して膜を形成した。こうして得られた高分子膜の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、目的の架橋ポリベンズイミダゾール膜が形成されていることが確認された。得られた膜の膜厚は550nmであった。膜の密度は1.24g/cm3、比誘電率は2.8であった。
[赤外線吸収スペクトルデータ(cm-1)]
805(m),1280(m),1403(m),1450(s),1522(w),1625(w),2857(s),2928(s),3419(w)
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例1で得られたアミノ基含有アダマンタン誘導体のNMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたアミノ基含有アダマンタン誘導体の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】実施例2で得られた高分子膜の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、R1、R2、R3、R4は、アダマンタン環又は環X1、X2、X3、X4に結合している置換基であって、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、アシル基、若しくは下記式(2A)、(2B)又は(2C)
【化2】

(式(2A)、(2B)、(2C)中、環Yは、同一又は異なって、単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、R5、R6、R7は、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示し、R′はハロホルミル基以外のアシル基からカルボニル基を除した基を示す)
で表される基を示す。但し、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも3つは、同一又は異なって、式(2A)、(2B)又は(2C)で表される基を示す]
で表されるアミノ基含有アダマンタン誘導体。
【請求項2】
下記式(3)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す)
で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体と、下記式(4)
【化4】

(式中、環Yは単環又は多環の芳香族性又は非芳香族性環を示し、Re、Rf、Rg、Rhは環Yに結合している置換基であって、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいアミノ基を示す)
で表されるテトラアミン誘導体との反応により請求項1記載のアミノ基含有アダマンタン誘導体を得るアミノ基含有アダマンタン誘導体の製造方法。
【請求項3】
カルボニル基含有アダマンタン誘導体を、化学量論量を超える過剰のテトラアミン誘導体を溶解した溶液に逐次添加する請求項2記載のアミノ基含有アダマンタン誘導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のアミノ基含有アダマンタン誘導体と、下記式(3)
【化5】

(式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す)
で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体とを溶媒に溶解して得られる重合性組成物からなる絶縁膜形成材料。
【請求項5】
請求項1記載のアミノ基含有アダマンタン誘導体と、下記式(3)
【化6】

(式中、X1、X2、X3、X4は、同一又は異なって、単結合又は2価の芳香族性又は非芳香族性環式基を示し、Ra、Rb、Rc、Rdは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基又はアシル基を示す。但し、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも3つは、同一又は異なって、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示す)
で表されるカルボニル基含有アダマンタン誘導体との重合反応により得られる空孔構造を有するポリマー。
【請求項6】
請求項5記載の空孔構造を有するポリマーからなる絶縁膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−217297(P2007−217297A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36516(P2006−36516)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】