説明

アミロイドβオリゴマー並びにその製造方法及び使用方法

【課題】ADのようなアミロイド関連疾患の研究並びに予防及び治療に有用な新規のAβアセンブリー及びその製造方法を提供する。さらに、そのようなAβアセンブリーを用いたアミロイド関連疾患の研究並びに予防及び治療のための方法及び化合物等を提供する。
【解決手段】GM1ガングリオシドの存在下でインビトロで形成される可溶性毒性アミロイドβアセンブリーであって、
(a)サイズ排除クロマトグラフィによる見かけの分子量が約200〜約300kDaであること;
(b)原子力間顕微鏡観察による直径が約10〜約20nmである球状粒子を含むこと;
(c)検出可能なGM1ガングリオシドを含まないこと;及び
(d)培養細胞に対してアポトーシス様細胞死を誘導すること、
を特徴とするアセンブリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβの可溶性毒性アセンブリー(オリゴマー)、及びその製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβ(以下「Aβ」ともいう)は、アルツハイマー病(以下「AD」ともいう)患者において観察されるプラークの主要タンパク質成分であり、ダウン症候群におけるプラーク成分でもあることがわかっている。
【0003】
最近、可溶性Aβアセンブリー(「Aβオリゴマー」とも呼ばれる)(非特許文献1)、プロトフィブリル(非特許文献2、3)又はAβ由来拡散性リガンド(Aβ-derived diffusible ligands;「ADDL」とも呼ばれる)(非特許文献4、特許文献1)は、ニューロン機能に対する傷害性の強さ又は神経変性の誘導性の強さによって注目されている(非特許文献4〜10)。
【0004】
AD患者の脳及び脳脊髄液中の可溶性Aβレベルの増大(非特許文献11〜13)に加えて、天然のAβオリゴマーによるインビボでの認知機能の破壊及び長期にわたる相乗作用の阻害(非特許文献6、14)により、これらの可溶性Aβアセンブリーの病理学的関連性が示唆されている。可溶性Aβアセンブリーがどのようにしてニューロンを損傷するかは未解明であるが、ニューロン膜上での標的分子への特異的結合(非特許文献15)及びイオン恒常性(ionic homeostasis)の撹乱と関連した原形質膜のユビキタスな破壊(非特許文献16)などのいくつかの可能性が提案されている。
【0005】
可溶性Aβアセンブリーがインビトロで形成されることが報告されている。例えば、ADDLは、培地で希釈したAβ溶液を約4℃で約2時間〜約48時間インキュベートし、約4℃で約14,000gで遠心分離した後、上清中に含まれる(特許文献1)。ADDLは、非変性ゲル電気泳動において約26〜約28kD、15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)において約22〜約24kD又は約18〜約19kDの分子量を有し、原子間力顕微鏡による観察において約4.7〜約6.2nmの大きさであることが記載されている(特許文献1)。
【0006】
また、Aβを、ホウ酸緩衝液中で過酸化水素及びペルオキシダーゼと共に37℃で5日間インキュベートすることにより、チロシン架橋された神経毒性オリゴマーが得られることが記載されている(特許文献2)。
【0007】
遺伝性変異型であるアークティック(Arctic)型Aβは、神経毒性の可溶性Aβアセンブリーを形成する傾向を有している(非特許文献10、17、18)。本発明者らは、最近、アークティック型Aβは野生型Aβと同様にGM1ガングリオシドの存在下で好適に沈澱性アセンブリーを形成することを観察した(非特許文献19、20)。
【0008】
神経成長因子(NGF)は広範な細胞タイプの分化及び機能において重要な役割を果たすこと、及び低親和性のNGFレセプター(p75NTR)が細胞の生存及び死において二重の役割を果たすことについて、証拠が蓄積されている。そして、不溶性Aβアセンブリーの毒性はp75NTRとの関連を通じて現れること(非特許文献28、29)、及びADDLは培養細胞におけるNGF媒介性シグナル伝達を変え得ること(非特許文献8)が示唆されている。
【0009】
【特許文献1】特表2001−501972(WO98/33815)
【特許文献2】特表2004−501204(WO2002/000245)
【0010】
【非特許文献1】M. B. Podlisny, et al., J Biol. Chem. 270, 9564 (1995).
【非特許文献2】J. D. Harper, S.S. Wong, C.M. Lieber, P.T. Lansbury, Chem. Biol. 4, 119 (1997).
【非特許文献3】D. M. Walsh, et al., J. Biol. Chem. 272, 22364 (1997).
【非特許文献4】M. P. Lambert, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 6448 (1998).
【非特許文献5】D. M. Hartley, et al., J. Neurosci. 19, 8876 (1999).
【非特許文献6】D. M. Walsh, et al., Nature. 416, 535 (2002).
【非特許文献7】K. N. Dahlgren, et al., J. Biol. Chem. 277, 32046 (2002).
【非特許文献8】B. A. Chromy, et al., Biochemistry. 42, 12749 (2003).
【非特許文献9】M. Hoshi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 6370 (2003).
【非特許文献10】B. M. Whalen, D. J. Selkoe, D. M. Hartley, Neurobiol. Dis. 20, 254 (2005).
【非特許文献11】A. E. Roher, et al., J. Biol. Chem. 271, 20631 (1996).
【非特許文献12】M. Pitschke, et al., Nat. Med. 4, 832 (1998).
【非特許文献13】Y. Gong, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 10417 (2003).
【非特許文献14】J. P. Cleary, et al., Nat. Neurosci. 8, 79 (2005).
【非特許文献15】P. N. Lacor, et al., J. Neurosci. 24, 10191 (2004).
【非特許文献16】A. Demuro, et al., J. Biol. Chem. 280, 17294 (2005).
【非特許文献17】C. Nilsberth, et al., Nat. Neurosci. 4, 887 (2001).
【非特許文献18】H. A. Lashuel, et al., Nature. 418, 291 (2002).
【非特許文献19】K. Yanagisawa, A. Odaka, N. Suzuki, Y. Ihara, Nat. Med. 1, 1062 (1995).
【非特許文献20】N. Yamamoto, et al., J Neurochem. 90, 62 (2004).
【非特許文献21】C. S. Atwood, et al., J. Neurochem. 75, 1219 (2000).
【非特許文献22】G. Bitan, A. Lomakin, D. B. Teplow, J. Biol. Chem. 276, 35176 (2001).
【非特許文献23】R. Kayed, et al., Science. 300, 486 (2003).
【非特許文献24】D. M. Walsh, et al., J. Neurosci. 25, 2455 (2005).
【非特許文献25】H. Hayashi, et al., J. Neurosci. 24, 4894 (2004).
【非特許文献26】P. Brocca, P. Berthault, S. Sonnino, Biophys. J. 74, 309 (1998).
【非特許文献27】N. Yamamoto, et al., FEBS Lett. 569, 135 (2004).
【非特許文献28】S. Rabizadeh, et al., Proc. Natl. Acad. SCI. USA. 91, 10703 (1994)
【非特許文献29】M. Yaar, et al., J. Clin. Invest. 100, 2333 (1997).
【非特許文献30】S.P. Lad, K.E. Neet, E.J. Mufson, Current Drug Targets-CNS & Neurological Disrders. 2, 315 (2003).
【非特許文献31】N. J. Woolf, R. W. Jacobs, L. L. Butcher, Neurosci. Lett. 96, 277 (1989).
【非特許文献32】N. J. Woolf, E. Gould, L. L. Butcher, Neuroscience. 30, 143-152 (1989).
【非特許文献33】S. Maeda et al., Neurosci Res (in press).
【非特許文献34】H.G. Hansma et al., Biophys J 68, 1672-7 (1995).
【非特許文献35】F. Schroeder, W.J. Morrison, C. Gorka, W.G. Woog, Biochim. Biophys. Acta 946, 85 (1988).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ADのようなアミロイド関連疾患の研究並びに予防及び治療に有用な新規のAβアセンブリー及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのようなAβアセンブリーを用いたアミロイド関連疾患の研究並びに予防及び治療のための方法及び化合物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定の濃度のGM1ガングリオシドの存在下で、野生型又は遺伝性変異型Aβ、特にアークティック型Aβから、より迅速に、より毒性の強い新規の可溶性毒性Aβアセンブリー(soluble toxic amyloid β;以下において「TAβ」ともいう)が形成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、
〔1〕GM1ガングリオシドの存在下でインビトロで形成される可溶性毒性アミロイドβアセンブリーであって、
(a)サイズ排除クロマトグラフィによる見かけの分子量が約200〜約300kDaであること;
(b)原子力間顕微鏡観察による直径が約10〜約20nmである球状粒子を含むこと;
(c)検出可能なGM1ガングリオシドを含まないこと;及び
(d)培養細胞に対してアポトーシス様細胞死を誘導すること、
を特徴とするアセンブリー;
〔2〕アミロイドβが、野生型ペプチド又はアークティック型変異を有するペプチドである、前記〔1〕記載のアセンブリー;
〔3〕可溶性毒性アミロイドβアセンブリーの製造方法であって、単量体アミロイドβを、脂質成分のモル比で約10〜約15%のGM1ガングリオシドを含むリポソームと共に約35〜約40℃で約1〜約30時間インキュベートする工程を含むことを特徴とする方法;
〔4〕単量体アミロイドβが野生型ペプチドであり、インキュベーション時間が20〜30時間である、前記〔3〕記載の方法;
〔5〕単量体アミロイドβがアークティック型変異を有するペプチドであり、インキュベーション時間が1〜3時間である、前記〔3〕記載の方法;
〔6〕前記〔3〕〜〔5〕のいずれか1項記載の製造方法によって製造された可溶性毒性アミロイドβアセンブリー;
〔7〕前記〔1〕、〔2〕又は〔6〕記載の可溶性毒性アミロイドβアセンブリーを含む液体を、540,000×gで15分間又は同等の条件で遠心分離して、上清を回収することを特徴とする、可溶性毒性アミロイドβアセンブリーの精製方法;
〔8〕前記回収された上清を、さらにサイズ排除クロマトグラフィに供することを特徴とする、前記〔7〕記載の方法;
〔9〕前記〔7〕又は〔8〕記載の精製方法によって精製された可溶性毒性アミロイドβアセンブリー;
〔10〕可溶性毒性アミロイドβの神経毒性を調節する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(a)培養細胞を、前記〔1〕、〔2〕、〔6〕又は〔9〕のいずれか1項記載の可溶性毒性アミロイドβアセンブリー及び被検物質の存在下でインキュベートする工程、
(b)前記工程(a)の後、前記培養細胞の生死を測定する工程、
(c)前記工程(b)で得られた結果を、被検物質を含まない状態で工程(a)を行なった場合の結果と比較する工程
を含むことを特徴とする方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可溶性毒性Aβアセンブリーは、ADDLや不溶性アセンブリー(フィブリル)等と比較して顕著に強力な毒性を有する。したがって、毒性に影響する化合物等の検出において非常に高感度である。
【0015】
また、本発明のTAβはNGFレセプターへの結合を介して各種のニューロン又は非ニューロン細胞にアポトーシス様の細胞死を誘導することがわかっており、よく特徴づけられているので、AD等の疾患及びアポトーシスの研究において非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のTAβは、Aβを、その遺伝型に適した濃度のGM1ガングリオシドを含むリポソームの存在下でインキュベートすることにより生成される。TAβの製造に使用する単量体Aβとしては、野生型であっても変異型であってもよいが、毒性の強さ等の点から、変異型のもの、特にAβドメインの内部に変異が存在する型(例えば、イタリアン(Italian)型、アークティック(Arctic)型、フレミッシュ(Flemish)型など)のものが好ましく、アークティック型のものが最も好ましい。
【0017】
アークティック型変異は、ヒトのアミロイド前駆体タンパク(APP)のコドン693に位置するアミノ酸の置換(グルタミン酸がグリシンで置換されている;E693G)であり、この変異はAβにおいて22番目のアミノ酸の置換に相当する。本発明に関して、アークティック型という場合、ヒト以外の動物に由来する配列において上記の変異に相当する変異を有するものも含む。他の変異型についても同様であり、ヒトにおける各変異に相当する他の動物における変異をも包含する。
【0018】
本発明において使用するAβは、溶解後に超遠心に供することによってAβ重合の種(seed)となりうる不溶性ペプチドを予め除去しておくことができる。
【0019】
本発明において使用される、GM1ガングリオシドを含むリポソームは、アミロイドフィブリル形成に必要とされるよりも低い、全脂質成分中のモル比が約10/100〜約15/100(約10〜約15モル%)の割合のGM1ガングリオシドを含有していればよく、公知の一般的な方法で調製することができる。この特定の濃度のGM1ガングリオシドの存在下でTAβが好適に形成される理由は解明されていないが、GM1ガングリオシドの横方向の分布が分子のオリゴ糖鎖の空間的配置に影響することが示唆されており(非特許文献26)、特定の濃度のGM1ガングリオシドは、GM1ガングリオシドのコンフォメーションを調節し、TAβ形成に好ましい微細環境を提供する可能性があると考えられる。
【0020】
脂質混合物中のGM1ガングリオシド以外の成分は、コレステロール又はリン脂質であればよく、リン脂質としては脳内に存在するリン脂質が好ましい。このようなものとしては、例えば、コレステロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン等が挙げられ、コレステロール、スフィンゴミエリンが好ましい。リン脂質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。脂質混合物中のGM1ガングリオシド以外の成分は、最も好適には、コレステロール及びスフィンゴミエリンを含む。特にコレステロール:スフィンゴミエリンのモル比が0.5:1.5〜1.5:0.5の割合であることが望ましい。その中でもコレステロール:スフィンゴミエリンのモル比が0.5:1〜1:0.5程度、さらには0.8:1.2〜1.2〜0.8程度の割合の混合物が、GM1ガングリオシドがTAβ形成に好ましいコンフォメーションとなるための微細環境を与える可能性が高く、好ましいと考えられ、1:1のモル比の混合物が最も好ましい。
【0021】
具体的には、GM1ガングリオシドを含む好適なリポソームは、例えば、後述するように、コレステロール:スフィンゴミエリン:GM1ガングリオシドのモル比が45:45:10〜42.5:42.5:15(即ち、脂質混合物中のGM1ガングリオシドの割合がモル比で10〜15%)となるように脂質混合物を調製し、これを使用直前に適当な緩衝液(例えばトリス緩衝生理食塩水(TBS))に懸濁させることにより調製することができる。
【0022】
GM1ガングリオシドを含むリポソームとAβとのインキュベーションは、溶液中で各々を適当な濃度で一緒にすることによって開始することができる。例えば、このようなインキュベーション混合物(GM1ガングリオシドを含むリポソームとAβとを含む溶液)中の終濃度として、Aβが10〜200μM、好ましくは25〜100μM程度である場合に、GM1ガングリオシドが30〜500μM、好ましくは62〜375μM程度、特に好ましくは100〜200μM程度、リポソーム構成脂質全体としては0.3〜5mM、好ましくは0.62〜3.75mM、特に好ましくは1〜2mM程度で、両者を溶液中で共存させる。
TAβ形成のためのインキュベーションは、一般的には約20〜約40℃(好ましくは約37℃、即ち約35〜約40℃程度)で、約1〜約30時間行なうことができるが、用いるAβに応じて適宜最適な条件を選択することができる。例えば野生型ペプチドを用いる場合、約35〜約40℃(特に約37℃)で約20〜30時間;アークティック型Aβを用いる場合、約35〜約40℃(特に約37℃)で約1〜約5時間(特に約1〜約3時間)のインキュベーションがそれぞれ最適である。
【0023】
インキュベーション時間の選択は重要である。TAβは、インキュベーション時間中の初期に出現し、その後のインキュベーションを通じて消失する傾向がある。このことは、TAβがより大きいAβアセンブリーを形成する過程での中間体でもある可能性を示唆する。また、従来からの証拠、特にインビトロにおいてインキュベーション期間の初期に可溶性Aβアセンブリーが形成され、その後しばしば成熟したフィブリルが出現すること(非特許文献2、10)やある種のAβフィブリル生成の阻害剤がAβオリゴマー生成を強力にブロックすること(非特許文献24)は、可溶性Aβアセンブリー及びプロトフィブリルが、アミロイドフィブリル形成の中間体として形成されることを示唆している。
【0024】
しかし、上記のように、本発明のTAβは一般にアミロイドフィブリル形成に必要とされるGM1ガングリオシド濃度よりも低い濃度のGM1ガングリオシドの存在下で好適に形成されること、及び後述するようにTAβ形成はアミロイドフィブリル形成の種(GM1ガングリオシドとAβとが1分子ずつ結合したもの)に対して特異的な抗体によって阻害されないこと等から、TAβが、アミロイドフィブリル形成を直線的にもたらす経路とは異なる経路を介して形成されることが示されている。
【0025】
本発明のTAβは、上記のような条件下でのインキュベーション後に好適に形成され、インキュベーション混合物中に含まれる。本発明のTAβが形成されるのに好ましい条件下ではフィブリル(不溶性アセンブリー)はほとんど又は全く形成されないと考えられるが、必要であれば、このインキュベーション混合物を例えば540,000×g、15分間又は同等の条件で遠心分離して上清を回収することにより、本発明のTAβを濃縮又は部分精製することができる。ここで「同等の条件」とは、指定された条件での遠心分離と実質的に同じ分離をもたらす条件を指す。また、回収された上清をさらにサイズ排除クロマトグラフィに供し、TAβを含む画分を回収することにより、TAβをさらに精製することができる。
【0026】
後述するように、本発明のTAβは、少なくとも、ラット一次培養ニューロン;ネイティブな又はNGF処理により分化させたPC12細胞、ヒト脳微小血管(microvascular)内皮(hBME)細胞、ヒト脳星状膠細胞(hAST)、ヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y(SY5Y)細胞、ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞、マウス単球RAW264.7(RAW264)細胞を含む培養細胞(非ニューロン細胞を含む)に対して、アポトーシス様の特徴を呈する細胞死を誘導することができる。したがって、本発明のTAβの存在は、例えばこのようなインキュベーション混合物又はその遠心上清もしくは画分をこれらのTAβ感受性の培養細胞に添加して、細胞死が誘導されるか否かを調べることにより、確認することができる。細胞の生死の判定は、公知の方法、例えば後述するような公知の色素による染色や乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイ等により、容易に行なうことができる。
【0027】
本発明のTAβは、その毒性の強さに最大の特徴を有する。一例として、後述するPC12N細胞を本発明のTAβ(Aβ濃度25μM)とともに37℃で48時間インキュベートした場合、LDH放出率(即ち、細胞をTriton−X100で溶解させ、全細胞中のLDHを放出させた場合のLDH放出量に対する、検体で処理した場合のLDH放出量の百分率)で判定して、少なくとも30%、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上のLDH放出率を示し、ほぼ完全に細胞を死に至らせることができる。なお、LDH放出率による細胞毒性の試験においては、細胞膜が壊れて細胞内から放出されたLDH量を指標としているが、アポトーシスによる細胞死の場合は細胞が死んでいてもしばらくは細胞膜が壊れない(例えば細胞の萎縮)ためにLDHが放出されないものがある。したがって、LDH放出率で約70%程度以上であれば細胞がほぼ全て死んでいる状態であり、上記のような本発明のTAβによるLDH放出率は非常に高いものである。
【0028】
また、後述する方法でラット一次培養ニューロンを本発明のTAβ(Aβ濃度25μM)とともに37℃で48時間インキュベートし、色素染色により細胞の生死を判定した場合、生存ニューロンの数は、本発明のTAβを含まない対象培養物と比較して75%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下、最も好ましくは20%以下となる。
【0029】
本発明のTAβのこの毒性は、A11抗オリゴマー抗体(anti-Oligo)によって抑制される。A11抗体は、アミロイド形成性タンパクのオリゴマーに対して特異的な抗体であり、例えば可溶性のAβ40オリゴマーとは反応するが、可溶性の単量体Aβ40又はAβ40フィブリルとは反応しない。
【0030】
本発明のTAβは、不溶性であるアミロイドフィブリル又は公知の他の可溶性アセンブリーとは全く異なる形態を有する。例えば、本発明のTAβは通常の電子顕微鏡によって観察されない一方、原子力間顕微鏡により、直径約10〜約20nmの球状粒子として見える構造を含む。ここでいう直径は、原子力間顕微鏡(AFM)の原理に従い、試料から得られる高低差をもって長さとするものであり、断面解析法によって測定されたものである。
【0031】
また、本発明のTAβは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)ではバンドを形成せず、サイズ排除クロマトグラフィによる分子量測定では約200〜約300kDaにピークを有する。さらに、TAβ中にGM1ガングリオシドは検出されない。アミロイドフィブリル形成の種に対する抗体(4396C、非特許文献25)は、アミロイドフィブリル形成を阻害するが、本発明のTAβの生成はこの抗体によって阻害されない。
【0032】
したがって、本発明のTAβは、ADDL等の公知のオリゴマーや公知のフィブリルとは明らかに異なるものである。
【0033】
TAβは、インビボにおいても形成され、病理学的な役割を有していると考えられる。本発明のTAβは、シナプトソーム、特に老化したマウス脳の海馬由来のシナプトソームの存在下で有意に形成される。このことは、シナプトソーム中のGM1ガングリオシドの密度は年齢及びアポリポタンパク質E4の発現に伴って増大するという本発明者らの最近の観察(非特許文献27)とともに、インビボで、特にAD発症のリスク因子と関連した海馬のような脳の特定の領域において、TAβが形成され得ることを示唆している。また、TAβのような可溶性Aβアセンブリーは、インビボにおいてADにおけるコリン作用性基底前脳におけるNGF依存性ニューロンの喪失の原因となると考えられる。
したがって、TAβの毒性を低減又は阻止する物質は、ADのようなアミロイド関連疾患の予防又は治療において重要である。
【0034】
本発明のTAβは、その特性(例えば毒性)に影響を与える物質をスクリーニングするために使用することができる。例えば、本発明のTAβに対して感受性の培養細胞を、本発明のTAβ及び被検物質の存在下でインキュベートした後、培養細胞の生死を測定することにより、被検物質がTAβの特性に影響を与えたか否かを調べることができ、所望の影響を与える物質を同定することができる。
【0035】
ここで使用される培養細胞としては、TAβに対して感受性のものであればよく、一次培養であっても樹立された株細胞であってもよい。例としては、上述したようなTAβによって細胞死を誘導される細胞が挙げられるが、これらに限らない。
【0036】
被検物質としては、特に制限はなく、一般的には低分子化合物、ペプチド、タンパク質(抗体及びそれらの改変物を含む)、核酸(一本鎖又は二本鎖の高分子又は低分子DNA又はRNA等)、植物・動物等の抽出物等の混合物、ウイルス・細菌等の微生物等が挙げられる。
【0037】
細胞の生死は上述のように公知の方法で測定することができる。被検物質を含まない状態でインキュベーションを行なった場合の結果と比較して、被検物質を含む場合に細胞死が増大しているのであれば、その被検物質はTAβの毒性を増強する可能性があり、細胞死が低減しているのであれば、その被検物質はTAβの毒性を抑制する作用を有すると判定することができる。なお、前者の場合にその被検物質が固有の毒性を有するかどうかは、別途その被検物質の存在下でTAβの不存在下で同様の試験を行なうことにより調べることができる。
【0038】
上記のようなスクリーニングによって、TAβの毒性を抑制する作用を有すると判定された物質は、医薬候補物質として選択することができる。
【0039】
本発明のTAβは、NGFレセプターに対してNGFと競合的に結合する。即ち、本発明のTAβにより誘導される細胞死は、NGFの存在下では有意に抑制される。また、NGFレセプターp75NTR及びTrkAのいずれかのノックダウンによっても、TAβにより誘導される細胞死が顕著に抑制される。これを利用して、TAβの毒性を抑制する化合物をスクリーニングすることができる。
【0040】
この方法においては、上記と同様に、本発明のTAβに対して感受性の培養細胞を、本発明のTAβ及び被検物質の存在下でインキュベートした後、培養細胞の生死を測定することにより、TAβの毒性を抑制する化合物を同定することができる。この場合、被検物質を含まない状態でインキュベーションを行なった場合の結果と比較して、被検物質を含む場合に細胞死が低減しているのであれば、その被検物質はNGFレセプターへのTAβの結合を抑制する可能性があると判定することができる。
【実施例】
【0041】
I.可溶性毒性Aβアセンブリー(TAβ)の製造
1.Aβ溶液
合成Aβ(Aβ1−40)(野生型、アークティック型ともペプチド研究所にて合成、大阪、日本)を、500μMの濃度となるように0.02%アンモニア溶液に溶解した。この溶液を、「Optima TL」(商品名、Beckman, USA)超遠心機を用いて540,000×gで3時間遠心分離して、種として作用し得る不溶性のペプチドを除去した。得られた上清(以下「種無含有Aβ溶液」ともいう)を集め、アリコートに小分けして使用時まで−80℃で保存した。
使用の直前に、アリコートを融解し、トリス緩衝生理食塩水(TBS:150mM NaCl及び10mM Tris−HCl、pH7.4)で希釈した。
【0042】
2.リポソームの調製
リポソームの調製のためには、コレステロール(シグマ社、カタログ番号:C8667)、スフィンゴミエリン(シグマ社、カタログ番号:S7004)、及びGM1ガングリオシド(マトレア社、カタログ番号:1061)を、50:50:0、45:45:10、42.5:42.5:15、又は40:40:20のモル比で、合計脂質濃度が15mMになるように(即ち、GM1ガングリオシド濃度はそれぞれ0mM、1.5mM、2.25mM、又は3.0mM)クロロホルム/メタノール(1:1、容量比)溶液中に溶解した。したがって、リポソームを構成する全脂質分子の中でのGM1ガングリオシドの割合は、それぞれ0%、10%、15%、20%であった。この脂質混合物溶液を86μLずつガラスチューブに分注し、窒素ガス(40℃)を1時間吹き付けて溶媒を蒸発させた。この脂質混合物を使用時まで−80℃で保存した。
【0043】
使用直前に、各ガラスチューブに100μLのTBS(pH7.4)を加えて脂質混合物をTBS中に再懸濁させ、この懸濁液を、凍結融解を10回繰り返した後、ソニケーター(TOMY UD-201、output=2、continuous mode)で5分間、3回超音波処理に供した。この操作により、脂質混合物が直径約500μm以下程度の均一な球状のリポソームとなった。
【0044】
3.Aβとリポソームとのインキュベーション(TAβの調製)
上記1.で調製した種無含有Aβ溶液を希釈し、上記2.の各リポソーム含有TBS溶液を10倍希釈になるように添加して、37℃で2時間(比較のために24時間でも行なった)インキュベートした。このインキュベーション混合物における終濃度は、Aβが50μM、リポソーム濃度(合計脂質濃度)が1250μM(そのうち、GM1ガングリオシド濃度は0μM、125μM、187.5μM、又は250μM)であった。
【0045】
II.TAβの特徴づけ
上記で調製した種無含有Aβ(Aβ1−40)溶液(野生型又はアークティック型)とGM1ガングリオシド含有リポソームとの種々のインキュベーション混合物を用いて、TAβの神経毒性、形態等の特徴づけを行なった。
【0046】
1.一次培養ニューロンに対する神経毒性試験
一次培養ニューロンとして、大脳皮質ニューロンを、Sprague-Dawleyラット17日胚から調製し、Dulbecco’s modified Eagle medium nutrient 混合物(商品名;Invitrogen社、カタログ番号:12800−017)及びN2サプレメント(「N2-supplement」(商品名;Invitrogen社、カタログ番号:17502−048)からなる無血清培地中で培養した(5%CO、37℃、加湿下)。
【0047】
この一次培養ニューロン(細胞数1.5×10個/well)を、上記の各インキュベーション混合物で処理した(インキュベーション混合物:培地=1:1、Aβ濃度25μM、処理時間は48時間)。ニューロンを、カルセインAM(calcein AM, Invitrogen, Carlsbad, CA)・エチジウムホモダイマーで染色した。これにより生細胞は緑色、死細胞は赤色にそれぞれ染色される。
【0048】
結果を、図1、パネル(A)及び(B)に示す。
パネル(A)は、GM1ガングリオシド含量0%(上段)、10%(中段)、20%(下段)のリポソームを含む、Aβを含まない(左列)又は野生型(「wild」)Aβ(中央列)もしくはアークティック型(「Arctic」)Aβ(右列)を含むインキュベーション混合物(37℃、2時間)で処理した細胞の光学顕微鏡写真を表す。右下のバーは50μmである。
【0049】
パネル(B)は、示した条件下でGM1ガングリオシドの存在下又は不存在下で50μM(インキュベーション混合物中の終濃度)で37℃、2時間プレインキュベートされた野生型又はアークティック型のAβで処理された、生存している一次培養ニューロンの数を示す。各カラムは、AβもGM1ガングリオシドも含まない対照培養物(GM1 0%、Aβ(−))に対するパーセンテージの3つの値の平均値(±SD)であり、*はP<0.0001を表す。
【0050】
これらの結果から、10%のGM1ガングリオシドを含むリポソームの存在下で37℃で2時間プレインキュベートされたアークティック型Aβで処理された培養において、非常に顕著なニューロン死が観察された。したがって、以降の実験においては、この条件下で形成されたTAβを基本的に用いた(即ち、特にそれと異なる条件を示していない限り、この条件下で形成されたTAβである)。
【0051】
2.神経成長因子(NGF)で分化させたPC12細胞に対する毒性試験
ラットのクロム親和性細胞腫(pheochromocytoma)PC12細胞を、10%熱非働化ウマ血清(Invitrogen)及び5%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)(商品名、Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養した。
【0052】
PC12細胞を、ポリ−L−リジンでコーティングした(10mg/mL)2cm2ディッシュに20,000細胞/cm2の密度で播き、100ng/mL神経成長因子(NGF; Alomone Labs, Jerusalem, Israel)を添加したDMEM中で6日間培養し、分化させた(以下「PC12N」細胞ともいう)。
【0053】
この細胞を一次培養ニューロンの代わりに用いて、上記と同様に、インキュベーション混合物で処理し、細胞を観察した。
【0054】
結果を図1、パネル(C)に示す。この図において、右端(Aβ(+)/GM1(+))は、GM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームの存在下で37℃で2時間プレインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物で処理した細胞である。同様に、中央左(Aβ(+)/GM1(−))はAβのみ、中央右(Aβ(−)/GM1(+))はGM1ガングリオシドのみ、左端(Aβ(−)/GM1(−))はTBSのみをそれぞれ含むインキュベーション混合物で処理した細胞である。
【0055】
NGF処理したPC12細胞もまた、GM1ガングリオシドの存在下でアークティック型Aβから形成された毒性のAβアセンブリーに対して感受性であることが確認された。以下の実験においては、主にPC12N細胞を用いた。
【0056】
3.ThTアッセイ
チオフラビンT(ThT)は、アミロイドフィブリル構造を特異的に認識する。インキュベーション混合物中のアミロイドフィブリル構造の有無又は量を調べるために、上記の各インキュベーション混合物のThT蛍光強度を、分光蛍光光度計(RF-5300PC)(島津、京都、日本)を用いて測定した。アミロイドフィブリルの至適蛍光強度は、励起及び発光波長をそれぞれ446nm及び490nmとして、5μM ThT及び50mM グリシン−NaOH(pH8.5)を含む1.0mLの反応混合物(インキュベーション混合物10μlを含む)を用いて測定した。蛍光強度は、反応混合物を調製した直後に測定した。
【0057】
結果を図2、パネル(A)に示す。この図は、GM1ガングリオシド含量0%、10%、20%のリポソームを含むAβなし(「Aβ(−)」;白抜き)、野生型Aβ(「wild」;斜線)、アークティック型(「Arctic」;黒塗り)のインキュベーション混合物についての結果である。
【0058】
ThTの蛍光強度は、神経毒性の強さと一致せず、強い神経毒性を示したアークティック型Aβ及びGM1ガングリオシド(10%)を含むインキュベーション混合物において低いレベルのままであった。したがって、この結果から、高い神経毒性を示すAβアセンブリーがアミロイドフィブリルではないことが示された。
【0059】
4.乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイ
上記2.の実験におけるのと同様にしてPC12N細胞を用意した。
PC12N細胞を、上記I.と同様にして調製した各インキュベーション混合物で処理した(細胞数1.5×10個/well、37℃、処理時間48時間、インキュベーション混合物:培地=1:1)。
【0060】
これらの細胞の培地をサンプルとして、「LDH assay toxicity kit」(商品名、Promega, Madison, WI)を用いてLDHアッセイを行なった。各サンプル中のLDH放出の程度は、「Emax precision」(商品名、Molecular Devices Corp., Sunnyvale, CA)マイクロプレートリーダーを用いて490nmでの吸収を測定することによって評価した。バックグラウンドの吸光度は、細胞を含まないウェルを用いて測定し、各テストサンプルの吸光度から引き算した。キットに添付の指示書にしたがって、3つのウェルで測定した吸光度を平均し、細胞内のLDH放出を誘発するために1%Triton X−100で処理した各テストサンプルについての測定値で割って、LDH放出率(%)を算出した。
【0061】
その結果を、図2、パネル(B)に示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示し、*は、p<0.0001(one-way ANOVA combined with Scheffe’s test)を表す。カラムは、GM1ガングリオシド含量0%、10%、20%のリポソームを含むAβなし(「Aβ(−)」、即ちTBSのみの対照;白抜き)、野生型Aβ(「wild」;斜線)、アークティック型(「Arctic」;黒塗り)である。アークティック型Aβについては、2時間のインキュベーションの場合、10%又は15%のGM1を含むリポソームの存在下で細胞死を起こす毒性が見られた。一方、野生型Aβについては、2時間のインキュベーションではほとんど毒性が示されず、24時間のインキュベーションの場合により高濃度(15%又は20%)のGM1ガングリオシドの存在下で毒性が見られた。
【0062】
最も強い毒性を示した、GM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームの存在下で37℃で2時間インキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物を、540,000×g、15分、4℃で超遠心して上清及び沈殿物をそれぞれ回収した。これらの上清、沈殿物及び遠心前のインキュベーション混合物の各々を用いて、上記と同様にLDH放出アッセイを行なった。比較のため、Aβのみ(Aβ+/GM1−)、GM1ガングリオシドのみ(Aβ−/GM1+)、TBSのみ(Aβ−/GM1−)についても同様にインキュベーション混合物を調製してLDHアッセイを行なった。
【0063】
結果を図2、パネル(C)に示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示し、*は、p<0.0001を表す。GM1ガングリオシド存在下でインキュベートされた遠心前のAβインキュベーション混合物(「whole」)が示した毒性は、超遠心によって得られた上清(「sup」)中のみに回収され、沈澱物(「ppt」)は毒性をほとんど示さなかった。
【0064】
これらの結果から、アークティック型及び野生型Aβから、それぞれ好適な濃度のGM1ガングリオシドの存在下で形成されたアセンブリーが、毒性の可溶性Aβアセンブリーであることが示された。
【0065】
5.SDSゲル電気泳動(SDS−PAGE)
TAβの生物物理学的及び構造的特徴を決定するために、TAβを含むインキュベーション混合物のSDS−PAGEを行なった。Schagger et al., Analytical Biochemistry Vol. 166, 368-379, 1987に記載の方法に基づいて、陽極バッファーを0.2M トリス(pH8.9)、陰極バッファーを0.1M トリス−0.1M トリシン−0.1% SDS緩衝液として、4〜20%ポリアクリルアミドゲル(第一化学ミニゲル)を使用し、40mA(定流)で30分間泳動した。このゲルをニトロセルロース紙に60mAで1時間ブロットし、Aβを認識するモノクローナル抗体(6E10、Signet Laboratories (Dedham, MA))を検出用に用いてウェスタン・ブロットを行なった。
【0066】
しかし、バンドは全く検出されなかった。これは、可溶性Aβアセンブリーは、細胞培養中のある種のオリゴマー(非特許文献1)を除き、架橋されていない(非特許文献21、22)場合、変性ゲル電気泳動で解離(disaggregated)する(非特許文献3)という従来の知見と一致した。
【0067】
6.ドット・ブロット解析
次に、アークティック型Aβのみ、GM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームのみ、又はアークティック型Aβ及びGM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームをそれぞれ含むインキュベーション混合物の上記と同様の条件での超遠心によって得られた上清(「sup」)を用いて、非特許文献23の方法によりドット・ブロット解析を行なった。比較のため、遠心前のインキュベーション混合物(「whole」)も同様に用いた。
【0068】
各サンプルをドットしたニトロセルロース紙(ブロット)を、抗オリゴマー抗体「anti-Oligo」(Biosource Inc., Camarillo, CA)又はHRP結合コレラトキシンサブユニットB「CTX」(Sigma, St. Louis, MO)と反応させた。反応条件は4℃で一晩、検出方法としてECL(化学発光)を用いた。なお、CTXはGM1ガングリオシドと特異的に反応する天然のリガンドである。
【0069】
結果を図3、パネル(A)に示す。アークティック型Aβ及びGM1ガングリオシド(10%)含有リポソームを含むインキュベーション混合物中のTAβは、anti-Oligoによって容易に認識されたが、CTXとの反応性は上清中に回収されなかった。したがって、TAβはGM1ガングリオシドを含まないと考えられる。
【0070】
7.抗オリゴマー抗体によるTAβ毒性の抑制
TAβ毒性に対する抗体の影響を調べるために、上記4.の実験と同様に、上記I.と同様に調製したインキュベーション混合物(10% GM1ガングリオシド(125μM)+50μM アークティック型Aβ)を用いて、0.3μM濃度のanti-Oligo抗体とともに37℃で120分間プレインキュベーションした後、PC12N細胞でLDH放出アッセイを行なった。対照として、anti-Oligoの代わりにIgGを用いた。
【0071】
結果を図3、パネル(B)に示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示し、*は、p<0.0001を表す。TAβの毒性、即ち、PC12N細胞からのTAβ誘導LDH放出は、インキュベーション混合物をanti-Oligoとプレインキュベーションすることによって有意に抑制された。
【0072】
8.電子顕微鏡による形態観察
電子顕微鏡での観察は以下のようにして行なった。サンプルを水で希釈し、カーボンコーティングしたグリッド上に拡げた。このグリッドを、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色し、加速電圧100kVで透過型電子顕微鏡(JEM-2000EX、JEOL、東京、日本)で観察した(倍率:50,000倍)。比較のため、非特許文献17に記載された方法にしたがってプロトフィブリルを調製して同様に観察した。
【0073】
結果を、図4、パネル(A)に示す。パネル(A)において、左側(「A」)は、プロトフィブリル形成可能なように非特許文献17の方法でインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物、右側(「B」)は、TAβを含有するインキュベーション混合物(GM1(10%)、アークティック、37℃、2時間)の電子顕微鏡写真(右下のバーは100μm)である。
【0074】
「A」においてプロトフィブリルの典型的な構造が観察された。これに対し、「B」においては確実な構造は観察されなかった(丸く見えるのはリポソームである)。したがって、本発明のTAβは、以前に報告されたとおりに調製されたプロトフィブリル(非特許文献17)が容易に検出可能な条件下で、電子顕微鏡によって観察されなかった。
【0075】
9.原子力間顕微鏡(AFM)による形態観察
AFMでの評価は、非特許文献1に記載されたとおりに行なった。GM1ガングリオシドのみ又はAβのみを含むインキュベーション混合物、又は両者を含むインキュベーション混合物を540,000×g、15分、4℃で超遠心した後の上清(「Aβ+GM1」;GM1(10%)、アークティック、37℃、2時間)の各サンプルを新たに切断した雲母の上に滴下した。3分間放置した後、水で洗浄し、サンプルを、tapping modeに設定した「Nanoscope IIIa」(商品名、Digital Instruments, Santa Barbara, CA, USA)を用いて(非特許文献2)溶液中で評価した。カンチレバーとして「OMCL-TR400PSA」(商品名、Olympus, Japan)を使用した。共鳴周波数(resonant frequency)は約9kHzであった。振幅(amplitude)範囲は0.1Vであった。
【0076】
結果を図4、パネル(B)に示す。右下のバーは200nmである。電子顕微鏡を用いた場合と異なり、AFMを用いた場合には、直径約10〜約20nmの球状粒子が、棒状構造物と共に、TAβを含むインキュベーション混合物の超遠心によって得られた上清(「Aβ+GM1」)中に観察された。アークティック型Aβのみ(左上)又はGM1ガングリオシド(10%)のみ(左下)を含むインキュベーション混合物の上清には、確実な構造は何も観察されなかった。
なお、球状粒子の直径の測定は、上記「Nanoscope IIIa」及びそれに内臓されているソフトウェアを用いて行なった。
【0077】
10.サイズ排除クロマトグラフィによるTAβの分子量の測定
サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)及びanti-Oligoを用いたドット・ブロット解析によってTAβの分子の大きさを決定した。Aβのみ又は「Aβ+GM1」サンプル(10% GM1ガングリオシド及び50μM アークティック型Aβを37℃で2時間インキュベートした後、540,000×g、15分、4℃の超遠心を行なって得た上清を、流速0.5mL/minでPBS(pH7.4)で平衡化した「Superose 12」(商品名)サイズ排除カラム(1cm×30cm、Pharmacia Biotech., Uppsala, Sweden)に適用した。1mLずつの35個のフラクションを集めて、前記6.と同様にしてanti-Oligoを用いたドット・ブロットにより解析した。35のフラクションの溶出サンプルをニトロセルロース膜上にドットした。このブロットを、anti-Oligo抗体と反応させた。
【0078】
結果を図4、パネル(C)に示す。左側がサンプルとしてAβのみ、右側が「Aβ+GM1」の遠心後上清を用いた結果である。フラクション2及び4は、それぞれTAβ及びモノマーAβを含むフラクションに相当する。
anti-Oligoとの免疫反応性は、「Aβ+GM1」サンプルにおいて、相対分子量約200〜約300kDaの単一ピークとして回収された。これは、アークティック型Aβから形成される、アミロイドポア(非特許文献18)と呼ばれるある種の可溶性Aβアセンブリーと同様であった。しかし、アミロイドポアは中央部にできた穴のような構造を有し、写真上はドーナツのように見えるのに対し、TAβにはポアは観察されなかった。
【0079】
11.アミロイドフィブリル形成の種に対する抗体によるTAβ形成の阻害
アミロイドフィブリル形成のための種に対して特異的なモノクローナル抗体(4396C)(非特許文献25)によってTAβ形成が阻害されるかどうかを調べた。
【0080】
0、0.3、1又は3μMの4396C又は抗Aβモノクローナル抗体(4G8)と共にGM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームの存在下で50μM(インキュベーション混合物中の終濃度)で37℃で2時間インキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物のThT蛍光強度を、上記と同様にして調べた。
【0081】
結果を図5、パネル(A)に示す。抗Aβモノクローナル抗体(4G8)は、ThT蛍光強度に影響しなかったが、4396C抗体が共存すると濃度依存的にThT蛍光強度が低減し、4396C抗体はアミロイドフィブリル形成を阻害することが確認された。
【0082】
また、0.3μMの4396C抗体の存在下又は不存在下で、GM1ガングリオシド(10%)を含むリポソームの存在下でプレインキュベートされた(37℃、2時間)アークティック型Aβで処理されたPC12N細胞を用いて、上記と同様にLDH放出アッセイを行なった。対照としてIgG 2a(シグマ社、カタログ番号:M9144)を用いた。
【0083】
結果を図5、パネル(B)に示す。4396C抗体は、TAβ生成を阻害しなかった。
【0084】
12.シナプトソーム存在下でのTAβの形成
天然のニューロン膜の存在下でTAβが形成され得るかどうかをテストした。
シナプトソームは、以前報告されたとおりに調製した(非特許文献3)。3つの異なる年齢群(1ヵ月、1年、2年)のマウス脳の海馬又は海馬を除いた脳全体を、0.25mM EDTAを含有する0.32Mショ糖緩衝液中でホモジナイズした。このホモジネートを、580×gで8分間遠心分離した。その上清を、145,000×gで20分間遠心分離した。得られたペレットを、EDTA無含有の0.32Mショ糖緩衝液中に懸濁させ、ショ糖緩衝液中のFicoll(商品名、シグマ社)上に重層した。87,000×gで30分間遠心分離した後、シナプトソームが濃縮された界面を採取し、これを再度遠心分離して残存するFicollを除いた。
【0085】
アークティック型Aβを、マウス脳から調製したシナプトソームの存在下でインキュベートした。アークティック型Aβを、50μM(インキュベーション混合物中の終濃度)で37℃で2時間、調製された各シナプトソーム(100μg/mL protein)の存在下又は不存在下で、GM1ガングリオシドに対して特異的な抗体(「anti-GM1」)又はanti-Oligo抗体(0.3μM)と共に又はそれらなしに、プレインキュベートした(37℃、2時間)。対照としてIgGを用いた。
【0086】
TAβ形成を、これらのインキュベーション混合物で処理されたPC12N細胞培養物における上記と同様のLDH放出アッセイによって評価した。
【0087】
結果を図6に示す。「Wh」は海馬を除いた全脳、「Hp」は海馬由来のシナプトソームである。各カラムは、4つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001、**はp<0.005を表す。TAβ形成のレベルは、老化した(2歳)マウスの海馬から調製されたシナプトソームを含むインキュベーション混合物において、他のすべてのインキュベーション混合物(より若い(1ヶ月及び1歳)マウス脳の海馬又は海馬を除いた全脳からのシナプトソームを含むものなど)よりも有意に高かった。
【0088】
13.核染色による観察
TAβの驚くべき特徴は、その強い毒性である。TAβによって誘導された細胞死を特徴づけするために、核透過性色素であるHoechst 33258(商品名)を用いてTAβを含むインキュベーション混合物(50μM アークティック型Aβ及び10% GM1ガングリオシド、37℃、2時間)で12時間処理された(細胞数1.5×10個/well、インキュベーション混合物:培地=1:1)PC12N細胞の核染色を行なった。
【0089】
処理後のPC12N細胞の写真を図7、パネル(A)に示す(バーは50μm)。a及びbは位相差顕微鏡像、c及びdは核染色像である。上記TAβを含むインキュベーション混合物で12時間処理されたPC12N細胞(b及びd)は、退縮した(retracted)神経突起、萎縮した細胞体、核の凝縮(condensation)及び断片化(fragmentation)などを含むアポトーシス様の変化の特徴(図中に矢印で示す)を示した。
【0090】
14.種々のタイプの培養細胞に対するTAβ毒性
種々のタイプの培養細胞をTAβで処理し、TAβに対する細胞の感受性を調べた。
上記のPC12細胞及びPC12N細胞のほか、以下の細胞を使用した。ヒト脳微小血管内皮(hBME)細胞及びヒト脳星状膠細胞(hAST)(いずれもDainippon Pharmaceutical Inc.、大阪、日本)は、コラーゲンでコーティングしたフラスコ中でCS−C培地(Dainippon Pharmaceutical Inc.)で培養した。ラット星状膠細胞(rAST)は、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地で培養した。ヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y(SY5Y)細胞は、10%FBSを添加したDMEM/Ham’s F−12培地中で培養した。ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞は、10%FBSを添加したDMEM中で培養した。マウス単球RAW264.7(RAW264)細胞は、Dainippon Pharmaceutical Inc.から購入した。RAW264細胞は、10%FBSを添加したDMEM中で培養した。ラージT抗原で不死化されたマウス線維芽細胞(「fibroblast」)は、10%FBSを添加したDMEM中で培養した。すべての細胞は、5%CO、37°Cで加湿して培養した。
【0091】
TAβを含むインキュベーション混合物(50μM アークティック型Aβ及び10% GM1ガングリオシド、37℃、2時間)で各細胞を上記と同様に処理(細胞数1.5×10個/well、37℃、48時間、インキュベーション混合物:培地=1:1)し、LDH放出アッセイを行なった。
【0092】
結果を図7、パネル(B)に示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示し、*は、Aβのみを含むインキュベーション混合物で処理した場合の値に対してP<0.0001を表す。ネイティブなPC12細胞を含む非ニューロン細胞もまた、TAβに対して感受性であった。
【0093】
15.NGFレセプターに対するTAβの結合
TAβがNGFレセプターを介してアポトーシスを誘導するか否かを調べるために、外来性NGFの存在下でPC12N細胞及びネイティブなPC12細胞をTAβで処理した。PC12N細胞及びPC12細胞(細胞数1.5×10個/well)に100ng/mLのNGFを添加し、上記と同様にTAβを含むインキュベーション混合物(50μM アークティック型Aβ及び10% GM1ガングリオシド、37℃、2時間)で各細胞を処理し、LDH放出アッセイを行なった。
【0094】
結果を図8、パネル(A)に示す。両方の培養物において、NGFが存在する場合に、細胞死の程度は有意に抑制された。したがって、TAβはNGFレセプターに対して競合的に結合することが示された。
【0095】
16.TrkA又はp75NTRのsiRNA媒介性ノックダウンによるTAβ毒性の抑制
特異的スモールインターフェアリングRNA(siRNA)を用いてTrkA及びp75NTRをノックダウンした。
【0096】
PC12細胞TrkA(GenBank no. NM_021589)及びp75(GenBank no. NM_012610)に対する「Stealth」(登録商標)スモールインターフェアリングRNA(siRNA)二本鎖オリゴヌクレオチドを、Invitrogen社(Carlsbad, CA)で合成した。siRNA配列は、以下のとおりであった:
rTrkA−siRNA(ポジション1370)
センス=5’−GCCCUCCUCCUAGUGCUCAACAAAU−3’;
アンチセンス=5’−AUUUGUUGAGCACUAGGAGGAGGGC−3’;
rTrkA−siRNA−コントロール
センス=5’−GCCCUCCGAUCUCGUCAACAUCAAU−3’;
アンチセンス=5’−AUUGAUGUUGACGAGAUCGGAGGGC−3’;
rp75−siRNA(ポジション1212)
センス=5’−CAGCCUGAACAUAUAGACUCCUUUA−3’;
アンチセンス=5’−UAAAGGAGUCUUAUAUGUUCAGGCUG−3’;
rp75−siRNA−コントロール
センス=5’−CAGGUAAACAUAUAGUCCCUCCUUA−3’;
アンチセンス=5’−UAAGGAGGGACUAUAUGUUUACCUG−3’。
【0097】
これらのsiRNAオリゴヌクレオチド(RNA量20pmol)を、製品添付のプロトコールにしたがって「LipofectAMINE 2000」(商品名、Invitrogen)を用いてPC12細胞(細胞数1.5×10個/well)にトランスフェクトした。
【0098】
TrkA又はp75NTRに対するsiRNAで処理した後、これらのPC12細胞を、上記と同様にTAβを含むインキュベーション混合物(50μM アークティック型Aβ及び10% GM1ガングリオシド、37℃、2時間)で処理し、LDH放出アッセイを行なった。
【0099】
各細胞におけるTrkA及びp75NTR発現レベルの低減は、それぞれ抗TrkA(Santa Cruz社)及び抗p75NTR(NeoMarker社)抗体を用いた細胞ライセートのウェスタン・ブロット解析(7.5%及び4〜20%ポリアクリルアミドゲル(第一化学ミニゲル)を使用、40mAで1時間泳動し、その後、120mA、2時間ブロットした)によって確認した。
【0100】
結果を図8、パネル(B)に示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示し、*は、p<0.0001を表す。p75NTRだけでなく、TrkAのノックダウンも、TAβにより誘導される細胞死を顕著に抑制した。
これらの結果から、TAβは、p75NTR又はTrkAに結合することによりヘテロメリックTrkA/p75NTR複合体の機能を混乱させ、その結果、p75NTR分子の細胞質部分の死に関与するドメインの活性化を通じてアポトーシスがもたらされることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、GM1ガングリオシドの存在下で形成された可溶性Aβアセンブリーの毒性を示す図である。 パネル(A): 無血清N2サプレメント培地(N2-supplemented meddium)中で培養された一次大脳皮質ニューロンを、リポソーム中のGM1ガングリオシド(0、10又は20モル%)の存在下又は不存在下で37℃で2時間プレインキュベートされた、最終濃度25μMの種無含有の野生型又はアークティック型Aβ(Aβ1−40)を含むインキュベーション混合物で処理した。ニューロンを、カルセインAM(Invitrogen, Carlsbad, CA)・エチジウムホモダイマーで染色した写真である。緑色が生細胞、赤色が死細胞をそれぞれ表す。バーは50μm。 パネル(B): 示した条件下でGM1ガングリオシドの存在下又は不存在下で37℃、2時間プレインキュベートされた野生型又はアークティック型のAβで処理された、生存している一次培養ニューロンの数を示す図である。ニューロンは、カルセインAM/エチジウムホモダイマー及びヨウ化プロピジウム(propidium iodine)で染色した。各カラムは、AβもGM1ガングリオシドも含まない対照培養物に対するパーセンテージの3つの値の平均値(±SD)を示す。*P<0.0001 パネル(C): GM1ガングリオシド(10%)の存在下又は不存在下で37℃で2時間プレインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物で処理されたPC12N細胞の代表的な像である。バーは50μm。
【図2】図2は、GM1ガングリオシドとAβを含むインキュベーション混合物中で毒性を示すものが可溶性アセンブリーであることを示す図である。 パネル(A): 示した条件下でGM1ガングリオシドの存在下又は不存在下で37℃でプレインキュベートされた野生型又はアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物で処理された一次培養ニューロンの培地中のThT蛍光強度を示す図である。カラムは、白=TBS(対照)、斜線=野生型、黒=アークティック型である。 パネル(B): 示した条件下でGM1ガングリオシドの存在下又は不存在下でプレインキュベートされた野生型又はアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物で処理されたPC12N細胞からのLDH放出率を示す図である。各カラムは、インキュベーション混合物での処理後のLDH放出量/Triton−X100での処理後のLDH放出量の(%)を表す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001(one-way ANOVA combined with Scheffe's test)を表す。カラムは、白=TBS(対照)、斜線=野生型、黒=アークティック型である。 パネル(C): GM1ガングリオシド(10%)の存在下でプレインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物(whole)の超遠心によって得られた上清(sup)及び沈澱物(ppt)で処理されたPC12N細胞からのLDH放出率を示す図である。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001を表す。
【図3】図3は、TAβの特性(抗体との反応性)を示す図である。 パネル(A): アークティック型Aβのみ、GM1ガングリオシド(10%)のみ、又はアークティック型Aβ+GM1ガングリオシド(10%)を含むインキュベーション混合物(whole)の超遠心によって得られた上清(sup)のドットブロット解析の結果を示す。ブロットは、anti-Oligo抗体(Biosource Inc., Camarillo, CA)又はHRP結合コレラトキシンサブユニットB(CTX(Sigma, St. Louis, MO)と反応させた。 パネル(B): anti-Oligoとの共インキュべーションによる、PC12N細胞からのTAβ誘導LDH放出の抑制を示す図である。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001を表す。
【図4】図4は、TAβの生物物理学的及び構造的解析を示す図である。 パネル(A): プロトフィブリル形成可能なようにプレインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物(A)又はTAβを含有するインキュベーション混合物(B)の電子顕微鏡写真である。バーは100μm。 パネル(B): TAβを含むフラクションのAFM像である。TAβを含むインキュベーション混合物を超遠心して得られた上清をAFM解析した。インキュベーション混合物はアークティック型Aβのみ(Aβ)、GM1ガングリオシド(10%)のみ(GM1)、又は両者(Aβ+GM1)を含んでいた。バーは200nm。 パネル(C): Superose 12 を用いたTAβ含有フラクションのサイズ排除クロマトグラフィの結果を示す図である。35のフラクションの溶出サンプルをニトロセルロース膜上にドットした。このブロットを、anti-Oligo抗体と反応させた。代表的な5つのフラクションを示す。フラクション2及び4は、それぞれTAβ及びモノマーAβを含むフラクションに相当する。免疫反応性は、約200〜約300kDaの見かけの分子量を有する単一のピーク(2)として回収された。
【図5】図5は、4396C抗体によるTAβ形成の抑制不能を示す図である。 パネル(A): 4396C又は抗Aβモノクローナル抗体(4G8)と共にGM1ガングリオシドの存在下で37℃でインキュベートされたアークティック型Aβを含むインキュベーション混合物のThT蛍光強度。 パネル(B): 4396C抗体の存在下又は不存在下で、GM1ガングリオシド(10%)の存在下でプレインキュベートされたアークティック型Aβで処理されたPC12N細胞からのLDH放出率。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*P<0.0001、ns:非有意。
【図6】図6は、シナプトソームの存在下でのアークティック型AβのインキュベーションによるTAβの形成を示す図である。 TAβ形成は、アークティック型Aβで処理されたPC12N細胞培養物におけるLDH放出アッセイによって評価した。Wh=海馬を除いた全脳、Hp=海馬。下にマウスの年齢を示す(1mo=1ヵ月、1yr=1年、2yrs=2年)。各カラムは、4つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001、**はp<0.005を表す。
【図7】図7は、PC12又はPC12N細胞に対するTAβの毒性の特徴を示す図である。 パネル(A): TAβを含むインキュベーション混合物で12時間処理されたPC12N細胞。a及びbは位相差顕微鏡像、c及びdはHoechst 33258核染色像。矢印は、核の凝縮(condensation)及び断片化(fragmentation)、細胞体の収縮及び神経突起の退縮を示す。バーは50μm。 パネル(B): 種々のタイプの培養細胞に対するTAβ毒性を示す図である。細胞生存率は、これらの培養物中でLDH放出アッセイによって評価した。PC12N=NGF処理されたP12細胞、PC12=ネイティブPC12細胞、SH−SY5Y=SH−SY5Y神経芽細胞腫、hBME=ヒト脳微小血管内皮細胞、HEK293=HEK293細胞、hAST=ヒト星状膠細胞、rAST=ラット星状膠細胞、RAW264.7=マウス単球、及びfibroblast=ラージT抗原で不死化されたマウス線維芽細胞。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*P<0.0001、対Aβのみを含むインキュベーション混合物で処理した場合の値。
【図8】図8は、TAβがNGFレセプターを介して細胞死を誘導することを示す図である。 パネル(A):外来性NGF(100ng/mL)の添加によるネイティブPC12細胞及びPC12N細胞に対するTAβ毒性の抑制を示す図である。TAβ毒性は、これらの細胞培養物においてLDH放出アッセイによって評価した。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*P<0.0001 パネル(B): NGFレセプター、TrkA又はp75NTRのsiRNA媒介性ノックダウンによるネイティブなPC12細胞に対するTAβ毒性の抑制を示す図である。 PC12細胞は、TrkA又はp75NTRに対するsiRNAで処理した後、TAβを含むインキュベーション混合物に暴露した。グラフはLDH放出アッセイの結果を示す。各カラムは、3つの値の平均値(±SD)を示す。*は、p<0.0001を表す。グラフの下の図は、TrkA及びp75NTR発現レベルの低減を確認した抗TrkA及び抗p75NTR 抗体を用いた細胞ライセートのウェスタン・ブロット解析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GM1ガングリオシドの存在下でインビトロで形成される可溶性毒性アミロイドβアセンブリーであって、
(a)サイズ排除クロマトグラフィによる見かけの分子量が約200〜約300kDaであること;
(b)原子力間顕微鏡観察による直径が約10〜約20nmである球状粒子を含むこと;
(c)検出可能なGM1ガングリオシドを含まないこと;及び
(d)培養細胞に対してアポトーシス様細胞死を誘導すること、
を特徴とするアセンブリー。
【請求項2】
アミロイドβが、野生型ペプチド又はアークティック型変異を有するペプチドである、請求項1記載のアセンブリー。
【請求項3】
可溶性毒性アミロイドβアセンブリーの製造方法であって、単量体アミロイドβを、脂質成分のモル比で約10〜約15%のGM1ガングリオシドを含むリポソームと共に約35〜約40℃で約1〜約30時間インキュベートする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
単量体アミロイドβが野生型ペプチドであり、インキュベーション時間が20〜30時間である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
単量体アミロイドβがアークティック型変異を有するペプチドであり、インキュベーション時間が1〜3時間である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項記載の製造方法によって製造された可溶性毒性アミロイドβアセンブリー。
【請求項7】
請求項1、2又は6記載の可溶性毒性アミロイドβアセンブリーを含む液体を、540,000×gで15分間又は同等の条件で遠心分離して、上清を回収することを特徴とする、可溶性毒性アミロイドβアセンブリーの精製方法。
【請求項8】
前記回収された上清を、さらにサイズ排除クロマトグラフィに供することを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の精製方法によって精製された可溶性毒性アミロイドβアセンブリー。
【請求項10】
可溶性毒性アミロイドβの毒性を調節する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(a)培養細胞を、請求項1、2、6又は9のいずれか1項記載の可溶性毒性アミロイドβアセンブリー及び被検物質の存在下でインキュベートする工程、
(b)前記工程(a)の後、前記培養細胞の生死を測定する工程、
(c)前記工程(b)で得られた結果を、被検物質を含まない状態で工程(a)を行なった場合の結果と比較する工程
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−320934(P2007−320934A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155632(P2006−155632)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】