説明

アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:Hx)膜の成膜方法、有機ELデバイスおよびその製造方法

【課題】比較的電子温度の低い高密度プラズマを用いた方法で、炭素−窒素(C−N)結合を含む炭化水素化合物を材料ガスとして、安定的に炭素−窒素(C−N)結合が含まれる欠陥の少なく特性の良いa−CN:H膜を形成し、a−CN:H膜を用いた有機デバイスを提供する。
【解決手段】C−N結合を含む炭化水素化合物と窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用いて発光層12の成膜を行い、発光層12の下部にホール注輸送層11、発光層12の上部に電子注入層13を形成し、アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜を発光層とした有機デバイスが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELデバイスの発光層として用いられるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法、該アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜を用いた有機ELデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物を用いて発光させる有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electro Luminescence)素子を利用した有機ELディスプレイが注目されている。有機EL素子は、自発光し、反応速度が速く、消費電力が低い等の特徴を有しているため、バックライトを必要とせず、例えば、携帯型機器の表示部等への応用が期待されている。
【0003】
有機EL素子の発光層としては様々な化合物材料が検討されており、薄膜発光デバイスの1つとしてアモルファスハイドロカーボンナイトライド膜(以下、a−CN:H膜と呼ぶ)が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、非特許文献2によれば、a−CN:H膜を発光層として用いることで、赤、緑、青の3色を発光させることが可能であり、この3原色により全ての色が発光させられると考えられる。なお、非特許文献1においては、平行平板型RFマグネトロン放電方式のプラズマCVD装置により、材料ガスとしてメタン(CH)ガスと窒素(N)を用いてa−CN:H膜を成膜するとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「高周波プラズマプロセスによる機能性窒化物薄膜の成膜とその応用」醍醐佳明、東京電機大学、2005
【非特許文献2】「Study of Amorphous Carbon Nitride Films Aiming at White LightEmitting Devices」Kunio Itoh and Yuta Iwano 、津山高専紀要 第49号、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の平行平板型RFマグネトロン放電方式のプラズマCVD装置によるa−CN:H膜の成膜においては、材料ガスである窒素ガスを活性化させ、炭素−窒素結合を形成するために、プラズマ中の電子温度が最大10eVと高いマグネトロン放電によるプラズマを用いて成膜を行うため、成膜された膜自体がダメージを負ってしまうという問題点があった。さらに、材料ガスであるメタンガス(CH)と窒素(N)をプラズマ中で反応させ、結合させるため、成膜されたa−CN:H膜中の炭素−窒素(C−N)結合の安定性にばらつきが生じ、膜中にダングリングボンドが生じるため、a−CN:H膜の特性が劣化してしまうという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、比較的電子温度の低い高密度プラズマを用いた方法で、炭素−窒素(C−N)結合を含む炭化水素化合物を材料ガスとして、安定的に炭素−窒素(C−N)結合が含まれる欠陥の少ない特性の良いa−CN:H膜を形成する成膜方法を提供し、さらに、該a−CN:H膜を用いた有機デバイスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、有機デバイスの発光層として用いられるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法であって、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスと窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜を行う、アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法が提供される。
【0008】
かかる成膜方法によれば、材料ガスの段階において既にC−N結合が含まれるものを使用するため、プラズマ中において高いエネルギー励起状態でCHとNを反応させC−N結合を形成させる必要がなく、安定的にC−N結合が含まれ、欠陥が少なく発光特性の良好なアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜が得られる。
【0009】
前記前記C−N結合を含む炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかであってもよい。また、プラズマの生成においてRLSA方式を用いることとしてもよく、前記有機デバイスは有機ELデバイスであってもよい。
【0010】
プラズマとしては、RLSA(ラジアルラインスロットアンテナ)方式によるものの他に、CCP(容量結合プラズマ)、ICP(誘導結合プラズマ)、ECRP(電子サイクロトロン共鳴プラズマ)、HWP(ヘリコン波励起プラズマ)等が挙げられるが、例えばICPとRLSAプラズマを比較すると、RLSAプラズマの電子温度はICPと比較して低い。そのため、成膜された膜自体にダメージが加わる可能性が低い。本発明においては、CHとNを反応させC−N結合を形成させる必要がないため、膜自体にダメージが加わる可能性の低いRLSAプラズマを利用することが好ましい。
【0011】
また、別の観点からの本発明によれば、有機デバイスの製造方法であって、
第1の導電性電極が形成された被処理体上にホール注輸送層を形成し、発光層であるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜を前記ホール注輸送層上に積層し、電子注入層を前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜上に積層し、第2の導電性電極を前記電子注入層上に積層し、前記被処理体、第1の導電性電極、前記ホール注輸送層、前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜、前記電子注入層、前記第2の導電性電極を覆うように封止する封止膜を積層する、有機デバイスの製造方法が提供される。
【0012】
前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜は、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスと窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜されてもよい。
【0013】
また、前記C−N結合を含む炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかであってもよく、また、プラズマの生成においてはRLSA方式を用いてもよく、このとき、プラズマを生成させる処理容器内にプラズマを励起させるプラズマ励起領域と、基板を処理する拡散プラズマ領域を設け、窒素もしくはアンモニアをプラズマ励起領域に導入し、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスを拡散プラズマ領域に導入してもよい。さらにまた、前記有機デバイスは有機ELデバイスであってもよい。
【0014】
また、別の観点からの本発明によれば、第1の導電性電極が形成されている被処理体上に形成されるホール注輸送層と、前記ホール注輸送層上に積層される発光層であるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜と、前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜上に積層される電子注入層と、前記電子注入層上に積層される第2の導電性電極と、前記被処理体、前記第1の導電性電極、前記ホール注輸送層、前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜、前記電子注入層、前記第2の導電性電極を覆うように封止する封止膜と、を備える有機デバイスが提供される。
【0015】
前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜は、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜されることとしてもよい。
【0016】
前記炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかであってもよく、また、プラズマの生成においてRLSA方式を用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的電子温度の低い高密度プラズマを用いた方法で、炭素−窒素(C−N)結合を含む炭化水素化合物ガスを材料ガスとして、安定的に炭素−窒素(C−N)結合が含まれる欠陥の少なく特性の良いa−CN:H膜を形成する成膜方法が実現され、さらに、該a−CN:H膜を用いた有機デバイスおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態にかかる有機デバイスの製造工程を示した説明図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる基板処理システムの説明図である。
【図3】本発明にかかる蒸着処理装置30の概略的な説明図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかるRLSA型プラズマ処理装置の説明図である。
【図5】本発明の他の実施の形態にかかるRLSA方式のマイクロ波プラズマ処理装置PM2’の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
まず、本発明の実施の形態にかかる有機デバイスの製造方法について、その概略構成を示した図1を参照しながら説明する。
【0021】
(有機デバイスの製造方法)
図1(a)に示したように、ガラス基板G上には予め陽極層として、例えばインジウムスズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)からなる第1の導電性電極(陽極)10が形成されていて、その表面をクリーニングした後、蒸着により第1の導電性電極10上に、例えばCuPe等の有機化合物であるホール注輸送層11が形成される。
【0022】
ついで、図1(b)に示したように、窒素を含む炭化水素ガスと、窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用いるか、またはC−N結合を含む炭化水素化合物を材料ガスとして用いた、RLSA(Radial Line Slot Antenna)方式のプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により、ホール注輸送層11上に発光層12(a−CN:H膜)が成膜される。
【0023】
次に、図1(c)に示したように、蒸着により発光層12上に、例えばPBD(2−(4−tert−Butylphenyl)−5−(4−biphenylyl)−1,3,4−oxadiazole)等である電子注入層13が形成される。
【0024】
ついで、図1(d)に示したように、スパッタリングによりパターンマスクを介して電子注入層13上にターゲット原子(たとえば、Mg、Ag、Al等)が堆積することにより、第2の導電性電極(陰極)14が形成される。以下では、上記第1の導電性電極10、ホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13および第2の導電性電極14を含めて有機素子という。
【0025】
次に、図1(e)に示したように、第2の導電性電極14をマスクとして、ホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13がエッチングされる。その後、図1(f)に示したように、有機素子およびガラス基板G(第1の導電性電極10)の露出部分をクリーニングして、有機素子に吸着した物質(例えば有機物など)を取り除く(プリクリーニング)。
【0026】
次に、図1(g)に示したように、SiN膜(シリコン窒化膜)である封止膜15が形成される。封止膜15は、マイクロ波プラズマCVDにより形成される。具体的には、マイクロ波のパワーによりシランや窒素を含むガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて100℃以下の低温で、良質なSiN膜を形成する。有機EL素子は100℃以上の高温になるとダメージを受けるので、SiN膜は100℃以下の低温プロセスで形成される必要がある。
【0027】
本実施の形態において、有機EL素子は以上に説明したように、形成される。なお、a−CN:H膜である発光層12は、単層での発光は困難であるため、発光層12の下部にホール注輸送層11、上部に電子注入層13が成膜される。
【0028】
a−CN:H膜はC−H結合およびC−N結合を含むポリマー状構造を有する。ここで、a−CN:H膜は室温において強いPL(Photo Luminescence)が観測されることが報告されている。このa−CN:H膜の成膜において、メタンと窒素を用いて、平行平板装置におけるプラズマ(CCP)や誘電結合プラズマ(ICP)を用いるときに、プラズマ中の電子温度が高い状態で成膜を行った場合、成膜される過程において、a−CN:H膜中のC−H結合およびC−N結合はプラズマに投入される高周波電力によりその結合が切れてしまう場合があり、膜中にダングリングボンド等の欠陥が多く生じてしまうため、発光特性等の劣化が懸念される。
【0029】
そこで、上記説明した図1(b)の発光層12の成膜を、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスと、窒素もしくはアンモニアを用い、低電子温度である高密度プラズマRLSA方式によって発光層12を形成することにより、材料ガスに含まれるC−H結合、C−N結合が維持されるため、欠陥の少ない安定したC−H結合、C−N結合を有するa−CN:H膜が発光層12として形成される。このように形成された発光層12を用いた有機デバイス(例えば有機EL素子)の発光特性は優良なものとなる。なお、上記CCPを用いた場合の電子温度は一般的には基板表面で1〜5eV程度、ICPを用いた場合では2〜10eVであるのに対し、RLSA方式では1〜2eVであり低い電子温度となっている。また、上記CCPのプラズマ密度は1010cm−3以下であり、ICPのプラズマ密度は1012cm−3以下であるのに対し、RLSA方式では1012cm−3前後であり、同等以上となっている。
【0030】
上述したC−N結合を含む炭化水素化合物ガスとしては、メチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)等が挙げられるが、これらの材料ガスにはC−H結合やC−N結合が含まれている場合があり、電子温度の高いプラズマを用いて成膜を行うとそれらの結合が切れてしまう恐れがある。そのため、これらの材料ガスを用いる場合には低電子温度である高密度プラズマRLSA方式が極めて好ましいことがわかる。
【0031】
(基板処理システム)
次に、図1に示した一連のプロセスを実施するための基板処理システムについて、図2を参照しながら説明する。本実施形態にかかる基板処理システムSysは、複数の処理装置を有するクラスタ型の基板処理装置1および基板処理装置1を制御する制御装置20を有している。
【0032】
(基板処理装置1)
基板処理装置1は、ロードロック室LLM、搬送室TM(Transfer Module)、クリーニング室CM(Cleaning Module)および6つのプロセスモジュールPM(Process Module)1〜6から構成されている。
【0033】
ロードロック室LLMは、大気系から搬送されたガラス基板Gを、減圧状態にある搬送室TMに搬送するために内部を所定の減圧状態に保持した真空搬送室である。搬送室TMには、その内部に屈伸および旋回可能な多関節状の搬送アームArmが配設されている。ガラス基板Gは、最初に、搬送アームArmを用いてロードロック室LLMからクリーニング室CMに搬送され、ITO表面をクリーニングした後、プロセスモジュールPM1に搬送され、さらに、他のプロセスモジュールPM2〜PM6に搬送される。クリーニング室CMでは、ガラス基板Gに形成されたITO(陽極層)の表面に付着した汚染物(主に有機物)を除去する。
【0034】
6つのプロセスモジュールPM1〜6では、まず、PM1にて蒸着によりガラス基板GのITO表面にホール注輸送層11が成膜される。次に、ガラス基板GはPM2に搬送され、RLSA方式プラズマCVDによりホール注輸送層11に隣接して発光層12(a−CN:H膜)が形成される。
【0035】
次に、ガラス基板GはPM3に搬送され、PM3にて蒸着により発光層12に隣接して電子注入層13が形成される。次に、ガラス基板GはPM4に搬送され、PM4にてスパッタリング処理により第2の導電性電極14が電子注入層13上に形成される。ついで、ガラス基板GはPM5に搬送され、第2の導電性電極14をマスクとしてエッチング処理が行われる。次に、ガラス基板Gはクリーニング室CMに搬送され、プロセス中にホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13の露出部分に付着した有機物等の不純物を除去する。
【0036】
その後、ガラス基板GはPM6に搬送され、マイクロ波プラズマCVDにより例えばSiNからなる封止膜16が形成される。
【0037】
(制御装置20)
制御装置20は、基板処理システムSysの全体を制御するコンピュータである。具体的には、制御装置20は、基板処理システムSys内のガラス基板Gの搬送および基板処理装置10内部での実際のプロセスを制御する。制御装置20は、ROM22a、RAM22b、CPU24、バス26、外部インタフェース(外部I/F)28aおよび内部インタフェース(内部I/F)28bを有している。
【0038】
ROM22aには、制御装置20にて実行される基本プログラムや、異常時に起動するプログラムや各PMのプロセス手順が示されたレシピ等が記録されている。RAM22bには、各PMでのプロセス条件を示すデータやプロセスを実行するための制御プログラムが蓄積されている。ROM22aおよびRAM22bは、記憶媒体の一例であり、EEPROM、光ディスク、光磁気ディスクなどであってもよい。
【0039】
CPU24は、各種レシピにしたがって制御プログラムを実行することにより、ガラス基板G上に有機電子デバイスを製造するプロセスを制御する。バス26は、各デバイス間でデータをやりとりする経路である。内部インタフェース28aは、データを入力し、必要なデータを図示しないモニタやスピーカ等に出力する。外部インタフェース28bは、ネットワークを介して基板処理装置1との間でデータを送受信する。
【0040】
たとえば、制御装置20から駆動信号が送信されると、基板処理装置1では、指示されたガラス基板Gを搬送し、指示されたPMを駆動させ、必要なプロセスを制御するとともに、制御結果(応答信号)を制御装置20に通知する。このようにして、制御装置20(コンピュータ)は、ROM22aやRAM22bに記憶された制御プログラムを実行することにより、図1に示した有機EL素子(デバイス)の製造プロセスが遂行されるように基板処理システムSysを制御する。
【0041】
次に、各PMの内部構成および各PMで実行される具体的処理について説明する。なお、エッチングおよびスパッタリングの各処理を実行するPM4およびPM5については、一般的な装置を用いればよく、その内部構成の説明は省略する。
【0042】
(PM1:ホール注輸送層11の蒸着処理)
図3は、PM1の蒸着処理装置30の概略的な説明図である。図3に示す城着処理装置30は、蒸着によって図1(a)に示したホール注輸送層11を成膜するものである。なお、ホール注輸送層11とは、ホール注入層とホール輸送層を重合させ成膜したものであり、ホール注入層とホール輸送層を別々に設けることもできる。
【0043】
蒸着処理装置30は、密閉された処理容器31を有している。また、処理容器31の前面には、ガラス基板Gの搬入出用のゲートバルブ32が設けられている。
【0044】
処理容器31の底面には、真空ポンプ(図示せず)を有する排気ライン33が接続され、処理容器31の内部は減圧されるようになっている。処理容器31の内部には、ガラス基板Gを水平に保持する保持台35を有する。ガラス基板Gはホール注輸送層11を蒸着させる面を上に向けたフェースアップの状態で、保持台35に載置される。保持台35は、レール36上を走行し、ガラス基板Gを搬送する。
【0045】
処理容器31の天井面には、蒸着ヘッド37が配置されている。蒸着ヘッド37には、ホール注輸送層11を成膜させるCu等の成膜材料の蒸気を供給する蒸気供給源38が配管39を介して接続されている。蒸気供給源38から供給された成膜材料の蒸気を蒸着ヘッド37から噴出させながら、保持台35上に保持したガラス基板Gを搬送することにより、ガラス基板Gの上面にホール注輸送層11が形成される。
【0046】
(PM2:発光層12(a−CN:H膜)の成膜処理)
次に、ガラス基板Gは制御装置20の制御に基づきマイクロ波プラズマ処理装置PM2に搬送され、図1(b)に示したように、ホール注輸送層11の上面にa−CN:H膜が成膜される。図4に成膜処理を実行するマイクロ波プラズマ処理装置PM2の縦断面を模式的に示す。
【0047】
マイクロ波プラズマ処理装置PM4は、天井部が開口した有底直方形状の処理容器60を有している。処理容器60は、たとえばアルミニウム合金により形成され、接地されている。処理容器60の底部中央にはガラス基板Gを載置する載置台61が設けられている。載置台61には、整合器62を介して高周波電源63が接続されていて、高周波電源63から出力された高周波電力により処理容器60の内部に所定のバイアス電圧を印加するようになっている。また、載置台61には、コイル64を介して高圧直流電源65が接続されていて、高圧直流電源65から出力された直流電圧によりガラス基板Gを静電吸着するようになっている。さらに、載置台61の内部にはヒータ66が埋設されている。ヒータ66は交流電源67に接続されていて,交流電源67から出力された交流電圧によりガラス基板Gを所定の温度に保持する。
【0048】
処理容器60の天井部の開口は、石英などから形成された誘電体プレート68により閉塞され、さらに、処理容器60と誘電体プレート68との間に設けられたOリング69により処理室内の気密性が保持されている。
【0049】
誘電体プレート68の上部にはラジアルラインスロットアンテナ70(RLSA:Radial Line Slot Antenna)が配設されている。RLSA70は、下面が開口したアンテナ本体70aを有していて、そのアンテナ本体70aの下面開口には、低損失誘電体材料により形成された遅相板70bを介して多数のスロットが形成されたスロット板70cが設けられている。
【0050】
RLSA70は、同軸導波管71を介して外部のマイクロ波発生器72に接続されている。マイクロ波発生器72から出力された、たとえば2.45GHzのマイクロ波は、同軸導波管71を介してRLSA70のアンテナ本体70aを伝搬し、遅相板70bにて短波長化された後、スロット板70cの各スロットに通され、円偏波しながら処理容器60内部に供給される。
【0051】
処理容器60の上部側壁にはガスを供給するためのガス供給口73が多数形成され、各ガス供給口73は、ガスライン74を介してアルゴンガス供給源75に連通している。処理室の略中央には略平板状のガスシャワープレート76が設けられている。ガスシャワープレート76は、ガス管が互いに直交するように格子状に形成されている。各ガス管には載置台61側にガス孔76aが等間隔に多数設けられている。ガスシャワープレート76に連通されたC−N結合を含む炭化水素化合物ガスCを供給するガス供給源77a、Nを供給するガス供給源77b、Arを供給するガス供給源77cから供給されたガスは、ガスシャワープレート76のガス孔76aから均等にガラス基板Gに向けて放出される。ここで、77aから供給される炭化水素化合物ガスとしては、メチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)が例示され、77bから供給されるガスは、Nの他NHでもよい。また、処理容器60内部においてガスシャワープレート76の上部空間はプラズマ励起領域A1であり、ガスシャワープレート76の下部空間は拡散プラズマ領域A2である。プラズマ励起領域A1では拡散プラズマ領域A2より比較的高い電子温度を持つプラズマが生成される。
【0052】
処理容器60には、ガス排出管78を介して排気装置79が取り付けられていて、処理容器60内のガスを排出することにより、処理室を所望の真空度まで減圧するようになっている。
【0053】
このように構成されたマイクロ波プラズマ処理装置PM2では、制御装置20の制御に基づき、排気装置79により処理室内の圧力が20mTorr以下、マイクロ波発生器72から処理室内に供給されるマイクロ波のパワーが3.0W/cm以上、同処理室内に載置されるガラス基板G近傍の温度(たとえば、基板表面温度)が100℃以下、好ましくは70℃以下に制御され、この状態で、処理室上方のガス供給口73からアルゴンガス(不活性ガス)を50sccm供給し、処理室中央のガスシャワープレート76からC−N結合を含む炭化水素化合物ガス(Cガス)を50sccm、アルゴンガスを200sccmおよび窒素を供給する。これによれば、マイクロ波のパワーにより混合ガスが励起してプラズマが生成され、生成されたプラズマを用いて100℃以下(好ましくは70℃以下)の低温にて発光層12(a−CN:H膜)が成膜される。
【0054】
(PM3:電子注入層13の蒸着処理)
次に、ガラス基板Gは制御装置20の制御に基づき蒸着装置PM3に搬送され、図1(c)に示すように、蒸着によって電子注入層13が発光層12上に成膜される。蒸着処理装置PM3としては図3に示したPM1の蒸着処理装置30と同様のものを用いるため、その内部構成の説明は省略する。
【0055】
(PM4:第2の導電性電極14のスパッタリング処理)
次に、ガラス基板GはPM4に搬送され、制御装置20の制御に基づき処理容器内に供給されたガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマ中のイオンをターゲットに衝突させ(スパッタリング)、ターゲットから飛び出したターゲット原子を電子注入層13の上に堆積させることにより、図1(d)示した第2の導電性電極14(陰極)を形成する。
【0056】
(PM5:エッチング処理)
次に、ガラス基板GはPM5に搬送され。制御装置20の制御に基づきエッチングガスを励起させることにより生成されたプラズマにより第2の導電性電極14をマスクとしてホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13をドライエッチングする。これにより、図1(e)に示したようにホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13が形成される。
【0057】
(CM:プリクリーニング)
次に、ガラス基板Gは、制御装置20の制御に基づきCMに搬送され、アルゴンガスを励起させて生成したプラズマを用いてホール注輸送層11、発光層12、電子注入層13の界面や露出部に付着した有機物等の不純物を取り除く。
【0058】
(PM6:封止膜15の成膜処理)
次に、ガラス基板Gは制御装置20の制御に基づきマイクロ波プラズマ処理装置PM6に搬送され、図1(g)に示すように、SiN膜(シリコン窒化膜)である封止膜15が、有機素子の露出部を封止するように成膜される。なお、マイクロ波プラズマ処理装置PM6の内部構造は図4に示したマイクロ波プラズマ処理装置PM2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
マイクロ波プラズマ処理装置PM6では、制御装置20の制御に基づき、真空装置79により処理室内の圧力が10mTorr以下、マイクロ波発生器72から処理室内に供給されるマイクロ波のパワーが4.0W/cm以上、同処理室内に載置されるガラス基板G近傍の温度(たとえば、基板表面温度)が100℃以下に制御され、この状態で、上部からアルゴンガスを5〜500sccm供給し、ガスシャワープレート76からシラン(SiH)ガスを0.1〜100sccm供給するのに対して、シランガスと窒素ガスの流量比を1:100にして供給する。これによれば、マイクロ波のパワーにより上記混合ガスが励起してプラズマが生成され、生成されたプラズマを用いて低温にてSiN膜(シリコン窒化膜である封止膜15が成膜される。なお、有機素子への影響を考慮すると、ガラス基板Gの表面温度は70℃以下に制御する方がより好ましい。
【0060】
SiNx膜(封止膜15)は、有機素子の保護膜のうち、封止層として積層され、封止膜の耐透湿性や耐酸化性と封止膜に内在する応力とのバランスを保つためには、SiNx膜(封止膜15)はある程度薄い必要があり、たとえば、その膜厚は1000Å以下であることが好ましい。
【0061】
以上説明してきた、本実施の形態にかかる有機デバイスの製造方法によって製造された有機デバイスにおいては、発光層12(a−CN:H膜)を電子温度が低く、高密度プラズマを用いるRLSA方式のCVDプラズマ処理によって形成する。RLSA方式のCVDプラズマ処理装置の処理空間は、図4に示すようにプラズマを生成するプラズマ励起領域A1と拡散プラズマ領域A2に分けられ、基板を処理する拡散プラズマ領域A2での、プラズマの電子温度は、1〜2eV程度と低く、成膜される膜自体に例えばC−N結合の結合を切ってしまうようなダメージが加わる可能性が低いため、材料ガスとしてC−N結合を含む炭化水素化合物ガスを用いることが可能となる。
【0062】
電子温度が低い状態で発光層12(a−CN:H膜)が成膜されるため、材料ガスに含まれるC−N結合は結合が切られることはなく、発光層12(a−CN:H膜)内にC−N結合は維持される。また他のC−H結合等についても安定的に発光層12(a−CN:H膜)内に維持されることとなる。発光層12(a−CN:H膜)においては、これらC−N結合、C−H結合に基づいて発光がなされるため、これらC−N結合、C−H結合が安定的に含有されるような発光層12(a−CN:H膜)は、発光デバイスとしての安定性に非常に優れ、例えば有機EL素子等の有機デバイスに用いられる発光層として非常に有用的に活用される。
【0063】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
図5は本発明の他の実施の形態にかかるRLSA方式のマイクロ波プラズマ処理装置PM2’の縦断面図である。他の実施の形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置PM2’の構造は、発光層12の成膜処理時に、Nを供給するガス供給源77bがガスライン74を介してガス供給口73に接続されている点で上記実施の形態と異なる。なお、その他の構成については上記実施の形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置PM2と同様であるため、説明は省略する。
【0065】
図5に示す他の実施の形態にかかるマイクロ波プラズマ処理装置PM2’によれば、処理容器60の内部上方のプラズマ励起領域A1にNを供給するので、処理容器60内部下方の拡散プラズマ領域A2よりも比較的高い電子温度を持つプラズマを用いてNを励起させることができる。励起されたNは、プラズマ励起領域A1から拡散プラズマ領域A2へと拡散する。拡散プラズマ領域A2では、C−N結合を含んだまま解離した炭化水素化合物ガスとNがガラス基板G上に堆積し、成膜が行われる。よって、成膜される発光層12内に大きなダメージを与えることなく、より多くのNを添加させることが可能となる。
【0066】
また、上記実施の形態では、素子下面から光を取り出すボトムエミッション型の有機デバイスについて説明したが、本発明はこれに限らず、素子上面から光を取り出すトップエミッション型の有機デバイスに用いることも可能である。なお、この場合、第2の導電性電極14は透明電極である必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば有機ELデバイスの発光層として用いられるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法、該アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜を用いた有機ELデバイスおよびその製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1…基板処理装置
10…第1の導電性電極
11…ホール注輸送層
12…発光層(a−CN:H膜)
13…電子注入層
14…第2の導電性電極
15…封止膜
20…制御装置
30…蒸着処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機デバイスの発光層として用いられるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法であって、
C−N結合を含む炭化水素化合物ガスと窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜を行う、アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法。
【請求項2】
前記C−N結合を含む炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかである、請求項1に記載のアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法。
【請求項3】
プラズマの生成においてRLSA方式を用いる、請求項1または2に記載のアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法。
【請求項4】
前記有機デバイスは有機ELデバイスである、請求項1〜3のいずれかに記載のアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜の成膜方法。
【請求項5】
有機デバイスの製造方法であって、
第1の導電性電極が形成された被処理体上にホール注輸送層を形成し、
発光層であるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜を前記ホール注輸送層上に積層し、
電子注入層を前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜上に積層し、
第2の導電性電極を前記電子注入層上に積層し、
前記被処理体、第1の導電性電極、前記ホール注輸送層、前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜、前記電子注入層、前記第2の導電性電極を覆うように封止する封止膜を積層する、有機デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜は、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスと窒素もしくはアンモニアを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜される、請求項5に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記C−N結合を含む炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかである、請求項6に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項8】
プラズマの生成においてRLSA方式を用いる、請求項6または7のいずれかに記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項9】
プラズマを生成させる処理容器内にプラズマを励起させるプラズマ励起領域と、基板を処理する拡散プラズマ領域を設け、窒素もしくはアンモニアを前記プラズマ励起領域に導入し、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスを前記拡散プラズマ領域に導入する、請求項8に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記有機デバイスは有機ELデバイスである、請求項5〜9に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項11】
第1の導電性電極が形成されている被処理体上に形成されるホール注輸送層と、
前記ホール注輸送層上に積層される発光層であるアモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜と、
前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜上に積層される電子注入層と、
前記電子注入層上に積層される第2の導電性電極と、
前記被処理体、前記第1の導電性電極、前記ホール注輸送層、前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜、前記電子注入層、前記第2の導電性電極を覆うように封止する封止膜と、を備える有機デバイス。
【請求項12】
前記アモルファスハイドロカーボンナイトライド(a−CN:H)膜は、C−N結合を含む炭化水素化合物ガスを材料ガスとして用い、マイクロ波のパワーにより材料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いて成膜される、請求項11に記載の有機デバイス。
【請求項13】
前記C−N結合を含む炭化水素化合物ガスはメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、ピリジン(CN)のいずれかである、請求項12に記載の有機デバイス。
【請求項14】
プラズマの生成においてRLSA方式を用いる、請求項11〜13のいずれかに記載の有機デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−219112(P2010−219112A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61175(P2009−61175)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】