説明

アライグマからのイヌパルボウイルス−2に関連するウイルスの分離

イヌパルボウイルスに対するワクチン製剤を提供する。そのワクチンには、アライグマから分離された新規なイヌパルボウイルス−2、ならびに関連する核酸およびタンパク質が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列リスト
この出願には、配列リストとして、2010年10月14日に作成された、18,268バイトを含有する、添付したテキストファイル“PCT Sequence Listing_ST25.txt”の完全な内容が含まれ、それを本明細書に援用する。
【0002】
記述
発明の分野
本発明は、概してイヌパルボウイルス様ウイルスに対する向上したワクチンに関する。特に、本発明は、アライグマから分離された新規パルボウイルスに基づく、子犬に適したワクチンを提供する。
【背景技術】
【0003】
イヌパルボウイルス(CPV)は本来、イヌ、特に若いイヌに感染する腸の病原体である。パルボウイルス感染症は、イヌおよび4〜5週齢より大きい子犬における急性の下痢、発熱、および白血球減少、ならびにより若い子犬における心筋疾患により特性付けられる。ワクチン接種をしていないイヌにおけるその疾患による死亡率はきわめて高い。CPVに対するワクチンはあるが、CPVは一本鎖DNAウイルスであり、極度に高い変異能力をもつため、そのウイルスは抗原的に変化し(Parrish and Kawaoka 2005)、それによりワクチンによって与えられる免疫保護を逃れる顕著な能力を示す。したがって、流行しているウイルスの抗原型および遺伝子型の絶え間ない監視と、それに応じたワクチン構成要素の調節が必要である。
【0004】
生まれたばかりの子犬は、特に生後の最初の2日間の間に、それらの母親から乳を飲むことにより、CPV感染症のような疾患に対する免疫を獲得する。乳を飲む子犬は最初に生成される乳汁中の初乳を飲み、その初乳中の抗体がその子犬に渡される。イヌおよび多くの他の哺乳類でも、その初乳により与えられる免疫は第5週齢の辺りのある時点でその効果を失う。
【0005】
子犬にワクチン接種する際の特別な問題は、移行抗体により提供される保護と重なる、移行抗体が衰える際に開始する保護を提供する時間枠に従ってワクチンを投与することである。現在、子犬のためのワクチン計画は、典型的には約6週齢において開始し、その後約3週間ごとに、たとえば9、12、および15週の時点で追加免疫を与える。しかし、この計画が完全な保護を提供するためには、最初のワクチン投与はすぐに防御免疫反応を誘発しなければならない。その子犬の免疫系が未熟であることおよび免疫反応を開始するのに必要な期間のため、これは完全に非現実的である。完全な保護は通常はワクチン接種の全過程が与えられるまで発現しない。CPVによる年齢に基づく死亡率は図1に示され、それはCPVによる最大死亡率はワクチンプロトコルが完了し得る前に起こることを示している。
【0006】
単純な答えは、そのワクチン接種プログラムをさらに早く、たとえば2〜3週の時点で開始することであるかもしれない。しかし、それらの母親が同じ抗原決定基をもつウイルス株をワクチン接種されているかまたは他の形でそれに曝露されたことがある子犬に関して、子犬に渡された移行抗体はそのワクチン中のウイルスを中和し、それによりその子犬自身の免疫系がそのウイルスに反応するのを妨げるため、これは無駄であろう。
【0007】
獣医学における別の問題は、たとえばイヌにおける癌の処置である。特に老齢期のイヌに関して、癌療法のための既存の手段には多くの限界がある。癌細胞を死滅させるための腫瘍溶解性パルボウイルスの投与は、有効な癌の処置として大きな有望性を示し(Rommelaere et al, Cytokine & Growth Factor Reviews 21:185-195, 2010;およびRommelaereらへのUS patent 7,179,456、その完全な内容を本明細書に援用する)、イヌ科の動物に適用できる可能性がある。しかし、(たとえばワクチン接種の結果として)前から存在するパルボウイルスに対する抗体の存在は、そのパルボウイルスが既存の抗体により中和されると考えられるため、この方法を効果の無いものにするであろう。さらに、イヌにおける遺伝子療法は現在めったに着手されないが、もし適切な核酸ベクターが同定されれば、いくつかの障害を処置するための有望な方法であろう。
【0008】
先行技術は今までにこれらの問題に対する解決法を提供できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US patent 7,179,456
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Parrish and Kawaoka 2005
【非特許文献2】Rommelaere et al, Cytokine & Growth Factor Reviews 21:185-195, 2010
【発明の概要】
【0011】
本発明は、(米国においてアライグマから単離された)新規パルボウイルスの知見に基づく。ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の分析は、そのウイルスがイヌパルボウイルス2型(CPV−2)の独特の変種であることを示した。“AR08071304”と命名された(そして本明細書においてアライグマパルボウイルス、“RPV”、“08071304”、および“パルボウイルス−2(アライグマ)などと呼ばれる)この新規CPV−2は、イヌパルボウイルスに対するワクチンの構成要素として有用である。特に、その変種はごく若いイヌ、たとえばまだ乳を飲んでいる、または離乳の過程にある子犬のためのワクチンの構成要素として有用であり、したがって適当な子犬ワクチンプロトコルをどのようにして提供するかの問題を解決する。そのアライグマパルボウイルスは、イヌに存在するイヌパルボウイルス−2抗体によって完全には中和されないであろう。さらに、そのアライグマパルボウイルスは、レシピエントまたは宿主生物、たとえばイヌにおける既存の抗体による中和がないため、腫瘍溶解剤として、および遺伝子療法のためのベクター(キャリヤー、ビヒクル)として用いることができる。
【0012】
その変種ウイルスは、現在流行している主なCPV−2ウイルスに近い相同性をもつ。したがって、その新しい変種を含有するワクチンの投与は、結果として既知の流行しているCPV−2ウイルスに対する保護も与える免疫反応をもたらす可能性がある。しかし、その新規な分離株およびそれに対して母犬が(たとえばワクチン製剤または以前のCPV曝露により)曝露されている可能性のある既知のCPV−2ウイルスの間に、いくらかの抗原性の違いがある。特に、変種のカプシドタンパク質VP−2のアミノ酸残基232はThr(ACAによりコードされる)であり、アミノ酸残基300はAsp(GATによりコードされる)である。配列におけるこれらの違いは、結果としてその変種に独特の免疫反応プロフィールをもたらすのに十分である。したがって、(以前にワクチン接種された/曝露された母親から)子犬に渡された移行抗体は、新規ウイルスを、それが子犬にワクチンとして投与された際に、完全には不活性化しないと思われる。結果として、ワクチン接種により本発明のRPVに曝露された際に、その子犬自身の免疫系による免疫反応が誘発されると考えられ、その免疫反応は現在流行しているCPV全般に対して広く保護的であると思われる。さらに、そのアライグマパルボウイルスは、肉食動物のパルボウイルスの天然のキメラであると思われる。RPV VP−2タンパク質をコードするヌクレオチド配列はイヌパルボウイルス−2a(CPV−15)と最も高い総相同性スコア(3309)をもつが、それはネコ汎白血球減少症、以前に単離されたアライグマパルボウイルス、およびミンク腸炎ウイルスとも高い相同性をもつ。このタイプのキメラ性配列はイヌまたはネコのパルボウイルスの配列ではこれまで観察されていないが、類似のパルボウイルスが米国においてアライグマの集団で現在流行しているようである(後記の実施例のセクションを参照)。このRPVはいくつかの肉食動物種で広い免疫保護をもたらすと考えられ、したがってそれは広域スペクトルのパルボウイルスワクチンとしての使用に適している。稀な、普通でない状況下で、イヌまたはネコは異種の生きた弱毒化されていない肉食動物パルボウイルスによる感染症に屈服する可能性がある;しかし、本明細書で記述する本発明のRPVを用いることの有益性は、この最小限の危険性よりはるかに重要である。
【0013】
本発明はいずれかの進化モデルまたは理論を前提とするわけではないが、本明細書で開示する遺伝学的データの興味深い解釈のひとつは、本発明のRPVが今日のイヌおよびネコパルボウイルスの祖先に相当する可能性があるというものである。ウイルス学界において、イヌのパルボウイルス−2の起源に関して進行中の論争があり、本発明のRPVは、この理論の範囲内で、イヌパルボウイルス−2の“生きた化石”であると思われる。いずれにせよ、本明細書で記述するRPVは独特のVP−2タンパク質をコードしており、それはネコおよびイヌパルボウイルスのアミノ酸配列のモザイクを含む。したがって、本発明のRPVはネコおよびイヌパルボウイルス両方の祖先であるものの候補であり、すなわち、これらのより新しい肉食動物のパルボウイルスはこのRPVを起源としている。あるいは、本発明のRPVはパルボウイルスの進化の“交差点”におけるキメラ的中間体に相当する可能性がある。いずれにせよ、このRPVは、これでなければ、より種に特殊化したイヌおよびネコパルボウイルスのいずれによっても現在得られない、異種パルボウイルスに対する交差免疫のための手段を提供する。さらに、本発明のRPVは、ブタ赤血球(トランスフェリン)を弱く凝集させ;いくつかの重要なエピトープ(たとえばVP−2タンパク質配列のアミノ酸残基300)を共有しておらず;またネコ腎臓細胞株中での増殖に乏しい(後記の実施例参照)。まとめると、これらの徴候は、イヌおよびネコパルボウイルスに先行するか、またはイヌおよびネコパルボウイルスの進化カスケードにおける初期の中間体であるかのどちらかであるウイルスと一致している。
【0014】
本発明は、ATCC NO. のパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルスを提供する。
さらに、本発明は、ATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルスを含むワクチンを提供する。1態様において、そのワクチンはさらに、イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス2型、イヌパラインフルエンザウイルス、イヌコロナウイルス、イヌヘルペスウイルス、イヌロタウイルス、1種類以上のレプトスピラ(Leptospira)血清型、およびイヌパルボウイルス−2からなる群から選択される1種類以上の抗原性構成要素を含み、これらにおいてVP−2タンパク質の位置232のアミノ酸はThrではなく、VP−2タンパク質の位置300のアミノ酸はAspではない。ある態様において、その1種類以上のレプトスピラ血清型は、レプトスピラ・インタロガンス血清型カニコーラ(Leptospira interrogans serovar canicolar)、レプトスピラ・インタロガンス血清型イクテロヘモラジア(Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・インタロガンス血清型ポモナ(Leptospira interrogans serovar pomona)、およびレプトスピラ・キルシュネリ血清型グリポティフォーサ(Leptospira kirschneri serovar grippotyphosa)からなる群から選択される。
【0015】
本発明は、ヌクレオチド配列SEQ ID NO:1、またはSEQ ID NO:1の一部分を含む単離された核酸も提供し;ここで当該SEQ ID NO:1の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含むVP−2タンパク質の抗原領域をコードする。他の態様において、本発明はこの核酸を含む免疫原性(immununogenic)組成物を提供し、ここでその核酸は死菌または弱毒化パルボウイルスビリオンまたは低継代アライグマパルボウイルス(RPV)中に存在する。ある態様において、その死菌パルボウイルスビリオンはATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含む。他の態様において、その弱毒化パルボウイルスビリオンは舌の上での溶解に適した固体のキャリヤー中に存在する。さらに他の態様において、その免疫原性組成物は皮下投与に適している。
【0016】
本発明は、動物においてパルボウイルス感染に対する免疫反応を誘発する方法も提供する。その方法は、その動物にヌクレオチド配列SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:1の一部分を含む核酸を含む免疫原性組成物を投与する段階を含み;ここで当該SEQ ID NO:1の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含むVP−2タンパク質の抗原領域をコードする。ある態様において、その核酸は死菌もしくは弱毒化パルボウイルスビリオンまたは死菌もしくは弱毒化パルボウイルスビリオン中の低継代RPV中に存在する。ある態様において、その死菌パルボウイルスビリオンはATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含む。ある態様において、その弱毒化パルボウイルスビリオンは舌の上での溶解に適した固体のキャリヤー中に存在し、ある態様において、その動物は子犬である。他の態様において、その免疫原性組成物は皮下投与に適している。
【0017】
本発明はさらに、アミノ酸位置232においてスレオニン残基およびアミノ酸位置300においてアスパラギン酸残基を有する実質的に精製されたパルボウイルスVP−2タンパク質;またはその抗原性フラグメントを提供し、ここで抗原性フラグメントは、アミノ酸位置232においてスレオニン残基;またはアミノ酸位置300においてアスパラギン酸残基;またはアミノ酸位置232においてスレオニン残基およびアミノ酸位置300においてアスパラギン酸残基の両方を有する、前記のVP−2タンパク質の少なくとも一部分を含む。ある態様において、その実質的に精製されたパルボウイルスVP−2タンパク質はアミノ酸配列SEQ ID NO:3を含む。
【0018】
本発明は、SEQ ID NO:3、またはSEQ ID NO:3の一部分のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターも提供し;ここで当該SEQ ID NO:3の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含む、VP−2タンパク質の抗原性領域である。ある態様において、その発現ベクターは組換えウイルス発現ベクターである。他の態様において、その組換えウイルス発現ベクターはカナリア痘ウイルス発現ベクターである。
【0019】
本発明は、哺乳類において腫瘍細胞を死滅させる方法も提供する。その方法は、その哺乳類に、その哺乳類においてその腫瘍細胞に感染して死滅させるのに十分な量のATCC NO. のパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルスを含む組成物を投与する段階を含む。ある態様において、その哺乳類はイヌパルボウイルス−2に関して血清陽性であるイヌである。他の態様において、その方法は、静脈内および腫瘍内からなる群から選択される投与経路により実施される。さらに他の態様において、そのパルボウイルスは低継代パルボウイルスである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1.CPV−2の遺伝子型およびイヌの年齢に関するCPV感染症の致命的な症例の数の分布。
【図2A】図2A.新規なAR08071304 CPV−2変種のVP−2タンパク質をコードする核酸配列。599アミノ酸のタンパク質をコードする、ヌクレオチド配列のより長いバージョン(SEQ ID NO:1)。ヌクレオチド1753〜1755に位置する内部の停止コドンを太字で示し、下線を引いた。位置232のThrをコードするヌクレオチド(ヌクレオチド694〜696)および位置300のAspをコードするヌクレオチド(ヌクレオチド898〜900)に下線を引いた。
【図2B】図2B.新規なAR08071304 CPV−2変種のVP−2タンパク質をコードする核酸配列。584アミノ酸のタンパク質をコードする、ヌクレオチド配列のより短いバージョン(SEQ ID NO:2)。位置232のThrをコードするヌクレオチド(ヌクレオチド694〜696)および位置300のAspをコードするヌクレオチド(ヌクレオチド898〜900)に下線を引いた。
【図3A】図3A.新規なAR08071304 CPV−2変種のVP−2タンパク質のアミノ酸配列。(SEQ ID NO:3)は、599個全部のコードされるアミノ酸が翻訳された場合の、そのタンパク質のより長いバージョンである。タンパク質中の、ThrおよびAspであるアミノ酸位置232および300をそれぞれ四角で囲った。
【図3B】図3B.新規なAR08071304 CPV−2変種のVP−2タンパク質のアミノ酸配列。(SEQ ID NO:4)は、停止コドンにおいて終結が起こった場合の、そのタンパク質のより短いバージョンである。タンパク質中の、ThrおよびAspであるアミノ酸位置232および300をそれぞれ四角で囲った。
【図4】図4A〜C.以下のものの概略図:A、アライグマパルボウイルス(RPV)のDNA;B、RPVのオープンリーディングフレームの配置;C、RPVの真核細胞への結合。
【図5】図5AおよびB.A、アライグマパルボウイルスの細胞表面のトランスフェリン受容体(TFR)への結合の概略図;B、自発的パルボウイルスベクターの調製に関する一般的な戦略の概略図。
【図6】図6.新規に分離されたアライグマパルボウイルスの、他の類似のウイルスに対する近縁性。
【図7】図7.新規に分離されたアライグマパルボウイルスのVP−2タンパク質中の重要なエピトープにおけるアミノ酸。
【図8】図8.新規に分離されたアライグマパルボウイルスのVP−2タンパク質を他の肉食動物のパルボウイルスのVP−2タンパク質と比較した系統樹。CPV=イヌパルボウイルス;RPV=アライグマパルボウイルス;FPV=ネコパルボウイルス;PV=パルボウイルス;MEV=ミンク腸炎ウイルス;FPL=ネコ汎白血球減少症ウイルス;Aleu=アリューシアンミンク病パルボウイルス;MVC=イヌ科の動物のマイニュートウイルス。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、感染したアライグマから分離された新規なパルボウイルス変種の弱毒化型を含むワクチンおよびウイルス療法製剤を提供する。それらのワクチン製剤は多種多様な肉食動物(たとえば、イヌ、ネコ、ミンク、アライグマ、イヌ科(canidae)、アライグマ科(procyonidea)、イタチ科、およびジャコウネコ科(viveridae)のメンバーなど)への投与に適しているが、それらは特にごく若いイヌ(子犬)への投与に有用である。これは、その新規な変種が、移行抗体(ワクチン投与に反応して発現し、授乳の間に子犬に渡される)がそのウイルスを認識して不活化するであろう可能性を低くする位に、現行のワクチンにおいて用いられているCPVの変種と十分に異なっているためである。同様に、成犬を含むイヌにおける他の適用(たとえば癌の処置として、および遺伝子療法ベクターとして)に関して、そのRPVは以前のワクチン接種からの既存の抗体を迂回し、したがって即時の免疫クリアランスを回避するであろう。特に、アライグマ分離株のVP−2タンパク質においてアミノ酸残基232はThr(ACAによりコードされる)であり、残基300はAsp(GATによりコードされる)である。このように、RPVにおけるこれらの2つのアミノ酸残基はすべての他の既知のCPV分離株のVP−2タンパク質のアミノ酸残基と異なっており、このRPVの独特の特性(たとえば抗原反応性、後記の実施例参照)に寄与している可能性がある。弱毒化されているため、そのウイルスはワクチンのレシピエントにおいて疾患を引き起こすことは無いであろう。他方で、その新規な分離株は現在流行しているウイルスに十分に類似しており(たとえば、アミノ酸配列の同一性はVP−2タンパク質に関して約99%である)、すなわち、若い動物へのそのウイルスの投与は結果として抗体の産生をもたらし、その少なくとも一部は既知の流行しているウイルスと交差反応し、こうしてワクチン接種された若い動物にそれらのウイルスに対する保護を与えることができる。
【0022】
本明細書で記述する核酸配列(SEQ ID NO:1)はヌクレオチド1753〜1755に内部の停止コドンを含む(図2A参照)。したがって、それから翻訳されるVP−2タンパク質は2種類の異なる形をもつ。図3Aにおいて示した1形態(SEQ ID NO 3)はその停止コドンの読み過し(“漏出(leakiness)”)の結果生じ、したがって、図3Bに示した、その停止コドンで終結する第2形態より長い(599アミノ酸)。そのタンパク質の第2形態はわずか584アミノ酸を含む(SEQ ID NO:4)。第1のより長い形態のVP−2において、その停止コドンは翻訳されずに“スキップ”され、結果として599アミノ酸のタンパク質を生じる。本明細書で用いられる際の用語“VP−2”タンパク質には第1のより長い形態のVP−2および第2のより短い形態のVP−2の両方が含まれ、両方の形態のタンパク質を本発明の実施に用いることができる。そのタンパク質のこれらの2形態は、ウェスタンブロットを用いて検出することができる。さらに、両方の核酸配列(SEQ ID NO:1および2)を本発明の実施に際して用いることができ、たとえばその配列のどちらかまたは両方をワクチン製剤において、ベクターにおいて、などで用いることができる。ある態様において、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1のヌクレオチド配列によりコードされる。他の態様において、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列はSEQ ID NO:2によりコードされる。本発明のさらに他の態様において、SEQ ID NO:1を(たとえば遺伝子工学による)停止コドンの除去(削除)により、それからSEQ ID NO:3のアミノ酸配列が翻訳されるように修飾することができる。
【0023】
この新規なRPVは、他の動物およびヒトの感染症の適切な追加免疫のためのモデルとしても役立つ。たとえば、ヒトのインフルエンザ(H1N1)において、入手できる情報に基づくと、ワクチン反応は既存の抗体の存在に応じて異なる。ある人が既存の抗体をもつ場合、その抗体の力価は上がらないが親和性は実際に増大する。ある人が既存の力価をもたない場合、その人は中和する防御免疫の発現を伴って実際に反応する。
【0024】
その新規な分離株は、オクラホマ州立大学が代表して、バージニア州マナッサスにあるAmerican Type Culture Collectionに2010年10月7日にパルボウイルス−2(アライグマ)として寄託され(ATCCからの受理の通知を2010年10月12日に受け取った)、ATCC寄託NO. が割り当てられた。本発明は、ATCC寄託NO. の特徴を含む分離されたパルボウイルスおよびその子孫も提供する。本発明にはさらに、2010年10月7日に寄託されたATCC寄託NO. の特徴を含む死菌または弱毒化パルボウイルスおよびその弱毒化パルボウイルスの子孫、ならびにその同じものを含むワクチンおよび免疫原性組成物が含まれる。
【0025】
本発明は、イリノイで分離され、CRFKにおいて増殖された他のRPV(10071199−Aおよび10071199−C)も提供し、それの部分的な配列を実施例のセクションに示す。このように、本発明は米国において(たとえばアーカンソーおよびイリノイにおいて)流行しているアライグマパルボウイルスも含み、それの共通の特徴は、それらが診断のために最も一般的に用いられるMoAbであるイヌパルボウイルスモノクローナル抗体(MoAb)3B10と反応しないことである。3B10はVP−2のアミノ酸位置300について特異的であり、それは通常はグリシンである。したがって、これらのRPVはVP−2のアミノ酸300に変異をもち、それはこのMoAbのフットプリント内に含まれ、それがそのタンパク質を認識するのを妨げる。他の点では、これらのウイルスは他の肉食動物のパルボウイルス−2のVP−2と約98%の相同性をもつ。しかし、重要な位置における変異はたとえ少数であってもウイルスの特性に大きな影響をもち得ることは十分に確証されている(たとえばQu e al, 2005参照、そこではコロナウイルスのスパイクタンパク質の2個の重要なアミノ酸残基における、それの指向性を変化させる変異が記述されている)。
【0026】
このウイルスの系統発生的研究(たとえば実施例1および5参照)は、このRPV[パルボウイルス−2(アライグマ)]がイヌCPV−2の変種に密接に関連しており、実際にその変種である可能性があることを示した。したがって、家犬の成犬もそのウイルスに感染しやすい可能性があり、おそらくこの変種を含むワクチンを与えられることから有益性を得るであろう。
【0027】
新規に分離されたパルボウイルスの、アライグマから家庭用のペット、たとえばイヌへの、そしてまた他の野生生物への伝染は、アライグマの行動特性のため、起こりそうである。たとえば、アライグマは高度な知性があり、新しい食料源に適応するのが著しく速い。それらは雑食性であり、季節および入手可能性に応じて広い範囲の植物および動物を食べる。都市地域中へのそれらの素早い溶け込みおよび適応により、アライグマは家犬および家猫と普通に交流し、密接な接触を行う。アライグマは物をつかむ優れた能力をもち、たとえば容器を開ける、保管された動物の飼料を捜し出して開ける、などのことを容易に学習する。この行動により、それらは潜在的にパルボウイルスを家庭の肉食動物に伝染させることができる。アライグマは他の野生生物、たとえばスカンクとも交流し、したがって同様に種間の交流およびパルボウイルスの伝染の可能性がある。したがって、成犬および他の家庭内ペットは、たとえそれらが以前に別のパルボウイルスワクチンを接種されていても、このように本明細書で記述するアライグマのウイルスを含むワクチンを与えられることから有益性を得るであろう;そして、飼い慣らされていようといなかろうと、他の種もそのようなワクチンを与えられることから有益性を得るであろう。その有益性は2倍であり得る:1)ワクチン接種はこの特定のCPVによる感染に対する免疫を提供するであろう;そして2)このCPVは他のパルボウイルスに十分に類似しており(たとえば他の肉食動物のパルボウイルスに約99%相同である)、すなわち、おそらくそれらに対しても少なくともいくらかの免疫を誘発および追加免疫するであろう。
【0028】
ある態様において、本発明のワクチンおよび免疫原性組成物は本質的に一価であり、すなわち、それは本明細書で記述したパルボウイルス分離株(たとえば、2010年10月7日に寄託されたパルボウイルス−2(アライグマ)、ATCC寄託NO. の特徴を有するもの)、または本明細書で記述した分離株の弱毒化もしくは死菌型、またはこれらのいずれかの子孫である、単一の作用因子を含有する。他の態様において、そのワクチンおよび免疫原性組成物は多価であり、すなわち、それらは複数の抗原性因子を含有し、その1つは本発明の分離株である。その多価組成物の典型的な追加の構成要素には、下記のうち1種類以上が含まれるがそれらに限定されない:イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス2型、イヌパラインフルエンザウイルス、イヌコロナウイルス、イヌヘルペスウイルス、イヌロタウイルス、1種類以上のレプトスピラ血清型、およびイヌパルボウイルス−2;それらはVP−2遺伝子の配列が異なっており、すなわち、ここでそのVP−2タンパク質の位置232におけるアミノ酸はThrではなく、および/またはそのVP−2タンパク質の位置300におけるアミノ酸はAspではなく;またはここでそのVP−2タンパク質のアミノ酸位置232においてThrをコードしているコドンがACAではなく、および/またはそのVP−2のアミノ酸位置300においてAspをコードしているコドンがGATではない。典型的なCDVには、US2010/0196420として公開されているUS patent application 12/696,983 (Kapil)(その完全な内容を本明細書に援用する)に記述されているCDVが含まれるがそれらに限定されない。典型的なレプトスピラ血清型には、レプトスピラ・インタロガンス血清型カニコーラ、レプトスピラ・インタロガンス血清型イクテロヘモラジア、レプトスピラ・インタロガンス血清型ポモナ、およびレプトスピラ・キルシュネリ血清型グリポティフォーサが含まれるが、それらに限定されない。さらに、本発明の分離株は、複数の異なる抗原、たとえば既知の多価ワクチンの抗原、たとえばGalaxy(登録商標)DA2PPV、またはNobivac DA2PPv+L4などと組み合わせてもよい。
【0029】
特定の態様において、本発明のワクチンのレシピエントは幼若な動物(たとえば子犬)であり、投与の方式は“子犬用ロリポップ(lollipop)”による。若いイヌ(または他の種の若い動物)へのワクチン組成物の投与に使用するための子犬用ロリポップは、同時係属中の2010年7月15日に出願されたKapilらへのPCT patent application no. PCT/US2010/042142に詳細に記述されており、その完全な内容を本明細書に援用する。簡潔には、子犬用ロリポップまたは類似の器具を用いてそのワクチンを舌の背側に、すなわち舌の上に(supralingually)送達する。特に、そのワクチン製剤は、そのワクチンを舌の基底細胞に、またはその付近に送達する方式で投与される。基底細胞はそのワクチン中の弱毒化パルボウイルスに感染し、抗原デポー(たとえばウイルスのリザーバー)が確立され、それは時間の経過と共に、ごく若い年齢から、その子犬内で弱毒化パルボウイルスを徐々に放出する。この方法は、舌は比較的免疫学的に免除されている(privileged)(免疫反応を欠いている)という事実を利用している。そのワクチンは、たとえば、手に持つ“子犬用ロリポップ”中に含ませることができ、世話をする者はたとえばその子犬の口の中に置かれる固体ワクチン配合物に取り付けられた棒、ひも、または他の供与器具を手で持つことにより、それを舌の上に投与する。その固体配合物には不活性な固体キャリヤーが含まれ;パルボウイルスはその固体キャリヤー全体にわたって分散または分布しており、子犬による本能的な哺乳反応がそのキャリヤーを徐々に溶解させ、そしてそのパルボウイルスが舌に放出される。
【0030】
1態様において、本発明には、RPVのVP−2タンパク質をコードするヌクレオチド配列、たとえばSEQ ID NO:1、あるいはSEQ ID NO:2(図2AおよびB参照)に示されているヌクレオチド配列をもつ核酸、またはそのヌクレオチド配列の、ワクチンレシピエントにおいてRPVに対する免疫反応を誘発するのに十分な抗原性領域もしくはエピトープをコードする部分、およびその同じものを含むワクチンが含まれる。特に、そのような核酸配列には、そのVP−2タンパク質の位置232および300をコードするコドンの一方または両方が含まれるであろう。それらのコドンはそれぞれ、それぞれThrおよびAspをコードするACAおよびGATである。別の態様において、本発明には、SEQ ID NO:3(あるいはSEQ ID NO:4、それはSEQ ID NO:3に含まれる、図3AおよびB参照)に示されているアミノ酸配列を含むVP−2タンパク質、またはSEQ ID NO:3に示されているアミノ酸配列の、ワクチンレシピエントにおいてその抗原性領域もしくはエピトープに対する免疫反応を誘発するのに十分な抗原性領域もしくはエピトープを含む部分をコードするヌクレオチド配列をもつ核酸、およびその同じものを含むワクチンが含まれる。特に、そのようなタンパク質またはその部分には、それぞれThrおよびAspであるRPV VP−2タンパク質のアミノ酸残基232および300の一方または両方が含まれるであろう。本明細書で記述されるそのような配列の変異型および/または派生物、ならびにその変異型および/または派生物が含まれるワクチン製剤も、本発明に含まれる。たとえば、当業者は、その遺伝子コードの冗長性のため、SEQ ID NO:3に示されているアミノ酸配列をコードするためにSEQ ID NO:1以外の配列を利用してよいことを認識しているであろう。さらに、SEQ ID NO:1に示されているヌクレオチド配列は一本鎖(ss)DNAを表わすが、本発明にはこれらの配列に基づく、由来する、またはこれらの配列を補う、対応する二本鎖(ds)DNA、相補的DNA、およびあらゆる形のRNA(たとえばmRNA、RNA/DNAハイブリッドなど)も含まれる。そのような配列は、センスまたはアンチセンス配列のどちらであってもよい。さらに、SEQ ID NO:1に少なくとも約50%の相同性、好ましくは約60%、より好ましくは約70、80、もしくは90%の相同性、またはさらには約95、96、97、98もしくは99%以上の相同性を示す配列も、その配列がアミノ酸残基232および300の一方または両方をそれぞれThrおよびAspとしてコードする限り、そのワクチンにおける使用に関して意図される。そのような配列は、たとえば、1箇所以上の位置において同じアミノ酸をコードする代替コドンを含有することにより異なっていてよい。
【0031】
さらに、これらの配列のAR08071304 VP−2タンパク質の抗原性領域またはエピトープをコードしている部分も意図される。特に、アミノ酸残基232および300の一方または両方をそれぞれThrおよびAspとしてコードするコドンを含むヌクレオチド配列が意図される。1態様において、アミノ酸残基232をThrとしてコードするコドンはACAであり、残基300をAspとしてコードするコドンはGATである。さらに、その配列がアミノ酸残基232および300の一方または両方をそれぞれThrおよびAspとしてコードする限り、SEQ ID NO:3に70%、またはより好ましくは約80、90、もしくは95%、またはさらに大きな同一性(たとえば96、97、98または99%の同一性)を示すアミノ酸配列あるいはより短い抗原性領域もしくはエピトープを含むその変異型および/または派生物をコードする配列も含まれる。SEQ ID NO:3および/またはその抗原性領域もしくはエピトープのそのような変異型および/または派生物は、結果として生じたタンパク質/ペプチドが抗原性であり、ワクチンレシピエントにおいて免疫反応を誘発する限り、たとえば保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、または欠失(特にアミノまたはカルボキシ末端の欠失)、または様々な挿入などを含むことにより異なっていてよい。そのような抗原性領域またはエピトープは好ましくは少なくとも約10アミノ酸の長さであり、図3で示したようなVP−2タンパク質におけるアミノ酸残基の番号付けに関してアミノ酸位置232および300の1つ以上を含み、それらはそれぞれThrおよびAspである。しかし、抗原性領域はAR08071304 VP−2遺伝子/タンパク質全体を含んでもよい。
【0032】
さらに、ストリンジェントな条件(特に、高いストリンジェンシーの条件)下で本明細書で開示する配列に(またはそれらの配列の一部分に)ハイブリダイズする核酸配列も、その配列がアミノ酸残基232および300の一方または両方をそれぞれThrおよびAspとしてコードする限り、意図される。ストリンジェントな条件は、核酸配列が特定の配列にハイブリダイズすることを可能にするハイブリダイゼーション条件を表わす。一般に、高度にストリンジェントな条件は、約65℃で、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSCまたは匹敵するイオン強度を有するいずれかの他の溶液中で、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200以上のヌクレオチドが特定の配列にハイブリダイズすることを可能にするハイブリダイゼーション条件、および65℃における約0.1M又はそれ未満の塩を含む溶液、好ましくは0.2×SSC、または匹敵するイオン強度を有するいずれかの他の溶液中での洗浄を表わす。これらの条件は、約90%以上の配列同一性をもつ配列の検出を可能にする。一般に、より低いストリンジェントの条件は、約45℃で、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSCまたは匹敵するイオン強度を有するいずれかの他の溶液中で、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200以上のヌクレオチドが特定の配列にハイブリダイズすることを可能にするハイブリダイゼーション条件、および室温における約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC、または匹敵するイオン強度を有するいずれかの他の溶液中での洗浄を表わす。これらの条件は、50%までの配列同一性をもつ配列の検出を可能にする。当業者は、同一性が50%〜90%で異なる配列を同定するために、これらのハイブリダイゼーション条件を修正することができるであろう。
【0033】
したがって、本発明は、本明細書で開示した核酸配列(またはそれの抗原性ペプチドおよび/またはポリペプチドをコードする部分)を含有し、発現する、様々なタイプの組換えおよび/または発現ベクターも提供する。そのようなベクターはワクチン製剤に使用でき、または他の目的、たとえば実験室設定での開示した配列の操作のために役立つ可能性がある。そのようなベクターおよび発現系の例には以下のものが含まれるが、それらに限定されない:様々な細菌性(たとえば大腸菌)またはプロバイオティクスに基づく(probiotic−based)(たとえば乳酸菌(Lactobacillus))発現ベクター;様々な組換えウイルスベクター、たとえばアデノウイルスベクター、バキュロウイルス、カナリア痘ベクターなど;ピチア(Pichia)、および酵母発現系など。そのような組換えベクターおよび発現系は、たとえばワクチン製剤において、あるいは他の目的のために、たとえばその配列の実験室での操作のために、または研究もしくは診断目的のために利用することができる。
【0034】
本発明は、キメラタンパク質およびそれをコードする遺伝子、たとえば本発明のRPVのVP−2タンパク質またはそれの抗原性領域もしくはエピトープを含むタンパク質も意図している。特定の態様において、そのようなエピトープは少なくとも約5アミノ酸から約20アミノ酸またはそれより多くの範囲の大きさである。そのようなキメラタンパク質(またはそれらをコードする核酸配列)には、他の有用なアミノ酸配列、たとえばアジュバント、他のタンパク質であってたとえば肉食動物、特にイヌ科の動物において疾患を引き起こす他の生物からのワクチン標的であるものなどが含まれていてよい。そのようなタンパク質をコードする核酸には、たとえば抗原性領域またはエピトープの間に、リンカーまたはスペーサー配列が含まれていてよい。そのようなキメラ(または融合)タンパク質をコードおよび/または発現する組換えおよび/または発現ベクターも含まれる。
【0035】
パルボウイルスに対するワクチン接種に適したワクチンを製造するいくつかの方法が当技術分野において既知である。たとえば、AppelらへのUnited States Patents 4,193,990および4,193,991、CarmichaelらへのUnited States Patent 4,303,645、WoodらへのUnited States Patent 4,971,793;ValdesらへのUnited States Patent 5,882,652、ならびにParrishらへのUnited States Patent 5,885,585を参照、そのそれぞれが適切なワクチン配合戦略のバリエーションを与える。これらの特許のそれぞれの完全な内容を本明細書に援用する。一般に、ワクチンを製造するために、記述された核酸配列(たとえば、ウイルス内で天然に生じるssDNA、または非天然のウイルスベクターの中に遺伝学的に組み込まれたssDNAもしくは他の同等な形態(たとえばdsDNA、ssまたはdsRNA、RNA−DNAハイブリッドなど)が用いられるであろう。例には、それを投与される動物において重篤な疾患症状を引き起こさないように“死菌化”、不活化、またはそうでなければ弱毒化されたRPV(または他の)ウイルスを、適切な生理学的キャリヤーと一緒にしたものが含まれる。好ましくは、投与の結果として疾患の症状は生じないであろう。しかし、当業者は、多くの有効なワクチン組成物が投与の際に、または投与後に、いくらかの不快感または比較的わずかな苦痛を引き起こすことを認識しているであろう。しかし、本格的な疾患に対して保護されることの有益性は、この可能性よりはるかに重要である。代わりとして、ワクチン接種された動物に本来感染しない、またはワクチン接種された動物において通常は疾患を引き起こさない異型ウイルスを利用することができる。本発明の抗原(たとえば本発明のRPV)を不活化する方法の例には、熱、ホルムアルデヒド、ホルマリン、ビエチレンアミン(biethylene amine)、照射、およびベータ−プロピオラクトン処理が含まれるが、それらに限定されない。
【0036】
他の適切なワクチン構成要素、たとえば薬理学的に許容できるキャリヤーは当業者に周知であり、ワクチンとしての使用のためのそのような組成物の調製も同様である。典型的には、そのような組成物は液剤または懸濁液剤のどちらかとして調製されるが、固体剤形、たとえば錠剤、丸剤、粉末なども意図される。投与前に液体に溶解もしくは懸濁するのに適した、または口内での溶解に適した、固体剤形を調製することもできる。製剤は乳化されてもよい。有効成分を、医薬的に許容できる、有効成分と適合する賦形剤と混合してもよい。適切な賦形剤は、たとえば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、またはそれらの組み合わせである。さらに、その組成物はわずかな量の補助物質、たとえば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などを含有してもよい。経口形態の組成物を投与することが望まれる場合、様々な増粘剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散補助剤または結合剤などを添加してもよい。本発明の組成物は、投与に適した形の組成物を提供するために、あらゆるそのような追加の成分を含有してもよい。配合物中の翻訳可能な核酸の最終的な量は様々であってよい。しかし、一般に、その量は約1から99%までであろう。その組成物はさらにアジュバントを含んでいてもよく、その適切な例にはSeppic、Quil A、Alhydrogelなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0037】
一般に、ワクチンとしての投与のために、核酸はウイルスまたはビリオン粒子の中に含まれると考えられ、その粒子全体がワクチンの構成要素であろう。当業者には理解されるであろうが、そのワクチンがビリオン(たとえば本発明のRPV)を含有する場合、それらは不活化(死菌)または弱毒化されるであろう;すなわち、粒子が疾患の症状を引き起こさないように、または穏やかな、生命を脅かさない症状しか引き起こさないように、細胞培養においてそのウイルスを数回継代した後に得られるであろう。当業者は、ウイルスを弱毒化する他の方法があり、本明細書で開示した変種ウイルスの適切な形を開発するために本発明の実施に際してこれらのいずれかを用いてよいことも認識するであろう。たとえば、ウイルスの毒性、複製する能力などを損なう様々な変異を導入することができる。
【0038】
あるいは、SEQ ID NO:1で示したヌクレオチド配列(または本明細書で記述したような抗原性領域もしくはエピトープをコードするそのフラグメント、たとえばSEQ ID NO:2)を、異種のベクター、たとえば異なるウイルス(たとえば、ワクチンレシピエントの種において疾患を引き起こさないウイルス)、または結果としてワクチンレシピエントにおいて疾患の症状を引き起こすことなくそのコードされているタンパク質の発現をもたらすように設計されている別のタイプの構築体中において送達することができる。そのようなウイルスの例には、ネコ汎白血球減少症ウイルス(FPV)、様々なヘルペスウイルス、非病原性“オーファンウイルス”、腸ウイルス、たとえばエンテロウイルスなどが含まれるが、それらに限定されない。そのワクチンの他の形も意図される。たとえば、(核酸無しの)“空の”ビリオン粒子ワクチンも意図され、カプシドに組み立てられないタンパク質を含むワクチンも同様である。本発明のRPVは、たとえばカラム中、ディッシュ中などでのトランスフェリンでコートされたビーズを用いたパニング(panning)によって、実質的に、または部分的に精製および/または濃縮されてもよい。
【0039】
本発明のRPVは、きわめて高い力価で安全に投与することができる。たとえば、ワクチン中のCPV−2の通常の用量は、注射あたり約10,000ウイルス粒子である。RPVが用いられる場合の投与量は、注射あたり約10,000粒子から注射あたり約100,000粒子まで、またはさらに高い、たとえば注射あたり約100,000から約1,000,000粒子までの範囲である。
【0040】
あるいは、そのワクチン製剤は、SEQ ID NO:3もしくはSEQ ID NO:4に示したVP−2タンパク質(ポリペプチド、ペプチドなど)配列、またはその抗原性領域もしくはエピトープを含んでいてもよい。さらに、上記で記述したSEQ ID NO:3もしくはSEQ ID NO:4、またはその抗原性領域もしくはエピトープに少なくとも約50%の同一性、好ましくは約60%、より好ましくは約70、80、もしくは90%の同一性もしくは類似性、またはさらには約95、96、97、98もしくは99%以上の同一性もしくは類似性を示す配列も、その配列がアミノ酸残基232および300の一方または両方をそれぞれThrおよびAspとして含む限り、そのワクチンにおける使用に関して意図される。用語“同一性”および“類似性”は当技術分野で既知であり、ここで用語“同一性”の使用は一般に、比較されている配列中の対応する同じ位置の間の一致した対に基づく配列の比較を表わす。
【0041】
用語“類似性”はアミノ酸配列の間の比較を表わし、対応する位置における同一アミノ酸だけでなく、対応する位置における機能的に類似のアミノ酸(たとえばAspとGlu、それらは両方とも中性pHにおいて通常負に荷電している側鎖を有し、したがって類似して機能することができる)も考慮する。したがって、ポリペプチド配列間の類似性は、配列の類似性に加えて機能的類似性を示す。本発明に含まれる配列は、たとえば当業者に理解されているような保存的アミノ酸置換(たとえば正に荷電したアミノ酸は互いに置き換えることができ、負に荷電したアミノ酸は互いに置き換えることができ、脂肪族アミノ酸は互いに置き換えることができる、など)を有することにより、そのアミノ酸配列がワクチンのレシピエントへの投与の際に有効で適切な免疫反応を誘発する能力を保持している限り、明白に開示された配列と異なっていてもよい。さらに、本発明は、SEQ ID NO:3内の短い連続した配列(すなわち、SEQ ID NO:3の一部分に相当する切り詰められた、または部分的な配列)であるがワクチンレシピエントにおいてイヌパルボウイルス感染症の症状の発現に対する有効で適切な免疫反応を誘発する能力を保持している、抗原性領域またはエピトープのアミノ酸配列も含む。そのような抗原性領域は一般に約5〜10アミノ酸の長さの範囲内であるが、約15、20、25、30、35、40、45またはさらには約50アミノ酸以上の長さであってもよく、それは一般にアミノ酸残基232および300の一方または両方を含むであろう。
【0042】
本発明の1態様において、そのワクチンレシピエントは子犬である。“子犬”とは、約8週齢未満の若いイヌを意味する。典型的には、そのワクチンは子犬にたとえば2〜3週齢の時点で投与され、続いて4および6週の時点で追加免疫投与が行なわれる。ある態様において、そのワクチンは8週より後では使用されず、これは、その時点より後では流行しているウイルスに対して向けられた他の既知のワクチンを移行抗体による干渉なしにその時点で使用できるためである。
【0043】
ある態様において、そのワクチンのレシピエントは子犬であるが、当業者はこれが常にそうである必要はないことを認識するであろう。そのワクチンはあらゆる年齢のイヌに、またパルボウイルスによる感染症にかかりやすい他の種の動物(特に肉食動物)に、成熟した動物および幼若な動物の両方に投与できる。例には、イヌ科の動物(たとえば野生のイヌ科動物、たとえばオオカミ、山犬の種、コヨーテ、キツネ、たとえばハイイロギツネ、子ギツネおよびアカギツネなど]など)、スカンク、ネコ(家猫および子猫、ならびに飼い慣らされているか野生であるかに関わらずより大きい種のネコ、たとえばボブキャット、クーガー、ライオン、トラなど)、ミンク、レッサーパンダなど;アライグマ、ハナグマ(coatis)、キンカジュー、オリンゴ、リングテイルおよびカコミスル(cacomistle)などが含まれる様々なアライグマ科(procyonidae)の動物が含まれるが、それらに限定されない。そのような動物は、それらがそのワクチンの投与によって有益性を得ることができる限り、飼い慣らされた(たとえばペット)、“働く”動物(たとえば介助動物)、家畜、野生の動物、飼育下の、または指定保護地区の、動物園の、収容所の動物などであってよい。
【0044】
本発明の免疫原性/ワクチン製剤は、当業者に周知の多くの適切な手段のいずれかにより投与でき、それには注射による投与、非経口投与、たとえば筋肉内、皮下、腹腔内、皮内などへの投与、前記のような“子犬用ロリポップ”による経口投与、鼻腔内投与、その抗原を含有する食品の摂取による投与などが含まれるが、それらに限定されない。しかし、好ましい態様において、成熟したレシピエントへの投与の方式は注射によるものであり、上記で記述したように、幼若なレシピエントへの注入の方式は、吸った際に口の中で溶解する固体製剤によるものである。本発明の組成物は、単独で、または他の医薬品もしくは免疫原性組成物との組み合わせで、たとえば多構成要素ワクチンの一部として投与することができる。さらに、投与は1回の実施でもよく、またはその免疫反応を増大させるために多数回の追加免疫投与量を様々な時間間隔で投与してもよい。子犬への投与の場合、典型的な投与計画は、(上記のように)2〜3週齢での最初の投与、続いて4および6週の時点での追加免疫投与であろう。好ましくは、投与は予防的、すなわちそのウイルスへの曝露が起こる前、またはそれが起きたことが疑われる前であるが、その事実の後、すなわち既知の、もしくは疑われる曝露の後、または治療的に、たとえばウイルス感染症と関連する疾患症状の発生の後であってもよい。
【0045】
本発明は、それを必要とする患者または個体において免疫反応を誘発する方法、および患者または個体(特に肉食動物、たとえば幼若なイヌ科の動物、たとえば子犬)にパルボウイルス感染に対してワクチン接種する方法も提供する。その方法は、免疫を誘発する製剤またはワクチン製剤の1回以上の用量をそのレシピエントに投与することを含む。投与される用量は、投与する核酸によりコードされる抗原に対する免疫反応、好ましくは防御免疫反応を誘発するのに十分な量である。あるいは、本明細書で記述する1種類以上のアミノ酸配列を投与する場合、その免疫反応はそのアミノ酸配列中に存在する抗原に対するものである。好ましくは、その免疫反応は保護的であり、投与の結果として疾患の症状は生じないであろう。しかし、当業者は、多くの有効なワクチン組成物が投与の際にいくらかの比較的わずかな症状を引き起こし、またはそのレシピエントが疾患を引き起こす生物にいったん感染すると疾患のすべての症状を排除するのではなく弱めることを認識しているであろう。しかし、本格的な疾患に対して保護されることの有益性は、これらの可能性よりはるかに重要である。
【0046】
他の態様において、本発明のアライグマパルボウイルスは遺伝子送達系として用いられる。本明細書で記述されるアライグマパルボウイルス(RPV)は、自律複製パルボウイルス(autonomously replicating parvovirus)(ARP)である。遺伝子送達ビヒクルおよび発現ベクターとしてのARPの使用は記述されている(MaxwellらへのUnited States patent 5,585,254参照)。本発明のRPVは、CPVでワクチン接種した、または自然にCPVに曝露されたことのあるイヌからの血清と抗原的に非反応性であるため、このRPVはイヌ科の動物のための、そしてまた他の種(下記参照)のための遺伝子ビヒクルおよび/または発現ベクターとしての使用に十分に適している。遺伝子操作されたRPVは、目的の細胞中に“外来の”または“異種の”核酸配列、すなわちRPVに由来しないがその目的の細胞内で目的のポリペプチドもしくはペプチドをコードおよび発現する、またはそうでなければその発現を増進もしくは促進する配列を運び込むために用いられる。たとえば、1種類以上の免疫原がコードされていてもよく、そのRPVはその1種類以上の免疫原に対する免疫反応を誘発する(たとえばその対象にワクチン接種する)ために対象に投与できる。
【0047】
RPVは小さい無エンベロープの一本鎖DNAを含有するウイルスである。他の脊椎動物の自律性パルボウイルスと同様に、RPVのゲノムは、両側にDNAの複製に必要な逆位末端配列(inverted terminal repeat)(ITR)を有する2つのオープンリーディングフレームORF1およびORF2をもつ(図4A)。ORF1およびOEF2の発現は、それぞれプロモーターP4およびP38により駆動される(図4B)。ORF1は非構造(non-structural)(NS)タンパク質NS1およびNS2をコードしており、ORF2はカプシドタンパク質VP−1、VP−2およびVP−3をコードしている(図4C)。NS1は多機能タンパク質であり、それはウイルスのDNAの複製およびプロモーターのトランス活性化、たとえばVP−1およびVP−2の転写を駆動するトランス活性化に必要である。NS2は、複製、ウイルス産生、および子孫ビリオンが核から出るのに不可欠である。パルボウイルス粒子は正二十面体対称性をもち、直径約20nmである。その粒子は約50%のタンパク質および約50%のDNAを含有し、中和エピトープはその粒子の露出した表面上に存在する。
【0048】
イヌパルボウイルスのカプシドタンパク質、たとえばVP−2タンパク質内に異種の配列を挿入することが可能であり、本発明のRPVを遺伝子操作するために、これと同じかまたは類似の戦略が用いられる(Austin et al., Tropic determinant for canine parvovirus and feline panleukopenia virus functions through the capsid protein VP-2, Journal of General Virology (1997), 78, 925-928.)。表1にVP−2をコードする遺伝子内に位置する制限部位を列挙する。これらの制限部位の1つ以上を、外来DNAの挿入のための部位として用いることができる。
【0049】
【表1−1】

【0050】
【表1−2】

【0051】
【表1−3】

【0052】
【表1−4】

核酸配列をVP−2遺伝子の中に挿入するために特に有用であろう制限部位には、EcoRI、HpaI、およびPstIが含まれる。これは、これらの制限部位はほとんどの組換えベクターのマルチプルクローニングサイトに一般的に組み込まれているためである。
【0053】
自律性パルボウイルスは一般に、それらの野生DNA含有量の約105%に等しい合計量のDNAをパッケージングするのに限られている。したがって、本発明のRPV遺伝子送達ビヒクル中に含ませるのに好ましい導入遺伝子またはその部分(すなわち、天然ではパルボウイルス中に存在しない、異種の、または外来のヌクレオチド配列、核酸配列など)は、一般に約9から約60ヌクレオチドまでの長さである。たとえば、約60ヌクレオチド以下(たとえば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、または55ヌクレオチド)の配列は容易に収容することができる。そのような配列は一般に、約3から約20アミノ酸まで、たとえば約3、4、5、6、7、8、9、19、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20アミノ酸を含む目的配列(たとえば小さいタンパク質、ポリペプチド、ペプチドなど)をコードしている。1態様において、36ヌクレオチドによりコードされる12アミノ酸までのペプチドがRPVにより収容される。しかし、他の態様において、VP−2タンパク質の部分を外来のDNAにより置き換えることによって、著しく多い核酸配列が挿入される。たとえば、ある態様において、必要とされる逆向き反復を保持または付加して、外来のDNAにより約50から550アミノ酸までが置き換えられ、たとえば約50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、またはさらには550アミノ酸(VP−2遺伝子全体)が置き換えられる。
【0054】
異種のヌクレオチド配列によりコードされる目的配列には、たとえば、目的タンパク質からの1以上の目的とするエピトープまたは抗原性領域を含めることができ、その例には以下のものが含まれるが、それらに限定されない:イヌ、ネコおよび他の種の重要な病原体の表面タンパク質;イヌジステンパーウイルス、イヌアデノウイルスおよび/またはイヌインフルエンザウイルスの表面タンパク質の線状エピトープのカセット;イヌジステンパーウイルスおよびイヌインフルエンザウイルスのヘマグルチニンから選択される多数のペプチド;イヌパルボウイルスのアミン生成(aminogenic)エピトープ;イヌアデノウイルスのアミノエピトープ(ペントンタンパク質に由来する)など。いくつかの重要なイヌウイルスの追加のエピトープが決定されている(たとえば、Microbiol ImmunoI. 53(12):667-74, 2009; Jung et al, J Vet Sci. 6(1):21-4, 2005; Ghosh et al, Immunology 104(1):58-66, 2001などを参照)。
【0055】
他の態様において、コードされるポリペプチド/ペプチドは、免疫応答を誘発する機能または特性以外の(またはそれに加えた)機能または特性、たとえば腫瘍細胞に対する細胞毒性、標的化特性などをもつ。
【0056】
本発明のある態様において、そのRVP遺伝子送達ビヒクルは、そのRVPを目的の細胞型(単数または複数)に標的化することを可能にするようにさらに遺伝子操作されてもよい。他の肉食動物のパルボウイルス(およびげっ歯類のアレナウイルスも)と同様に、アライグマパルボウイルスは、図5Aに概略的に図説したように、細胞表面のトランスフェリン受容体(TFR)に結合することにより細胞に入る。RPVのコグネイトトランスフェリン結合部位(抗受容体部位)(たとえばタンパク質VP−1、VP−2および/またはVP−3)の操作および変異導入により、そのウイルスの宿主範囲、および/またはそのRPVが感染することができる細胞型を変化させることが可能である。たとえば、そのような遺伝子操作されたRPVは、アライグマ以外の種(ヒトを含む)のトランスフェリン受容体に結合して細胞に感染することができ、したがってイヌ科以外の種において遺伝子送達ビヒクルとして用いることができる。あるいは、様々な種からの細胞におけるウイルスの継代の間に、変化した宿主範囲をもつRPVを同定し、選択することができる。一般に、標的化の特異性を達成するための2つの方法がある:形質導入的標的化および転写的標的化。形質導入的標的化は、目的細胞、たとえばイヌの癌の分裂している細胞、腸細胞などの中へのベクターの選択的取り込みを含む。これは、目的細胞に結合して感染するために必要な因子、たとえばリガンド(たとえばコグネイトリガンド、それはタンパク質である可能性がある)を含有して発現するようにそのウイルスを遺伝学的に改変することにより行なうことができる;そのリガンドは限定的に(またはほとんど限定的に)目的細胞の表面に位置している受容体に結合し、目的細胞によるそのウイルスの取り込みを引き起こし、または可能にする。たとえば、RPVによる形質導入的標的化は一般に、そのRPVがその外側表面に標的とされる細胞上でのみ見られる受容体タイプのコグネイトリガンドを発現するように遺伝子操作することにより実施される。転写的標的化では、その導入遺伝子は多くの異なる宿主細胞により取り込まれる可能性があるが、それは標的細胞においてのみ転写される。RPVによる転写的標的化は一般に、細胞特異的および/または誘導可能なプロモーターをその構築体中に含ませ、その標的とされる細胞中でのみ(またはほとんど限定的にその細胞中で)目的の異種配列の発現を駆動することにより実施される。
【0057】
自律性パルボウイルスベクターを調製するための一般的な戦略はMaxwellらにより記述されており(Methods 28 (2002) 168 - 181)、RPVウイルスベクターの調製はそこで記述されているように、たとえばLuIIIベクターの調製と同様に、適合させることができる。簡潔には、CRFKのような産生用(productive)細胞株を用いる。プロデューサー細胞(たとえば324K細胞株)に、目的の導入遺伝子配列を含むスーパーコイル型の組換えRPVプラスミドを、ウイルス粒子の切り出し、増幅およびパッケージングに関して必要なヘルパー機能、たとえばNS1、NS2、VP1、VP−2などを発現する1種類以上のプラスミドと一緒にトランスフェクションする。このプロセスを図式的に図5Bに図説する。イヌおよびネコパルボウイルスに関する組換えプラスミドを作るための戦略は記述されており(Austin et al., Journal of General Virology (1996), 77, 1787-1792)、それと同じまたは類似の戦略を用いて組換えRPVプラスミドを作る。トランスフェクションの数日後に調製された細胞抽出物からRPVベクターを回収する。
【0058】
腫瘍に関するウイルス療法は目下探求されている(たとえば、Rommelaere et al, Cytokine & Growth Factor Reviews 21:185-195, 2010;およびRommelaereらへのUS patent 7,179,456を参照;それの完全な内容を本明細書に援用する)。しかし、その標的化された攻撃を実行することができる新規ウイルスの必要性がある。本発明のRPVはこの方法で、すなわち腫瘍療法剤として用いることができる。この方法でのRPVの使用は一般に、その中でRPVが複製することができる腫瘍を伴う対象の同定、およびその腫瘍を伴う対象へのそのRPVの投与を含む。投与はあらゆる適切な方法で行うことができ、それには静脈内投与、その腫瘍の中に直接注射することによる投与(すなわち腫瘍内投与)などが含まれるが、それらに限定されない。RPVウイルス療法は主に1回投与(たとえば“ワンショット”)処置を意図している。これは、一度その対象(たとえばイヌ)がそのRPVを与えられると、それはそのRPVに対する抗体を作り出すことにより免疫学的に反応すると考えられるためである。したがって、有効な2回目のショットを与えられる可能性は低いと思われる。したがって、投与されるその1回の用量は、著しく高いパルボウイルス濃度をもつ。たとえば、その用量は1回あたり少なくとも約1000万個から1億個までの範囲のウイルス粒子であろう。RPVのみが成犬に投与して下痢を引き起こさずにびまん性腫瘍中の残存する腫瘍細胞を死滅させることができる。RPVのみはこれらの著しく高い用量で用いてもなおレシピエントに臨床疾患を引き起こさないことが可能であり(たとえばCPV−2またはFPLVにはできない)、すなわち、RPVは腫瘍を伴うイヌまたはネコにおいて下痢を引き起こさないであろう。
【0059】
この方法で処置することができる腫瘍を伴う対象には、たとえばイヌ、ネコ、ペットミンク、アライグマおよびヒトが含まれるが、それらに限定されず、その療法はイヌおよびネコにきわめて有効である。その対象は幼若体または成体であってよい。本発明のRPVを用いて処置することができる腫瘍のタイプには以下のものが含まれるが、それらに限定されない:イヌに関して、組織球性肉腫(それはびまん性であり、それに関して現在利用できる有効な処置は無い)、膵臓癌、リンパ腫、神経膠腫、および骨肉腫など;ネコに関して、上記で列挙した腫瘍および肝胆道腫瘍なども。
【0060】
1態様において、腫瘍を処置するために用いられるRPVは一般に、その腫瘍細胞へのウイルスの結合が選択的であるように、または好ましくは特異的であるように、その腫瘍細胞を特異的に標的化するように遺伝子操作されている。本発明のRPVのこの使用は、たとえば成犬においても実施でき、これはたとえそれらが以前にCPVに対してワクチン接種されていても、それらが保有する抗体は本発明のRPVを完全には中和しないと考えられるためである。
【0061】
本発明は、本発明で記述したアライグマパルボウイルスの検出のための診断キットも提供する。そのようなキットには、本明細書で開示する核酸配列を(たとえばポリメラーゼ連鎖反応により)増幅するための特異的なオリゴヌクレオチドプライマーが含まれていてもよい。あるいは、そのようなキットには、そのパルボウイルスにより提示される特有の抗原決定基に、たとえばそのVP−2タンパク質の位置300におけるAspに、選択的または特異的に結合する(たとえばモノクローナルまたはポリクローナル)抗体が含まれていてよい。RPVを検出する方法も含まれる。そのような方法には一般に、本発明のRPVに感染したことが疑われる対象から生物学的試料を得ること、およびその試料中の本発明のRPVの存在または非存在を、たとえば本明細書で開示する核酸配列を(たとえばポリメラーゼ連鎖反応により)増幅するのに特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、および/または本明細書で開示するRPVに特異的な抗体を用いることにより検出することが含まれる。これらの方法を用いて、そのRPVによる動物の感染を診断する方法(たとえば、RPVおよびアライグマ腎臓細胞培養物と反応するMoAb)も提供する。
【0062】
以上の例は本発明を説明するのに役立つが、決して限定として解釈されるべきでない。
【実施例】
【0063】
実施例1.アライグマからの新規パルボウイルスの分離
一般的な北米アライグマ(Procyon lotor)は、都市の生息環境によく適応した夜行性の雑食動物である。アライグマは、隠れ家および食物を提供する川岸の付近に生息するのを好み;都市の環境では、それらはイヌおよびネコと交流する可能性がある。アライグマは肉食動物を冒すいくつかの疾患、特にイヌジステンパー、狂犬病、イヌアデノウイルス、レプトスピラ症、インフルエンザAおよびパルボウイルスに感染しやすい。以前の、カナダ(Barker et al., 1983)および米国(Nettles et al., 1980)におけるアライグマからのパルボウイルスの検出および特性付けの報告がある;しかし、過去20年において公開された報告はない。アライグマはイヌパルボウイルス2型(CPV−2)に感染しにくいことも報告されている(Appel and Parrish, 1982)。しかし、本明細書で開示したように、これが事実ではないことを示唆する証拠が提供されている。さらに、本明細書は米国において野生動物のリハビリ施設で救助されたアライグマにおけるCPV−2に遺伝的に関連するパルボウイルスの分離を記述する。
【0064】
2カ月齢の雄のアライグマが米国アーカンソーにある野生動物リハビリ施設に収容された。そのアライグマは、収容の時点では臨床的に正常であった。4週間後、そのアライグマは食欲不振および重篤な下痢を発現した。そのアライグマはエンロフロキサシン(enrofloxacin)(Baytril,Bayer)の1日1回の投与で処置され、液体が皮下投与された。この処置にもかかわらず、その動物は死んだ。2匹の他のアライグマが以前に同じ施設で類似の臨床徴候を示した後に死んでいた。このアライグマは、死亡後検査のためにオクラホマ動物疾患研究所(Oklahoma Animal Disease Laboratory)に委ねられた。
【0065】
肉眼での検査では、口の粘膜および強膜は青白い色ないし白色であり、腹部が膨張しており、会陰部および肛門領域が薄い“流れやすい(runny)”黄色い流体で覆われていた。その動物の体重は1.5kgであり、妥当な骨格筋および体脂肪貯蔵をもち、それは急性の死と一致していた。胃の内容物は粘液様の黄色であり、黄色の顆粒状物質を含んでいた。その小腸は拡張しており赤く、荒い漿膜を有していた。小腸および大腸両方の内容物は流れやすく、粘液様で黄色がかっており、黄色い物質が滑らかなガラス状の粘膜を覆っていた。
【0066】
病理組織学的試験は、脾臓がうっ血しており、リンパ性壊死により濾胞からリンパ球が枯渇していたことを明らかにした。肺においてびまん性肺浮腫が明白であった。小腸の切片は、絨毛の脱落および残留した粘膜固有層の崩壊を伴う広範囲に及ぶ陰窩壊死を有していた。わずかな領域が、散乱した、大きな、高色素性の再生しつつある陰窩上皮細胞を示した。腸の管腔表面は、フィブリン、好中球、細菌およびいくらかの出血で覆われていた。CPVに関する免疫組織化学は稀な陽性のシグナルを示し、それは不確かであると評価された。顕微鏡による腸の外観は、ウイルス性腸炎と一致していた。
【0067】
腸および舌の新しい切片を、モノクローナル抗体3B10(フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocynate)−標識抗CPVコンジュゲート;MVRD)(Kapil et al., 2007)を用いた蛍光抗体試験により検査した。両方の組織が陰性であることが分かった。その病理組織学的所見に基づくと、ウイルスを含有していた可能性のある腸中に残っている腸細胞はわずかしかなかった。Desario et al., (2005)により開発されたイヌパルボウイルスに関する一般的PCRを腸の内容物について2回行い、2回とも強い陽性であった。そのウイルス学的所見をさらに支持するため、その腸の内容物を、培養したCrandall−Reeseネコ腎臓(CRFK)細胞(ATCC)上に接種した。
【0068】
ウイルスの分離のため、腸の試料を10パーセントw/v懸濁液として調製し、1回凍結融解させた。その懸濁液を等体積のクロロホルムで抽出した。10,000gで5分間遠心分離した後、その上清を0.22μmシリンジフィルターを通して濾過した。その濾液を、フラスコ中に蒔いておおよそ45分後のCRFK細胞上に接種した。その細胞を5日間毎日観察し、5日目に細胞が丸まって剥がれたことにより細胞病理学的に特性付けられたのが観察された。その細胞を2回凍結融解させ、ブタ赤血球を用いた血球凝集試験を行なった。その試料は血球凝集活性を示し、それはパルボウイルスが細胞培養物中で複製したことを示していた。そのウイルスの存在を、細胞培養上清に対する一般的パルボウイルスPCR(Desario et al., 2005)およびそれに続く増幅産物の配列決定によりさらに確認した。
【0069】
同じ標本から3つの独立した配列を得た(AR−08071304)。すべての配列は同じであった。2つは腸の内容物の新しい試料に由来するものであり、3番目はCRFK細胞中で培養された分離株に由来するものであった。その3つの配列に対してBLASTN分析およびCLUSTALW分析(National Center of Biotechnology Information)を行なった。配列分析に基づいて、そのアライグマパルボウイルスは遺伝的にCP−V2に最も近縁であることが分かった。
【0070】
そのアライグマパルボウイルスのウイルスタンパク質−2(VP−2)を完全に配列決定するために、Decaro et al., (2008)による記載に従って2回の追加のPCR増幅を行なった。そのアライグマパルボウイルスの完全なVP−2の配列に対してBLAST分析を行なった。その配列はCPVと最も高い同一性を有しており(98パーセント);ネコ汎白血球減少症ウイルス、別のアライグマパルボウイルス(M24005)、およびミンク腸炎ウイルスの分離株と97パーセントの同一性を有していた(図6)。
【0071】
実験的研究において、アライグマはミンク腸炎ウイルスおよびネコパルボウイルスに感染しやすいことが分かっている(Barker et al., 1983)。本明細書で記述したアライグマの分離株は、CPV−2と生物学的相同性および配列相同性を有していた。VP−2のおおよそ500塩基対の部分的な配列はCPV−2と最も高い相同性を有していた(99パーセント)。位置426および555のコドンがそのアライグマの分離株をCPV−2として分類する補助となった(Desario et al., 2005)。さらに、コドン564および568もCPV−2と一致していた(Truyen et al., 1994)。そのアライグマの分離株におけるコドン564はAGTであり、それはイヌパルボウイルスにおいても同じである;このコドン564はネコパルボウイルスおよび以前のアライグマの分離株(M24005)においてはAATである。コドン568はCPV−2および本発明のアライグマ分離株の両方においてGGTである;しかし、それはネコパルボウイルスおよび以前のアライグマの分離株(M24005)ではGCTである。
【0072】
同様に、VP−2のアミノ酸配列に基づいて、そのアライグマパルボウイルスはCPV−2の独特の変種であると考えることができる。VP−2のアミノ酸位置80に、そのアライグマの分離株はアルギニンを有し、それはCPV分離株からのVP−2と同じである;これに対し、ネコパルボウイルスはアミノ酸位置80にリジンを有する。アミノ酸位置87に、そのアライグマの分離株はCPV−2の変種CPV−2aおよびCPV−2bと同様にロイシン残基を有していた;FPVおよびCPV−2は両方ともアミノ酸位置87にメチオニンを有する。アミノ酸位置93に、そのアライグマの分離株はすべてのCPVと同様にアスパラギンを有しており、一方でFPVはこのアミノ酸位置にリジンを有する。アミノ酸位置101に、そのアライグマの分離株はスレオニンを有し、これはCPV−2aおよびCPV−2bと同様である;FPVおよびCPV−2は両方ともアミノ酸位置101にイソロイシンを有していた。アミノ酸位置103に、そのアライグマの分離株はCPV−2aおよびCPV−2bと同様にアラニンを有し、一方でFPVおよびCPV−2はアミノ酸位置103にバリンを有する。そのアライグマの分離株はアミノ酸位置232にスレオニン、アミノ酸位置297にセリン、およびアミノ酸位置300にアスパラギン酸を有していた;FPVおよびCPV−2はアミノ酸位置300にアラニンを有し、一方でCPV−2aおよびCPV−2bはアミノ酸位置300にグリシンを有する。アミノ酸位置305に、そのアライグマの分離株はFPVおよびCPV−2と同様にアスパラギン酸を有していた;CPV−2aおよびCPV−2bはこのアミノ酸位置にチロシンを有する。そのアライグマパルボウイルスはアミノ酸位置426にFPV、CPV−2およびCPV−2aと同様にアスパラギンを有していた。アミノ酸位置555に、そのアライグマの分離株はほとんどのCPV遺伝子型およびFPVと同様にバリンを有していた;しかし、CPV−2aはアミノ酸位置555にイソロイシンを有する。アミノ酸位置564に、そのアライグマの分離株はすべてのCPV分離株と同様にセリンを有していた;FPVはこのアミノ酸位置にアスパラギンを有する。アミノ酸位置568に、そのアライグマパルボウイルスはCPV−2と同様にグリシンを有していた;FPVはこのアミノ酸位置にアラニンを有する。このように、そのアライグマパルボウイルス分離株(CAR−08071304)の完全なVP−2配列に基づいて、それはCPV−2の独特の遺伝的変種であると考えられた。これらの違いの要約を図7に示す。
【0073】
特に、アミノ酸残基232はそのアライグマの分離株においてThrであり、アミノ酸残基300はAspである。このように、RPVのVP−2タンパク質中のこれらの2個のアミノ酸残基はすべての他の既知のCPV分離株のVP−2タンパク質と異なっており、このRPVの独特の特性(たとえば抗体反応性)の原因である可能性がある。特に、アミノ酸残基300のGly(非荷電、側鎖=H)からAsp(中性pHで負電荷、側鎖=CHCOO)への置換は、そのウイルスの抗原性特性を変化させる。理論により拘束されるわけではないが、この変化はそのウイルスの受容体結合特性にも影響を及ぼすと思われる。
【0074】
以前のアライグマの分離株M24005は1979年に米国で分離された。本発明の分離株は、そのモノクローナル抗体A3B10との反応性の欠如に基づくと、米国で現在流行しているCPV−2分離株とは抗原的に異なっていた(Kapil et al., 2007)。ウイルスの分離が陽性であった組織は、直接的な蛍光抗体検査により陰性であった。その組織学的所見に基づくと、そのアライグマが死んだ時にその腸の内壁にはわずかな腸細胞しか存在していなかった。A3B10との反応性の欠如は驚くべきことではなく、これはこのモノクローナル抗体がCPV−2の主要な抗原性ドメインと反応するためである(Wikoff et al., 1994)。その腸の内容物は、直接的な検査および糞便浮遊試験により寄生虫の卵に関して陰性であった。その腸の内容物は、直接的な検査および糞便浮遊試験により寄生虫の卵に関して陰性であり、ELISAにおいてクロストリジウム−ディフィシレ(Clostridium difficile)毒素に関して陰性であった。ルーティンな細菌学的検査により、リンパ節の試料からストレプトコッカス−ディスガラクティエ亜種エクイシミリス(Streptococcus dysgalatiae subspecies equisimilis)およびストレプトコッカス−ウベリス(Streptococcus uberis)が分離された。二次的な混入細菌またはそれらの毒素がそのアライグマの死に関与した可能性がある。
【0075】
アライグマは米国の都市領域において愛玩動物と交流すると思われるため、この所見は疫学的に重要である。カナダからの公開された調査(Barker et al., 1983)に基づくと、アライグマは頻繁にCPV−2に曝露されている可能性がある。Barkerらの研究(1983)では、カナダで検査された112匹のアライグマのうち25匹(22.4パーセント)が血清陽性であり;1:256以上の血球凝集阻害力価においてほとんどの動物が陽性であった。アライグマは都市環境において動物園の動物へのFPVの漏出(spillover)に関わっていることも示されている(Junge et al., 2007)。アライグマは、それらの雑食性の性質および摂食習性のため、CPV−2に曝露される可能性がある。都市のアライグマがCPV−2を他の種へ伝染する役割は、さらなる調査を必要とする。アライグマにおける天然のCPV−2感染の公開された証拠は存在しない。しかし、血球凝集アッセイに基づいて、CPV−2は米国における捕獲アライグマに関わっていることが示されており、これはpH7.2におけるブタ赤血球の血球凝集に基づいている(Nettles et al., 1980);そのゲノム配列はその研究では決定されなかった。
【0076】
実施例2.肉食動物のパルボウイルスと市販のモノクローナル抗体との反応性
その新規分離株の試験を、4種類の追加の市販抗体CPV1−24、CPV1−13およびCPV1−5(Custom Monoclonal Antibodies、カリフォルニア州サクラメント)を用いて実施した。これらのイヌパルボウイルス−2抗体は、イヌパルボウイルス−2のルーティンな診断のために市販されている。その結果を表2に示す。分かるように、その抗体はCPV、FPLVおよびRPVと類似した反応をする。これは、これらのウイルス間で若干の免疫原性エピトープが保存されていることを示す。
【0077】
【表2】

実施例3.3種類の他のアライグマパルボウイルスとモノクローナル抗体のパネルとの反応性:
上記で記述したアーカンソーのアライグマパルボウイルス08071304に加えて、アライグマ由来であるがイリノイからの3種類の追加のパルボウイルスを、蛍光抗体試験を用いて、3B10 MoAb(VMRD,WA)との反応性に関して試験した。3B10 MoAbはCPV−2に特異的であり、しばしばイヌにおいてパルボウイルス感染を同定および/または診断するために用いられる。3種類すべてのウイルスで3B10 MoAbに関する試験の結果が陰性であった。したがって、実施例1および2で記述したRPVに関する場合と同様に、これらの3種類の追加のアライグマのウイルスのエピトープはこのCPV−2 MoAb抗体により認識されなかった。
【0078】
これらの腸の組織試料は、他のパルボウイルス中の位置300におけるアミノ酸を含むエピトープと反応することが知られている3B10 MoAbと反応しなかったため、これらの結果は、これらの3種類のパルボウイルスもRPVと同様にVP−2のアミノ酸位置300に変異をもつことを示している。
【0079】
実施例4.3種類の追加のアライグマパルボウイルスのVP−2タンパク質をコードする遺伝子の配列決定
実施例3において記述した3種類のウイルスのそれぞれのVP−2タンパク質をコードする遺伝子を部分的に配列決定し、その結果を下記に示す。
【0080】
10071191−Aに関する逆相補的配列(Inverse−Complement)、ヌクレオチド位置1216〜1773(すなわち、557ヌクレオチドの長さ):
【0081】
【化1】

10071191−Bに関する逆相補的配列、ヌクレオチド位置1214〜1779(565ヌクレオチドの長さ):
【0082】
【化2】

10071191−Cに関する逆相補的配列、ヌクレオチド位置1216〜1774(556ヌクレオチドの長さ):
【0083】
【化3】

これらはシカゴ、イリノイからのRPVの部分的なVP−2の配列である。したがって、アミノ酸残基300は配列決定されなかった。しかし、3B10 MoAbとの反応性の欠如(実施例3参照)は、アミノ酸位置300における変異がこれらのウイルスにも存在することを間接的に支持している。その4つの配列(すなわち、完全長の08071304と3つの部分配列10071191−1、2、3)のアラインメントは、いくつかの違いを明らかにした。第1の重要な変化は、08071304のヌクレオチド1216が“A”を有する一方で、3個の新しく同定されたPRV(10071191A、BおよびC)すべてが“T”を有することである。ヌクレオチド1217から1261までは、4つの配列すべてが同一である。しかし、10071191−Bのヌクレオチド位置1262に、他の3つの配列に存在する“A”ではなく“G”が存在する。ヌクレオチド1263から1268まで、すべての配列が同一である。しかし、ヌクレオチド位置1269に、配列10071191−Bは他の3つの配列に存在する“T”ではなく“G”を有する。同様に、ヌクレオチド位置1272および1273に、10071191−Bは他の3つの配列に存在する“AA”ではなく“GG”を有する。ヌクレオチド1274から1292まで、4つすべての配列が同一である。しかし、ヌクレオチド位置1293に、すべての配列が“A”を有するが、10071191−Bは“G”を有する。ヌクレオチド1294から1300まで、すべての配列が同一であるが、その次のヌクレオチド位置1301に、10071191−Bは“A”ではなく“G”を有する。ヌクレオチド1302から1349まで、すべての配列が同一であるが、ヌクレオチド位置1350に、すべての配列が“T”を有するが、10071191−2は“G”を有する。ヌクレオチド位置1351からヌクレオチド位置1706まで、すべての配列が同一である。
【0084】
これに基づいて、我々は、1種類の分離株10071191−BはそのVP−2遺伝子のいくつかの位置において“G”への塩基点変異を有すると結論付ける。
これらの3種類の新規RPVの培養に関して行われた実験は、10071191−Aは細胞培養で増殖させることができ、10071191−CはCRFK細胞株中で著しく細胞壊死性であることを示した。
【0085】
実施例5.新規アライグマパルボウイルス分離株0808294、10071191−1、10071191−2および10071191−3と、他の既知の肉食動物のパルボウイルスとの系統発生的比較
肉食動物のパルボウイルスのより広範囲にわたる系統発生樹を構築するために、新規なアライグマパルボウイルス分離株0808294のVP−2タンパク質をコードする完全長配列、アライグマの分離株10071191−1、10071191−2および10071191−3 VP−2のVP−2タンパク質をコードする部分配列、ならびにいくつかの他のCPV−2パルボウイルスの配列(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイトから入手可能である)を比較した。最初にすべての配列をFASTA形式に変換し、次いでMEGA 4.1ソフトウェアのCLUSTAL/Wプログラムを用いてアラインさせた。Bootstrap分析および階層クラスタリング法UPGMA(Unweighted Pair Group Method with Arithmetic Mean)を用いて樹を構築した。
【0086】
その結果を図8に表わす;それはそれぞれの分離株のNCBI GI番号を示している。分かるように、アーカンソーのRPV(08071304)は十分に特性付けされたイヌパルボウイルスとクラスター形成している。したがって、進化的にそれはイヌパルボウイルス−2様のウイルスである。
【0087】
実施例6:完全長08071304 RPV VP−2配列の基礎的局所的アラインメント検索ツール(Basic local Alignment Search Tool)(BLAST)分析
08071304 RPV VP−2の1801ヌクレオチド配列を、BLAST分析を用いて分析した。その結果は、この配列が他の肉食動物のパルボウイルスとの高い相同性を示すことを示した。
【0088】
最初の7つの最も高い同一性(99%)は、イヌパルボウイルスとのものであった。驚くべきことに、ネコ汎白血球減少症(panluekopaenia)とのいくつかの98%の同一性が得られた。アライグマパルボウイルス(M24005.1)との98%の同一性スコアがあり、ミンク腸炎ウイルスとも98%の同一性があった。いくつかの異なる肉食動物のパルボウイルスの間でそのような高いレベルの同一性は通常は観察されないという点で、これはパルボウイルスのVP−2配列に例外的である。通常、イヌパルボウイルスは他のイヌパルボウイルスとだけアラインして高い同一性を示し、ネコ汎白血球減少症は他のネコ汎白血球減少症ウイルスと最も高い同一性を示す、などである。したがって、08071304はキメラ性の肉食動物パルボウイルスと思われる。この所見は、図7で示したアミノ酸比較によってさらに支持される。これまで、肉食動物のパルボウイルスはVP−2のアミノ酸配列に基づいて容易に分類された。興味深いことに、本発明のRPV(08071304)は線状VP−2 DNAの取決めおよび規則に従わない。図7で示したように、いくつかの場所において、重要なエピトープにある(たとえばアミノ酸位置305の)アミノ酸はFPVまたはMEVのアミノ酸と同じである。しかし、アミノ酸位置93において、それはCPVと同じである。このように、08071307 RPVは遺伝的、抗原的に、およびアミノ酸配列に関して、独特である。このウイルスはいくつかの種における母体由来の免疫を克服するための共通の肉食動物パルボウイルスを提供する可能性がある。
【0089】
参考文献
【0090】
【表3−1】

【0091】
【表3−2】

本発明をその好ましい態様に関して記述したが、当業者は本発明を特許請求の範囲の精神および範囲内で改変して実施できることを認識するであろう。したがって、本発明は上記で記述した態様に限定されるべきではなく、さらに本明細書で提供した記述の精神および範囲内のそれらのすべての改変および均等物を含むべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC NO. のパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルス。
【請求項2】
ATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルスを含むワクチン。
【請求項3】
さらにイヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス2型、イヌパラインフルエンザウイルス、イヌコロナウイルス、イヌヘルペスウイルス、イヌロタウイルス、1種類以上のレプトスピラ(Leptospira)血清型、およびイヌパルボウイルス−2からなる群から選択される1種類以上の抗原性構成要素を含み、これらにおいてVP−2タンパク質の位置232のアミノ酸がThrではなく、VP−2タンパク質の位置300のアミノ酸がAspではない、請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
前記の1種類以上のレプトスピラ(Leptospira)血清型がレプトスピラ・インタロガンス血清型カニコーラ(Leptospira interrogans serovar canicolar)、レプトスピラ・インタロガンス血清型イクテロヘモラジア(Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・インタロガンス血清型ポモナ(Leptospira interrogans serovar pomona)、およびレプトスピラ・キルシュネリ血清型グリポティフォーサ(Leptospira kirschneri serovar grippotyphosa)からなる群から選択される、請求項3に記載のワクチン。
【請求項5】
単離された核酸であって、ヌクレオチド配列SEQ ID NO:1、またはSEQ ID NO:1の一部分を含み;ここで当該SEQ ID NO:1の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含むVP−2タンパク質の抗原領域をコードする、前記単離された核酸。
【請求項6】
免疫原性組成物であって、請求項5に記載の核酸を含み、ここで当該核酸が死菌または弱毒化パルボウイルスビリオンまたは低継代RPV中に存在する、前記免疫原性組成物。
【請求項7】
前記の死菌パルボウイルスビリオンがATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含む、請求項6に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記の弱毒化パルボウイルスビリオンが舌の上での溶解に適した固体のキャリヤー中に存在する、請求項6に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記の免疫原性組成物が皮下投与に適している、請求項6に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
動物においてパルボウイルス感染に対する免疫反応を誘発する方法であって、以下の工程:
前記の動物にヌクレオチド配列SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:1の一部分を含む核酸を含む免疫原性組成物を投与する;ここで当該SEQ ID NO:1の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含むVP−2タンパク質の抗原領域をコードする;
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記の核酸が死菌もしくは弱毒化パルボウイルスビリオンまたは死菌もしくは弱毒化パルボウイルスビリオン中の低継代RPV中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記の死菌パルボウイルスビリオンがATCC NO. を有するパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記の弱毒化パルボウイルスビリオンが舌の上での溶解に適した固体のキャリヤー中に存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記の免疫原性組成物が皮下投与に適している、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記の動物が子犬である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
アミノ酸位置232においてスレオニン残基およびアミノ酸位置300においてアスパラギン酸残基を有する実質的に精製されたパルボウイルスVP−2タンパク質;またはその抗原性フラグメントであって、アミノ酸位置232にスレオニン残基;またはアミノ酸位置300にアスパラギン酸残基;またはアミノ酸位置232にスレオニン残基およびアミノ酸位置300にアスパラギン酸残基の両方を有する、前記のVP−2タンパク質の少なくとも一部分を含む抗原性フラグメント。
【請求項17】
実質的に精製されたパルボウイルスVP−2タンパク質がアミノ酸配列SEQ ID NO:3を含む、請求項16に記載の実質的に精製されたパルボウイルスVP−2タンパク質またはその抗原性フラグメント。
【請求項18】
発現ベクターであって、以下:
SEQ ID NO:3、またはSEQ ID NO:3の一部分のアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列;ここで、当該SEQ ID NO:3の一部分は、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基232、SEQ ID NO:3のアミノ酸残基300、またはSEQ ID NO:3のアミノ酸残基232およびアミノ酸残基300の両方を含む、VP−2タンパク質の抗原性領域である;
を含む、前記ベクター。
【請求項19】
組換えウイルス発現ベクターである、請求項18に記載の発現ベクター。
【請求項20】
カナリア痘ウイルス発現ベクターである、請求項19に記載の発現ベクター。
【請求項21】
哺乳類において腫瘍細胞を死滅させる方法であって、以下の工程:
前記の哺乳類に、前記の哺乳類において前記の腫瘍細胞に感染して死滅させるのに十分な量のATCC NO. のパルボウイルス−2(アライグマ)の特徴を含むパルボウイルスを含む組成物を投与する;
を含む、前記方法。
【請求項22】
前記の哺乳類がイヌパルボウイルス−2に関して血清陽性であるイヌである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記の方法が静脈内および腫瘍内からなる群から選択される投与経路により実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記のパルボウイルスが低継代パルボウイルスである、請求項23に記載の方法。

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A−1】
image rotate

【図3A−2】
image rotate

【図3B−1】
image rotate

【図3B−2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2013−507925(P2013−507925A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534358(P2012−534358)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/052677
【国際公開番号】WO2011/047158
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502352276)ザ・ボード・オブ・リージェンツ・フォー・オクラホマ・ステート・ユニバーシティ (6)
【Fターム(参考)】