説明

アルカリ乾電池

【課題】強負荷放電特性にすぐれるとともに、ガス発生を生じ難くして信頼性を高めたアルカリ乾電池を提供する。
【解決手段】正極缶11内に二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを正極活物質として含む環状の正極合剤21を装填したアルカリ乾電池10にあって、正極合剤21に含まれるオキシ水酸化ニッケルの含有量を、正極缶11の開口部側端部にてゼロまたは選択的に少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、正極活物質として二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを用いたアルカリ乾電池に関する。
【背景技術】
【0002】
LRなどのアルカリマンガン乾電池は、有底筒状の正極缶内に環状の正極(正極合剤、正極コア)が装填され、この正極の内側に筒状セパレータが配置され、このセパレータの内側にゲル状負極(負極ゲル)が充填されるとともに、上記正極缶の開口部が負極端子板とガスケットで封口された構造を有する。正極は、正極活物質として二酸化マンガンを含むものが使用されてきた。
【0003】
一方、近年は、電池を使用する機器(電池利用機器)の負荷(消費電力)が大きくなり、強負荷放電特性にすぐれた電池が要望されるようになってきた。また、最近は、DC−DCインバータなどの電圧安定化機能を内蔵した電池利用機器が多くなってきたが、このような機器では、電池の起電力特性(電圧特性)よりも、発電容量の絶対量が優先される。
【0004】
そこで、正極合剤中にオキシ水酸化ニッケルを混合させることにより強負荷放電特性を向上させたアルカリ乾電池が提供されるようになった(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−234107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、正極合剤中にオキシ水酸化ニッケルを混合させたアルカリ乾電池は、強負荷放電特性にすぐれてはいるが、正極活物質として二酸化マンガンだけを使用した従前のアルカリ乾電池に比べて、電池内部でガス発生が生じやすいという問題のあることが、本発明者らによりあきらかとされた。このガス発生は電池漏液の原因となり、電池の信頼性を大きく損なう。
【0006】
ここで、本発明者らが知得したところによると、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを使用したアルカリ乾電池では、正極合剤に含まれるオキシ水酸化ニッケルが何らかの理由で負極(負極ゲル)に混入することが、ガス発生の原因になることが判明した。
【0007】
さらに、正極缶に装填された正極合剤の一部が負極側に移動することによって上記ガス発生が生じやすくなることが判明した。正極合剤と負極の間はセパレータで隔離されているが、たとえば製造工程あるいはライン搬送中の振動等により、正極合剤の一部が粉体や粉塵となって負極側に混入することが考えられる。その混入は極めてわずかであっても、保存条件によっては漏液に至らしめるほどのガス発生を生じさせる原因となる。
【0008】
この発明は以上のような問題を鑑みてなされたもので、その目的は、強負荷放電特性にすぐれるとともに、ガス発生を生じ難くして信頼性を高めたアルカリ乾電池を提供することにある。
【0009】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次のような手段を提供する。
(1)有底筒状の正極缶内に、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを正極活物質として含む環状の正極が装填され、この正極の内側に筒状セパレータが配置され、このセパレータの内側にゲル状負極が充填されるとともに、上記正極缶の開口部が負極端子板とガスケットを用いて封口されたアルカリ乾電池において、正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルの含有量が、正極缶の開口部側端部にてゼロまたは選択的に少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【0011】
上記手段(1)においては、次のような手段が実施形態としてとくに好適である。
(2)上記手段(1)において、正極は、正極缶内に積層状に装填された複数の環状正極コアからなり、正極缶の開口部側端部に位置する正極コアのオキシ水酸化ニッケル含有量が、ゼロまたは他の位置の正極コアよりも少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【0012】
(3)上記手段(1)または(2)のいずれかにおいて、正極は、正極缶内に積層状に装填された複数の環状正極コアからなり、その積層の両端に位置する正極コアのオキシ水酸化ニッケル含有量が、ゼロまたは他の位置の正極コアよりも少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【0013】
(4)上記手段(1)〜(3)のいずれかにおいて、正極コアに含まれるオキシ水酸化ニッケルの含有量が、正極缶の開口部側の端部にて30%以下であることを特徴とするアルカリ乾電池。オキシ水酸化ニッケルがコバルトと亜鉛を含有することを特徴とするアルカリ乾電池。
【0014】
(5)上記手段(1)〜(4)のいずれかにおいて、オキシ水酸化ニッケルがコバルトと亜鉛を含有することを特徴とするアルカリ乾電池。
【発明の効果】
【0015】
上記手段により、正極合剤中のオキシ水酸化ニッケルが負極に混入することによるガス発生を確実に防止することができ、これにより、強負荷放電特性にすぐれるとともに、ガス発生を生じ難くして信頼性を高めたアルカリ乾電池を提供することができる。
【0016】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明によるアルカリ乾電池の一実施形態を示す。同図に示すアルカリ乾電池10は、有底筒状の金属製正極缶11内に環状の正極合剤21が装填され、この正極合剤21の内側に筒状セパレータ22が配置され、このセパレータ22の内側にゲル状負極(負極ゲル)23が充填されるとともに、上記正極缶11の開口部が負極端子板25とガスケット26で封口された構造を有する。負極23には、負極端子板25の内側に突設された負極集電子24が貫入している。
【0018】
正極缶11はニッケルメッキ鋼鈑を用いた有底円筒状容器であって、正極集電体と正極端子を兼ねる。正極合剤21は、積層状に装填されて3個の正極コア21A,21B,21Bにより形成されている。
【0019】
正極コア21A,21B,21Bには、正極活物質として二酸化マンガンだけを含み、オキシ水酸化ニッケルは含まない第1の正極コア21Aと、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを含み、さらに必要に応じてコバルトと亜鉛を含むが、二酸化マンガンは含まない第2の正極コア21Bとが使用されている。正極缶11の開口部側端部に位置するところには第1の正極コア21Aを配置し、正極缶11の中間部および底側に位置するところには第2の正極コア21Bを配置している。
【0020】
上記アルカリ乾電池10は、正極合剤21の活物質としてオキシ水酸ニッケルを含むことにより、活物質として二酸化マンガンだけを使用したアルカリ乾電池よりもすぐれた強負荷放電特性を有することができる。
【0021】
また、アルカリ乾電池10の製造過程などにおいて、正極缶11の開口部側端部に位置する正極コア21Aの一部とくに表面部が、粉体や粉塵などの形で負極23側に移行することが考えられるが、その正極コア21Aにはオキシ水酸化ニッケルが含まれていないため、負極23にオキシ水酸化ニッケルが混入することによるガス発生を効果的に防止することができる。
【0022】
これにより、強負荷放電特性にすぐれているとともに、ガス発生が生じ難くい高信頼性のアルカリ乾電池を作製することができる。このガス発生の防止効果は、正極缶11開口部側端部でのオキシ水酸化ニッケルの含有量を少なくすることによっても得ることができる。
【0023】
図2は本発明の別の実施形態を示す。複数の正極コアを正極缶11内に積層状に装填する場合、同図の(a)に示すように、その積層の両端に第1の正極コア21Aを配置し、中間に第2の正極コア21Bを配置してもよい。また、同図の(b)に示すように、正極缶11の開口部に近い側に第1の正極コア21Aを2つ重ねて配置し、正極缶11の底部側に第2の正極コア21Bを配置してもよい。
【0024】
図3は本発明のさらに別の実施形態を示す。正極合剤21が4層の正極コアによって構成される場合、第1の正極コア21Aと第2の正極コア21Bは、同図の(a)〜(d)にそれぞれ示すような配置が有効である。
【0025】
[実施例1]
次のような2種類の正極コアA,Bを用意し、この2種類の積層順序の組み合わせにより8種類の筒形アルカリ乾電池(No.1〜8)を作製した。
【0026】
正極コアA:二酸化マンガン90重量%、導電剤としてグラファイトを5重量%、バインダを0.2重量%、40%KOH水溶液を4.8重量%の割合で混合した。これをローラコンパクタにて圧延し、シート状にした後、解砕、篩い分けを行った。これを、金型を用いてコア形状に成形した。
正極コアB:コバルトと亜鉛を含むオキシ水酸化ニッケル90重量%、導電剤としてグラファイトを5重量%、バインダを0.2重量%、40%KOH水溶液を4.8重量%の割合で混合した。これを合剤Aと同様にコア形状に成形した。
【0027】
上記2種類の正極コアAおよび/またはBを正極缶内で3個積層させた正極合剤を形成するとともに、その積層順序の組み合わせにより、表1のように8種類のアルカリ乾電池(No.1〜8)を作製した。
【表1】

【0028】
作製した8種類の電池(No.1〜8)をそれぞれ、60℃90%(RH)の高温高湿雰囲気下で保存する試験を行った。この試験において、保存40日目までに漏液を生じた電池の個数により、各電池(No.1〜8)の信頼性を評価した。
【0029】
この結果、表1に示すように、正極缶の開口部側にオキシ水酸化ニッケルを含む正極コアBを配置した電池(No.1〜4)ではいずれも高い確率で漏液が生じたが、正極缶の開口部側にオキシ水酸化ニッケルを含まない正極コアAを配置した電池(No.5〜8)では、保存試験中の漏液はなく、信頼性の高いことが判明した。
【0030】
[実施例2]
次のような3種類の正極コアA,B,Cを用意し、この3種類の組み合わせで7種類の筒形アルカリ乾電池を作製した。
正極コアA:実施例1の正極コアAと同じに作製した。
正極コアB:実施例1の正極コアBと同じに作製した。
正極コアC:コバルトと亜鉛を含むオキシ水酸化ニッケル45重量%、二酸化マンガンを45重量%、導電剤としてグラファイトを5重量%、バインダを0.2重量%、40%KOH水溶液を4.8重量%の割合で混合した。これを前記正極A,Bと同様に、ローラコンパクタにて圧延し、シート状にした後、解砕、篩い分けを行った。これを、金型を用いてコア形状に成形した。
【0031】
上記正極コアAおよび/またはB、またはCを正極缶内で4個積層させた正極合剤を形成するとともに、その積層順序の組み合わせにより、表2のように7種類のアルカリ乾電池(No.1〜7)を作製した。
【表2】

【0032】
作製した7種類の電池(No.1〜7)をそれぞれ、60℃90%RHの高温高湿条件で40日の保存試験を行った。保存40日目までに漏液を生じた電池の個数により、各電池(No.1〜7)の信頼性を評価したところ、表2に示すように、正極缶の開口部側にオキシ水酸化ニッケルを含む正極コアBを配置した電池(No.1〜4)ではいずれも高い確率で漏液が生じたが、正極缶の開口部側にオキシ水酸化ニッケルを含まない正極コアAを配置した電池(No.5〜7)では、保存試験中の漏液はなく、信頼性の高いことが判明した。
【0033】
[実施例3]
表3に示すように、正極缶の開口部側に位置する正極コアに含まれるオキシ水酸化ニッケルの割合を変えたアルカリ乾電池を作製し、60℃90%RHの高温高湿条件で40日の保存試験を行った。正極缶の開口部側に位置しない他の正極コアについては、実施例1,2の正極コアBを使用した。
【表3】

【0034】
表3に示すように、正極缶の開口部側に位置する正極コア中のオキシ水酸化ニッケルの割合が多くなると、保存試験中に漏液を生じる個数が増えていくことがわかる。しかし、オキシ水酸化ニッケルの割合が30%以下では、保存試験中に漏液した電池がなかった。このことから、正極缶の開口部側に位置する正極コア中のオキシ水酸化ニッケルの割合は、ゼロでなくてもよいが、30%以下であることが好ましい。
【0035】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、正極コア内でオキシ水酸化ニッケルの含有量を変え、その含有量がゼロまたは少なくなる側を正極缶の開口部側に位置させるという態様も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
強負荷放電特性にすぐれるとともに、ガス発生を生じ難くして信頼性を高めたアルカリ乾電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るアルカリ乾電池の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るアルカリ乾電池の別の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るアルカリ乾電池のさらに別の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 アルカリ乾電池
11 正極缶
21 正極(正極合剤、正極コア)
22 セパレータ
23 ゲル状負極(負極ゲル)
24 負極集電子
25 負極端子板
26 ガスケット
21A 正極コア
21B 正極コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の正極缶内に、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを正極活物質として含む環状の正極が装填され、この正極の内側に筒状セパレータが配置され、このセパレータの内側にゲル状負極が充填されるとともに、上記正極缶の開口部が負極端子板とガスケットを用いて封口されたアルカリ乾電池において、正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルの含有量が、正極缶の開口部側端部にてゼロまたは選択的に少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項2】
請求項1において、正極は、正極缶内に積層状に装填された複数の環状正極コアからなり、正極缶の開口部側端部に位置する正極コアのオキシ水酸化ニッケル含有量が、ゼロまたは他の位置の正極コアよりも少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、正極は、正極缶内に積層状に装填された複数の環状正極コアからなり、その積層の両端に位置する正極コアのオキシ水酸化ニッケル含有量が、ゼロまたは他の位置の正極コアよりも少ないことを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、正極コアに含まれるオキシ水酸化ニッケルの含有量が、正極缶の開口部側の端部にて30%以下であることを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、オキシ水酸化ニッケルがコバルトと亜鉛を含有することを特徴とするアルカリ乾電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−185848(P2006−185848A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380730(P2004−380730)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】