説明

アルカリ乾電池

【課題】 優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定化を向上させ、かつ耐漏液性や短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することを目的とする。
【解決手段】オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとを正極活物質として含有するアルカリ乾電池で、前記オキシ水酸化ニッケルは、固溶元素として少なくともマンガンとコバルトを含み、かつ平均ニッケル価数が2.95以上3.05以下であり、オキシ水酸化ニッケル1モル当たりのマンガンの固溶量が5.2×10-2〜7.5×10-2モル、コバルトの固溶量が0.5×10-2〜2.0×10-2モルであり、オキシ水酸化ニッケルの平均粒子径が8〜18μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとを主材料とするアルカリ乾電池の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリマンガン乾電池は、正極端子を兼ねる正極ケースの中に、正極ケースに密着して円筒状の正極合剤が配置され、その中央にセパレータを介してゲル状負極が配置されたインサイドアウト型の構造を有する。近年のデジタル機器の普及に伴い、これらの電池が使用される機器の負荷電力は次第に大きくなり、強負荷放電性能に優れる電池が要望されてきた。これに対応するべく、特許文献1では、正極合剤にオキシ水酸化ニッケルを混合して強負荷放電特性に優れた電池を作製することが提案された。そのような電池は、近年では実用化に到っている。
【0003】
正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ電池は、従来のアルカリマンガン乾電池に比べて強負荷放電特性に優れるため、デジタルカメラに代表されるようなデジタル機器の主電源として普及しつつある。しかしながら、例えばデジタルカメラでは、ストロボ発光、光学レンズの出し入れ、液晶部の表示、画像データの記録媒体への書き込みといった様々な機能に応じた強負荷電力を瞬時に必要としている。したがって、現在のオキシ水酸化ニッケルを含む電池では、放電により生成する水酸化ニッケルが絶縁体であるため、電池の放電が進むと瞬時の強負荷電力を供給しきれなくなり、突然デジタルカメラの電源が切れるといった問題が発生する。すなわち、強負荷パルス放電時の分極が放電末期にアルカリ乾電池に比較して大きくなるために、この突然の電池切れといった問題が生じている。
【0004】
また、正極活物質にオキシ水酸化ニッケルを含む電池は、正極ケースと正極合剤間の抵抗の増大、および放電可能な正極活物質の量の減少などによって、オキシ水酸化ニッケルを含まない電池よりも高温保存後の強負荷放電特性が劣るという問題がある。そこで、特許文献2では、亜鉛を固溶したオキシ水酸化ニッケルの採用や正極合剤への亜鉛酸化物の添加などにより、そのような問題を解決しようとしている。しかし、特に、亜鉛を固溶したオキシ水酸化ニッケルを用いた電池は、強負荷パルス放電時の分極が大きく、また電池短絡時の電池の温度上昇が高く、電池破裂の危険性があるなど実用上問題があった。
【特許文献1】特許第3552194号公報
【特許文献2】特開2002−075354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定化を向上させ、かつ短絡時の安全性に関して高い信頼性を有するアルカリ乾電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアルカリ乾電池は、少なくともオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとを正極活物質として含む正極と、負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と、前記正極と負極との間に配されたセパレータと、前記負極内に挿入された負極集電体と、アルカリ電解液とを具備するアルカリ乾電池であって、
前記オキシ水酸化ニッケルは、固溶元素として少なくともマンガンとコバルトを含み、ニッケルの平均価数が2.95以上3.05以下であり、前記マンガンおよびコバルトの含有量がオキシ水酸化ニッケル1モル当たりそれぞれ5.2×10-2〜7.5×10-2モルおよび0.5×10-2〜2.0×10-2モルであり、オキシ水酸化ニッケルの平均粒子径が8〜18μmであり、
前記正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比が、10:90〜80:20であることを特徴とする。
【0007】
前記オキシ水酸化ニッケルが固溶元素としてさらに亜鉛を、オキシ水酸化ニッケル1モル当たり0.2×10-2〜2.0×10-2モル含むことが好ましい。これにより、高温保存後の強負荷放電特性を向上することができる。
前記正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比は、20:80〜60:40であることが好ましい。これにより、強負荷パルス特性にも優れ、かつ電池短絡時の電池温度も十分に抑制される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを主材料とするアルカリ乾電池の優れた強負荷放電特性を維持しつつ、電池の強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定化を向上させ、かつ耐漏液性や短絡時の安全性に関して高い信頼性を有する電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、アルカリ乾電池に用いられる亜鉛を固溶したオキシ水酸化ニッケルは、初期あるいは保存後の強負荷連続放電特性が優れていることに鑑み、デジタルカメラに代表されるデジタル機器の特性に適い、かつ安全性に優れたアルカリ電池用オキシ水酸化ニッケルを得るために、その固溶元素と各固溶量の最適化を図ることにより、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明者らは、亜鉛、コバルトおよびマンガンのそれぞれを、オキシ水酸化ニッケル1モル当たりに同一量固溶したオキシ水酸化ニッケルについて種々検討した結果、次のことが明らかになった。
(1)亜鉛の固溶は、定電力の強負荷連続放電と高温保存特性の向上に効果があるものの、電池短絡時の電池温度上昇が激しくなるという問題がある。
(2)コバルトの固溶は、強負荷パルス放電時の分極を低減してパルス特性の向上に効果があるが、亜鉛と同様に、電池短絡時の電池温度上昇が激しくなる問題がある。
(3)マンガンの固溶は、これらの固溶元素の中で最も高温保存特性の向上と、電池短絡時の電池温度上昇を抑制する効果があるが、強負荷パルス放電時の分極を助長し、パルス特性が低下する問題がある。
【0011】
これらに基づいて、固溶元素亜鉛、コバルトおよびマンガンの組み合わせおよび固溶量と、オキシ水酸化ニッケル固溶体と二酸化マンガンとを正極活物質として含むアルカリ乾電池の特性との関係を調べた結果、オキシ水酸化ニッケル1モル当たり、5.2×10-2〜7.5×10-2モルのマンガンと0.5×10-2〜2.0×10-2モルのコバルトとを少なくとも固溶させたオキシ水酸化ニッケルを用いた場合に、優れた強負荷放電特性を維持しつつ、電池の強負荷パルス放電時の分極を抑制してデジタル機器の動作安定化を向上させ、かつ短絡時の安全性に関して高い信頼性を有することを見出した。
【0012】
また、前記オキシ水酸化ニッケルの固溶元素としてさらに亜鉛を含み、亜鉛の固溶量がオキシ水酸化ニッケル1モル当たり0.2×10-2〜2.0×10-2モルであると、電池の高温保存後の強負荷放電特性の向上のため、より好ましい。
【0013】
オキシ水酸化ニッケルにおけるニッケルの平均価数が2.95未満、あるいは3.05を超えると、強負荷放電特性が著しく低下する。
オキシ水酸化ニッケルの平均粒径が8μm未満では、正極合剤の充填性が著しく低くなり、電池の特性も低下する。また、18μmを超えると、導電材として用いる黒鉛粒子との接触性が低下するため、初期および高温保存後の強負荷特性は著しく低下する。
【0014】
正極合剤中のオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの配合比は、オキシ水酸化ニッケルが10〜80重量%、二酸化マンガンが90〜20重量%であると、初度および高温保存後の放電特性に優れて好適である。特に、オキシ水酸化ニッケルを20〜60重量%、二酸化マンガンを40〜80重量%に規制すると、強負荷パルス特性にも優れ、かつ電池短絡時の電池温度も十分に抑制され、より効果的である。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[水酸化ニッケル粉末の作製]
2.5モル/l硫酸ニッケル水溶液、0.13モル/l硫酸マンガン水溶液、0.05モル/l硫酸コバルト水溶液、5モル/lの水酸化ナトリウム水溶液、および5モル/lのアンモニア水溶液を準備した。これらの水溶液を、40℃に保持された攪拌翼を備えた反応装置内に、それぞれ0.5ml/minの流量で連続的にポンプで供給した。続いて、反応装置内のpHが一定となり、金属塩濃度と金属水酸化物粒子濃度のバランスが一定となり、定常状態になったところで、オーバーフローにて得られた懸濁液を採取し、デカンテーションにより沈殿物を分離した。これをpH13〜14の水酸化ナトリウム水溶液で処理し、金属水酸化物粒子中の硫酸イオン等のアニオンを除去した後、水洗し、乾燥した。このようにして、レーザー回折式粒度分布計による体積基準の平均粒径が12.4μmの粉末を得た。
【0016】
こうして作製した水酸化ニッケル粒子の結晶構造を、以下に示す条件の粉末X線回折法により測定した。図2に代表的な水酸化ニッケル粒子の粉末X線回折図を示す。

測定装置:理学株式会社製、粉末X線回折装置「RINT1400」、対陰極:Cu、フィルタ:Ni、管電圧:40kV、管電流:100mA、サンプリング角度:0.02deg.走査速度:3.0deg./min.発散スリット:1/2deg.散乱スリット:1/2deg.
【0017】
CuKα線を用いたX線回折パターンを記録したところ、水酸化ニッケル粒子はβ−Ni(OH)2の単相であり、添加したマンガンおよびコバルト元素が固溶した状態で水酸化ニッケル結晶中に存在することが表1に示すように確認された(No.10)。表1には、水酸化ニッケル固溶体に含まれるマンガンとコバルトの量をオキシ水酸化ニッケル1モルに対する量として示した。
【0018】
マンガン、コバルト、および亜鉛の固溶量の異なるサンプルを得ることを目的として、ニッケル、マンガン、コバルト、および亜鉛の総金属イオン濃度を2.68モル/lと一定にして、それぞれの固溶量となるように調整した所定濃度の硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルト、および硫酸亜鉛水溶液を用いる以外は、No.10と同様にして水酸化ニッケル粉末を得た(No.1〜27)。
【0019】
平均粒径の異なるサンプルを得ることを目的として、硫酸ニッケル水溶液、硫酸マンガン水溶液、硫酸コバルト水溶液、アンモニア水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液の流量を変化させた他はNo.10の条件と同様にして水酸化ニッケル粉末を得た(No.43〜48)。
【0020】
得られた水酸化ニッケルの粉末X線回折の結果、No.10と同様にβ−Ni(OH)2型の単相であることが確かめられた。そして、No.1を除き、添加した金属元素が固溶した状態で水酸化ニッケル結晶中に存在することが確認された(No.2〜9、11〜27、43〜48)。
【0021】
[オキシ水酸化ニッケル粉末の作製]
次に、前記の水酸化ニッケル粉末に対する化学酸化処理として、粉末を0.5モル/lの水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12wt%)を酸化剤当量として1.2にとなるように加えて、反応雰囲気温度45℃で3時間攪拌して、オキシ水酸化ニッケル粒子を作製した。得られた粒子は、十分に水洗した後、60℃の真空乾燥を行い、正極活物質粉末とした。
オキシ水酸化ニッケル粉末の平均ニッケル価数を以下の化学測定により算出した。
【0022】
(i)重量法(ジメチルグリオキシム法)によるニッケル重量比率の測定
オキシ水酸化ニッケル固溶体粒子の0.05gに濃硝酸10cm3を加えて加熱・溶解させ、酒石酸水溶液10cm3を加えた上でさらにイオン交換水を加えて全量を200cm3に体積調整した。この溶液のpHをアンモニア水および酢酸を用いて調整した後、臭素酸カリウム1gを加えて、測定誤差となりうるコバルトイオンを3価の状態に酸化させた。次に、この溶液を加熱攪拌しながらジメチルグリオキシムのエタノール溶液を添加し、ニッケル(II)イオンをジメチルグリオキシム錯化合物として沈殿させた。続いて吸引濾過を行い、生成した沈殿物を捕集して110℃雰囲気で乾燥させ、沈殿物の重量を測定した。この操作から、活物質粉末中に含まれるニッケル重量比率は次式により算出される。
【0023】
ニッケル重量比率={沈殿物の重量(g)×0.2032}/{活物質粉末の試料重量(g)}
【0024】
一方、オキシ水酸化ニッケル固溶体粒子に硝酸水溶液を加えて加熱して完全に溶解させた後、得られた溶液をICP発光分析(VARIAN社製 VISTA−RLを使用)を行って、定量を実施し、コバルトとマンガンの重量比率を求めた。
【0025】
(ii)酸化還元滴定による平均ニッケル価数の測定
オキシ水酸化ニッケル固溶体粒子の0.2gにヨウ化カリウム1gと硫酸25cm3を加え、十分に攪拌を続けることで完全に溶解させた。この過程で価数の高いニッケルイオン、コバルトイオン、およびマンガンイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化し、自身は2価に還元される。20分間の放置後、pH緩衝液としての酢酸−酢酸アンモニウム水溶液とイオン交換水を加えて反応を停止させ、生成・遊離したヨウ素を0.1モル/lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。この際の滴定量は、上記のような価数が2価よりも大きい金属イオン量を反映する。そこで、(i)で求めたニッケル、コバルト、およびマンガンの含有重量比率を用い、オキシ水酸化ニッケル中のマンガンの価数を4価、コバルトの価数を3価と仮定することから、各オキシ水酸化ニッケル粉末におけるニッケルの平均価数を見積もった。
【0026】
また、ニッケルの平均価数の異なるオキシ水酸化ニッケル粉末を得ることを目的として、No.10の条件で作製した水酸化ニッケル粉末を用いて、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:12重量%)を酸化剤当量として0.9〜1.4まで変化させて、これ以外は前述の条件と同様にしてオキシ水酸化ニッケル粉末を得た(No.49〜54)。
表1〜3に、No.1〜27、およびNo.43〜54のオキシ水酸化ニッケルの平均粒径とニッケルの平均価数を示す。
【0027】
[アルカリ電池の作製]
図1は本発明の一実施例に係るアルカリ電池の一部を断面にした正面図である。この電池は、以下のようにして製造される。
正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼板からなる。この正極ケース1の内部には、黒鉛塗装膜2が形成されている。この正極ケース1の内部に、オキシ水酸化ニッケルまたは二酸化マンガンを主成分として含む短筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、ケース内において再加圧することにより、ケース1の内面に密着させる。そして、この正極合剤ペレット3の内側に、セパレ−タ4および絶縁キャップ5を挿入した後、セパレ−タ4と正極合剤ペレット3を湿潤させる目的で電解液を注液する。電解液には、例えば40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いる。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。ゲル状負極6は、例えばゲル化剤のポリアクリル酸ソーダ、アルカリ電解液、および負極活物質の亜鉛合金粉末からなる。亜鉛合金はBiを250ppm、Inを250ppm、Alを35ppmを含有する。
【0028】
次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込む。そして、正極ケース1の開口端部を封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて、正極ケース1の開口部を密封する。次いで、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆する。こうしてアルカリ電池が完成する。
【0029】
本実施例においては、まずオキシ水酸化ニッケル粉末No.1、二酸化マンガン、黒鉛および電解液を重量比50:50:6.5:1の割合で混合し、ミキサ−で均一に撹拌・混合して一定粒度に整粒した。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤とした。電解液には、37重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて、図1に示す単3サイズのアルカリ乾電池を組み立てた。また、オキシ水酸化ニッケル粉末No.1の代わりにNo.2〜27およびNo.43〜54を用いた他はNo.1と同様の条件にて単3サイズのアルカリ乾電池をそれぞれ組み立てた(No.2〜27、43〜54)。
【0030】
オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの配合比率の検討においては、オキシ水酸化ニッケル粉末No.1またはNo.10に対して、二酸化マンガンの割合が0〜90%となるように変化させた他は電池No.1と同様になるようにアルカリ電池をそれぞれ組み立てた(No.28〜34、36〜42)。また、二酸化マンガンの割合が100%となるようにした他はNo.1と同様になるようにアルカリ乾電池を組み立てた(No.35)。
【0031】
上記のそれぞれの電池について、初度および60℃で2週間保存した後に、20℃で、1Wの定電力で連続放電を行い、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの持続時間を測定し、強負荷放電特性の評価を行った。また、デジタルカメラでの電池実使用を想定した評価として、1.5Wで2秒間−0.65W28秒間のパルスを10サイクルとするパルス放電を1時間毎に行い、電圧が1.05Vに至るまでのサイクル数と1.05V時の電圧降下幅(ΔV)を測定した。表1〜3において、連続放電性能およびパルス放電性能は、各電池10個の平均値を、No.1の電池の各放電における持続時間を基準値100としてそれに対する指数で示した。No.1の電池の連続放電における持続時間は初度で65.2分、保存後で50.4分であり、パルス放電におけるサイクル数は172サイクルであった。電池の安全性の評価としては、1個の電池を強制的に短絡させた際の電池温度上昇を熱電対で測定することにより、最高到達温度を測定した。表1〜3には、各電池5個の最高到達温度の平均値を示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1のNo.9、10、12、および13からわかるように、オキシ水酸化ニッケル1モル当たり、5.2×10-2〜7.5×10-2モルのマンガンと0.5×10-2〜2.0×10-2モルのコバルトとを固溶させたオキシ水酸化ニッケルを用いた場合には、優れた強負荷放電特性を維持しつつ、強負荷パルス放電時の分極が抑制されることでデジタルカメラの動作安定化が図られるとともにカメラの撮影可能枚数も大幅に増加し、かつ高温保存後の強負荷放電特性も著しく良化することが明らかである。さらには、電池短絡時の電池の温度上昇も抑制された電池が得られることが明らかである。すなわち、No.9、10、12、および13は、強負荷の放電性能は、初度においてはいずれもNo.1を上回り、保存後においては指数113以上である。強負荷パルス放電における放電性能の指数は110以上である。強負荷パルス放電時における電圧降下値はNo.1の325mVに比し、313mV以下である。また、電池短絡時の電池の最高到達温度はNo.1の148℃に比し、140℃以下である。
【0034】
また、No.21〜25の特性からわかるように、さらに亜鉛を0.2×10-2〜2.0×10-2モルをオキシ水酸化ニッケルに固溶させると、電池短絡時の電池温度を上昇させることなく、強負荷放電特性を向上できることが明らかである。
【0035】
しかしながら、No.26および27から明らかなように、亜鉛固溶量が2.0×10-2モルを超えると、電池短絡時の温度が上昇し、安全性が低下する。亜鉛の固溶量は、オキシ水酸化ニッケル1モル当たり0.2×10-2〜0.7×10-2モルであれば特に好ましい。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の上半分には、金属元素を添加しないオキシ水酸化ニッケルNo.1を用い、これに二酸化マンガン(表ではEMDで表している)を種々の割合に混合して構成した電池No.28〜35の各放電特性と電池短絡時の到達温度を示した。
一方、表2の下半分には、5.2×10-2モルのマンガンと2.0×10-2モルのコバルトとを固溶させたオキシ水酸化ニッケルNo.10を用い、これに二酸化マンガンを種々の割合に混合して構成した電池No.36〜42の各放電特性と電池短絡時の到達温度を示した。
さらに図3〜6には、活物質中に占めるオキシ水酸化ニッケルの割合と電池の性能との関係を示している。図3は初度の連続放電性能、図4は保存後の連続放電性能、図5は強負荷パルス放電における放電性能をそれぞれ指数で表している。図6は短絡試験時の電池の最高到達温度を表している。
【0038】
表2より、オキシ水酸化ニッケルを含まない電池No.35と比較すると、電池No.1、No.28〜34は、強負荷連続放電特性およびパルス放電特性に優れているものの、二酸化マンガンの添加量が増えるとその特性は徐々に低下している。したがって、二酸化マンガンの添加による有利に働く相乗効果としては、高温保存後の強負荷連続放電特性が改善されることと電池短絡時の温度上昇が低減されることである。
【0039】
表2より本発明によるオキシ水酸化ニッケルを用いた場合には、二酸化マンガンの混合による強負荷連続放電特性およびパルス放電特性とともに、高温保存後の放電特性、並びに電池短絡時の到達温度も著しく改善されることが明らかである。
【0040】
【表3】

【0041】
表3のNo.43と48からわかるように、マンガンとコバルトの添加量が適切であって、ニッケルの平均価数が2.95以上、3.05以下である場合でも、平均粒径が8μm以下あるいは18μm以上であると、初度および高温保存後の強負荷放電特性が著しく低下する。
また、表3のNo.49および54からわかるように、マンガンとコバルトの添加量が適切でも、ニッケルの平均価数が2.95未満または3.05を超えると、初度および高温保存後の強負荷放電特性が著しく低下する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明によると、アルカリ乾電池の特に強負荷パルス放電時の分極を抑制することができる。したがって、本発明のアルカリ乾電池は、デジタルカメラに代表されるデジタル機器の主電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例に係るアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。
【図2】水酸化ニッケル粒子の粉末X線回折図である。
【図3】活物質中に占めるオキシ水酸化ニッケルの割合と初度の連続放電性能との関係を示す図である。
【図4】活物質中に占めるオキシ水酸化ニッケルの割合と保存後の連続放電性能との関係を示す図である。
【図5】活物質中に占めるオキシ水酸化ニッケルの割合と強負荷パルス放電における放電性能との関係を示す図である。
【図6】活物質中に占めるオキシ水酸化ニッケルの割合と短絡試験時の電池の最高到達温度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 正極ケース
2 黒鉛塗装膜
3 正極合剤ペレット
4 セパレータ
5 絶縁キャップ
6 ゲル状負極
7 樹脂製封口板
8 底板
9 絶縁ワッシャ
10 負極集電体
11 外装ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとを正極活物質として含む正極と、負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を含む負極と、前記正極と負極との間に配されたセパレータと、前記負極内に挿入された負極集電体と、アルカリ電解液とを具備するアルカリ乾電池であって、
前記オキシ水酸化ニッケルは、固溶元素として少なくともマンガンとコバルトを含み、ニッケルの平均価数が2.95以上3.05以下であり、前記マンガンおよびコバルトの含有量がオキシ水酸化ニッケル1モル当たりそれぞれ5.2×10-2〜7.5×10-2モルおよび0.5×10-2〜2.0×10-2モルであり、オキシ水酸化ニッケルの平均粒子径が8〜18μmであり、
前記正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比が、10:90〜80:20であるアルカリ乾電池。
【請求項2】
前記オキシ水酸化ニッケルが固溶元素としてさらに亜鉛を、オキシ水酸化ニッケル1モル当たり0.2×10-2〜2.0×10-2モル含む請求項1記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
前記正極に含まれるオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの重量比が、20:80〜60:40である請求項1または2記載のアルカリ乾電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−52965(P2007−52965A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236289(P2005−236289)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】