説明

アルカリ性電気亜鉛合金めっき液

【課題】耐食性やつきまわり性に優れる電気めっき液を提供すること。
【解決手段】(A)Znイオンを1〜600g/L、
(B)鉄族元素イオンを1〜600g/L、
(C)タングステン酸系化合物をWイオンとして0.1〜600g/L、及び(D)塩基性化合物を含有するアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきと表面処理の役割を備えた皮膜を形成するアルカリ性電気亜鉛合金めっき液に関するものであり、該めっき液を用いて得られた電気亜鉛合金めっき金属材、さらに該電気亜鉛合金めっき金属材に塗料を塗装した塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建材等に用いられている亜鉛系めっき金属材の表面処理としては、クロム酸塩処理及びリン酸亜鉛処理が一般に行われているが、クロムの毒性が問題になっている。クロム酸塩処理は、処理工程でクロム酸塩ヒュームが揮散する、排水処理設備に多大の費用を要する、さらには化成処理皮膜からクロム酸が溶出するという問題などがある。また6価クロム化合物は、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を初めとして多くの公的機関が人体に対する発癌性物質に指定しており極めて有害な物質である。
またリン酸亜鉛処理では、リン酸亜鉛処理後、通常、クロム酸によるリンス処理を行うためクロム処理の問題があるとともに、リン酸亜鉛処理剤中の反応促進剤、金属イオンなどの排水処理、被処理金属からの金属イオンの溶出によるスラッジ処理の問題がある。さらに高つきまわり性にて、耐食性や塗装膜との密着性に優れためっき皮膜の開発が望まれている。
【0003】
従来、亜鉛を主成分とした酸性浴に、水溶性のモリブデン、あるいはタングステンの化合物の少なくとも1種以上の金属、及び有機化合物の少なくとも1種以上を含有する光沢金属めっき浴が開示されている(特許文献1)。
他に、酸性電気亜鉛めっき浴にコバルトの水溶性化合物を1種、または2種以上、さらにモリブデンまたはタングステンまたは鉄の水溶性化合物を添加する電気亜鉛めっき法がある(特許文献2)。
他に、金属の表面に保護皮膜を形成させる方法において、亜鉛、鉄を含有し、pHを0.5〜5.0の範囲内に保った液状組成物を用いた金属表面処理方法に関する発明が開示されている(特許文献3)。他に、コバルト、鉄、ニッケル、クロム及びマンガンから成る群から選んだ1種または2種以上を含有するZn系合金に関する製造方法(特許文献4)。他に、亜鉛、鉄のほかに、腐食抑制剤を吸着させた酸化物粒子が分散した複合電気めっき鋼板に関する発明が開示されている(特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開昭49−11735号公報
【特許文献2】特公昭47−16522号公報
【特許文献3】特開平5−195244号公報
【特許文献4】特開2000−309897号公報
【特許文献5】特開2001−254195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの電気亜鉛合金めっき液では、十分なつきまわり性や耐食性が得られないことから、自動車部品、特に凹凸形状や袋構造を有する自動車部品等の厳しい耐食性を要求される分野への適用は困難な状況にあった。
そこで本発明の課題は、耐食性やつきまわり性に優れる電気めっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、(A)Znイオンを1〜600g/L、(B)鉄族元素イオンを1〜600g/L、(C)タングステン酸系化合物をWイオンとして0.1〜600g/L、及び(D)塩基性化合物を含有したアルカリ性電気めっき液により、つきまわり性が向上することを見出し耐食性に優れるめっき皮膜が得ることができた。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアルカリ性電気めっき液を施した電気めっき金属材は、つきまわり性に優れる為、凹凸形状や袋構造を有する被塗物においても優れた耐食性を得ることができる。本発明のめっき液を用いて得られる電気亜鉛合金めっき金属材は、その上に塗装される塗装膜との密着性にも優れる為、耐食性に優れた複層塗膜を有する塗装物品を得ることができる。本発明のアルカリ性電気めっき液は、廃液や産業廃棄物の排出も少なく、環境対応を配慮した無公害型のめっき液である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
アルカリ性電気めっき液
本願発明のアルカリ性電気めっき液の組成は、Znイオン(A)、鉄族元素イオン(B)、タングステン酸系化合物(C)及び塩基性化合物(D)を含有するものである。以下詳細に説明する。
【0009】
Znイオン(A):
本発明のアルカリ性電気めっき液の(A)成分であるZnイオンは、めっき層の主成分を構成するものである。Znイオンは、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩又は金属単体等の形でめっき浴に添加される。例えば、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酸化亜鉛が挙げられる。この中でも硫酸亜鉛が好ましい。
Znイオン(A)の配合量は1〜600g/L、好ましくは50〜300g/L、更に好ましくは60〜250g/Lである。なお、単位g/Lは、めっき浴1リットル当りの質量であり、以下同様の意味を持つ。
【0010】
鉄族元素イオン(B):
本発明に用いる鉄族元素イオン(B)は、Niイオン、Coイオン及びFeイオンから選ばれるものが好ましく、中でもFeイオンが耐食性の点から好ましい。
鉄族元素イオン(B)は、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩、金属単体または水和物等の形でめっき浴に添加される。例えば、塩化鉄、硫酸鉄、酸化鉄が挙げられる。この中でも硫酸鉄が好ましい。
鉄族元素イオン(B)の配合量は1〜600g/L、好ましくは50〜300g/L、更に好ましくは60〜250g/Lである。
【0011】
タングステン酸系化合物(C):
タングステン酸系化合物(C)は、例えば、タングステン酸、タングステン酸塩、リンタングステン酸及びリンタングステン酸塩を挙げることができ、塩としては、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩などを挙げることができ、中でもアンモニウム塩又はナトリウム塩が好ましい。特に、タングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム及びリンタングステン酸ナトリウムが耐食性の点から好ましい。この中でもタングステン酸ナトリウムが好ましい。
タングステン酸系化合物(C)の配合量はWイオンとして0.1〜600g/L、好ましくは5〜300g/L、更に好ましくは10〜100g/Lである。
【0012】
塩基性化合物(D):
本発明に用いる塩基性化合物(D)は、上記金属イオンと混合しても化学的に安定なものの中から選択される。めっき液中に塩基性化合物(D)を添加することによって「つきまわり性」が向上する為、例えば、自動車部品などの凹凸形状や袋構造を有する被塗物においても優れた耐食性を得ることができる。
かかる塩基性化合物(D)としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アミン化合物が好適に用いられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アミン化合物としては、例えば、アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノールなどの第1級モノアミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−またはジ−iso −プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどの第3級モノアミン;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、エチレンジアミン(EDA)、トリエチレンテトラミンなどのポリアミンを挙げることができる。この中でも好ましいのはアルカリ金属の水酸化物であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムである。また、アミン化合物を併用することにより浴安定性の向上を図ることができる。アミン化合物の中でも水酸基含有のトリエタノールアミン、2−アミノプロパノールが好ましい。
塩基性化合物(D)の配合量は、固形分として1〜600g/L、好ましくは10〜300g/L、更に好ましくは50〜200g/Lである。
【0013】
腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子:
本発明においては電気めっき液から不連続粒子として析出することのできる腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子を組み合わせることにより高度な耐食性、塗料密着性等の機能を付与することができる。
【0014】
上記腐食抑制顔料としては、一般公知のものが使用できるが、好ましいものとしては、リン酸塩、モリブデン酸塩、メタホウ酸塩、珪酸塩等が挙げられ、具体的にはリンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム等が挙げられる。また、セラミックス粒子としては、例えば、Al、SiO、TiO、ZrO、Y、ThO、CeO、Fe等の酸化物;BC、SiC、WC、ZrC、TiC、黒鉛、弗化黒鉛等の炭化物;BN、Si、TiN等の窒化物;Cr、ZrB等のホウ化物;2MgO・SiO、MgO・SiO、ZrO・SiO等の珪酸塩等が挙げられる。
腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子の配合量はめっき浴1リットル当り5〜300gの範囲が望ましい。また粒子の大きさは小さいものほど分散安定性に優れるため1μm以下の超微粒子のものがよい。また、めっきマトリックス中への共析量は、全析出量に対して1〜30重量%、特に1〜10重量%の範囲にコントロールすることが望ましい。共析量が少ないと耐食性向上の効果が発現せず、また30重量%を超えるとめっき皮膜が脆くなったり、基材との密着性が低下して問題となる。
【0015】
さらに腐食抑制有機化合物を添加してもよく、好ましい腐食抑制有機化合物としては、例えば、アルキン類、アルキノール類、アミン類若しくはその塩、チオ化合物、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩、複素環化合物等が挙げられる。
このうちのアルキン類とは、炭素−炭素三重結合を含む有機化合物のことであり、例えば、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン等が挙げられる。アルキノール類とは上記アルキン類に1個以上の水酸基を有する有機化合物のことであり、例えば、プロパルギルアルコール、1−ヘキシン−3−オール、1−ヘプチン−3−オール等が挙げられる。アミン類とは分子中に窒素原子を1個以上含む有機化合物を意味し、脂肪族及び芳香族の何れをも含む。このようなアミン類としては、例えば、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、トリヂシルアミン、セチルアミン等が挙げられる。
【0016】
チオ化合物とは分子中に硫黄原子を1個以上含む有機化合物を意味するが、このようなチオ化合物としては、例えば、デシルメルカプタン、セチルメルカプタン、チオ尿素等が挙げられる。複素環化合物とは環状の分子において環の構成元素として炭素以外の原子が含まれている有機化合物を意味するが、このような複素環化合物としては、例えば、ピリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、キノリン、インドール等が挙げられる。また、芳香族カルボン酸化合物としては、例えば、安息香酸、サリチル酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、没食子酸、タンニン酸等が挙げられる。なお、アミン類及びカルボン酸化合物についてはその塩を用いることも可能であり、この場合でも同等の効果を得ることができる。塩として、アミン類の場合は、硫酸塩、塩酸塩等の酸付加塩、芳香族カルボン酸化合物の場合は、アルカリ金属塩、亜鉛塩等の金属塩やアンモニウム塩を使用できる。
【0017】
本発明のアリカリ性電気めっき浴中に添加される腐食抑制有機化合物の量は、アルキン類やアルキノール類の場合には0.1〜10重量%に、アミン類若しくはその塩の場合には3〜10重量%に、チオ化合物では0.2〜5重量%に、複素環化合物では1〜10重量%に、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩では3〜8重量%に調整することが望ましい。
【0018】
本発明のアルカリ性電気めっき液にはさらに、金属イオンを安定化させるための錯化剤、ピット防止剤、ミスト防止剤、消泡剤等を使用することができる。
上記の錯化剤としては、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩等のオキシカルボン酸塩類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトロ酢酸塩等のアミノカルボン酸塩、ソルビット、ペンタエリトリトール等の多価アルコール類、及びこれらの混合物より成る群から選択することができる。
【0019】
また上記めっき液には、高い電流密度でのヤケ、低電流密度での「つきまわり性」を向上させる目的で通常使われている添加剤を含むことが可能である。これらの例としては、アミンとエピハロヒドリンの反応物、ポリエチレンポリアミン、その他の4級アミンポリマー、尿素、ゼラチン、ポリビニルアルコール、アルデヒド等が挙げられる。
【0020】
本発明のアルカリ性電気めっき液は、従来と同様の方法で電気めっきすることにより金属が析出し、つきまわり性に優れためっき皮膜を形成することができる為、耐食性に優れた塗装物品を得ることができる。
【0021】
電気めっき液はアルカリ性であることから、pHが7を越えること、好ましくは10以上であること、さらに好ましくは12以上であることがよい。また浴温は10〜80℃程度、好ましくは20〜50℃がよい。めっき膜厚としては0.5〜30μm、好ましくは1〜10μm程度が適している。
【0022】
つきまわり性:
つきまわり性は、ハルセル試験によって評価する。具体的には、図1に示すような台形の形状をしたハルセル試験槽(電着試験槽)を用い、図2に示すように電源、電流計、電圧計などを接続し、試験板を陰極側に接続して測定する。
ハルセル試験による「つきまわり性」の測定は、次のように行う。まず電気めっき液をハルセル試験槽に入れて一定温度(例えば25℃)とし、電極と被塗物に一定電流(例えば10A)を一定時間(例えば180秒間)通電することによって、図3のような試験板を得る。液面1と試験板の中心線3の1/2の部位4上において、高電流密度側から低電流密度側に生じためっき不良部までの距離を測定し、これをつきまわり性の長さ5とする。本発明品のめっき浴を用いた場合の「つきまわり性」は、つきまわり性の長さ5が、90mm以上、好ましくは100mm(つきまわり性が良好な場合のめっき面と被塗物の境界bのように、被塗物全体をめっき皮膜で覆うことができる)を得ることができる。図4に、本発明のめっき液を浴としてハルセル試験を行った試験板の写真を示す。図5に、従来品のめっき液を浴として、ハルセル試験を行った試験板の写真を示す。本発明ではつきまわり性の長さ6が十分であり良好なめっきが確認されるが、従来品ではめっき部分7が非常に狭く、ほとんどめっき皮膜の析出がみられない。
【0023】
電気めっき金属材:
本発明の電気めっき金属材は、上記アルカリ性電気めっき液を用いて金属素材に電気めっきすることにより得られる。金属素材としては、鉄を主成分とする材料、例えば、板、管、継手、クランプ、ボルト、ナット等の形状に加工された、凹凸形状や袋構造を有する自動車、家電製品あるいは建材用材料が挙げられる。本発明のアルカリ性電気めっき液は、つきまわり性に優れることから、従来にない耐食性に優れる電気めっき金属材を得ることができる。
【0024】
また、電気めっき皮膜を形成させた後に、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の酸性水溶液で後処理することによって、耐食性をさらに向上させることができる。上記、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物としては、例えば、これら金属元素の酸化物、水酸化物、フッ化物、錯フッ化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等を用いることができ、具体的には、硝酸コバルト、オキシ硝酸ジルコニウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸アンモニウム等を好ましいものとして挙げられる。
【0025】
これらの金属元素を含む化合物の酸性水溶液は、pHが1以上で7未満の範囲内にあるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類等の塩基性化合物でpHを調整することができる。酸性水溶液には、さらに必要に応じて、錯化剤、シリカ粒子等を添加してもよい。金属元素を含む化合物の添加量は0.001〜5mol/l、特に0.01〜1mol/l程度が好ましい。
酸性水溶液による後処理は、例えば、浴温20〜80℃、好ましくは30〜60℃の処理液に5秒間以上、好ましくは20〜90秒程度金属材を浸漬するなどして電気めっき皮膜を処理液と接触させることにより行うことができる。
【0026】
塗装物品:
本願発明の塗装物品は、上記のようにして得られた電気めっき金属材に塗料を塗装して得られる。電気めっき金属材は塗膜密着性に優れているため、特に表面処理をしなくてもそのまま塗料を塗装することができる。また、クロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせても優れた耐食性を発揮し、さらに塗料を塗装することによりさらに優れた耐食性を発揮することができる。
本発明の電気めっき金属材に、塗料を塗装する場合は、特に限定されるものではなく、常乾型、熱硬化型、活性エネルギー線硬化型などいずれの硬化方式のものも使用することができ、溶剤型塗料、水性塗料、粉体塗料等いずれの種類の塗料を使用してもよい。特に本発明の電気めっき液組成物を自動車に適用した場合には、めっき皮膜上に電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料を順次塗装し、焼付けするのが一般的である。
【0027】
塗装金属材の用途は、建材用、家電用、自動車用、締結部品など従来塗装金属材を使用している用途には、特に制限なく使用でき、下塗り塗料、上塗り塗料の塗装はその用途、被塗物の形状などによって適宜選定すればよい。例えば、成形されたものに塗装する場合には、スプレー、ディップ、電着等が適しており、また、プレコート塗装金属材等板状のものに塗装する場合には、ロール塗装、カーテンフロー塗装などが好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」である。
【0029】
めっき液の作成及び電気めっき金属材の作成
実施例
下記の表1に示す配合組成に従ってめっき液No.1〜12得た。板厚0.8mmの冷延鋼板(SPCC)をアルカリ脱脂し、水洗した後、各めっき液を液温25℃に調整して、電流密度を1〜30A/cmで変動して電気めっきを行い、めっき金属材を得た。膜厚は、蛍光X線分析装置SEA5200(セイコーインスツルメント社製)で測定した。各めっき液のpHは、表1に示す。
【0030】
比較例1〜6
表2に示す配合組成とする以外は、実施例と同様にして、めっき液No.13〜No.18を得、鋼板に電気めっきを行った。各めっき液のpHは、表2に示す。
比較例7
板厚0.8mmのリン酸塩処理(商品名:パルボンド3118、日本パーカライジング社製)された電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量20g/mのSECC材:JIS G−3313)を用いた。
【0031】
塗装系1
実施例1〜12および比較例1〜7で得られた各めっき金属材に、パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、リン酸亜鉛処理)を施した金属材、各々の表面をアルカリ脱脂、水洗及び水切り乾燥した。
次に、各々の金属材に、「マジクロン1000ホワイト」(関西ペイント社製、アクリル−メラミン樹脂系塗料、白色)を乾燥膜厚が30μmになるようにして塗布し、160℃で20分間焼き付けて各試験塗板を得た。
【0032】
塗装系2
実施例1〜12および比較例1〜7で得られためっき金属材、および比較例8として合金化溶融亜鉛めっき鋼板、パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、リン酸亜鉛処理)を用い、各々の表面をアルカリ脱脂、水洗及び水切り乾燥した。
次に、各々の金属材に、エレクロンGT−10LF(関西ペイント社製、商品名、エポキシ樹脂・ブロックイソシアネート硬化系のカチオン電着塗料)を電着塗装し、170℃で20分間焼付し、乾燥膜厚20μmの電着塗装板を得た。
次に、この電着塗装面に中塗り塗料「アミラックTP−65グレー」(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚が30μmになるようにしてスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけた。その後に、上塗塗料ネオアミラック#6000ホワイト(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼き付けて各試験板を得た。
【0033】
塗装系3
鋼製ボルトをアルカリ脱脂し、水洗した後、1%硫酸液に室温で30秒間浸漬して活性化処理を行なった。その後バッチ式バレルめっき装置を使用して、実施例1〜12、比較例1〜7の各めっき液にてめっきを施した。その後、HNO 5g/l及び(NHZrF 15g/lからなる酸性水溶液に50℃で30秒間浸漬することにより後処理を行なって試験用ボルトを作成した。
【0034】
比較例9
鋼製ボルトをアルカリ脱脂し、水洗した後、1%硫酸液に室温で30秒間浸漬して活性化処理を行なった後、ジンケート浴(金属亜鉛10g/l、水酸化ナトリウム120g/l)を用いて電気亜鉛めっき(5μm)を施した。その後、ユケン工業(株)製6価クロム含有クロメート液:メタスCY−6に、25℃で10秒間浸漬してクロメート処理を行なって比較用ボルトを作成した。クロメート皮膜の付着量は、5〜6mg/dmであった。
【0035】
実施例1〜12、比較例1〜9について、下記の試験方法に基づいて評価を行った。その結果を併せて、表1及び表2に記す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(注1)金属イオン:
表1、表2における各金属イオンは、下記の化合物より供給されるものである。
亜鉛:ZnSO・7H
鉄:FeSO・7H
コバルト:CoSO・7H
ニッケル:NiSO・7H
タングステン:NaWO・2H
【0039】
(注2)つきまわり性:
ハルセル試験法に従って行った。試験板(65mm×100mm×0.8mm)において、高電流密度側から低電流密度側に生じためっき不良部までの距離(mm)を評価した。
【0040】
(注3)浴安定性:
各めっき浴を1Lのポリ容器に入れて、50℃にて4週間貯蔵した後、500メッシュの濾過金属網にて全量濾過した。
◎:濾過残渣量が5mg/L未満
○:濾過残渣量が5mg/L以上かつ10mg/L未満
○△:濾過残渣量が10mg/L以上かつ15mg/L未満
△:濾過残渣量が15mg/L以上かつ20mg/L未満
×:濾過残渣量が20mg/L以上
【0041】
(注4)上塗り密着性:
試験塗板を約98℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、引き上げて室温に2時間放置し、この試験塗板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬間にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離が認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
【0042】
(注5)上塗り耐食性:
上塗り塗装した試験塗板の素地に達するクロスカットを入れ、これをJIS Z−2371に準じて240時間塩水噴霧試験を行なった後、該試験塗板を水洗し、乾燥させた後、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ、瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
【0043】
(注6)耐チッピング性:
試験塗板を飛石試験機JA−400型(スガ試験機社製、チッピング試験装置)の試験片保持台に石の噴出し口に対して直角になるようにして固定し、−20℃において0.294MPs(3kgf/cm)の圧縮空気により粒度7号の花崗岩砕石50gを塗面に吹き付け、これにより生じた塗膜キズの発生程度を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎:キズの大きさはかなり小さく、上塗塗膜がキズつく程度。
○:キズの大きさは小さく、中塗塗膜が露出している程度。
△:キズの大きさは小さいが、素地の金属材が露出している。
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の金属材も大きく露出している。
【0044】
(注7)耐水2次密着性:
試験塗板を40℃の温水に10日間浸漬した後、この試験塗板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて、2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬間にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離は認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
【0045】
(注8)3コート耐食性:
塗装板に素地に達するクロスカットを入れ、これをJIS Z−2371に準じて960時間塩水噴霧試験を行った後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。
【0046】
(注9)耐塩水ディップ性:
塗装板に素地まで達するクロスカットを入れ、これを5%の食塩水に50℃で10日間浸漬した後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。
【0047】
(注10)ボルト耐食性:
JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験(SST)を実施し、耐食性は、白錆10%および赤錆5%の発生時間により評価した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のアルカリ性電気めっき液を施した電気めっき金属材は、つきまわり性に優れる為、凹凸形状や袋構造を有する被塗物において、耐食性に優れた塗装物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ハルセル試験槽の概略図である。
【図2】ハルセル試験法の電気接続を示す概略図である。
【図3】ハルセル試験法の陰極面(試験面)の測定位置を示す概略図である。
【図4】本発明品をめっき浴としてハルセル試験を行った試験板の写真である。
【図5】従来品をめっき浴としてハルセル試験を行った試験板の写真である。
【符号の説明】
【0050】
1 液面
2 ハルセル試験槽
3 試験板の中心線
4 液面と試験板の中心線の1/2の部位
5 つきまわり性の長さ
a つきまわり性が不良な場合のめっき面と被塗物の境界
b つきまわり性が良好な場合のめっき面と被塗物の境界
6 つきまわり性の長さ(つきまわり性良好)
7 めっき部分(つきまわり性不良)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Znイオンを1〜600g/L、
(B)鉄族元素イオンを1〜600g/L、
(C)タングステン酸系化合物を、Wイオンとして0.1〜600g/L、及び
(D)塩基性化合物を含有するアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項2】
鉄族元素イオン(B)が、Feイオンである請求項1に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項3】
タングステン酸系化合物(C)が、タングステン酸、タングステン酸塩、リンタングステン酸及びリンタングステン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項4】
塩基性化合物(D)が、アルカリ金属の水酸化物、アミン化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項5】
さらに、腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子を5〜300g/L含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項6】
めっき液を液温25℃に調整し、10Aで180秒間の通電条件にてハルセル試験を行って得られた試験板において、高電流密度側の末端から低電流密度側のめっき不良部までの距離が90mm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液。
【請求項7】
金属素材に、請求項1〜6いずれか1項に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液を電気めっきして得られた電気亜鉛合金めっき金属材。
【請求項8】
凹凸形状を有する金属素材に、請求項1〜6いずれか1項に記載のアルカリ性電気亜鉛合金めっき液を電気めっきして得られた電気亜鉛合金めっき金属材。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の電気亜鉛合金めっき金属材上に、塗料を塗装して得られた塗装物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39727(P2007−39727A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224041(P2005−224041)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】