説明

アルカリ金属硫黄二次電池

【課題】アルカリ金属硫黄二次電池の充放電サイクル特性をより向上する。
【解決手段】このアルカリ金属硫黄二次電池は、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な負極と、正極と負極との間に介在する非水電解液とを備えている。非水電解液は、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するエーテル系有機溶媒にリチウム塩が溶解したものであり、リチウム塩のリチウムカチオンの数に対する前記エーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属硫黄二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄単体を正極活物質に用いたリチウム硫黄二次電池が知られている。リチウムの理論容量密度は約3862mAh/gであり、硫黄の理論容量密度は約1675mAh/gであるため、正極活物質として硫黄を、負極活物質としてリチウムを用いることで、非常にエネルギー密度の高い二次電池の提供が可能となる。
【0003】
通常のリチウム硫黄二次電池では、電解質中の硫化物イオン(S2-)は、正極における充電反応過程において、多硫化物イオン(Sy2-)に酸化される。そして、生成した多硫化物イオン(Sy2-)のうちの大部分は、更に酸化されることにより、正極の表面に硫黄として析出する。正極に析出した硫黄は、下記式(1)に示すように、正極付近に残った多硫化物イオン(S(y-1)2-)と反応することにより、再び多硫化物イオン(Sy2-)として電解液中に溶出する。そして、この電解質中に溶出した多硫化物イオンが負極と反応して還元されることにより、負極で放電現象(自己放電現象)が起きる。この結果、充放電サイクル特性が低下する。
(y-1)2- + S → Sy2- …式(1)
【0004】
こうしたことから、自己放電現象を抑制する技術がいくつか報告されている。例えば、特許文献1に記載のリチウム硫黄二次電池では、ポリマー電解質で被覆された硫黄を含む正極と、リチウムを負極とし、正極とセパレータの間又は負極とセパレータの間にポリマー電解質層を備え、電池反応中に正極で生成したリチウム多硫化物が負極へ拡散して生じる自己放電を抑制し充放電サイクル特性を高めたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−242964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載されたリチウム硫黄二次電池では、ポリマー電解質を用いてリチウム多硫化物が負極へ拡散するのを抑制しているが、それでも十分でなく、充放電サイクル特性(容量維持率や充放電効率など)の低下をより抑制することが望まれていた。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電サイクル特性をより向上することができるアルカリ金属硫黄二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、リチウム硫黄二次電池において、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料を正極に含ませると共に、リチウム塩のリチウムカチオンの数に対するエーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たす非水電解液を用いたところ、従来に比べて充放電サイクル特性が向上するを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のアルカリ金属硫黄二次電池は、
窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、
アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するエーテル系有機溶媒にアルカリ金属塩が溶解し、前記アルカリ金属塩のアルカリ金属カチオンの数に対する前記エーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たす非水電解液と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池では、従来に比べて充放電サイクル特性が向上する。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。すなわち、非水電解液では、エーテル系有機溶媒分子がリチウムカチオンに配位(溶媒和)している。リチウムカチオンへの溶媒和は4配位構造をとり、エーテル系有機溶媒分子に含まれる酸素の非共有電子対が溶媒和に関与することが知られている。上述した比rが4≦r≦5を満たせば、非水電解液中に存在するほぼすべてのエーテル系有機溶媒分子中の酸素がリチウムカチオンに配位した状態になっていると考えられる。これは一種の束縛状態であり、リチウムカチオンに配位していない、未束縛のエーテル系有機溶媒分子はほとんど存在しないことになり、放電反応時に生成する多硫化物イオンが溶出しにくくなったと考えられる。また、正極には窒素がドープされた炭素多孔体が含まれており、この炭素多孔体の炭素表面に形成された表面分極によって、放電反応時に生成する多硫化物イオンの吸着性が向上すると考えられる。これらの作用によって、アルカリ金属硫黄電池で問題となる、充放電時に生成する多硫化物イオンの電解液への溶出が抑制され、充放電サイクル時の容量維持特性が向上すると共に、多硫化物イオンの溶出に起因したシャトル効果(充電容量が放電容量よりも大きくなる現象)も抑制されて充放電効率が向上したと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】評価セル10の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池は、窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な負極と、正極と負極との間に介在し、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するエーテル系有機溶媒にアルカリ金属塩が溶解し、アルカリ金属塩のアルカリ金属カチオンの数に対するエーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たす非水電解液と、を備えている。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどが挙げられ、このうち理論容量密度が高いリチウムが好ましい。
【0013】
本発明のアルカリ金属硫黄電池において、負極は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものである。アルカリ金属がリチウムの場合を例に挙げると、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。
【0014】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池において、正極は、硫黄を正極活物質とし、正極材中に窒素原子がドープされた多孔質炭素材料を含むものであれば、特に限定されるものではない。この正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。ここで、導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類でもよいし、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類でもよいし、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類でもよいし、銅や銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末類でもよいし、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料でもよい。また、これらを単体で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。結着材としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。集電体としては、ステンレス鋼やアルミニウム、銅、ニッケルなどの金属板や金属メッシュを用いることもできる。
【0015】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池において、正極に含まれる多孔質炭素材料は、窒素がドープされている。こうすれば、多硫化物イオンが多孔質炭素材料に吸着されやすくなり、充放電サイクル特性を高めることができる。この多孔質炭素材料は、窒素原子と炭素原子との原子比N/Cが0.05以上の範囲で窒素がドープされていることが好ましく、N/Cが0.3以下であることがより好ましく、N/Cが0.15以上0.25以下であることが更に好ましい。N/Cが0.05以上であれば、より高い充放電サイクル特性を得ることができ、N/Cが0.3以下であれば比表面積の高い多孔質炭素材料を作製しやすい。また、窒素がドープされた多孔質炭素材料は、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定から算出されたBET比表面積が20m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、1200m2/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が300m2/g以上であれば、放電容量をより高めることができ好ましく、BET比表面積が1200m2/g以下であれば、多孔質炭素材料を作製しやすい。この窒素がドープされた多孔質炭素材料は、正極中に20重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましい。正極中に含まれる硫黄の量を考慮すると50重量%を超えないことが望ましい。また、この窒素がドープされた多孔質炭素材料は、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する含窒素複素環式化合物を原料として作成されているのが好ましい。こうすれば、窒素をドープした多孔質炭素材料を比較的容易に作製することができる。
【0016】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池において、正極と負極との間に介在する非水電解液は、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するエーテル系有機溶媒にアルカリ金属塩が溶解し、そのアルカリ金属塩のアルカリ金属カチオンの数に対するエーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たすものである。電解質としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiBF4,Li(CF3SO22Nなどの公知の支持塩を用いることができる。エーテル系有機溶媒としては、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、1,2−ジメトキシエタン(モノグリム)、ジグリム、テトラグリムなどの鎖状エーテル類、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、クラウンエーテル(例えば12−クラウン−4や15−クラウン−5等)などの環状エーテル類又はそれらの混合溶媒を用いることができる。比rが4未満の場合には、初回の放電容量が低下するため好ましくない。一方、比rが5を超える場合には、充放電サイクル後の容量維持率の低下が見られるため好ましくない。
【0017】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、アルカリ金属硫黄二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0018】
本発明のアルカリ金属硫黄二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0019】
本発明で使用する窒素をドープした多孔質炭素材料は、例えば、以下の方法により製造するものとしてもよい。すなわち、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する含窒素複素環式化合物とアルカリ土類金属イオンとの混合物を不活性雰囲気下で焼成することにより焼成物を作製し、その焼成物中のアルカリ土類金属イオンに由来する成分を溶解可能な洗浄液で焼成物を洗浄して該成分を除去することにより多孔質炭素材料を得るようにしてもよい。
【0020】
ここで、含窒素複素環式化合物は、カルボキシ基又はヒドロキシ基を1つだけ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。2つ以上有しているときには、カルボキシ基及びヒドロキシ基のいずれか一方だけを有していてもよいし、両方を有していてもよい。なお、ヒドロキシ基よりもカルボキシ基の方が好ましい。また、含窒素複素環式化合物としては、ピロールやピリジンなどのように1つの窒素を含む複素環式化合物;ピラゾールやイミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンなどのように2つの窒素を含む複素環式化合物;1,2,3−トリアジンや1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジンなどのように3つの窒素を含む複素環式化合物などが挙げられるが、これらのうちピリジンが好ましい。つまり、含窒素複素環式化合物として好ましいものは、カルボキシ基を有するピリジンであり、例えばピリジン−3−カルボン酸(ニコチン酸)、ピリジン−2−カルボン酸、ピリジン−4−カルボン酸、ピリジン−2,3−ジカルボン酸、ピリジン−2,4−ジカルボン酸、ピリジン2,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、ピリジン−3,4−ジカルボン酸、ピリジン−3,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,4,5−トリカルボン酸などが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどが挙げられる。含窒素複素環式化合物とアルカリ土類金属イオンとの混合物を得るには、例えば両者を水溶液中で混合したあと水を蒸発乾固することにより得るようにしてもよい。両者の使用量は、中和反応式に基づく化学量論量だけ用いてもよいし、一方が他方に対して過剰になるように用いてもよい。こうして得られる混合物を不活性雰囲気下で焼成するのであるが、不活性雰囲気としては窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などが挙げられる。また、焼成温度は、焼成する混合物にもよるが、例えば400〜1000℃で焼成する。
【0021】
また、アルカリ土類金属イオンに由来する成分を除去する工程において、洗浄液としては、アルカリ土類金属イオンに由来する成分を溶解可能であれば特に限定されないが、例えばアルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンの場合には水や酸性水溶液を用いることが好ましい。こうした洗浄を行うことにより、焼成物中のアルカリ土類金属イオンに由来する成分が存在していた箇所は空洞になるため、多孔質炭素材料となる。このようにして得られる多孔質炭素材料は、比表面積が20m2/g以上、あるいは300m2/g以上、炭素原子に対する窒素原子の比(N/C)が0.02〜0.3程度となることが多い。ちなみに、洗浄前の焼成物の比表面積は10m2/g以下である。こうした洗浄の効率(つまりアルカリ土類金属に由来する成分の除去効率)を考慮すると、こうした成分の溶解度が高い洗浄液を用いることが好ましい。この点で、アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンの場合には、マグネシウムイオンやバリウムイオンなどと比べて水や酸性水溶液に対する溶解度が高いため、好ましい。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下には、本発明のアルカリ金属硫黄二次電池としてのリチウム硫黄二次電池を具体的に作製した例を説明する。
【0024】
[一般的手順]
(窒素ドープ多孔質炭素材料の合成)
ニコチン酸(ピリジン−3−カルボン酸:東京化成)と水酸化カルシウム粉末(和光純薬)との中和塩を蒸発乾固法で調製した。中和当量に相当する試薬を水に分散したのち、80℃の湯浴で加熱することで透明溶液を得た。透明溶液を蒸発乾固することで、ニコチン酸カルシウムの中和塩を得た。この中和塩を石英反応管中、不活性雰囲気(窒素気流中)で加熱することで炭素化した。窒素の流量は1L/分、炭素化温度は500℃であった。炭素化温度に到達後、3時間の温度保持を行った。炭素化後の試料を水洗し、そこへ過剰量の酢酸(和光純薬)を加え、炭素化に伴い生成したカルシウム塩を溶解した。ろ別後、水洗および乾燥を行い、メノウ乳鉢にて磨砕することで、窒素原子をドープした多孔質炭素材料を得た。この多孔質炭素材料を用いて液体窒素温度における窒素吸着測定を行ったところ、そのBET比表面積は、407m2/gであった。また、この多孔質炭素材料のN/C(窒素原子と炭素原子の量比)は、元素分析から0.22と計算された。なお、多孔質炭素材料の元素分析は、全自動元素分析装置(エレメンタール社製、VarioEL)による燃焼法によって決定した。以上の結果から、合成された多孔質炭素材料は、大きな比表面積を有し、また炭素骨格内に多量の窒素原子がドープされた、窒素ドープ型の多孔質炭素材料であることが示された。
【0025】
(正極の作製)
硫黄を50重量部、上記得られた多孔質炭素材料を43重量部、導電助剤(ケッチェンブラック:ライオン(株)ECP600)を2重量部、およびバインダー(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を5重量部の割合で、エタノールを分散媒に用いてメノウ乳鉢で混練し、シート状の正極を形成した。
【0026】
(非水電解液の作製)
非水電解液として、表1に示す電解液A〜Hを用意した。各電解液A〜Hは、1,3−ジオキソランとジメトキシエタンとを1:1のモル比で混合した混合溶媒と、リチウム塩であるリチウムビス(トリフルオロメチルスルホン)イミド(LiN(CF3SO22)とを、表1に示すモル比になるように混合して調製した。なお、混合溶媒の平均分子量は82とした。この平均分子量は、74(=1,3−ジオキソランの分子量)×0.5と90(=ジメトキシエタンの分子量)×0.5との和として求めた。また、モル比をリチウムカチオンの数に対する混合溶媒に含有される総酸素原子数の比rに換算した値と、リチウム塩のモル濃度の値も併記した。
【0027】
【表1】

【0028】
(評価セルの作製)
図1に示す評価セル10を作製した。図1は評価セル10の説明図であり、上段が評価セル10の組立前の断面図、下段が評価セル10の組立後の断面図である。評価セル10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、セパレータ18と、上述した正極20(合材重量として5mg)とをこの順に積層した。ここでは、負極16として直径16mm、厚さ0.4mmのリチウム金属箔、セパレータ18としてポリエチレン製セパレータ(東燃化学(株)、微多孔性ポリエチレン膜)を用いた。そして、非水電解液をキャビティ14に注入したあと、ポリプロピレン製の絶縁リング29を入れ、次いでポリプロピレン製のリング22の穴に液密に固定されたステンレス製の円柱24を正極20の上に配置し、ステンレス製のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込んだ。更に、円柱24の上にPTFE製の絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と正極20とを加圧密着させた。評価セル10の組み立ては全てアルゴングローブボックス中で行った。このようにして、評価セル10を組み立てた。なお、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの径は円柱24の径よりも大きいことから、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。この評価セル10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。このようにして組み立てた評価セル10を用いて、充放電特性の評価を行った。
【0029】
[実施例1]
非水電解液として電解液Aを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0030】
[実施例2]
非水電解液として電解液Bを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0031】
[実施例3]
非水電解液として電解液Gを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0032】
[比較例1]
非水電解液として電解液Cを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0033】
[比較例2]
非水電解液として電解液Dを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0034】
[比較例3]
非水電解液として電解液Eを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0035】
[比較例4]
非水電解液として電解液Bを使用し、正極の作製以外は、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。正極は、以下のようにして作製した。すなわち、硫黄を50重量部、ケッチェンブラックを45重量部、およびバインダー(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を5重量部の割合で、エタノールを分散媒に用いてメノウ乳鉢で混練し、シート状の正極を作製した。
【0036】
[比較例5]
非水電解液として電解液Dを使用した以外は、比較例4と同様の手順で評価セル10を作製した。
【0037】
[比較例6]
非水電解液として電解液Fを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0038】
[比較例7]
非水電解液として電解液Hを使用し、上述した一般的手順に従って評価セル10を作製した。
【0039】
(充放電試験)
実施例1〜3及び比較例1〜7の評価セルの充放電特性は北斗電工製HJ1001SM8Aを用い、定電流法で評価した。充放電の条件は、100mA/g(正極合材重量あたり)の放電電流で、評価セルの端子間電圧が1.5Vとなるまで定電流で放電を行った。端子間電圧が放電終止電圧1.5Vに達した後、直ちに100mA/g (正極合材重量あたり)の充電電流で端子間電圧2.8Vになるまで充電を行った。この充放電サイクルを50回繰り返した。第1回サイクルの放電容量(mAh/g)と第n回サイクルの放電容量(mAh/g)から、以下の式で定義される容量維持率(%)を算出した。また、第n回サイクルの放電容量(mAh/g)と第(n−1)回サイクルの充電容量(mAh/g)から、以下の式で定義される充放電効率(%)を算出した。
容量維持率(%)=第n回サイクルの放電容量/第1回サイクルの放電容量×100
充放電効率(%)=第n回サイクルの放電容量/第(n-1)回サイクルの充電容量×100
【0040】
【表2】

【0041】
(実験結果)
実施例1〜3及び比較例1〜7の実験結果を表2に示す。電解液A,B,Gを用いた実施例1〜3では、第50回サイクルの充放電後においても、初期(第1回サイクル)の放電容量の80%以上を維持していた。これは、電解液A,B,Gの比rが4〜5であり、リチウムカチオンに配位していないエーテル系有機溶媒の量が少ないことから、放電反応により生成する多硫化物イオンの溶出が抑制されたためと考えられる。また、炭素多孔体の骨格中に窒素がドープされていることにより、わずかに溶解した多硫化物イオンも炭素多孔体に吸着されることで、多硫化物イオンの溶出が一層抑制されたと考えられる。
【0042】
これに対し、実施例1〜3に比べてエーテル系有機溶媒の量が多い、比rが6の電解液Cを用いた比較例1や比rが5.4の電解液Hを用いた比較例7では、容量維持率の低下が見られた。これは、窒素ドープにより多硫化物イオンの溶出が抑制されているものの、エーテル系有機溶媒の量が増えることで多硫化物イオンの溶解度が増したためと考えられる。エーテル系有機溶媒の量が更に多い、比rが16の電解液Dを用いた比較例2では、リチウム塩濃度がほぼ1mol/Lであるが、比較例1,7に増して、容量維持率の低下が見られた。
【0043】
逆に、実施例1〜3に比べてエーテル系有機溶媒の量の少ない、比rが3の電解液Eを用いた比較例3や比rが3.6の電解液Fを用いた比較例6では、初回の放電容量自体が大幅に低下した。これは、電解液のリチウム塩濃度が高濃度となるに従い、イオン伝導度が低下するため、高電流量の充放電操作における充放電反応の追随が困難となることで、急激に容量が低下したためと考えられる。
【0044】
比較例4では、電解液Bを用いる点では実施例2と同様だが、正極に用いる炭素材料として、窒素が未ドープのものを用いた。この場合、初期の放電容量が大きく、またサイクル容量維持率も比較的良好であるものの、窒素がドープされた炭素材料を正極に用いた実施例2に比べ、サイクル繰り返し後の容量維持率及び放電容量がともに劣る傾向にあった。
【0045】
比較例5では、正極に用いる炭素材料として、窒素が未ドープのものを用い、更に比rが16である電解液Dを用いた。この場合、第20回サイクルの充放電後には容量維持率が既に48%まで低下しており、多硫化物イオンの溶出による容量低下の影響が明らかに見てとれた。また、これは、炭素への窒素ドープの有用性を示唆する結果といえる。
【0046】
各実施例、比較例における、第10回サイクルでの充放電効率は、電解液A,B,Gを用いた実施例1〜3及び比較例4,7において良好な充放電効率が得られた。これは多硫化物イオンの溶出に起因する、シャトル効果による見かけの充電容量の増加が抑制されたことを示しており、また窒素ドープを行った実施例1〜3ではシャトル効果の抑制がより優れていることを示唆するものである。
【0047】
以上の結果から、リチウム硫黄二次電池における充放電サイクル特性は、非水電解液の比rの数値範囲の適正化と、正極に用いる炭素材料の窒素ドープ化との相乗効果によって、大幅に向上することがわかった。
【0048】
上述した一般的手順の(窒素ドープ多孔質炭素材料の合成)において、炭素化温度を600℃としたところ、BET比表面積が344m2/g、元素分析によるN/Cが0.15の窒素ドープ多孔質炭素材料が得られ、炭素化温度を800℃としたところ、BET比表面積が386m2/g、元素分析によるN/Cが0.06の窒素ドープ多孔質炭素材料が得られた。これらの炭素材料を使用し、上述した一般的手順に従って電解液Dを用いて評価セルを作製したところ、第10回サイクルの容量維持率がそれぞれ84%,70%であった。これらの評価セルにつき、電解液Dを電解液A,B,Gに変更すると、実施例1〜3と同様、容量維持率が更に向上することは容易に予測される。
【符号の説明】
【0049】
10 評価セル、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子がドープされた多孔質炭素材料と硫黄とを含む正極と、
アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、分子内に少なくとも2個以上の酸素を含有するエーテル系有機溶媒にアルカリ金属塩が溶解し、前記アルカリ金属塩のアルカリ金属カチオンの数に対する前記エーテル系有機溶媒の酸素原子の総数の比rが4≦r≦5を満たす非水電解液と、
を備えたアルカリ金属硫黄二次電池。
【請求項2】
前記正極は、炭素原子に対する窒素原子の比N/Cが0.05以上0.3以下である前記多孔質炭素材料を含んでいる、請求項1に記載のアルカリ金属硫黄二次電池。
【請求項3】
前記多孔質炭素材料は、比表面積が300m2/g以上1200m2/g以下である、請求項1又は2に記載のアルカリ金属硫黄二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−146359(P2011−146359A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65825(P2010−65825)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】