説明

アルキルチオ末端基を場合により含有し、かつ、場合により水素化されているニトリルゴム

改善された重合および加工法は、優れた貯蔵安定性および特に良好な加硫速度につながり、さらに、水または加硫材料をベースとする成形品の含水媒体との接触に関して特に、有利な特性を有する加硫材料をもたらす、特異的なカチオン含有率で特徴づけられる特殊ニトリルゴムの製造を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム、その製造方法、このニトリルゴムをベースとする加硫可能な混合物、またこれらの混合物からの加硫物の製造方法およびこのようにして得られる加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的のためには、略して「NBR」とも言われる、ニトリルゴムは、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエンおよび場合により1種以上のさらなる重合可能なモノマーのコポリマーまたはターポリマーであるゴムである。
【0003】
かかるニトリルゴムおよびかかるニトリルゴムの製造方法は公知であり、例えば、(非特許文献1)および(非特許文献2)を参照されたい。
【0004】
ニトリルゴムは、多種多様な用途に、例えば自動車部門におけるシール、ホース、ベルトおよび減衰エレメント用に、またオイル抽出の分野における固定子、坑井シールおよびバルブシール用に、そしてまた航空機産業、電気産業、機械建造および造船における多数の部品用に使用されている。かかるニトリルゴムをベースとする成形品は、例えば成形品がホース、ラインまたはシールであるとき、頻繁に水または水性媒体と接触する。この種の使用のためには、ニトリルゴム加硫物の水中での膨潤が非常に低いことが重要である。
【0005】
NBRは、先ずNBRラテックスが得られる乳化重合によって製造される。NBR固体は、凝固によってこのラテックスから単離される。塩および酸が凝固のために使用される。金属塩を用いてのラテックスの凝固で、多価金属イオンの場合、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウムまたは硫酸アルミニウムの形態でより、一価の金属イオンの場合、例えば塩化ナトリウムの形態でかなり大量の電解質が必要とされることが知られている(非特許文献3)。多価金属イオンの使用が「生成物への乳化剤の少なくとも幾らかの包含」につながることもまた知られている(非特許文献4)。(非特許文献5)によれば、「使用される電解質は再び非常に注意深く洗い落とさなければならないのみならず、完成製品はまた、プロセスバッチの触媒および乳化剤を含むべきではない。たとえ少量でも電解質が残っていると、圧縮成形や射出成形後の部品が濁って曇りが生じ、電気的特性が損なわれ、完成品の吸水容量が増加してしまう」(引用文)。Houben−Weylは、貯蔵時に安定であり、迅速に加硫し、加硫後に高い弾性率および低い水中膨潤を示すニトリルゴムを得るためにラテックスをどのように処理しなければならないかに関して何の示唆もしていない。
【0006】
(特許文献1)は、モノマーおよび分子量調整剤、例えば第三ドデシルメルカプタンについての特異的な、有利にはコンピュータ支援の計量供給プログラムを用いて制御される、エマルジョン中でのブタジエンとアクリロニトリルとのフリーラジカル共重合方法であって、得られたラテックスを酸媒体中での凝固によって処理して固体ゴムを得る方法を開示している。この方法の顕著な利点は、凝固における酸の使用の結果として、乳化剤として使用された樹脂石鹸および/または脂肪酸石鹸がゴム中に残る、すなわちそれらが他の方法の場合でのように洗い落とされないことであるとされている。NBRの良好な特性という利点に加えて、この方法の経済性の改善および洗い落とされる乳化剤による廃水汚染の回避がここで具体的に宣伝されている。得られた10〜30重量%のアクリロニトリルを含有するブタジエン−アクリロニトリル共重合体は、増加した膨潤抵抗および有利な加工性と組み合わせられた良好な弾性および低温特性を有すると述べられている。ニトリルゴムの貯蔵安定性、加硫速度および加硫NBRの特性プロフィール、特に水中膨潤に影響を与えることができる方策は、この特許の教示によって明らかにされていない。
【0007】
(特許文献2)は、マグネシウム塩を用いてのラテックスの凝固でのアミンの使用によって、例えばジエチレントリアミンと塩化マグネシウムとの組み合わせによって、初期加硫速度が低下し、こうしてニトリルゴムの耐スコーチ性が改善され得ることを開示している。この主題に関するさらなる情報はこの先行技術には見いだされない。
【0008】
(特許文献3)は、メチルセルロースおよび水溶性アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウムまたは亜鉛塩を用いてゴムをそれらの水性分散系から沈澱させ得ることを開示している。塩化ナトリウムを水溶性塩として使用することが好ましい。この方法の利点は、凝固ゴムが分離されるときに乳化剤、触媒残渣などの外部からの材料が水と一緒に除去され、いかなる残存残渣もさらなる水を用いて完全に洗い落とされるのでこれらの外部からの成分を実質的に完全に含まない凝固ゴムをこの方法により得られることであるとされている。この方法で製造されたゴムの加硫挙動についての情報は記載されていない。(特許文献4)では、ゴムラテックスの電解質凝固は、メチルセルロースの代わりに補助剤として0.02〜10重量%(ゴムを基準として)の水溶性アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウムまたは亜鉛塩と組み合わせた0.1〜10重量%(ゴムを基準として)の水溶性C〜Cアルキルセルロースまたはヒドロキシアルキルセルロースを使用して実施される。ここでもまた、塩化ナトリウムを水溶性塩として使用することが好ましい。凝固ゴムは機械的に分離され、場合により水で洗浄され、残存水が除去される。ここでもまた、外部からの材料は、(特許文献3)でのように、凝固ゴムが分離されるときに水と一緒に本質的に完全に除去され、いかなる残存残渣もさらなる水での洗浄で完全に洗い落とされると述べられている。
【0009】
(特許文献5)(Goodyear)は、改善された貯蔵安定性(70℃/28日)およびより高い完全加硫速度(TC90)を示す、ニトリルゴムラテックスの処理方法を記載している。塩と酸、特に硫酸との混合物がラテックスの凝固に使用される。この方法は、洗浄水のpHが5〜8、好ましくは5.5〜7.5、特に好ましくは6〜7の範囲にある、粉末の洗浄での狭いpH範囲の維持によって特徴づけられる。水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化ナトリウムがpHを調整するために使用され、水酸化ナトリウムの使用が好ましい。アルキル化アリールホスファイト、特に立体障害のあるフェノールと組み合わせたアルキル化アリールホスファイトをベースとする老化防止剤が、ニトリルゴムを安定化させるために使用される。洗浄後に、ゴム粉末は、7〜10重量%の残存含水率までスクリュー装置で脱水され、その後熱乾燥される。
【0010】
(特許文献6)において、ゴムの水性分散系からの沈澱および単離が、0.02〜0.25重量%の水溶性カルシウム塩が使用されるときに少量の(ヒドロキシ)アルキルセルロースを用いて実施できることが確立されている。さらなる利点は、この方法により、乳化剤、触媒残渣などの外部からの成分を本質的に完全に含まない極めて純粋な凝固ゴムが得られることであるとされている。これらの外部からの材料は、凝固ゴムが分離されるときに水と一緒に除去され、いかなる残存残渣も水を用いて洗い落とすことができる。カルシウム塩が凝固のために使用される場合、単離されたゴムの特性は悪影響を受けないとも述べられている。むしろ、その加硫物特性が損なわれず、完全に満足できるゴムが得られるとされている。このことは、ポリマーがカルシウムまたはアルミニウムイオンなどの多価金属イオンを用いて分散系から沈澱させられるときにゴム特性の劣化が頻繁に認められるため、意外なこととして提示される。(非特許文献4)が、最後の記述のための証拠として提供される。対照的に、(特許文献6)のゴムは、例えば、初期加硫および/または完全加硫の減速または悪化を全く示さない。
【0011】
公文書(特許文献3)、(特許文献4)および(特許文献6)のどれも、迅速な加硫ならびに良好な加硫物特性および特に低い水中膨潤を達成するためにどの方策が講じられなければならないかを開示していない。
【0012】
上記の特許の場合のように、(特許文献7)の目的はまた、ラテックスの凝固のために必要とされる電解質の量の大幅な低減を達成することである。(特許文献7)の教示によれば、これは、ラテックスの電解質凝固で無機凝固剤に加えて、植物ベースのタンパク質様材料かデンプンなどの多糖類かのどちらか、および適切な場合補助剤として水溶性ポリアミン化合物を使用することによって達成される。無機凝固剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩が好ましい。特異的な添加剤は、ラテックスの定量的凝固のために使用される塩の量の低減を達成することを可能にする。(特許文献7)は、貯蔵時に安定であり、迅速な加硫特性と低い水中膨潤などの高レベルの加硫物特性とを有するニトリルゴムがどのようにして製造および/または処理の結果として達成できるかに関して情報を全く記載していない。
【0013】
(特許文献8)によれば、スチレン−ブタジエンゴムのラテックスの凝固は、金属塩を使用して実施されるのではなく、硫酸とゼラチンとの組み合わせ(「膠」)を用いて実施される。硫酸の量および濃度は、水性媒体のpHが6未満の値に設定されるように選択される。凝集性ではなく、容易に濾過することができ、かつ、容易に洗浄することができる離散ゴム粉末がラテックスの凝固で形成されることが有利であると述べられている。(特許文献8)の教示に従って得られたスチレン−ブタジエンゴムは、金属塩を用いて凝固されたゴムより低い吸水容量、低い灰分および高い電気抵抗を有する。(特許文献8)は、硫酸とゼラチンとを使用する凝固がゴムの貯蔵安定性、加硫速度および加硫物特性にどのような影響を与えるかを開示していない。
【0014】
(特許文献9)において、非常に高いナトリウム、カリウムおよびカルシウム含有率、ならびにまたかなりの量の乳化剤が、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムなどの無機塩を使用する先行技術によるニトリルゴムラテックスの凝固でニトリルゴム中に残存することが述べられ、実験データによって証明されている。これは望ましいことではなく、(特許文献9)によれば、非常に純粋なニトリルゴムを得るという目的のために水溶性のカチオン性ポリマーがニトリルゴムラテックスの凝固で無機塩の代わりに使用される。この場合に使用されるポリマーは、例えば、エピクロロヒドリンおよびジメチルアミンをベースとするものである。それらから得られた加硫物は、より低い水中貯蔵時膨潤および増加した電気抵抗を示す。この特許本文において、言及されている特性改善は純定性的に、生成物中に残存する最小のカチオン含有率に起因する。観察される現象のより詳細な説明は記載されていない。
【0015】
(特許文献10)の目的は、高純度を有するニトリルゴムを提供することである。このニトリルゴムを製造するために、乳化重合は、乳化剤としての脂肪酸および/または樹脂酸塩の存在下に実施され、次にラテックスの凝固は、場合により沈澱剤の添加と共に、6以下のpH値の酸の添加によって実施される。酸として、所望のpH値が設定されることを可能にする全ての鉱酸および有機酸を使用することが可能である。追加の沈澱剤として、例えば、無機酸のアルカリ金属塩を使用することが可能である。さらに、ゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース、カルボキシル化セルロースならびにカチオン性およびアニオン性高分子電解質またはそれらの混合物などの沈澱補助剤もまた添加することができると述べられているが、実験的に実証されていない。ここで形成される脂肪酸および樹脂酸は、その後水性アルカリ金属水酸化物溶液を用いて洗い落とされ、ポリマーは、20%未満の残存含水率が得られるまで最終的に剪断にかけられる。これは、非常に低い残留乳化剤含有率および低いカチオン含有率(ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウム含有率)を有するニトリルゴムをもたらす。(特許文献10)は、ニトリルゴムの所望の製造に関する情報を全く記載していない。特に、(特許文献10)は、どんな因子が加硫速度および関連加硫物の特性プロフィール、特にそれらの水膨潤性に影響を与えるかについていかなる示唆もしていない。
【0016】
(特許文献11)、(特許文献12)および(特許文献13)はいずれの場合にも、不飽和ニトリルと共役ジエンとをベースとするニトリルゴムを記載している。ニトリルゴムは全て、10〜60重量%の不飽和ニトリルを含有し、15〜150の範囲のまたは、(特許文献11)によれば、15〜65の範囲のMooney粘度を有し、アルキルチオ基が少なくとも3個の第三級炭素原子と第三級炭素原子の少なくとも1個に直接結合している硫黄原子とを有するという状態で、全て100モルのモノマー単位当たり少なくとも0.03モルのC12〜C16アルキルチオ基を有する。
【0017】
ニトリルゴムは、「連鎖移動剤」として機能する、従ってポリマー鎖中へ末端基として組み込まれる分子量調整剤として相当する構造を有するC12〜C16アルキルチオールの存在下にいずれの場合にも製造される。
【0018】
(特許文献13)のニトリルゴムの場合には、それらは3〜20の範囲でのコポリマーにおける不飽和ニトリルの組成分布の幅「ΔAN」(AN=アクリロニトリル)を有すると述べられている。それらの製造方法は、モノマーの総量の30〜80重量%のみが重合の開始時に使用され、残りの量のモノマーが20〜70重量%の重合の転化率ではじめて供給されるという点において(特許文献11)の方法とは異なっている。
【0019】
(特許文献12)のニトリルゴムの場合には、それらは低分子量および35,000未満の数平均分子量Mを有する3〜20重量%の画分を含有すると述べられている。それらの製造方法は、アルキルチオールの10〜95重量%のみが重合前のモノマー混合物に混ぜ込まれ、残りの量のアルキルチオールは、20〜70重量%の重合転化率に達してはじめて供給されるという点において(特許文献11)の方法とは異なっている。
【0020】
ラテックスの凝固に関しては、全3つの特許出願(特許文献11)、(特許文献12)および(特許文献13)は、任意の凝固剤を使用することができると述べている。無機凝固剤として、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムおよび塩化ナトリウムが使用される。
【0021】
(特許文献11)、(特許文献13)および(特許文献12)によれば、ニトリルゴムの製造のための分子量調整剤として化合物2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオールおよび2,2,4,6,6,8,8−ヘプタメチルノナン−4−チオールの形態でのアルキルチオールを使用することが絶対に必要である。調整剤としての従来公知の第三ドデシルメルカプタンの使用は、ニトリルゴムの特性がより不十分となるとここでは指摘されている。
【0022】
(特許文献11)、(特許文献13)、および(特許文献12)において製造されたニトリルゴムの場合には、それらは有利な特性プロフィール、ゴム混合物の良好な加工性を有し、かつ、加工中の金型の汚れの低減を可能にすると述べられている。得られた加硫物は、耐寒性と耐油性との良好な組み合わせを有し、かつ、良好な機械的特性を有すると言われている。ニトリルゴムの製造において、75%超、好ましくは80%超の高い重合転化率は、高い生産性が達成されることを可能にし、硫黄または過酸化物を使用する加硫における加硫速度は、射出成形用のNBRグレードの場合に特に、高いとまた述べられている。ニトリルゴムが短い初期加硫時間および高い架橋密度を有することもまた示されている。(特許文献11)、(特許文献13)および(特許文献12)によって製造されたニトリルゴムの迅速加硫の証拠として、初期加硫時間(「スコーチ時間」(「T」として測定される)として知られる)が提示されているが、これは、初期加硫速度の尺度であるにすぎない。全体加硫速度およびこれがどのように影響され得る可能性があるかに関して何も言われていない。架橋密度は、最大トルク値(V最大として測定される)の引用によって記載されているにすぎない。
【0023】
実際に、相当するゴム混合物は、初期加硫がこのように速いために確実には加工できないので、短いスコーチ時間が常に望ましいわけではない。特に射出成形では、迅速な初期加硫は満足できるものではない。短いサイクル時間は、経済的な加工にとって決定的に重要である。しかしながら、短いサイクル時間を達成するために、完全加硫速度と初期加硫速度との差は決定的に重要である。これは、t90が最終加硫の90%が起こった時間であり、t10が最終加硫の10%が起こった時間である状態で、「t90−t10」として測定される。しかしながら、(特許文献11)、(特許文献13)および(特許文献12)に使用された調整剤2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオールおよび2,2,4,6,6,8,8−ヘプタメチルノナン−4−チオールの使用は、迅速な加硫特性の設定および高い弾性率の設定を必ずしも可能にしない。
【0024】
この主題に関して、(特許文献11)は、とりわけ高い加硫速度を設定するために、最小量の乳化剤および沈澱剤がNBR中に残るにすぎないように、多くの方法、例えば最小量の乳化剤および沈澱剤の使用が既に提案されてきたことを示している。
【0025】
(特許文献14)は、7〜26ppm×モル/gの範囲の一般式(I)によるイオン指数(「II」)を有する、良好な機械的特性、特に高い弾性率300値を有する迅速加硫ニトリルゴムを記載している。イオン指数は次の通り定義される:
【数1】

式中、c(Ca2+)、c(Na)およびc(K)は、ppm単位でのニトリルゴム中のカルシウム、ナトリウムおよびカリウムイオンの濃度を示す。実施例に述べられているこの特許により製造されたニトリルゴムは、範囲325〜620ppmのCaイオン含有率および範囲14〜22ppmのMgイオン含有率を有する。実施例においてこの発明によらないニトリルゴムは、範囲540〜1290ppmのCaイオン含有率および2〜34ppmのMgイオン含有率を有する。かかる迅速加硫ニトリルゴムを得るために、凝固は、一価の金属の塩および場合により5重量%以下の二価の金属の塩の存在下に実施され、凝固およびその後の洗浄中の温度は少なくとも50℃である。
【0026】
(特許文献15)は、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオおよび/または2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオ末端基を含有し、かつ、ニトリルゴムを基準として少なくとも150ppm、好ましくは200ppm以上のカルシウムイオン含有率およびニトリルゴムを基準として少なくとも40ppmの塩素含有率を有する、特に貯蔵安定性のあるニトリルゴムを記載している。この発明による実施例で製造されたニトリルゴムのCaイオン含有率は171〜1930ppmであり、Mg含有率は2〜265ppmの範囲にある。この発明によらない比較例のCaイオン含有率は2〜25ppmであり、この発明によらない比較例のMgイオン含有率は1〜350ppmであり、この発明による実施例のMgイオン含有率は2〜265ppmである。かかる貯蔵安定性のあるニトリルゴムは、ラテックスの凝固がアルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムまたはリチウムをベースとする少なくとも1種の塩の存在下に実施され、かつ、凝固または洗浄がCa塩の存在下、またはCaイオンを含有する洗浄水の存在下、およびCl含有塩の存在下に実施されるときに得られる。この出願は、ニトリルゴムの加硫挙動および加硫物特性がどのように影響され得るかに関して情報を全く記載していない。
【0027】
(特許文献16)は、0〜60ppm×モル/g、好ましくは10〜25ppm×モル/gの範囲の一般式(II)によるイオン指数(「II」)を有するさらなる速加硫ニトリルゴムを記載しており、
【数2】

式中、c(Ca2+)、c(Mg2+)、c(Na)、およびc(K)は、ppm単位でのニトリルゴム中のカルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムイオンの濃度を示し、ニトリルゴムを基準として50〜250ppmのMgイオン含有率を有する。この発明に従って製造されたニトリルゴムについての実施例では、Caイオン含有率c(Ca2+)は範囲163〜575ppmにあり、Mgイオン含有率c(Mg2+)は範囲57〜64ppmにある。この発明によらないニトリルゴムについての実施例では、Caイオン含有率c(Ca2+)は範囲345〜1290ppmにあり、Mgイオン含有率c(Mg2+)は範囲2〜440ppmにある。かかるニトリルゴムを得るために、ラテックスの凝固は、特別な方策を遵守して実施されなければならない。特に、ラテックスは、マグネシウム塩を使用する凝固の前に45℃未満の温度に設定される。この出願は、ニトリルゴムの加硫挙動のみならず、水中膨潤がどのように影響され得るかに関して情報を全く記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】DD特許第154 702号明細書
【特許文献2】特公昭48−27902号(特願昭44−032322号)公報
【特許文献3】独国特許出願公開第A 23 32 096号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第A 24 25 441号明細書
【特許文献5】米国特許第5,708,132号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第A 27 51 786号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第A 30 43 688号明細書
【特許文献8】米国特許第2,487,263号明細書
【特許文献9】米国特許第4,920,176号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第A−1 369 436号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第A−0 692 496号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第A−0 779 301号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第A−0 779 300号明細書
【特許文献14】独国特許第10 2007 024011号明細書
【特許文献15】独国特許第10 2007 024008号明細書
【特許文献16】独国特許第10 2007 024010号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】W.Hofmann、Rubber Chem. Technol.36(1963)、1ページ
【非特許文献2】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、VCH Verlagsgesellschaft、Weinheim、1993年、255−261ページ
【非特許文献3】Kolloid−Z.154(1957)、154ページ
【非特許文献4】Houben−Weyl(1961年)、Methoden der Org.Chemie、Makromolekulare Stoffe 1、484ページ
【非特許文献5】Houben−Weyl(1961年)、Methoden der Org. Chemie、Makromolekulare Stoffe 1、479ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
要約すれば、ラテックスの凝固のさらなる最適化が依然として必要とされており、かつ、既存の先行技術にもかかわらず新規な、改良されたニトリルゴムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
それ故、ラテックスの定量的沈澱が微粒子なしに起こるように(すなわち透明な漿液を得るために)少量の沈澱剤を使用してニトリルゴムラテックスの凝固を実施することが本発明の目的である。さらに、(ラテックスまたは沈澱剤の包含なしに)過度に大きいゴム粉末がここでは全く形成されず、かつ、生成物中に残存する乳化剤の量が低い(ラテックス漿液中および廃水中の高いCOD負荷に相当する)ことが望ましいであろう。さらなる目的は、貯蔵時に安定であるだけでなく、同時に加硫速度、特に完全加硫速度と初期加硫速度との小さい差(t90−t10)、ならびに良好な機械的特性、特に高い弾性率およびまた水中貯蔵時の低い膨潤を有するニトリルゴムを提供することである。
【0032】
良好な貯蔵安定性と、同時に高い加硫速度(t90−t10)およびまた優れた加硫物特性および低い水中膨潤とを有するニトリルゴムは、それらがある特異的なカチオン含有率を有するときに得られることが意外にも分かった。
【0033】
本発明は従って、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエンおよび場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含有し、かつ、18〜29ppm×モル/gの一般式(I)によって定義されるイオン指数を有するニトリルゴムを提供し、
【数3】

式中、c(Ca2+)、c(Mg2+)、c(Na)、およびc(K)は、ppm単位でのニトリルゴム中のカルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムイオンの濃度を示す。
【0034】
本発明によるこれらのニトリルゴムは、優れた貯蔵安定性を有し、(完全加硫時間と初期加硫時間との差(t90−t10)によって特徴づけられる)高い加硫速度を可能にし、良好な加硫物特性、特に弾性率の高い値およびまた低い水中膨潤を有する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
かかるニトリルゴムは、先行技術から今までは知られていなかった。
【0036】
カチオン含有率
本発明によるカチオン含有率を測定するために、次の方法が良好であると分かり、用いられる:0.5gのニトリルゴムを白金るつぼ中で550℃での乾式灰化によって蒸解し、その後灰を塩酸に溶解させた。脱イオン水での蒸解溶液の適切な希釈後に、金属含有率を、酸マトリックスにマッチした較正溶液に対して以下の波長:
カルシウム: 317.933nm、
カリウム: 766.491nm、
マグネシウム:285.213nm、
ナトリウム: 589.592nm
でICP−OES(誘導結合プラズマ−発光分析)によって測定することができる。蒸解溶液中の元素の濃度および使用される計測器の感度に依存して、サンプル溶液の濃度を、使用されるそれぞれの波長についての較正の線状領域にマッチさせる(B.Welz「Atomic Absorption Spectrometry」、第2版、Verlag Chemie、Weinheim 1985年)。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明のニトリルゴムは、19〜28ppm×モル/gの範囲の一般式(I)によるイオン指数(「II」)を有する。
【0038】
式(I)によるイオン指数において、金属イオン濃度はそれぞれの金属の原子量で割られる。このため、IIの単位(dimension)は[ppm×モル/g]である。カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムイオンの濃度は、上記の通り測定される。
【0039】
本発明のニトリルゴムの貯蔵安定性
本発明のニトリルゴムは有利にも非常に良好な貯蔵安定性を有する。
【0040】
本発明の目的のためには、ゴムの貯蔵安定性は、比較的長期間にわたって、特にまた高温で非常に一定した分子量またはMooney粘度を意味する。
【0041】
貯蔵安定性は通常、未加硫ニトリルゴムを高温で決められた期間貯蔵し(熱風貯蔵とも言われる)、高温でのこの貯蔵前後のMooney粘度の差を測定することによって測定される。ニトリルゴムのMooney粘度は通常熱風貯蔵すると増加するので、貯蔵安定性の特性化は、貯蔵後のMooney粘度マイナス貯蔵前のMooney粘度の差によって行われる。
【0042】
貯蔵安定性「SS」は従って、式(II)
SS=MV2−MV1 (II)
で与えられ、
ここで、
MV1は、ニトリルゴムのMooney粘度の値であり、
MV2は、100℃で48時間貯蔵後の同じニトリルゴムのMooney粘度の値である。
【0043】
Mooney粘度(ML 1+4(100℃))の値の測定はいずれの場合にも、100℃でDIN 53523/3またはASTM D 1646に従って剪断ディスク粘度計を用いて実施される。
【0044】
本発明のニトリルゴムの48時間貯蔵を、酸素含有率が標準空気と比べて変化していない対流乾燥オーブン中100℃で実施することが有用であることが分かった。
【0045】
ニトリルゴムは、貯蔵安定性SSが5Mooney単位以下であるとき、貯蔵時に十分に安定である。SSは好ましくは5Mooney単位未満、特に好ましくは4Mooney単位以下である。
【0046】
本発明のニトリルゴム中の少ない不純物
本発明のニトリルゴムは優れた貯蔵安定性を有するのみならず、特に重合に使用された乳化剤の不純物もまた少なく、それは、ラテックス漿液のおよび洗浄水の高いCOD値に反映される。
【0047】
ニトリルゴムに残る乳化剤の量は、ラテックスの凝固後の水相に存在する可溶性有機成分の測定によって間接的に測定される。このために用いられる尺度は、ラテックス漿液のDIN 38 409、パート41、H41−1およびH41−2に従ったCOD(化学的酸素要求量)である。COD測定では、有機成分は、硫酸銀触媒の存在下に硫酸で強酸性化された二クロム酸カリウムを用いて定量的に酸化される。未反応二クロム酸カリウムの量がその後鉄(II)イオンで逆滴定される。CODは、DIN標準でのmg酸素/溶液1リットルまたはg酸素/溶液1リットルの単位で報告される。異なる固形分濃度を有するラテックスまたは異なる容量の沈澱剤が使用される実験の比較可能性を向上させるために、漿液のCODはニトリルゴムの質量で割られる。この場合には、CODの単位はg酸素/kgNBRである。この値は、次のように得られる:
【数4】

ここで、
CODNBR:NBRの1kgを基準とするCOD(g酸素/kgNBR
COD漿液 :漿液のCOD(実験的に測定される)[g酸素/kg漿液
漿液 :ラテックスの1kg中の漿液の質量[kg]
沈澱剤 :使用された沈澱剤の質量[kg/kgラテックス
NBR :ラテックスの1kg中のニトリルゴムの質量[kg]
SC :ラテックスの固形分(重量%)
【0048】
CODは、ラテックスの凝固後のラテックス漿液中に存在する、低分子量成分、特に重合に使用された乳化剤の量の尺度である。同一ラテックスから出発した凝固実験でNBRを基準とするCODが高ければ高いほど、ニトリルゴム中の乳化剤および他の不純物の含有率は低い。
【0049】
水中膨潤
ニトリルゴム加硫物の水中膨潤(SW)の測定は、DIN 53 521に基づく方法によって実施される。標準との違いとして、円筒形試験検体は36.6mmの直径で4mmの厚さを有する。脱イオン水中100℃で7日間の貯蔵後の重量%単位での増量が測定される。
【0050】
本発明によるニトリルゴム
本発明のニトリルゴムは、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエンおよび場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を有する。
【0051】
共役ジエンは任意の特質を有することができる。(C〜C)共役ジエンを使用することが好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、1,3−ペンタジエンまたはそれらの混合物が特に好ましい。特に、1,3−ブタジエンもしくはイソプレンまたはそれらの混合物が使用される。1,3−ブタジエンが非常に特に好ましい。
【0052】
α,β−不飽和ニトリルとして、任意の公知のα,β−不飽和ニトリルを使用することが可能であり;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、1−クロロアクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはそれらの混合物などの(C〜C)α,β−不飽和ニトリルが好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0053】
特に好ましいニトリルゴムは従って、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとのコポリマーである。
【0054】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルは別として、1種以上のさらなる共重合可能なモノマー、例えばα,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、それらのエステルまたはアミドをさらに使用することができる。
【0055】
α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸として、例えば、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸およびイタコン酸を使用することが可能である。マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましい。先行技術では、かかるニトリルゴムは、カルボキシル化ニトリルゴム、または略して「XNBR」とも習慣的に言われる。
【0056】
α,β−不飽和カルボン酸のエステルとして、例えば、アルキルエステル、アルコキシアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステルまたはそれらの混合物が使用される。
【0057】
α,β−不飽和カルボン酸の特に好ましいアルキルエステルは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートおよびラウリル(メタ)アクリレートである。特に、n−ブチルアクリレートが使用される。
【0058】
α,β−不飽和カルボン酸の特に好ましいアルコキシアルキルエステルは、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートおよびメトキシエチル(メタ)アクリレートである。特に、メトキシエチルアクリレートが使用される。
【0059】
α,β−不飽和カルボン酸の特に好ましいヒドロキシアルキルエステルは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートである。
【0060】
使用することができるα,β−不飽和カルボン酸のさらなるエステルは、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートおよびウレタン(メタ)アクリレートである。
【0061】
さらなる可能なモノマーは、スチレン、α−メチルスチレンおよびビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物である。
【0062】
本発明のニトリルゴム中の共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルの割合は、広範囲内で変わることができる。共役ジエンのまたは共役ジエンの合計の割合は通常、ポリマー全体を基準として、20〜95重量%の範囲に、好ましくは40〜90重量%の範囲に、特に好ましくは60〜85重量%の範囲にある。α,β−不飽和ニトリルのまたはα,β−不飽和ニトリルの合計の割合は通常、ポリマー全体を基準として、5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは15〜40重量%である。モノマーの割合はいずれの場合にも合計100重量%になる。
【0063】
追加のモノマーは、ポリマー全体を基準として、0〜40重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在することができる。この場合に、全てのモノマーの割合が引き続き合計して100重量%になる状態で、共役ジエンのおよび/またはα,β−不飽和ニトリルの相当する割合は、これらの追加のモノマーの割合によって置き換えられる。
【0064】
(メタ)アクリル酸のエステルが追加のモノマーとして使用される場合、それらは通常1〜25重量%の量で使用される。
【0065】
α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸が追加のモノマーとして使用される場合、それらは通常10重量%未満の量で使用される。
【0066】
本発明のニトリルゴムの窒素含有率は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法によって測定される。極性コモノマーの含有率のために、ニトリルゴムは通常、20℃で85重量%以上の程度までメチルエチルケトンに可溶である。
【0067】
ニトリルゴムのMooney粘度(ML 1+4(100℃))は一般に、10〜150、好ましくは20〜100Mooney単位である。Mooney粘度(ML 1+4(100℃))は、DIN 53523/3またはASTM D 1646に従って剪断ディスク粘度計を用いて100℃で測定される。
【0068】
ニトリルゴムのガラス転移温度は一般に、−70℃〜+10℃の範囲に、好ましくは−60℃〜0℃の範囲にある。
【0069】
アクリロニトリル、1,3−ブタジエンのおよび場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含む本発明によるニトリルゴムが好ましい。アクリロニトリル、1,3−ブタジエンおよび1種以上のα,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、それらのエステルまたはアミドの繰り返し単位、特にα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルの、非常に特に好ましくはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートの繰り返し単位を有するニトリルゴムが同様に好ましい。
【0070】
本発明はさらに、少なくとも1種の分子量調整剤の存在下での少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルと、少なくとも1種の共役ジエンと場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーとの乳化重合によるニトリルゴムの製造方法であって、重合時に得られ、かつニトリルゴムを含有するラテックスを凝固させ、続いて凝固後のニトリルゴムを洗浄する方法において、
(i)乳化重合で得られたラテックスが凝固前に少なくとも6のpHを有し、
(ii)場合によりアルカリ金属塩の40重量%以下がカルシウム塩で置き換えられた状態で、前記ラテックスの凝固が沈澱剤としてアルカリ金属塩を使用して実施され、
(iii)ゼラチンが前記ラテックスの凝固のための共沈澱剤として使用され、
(iv)前記ラテックスの温度が共沈澱剤(iii)との接触前に50℃以下の温度に設定され、この温度がその後100℃に上げられ、かつ
(v)前記凝固がカルシウム塩の不存在下に実施される場合、前記ラテックスの凝固および/または凝固ラテックスの処理は、カルシウムイオンを含有する水を使用して実施される
ことを特徴とする方法を提供する。
【0071】
ニトリルゴムは、本発明の方法での乳化重合によって製造される。
【0072】
乳化重合は乳化剤を使用して実施される。広範囲の乳化剤が公知であり、この目的のために当業者に利用可能である。乳化剤として、例えば、アニオン性乳化剤または非荷電乳化剤を使用することが可能である。特に好ましくは水溶性塩の形態での、アニオン性乳化剤を使用することが好ましい。
【0073】
アニオン性乳化剤として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸を含有する樹脂酸混合物の二量化、不均化、水素化および変性によって得られる変性樹脂酸を使用することが可能である。特に好ましい変性樹脂酸は、不均化樹脂酸である(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6版、第31巻、345−355ページ)。
【0074】
脂肪酸をアニオン性乳化剤として使用することもまた可能である。これらは、1分子当たり6〜22個の炭素原子を含有する。それらは、完全飽和であるかまたは分子中に1個以上の二重結合を有することができる。脂肪酸の例は、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸である。カルボン酸は通常、ヒマシ油、綿実油、ピーナツ油、アマニ油、ココナツ油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、大豆油、魚油および牛脂などの起源特有の油または脂肪をベースとしている(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6版、第13巻、75−108ページ)。好ましいカルボン酸は、ココナツ脂肪酸におよび牛脂に由来し、部分または完全水素化される。
【0075】
変性樹脂酸または脂肪酸をベースとするかかるカルボン酸は、水溶性のリチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩として使用される。ナトリウムおよびカリウム塩が好ましい。
【0076】
さらなるアニオン性乳化剤は、有機ラジカルに結合しているスルホネート、スルフェートおよびホスフェートである。可能な有機ラジカルは、脂肪族ラジカル、芳香族ラジカル、アルキル化芳香族、縮合芳香族およびメチレン橋架け芳香族であり、メチレン橋架け芳香族および縮合芳香族はさらにアルキル化されることができる。アルキル鎖の長さは6〜25個の炭素原子である。芳香族に結合したアルキル鎖の長さは、3〜12個の炭素原子である。
【0077】
スルフェート、スルホネートおよびホスフェートは、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩として使用される。ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩が好ましい。
【0078】
かかるスルホネート、スルフェートおよびホスフェートの例は、オリゴマー化度が2〜10の範囲にある状態で、オリゴマー化することができるラウリル硫酸Na、アルキルスルホン酸Na、アルキルアリールスルホン酸Na、メチレン橋架けアリールスルホン酸のNa塩、アルキル化ナフタレンスルホン酸のNa塩およびメチレン橋架けナフタレンスルホン酸のNa塩である。アルキル化ナフタレンスルホン酸およびメチレン橋架け(および場合によりアルキル化された)ナフタレンスルホン酸は通常、分子中に2個以上のスルホン酸基(2〜3個のスルホン酸基)をまた含有することができる異性体の混合物として存在する。ラウリル硫酸Na、12〜18個の炭素原子を有するアルキルスルホン酸Na混合物、アルキルアリールスルホン酸Na、ジイソブチレンナフタレンスルホン酸Na、メチレン橋架けポリナフタレンスルホネート混合物およびメチレン橋架けアリールスルホネート混合物が特に好ましい。
【0079】
非荷電乳化剤は、十分に酸性の水素を有する化合物へのエチレンオキシドのおよびプロピレンオキシドの付加生成物に由来する。これらには、例えば、フェノール、アルキル化フェノールおよびアルキル化アミンが含まれる。エポキシドの平均重合度は2〜20の範囲にある。非荷電乳化剤の例は、8、10および12個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化ノニルフェノールである。非荷電乳化剤は通常単独では使用されず、アニオン性乳化剤と組み合わせて使用される。
【0080】
不均化アビエチン酸のおよび部分水素化牛脂脂肪酸ならびにそれらの混合物のNaおよびK塩、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸Na、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムならびにまたアルキル化およびメチレン橋架けナフタレンスルホン酸が好ましい。
【0081】
乳化剤は、モノマー混合物の100重量部当たり、0.2〜15重量部、好ましくは0.5〜12.5重量部、特に好ましくは1.0〜10重量部の量で使用される。
【0082】
乳化重合は、言及された乳化剤を使用して実施される。幾分の不安定性のために時期尚早に自己凝固する傾向があるラテックスが重合後に得られる場合、言及された乳化剤をまた、ラテックスの後安定化のために使用することができる。これは、特に、水蒸気での処理による未反応モノマーの除去前かまたはラテックスの貯蔵前に必要であり得る。
【0083】
分子量調整剤
形成されるニトリルゴムの分子量を調整するために、少なくとも1種の分子量調整剤が使用される。
【0084】
調整剤は通常、モノマー混合物の100重量部当たり、0.01〜3.5重量部、好ましくは0.05〜2.5重量部の量で使用される。
【0085】
分子量を設定するために、メルカプタン含有カルボン酸、メルカプタン含有アルコール、キサントゲンジスルフィド、チウラムジスルフィド、ハロゲン化炭化水素、分岐芳香族または脂肪族炭化水素およびまた線状または分岐メルカプタンを使用することが可能である。これらの化合物は通常1〜20個の炭素原子を有する(Rubber Chemistry and Technology(1976)、49(3)、610-49ページ(Uraneck、C.A.):「Molecular weight control of elastomers prepared by emulsion polymerization(乳化重合によって製造されるエラストマーの分子量制御)」およびD.C.Blackley、Emulsion Polymerization、Theory and Practice(乳化重合、理論および実際)、Applied Science Publishers Ltd London、1975年、329-381ページを参照されたい)。
【0086】
メルカプタン含有アルコールおよびメルカプタン含有カルボン酸の例は、モノチオエチレングリコールおよびメルカプトプロピオン酸である。
【0087】
キサントゲンジスルフィドの例は、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィドおよびジイソプロピルキサントゲンジスルフィドである。
【0088】
チウラムジスルフィドの例は、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドおよびテトラブチルチウラムジスルフィドである。
【0089】
ハロゲン化炭化水素の例は、四塩化炭素、クロロホルム、ヨウ化メチル、ジヨードメタン、ジフルオロジヨードメタン、1,4−ジヨードブタン、1,6−ジヨードヘキサン、臭化エチル、ヨウ化エチル、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、ブロモトリフルオロエテン、ブロモジフルオロエテンである。
【0090】
分岐炭化水素の例は、Hフリーラジカルがそれから容易に分裂することができるものである。例は、トルエン、エチルベンゼン、クメン、ペンタフェニルエタン、トリフェニルメタン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、ジペンテンおよびまた、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、α−カロテンおよびβ−カロテンなどのテルペンである。
【0091】
線状または分岐メルカプタンの例は、n−ヘキシルメルカプタンか、さもないと、硫黄が第三級炭素原子の1つに結合している状態で、12〜16個の炭素原子および少なくとも3個の第三級炭素原子を含有するメルカプタンである。これらのメルカプタンが好ましく、個々にか混合物でかのどちらかで使用することができる。好適なメルカプタンは、例えば、オリゴマー化プロペン、特にテトラマープロペンへの、またはオリゴマー化イソブテン、特にトリマーイソブテンへの硫化水素の付加化合物であり、それらは文献では第三ドデシルメルカプタン(「t−DDM」)と頻繁に言われている。
【0092】
かかるアルキルチオールまたはアルキルチオールの(異性体)混合物は、商業的に入手可能であるか、文献(例えば、特開平7−316126号公報、特開平7−316127号公報、特開平7−316128号公報ならびにまた英国特許第823,823号明細書および英国特許第823,824号明細書を参照されたい)に十分に記載されている方法を用いて当業者により製造され得るかのどちらかである。
【0093】
上記の定義内に入るアルキルチオールの例は、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオールである。
【0094】
その製造方法と一緒に独国特許出願公開第A 10 2007 024009号明細書に記載されている、
− 2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、
− 2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、
− 2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオールおよび
− 2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオール
を含有するC12メルカプタンの混合物がまた使用されてもよい。この特異的な混合物は、連続プロセスで0℃〜−60℃の範囲の温度で硫化水素とトリイソブテンとの反応によって得ることができ、連続プロセスでは、
(a)硫化水素は、反応前に乾燥にかけられ、
(b)使用されるトリイソブテンは70ppm以下の含水率を有し、
(c)使用されるトリイソブテンを基準として、1.5重量%以下の量で三フッ化ホウ素が触媒として使用され、
(d)この反応は、三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物の不存在化に実施され、そして
(e)反応混合物は、触媒を除去するために反応後に水性アルカリ溶液と接触させられる。
【0095】
個々のアルキルチオールおよび/またはそれらの混合物は一般に、モノマー混合物の100重量部当たり、0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部の量で使用される。
【0096】
分子量調整剤または分子量調整剤混合物は、重合の開始時か、さもないと重合中に小分けしてかのどちらかで導入され、調整剤混合物の全てのまたは小分けした個々の成分の重合中の添加が好ましい。
【0097】
その機能のため、分子量調整剤は、ニトリルゴム中に末端基の形態で、ある程度存在する。従って、例えば、アルキルチオールまたはアルキルチオールの混合物が使用される場合、ニトリルゴムは、一定量のアルキルチオール末端基を有する。C12メルカプタンの上記の特異的な混合物が使用されるとき、これらの末端基は従って、調整剤混合物中に存在するチオールの相当するチオール末端基、すなわち、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオおよび/または2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオ末端基である。この種のニトリルゴムは好ましくは、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオ、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオ、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオ末端基を有する。
【0098】
乳化重合の開始は典型的には、フリーラジカルへ分解する重合開始剤(フリーラジカル重合開始剤)を使用して実施される。かかる開始剤としては、−O−O−単位を含有する化合物(ペルオキソ化合物)または−N≡N−単位を含有する化合物(アゾ化合物)が含まれる。
【0099】
ペルオキソ化合物には、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩、ヒドロペルオキシド、過酸、過酸エステル、過酸無水物および2つの有機ラジカルを有する過酸化物が含まれる。ペルオキソ二硫酸のおよびペルオキソ二リン酸の好適な塩は、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩である。好適なヒドロペルオキシドは、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドおよびp−メンタンヒドロペルオキシドである。2つの有機ラジカルを有する好適な過酸化物は、ジベンゾイルペルオキシド、ビス−2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、過安息香酸t−ブチル、過酢酸t−ブチルなどである。好適なアゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンニトリルである。
【0100】
過酸化水素、ヒドロペルオキシド、過酸、過酸エステル、ペルオキソ二硫酸塩およびペルオキソ二リン酸塩はまた、還元剤と組み合わせて使用される。好適な還元剤は、スルフェナート、スルフィナート、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、砂糖、尿素、チオ尿素、キサントゲン酸塩、チオキサントゲン酸塩、ヒドラジニウム塩、アミンおよびアミン誘導体、例えばアニリン、ジメチルアニリン、モノマーエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンである。酸化剤と還元剤とからなる開始剤系は、酸化還元系と言われる。酸化還元系が用いられるとき、鉄、コバルトまたはニッケルなどの遷移金属の塩がまた、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムまたは二リン酸四カリウムなどの好適な錯化剤と組み合わせて頻繁に使用される。
【0101】
好ましい酸化還元系は、1)トリエタノールアミンと組み合わせたペルオキソ二硫酸カリウム、2)メタ重亜硫酸ナトリウム(Na)と組み合わせたペルオキソ二リン酸アンモニウム、3)硫酸鉄(II)(FeSO*7HO)、エチレンジアミノ酢酸ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムと組み合わせたp−メンタンヒドロペルオキシド/ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、4)硫酸鉄(II)(FeSO*7HO)、エチレンジアミノ酢酸ナトリウムおよび二リン酸四カリウムと組み合わせたクメンヒドロペルオキシド/ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムである。
【0102】
酸化剤の量は、モノマーの100重量部当たり0.001〜1重量部である。還元剤のモル量は、使用される酸化剤のモル量を基準として、50%〜500%の範囲にある。
【0103】
錯化剤のモル量は、使用される遷移金属の量を基準としており、通常これと等モルである。
【0104】
重合を実施するために、開始剤系の全てのまたは個々の成分が、重合の開始時にまたは重合中に導入される。
【0105】
活性化剤系の全てのまたは小分けした個々の成分の重合中の添加が好ましい。順次添加は、反応速度が制御されるのを可能にする。
【0106】
重合時間は5時間〜15時間の範囲にあり、モノマー混合物のアクリロニトリル含有率に、および重合温度に本質的に依存する。
【0107】
重合温度は0〜30℃の範囲に、好ましくは5〜25℃の範囲にある。
【0108】
50〜90%の範囲の、好ましくは60〜85%の範囲の転化に達した後に、重合は停止される。
【0109】
この目的のために、停止剤が反応混合物に加えられる。好適な停止剤は、例えば、ジメチルジチオカルバメート、亜硝酸Na、ジメチルジチオカルバメートと亜硝酸Naとの混合物、ヒドラジンおよびヒドロキシルアミンならびにまたそれらから誘導される塩、例えば硫酸ヒドラジニウムおよび硫酸ヒドロキシルアンモニウム、ジエチルヒドロキシルアミン、ジイソプロピルヒドロキシルアミン、ヒドロキノンの水溶性塩、亜ジチオン酸ナトリウム、フェニル−α−ナフチルアミンおよび第三ブチルカテコールまたはフェノチアジンなどの芳香族フェノールである。
【0110】
乳化重合に使用される水の量は、モノマー混合物の100重量部当たり、100〜900重量部の範囲に、好ましくは120〜500重量部の範囲に、特に好ましくは150〜400重量部の範囲にある。
【0111】
重合中の粘度を下げるために、pHを調整するためにおよびpH緩衝剤として、乳化重合での水相に塩を添加することができる。典型的な塩は、水酸化カリウムおよびナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムの形態での一価の金属の塩である。水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび塩化カリウムが好ましい。これらの電解質の量は、モノマー混合物の100重量部当たり、0〜1重量部、好ましくは0〜0.5重量部の範囲にある。
【0112】
重合は、回分式かまたは一連の撹拌容器で連続的にかのどちらかで実施することができる。
【0113】
一様な経過の重合を達成するために、開始剤系のほんの一部が重合を開始させるために使用され、残りは重合中に送り込まれる。重合は通常、開始剤の総量の、10〜80重量%、好ましくは30〜50重量%を使用して開始される。重合開始後の開始剤系の個々の成分の導入もまた可能である。
【0114】
化学的に一様な生成物が製造されるべきである場合、組成が共沸ブタジエン/アクリロニトリル比の外に出るときにはさらなるアクリロニトリルまたはブタジエンが導入される。さらなる導入は好ましくは、10〜34重量%のアクリロニトリル含有率を有するNBRグレードの場合に、および40〜50重量%のアクリロニトリルを含有するグレードの場合に実施される(W.Hofmann、Rubber Chem.Technol.36(1963)。このさらなる導入は、例えば、DD特許第154 702号明細書に示されているように、コンピュータプログラムに基づくコンピュータ制御下に好ましくは実施される。
【0115】
未反応モノマーおよび揮発性成分を除去するために、停止ラテックスは、水蒸気蒸留にかけられる。ここで、70℃〜150℃の範囲の温度が用いられ、100℃未満の温度では減圧される。
【0116】
揮発性成分の除去前に、ラテックスは、乳化剤を用いて後安定化することができる。この目的のために、上述の乳化剤を、ニトリルゴムの100重量部当たり、0.1〜2.5重量%、好ましくは0.5〜2.0重量%の量で使用することが有利である。
【0117】
ラテックスの凝固前にまたは凝固中に、1種以上の老化防止剤をラテックスに添加することができる。フェノール系、アミンおよび他の老化防止剤がこの目的のために好適である。
【0118】
好適なフェノール系老化防止剤は、アルキル化フェノール、スチレン化フェノール、立体障害のあるフェノール、例えば2,6−ジ−第三ブチルフェノール、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−ジ−第三ブチル−4−エチルフェノール、エステル基を含有する立体障害のあるフェノール、チオエーテルを含有する立体障害のあるフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)(BPH)および立体障害のあるチオビスフェノールである。
【0119】
ゴムの変色が全く重要ではない場合、アミン老化防止剤、例えばジアリール−p−フェニレンジアミン(DTPD)の混合物、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、フェニル−α−ナフチルアミン(PAN)、フェニル−β−ナフチルアミン(PBN)、好ましくはフェニレンジアミンをベースとするものもまた使用される。フェニレンジアミン類の例は、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−1,4−ジメチルペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(7PPD)、N,N’−ビス−1,4−(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン(77PD)などである。
【0120】
他の老化防止剤には、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどのホスファイト、重合した2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(TMQ)、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、メチル−2−メルカプトベンズイミダゾール(MMBI)、亜鉛メチルメルカプトベンズイミダゾール(ZMMBI)が含まれる。ホスファイトは一般に、フェノール系老化防止剤と組み合わせて使用される。TMQ、MBIおよびMMBIは、過酸化物により加硫されるNBRグレードのために特に使用される。
【0121】
ラテックスの凝固
本発明の方法におけるラテックスの凝固は、場合によりアルカリ金属塩の40重量%以下をカルシウム塩で置き換えることができる状態で、少なくとも1種のアルカリ金属塩を沈澱剤として使用して実施される。同時に、カルシウム塩がラテックスの凝固に全く存在しない場合、ラテックスの凝固および/または凝固ラテックスの処理は、カルシウムイオンを含有する水を使用して実施される。
【0122】
好適なアルカリ金属塩は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムならびにまた酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムである。40重量%以下のアルカリ金属塩を場合により、塩化カルシウム、ギ酸カルシウムまたは硝酸カルシウムなどのカルシウム塩で置き換えることができる。塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを使用することが好ましい。少なくとも60重量%の塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムと最大40重量%の塩化カルシウムとの混合物もまた好適である。
【0123】
ラテックスの凝固は通常、ニトリルゴムを基準として、0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜10重量%のアルカリ金属塩を使用して実施される。
【0124】
沈澱剤溶液中のアルカリ金属塩濃度は通常、0.1〜35重量%、好ましくは0.5〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。
【0125】
沈澱剤の水溶液は、脱イオン水または、脱イオンされていない、従ってカルシウムイオンを含有する水を使用して製造することができる。脱イオンされていない水の使用は、ラテックスの凝固がカルシウム塩の不存在下に実施されるときに重要である。
【0126】
ゼラチン
上記沈澱剤は別として、ゼラチンが本発明の方法で共沈澱剤として使用されることが重要である。
【0127】
ゼラチンは、それが得られる方法に依存して、約13,500〜500,000(SDSゲル電気泳動またはゲルクロマトグラフィーによって測定される)のモル質量を有するポリペプチドの混合物である。ゼラチンは主として、豚表皮中に、畜牛/子牛の真皮およびまたそれらの骨中に存在するコラーゲンの多かれ少なかれ徹底的な加水分解によって得られる。ゼラチンおよびその製造についての記載は、Ullmanns Enzyklopaedie der Technischen Chemie、第4版、第12巻、Verlag Chemie、Weinheim−New York/1976年)、211−220ページに見いだすことができる。ゼラチンは、顆粒、板ゼラチンとしておよび溶液として商業的に入手可能である。アミノ酸組成は、ゼラチンが得られたコラーゲンのアミノ酸組成に大部分は相当し、トリプトファンおよびメチオニンを除いて、全ての必須アミノ酸を含み;主なアミノ酸はヒドロキシプロリンである。ゼラチンは、84〜90%のタンパク質および2〜4%のミネラル物質プラス100%までの水を含有する。
【0128】
2つの製造方法の間で区別され:「酸プロセス」により、酸灰化ゼラチンが得られ、「アルカリプロセス」によりアルカリ灰化のゼラチンが得られる。酸灰化ゼラチン用の原材料(主として豚表皮および皮)は、多数日間の酸性蒸解プロセスにかけられる。アルカリ灰化ゼラチンの製造では、畜牛の真皮(革と皮下組織との間の中間層)または骨は、10〜20日間アルカリで処理される。
【0129】
全ての種類のゼラチンが、ラテックスの凝固における共沈澱剤としての使用に好適であり、高いモル質量を有するグレード、特に10%濃度の水溶液で10cP超の粘度を有するものが特に好適である。
【0130】
ゼラチンは、ニトリルゴムを基準として、10ppm〜2重量%、好ましくは30ppm〜0.5重量%、特に好ましくは50〜1000ppmの量で使用される。
【0131】
ラテックスを凝固させるために、ゼラチンは好ましくは、水性沈澱剤溶液、すなわちアルカリ金属塩の溶液に溶解される。沈澱剤溶液は通常、0.1〜35重量%のアルカリ金属塩を含有し、0.1〜30重量%が好ましく、5〜25重量%が特に好ましい。沈澱剤溶液中のゼラチン濃度は、0.001〜3重量%の範囲に、好ましくは0.01〜1重量%の範囲にある。
【0132】
少なくとも6、好ましくは6超のpHを有するラテックスが凝固のために使用される。適切な場合、このpHは、塩基、好ましくはアンモニアまたは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの添加によって設定される。本発明の方法では、酸はラテックスの凝固に使用されない。
【0133】
凝固のために使用されるラテックスは有利には、1%〜40重量%の範囲の、好ましくは5%〜35重量%の範囲の、特に好ましくは10〜30重量%の範囲の固形分濃度を有する。
【0134】
ラテックスの凝固は連続的にまたは回分式に実施される。ノズルを用いて実施される連続凝固が好ましい。
【0135】
本発明の方法の有利な実施形態では、アルカリ金属塩のゼラチン含有溶液がラテックスに加えられる。代案として、ラテックスをまた最初に装入することができ、ゼラチン含有塩溶液をラテックスに加えることができる。
【0136】
ラテックスの回分式凝固および連続凝固において両方とも、ラテックスの温度は、ゼラチンとの接触前に、50℃以下、好ましくは50℃未満、特に好ましくは40℃未満の値に設定されるべきであり、混合物は接触後に100℃以下の温度に、好ましくは70〜100℃の範囲の温度に加熱されるべきである。このようにして、ラテックスの定量的凝固に必要な塩の量を減らし、かつ、ラテックスの凝固中に漿液中へ行く不純物の量を増加させることが思いがけなく可能である。さらに、ラテックスの凝固中に生じる微粒子の割合は低下し、5mm超の直径を有する、濾別することができるより粗い粒子が形成される。
【0137】
凝固ニトリルゴムの洗浄
凝固後に、ニトリルゴムは通常粉末の形態で存在する。凝固NBRの洗浄はそれ故また、粉末洗浄と言われる。この凝固粉末を洗浄するために、脱イオン水(「DW」とも略記される)か、脱イオンされていない水(「BW」とも略記される)かのどちらかを使用することが可能である。脱イオンされていない水はカルシウムイオンを含有する。
【0138】
アルカリ金属塩の40重量%以下がカルシウム塩で置き換えられることなく、ゼラチンと組み合わせたアルカリ金属塩を使用してラテックスの凝固が実施される場合、カルシウム含量は、次の2つの方法の1つ:脱イオンされていない、従ってCaイオンを含有する水(「BW」水)を凝固NBRの洗浄に使用することができるか、脱イオンされていない水を、沈澱剤溶液を製造するために使用するかのどちらかでニトリルゴムへ導入される。2つの方策を互いに組み合わせることもまた可能である。
【0139】
洗浄は、15〜90℃の範囲の温度で実施され、45〜90℃の範囲の温度が好ましい。
【0140】
洗浄水の量は、ニトリルゴムの100重量部当たり、0.5〜500重量部、好ましくは1〜300重量部である。
【0141】
ゴム粉末は好ましくは、ゴム粉末が個々の洗浄段階の間に部分脱水されて、多段洗浄にかけられる。個々の洗浄段階間の粉末の残存含水率は、5〜100重量%の範囲に、好ましくは7〜50重量%の範囲にある。洗浄段階の数は通常1〜7、好ましくは1〜3である。洗浄は、回分式かまたは連続的に実施される。複数段階の連続プロセスを用いることが好ましく、向流洗浄が水を節約するために好ましい。
【0142】
脱水および乾燥
洗浄が完了した後、ニトリルゴム粉末は典型的には脱水される。これは通常2段階で実施される。第1段階で、ゴム粉末は予備機械脱水にかけられる。第2段階で、残存水は蒸発させられる。予備脱水および乾燥は両方とも好ましくは連続的に実施される。予備機械脱水のための好適な装置は、機械的脱水が生成物流れに逆らってもたらされる(Welding原理)濾過器スリットまたはスクリューによって水が横方向に絞り出される濾過器スクリューである。
【0143】
ニトリルゴムの特異的なカチオン含有率は、予備機械脱水の程度によって必要ならばさらに影響され得る。これは強制的ではないが、非効率的な洗浄が用いられるときに特に有利であり得る。効率的な洗浄により、適切なカチオン含有率が洗浄直後に得られる。予備機械脱水後の含水率は5〜25重量%の範囲にある。生成物中に残るカチオンミックスを調節するために、予備機械脱水後の含水率が5〜15重量%、特に5〜10重量%であることが有用であることが分かった。
【0144】
予備脱水にかけられたニトリルゴムの乾燥は、流動床乾燥機中で、またはプレート式乾燥機中で実施される。乾燥中の温度は80〜150℃の範囲にある。乾燥プロセスの終わりに向かって温度が低下する、温度プログラムに従って乾燥することが好ましい。
【0145】
一般式(I)によるイオン指数を有する本発明のニトリルゴムは意外にも、最大5Mooney単位の高い貯蔵安定性SS、高い加硫速度、良好な機械的特性および加硫物の所望の低い水中膨潤を有する。
【0146】
高い貯蔵安定性は、さもなければゴムのある種の望ましくない老化がこの乾燥中に起こるので、早ければニトリルゴムの乾燥中にもプラス効果を有する。高い貯蔵安定性は所定の目標Mooney粘度の設定を助ける。結果として、規格外ニトリルゴムの量は減少する。さらに、高い貯蔵安定性は、長い貯蔵または輸送時間中のMooney粘度の変化による苦情の減少をもたらす。本発明のゴムは、加硫可能な混合物の再現性のある製造に好適である。加硫によってそれらから得ることができる成形品は従ってまた、再現性のある機械的および物理的特性プロフィールを示す。
【0147】
ニトリルゴム加硫物の低い水中膨潤は、シーリング材料にとって、そしてまた水とまたは水含有媒体と接触するホースまたはラインにとって重要である。
【0148】
良好な貯蔵時安定性に加えて、本発明のニトリルゴムはまた、所望の高い加硫速度(初期加硫時間マイナス完全加硫時間)を有し、得られた加硫物は非常に良好な弾性率を有する。
【0149】
本発明はそれ故また、本発明による少なくとも1種のニトリルゴム、少なくとも1種の架橋剤および場合によりさらなる添加剤を含有する加硫可能な混合物を製造するための本発明のニトリルゴムの使用を提供する。
【0150】
これらの加硫可能な混合物は、本発明による少なくとも1種のニトリルゴム、少なくとも1種の架橋剤および場合によりさらなる添加剤を混合することによって製造される。
【0151】
架橋剤として、例えば、ビス(2,4−ジクロロベンジル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、1,1−ビス−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、過安息香酸第三ブチル、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブテン、吉草酸4,4−ジ−第三ブチルペルオキシノニル、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、第三ブチルクミルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシドおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキ−3−シンなどの過酸化物架橋剤を使用することが可能である。
【0152】
これらの過酸化物架橋剤のみならず、それによって架橋収率を高めることができるさらなる添加剤もまた使用することが有利であり得るし、この種の好適な添加剤は、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリル、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、Znジアクリレート、Znジメタクリレート、1,2−ポリブタジエンまたはN,N’−m−フェニレンジマレイミドである。
【0153】
架橋剤の総量は通常、ニトリルゴムを基準として、1〜20phrの範囲に、好ましくは1.5〜15phr、特に好ましくは2〜10phrの範囲にある。
【0154】
架橋剤として元素状の可溶性または不溶性形態での硫黄または硫黄供与体を使用することもまた可能である。
【0155】
可能な硫黄供与体は、例えば、ジモルホリルジスルフィド(DTDM)、2−モルホリノ−ジチオベンゾチアゾール(MBSS)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、およびテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)である。
【0156】
本発明のニトリルゴムの硫黄加硫において、それによって架橋収率を高めることができる、さらなる添加剤を使用することもまた可能である。しかしながら、架橋は原則としてまた、硫黄または硫黄供与体を単独使用して実施することができる。
【0157】
逆に、本発明のニトリルゴムの架橋はまた、上述の添加剤の存在下でのみ、すなわち元素状硫黄または硫黄供与体の添加なしに、実施することができる。
【0158】
それによって架橋収率を高めることができる好適な添加剤は、例えば、ジチオカルバメート、チウラム、チアゾール類、スルフェンアミド、キサントゲン酸塩、グアニジン誘導体、カプロラクタム類およびチオ尿素誘導体である。
【0159】
ジチオカルバメートとして、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZEPC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(Z5MC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケルおよびジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛を使用することが可能である。
【0160】
チウラムとして、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドおよびテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)を使用することが可能である。
【0161】
チアゾール類として、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンズチアジルジスルフィド(MBTS)、亜鉛メルカプトベンゾチアゾール(ZMBT)および銅−2−メルカプトベンゾチアゾールを使用することが可能である。
【0162】
スルフェンアミド誘導体として、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N−第三ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS)、N−オキシジエチレンチオカルバミル−N−第三ブチルスルフェンアミドおよびオキシジエチレンチオカルバミル−N−オキシ−エチレンスルフェンアミドを使用することが可能である。
【0163】
キサントゲン酸塩として、例えば、ジブチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピル−ジブチルキサントゲン酸亜鉛およびジブチルキサントゲン酸亜鉛を使用することが可能である。
【0164】
グアニジン誘導体として、例えば、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)およびo−トリルビグアナイド(OTBG)を使用することが可能である。
【0165】
ジチオホスフェートとして、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキルラジカルの鎖長:C〜C16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキルラジカルの鎖長:C〜C16)およびジチオホスホリルポリスルフィドを使用することが可能である。
【0166】
カプロラクタムとして、例えば、ジチオ−ビス−カプロラクタムを使用することが可能である。
【0167】
チオ尿素誘導体として、例えば、N,N’−ジフェニルチオ尿素(DPTU)、ジエチルチオ尿素(DETU)およびエチレンチオ尿素(ETU)を使用することが可能である。
【0168】
さらなる好適な添加剤は、例えば、亜鉛ジアミンジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンおよび環状ジスルファンである。
【0169】
言及された添加剤および架橋剤は両方とも、個々にか混合物でかのどちらかで使用することができる。ニトリルゴムを架橋するために次の物質を使用することが好ましい:硫黄、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジモルホリルジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛およびジチオビスカプロラクタム。
【0170】
架橋剤および上述の添加剤はそれぞれ、約0.05〜10phr、好ましくは0.1〜8phr、特に0.5〜5phrの量で使用することができる(単一添加、いずれの場合にも活性物質を基準として)。
【0171】
本発明による硫黄架橋においては、架橋剤および上述の添加剤に加えてさらなる無機または有機物質を用いることがまた有用であるかもしれない。かかるさらなる物質の例は、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、飽和または不飽和有機脂肪酸およびそれらの亜鉛塩、ポリアルコール、アミノアルコール、例えばトリエタノールアミンならびにまたアミン、例えばジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルエチルアミンおよびポリエーテルアミンなどのである。
【0172】
加えて、初期加硫防止剤を使用することもまた可能である。これらには、シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、無水フタル酸(PTA)およびジフェニルニトロサミンが含まれる。シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)が好ましい。
【0173】
架橋剤の添加とは別に、本発明のニトリルゴムはまた、さらなる慣例のゴム添加剤と混合することができる。
【0174】
これらには、例えば、当業者に十分に公知である典型的な物質、例えば、充填剤、充填剤活性化剤、オゾン保護剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、エキステンダー油、可塑剤、強化材および離型剤が含まれる。
【0175】
充填剤として、例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、カーボンナノチューブ、テフロン(登録商標)(後者は好ましくは粉末形態で)またはシリケートを使用することが可能である。
【0176】
可能な充填剤活性化剤は、特に、ビニルトリメチルオキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシランまたは(オクタデシル)メチルジメトキシシランなどの有機シランである。さらなる充填剤活性化剤は、例えば、トリエタノールアミンおよび74〜10,000g/モルの分子量を有するエチレングリコールなどの表面活性物質である。充填剤活性化剤の量は通常、ニトリルゴムの100phrを基準として、0〜10phrである。
【0177】
老化防止剤として、加硫可能な混合物へのラテックスの凝固について本出願に既に記載されたものを添加することが可能である。これらは通常、ニトリルゴムの100phrを基準として、約0〜5phr、好ましくは0.5〜3phrの量で使用される。
【0178】
可能な離型剤は、例えば、混合物の成分として好ましくは用いられる、飽和および部分不飽和脂肪酸およびオイル酸ならびにそれらの誘導体(脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪酸アミド)、また、金型表面に適用することができる製品、例えば低分子量シリコーン化合物をベースとする製品、フルオロポリマーをベースとする製品およびフェノール樹脂をベースとする製品である。
【0179】
混合物の成分として使用されるとき、離型剤は、ニトリルゴムの100phrを基準として、約0〜10phr、好ましくは0.5〜5phrの量で使用される。
【0180】
米国特許第4,826,721号明細書の教示に従って、ガラスからなる強度キャリア(繊維)による強化もまた、脂肪族および芳香族ポリアミド(Nylon(登録商標)、Aramid(登録商標))、ポリエステルおよび天然繊維製品からなるコード、織布、繊維による強化と同じように可能である。
【0181】
本発明はさらに、上記の加硫可能な混合物が、好ましくは射出成形を用いる、造形プロセスで加硫されることを特徴とする、本発明による少なくとも1種のニトリルゴムをベースとする成形品の製造方法を提供する。
【0182】
本発明は従って同様に、上述の加硫プロセスによって得ることができる造形品を提供する。
【0183】
本方法は、多数の成形品、例えばシール、キャップ、ホースまたはダイアフラムを製造することを可能にする。特異的なイオン指数を有する本発明のニトリルゴムは、O−リングシール、フラットシール、波形シーリングリング、シーリングスリーブ、シーリングキャップ、ダスト保護キャップ、プラグシール、断熱ホース(PVCの添加ありまたはなしの)、オイルクーラーホース、空気取り入れホース、サーボ制御ホースまたはポンプのダイアフラムを製造するために特に好適である。
【0184】
本発明のニトリルゴムをベースとする成形品の直接製造の代案として、本発明のニトリルゴムの製造に(i)メタセシス反応か(ii)メタセシス反応およびその後の水素化か(iii)水素化のみかのどれかが続くこともまた可能である。これらのメタセシスおよび水素化反応は両方とも当業者に十分に知られており、文献に記載されている。
【0185】
メタセシスは、例えば、国際公開第A−02/100941号パンフレットおよび国際公開第A−02/100905号パンフレットから公知である。
【0186】
水素化は、均一または不均一水素化触媒を使用して実施することができる。水素化をその場で、すなわち、適切な場合、メタセシス分解が先にまた実施された同じ反応容器で、分解したニトリルゴムを単離する必要性なしに実施することもまた可能である。水素化触媒が単に反応容器に加えられる。
【0187】
使用される触媒は通常、ロジウム、ルテニウムまたはチタンをベースとするが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルトもしくは銅を金属としてか、好ましくは金属化合物の形態でかのどちらかで使用することもまた可能である(例えば、米国特許第3,700,637号明細書、独国特許出願公開第A−25 39 132号明細書、欧州特許出願公開第A−0 134 023号明細書、独国特許出願公開第A−35 41 689号明細書、独国特許出願公開第A−35 40 918号明細書、欧州特許出願公開第A−0 298 386号明細書、独国特許出願公開第A−35 29 252号明細書、独国特許出願公開第A−34 33 392号明細書、米国特許第4,464,515号明細書および米国特許第4,503,196号明細書を参照されたい)。
【0188】
均一相での水素のための好適な触媒および溶媒は、以下に記載され、かつまた独国特許出願公開第A−25 39 132号明細書および欧州特許出願公開第A−0 471 250号明細書から公知である。
【0189】
選択的水素化は、例えば、ロジウム−またはルテニウム−含有触媒の存在下に達成することができる。例えば、一般式
(RB)MX
(ここで、Mはルテニウムまたはロジウムであり、ラジカルRは同一であるかまたは異なり、それぞれ、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜C15アリール基またはC〜C15アラルキル基であり、Bはリン、ヒ素、硫黄またはスルホキシド基S=Oであり、Xは水素またはアニオン、好ましくはハロゲン、特に好ましくは塩素もしくは臭素であり、lは2、3または4であり、mは2または3であり、nは1、2または3、好ましくは1または3である)
の触媒を使用することが可能である。好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリドおよびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリドならびにまた式(CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、そしてトリフェニルホスフィンがトリシクロヘキシルホスフィンで完全にまたは部分的に置き換えられた相当する化合物である。触媒は少量で使用することができる。ポリマーの重量を基準として、0.01〜1重量%の範囲の、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲の、特に好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲の量が好適である。
【0190】
触媒を、式RB(ここで、R、mおよびBは触媒について上に定義された通りである)の配位子である助触媒と一緒に使用することが一般に有用である。mは3であり、Bはリンであることが好ましく、ラジカルRは同一かまたは異なることができる。トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキルモノシクロアルキル、ジシクロアルキルモノアリールまたはジシクロアルキルモノアリールラジカルを有する助触媒が好ましい。
【0191】
助触媒の例は、例えば、米国特許第4,631,315号明細書に見いだすことができる。好ましい助触媒はトリフェニルホスフィンである。助触媒は好ましくは、水素化されるべきニトリルゴムの重量を基準として、0.3〜5重量%の範囲の、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用される。ロジウム含有触媒対助触媒の重量比が1:3〜1:55の範囲に、特に好ましくは1:5〜1:45の範囲にあることがまた好ましい。水素化されるべきニトリルゴムの100重量部を基準として、0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20重量部、非常に特に好ましくは1〜5重量部、特に2重量部超しかし5重量部未満の助触媒を用いることが有用である。
【0192】
この水素化のための実際的手順は、米国特許第6,683,136号明細書から当業者に十分に知られている。それは通常、水素化されるべきニトリルゴムを、トルエンまたはモノクロロベンゼンなどの溶媒中、100〜150℃の範囲の温度および50〜150バールの範囲の圧力で2〜10時間水素で処理することによって実施される。
【0193】
本発明の目的のためには、水素化は、出発ニトリルゴム中に存在する二重結合の、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%の反応である。
【0194】
不均一触媒が使用されるとき、それらは通常、例えば、カーボン、シリカ、炭酸カルシウムまたは硫酸バリウム上に担持されているパラジウムをベースとする担持触媒である。
【0195】
本発明のニトリルゴムのメタセシスおよび/または水素化反応によって得られる場合により水素化されたニトリルゴムは、本発明のニトリルゴムに類似の方法で加硫可能な組成物中へ導入し、加硫物およびかかる加硫物をベースとする成形品を製造するために使用することができる。これらの場合により水素化されたニトリルゴムは、Mooney粘度(ML 1+4(100℃))が1〜50、好ましくは1〜40Mooney単位である。Mooney粘度(ML 1+4(100℃))は、100℃でDIN 53523/3またはASTM D 1646に従って剪断ディスク粘度計によって測定される。
【実施例】
【0196】
I カチオン含有率の測定
カチオン含有率を測定するために、0.5gのニトリルゴムを白金るつぼ中で550℃での乾式灰化によって蒸解し、その後灰を塩酸に溶解させた。脱イオン水での蒸解溶液の適切な希釈後に、金属含有率を、酸マトリックスにマッチした較正溶液に対して以下の波長:
カルシウム: 317.933nm、
マグネシウム:285.213nm、
カリウム: 766.491nm、
ナトリウム: 589.592nm
でICP−OES(誘導結合プラズマ−発光分析)によって測定する。蒸解溶液中の元素の濃度および使用される計測器の感度に依存して、サンプル溶液の濃度を、いずれの場合にも使用される波長についての較正の線状領域にマッチさせた(B.Welz「Atomic Absorption Spectrometry」、第2版、Verlag Chemie、Weinheim 1985年、9.1、9.1.1、9.1.2および9.1.3章;251−262ページ)。
【0197】
II 貯蔵安定性
乾燥NBRゴムを、100℃で48時間の熱風貯蔵前後のMooney粘度によって特性化する、すなわちMooney粘度を、乾燥直後に(すなわち熱風貯蔵前に)1回、そしてまたその後100℃で48時間の熱風老化後に測定した。
【0198】
III 初期加硫挙動および加硫速度
初期加硫挙動(Mooneyスコーチ)は、DIN 53 523に従って剪断ディスク粘度計を用いて120℃で測定する。小さい回転子(S)を測定のために使用する。「MS 5(120℃)」は、Mooney値が最小値から5Mooney単位だけ増加する分単位の時間である。
【0199】
加硫速度は、差t90−t10(ここで、t10およびt90は、それぞれ、最終加硫度の10%および90%が達成される加硫時間である)としてMonsanto製の流動計(MDR 2000E)を用いて、DIN 53 529、パート3に従って160℃で測定する。
【0200】
IV 機械的特性
ゴムの機械的特性(例えば様々な伸びでの応力、究極の引張強度および破断点伸び)は、DIN 53 504に従って加硫物について測定する。
【0201】
V 水中膨潤
ニトリルゴム加硫物の水中膨潤(WS)の測定は、標準との偏差として、36.6mmの直径で4mmの厚さを有する円筒形試験検体で、DIN 53 521に従って実施する。測定される量は、脱イオン水中に100℃で7日間貯蔵後の重量%単位での増量である。
【0202】
VI 塩素含有率
本発明のニトリルゴムの塩素含有率は、DIN EN 14582、方法Aに基づく方法によって次の通り測定する:ニトリルゴムサンプルを、Parr圧力容器中過酸化ナトリウムと硝酸カリウムとの溶融物中で蒸解する。生じた溶融物に亜硫酸塩溶液を加え、混合物を硫酸で酸性化する。得られた溶液において、形成した塩化物を硝酸銀溶液での電位差滴定によって測定し、塩素として計算する。
【0203】
省略形RTが下の表中に用いられる場合、これは20℃±2℃の温度である。比較例はいずれの場合にも、表において実施例の数字の前に「C」で示される。
【0204】
A 乳化重合によるNBR製造
NBRラテックスを、下の表1に示される処方に基づいて製造した。全ての出発原料の量は、モノマー混合物の100重量部当たりの重量部単位で示す。74%の重合転化率に達するまで、重合を20℃の温度で7時間の期間実施した。
【0205】
【表1】

【0206】
上の表1において、列の1つに2つの数値が示されている場合、これは、それぞれの出発原料の総量を単一部分で加えず、代わりに第1部分を重合の開始時に導入し、さらなる部分を後で加えたことを意味する。この順次添加が実施された反応を以下に示す。
【0207】
NBRラテックスを、攪拌機を備えた2mのオートクレーブで回分式に製造した。350kgのモノマー混合物および700kgの水の総量を回分に使用した。乳化剤Erkantol(登録商標)BXG(9.8kg)、Baykanol(登録商標)PQ(2.94kg)およびココナツ脂肪酸のカリウム塩(1.96kg)ならびに180gの水酸化カリウムを600kgの水と一緒にオートクレーブに入れ、窒素の流れによってフラッシュした。窒素フラッシングが完了した後、不安定化モノマー(196kgのブタジエンおよび154kgのアクリロニトリル)ならびに調整剤t−DDMの一部(1.16kg)を反応器に導入した。その後、反応器を閉めた。残りの量の水(100kg)を、トリス(α−ヒドロキシエチル)アミン、ペルオキソ二硫酸カリウムの水溶液および停止剤溶液を調製するために使用した。重合を、950gのペルオキソ二硫酸カリウム(表1に示される0.27重量部に相当する)および530gのトリス(α−ヒドロキシエチル)アミン(表1に示される0.15重量部に相当する)の水溶液の添加によって20℃で開始させ、重合混合物を全体重合時間にわたってこの温度に維持した。重合の経過を、転化率の重量測定によって追跡した。15%の重合転化率で、さらなる1.16kgの調整剤t−DDM(表1に示される0.33重量部に相当する)を導入した。74%の転化率に達したとき(7時間)、重合を、亜ジチオン酸ナトリウム/N,N−ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)および水酸化カリウムの水溶液の添加によって停止させた。未反応モノマーおよび他の揮発性成分を水蒸気蒸留によって除去した。
【0208】
凝固前に、固体の100重量部を基準として1.0重量部の量の4−メチル−2,6−第三ブチルフェノール(Lanxess Deutschland GmbH製のVulkanox(登録商標)KB)をNBRラテックスに加えた。水中のVulkanox(登録商標)KBの50%濃度分散系をこれに使用した。
【0209】
Vulkanox(登録商標)KB−分散系は、調製がUltraturraxを用いて95〜98℃で実施されて、次の処方に基づいた:
360gの脱イオン水(DW水)
40gのアルキルフェノールポリグリコールエーテル(Lanxess Deutschland GmbH製のEmulgator NP(登録商標)10)
400gのLanxess Deutschland GmbH製のVulkanox(登録商標)KB。
【0210】
このようにして得られたラテックスの特性データを下の表2にまとめる。
【0211】
【表2】

【0212】
B.ラテックスの処理
塩溶液の濃度および沈澱のために使用される塩の量を、いずれの場合にも結晶水なしに計算した。ラテックスの凝固に使用される塩、塩溶液の濃度、NBRを基準とする使用される塩の量、凝固温度、洗浄中の温度および洗浄の継続時間を、以下の表にリストする。
【0213】
使用されるゼラチンのグレードは、以前はKoepff & Soehne/Heilbronnのゼラチン工場から調達した。実験に使用される様々なゼラチングレードについての特性パラメーター、例えばゼラチン灰化のタイプ(「酸性」または「アルカリ性」)、等電点(IEP)および水中10%濃度溶液の粘度は、製造業者のデータに基づくものである。
【0214】
ゼラチン溶液を製造するために、ゼラチンを先ず、室温で1/2〜1時間水中で膨潤させ、次に加熱しながら溶解させた。アルカリ金属塩の添加は、いずれの場合にもゼラチンの完全溶解後に実施した。
【0215】
1回目の試行(表3)において、その凝固活性へのゼラチングレードの影響を検討した。ゼラチンを全く使用しない、本発明によらない参考実験(表3に示されていない)では、NBR/固体を基準として13.2重量%の塩化ナトリウムの量が、ラテックスの定量的凝固のために必要とされた。ゼラチンを共沈澱剤として使用して実施される、表3に示される本発明による実施例は、6.0重量%のNaClという一定量の塩化ナトリウムを使用して実施した。この量の塩化ナトリウムは単独では、ラテックスの定量的凝固のために十分ではなかった。これらの実験では、ラテックスの定量的凝固のために必要なそれぞれのゼラチングレードの量(表3)を、いずれの場合にも測定した。実験のために、250gのラテックスをいずれの場合にも使用した。塩化ナトリウム溶液の濃度は、いずれの場合にも20重量%であった。ゼラチン含有塩化ナトリウム溶液を、撹拌しながら室温でラテックスに加え、次に撹拌しながら90℃に加熱した。これらの実験の結果を表3にまとめる。
【0216】
【表3】

【0217】
表3の実験は、これらが酸灰化またはアルカリ灰化によって得られたかどうかにかかわらず、少量のゼラチンでさえの添加が、ラテックスの定量的凝固のために不十分である塩の量を穴埋めすることを可能にすること、および選択された条件下にラテックスの凝固のための補助剤としての高いモル質量(水中で高い粘度)を有するゼラチングレードが低いモル質量を有するゼラチングレードより幾分良好な結果をもたらすことを示す。共沈澱剤としてのゼラチンの使用の結果として、ラテックスの定量的凝固に必要なアルカリ金属塩の量が減らされ、結果として、廃水の塩負荷が著しく低減される。
【0218】
さらなる試験のために、より大量のラテックスを凝固させた。これらの凝固は、ゼラチンなしに、およびゼラチンを共沈澱剤として使用する本発明に従って実施した(表4)。塩の量はいずれの場合にも、最小量の塩を使用してラテックスの定量的凝固および十分に大きいゴム粉末(5mm超)の両方が得られ、その結果ゴム粉末がその後の洗浄中に洗浄水の流れによって全く運び去られないように予備実験によってデザインした。
【0219】
25kgのラテックスを、いずれの場合にも処理して固体を得た。ラテックスの凝固は、100リットルの容量を有する撹拌可能なオープン容器で回分式に実施した。ここで、ラテックスを最初に凝固容器に入れ、撹拌しながら凝固剤の水溶液と混ぜ合わせ、本発明による実施例を、アルカリ金属塩のゼラチン含有溶液を使用して実施した。ラテックスの凝固のための手順の詳細を表4に示す。最初に装入したラテックスに沈澱剤を加えるラテックス温度を表4の列5に示し、沈澱剤溶液の添加後に反応混合物が加熱された温度を列6に示す。
【0220】
ラテックスの凝固が完了した後に、篩を用いてゴム粉末を漿液から分離し、表4に示される条件下に洗浄した。
【0221】
100リットルの容量を有する容器を、粉末の洗浄のために使用した。容器に入口および出口を備え付けた。洗浄を実施する前に篩(メッシュ開口部:2mm)を用いて出口を遮断することができ、その結果凝固粉末が洗浄中に一掃されないように2つのレールを容器の内部に設置した。洗浄を、200l/時の一定の水処理量を使用して実施した。カルシウムイオンを含有する標準給水(「BW」)を洗浄のために使用した(表4を参照されたい)。
【0222】
表4に示される実験は、以下の沈澱剤を使用して実施した:
【0223】
沈澱剤溶液1)は、(脱イオンされていない、従ってカルシウムイオンを含有する)標準プロセス水が溶液を製造するために使用されて、20%濃度の水性塩化ナトリウム溶液からなった。
【0224】
沈澱剤溶液2)は、(脱イオンされていない、従ってカルシウムイオンを含有する)標準プロセス水が溶液を製造するために使用されて、10%濃度の水性塩化マグネシウム溶液からなった。
【0225】
沈澱剤溶液3)は、(脱イオンされていない、従ってカルシウムイオンを含有する)標準プロセス水が溶液を製造するために使用されて、0.3%濃度の水性塩化カルシウム溶液からなった。
【0226】
沈澱剤溶液4)は、脱イオン水(DW)が溶液を製造するために使用されて、0.047重量%の酸灰化ゼラチン(10%濃度の水溶液での粘度:92.1cP;等電点:8.7)を含有する20%濃度の塩化ナトリウム溶液からなった。
【0227】
沈澱剤溶液5)は、脱イオン水(DW)が溶液を製造するために使用されて、0.2重量%の酸灰化ゼラチン(10%濃度の水溶液での粘度:92.1cP;等電点:8.7)を含有する20%濃度の塩化ナトリウム溶液からなった。
【0228】
沈澱剤溶液6)は、脱イオン水(DW)が溶液を製造するために使用されて、0.067重量%の酸灰化ゼラチン(10%濃度の水溶液での粘度:92.1cP;等電点:8.7)を含有する10%濃度の塩化カリウム溶液からなった。
【0229】
【表4】

【0230】
比較実験C16は、92.1cP(水中10%濃度)の粘度を有する酸灰化ゼラチンを使用して、米国特許第2,487,263号明細書の教示に従って実施した。
【0231】
表4での本発明による実施例において、ゼラチンの添加なしにアルカリ金属塩を使用するラテックスの凝固の場合より、ゼラチンをアルカリ金属塩と組み合わせて使用するときに、著しくより少ない量の塩がラテックスの定量的凝固のために必要とされることが示される。共沈澱剤としてのゼラチンの使用は、ラテックスの処理で得られる廃水の塩負荷を低減することを可能にする。
【0232】
ラテックスの凝固を実施した後に、ゴム粉末を、篩を用いてラテックス漿液から取り去った。通常、約200gのラテックス漿液を採取し、全てのポリマー残渣を取り去るために1/2時間還流し、20μm篩を通して濾過した。漿液のCOD(COD漿液)の測定を、硫酸銀触媒の存在下に硫酸媒体中で二クロム酸カリウムの消費の測定によって、DIN 38 409、パート41またはH41-1およびH41−2に従って実施した。漿液のCOD(COD漿液)から、凝固ニトリルゴムの1kgを基準とする漿液中に残存するCOD(CODNBR)を、本説明に示される方程式を用いて計算した。
【0233】
【表5】

【0234】
表5において、NBRの1kgを基準とするCOD値が、ゼラチンの使用なしにラテックスの凝固が実施される、本発明によらない比較例においてよりも塩化ナトリウム/ゼラチンを使用するおよび塩化カリウム/ゼラチンを使用する本発明によるラテックスの凝固の場合に高い;すなわちゼラチンを共沈澱剤として使用するときに、より少量のCODがゴム粉末中に組み込まれることが示される。
【0235】
洗浄が完了した後、表4に示される実施例(本発明による実施例および本発明によらない比較例)におけるゴム粉末を篩によって取り去り、Weldingスクリュー中で5〜15重量%の残存含水率まで予備脱水にかけた。
【0236】
予備脱水にかけられたゴムサンプルの最終乾燥を、1.5重量%未満の残存含水率まで70℃の真空オーブン中で回分式に実施した。
【0237】
カチオン含有率を測定するために、ゴムサンプルのアリコートをDIN 53 568に従って灰化し、DIN 51401に従って原子吸光分析によって測定した。
【0238】
表4からの本発明によるニトリルゴムおよび本発明によらないもののカチオン含有率およびイオン指数IIを表6に示す。
【0239】
【表6】

【0240】
乾燥NBRゴムを、100℃で48時間の熱風貯蔵前後のMooney粘度によって特性化した、すなわちMooney粘度の測定を乾燥直後に(すなわち熱風貯蔵前に)およびまたその後100℃で48時間の熱風老化後に実施した。
【0241】
【表7】

【0242】
表7から、本発明によらないが米国特許第2,487,263号明細書に従って製造されたニトリルゴムが不十分な貯蔵安定性を有することを理解することができる。それ故それは以下でさらに検討しなかった。
【0243】
表4に記載されるニトリルゴムをベースとするゴム混合物を、混合物の個々の成分を表に示される順に混合して、1.5リットルの実験室混練機で表8のように製造した。混合物の全ての成分は、ニトリルゴムの100重量部を基準とする重量部単位で報告する。
【0244】
【表8】

【0245】
混合物の加硫挙動は、Monsanto流動計MDR 2000Eを用いてDIN 53 529に従って160℃で流動計にて測定した。特徴的な加硫時間t10およびt90をこのようにして測定した。
【0246】
DIN 53 529、パート3に従って:
10:10%の転化率が達成された時間
90:90%の転化率が達成された時間
【0247】
さらなる測定のために必要とされる加硫試験検体を、120バールの水圧下のプレスでの160℃で30分間の加硫によって製造した。加硫物の300%伸びでの応力(σ300)、引張強度(σmax)および破断点伸び(ε)を、DIN 53504に従った引張試験によって測定した。
【0248】
ニトリルゴム加硫物の水中膨潤(WS)の測定は、DIN 53 521に従って実施した。標準との偏差として、円筒形試験検体は36.6mmの直径で4mmの厚さを有した。脱イオン水中100℃で7日間の貯蔵後の重量%単位での増量を測定した。
【0249】
【表9】

【0250】
表9に示される結果は、アルカリ金属塩およびゼラチンを使用して処理されたニトリルゴムの加硫挙動および加硫物特性が、塩化ナトリウムのみ(ゼラチンの添加なしに)を使用して処理された相当するニトリルゴムに匹敵するかまたはそれより良好な特性を示すことを示す。ゼラチンを使用して凝固されたニトリルゴムの水中膨潤(WS)は特に有利である。塩化マグネシウムを使用して、および塩化カルシウムを使用して(ゼラチンの使用なしに)処理したニトリルゴムラテックスは、より不十分な加硫物特性(低い弾性率およびより高い水中膨潤)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエンおよび場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含有し、かつ、18〜29ppm×モル/gの一般式(I)
【数1】

(式中、c(Ca2+)、c(Mg2+)、c(Na)およびc(K)は、ppm単位でのニトリルゴム中のカルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムイオンの濃度を示す)
によって定義されるイオン指数を有するニトリルゴム。
【請求項2】
19〜28ppm×モル/gの範囲の一般式(I)によるイオン指数を有する、請求項1に記載のニトリルゴム。
【請求項3】
アクリロニトリル、1,3−ブタジエンおよび場合により1種以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含有する、請求項1または2に記載のニトリルゴム。
【請求項4】
1種以上のα,β−不飽和モノカルボン酸またはα,β−不飽和ジカルボン酸、それらのエステルまたはアミドの繰り返し単位、好ましくはα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル、特にメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートの繰り返し単位を有する、請求項3に記載のニトリルゴム。
【請求項5】
Mooney粘度(ML 1+4(100℃))が、10〜150Mooney単位、好ましくは20〜100Mooney単位である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のニトリルゴム。
【請求項6】
−70℃〜+10℃の範囲の、好ましくは−60℃〜0℃の範囲のガラス転移温度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のニトリルゴム。
【請求項7】
2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオおよび/または2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオ末端基を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のニトリルゴム。
【請求項8】
少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルと、少なくとも1種の共役ジエンと、場合により少なくとも1種のさらなる共重合可能なモノマーとの乳化重合によるニトリルゴムの製造方法であって、重合時に最初に得られ、かつニトリルゴムを含有するラテックスを凝固させ、続いて得られた凝固後のニトリルゴムを洗浄する方法において、
(i)前記乳化重合で得られた前記ラテックスが凝固前に少なくとも6のpHを有し、
(ii)場合によりアルカリ金属塩の40重量%以下がカルシウム塩で置き換えられた状態で、前記ラテックスの凝固が沈澱剤としてアルカリ金属塩を使用して実施され、
(iii)ゼラチンが前記ラテックスの凝固のための共沈澱剤として使用され、
(iv)前記ラテックスの温度が前記共沈澱剤(iii)との接触前に50℃以下の温度に設定され、この温度がその後100℃に上げられ、かつ
(v)前記凝固がカルシウム塩の不存在下に実施される場合、前記ラテックスの凝固および/または凝固ラテックスの処理は、カルシウムイオンを含有する水を使用して実施される
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
12〜16個の炭素原子および少なくとも3個の第三級炭素原子を含有する少なくとも1種のアルキルチオールが、これらの第三級炭素原子の1個に硫黄が結合している状態で、分子量調整剤として使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乳化重合が回分式にまたは一連の撹拌容器で連続的に実施される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
1種以上の老化防止剤が凝固前にまたは凝固中に前記ニトリルゴムを含有するラテックスに添加される、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムが前記ラテックスの凝固のための沈澱剤として使用される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ニトリルゴムを基準として、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%の少なくとも1種のアルカリ金属塩が前記ラテックスの凝固のために使用される、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ちょうど前記ニトリルゴムの完全な凝固のために必要な量の少なくとも1種のアルカリ金属塩が前記ラテックスの凝固のために使用される、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカリ金属塩の溶液、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム溶液の濃度が、0.1〜35重量%、好ましくは0.5〜30重量%である、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記凝固のために使用される前記ラテックスが1%〜40重量%の範囲の、好ましくは5%〜35重量%の範囲の、特に好ましくは10%〜30重量%の範囲の固形分濃度を有する、請求項8〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ラテックスが、前記溶液への少なくとも1種のアルカリ金属塩の添加後に、100℃以下の温度に、好ましくは50〜90℃の範囲の温度に加熱される、請求項7〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記凝固ニトリルゴムの洗浄が15〜90℃の範囲の温度で、好ましくは45〜70℃の範囲の温度で実施される、請求項8〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
得られた前記ニトリルゴムがその後(i)メタセシス反応のみまたは(ii)メタセシス反応およびその後の水素化または(iii)水素化のみのいずれかにかけられる、請求項8〜18に記載のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法によって得ることができる、場合により水素化されたニトリルゴム。
【請求項21】
加硫可能な混合物を製造するための、請求項1〜6または20のいずれか一項に記載のニトリルゴムの使用。
【請求項22】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1種のニトリルゴムまたは請求項20に記載の少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤と場合によりさらなる添加剤とを含有する加硫可能な混合物。
【請求項23】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1種のニトリルゴムまたは請求項20に記載の少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤と場合によりさらなる添加剤とを混合することによる、請求項22に記載の加硫可能な混合物の製造方法。
【請求項24】
請求項22に記載の加硫可能な混合物が、好ましくは射出成形プロセスを用いる、成形プロセスで加硫される成形品の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法によって得ることができる成形品。
【請求項26】
シール、キャップ、ホースまたはダイアフラム、特にO−リングシール、フラットシール、波形シーリングリング、シーリングスリーブ、シーリングキャップ、ダスト保護キャップ、プラグシール、断熱ホース(PVCの添加ありまたはなしの)、オイルクーラーホース、空気取り入れホース、サーボ制御ホースまたはポンプのダイアフラムであることを特徴とする、請求項25に記載の成形品。

【公表番号】特表2011−511111(P2011−511111A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544658(P2010−544658)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050462
【国際公開番号】WO2009/095315
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】