説明

アルキレングリコールの調製方法

本発明は、アルキレンオキシドからアルキレングリコールを調製する方法を提供する。アルキレンオキシドをカルボキシル化触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることでアルキレンカーボネートが得られ;アルキレンカーボネートを加水分解触媒の存在下で水と反応させることでアルキレングリコールが得られる。カルボキシル化触媒の初期投入材料および加水分解触媒の初期投入材料を加え、加水分解触媒の劣化および活性を監視し、加水分解触媒の活性が最低水準未満に低下したときに、加水分解触媒の追加投入材料を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシドからアルキレングリコールを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノエチレングリコールは、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル、および樹脂の製造における原材料として使用される。また、モノエチレングリコールは自動車の不凍液中に混入される。
【0003】
モノエチレングリコールは、エチレンオキシドからエチレンカーボネートを介して高選択的方法で調製することができる。これは典型的には2段階方法で行われ、第1段階はエチレンオキシドを二酸化炭素と反応させてエチレンカーボネートを形成することであり、第2段階はエチレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールを形成することである。
【0004】
反応速度および反応選択性の両方を増加させるために、カルボキシル化および加水分解の段階で触媒を供給することができる。WO2007/144360には、アルキレンオキシドからアルキレンカーボネートを介してアルキレングリコールを製造する方法が開示されており、この方法では均一系カルボキシル化および加水分解触媒が使用される。均一系触媒溶液(カルボキシル化触媒および加水分解触媒を含む)は粗モノエチレングリコールから分離され、カルボキシル化および加水分解の反応器に再循環して戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/144360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、アルキレンオキシドからのアルキレングリコールの製造のさらなる改善を探求した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルキレンオキシドからアルキレングリコールを調製する方法であって、アルキレンオキシドをカルボキシル化触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることでアルキレンカーボネートが得られ、アルキレンカーボネートを加水分解触媒の存在下で水と反応させることでアルキレングリコールが得られ、加水分解の触媒活性相が1種類以上の塩基であり、
(a)カルボキシル化触媒の初期投入材料および加水分解触媒の初期投入材料を加えることで、アルキレンオキシドの二酸化炭素との反応を触媒し、アルキレンカーボネートの水との反応を触媒するステップと;
(b)加水分解触媒の劣化および活性を監視するステップと;
(c)加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下したときに、加水分解触媒の追加投入材料を加えるステップとを含み、加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときにカルボキシル化触媒の追加投入材料が加えられる場合、追加の加水分解触媒の追加のカルボキシル化触媒に対する重量比が少なくとも5:1となる方法を提供する。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、アルキレングリコールの調製方法中に、典型的な条件下で、塩基性加水分解触媒が既知のカルボキシル化触媒よりもはるかに速く劣化することを発見した。本発明者らは、塩基性加水分解触媒の量が減少すると、副生成物(例えばアルデヒド類、ジオキソラン類)の生成が増加し、アルキレンカーボネートの変換が減少し、選択性が低下する(ジアルキレングリコールおよびより高級なグリコール類の生成が増加する。)ことも発見した。従って、本発明者らは、加水分解触媒の劣化および関連する活性を監視し追加の加水分解触媒をプロセスに供給する本発明の方法を考案した。加水分解触媒の量が最低水準を超えるよう維持することによって、プロセスの副生成物の生成の増加および選択性の低下が回避される。カルボキシル化触媒は典型的には加水分解触媒よりもはるかに遅く劣化するので、加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときに追加のカルボキシル化触媒は不要である。好ましくは、加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときに、追加のカルボキシル化触媒は加えられない(追加の加水分解触媒とともにカルボキシル化触媒を少量加える場合にも本発明の利益がなお実現可能であるが、はるかに過剰の加水分解触媒を加えるべきであり、即ち追加の加水分解触媒の追加のカルボキシル化触媒に対する重量比が少なくとも5:1となるべきである。)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アルキレンオキシドから、続いてアルキレンカーボネート中間体を介してアルキレングリコールを調製する方法を提供する:
【0011】
【化1】

【0012】
好適には、R、R、R、およびRは、独立して、水素、または1から6個の炭素原子、好ましくは1から3個の炭素原子を有する場合により置換されたアルキル基から選択することができる。置換基として、ヒドロキシ基などの部分が存在することができる。好ましくは、R、R、およびRは水素原子を表し、Rは水素または非置換C−Cアルキル基を表し、より好ましくは、R、R、R、およびRのすべてが水素原子を表す。
【0013】
従って好適なアルキレンオキシド類の例としては、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが挙げられる。本発明において、最も好ましいアルキレンオキシドはエチレンオキシドである。
【0014】
アルキレンオキシドをカルボキシル化触媒の存在下で二酸化炭素と反応させるとアルキレンカーボネートが得られ、およびアルキレンカーボネートを加水分解触媒の存在下で水と反応させるとアルキレングリコールが得られる。この経路によるエチレングリコールの調製方法は、US6,080,897、US6,187,972、およびWO2009/021830に詳細に記載されている。本発明の一実施形態では、アルキレンオキシドの二酸化炭素との反応が主として1つ以上のカルボキシル化反応器中で行われ、アルキレンカーボネートの水との反応が主として1つ以上の加水分解反応器中で行われ、これらの1つ以上の加水分解反応器は1つ以上のカルボキシル化反応器の下流に存在する。好ましくは、1つ以上のカルボキシル化反応器に供給されるアルキレンオキシド10モルごとに、アルキレンカーボネート少なくとも5モルが1つ以上のカルボキシル化反応器を出る。好ましくは、1つ以上の加水分解反応器に供給されるアルキレンカーボネート10モルごとに、アルキレングリコール少なくとも5モルが1つ以上の加水分解反応器を出る。本発明の別の一実施形態では、アルキレンオキシドの二酸化炭素との反応およびアルキレンカーボネートの水との反応が主として1つの反応器中で行われる。好ましくは、反応器に供給されるアルキレンオキシド10モルごとに、2モル未満のアルキレンカーボネートおよび6モルを超えるアルキレングリコールが反応器を出る。
【0015】
カルボキシル化触媒は不均一系または均一系触媒であってもよい。カルボキシル化を促進することが知られている均一系触媒としては、ヨウ化カリウムおよび臭化カリウムなどの、ならびにヨウ化トリブチルメチルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化トリフェニルメチルホスホニウム、臭化トリフェニル−プロピルホスホニウム、塩化トリフェニルベンジルホスホニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、およびヨウ化トリブチルメチルアンモニウムなどのハロゲン化有機ホスホニウム塩類またはアンモニウム塩類が挙げられる。カルボキシル化を促進する不均一系触媒としては、シリカ上に固定された第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムハロゲン化物類、不溶性ポリスチレンビーズに結合した第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムハロゲン化物類、ならびに、第4級アンモニウム基または第4級ホスホニウム基を含有するイオン交換樹脂などの第4級アンモニウム基または第4級ホスホニウム基を含有する固体担体上に固定された亜鉛塩類などの金属塩類が挙げられる。好ましくはカルボキシル化触媒は均一系触媒であり、最も好ましくは有機ホスホニウムヨウ化物またはアルカリハロゲン化物塩である。
【0016】
加水分解触媒活性相は1種類以上の塩基である。加水分解触媒は均一系の場合も不均一系の場合もある。加水分解を促進し活性相としての塩基を有する均一系触媒としては、水酸化物類、バイカーボネート類、カーボネート類、カルボキシレート類(例えばアセタート類およびホルマート類)、およびホスファート類が挙げられる。例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸カリウム、水酸化トリブチルメチルホスホニウム、リン酸カリウム、およびジナトリウム水素ホスファートが挙げられる。加水分解を促進し活性相として塩基を有する不均一系触媒としては、固体担体上に固定された水酸化物イオン、重炭酸イオン、および炭酸イオン、例えば、第4級アンモニウム基または第4級ホスホニウム基を含有するイオン交換樹脂の上に固定された水酸化物、バイカーボネート、またはカーボネート;塩基性アルミナ;塩基性ゼオライト;ならびにポリ−4−ビニル−ピリジンが挙げられる。
【0017】
好ましい一実施形態では、加水分解触媒は重炭酸陰イオンを活性相として有する。炭酸カリウム、水酸化カリウム、および重炭酸カリウムなどの金属の炭酸塩類、水酸化物類、および重炭酸塩類、すべてで活性相としての重炭酸陰イオンが得られる。二酸化炭素は、加水分解反応中に存在し(二酸化炭素は加水分解反応の生成物である。)、二酸化炭素、水酸化物類、カーボネート類、およびバイカーボネート類の存在下で以下に示すように反応する:
【0018】
【化2】

【0019】
従って、水酸化物塩類および炭酸塩類は、重炭酸陰イオンの供給源として機能することができる。
【0020】
カルボキシル化触媒の初期投入材料および加水分解触媒の初期投入材料は、アルキレンオキシドの二酸化炭素との反応を触媒し、アルキレンカーボネートの水との反応を触媒する。触媒の一方または両方が均一系である場合、好ましくはプロセスで触媒再循環ループが使用され、それによって触媒がアルキレングリコール生成物から分離されて再循環され、それによってこの触媒はアルキレンオキシド反応物と混合される。均一系触媒の初期投入材料は、好ましくは触媒の溶液を触媒再循環ループに供給することによって加えられ、それによって触媒がアルキレンオキシド反応物と混合される。カルボキシル化触媒および加水分解触媒の両方が均一系である場合、これらの触媒は、好ましくは触媒の両方を含む溶液として触媒再循環ループに供給される。不均一系触媒の初期投入材料は、カルボキシル化および/または加水分解が行われる反応器中に不均一系触媒を充填することによって加えられる。本発明の一実施形態では、不均一系カルボキシル化触媒または不均一系加水分解触媒は、並列に配置された2つ以上の別々の容器中に収容され、運転中に供給を容器間で切り替えることができるように、前記容器は関連する切り替え手段を有する。
【0021】
加水分解触媒の劣化および関連する活性は監視される。均一系加水分解触媒の場合、サンプルを、好ましくは再循環ループから採取し、酸/塩基滴定により塩基性加水分解触媒の濃度を測定することによって、劣化を測定することができる。再循環ループ中の加水分解触媒の濃度から、反応器中の加水分解触媒の濃度を計算することができ、触媒の活性は反応器中の加水分解触媒の濃度に比例する。加水分解触媒の絶対濃度を測定する代わりに、加水分解触媒のカルボキシル化触媒に対する比率の変化を測定することによって劣化を監視することが可能であり、この場合も再循環ループからサンプルを採取し、酸/塩基滴定を行うことによって行われる。加水分解触媒が劣化すると加水分解触媒の相対量が減少し、加水分解触媒の関連する活性も低下する。活性種が塩基性陰イオンである不均一系触媒の場合、不均一系触媒サンプルを採取し、滴定によって塩基性陰イオンの濃度を測定し、この濃度を、新しい触媒のサンプル中の塩基性陰イオンの濃度と比較することによって、劣化を測定することができる。または、不均一系触媒を充填した反応容器を切り替え、塩基性陰イオンを含む溶液を触媒床に通すことによって不均一系触媒を再生し、再生中に溶液から除去された塩基性陰イオンの量を測定することによって、劣化を測定することができる。他の種類の不均一系触媒、例えば塩基性アルミナの場合、不均一系触媒を充填した反応容器を切り替え、新しい床および使用済みの床の相対活性を監視することによって、劣化を測定することができる(生成物流のサンプルを採取し、標準的技術を使用してサンプルを分析することによって、活性を評価することができる。)。
【0022】
加水分解触媒の劣化の監視は、好ましくは少なくとも毎週1回行われ、より好ましくは毎日行われる。
【0023】
加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下すると、加水分解触媒の追加投入材料が加えられる。加水分解触媒が均一系触媒である場合、加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下したかどうかを評価する好ましい方法の1つは、再循環流中に存在する必要がある加水分解触媒の最低濃度を設定することである。加水分解触媒が不均一系触媒である場合には、加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下したかどうかを評価する好ましい方法の1つは、加水分解触媒を含有する反応容器が達成する必要がある最低変換率を設定することである。
【0024】
加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下したときに、加水分解触媒の追加投入材料が加えられる。加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときにカルボキシル化触媒の追加投入材料が加えられる場合、追加の加水分解触媒の追加のカルボキシル化触媒に対する重量比は少なくとも5:1、好ましくは少なくとも10:1、より好ましくは少なくとも50:1である。最も好ましくは、加水分解触媒の追加投入材料が加えられるが、追加のカルボキシル化触媒は全く加えられない。加水分解触媒が均一系である場合、触媒の追加投入材料は、好ましくは加水分解触媒の溶液を触媒再循環ループに供給することによって加えられる。追加投入材料は初期投入材料と同じ触媒化合物である必要はない。例えば、初期投入材料が炭酸カリウム溶液であってもよく、追加投入材料が水酸化カリウム溶液であってもよい。加水分解触媒が不均一系である場合、触媒の追加投入材料は、好ましくは使用済み不均一系触媒を新しい不均一系触媒と交換することによって加えられる。この交換のための単純な方法の1つは、並列に配置された2つ以上の別々の容器内に収容された不均一系加水分解触媒を有することであり、運転中に供給を容器間で切り替えることができるように、前記容器は関連する切り替え手段を有する。新しい触媒を収容した容器に供給を切り替えることによって、不均一系触媒を新しい不均一系触媒に交換することができる。不均一系が担体上の塩基性陰イオンを含む劣化した不均一系触媒は、塩基性陰イオンの溶液で処理することによって再生可能である。
【0025】
加水分解触媒が均一系触媒である場合、加水分解触媒の濃度に関して望ましい上限が存在すると思われる。本発明者らは、加水分解触媒の濃度が増加すると、ハロゲン化ホスホニウム塩類またはアンモニウム塩類などのカルボキシル化触媒の劣化も増加することを発見した。従って、加水分解触媒の追加投入材料を加える場合、追加の触媒の量は好ましくは、加水分解触媒の全濃度が上限を超えないような量である。この上限は、加水分解触媒濃度が増加するときに、カルボキシル化がどのように劣化するかを観察することによって決定することができる。
【0026】
従来方法の1つでは、通常は、カルボキシル化触媒および加水分解触媒の両方が一定間隔で補給される。追加の加水分解触媒を供給するときに、追加のカルボキシル化触媒は供給しない(または少なくとも加水分解触媒がカルボキシル化触媒に対して大幅に過剰で供給する。)ことが有益であると認識している点で、本発明は異なっている。本発明において、ステップ(b)および(c)は、好ましくは継続的に行われ、例えば加水分解触媒の監視が毎日または1週間に1回行われ、追加の加水分解触媒の添加が必要に応じて行われる。しかし、加水分解触媒の監視するおよび添加の期間の後、例えば、加水分解触媒の数週間または数か月の監視および数回の追加投入材料の後、カルボキシル化触媒および加水分解触媒の両方の追加投入材料を加えることが望ましい場合がある。例えば、加水分解触媒およびカルボキシル化触媒の追加投入材料を加える前に、ステップ(c)を3回以上行うことができる。
【0027】
図1は、本発明の方法の好ましい一実施形態を示している。この装置は、カルボキシル化反応器(1)、加水分解反応器(5)、および蒸留塔(7)を含む。二酸化炭素(2)がカルボキシル化反応器に供給される。エチレンオキシドおよび水(3)もカルボキシル化反応器に供給される。均一系カルボキシル化触媒の初期投入材料および均一系加水分解触媒の初期投入材料が、エチレンオキシドおよび水供給ライン(3)中に供給するラインに供給される(10)。これはカルボキシル化反応を触媒する。カルボキシル化反応器(1)中で生成したエチレンカーボネートを含み、カルボキシル化触媒および加水分解触媒を含む反応流が加水分解反応器(5)に供給される(4)。加水分解触媒は、加水分解反応器(5)中のエチレンカーボネートからエチレングリコールへの反応を触媒する。加水分解反応器(5)を出た生成物流は蒸留塔(7)に供給される(6)。グリコール生成物(8)が蒸留塔(7)から抽出され、カルボキシル化触媒および加水分解触媒が、エチレンオキシドおよび水供給ライン(3)に戻るよう供給される(9)。加水分解触媒の濃度は、再循環ループ(9)からサンプルを採取することによって毎日測定される。サンプルの酸/塩基滴定によって、加水分解触媒の濃度の測定値が得られる。加水分解触媒の濃度が最低水準未満まで低下すると、均一系加水分解触媒の追加投入材料が位置(10)で加えられる(さらなるカルボキシル化触媒は加えられない。)。
【0028】
以下の実施例は説明的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0029】
加水分解触媒濃度の影響
本発明を説明するために、加水分解触媒を種々の量で使用して多数の実験を行った。加水分解触媒のより少ない量では、加水分解触媒の劣化が起こった状況が示される。加水分解触媒のより多い量では、追加の加水分解触媒を加えることによって、加水分解触媒の濃度が好ましい限度を超える状況が示される。
【0030】
これらの実験は、図1のプロセスの概略を使用して説明する。種々のプロセス流を表す内容物を有するプロセス装置(加水分解反応器(5)および蒸留塔(7))のプロセス条件(温度、圧力、触媒組成など)を模倣するために、バッチオートクレーブ実験を行った。一般に、プロセス装置およびプロセスラインの中の種々のプロセス流は以下の成分を含有する:
カルボキシル化反応器(1):エチレンオキシド/エチレンカーボネート/水/カルボキシル化触媒/加水分解触媒/CO
ライン(4):エチレンカーボネート/水/カルボキシル化触媒/加水分解触媒/CO
加水分解反応器(5):エチレンカーボネート/モノエチレングリコール/水/カルボキシル化触媒/加水分解触媒/CO
ライン(6):モノエチレングリコール/水/カルボキシル化触媒/加水分解触媒
蒸留塔(7):モノエチレングリコール/水/カルボキシル化触媒/加水分解触媒
カルボキシル化反応器(1)中、カルボキシル化触媒の影響下でエチレンオキシドがエチレンカーボネートに変換される。
【0031】
加水分解反応器(5)中、加水分解触媒の影響下でエチレンカーボネートがモノエチレングリコールに変換される。
【0032】
蒸留塔(7)中、グリコール類(主としてモノエチレングリコール、一部ジエチレングリコール)および水が両方の触媒から分離される(モノエチレングリコール/ジエチレングリコール中20から70重量%溶液)。
【0033】
(実施例1aからc)
この実験では、一般に使用されるカルボキシル化触媒(KI)の存在下での一般に使用される塩基性加水分解触媒(KPO)の量の、副生成物の形成(例えば2−メチル−1,3−ジオキソランの形成)およびモノエチレングリコールに対する選択性(より高級なグリコールのジエチレングリコールの形成によって評価する。)に対する影響を、加水分解反応器(5)の代表的な条件下、ライン(4)のプロセス流および反応器(5)の内容物の代表的な組成を使用して評価する。
【0034】
表1は実験1aから1cの条件を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
4時間後(実験1aの場合、より遅いエチレンカーボネートの加水分解のために、6時間後も)、得られた混合物をGC分析によって分析した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
これらの結果は、低い加水分解触媒濃度(加水分解触媒の劣化、および追加の加水分解触媒を加えなかったことで生じ得る。)によって、エチレンカーボネートの加水分解が遅くなるだけでなく、より望ましくない副生成物が形成され(例えば2−メチル−1,3−ジオキソラン)、モノエチレングリコールの選択性(100%×MEG/(MEG+DEG))が低下することを明確に示している。本発明では、活性が特定のレベル未満に低下したときに、加水分解触媒の活性を監視し、さらに加水分解触媒を加える。これによって、この実験で示されるように遅い加水分解、多い副生成物形成、および低い選択性が回避される。
【0039】
(実施例2aからc)
この実験では、一般に使用される塩基性加水分解触媒2(KOH)の量の、一般に使用されるカルボキシル化触媒であるテトラ−n−プロピルアンモニウムヨージド(TPAI)の安定化に対する影響を、蒸留塔(7)の代表的な条件下、ライン(6)のプロセス流および塔(7)の内容物の代表的組成を使用して評価する。
【0040】
表3は実験2aから2cの条件を示している。
【0041】
【表3】

【0042】
22時間後、得られた混合物を13C NMRによって分析した;TPAI触媒の劣化は、TPAI含有率の低下、およびTPAI劣化生成物であるTPA(トリ−n−プロピルアミン)の形成によって明らかとなる。結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
これらの結果は、高い加水分解触媒濃度(加水分解触媒の劣化が検出された後に加えた加水分解触媒が多すぎることによって生じ得る。)が、カルボキシル化触媒の安定性に悪影響を与え得ることを示している。本発明の好ましい一実施形態では、加水分解触媒の追加投入材料を加えるとき、追加の触媒量は、好ましくは加水分解触媒の全濃度が上限を超えないような量である。これによって、この実験によって示されるようにカルボキシル化触媒の劣化が回避される。
【0045】
(実施例3aからc)
この実験では、一般に使用される塩基性加水分解触媒(KOH)の量の、一般に使用されるカルボキシル化触媒であるテトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド(TBPB)の安定性に対する影響を、蒸留塔(7)の代表的な条件下、ライン(6)のプロセス流および塔(7)の内容物の代表的組成を使用して評価する。
【0046】
表5は実験3aから3cの条件を示している。
【0047】
【表5】

【0048】
193時間後、得られた混合物を31P NMRによって分析した;TBPB触媒の劣化は、TBPB含有率の低下、およびTBPB劣化生成物であるTBPO(トリ−n−ブチルホスフィンオキシド)の形成によって明らかとなる。結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
この場合も、これらの結果は、高い加水分解触媒濃度(加水分解触媒の劣化が検出された後に加えた加水分解触媒が多すぎることによって生じ得る。)が、カルボキシル化触媒の安定性に悪影響を与え得ることを示している。本発明の好ましい一実施形態では、加水分解触媒の追加投入材料を加えるとき、追加の触媒量は、好ましくは加水分解触媒の全濃度が上限を超えないような量である。これによって、この実験によって示されるようにカルボキシル化触媒の劣化が回避される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキシドからアルキレングリコールを調製する方法であって、アルキレンオキシドをカルボキシル化触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることでアルキレンカーボネートが得られ、アルキレンカーボネートを加水分解触媒の存在下で水と反応させることでアルキレングリコールが得られ、加水分解触媒の活性相が1種類以上の塩基であり、
(a)カルボキシル化触媒の初期投入材料および加水分解触媒の初期投入材料を加えることで、アルキレンオキシドの二酸化炭素との反応を触媒し、アルキレンカーボネートの水との反応を触媒するステップと;
(b)加水分解触媒の劣化および活性を監視するステップと;
(c)加水分解触媒の活性が最低水準未満まで低下したときに、加水分解触媒の追加投入材料を加えるステップとを含み、加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときにカルボキシル化触媒の追加投入材料が加えられる場合、追加の加水分解触媒の追加のカルボキシル化触媒に対する重量比が少なくとも5:1となる、方法。
【請求項2】
加水分解触媒の追加投入材料が加えられるときに、追加のカルボキシル化触媒が加えられない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加水分解触媒が均一系である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
加水分解触媒およびカルボキシル化触媒が均一系である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒再循環ループが使用されることによって、加水分解触媒およびカルボキシル化触媒が、アルキレングリコール生成物から分離されて再循環され、それによって加水分解触媒およびカルボキシル化触媒がアルキレンオキシドと混合され、加水分解触媒の初期投入材料およびカルボキシル化触媒の初期投入材料が、加水分解触媒およびカルボキシル化触媒を含む溶液を触媒再循環ループに供給することによって加えられ、加水分解触媒の追加投入材料が、加水分解触媒の溶液を触媒再循環ループに供給することによって加えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
再循環ループからサンプルを採取し、酸/塩基滴定により加水分解触媒の濃度を測定することによって、加水分解触媒の劣化が測定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
加水分解触媒が不均一系である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
不均一系加水分解触媒が並列に配置された2つ以上の別々の容器中に収容され、運転中に供給を容器間で切り替えることができるように、前記容器が、関連する切り替え手段を有し、加水分解触媒の追加投入材料が、新しい触媒を収容する容器に供給を切り替えることによって加えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
加水分解触媒の劣化が、反応容器を切り替え、新しい触媒床および使用済みの触媒床の相対活性を監視することによって測定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
加水分解触媒が活性相として重炭酸陰イオンを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−516531(P2011−516531A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503445(P2011−503445)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054270
【国際公開番号】WO2009/124988
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】