説明

アルキレングリコールを調製するための方法

1つまたは複数の電気陽性サイトを有する第1の固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオン、ならびに1つまたは複数の電気陽性サイトを有する前記第1または第2の固体担体上に固定化されたハロゲン化物を含む触媒組成物の存在下で、アルキレンオキサイドを二酸化炭素および水と接触させるステップを含む、アルキレングリコールを調製するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキサイドのアルキレングリコールへの触媒変換のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレングリコール、特にモノアルキレングリコールは、商業的関心が定着している。例えばモノアルキレングリコールは、不凍組成物中で、溶剤として、および例えば繊維またはボトル用のポリアルキレンテレフタレートの製造における基礎原料として用いられる。
【0003】
アルキレンオキサイドの液相加水分解によるアルキレングリコールの生成は知られている。加水分解は一般的に非常に過剰な水、例えばアルキレンオキサイド1モル当たり水20から25モルを加えることにより行われる。この反応は求核置換反応と考えられており、これによってアルキレンオキサイドの開環が起こり、水は求核剤として働く。最初に形成されたモノアルキレングリコールもまた求核剤として働くため、概してモノアルキレングリコール、ジアルキレングリコールおよびそれより高級なアルキレングリコールの混合物が形成される。モノアルキレングリコールの選択性を上げるために、アルキレンオキサイドの加水分解と競合する、一次生成物とアルキレンオキサイドとの間の二次反応を抑えることが必要である。
【0004】
二次反応を抑えるための1つの効果的な手段は、反応混合物中に存在する水の相対量を増やすことである。この手段によりモノアルキレングリコールの生成に対する選択性が改善するが、生成物を回収するために大量の水を除去しなければならないため問題が生じる。
【0005】
より少ない水量でモノアルキレングリコール生成物の選択性の向上を促進させる触媒法は既知である(例えば、欧州特許第0156449号明細書、米国特許第4982021号明細書、米国特許第5488184号明細書、米国特許第6153801号明細書および米国特許第6124508号明細書)。かかる触媒は、1つまたは複数の陰イオンが配位する、第四級アンモニウムまたは第四級ホスホニウムの電気陽性錯化サイトをしばしば有する、強塩基性(陰イオン)交換樹脂をしばしば含む。
【0006】
アルキレンオキサイドのアルキレングリコールへの反応について知られている触媒法のさらなる例は、特開2001−151713号公報および特開2001−151711号公報で示され、ハロゲン化物イオンおよび重炭酸イオンを含む触媒組成物が、二酸化炭素および水の存在下でアルキレンオキサイドを対応するアルキレングリコールに変換するために用いられる。
【0007】
特開昭56−092228号公報は、アルキレンオキサイドをアルキレングリコールに変換するための触媒として、この場合も二酸化炭素および水の存在下で、モリブデンおよび/またはタングステンを使用することを対象としている。
【0008】
反応触媒としてハロゲン型陰イオン交換材料を用いるアルキレンオキサイドのアルキレングリコールへの変換は、特開昭57−139026号公報に開示されている。
【0009】
国際公開第97/33850号パンフレットには、アルキレンオキサイドが二酸化炭素および/または炭素酸塩の存在下で加水分解され、触媒が電気陽性サイトを有するイオン交換ポリマー材料に基づき重炭酸塩の形態である、触媒法を記載している。
【0010】
米国特許第4307256号明細書は、アルキレングリコールを生成するために、第三級アミン触媒の存在下でアルキレンオキサイドを水および二酸化炭素と反応させることが記載されている。米国特許第4160116号明細書には類似の系が記載されており、使用される触媒は第四級ホスホニウム塩である。
【0011】
国際公開第2007014959号パンフレットは、触媒組成物、二酸化炭素および水の存在下で、アルキレンオキサイドから対応するアルキレングリコールに変換するための方法を対象としており、触媒組成物は、ハロゲン化物、メタレート、場合により大環状キレート化合物が含まれる。
【0012】
欧州特許第1034158号明細書は、アルキレンオキサイドのアルキレングリコールへの加水分解のための、ハロゲン化物、カルボン酸塩、炭酸水素塩、亜硫酸水素塩、リン酸水素塩およびメタレートを含む群から選択されるイオン化合物と錯体を形成した大環状キレート化合物を含む触媒組成物の使用を対象としている。
【0013】
さらに、2段階の工程を含む、アルキレンオキサイドからアルキレングリコールを生成するための方法は、当技術分野において記載されている。かかる方法は、触媒の存在下でアルキレンオキサイドを二酸化炭素と反応させた後に、続いて生成アルキレンカーボネートを熱または接触加水分解することを含む。かかる2段階の方法の例には、特開昭57−106631号公報および特開昭59−013741号公報に記載されているものが挙げられる。
【0014】
アルキレンカーボネートの加水分解に適切な触媒は、米国特許第4283580号明細書に記載されており、該特許は置換または非置換のエチレンカーボネートと水との反応による置換または非置換のエチレングリコールの生成において、触媒として、金属または化合物形態でモリブデンまたはタングステンを使用することを対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第0156449号明細書
【特許文献2】米国特許第4982021号明細書
【特許文献3】米国特許第5488184号明細書
【特許文献4】米国特許第6153801号明細書
【特許文献5】米国特許第6124508号明細書
【特許文献6】特開2001−151713号公報
【特許文献7】特開2001−151711号公報
【特許文献8】特開昭56−092228号公報
【特許文献9】特開昭57−139026号公報
【特許文献10】国際公開第97/33850号
【特許文献11】米国特許第4307256号明細書
【特許文献12】米国特許第4160116号明細書
【特許文献13】国際公開第2007/014959号
【特許文献14】欧州特許第1034158号明細書
【特許文献15】特開昭57−106631号公報
【特許文献16】特開昭59−013741号公報
【特許文献17】米国特許第4283580号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
アルキレンオキサイドを相当するアルキレングリコールに転換するための方法において進歩が遂げられてきたが、高活性および高選択的な触媒組成物を使用する高レベルの変換を用いる新しい方法、さらには、所望の生成物の容易な精製を可能にする触媒系が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本発明によれば、アルキレングリコールを調製するための方法が提供され、前記方法は、1つまたは複数の電気陽性サイトを有する第1の固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオン、および1つまたは複数の電気陽性サイトを有する第1または第2の固体担体上に固定化されたハロゲン化物を含む触媒組成物の存在下で、アルキレンオキサイドを二酸化炭素および水と接触させるステップを含む。
【発明の効果】
【0018】
驚くべきことに、アルキレンオキサイドから対応するアルキレングリコールへの変換は、固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオン、および同一であるまたは異なる固体担体のいずれか上に固定化されたハロゲン化物を含む触媒組成物によって効率的に触媒され得ることが今や見出された。
【0019】
この不均一系により、触媒組成物から所望の生成物を容易に分離することが可能になる。かかる分離は、一般的にアルキレングリコールを精製するのに必要とされる高温で、触媒組成物の存在下で生成物を蒸留することなしに行うことができる。高温を使用する分離ステップを回避することによって、均一法で起こり得る場合より低レベルな触媒劣化になり、また熱処理(蒸留)中の副生物の形成を減らす(またはなくす)ことにもなる。さらに、均一法と比較して、余分な触媒を用いることなしに、アルキレンオキサイドの1モルにつき、より高濃度の触媒が反応器のどの一点でも存在し得る。
【0020】
その上、この不均一触媒系は、アルキレンオキサイドのアルキレングリコールへの変換における高レベルな活性および選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の方法で出発材料として用いたアルキレンオキサイドは、通常の定義を有する、すなわち、分子中に隣接オキサイド(エポキシ)基を有する化合物である。
【0022】
一般式(I)のアルキレンオキサイドは特に適しており、
【0023】
【化1】

式中、RからRは、それぞれ独立に、水素原子または1から6個の炭素原子を有する、場合により置換されたアルキル基を表す。R、R、Rおよび/またはRで表される任意のアルキル基は、好ましくは1から3個の炭素原子を有する。置換基として、ヒドロキシ基などの不活性部分が存在し得る。好ましくは、R、RおよびRは水素原子を表し、Rは非置換のC−Cアルキル基を表し、より好ましくは、R、R、RおよびRはすべて水素原子を表す。
【0024】
したがって、適切なアルキレンオキサイドの例として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタンおよび2,3−エポキシプタンが挙げられる。本発明においてもっとも好ましいアルキレンオキサイドはエチレンオキサイドである。
【0025】
アルキレンオキサイドの調製は、当業者にはよく知られている。エチレンオキサイドの場合、よく知られているエチレンの直接酸化により、すなわち、銀ベースの触媒、およびしばしば有機モデレーター、例えば有機ハロゲン化物も利用する、空気または酸素酸化によって調製することができる(例えば、Kirk Othmer‘s Encyclopedia of Chemical Technology、第4版、9巻、923−940頁を参照されたい)。
【0026】
本発明では、活性陰イオンは、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される。好ましくは、活性陰イオンはメタレートである。
【0027】
本明細書で用いられる場合、用語「メタレート」は金属酸化物陰イオンとして定義され、金属は少なくとも+3の陽性機能的酸化状態を有する多価であり、例えば遷移金属であってよい。本発明において、メタレートは5および6族の金属を含む金属酸化物陰イオンから適切に選択される(G J Leigh編、IUPAC Nomenclature of Inorganic Chemistry,Recommendations 1990、Blackwell Scientific Publications、1990による。)。好ましくは、メタレートは、タングステン酸塩、バナジン酸塩およびモリブデン酸塩からなる群から選択される。もっとも好ましくはメタレートはモリブデン酸塩である。
【0028】
かかるメタレート陰イオンの典型的な例として、通常、式[MoO2−、[VO、[VH]3−、[V4−および[WO2−を特徴とする陰イオンが挙げられる。これらのメタレート陰イオンの化学は複雑であり、本発明の方法の条件下での正確な化学式は異なっていることが判明する場合があるが、上記のことは一般的に認められた特徴であることが認識されている。
【0029】
本発明の方法がバッチ法として実行されるとき、本発明の方法で使用される、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンの量は、適切にはアルキレンオキサイド1mol当たり0.0001から0.5molの範囲である。好ましくは、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンは、アルキレンオキサイド1mol当たり0.001から0.1molの範囲の量において存在する。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明の方法は連続法として実行され、アルキレンオキサイド、二酸化炭素および水は、連続の流れとして触媒上を通される。この実施形態では、本方法の任意の一時点において、アルキレンオキサイド1モルにつき存在する活性陰イオンの量は、流速、位置などの反応条件により変化することが、当業者には明らかである。
【0031】
ハロゲン化物という用語は、周期表の17族の元素のうちの1つの陰イオンを含む化合物のことをいう(G J Leigh編、IUPAC Nomenclature of Inorganic Chemistry,Recommendations 1990、Blackwell Scientific Publications、1990による。)。好ましくは、ハロゲン化物は、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群から選択される。もっとも好ましくは、ハロゲン化物はヨウ化物である。
【0032】
本発明の方法がバッチ法として実行されるとき、本発明の方法で用いられるハロゲン化物の量は、適切にはアルキレンオキサイド1mol当たり0.0001から0.5molの範囲である。好ましくは、アルキレンオキサイド1mol当たりハロゲン化物は0.001から0.1molの範囲の量で存在する。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明の方法は連続法として実行され、アルキレンオキサイド、二酸化炭素および水は、連続の流れとして触媒上を通される。当業者には、この実施形態では、本方法の任意の一点において、アルキレンオキサイド1モルにつき存在するハロゲン化物の量は、流速、位置などの反応条件により変化することが明らかである。
【0034】
第1および第2の固体担体は、1つまたは複数の電気陽性サイトを有する担体である。電気陽性サイトは典型的には陽イオンである。1つまたは複数の電気陽性サイトを有する適切な固体担体として、炭素、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、ガラス、およびハイドロタルサイトなどの粘土などの無機性のものが挙げられる。かかる固体担体は、吸着、反応またはグラフトによって結合した陽イオンを有することができる。さらに、クラウンエーテルなどの固定化された錯化大環状分子も、これらの材料が陽イオンと結合することができるため、本発明による1つまたは複数の電気陽性サイトを有する固体担体とみなされている。好ましくは、第1および/または第2の固体担体は、第四級アンモニウム、第四級ホスホニウム、第四級アルセノニウム、第四級スチボニウム、第三級スルホニウム陽イオンまたは錯化大環状分子を含む。より好ましくは、陽イオンは第四級アンモニウムまたは第四級ホスホニウムイオンである。
【0035】
有利なことには、本発明では強塩基性イオン交換樹脂を含む固体担体は、第1および/または第2の固体担体として使用され、陽イオンがポリマー骨格に結合している。ポリマー骨格は、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ホルムアルデヒド樹脂などを含む高分子量ポリマーおよびコポリマーを含むことができる。適切な市販のイオン交換樹脂には、ポリマー骨格としてポリアクリル酸塩またはスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを含むイオン交換樹脂が挙げられる。ポリシロキサンなどのシリカベースのポリマー骨格を有する樹脂、および樹脂のポリマー骨格中にビニルピリジンモノマーを包含する樹脂もまた使用することができる。本発明の方法に適切な市販のイオン交換樹脂には、Lewatit 500 KR(Lewatitは商標)、Amberlite IRA−900、Amberlite IRA−458(Amberliteは商標)、Amberjet 4200、Amberjet 4400(Amberjetは商標)、DOWEX 1x16(DOWEXは商標)、Reillex HPQ(Reillexは商標)、Marathon−A、Marathon−MSA(Marathonは商標)およびDELOXAN AMP(DELOXANは商標)が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なイオン交換樹脂には、Nishikuboら、J.Polym.Sci.、Part A:Polym.Chem.、(1993)31、939−947頁に記載されている方法に従い作られる樹脂が挙げられる。これらの樹脂はポリマー骨格と陽イオンをつなぐ化学構造を含むいわゆるスペーサー基を有する。適切には、スペーサー基はアルキレン基を含み、場合により1つまたは複数の酸素原子の割り込みがある。
【0036】
ハロゲン化物、ならびにメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンは、同一であるまたは異なる材料を含む固体担体上に担持され得る。好ましくは、ハロゲン化物が担持される固体担体、ならびにメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンが担持される固体担体は、同じ材料から形成される。
【0037】
ハロゲン化物、ならびにメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンはいずれも、それぞれ独立に、固体担体(複数可)上に当業者に知られている任意の技術によって固定化され得る。これらの技術は、細孔容量含浸、浸透、沈殿およびイオン交換を含む。好ましくは、ハロゲン化物、ならびにメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンは、固体担体(複数可)上にイオン交換によって固定化される。イオン交換は、固体担体と溶液(好ましくは、対応するハロゲン化物塩および/またはメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンの塩の水溶液)との接触を含み、溶液中のハロゲン化物陰イオンまたはメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンと、固体担体中または固体担体上に存在する電気陽性サイトの数とのモル比は、0.2以上である。好ましくは、ハロゲン化物陰イオンまたはメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンと、電気陽性サイトの数とのモル比は、0.25と20の間である。電気陽性サイトは、理論上、陰イオンが吸着され得るサイトである。第四級アンモニウムまたは第四級ホスホニウムイオンを含む強塩基性イオン交換樹脂の好ましい場合では、2つのかかる電気陽性サイトが、好ましいメタレート陰イオン[MoO2−を吸着するのに必要とされる。好ましくは、イオン交換は0℃から100℃の範囲の温度で、より好ましくは20℃から90℃の範囲で起こる。好ましくは、イオン交換は大気圧で起こる。
【0038】
固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンと、固体担体上に固定化されたハロゲン化物イオンとの混合物は、固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される、10から90mol%の範囲、好ましくは20から80mol%(混合物に基づく)の範囲の活性陰イオンを、固体担体上に固定化された、10から90mol%の範囲、好ましくは20から80mol%(混合物に基づく)の範囲のハロゲン化物と混合した、物理的混合物として形成され得る。
【0039】
あるいは、固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンと、固体担体上に固定化されたハロゲン化物との混合物は、固体担体上に適切な量のハロゲン化物を担持し、次いで、固体担体上に、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される、適切な量の活性陰イオンを担持することによって形成され得るため、生成された混合物は、10から90mol%(混合物に基づく)の範囲の、固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオン、ならびに10から90mol%(混合物に基づく)の範囲の、固体担体上に固定化されたハロゲン化物を含む。
【0040】
本発明の特に好ましい一実施形態では、触媒組成物は、水酸化物形態イオン交換樹脂と10から90%の範囲の同等のハロゲン化水素とを反応させ、次いで生成された混合物と10から90%の範囲の同等のモリブデン酸とを反応させることによって形成される。
【0041】
ハロゲン化物イオン、ならびにメタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオンを固体担体上に結合させる反応は、アルキレンオキサイドを添加する前に反応器内で行うことができ、あるいは、担持触媒組成物を反応器に添加する前に行うことができる。
【0042】
水の存在量は、通常、反応混合物中に存在するアルキレンオキサイド1mol当たり少なくとも0.2mol、好ましくはアルキレンオキサイド1mol当たり少なくとも0.5molである。水の存在量がアルキレンオキサイド1mol当たり少なくとも1molであることがもっとも好ましい。好ましくは、水の存在量はアルキレンオキサイド1mol当たり25mol未満、より好ましくは、アルキレンオキサイド1mol当たり15mol未満である。水の存在量がアルキレンオキサイド1mol当たり多くとも5molであることがもっとも好ましい。
【0043】
本発明の利点は、アルキレンオキサイドに対してほぼ化学量論量の水の存在下で、高レベルな活性および選択性を有する方法の実行が可能であることであり、例えば、アルキレンオキサイド1mol当たり、水の量は1molから1.3molの範囲であり、特に、アルキレンオキサイド1mol当たりの水の量は、1molまたは1.1molである。これにより、反応生成物から余分な水を除去するのに必要なエネルギー量が少なくなる。
【0044】
本発明の反応混合物中に存在する水は、アルキレンオキサイドとは別に反応混合物に添加することができる。あるいは、アルキレンオキサイドおよび水は、反応器に供給する前に、あらかじめ混合することができる。本発明の好ましい実施形態では、アルキレンオキサイド反応器からのアルキレンオキサイド生成混合物は、さらなる工程ステップなしに、またはストリッパー中の一部を濃縮した後に使用される。もっとも好ましくは、直接酸化のエチレンオキサイド反応器からの生成物ストリームの吸収により形成されたエチレンオキサイド/水混合物が使用される。この方法には、本発明の方法より前にアルキレンオキサイドを単離するのに費やされるエネルギーが少なくなるというさらなる利点がある。
【0045】
好ましくは、反応器に供給される二酸化炭素の全量は、アルキレンオキサイド1mol当たり少なくとも0.5mol、好ましくは、アルキレンオキサイド1mol当たり少なくとも1molの量である。好ましくは、反応器に供給される二酸化炭素の全量は、アルキレンオキサイド1mol当たり多くとも100molの量、より好ましくは、アルキレンオキサイド1mol当たり多くとも10molの量である。
【0046】
本発明の方法はバッチ操作で行うことができる。しかし、特に大規模な実施形態では、連続的にこの方法を行うのが好ましい。
【0047】
かかる連続法は、上流または下流で操作される固定層反応器で行うことができる。他の反応器の選択肢として、気泡塔反応器および流動層反応器が挙げられる。
【0048】
本発明の反応器は、等温、断熱または混成の条件下で維持することができる。等温反応器は一般的にシェルおよび管型反応器であり、大抵は多管タイプであり、管は触媒を含み、冷却剤は管の外側を通る。断熱反応器は冷却されず、これらを出る生成物ストリームは別の熱交換器で冷却できる。
【0049】
本発明の方法は、反応器の頂部と底部の間で生じ得る任意の温度差を最小限に抑えるため、反応器の生産物の一部を同じ反応器の少なくとも1つの入口にリサイクルすることが有利になり得る。したがって、反応温度を維持するのに必要な外気温の調節が、従来の反応器を用いる場合より少なくなる。これは等温条件が好ましいときに特に有利である。反応器の生産物のリサイクルされる部分は、反応器の生産物が反応器を出た後に、リサイクルされない部分と好都合に分離でき、または、反応器の生産物のリサイクルされる部分は、反応器の生産物のリサイクルされない部分が除去される出口と異なる反応器の出口を通って、反応器から好都合に除去することができる。採用される他の反応パラメーターに関して最適な性能を得るために、リサイクルされる反応器の生産混合物量は変えることができる。
【0050】
操作中に起こり得る任意の触媒の膨張に適応するために、反応器の体積はそこで触媒によって占められる体積より有利に大きく、例えば10から70vol%の範囲で大きくすることができる。
【0051】
アルキレングリコールの触媒調製のための適切な反応温度は、本発明によれば、一般的には40から200℃の範囲であり、したがって50から120℃の範囲の温度が好ましい。
【0052】
反応圧力は通常、100から5000kPaの範囲、好ましくは200から3000kPaの範囲、もっとも好ましくは500から2000kPaの範囲で選択される。
【0053】
上述の第四級または第三級基を含む触媒を使用するある種の方法で時折生じ得る問題は、生成物ストリームで少量の不純物が存在することである。例えば、塩基性基が第四級アンモニウムまたはホスホニウム基を含む強塩基性陰イオン交換樹脂が、触媒基のための固体担体として使用されるとき、操作中に少量のアミンまたはホスフィンが樹脂から生成物ストリームに溶出する傾向があることが見出されている。生成物ストリームにおける他の不純物には、本方法で使用される水に添加され得る腐食防止剤に由来するアミンを含むことがある。最終生成物に到達するかかる汚染物質の量は一般的には非常に少量であるが、これらは最終生成物の質に影響する恐れがあるため、生成物の質に影響を与えないように可能な限り少量に減らすことが望ましい場合がある。例えば、トリメチルアミン(TMA)の魚臭が1ppbという低量で検出され得るが、TMAおよび/またはジメチルアミン(DMA)は最大10ppmの量で最終生成物に到達する場合がある。
【0054】
かかる汚染物質の量を除去する効果的な手段は、酸性種、具体的には汚染物質の量を効果的に捕集する強酸性イオン交換樹脂を含む反応器後置層を使用することである。強酸性イオン交換樹脂はスルホンタイプのものであってよい。市販されている例としては、商標AMBERLYST 15、AMBERJET 1500H、AMBERJET 1200H、DOWEX MSC−1、DOWEX 50W、DIANON SK1B、LEWATIT VP OC 1812、LEWATIT S 100 MBおよびLEWATIT S 100G1で知られているものが挙げられる。かかる強酸性イオン交換樹脂は、Hの形態およびNaの形態などの塩の形態で得ることができる。強酸性樹脂のHの形態だけが反応器後置防御層で使用されるとき、それを通過した後の生成物ストリームは酸性になり得る。このH形および塩形の強酸性イオン交換樹脂の混合物の使用には、生成物ストリームのpHを中性付近で維持するという利点がある。
【0055】
かかる反応器後置層は、本反応による工程が行われる反応器または一連の反応器の後に配置され得る。アルキレンオキサイドが変換を受けて対応するアルキレングリコールを形成した反応器層の後に配置される強酸性反応器後置層のさらなる利点は、アルキレングリコール生成物の生成物ストリーム中にまだ存在し得る任意の残存アルキレンオキサイドがアルキレングリコールに変換されることである。
【0056】
操作中の強酸性イオン交換樹脂の消耗および交換または再生を可能にするために、2つ以上の個別の容器で反応器後置層を操作することにより、工程を2つの容器の間で切り替えられるようにし、こうして連続操作を維持することが有利である。
【0057】
消耗した強酸性イオン交換樹脂は、HClおよびHSOなどの酸で処理することによって再生することができる。0.1から2Nの熱硫酸が効果的であることが判明した。
【0058】
以下の限定されない実施例により本発明を例示する。
【実施例】
【0059】
モリブデン酸塩触媒の調製
ポリスチレン/ジビニルベンゼンのコポリマー骨格に基づくAmberjet4200樹脂(例えば、ロームアンドハース社;塩化物形態)を、モリブデン酸塩触媒用の以下の実施例で使用した。100mlのウェットなAmberjet4200(すなわち、55%の水を含む商業用サンプル)を、垂直ガラスイオン交換カラム上に移し、0.6l/l/hのLHSVで、75−80℃の温度で、3%モリブデン酸塩(NaMoO)溶液1100mlで処理した。最後に、室温で、脱塩水1000mlでリンスを行った(LHSV0.6l/l/h)。
【0060】
ヨウ化物触媒の調製
ヨウ化物触媒には、Lewatit M500KR(例えば、バイエル社;水酸化物形態)を使用した。水100ml中の市販されているイオン交換樹脂(OH形態で)およそ40gを、およそ15gのおよそ50%水性HI溶液で2時間攪拌した。生成された樹脂を濾過し、次いで洗浄液からHIが取り除かれるまで(すなわち、洗浄液のpHが5より大きくなるまで)水で洗浄した。
【0061】
すべてのイオン交換樹脂固体担体を、真空炉中で一晩乾燥させた(80℃、200−250mmHg)。
【0062】
一般的な反応条件
反応器を水で満たし、(もし存在すれば)ハロゲン化物を担持したイオン交換樹脂を、ハロゲン化物イオンの濃度が0.12mol/lになるように十分な量で添加し、(もし存在すれば)メタレートを担持したイオン交換樹脂を、0.025mol/lの濃度になるように十分な量で添加した。次いで反応器をCOでパージし、およそ5バール(500kPa)のCO雰囲気で加圧した。次いで反応器の内容物を90℃まで加熱し、反応器をさらに20バール(2,000kPa)に加圧した。次いでエチレンオキサイドを、水/EO比が4.02mol/molになるまで、6.3g/minの速度で反応器にポンプで注入した。これらの条件により、(もし存在すれば)ハロゲン化物濃度がエチレンオキサイド1mol当たり0.0118mol、(もし存在すれば)メタレートまたは炭酸塩濃度がエチレンオキサイド1mol当たり0.0035molという結果になる。反応器の内容物を適切な温度および圧力で維持し(COの連続的な供給によって)、サンプルを採取し、気液クロマトグラフィ(GLC)によって分析した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
これらの実施例は、本発明の触媒がアルキレンオキサイドから対応するアルキレングリコールへの転換に使用される際、高レベルの活性および選択性を示すことを実際に示している。不均一の触媒の使用により、生成物の分解をもたらし得る蒸留ステップの必要性なしに、所望の生成物を容易に分離することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の電気陽性サイトを有する第1の固体担体上に固定化された、メタレート、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される活性陰イオン、ならびに1つまたは複数の電気陽性サイトを有する前記第1または第2の固体担体上に固定化されたハロゲン化物を含む触媒組成物の存在下で、アルキレンオキサイドを二酸化炭素および水と接触させるステップを含む、アルキレングリコールを調製するための方法。
【請求項2】
ハロゲン化物がヨウ化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性陰イオンが、モリブデン酸塩、バナジン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選択されるメタレートである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メタレートがモリブデン酸塩である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
活性陰イオンが、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
第1および/または第2の固体担体が、第四級アンモニウム、第四級ホスホニウム、第四級アルセノニウム、第四級スチボニウムまたは第三級スルホニウム陽イオンを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
固体担体が強塩基性イオン交換樹脂を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
水が、反応混合物中に存在するアルキレンオキサイド1mol当たり0.2から25molの範囲で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応器に供給される二酸化炭素の全量が、アルキレンオキサイド1mol当たり0.5から100molの範囲の量である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
40から200℃の範囲の温度および100から5000kPaの範囲の圧力で行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−533682(P2010−533682A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516514(P2010−516514)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059405
【国際公開番号】WO2009/013221
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】