説明

アルギニン/リジンが濃縮されているペプチド

少なくとも1種のタンパク源から、アルギニン及びリジン含有量がタンパク質含有量の少なくとも20重量%であるペプチドの混合物を調製する方法、アルギニン及びリジンを多く含むペプチドの混合物を含有する製剤、並びに医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物としての前記製剤の使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のタンパク源から、総タンパク質含有量の少なくとも20重量%がアルギニン及びリジンであるペプチドの混合物を調製する方法、前記ペプチド混合物を含む製剤、並びに医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物としてのこうした製剤の使用に関する。
【0002】
こうしたペプチドは、本明細書ではタンパク質由来のアミノ酸鎖として定義され、ペプチドの分子量は、10000Daより低く、より好ましくは5000Daより低く、最も好ましくは2000Daより低い。
【背景技術】
【0003】
健康な食事の重要性は、広く認められている。アミノ酸、ペプチド及びタンパク質は、食物の重要な構成要素である。それらは、タンパク質合成に必要な構成単位を供給するだけでなく、哺乳類体内のいくつかの代謝経路で重要な役割を果たす。
【0004】
生化学的には、アルギニンは、特定の代謝条件下で必須アミノ酸であることが明らかである。アルギニンは、創傷治癒から免疫系の維持を助けることまで、体内でのいくつかのプロセスに関与する。アルギニンは、身体が血管を拡張状態に保ち、それによって心臓が十分な酸素の供給を受けられようにする助けとなる、一酸化窒素(NO)の前駆体でもある。リジンのε−アミノ基は他の食物成分に対する反応性が高いため、食物を加工する際にしばしばリジンが失われるので、リジンは、多くのタンパク質の生物価の制限要因である。リジンは、組織修復、成長、並びに酵素、ホルモン及び抗体の生産に関与する。これは、コラーゲン合成及び骨の健康にも不可欠である。
【0005】
血管機能を改善する上でアルギニンが重要な意味をもつことが、記載されている(例えば、米国特許出願公開第0013288号、Napoli(2002)J.Card.Surg.,17(4):355−362参照)。血管は、内皮で裏打ちされている。血管壁の構造の障害(例えば、動脈硬化)及び内皮における小さな病変は、単球の付着をもたらし、こうした単球は、血管の内皮膜に浸潤し、最後には血管の内皮と血管平滑筋の間の内膜下空間に入る。こうした単球は、コレステロール(主に、酸化又は変性低密度リポタンパク質(LDL))の増加量分を吸収して、泡沫細胞を形成する。酸化LDLは、内皮を変質させ、下にある泡沫細胞は、内皮を変形させ、最終的には内皮を貫いて破裂させさえもする可能性がある。
【0006】
内皮細胞の破壊は、この部位での血小板の付着並びに多数の増殖因子の放出をまねく。こうした増殖因子の1つである血小板由来増殖因子(PDGF)は、病巣への血管平滑筋細胞の遊走及び増殖を促す。こうした平滑筋細胞は、細胞外マトリックス(コラーゲン及びエラスチン)を放出し、この病巣は拡張し続ける。この病巣中のマクロファージは、プロテアーゼを放出し、その結果、細胞は損傷を受ける。したがって、壊死細胞片及び脂質が充満した壊死性核が作られる。これは、「複合病巣」とも呼ばれる。こうした病巣の破裂は、血管の血栓症及び閉塞を引き起こす可能性がある。冠状動脈では、複合病巣の破裂が、心筋梗塞を誘発する可能性があり、頚動脈の場合では、脳卒中が起こる可能性がある。
【0007】
動脈硬化症、血栓症及び再狭窄はすべて、正常な血管機能を喪失することを特徴とし、それにより血管が拡張するよりむしろ収縮する傾向がある。こうした異常な血管機能(以下、「過剰な血管収縮」と称す)は、狭心症(心臓動脈の場合)、一過性脳虚血症(脳血管の場合)、高血圧症、鬱血性心不全、妊娠中毒症、レイノー現象、プリンツメタル型狭心症(冠動脈痙攣)、脳血管痙攣、溶血性尿毒症、インポテンスなど他の病態でも生じる。こうした障害は、血管機能及び構造の異常と関係があり、高い罹患率並びに深刻な結果を有する。したがって、過剰な血管収縮を低減させる治療法を見つけることは、非常に重要である。
【0008】
先に述べた病理学的プロセスは、非常に複雑である。内皮から放出された物質「内皮由来弛緩因子」(EDRF)は、こうした病理学的プロセスを抑制することによって重要な役割を果たしている可能性がある。こうしたEDRFは、一酸化窒素(NO)(以下、「NO」と称す)又はNOを遊離する不安定なニトロソ化合物であることが示されている。EDRF(すなわち、NO)は、血管平滑筋を弛緩させ、血小板凝集、有糸分裂誘発、培養血管平滑筋の増殖及び白血球粘着を抑制する。したがって、NOは、最も強力な内因性血管拡張剤であり、NOの生物学的利用能が増大すると、上記の障害が予防及び/又は治療できる可能性がある。さらに、NOは、運動によって誘発される導管動脈での血管拡張の主な原因である。したがって、NO合成(及び/又は生物学的利用能)が増大すると、正常な個体及び血管系疾患を持つ患者の運動能力が高まる可能性もある。
【0009】
アルギニンとリジンは共に、一酸化窒素を生産する代謝経路における前駆体である。それらは、一酸化窒素生成の任にあたる酵素である一酸化窒素合成酵素(NOS)の基質として働く。高コレステロール血症と診断された被験者らにおいて、EDRF(すなわち、NO)の合成をアルギニンによって増加させることができることが記載されている。これは、血管壁からNOを放出させることによって実現される。さらに、アルギニンを投与すると、単球が血管に固着すること(sticking)並びに血小板凝集を阻止することも示されている。
【0010】
フリーラジカルが多く、抗酸化剤が少ない糖尿病環境は、同様に内皮機能を崩壊させる可能性もある。糖尿病は、血液凝固の傾向を高め、脳卒中及び心筋梗塞の危険性を増大させる。アルギニンを投与すると、糖尿病のNOレベルが正常値に回復する(Witte,M.B.ら、(2002)Metabolism 51:1269−1273)。したがって、糖尿病が内皮機能に及ぼす有害作用を低下させるのに、アルギニンの補充を使用することができる。
【0011】
リジン及び/又はアルギニンの投与によって生成された一酸化窒素の拡張作用は、血管機能の改善及び/又は回復にある役割を果たすだけでなく、前記被験者らの有酸素能の増加ももたらす(例えば、Maxwellら、(2001)J.Appl.Physiol.90:933−938参照)。アルギニンやリジンなどのNOの前駆体を追加することによって引き起こされる内因性NOの生成が増大すると、血管の内腔に付着している血液成分の数が減ることによって血流量が増加することができる。血流量が増加すると、有利なことに、有酸素能が増大し、運動すると筋肉に形成される乳酸の除去が増大することができる。
【0012】
こうした機能に加えて、アルギニンは、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌を刺激する(例えば、Chromiak et Antonio(2002)、Nutrition 18:657−661参照)。多くの研究が、アルギニンを特にリジンと一緒に投与すると成長ホルモンレベルが上昇することを示している。さらに、アルギニンは、グルカゴン及びインスリンの膵臓分泌を刺激し、それによって糖尿病の被験者らの血糖値を調節するのに役立つ。
【0013】
さらに、アルギニンは、特にリジンと一緒の場合、胸腺を刺激して、T細胞をさらに生産させることによって免疫機能を高める。(例えば、Potenzaら、(2001)、Curr.Drug Targets Immune Endocr.Metabol,Disord.1:67−77参照)。
【0014】
したがって、当技術分野では、ヒト又は動物の体内に、正に帯電したアミノ酸であるアルギニン及びリジンを効果的に投与するために、前記アミノ酸を含む化合物が必要とされている。
【0015】
米国特許第5,225,400号には、免疫賦活性を有する合成トリペプチド(Glu−Lys−Arg)が記載されている。前記合成トリペプチドは、胸腺欠損のヌードマウスの免疫機能を回復させることができる。
【0016】
米国特許第5,902,829号は、微小循環における低循環の改善及び/又は低循環−再循環障害の治療又は予防のために、術前投与用の医薬品又は栄養製剤の調製にアルギニンを遊離アミノ酸として使用することを開示している。
【0017】
米国特許出願公開第20020013288号は、血管機能を改善するために、アルギニン及びリジンを遊離アミノ酸として投与して脈管系の内因性NOレベルを高めることによって、脈管系の機能及び構造を改善する方法を開示している。
【0018】
しかし、被験者に上記の有益な効果をもたらすには、比較的大量のアルギニン及びリジンを投与しなければならない。大量の遊離アミノ酸投与は、いくつかの問題を伴う。残念なことに、こうした遊離アミノ酸のアルギニン及びリジンは、不快な匂いを有し、高塩基性であり、こうしたアミノ酸と同時に摂取される可能性のある様々な他の化学物質と容易に反応する可能性がある。さらに、高用量で投与された遊離アルギニンは、下痢のような腸の問題を引き起こす可能性がある。遊離アルギニン及び/又はリジンを使用することで起こる別の欠点は、それの混合物を溶解させることによって高い浸透圧が生じることであり、それは医学的栄養学分野での特定の適用には不利であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記で特定した諸問題は、アルギニン及び/又はリジンに富んだアミノ酸化合物を遊離アミノ酸の形ではなくペプチドの形で提供することによって避けることができる。これは、遊離アミノ酸の使用に勝る別の利点、すなわち、それらがペプチドの形で提供される場合、アミノ酸の腸への取込みが、遊離アミノ酸に比べてより効率的に起こるという利点を提供する。
【0020】
化学合成又は天然タンパク源の切断によって、ペプチドを得ることができる。合成ペプチドを生成するのは、かなりの長い時間及び費用がかかるので、ペプチドを得るための工業的に好ましい方法は、天然タンパク源を切断することである。しかし、アルギニン及び/又はリジンの収率は、出発物質、すなわち、少なくとも1種のタンパク源のアルギニン/リジンの元々の含有量までに制限されている。天然タンパク源を単に切断するだけでは、アルギニン及びリジンの総収率は、総タンパク質含有量の約10重量%までに制限される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、少なくとも1種のタンパク源、好ましくは天然タンパク源由来のペプチドの混合物の形で大量のアミノ酸、アルギニン及びリジンを提供することによって上記の問題を解決する。本発明によれば、少なくとも1種のタンパク源からペプチドの混合物を調製する新規な方法が提供され、このペプチドの混合物は、アルギニン及びリジン含有量が、総タンパク質含有量の少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%である。
【0022】
この方法は、a)少なくとも1種のタンパク源のタンパク質をペプチドに切断するステップと、b)このペプチドをカチオン交換樹脂に結合させるステップと、c)このカチオン交換樹脂を0.05〜2.0規定のアルカリ洗浄液で洗浄するステップと、d)最大で200mMのイオン強度を有し、pHが5.0〜9.0である水性溶離液で、この樹脂から結合したペプチドを溶離するステップとを含む方法を特徴とする。
【0023】
遊離アミノ酸の匂いは、しばしば不快であるが、前記ペプチドは、一般に味覚はなく(neutral)、低コストで大量に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
「アルギニン及びリジンの含有量」という用語は、所与の含有量がアルギニン及びリジンを合計した含有量を表すことを意味する。アルギニン及びリジンの含有量が例えば20重量%であるペプチド混合物は、総タンパク質含有量の20重量%が総タンパク質含有物からのアルギニン及びリジンによって構成されていることを意味する。アルギニン含有量が20重量%で、リジンが存在しないことも可能であり、逆の場合も同様である。しかし、例えば、アルギニンが13重量%、リジンが7重量%など、合計が20重量%になるいずれの組合せも可能である。本発明によるペプチド混合物は、好ましくは少なくともアルギニンを10重量%、リジンを10重量%、より好ましくは少なくともアルギニンを15重量%、リジンを15重量%、最も好ましくは少なくともアルギニンを20重量%、リジンを20重量%含む。
【0025】
第1ステップa)では、少なくとも1種のタンパク源からのタンパク質を、より小さなペプチドに切断する。こうした切断は、当技術分野で周知の、酵素的切断反応や化学的切断反応などの切断反応によって行うことができる。
【0026】
ステップb)では、このペプチド混合物溶液をカチオン交換樹脂に通す。カチオン交換樹脂は、一般に、多孔性のマトリックス、スチレン/ジビニルベンゼンの(架橋された)コポリマー、又はセルロースで構成され、弱酸性配位子(カルボン酸)又は強酸性配位子(スルホン酸)が露出している。どんなカチオン交換樹脂も、本発明の方法に使用することができる。こうした樹脂の非限定的な例には、Amberlite IRC 50、IMAC HP 1110Na(Rohm & Haas、USA)、Lewatit S2328、Lewatit S2528(Sybron Chemicals Inc.、ドイツ)、Gibco SP IEC HB4(Life Technologies、ニュージーランド)及びToyopearl SP−550C(Tosoh Biosep、ドイツ)がある。カチオン交換樹脂は、一般に、製造業者の指示に従って予め調整しておく。この樹脂は、精製ステップが容易になるように、カラム中に存在することが好ましい。ペプチドは、好ましくはpHが5.0〜9.0、より好ましくはpHが6.0〜8.0である水溶液として前記樹脂に充填(load)することが好ましい。こうした条件下では、アルギニンやリジンを多く含むペプチドなど、十分に正に帯電したペプチドは、負に帯電した樹脂と優先的に結合するが、中性及び酸性ペプチドは、実質的にそれと相互作用せずに樹脂を通過する。その結果、本発明によるアルギニン及びリジンを多く含むペプチドが、選択的にこの樹脂と結合する。
【0027】
ステップc)では、この樹脂を、0.05〜2.0規定、好ましくは0.2〜1.0規定、より好ましくは0.4〜0.6規定であるアルカリ溶液で洗浄するステップを行う。本明細書では、「規定度」を、溶液1リットル当たりの溶質の当量数として定義し、たいていは酸性又はアルカリ性溶液の濃度を表すために使用する。1当量の塩基とは、水素イオン1モルと反応する塩基の量であり、例えば、1.0MのNaOH溶液は、1.0NのNaOH溶液を構成するが、1.0MのCaOHは、(2.0Mの水酸化物イオンを提供するので)2.0NのCaOH溶液を構成する。どんなアルカリも使用することができるが、前記アルカリ洗浄液が、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0028】
ステップd)では、結合したペプチドを、イオン強度が最大で200mM、より好ましくは最大で150mM、さらに好ましくは最大で100mM、その上さらに好ましくは最大で50mM、最も好ましくは最大で25mMであり、pHが5.0〜9.0、より好ましくは6.0〜8.0である水性溶離液でこの樹脂から溶離する。前記溶離液は、例えば、pHが5.0〜9.0、より好ましくは6.0〜8.0である、脱塩水又は50mMのNaHPO溶液でよい。
【0029】
驚くべきことに、こうした低塩溶離(low salt elution)ステップによるペプチド画分の溶離は、樹脂上に存在する残りの塩の溶離より先に起こる。したがって、このペプチドと残りの塩は、同時に溶離しない。前記溶離ステップは、当技術分野で一般に実施される高いイオン強度(すなわち、塩濃度)の使用を避けられるので、有利である。こうした高塩溶離(high−salt elution)は、塩を除去するのに必要とされる溶離後に、経済的にコストのかかるウルトラ及び/又はダイアフィルトレーションステップをしばしば必要とする。
【0030】
本発明によれば、溶離は、低イオン強度の溶液、好ましくは脱塩水で行われ、したがって、ペプチド試料中に望ましくない濃度の塩が存在することが避けられる。このイオン強度は、I=0.5Σcで定義することができる。ただし、Iはイオン強度を表し、cはi番目のイオンの濃度(溶液1リットル当たりの溶質のモル)を表し、zはi番目のイオンの電荷を表す。例えば、50mMのNaHPO溶液は、0.5×([2×50)×I]+[50×2]=150mMのイオン強度に相当する。一般に、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウムなどの塩を使用して適切なイオン強度を実現する。
【0031】
本発明によるペプチド試料は、この溶離ステップの直後に、次の処理(例えば、調製の体積を減らすための限外ろ過、pH調節、乾燥及び/又は凝縮(packaging))ができる状態になっている。重要なことには、溶離を、低イオン強度の溶離液で行うので、ペプチドの溶離に使用される、コストのかかるダイアフィルトレーションステップが、塩を除去するのに必要ではない。
【0032】
さらに、本発明は、ステップb)とc)との間に前洗浄ステップを含む上述の方法に関する。前洗浄ステップでは、前記カチオン交換樹脂を、イオン強度が最大で200mM、より好ましくは最大で150mM、さらに好ましくは最大で100mM、その上さらに好ましくは最大で50mM、最も好ましくは最大で25mMであり、pHが5.0〜9.0、より好ましくは6.0〜8.0である前洗浄液で洗浄する。前記前洗浄液は、ペプチドの溶離に使用されるのと同じものでもよく、異なるものでもよい。したがって、脱塩水を、前洗浄ステップで使用してもよい。驚くべきことに、前記樹脂をアルカリ洗浄ステップの前に前記前洗浄液で洗浄した場合、本発明による正に帯電したペプチドは、カチオン交換樹脂上に保持されたが、カチオン交換樹脂をアルカリ洗浄ステップ後に類似のさらには同一の溶液で洗浄した場合、ペプチドが溶離された。より精製されたペプチド試料が得られることが分かったので、前記前洗浄ステップは有利である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、得られるペプチドの混合物は、総タンパク質含有量に対して少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%がアルギニン及びリジンである。より好ましくは、総タンパク質含有量に対して、アルギニン含有量は、少なくとも15重量%であり、リジン含有量は、少なくとも15重量%であり、最も好ましくは、アルギニン及びリジンの含有量は、両方とも少なくとも20重量%である。こうしたペプチド混合物は、自然界からは入手できず、上述の問題を克服するのに非常に適している。
【0034】
好ましくは、少なくとも1種のタンパク源からタンパク質を切断すること(ステップa)は、例えば、所望の長さのペプチドをもたらす1種又は複数のエンドペプチダーゼによってタンパク質のペプチド結合を酵素加水分解することを含む。少なくとも1種のタンパク源の酵素切断に使用できる、商業的に入手可能なエンドペプチダーゼ試料の非限定的な例には、アルカラーゼ、Chymotrypsine 800s、Neutrase(全てNovo Nordisk(デンマーク)から入手可能)、Protex 6.0L、Peptidase FP(両方ともGenencor(USA)から入手可能)、Corolase L10(Rohm、ドイツ)、Pepsin(Merck、ドイツ)及びProtease N(Amano,日本)がある。
【0035】
場合によっては、ステップb)の前に、ろ過ステップ、好ましくは精密ろ過又は限外ろ過ステップがくる。好ましくは、前記ろ過ステップは、カットオフが10kDaの膜を使用して行われるが、0.2ミクロンなど様々なカットオフのフィルターも使用することができる。前記ろ過ステップは、微生物又は粗粒子を除去するのに使用でき、したがってカチオン交換樹脂上に加える前にペプチド溶液を精製する働きをすることができ、樹脂の汚染を防ぐので有利である。
【0036】
「少なくとも1種のタンパク源」は、本明細書では、1種又は複数のタンパク源として定義される。それらが、アルギニン及び/又はリジンを含有するタンパク質を含む限り、どんなタンパク源でもよい。「タンパク源」という用語は、タンパク質を単離することができる任意のタンパク質含有材料を含むことを理解されたい。好ましくは、このタンパク源は、植物、動物又は微生物材料など天然由来のものである。さらに、2種のタンパク源を一緒にしてもよく、一方のタンパク源は、例えばアルギニンが豊富であり、もう一方のタンパク源は、リジンが豊富であってもよい。アルギニンを多く含むタンパク源の例には、大豆、エンドウ及び綿実タンパク源(総タンパク質含有量に対して約8重量%がアルギニン)があるが、カニタンパク質、魚タンパク質及び乳漿タンパク質は、リジンを多く含む(総タンパク質含有量に対して約10〜11重量%がリジン)。こうしたタンパク源は、低コストで容易に入手することができ、重要なことには、それらは食品用(food grade)である。
【0037】
好ましくは、この少なくとも1種のタンパク源は、少なくとも2種の異なるタンパク質を含み、この両方が、所望のペプチドのアルギニン及び/又はリジン含有量に寄与する。このタンパク質の一方が、アルギニンに富み、もう一方のタンパク質が、リジンに富むものでもよい。
【0038】
この少なくとも1種のタンパク源が、野菜由来であることが好ましい。最も好ましくは、この少なくとも1種のタンパク源は、大豆、エンドウ及び綿実からなる群から選択される。こうしたタンパク源は安価であり、菜食主義者にも受け入れることができ、本質的にアルギニンとリジンの両方の含有量が高い。
【0039】
前記少なくとも1種のタンパク源は、アルギニン及びリジンを少なくとも10重量%含むことが好ましい。さらに好ましくは、この少なくとも1種のタンパク源は、アルギニンを少なくとも5重量%、リジンを少なくとも5重量含み、アルギニン及びリジンの含有量が高い状態で始めるとよい結果が得られるので、両方のアミノ酸が高濃度で存在することが好ましい。
【0040】
さらに、本発明は、総タンパク質含有量に対して、アルギニン及びリジンを少なくとも20重量%、より好ましくはアルギニン及びリジンを少なくとも30重量%、最も好ましくはアルギニン及びリジンを少なくとも40重量%含む、アルギニン及びリジンに富んだペプチドの混合物を含む製剤に関する。より好ましくは、前記製剤は、総タンパク質含有量に対して、アルギニンを少なくとも10重量%、リジンを少なくとも10重量%、さらに好ましくは、アルギニンを少なくとも15重量%、リジンを少なくとも15重量%、最も好ましくは、アルギニンを少なくとも20重量%、リジンを少なくとも20重量%含む。前記製剤は、有利には、血管拡張を改善し、有酸素能を高め、免疫系を刺激し、成長ホルモンレベルを刺激し、糖尿病の被験者の血糖値の調節を改善し、血小板凝集を抑制するために被験者に投与するのに使用することができる。本発明はさらに、上記のペプチド混合物にも関する。
【0041】
さらに、本発明は、特に、一酸化窒素の血中濃度を高めるための、医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物としての本発明による製剤の使用に関する。
【0042】
医薬品又はサプリメントに使用する場合、前記製剤は、所望の投与形態の医薬品を得るために、任意の適切な担体、希釈剤、アジュバント、賦形剤などと一緒にすることができる。有利なことには、前記医薬品又はサプリメントは、経口投与される。「サプリメント」という用語は、健康飲料などの食物補助剤並びに健康製品を含むことを意味する。
【0043】
所期の用途で使用する場合、本発明によるペプチドのアルギニン及びリジンに富んだ混合物は、単独で又は薬剤上許容される担体との混合物として、適当な医薬製剤として投与することができ、これが本発明のもう1つの目的である。
【0044】
「レミングトンの製薬科学ハンドブック(Remington’s Pharmaceutical Sciences Handbook)」(Mack Pub.Co.、ニューヨーク、USA)に記載されているものなど、周知の方法及び賦形剤を使用して調製することができる前記製剤の例には、経口投与用の錠剤、カプセル剤、シロップ剤などがあり、非経口投与用の適当な形には、無菌溶液又は許容可能な液体状の懸濁液、インプラントなどがある。
【0045】
薬量は、処置すべき病的状態の種類及び重さ、患者の体重及び性別などいくつかの因子に依存し、当業者には容易に判断できる。
【0046】
飲物又は食物での使用については、前記製剤は、どんな一般的な食品原料成分と一緒にすることもできる。「飲物」という用語は、強壮剤(cordial)及びシロップ剤、並びに即席飲料を作るために水又は別の飲物に溶かす乾燥粉末の製剤を含むことを意味する。
【0047】
一実施形態では、前記製剤は、筋肉組織中の有酸素能を増大させるため且つ/又は酸性化を低減させるために、医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物として使用される。前記製剤は、スポーツドリンク又はスポーツ食品に有利に使用される。こうした適用では、本発明による製剤を、運動能力を高め、筋肉から乳酸を取り除くために使用する。或いは、それを、筋肉の形成(muscle building)を高めるのに使用することができる。
【0048】
別の実施形態では、前記製剤は、低減した且つ/又は不十分な血管拡張又は増大した血小板凝集に関係する障害を予防及び/又は治療するために、医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物として使用される。特に、前記障害は、動脈硬化症、再狭窄、血栓症、高血圧症、インポテンス、脳卒中及び糖尿病からなる群から選択される。
【0049】
さらに、本発明は、成長ホルモンレベル若しくは免疫応答を刺激するため又は血糖値の調節を改善するための、医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物としての本発明による製剤にも関する。
【0050】
本発明を、以下の実施例において説明するが、いずれにせよ本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【実施例1】
【0051】
大豆タンパクからのアルギニン/リジンが凝縮されているペプチドの調製
Procon 2000(Procon 2000はタンパク質含有量が75重量%)(Central Soya Company、USA)12重量%溶液を調製した。5%アルカラーゼを加え、この大豆タンパクを60℃で6時間加水分解した。加水分解後、pHを6.8に調節し、HTST低温殺菌器(約3分、110℃)にこの溶液を通すことによって、酵素を不活性化した。続いて、この溶液をハイフロ珪藻土ろ過機(Hyflo diatomaecious earth filter)に通した。
【0052】
この加水分解物溶液を、カチオン交換樹脂Lewatit S2328に充填した(流速=5カラム体積(bed volume)/時間)(カラム体積は、本明細書では、カラム中の樹脂体積に対応する体積として定義される)。続いて、このカラムを、最初に2カラム体積の脱塩水で洗浄し、次に1カラム体積の0.25MのNaOHで洗浄した(洗浄ステップ中の流速は、5カラム体積/時間である)。次に、アルギニン/リジンに富んだペプチドを、1.5カラム体積の脱塩水で溶離した。
【0053】
アルギニンの含有量は、Smith及びMacQuarrieによって決定した((1978)Anal.Biochem.90、246−255)。リジンの含有量は、欧州共同体官報(Official Journal European Community)(1998年、L257/14−28(1998年9月19日))で発表された指令(directive)98/64/EEC(1998年9月3日)に記載されている、アミノ酸分析法(酸加水分解法と一緒に)を使用して決定した。タンパク質の総量は、国際酪農連盟(International Dairy Federation)IDF−FIL 20A(1986)の方法に従ってケルダール法を使用して決定した。
【0054】
この溶離液は、総タンパク質含有量に対して、純正(purity level)のアルギニンが15重量%、リジンが15重量%であるアルギニン及びリジンに富んだペプチドを含んでいた。溶離液画分をpH7.0に調節し、凍結乾燥して粉末生成物を得た。この粉末は、タンパク質含有量が全生成物の95重量%であった。タンパク質と塩の比(w/w)は、20:1であった。
【0055】
ペプチド試料の分子量分布は、スーパーデックスペプチド(Superdex Peptide)R10/30カラム(Pharmacia、スウェーデン)を使用したクロマトグラフィーで、214nmでの光学濃度を測定し決定した。このカラムを、0.02MのNaHPO及び0.25MのNaCl、pH7.2で溶離した(流速は0.4ml/分を使用)。表1は、ペプチド試料の分子量分布を示す。
【表1】

【0056】
(比較実施例1A)
大豆タンパクを、実施例1で述べたように加水分解した。加水分解物溶液を、カチオン交換樹脂Lewatit S2328に充填した(流速=5カラム体積/時間)。続いて、ペプチドを1MのNaClで溶離した。
【0057】
アルギニン、リジン及びタンパク質の含有量を、実施例1で述べたように決定した。得られたペプチド画分は、実施例1で得たものと同程度のアルギニン及びリジン含有量を生じた。しかし、タンパク質と塩の比(w/w)は、1:9であった。この生成物は、実施例1の生成物と比べて180倍の塩含有量であったので、大規模な脱塩が必要であった。
【実施例2】
【0058】
エンドウタンパク質からのアルギニン/リジンが凝縮されているペプチドの調製
エンドウタンパク質(Propulse 975、ParrHeim Food、カナダ)15重量%溶液を調製した。5%アルカラーゼを加え、このエンドウタンパクを60℃で3時間加水分解した。次に、pHを7.0に調節し、HTST(約3分、110℃)にこの溶液を通すことによって、酵素を不活性化した。この溶液を、HFK131限外ろ過ユニット(Koch Membrane Systems、USA)に通した。この透過液を、以下のプロセスステップに適用した。
【0059】
透過液(加水分解物溶液)を固形物含有量が5%になるまで希釈し、続いてカチオン交換樹脂(Amberlite IRC50、流速は5カラム体積/時間)に充填した。このカチオン交換樹脂を、1カラム体積の50mMリン酸緩衝液pH7.0で洗浄し、続いて次の洗浄ステップで2カラム体積の0.5MのNaOHで洗浄した(両洗浄ステップ中の流速は、5カラム体積/時間である)。アルギニン及びリジンに富んだペプチドを、3カラム体積の脱塩水で溶離した。
【0060】
アルギニン、リジン及びタンパク質の含有量を、実施例1で述べたように決定した。この溶離液は、総タンパク質含有量に対して、純正のアルギニンが21重量%、リジンが21重量%であるアルギニン及びリジンに富んだペプチドを含んでいた。溶離液画分をpH7.0に調節し、凍結乾燥して粉末生成物を得た。タンパク質と塩の比(w/w)は、11:2であった。
【0061】
(比較実施例2A)
エンドウタンパク質を、実施例2で述べたように加水分解した。この加水分解物溶液を、カチオン交換樹脂Amberlite IRC50に充填した(流速=5カラム体積/時間)。続いて、ペプチドを1MのNaClで溶離した。
【0062】
アルギニン、リジン及びタンパク質の含有量を、実施例1で述べたように決定した。得られたペプチド画分は、実施例2で得たものと同程度のアルギニン及びリジン含有量を生じた。しかし、タンパク質と塩の比(w/w)は、1:9.5であった。この生成物は、実施例2の生成物と比べて52倍の塩含有量であり、したがって大規模な脱塩が必要であった。
【実施例3】
【0063】
アルギニン/リジンが凝縮されているスポーツドリンクの処方及び調製
【表2】

【0064】
本発明によるペプチド試料を水に溶かし、他の全ての成分を加えて混合物を生成し、混合物のpHをクエン酸でpH3.8に調節した。この混合物を、ボトルや缶などの容器に詰め、続いて低温殺菌した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のタンパク源からアルギニン及びリジンの含有量がタンパク質含有量の少なくとも20重量%であるペプチド混合物を調製する方法であって、
a)少なくとも1種のタンパク源のタンパク質をペプチドに切断するステップと、
b)前記ペプチドをカチオン交換樹脂に結合させるステップと、
c)前記カチオン交換樹脂を0.05〜2.0規定のアルカリ洗浄液で洗浄するステップと、
d)結合したペプチドをイオン強度が最大で200mM、pHが5.0〜9.0である水性溶離液で溶離するステップと
を含む方法。
【請求項2】
ステップb)とステップc)の間に前洗浄ステップを含み、前記カチオン交換樹脂が最大で200mM、pHが5.0〜9.0である前洗浄液で洗浄される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチド混合物が、タンパク質含有量の少なくとも30重量%であるアルギニン及びリジンの含有量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)が、酵素加水分解を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップb)の前にろ過ステップがくる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ろ過ステップが、カットオフが10kDaである膜で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のタンパク源が、少なくとも2種の異なるタンパク質を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のタンパク源が、野菜由来である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種のタンパク源が、大豆、エンドウ及び綿実からなる群から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種のタンパク源が、少なくとも10重量%のアルギニン及びリジンを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
アルギニン及びリジンを少なくとも20重量%含む、アルギニン及びリジンに富んだペプチドの混合物を含む製剤。
【請求項12】
アルギニンを少なくとも10重量%、リジンを少なくとも10重量%含む、アルギニン及びリジンに富んだペプチドの混合物を含む製剤。
【請求項13】
アルギニン及びリジンを少なくとも30重量%含む、アルギニン及びリジンに富んだペプチドの混合物を含む製剤。
【請求項14】
アルギニンを少なくとも15重量%、リジンを少なくとも15重量%含む、アルギニン及びリジンに富んだペプチドの混合物を含む製剤。
【請求項15】
医薬品、サプリメント、飲物又は食物中の有効化合物としての請求項11から14までのいずれかに記載の製剤の使用。
【請求項16】
一酸化窒素の血中レベルを上げるための請求項15に記載の使用。
【請求項17】
筋肉組織中の有酸素能を増大させ且つ/又は酸性化を低下させるための請求項16に記載の使用。
【請求項18】
低減した且つ/又は不十分な血管拡張又は増大した血小板凝集に関連する障害の予防及び/又は治療のための請求項15又は16に記載の使用。
【請求項19】
前記障害が、動脈硬化症、再狭窄、血栓症、高血圧症、インポテンス及び糖尿病からなる群から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
成長ホルモンレベルを刺激するため、免疫応答を刺激するため、又は血糖値の調節を改善するための請求項15に記載の使用。

【公表番号】特表2007−528693(P2007−528693A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504428(P2005−504428)
【出願日】平成15年7月17日(2003.7.17)
【国際出願番号】PCT/NL2003/000526
【国際公開番号】WO2005/007680
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(506016336)カンピナ ベスローテン フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】