説明

アルコール及び/又はエステルの製造法

【課題】 第1級アルコールから炭素鎖の伸長したアルコールを少量の触媒であっても効率よく製造できる方法、及び第1級アルコールから該アルコールの2量化したカルボン酸エステルを温和な条件下で収率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアルコール及び/又はエステルの製造法は、(i)周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコール又は(ii)アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体、及び塩基(アミノアルコールを除く)の存在下、第1級アルコールを反応させて、前記第1級アルコールが2量化して炭素鎖が伸長したアルコールA及び/又は前記第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステルBを得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表8〜10族元素化合物触媒を用いたアルコール及び/又はエステルの製造法、より詳細には、周期表8〜10族元素化合物触媒を用いて第1級アルコールを反応させ、該第1級アルコールが二量化して炭素鎖が伸長したアルコール及び/又は該第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イリジウム錯体などの周期表8〜10族元素化合物が水素移動反応に高い触媒活性を示すことが報告され、有機合成化学に利用されている。特開2004−262786号公報には、周期表9族元素化合物と塩基の存在下、カルボニル化合物とアルコールとを反応させて炭素鎖が伸長したカルボニル化合物又はその還元体であるアルコールを製造する方法が開示されている。しかし、この方法ではカルボニル化合物が主生成物であり、アルコールの収率はさほど高くない。また、Organic Letters, 2005, 7, 4017−4019には、イリジウム触媒を用いた第2級アルコールの第1級アルコールによるβ−アルキル化反応が報告されている。しかし、この方法においても、アルコールの収率は必ずしも高いとは言えない。
【0003】
特開2007−223947号公報には、第1級アルコールを、周期表8〜10族元素化合物と塩基の存在下、二量化反応させて、炭素鎖が伸長したアルコールを得る方法が開示されている。しかし、この方法では、単位触媒量当たりの目的化合物の生成量が少なく、工業的な見地からは必ずしも充分満足できる方法と言えない。また、この方法によればカルボン酸エステルが生成することも記載されているが、カルボン酸エステルを高い収率で得るためには比較的高い温度で反応を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−262786号公報
【特許文献2】特開2007−223947号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Organic Letters, 2005, 7, 4017−4019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、第1級アルコールから炭素鎖の伸長したアルコールを少量の触媒であっても効率よく製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、第1級アルコールから該アルコールの2量化したカルボン酸エステルを温和な条件下で収率よく製造できる方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、第1級アルコールから、反応条件の選択により、炭素鎖の伸長したアルコールと前記第1級アルコールの二量化したカルボン酸エステルとを作り分けることのできるアルコール及びエステルの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、第1級アルコールを、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコール、又はアミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体、及び塩基の存在下で、二量化反応させると、触媒が少量であっても、炭素鎖が伸長したアルコールが効率よく生成すること、反応条件を選択することにより、室温であってもカルボン酸エステルが高い収率で生成することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(i)周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコール又は(ii)アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体、及び塩基(アミノアルコールを除く)の存在下、第1級アルコールを反応させて、前記第1級アルコールが2量化して炭素鎖が伸長したアルコールA及び/又は前記第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステルBを得ることを特徴とするアルコール及び/又はエステルの製造法を提供する。
【0009】
前記周期表8〜10族元素化合物、周期表8〜10族元素錯体における周期表8〜10族元素としてはイリジウムが好ましい。
【0010】
前記製造法は、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとから触媒活性種を生成させる工程と、該工程の後、第1級アルコールをアルコールA及び/又はエステルBに変換する工程とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造法によれば、第1級アルコールから炭素鎖の伸長したアルコールを触媒反応により温和な条件下で収率よく製造することができる。また、触媒のターンオーバー数が大きく、少量の触媒で多量の目的化合物を得ることができる。さらに、反応条件を選択することにより、室温であってもカルボン酸エステル(第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステル)が高い収率で生成する。そのため、例えば、エタノールから酢酸エチルを工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1級アルコール]
原料として用いる第1級アルコールとしては、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコール、複素環式アルコール等の何れであってもよく、また、1価アルコールのほか、2価アルコール等の多価アルコールであってもよい。第1級アルコールとしては、ヒドロキシル基のβ位の炭素原子に水素原子が1又は2個(特に2個)結合してる化合物が好ましい。第1級アルコールは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
代表的な第1級アルコールには下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は有機基を示す)
【0014】
前記有機基としては、本反応を阻害しないような基であればよく、例えば、炭化水素基、複素環式基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基など)、カルボキシル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、アシル基(アセチル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基など)、及びこれらが2以上結合した基などが挙げられる。前記カルボキシル基などは有機合成の分野で公知乃至慣用の保護基で保護されていてもよく、金属で置換されていてもよい。
【0015】
前記炭化水素基及び複素環式基には、置換基を有する炭化水素基及び複素環式基も含まれる。前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらの結合した基が含まれる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0016】
脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0017】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが含まれる。
【0018】
好ましい炭化水素基には、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、C6-14芳香族炭化水素基、C3-15シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基等が含まれる。
【0019】
上記炭化水素基は、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、アシル基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基などを有していてもよい。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0020】
前記Rにおける有機基としての複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。上記複素環式基には、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)などの置換基を有していてもよい。
【0021】
原料として用いる第1級アルコールの代表的な例として、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ドデカノールなどの脂肪族アルコール;2−フェニルエチルアルコール、3−フェニルプロピルアルコール、4−フェニルブチルアルコールなどの芳香族アルコール;2−シクロヘキシルエチルアルコール、2−シクロペンチルエチルアルコール、3−シクロヘキシルプロピルアルコール、4−シクロヘキシルブチルアルコールなどの脂環式アルコール;2−(ピリジン−2−イル)エチルアルコール、2−(フラン−2−イル)エチルアルコールなどの複素環式アルコール;1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール類等の多価アルコールなどが挙げられる。第1級アルコールとしては、炭素数2〜6の1価の脂肪族アルコールが好ましく、特にエタノール、1−プロパノール、1−ブタノールが好ましい。
【0022】
[触媒]
本発明では、(i)周期表8〜10族元素化合物(金属単体を含む)とアミノアルコール、又は(ii)アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体を触媒として用いる。
【0023】
[周期表8〜10族元素化合物]
周期表8族元素(金属)には、鉄、ルテニウム、オスミウムが含まれる。周期表9族元素(金属)には、コバルト、ロジウム、イリジウムが含まれる。また、周期表10族元素(金属)には、ニッケル、パラジウム、白金が含まれる。周期表8〜10族元素化合物には、周期表8〜10族元素を含む広範な無機及び有機化合物が含まれる。無機化合物としては、例えば、金属単体、酸化物、硫化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、周期表8〜10族元素を含むオキソ酸又はその塩、無機錯体などが挙げられる。有機化合物としては、例えば、シアン化物、有機酸塩(酢酸塩など)、有機錯体などが挙げられる。これらの中でも有機錯体などの有機化合物が好ましい。錯体の配位子には公知の配位子が含まれる。周期表8〜10族元素化合物における8〜10族元素の価数は0〜6程度、好ましくは0〜3である。特にイリジウム化合物などの場合には1価又は3価が好ましい。周期表8〜10族元素化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
周期表8〜10族元素化合物の代表的な例をイリジウムを例にとって示すと、無機のイリジウム化合物として、例えば、金属イリジウム、酸化イリジウム、硫化イリジウム、水酸化イリジウム、フッ化イリジウム、塩化イリジウム、臭化イリジウム、ヨウ化イリジウム、硫酸イリジウム、イリジウム酸又はその塩(例えば、イリジウム酸カリウムなど)、無機イリジウム錯体[例えば、ヘキサアンミンイリジウム(III)塩、クロロペンタアンミンイリジウム(III)塩等]などが挙げられる。
【0025】
有機のイリジウム化合物としては、例えば、シアン化イリジウムのほか、有機イリジウム錯体を用いることができる。該有機イリジウム錯体として、例えば、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム、ドデカカルボニル四イリジウム(0)、クロロトリカルボニルイリジウム(I)、ジ−μ−クロロテトラキス(シクロオクテン)二イリジウム(I)([IrCl(coe)22)、ジ−μ−クロロテトラキス(エチレン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrCl(cod)]2)、ジ−μ−ヒドロキシビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrOH(cod)]2)、(アセチルアセトン)(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)([Ir(acac)(cod)])、ジ−μ−メトキシビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([Ir(OMe)(cod)]2)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)、トリクロロトリス(トリエチルホスフィン)イリジウム(III)、ペンタヒドリドビス(トリメチルホスフィン)イリジウム(V)、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)(IrCl(PPh33)、クロロエチレンビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジカルボニルイリジウム(I)、ビス{1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}イリジウム(I)塩化物、ペンタメチルシクロペンタジエニルビス(エチレン)イリジウム(I)、カルボニルメチルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、(1,5−シクロオクタジエン)(ジホスフィン)イリジウム(I)ハロゲン化物、1,5−シクロオクタジエン(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)イリジウム(I)ヘキサフルオロリン酸塩、(1,5−シクロオクタジエン)ビス(トリアルキルホスフィン)イリジウム(I)ハロゲン化物、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレート([Ir(cod)2+BF4-)、(1,5−シクロオクタジエン)(アセトニトリル)イリジウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。
【0026】
好ましいイリジウム化合物にはイリジウム錯体が含まれる。これらの中でも、有機イリジウム錯体、特に、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、エチレン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエンなどの不飽和炭化水素;アセトニトリルなどのニトリル類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類を配位子として有する有機イリジウム錯体[例えば、ジ−μ−クロロテトラキス(シクロオクテン)二イリジウム(I)([IrCl(coe)22)、ジ−μ−クロロテトラキス(エチレン)二イリジウム(I)、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrCl(cod)]2)、ジ−μ−ヒドロキシビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrOH(cod)]2)、(アセチルアセトン)(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)([Ir(acac)(cod)])、ジ−μ−メトキシビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([Ir(OMe)(cod)]2)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレート、(1,5−シクロオクタジエン)(アセトニトリル)イリジウムテトラフルオロボレート等]が好ましい。
【0027】
イリジウム化合物以外の周期表8〜10族元素化合物の例としては、上記イリジウム化合物に対応する化合物[例えば、ジクロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二ロジウム等]や、文献等(例えば、日本化学会編、第4版実験化学講座17及び18、丸善株式会社発行など)に記載の公知の化合物などが挙げられる。イリジウム以外の周期表8〜10族元素化合物においても、例えば、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、エチレン、ペンタメチルシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエンなどの不飽和炭化水素;アセトニトリルなどのニトリル類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類を配位子として有する有機錯体が特に好ましい。周期表8〜10族元素化合物のなかでも、周期表9族元素が好ましい。また、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)化合物も好ましく、特にイリジウム化合物が好ましい。
【0028】
周期表8〜10族元素化合物は、そのままで又は担体に担持した形態で使用できる。前記担体としては、触媒担持用の慣用の担体、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、チタニア、マグネシアなどの金属酸化物や活性炭などが挙げられる。担体担持型触媒において、周期表8〜10族元素化合物の担持量は、担体に対して、例えば0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%程度である。触媒の担持は、慣用の方法、例えば、含浸法、沈殿法、イオン交換法などにより行うことができる。
【0029】
周期表8〜10族元素化合物の使用量は、原料の種類や触媒の種類、目的化合物等によって適宜選択できる。炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、一般には、原料として用いる第1級アルコールに対して、例えば1モル%未満(例えば、0.0001モル%以上1モル%未満)、好ましくは0.1モル%未満(例えば、0.0005モル%以上0.1モル%未満)、さらに好ましくは0.05モル%未満(0.001モル%以上0.05モル%未満)である。本発明では、周期表8〜10族元素化合物とともにアミノアルコールを用いるので、単位触媒量当たりの目的化合物の生成量が多い。従って、少量の触媒で効率よく目的のアルコールを得ることができる。一方、カルボン酸エステルを目的化合物とする場合には、周期表8〜10族元素化合物の使用量は、原料として用いる第1級アルコールに対して、例えば0.0001〜15モル%、好ましくは0.01〜10モル%、さらに好ましくは0.1〜8モル%程度である。
【0030】
触媒は回収し(必要に応じて再活性化処理を施し)再度利用することができる。例えば、触媒(周期表8〜10族元素化合物)を含む反応液をそのまま、又は該反応液を蒸留に付して得られる残液、或いは該反応液に他の物理的処理を施して得られる混合液を、イオン交換樹脂処理に付して触媒を吸着させ、次いで脱着用水溶性溶媒を使用して触媒を脱着させることにより触媒を回収することができる。この方法は、特に触媒が有機金属錯体である場合に有用である。
【0031】
イオン交換樹脂処理に用いるイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂等を使用できるが、強酸性陽イオン交換樹脂又は強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂は使用する前に前処理を行うことで吸着効率を向上させることができる。前処理としては、陽イオン交換樹脂を使用する場合は、塩酸等で酸性に調整した水溶液で洗浄することにより行うことができ、陰イオン交換樹脂を使用する場合は、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等)で洗浄することにより行うことができる。イオン交換樹脂による処理温度は、例えば0〜100℃である。強酸性陽イオン交換樹脂を用いる場合には、脱着用水溶性溶媒として酸性アルコール(希塩酸などの酸水溶液で酸性に調整したメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等)を使用するのが好ましい。また、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる場合には、触媒を含有する反応液を蒸留し、得られた残液にアルカリ処理(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、ナトリウムメトキシド−メタノール溶液等により処理)を施し、アルカリ処理後の残液を陰イオン交換樹脂処理に付し、脱着用水溶性溶媒としてアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等)を使用するのが好ましい。前記アルカリ処理の温度は、例えば20〜80℃である。アルカリ処理を行う際には、酸素、過酸化水素などの酸化剤を存在させるのが好ましい。なお、全体としてプラスに帯電した触媒は陽イオン交換樹脂に吸着する。また、アルカリ処理を施すことにより、触媒はマイナスに帯電し、陰イオン交換樹脂に吸着される。
【0032】
[アミノアルコール]
アミノアルコールとしては、分子内にアミノ基とヒドロキシル基とを少なくとも1つずつ有する化合物であればよいが、アミノ基とヒドロキシル基とが2〜4個(特に2個)の炭素原子を介して結合している化合物(2−アミノエタノール類、3−アミノプロパノール類、4−アミノブタノール類等)が好ましい。アミノ基は第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のいずれであってもよいが、特に、第1級アミノ基又は第2級アミノ基が好ましい。また、前記アミノ基とヒドロキシル基間の炭素原子は置換基(C1-6アルキル基、C6-10アリール基、C7-11アラルキル基等)を有していてもよい。アミノアルコールは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
アミノアルコールとしては、特に2−アミノエタノール類(2−アミノエタノール、及び窒素原子及び/又は炭素原子に置換基を有する2−アミノエタノール)が好ましい。2−アミノエタノール類としては、例えば、2−アミノエタノール(エタノールアミン)、2−メチルアミノエタノール(N−メチルエタノールアミン)、2−エチルアミノエタノール(N−エチルエタノールアミン)、2−プロピルアミノエタノール(N−プロピルエタノールアミン)、2−ブチルアミノエタノール(N−ブチルエタノールアミン)、2−フェニルアミノエタノール(N−フェニルエタノールアミン)、2−ジメチルアミノエタノール(N,N−ジメチルエタノールアミン)、2−ジエチルアミノエタノール(N,N−ジエチルエタノールアミン)、2−アミノ−2,2−ジフェニルエタノール、2−メチルアミノ−2,2−ジフェニルエタノール、2−エチルアミノ−2,2−ジフェニルエタノール、2−フェニルアミノ−2,2−ジフェニルエタノール、2−アミノ−2−フェニルエタノール、2−メチルアミノ−2−フェニルエタノール、2−エチルアミノ−2−フェニルエタノール、2−フェニルアミノ−2−フェニルエタノール、2−アミノプロパノール、2−メチルアミノプロパノール、2−エチルアミノプロパノール、2−フェニルアミノプロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−メチルアミノ−2−メチルプロパノール、2−エチルアミノ−2−メチルプロパノール、2−フェニルアミノ−2−メチルプロパノールなどが挙げられる。
【0034】
周期表8〜10族元素化合物(金属単体を含む)とアミノアルコールとを用いる場合、アミノアルコールは、周期表8〜10族元素化合物の周期表8〜10族元素の原子に配位する配位子として機能すると考えられる。
【0035】
アミノアルコールの使用量は、反応を阻害しない範囲内で適宜選択できるが、一般には、前記周期表8〜10族元素化合物1モルに対して、0.2〜10モル程度、好ましくは0.5〜5モル程度である。
【0036】
[アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体]
アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体において、アミノアルコール、周期表8〜10族元素としては前記のものを使用できる。アミノアルコールとしては、特に2−アミノエタノール類(2−アミノエタノール、及び窒素原子及び/又は炭素原子に置換基を有する2−アミノエタノール)が好ましい。周期表8〜10族元素としては、特にイリジウムが好ましい。アミノアルコールは、一般に、アミノ基の水素原子及びヒドロキシル基の水素原子を1つずつ除いた残基として周期表8〜10族原子に配位していると考えられる。アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体の代表的な例として、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH]などが挙げられる。Cp*は1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基を示し、Phはフェニル基を示す。
【0038】
アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体は、そのままで又は担体に担持した形態で使用できる。前記担体としては、触媒担持用の慣用の担体、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、チタニア、マグネシアなどの金属酸化物や活性炭などが挙げられる。担体担持型触媒において、アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体の担持量は、担体に対して、例えば0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%程度である。触媒の担持は、慣用の方法、例えば、含浸法、沈殿法、イオン交換法などにより行うことができる。
【0039】
アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体の使用量は、原料の種類や触媒の種類、目的化合物等によって適宜選択できる。炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、一般には、原料として用いる第1級アルコールに対して、例えば1モル%未満(例えば、0.0001モル%以上1モル%未満)、好ましくは0.1モル%未満(例えば、0.0005モル%以上0.1モル%未満)、さらに好ましくは0.05モル%未満(0.001モル%以上0.05モル%未満)である。アミノアルコールを配位子とする錯体触媒用いるので、単位触媒量当たりの目的化合物の生成量が多い。従って、少量の触媒で効率よく目的のアルコールを得ることができる。一方、カルボン酸エステルを目的化合物とする場合には、原料として用いる第1級アルコールに対して、例えば0.0001〜15モル%、好ましくは0.01〜10モル%、さらに好ましくは0.1〜8モル%程度である。
【0040】
触媒は回収し(必要に応じて再活性化処理を施し)再度利用することができる。触媒の回収法等については、前記周期表8〜10族元素化合物の場合と同様である。
【0041】
[塩基]
本発明では塩基(アミノアルコールを除く)を用いる。塩基は、無機塩基、有機塩基、ルイス塩基等の何れであってもよく、アルドール縮合に通常用いられる塩基が好適である。
【0042】
無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸セリウムなどが挙げられる。
【0043】
有機塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属有機酸塩;トリエチルアミン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピリジンなどのアミン類(第3級アミンなど)や含窒素複素環化合物などが挙げられる。
【0044】
また、塩基として固体塩基を使用することもできる。固体塩基として、例えば、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、マグネシア、ジルコニアなどが挙げられる。これらは前記触媒担体として使用することもできる。
【0045】
炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、これらの中でも、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシドなどの強塩基が好ましい。一方、カルボン酸エステルを目的化合物とする場合には、これらの中でも、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩や、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などの比較的弱い塩基(特に、アルカリ金属炭酸塩)が好ましい。
【0046】
塩基の添加量は、原料の種類や周期表8〜10族元素化合物等によっても異なるが、通常、原料として用いる第1級アルコール1モルに対して、例えば、0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.7モル程度、さらに好ましくは0.02〜0.5モル程度である。
[水素受容体]
本発明では、目的物の収率をより向上させるため、反応系内に水素受容体を存在させてもよい。水素受容体としては、特に限定されず、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,7−オクタジエンなどのアルカジエン類;1,5−シクロオクタジエンなどのシクロアルカジエン類;プロピレン、1−オクテンなどのアルケン類;シクロオクテンなどのシクロアルケン類;ニトロベンゼン;プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、アセトンなどのカルボニル化合物(アルデヒド又はケトン)などが挙げられる。
【0047】
水素受容体の使用量は、反応を阻害しない範囲内で適宜選択できるが、一般には、原料として用いる第1級アルコール1モルに対して、0.15モル以下(例えば、0.0005〜0.15モル程度)、好ましくは0.12モル以下(例えば、0.001〜0.12モル程度)、さらに好ましくは0.1モル以下(例えば、0.002〜0.1モル程度)である。
【0048】
[反応]
第1級アルコールの二量化反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミドなどが挙げられる。前記アセトン等のカルボニル化合物などを溶媒として用いてもよい。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。本発明では、溶媒を用いなくても、反応が円滑に進行する。
【0049】
なお、反応系に、原料として用いる第1級アルコールに対応するアルデヒド[例えば、式(1)で表されるアルコールを原料とする場合には、R−CH2−CHO で表されるアルデヒド]を少量添加してもよい。該アルデヒドの添加により、反応速度が向上する場合がある。反応は重合禁止剤の存在下で行ってもよい。
【0050】
周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとを用いて反応を行う場合、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとから触媒活性種を生成させる工程(第1工程)と、該工程の後、第1級アルコールをアルコールA及び/又はエステルBに変換する工程(第2工程)とを設けてもよい。特に、炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、比較的高い温度を必要とするので、室温程度の低い温度で触媒活性種を生成させ、次いで、温度を上げて二量化反応を進行させると、少量の触媒で収率よく目的化合物を得ることができる。
【0051】
反応温度は、反応原料や触媒の種類、目的化合物などに応じて適宜選択できる。炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、例えば、20〜200℃、好ましくは50〜180℃、さらに好ましくは70〜150℃程度である。反応時間は、例えば5〜48時間、好ましくは10〜24時間程度である。前記のように、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとを用いて反応を行う場合において、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとから触媒活性種を生成させる工程(第1工程)と、該工程の後、第1級アルコールをアルコールA及び/又はエステルBに変換する工程(第2工程)とを設ける場合には、周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールの混合液を、0℃以上90℃未満の温度で0.1〜10時間程度(好ましくは0.2〜5時間程度)撹拌した(第1工程)後、90〜180℃(好ましくは90〜150℃)で5〜24時間程度(好ましくは10〜20時間程度)撹拌する(第2工程)と触媒のターンオーバー数が大幅に改善される。
【0052】
一方、カルボン酸エステルを目的化合物とする場合、反応温度は、例えば、0〜150℃、好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは0〜80℃程度であり、室温(25℃)で反応が円滑に進行する。反応時間は、例えば1〜48時間、好ましくは2〜36時間程度である。
【0053】
反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されないが、炭素鎖が伸長したアルコールを目的化合物とする場合には、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で反応を行うのが好ましい。なお、少量の酸素の存在は、該酸素が水素受容体として機能して反応速度が速くなる場合があるが、過剰の酸素が系内に存在すると、カルボン酸エステル生成反応が進行しやすくなる。そのため、反応系の気相部の酸素濃度は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下とするのが望ましい。一方、カルボン酸エステルを目的化合物とする場合には、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で反応を行ってもよいが、空気雰囲気下や、酸素を窒素等の不活性ガスで希釈した混合ガスなどの酸素を含む雰囲気下で反応を行うと収率が向上することが多い。
【0054】
反応原料や触媒等の添加順序は特に限定されず、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0055】
本発明の方法では、反応により、少量の触媒であっても、温和な条件下で、第1級アルコールが二量化して炭素鎖が伸長したアルコールが良好な収率で生成する。例えば、前記式(1)で表される第1級アルコールを原料として用いた場合には、下記式(2)
【化2】

(式中、Rは前記に同じ)
で表される炭素鎖の伸長したアルコールが生成する。
【0056】
反応機構としては必ずしも明らかではないが、まず第1級アルコールが周期表8〜10族元素化合物により酸化脱水素されてアルデヒドとなり(この時、周期表8〜10族元素化合物は水素化される)、これがアルドール型の縮合反応を起こしてα,β−不飽和アルデヒドが生成し、この生成物が上記水素化された周期表8〜10族元素化合物により水素添加されて、炭素鎖が伸長したアルコールが生成する(この時、元の周期表8〜10族元素化合物が再生する)ものと推測される。原料として2種以上の第1級アルコールを用いた場合には、同種のアルコール同士の二量化反応生成物のほか、異種のアルコール同士が反応した交差反応生成物が生成しうる。
【0057】
また、上記のように、反応条件(例えば、塩基の種類、触媒の使用量、反応の雰囲気など、特に塩基の種類)を適宜選択することにより、原料として用いた第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステルが主生成物となり、室温程度の極めて温和な条件下で、カルボン酸エステルを高い収率で得ることができる。例えば、前記式(1)で表される第1級アルコールを原料として用いた場合には、下記式(3)
【化3】

(式中、Rは前記に同じ)
で表されるカルボン酸エステルが主生成物として得られる。したがって、例えば、室温でエタノールから酢酸エチルを高収率で製造することができる。なお、この場合も、2種以上の第1級アルコールを原料として用いると、同種のアルコール同士が反応したカルボン酸エステルのほか、異種のアルコール同士が反応した交差反応生成物が生成しうる。この反応の反応機構としては必ずしも明らかではないが、前記のようにして生成したアルデヒド同士がカップリングして対応するエステルが生成するものと推測される。
【0058】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0060】
実施例1
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](0.1モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが19.7%、2−エチル−ブタノールが1.4%、1−ヘキサノールが2.1%、2−エチル−ヘキサノールが0.7%の収率で生成していた。エタノールの転化率は38.3%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは127(1−ブタノールについて)であった。
【0061】
実施例2
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](0.05モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが15.3%、2−エチル−ブタノールが1.7%、1−ヘキサノールが2.0%、2−エチル−ヘキサノールが0.4%の収率で生成していた。エタノールの転化率は37.2%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは218(1−ブタノールについて)であった。
【0062】
実施例3
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](0.01モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが7.8%、2−エチル−ブタノールが0.6%、1−ヘキサノールが0.8%の収率で生成していた。エタノールの転化率は18.7%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは312(1−ブタノールについて)であった。
【0063】
実施例4
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](0.1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが18.7%、2−エチル−ブタノールが1.7%、1−ヘキサノールが1.2%、2−エチル−ヘキサノールが0.3%の収率で生成していた。エタノールの転化率は36.3%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは109(1−ブタノールについて)であった。
【0064】
実施例5
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、アセトン(10モル%対エタノール)、及び水酸化カリウム(KOH)(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが7.3%、2−エチル−ブタノールが2.1%、1−ヘキサノールが1.7%、2−エチル−ヘキサノールが0.3%、1−オクタノールが0.1%の収率で生成していた。エタノールの転化率は16.1%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは389(1−ブタノールについて)であった。
【0065】
実施例6
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(10モル%対エタノール)、及び水酸化カリウム(KOH)(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが10.3%、2−エチル−ブタノールが3.2%、1−ヘキサノールが2.9%、2−エチル−ヘキサノールが0.8%、1−オクタノールが0.5%の収率で生成していた。エタノールの転化率は20.7%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは562(1−ブタノールについて)であった。
【0066】
実施例7
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、アセトン(10モル%対エタノール)、及び水酸化カリウム(KOH)(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、40℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが7.7%、2−エチル−ブタノールが2.1%、1−ヘキサノールが1.5%、2−エチル−ヘキサノールが1.2%、1−オクタノールが0.5%の収率で生成していた。エタノールの転化率は28.7%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは350(1−ブタノールについて)であった。
【0067】
実施例8
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、アセトン(10モル%対エタノール)、及び水酸化カリウム(KOH)(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、60℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが9.1%、2−エチル−ブタノールが2.3%、1−ヘキサノールが1.7%、2−エチル−ヘキサノールが1.4%、1−オクタノールが0.5%の収率で生成していた。エタノールの転化率は33.0%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは448(1−ブタノールについて)であった。
【0068】
実施例9
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、アセトン(1mL)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが4.8%、2−エチル−ブタノールが3.5%、1−ヘキサノールが1.3%、2−エチル−ヘキサノールが1.2%の収率で生成していた。エタノールの転化率は14.3%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは116(1−ブタノールについて)であった。
【0069】
実施例10
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrCl(cod)]2)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが14.3%、2−エチル−ブタノールが3.1%、1−ヘキサノールが2.4%、2−エチル−ヘキサノールが1.7%、1−オクタノールが1.1%の収率で生成していた。エタノールの転化率は28.3%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは332(1−ブタノールについて)であった。
【0070】
実施例11
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−ヒドロキシビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)([IrOH(cod)]2)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが13.8%、2−エチル−ブタノールが2.9%、1−ヘキサノールが2.3%、2−エチル−ヘキサノールが1.8%、1−オクタノールが1.2%の収率で生成していた。エタノールの転化率は25.4%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは312(1−ブタノールについて)であった。
【0071】
実施例12
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、ジ−μ−クロロテトラキス(シクロオクテン)二イリジウム(I)([IrCl(coe)22)(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが14.9%、2−エチル−ブタノールが3.2%、1−ヘキサノールが2.7%、2−エチル−ヘキサノールが2.1%、1−オクタノールが1.6%の収率で生成していた。エタノールの転化率は31.1%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは351(1−ブタノールについて)であった。
【0072】
実施例13
反応器に、エタノール2mL(34.26mmol)、(アセチルアセトン)(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)([Ir(acac)(cod)])(0.01モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(0.02モル%対エタノール)、1,7−オクタジエン(1モル%対エタノール)、及びナトリウムエトキシド(5モル%対エタノール)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で2時間撹拌後、120℃で16時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1−ブタノールが14.1%、2−エチル−ブタノールが2.6%、1−ヘキサノールが2.1%、2−エチル−ヘキサノールが1.4%、1−オクタノールが1.0%の収率で生成していた。エタノールの転化率は27.1%であった。イリジウム(Ir)1原子当たりのターンオーバーは687(1−ブタノールについて)であった。
【0073】
実施例14
反応器に、エタノール2mmol、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](4モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、空気雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが58.3%、アセトアルデヒドが0.9%、1−ブタノールが1.0%の収率で生成していた。エタノールの転化率は80.1%であった。
【0074】
実施例15
反応器に、エタノール2mmol、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](2モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、空気雰囲気下、40℃で15時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが49.9%、アセトアルデヒドが1.9%、1−ブタノールが1.0%の収率で生成していた。エタノールの転化率は73.4%であった。
【0075】
実施例16
反応器に、エタノール2mmol、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](4モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、空気雰囲気下、40℃で15時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが65.3%、アセトアルデヒドが1.8%、1−ブタノールが1.7%の収率で生成していた。エタノールの転化率は85.4%であった。
【0076】
実施例17
オートクレーブに、エタノール2mmol、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](4モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、空気雰囲気下、40℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが77.4%、1−ブタノールが2.4%の収率で生成していた。アセトアルデヒドは検出されなかった。エタノールの転化率は89.4%であった。
【0077】
実施例18
オートクレーブに、エタノール2mmol、Cp*Ir[OCH2C(Ph)2NH](0.5モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、空気雰囲気下、40℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが53.6%、アセトアルデヒドが1.8%、1−ブタノールが0.8%の収率で生成していた。エタノールの転化率は56.4%であった。
【0078】
実施例19
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(1モル%対エタノール)、炭酸カリウム(5モル%対エタノール)、2−アミノ−2,2−ジフェニルエタノール(2モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、40℃で6時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが57.9%、アセトアルデヒドが3.7%の収率で生成していた。1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は65.0%であった。
【0079】
比較例1
2−アミノ−2,2−ジフェニルエタノールを用いなかったこと以外は実施例19と同様にして反応を行った。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが3.0%、アセトアルデヒドが10.4%の収率で生成していた。1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は13.6%であった。
【0080】
実施例20
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(3モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−アミノ−2,2−ジフェニルエタノール(6モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で15時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが83.3%の収率で生成していた。アセトアルデヒド及び1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は90.9%であった。
【0081】
実施例21
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(1モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(2モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で15時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが61.0%の収率で生成していた。アセトアルデヒド及び1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は71.8%であった。
【0082】
実施例22
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(3モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−アミノエタノール(6モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが76.2%の収率で生成していた。アセトアルデヒド及び1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は86.3%であった。
【0083】
実施例23
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(2モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−メチルアミノエタノール(4モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが76.3%、1−ブタノールが3.0%の収率で生成していた。アセトアルデヒドは検出されなかった。エタノールの転化率は88.1%であった。
【0084】
実施例24
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(2モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−エチルアミノエタノール(4モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが72.1%、1−ブタノールが1.7%の収率で生成していた。アセトアルデヒドは検出されなかった。エタノールの転化率は83.9%であった。
【0085】
実施例25
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(3モル%対エタノール)、炭酸セシウム(30モル%対エタノール)、2−エチルアミノエタノール(9モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが85.9%、1−ブタノールが4.4%の収率で生成していた。アセトアルデヒドは検出されなかった。エタノールの転化率は99%であった。
【0086】
実施例26
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(2モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−プロピルアミノエタノール(4モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが70.7%、1−ブタノールが2.5%の収率で生成していた。アセトアルデヒドは検出されなかった。エタノールの転化率は80.9%であった。
【0087】
実施例27
反応器に、エタノール2mmol、ジ−μ−クロロジクロロビス(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)二イリジウム(III)([Cp*IrCl22)(2モル%対エタノール)、炭酸カリウム(30モル%対エタノール)、2−ブチルアミノエタノール(4モル%対エタノール)、及びアセトン(1mL)を加え、不活性ガス(Ar)雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸エチルが49.6%、アセトアルデヒドが5.8%の収率で生成していた。1−ブタノールは検出されなかった。エタノールの転化率は60.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコール又は(ii)アミノアルコールを配位子とする周期表8〜10族元素錯体、及び塩基(アミノアルコールを除く)の存在下、第1級アルコールを反応させて、前記第1級アルコールが2量化して炭素鎖が伸長したアルコールA及び/又は前記第1級アルコールと該アルコールに対応するカルボン酸とのエステルBを得ることを特徴とするアルコール及び/又はエステルの製造法。
【請求項2】
周期表8〜10族元素化合物、周期表8〜10族元素錯体における周期表8〜10族元素がイリジウムである請求項1記載のアルコール及び/又はエステルの製造法。
【請求項3】
周期表8〜10族元素化合物とアミノアルコールとから触媒活性種を生成させる工程と、該工程の後、第1級アルコールをアルコールA及び/又はエステルBに変換する工程とを含む請求項1又は2記載のアルコール及び/又はエステルの製造法。

【公開番号】特開2010−202567(P2010−202567A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49026(P2009−49026)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】