説明

アルコール製造方法及びアルコール製造装置

【課題】
試験研究レベルで凝集性アルコール発酵酵母を利用した繰返し回分発酵は技術的に一定程度確立されているが、工業化レベルでのアルコール製造方法及びアルコール製造装置について、その実現可能性については明らかになっていない。
【解決手段】
1の貯槽で複数回のアルコール発酵が工業化レベルで可能であるアルコール製造方法、及び当該アルコール製造方法を可能とする設備を有するアルコール製造装置を備えることにより、即ち温度制御方法及び温度制御装置、発酵終点確認方法、自動化装置等を設けることにより実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業化レベルでの繰返し回分発酵法及び繰返し回分発酵装置、即ち1の貯槽で1回のアルコール発酵酵母の添加により複数回のアルコール発酵を行い、アルコール発酵1回当たりのアルコール発酵液が10kL以上であるアルコール製造方法、及び当該アルコール製造方法を行う装置を備えるアルコール製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコール発酵に関するアルコール製造方法及びアルコール製造装置の発明については、試験研究レベル(即ち、回分発酵試験で1回当たりのアルコール発酵液が10kL未満の規模)において、優位性を有するアルコール発酵酵母がいくつか明らかとなっており、その中でもサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号
FERM P−12807)及びサッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)を凝集性酵母として用いたアルコール発酵は、アルコール生成量において優れているとして提案されている。
【特許文献1】特許第1895982号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、本特許文献においては、前記のとおり回分発酵試験又は、継代培養後の回分発酵試験における試験研究レベルでの凝集性アルコール発酵酵母としての優位性は詳細に記載されているが、サッカロマイセス・セレビシエF−5及びサッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)を用いた工業化レベルでのアルコール製造方法及びアルコール製造装置について、その具体的方法や構造、又はそれらの方法や装置を用いた工業化レベルでの実現可能性については明らかになっていない。
【0004】
アルコール発酵法のようなアルコール製造方法の中核的部分や、その製造方法を具体的に実現するアルコール製造装置において、試験研究レベルから工業化レベルに現実的にスケールアップするためには、生産性・効率性を勘案した多重の技術的課題の相関性を十分に検討し、かつその課題を解決する必要性がある。
【0005】
そこで、発明者らは、サッカロマイセス・セレビシエF−5及びサッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)、その他の凝集性アルコール発酵酵母を用いた工業化レベルでのアルコール製造方法及びアルコール製造装置の重要性に着目し、それらを詳細に検討し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、工業化レベルにおいて、適度の凝集性を有するアルコール発酵酵母(好適には、サッカロマイセス・セレビシエF−5)を用いたアルコール製造方法及びアルコール製造装置において、アルコール発酵のために所定糖濃度に調整した糖液(以下、「所定調製被発酵液」という。いわゆる「本もろみ」でもある。なお「糖液」の原料としては、サトウキビ、ビート等の糖含有物、セルロース系バイオマスの糖化液及びでんぷん糖化液が相当。)を含む貯槽に凝集性アルコール発酵酵母を増殖調整した液(以下「酒母」という。)を添加しアルコール発酵を行った後、一定時間静置し、上澄液を回収し蒸留工程により製品アルコールを生産するとともに、貯槽の底部に集中的に凝集沈殿する凝集性アルコール酵母(2回目以降のアルコール発酵の酒母であり、前記「酒母」と同様に、以下「酒母」という。)に所定調製被発酵液を添加し、再度アルコール発酵を行う工程を複数回繰り返すことが可能なアルコール製造方法(いわゆる、「繰返し回分発酵法」)及びそのアルコール製造装置(いわゆる「繰返し回分発酵装置」)であることに特徴を有する。
【0007】
即ち請求項1の発明は、凝集性を有するアルコール発酵酵母を用いたアルコール製造方法において、
アルコール発酵のために所定調整被発酵液を含む発酵貯槽に凝集性アルコール発酵酵母を増殖調整した液を添加してアルコール発酵を行った後、一定時間静置し、その後上澄液を回収して蒸留工程により製品アルコールを生産するとともに、当該発酵貯槽の底部に集中的に凝集沈殿する凝集性アルコール発酵酵母に所定調整被発酵液を添加し、再度アルコール発酵を行う工程を複数回(好適には、7回から15回までの複数回によりアルコール発酵が実施される。)繰り返すアルコール製造方法であることに特徴を有する。
【0008】
請求項2の発明は、アルコール発酵1回当りのアルコール発酵液が少なくとも10kL以上である請求項1のアルコール製造方法であることに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明は、アルコール発酵酵母が凝集性アルコール発酵酵母である請求項1及び/又は請求項2のアルコール製造方法であることに特徴を有する。
【0010】
請求項4の発明は、凝集性アルコール発酵酵母において、Johonston凝集性評価測定法の測定により凝集性の強さが4となる請求項3のアルコール製造方法であることに特徴を有する。
【0011】
請求項5の発明は、凝集性アルコール発酵酵母がサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P-12807)、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)又はサッカロミセス・セレビシエB18(受託番号 FERM AP-20356)のいずれかである請求項4のアルコール製造方法であることに特徴を有する。
【0012】
請求項6の発明は、凝集性を有するアルコール発酵酵母を用いたアルコール製造装置において、
アルコール発酵のために所定調整被発酵液を含む発酵貯槽に凝集性アルコール発酵酵母を増殖調整した液を添加してアルコール発酵を行った後、一定時間静置し、その後上澄液を回収して蒸留工程により製品アルコールを生産するとともに、当該発酵貯槽の底部に集中的に凝集沈殿する凝集性アルコール発酵酵母に所定調整被発酵液を添加し、再度アルコール発酵を行う工程を複数回繰り返すための、酒母槽、発酵貯槽、上澄液抜出手段、及び温度制御装置を備えたことに特徴を有する。
【0013】
請求項7の発明は、請求項6のアルコール製造装置の温度制御装置が、循環熱交換装置及び/又は外部冷却装置のいずれかであることに特徴を有する。
【0014】
請求項8の発明は、請求項6のアルコール製造装置の発酵貯槽の側断面形状において、発酵貯槽下部側面から下方軸方向に向う底板に相当する傾斜線の傾斜角度を、5度以上75度未満の範囲としたことに特徴を有する。
【0015】
まず、凝集性アルコール発酵酵母の選択において、凝集性アルコール発酵酵母を所定調整したものをいわゆるJohnston凝集性評価測定法(Johnston,J.R.and Reader,H.P.(1983)Yeast genetics. In Fundamental and Applied Aspects, Springer Verlag, New York, pp. 205-224)を用いて測定し、当該方法によりグレード4であった酵母、即ちサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P-12807)、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)、又はサッカロミセス・セレビシエB18(受託番号 FERM AP-20356)が本発明に係るアルコール製造方法及びアルコール製造装置で使用した場合に、省エネ化、安定・効率化に優れていることが明確となり、工業化レベルの装置においても当該酵母を使用した場合の発酵速度及び発酵収率において顕著な効果を実証するに至った。
【0016】
次に、前記のアルコール製造方法及びアルコール製造装置は、凝集性アルコール発酵酵母の使用の場合は非凝集性アルコール発酵酵母と異なり、発酵発熱が短時間に顕著に集中し、当該発酵発熱による液温上昇がアルコール発酵の阻害要因となるため、凝集性アルコール発酵酵母を添加したアルコール発酵液(「アルコール発酵液」とは、所定調製被発酵液が凝集性アルコール発酵酵母との接触によりアルコール発酵が開始されてから、アルコール発酵を終了するまでのものとする。以下同じ。)の一定温度管理を行うための温度制御方法及び温度制御装置を備えている。
【0017】
つまり、温度制御方法については、アルコール発酵の従来法で通常行われるいわゆる外部冷却方法(即ち、発酵貯槽外側の上部に設けた散水手段による散水により発酵貯槽外部を冷却し温度制御を行う方法であり、主に後述の循環熱交換方式が実施できない状況、つまり2回目以降のアルコール発酵で発酵貯槽底部に残存する酒母に所定調製被発酵液を導入していくと流体粘性も低下し、循環熱交換方式が利用可能となるが、その直前までは流体粘度も高いため外部冷却方法で実施する。)と、発酵発熱量が多い時間帯及びその他の時間帯(つまり、外部冷却方式を実施する以外の時間帯)に利用する循環熱交換方式(即ち、発酵貯槽の下部底面よりアルコール発酵液を抜き出し、熱交換装置(熱交換装置の熱交換器としてはスパイラル式熱交換器が好適。つまり、その構造上熱交換器の伝熱面に固形物の付着が少なく、効率的な熱交換が可能。)で冷却媒体と間接熱交換し、熱交換により冷却されたアルコール発酵液を発酵貯槽の上部側面より導入することにより、アルコール発酵液の温度制御を行う方法である。)を切替又は併用利用することにより、凝集性アルコール発酵特有の発酵発熱量の変化に対応した弾力的な温度制御方法を確立することが可能となる。
【0018】
この場合、外部冷却方式はその熱交換態様より一定量の熱交換を実施する場合としては効果的であるが、熱交換量の柔軟な調整には不向きであり、一方循環熱交換方式は熱交換量の柔軟な調整が熱交換面積の変更や冷却媒体の流量又は温度を調整(つまり、循環熱交換方式の冷却媒体流量を当該冷却媒体が流れる手段に設けた開閉弁を調整することにより、又は冷却媒体の温度を所定冷却手段で調整することにより、アルコール発酵液との熱交換量を調整することができる。)により可能となるため、繰返し回分発酵のような1回のアルコール発酵で経時的に発熱量が大幅に変動する場合の方式として極めて効果的であるとともに、一定温度でのアルコール発酵の環境条件が整うため、結果として発酵収率・発酵速度の向上が可能となる。
【0019】
更に、循環熱交換方式による場合は、冷却されたアルコール発酵液が発酵貯槽上部側面からの導入により、その流速により発酵貯槽内部を均一に攪拌することができる(必要に応じ、従来からの攪拌手段である発酵貯槽下部側面に備えた攪拌機により攪拌する装置も備える。)ため、凝集性アルコール発酵酵母とアルコール発酵液を効果的に接触させることが可能であり、また循環熱交換方式では熱交換のために循環するアルコール発酵液に所定の圧力変化が生じることによりフロックの形成を抑制でき、既に形成したフロックを分解することも可能で、発酵速度及び発酵収率において極めて効果的である。
【0020】
なお、外部冷却方式と循環熱交換方式は通常切替利用することとなるが、アルコール発酵熱が極めて多い場合には併用することによりアルコール発酵液温度を一定に保つことができる。
【0021】
以上のような温度制御方法を可能とする温度制御装置は、外部冷却装置として発酵貯槽外側の上部に散水手段を設けた構造、循環熱交換装置としては、発酵貯槽下部底面から熱交換器までのアルコール発酵液の抜き出しのための手段及びポンプ、抜き出したアルコール液の冷却のための熱交換器、冷却されたアルコール発酵液が発酵貯槽上部側面に戻る手段を設けた構造を有する。
【0022】
前記の温度制御方法及び温度制御装置以外に、アルコール製造方法又はアルコール製造装置は、複数回のアルコール発酵の各回の発酵終点を、側面下部グラスによるアルコール発酵酵母の沈降動向の目視確認(モニター装置を用いた遠隔目視確認も含む)、又は超音波界面レベル計によりアルコール発酵酵母の沈降動向を上澄み部分と沈降部分の境界である界面位置を測定することにより確認する方式のいずれか、及び前記二のいずれかの方式を行う装置を備えることにより、発酵終点識別の簡易化、及び繰返し回分発酵の大幅な自動化を図ることが可能となった。
【0023】
即ち、繰返し回分発酵法では、凝集性アルコール発酵酵母はアルコール発酵終了後重力作用で自然沈降することにより、アルコール発酵液の上澄液を次工程に導入するため抜き出すことが可能であり、発酵貯槽底部に残存する酒母を次回のアルコール発酵のために利用することとなる。
【0024】
この場合、発酵終点を前記二のいずれかの方式により確認することができ、超音波界面レベル計を含む自動化装置を利用した場合は、発酵終点を予め所定の界面位置の設定値にしておき、発酵終点後に界面位置まで抜き出し、その後に所定調整被発酵液を所定位置まで導入することが可能となる。
【0025】
超音波界面レベル計は、一般的には工場廃水等の沈降槽や下水処理場の濃縮槽の上澄液と沈降物の間の界面測定を行う技術としては一部利用されているが、アルコール製造においては、これまで利用された例はない。
【0026】
なお、超音波界面レベル計の原理は、一般的な超音波式液位計の原理を応用したもので、即ち超音波送受波器から出た超音波がアルコール発酵液面及び界面に反射して戻ってくまでに要した時間を計り、それによって当該液面又は界面の液位を確認する方法であり、液に非接触で測定でき、可動部がなくメンテナンスが比較的容易であり、更に測定データにより従来人為的確認作業を要した工程の自動化が可能となったことに利点がある。
【0027】
このような自動化装置は、発酵貯槽内の天部に常にアルコール発酵液とは非接触になるように設置した超音波界面レベル計、発酵貯槽の側面の発酵終点界面位置想定範囲(アルコール発酵液全体容量の15%から25%の容量に相当する側面位置を「発酵終点界面位置想定範囲」とする。)に複数のアルコール発酵液抜出口、前記複数抜出口は発酵終点後界面位置に相当する位置の抜出口を開放する抜出開閉弁を含む自動化装置、アルコール発酵液抜出後所定調整被発酵液を導入する手段、及び所定調整被発酵液を所定位置まで導入する導入開閉弁を含む自動化装置を備える構造である。
【0028】
なお、超音波界面レベル計の導入により、目視では実現できなかった、界面位置のトレンドをグラフ等により確認できることとなり、複数回の最後のアルコール発酵の終点、即ち新たな凝集性アルコール発酵酵母からなる酒母への切替えタイミング時期を確認することが可能となった。
【0029】
アルコール製造装置の発酵貯槽側断面形状においては、当初発酵貯槽側断面の底板に相当する線がほぼ水平である形状を予定していたが、循環熱交換装置で沈降するアルコール発酵酵母の回収が図れず、アルコール発酵液のみの循環となり、従ってアルコール発酵酵母が均一高密度でアルコール発酵液の中に存在しないこととなり、発酵収率を下げる大きな要因となっていた。
【0030】
このような状況を打開するため、発明者らは発酵貯槽側断面形状を鋭意検討し、発酵貯槽側断面の底板に相当する傾斜線の傾斜角度を一定角度以上にすることにより効率的にアルコール発酵酵母を回収できることが明確となった。
【0031】
つまり、前記一定角度以上の形状を有することにより、循環熱交換装置が有するポンプの吸引力の作用で傾斜線部分に沈降するアルコール発酵酵母を循環熱交換装置に効率的に回収し、当該アルコール発酵酵母を含むアルコール発酵液を発酵貯槽上部側面より所定流速により導入することが可能となり、結果的にアルコール発酵収率の向上に大きな役割を果たすこととなった。
【0032】
この場合、効率的な回収のために、前記一定角度は5度以上から75度未満のいずれかの角度を有することが必要になるが、好適には10度以上40度未満である。
【0033】
以上の温度制御方法及び温度制御装置、発酵終点確認方法、自動化装置、特有の発酵貯槽側断面形状により、繰り返し回分発酵の大幅な自動化を図ることが可能となった。
【0034】
なお、前記一定角度は厳密には底板に沈殿する凝集性アルコール発酵酵母の摩擦力、回収のためのポンプのポンプ吸収力の大きさ、当該吸収力の発酵貯槽内での伝わり方等の詳細な検討が理論的には可能と思われるが発明者らは試験研究レベルで十分な動態シミュレーションを行い、その結果として5度以上75度未満がアルコール発酵酵母を回収するために妥当な傾斜角度と決定するに至った。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、1の貯槽で複数回のアルコール発酵が工業化レベルで可能であるアルコール製造方法、及び当該アルコール製造方法を可能とする設備を有するアルコール製造装置を備えることにより、発酵速度・作業効率で従来の工業用エタノールのアルコール製造方法及びアルコール製造装置に比較し格段の優位性を有することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
アルコール製造方法の従来法としては高濃度仕込みが可能な添掛法が工業化レベルで利用されている。いわゆる回分式発酵法の変法である添掛法は、高い糖濃度の添えもろみを発酵中の本もろみに連続的に添加することにより、アルコール発酵により消費された糖分を補い、かつ代謝産物であるアルコールによる発酵阻害を低減してアルコール発酵酵母の活性を持続されるもので、回分式発酵法に比べ発酵収率が改善されている。
【0037】
しかし、従来法である添掛法は、通常1回のアルコール発酵については回分式発酵法と同様に4日から6日程度要し、発酵速度において優位性を有するとはいえなかった。
【0038】
そこで、発明者らはアルコール発酵酵母(好適には凝集性アルコール発酵酵母)を用いた工業化レベルでアルコール製造方法及びアルコール製造装置である本発明と添掛法を比較試験することにより、発酵収率・発酵速度・作業効率に優れた発明を実証するに至った。以下にその実施例で用いる本発明と添掛法の方法及び装置を比較記載する。
【0039】
本発明装置である繰返し回分発酵法及び従来法である添掛法の発酵法別アルコール製造工程をフロー図として図1に示す。
【0040】
図1の繰返し回分発酵法において、酒母は所定糖濃度に調整した液に予め培養した凝集性アルコール発酵酵母を添加させた後1日から2日経過したものであり、当該酒母を所定調整被発酵液(いわゆる「本もろみ」)に添加しアルコール発酵を行うこととなる。
【0041】
超音波界面レベル計による発酵終点確定後、界面位置に相当する側面抜出口よりアルコール発酵液の上澄液は抜出され次工程である蒸留工程に導入され、その後発酵貯槽底部に残留する酒母に新たに所定調整被発酵液を導入し次回のアルコール発酵が行われることとなり、この工程を複数回繰返すこととなる。なお、アルコール発酵1回あたりに要する時間は概ね22時間である。
【0042】
一方、添掛法は、酒母を所定調整被発酵液に添加し、当該酒母添加から概ね21時間後に高い糖濃度の添えもろみを発酵中のアルコール発酵液に連続的に添加しアルコール発酵を行うこととなるが、繰返し回分発酵法との大きな違いは、次回のアルコール発酵を行う場合には新たな酒母を必要とし、更にアルコール発酵1回あたりに要する時間が概ね120時間かかる点である。
【0043】
図1のフロー図の基本的考え方を設備図に展開したものが図2の発酵別製造設置図である。
【0044】
図2の繰返し回分発酵装置において、酒母用の調整液は糖含有液調整手段1により糖蜜と温水をミキシング等による混合又は別々に酒母槽2に導入し、全糖濃度15±1%になるように調整し、必要に応じ硫安を助成料として添加する。調整後の糖含有液を熱殺菌(好適には100℃で30分の熱殺菌)し、その後に33±1℃まで散水冷却手段3により冷却し、その後にアルコール発酵酵母(好ましくは、凝集性アルコール発酵酵母であり、凝集性アルコール発酵酵母は、サッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P−12807)、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)、サッカロミセス・セレビシエ B18株(受託番号 FERM AP-20356)、サッカロミセス・セレビシエ FSCU L18株(受託番号 FERM P−20055)から選択されるいずれかとする。)添加し、32±1℃で1日から2日程度経過したものを酒母として、発酵貯槽4内の所定調整被発酵液に添加することにする。
【0045】
所定調整被発酵液は、酒母と同様に糖含有液調整手段5により糖蜜と温水をミキシング等による混合又は別々に発酵貯槽4に導入、20±2%の全糖濃度に調整し、前記酒母を添加し30±1℃で22時間±2時間の発酵を行い、発酵終点は側面下部グラス6の目視確認又は超音波界面レベル計7(超音波界面レベル計は、界面位置測定精度向上のため発酵貯槽内天部に複数設置する構造でも可能。)による界面測定確認のいずれかにより行う。
【0046】
発酵貯槽の温度制御手段としては、散水冷却手段8又は循環熱交換手段9から構成され、発酵貯槽内部液面が低く液体粘度が高い状況においては散水冷却手段8を、その他の状況においては循環熱交換手段9を利用する。
【0047】
循環熱交換手段9は、発酵貯槽底部から熱交換器までのアルコール発酵液の抜き出し手段、当該抜き出しのためのポンプ、抜き出したアルコール発酵液の冷却のための熱交換器、冷却されたアルコール発酵液が発酵貯槽上部側面に戻る手段を設けた構造を有する。
【0048】
また、循環熱交換手段9の熱交換器に導入する冷却水の流量制御については、熱交換器の入口側(図示せず)又は出口側に開閉調整弁を設けるとともに、発酵貯槽側面のいずれかの位置で温度を測定し、その温度により前記開閉調整弁を制御することにより、アルコール発酵液温を30±1℃で22時間±2時間の一定条件の発酵を行うことが可能となる。なお、前記温度測定をアルコール発酵液全体容量の15%から25%の容量に相当する側面位置で測定した場合、上澄液の抜出後の状況においても内部液温の測定が可能となり、散水冷却手段8の上流側又は下流側(下流側は図示せず。)に設けた開閉調整弁の開閉を測定液温により制御することが可能となり、アルコール製造の全ての時間帯において温度制御が可能となる。
【0049】
次に、超音波界面レベル計7を含む自動化装置(自動化装置の機能としては、既設定界面位置に達した時点での抜出開放弁10の開放及び上澄液抜出後の抜出開放弁10の閉鎖、その後の糖含有調整手段5に介在する糖含有液供給開閉弁12の開放による本もろみの導入、更にその後に本もろみが所定位置まで導入された時点での糖含有液供給開閉弁12の閉鎖の一連の制御を実施する工程管理である。)は、発酵終点を予め所定の界面位置の設定値にしておき、測定界面位置(測定界面位置の測定箇所は一又は二以上の箇所)が当該設定値に達した時点後、当該設定値の界面位置に相当する抜出開閉弁10を開放し上澄液を界面位置まで抜き出し、その後に所定調製被発酵液を糖含有液調整手段5により所定位置まで導入することにより、繰返し回分発酵工程の自動化が可能となる。また、発酵槽からアルコール発酵後の上澄液を回収する手段として、上澄液抜出手段14が設けられているが、上澄液抜出手段14は、発酵槽側面から次工程の蒸留工程に上澄液を移送する配管と、抜出開閉弁10と、移送ポンプとから構成されている。
【0050】
超音波界面レベル計7を含む自動化装置は、発酵貯槽内の天部に常にアルコール発酵液とは非接触になるように設置した超音波界面レベル計7、発酵貯槽の側面の発酵終点界面位置想定範囲(アルコール発酵液全体容量の15%から25%の容量に相当する側面位置を発酵終点界面位置想定範囲とする。好適には20%。)に複数のアルコール発酵液抜出口、前記抜出口より次工程(一般的には蒸留工程)に導入するためのアルコール発酵液抜出配管、前記複数抜出口の発酵終点後界面位置に相当する位置の抜出口を開放する複数の抜出開閉弁10、アルコール発酵液抜出後所定調整被発酵液を導入する糖含有液調整手段5、所定調整被発酵液を所定液面まで導入するための液面測定手段11、及びその所定液面まで所定調整被発酵液を供給する糖含有液供給開閉弁12から構成されている。なお、液面測定手段11の機能は超音波界面レベル計7で代替することも可能であり、この場合は超音波界面レベル計は界面位置とアルコール発酵液面位置の両方を測定し、その測定値により10及び12の開閉弁を制御することとなる。
【0051】
次に図2の添掛法の発酵装置については、糖含有液調整手段1、酒母槽2、散水冷却手段3、糖含有液調整手段5、散水冷却手段8は繰返し回分発酵装置のものと構造的に同様であるが、アルコール発酵酵母は非凝集性のサッカロミセス・セレビシエ396−9−6V(受託番号
FERM P−12804)が好適であり、当該酵母を添加し、32±1℃で1日から2日程度経過したものを酒母として、発酵貯槽4内の所定調整被発酵液(いわゆる「本もろみ」)に添加することにする。
【0052】
所定調整被発酵液は全糖濃度17±1%に調整し、酒母添加21時間後に予め全糖濃度42±1%に添えもろみ貯槽13で調整した添えもろみを12±6時間かけて所定調整被発酵液に全量供給し、概ね酒母添加後約120時間を発酵終点とする。なお、発酵終了後に底部よりアルコール発酵液を抜出し次工程に送ることとなる。
【実施例1】
【0053】
図2の設備で、アルコール発酵液が100kL(繰返し回分発酵法においては酒母を含み、添掛法においては酒母及び添えもろみを含む、いずれの方法においても発酵終点において全量が100kL)になる条件で、同一の輸入ロット原料である糖蜜により繰返し回分発酵装置及び添掛法の発酵装置を使用し、発酵速度・発酵収率の比較試験を実施した。
【0054】
比較試験において、アルコール発酵の回数としては、繰返し回分発酵法については15回の繰返し回分アルコール発酵を、添掛法については15回の回分アルコール発酵をそれぞれ行った。
【0055】
また、繰返し回分発酵法で使用する酵母はサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P−12807)、添掛法で使用する酵母はサッカロミセス・セレビシエ396−9−6V(受託番号 FERM P−12804)をそれぞれ用いた。
【0056】
以上の条件により比較試験を行った結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【実施例2】
【0058】
図2の設備で、アルコール発酵液が210kL(繰返し回分発酵法においては酒母を含み、添掛法においては酒母及び添えもろみを含み、いずれの方法においても発酵終点において全量が210kL)になる条件で、同一の輸入ロット原料である糖蜜により繰返し回分発酵装置及び添掛法の発酵装置を使用し、発酵速度・発酵収率の比較試験を実施した。
【0059】
比較試験において、アルコール発酵の回数としては、繰返し回分発酵法については15回の繰返し回分アルコール発酵を、添掛法については15回の回分アルコール発酵をそれぞれ行った。
【0060】
また、繰返し回分発酵法で使用する酵母はサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P−12807)、添掛法で使用する酵母はサッカロミセス・セレビシエ396−9−6(受託番号
FERMP−12807)、以上の条件により比較試験を行った結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

以上の実施例1及び実施例2より、発酵速度は繰返し回分発酵法がいずれの場合も約5.5倍(120h/22h)の速度があり、発酵収率についてはいずれの場合も1%程度繰返し回分発酵法が下回る結果となった。
【0062】
この場合、繰返し回分発酵法が1%程度発酵収率が下回るものの、発酵速度が単純比較で約5.5倍であることより著しい生産性の向上、また本発明は温度制御方法及び温度制御装置、発酵終点確認方法、自動化装置、底板傾斜角度等を設けることにより大幅な製造運転管理の自動化による作業効率の向上を図ることが可能となり、工業化レベルでの本発明のアルコール製造方法及びアルコール製造装置が極めて優れていることが実証された。
【0063】
なお、発酵収率については、実施例の試験に従った極めて限定的な条件での結果であるため、今後条件設定を改良することにより、繰返し回分発酵法の更なる向上が可能と考えられる。
【0064】
一方作業効率の対比となる添掛法については、1回のアルコール発酵において酒母・本もろみ・添掛もろみの3種の糖蜜調整液を準備する必要性があり、かつ各回のアルコール発酵の終了ごとにタンク内の沈殿物の除去作業及び次回のアルコール発酵のために前記3種の糖蜜調整液を再度準備することとなり、作業工程はかなり複雑なものとなっている。
【0065】
次に、アルコール生成量により発酵速度比較を比較する場合は、アルコール発酵液の全糖濃度、繰返し回分発酵法の次回のアルコール発酵に使用する酒母残量を勘案し比較する必要性があり、実施例1の実績を基にして表3に当該比較の算出根拠を記載した。
【0066】
【表3】

【0067】
表3より、繰返し回分発酵法の120時間当たりのアルコール生成量は概ね以下の算出のとおりとなる。
【0068】
【数1】

【0069】
表3より、添掛法の120時間あたりのアルコール生成量は以下の算出のとおりとなる。
【0070】
【数2】

【0071】
この結果より、120時間あたりのアルコール生成量に基づく発酵速度比較においても、繰返し回分発酵法は添掛法の約3.8倍の発酵速度を有することとなるため、工業レベルで極めて高いアルコール生産性を有することが実証された。
【0072】
凝集性の強さを測定する方法については、以下のとおりである。即ち、酵母細胞を、モノー型試験管中の10mlのYPD液体培地において、30℃で2日間振とう培養した。培養後、試験管をVortex mixerを用いて室温で1分間懸濁してから放置し、凝集性を評価した。凝集性の強さは、Johnston凝集性評価測定法(Johnston,J.R.and Reader,H.P.(1983)Yeast genetics. In Fundamental and Applied Aspects, Springer Verlag, New York, pp. 205-224)を用いて、目視で0(非凝集)〜5(非常に強い凝集)までの6段階で評価した。なお、凝集性の強さのコントロールは、グレード3のS. cerevisiae ABXL-1D(FLO1-type strain)と、グレード4のS. cerevisiae ABXR-11B(FLO5-type strain)を用いた。測定結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4よりアルコール発酵酵母のうち凝集性を有する、サッカロミセス・セレビシエF−5、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)、サッカロミセス・セレビシエB18、サッカロミセス・セレビシエ FSCU-L18をそれぞれ用いた後述の10kLの予備試験において、アルコール発酵装置に係る攪拌動力や作業工程全体の安定性・効率性を比較すると凝集性の強さが「4」であるサッカロミセス・セレビシエF−5、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)及びサッカロミセス・セレビシエB18が選択され、更に両酵母の発酵収率を比較すると、サッカロミセス・セレビシエF−5が若干発酵収率において優れていることが判明した。そこで、サッカロミセス・セレビシエF−5を実施例1及び実施例2で用いることとなった。
【0075】
また、実施例1及び実施例2は、アルコール発酵液として、それぞれ100kL又は210kLであるため、実質的に工業化レベルとしては十分な実証であり、従って210kLを超えるアルコール発酵液量においても本発明を適用することが現実的に可能である。
【0076】
なお、実施例1の実施に先立ち、予めアルコール発酵液として10kLの予備試験を行い、アルコール製造方法及びアルコール製造装置の基礎となるデータを確認しており、当該データを具体的に実証にたものが実施例1及び実施例2となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、1の貯槽で複数回のアルコール発酵が工業化レベルで可能であるアルコール製造方法、及び当該アルコール製造方法を可能とする設備を有するアルコール製造装置を備えることにより、発酵速度・作業効率で従来のアルコール製造方法及びアルコール製造装置に比較し格段の優位性を有するとともに、従来のアルコール製造方法及びアルコール製造装置と同程度の発酵収率を有することとなるため、アルコール製造産業において広く適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】繰返し回分発酵法及び添掛法の発酵法別アルコール製造工程を示した説明図である。
【図2】繰返し回分発酵法及び添掛法の発酵法別アルコール製造設備を示した説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 糖含有液調整手段
2 酒母槽
3 散水冷却手段
4 発酵貯槽
5 糖含有液調整手段
6 側面下部グラス
7 超音波界面レベル計
8 散水冷却手段
9 循環熱交換手段
10 抜出開閉弁
11 液面測定手段
12 糖含有液供給開閉弁
13 添えもろみ貯槽
14 上澄液抜出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集性を有するアルコール発酵酵母を用いたアルコール製造方法において、
アルコール発酵のために所定調整被発酵液を含む発酵貯槽に凝集性アルコール発酵酵母を増殖調整した液を添加してアルコール発酵を行った後、一定時間静置し、その後上澄液を回収して蒸留工程により製品アルコールを生産するとともに、当該発酵貯槽の底部に集中的に凝集沈殿する凝集性アルコール発酵酵母に所定調整被発酵液を添加し、再度アルコール発酵を行う工程を複数回繰り返すことを特徴とするアルコール製造方法。
【請求項2】
アルコール発酵1回当りのアルコール発酵液が少なくとも10kL以上である請求項1のアルコール製造方法。
【請求項3】
アルコール発酵酵母が凝集性アルコール発酵酵母である請求項1及び/又は請求項2のアルコール製造方法。
【請求項4】
凝集性アルコール発酵酵母において、Johonston凝集性評価測定法の測定により凝集性の強さが4となる請求項3のアルコール製造方法。
【請求項5】
凝集性アルコール発酵酵母がサッカロミセス・セレビシエF−5(受託番号 FERM P-12807)、サッカロミセス・セレビシエF−28(受託番号 FERM P-12808)又はサッカロミセス・セレビシエB18(受託番号 FERM AP-20356)のいずれかである請求項4のアルコール製造方法。
【請求項6】
凝集性を有するアルコール発酵酵母を用いたアルコール製造装置において、
アルコール発酵のために所定調整被発酵液を含む発酵貯槽に凝集性アルコール発酵酵母を増殖調整した液を添加してアルコール発酵を行った後、一定時間静置し、その後上澄液を回収して蒸留工程により製品アルコールを生産するとともに、当該発酵貯槽の底部に集中的に凝集沈殿する凝集性アルコール発酵酵母に所定調整被発酵液を添加し、再度アルコール発酵を行う工程を複数回繰り返すための、酒母槽、発酵貯槽、上澄液抜出手段、及び温度制御装置を備えたことを特徴とするアルコール製造装置。
【請求項7】
アルコール製造装置の温度制御装置が、循環熱交換装置及び/又は外部冷却装置のいずれかであることを特徴とする請求項6のアルコール製造装置。
【請求項8】
アルコール製造装置の発酵貯槽の側断面形状において、発酵貯槽下部側面から下方軸方向に向う底板に相当する傾斜線の傾斜角度を、5度以上75度未満の範囲としたことを特徴とする請求項6のアルコール製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−124902(P2007−124902A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317848(P2005−317848)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(506148822)日本アルコール産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】