説明

アルツハイマー病の診断スクリーニング

【課題】アルツハイマー病の病変の初期に起こる細胞変化の存在についてのスクリーニングに基づく、アルツハイマー病の診断スクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ヒト被験体ゲノムの細胞周期調節遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む方法からなる。細胞周期調節遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在がアルツハイマー病のしるしであると解釈される方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルツハイマー病の診断スクリーニングに関し、特にアルツハイマー病の病変の初期に起こる細胞変化の存在についてのスクリーニングに基づく診断試験に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
平均寿命が増すにつれて、西欧社会ではアルツハイマー病(AD)が大きな健康問題になりつつある。この疾患の信頼できる治療法または予防策を見いだすために集中的な研究が行われてきたが、現在までのところ成功には至っていない。
【0003】
治療薬の設計および試験における最大の課題の一つは、意味のある介入が可能なほど早期にAD罹患者を同定することが可能な信頼できる臨床診断基準がないことである。現在利用できる臨床診断手段では、重度の痴呆をきたした患者でなければ、アルツハイマー病の正確で信頼できる診断を行うことができない。さらにまた、現在利用できる臨床診断手段では、予防的介入によって利益を受けうる症状発現前のアルツハイマー病を持つ被験者を同定することはできない。
【0004】
もっともよく使用されている臨床診断基準は、元々は研究目的で設計されたNINCDS/ADRDA基準(McKhann, G.ら(1984)Neurology 34:939−944)である。これらの基準は感度が高いものの特異性は低い。これは、アルツハイマー病の「可能性大」("probable" Alzheimer's disease)または「可能性あり」("possible" Alzheimer's disease)という診断の陽性適中率は極めて高いが、陰性適中率は極めて低いという事実によっている(13)。言い換えると、ある患者がアルツハイマー病に関するNINCDS/ADRDA基準の要件を満たす場合、その患者が実際にアルツハイマー病にかかっている可能性は高い。しかし、これらの基準を満たさない患者(例えば対照とみなされる患者)の一部は、剖検時にアルツハイマー病であることが判明する(13)。
【0005】
特異性が低いため、NINCDS/ADRDA基準は臨床診断目的には理想的でない。さらに、NINCDS/ADRDA基準は、有意な痴呆を発症する前に使用すれば有効である可能性が最も高いだろう予防的または治療的療法を調べる臨床試験の診断基準としても適切ではない。したがって、アルツハイマー病に関する信頼できる診断試験、特に、予防的介入によって利益を受けうる症状発現前のアルツハイマー病を持つ被験者の早期検出に利用することができる試験は、現在も必要とされている。
【0006】
アルツハイマー病の病理学的根拠がさまざまな神経細胞様集団の細胞分裂周期への異常な再進入であることは、近年ますます広く受け入れられつつある(14)。健康な高齢者では、この細胞周期再進入に続いて、迅速な細胞周期停止と再分化が起こりうる。これに対して、アルツハイマー病を持つ患者では調節機構が機能しないらしく、神経細胞が細胞周期の後期に進行して、AD関連病変の蓄積および/または神経細胞死をもたらす(14)。
【0007】
本発明者らの研究および他のグループによる研究によって、アルツハイマー病における細胞周期調節不全はG1/S移行チェックポイントで起こることが示されている(3)。アルツハイマー病患者から採取された線維芽細胞およびリンパ球に関する先の研究により、この状態では、神経細胞以外の細胞でも、細胞分裂周期の調節が乱されている可能性が示されている(8,9,17)。アルツハイマー病患者が、いくつかの形態の癌にかかりやすいこと(4)、および成人期初期にADを発症するダウン症候群患者が一般集団よりも白血病にかかりやすいこと(7,10)も知られている。したがって、神経細胞における細胞周期調節不全は、ADの初期(症状発現前)段階でさえ、リンパ球における同様の細胞周期調節機能不全に反映されているという仮説は、妥当であると思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Araga S, Kagimoto H, Funamoto KおよびTakahashi K(1990)Jpn J Med 29:572−5
【非特許文献2】Arendt T, Holzer MおよびGartner U(1998)J Neural Transm 105:949−60
【非特許文献3】Arendt T, Rodel L, Gartner UおよびHolzer M(1996)Neuroreport 7:3047−9
【非特許文献4】Burke WJ, McLaughlin JR, Chung HD, Gillespie KN, Grossberg GT, Luque FAおよびZimmerman J(1994)Alzheimer Dis Assoc Disord 8:22−8
【非特許文献5】Darzynkiewicz Z(1993)Fantes PおよびBrooks R編「The cell cycle」(オックスフォード大学印刷局, オックスフォード)の43〜68頁
【非特許文献6】Davies KJ(1999)IUBMB Life 48:41−7
【非特許文献7】Drabkin HAおよびErickson P(1995)Prog Clin Biol Res 393:169−76
【非特許文献8】Eckert A, Hartmann H, Forstl HおよびMuller WE(1994)Life Sci 55:2019−29
【非特許文献9】Fischman HK, Reisberg B, Albu P, Ferris SHおよびRainer JD(1984)Biol Psychiatry 19:319−27
【非特許文献10】Fong CTおよびBrodeur GM(1987)Cancer Genet Cytogenet 28:55−76
【非特許文献11】Mecocci P, Polidori MC, Ingegni T, Cherubini A, Chionne F, Cecchetti RおよびSenin U(1998)Neurology 51:1014−1017
【非特許文献12】Melaragno MI, Smith MdA, Kormann Bortolotto MHおよびToniolo Neto JT(1991)Gerontology 37:293−8
【非特許文献13】Nagy Z, Esiri MM, Hindley NJ, Joachim C, Morris JH, King EM−F, McDonald B, Litchfield S, Barnetson L, Jobst KAおよびSmith AD(1998)Dementia 9:219−226
【非特許文献14】Nagy Z, Esiri MMおよびSmith AD(1998)Neuroscience 84:731−739
【非特許文献15】Payao SL, Smith MDおよびBertolucci PH(1998)Gerontology 44:267−71
【非特許文献16】Sherr CJ(1994)Stem Cells 12:47−55;discussion 55−7
【非特許文献17】Tatebayashi Y, Takeda M, Kashiwagi Y, Okochi M, Kurumadani T, Sekiyama A, Kanayama G, Hariguchi SおよびNishimura T(1995)Dementia 6:9−16
【非特許文献18】Trieb K, Ransmayr G, Sgonc R, Lassmann HおよびGrubeck Loebenstein B(1996)Neurobiol Aging 17:541−7
【非特許文献19】Wagner EF, Hleb M, Hanna NおよびSharma S(1998)J Immunol 161:1123−31
【発明の概要】
【0009】
ここに本発明者らは、G1阻害剤処理に対するリンパ球のインビトロ応答性が、アルツハイマー病患者では対照被験者よりも、有意に有効性が低いことを明らかにした。さらに、初期アルツハイマー病の臨床徴候を示す被験者では、リンパ球応答が、アルツハイマー病患者に見られるものと似ている。これらの発見は、G1/S移行制御の不全がアルツハイマー病患者における神経細胞に限定されず、リンパ球などの末梢細胞でも起こるという仮説を裏付ける直接的な証拠になる。
【0010】
G1/S移行での調節欠損が末梢細胞でも起こるという知見は、アルツハイマー病の診断に役立つ新しい診断試験であって、リンパ球培養物などの非神経細胞におけるG1/S移行チェックポイントの活性化を惹起することに依拠する診断試験の根拠となる。神経細胞における細胞周期調節不全は、アルツハイマー病の発病における極めて初期の事象であると思われるので、このような試験は、痴呆に関するNINCDS/ADRDA基準の要件は満たさないがアルツハイマー病の予防策による早期介入によって利益を受けるであろうアルツハイマー病の症状発現前の段階にある被験者の同定に役立つだろうと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】対照被験者、preAD被験者およびAD患者由来の培養リンパ球に関してフローサイトメーターに表示された測定結果を表す図。ラパマイシン処理細胞と対照無処理細胞との両方について結果を示す。G1は、細胞が細胞周期のG1期にあることを示す。
【図2】preAD、AD、ADM、possAD、DNOSおよび対照被験者由来の培養リンパ球においてラパマイシンの影響下で起こる細胞周期のG1期の相対的延長(左図)および年齢補正した相対的延長(右図)を表す図。
【図3】preAD、AD、possADM、DNOSおよび対照被験者由来の培養リンパ球において24時間のラパマイシン処理が細胞の生存に及ぼす効果を表す図。左図には絶対値を示し、右図には年齢補正値を示す。
【図4】preAD、AD、possADM、DNOSよび対照被験者由来の培養リンパ球においてドキソルビシン処理が細胞の生存に及ぼす効果を表す図。左図には絶対値を示し、右図には年齢補正値を示す。
【図5】preAD、AD、possADM、DNOSよび対照被験者由来の培養リンパ球においてH処理が細胞の生存に及ぼす効果を表す図。左図には絶対値を示し、右図には年齢補正値を示す。
【図6】p21のエクソン2およびp57のエクソン2における多型に関するPCR−SSCPスクリーニングの結果を表す図。
【図7】p21変異体AおよびBと脳におけるサイクリンB発現との関係を表す図。白い棒は神経細胞内でサイクリンBが発現しなかった患者のパーセンテージを示す。黒い棒はサイクリンBが神経細胞の核で発現した患者のパーセンテージを示す。
【図8】正常なp21(変異体B)を持つ患者におけるp57エクソン2A変異体AおよびBと脳でのサイクリン発現との関係を表す図。白い棒は神経細胞内でサイクリンBが発現しなかった患者のパーセンテージを示す。黒い棒はサイクリンBが神経細胞の核で発現した患者のパーセンテージを示す。
【図9】脳における体細胞突然変異の頻度とAD進行および細胞周期タンパク質との関係を表す図。x軸:AD重症度のBraak病期。y軸:脳と比較して、血液から異なるRAPDパターンを生成したプライマーのパーセンテージ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の説明)
本発明の第1の態様によれば、ヒト被験体におけるアルツハイマー病の診断方法であって、そのヒト被験体の非神経細胞におけるG1/S期移行での細胞周期調節欠損の存在に関するスクリーニングを含む方法が提供される。
【0013】
本発明の方法は、最も好ましくは、試験対象であるヒト被験体から単離された非神経細胞に対してインビトロで行われる。非神経細胞は、アルツハイマー病で神経細胞に存在するものと同じG1/S期移行での細胞周期調節欠損を示す非神経細胞タイプであれば、どれでもよい。最も好ましい実施形態として、本方法は、被験者から単離されインビトロで培養されたリンパ球に対して行われる。非神経細胞タイプで細胞周期調節欠損の存在に関する試験を行いうることには、明白な実用上の利点がある。リンパ球は血液試料から容易に単離され、インビトロで培養することができるので、リンパ球の使用は特に便利である。もう一つの好ましい選択肢は、線維芽細胞の使用、特に皮膚生検材料から便利に入手しうる皮膚線維芽細胞の使用である。
【0014】
本発明の方法を診断的に使用する場合は、非神経細胞タイプにおけるG1/S期移行での細胞周期調節の欠損の存在を、その被験者がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈する。典型的には、G1/S移行でのチェックポイント制御の有効性の低下を、その被験者がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈する。
【0015】
アルツハイマー病の病理の根底にある欠損に関して信頼できる試験を利用できるようになれば、この状態を診断する能力が著しく改善され、特に早期診断が可能になるだろう。アルツハイマー病に関して現在利用できる操作的診断基準では、痴呆が既に存在する極めて後期になってからしか、ADの可能性ありまたは可能性大という診断を下すことができない。アルツハイマー病の確定診断は剖検後にしか下すことができない。十分に発達した痴呆の徴候が現れるかなり前に、細胞周期制御の欠損を、リンパ球などの末梢(非神経細胞様)細胞に検出できることは、本発明者らの研究から明らかである。したがって、本発明の方法は、アルツハイマー病の早期診断、特にアルツハイマー病の症状発現前の段階にある個体の検出を行う手段、およびアルツハイマー病そのものはまだ発症していないが、細胞周期調節欠損が存在するのでアルツハイマー病を発症する「恐れ」がある個体の同定を行う手段になる。これにより、例えば生活様式の変更ならびにビタミン養生法および閉経後婦人のHRTなどを含む予防策による早期介入の可能性がもたらされる。
【0016】
アルツハイマー病そのものはまだ発症していない個体における初期変化を検出することが可能な診断手段を利用できるようになれば、重大な脳病変が発症する前の時点でこの疾患の進行を停止させるための治療法の開発および試験も容易になるだろう。これらの診断試験は初期アルツハイマー病の動物モデルの開発、例えばアルツハイマー病に存在する欠損と類似する欠損を細胞周期調節に示すマウスモデルの同定などにも応用することができる。
【0017】
G1/S移行に細胞周期調節欠損を持つ個体を同定する能力は、臨床試験に含める個体の選択に応用することができる。試験に含める個体を、試験対象である処置によって利益を受ける可能性が最も高い個体となるように選択すれば、臨床試験は意味のある結果をもたらす可能性が増す。
【0018】
初期(incipient)または末期(full−blown)アルツハイマー病を患っている患者から採取したリンパ球におけるG1/S調節欠損の同定は、その患者における免疫問題の存在、または疾患が進行するにつれてその患者が免疫問題を持つようになる可能性を示しうる。そのような情報を利用できることは、臨床家が、アルツハイマー病に合併する免疫問題を軽減/予防するために治療的介入を行うかどうかを決定する際の助けになる。
【0019】
本発明の方法は散発性アルツハイマー病の診断には特に好ましい。しかし、等価な細胞周期調節欠損を示す形態の家族性アルツハイマー病の診断にも役立つだろう。一般的に、これには、プレセニリン1またはプレセニリン2突然変異に関係する家族性アルツハイマー病は含まれないだろう。
【0020】
本発明に従って非神経細胞におけるG1/S期移行での細胞周期調節欠損の存在に関してスクリーニングする方法はいくつかある。一実施形態として、細胞周期調節欠損の存在に関するスクリーニングは、まず細胞の分裂を誘導し、次に細胞分裂阻害物質の添加によって細胞周期停止を惹起し、細胞分裂阻害物質の添加に対する細胞のG1/S細胞周期調節機構の応答性を試験することによって達成することができる。
【0021】
最も好ましくは、細胞分裂阻害物質は、特異的G1阻害剤、例えばラパマイシンなどであるだろう。細胞分裂は、細胞分裂促進性刺激の添加、例えば1つまたは複数の成長因子の添加によって誘導することができる。リンパ球を使って試験を行う場合は、フィトヘマグルチニンを使って細胞分裂を誘導することができる。
【0022】
関連する別の実施形態として、細胞分裂阻害物質による処理を、G1での細胞周期停止を惹起する刺激、例えば環境刺激による処理で置き換えてもよい。したがって、G1/S調節欠損の存在に関するスクリーニングは、細胞の分裂を誘導すること、G1での細胞周期停止を誘導する刺激に細胞をばく露すること、および細胞周期停止を惹起する刺激の添加に対する細胞のG1/S細胞周期調節機構の応答性を試験することによって達成される。
【0023】
好適な細胞周期停止の刺激には、例えば電離放射線、低酸素、UV線などがある。好ましい一実施形態として、細胞をHで処理して酸化ストレスを生じさせることによって、細胞周期停止を誘導することができる。上述のように、細胞分裂は細胞分裂促進性刺激の添加、例えば1つまたは複数の成長因子の添加によって誘導することができる。培養リンパ球ではフィトヘマグルチニンを使って細胞分裂を誘導することができる。
【0024】
これらの両方法を支えている原理は、まず細胞を刺激して分裂させ、次に、細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を惹起する他の刺激を使って細胞周期をG1段階で停止させようと試み、次に、細胞周期調節系に対するそのような処理の効果を評価することである。細胞周期調節に対する効果は、後述するように多種多様な手段によって評価することができる。細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する他の刺激による処理を、ここでは、「細胞周期阻害処理」または「阻害処理」と呼ぶ場合がある。もしG1/S移行に細胞周期調節欠損が存在すれば、それは、細胞周期停止の試みに対する細胞の応答性に影響を及ぼすだろう。一般に、G1/Sに細胞周期調節欠損が存在すると、細胞分裂阻害剤またはG1での細胞周期停止を誘導する他の刺激による処理に対する応答性が低下する。すなわち、阻害処理は、そのような欠損を持つ細胞では、G1/Sチェックポイントで細胞周期を停止させる効果が低い。
【0025】
細胞周期阻害処理に対する細胞の応答性を試験するために、細胞分裂促進性刺激の添加前および添加後ならびに細胞周期を停止させる試みの前および後に、さまざまなアプローチを実行することができる。本発明に従って使用することができる好ましいアプローチの非網羅的リストを以下に記載する。他の好適なアプローチは当業者にはわかるだろう。
【0026】
(1)阻害処理の結果として細胞周期停止が起こったかどうか、そしてどの程度に起こったかを評価するために行われる増殖アッセイ。増殖アッセイは、当技術分野で知られるどの標準的プロトコールに従って行ってもよい。特に好適な一例はMTT生存率アッセイである(Chemicon International Ltdから市販されている、Mosmann, T., J. Immunol. Methods, 1983, vol:65, 55−63を参照されたい)。
【0027】
典型的なスクリーンでは、細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する他の刺激で処理した細胞と、同じ被験者から採取した無処理の対照細胞との両方に対して、増殖アッセイを行う。阻害処理は無傷のG1/S調節系が存在する場合にのみ有効になるので、処理細胞と無処理細胞の間の増殖の程度の相違は、アルツハイマー病患者の方が年齢対応対照個体より有意に小さい。一般に、阻害処理の存在下で、被験者から得た細胞の増殖活性にほとんど変化がないか全く変化がなければ、それは、G1期における細胞周期阻害に対する応答性の低下を示し、したがってG1/S移行での調節欠損の存在を示す。結果として、そのような調節欠損の存在は、その被験者がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈される。
【0028】
(2)細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する刺激へのばく露の結果として被験者から得た細胞で起こる細胞周期のG1期の相対的延長を算出すること。細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する刺激へのばく露の結果として起こるG1期の相対的延長は、式:RL=100f−100を使って算出される(百分率として表される)。「f」は、細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する刺激による阻害処理にさらした細胞(試験対象である被験者から得た非神経細胞)がG1にある時間(TG1tr)と、阻害処理にばく露していない無処理対照細胞(すなわち、やはり試験対象である被験者から得た非神経細胞)がG1にある時間(TG1)との比である。fは次の関係式に従って算出することができる:
f=TG1tr/TG1=[ln2−ln(2−G1tr)][ln(2−G1)]/[ln(2−G1tr)][ln2−ln(2−G1)] (5)。
【0029】
TG1trおよびTG1の値を得るには、さまざまな技術を使用することができる。好ましい一実施形態として、処理細胞(細胞分裂阻害物質または細胞周期停止を誘導する刺激で処理した、試験被験者由来の非神経細胞)と無処理対照細胞(細胞分裂阻害物質または細胞周期停止を誘導する刺激にばく露していない、同じ被験者に由来する非神経細胞)の両方について、細胞周期のさまざまな時期にある細胞の割合を決定することによって、TG1trおよびTG1を得ることができる。細胞周期のさまざまな時期にある細胞の割合は、下記の実施例で説明するように、標識ヌクレオチド類似体、好ましくはブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みと、それに続く蛍光標示式細胞分別法(FACS解析)または相当する方法によって、容易に決定することができる。
【0030】
G1/S期移行での細胞周期調節欠損の存在は、試験被験者から得た細胞において、細胞分裂阻害物質または刺激の存在下で起こるG1期の相対的延長が、G1/S期移行に細胞周期調節欠損を持たない対照細胞(適切な対照細胞のさらなる定義については(1)の説明を参照されたい)と比較して減少することによって示される。G1/S期移行に細胞周期調節欠損を持たない対照細胞を、RLの算出に用いる「無処理対照」細胞(これは、阻害処理にばく露されていない、試験被験者由来の細胞である)と混同してはならない。
【0031】
(3)細胞周期調節タンパク質またはmRNA発現の評価。細胞周期調節タンパク質の発現は、例えば免疫ブロット法、ウェスタンブロット法、ELISAまたはその関連方法などの当技術分野で周知の標準的技術を使って評価することができる。細胞周期調節タンパク質をコードする対応するmRNAの発現の評価も、例えばハイブリダイゼーション技術、「DNAチップ」解析もしくはその関連方法、またはRT−PCRもしくはNASBA(nucelic acid sequence−based amplification)などの増幅に基づく技術などといった、標準的方法を使って達成することができる。本発明に従って使用することができる好適なmRNAの検出/定量法は、当業者にはよく知られているだろう。これらの方法の一部、例えばRT−PCRは、関連mRNAのcDNAコピーの検出/定量に依拠する。
【0032】
アルツハイマー病に存在する細胞周期調節欠損は、細胞周期調節タンパク質およびそれらに対応するmRNAの発現パターンの変化をもたらしうる。したがって、特定の細胞周期調節タンパク質および/または対応するmRNAの発現の変化に関するスクリーニングは、G1/Sでの細胞周期調節欠損の存在を確認するために、診断的に使用することができる。また、細胞周期調節タンパク質の発現は、細胞周期に沿った進行のマーカーとして使用することもできる。したがって、試験被験者から得た細胞において阻害処理がどの程度に細胞周期停止を引き起こすかを決定するために、1つまたは複数の細胞周期調節タンパク質の発現を調べることによって、阻害処理に対する細胞の応答性を評価することができる。好適な細胞周期調節タンパク質には、CDKN3、p15ink4B、p16ink4A、p19ink4D、p27kip1、p21cip1、p57kip2およびTP53などがある。これらのタンパク質およびそれらをコードする遺伝子の配列は公開されている。これらのタンパク質に関するOMIMアクセッション番号のリストを下記の実施例に記載する。これら各タンパク質の検出に役立つ抗体は市販されている。
【0033】
(4)当技術分野で知られる任意の方法による細胞生存性および細胞死の評価。増殖細胞をG1/S移行中に停止させると、考え得る2つの「下流」現象の一方、すなわち分化またはプログラム細胞死が起こりうる。これらの下流現象は、G1/S移行での調節欠損が細胞集団中に存在することのしるしとして使用することができる。なぜなら、G1/S移行の調節に欠損があれば、G1/Sでの細胞周期停止の下流効果も異常になるからである。対照細胞と比較して、試験被験者から得た細胞で阻害処理に応答して起こる細胞死の程度の低下または細胞生存性の程度の上昇は、その被験者がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈される。
【0034】
(5)標準的技術による細胞死関連(誘導もしくは防止)タンパク質またはmRNA発現の評価。この実施形態では、細胞死関連タンパク質またはそれに対応するmRNAの発現を、細胞分裂阻害剤またはG1/S移行での細胞周期停止を誘導する他の刺激による処理の下流効果の間接的評価として使用する。好適な細胞死関連タンパク質として、当技術分野で数多く知られているbcl−2タンパク質ファミリーの構成要素が挙げられる。
【0035】
(6)標準的技術によるDNA損傷応答要素タンパク質またはそれに対応するmRNAの発現の評価。このアプローチは、G1/Sでの細胞周期停止を誘導するために使用する刺激がDNA損傷である場合、例えばDNA損傷を引き起こす化学物質による処理またはUV線へのばく露などである場合に、使用することができる。正常な環境では、DNA損傷
の存在は細胞をG1/S期移行で停止させ、損傷したDNAをDNA損傷応答経路の活性化によって修復しようとする。したがって、損傷したDNAの存在に応答して起こるDNA損傷に対する正常な応答に関与するタンパク質またはそれに対応するmRNAの発現パターンの変化は、G1/S期移行に細胞周期調節欠損が存在するしるしとして使用することができる。好適なDNA損傷応答要素には、例えばTP53、Gadd34、Gadd45A(126335)、Gadd45B(604948)、Gadd45G(604949)、Gadd153(126337)およびPCNA(176740)などがある。これらDNA損傷応答要素に関するOMIMアクセッション番号のリストは下に記載する。
【0036】
(7)細胞周期解析を伴う、または細胞周期解析を伴わない、非神経細胞のDNA含量の評価。この実施形態では、細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する他の刺激で処理した試験被験者由来の細胞のDNA含量の測定が、そのような細胞におけるG1/S移行での調節欠損の存在の間接的なしるしになる。この方法を支える原理は、G1期にある細胞と、細胞周期のDNA複製段階を通過し終えたG2期にある細胞との間のDNA含量の相違である。正常細胞(すなわちG1/Sに調節欠損を持たない細胞)の集団を処理してG1またはG1/Sでの細胞周期停止を誘導すると、細胞の大半はG1期にとどまるだろう。しかし、細胞がG1/Sに調節欠損を持つ場合は、細胞の一部がG1/Sチェックポイントを通過して、DNA複製を起こすだろう。したがって、G1での細胞周期停止を誘導するための処理後に、G1/Sに調節欠損を持たない対照細胞と比較して、試験被験者から得た細胞中のDNA含量が増加すれば、それは、G1/Sに調節欠損が存在するしるしであると解釈される。結果として、そのような調節欠損の存在は、その被験者がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈される。
【0037】
細胞分裂阻害剤または細胞周期停止を誘導する刺激による阻害処理に対する非神経細胞(特に培養リンパ球)の応答性を試験するのに適した技術の上記リストは、本発明の例示を意図するものであって、本発明を限定するものではない。
【0038】
第2の態様として、本発明は、ヒト被験体におけるアルツハイマー病の診断に使用される方法であって、前記被験者のゲノムにおける、細胞周期調節遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関するスクリーニングを含み、細胞周期調節遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在をアルツハイマー病のしるしであると解釈する方法を提供する。
【0039】
最も好ましくは、本発明の方法では、CDKN3、p15ink4B、p16ink4A、p19ink4D、p27kip1、p21cip1、p57kip2およびTP53からなる群より選択される細胞周期調節遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関するスクリーニングが行われるだろう。
【0040】
アルツハイマー病に関係することが示されている特定の突然変異/変異体の存在に関するスクリーニングも考えられるが、本発明の方法は、特定の突然変異または遺伝的変異体の存在に関するスクリーニングには限定されない。本発明は、細胞周期調節遺伝子またはその小領域を、今までに知られていない突然変異/変異体を含む突然変異または遺伝的変異体の存在に関してスキャンすることを包含する。疑念が生じないように述べると、「遺伝子」という用語は、調節領域、特にプロモーター領域を包含する。細胞周期調節遺伝子における1つまたは複数の突然変異または遺伝的変異体、特にその遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列の変化をもたらす突然変異/変異体、またはコードされているタンパク質の機能を変化させる突然変異/変異体、またはそのタンパク質の発現レベルを変化させる突然変異/変異体の存在は、そのような突然変異または変異体の存在が細胞周期調節欠損のしるしであることに基づいて、その個体がアルツハイマー病を持つことのしるしであると解釈される。
【0041】
与えられたヒト被験体の細胞周期調節遺伝子を突然変異/対立遺伝子変異体の存在に関してスキャンするために、本発明に従って使用することができる、遺伝的変異を検出するための技術は、当技術分野では数多く知られている。好適な技術には、例えば一本鎖高次構造多型解析(SSCP)、PCR−SSCPヘテロ二本鎖解析(HA)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、DNA配列決定、RNアーゼ切断、ミスマッチの化学的切断(CCM)などがある(SchaferおよびHawkinsによる総説Nature Biotechnology, Vol:16, p.33−39, 1998を参照されたい)。
【0042】
下記実施例2では、PCR−SSCPを使ったp21cipおよびp57遺伝子における多型変異体に関するスクリーニングと、それによるp21cip遺伝子のエクソン2における1つの多型変異体およびp57遺伝子のエクソン2における2つの多型変異体の同定について説明する。他の遺伝子における多型変異体に関するスクリーニングには、適当な変更を加えて、すなわち目的とする遺伝子に特異的なPCRプライマーを選択して、同じ技術的アプローチを使用することができる。
【0043】
突然変異/対立遺伝子変異体の存在に関するスクリーニングは、ヒト被験体から単離したゲノムDNAの試料に対して行われる。ゲノムDNAは、当技術分野で周知の標準的技術を使って、全血試料から便利に単離することができる。突然変異/対立遺伝子変異体の存在に関してスキャンする工程は、被験者に由来する培養リンパ球から調製したゲノムDNAに対して、有利に行うことができる。同じリンパ球培養物を、G1/S期移行での細胞周期調節欠損の存在に関して、例えば本発明の第1に態様による方法を使って阻害処理に対する応答性を試験することなどにより、「機能的に」試験することもできる。
【0044】
与えられた多型変異体とアルツハイマー病への罹患性との関連は、遺伝的関連研究、例えば家族関連研究または患者対照関連研究などを行うことによって確認することができる。特定の多型変異体の疾患関連性は、遺伝子型と、脳における細胞周期進行のマーカーの発現との関係を評価することによって決定することもできる。下記の実施例では、遺伝子型と、神経細胞の核におけるサイクリンB(細胞周期のG2段階への進行のマーカー)の発現との関係を評価した。細胞周期進行の他のマーカーを使っても、同じ効果が得られた。
【0045】
具体的一実施形態として、本方法は、下記実施例に記載するp21およびp57遺伝子中の多型変異体の一つに関する遺伝子タイピングを含みうる。p21E2対立遺伝子AおよびB、p57E2A対立遺伝子AおよびB、ならびにP57E2B対立遺伝子AおよびBと表記されるこれらの変異体は、下記実施例に詳述する条件で以下のプライマーセットを使用することにより、PCR−SSCP解析に基づいて遺伝子タイピングすることができる。
p21E2 A/B:5'−CGGGATCCGGCGCCATGTCAGAACCGGC−3'(配列番号1)および5'−CCAGACAGGTCAGCCCTTGG−3'(配列番号2)
P57E2A A/B:5'−GGC CAT GTC CGA CGC GTC−3'(配列番号3)および5'−AGG CGG CAG CGC CCC ACC TG−3'(配列番号4)
p57E2B A/B:5'−ATT ACG ACT TCC AGC AGG ACA TG−3'(配列番号5)および5'−CTG GAG CCA GGA CCG GGA CTG−3'(配列番号6)。
【0046】
いずれの場合も、AおよびB対立遺伝子は、実施例2に定義する条件下で、結果として得られるPCR産物の示差的な電気泳動移動度に基づいて、図6を参照して同定することができる。ただし、本発明をPCR−SSCPの使用に限定するつもりはなく、他の方法を使って同じ変異体を遺伝子タイピングしてもよい。
【0047】
p21E2 A対立遺伝子およびp57E2A A対立遺伝子は、どちらも、G1/Sチェックポイント越しの進行の増加と関連しており、したがってアルツハイマー病への罹患性と関連している。
【0048】
細胞周期調節遺伝子をコードする遺伝子における突然変異または対立遺伝子変異体の存在の検出に基づくスクリーンは、2つ以上の多型変異体に関する遺伝子タイピング、または遺伝的変異の存在に関する1つまたは複数の細胞周期調節遺伝子のスキャニングを含みうる。細胞周期調節遺伝子の機能に対して有害な効果を持つ遺伝的変異はいずれも、G1/S移行チェックポイントのバイパスと、その結果として起こるAD病変とをもたらす可能性がある。一つの調節遺伝子内での、または複数の遺伝子にわたる、遺伝的変異の蓄積は、相加的効果を持ちうる。
【0049】
細胞周期調節遺伝子をコードする遺伝子における突然変異または対立遺伝子変異体の存在の検出に基づくスクリーンは、場合により細胞周期調節欠損の存在に関するスクリーニングなどの他の診断試験と組み合わせて、アルツハイマー病の診断に使用することができる。また、これらのスクリーンは、細胞周期調節遺伝子中に突然変異または対立遺伝子変異体が存在するがゆえにアルツハイマー病の素因を持つ個体を同定するためにも使用することができる。
【0050】
細胞周期調節遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体に関してスクリーニングするアプローチは、先にアルツハイマー病の診断を下されている患者におけるアルツハイマー病の遺伝的根拠を決定するためにも使用することができる。
【0051】
第3の態様として、本発明は、ヒト被験体におけるアルツハイマー病の診断に使用される方法であって、前記被験者のゲノムにおける、DNA修復酵素をコードする遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関するスクリーニングを含み、そのような遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在をアルツハイマー病のしるしであると解釈する方法を提供する。
【0052】
好適な遺伝子としては、DNA修復酵素Ku70、Ku80、Ku86、NDHII、BLM、RECQL、RECQL4およびRECQL5をコードする遺伝子が挙げられる。「遺伝子」という用語は調節領域、特にプロモーター領域を包含する。
【0053】
この場合も、アルツハイマー病に関係する特定の突然変異体/変異体の存在に関するスクリーニングは考えられるが、本発明の方法は、特定の突然変異または遺伝的変異体の存在に関するスクリーニングを必要とはしない。本方法は、DNA修復酵素をコードする遺伝子またはそのような遺伝子の小領域を、今までに知られていない突然変異/変異体を含む突然変異または遺伝的変異体の存在に関してスキャンすることを含みうる。
【0054】
DNA修復酵素をコードする遺伝子における1つまたは複数の突然変異または遺伝的変異体の存在は、アルツハイマー病のしるしであると解釈される。なぜなら、DNA修復酵素は細胞周期調節に関係する経路に作用するからである。したがって、DNA修復酵素をコードする遺伝子における突然変異または対立遺伝子変異体の存在は、細胞周期調節欠損の間接的なしるしである。
【0055】
AD患者の脳における体細胞突然変異の量は、細胞周期調節解除およびAD型病変の重症度に有意に関連することが観察される(下記実施例参照)。したがって、DNA修復不全はG1/S移行点の調節解除につながり、最終的にはアルツハイマー病の発症につながりうることが示唆される。
【0056】
DNA修復酵素をコードする遺伝子における突然変異または対立遺伝子変異体の存在の検出に基づくスクリーンは診断的に使用すること、特に症状発現前のアルツハイマー病を持つ個体の同定に使用することができる。同様のスクリーンは、DNA修復酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子に突然変異/変異体が存在するがゆえにアルツハイマー病を発症する素因がある個体を同定するために使用すること、および先にアルツハイマー病の診断を下されている患者におけるアルツハイマー病の遺伝的根拠を決定するために使用することもできる。
【0057】
突然変異/対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングする実際の工程は、上述したように、当技術分野で知られる技術のどれを使って行ってもよい。
【0058】
さらにもう一つの態様として、本発明は、アルツハイマーの処置において薬理活性を持つ可能性がある化合物を同定する方法であって、
G1/S期移行に細胞周期調節欠損を示す非神経細胞におけるG1/S移行の調節を、試験化合物の存在下および不在下で解析する工程
を含み、G1/S移行での調節欠損の矯正をもたらす試験化合物を、アルツハイマー病の処置において薬理活性を持つ可能性があると同定する方法を提供する。
【0059】
本発明の方法は、アルツハイマー病で神経細胞に観察されるものと類似するG1/S期移行での細胞周期調節欠損を示す非神経細胞であれば本質的にどの細胞を使って行ってもよい。好適な細胞としては、例えばアルツハイマー病を持つ一個体またはいくつかの個体に由来する培養リンパ球を挙げることができる。
【0060】
G1/S移行の調節の「解析」は、本発明の第1の態様に関連してG1/Sでの細胞周期調節欠損の存在に関するスクリーニングに適していると説明したどの方法を使って行ってもよい。G1/S期移行の調節の解析に使用する方法は、化合物スクリーンを中〜高スループット形式で行うことができるようにマルチウェルマイクロタイタープレートで行うことが可能な方法であると有利だろう。中〜高スループット形式での使用に適した最も好ましい方法は細胞増殖アッセイである。
【0061】
G1/S移行に調節欠損を示す細胞を試験化合物にばく露し、G1/S移行の調節に対する試験化合物の効果を、適切な対照(例えばどの試験化合物にもばく露していない細胞)を基準として評価する。典型的なスクリーンでは、試験化合物は、ある範囲のさまざまな濃度で試験されるだろう。
【0062】
本発明のスクリーニング方法で試験される候補化合物のタイプに制限はない。試験化合物としては、例えば薬理活性または生化学的活性がわかっている化合物、そのような活性は確認されていない化合物、および全く新しい化合物、またはコンビナトリアル化学によって作製されうるような分子ライブラリーなどを挙げることができる。DNA、RNA、PNA、ポリペプチドまたはタンパク質である化合物も除外されない。
【0063】
基本的な化合物スクリーニング方法を、アルツハイマー病の処置の一形態が持つ効力の評価に使用できるように、例えば細胞周期調節に対する特定薬剤の効果を試験するために、適合させてもよい。
【0064】
有用な変形として、本発明の方法は、特に、ある薬剤がある特定ヒト個体におけるアルツハイマー病の処置に役立つ見込みがあるかどうかを決定するために使用することができる。この場合、アッセイは、G1/S期移行に細胞周期調節欠損を示すその個体由来の細胞を使って、最も好ましくは培養リンパ球を使って行われる。それらの細胞を、薬剤の存在下および不在下で、G1/S期移行での調節欠損の存在について調べる。G1/S移行での調節欠損の「矯正」をもたらす薬剤を、その個体におけるアルツハイマー病の処置に役立つ見込みがあると同定する。「矯正」とは、正常な細胞周期調節への有意な程度の回復を意味する。これは、対照細胞、例えばアルツハイマー病も、G1/S移行での調節欠損を示す証拠も、アルツハイマー病の素因を与えると予想しうる遺伝的欠陥/対立遺伝子変異も持たない年齢対応対照個体から採取した同じタイプの細胞を参照することによって評価することができる。
【実施例】
【0065】
以下の実験例を添付の図面と併せて参照すれば、本発明の理解が深まるだろう。
【0066】
実施例1−アルツハイマー病患者のリンパ球における細胞周期調節欠損の存在を示す証拠材料および方法
この研究には、オックスフォード記憶および老化研究プロジェクト(Oxford Project to Investigate Memory and Ageing(OPTIMA))の正規参加者(full participant)である102人の被験者が参加した。年1回の定例OPTIMA検査には、身体検査、認知および神経心理学試験が含まれる。医薬品の摂取および併発感染症をすべて記録する。血液をヘパリンリチウムまたはEDTAバキュテイナ中に収集した。Ficall(Sigma)を使用し、標準的プロトコールに従って、リンパ球を単離した。すべての患者について培養方法を標準化するために、分離したリンパ球を凍結し、さらなる解析のために保存しておいた。
【0067】
培養のためにリンパ球が必要になったら、それらを37℃の水浴で融解し、RPMIで2回洗浄した(細胞の洗浄にはリンパ球の生存を支持するどの培地または緩衝液を使っても等価な効果が得られる)。細胞生存率(トリパンブルー排除法)は典型的には約80〜90%だった。
【0068】
一組目の実験は49人の被験者に対して行い(表1a)、二組目の実験は55人の被験者に対して行った(表1b)。一組目の実験(49被験者)では、10%FCSを補ったRPMI培地に、培養培地1mlあたり1×10細胞の濃度で、各個体からそれぞれ2つの並行リンパ球培養物を調製した。リンパ球を活性化するために、フィトヘマグルチニン(PHA)を22μg/mlの最終濃度で培養物に添加した。培養物を5%COを含む湿潤雰囲気下に37℃で48時間培養した。48時間の培養後に、一方の培養物を100ng/mlのラパマイシンで処理し、他方の無処理培養物は対照としてそのままにしておいた。さらに23時間の培養後に、BrdUを10μg/mlの濃度ですべての培養物に添加した。さらに1時間の後、培養物を「収集」し、70%氷冷エタノールで固定した。BrdUの取り込みを免疫組織化学を使って評価した後、FACS解析を行った。細胞周期のさまざまな時期にある細胞の割合を決定し、データ変換を行ってG1期の相対的延長を求めた(図1)。
【0069】
算出(対照培養物と比較した処理培養物における細胞周期のG1期の相対的延長)は、細胞が指数増殖期にあり、培養物中の増殖率(分裂細胞と休止細胞との比)は1.0であるという仮定に基づいて行った(5)。また、ラパマイシンはG1期の長さだけを変化させると仮定した(19)。これらの仮定に基づき、式:RL=100f−100(パーセントで表示する)を使って、G1期の相対的延長を算出した。処理培養物と対照対象物とのG1時間の比:f=TG1tr/TG1=[ln2−ln(2−G1tr)][ln(2−G1)]/[ln(2−G1tr)][ln2−ln(2−G1)] (5)。
【0070】
二組目の実験(53被験者)では、最初の48時間の培養(同上)後に、4つの独立した培養物を調製した。対照培養物は何も処理を施さずに放置し、一組の培養物は100ng/mlのラパマイシンで処理し、三組目は1μMのドキソルビシンで処理し、四組目は120μMのHで処理した。ドキソルビシンはG1/SではなくG2/Mでの停止につながるDNA損傷を引き起こす。H処理はG1/Sでの可逆的かつ一時的な細胞周期停止につながる酸化ストレスをもたらす。
【0071】
20時間のインキュベーション後に、4時間のMTT生存率アッセイ(Chemicon International Ltd)を設定した。結果はマイクロプレートリーダー(570フィルター630参照フィルター)を使って読み取った。処理培養物と対照との細胞数の比をパーセントとして表した。
【0072】
すべての実験は患者の臨床診断結果に関して盲検的に行った。
【0073】
OPTIMAプロジェクトに参加した臨床家が下した臨床診断結果との関連で結果を解析した。
【0074】
統計的解析はStatgraphicsソフトウェアパッケージを使って行った。ANOVA検定を行って、細胞培養パラメーターに対する臨床診断結果の影響を調べた。結果に対する年齢の影響を調節するためにもう一組の解析も行った。年齢補正により、試験対象である特定パラメーターにおける年齢関連の変動を考慮に入れることができる。与えられたパラメーターに対する年齢の影響は、健康な被験者での当該パラメーターに対する年齢の影響を調べることによって決定される。
【0075】
結果
二組の実験に含めた患者の臨床診断結果を表1aおよび1bに要約する。特異的G1阻害剤ラパマイシンの影響下で起こるG1期の相対的延長は、我々の患者の臨床診断結果に有意に依存した(Anova p=0.04、Kruskall−Wallis検定 p=0.017)(図2)。ラパマイシンによるG1阻害がより有効であることを示す最も高い値は、対照、AD以外の痴呆症候群、およびアルツハイマー病の可能性ありの患者と診断された被験者に見いだされた。ADに罹患している(NINCDSでADの可能性大)と診断された患者、およびADと他の病変とが共存している患者(ADM)は、対照被験者およびNINCDS基準による診断でDNOSまたはpossADに罹患している患者よりも、G1遮断の有効性が有意に低いことがわかった(図2)。臨床診断分類間の相違は、相対的G1遅延を年齢に関して補正した場合でも同様である(図2)。
【0076】
二組目の実験では、ラパマイシン処理後の細胞数が、対照培養物と比較してAD培養物およびpossAD培養物の方が細胞数が多いという予想どおりのパターンを示した(図3)。しかしMTTアッセイ系の感度は比較的低い。ドキソルビシン処理は患者群間に有意な相違をもたらさなかった(図3)。ドキソルビシン処理とは対照的に、H処理による細胞数の減少は臨床診断結果に依存した。AD、preADおよびpossADに罹患している患者は、H処理の結果として、対照被験者よりも細胞数が有意に高くなった。DNOS患者は広い変動を示し、他の患者群のいずれとも差がなかった(図4)。
【0077】
【表1】

【0078】
略語一覧
対照:認知および神経心理学試験の結果が正常である健康な個体。
PreAD:神経心理学試験の結果から初期ADが示唆される健康な個体。
PossAD:NINCDS基準による診断でアルツハイマー病の可能性あり(possible Alzheimer's disease)
AD:NINCDS基準による診断でアルツハイマー病の可能性大(probable Alzheimer's disease)
ADM:アルツハイマー病の可能性あり(NINCDS)および他のタイプの痴呆を示す証拠。
DNOS:アルツハイマー病の可能性大に関するNINCDS基準の要件を満たさない痴呆を持つ患者。
【0079】
考察
この研究では、リンパ球におけるG1期の長さに対する特異的G1阻害剤(ラパマイシン)(16,19)の効果を、BrdU取り込みアッセイおよびFACS解析法を使って解析した。ラパマイシン処理後の培養物中の細胞数の減少も評価した。もう一つのアプローチとして、G1阻害を酸化ストレスによって惹起し、培養系中の細胞数の減少を測定した。
【0080】
一組目の実験の結果は、細胞周期のG1期の延長によって示されるG1阻害剤誘導性細胞周期停止の有効性が、アルツハイマー病に罹患している患者では、対照個体よりも、有意に低いことを示している。これらの変化が早期に、患者が臨床的にはまだ痴呆を来していないが痴呆の最初の明瞭な徴候であることがわかっている特異的で迅速な記憶喪失の徴候を示す段階で現れることも明らかである。
【0081】
ラパマイシンが誘導するG1遮断は、サイクリンE/cdk2複合体の活性を阻害するp27kip1 CDKIの発現および活性に依存する(16,19)。したがって、ラパマイシンの影響下で起こるG1期の相対的延長は、このCDKIの発現/活性に依存するだろう(19)。G1のこの相対的延長がアルツハイマー病患者では高齢の健常な個体よりも有意に低いという事実は、これらの患者では神経細胞におけるG1/Sチェックポイント不全に付随して他の細胞タイプでも同様の細胞周期制御損傷が生じているという我々の仮説を裏付けるものだろう。また、十分に発達した痴呆の徴候が現れるかなり前に、細胞周期制御の不全を末梢細胞中で検出できることも明白である。これにより、末梢リンパ球の細胞分裂促進性刺激に続いてG1/S移行遮断を試みることに基づくアッセイを使って、AD型の脳病変を後に発症する恐れがありうる患者を早期に検出することが可能になる。
【0082】
によって誘導される細胞数の相違は、我々の患者群では有意に異なり、対照被験者由来のリンパ球が、酸化ストレスに対して、より顕著に応答することを示した。120mMのHによる処理はG1/S移行点における可逆的かつ一時的な細胞周期停止を誘導して(6)、DNA損傷−修復の時間を与えることが示されている。我々の結果は、この機構がアルツハイマー病患者では十分に有効ではないことを示している。酸化ストレスに対するこの不十分な応答は、症状発現前のADに罹患している被験者にも存在する。酸化ストレスに対する応答の変化は、AD患者の方が既存のDNA損傷が多量であることを反映しているのかもしれない(11)。しかしこの可能性は、G1停止ではなくG2/M停止を誘導するドキソルビシン誘導性DNA損傷が、我々の患者群では相違しないという事実によって排除される。したがってこの研究の結果は、G1/S移行点の調節における特異的不全を示していると解釈される。
【0083】
要約すると、この研究の結果は、G1阻害に対する活性化リンパ球の応答が、アルツハイマー病罹患者では有意に変化していることを示している。その上、これらの変化は十分に発達した痴呆症候群の発症前に早期に現れて、後にアルツハイマー病を発症しそうな被験者の同定に役立つ。これらの結果は、G1/S移行チェックポイントの完全性の検出に依拠する診断試験によって、後にADを発症する恐れのある被験者を同定しうることを示している。この診断法の利点は、この被験者群をこの診断法によって同定することができ、それらの人々に予防的介入を行う可能性が開かれることにあるだろう。
【0084】
リンパ球の分離および培養、細胞分裂の誘導、細胞分裂阻害剤またはH誘導性低酸素による細胞周期停止の誘導、BrdU取り込み/FACS解析、およびMTT生存率アッセイに関して実施例1で説明したプロトコール、またはその軽微な改造はすべて、G1/S移行での調節欠損の存在について試験するために、診断的に使用することができる。
【0085】
実施例2−p21cipおよびp57における一塩基多型の同定方法
5'−CGGGATCCGGCGCCATGTCAGAACCGGC−3'(配列番号1)および5'−CCAGACAGGTCAGCCCTTGG−3'(配列番号2)プライマーを使って、ゲノムDNA(脳または血液から抽出したもの)から、p21cipのエクソン2を増幅した。PCR増幅は、PCR緩衝液(75mM Tris−HCl、pH8.8、20mM (NHSOおよび0.01%Tween)中、1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ、1.5mM MgCl、5%ゼラチン、200μMの各dNTPを使って、50μlの最終液量で行った。ホットスタート(95℃で5分)の後、95℃で1分、65℃で1分、72℃で1分を30サイクルした。
【0086】
5'−GGC CAT GTC CGA CGC GTC−3'(配列番号3)および5'−AGG CGG CAG CGC CCC ACC TG−3'(配列番号4)プライマーを使って、ゲノムDNA(脳または血液から抽出したもの)から、p57のエクソン2の第1セグメント(エクソン2Ap57)を増幅した。PCR増幅は、PCR緩衝液(75mM Tris−HCl、pH8.8、20mM (NHSOおよび0.01%Tween)中、1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ、1.5mM MgCl、10%DMSO、200μMの各dNTPを使って、50μlの最終液量で行った。ホットスタート(95℃で5分)の後、95℃で30秒、52℃で30秒、72℃で30秒を30サイクルした。
【0087】
5'−ATT ACG ACT TCC AGC AGG ACA TG−3'(配列番号5)および5'−CTG GAG CCA GGA CCG GGA CTG−3'(配列番号6)プライマーを使って、ゲノムDNA(脳または血液から抽出したもの)から、p57のエクソン2の第2セグメント(エクソン2Bp57)を増幅した。PCR増幅は、PCR緩衝液(75mM Tris−HCl、pH8.8、20mM (NHSOおよび0.01%Tween)中、1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ、1.5mM MgCl、200μMの各dNTPを使って、50μlの最終液量で行った。ホットスタート(95℃で5分)の後、95℃で30秒、53℃で30秒、72℃で30秒を30サイクルした。
【0088】
一次スクリーニングのために、ゲル添加量20μlに対応する16μlの変性溶液(95%脱イオンホルムアミド、10mM NaOH、0.01%ブロモフェノールブルー、および0.01%キシレンシアノールFF)に4μlのPCR産物を加えた。その混合物を95℃で5分間インキュベートし、1:10000のGelStarを含むMetaPhorアガロースゲル(p21エクソン2の場合は2%、エクソン2A p57およびエクソン2B p57の場合は3%)にのせた。電気泳動装置を普通の冷蔵庫で4℃の一定温度に維持した。電気泳動は1×TBE(45mM Tris−ホウ酸/1mM EDTA)を使って5V/cmで2時間行った。ゲルに現れるSSCPパターンをUV光で検出した。
【0089】
結果
p21cip遺伝子のエクソン2およびp57kip2遺伝子のエクソン2に多型が見つかった(図6)。p21cipのエクソン2に検出された多型(変異体A)は、神経細胞における細胞周期調節解除(すなわちサイクリンB陽性によって示されるG1/S移行を経たG2期への細胞周期の進行)と有意に関連した(図7)。正常なp21cip(変異体B)を持つ患者では、p57エクソン2A上の多型が、G1/S移行を経たG2期への細胞周期の進行を示すサイクリンB陽性と関連する(図8)。
【0090】
実施例3−体細胞突然変異に関するRAPDスクリーニング方法
遺伝子フィンガープリント法を使って神経細胞における体細胞突然変異をスクリーニングした。すべての患者の脳および血液からDNAを得た。各患者から採取した両方の試料でPCR増幅を行った。10本の短いプライマーを使って、多型DNA配列をランダムに増幅した(プライマーを表2に列挙する)。PCR増幅は、PCR緩衝液(75mM Tris−HCl、pH8.8、20mM (NHSOおよび0.01%Tween)中、1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ、1.5mM MgCl、200μMの各dNTPを使って、50μlの最終液量で行った。ホットスタート(95℃で5分)の後、94℃で30秒、AnTで1分、72℃で2分を40サイクルした。アニーリング温度(AnT)はプライマーに応じて33℃〜39℃の間で変えた。PCR産物を1:10000のGelStarを含む2%アガロースゲルにのせた。電気泳動は1×TBE(45mM Tris−ホウ酸/1mM EDTA)を使って6.5V/cmで2時間行った。RAPD配列パターンをUV光で検出した。血液DNAと脳DNAから得られるRAPD配列の相違を患者ごとに比較し、異なるRAPDプロファイルをもたらすプライマーのパーセンテージとして表した(RAPDプロファイルは図示していない)。
【0091】
結果
AD患者の脳における体細胞突然変異の量は、細胞周期調節解除およびAD型病変の重症度と有意に関連することが観察された(図9)。したがって、DNA修復不全は、G1/S移行点の調節解除につながり、最終的にはアルツハイマー病の発症につながりうることが示唆される。
【0092】
遺伝子タイピングによる知見は、CDKI誘導阻害剤または酸化的DNA損傷によって惹起されるG1/S調節制御に検出可能な機能不全が存在することを示すAD患者のリンパ球で得られた先の知見と一致している。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
図面の略語一覧:
対照:認知および神経心理学試験の結果が正常である健康な個体。
PreAD:神経心理学試験の結果から初期ADが示唆される健康な個体。
PossAD:NINCDS基準による診断でアルツハイマー病の可能性あり(possible Alzheimer's disease)
AD:NINCDS基準による診断でアルツハイマー病の可能性大(probable Alzheimer's disease)
ADM:アルツハイマー病の可能性あり(NINCDS)および他のタイプの痴呆を示す証拠。
DNOS:アルツハイマー病の可能性大に関するNINCDS基準の要件を満たさない痴呆を持つ患者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体ゲノムの細胞周期調節遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む、前記被験体におけるアルツハイマー病の診断に使用する方法であって、細胞周期調節遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在がアルツハイマー病のしるしであると解釈される方法。
【請求項2】
ヒト被験体におけるアルツハイマー病の遺伝的根拠を決定する方法であって、細胞周期調節遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関して、前記被験体ゲノムをスクリーニングすることを含む方法。
【請求項3】
アルツハイマー病の素因に関してヒト被験体をスクリーニングする方法であって、前記被験体ゲノムの細胞周期調節遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む方法。
【請求項4】
CDKN3、p15ink4B、p16ink4A、p19ink4D、p27kip1、p21cip1、p57kip2およびTP53から選択される少なくとも1つの遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
p21E2 A/B多型、p57E2A A/B多型、またはp57E2B A/B多型の1つまたは複数に関して遺伝子タイピングすること含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヒト被験体ゲノムのDNA修復酵素をコードする遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む、前記被験体におけるアルツハイマー病の診断に使用する方法であって、前記遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在がアルツハイマー病のしるしであると解釈される方法。
【請求項7】
ヒト被験体におけるアルツハイマー病の遺伝的根拠を決定する方法であって、DNA修復酵素をコードする遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関して、前記被験体のゲノムをスクリーニングすることを含む方法。
【請求項8】
アルツハイマー病の素因に関してヒト被験体をスクリーニングする方法であって、前記被験体ゲノムのDNA修復酵素をコードする遺伝子中の少なくとも1つの突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む方法。
【請求項9】
Ku70、Ku80、Ku86、NDHII、BLM、RECQL、RECQL4およびRECQL5から選択される少なくとも1つの遺伝子中の突然変異または対立遺伝子変異体の存在に関してスクリーニングすることを含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−166922(P2010−166922A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47861(P2010−47861)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2008−141226(P2008−141226)の分割
【原出願日】平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願人】(599093720)アイシス・イノヴェイション・リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Isis Innovation Limited
【Fターム(参考)】