説明

アルツハイマー病治療用ワクチン

本発明は、アルツハイマー病のより重篤な形態を有している患者を治療するための方法を提供する。ADの重篤な形態はアミロイドベータペプチド(Aβ)の病原性沈着物を特徴とする。方法は、Aβの病原性沈着物、特にAβのN末端欠失形態を含む神経毒性Aβ形態に特異的な抗体の形態で免疫応答を誘発できる免疫原性Aβフラグメントを投与する段階を含む。本発明はさらに、ADのより重篤な形態を治療するために適切な免疫原性Aβフラグメントの選択方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミロイド原性疾患、特にアルツハイマー病を予防および治療するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、進行性の記憶障害および認識減退を特徴とする。その特徴的病変は、脳の特定領域に見られるアミロイド沈着物(老人斑)、神経原線維のもつれおよびニューロン消失である。アミロイド沈着物は40から43個のアミノ酸残基のアミロイドベータペプチド(Aβ)から構成されており、これらはアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解産物である。神経原線維のもつれは高リン酸化タウタンパク質の細胞内線維状凝集塊である(Selkoe,Science,275:630−631,1997)。
【0003】
ADの発生病理は完全には解明されていないが、多要因イベントであると予測されている。脳組織内にAβが蓄積および凝集することが疾患の進行に重要な役割を果たすと考えられており、これはアミロイドカスケード仮説としても知られている(Golde,Brain Pathol.,15:84−87 1995)。この仮説によれば、Aβ、特にAβ42は、小さいオリゴマーから大きく細長い原線維構造までの範囲の様々な形態の凝集塊を形成する傾向がある。これらの凝集塊は神経毒性であり、疾患の初期段階の記憶消失および認識減退に関連したシナプス病理の一因であると考えられている(Kleinら,Neurobiol.Aging,25 569−580,2004)。最近の刊行物は、トリプルトランスジェニックマウスにおいてAβの減少が細胞内タウ沈着も防止することを示唆している(Oddoら,Proc.Neuron,43:321−332,2004)。この知見は、細胞内アミロイド沈着がその後の神経原線維もつれ形成の原因であり得ること、そこからさらにニューロン消失に至り得ることを示唆している。
【0004】
APPトランスジェニックマウスをAβ抗原によって免疫感作すると脳のAβ沈着物を減少させ疾患の進行を緩和することができる。このことはShenkら,Nature,400:173−177,1999によって最初に報告されたものであり、いまや、様々なトランスジェニック動物モデル、様々な能動ワクチン、ならびに、Aβ特異的モノクローナル抗体による受動免疫感作を含む多くの研究によって確証されている(Bardら,Nature Med,6:916−919,2000;Janusら,Nature,408:979−982,2000;Morganら,Nature,408:982−985,2000;DeMattosら,Proc.Natl.Acad,Sci.,98:8850−8855,2001;Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002;Wilcockら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003)。プレ凝集Aβ1−42ペプチド(AN1792,Betabloc)を免疫原とした能動免疫感作を予め受けていた患者から得られた死後のヒト脳組織について発表された3つの評価は、動物データに符合して、老人斑の局所的クリアランスを示した(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003;Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004;Masliahら,Neurology,64:129−131,2005)。これらのデータは総合的に、Aβ抗原に対する抗体応答を効果的に誘発するワクチンはADに見出される病的老人斑に対して有効であることを示唆する。しかしながら、ワクチンまたは抗体の有効性のメカニズムはいまだ解明されていない。
【0005】
ADの治療に能動免疫感作法を使用するための最も進んだ研究は、アジュバント,QS−21TM(Antigenics,New York,NY)と共に投与されたAN1792(Betabloc)を使用するフェーズII治験であった。2002年1月に4人の患者が脳脊髄膜脳炎に符合する症状を示したときにこの研究は停止された(Senior,Lancet Neurol.,1:3,2002)。最終的に、治療した298名の患者のうちの18名が脳脊髄膜脳炎の徴候を発生した(Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003)。脳炎と抗体価との間に相関関係は存在せず、このような結末の原因と考えられるメカニズムは自己免疫原、特にAβ42の中央部分およびカルボキシ末端部分に対するT細胞の活性化であるらしいと報告された(Monsonegoら,J.Clin.Invest.,112:415−422,2003)。この結論の傍証として、脳炎を発生した2名のワクチンレシピエントから得られた脳組織の死後検査において、一方の患者でCD4 T細胞(Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003)および他方の患者でCD4、CD8、CD3、CD5、CD7 T細胞(Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004)の実質的な髄膜浸潤が明らかになった。これらの知見に部分的に立脚し、AβのN末端たとえばAβ1−7およびAβ1−6を標的とすればT細胞介在副作用イベントのない有効性が与えられるであろうという考え方に基づいて能動抗Aβワクチンによるいくつかの臨床治験が開始された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Selkoe,Science,275:630−631,1997
【非特許文献2】Golde,Brain Pathol.,15:84−87 1995
【非特許文献3】Kleinら,Neurobiol.Aging,25 569−580,2004
【非特許文献4】Oddoら,Proc.Neuron,43:321−332,2004
【非特許文献5】Shenkら,Nature,400:173−177,1999
【非特許文献6】Bardら,Nature Med,6:916−919,2000
【非特許文献7】Janusら,Nature,408:979−982,2000
【非特許文献8】Morganら,Nature,408:982−985,2000
【非特許文献9】DeMattosら,Proc.Natl.Acad,Sci.,98:8850−8855,2001
【非特許文献10】Bacskaiら,J.Neurosci.,22:7873−7878,2002
【非特許文献11】Wilcockら,J.Neurosci.,23:3745−3751,2003
【非特許文献12】Nicollら,Nature Med.,9:448−452,2003
【非特許文献13】Ferrerら,Brain Pathol.,14:11−20,2004
【非特許文献14】Masliahら,Neurology,64:129−131,2005
【非特許文献15】Senior,Lancet Neurol.,1:3,2002
【非特許文献16】Orgogozoら,Neurology,61:46−54,2003
【非特許文献17】Monsonegoら,J.Clin.Invest.,112:415−422,2003
【発明の概要】
【0007】
1つの実施態様において、本発明は、(i)患者がアルツハイマー病(AD)のより重篤な形態を有していることを判定する段階と、(ii)免疫応答を誘発するために有効な量で、免疫原性Aβフラグメントを投与する段階とを含む、ADのより重篤な形態を有している患者の治療方法である。ADのより重篤な形態を有している患者は、Mini−Mental State Exam(MMSE)スコア20以下の個人、Alzheimer’s Disease Assessment Scale−Cognitive(ADAS−Cog)スコア35以上の個人、Global Deterioration Scale(GDS)スコアがステージ5以上の個人、Clinical Dementia Rating−Sum of Boxes(CDR−SB)スコア2以上の個人、60歳から64歳以下の年齢でADの症状を有している個人、または、遺伝子スクリーニング後に早発型アルツハイマー病(EOAD)もしくは家族性AD形態を有していると診断された個人から成る群から選択される。免疫原性Aβフラグメントは、それぞれが少なくとも1つの抗原決定基を有しており、かつT細胞エピトープが欠損している多様な不連続、および不一致の免疫原性Aβフラグメントを含んでいる多価ワクチンを包含する。別の実施態様において多価ワクチンは、リシンスカフォールドによって連結されたAβ3−10およびAβ21−28を含む。多価ワクチンはさらに、Aβペプチドフラグメントにコンジュゲートされた担体を含み、また、場合によってはアジュバントと共に投与され得る。
【0008】
別の実施態様において本発明は、アルツハイマー病(AD)のより重篤な形態を有している患者の治療に適切なワクチン構築物として使用するための免疫原性Aβフラグメントの選択方法であり、該方法は、(i)免疫応答を誘発するために有効な量で被験免疫原性Aβフラグメントを動物に投与する段階と、(ii)免疫感作動物から得られた抗血清をAβのN末端欠失形態に対する交差反応性について評価する段階とを含む。該方法において、Aβの1つ以上のN末端欠失形態に特異的な抗体の形態で免疫応答を誘発できる構築物が適切なワクチン構築物として選択される。AβのN末端欠失形態は、Aβx−42、pGlu−Aβ3−40、pGlu−Aβ3−42、pGlu−Aβ11−40およびpGlu−Aβ11−42から成る群から選択され、ここにxは、天然に存在するAβの残基2から17に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】担体としてKLHにコンジュゲートされISCOMATRIX(R)と共に投与されたAβ1−8(MoVC1−8)のペプチドコンジュゲートで免疫感作した動物から得られた抗血清の系列希釈物から検出された抗体を表す。
【図2】担体としてOMPCにコンジュゲートされISCOMATRIX(R)と共に投与された多価ワクチン(Aβ3−10/Aβ21−28)(MVC)で免疫感作した動物から得られた抗血清の系列希釈物から検出された抗体を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「8−mer」という用語は、Aβのフラグメント、天然Aβペプチドの類似体またはペプチド模擬体に対応する8アミノ酸のペプチドを意味する。多価直鎖状ペプチドを形成するためまたは多価分枝状MAPを形成するために1つ以上の8−merが少なくとも1つのスペースに組合せられるであろう。
【0011】
「Aβコンジュゲート」という用語は、キーホールリンペットヘモシアニンまたはNesseria meningitidisの外膜タンパク質複合体(OMPC)のような担体に化学的または生物学的に連結されているAβの8−merまたは免疫原性Aβフラグメントを意味する。
【0012】
「Aβペプチド」という用語は、ここでワクチン構築物中に使用された合成Aβペプチドのいずれかを(天然に存在するアミロイドベータペプチド(Aβ)に比較して)意味しており、非限定的に、直鎖状8−mer、少なくとも1つのスペーサーをもつ多価直鎖状ペプチドおよび多価分枝状多抗原性ペプチド(MAP)を含む。
【0013】
「エピトープ」という用語は、Bおよび/またはT細胞応答の対象となる抗原上の部位を表す。B細胞エピトープは連続アミノ酸からまたはタンパク質の三次折畳みによって並置された不連続アミノ酸から形成できる。連続アミノ酸から形成されたエピトープは典型的には変性溶媒に接触したときに保存されているが、三次折畳みによって形成されたエピトープは典型的には変性溶媒で処理したときに消失する。T細胞エピトープは宿主MHC分子と共に複合体を形成できるペプチドから成る。ヒトMHCクラスI分子に対するT細胞エピトープはCD8 T細胞応答の誘発を担当しており、一般に9から11個のアミノ酸残基を含んでいる。他方、ヒトMHCクラスIIに対するエピトープはCD4 T細胞応答を担当し、典型的には12以上のアミノ酸残基を含んでいる(Bjorkmanら,Nature 329:506−512,1987;Maddenら,Cell 75:693−708;Batalia and Collins;Engelhard Annu Rev Immunol.,12:181−207−622.1995;Madden,Annu Rev Immunol.,13:587−622.1995)。T細胞と違ってB細胞は長さ4アミノ酸という小さいペプチドを認識できる。T細胞活性化に導くT細胞受容体によって認識されるのはT細胞エピトープ/MHC複合体である。
【0014】
「多価ペプチド」という用語は、2つ以上の抗原決定基を有しているペプチドを表す。
【0015】
「多価ワクチン」または「MVC」という用語は、それぞれが1つの抗原決定基を有しておりかつT細胞エピトープが欠損している多様なAβペプチドから成るワクチン構築物を意味する。1つの実施態様において多価ワクチンは、それぞれのT細胞エピトープが欠損している不連続で不一致な2つの免疫原性Aβフラグメント、たとえば、Aβ3−10およびAβ21−28を含む。
【0016】
「免疫原性Aβフラグメント」または「T細胞エピトープが欠損している免疫原性Aβフラグメント」という用語は、Aβに対する抗体の形態で免疫応答を誘発できるがその応答が自己抗原Aβに対するT細胞応答を含まない8−merまたはAβフラグメントを意味する。
【0017】
「免疫学的」または「免疫性」または「免疫原性」応答という用語は、脊椎動物体内の抗原に対する体液性(抗体に媒介された)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはそれらの分泌産物によって媒介された)応答の発生を表す。このような応答は、免疫原の投与によって誘発された能動応答または抗体の投与によって誘発された受動応答であり得る。
【0018】
「ADのより重篤な形態」という用語は、同年齢の対照非AD患者に比較してより進行したニューロン変性またはより進行した臨床病理に関連したADの何らかの形態を有している患者を表す。このような患者は非限定的に、Mini−Mental State Exam(MMSE)スコア20以下の個人、Alzheimer’s Disease Assessment Scale−Cognitive(ADAS−Cog)スコア35以上の個人、Global Deterioration Scale(GDS)スコアがステージ5以上の個人、Clinical Dementia Rating−Sum of Boxes(CDR−SB)スコア2以上の個人、60歳から64歳以下の年齢でAD症状を有している個人、または、遺伝子スクリーニング後に早発型アルツハイマー病(EOAD)もしくは家族性AD形態特にPS−1突然変異に関連した形態を有すると診断された個人、または、Aβの病原性沈着物を特徴とするADの形態を有している患者を含む。
【0019】
「アミロイドベータペプチド(Aβ)の病原性沈着物」または「Aβの病原性沈着物」という用語は、Aβの神経毒性形態たとえばAβ42、または、より多くのニューロン変性もしくはより重篤な臨床表現型に関連することが判っているAβのN末端もしくはC末端欠失形態を含むプラーク沈着物を意味する。Aβのこのような形態は非限定的に、Aβ40、Aβ42、AβのN末端欠失形態たとえばAβx−42[ここにxは天然に存在するAβの残基2−17に対応する]、および、末端アミノ酸の環化たとえばN末端グルタメートの環化によって修飾されたAβの欠失形態pGluAβ3−42またはpGluAβ11−42を含む。
【0020】
「Aβの病原性沈着物に特異的な抗体」という用語は、全長Aβ40もしくはAβ42、AβのN末端欠失形態、または、pGluAβ3−42もしくはpGluAβ11−42のような末端アミノ酸に修飾を有しているAβのN末端もしくはC末端欠失形態を含むAβの神経毒性形態に交差反応性である抗体を表す。
【0021】
「医薬組成物」という用語は、哺乳類個体に投与するための適切な化学的または生物学的組成物を意味する。ここに使用したこの用語は、場合によりアジュバントと共にまたはアジュバントなしで投与されるここに記載の8−mer、免疫原性AβフラグメントおよびAβコンジュゲートを含む組成物を表す。
【0022】
アミロイドベータペプチド(Aβ)の病原性沈着物
AD患者の脳内に沈着したAβが構造的に均質でないことはますます多くの証拠によって示唆されている(Saidoら,Neuroscience Letters,215:173−176,1996)。Aβ40およびAβ42のような全長アミロイドベータペプチド(Aβ)の多様な形態に加えて、ペプチドのN末端およびC末端に修飾を有しているAβの多様な欠失形態が検出された(Russoら,FEBS Letters,409:411−416,1997;Saido 1996)。これらの欠失Aβ形態がADの発生に極めて重要であるという考えがますます有力になっている(Picciniら,J,Biol.Chem,,280(40):34186−34192,2005)。これらの欠失Aβ形態のうちでも、残基Glu3またはGlu11のピログルタミルから開始するN末端欠失ペプチドが優勢に存在する(Russo,1997)。pGlu3形態(Aβ3(pE)−42)が特に顕著であり、Aβ全体の約50%を構成する(Youssefら,Neurobiol.Aging,29:1319−1333,2008)。
【0023】
これらのN末端欠失形態は、孤発性ADであると診断された患者の脳、早発型家族性AD(EOAD)の患者、極めて特定的にはプレセニリン−1(PS−1)突然変異を有する患者、および、ダウン症候群(DS)である患者において早期に蓄積することが知見された(Russoら,FEBS Lett.,409:411−416,1997;Saidoら,Neurosci.Lett.,215:173−176,1996;Tekirianら,J.Neuropathol.Ex.Neurol.,57:76−94,1998)。孤発性遅発型AD(LOAD)の患者が突然変異を有していないことに比較して、PS−1突然変異によって推進されたEOADをもつ個人では典型的には60歳から64歳以前に疾患症状が発生する。さらに、ダウン症候群である患者も染色体21の過剰コピー(extra copy)に起因するEOADを発生する。AD何らかの遺伝性形態に関連した遺伝子が同じ染色体21に局在しており、APPの30%増およびAβ産生の増加に導くからである。家族性デンマーク認知症は早発型認知症の別の形態であり、pyroGluでN末端修飾されたAβが多くの割合で存在すること、ほぼ全部を占めていることを特徴とする(Tomidokoroら,J.Biol.Chem.,280(44):36883−36894,2005)。PS−1突然変異またはDSに起因するEOADを有している個人はLOADに比較して有意に多いpGluAβ3−42を脳内に含んでいる(Russo,1997;Russoら,Nature,405:531−532,2000;Russoら,Neurobiol.Dis.,8:173−180,2001;Hosodaら,J.Neuropathol.Exp.Neurol.,57:1089−1095,1998)。より重要なことは、死後組織分析から判断して、大きい割合のN末端欠失形態、特に優勢なpGluAβ3−42形態を有している患者は、ニューロン変性の程度および臨床病理の重篤度の双方の観点で疾患がより重篤であると考えられることである(Russo,1997;Russo 2000)。
【0024】
ADまたは認知症の個人の評価は一般に、いくつかの形態の精神的または認識的評価を含み、これらはAlzheimer’s Disease Assessment Scale−Cognitive(ADAS−Cog)、Global Deterioration Scale(GDS)、Clinical Dementia Rating−summary of boxes(CDR−SB)、またはより典型的にMini−Mental State Exam(MMSE)を含む様々な方法によって行うことができる。MMSEスコアは最大値30を有しており、スコア全体は、軽度(21−26)、中等度(15−20)および重度(14以下)に分類される。ADAS−Cogスコアは、0(考えられる最良)から70(考えられる最悪)までの範囲であり、ほぼ23というスコアが軽度の障害の限界点であり、約35以上のスコアが中等度以上の障害に相関している。CDRのスコアは最大値4であり、スコアは、正常(0)、軽度(0.5−1)、中等度(2)および重度(3−4)として分類される。同様に、GDSのスコアは、ステージ1(最良)からステージ7(最悪)の範囲であり、グレード4がADAS−Cogスコアの約22.5の軽度の障害と同等であり、ステージ5がADAS−Cogスコアの約35の中等度の障害と同等である。ADおよび認知症に関係付けたMMSEの概要については、Folsteinら,J.Psychiat.Res.,12:189−198,1975を参照するとよい。ADAS−Cog、MMSEおよびGDSのスコア結果および妥当性の比較については、Doraiswamyら,Neurology,48(6):1511−1517,1997を参照するとよい。臨床治験における有効性の評価に使用するためにADAS−CogおよびMMSEが一般的に採択されている。考察すべき別の要因は、個人の家族履歴、すなわち、別の一人の(または複数の)極めて近縁の家族構成員が重篤であると考えられるAD形態を有していたかということである。FAD突然変異に起因するEOADの存在を確認するために患者の白血球から得られたゲノムDNAの配列解析を行うことが可能であった(Finckhら,Am.J.Hum.Genet.,66:110−117,2000)。したがって、EOADまたはFADのようなADまたは認知症の若年性侵襲的形態を有している個人、特に年齢60歳から64歳以下の個人またはMMSEスコア結果が20以下の個人はADのより重篤な形態を有していると考えられ、N末端欠失形態を含む病原性アミロイド沈着物を特徴とするプラークを有していると予測され、本発明の多価ワクチンの候補者であろう。
【0025】
出願人らはここに、多様な免疫原性Aβフラグメントを含むワクチン構築物がAβのN末端欠失形態に関連したADのより重篤な形態を有しているAD患者を治療するためのより効果的な手段を提供することを知見した。多価ワクチンは、ADに関連したAβの全長形態だけでなくAβのN末端欠失形態も含むプラークをもつADの形態を有している患者を治療できる広域スペクトルワクチンである。本発明の多価ワクチンは、神経毒性Aβの多様な多数の形態、特にN末端欠失形態と交差反応できる。出願人はここに、T細胞エピトープの欠損した多様な不連続、不一致の免疫原性Aβフラグメントを含む多価ワクチンがAD、特にニューロン変性および臨床病理の観点からより重篤な疾患形態に相関することが判っているAβ種を有しているAD患者を治療するためにより効果的に使用できることを初めて証明した。
【0026】
ADのより重篤な形態を治療するためのワクチン構築物
出願人はここに、ここで多価ワクチンと呼ぶT細胞エピトープの欠損した多免疫原性Aβフラグメントを含むワクチン構築物がADのより重篤な形態を有している患者、具体的にはAβのN末端欠失形態を含む病原性Aβ沈着物を有している患者を治療するための広域スペクトルワクチンを提供できることを知見した。文献に報告された他の抗Aβワクチン構築物は単一の免疫原性Aβフラグメントを対象とすると考えられるので、本発明はAβのN末端欠失形態の存在に相関することが判っているADの形態を標的とする利点およびより効果的なワクチンを提供する。
【0027】
関連の同時係属出願において出願人らは、ADを治療するために、免疫原性Aβフラグメントを含みT細胞エピトープが欠損しておりAβに対する抗体の形態で有益な免疫応答を誘発できるペプチドコンジュゲートを使用する組成物および方法を記載した(PCT/US 2006/016481,WO 2006/121656;USSN 11/919,897,US 2009−0098155、それらの教示は詳細に説明された通りにここに組込まれるものとする)。それらの出願におけるワクチン組成物は、8アミノ酸(8−mer)の大きさに限定された免疫原性Aβフラグメントから成り、潜在し得るC末端T細胞エピトープアンカー残基を完全に除去するように設計された。免疫原性Aβフラグメントは8−merの直鎖状ペプチド、少なくとも1つのPEGスペーサーを有している多価直鎖状Aβコンジュゲート、または、多価分枝状多抗原性ペプチド(MAP)であり得る。好ましい実施態様においてワクチン構築物は、リシンスカフォールドに連結されたAβ3−10およびAβ21−28を含む分枝状MAPである。
【0028】
それらの出願においてADを治療するための能動免疫感作法に使用されるワクチン構築物は医薬組成物の形態で投与でき、該組成物中の免疫原性MAPフラグメントは、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、免疫グロブリン分子、オバルブミン、破傷風トキソイドタンパク質、または、ジフテリア、E.coli、コレラもしくはH.pyloriなどの他の病原性細菌のトキソイド、または、弱毒した毒素誘導体のような担体に化学的または生物学的に連結できる。好ましい実施態様において、担体はNeisseria meningitidisの外膜タンパク質複合体(OMPC)である。
【0029】
それらの出願においてADを治療するための能動免疫感作法に使用されるワクチン構築物は、アルミニウム塩(明礬)、脂質たとえば3−デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)またはサポニン基剤のアジュバントのようなアジュバントと共に投与され得る。好ましい実施態様において、アジュバントはサポニン基剤のアジュバントISCOMATRIX(R)(CSL Ltd,Parkville,Australia)である。
【0030】
出願人らはここに、それらの出願におけるペプチドコンジュゲートの1つの好ましい実施態様、すなわち、リシンスカフォールドで連結されたAβ3−10およびAβ21−28を含みOMPCにコンジュゲートされた分枝状MAPを含む多価ワクチンがいまやAD治療用の広域スペクトル能動ワクチンを提供することを意外にも知見した。この多価ワクチン(MVC)の構造を以下に示す:
【0031】
【化1】

式中の「Aha」は6−アミノヘキサン酸を表し、「BrAc」はブロモアセチルを表す。
【0032】
出願人らはここに、この広域スペクトルMVCが現在臨床評価を行っている他の能動ワクチン法に比べて利点を与えることを示した。この多価ワクチンは、多様なAβの形態、特にADのより重篤な形態に関連したN末端欠失Aβ形態と特異的に交差反応する抗体の形態で免疫応答を与えることを示しただけでなく、Aβ1−8ワクチンがAβx−42に対してx≧3のときにいかなる免疫応答も産生しなかったことに比較してより強力な免疫応答を提供する。したがって、本発明の多価ワクチンは、AβのN末端欠失形態に対して臨床考察下の他の能動ワクチンよりも良好な免疫原性、すなわちより広域な応答スペクトルを提供できる。
【0033】
ADのより重篤な形態を治療するための治療薬
出願人らは、多価ワクチン構築物、すなわち、リシンスカフォールドを介して連結されたAβ3−10およびAβ21−28を含む分枝状MAP(この文中では多価ワクチン構築物−MVCとして表す)を担体(OMPC)にコンジュゲートしサポニン基剤のアジュバントISCOMATRIX(R)と共に投与してモルモットを免疫感作した。免疫感作動物はポリクローナル抗体の形態の免疫応答を産生した。動物から血清を採取し、抗血清を系列希釈し、全長Aβ40およびAβ42、表1に示したAβのN末端欠失形態を含むAβの多様な形態に対する交差反応性を試験した。
【0034】
同様にして出願人らは、天然に存在するAβのアミノ酸残基1−8に対応する合成一価Aβペプチド(この文中では一価ワクチン構築物−MoVC1−8として表す)を担体(KLH)にコンジュゲートしサポニン基剤のアジュバントISCOMATRIX(R)と共に投与してモルモットを免疫感作した。情報を信用するならば、現在臨床評価を行っている他の能動ワクチンはCRM197またはVLPにそれぞれコンジュゲートされたAβ1−7およびAβ1−6に対応する同様の一価ワクチン構築物を使用していると考えられる。Aβ1−7/CRM197ワクチン構築物はサポニン基剤のアジュバントQS−21と共に投与すべきであると考えられているが、Aβ1−6/VLP構築物はアジユバントと共に投与されない。
【0035】
現在臨床治験中のADに対する能動ワクチンは、Aβ配列のN末端残基1を含み、6から7アミノ酸の長さである。これに対照的に、出願人が利用したMVCは、Aβ残基3に対応しており残基10で終結する1つの免疫原性Aβフラグメントと残基21に対応しており残基28で終結する第二の免疫原性Aβフラグメントとを含む。ここに証明したように、このMVCは、Aβ残基1で開始するペプチドを使用する他の能動ワクチン法に比較してより多様なN末端欠失Aβ形態を認識する。何らかの理論に束縛されることは望んでいないが、WO 2006/121656に記載された他の多価ワクチン構築物は同様の特異性で作用すると考えられる。多価8−mer抗原を使用するとき、ここに記載のようなワクチン構築物に組込むことができるいずれかのフラグメント長が抗原特異的T細胞応答を刺激することなく所望のポリクローナル応答を産生するならば、該フラグメント長に相当する応答が産生されるであろうことを、当業者は認識および理解するであろう。したがって、ここに記載の発明は代替実施態様において7−mer、6−mer、5−merおよび4−merを非限定的に含むAβフラグメントを含むことができよう。
【0036】
ここに記載の実験に着手する前に出願人らはワクチン構築物の組成に基づいて、全長形態またはN末端欠失形態のいずれのAβ形態がワクチン接種した動物から得られた抗血清と交差反応するかについて予測を試みた。これらの予測を、多価ワクチン構築物(Aβ3−10/Aβ21−28)(MVC)および一価ワクチン構築物(Aβ1−8(MoVC1−8)から得られた抗血清と交差反応した実際の種に比較して表1に示す。また、Aβの各形態の交差反応性の程度を図1および図2に示す。図1および図2から明らかなように、ここに記載のMVCは、MoVC1−8構築物に比較してより多い種類のN末端修飾Aβペプチドを認識しただけでなく、疾患の最も重篤な形態に最も関連した形態、具体的にはpGlu3Aβ3−42に対してより高度な交差反応性を有していた。極めて簡潔ではあるがこのデータは、多価ワクチンが8アミノ酸以下のペプチドから成るワクチンに比較して、遊離N末端で開始する欠失形態(Aβ1−x)に結合できる抗体を誘発する見込みが高いことを証明する。
【0037】
【表1】

【0038】
いくつかのN末端欠失Aβペプチドは残基1で開始するペプチドに比較してより高度に毒性であるかまたは同等に毒性であるが、特に1つのペプチド、すなわち、残基3で開始しグルタミニルシクラーゼによって修飾されたpyroglu3Aβ(pGlu3Aβ3−42)と命名されたAβは数桁も高い毒性を示す。この欠失Aβ形態の優勢な存在がニューロン変性の強度および臨床表現型の重篤度に正比例することが判明した(Youssefら,Neurobiology of Aging,29:1319−1333,2008)。出願人らは、一価ワクチン(MoVC1−8)による免疫感作後に生成された哺乳動物の血清が毒性種pGlu3Aβ3−42と交差反応しないことを証明した。臨床治験で現在使用されているもっと短いペプチド免疫原(Aβ1−7およびAβ1−6)もまたpGlu3Aβ3−42形態を認識できないであろうことも、当業者は理解および認識するであろう。Aβ3−8およびAβ21−28を含むワクチンのような他の多価ワクチンによる免疫感作がAβのN末端欠失形態および最も普通に見られるC末端欠失形態である−38、−40および−42を含む様々なカルボキシ末端で終結する形態を認識することも予測されるであろう。
【0039】
この交差反応性によって証明されたように、特許請求した発明は、アルツハイマー病脳のプラーク中に存在する多様なN末端欠失Aβ形態の存在に起因するADのより重篤な形態という臨床上の問題に取組んだものである。何らかの理論に束縛されることは望んでいないが、現在臨床評価が行われているようなN末端残基1を含み6または7アミノ酸の長さに限定されたペプチドを使用しているADワクチンに対して考えられる1つの限界は、恐らくはこれらのワクチンがインビボのこれらの限られたAβ形態に対してのみ、具体的にはN末端残基を含んでいたAβ形態に対してのみ免疫応答を産生していたことである。好ましい形態においては、ADワクチンが残基1を含む形態に加えてすべてのN末端欠失Aβ形態に特異的に交差反応する抗体の形態で免疫応答を誘発することが望ましいであろう。AβのN末端欠失形態はADのより重篤な形態に相関しているので、このようなより広域の認識はもっと広い臨床集団に使用できると期待される。したがって、ここに特許請求した発明、すなわち、すべてのN末端欠失Aβ形態を認識するAβ3−10およびAβ21−28に対応する免疫原性Aβフラグメントから成るワクチンを代表例とする多価ワクチンの使用が、ADのより重篤な形態を有しているAD患者に対して、N末端残基1を含むAβ形態を認識するだけの一価ワクチンから与えられるよりも有効な治療効果を与えるであろうことを、当業者は理解および認識するであろう。この理論的根拠によって、Aβ1−6またはAβ1−7によって免疫感作された患者はMVCでワクチン接種された患者と同じ程度には保護されないであろう。特にAβのN末端欠失形態の毒性作用を防御できないであろう。
【0040】
治療方式
ADのより重篤な形態および他のアミロイド疾患を治療的に処置するためのここに記載の多価ワクチンの有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、投与される他の医薬、処置が治療的すなわち疾患症状の発生後であるかまたは予防的すなわち疾患症状の発生防止のためであるか、を非限定的に含む多くの要因に従って様々に変更されるであろう。好ましい実施態様においては患者がヒトであり、治療薬は注入によって投与されることになる。
【0041】
免疫原または治療薬の使用すべき量はまた、アジュバントが同時にまたは順次に投与されるか否かにも左右され、アジュバントが使用されないときにはより高い用量で使用される。
【0042】
免疫原または治療薬の使用すべき量は変わるが、ヒトに使用する場合には一回の注入あたり0.5から50μgのペプチド(Aβペプチド含量を基準とする)という範囲の量が考えられる。ここに記載のタイプの抗原を含む組成物をどのように配合するかは当業者に周知であろう。
【0043】
投与方式は、一次免疫感作とその後に設定間隔毎に行うブースター注射とから成る。一次免疫感作とブースター免疫感作との間の間隔、複数のブースター注射間の間隔、ブースター免疫感作の回数は、ワクチンによって誘発された抗体価および持続期間に従属するであろう。また、抗体応答の機能的有効性、すなわち、AD発生を予防するためまたはAD患者の治療効果を発揮するために必要な抗体価のレベルにも左右されるであろう。典型的な方式は、1、2および6カ月目に行う初回注入セットから成る。別の方式は1および2カ月目に行う初回注入から成る。いずれの方式の場合にも、抗体価および持続期間次第でブースター注射が6ヶ月毎または1年毎に行われるであろう。投与方式はまた、患者の免疫応答のモニタリングによって判断された必要性に基づく。
【0044】
ADのより重篤な形態の治療に使用するための免疫原性Aβフラグメントの選択
本発明がまた、AβのN末端またはC末端欠失形態に広域にかつ特異的に交差反応する抗体の形態の免疫応答を産生できる新規なワクチンを同定する方法を提供することを、当業者は理解するであろう。1つの実施態様においては、モルモットまたは他の齧歯類のような動物を免疫感作するために被験免疫原性Aβフラグメント、すなわち、被験ワクチン構築物が使用されるであろう。ワクチン構築物はさらに、ペプチド構築物がタンパク質担体にコンジュゲートされたコンジュゲートを含むであろう。ワクチン構築物はまた、免疫応答の性質および/または大きさを修飾するために場合によってはアジュバントと共に投与されるであろう。免疫感作動物から得られた抗血清をELISAまたは他のフォーマットで試験し、pGluAβ3−42、pGluAβ11−42、pGluAβ3−40またはpGluAβ11−40を非限定的に含む1つ以上の欠失Aβ形態と特異的に交差反応する構築物でワクチン接種することによって産生されたポリクローナル抗体の存在を評価した。ADのより重篤な形態またはAβの欠失形態を特徴とする関連疾患をもつ患者の治療に使用するために、広域的および特異的交差反応性を産生するワクチン構築物が選択されるであろう。該疾患においては重篤度がAβのN末端欠失種の存在に正比例しており、認識スコア、遺伝子スクリーニングまたは臨床観察に基づいて同定されたADのより重篤な形態を示す患者が特に治療に応答性であることを、当業者は認識および理解するであろう。
【実施例1】
【0045】
A.ペプチドおよび免疫原の調製
ここに使用したペプチドはAβ42を除いてAnaspec,San Jose,CAから購入した。これらのペプチドの一覧を表2に示す。Aβ42は実施例1.B.に示したように調製した。
【0046】
【表2】

【0047】
B.Aβ1−42および他のAβペプチドの調製
Rink Amide MBHA樹脂を出発材料とし、全自動ペプチドシンセサイザーで、Fmoc化学プロトコルを製造業者(Applied Biosystems,Foster City,CA)によって供与された通りに使用する固相合成によってAβ1−42ペプチドを調製した。組立後に、94.5%のトリフルオロ酢酸、2.5%の1,2−エタンジチオール、1%のトリイソプロピルシランおよび2.5%のHOのカクテルを使用して樹脂結合ペプチドを脱保護し、樹脂から開裂した。2時間の処理後に反応物を濾過し、濃縮し、得られた油をエチルエーテルと混練した。固体生成物を濾過し、50%酢酸/HOに溶解し、凍結乾燥した。半精製生成物の精製はC−18サポート上で0.1%のTFA/HO/アセトニトリル勾配を使用するRPHPLCによって完了した。画分を分析用HPLCによって評価した。純粋な画分(>98%)をプールして凍結乾燥した。アミノ酸解析および質量分析によって一致を確認した。
【0048】
すべての他のペプチドは、Anaspec,San Jose CAにおいて同様のFmoc化学を使用して合成された。
【0049】
C.Aβ1−8−KLHコンジュゲ―トの調製
2mgのAβペプチド(8−mers)を1mlの市販マレイミドコンジュゲーションバッファ(83mMのリン酸ナトリウム、0.1MのEDTA、0.9MのNaCl、0.02%のナトリウムアジド,pH7.2(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)に懸濁させた。市販のマレイミド活性化KLH(Pierce Biotechnology,Rockford,IL)の2mgのサンプルをペプチドに添加し、25℃で4時間反応させた。100,000Daの透析チュービングを使用しPBSバッファに対して徹底的な透析を行うことによって未反応ペプチドおよび試薬からコンジュゲートを分離した。コンジュゲートに取り込まれたペプチドの量は70時間の酸加水分解後のアミノ酸解析によって推定した。ペプチド濃度は0.24mg/mlから0.03mg/mlまでの範囲であると判定された。
【0050】
D.ブロモアセチル化Aβ(3−10)(21−28)の合成
Applied Biosystemsのモデル430Aの全自動シンセサイザーで、アミノ酸導入用ダブルカップリングプロトコルを使用する標準t−Boc固相合成によってブロモアセチル化ペプチドを調製した。カルボキシ末端Fmoc−Lys(ivDde)−OH[ivDde=1,(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソ−シクロヘキシリデン)−3−メチル−ブチル]がMBHA樹脂にカップリングした後に、ピペリジンを使用してα−アミノFmoc保護基を除去し、t−Boc−Lys(Fmoc)−OHを導入して合成を継続した。t−Boc基の脱保護後、ABIシンセサイザーで以下のt−Boc保護アミノ酸:Aha,Y,G,S,D,H,R,F,Eによって配列を伸長し、酢酸カップリングによってアミノ末端をキャップした。側鎖リシンFmoc保護基をピペリジンで除去し、ABIシンセサイザーで以下の保護アミノ酸:Aha,K,N,S,G,V,D,E,Aを導入してリシンのNεアームを伸長し、酢酸カップリングによってアミノ末端をキャップした。ジメチルホルムアミド中の5%ヒドラジンで5分間処理することによってivDde保護基を除去すると、カルボキシ末端リシンに非ブロックのNεアミノ基が与えられた。溶媒としてメチレンクロリド中でNεアミノ基を無水ブロモ酢酸と30分間反応させた。樹脂支持体からのペプチドの除去は液体フッ化水素酸およびスカベンジャーとして10%アニソールで処理することによって行った。逆相C−18シリカカラムで0.1%TFA/アセトニトリル勾配を使用する分取HPLCによってペプチドを精製した。ペプチドの一致および均質性は分析用HPLCおよび質量分析によって確認した。
【実施例2】
【0051】
モルモット抗Aβペプチド血清の生成
6から10週齢の雌のモルモットはCharles River,Inc.,Raleigh,North Carolinaから入手し、Merck Research Laboratoriesの動物施設に収容施設の指針に従って維持した。すべての動物実験はMerck Research Laboratories Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。Aβペプチドコンジュゲート、Aβ1−8(MoVCAβ1−8)−KLHおよびAβ(3−10)(21−28)(MVC)−OMPCをそれぞれ、100μg/mlのISCOMATRIX(R)(CSL,Ltd.,Parkville,Australia)および100μg/mlのISCOMATRIX(R)に450μg/mlのMerckアルミニウム明礬を加えたものに配合した。ペプチド含量に基づいた最終抗原濃度はAβ1−8−KLHおよびAβ(3−10)(21−28)−OMPCのそれぞれで8μg/mlおよび4μg/mlであった。2匹のモルモットに400μgの各コンジュゲートを4週間隔で2回筋肉内投与することによって免疫感作し、二回目の免疫感作の3週後から4週後までの間に血液サンプルを採取した。各群から採取した血清サンプルをプールし、使用するまで4℃で保存した。
【実施例3】
【0052】
Aβペプチドの様々な形態に対するモルモット抗血清の結合
全長AβペプチドおよびN末端欠失Aβペプチドに対するモルモット抗血清の結合活性はエンザイムリンクトイムノソルベントアッセイ(ELISA)によって測定した。96ウェルプレート(Immuno 96 Micro WellTM Plate,ThermoFisher Scientific,Rochester,NY)に、PBS中で4μg/mlの濃度にした表2に示す様々なAβペプチドをウェルあたり50μlの量でコートし4℃で一夜維持した。0.05%のTween−20(PBST)を含有するPBSでプレートを6回洗浄し、PBST中の3%スキムミルク(milk−PBST)でブロックした。モルモット抗血清はmilk−PBST中で4倍系列希釈によって調製した。100μlの希釈抗血清を各ウェルに加え、プレートを室温で2時間インキュベートし、次いでPESTで3回洗浄した。milk−PBSTで1:5000に希釈したHRP−コンジュゲートヤギ抗モルモット二次抗体(Jackson Immuno Research,West Grove,PA)をウェルあたり50μlの量で添加し室温で1時間インキュベートした。プレートを6回洗浄し、次いで3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(Virolabs,Chantilly,VA)をウェルあたり100μlの量で加えた。室温で3から5分間のインキュベーション後、ウェルあたり100μlの停止溶液(Virolabs,Chantilly,VA)を加えて反応停止させた。プレートをVersaMaxTMマイクロプレートリーダー(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)に入れ、450nmで読取りを行った。
【0053】
このアッセイの結果を、MoVC1−8およびMVCに対するモルモット抗血清に対して様々なAβペプチドを評価する図1および2のグラフに示す。グラフは各ペプチドに対して三重複で行った各被験サンプルから得られた平均吸光度を使用している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)患者がアルツハイマー病(AD)のより重篤な形態を有していることを判定する段階と、(ii)免疫応答を誘発するために有効な量で、免疫原性Aβフラグメントを投与する段階とを含む、ADのより重篤な形態を有している患者の治療方法。
【請求項2】
ADのより重篤な形態を有している患者が、Mini−Mental State Exam(MMSE)スコア20以下の個人、Alzheimer’s Disease Assessment Scale−Cognitive(ADAS−Cog)スコア35以上の個人、Global Deterioration Scale(GDS)スコアがステージ5以上の個人、Clinical Dementia Rating−Sum of Boxes(CDR−SB)スコア2以上の個人、60歳から64歳以下の年齢でAD症状を有している個人、または、遺伝子スクリーニング後に早発型アルツハイマー病(EOAD)もしくは家族性AD形態を有していると診断された個人から成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫原性Aβフラグメントが、それぞれがT細胞エピトープの欠損した多様な不連続の免疫原性Aβフラグメントを含む多価ワクチンを包含する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
多価ワクチンが、リシンスカフォールドを介して連結されたAβ3−10とAβ21−28とを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多価ワクチンがさらに、免疫原性Aβフラグメントにコンジュゲートされた担体を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
多価ワクチンがアジュバントと共に投与される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(i)免疫応答を誘発するために有効な量で被験免疫原性Aβフラグメントを動物に投与する段階と、
(ii)免疫感作動物から得られた抗血清をAβのN末端欠失形態に対する交差反応性について評価する段階と、
を含み、Aβの1つ以上のN末端欠失形態に特異的な抗体の形態で免疫応答を誘発できる構築物を適切なワクチン構築物として選択することを特徴とする、アルツハイマー病(AD)のより重篤な形態を有している患者の治療に適切なワクチン構築物として使用するための免疫原性Aβフラグメントの選択方法。
【請求項8】
AβのN末端欠失形態が、Aβx−42、pGlu−Aβ3−40、pGlu−Aβ3−42、pGlu−Aβ11−40およびpGlu−Aβ11−42から成る群から選択され、ここにxは天然に存在するAβの残基2から17に対応する請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−527681(P2011−527681A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517486(P2011−517486)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/049475
【国際公開番号】WO2010/005858
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】