説明

アルデヒド副生物の除去方法

【課題】アルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を効率的に除去する方法を提供すること。
【解決手段】プロピレンオキサイド製造プロセスにおけるアルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を除去する方法であって、反応剤を前記水溶液に混合することで、前記アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換させることを含む方法。
さらに、上記方法に引き続いて、前記プロピレンオキサイド水溶液からプロピレンオキサイドを放散させることによる、精製プロピレンオキサイドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキサイドの製造において、アルデヒドが一部副生する場合があることが知られている。これらのアルデヒドが混入することで、毒性、刺激臭、腐食、色素体の形成等の問題を生じうるが、これらアルデヒドの除去は容易ではなく、除去には費用及び手間がかかる補助操作が必要とされている。
特許文献1には、エチレンオキサイドの製造で副生するホルムアルデヒドを除去するために亜硫酸塩等が用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−330746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を効率的に除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段について検討した結果、以下の発明を見出した。
[1] プロピレンオキサイド製造プロセスにおけるアルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を除去する方法であって、
反応剤を前記水溶液に混合することで、前記アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換させることを含む方法。
[2] 前記反応剤が亜硫酸塩、重亜硫酸塩、酸化剤又は還元剤である、[1]記載の方法。
[3] 前記プロピレンオキサイド製造プロセスが、金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させるプロセスである、[1]又は[2]記載の方法。
[4] 金属触媒が、(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である、[3]記載の方法。
[5] [1]乃至[4]のいずれか記載の方法に引き続いて、前記プロピレンオキサイド水溶液からプロピレンオキサイドを放散させることによる、精製プロピレンオキサイドの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、アルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を効率的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、プロピレンオキサイド製造プロセスにおけるアルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を除去する方法であって、反応剤を前記水溶液に混合することで、前記アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換させることを含む方法に関する。
【0008】
アルデヒド副生物としては、プロピレンオキサイド製造において副生して混入するアルデヒドが挙げられ、プロピレンオキシドの製造方法及びその製造に用いる原料に応じて変わりうる。アルデヒド副生物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン等が挙げられる。銅及び/又はルテニウム等の触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させて、プロピレンオキサイドを製造する場合、アルデヒド副生物としては、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる(WO2011/075458等)。
【0009】
反応剤としては、アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換できるものが挙げられ、例えば、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、酸化剤、還元剤、ヒドラジン類等が挙げられる。亜硫酸塩、重亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、二亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム等が挙げられ、アルデヒド副生物と反応して対応するα−ヒドロキシスルホン酸塩を形成することで揮発性の低い反応生成物に変換する。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酸等の過酸化物、過マンガン酸カリウム、電解酸化、酸素等が挙げられ、アルデヒド副生物と反応して対応するカルボン酸を形成することで揮発性の低い反応生成物に変換する。還元剤としては、例えば、鉄イオン、電解還元等が挙げられ、アルデヒド副生物と反応して対応するアルコールを形成することで揮発性の低い反応生成物に変換する。ヒドラジン類としては、例えば、ジニトロフェニルヒドラジン等が挙げられ、アルデヒド副生物と反応して対応するヒドラゾンを形成することで揮発性の低い反応生成物に変換する。好ましい反応剤としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩等が挙げられ、より好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0010】
本発明が適用できるプロピレンオキサイドの製造方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)及び(j)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0011】
上記のプロピレンオキサイド製造方法で製造されたプロピレンオキサイドを、プロピレンオキサイド吸収塔に導いて、水又は水を主成分とする吸収液と向流接触させることで、プロピレンオキサイドの水溶液又は吸収液溶液(本明細書では、合わせてプロピレンオキサイド水溶液と呼ぶ)を得る。本プロピレンオキサイド水溶液には、副生するアルデヒド副生物も含まれる。プロピレンオキサイド水溶液に含まれるアルデヒド副生物は、プロピレンオキサイドの製造方法によって変わるが、例えば、痕跡量から3000ppm又はそれ以上までの濃度で含まれる。また、プロピレンオキサイド水溶液は、一般には、約35℃〜約140℃の範囲の温度を有し、また約2〜約8の範囲のpHを有する。本発明の除去方法に用いる反応剤に応じて、温度及びpHを適宜調整することが好ましい。
【0012】
プロピレンオキサイド製造プロセスにおけるアルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から前記アルデヒド副生物を除去するには、反応剤を前記水溶液に混合し、前記アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換させることで実施することができる。例えば、亜硫酸塩、重亜硫酸塩を反応剤として用いる場合について以下に説明する。
【0013】
亜硫酸塩、重亜硫酸塩の使用量としては、プロピレンオキサイド水溶液に含まれるアルデヒド副生物1モルに対して、少なくとも1モルが挙げられ、好ましくは約1.5モル〜約100モル、より好ましくは約2モル〜約50モルが挙げられる。好ましくは、亜硫酸塩、重亜硫酸塩を、水溶液として、プロピレンオキサイド水溶液に添加する。亜硫酸塩、重亜硫酸塩の水溶液の濃度としては、特に制限はないが、操作性等の観点から、より高濃度で調整することが好ましい。
【0014】
亜硫酸塩、重亜硫酸塩とアルデヒド副生物との反応における反応温度としては、通常、約0℃〜約100℃まで又はそれ以上の温度、好ましくは約25℃〜約100℃の温度が挙げられる。亜硫酸塩、重亜硫酸塩とアルデヒド副生物との反応における水溶液のpHとしては、通常、約1〜約10、好ましくは約5〜約8である。反応温度及びpHは、アルデヒド副生物の種類、濃度に応じて、適宜調整することができる。しかし、生成するα−ヒドロキシスルホン酸塩は、高温及び/又は高pHで分解するため、例えば、約150℃以上の温度、約10以上のpHは避けるべきである。また、本反応において、アルデヒド副生物の含量の低下をモニターして、亜硫酸塩、重亜硫酸塩を追加する、あるいは温度、pHを変更することもできる。
【0015】
本発明の除去方法によれば、プロピレンオキサイド水溶液に含まれるアルデヒド副生物の濃度が例えば約100ppm等の低濃度であっても、速やかに、また効率的にα−ヒドロキシスルホン酸塩に変換することができる。
【0016】
このα−ヒドロキシスルホン酸塩は不揮発性であるため、本発明の除去方法を行った後、プロピレンオキサイド水溶液からプロピレンオキサイドを容易に単離ことができる。例えば、本プロピレンオキサイド水溶液をプロピレンオキサイド放散塔に送出して、低圧化及び加熱蒸気によるスリッピングを行うことで、プロピレンオキサイドを主体とするガスを塔頂から放散することで、精製プロピレンオキサイドを得ることができる。
【0017】
また、アンバーライト(商標)及びアンバーリスト(商標)等の陰イオン交換樹脂に亜硫酸塩、重亜硫酸塩の水溶液を流して、亜硫酸イオンを上記樹脂上に結合させて、そこにアルデヒド副生物を含有するプロピレンオキサイド水溶液を通過させることで、上記樹脂床上で、α−ヒドロキシスルホン酸塩を形成させ、上記樹脂上に残留させることもできる。これによって、アルデヒド副生物を含まないプロピレンオキサイド水溶液が調製される。なお、該樹脂は、塩基性溶液で洗浄して結合アルデヒドを解放することにより再生することができる。
【実施例】
【0018】
実施例1
(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させて製造したプロピレンオキサイド(WO2011/075458)を、水に溶解させて、プロピレンオキサイド水溶液を得た。このプロピレンオキサイド水溶液には、アルデヒド副生物としては、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド等が含まれている。
本プロピレンオキサイド水溶液に、含有するアルデヒド副生物1モルに対して、1.5モル〜10モルの重亜硫酸ナトリウムを含む水溶液を添加して、室温で撹拌する。WO2011/075458に記載のガスクロマトグラフィー条件に従って、プロピレンオキサイド、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒドの含量を分析する。
その結果、プロピレンオキサイドの含量はほぼ変化がないが、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒドの含量が低下することが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によって、アルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を効率的に除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンオキサイド製造プロセスにおけるアルデヒド副生物を含むプロピレンオキサイド水溶液から、前記アルデヒド副生物を除去する方法であって、
反応剤を前記水溶液に混合することで、前記アルデヒド副生物を揮発性がより低い反応生成物に変換させることを含む方法。
【請求項2】
前記反応剤が亜硫酸塩、重亜硫酸塩、酸化剤又は還元剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記プロピレンオキサイド製造プロセスが、金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させるプロセスである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
金属触媒が、(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの請求項記載の方法に引き続いて、前記プロピレンオキサイド水溶液からプロピレンオキサイドを放散させることによる、精製プロピレンオキサイドの製造方法。

【公開番号】特開2013−82666(P2013−82666A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−100978(P2012−100978)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】