説明

アルデヒド類捕集剤及びこれを用いた木質板の製造方法

【課題】木質材料とホルムアルデヒド系接着剤を用いて木質板を製造する際に、ホルムアルデヒド除去のためのアルデヒド類捕集剤を用いる場合、予め接着剤或いは木質材料にアルデヒド類捕集剤を添加すると、熱圧成型までに、アルデヒド類捕集剤が接着剤と反応し、熱圧による硬化が不十分になってしまい、木質板の強度が低下することである。
【解決手段】アルデヒド類捕集用複合物を含有し、前記アルデヒド類捕集用複合物は、少なくとも1種類以上のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒または複数のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒からなる塊と、前記アルデヒド捕集用化合物の粉末、粒または塊の外側表面の少なくとも一部を被覆する外被物とからなり、前記外被物は、その融点が40〜140℃の高分子化合物またはワックス類であり、かつアルデヒド類及び前記アルデヒド捕集用化合物との反応性を有しないアルデヒド類捕集剤とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を捕集し、除去するためのアルデヒド類捕集剤に関し、更に詳しくはホルムアルデヒド系接着剤を用いて木質材料を接着して木質板を製造する際に用いるアルデヒド類捕集剤に関する。またこれを用いた木質板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーティクルボード、合板、木質繊維板等の木質板の製造には、ホルムアルデヒド系接着剤(フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂)などを接着剤として使用する場合がある。この場合、木質板から、前記ホルムアルデヒド系接着剤に起因する遊離したホルムアルデヒドが大気中に放出され、環境や健康に害を与える問題がある。
【0003】
従来、この問題の解決手段として、ホルムアルデヒドと反応してこれを捕集するいわゆるホルムアルデヒド捕集剤として、尿素、亜硫酸塩、ヒドラジド類を木質材料表面に塗布することが行われている(特許文献1、特許文献2参照)。この場合、ホルムアルデヒド捕集剤は通常水等に希釈して、スプレー塗工、ロール塗工等で塗布される。木質板は、ホルムアルデヒド捕集剤を塗布後、積み重ねて保管され、出荷される。
【特許文献1】特開平11−240002号公報
【特許文献2】特開2002−331504号公報
【0004】
ところで、木質板はアルデヒド捕集剤を塗布後、表面美観を向上する為及び所要の寸法とする為に表面を薄く研磨して出荷されるのが通常であるが、表面研磨を行った場合、特に研磨厚が大きい場合には木質板表面に存在するアルデヒド類捕集剤も少なくなり、その結果、上記手段ではホルムアルデヒド捕集能が低下或いはなくなってしまうという問題が生じる。この問題を解決する手段として、木質材料中に亜硫酸ナトリウムや尿素をホルムアルデヒド捕集成分として添加してホルムアルデヒド放散量を低減する方法が提案されている(特許文献3)。
【特許文献3】特開平10−119010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルデヒド類捕集剤に含まれるアルデヒド類捕集成分はホルムアルデヒドと反応して吸収するのであるから、熱圧成型前、すなわち接着剤が未硬化で木質材料中に存在する状態でアルデヒド類捕集剤を添加した場合、接着剤中のホルムアルデヒドと反応してしまい、熱圧による硬化が阻害され、木質板の強度が低下することが問題となっていた。また、熱圧成型前にアルデヒド類捕集用化合物の多くが消失し、熱圧成型後の木質板からのホルムアルデヒド捕集能が低下してしまうことも問題であった。
【0006】
そこで、本発明では、木質材料をホルムアルデヒド系接着剤で接着して木質板を製造する際に、アルデヒド類の放出を抑えつつ、かつ熱圧成型までは、接着剤成分と反応せず、接着剤の性能低下を抑えることのできるアルデヒド類捕集剤を提供し、またこれらを用いたアルデヒド類の放出と強度低下が抑えられた木質板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、粉末または粒状のアルデヒド捕集用化合物を1粒若しくは複数の塊として、その外側表面を外被物によって被覆されたアルデヒド類捕集用複合物を主成分として含有するアルデヒド類捕集剤とするが、前記外被物は、その融点が40〜140℃の高分子化合物またはワックス類であり、かつアルデヒド類及び前記アルデヒド捕集用化合物との反応性を有しないものとすることにより、熱圧工程にて初めて十分なアルデヒド捕集能を無駄なく発揮できる、すなわち熱圧成型までの間、接着剤の能力を阻害することのないアルデヒド類捕集剤とすることができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
また本発明者らは、融点が50〜120℃のパラフィンワックスまたはマイクロクリスタリンワックス、油脂硬化油、ポリエチレンワックスが特に好適な化合物であることも見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルデヒド類捕集剤は、アルデヒド類捕集用化合物の外側を外被物で被覆することにより、ホルムアルデヒド系接着剤とともに熱圧成型前の木質材料中に添加しても、接着剤と反応して接着有効成分が消失することが少ない。その一方、熱圧成型時には、前記外被物が溶融液化してアルデヒド類捕集用化合物を放出するので、熱圧成型後の木質板からのホルムアルデヒドの放散を効果的に抑制することができる。
【0010】
また、前記外被物は、硬化前の接着剤との反応が少ない為に、硬化阻害が小さく、熱圧成型後も強度低下の殆どない木質板が製造可能となる。従って、ホルムアルデヒド系接着剤を使用してパーティクルボード、MDF、合板等の木質板を製造するに際し、本発明によるアルデヒド類捕集剤を木質材料中或いは接着剤中に添加、分散させて熱圧成型により得られる木質板は、表面研磨の有無によらずホルムアルデヒド放散量の低いものであって、かつ強度低下の少ないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(アルデヒド類捕集剤)
本発明のアルデヒド類捕集剤は、ホルムアルデヒド系接着剤を用いて木質材料を接着して木質板を製造する際に、接着剤から発生するアルデヒド類を除去するため、前記木質材料中或いは前記接着剤中に添加、分散して使用するものである。本発明のアルデヒド類捕集剤は、粉末状若しくは粒状アルデヒド捕集用化合物自体で構成されているものではなく、アルデヒド捕集用化合物自体と外被物からなるアルデヒド類捕集用複合物によって構成されているものである。ただし、後述のとおり、アルデヒド類捕集用複合物のみよって構成されている必要はない。
【0012】
(外被物)
本発明で用いる外被物は、その融点が40〜140℃の高分子化合物またはワックス類であり、かつアルデヒド類及び前記アルデヒド捕集用化合物との反応性を有しないものである。かかる性質を有するものであれば、公知の化合物を用いることができる。かかる性質を有するものであれば、1種類の化合物で構成されていてもよいし、複数の化合物で構成されていてもよい。
【0013】
具体的には、高分子化合物の例としては、ポリエチレングリコールを挙げることができる。一方、ワックス類としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスに代表される天然ワックスや、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、α―オレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、合成脂肪酸エステルに代表される合成ワックスが挙げられる。またこれら天然ワックスや合成ワックスを酸化した酸化ワックス、水添化した硬化油脂(例えば牛脂硬化油やカスターワックスなど)及び変性したワックス誘導体なども挙げられる。更にはオレフィンと無水マレイン酸からなるワックス、オレフィンとアクリル酸からなるワックス、酢酸ビニルからなるワックスまたは高級アルコール、脂肪酸アマイド、ポリエーテルなどのワックスも使用できる。
【0014】
これらの中でも、融点が40℃〜140℃の化合物が好ましく、融点が50℃〜120℃のパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス、油脂硬化油、ポリエチレンワックスがより好ましい。融点が40℃より低いと、夏季においては、熱を加えることなく溶融して、熱圧時に溶融放散する機構が達成されないおそれがあり、また140℃より高いと熱圧成型工程においても十分に溶融されず、同様に溶融放散する機構が達成されにくい為である。更に融点が50℃〜120℃のパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス、油脂硬化油、ポリエチレンワックスとした場合、熱圧成型時に溶融し、包含しているアルデヒド類捕集用化合物を放出しやすく、また、溶融したワックスは撥水性化合物としても作用し、木質板の吸水膨張も防止できる為である。
【0015】
(アルデヒド類捕集用化合物)
アルデヒド類捕集用化合物としては、常温で粉末状或いは粒状であって、アルデヒド類と反応する公知のアルデヒド類捕集能を有する化合物であればよい。好ましい化合物の例としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩類、尿素類、ヒドラジド類等を挙げることができる。
【0016】
亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属塩や、モノエタノールアミン等のアミン塩、アンモニウム塩及びこれらの複塩が挙げられるが、なかでも、アルデヒド類捕集性能をもち、低コストである点より、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウムが好適である。
【0017】
重亜硫酸塩類としては、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩及び亜二チオン酸塩が挙げられる。前記塩の種類は、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、等の金属塩や、モノエタノールアミン等のアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。このうち、ナトリウム塩、カリウム塩などが好ましい。
【0018】
尿素類としては、尿素及び尿素結合を有する化合物が例示され、例えば、メチル尿素、エチル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、グアニル尿素、アセチル尿素、チオ尿素、の他、エチレン尿素、アラントイン等の環状尿素縮合体や、ビウレットなどの尿素二量体などの非環状尿素縮合体などが挙げられる。本発明ではこれら尿素類のうち1種或いは2種以上を併用して使用することもできる。これらのうち好ましい例としては、尿素、エチレン尿素、チオ尿素が挙げられ、なかでも価格等から尿素が好ましい。
【0019】
ヒドラジド類としては、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物、分子中に3個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物を挙げることができる。モノヒドラジド化合物の具体例としては、ラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド等のアルキルヒドラジド化合物が挙げられる。ジヒドラジド化合物の具体例としては、カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジドが挙げられる。ポリヒドラジド化合物の具体例としては、ポリアクリル酸ヒドラジド等を例示できる。これらのなかでも、2塩基酸ジヒドラジド化合物が好ましく、カルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジドがより好ましく、価格や入手のし易さからアジピン酸ジヒドラジドがさらに好ましい。本発明ではこれらヒドラジド類のうち1種或いは2種以上を併用して使用することもできる。
【0020】
かかるアルデヒド類捕集用化合物のなかでも、常温では固体であるが、加温により亜硫酸ガスを発生する性質を有するものが好ましい。このような性質を有する化合物であれば、熱圧成型工程において、アルデヒド類捕集能を有する亜硫酸ガスが発生し、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類とガス状で反応することによりアルデヒド類を除去するため、固体−気体反応でアルデヒド類を除去する他のアルデヒド類捕集能を有する化合物を用いた場合よりも高いアルデヒド類捕集能を発揮できるからである。
【0021】
前記加温より亜硫酸ガスを発生する化合物が、アルデヒド類を捕集する機構は、次のような化学反応をたどることによるものと推測される。アルデヒド類としてホルムアルデヒド、アルデヒド類捕集用化合物として亜硫酸水素ナトリウムの場合を例にとって説明する。
2NaHSO →(加熱)→ NaSO+HO+SO
HCHO+SO+HO → HOCHSOH・・・不安定な酸を生成
HOCHSOH+NaSO → HOCHSONa+NaHSO
【0022】
上記のような性質を有するアルデヒド類捕集用化合物の例としては、上記の亜硫酸水素ナトリウムのような重亜硫酸塩類を挙げることができる。重亜硫酸塩類のうちでも、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩。亜二チオン酸塩などが好ましい。前記塩の種類の例として考えられるものは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等の金属塩や、モノエタノールアミン等のアミン塩、アンモニウム塩等がある。また、亜硫酸塩類であっても亜硫酸マグネシウム,亜硫酸亜鉛、亜硫酸アルミニウム等の塩は、常温で固体であって、加温により亜硫酸ガスを発生させる性質を有するものである。
【0023】
(アルデヒド類捕集用複合物)
前記粉末状或いは粒状のアルデヒド捕集用化合物の外側表面の少なくとも一部が前記外被物によって被覆されたものが、本発明にいうアルデヒド類捕集用複合物である。当該アルデヒド類捕集用複合物は、アルデヒド類捕集用化合物の各粉末或いは各粒子が個別に包含されていることが好ましいが、複数の粉末或いは粒子の集合を一つの塊とした状態で、その外側が被覆されたものであってもよい。
【0024】
また、外被物は、アルデヒド類捕集用化合物粉末、粒子或いは塊の外側表面を完全に被覆し、当該アルデヒド類捕集用化合物が前記外被物を完全に覆っていることが最も好ましいが、少なくともその一部が被覆されているだけでも本発明の効果を得ることができる。熱圧成型前の未硬化状態にある接着剤との接触部分を低減させる機能を有しておれば足りるからである。従って、一部アルデヒド類捕集用化合物が外側に表れたアルデヒド類捕集用複合物であってよい。
【0025】
アルデヒド類捕集用複合物としてアルデヒド類捕集剤に含まれるアルデヒド類捕集用化合物と外被物は、アルデヒド類捕集剤全体で平均した場合、重量比で20/80〜95/5の比率で含有されていることが好ましく、40/60〜90/10の比率で含有されていることがより好ましい。アルデヒド類捕集用化合物が20より少ないとアルデヒド類捕集能が低下し、また、アルデヒド類捕集用化合物を包含しない外被物のみの粒子も多くなる。また95を超えて使用した場合は、逆にアルデヒド類捕集用化合物のみの粒子が多くなりすぎて、実質的に混合した場合と同様となってしまう為である。ただし、個々のアルデヒド類捕集用複合物においては、上記比率範囲を超えるものがあってもよい。
【0026】
なお、アルデヒド類捕集用複合物に用いられるアルデヒド捕集用化合物と外被物は、それぞれ上述の化合物から一種類を選んで用いることもできるが、それぞれ複数の種類を選んでひとつのアルデヒド類捕集用複合物とすることもできる。
【0027】
アルデヒド類捕集用複合物は、その平均粒子径が、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。平均粒子径が大きいと木質材料中に均一に分散することが難しくなり、且つ、木質板表面に白斑として残留しやすくなる為である。
【0028】
(その他の添加剤)
本発明のアルデヒド類捕集剤中には、前記アルデヒド類捕集用複合物の他に、必要に応じて、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、防錆剤の他、製造工程上必要な薬剤、例えば炭酸塩やケイ酸塩、アルミノケイ酸塩等の粉体の流動性向上剤等の添加剤を含有させることもできる。中でも熱圧成型工程において、亜硫酸ガスにてアルデヒド類を捕集する重亜硫酸塩類のような化合物を有する場合には、未反応の亜硫酸ガスを除去するために、熱圧成型工程でアンモニアなどの塩基性ガスを発生させる尿素のような化合物を含有させることが好ましい。
更に本発明のアルデヒド類捕集剤中には、アルデヒド類捕集用化合物の被覆率を向上させるために、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸‐マレイン酸共重合物などのイオン性高分子化合物及びこれらの金属塩や、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリル酸などの脂肪酸及びこれらの塩類などを、本発明に使用する外被物とアルデヒド類捕集用化合物との間に介在させてアルデヒド類捕集用複合物とすることもできる。これらの介在物は、アルデヒド類捕集用化合物と外被物の親和性が悪く、被覆が困難な場合に特に有効である。
【0029】
(アルデヒド類捕集剤の製造方法)
本発明に於けるアルデヒド類捕集剤は、前記アルデヒド類捕集用化合物を、前記外被物で被覆することにより製造できる。製造方法については、既知の被覆技術が使用でき、例えば、化学的製法としては、アルデヒド類捕集用化合物と分散媒界面でポリマーを重合させる界面重合法の他、In Situ重合法、液中硬化被膜法などが挙げられる。
【0030】
また物理化学的方法としては、アルデヒド類捕集用化合物及び外被物の両成分ともに溶解しない貧溶媒中で加温し、外被物を溶融してアルデヒド類捕集用化合物を包含させる溶融分散冷却法の他、水溶液から層分離させる方法、有機溶剤からの層分離させる方法、液中乾燥法等が挙げられる。
【0031】
機械的方法としては、外被物を含んだ溶媒中にアルデヒド類捕集用化合物を分散させて噴霧乾燥して被覆させる噴霧乾燥法の他、気中懸濁被覆法、乾式混合法等が挙げられる。
【0032】
上記によりアルデヒド類捕集剤を作製する場合には、アルデヒド類捕集用化合物及び外被物の性質に応じて適宜使用する溶媒、方法等を選択すればよい。これら被覆技術のなかでも、簡単で安価に量産できる方法として、溶融状態とした外被物中にアルデヒド類捕集用化合物を分散して冷却固化させた後、粉砕する方法及びアルデヒド類捕集用化合物中に溶融状態とした外被物を滴下或いは噴霧して、アルデヒド類捕集用化合物を被覆させて粒子状で固化させる方法が好ましい。
この場合、生産上の効率を考慮すると、外被物の融点より1〜20℃、好ましくは5〜10℃高い温度で外被物を溶融或いは滴下、噴霧することが好ましい。その後、外被物の融点よりも10℃以上、好ましくは20℃以上低い温度まで冷却すれば本発明のアルデヒド類捕集剤を作製することができる。
【0033】
(木質板の製造方法)
ホルムアルデヒド系接着剤を用いて木質板を製造するには、一般に木質材料にホルムアルデヒド系接着剤を添加した上(接着剤添加工程)、圧力を与えながら加熱することにより木質材料を接着する工程(熱圧成型工程)を経る。本発明のアルデヒド類捕集剤を用いて木質板を製造する際には、前記接着剤添加工程に先立って、上記方法で製造したアルデヒド類捕集剤をホルムアルデヒド系接着剤中に含有させて使用することもできるし、接着剤添加前若しくは後或いは同時に、接着される木質材料側に添加させて使用することもできる。
【0034】
具体的な製造例を挙げると、例えばパーティクルボード(以下PBと略す)を製造する場合、比較的細かく粉砕した木質材料を表裏層用として使用し、比較的粗く粉砕した木質材料を芯層用として使用する。表裏層用木質材料中にホルムアルデヒド系接着剤をスプレー添加した後、上記本発明のアルデヒド類捕集剤を添加して分散させる。芯層用も同様に接着剤、アルデヒド類捕集剤を添加する。表裏層に添加するアルデヒド類捕集剤と芯層に添加するアルデヒド類捕集剤は、同一であっても異なっていてもよいが、表裏層に使用するアルデヒド類捕集剤は木質板の表面美観を損なわないものが望ましい。一方、芯層用に使用するアルデヒド類捕集剤はアルデヒド類の捕集能が高いものが望ましい。アルデヒド類捕集剤の添加順序は、接着剤に直接添加する或いは、接着剤の添加前でも後でも或いは同時でも特に限定されないが、接着剤添加の直前、直後或いは同時に木質材料へアルデヒド類捕集剤を添加する方が工程上望ましい。
【0035】
その後、表層−芯層−裏層に積層して加熱する。加熱の際には一般的に圧力を与えながらの熱圧成型を行う。熱圧により木質材料は接着され、木質板となる。熱圧工程の温度、時間は作製する木質板の品質と生産性により適宜決定されるものであるが、本発明のアルデヒド類捕集剤を使用する場合は熱圧成型温度が100〜300℃が好ましく、140〜250℃がより好ましい。また、熱圧成型時間は60秒以上が好ましく、90秒以上がさらに好ましい。温度が低く時間が短いと木質板内部の温度が上昇しにくく、アルデヒド類捕集用化合物を包含する外被物の溶融が不十分となり、アルデヒド類捕集能力が低下する。加えて、アルデヒド類捕集用化合物が、加温により亜硫酸ガスを発生する性質を有するものである場合は、亜硫酸ガスの発生量が少なく、アルデヒド類捕集能力が低下する。逆に温度が高すぎると木質板表面が焦げる等して品質が低下してしまう。
本発明のアルデヒド類捕集剤であれば、この熱圧成型工程にて木質板が加熱されるまでは、アルデヒド類捕集剤は接着剤と接触することがないか若しくは非常に少ないので、熱圧成型工程における接着剤の性能を阻害することがない。なお木質繊維板(MDF)を製造する場合も同様にして上記アルデヒド類捕集剤を添加して木質板を製造することができる。
【0036】
木質板製造におけるアルデヒド類捕集剤の木質材料中への添加量は0.1〜20.0重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1.0〜7.0重量%である。添加量が0.1重量%より少ないと、目的とする捕集能が得られず、20.0重量%より多いと、木質板の表面美観が低下し、製品としての価値が損なわれ、生産コストのアップにも繋がる為である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各例中、特に言及しない限り、部および%は質量基準である。
【0038】
(実施例1)
(アルデヒド類捕集剤の製造)
亜硫酸ナトリウム15部、パラフィンワックス(融点75℃)15部、トルエン100部をコルベンに秤り取り、窒素雰囲気下で120℃に加熱し、パラフィンを溶融した。溶融後、300rpmで攪拌しながら徐々に室温まで冷却し、酢酸エチル30部を加えてさらに攪拌し、生成物を分散させた。生成物を吸引濾過したのち、生成物中に残留する溶媒をメタノールで4〜5回置換洗浄した。濾物を取り出してイオン交換水中で攪拌洗浄後、再度濾過する工程を3回繰り返した後、最後にメタノールで水を置換して濾物として得られたアルデヒド類捕集用複合物を取り出し、室温で乾燥することで、アルデヒド類捕集剤21.5部を得た。
【0039】
上記により作製したアルデヒド類捕集剤を構成するアルデヒド類捕集用複合物の拡大写真を図1に、アルデヒド類捕集用化合物として用いた亜硫酸ナトリウム粒子の拡大写真を図2に示す。なお、図1及び図2には、粒子の大きさを示すため、写真中にスケールを示した。図1及び図2から、結晶亜硫酸ナトリウムがパラフィンワックスに被覆され、結晶表面が外側に表れていないことがわかる。
【0040】
(木質板の作製)
木片等の木質原料をフレーカーで粉砕し、目開き寸法1.7mmの篩で篩い分けをして、篩下の木質材料を表裏層用木質材料、篩上の木質材料を芯層用木質材料とした。篩い分けした木質材料は90℃の熱風乾燥機中で乾燥し、水分を3%以下とした。次に尿素樹脂(不揮発分65%、尿素:ホルムアルデヒド=1:1.2mol)を接着剤として用い、これに55%ワックスエマルション、硬化剤として塩化アンモニウム、及び水をそれぞれ20部、1部、0.5部、2部の割合で混合した(以下混合物Aと称す)。
【0041】
表裏層用木質材料100部に対して前記混合物Aを25部スプレー塗工し、均一混合した。その後、上記方法で作製したアルデヒド類捕集剤を表1に示す割合で添加して混合し、表裏層用材料とした。同様にして芯層用木質材料100部に対し、混合物Aを15部、上記方法で製造したアルデヒド類捕集剤を添加して芯層用材料とした。次に、30cm角の型枠に裏層用材料250部、芯層用材料650部、表層用材料250部を順次敷き詰め、200℃の熱板に挟み40kgf/cmの圧力で90秒間熱圧し、厚み15.2mm、密度0.77g/cmの木質板を得た。なお、上記で用いたアルデヒド類捕集剤の粒径は、目開き寸法2mmの篩いで篩い分けして調整した。
【0042】
(評価)
ホルムアルデヒド放散量、吸水厚さ膨張率及び曲げ強さ試験、剥離強さ試験はパーティクルボード(JIS A 5908:2003)及び建築用ボード類のホルムアルデヒド放散量の試験方法(JIS A 1460:2001)に準じて測定した。木質板の外観は、熱圧後に得た木質板の表面を目視で観察し、白斑の大きさ、多さから良否を決定した。これらの評価結果を表1に示す。なお表中、外観欄の記号の意味は次のとおりである。
【0043】
外観: ◎良好(白斑なし) ○微細白斑僅かにあり △微細白斑多量あり
×大きめの白斑あり ××大きめの白斑多量にあり
【0044】
【表1】

【0045】
(比較例1)
アルデヒド類捕集剤を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして木質板を作製
した。得られた評価結果を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
アルデヒド類捕集剤として、被覆していない亜硫酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして木質板を作成した。得られた評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
(アルデヒド類捕集剤の製造)
外被物としてパラフィンワックス(融点75℃)50部をステンレス製容器に加えて加熱溶融した後、撹拝しながら、アルデヒド類捕集用化合物として亜硫酸ナトリウム50部を加えた。攪拌分散しながら徐々に冷却し、攪拌困難となってきたところで攪拌を止めて、氷水で急冷して固化させ、亜硫酸ナトリウムを被覆するパラフィンワックスの塊を得た。これを0.5〜2cmの大きさに一次粉砕した後、Ultra Centrifugal Mill(ミタムラ理研工業製)で粉砕した。その後、粉砕物を目開き寸法2mmの篩いで篩い分けして粒径を調整したものをアルデヒド類捕集複合物とすることで、アルデヒド類捕集剤を得た。得られたアルデヒド類捕集複合物の拡大写真を図3に示す。なお、図3でも、写真中にスケールを示した。
【0048】
(木質板の作成)
木質板は実施例1記載の方法によって作製した。得られた評価結果を表2に示す。
【0049】
(実施例3〜実施例9、比較例3)
実施例2と同様の方法で、外被物を変更してアルデヒド類捕集剤を作製した。木質板は実施例1と同様の方法で作製した。得られた評価結果を表2(実施例3,4)、表3(実施例5〜7)表4(実施例8,9、比較例3)に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
(実施例10〜実施例13)
実施例2と同様の方法で、外被物としてパラフィンワックス(融点66℃)、アルデヒド類捕集用化合物として亜硫酸ナトリウムを用いて、その割合を変更してアルデヒド類捕集剤を作製した。木質板は実施例1と同様の方法で作製した。得られた評価結果を表5(実施例10〜12)表6(実施例13)に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
(実施例14〜実施例17)
(アルデヒド類捕集剤の製造)
アルデヒド類捕集用化合物として亜硫酸ナトリウム、80部を家庭用ミキサーに入れて攪拌した。容器部分の上部に直径2mm程度の穴を開け、外被物20部を溶融して徐々に滴下する。尚、攪拌羽の軸部分が熱を持つので、随時冷却しながら徐々に滴下を行いアルデヒド類捕集剤を作製した。アルデヒド類捕集剤の粒径は目開き寸法1mm(実施例14),2mm(実施例15)、3mm(実施例16)及び2mm(実施例17)の篩いで篩い分けして調整したものをアルデヒド類捕集複合物とすることで、アルデヒド類捕集剤を得た。得られたアルデヒド類捕集複合物のうち、2mmで篩い分けしたアルデヒド類捕集複合物(実施例15)の拡大写真を図4に示す。なお、図4でも、写真中にスケールを示した。
【0057】
(木質板の作製)
木質板は実施例1記載の方法によって作製した。得られた評価結果を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
(実施例18〜実施例23)
(アルデヒド類捕集剤の製造)
実施例17と同様にしてアルデヒド類捕集用化合物を変更して、アルデヒド類捕集剤を作成した。アルデヒド類捕集剤の粒径は目開き寸法2mmの篩いで篩い分けして調整した。
【0060】
(木質板の作製)
木質板は実施例1記載の方法によって作製した。得られた評価結果を表8(実施例18〜20)〜表9(実施例21〜23)に示す。
【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
上記実施例より、特にアルデヒド類捕集用化合物として、重亜硫酸塩類を使用して本発明を実施した場合には、ホルムアルデヒド放散量が低く、且つ、強度低下が少なくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のアルデヒド類捕集剤は、木質材料をホルムアルデヒド系接着剤で接着する際に木質材料や接着剤に添加する添加剤として産業上利用性がある。また本発明の木質板の製造方法は、ホルムアルデヒド放出の少なく、強度低下のないパーティクルボード、合板、木質繊維板の製造方法として産業上の利用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1記載の方法で作製した本発明に用いられるアルデヒド類捕集用複合物の光学拡大写真である。
【図2】アルデヒド類捕集用化合物として用いた亜硫酸ナトリウム粒子の光学拡大写真である。
【図3】実施例2記載の方法で作製した本発明に用いられるアルデヒド類捕集用複合物の光学拡大写真である。
【図4】実施例15記載の方法で作製した本発明に用いられるアルデヒド類捕集用複合物の光学拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料中或いは接着剤中に添加、分散して使用するアルデヒド類捕集剤であって、
前記アルデヒド類捕集剤は、アルデヒド類捕集用複合物を含有し、
前記アルデヒド類捕集用複合物は、
少なくとも1種類以上のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒または複数のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒からなる塊と
前記アルデヒド捕集用化合物の粉末、粒または塊の外側表面の少なくとも一部を被覆する外被物とからなり、
前記外被物は、アルデヒド類化合物及び前記アルデヒド捕集用化合物との反応性を有せず、かつその融点が40〜140℃である高分子化合物またはワックス類を含むことを特徴とするアルデヒド類捕集剤。
【請求項2】
前記外被物が、その融点が50〜120℃のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、油脂硬化油及びポリエチレンワックスの群からなる化合物の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載のアルデヒド類捕集剤
【請求項3】
前記アルデヒド類捕集剤中における前記アルデヒド類捕集用化合物と前記外被物の存在比率が重量比率で20/80〜95/5である請求項1〜3のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤。
【請求項4】
前記アルデヒド類捕集用複合物の平均粒子径が2mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤。
【請求項5】
前記アルデヒド類捕集用化合物が、重亜硫酸塩類、亜硫酸塩、尿素類及びヒドラジド類の群からなる化合物の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤。
【請求項6】
前記アルデヒド類捕集用化合物が、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムまたはピロ亜硫酸カリウムの群からなる1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤。
【請求項7】
融点が40〜140℃の高分子化合物またはワックス類であり、かつアルデヒド類及びアルデヒド捕集用化合物との反応性を有しない性質を有する外被物を溶融する工程と
前記溶融した外被物中に、粉末状若しくは粒状のアルデヒド類捕集用化合物を分散して投入する工程と
前記アルデヒド類捕集用化合物が分散している前記外被物を冷却し、固化する工程と
前記固化した外被物粉砕し、前記アルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒または複数のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒からなる塊の外側表面の少なくとも一部に、前記外被物が被覆されたアルデヒド類捕集用複合物を得る工程とを少なくとも有する
アルデヒド類捕集剤の製造方法。
【請求項8】
融点が40〜140℃の高分子化合物またはワックス類であり、かつアルデヒド類及びアルデヒド捕集用化合物との反応性を有しない性質を有する外被物を溶融する工程と
粉末状または粒状のアルデヒド類捕集用化合物中に、前記溶融状態とした前記外被物を滴下或いは噴霧する工程と
前記外被物を冷却し、固化し、前記アルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒または複数のアルデヒド捕集用化合物の粉末若しくは粒からなる塊の外側表面の少なくとも一部に、前記外被物が被覆されたアルデヒド類捕集用複合物を得る工程とを少なくとも有する
アルデヒド類捕集剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤をホルムアルデヒド系接着剤中に含有させる工程と
前記工程で得られたアルデヒド類捕集用化合物含有ホルムアルデヒド系接着剤を木質板に添加する工程と
前記工程で得られた接着剤が添加された木質材料を熱圧することにより、前記木質材料が接着され木質板を得る工程とを少なくとも有する木質板の製造方法。
【請求項10】
ホルムアルデヒド系接着剤を木質材料に添加する工程と
請求項1〜6のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤を木質材料中に分散させ、含有させる工程と
前記2つの工程を経て(ただし工程の順序は問わない)得られた接着剤が添加された木質材料を熱圧することにより、前記木質材料が接着され木質板を得る工程とを少なくとも有する木質板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかの項に記載されたアルデヒド類捕集剤を木質材料に添加した後、当該木質材料を熱圧成型することにより得られる木質板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−38661(P2007−38661A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179717(P2006−179717)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(390029458)一方社油脂工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】