説明

アルミナ質繊維粉砕品及びその製造方法並びにそれを用いた樹脂組成物

【課題】繊維長分布が制御されたアルミナ質繊維粉砕品、及びその粉砕品が容易に得られる製造方法、並びにそれを用いた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(1)ネッキングを有したアルミナ質繊維集合体を粉砕してなるアルミナ質繊維粉砕品、(2)ネッキングの間隔が10〜150μmであるアルミナ質繊維集合体を用いる(1)のアルミナ質繊維粉砕品、(3)繊維長の変動係数が10%以下である(1)又は(2)のアルミナ質繊維粉砕品、(4)粉砕をプレス圧力0.1〜20MPaで行う(1)〜(3)のいずれかのアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(5)プレスの加圧速度が0.5〜5MPa/秒である(4)のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(6)圧力の保持時間が30秒以下である(4)又は(5)のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(7)(1)〜(3)のいずれかのアルミナ質繊維粉砕品を含有してなる樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ質繊維粉砕品及びその製造方法、並びにそれを用いた樹脂組成物用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ質繊維集合体の繊維長を制御する方法は、繊維集合体をロールミルやプレス機等で粉砕する方法が知られているが、繊維長分布がブロードとなる問題点があった。この問題を解決するため、一度粉砕した集合体を気流分級装置などで分級処理する方法が検討されている(特許文献1)。しかしながら、得られる集合体の収率が低いという問題点があった。
【0003】
こぶ状のふくらみを有する繊維の製造方法としては、AlとSiOを主成分とする組成物を溶融させる方法(特許文献2)がある。また、塩基性アルミニウム溶液とコロイド状シリカと有機重合体を含む紡糸原液をノズルから吐出させ、前駆体繊維を得て、これを焼成する方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/048000パンフレット
【特許文献2】特開昭62−231010号公報
【特許文献3】特開2002−212836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維長分布が制御されたアルミナ質繊維粉砕品、及びその粉砕品が容易に得られる製造方法、並びにそれを用いた樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(1)ネッキングを有したアルミナ質繊維集合体を粉砕してなるアルミナ質繊維粉砕品、(2)ネッキングの間隔が10〜150μmであるアルミナ質繊維集合体を用いる(1)のアルミナ質繊維粉砕品、(3)繊維長の変動係数が10%以下である(1)又は(2)のアルミナ質繊維粉砕品、(4)粉砕をプレス圧力0.1〜20MPaで行う(1)〜(3)のいずれかのアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(5)プレスの加圧速度が0.5〜5MPa/秒である(4)のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(6)圧力の保持時間が30秒以下である(4)又は(5)のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法、(7)(1)〜(3)のいずれかのアルミナ質繊維粉砕品を含有してなる樹脂組成物、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繊維長分布が制御されたアルミナ質繊維粉砕品が容易に得られる。また、本発明のアルミナ質繊維粉砕品を使用すると良好な物性の樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ネッキングを有するアルミナ繊維の概念図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明でいうネッキングを有するアルミナ質繊維集合体とは、1本のアルミナ質繊維において繊維径が太い部分と細い部分(ネッキング部分)が連続的に、かつ繊維全体にわたって存在し、太い部分の直径を100とすると、ネッキング部分の直径が90以下となっている繊維のことである。つまり、繊維径が太い部分(図1の1)と繊維径が細いネッキング部(図1の2)が繊維全体にわたり連続している繊維である。
本発明で言うネッキング間隔とはネッキング部で繊維径が最も小さい部分から隣り合うネック部の繊維径が最も小さい部分までの距離(図1の3)のことを言う。
【0010】
この特定の間隔のネッキングを有するアルミナ質繊維集合体は、特に製造方法は限定されないが、例えば、以下の方法で製造することが可能である。
(1)塩基性塩化アルミニウムをAl換算で25〜35質量%、シリカゾルをSiO換算で1〜10質量%、ポリビニルアルコールを2〜3.5質量%、ポリエチレングリコールを0.2〜1.8質量%を含み、20℃における粘度が1500〜6000mPa・sの水溶液を調製する工程
(2)上記水溶液を紡糸原液として、回転する中空円盤の側壁に設けられた複数個の細孔から吐出させて液糸化し前駆体繊維とする工程
(3)上記前駆体繊維を集めて焼成した後冷却する工程
を経て、製造することが可能である。
【0011】
ネッキング間隔の制御は、紡糸原液中のポリビニルアルコールとポリエチレングリコールの質量比などを変えることで制御が可能である。
ポリビニルアルコールは重合度が1000〜5000であることが好ましく、ポリエチレングリコールは分子量が300〜1000であることが好ましく、ポリビニルアルコール:ポリエチレングリコールの質量比が1:0.10〜0.5であることが好ましい。
【0012】
本発明は、ネッキングを有するアルミナ質繊維集合体を粉砕することにより得られるアルミナ質繊維粉砕品である。ネッキングの間隔が10〜150μmであるアルミナ質繊維集合体を用いることが好ましく、このことにより、アルミナ質繊維粉砕品の平均繊維長を10〜150μmとすることが可能となる。
平均繊維長が10μmより小さいと樹脂と複合化したとき、充分な補強効果が得られず、150μmを超えると分散性が悪化し、樹脂と均一に混合することが困難となる。また、繊維長の分布がブロードであると均一な補強効果が得られ難くなるため、繊維長の変動係数は10%以下が好ましい。
ネッキングを有するアルミナ質繊維集合体は、繊維径が太い部分に比べ、ネッキング部分の強度が弱い為、圧力をかけると、ネッキング部分から選択的に折れる。その結果、粉砕されたネッキングを有するアルミナ質繊維粉砕品の繊維長は、ほぼネッキング間隔と等しく制御される。
【0013】
本発明のネッキングを有するアルミナ質繊維集合体の粉砕には、プレス粉砕機、ボールミル、攪拌粉砕器、ロールクラッシャーなどを用いることが出来るが、本発明は、プレスで粉砕する方法が好適に使用される。
プレス粉砕とは上下のプレス板の間に原料を投入し上下から圧力を加えて粉砕する方法である。市販品を例示すれば、三庄インダストリー社製商品名「テーブルプレス」、「ロータリープレス」、エヌピーシステム社商品名「ニュートンプレス」などである。
【0014】
プレス圧力は0.1〜20MPaが好ましく、より好ましくは1〜10MPaである。圧力が0.1MPa未満では粉砕が不十分となり、ネック部分で粉砕されない繊維が発生し、繊維長分布がブロードになる場合がある。20MPaを超えると、繊維は通常の部分も粉砕され、所望の繊維長分布より短くなる場合がある。
【0015】
プレスの加圧速度は0.5〜5MPa/秒が好ましい。加圧速度が0.5MPaより小さいと粉砕に必要以上に時間がかかり、5MPaより大きいと急激な加圧により粉砕ムラが発生する場合がある。
【0016】
プレスの最高圧力での保持時間は30秒以下であることが好ましい。保持時間が長すぎると所望の繊維長より短くなりすぎる場合がある。より好ましい保持時間は5〜20秒である。
【0017】
粉砕された繊維の繊維長分布は、市販の粒度・形状分布測定装置(例えば、株式会社セイシン企業社製PITA−1)を用いて測定することができる。粒度・形状測定装置により、水を分散媒として用いて、任意の3000本の繊維長を測定し、その平均値(平均繊維長)と標準偏差を求め、変動係数を以下の式(1)より計算した。なお、繊維長とは、測定繊維の任意の2点間の距離の最大長である。
変動係数(%)=標準偏差/平均繊維長×100
【0018】
本発明の繊維長が制御されたアルミナ質繊維粉砕品を樹脂組成物と複合化させる場合、樹脂組成は、特に限定されないが、エポキシ、アクリル、フェノール等の樹脂が好適である。
【実施例】
【0019】
「実験例1」
Al濃度が23.5質量%のオキシ塩化アルミニウム水溶液4783gとSiO濃度が21.0質量%のシリカゾル1310g、重合度1700のポリビニルアルコールの水溶液(濃度10質量%)1100g、分子量600のポリエチレングリコール18gを混合してから減圧濃縮し、粘度3500mPa・sの紡糸原液を調製した。濃縮後の紡糸原液はAl換算の含有率が29.6質量%、SiO換算の含有率が7.4質量%、ポリビニルアルコールが2.8質量%、ポリエチレングリコールが0.49質量%であった(ポリビニルアルコール:ポリエチレングリコールの質量比が1:0.16)。
この紡糸原液を、回転する直径350mmの中空円盤の側壁に設けられた直径0.2mm(細孔間隔:3.5mm)から吐出させて液糸化し、200℃の熱風に浮遊させて乾燥させながら、下部から吸引する方式の集綿室に搬送し前駆体繊維を集積した。これを、ローラーハウス炉を用い大気雰囲気下で焼成した。焼成は、雰囲気温度が1000℃までを10℃/分で昇温し、1000℃をこえ1200℃までを15℃/分の速度で昇温し、1200℃で30分間保持して行った。得られたアルミナ短繊維集合体のネッキング間隔は60μmであった。
得られたネッキングを有するアルミナ質繊維集合体を、内径8cm、深さが20cmの鋼製モールドに100g投入し、10MPaでプレス粉砕した。なお、加圧速度は3MPa/秒とし、最高圧力で15秒間保持した。得られたアルミナ質繊維粉砕品の物性を表1に示す。
【0020】
[使用材料]
ポリビニルアルコール:電気化学工業株式会社製、デンカポバール、B−17
ポリエチレングリコール:和光純薬工業株式会社製、試薬、ポリエチレングリコール600
オキシ塩化アルミニウム:多木化学株式会社製、タキバイン、#1500
【0021】
【表1】

【0022】
「実験例2」
ネッキング間隔を変える為、ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールの質量比を変え、ネッキング間隔が異なるアルミナ質繊維集合体を製造した。これらの繊維集合体を用いたこと以外は実験例1と同様にアルミナ質繊維粉砕品を製造した。また、比較として、ネッキングのないアルミナ質繊維(電気化学工業社製商品名「デンカアルセンB80L」アルミナ80質量%、シリカ20質量%)を粉砕しアルミナ質繊維粉砕品を製造した。得られたアルミナ質繊維粉砕品の物性を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
「実験例3」
プレス圧力、加圧速度、最高圧力での保持時間等のプレス条件を変えたこと以外は実験例1と同様にアルミナ質繊維粉砕品を製造した。得られたアルミナ質繊維粉砕品の物性を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表3より、プレス圧力、加圧速度、最高圧力での保持時間を適正化することにより、平均繊維長が制御され、標準偏差が小さく、変動係数の小さいアルミナ質繊維粉砕品が得られることが分かる。
【0027】
「実験例4」
実験例1で得られたアルミナ質繊維粉砕品と、市販されているネッキングのないアルミナ質繊維(電気化学工業社製商品名「デンカアルセンB80L」アルミナ80質量%、シリカ20質量%)を実験No.1−1の条件にて粉砕した繊維を各々下記に示す配合割合で各材料を計量し、ビニール袋中でドライブレンドした後、ロール表面温度100℃のミキシングロールを用いて5分間混練を行い、冷却粉砕した。粉砕品をトランスファー成型機(温度175℃、トランスファー出力5.1MPa、成型時間90秒)で直径28mm、厚さ3mmの円板状のエポキシ樹脂硬化体を製造し、熱伝導率測定装置(アグネ社製「ART−TC−1型」)を用い測定環境温度23℃で温度傾斜法にて熱伝導率を測定した。その結果を表4に示す。
【0028】
[使用材料と配合割合]
アルミナ繊維粉砕品:214.7g
アミノ系シランカップリング剤:1.2g(信越化学工業社製商品名「KBE−903」)
エポキシ樹脂:37.2g(ジャパンエポキシレジン社製商品名「YX−4000H」)
エポキシ樹脂:17.1g(日本化薬社製商品名「ECON−1020」)
硬化剤:28.3g(群栄化学工業社製商品名「PSM−4261」)
ワックス:1.9g(クラリアントジャパン社製商品名「WAX−E」)
硬化促進剤:0.7g(北興化学工業社製商品名「TPP」)
【0029】
【表4】

【0030】
表4より、本発明のアルミナ質繊維粉砕品を使用することにより、熱伝導率の高い樹脂組成物が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のネッキングを有したアルミナ質繊維集合体を用いて粉砕することで得られるアルミナ質繊維粉砕品は、例えば、高熱伝導用の樹脂組成物等のフィラーとして広範に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0032】
1:太い部分
2:ネッキング部
3:ネッキング間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネッキングを有したアルミナ質繊維集合体を粉砕してなるアルミナ質繊維粉砕品。
【請求項2】
ネッキングの間隔が10〜150μmであるアルミナ質繊維集合体を用いることを特徴とする請求項1に記載のアルミナ質繊維粉砕品。
【請求項3】
繊維長の変動係数が10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミナ質繊維粉砕品。
【請求項4】
粉砕をプレス圧力0.1〜20MPaで行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法。
【請求項5】
プレスの加圧速度が0.5〜5MPa/秒であることを特徴とする請求項4に記載のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法。
【請求項6】
圧力の保持時間が30秒以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のアルミナ質繊維粉砕品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミナ質繊維粉砕品を含有してなる樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−127039(P2012−127039A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281980(P2010−281980)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】