説明

アルミニウム−セラミックス接合基板およびその製造方法

【課題】 アルミニウム板またはアルミニウム合金板の一部がセラミックス基板に接合しないアルミニウム−セラミックス接合基板を容易且つ確実に製造することができる、アルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 接合防止剤12と溶媒からなる塗料をセラミックス基板10上の所定の部分に噴霧または印刷し、溶媒を蒸発させた後、セラミックス基板10を鋳型14内に配置し、セラミックス基板10に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を鋳型14内に注湯し、アルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を冷却して固化させることにより、所定の部分以外の部分においてセラミックス基板10にアルミニウム板またはアルミニウム合金板16を直接接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム−セラミックス接合基板およびその製造方法に関し、特に、アルミニウム板またはアルミニウム合金板がセラミックス基板に接合したアルミニウム−セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するためのパワーモジュールの絶縁基板として、セラミックス基板の一方の面に金属板が接合するとともに他方の面に放熱用金属ベース板が接合した金属−セラミックス接合基板が使用されている。この金属−セラミックス接合基板は、主に複数の半導体チップを搭載し、大電流を取り出すため、高い電気的絶縁性や放熱性が要求されているとともに、自動車や電車などに搭載されることから、高い信頼性や耐久性も要求されている。
【0003】
このような金属−セラミックス接合基板に繰り返しヒートサイクルを加えると、金属とセラミックスの熱膨張係数の差により、セラミックス基板と金属板との間の接合界面に応力が生じ、最終的にセラミックス基板が破壊されてしまうおそれがある。しかし、金属板としてアルミニウム板を使用すると、アルミニウムの変形し易い性質により、セラミックス基板への応力集中を緩和して、銅板などを使用した場合に比べて、ヒートサイクルに対する信頼性が格段に向上する。そのため、自動車や電車用の高信頼性パワーモジュールの絶縁基板として、セラミックス基板にアルミニウム板が接合したアルミニウム−セラミックス接合基板が使用されている。
【0004】
このようなアルミニウム−セラミックス接合基板を使用して、半導体チップの半田付け、ワイヤボンディングによる配線、プラスチックパッケージの接着などのアセンブリ工程を経て、パワーモジュールが作製される。このようなパワーモジュールを作製する際のワイヤボンディングによる配線を容易且つ確実にするために、アルミニウム−セラミックス接合基板のアルミニウム板の一部がセラミックス基板に接合しないようにし、その非接合部を折り曲げ可能にしてワイヤボンディング部として使用することが望まれている。
【0005】
また、亜酸化銅からなる銅パターンが接合した窒化アルミニウム基板では、銅パターンの一部に半田付けにより端子を接続することができるように、その部分に対応する窒化アルミニウム基板の部分に、窒化ホウ素(BN)や炭素(C)などの亜酸化銅と化合しない物質を塗布することにより、その部分が窒化アルミニウム基板と接合しないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、セラミックス基板上にアルミニウム板を配置した後に、加熱によりアルミニウム板をセラミックス基板に直接接合する方法において、離型材として窒化ホウ素(BN)粉を塗布したAlNからなるスペーサを使用し、アルミニウムとスペーサとの間の接合を防止することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−245555号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2004−128005号公報(段落番号0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、内部にセラミックス基板を配置した鋳型内に注入したアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を固化させることによってアルミニウム板またはアルミニウム合金板をセラミックス基板に直接接合する溶湯接合法では、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の一部がセラミックス基板に接合しないようにするために、その部分に対応するセラミックス基板上の非接合部に窒化ホウ素粉を塗布しただけでは、その部分がセラミックス基板に接合しないようにすることが困難である。すなわち、他の接合方法と異なり、溶湯接合法では、反応性の高いアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯が、セラミックス基板上に塗布された窒化ホウ素粉の上を移動する際に、窒化ホウ素粉がアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯中に取り込まれて接合防止剤の役割を果たすことができず、所望の箇所に非接合部を形成することが困難である。また、窒化ホウ素粉をバインダーと溶剤を用いてペースト状にした後に非接合部に塗布すると、有機成分がアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯中に取り込まれて所望の箇所に非接合部を形成することができなかったり、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の内部に欠陥が生じる場合がある。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の一部がセラミックス基板に接合しないアルミニウム−セラミックス接合基板を容易且つ確実に製造することができる、アルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルミニウム板またはアルミニウム合金板とセラミックス基板との接合を防止する接合防止剤と溶媒からなる塗料をセラミックス基板上の所定の部分に塗布した後、セラミックス基板を鋳型内に配置し、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を鋳型内に注湯し、このアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を冷却して固化させることにより、所定の部分以外の部分においてセラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板を直接接合することにより、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の一部がセラミックス基板に接合しないアルミニウム−セラミックス接合基板を容易且つ確実に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板とセラミックス基板との接合を防止する接合防止剤と溶媒からなる塗料をセラミックス基板上の所定の部分に塗布した後、セラミックス基板を鋳型内に配置し、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を鋳型内に注湯し、このアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を冷却して固化させることにより、所定の部分以外の部分においてセラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板を直接接合することを特徴とする。
【0012】
このアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法において、接合防止剤が窒化ホウ素、窒化珪素および炭素の粉体からなる群から選ばれる粉体であり、溶媒がメチルエチルケトン、アセトン、エチルアルコールおよびメチルアルコールからなる群から選ばれる溶媒であるのが好ましい。また、接合防止剤の粉体の平均粒径が5μm以下であるのが好ましく、3μm以下であるのがさらに好ましい。また、セラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板を直接接合した後に、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に所定の形状のエッチングレジストを形成し、エッチングによりアルミニウム板またはアルミニウム合金板の不要部分を除去した後、エッチングレジストを除去することにより、所定の回路パターンを形成するのが好ましい。さらに、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の所定の部分に対向する部分をセラミックス基板から離れる方向に折り曲げ可能にするのが好ましい。
【0013】
また、本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板がセラミックス基板に直接接合したアルミニウム−セラミックス接合基板において、アルミニウム板またはアルミニウム合金板のセラミックス基板に対向する面の一部がセラミックス基板に接合していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の一部がセラミックス基板に接合しないアルミニウム−セラミックス接合基板を容易且つ確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
まず、図1に示すように、アルミニウム板またはアルミニウム合金板がセラミックス基板10に接合しないようにするセラミックス基板10上の部分(非接合部)に、接合防止剤と溶媒からなる塗料、例えば、窒化ホウ素(BN)粉とメチルエチルケトン(MEK)からなる塗料(BN:MEK=1:5)を、噴霧や印刷などにより塗布し、溶媒(MEK)を蒸発させて接合防止剤(BN)12をセラミックス基板10上に付着させる。
【0017】
ここで、セラミックス基板10として、アルミナやベリリアなどを主成分とする酸化物系セラミックス基板、窒化アルミニウムや窒化珪素などを主成分とする窒化物系セラミックス基板、炭化珪素などを主成分とする炭化物系セラミックス基板などを使用することができる。
【0018】
また、接合防止剤として、700℃以下でアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯に溶解しない(あるいはアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯によって反応または変質しない)酸化物、窒化物または炭化物、あるいは炭素の粉体を使用することができ、BN粉の他、反応性の低い窒化珪素や炭素などの粉体を使用するのが好ましい。接合防止剤として使用するBN粉などの粉体の平均粒径は、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、最も好ましくは1〜2μmである。平均粒径が5μmを超えると、次の接合工程においてセラミックス基板の表面に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を流す際に接合防止剤がアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯に巻き込まれて非接合部を形成することができなくなる場合があるからである。一方、平均粒径が5μm以下の微細なBN粉などの粉体からなる接合防止剤を使用すれば、一般に結晶粒径が数μm程度のセラミックス基板の粒界に接合防止剤が入り込んでアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯に巻き込まれるのを防止することができると考えられる。また、平均粒径が5μm以下の微細なBN粉などの粉体からなる接合防止剤を使用すれば、バインダーを使用しなくても接合防止剤と溶媒からなる塗膜が微粒子間の相互作用によりセラミックス基板上に保持され易いと考えられる。なお、この塗膜の厚さは10μm以下であるのが好ましい。
【0019】
また、溶媒として、MEKなどの揮発性の高い有機溶媒を使用するのが好ましく、アセトン、エチルアルコール、メチルアルコールなどの有機溶媒を使用してもよい。また、水系溶媒を使用してもよい。この溶媒は、接合防止剤をセラミックス基板に付着させた後に蒸発させるのが好ましい。
【0020】
次に、図2に示すように、鋳型14内にセラミックス基板10を配置し、セラミックス基板10に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯(アルミニウムを主成分とし、Si、Mg、Ti、Cu、Bなどを添加したアルミニウム合金の溶湯)を鋳型14内に注湯し、アルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を冷却して固化させることにより、接合防止剤12が付着した部分(非接合部)以外の部分でアルミニウム板またはアルミニウム合金板16がセラミックス基板10に直接接合したアルミニウム−セラミックス接合基板を製造する(図3参照)。なお、セラミックス基板上に窒化ホウ素が残留してもセラミックス基板の特性に問題はなかった。
【0021】
次に、図4に示すように、アルミニウム板またはアルミニウム合金板16の表面に所定の形状のエッチングレジスト18を塗布し、エッチングにより不要なアルミニウムまたはアルミニウム合金を除去した後、エッチングレジスト18を除去することにより、所定の回路パターンを形成する(図5参照)。このようにして製造されたアルミニウム−セラミックス接合基板のアルミニウム板またはアルミニウム合金板16のセラミックス基板10に接合しない部分16aは、折り曲げて電極として使用することができる(図6参照)。なお、必要に応じて、アルミニウム板またはアルミニウム合金板16にニッケルめっきなどの表面処理を施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を説明する図であり、接合防止剤を付着させる工程を示す平面図である。
【図2】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を説明する図であり、鋳型内でアルミニウム板またはアルミニウム合金板をセラミックス基板に接合する工程を示す断面図である。
【図3】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を説明する図であり、セラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板が接合した状態を示す平面図である。
【図4】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を説明する図であり、エッチングレジストを塗布する工程を示す平面図である。
【図5】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法を説明する図であり、エッチングレジストを除去した状態を示す平面図である。
【図6】本発明によるアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法により製造したアルミニウム−セラミックス接合基板を示す斜視図であり、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の非接合部を折り曲げた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10 セラミックス基板
12 接合防止剤
14 鋳型
16 アルミニウム板またはアルミニウム合金板
18 エッチングレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板とセラミックス基板との接合を防止する接合防止剤と溶媒からなる塗料をセラミックス基板上の所定の部分に塗布した後、前記セラミックス基板を鋳型内に配置し、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を鋳型内に注湯し、このアルミニウム溶湯またはアルミニウム合金溶湯を冷却して固化させることにより、前記所定の部分以外の部分において前記セラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板を直接接合することを特徴とする、アルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合防止剤が窒化ホウ素、窒化珪素および炭素の粉体からなる群から選ばれる粉体であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒がメチルエチルケトン、アセトン、エチルアルコールおよびメチルアルコールからなる群から選ばれる溶媒であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記接合防止剤の粉体の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記接合防止剤の粉体の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス基板にアルミニウム板またはアルミニウム合金板を直接接合した後に、前記アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に所定の形状のエッチングレジストを形成し、エッチングにより前記アルミニウム板またはアルミニウム合金板の不要部分を除去した後、エッチングレジストを除去することにより、所定の回路パターンを形成することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム板またはアルミニウム合金板の前記所定の部分に対向する部分を前記セラミックス基板から離れる方向に折り曲げ可能にすることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のアルミニウム−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板がセラミックス基板に直接接合したアルミニウム−セラミックス接合基板において、アルミニウム板またはアルミニウム合金板のセラミックス基板に対向する面の一部がセラミックス基板に接合していないことを特徴とする、アルミニウム−セラミックス接合基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−192468(P2006−192468A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6716(P2005−6716)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】