説明

アルミニウムケイ酸塩複合体を基材とした高性能水蒸気吸着剤

【課題】 デシカント空調用除湿剤として、中湿度及び高湿度領域において高性能な吸着性能を有するのみならず、クリーンルームなど低露点空気を必要とする特殊環境への対応を考慮した相対湿度10%程度の低湿度領域においても優れた吸着性能を有する吸着剤を提供する。
【解決手段】 低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム溶液に含浸させることにより、吸着時の相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差が40wt%以上であり、かつ相対湿度10%程度の低湿度領域における吸着量においても、30wt%程度の優れた水蒸気吸着性能を有しており、デシカント空調用吸着剤として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代の産業を支える重要な基盤技術として、実用化が強く期待されているナノテクノロジーの技術分野において、その特異な形状に起因する微細構造により吸着能等に優れた特性を示し、革新的な機能性材料としての応用が期待されている物質に関するものであり、特に、優れた水蒸気吸放湿特性を有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を基材とし、その基材に吸湿性塩を担持させた水蒸気吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブナノおよびナノサイズの細孔を有する多孔質無機材料は、その特異な微細構造に基づいて、各種物質を吸着することができる特性を有することから、様々な用途に利用されている。また、多孔質無機材料は優れた水蒸気吸着性能を有することから、ヒートポンプ熱交換材、結露防止剤、自律的調湿材料などの応用が期待されている。
特に、デシカント空調では外気から導入される空気中の湿分を取り除くことが目的であるため、夏場の高湿度の空気からでも効率的に湿分を取り除けることが必要とされているばかりでなく、様々な空気の状態においても空気中の湿分を取り除く必要があるため、どの湿度領域においても水蒸気を吸着できる物質が求められている。
【0003】
その一方でデシカント空調においては、吸着した水蒸気を脱離させるために加熱した空気を送り込み再生を行うが、この送り込む再生空気の温度が高いと、空気を暖めるのに必要なエネルギーが余計にかかってしまう。これまでは再生空気の温度として80℃以上を必要としていたが、未利用熱源の利用等を考慮すると、60℃程度の低温の空気にて再生が可能な素材が求められている。
【0004】
上記背景の中、デシカント空調システムとしての性能向上のため、特に低温再生が可能な高性能水蒸気吸着剤の開発が行われた。一般的に低温再生の性能としては再生温度60℃程度が求められており、温度25℃相対湿度60%の空気を、60℃に加熱した際の相対湿度が約10%となることから、水蒸気吸着等温線において、相対湿度10%と60%の吸着量の差が大きい無機材料が求められていた。さらにどの湿度領域においても水蒸気を吸着することができる物質として、水蒸気吸着等温線において、相対湿度と水蒸気吸着量とが直線的な関係を有する無機材料が求められていた。
【0005】
そのような中で、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体からなる物質が開発され、従来の無機材料では達し得なかった、水蒸気吸着等温線において吸着時の相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差が約30wt%の値を有し、かつ水蒸気吸着等温線において、相対湿度と水蒸気吸着量とが直線的な関係を有する無機材料が開発された(特許文献1参照)。
【0006】
近年、デシカント空調システムにおいては、クリーンルーム等の施設において、低露点空気を必要とするため、相対湿度が10%程度の低湿度領域においても水蒸気を吸着できる素材が求められている。特許文献1記載の物質は、従来のデシカント空調用素材としては非常に優れたものであったが、相対湿度10%程度の低湿度領域においては、吸着量が少ないため、クリーンルーム等の施設用に対応することはできない、という欠点を有していた。
【0007】
一方、デシカント空調用の吸着剤において、塩化リチウムや塩化マグネシウムなどの吸湿性の塩を、シリカゲルやメソポーラスシリカ等の多孔質水分吸着剤に担持させることにより、吸着量を増加させることが検討されているが、シリカゲルやメソポーラスシリカに吸湿性塩を担持させると構造劣化が進むことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/084632号
【特許文献2】特願2009−047914号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、中湿度および高湿度領域のみならず、相対湿度10%程度の低湿度領域においても優れた吸湿性能を有し、吸湿性塩を担持させても構造劣化を生じない基材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、Si/Al比が0.7〜1.0で、かつ29Si固体NMRスペクトルにおいて−78ppm及び−87ppm付近にピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩が、吸湿性塩類を担持する基材として優れていることを見出し、該非晶質アルミニウムケイ酸塩に吸湿性塩類を担持させ、相対湿度30%、50%、90%のいずれにおいても、吸湿性能を向上させることに成功した(特許文献2参照)。
しかしながら、Si/Al比が0.7〜1.0で、かつ29Si固体NMRスペクトルにおいて−78ppm及び−87ppm付近にピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩の、クリーンルーム用施設に対応できるような相対湿度10%程度の低湿度領域における吸着量向上や、吸湿性塩類の担持に適しているかどうかの判定となる水蒸気吸着機構についての検討は行われていなかった。
【0011】
そこで、本発明者らは、中湿度および高湿度領域のみならず、相対湿度10%程度の低湿度領域においても優れた吸湿性能を有し、吸湿性塩を担持させても構造劣化を生じない基材を提供すべく、その水蒸気吸着機構について検討した結果、吸湿性塩を担持させた際に生じる基材の構造劣化は、基材自体の水蒸気吸着機構において、物理的な吸着だけでなく化学的な吸着が存在するためであることを見出した。
【0012】
そして、水蒸気吸着機構において物理的吸着を主とするものについて更に検討した結果、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体に塩化マグネシウムを担持させることにより、相対湿度10%程度の低湿度領域から、高湿度領域まですべての領域に亘って、水蒸気吸着性能を向上させることに成功した。
また基材の水蒸気吸着機構においては、実測の水蒸気吸着測定による水蒸気吸着等温線の結果と、窒素吸着測定から求められる細孔径分布をもとにケルビンの毛細管凝縮理論から計算によって求めた水蒸気吸着等温線の結果を比較し、相対湿度40%以上の領域において、両者が一致することから、アルミニウムケイ酸塩複合体における水蒸気吸着機構が物理吸着によるものであることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
(1)X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近に4つのブロードなピークを、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を基材とし、その基材に吸湿性塩を担持させた水蒸気吸着剤。
(2)相対湿度40〜90%以上の領域にて、実測の水蒸気吸着等温線と、ケルビンの毛細管凝集理論に基づいて窒素吸着測定から求められる計算値の水蒸気吸着等温線が合致し、水蒸気吸着機構が物理吸着のよることを示す上記(1)の水蒸気吸着剤。
(3)低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体に対して、吸湿性塩の割合が0.1〜20重量%である上記(1)又は(2)の水蒸気吸着剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの水蒸気吸着剤を主成分とするデシカント空調用吸着剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られる低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体に、吸湿性塩を担持させた物質は、相対湿度10%程度の低湿度領域から、高湿度領域まですべての領域に亘って、優れた水蒸気吸着挙動を有し、かつ吸湿性塩類を担持させても構造劣化が生じない安定な構造を有しているため、水蒸気吸着剤特にデシカント空調用吸着剤として格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における基材の粉末X線回折図形を示す図。
【図2】比較例における水蒸気吸着等温線を示す図。
【図3】実施例における、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体における実測値と理論値の水蒸気吸着結果を示す図。
【図4】シリカゲルにおける実測値と理論値の水蒸気吸着結果を示す図。
【図5】実施例における基材に塩化マグネシウムを含浸させた後の試料における、粉末X線回折図形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明において基材となる低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体からなる非晶質物質は、構成元素をケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)及び水素(H)とし、多数のSi−O−Al結合で組み立てられた水和ケイ酸アルミニウムである。低結晶性層状粘土鉱物としては、水酸化アルミニウムからなる単層あるいは数層程度のギブサイトあるいは層方向の積層をほとんど示さない低結晶性の層状粘土鉱物である。
【0017】
この低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体は、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液をSi/Al比が0.7〜1.0となるように混合し、酸又はアルカリを添加してpHを5〜9に調整し、その後脱塩処理したものを110℃以上にて加熱することにより人工的に得ることが可能である。
【0018】
本発明では、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体に吸湿性塩の一つである塩化マグネシウムを担持させることにより、従来よりデシカント空調用吸着剤として求められていた、水蒸気吸着等温線において吸着時の相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差が41.8wt%の値を有し、かつクリーンルーム用のデシカント吸着剤として求められている、相対湿度10%における29.4wt%の吸着量を有している物質を作成することが可能となった。
すなわち、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体において、吸湿性塩の一つである塩化マグネシウムを担持させることにより、従来では得られなかった、優れた水蒸気吸湿挙動を有する物質の提供が可能となったものである。
【0019】
本発明において、加熱前の複合体前駆物質の調製には、原料として、通常、無機ケイ素化合物と無機アルミニウム化合物が用いられる。
ケイ素源として使用される試剤は、ケイ酸水溶液であればよく、具体的には、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジル等)、等が好適なものとして挙げられる。
また、上記ケイ酸塩分子と結合させるアルミニウム源は、アルミニウムイオンであればよく、具体的には、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびアルミン酸ナトリウム等のアルミニウム化合物が挙げられる。これらのケイ素源及びアルミニウム源は、上記の化合物に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0020】
これらの原料を適切な水溶液に溶解させ、所定の濃度の溶液を調製する。本目的を満たす優れた吸着挙動を示す複合体を合成するには、ケイ素/アルミニウム比は0.7〜1.0となるように混合することが必要である。溶液中のケイ素化合物の濃度は1〜500mmol/Lで、アルミニウム化合物の溶液の濃度は1〜1000mmol/Lであるが、好適な濃度としては1〜200mmol/Lのケイ素化合物溶液と、1〜500mmol/Lのアルミニウム化合物溶液を混合することが好ましい。これらの比率及び濃度に基づいて、アルミニウム化合物溶液にケイ素化合物溶液を混合し、酸又はアルカリを添加してpHを6〜8に調整して、前駆体を形成した後、遠心分離、濾過、膜分離等により、溶液中の共存イオンを取り除き、その後、回収した前駆体を弱酸性〜弱アルカリ性水溶液に分散させたものが、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体となる前駆体物質を含む懸濁液である。この前駆体物質を含む懸濁液を、110℃以上で所定時間加熱後、洗浄および乾燥を行うことによって、目的の担体となるアルミニウムケイ酸塩複合体が得られる。
【0021】
得られたアルミニウムケイ酸塩複合体を基材とし、これに、吸湿性塩を担持させる方法は、特に限定されないが、好ましくは、アルミニウムケイ酸塩複合体に、吸湿性塩の溶液を含浸させる方法が用いられる。
具体的には、乾燥して得られたアルミニウムケイ酸塩複合体を、塩化マグネシウムなどの吸湿性塩の溶液にひたし攪拌の後、60℃にて2日乾燥させることによって、目的の水蒸気吸着特性において優れた吸着剤を得ることができる。
【0022】
本発明における吸湿性の塩としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどのハロゲン化金属塩、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛などの金属硫酸塩、酢酸カリウムなどの金属酢酸塩、塩酸ジメチルアミンなどのアミン塩、オルトリン酸などのリン酸化合物、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジンなどのグアニジン塩、水酸化ありウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などを挙げることができるが、中でも、ハロゲン化金属塩、グアニジン塩が好ましく、塩化マグネシウム、塩化カルシウムがより好ましく、特に塩化マグネシウムが好ましい。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例)
本発明における、優れた吸着剤の基材となる低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩との複合体は以下のように合成された。
Si源として0.38mol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液100mLと、Al源として0.45mol/Lの塩化アルミニウム水溶液100mLを用いた。塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を加え、約10分間攪拌を行った。このときのSi/Al比は0.84である。攪拌後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を1mL/分の速さで滴下し、pHが6程度になるまで添加した。水酸化ナトリウム水溶液の滴下量は5.5mLであった。このようにして生成させた前駆体懸濁液を遠心分離にて1回脱塩処理を行った。脱塩処理は遠心分離機を用いて、回転速度3000rpm、時間10分で行った。脱塩処理後前駆体を純水に分散させ全体で1Lとなるようにし、10分攪拌を行い前駆体懸濁液を作成した。
調整した1Lの前駆体懸濁液を、100mL用テフロン(登録商標)製容器に70mL測り取った後、ステンレス製回転反応容器に設置し、180℃で6時間加熱を行った。反応後、遠心分離にて2回洗浄し、60℃で1日乾燥させた。
【0024】
得られた生成物については、粉末X線回折測定を行った。図1に得られた生成物の粉末X線回折図形を示す。図1に見られるように、2θ=20、26、35、39°付近にブロードなピークが見られる。このうち20および35°に見られるピークは層状粘土鉱物のhk0面の反射から得られるものであり、層状粘土鉱物に一般的に見られる00l反射が見られないことから、積層方向の厚さがほとんどない低結晶性の層状粘土鉱物であると推定される。また2θ=26、39°付近のブロードなピークは非晶質なアルミニウムケイ酸塩に特徴的なピークである。以上の結果から実施例における優れた吸着剤の基材となる物質は低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなることが確認された。
【0025】
上記によって得られた基材1gを、8重量%の塩化マグネシウム水溶液10mlに加え含浸させ、よく攪拌させた後に、60℃で1日乾燥させた。乾燥後の試料を乳鉢ですりつぶすことにより、目的の物質を得た。
【0026】
(水蒸気吸着評価)
実施例にて得られた低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム溶液に含浸させたものと、塩化マグネシウムを含浸させていないものの2試料について、日本ベル社製Belsorp18により測定を行った水蒸気吸着等温線から水蒸気吸着評価を行った。図2に、その結果を示す。
水蒸気吸着等温線において吸着時の相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差を求めることにより評価を行った。実施例で得られた低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム水溶液に含浸させたものでは、吸着時の相対湿度60%の水蒸気吸着量が74.8wt%、脱離時の相対湿度10%における水蒸気吸着量が33.0wt%であることから、相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差は41.8wt%となる。
これに対し、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム水溶液に含浸させていない未処理の基材そのものについては、吸着時の相対湿度60%の水蒸気吸着量が45.9wt%、脱離時の相対湿度10%における水蒸気吸着量が15.5wt%であることから、相対湿度60%と脱離時の相対湿度10%での吸着量の差は30.4wt%となる。
上記吸着評価より、実施例で得られた物質の水蒸気吸着性能は、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体からなる基材のみでは得られることはできず、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩を塩化マグネシウム水溶液に含浸させることによって初めて得られる性質であることが明らかとなった。
【0027】
また、本実施例の結果、クリーンルーム等の相対湿度10%程度の低湿度領域における吸着量においては、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム水溶液に含浸させたものでは29.4wt%であるのに対し、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体からなる基材のみの場合12.5wt%とほぼ2倍の吸着量を向上させる結果であることが明らかとなった。
【0028】
(基材および含浸後の構造安定性評価)
水蒸気吸着量を増加させるために、基材に吸湿性塩を含浸させることは、従来から行われているが、シリカゲルやメソポーラスシリカに吸湿性塩を担持させると構造劣化が進むことが知られており、その理由は、基材自体の水蒸気吸着機構において、物理的な吸着だけでなく化学的な吸着が存在するためであると推測される。
基材の水蒸気吸着機構が物理吸着によるものか化学吸着によるものかの判別においては、実測の水蒸気吸着測定による水蒸気吸着等温線の結果と、窒素吸着測定から求められる細孔径分布をもとにケルビンの毛細管凝縮理論から計算によって求めた水蒸気吸着等温線の結果を比較し、相対湿度40%以上の領域において両者実測値と理論値との比較検討を行うことにより評価を行った。相対湿度40%以上としているのは、窒素吸着データから得られる細孔径分布曲線の解析として、BJH法を用いているためであり、細孔孔が小さい情報が解析できないことによる。
低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体における実測値と理論値の水蒸気吸着結果を図3に示す。図3に示される通り、相対湿度40%以上の領域において、実測値と理論値がほぼ一致しており、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体における水蒸気吸着メカニズムは物理吸着からなることが明らかとなった。
比較例として市販のシリカゲルにおける実測値と理論値の水蒸気吸着結果を図4に示す。図4に示される通り、相対湿度40%以上の領域において、実測値と理論値が一致しておらず、シリカゲルは物理吸着理論に基づく吸着機構でないことが明らかとなった。このように物理吸着を主とすることでないことから、シリカゲルの水蒸気吸着は主に化学吸着に起因すると推測される。
以上のことから、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体における水蒸気吸着機構は物理吸着を主とするものであることから、この基材に塩化マグネシウムなどの吸湿性塩を含浸させても、構造劣化が生じないことが明らかとなった。
【0029】
低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム水溶液に含浸させて得られた粉末における、粉末X線回折図形を図5に示す。塩化マグネシウムに由来するX線回折ピークが見られるが、基本構造に由来するピークは、図1と同じものであり、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体に塩化マグネシウムなどの吸湿性塩を含浸させても、構造劣化が生じないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、中湿度および高湿度領域ばかりでなく、相対湿度10%程度の低湿度領域においても高性能な吸着性を有する、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を塩化マグネシウム水溶液に含浸させることによって得られる吸着剤であり、デシカント空調における一般的な除湿剤のみならず、低露点空気を必要とするクリーンルームなどの特殊空調用吸着剤を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近に4つのブロードなピークを有する、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を基材とし、その基材に吸湿性塩を担持させた水蒸気吸着剤。
【請求項2】
相対湿度40〜90%以上の領域にて、実測の水蒸気吸着等温線と、ケルビンの毛細管凝集理論に基づいて窒素吸着測定から求められる計算値の水蒸気吸着等温線が合致し、水蒸気吸着機構が物理吸着によることを示す請求項1に記載の水蒸気吸着剤。
【請求項3】
低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体に対して、吸湿性塩の割合が0.1〜10重量%である請求項1又は2に記載の水蒸気吸着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水蒸気吸着剤を主成分とするデシカント空調用吸着剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−255331(P2011−255331A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132991(P2010−132991)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】