説明

アルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤及びそれを用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の前処理方法

【課題】本発明は、強力な脱脂能力があり、かつアルミニウムの溶解を抑えることができるアルミニウム又はその合金表面の前処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、さらに前処理後に行なう表面処理、特に前処理による表面状態の影響を受け易い3価クロム化成処理の外観や耐食性を改善することができるアルミニウム又はアルミニウム合金表面の前処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によると、アルミニウム化合物を0.1〜10g/L含有し、PHが8〜12であるアルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤が提供される。また、当該アルカリ脱脂洗浄剤を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の前処理方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に強固に付着した汚れや油、酸化皮膜を除去するための前処理液(アルカリ脱脂洗浄剤)及び前処理方法(清浄化処理)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやアルミニウム合金は、航空機、自動車などの軽量化対策の素材として注目されているが、防食性を向上させるための表面処理が必須のものとなっている。一般的には化成処理、陽極酸化や塗装などの表面処理が施されている。これらの表面処理を行なう前の前処理としては、次のような前処理剤で洗浄されている:
1)中又は強アルカリ性の脱脂剤、及び
2)中性又は弱アルカリ性の脱脂剤。
しかしながら、上記1)の前処理剤での洗浄では、油は取れるが、アルミニウムやアルミニウム合金の表層を侵食するため電触が生じやすくなり、著しく耐食性を損なうという問題点がある。2)の前処理剤での洗浄では、アルミニウムやアルミニウム合金の表層を侵食することはないが、中性又は弱アルカリ性のため洗浄力が弱く、強固に付着した油をとることが出来ない。
アルミ腐食を抑制しつつ洗浄性を向上しようとする試みとしては、例えば、電子部品のアルミ配線等を洗浄するための洗浄剤として、有機アルカリ成分と水酸基含有化合物よりなる耐アルミ腐食性に優れたアルカリ洗浄剤が開示されている(特許文献1)が、このような洗浄剤は、本願の課題であるアルミニウムの溶解を抑制し、前処理としての脱脂洗浄化能力に優れ、かつその後行なう表面処理の外観や耐食性を改善する事ができる脱脂洗浄剤とは異なるものである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−2778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、強力な脱脂能力があり、かつアルミニウムの溶解を抑えることができるアルミニウム又はその合金表面の前処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、さらに前処理後に行なう表面処理、特に前処理による表面状態の影響を受け易い3価クロム化成処理の外観や耐食性を改善することができるアルミニウム又はアルミニウム合金表面の前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を、アルミニウムの溶解を抑制する作用があるアルミニウム化合物を添加含有させた、特定のアルカリ度(PH濃度)範囲の洗浄剤で処理することによって上記課題を効率的に達成できるとの知見に基づいてなされたのである。すなわち、本発明によると、アルミニウム化合物を0.1〜10g/L含有し、PHが8〜12であるアルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤が提供される。また、当該アルカリ脱脂洗浄剤を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の前処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前処理としての表面洗浄化能力に優れ、しかもアルミニウムの溶解を抑制できる。そのため、その後行なう表面処理、特に3価クロム化成処理の外観や耐食性を改善する事ができる。さらに、3価クロム化成処理後の塗装密着性も向上するといった利点も得られ、特に、化成皮膜処理の前処理剤として適している。本発明の洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を前処理した後に行なわれた表面処理皮膜は、外観、耐食性等の諸機能に優れるため、航空機部品、自動車部品等の表面処理工程の前処理工程に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で対象とする表面前処理材料はアルミニウム及びアルミニウム合金である。アルミニウム合金としては、例えばA2017、ADC12等、アルミニウムとMg、Mn、Zn、Si、Cu、Niなどの合金が挙げられる。また、アルミニウム及びアルミニウム合金の形状は、ダイカスト材、鋳造品、射出成形品など、任意の形状であってもよい。
本発明の洗浄剤に含まれるアルミニウム化合物は、水溶性のアルミニウム化合物であり、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫化アルミニウム、リン化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸塩、アルミニウムカリウムミョウバンなどが挙げられる。また、金属アルミニウムを強酸又は強アルカリに溶解して実質的にアルミニウム化合物水溶液としたものであってもよい。前記アルミニウム化合物は、単独で、又は2種類以上混合して使用できる。前記アルミニウム化合物の含有量は、好ましくは0.1〜10g/Lの範囲であり、より好ましくは0.5〜1g/Lの範囲である。
本発明の洗浄剤のpHは、好ましくは8〜12の範囲であり、より好ましくはpH8〜10の範囲である。本発明の洗浄剤のpHをこのような範囲とすることにより、脱脂洗浄性に優れ、アルミニウム及びアルミニウム合金の溶解を効果的に抑制することができる。pHを調整するためのアルカリ又は酸としては、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ、塩酸、硫酸などが使用できる。
【0008】
本発明の洗浄剤には、さらにアルカリビルダーを含有させてもよい。前記アルカリビルダーとしては、リン酸塩、硫酸塩等の無機ビルダーが挙げられる。リン酸塩としては、第3リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウムなどが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。前記アルカリビルダーは、単独で、又は2種類以上混合して使用できる。前記アルカリビルダーの含有量は、好ましくは5〜100g/Lの範囲であり、より好ましくは5〜50g/Lの範囲である。ただし、前記アルカリビルダーがケイ酸塩を含む場合には、洗浄後の表面にケイ素が付着する場合があり、後の表面処理に悪影響を及ぼす場合があるため、ケイ酸塩は含まないほうが好ましい。また、前記アルカリビルダーがホウ酸塩を含む場合には、ホウ素が水質汚濁防止法の規制物質であり、安価で効果的に排水を処理することが困難であるという排水処理上の問題点があることから、ホウ酸塩は含まないほうが好ましい。
本発明の洗浄剤には、さらに界面活性剤を含有させてもよい。前記界面活性剤としては、ノニオン系の界面活性剤が好ましい。また、前記ノニオン系の界面活性剤に、使用する界面活性剤の全重量の最大20重量%までのアニオン系界面活性剤を混合してもよい。前記ノニオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキサイドープロピレンオキサイド共重合体等が挙げられる。前記アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。前記界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1〜10g/Lの範囲であり、より好ましくは0.5〜5g/Lの範囲である。
【0009】
本発明における洗浄処理方法としては、特に制限はなく、公知の各種アルカリ洗浄方法を適用することができるが、通常、アルミニウム及びアルミニウム合金を本発明のアルカリ脱脂洗浄剤に浸漬処理することにより行なう。浸漬処理温度は、好ましくは20〜100℃の範囲であり、より好ましくは30〜80℃の範囲である。浸漬処理時間は、好ましくは10秒〜1時間であり、より好ましくは1〜30分間である。ポンプによる洗浄剤の攪拌を行なうか、処理品を遥動させることが好ましい。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
水に第3リン酸ナトリウム25g/L、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)4g/L及びアルキルベンゼンスルホン酸1g/Lを溶解し、得られた水溶液に塩化アルミニウム4g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0011】
ここで、参考として実施例1の処理液でpHを9で一定にした時の塩化アルミニウム塩の添加量とエッチング量との関係を表1に示す。なお、アルミダイカスト材(ADC−12)の浸漬時間は60℃−30分とした。
【表1】

【0012】
(実施例2)
水に第3リン酸ナトリウム25g/L及びエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(第一工業薬品(株)製 エパン680)5g/Lを溶解し、得られた水溶液に硫酸アルミニウム5g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を40℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0013】
(実施例3)
水にトリポリリン酸ナトリウム30g/L及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)5g/Lを溶解し、得られた水溶液に酢酸アルミニウム3g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0014】
(実施例4)
水にピロリン酸ナトリウム20g/L、硫酸ナトリウム23g/L及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)5g/Lを溶解し、得られた水溶液にカリウム−アルミニウムミョウバン7g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0015】
(実施例5)
水にピロリン酸カリウム20g/L、硫酸ナトリウム5g/L、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)1g/L及びエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(第一工業薬品(株)製 エパン680)4g/Lを溶解し、得られた水溶液に硫酸アルミニウム5g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を40℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0016】
(比較例1)
水に第3リン酸ナトリウム25g/L、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)4g/L及びアルキルベンゼンスルホン酸1g/Lを溶解し、得られた水溶液にpH調整剤として硫酸を添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0017】
(比較例2)
水に第3リン酸ナトリウム25g/L、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)4g/L及びアルキルベンゼンスルホン酸1g/Lを溶解し、得られた水溶液に塩化アルミニウム4g/Lを添加し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpHを13に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0018】
(比較例3)
水にオルトケイ酸ナトリウム10g/L、第3リン酸ナトリウム15g/L、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)4g/L及びアルキルベンゼンスルホン酸1g/Lを溶解し、得られた水溶液にpH調整剤として硫酸を添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0019】
(比較例4)
水に第3リン酸ナトリウム20g/L、ホウ酸ナトリウム7g/L及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ミヨシ油脂(株)製 ペレテックス1224)3g/Lを溶解し、得られた水溶液にpH調整剤として硫酸を添加してpHを9に調整して洗浄剤を得た。アルミダイカスト材(ADC−12)を60℃、処理時間5分の条件で前記洗浄剤に浸漬させた。
【0020】
(評価1:洗浄力の評価)
実施例1〜5及び比較例1〜4の前処理を完了した各アルミニウムダイカスト材の洗浄力を次の外観基準により評価した。なお、この評価で用いたアルミニウムダイカスト材は、アルミニウム用切削油を表面に塗布して3日放置したものを、実施例1〜5及び比較例1〜4において前処理した。
◎:汚れ、油が充分に除去されており、白銀色の外観を表す。
○:汚れ、油が充分に除去されている。
△:汚れ、油が充分に除去されているが外観が黒い。
×:表面積の5%以上の汚れ、油が残存し、その後の表面処理の耐食性に問題がある。
【0021】
(評価2:塩水噴霧試験による耐食性評価)
実施例1〜5及び比較例1〜4の前処理を完了した各アルミニウムダイカスト材に、ディップソール株式会社製アルミニウム用3価クロム化成処理剤ALT−610を用いて、3価クロム化成処理した(A剤濃度100g/LとB剤濃度20g/Lを混合した処理液に、温度40℃で時間60秒浸漬した)。JISZ2317に規定される塩水噴霧による試験を実施し、下記の基準で耐塩水噴霧耐食性を評価した。
○:試験結果24時間での腐食面積が5%以内。
△:試験結果24時間での腐食面積が5%以上。
×:試験結果12時間での腐食面積が5%以上。
【0022】
(評価3:塗膜密着性試験による塗膜密着性評価)
実施例1〜5及び比較例1〜4の前処理を完了した各マグネシウムダイカスト材に塗装を行い(下塗り:エポキシ/ポリエステル樹脂系(久保高ペイント ARBt・100プライマー)、160℃、20分焼付け;上塗り:アクリル樹脂系(久保高ペイント アクリオンホワイト500・100)、160℃、20分焼き付け)、JISK5400に規定される碁盤目テープ法による密着性を下記の基準で評価した。
◎:切り傷1本ごとが、細く滑らかで、切り傷の交点と正方形の1目1目にはがれが無い。
○:切り傷の交点にわずかなはがれがあって、正方形の1目1目にはがれが無く欠損部の面積は全正方形の5%以内。
△:切り傷の両側と交点とにはがれがあって、欠損部の面積は全正方形の5〜15%。
×:切り傷によるはがれの幅が広く、欠損部の面積は全正方形の15%以上。
以上の評価結果を表2に示す。
【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム化合物を0.1〜10g/L含有し、PHが8〜12であるアルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤。
【請求項2】
さらに、アルカリビルダー及び/又は界面活性剤を含有する請求項1記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用アルカリ脱脂洗浄剤を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の前処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の前処理方法で処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を、さらに3価クロム化成処理するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。

【公開番号】特開2008−231561(P2008−231561A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77116(P2007−77116)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000109657)ディップソール株式会社 (25)
【Fターム(参考)】