説明

アルミニウム導線の製造方法及び電線

【課題】自動車用信号線として使用することができる高い引っ張り強度及び高い導電率を備えた安価なアルミニウム導線の製造方法及び電線を提供する。
【解決手段】アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する鋳造工程と、鋳造工程で鋳造された荒引線を、350℃以上かつ600℃以下の温度で、0.1時間以上かつ100時間以下加熱する固溶工程と、固溶工程で加熱された荒引線を、5℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得る伸線工程と、伸線工程で得られた伸線を、室温以上且つ300℃以下の温度で、1時間以上且つ100時間以下時効する時効工程と、を順次経て、アルミニウム導線を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム導線の製造方法、及び、この製造方法で製造されたアルミニウム導線を有する電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線の導線の材料として、機械的強度及び導電率の点で有利な銅導体材料が使用されていた。例えば、自動車用信号線として使用される電線では、断面積が0.13mm2、又は、0.35mm2の銅導体材料からなる導線が一般的に用いられていた。
【0003】
銅導体材料は上述した有利な点を有するものの重量が比較的大きいので、それを使用した電線は重くなってしまい、そのため、近年、燃費性能が重要視される自動車などにおいて、電線の軽量化の要請が強まっていた。そして、このような銅導体材料をアルミニウム導体材料と置き換えることにより軽量化が可能となるが、アルミニウムは一般的に銅より引っ張り強度及び導電率が劣るので、アルミニウム導体材料からなる導線を銅導体材料からなる導線と同等に用いるためには、導線を太く(即ち、断面積を大きく)する必要があった。そのため、アルミニウム導体材料からなる導線を、配索スペースなどが限られる自動車用信号線などに使用することが困難であるという問題があった。そして、このような問題を解決する技術が、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されている導線としての導電用アルミニウム合金線の製造方法では、(1)純度が99.95重量%以上の純アルミニウム、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)を溶解して、Cuを0.3〜10.0重量%、Zrを0.01〜1.0重量%の割合で含む合金溶湯を溶解製造して、(2)次に、この合金溶湯を鋳型内に流し込んで、アルミニウム合金鋳造体としての荒引線を鋳造して、(3)それから、この荒引線を伸線加工することにより、導電用アルミニウム合金線を得る。このようにして得られた導電用アルミニウム合金線は、自動車用信号線として必要な機械的強度(即ち、引っ張り強度)及び導電率を備え、そのため、細径化を可能として、自動車用信号線に使用することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−176832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した導電用アルミニウム合金線では、純度が99.95重量%以上の高純度のアルミニウムを用いるので、製造コストが高くなるという問題があった。また、純度が99.95重量%未満の低純度のアルミニウムを用いた場合、自動車用信号線として要求される導電率を満足できないという別の問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、自動車用信号線として使用することができる高い引っ張り強度及び高い導電率を備えた安価なアルミニウム導線の製造方法、及び、この製造方法で製造されたアルミニウム導線を有する電線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する鋳造工程と、前記鋳造工程で鋳造された前記荒引線を、350℃以上かつ600℃以下の温度で、0.1時間以上かつ100時間以下加熱する固溶工程と、前記固溶工程で加熱された前記荒引線を、5℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された前記荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得る伸線工程と、前記伸線工程で得られた前記伸線を、前記室温以上且つ300℃以下の温度で、1時間以上且つ100時間以下時効する時効工程と、を順次有することを特徴とするアルミニウム導線の製造方法である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載のアルミニウム導線の製造方法で製造されたアルミニウム導線を有することを特徴とする電線である。
【0010】
請求項1に記載された発明によれば、まず、鋳造工程で、アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満の低純度のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する。鋳造された荒引線では、アルミニウムと銅とが不均一に混ざり合った組織状態となっている。次に、固溶工程で、鋳造された荒引線を、350℃以上かつ600℃以下の温度で、0.1時間以上かつ100時間以下加熱する。これにより、アルミニウムと銅とが(即ち、溶質原子が)互いに溶け合って一様に分布した組織状態の固溶体となった荒引線となる。それから、冷却工程で、固溶体となった荒引線を、5℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する。急速に冷却することで、溶質原子が一様に分布した組織状態を室温付近においても維持する。そして、伸線工程で、室温まで冷却された荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得る。冷却直後に、即ち、時効前に、荒引線を所望の径(即ち、所定径)となるように伸線加工を行う。そして、時効工程で、伸線を、室温以上且つ300℃以下の温度で、1時間以上且つ100時間以下時効する。これにより、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出した伸線、即ち、アルミニウム導線が得られる。
【0011】
請求項2に記載された発明によれば、電線が有するアルミニウム導線が上述したアルミニウム導線の製造方法で製造されているので、アルミニウムと銅とが一様に分布した状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出している。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、請求項1に記載された発明によれば、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出したアルミニウム導線が得られるので、このアルミニウム導線は、特異的に析出した析出物が転位の運動の障害となってすべり変形を防止することにより高い引っ張り強度を備えるとともに、アルミニウムと銅とが一様に分布していることにより高い導電率を備えており、そのため、自動車用信号線として用いることのできる細径のアルミニウム導線を製造できる。また、低純度のアルミニウム材料を用いているので、安価に製造できる。
【0013】
また、請求項2に記載された発明によれば、アルミニウム導線が、アルミニウムと銅とが一様に分布した状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出しているので、特異的に析出した析出物が転位の運動の障害となってすべり変形を防止することにより高い引っ張り強度を備え、そして、アルミニウムと銅とが一様に分布していることにより高い導電率を備えており、そのため、自動車用信号線として用いることができる。また、低純度のアルミニウム材料を用いているので安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アルミニウムと銅との平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のアルミニウム導線の製造方法の一実施形態について説明する。このアルミニウム導線は、自動車用信号線として使用される電線に用いられる。
【0016】
本発明のアルミニウム導線においては、アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満のアルミニウム材料を用いる必要がある。すなわち、アルミニウムの含有量が99.85質量%以上のアルミニウム原料を用いると、純度が高いので製造コストが高くなってしまい、また、アルミニウムの含有量が99.7質量%未満のアルミニウム原料を用いると、純度が低いので不純物の含有量が増えて導電率が低下しまい、そのため、このようなアルミニウム導線は、自動車用信号線として使用する電線に用いるには不適当である。本発明で用いるアルミニウム原料は、例えば、JIS 1070、又は、1080として入手可能である。
【0017】
このようなアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する(鋳造工程)。具体的には、銅を添加したアルミニウム原料を溶解炉において所定の溶解温度まで加熱して溶湯を生成し、そして、この溶湯を鋳造機で連続鋳造するとともに熱間伸線加工によって荒引線としたのちボビンに巻きとる。荒引線の径は自由に選択できるが、最終生成物である細線径のアルミニウムの断面積等を考慮した径を選択する。
【0018】
そして、荒引線を、500℃の温度で10時間加熱する(固溶工程)。具体的には、荒引線をボビンに巻かれた状態でバッチ熱処理炉に収容する。このバッチ熱処理炉には、加熱装置、冷却装置、温度検出装置等が備えられており、所望の温度で所望の時間加熱又は冷却することが可能である。そして、バッチ熱処理炉に、温度及び時間を設定して荒引線の加熱を行う。また、このとき後述する冷却工程の温度及び時間(即ち、冷却速度)も合わせて設定する。
【0019】
このように荒引線を加熱することにより、荒引線の組織状態が次のように変化する。鋳造後に熱間伸線加工された荒引線においては、アルミニウムと銅とが不均一に混ざり合った組織状態となっている。そして、この荒引線を、500℃に加熱すると、アルミニウムと銅とが元の結晶構造の形を保って固体状態で混じり合っている状態である固溶体となり、そして、この固溶体を10時間維持することにより、アルミニウム中に銅が拡散して、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態となる。なお、本実施形態においては、500℃の温度で10時間加熱しているが、温度は350℃以上かつ600℃以下で、時間は0.1時間以上かつ100時間以下の範囲であればよい。
【0020】
本発明の固溶工程における温度(350℃以上かつ600℃以下)、及び、時間(0.1時間以上かつ100時間以下)は、それぞれ、図1の平衡状態図、及び、数1の拡散係数Dによって導出している。
【0021】
温度については、図1の平衡状態図の破線で囲んだ箇所から読み取ることにより、350℃以上かつ600℃以下であることを導出している。導出した温度範囲より低い温度で加熱すると、固溶体として不完全となって、アルミニウムと銅と(即ち、溶質分子)を十分に固溶させることができず、また、この温度範囲以上の温度で加熱すると、荒引線に部分的な溶解やボイド(空洞)が生じてしまう。
【0022】
また、時間については、以下の数1を用いて、以下のようにして導出している。
【0023】
【数1】

【0024】
数1において、Dは拡散係数、aは原子間距離、νは原子がエネルギー障壁をこえようとする試みの頻度、SDは各原子のモル当たりの活性化エネルギー、EDは各原子のモル当たりの活性化エントロピー、D0は温度に依存しない項をまとめた定数、xは拡散による移動距離、tは時間、Rは気体定数、Tは絶対温度、である。また、exp(x)は、自然対数の底eのx乗を示している。
【0025】
ここで、固溶工程における時間を決定するための条件として、結晶粒の大きさ分だけ銅原子がアルミニウム中で拡散できることとし、拡散移動距離(結晶粒径)が12μm程度とした。そして、上記温度は350℃〜600℃の範囲にあるので、固溶工程における時間は、350℃のときに最長時間となり、600℃の時に最短時間となる。そして、D0=1.5×10-5[m2/s]、ΔED=126[kJ/mol]、R=8.3145、x=10[μm]であり、固溶工程における温度が350℃であると、
T=623[K]
D=1.5×10-5exp(−126/(8.3145×623))
=4.1×10-16
t=(12×10-62/4.1×10-16≒360000[秒]=100[時間]
となり、
また、固溶工程における温度が600℃であると、
T=873[K]
D=1.5×10-5exp(−126/(8.3145×873))
=4.3×10-13
t=(12×10-62/4.3×10-13≒360[秒]=0.1[時間]
となる。
【0026】
そして、上記加熱によって固溶体となった荒引線を、引き続き5℃/秒の冷却速度で室温(20℃)まで冷却する(冷却工程)。このように荒引線を急速に冷却することにより、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態を室温付近(即ち、アルミニウム導線を信号線などとして使用する場合における通常の温度範囲)においても維持できる。本実施形態においては、冷却速度を5℃/秒としているが、これより速い冷却速度(例えば、7℃/秒など)でもよい。冷却速度が5℃/秒より遅いと、冷却中に組織状態が崩れてしまい、室温まで冷却したときに、アルミニウムと銅との分布が一様で無い組織状態となる。固溶体から急速に冷却するため冷却条件は水冷とし、その際に冷却速度が5℃/秒以上であれば水冷条件を満たし、固溶状態を形成することができる。上述したような加熱処理(即ち、固溶工程)及び冷却処理(即ち、冷却工程)をまとめて溶体化処理ともいう。
【0027】
そして、室温まで冷却した荒引線を、所定径となるように細長く伸ばして伸線を作製する(伸線工程)。具体的には、室温まで冷却した荒引線を、冷却完了から時間を空けずにボビンごとバッチ熱処理炉から取り出し、伸線機にボビンを取り付けるとともに、このボビンに巻かれた荒引線を、伸線ダイスなどを用いた冷間伸線加工によって所望の太さとなるように伸ばして伸線としたのち別のボビンに巻きとる。例えば、自動車用信号線として用いる場合などは、最終的に得られるアルミニウム導線の太さ(例えば、断面積が0.05mm2〜2.0mm2)になるように、伸線の径(即ち、上記所定径)が定められる。
【0028】
そして、この伸線を100℃の温度で10時間時効する(時効工程)。具体的には、ボビンへの巻き取りから時間を空けずに、伸線をボビンに巻かれた状態でバッチ熱処理炉に収容する。そして、バッチ熱処理炉に、温度及び時間を設定して伸線の加熱(即ち、時効)を行う。
【0029】
このように伸線を時効することにより、伸線においては、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出する。なお、本実施形態においては、100℃の温度で10時間加熱しているが、温度は室温以上かつ300℃以下で、時間は1時間以上かつ100時間以下であればよい。この温度範囲外の場合、析出物が十分に析出されない。時間が短い場合も同様である。また、時間が長い場合、析出物が十分に析出しているにも関わらず余分な時間を費やし、ムダに工数が増加してしまう。
【0030】
上記時効温度については、図1の平衡状態図から読み取ることにより、室温以上かつ300℃以下であることを導出している。本状態図ではθ相が析出することになる。また、上記時効時間については、時効温度の下限である室温時が最も長い時間が必要なため100時間とし、時効温度の上限である300℃では最も時間が短い1時間としている。
【0031】
そして、この加熱が終わったのち、バッチ熱処理炉からボビンごと伸線を取り出して、アルミニウム導線が完成する。
【0032】
さらに、このアルミニウム導線を、押出成形によりポリエチレンや塩化ビニル樹脂などの絶縁体で被覆して、アルミニウム導線を有する電線が得られる。
【0033】
このように製造されたアルミニウム導線は、引っ張り強度が200MPa以上で、導電率が30%IACS以上となり、自動車用信号線などで要求される条件を満足する。そのため、このアルミニウム導線は、例えば、自動車用信号線として用いられる太さ(断面積0.05mm2〜2.0mm2)にすることができる。また、従来の銅導体材料を用いた導線より軽量であり、かつ、高純度のアルミニウム原料を用いずに製造できる。
【0034】
本実施形態によれば、まず、鋳造工程で、アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満の低純度のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する。鋳造された荒引線では、アルミニウムと銅とが不均一に混ざり合った組織状態となっている。次に、固溶工程で、鋳造された荒引線を、500℃の温度で、10時間加熱する。これにより、アルミニウムと銅とが(即ち、溶質原子が)互いに溶け合って一様に分布した組織状態の固溶体となった荒引線となる。それから、冷却工程で、固溶体となった荒引線を、5℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する。急速に冷却することで、溶質原子が一様に分布した組織状態を室温においても維持する。そして、伸線工程で、室温まで冷却された荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得る。冷却直後に、即ち、時効前に、荒引線を所望の径(即ち、所定径)となるように伸線加工を行う。そして、時効工程で、伸線を、100℃の温度で、10時間時効する。これにより、アルミニウムと銅とが一様に分布した組織状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出した伸線、即ち、アルミニウム導線が得られる。
【0035】
このため、このアルミニウム導線は、特異的に析出した析出物が転位の運動の障害となってすべり変形を防止することにより高い引っ張り強度を備えるとともに、アルミニウムと銅とが一様に分布していることにより高い導電率を備えており、そのため、自動車用信号線として用いることのできる細径のアルミニウム導線を製造できる。また、低純度のアルミニウム材料を用いているので、安価に製造できる。
【0036】
また、アルミニウム導線が、上述したアルミニウム導線の製造方法で製造されているので、アルミニウムと銅とが一様に分布した状態であるとともに、アルミニウム母相に、極めて微細且つ高密度に形成された板状、針状及び球状のいずれかの析出物が特異的に析出しており、そのため、アルミニウム導線が、特異的に析出した析出物が転位の運動の障害となってすべり変形を防止することにより高い引っ張り強度を備え、そして、アルミニウムと銅とが一様に分布していることにより高い導電率を備えており、自動車用信号線として用いることができる。また、低純度のアルミニウム材料を用いているので安価に製造できる。
【0037】
本発明者は、以下の実施例1〜5及び比較例1〜4に示すようにして、上述したアルミニウム導線の製造方法を用いて、銅の添加量が異なる複数のアルミニウム導線を製造した。そして、これらのアルミニウム導線について、JIS C3002に準拠して、引っ張り強度TS[MPa]及び導電率EC[%IACS]を測定して、以下の基準に基づいて評価を行った。
○・・・自動車用信号線として要求される引っ張り強度及び導電率を備えている
×・・・自動車用信号線として要求される引っ張り強度又は導電率を備えていない
ここで、自動車用信号線としてアルミニウム導線に要求される引っ張り強度TSは、200MPa以上であり、導電率ECは、30%IACSである。
【0038】
(実施例1)
上述した製造方法を用いて、アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2.0質量%となるように添加して荒引線を鋳造して、この荒引線を、500℃の温度で10時間加熱したのち、5℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して、冷却した荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得て、この伸線を、100℃で10時間時効して、断面積が1.5mm2のアルミニウム導線を得た。
【0039】
(実施例2)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の3.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0040】
(実施例3)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の4.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0041】
(実施例4)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の5.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0042】
(実施例5)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の5.5質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0043】
(比較例1)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の0.5質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0044】
(比較例2)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の1.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0045】
(比較例3)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の6.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0046】
(比較例4)
上記アルミニウム原料に対して、銅を全体の7.0質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム導線を得た。
【0047】
表1に、これら実施例1〜5、及び、比較例1〜4で得たアルミニウム導線についての評価結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、本発明に係るアルミニウム導線(実施例1〜5)については、いずれも引っ張り強度TSが200MPa以上あるとともに導電率ECが30%IACS以上となり、自動車用信号線として必要な引っ張り強度及び導電率を満足している。これに対して、銅添加量が少ないアルミニウム導線(比較例1、2)では、引っ張り強度TSが200MPa未満となり、また、銅添加量が多いアルミニウム導線(比較例3、4)では、導電率ECが30%IACS未満となり、これらについては、自動車用信号線の要求値を満足することができない。
【0050】
そして、この評価結果からも、本発明に係るアルミニウム導線の製造方法について、自動車用信号線として使用することができる高い引っ張り強度及び高い導電率を備えた安価なアルミニウム導線を製造することができることが明らかとなった。
【0051】
本発明のアルミニウム導線の製造方法は、上述したように自動車用信号線として適したアルミニウム導線を製造できる方法であるが、これに限定されるものではなく、船舶や航空機などの他の移動体や、電化製品などに用いられる電線の製造に用いてもよい。
【0052】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの含有量が99.7質量%以上かつ99.85質量%未満のアルミニウム原料に対して、銅を全体の2質量%以上かつ5.5質量%以下となるように添加して荒引線を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程で鋳造された前記荒引線を、350℃以上かつ600℃以下の温度で、0.1時間以上かつ100時間以下加熱する固溶工程と、
前記固溶工程で加熱された前記荒引線を、5℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された前記荒引線を所定径となるように細長く伸ばして伸線を得る伸線工程と、
前記伸線工程で得られた前記伸線を、前記室温以上且つ300℃以下の温度で、1時間以上且つ100時間以下時効する時効工程と、を順次有する
ことを特徴とするアルミニウム導線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム導線の製造方法で製造されたアルミニウム導線を有することを特徴とする電線。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241254(P2012−241254A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114407(P2011−114407)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】