説明

アルミニウム表面反射鏡

【課題】耐湿性、耐熱性、耐光性を全て満足する膜構成を実現して、使用環境が厳しい状況下でも、膜の機械的劣化や機能的劣化を抑える。
【解決手段】樹脂基板1上に、密着層2、アルミニウム膜からなる反射層3、誘電体層4をこの順で積層して反射鏡が構成される。密着層2は、3層からなり、樹脂基板1側から、第1の層2a、第2の層2b、第3の層2cをこの順で積層して構成される。第1の層2aは、酸化セリウム膜で構成されており、第2の層2bは、酸化アルミニウム膜で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板とアルミニウムからなる反射層との間に密着層を形成したアルミニウム表面反射鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、反射鏡の基板として、ガラス基板に代わってプラスチック基板が用いられるようになってきている。これは、プラスチック基板であれば、自由な曲面を容易に成形でき、かつ、ガラスに比べてコストを安価に抑えることができることによる。しかし、このようなプラスチック基板上に、アルミニウム、銀、金、銅といった金属を直接形成した金属表面反射鏡は、金属膜が基板から剥離しやすく、耐熱性、耐湿性、耐光性などの耐環境性に劣ることが課題であった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1〜5では、プラスチック基板と金属膜との間に密着層を形成し、金属膜上に保護層を形成することにより、プラスチック基板と金属膜との密着性を改善するとともに、耐環境性の向上を図っている。より詳しくは以下の通りである。
【0004】
特許文献1では、ポリカーボネートからなる基板上に、酸化セリウムからなる酸化物下地層(膜厚15nm)、アルミニウムからなる反射層(膜厚100nm)、酸化アルミニウムからなる保護層(膜厚20nm)をこの順で形成している。
【0005】
この構成では、40℃95%RH(相対湿度)の環境下において、セロハンテープによって膜が剥離するまでの時間は504時間以上であり、膜付着性、耐湿性が高いものとなっている。また、上記の耐湿性試験の前後で、45度入射光に対する分光反射率の変化はほとんどないことがわかっている。さらに、酸化物下地層として、酸化セリウムの代わりに二酸化珪素を用いた場合でも、40℃95%RHの環境下で膜が剥離するまでの時間が312時間以上であり、膜付着性、耐湿性が高いものとなっている。
【0006】
特許文献2では、シクロオレフィン系樹脂からなる基板上に、酸化アルミニウムからなる下地層(膜厚68nm)、銅からなる密着層(膜厚40nm)、銀からなる反射層(膜厚150nm)、酸化アルミニウム(光学膜厚110nm)および酸化チタン(光学膜厚110nm)の2層からなる増反射層、二酸化珪素からなる保護層(膜厚21nm(光学膜厚30nm))をこの順で形成している。しかも、下地層、増反射層、保護層については、IAD(イオンアシスト蒸着)によって形成している。なお、反射層を構成する金属は、アルミニウムであってもよい。
【0007】
この構成では、クロスカットテープ試験による密着性の評価(JIS K5400に準拠)において、基板面(成膜面)に形成された100個のマス目(1個のマス目;1mm2)が粘着テープによって剥離されずに全て残っており、密着性が良好となっている。また、95%以上の反射率が確保されており、摩耗性試験(MIL M−13508に準拠)の後の反射率の低下、および室温60℃で湿度95%の雰囲気中に成膜後の基板を240時間置いた後の反射率の低下は、いずれも1%以内であり、摩耗性および耐湿性が良好となっている。
【0008】
特許文献3では、アクリル樹脂からなるプラスチック基板上に、一酸化珪素からなる下地膜(膜厚数千Å(1Å=0.1nm))、アルミニウムからなる金属膜(膜厚数千Å)、二酸化珪素からなる保護層(膜厚約5000Å)をこの順で形成している。このように、プラスチック基板と金属膜との間に、一酸化珪素からなる下地膜を介在させることにより、プラスチック基板に対する金属膜の密着性が向上するものとなっている。
【0009】
特許文献4では、プラスチック基板上に、酸化アルミニウムからなる下地膜(例えば膜厚100nm)、クロム(例えば膜厚10nm)および銅(例えば膜厚30nm)の2層からなる密着層、銀からなる反射膜(例えば膜厚100nm)、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、二酸化珪素膜の3層からなる反射率調整層、含フッ素珪素化合物を有する撥水膜(例えば膜厚5nm)をこの順で形成している。
【0010】
この構成では、高温試験および温度サイクル試験のいずれにおいても、成膜面で実使用上支障となる問題は現れていない。なお、高温試験は、70℃の温度下で5時間経過後、成膜面でのクラックや剥離等の有無を確認することで行っている。また、温度サイクル試験は、反射鏡を−20℃で2時間保持した後、2時間で65℃まで昇温してそのまま65℃で2時間保持し、さらに−20℃まで2時間で降温するという温度サイクルを8回繰り返し、成膜面におけるクラックや剥離等の有無を確認することで行っている。
【0011】
特許文献5では、ポリカーボネートからなる基板上に、一酸化珪素からなる下地層(膜厚50nm)、クロム膜(膜厚5nm)、銀からなる反射膜(膜厚150nm)、クロム膜(膜厚2nm)、酸化アルミニウム膜(膜厚100nm)および二酸化珪素膜(膜厚10nm)の2層からなる保護層をこの順で形成している。この構成では、温度60℃、湿度90%の環境下で500時間経過後、反射率の低下はほとんどないものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−239201号公報(実施例5、8等参照)
【特許文献2】特開2008−260978号公報(段落〔0009〕、〔0013〕〜〔0015〕、〔0025〕、〔0026〕、実施例2等参照)
【特許文献3】特開昭52−40348号公報(第2頁左上欄および右上欄等参照)
【特許文献4】特開2004−219974号公報(段落〔0015〕〜〔0036〕、〔0067〕〜〔0071〕等参照)
【特許文献5】特開平8−234004号公報(段落〔0020〕〜〔0034〕、〔0042〕等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、金属表面反射鏡を例えば車載用途(例えばルームミラー)に使用する場合、夏場の車内が高温多湿環境または高温環境になることを考えると、金属表面反射鏡は、高温多湿環境下(例えば85℃85%RH)や高温環境下(例えば115℃)でも、膜の機械的劣化(剥離、クラック)を抑え、反射率低下などの機能的劣化も抑える膜構成であることが必要とされる。特に、420nm〜700nmの可視光領域での平均反射率は、90%以上を確保することが望ましい。
【0014】
しかしながら、上述した従来の金属表面反射鏡について、85℃85%RHの高温多湿環境を想定した耐湿性試験、115℃の高温環境を想定した耐熱性試験を本発明者等が行ったところ、耐湿性試験時には膜浮き(剥離)が生じ、耐熱性試験時には膜にクラックが生じ、上記の要求を満足することができなかった。
【0015】
なお、金属表面反射鏡を車載用途に使用する場合は、さらに紫外線の影響も考慮する必要があり、紫外線による膜の機械的劣化や機能的劣化を抑えることができる膜構成であることも必要とされる。
【0016】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、耐湿性、耐熱性、耐光性を全て満足する膜構成を実現して、高温多湿環境、高温環境、紫外線の影響を受ける環境など、使用環境が厳しい状況下でも、膜の機械的劣化や機能的劣化を抑えることができるアルミニウム表面反射鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のアルミニウム表面反射鏡は、樹脂基板上に、密着層、アルミニウム膜からなる反射層、誘電体層をこの順で積層してなり、前記密着層は、3層で構成されているとともに、前記樹脂基板側から、第1の層、第2の層、第3の層をこの順で積層してなり、前記第1の層は、酸化セリウム膜で構成されており、前記第2の層は、酸化アルミニウム膜で構成されていることを特徴としている。
【0018】
本発明のアルミニウム表面反射鏡において、前記密着層の前記第3の層は、酸化セリウム膜、または二酸化珪素を含有する膜で構成されていることが望ましい。
【0019】
本発明のアルミニウム表面反射鏡において、前記誘電体層は、低屈折率層と高屈折率層とを積層した誘電体多層膜で構成されており、前記低屈折率層は、二酸化珪素を含有する層で構成されており、前記高屈折率層は、酸化チタンを含有する層、酸化ジルコニウムからなる層、酸化タンタルからなる層のいずれかで構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、密着層の第1の層として酸化セリウム膜を樹脂基板上に形成することにより、高温多湿環境下において、樹脂基板と多層膜(反射層、誘電体層)との剥離を抑え、水分による反射層の機能的劣化(反射率の低下)を抑えることができる。また、密着層の第2の層として酸化アルミニウム膜を形成することにより、樹脂基板側からの水分が反射層に浸入するのを抑えることができるとともに、良好な耐熱性および耐光性も期待できる。
【0021】
さらに、密着層として第3の層を形成することにより、第2の層と反射層との密着性をさらに向上させることができ、高温多湿環境下においても、反射層の密着力低下を抑えることができる。また、第3の層により、樹脂基板側からの水分による反射層の機能的劣化を確実に抑えることができる。また、反射層上に誘電体層を形成することにより、外部からの水分や硫黄分などの侵入を抑えて反射層の機能的劣化を抑えるとともに、機械的強度を向上させることができる。
【0022】
このように、樹脂基板と反射層との間に3層からなる密着層を形成する構成と、反射層上に誘電体層を形成する構成とを複合した膜構成により、耐湿性、耐熱性、耐光性を全て満足するアルミニウム表面反射鏡を実現することができ、例えば車載用途など、使用環境が厳しい状況下でも、膜の機械的劣化や機能的劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の一形態に係る反射鏡の概略の構成を示す断面図である。
【図2】実施例1〜5の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図3】実施例6〜10の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図4】実施例11〜15の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図5】実施例16、17の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図6】比較例1〜5の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図7】比較例6〜10の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【図8】実施例1の反射鏡における、各試験前後での波長に対する反射率の変化と、比較例4の反射鏡における、耐湿性試験後の、波長に対する反射率の変化とを示す説明図である。
【図9】実施例1および比較例1の各反射鏡についての耐塩性試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0025】
〔反射鏡の構成〕
図1は、本発明の実施の一形態に係るアルミニウム表面反射鏡(以下、反射鏡とも称する)の概略の構成を示す断面図である。本実施形態の反射鏡は、樹脂基板1上に、密着層2、反射層3、誘電体層4をこの順で積層して構成されている。本実施形態では、反射層3は、アルミニウム膜で構成されている。
【0026】
樹脂基板1は、例えばポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー樹脂、環状オレフィン樹脂などの樹脂材料を用いたプラスチック基板で構成されている。
【0027】
密着層2は、3層からなり、樹脂基板1側から、第1の層2a、第2の層2b、第3の層2cをこの順で積層して構成されている。第1の層2aは、酸化セリウム膜で構成されており、第2の層2bは、酸化アルミニウム膜で構成されている。第3の層2cは、酸化セリウム膜、または二酸化珪素を含有する膜で構成されている。なお、二酸化珪素を含有する膜は、二酸化珪素のみを用いて形成される膜(二酸化珪素膜)であってもよいし、二酸化珪素と他の材料(例えば酸化アルミニウム)との混合物を用いて形成される膜であってもよい。
【0028】
誘電体層4は、低屈折率層と高屈折率層とを積層した誘電体多層膜で構成されている。ここで、低屈折率層の屈折率は、1.35〜1.60であり、高屈折率層は低屈折率層よりも高い屈折率を有する。本実施形態では、誘電体層4は、3層からなり、樹脂基板1側から、二酸化珪素を含有する第1の低屈折率層4a(第1のL層)、酸化チタンを含有する高屈折率層4b(H層)、二酸化珪素を含有する第2の低屈折率層4c(第2のL層)をこの順で積層して構成されている。なお、高屈折率層は、酸化チタンを含有する層以外に、酸化ジルコニウムからなる層で構成されてもよいし、酸化タンタルからなる層で構成されてもよい。
【0029】
なお、二酸化珪素を含有する低屈折率層は、二酸化珪素のみを用いて形成される層であってもよいし、二酸化珪素と他の材料(例えば酸化アルミニウム)との混合物を用いて形成される層であってもよい。また、酸化チタンを含有する高屈折率層は、酸化チタンのみを用いて形成される層であってもよいし、酸化チタンと他の材料(例えば酸化ランタン)との混合物を用いて形成される層であってもよい。
【0030】
密着層2の第1の層2aとして酸化セリウム膜を樹脂基板1上に形成することにより、樹脂基板1自体の吸水に起因する樹脂基板1と反射層3との密着性の低下を抑える効果と、樹脂基板1から反射層3への水分の浸透を抑える効果とを期待できる。この結果、高温多湿環境下において、樹脂基板1と樹脂基板1上に形成される多層膜(反射層3、誘電体層4)との剥離を抑え、水分による反射層3の機能的劣化(反射率の低下)を抑えることができる。
【0031】
また、酸化アルミニウム膜(Al2x(x=1〜3))は水分の浸透性が低いため、酸化アルミニウム膜を密着層2の第2の層2bとして形成することにより、樹脂基板1側からの水分が第1の層2aを透過したとしても、その水分が反射層3に浸入するのを第2の層2bで抑えることができる。また、第2の層2bを酸化アルミニウム膜で形成することにより、良好な耐熱性および耐光性も期待できる。
【0032】
さらに、密着層2に第3の層2cを形成することにより、第2の層2bと反射層3との密着性をさらに向上させることができ、高温多湿環境下において、反射層3の密着力低下と水分による反射層3の機能的劣化とを防止することができる。
【0033】
また、反射層3上に誘電体層4が形成されているので、外部から反射層3に水分や硫黄分などが侵入するのを防ぐことができ、水分や硫黄分による反射層3の機能的劣化を防止できる。また、外的要因によって反射層3に傷が付くのを誘電体層4によって防ぐことができ、機械的強度を向上させる効果も得られる。
【0034】
したがって、以上のように、樹脂基板1と反射層3との間に3層からなる密着層2を設ける構成と、反射層3上に誘電体層4を形成する構成とを複合した膜構成により、耐湿性、耐熱性、耐光性などの耐環境性が良好な反射鏡を実現することができる。これにより、例えば車載用途など、反射鏡の使用環境が厳しい状況下でも、反射鏡を構成する膜の機械的劣化(剥離、クラック)や反射率低下などの機能的劣化を抑えることができる。
【0035】
特に、密着層2の第2の層2bとしての酸化アルミニウム膜は、酸化セリウム膜や二酸化珪素を含有する膜との密着性が良い。したがって、密着層2の第2の層2b上に形成される第3の層2cを、酸化セリウム膜、または二酸化珪素を含有する膜で構成することにより、樹脂基板1と反射層3との密着性を確実に向上させることができる。特に、第3の層2cとして二酸化珪素を含有する膜を用いると、耐熱性を大幅に向上させることができ、高温環境下での信頼性の高い反射鏡を実現することができる。
【0036】
また、誘電体層4を低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜で構成することにより、増反射効果を得ることができ、反射鏡としての機能をさらに向上させることができる。つまり、使用環境が厳しい状況下でも、反射率の低下を確実に回避できる。
【0037】
また、以下に示す好ましい条件で各層を形成することにより、後述する耐湿性試験、耐熱性試験、耐光性試験(フェードメータ試験)後、420nm〜700nmの可視光領域における平均反射率90%以上を確実に実現することができる。
【0038】
〔各層の好ましい条件について〕
密着層2の第1の層2aとしての酸化セリウム膜は、水分の浸透を防ぎ密着性を向上させる観点から、5nm以上の物理膜厚を有していることが好ましく、20nm以上の物理膜厚を有していることがより好ましい。また、第1の層2aとしての酸化セリウム膜は、膜割れや膜浮きを防止する観点から、150nm以下の物理膜厚を有していることが好ましく、特に、物理膜厚が70nm以下であれば、高温環境下でのクラックを防止する効果が高まるのでより好ましい。
【0039】
また、密着層2の第2の層2bとしての酸化アルミニウム膜は、水分の浸透を防ぎ密着性を向上させる観点から、1nm以上の物理膜厚を有していることが好ましく、特に、物理膜厚が5nm以上であれば、高温多湿環境下における密着性が向上し、信頼性が向上するのでより好ましい。また、第2の層2bとしての酸化アルミニウム膜は、膜割れや膜浮きを防止する観点から、200nm以下の物理膜厚を有していることが好ましく、100nm以下の物理膜厚を有していることがより好ましい。
【0040】
なお、上記酸化アルミニウム膜の形成方法としては、酸素雰囲気中でアルミニウムを抵抗加熱や電子ビームによって蒸着させる方法や、酸化アルミニウムそのものを電子ビームによって蒸着させる方法等が考えられるが、特に限定されるわけではなく、使用する装置(真空蒸着装置)によってより良い結果が出るような最適な方法を用いればよい。
【0041】
密着層2の第3の層2cを二酸化珪素膜で構成した場合、その二酸化珪素膜は、耐熱性を向上させる観点から、20nm以上の物理膜厚を有していることが好ましく、45nm以上の物理膜厚を有していることがより好ましい。また、第3の層2cとしての二酸化珪素膜は、膜割れや膜浮きを防止する観点から、230nm以下の物理膜厚を有していることが好ましく、180nm以下の物理膜厚を有していることがより好ましい。なお、二酸化珪素膜の代わりに、例えば二酸化珪素と酸化アルミニウムとの混合物からなる材料を用いて形成される膜を用いても、二酸化珪素膜を用いた場合と同等の効果を発揮する。なお、真空槽内に酸素を導入せずに二酸化珪素膜を形成すれば、耐熱性能が向上するため、より好ましい。
【0042】
上記のように、密着層2の第1の層2a、第2の層2b、第2の層2cをより好ましい条件で成膜した場合、その複合効果により、耐塩性も向上する。
【0043】
反射層3としてのアルミニウム膜は、高い反射率を得るための観点から、40nm以上の物理膜厚を有していることが好ましく、50nm以上の物理膜厚を有していることがより好ましい。また、反射層3としてのアルミニウム膜は、膜割れや膜浮きを防止する観点から、200nm以下の物理膜厚を有していることが好ましく、特に、物理膜厚が80nm以下であれば、耐熱環境下においてクラックの発生を抑えることができ、信頼性が向上するため、より好ましい。
【0044】
誘電体層4の第1低屈折率層4aおよび第2低屈折率層4cは、酸素を導入せずに形成される二酸化珪素膜であることが好ましい。その理由は、真空槽内に酸素を導入せずに二酸化珪素膜を形成すると、耐熱性能が向上するためである。また、高屈折率層4bは、機械的耐性(機械的強度)が向上する点から、特に、酸化チタンと酸化ランタンとの混合物で構成されることが好ましい。
【0045】
誘電体層4は、基準波長λが500nmであるときに、光学膜厚を4nd/λ(n:屈折率、d:物理膜厚(nm))に対するものとして0.1〜4とすることが好ましく、優れた反射鏡を形成する場合は、増反射層として多層構造にすることが好ましい。特に、3層構造で増反射層を形成する場合においては、樹脂基板側から順に、第1の低屈折率層の光学膜厚を1、高屈折率層の光学膜厚を1、第2の低屈折率層の光学膜厚を0.3とすることが好ましい。本実施形態では、誘電体層4を3層構造とし、各層を上記の光学膜厚にすることで、増反射層としての効果が顕著に現れるものとなっている。
【0046】
上述した密着層2、反射層3および誘電体層4の形成方法については、真空蒸着法やスパッタリング法、化学気相成長法など、公知の形成方法を用いることができる。特に、IAD(Ion Assist Deposition )法を用いると、より膜が緻密となり、耐環境性の向上が見込まれるため、より好ましい。
【0047】
〔実施例および比較例について〕
次に、反射鏡の実施例および比較例について、実施例1〜17、比較例1〜10として説明する。
【0048】
(実施例1)
まず、ポリカーボネートからなる樹脂基板1上に、密着層2の第1の層2aとして、物理膜厚30nmの酸化セリウム膜をIAD法によって形成し、続いて、酸素雰囲気中でのアルミニウム材料を用いた電子ビーム蒸着により、密着層2の第2の層2bとして、物理膜厚10nmの酸化アルミニウム膜を形成した。続いて、密着層2の第3の層2cとして、物理膜厚90nmの二酸化珪素膜をIAD法によって形成した。
【0049】
次に、このような多層膜からなる密着層2上に、反射層3として、アルミニウム材料を用いた電子ビーム蒸着により、物理膜厚70nmのアルミニウム膜を形成した。そして、反射層3上に、増反射効果を有する誘電体層4の誘電体多層膜を電子ビーム蒸着により形成した。具体的には、誘電体層4の第1の低屈折率層4aとして、物理膜厚88nmの二酸化珪素膜を形成し、続いて、メルク社製の蒸着材料であるH4を用いて物理膜厚65nmの高屈折率層4bを形成し、さらにその上に第2の低屈折率層4cとして物理膜厚26nmの二酸化珪素膜を形成した。なお、H4は、酸化チタンと酸化ランタンとの混合物で構成された材料である。なお、実施例1では、第1の低屈折率層4aおよび第2の低屈折率層4cの屈折率は1.46であり、高屈折率層4bの屈折率は1.90である。
【0050】
(実施例2)
樹脂基板1として、シクロオレフィンポリマー樹脂であるゼオノア(登録商標;日本ゼオン株式会社)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0051】
(実施例3)
樹脂基板1として、環状オレフィン樹脂であるArton(登録商標;JSR株式会社)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0052】
(実施例4)
密着層2の第1の層2aを物理膜厚60nm(実施例1の厚さの2倍)で形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0053】
(実施例5)
密着層2の第2の層2bを、酸化アルミニウムを用いて電子ビーム蒸着によって形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0054】
(実施例6)
密着層2の第2の層2bを、酸化アルミニウムを用いてIAD法によって形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0055】
(実施例7)
密着層2の第1の層2aおよび第3の層2cを、電子ビーム蒸着によって形成し、密着層2の第2の層2bおよび反射層3を、抵抗加熱蒸着によって形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0056】
(実施例8)
密着層2の第2の層2bおよび反射層3を、抵抗加熱蒸着を用いて形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0057】
(実施例9)
密着層2の第2の層2bを、電子ビーム蒸着によって形成し、密着層2の第3の層2c、誘電体層4の第1の低屈折率層4aおよび第2の低屈折率層4cを、メルク社製の蒸着材料であるL5を用いて形成した以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。なお、L5は、二酸化珪素と酸化アルミニウムとの混合物で構成された材料である。実施例9では、第1の低屈折率層4aおよび第2の低屈折率層4cの屈折率は1.47である。
【0058】
(実施例10)
密着層2の第3の層2cとして、二酸化珪素膜の代わりに酸化セリウム膜をIAD法によって形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0059】
(実施例11)
密着層2の第3の層2cの物理膜厚を45nm(実施例1および8の1/2倍)とした以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0060】
(実施例12)
密着層2の第3の層2cの物理膜厚を180nm(実施例1および8の2倍)とした以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0061】
(実施例13)
密着層2の第2の層2bの物理膜厚を3.3nm(実施例1および8の1/3倍)とした以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0062】
(実施例14)
密着層2の第2の層2bの物理膜厚を30nm(実施例1および8の3倍)とした以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0063】
(実施例15)
密着層2の第1の層2aの物理膜厚を6nm(実施例1および8の1/5倍)とした以外は、実施例8と同じ条件で反射鏡を作製した。
【0064】
(実施例16)
誘電体層4の高屈折率層4bを、物理膜厚60nmの酸化タンタル(Ta25)で形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。実施例16では、高屈折率層4bの屈折率は2.05である。
【0065】
(実施例17)
誘電体層4の高屈折率層4bを、物理膜厚65nmの酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成した以外は、実施例1と同じ条件で反射鏡を作製した。実施例17では、高屈折率層4bの屈折率は1.90である。
【0066】
(比較例1)
特許文献1の膜構成を参考にして、ポリカーボネートからなる樹脂基板上に、密着層として酸化セリウム膜をIAD法によって形成した。密着層以外の膜構成については、実施例1と同じである。
【0067】
(比較例2)
樹脂基板としてゼオノアを用いた以外は、比較例1と同じである。
【0068】
(比較例3)
樹脂基板としてArtonを用いた以外は、比較例1と同じである。
【0069】
(比較例4)
特許文献3の膜構成を参考にして、ポリカーボネートからなる樹脂基板上に、密着層として、物理膜厚50nmの一酸化珪素膜を形成した。密着層以外の膜構成については、実施例1と同じである。
【0070】
(比較例5)
特許文献4の膜構成を参考にして、ポリカーボネートからなる樹脂基板上に、密着層として、物理膜厚11nmの酸化アルミニウム膜、物理膜厚5nmのクロム膜、物理膜厚22nmの銅膜をこの順で形成した。密着層以外の膜構成については、実施例1と同じである。
【0071】
(比較例6)
特許文献5の膜構成を参考にして、ポリカーボネートからなる樹脂基板上に、密着層として、物理膜厚50nmの一酸化珪素膜、物理膜厚5nmのクロム膜をこの順で形成した。密着層以外の膜構成については、実施例1と同じである。
【0072】
(比較例7)
ポリカーボネートからなる樹脂基板上に、密着層として、二酸化珪素膜、酸化セリウム膜をこの順で形成した。密着層以外の膜構成については、実施例1と同じである。
【0073】
(比較例8)
実施例1の膜構成において、密着層の第3の層である二酸化珪素膜を省いた構成とした。
【0074】
(比較例9)
実施例10の膜構成において、密着層の第1の層である酸化セリウム膜を省いた構成とした。
【0075】
(比較例10)
実施例1の膜構成において、密着層の第2の層である酸化アルミニウム膜を省いた構成とした。
【0076】
図2は、実施例1〜5の反射鏡について、図3は、実施例6〜10の反射鏡について、図4は、実施例11〜15の反射鏡について、図5は、実施例16、17の反射鏡について、図6は、比較例1〜5の反射鏡について、図7は、比較例6〜10の反射鏡について、膜構成および環境試験の結果を示す説明図である。
【0077】
図2〜図7において、“SiO2”の表記は、真空槽内に酸素導入を行わずに形成したSiO2膜であることを示す。“H4”は、メルク社製の蒸着材料である、酸化チタンと酸化ランタンとの混合物で構成された材料によって形成した膜であることを示す。“L5”は、メルク社製の蒸着材料である、二酸化珪素と酸化アルミニウムとの混合物で構成された材料によって形成した膜であることを示す。“−EB”の表記は、電子ビーム蒸着によって形成した膜であることを示し、“−RH”の表記は、抵抗加熱蒸着によって形成した膜であることを示し、“−IAD”は、IAD法を用いて形成した膜であることを示す。“AL(O2)”の表記は、蒸着材料として酸化アルミニウムではなくアルミニウムを用い、酸素雰囲気中のアルミニウム蒸着によって形成された酸化アルミニウム膜を意味する。基板材料である“PC”は、ポリカーボネートを示す。
【0078】
上記の環境試験としては、耐湿性(耐高温多湿性)試験、耐熱性試験、耐光性試験(フェードメータ試験)を行った。耐湿性試験では、85℃85%RHの雰囲気下に反射鏡を500時間放置し、外観の評価と、テープによる評価とを行った。外観の評価は、目視による欠陥の有無を観察して行った。なお、上記の欠陥には、傷、ピンホール、部分的なクラック、膜浮き、白濁等の膜の劣化を意味するものが含まれる。テープによる評価は、セロハンテープ(ニチバン製Lパック)を指の腹で膜に密着させた後、セロハンテープを剥がしたときの膜の密着性(剥がれの程度)を観察して行った。
【0079】
耐熱性試験では、115℃の雰囲気下に反射鏡を500時間放置し、耐湿性試験と同様に、外観の評価と、テープによる評価とを行った。耐光性試験では、フェードメータ内に反射鏡を500時間放置し、耐湿性試験と同様に、外観の評価と、テープによる評価とを行った。なお、フェードメータ内では、片面放射照度500±100W/m2の紫外線ロングライフカーボンアーク灯を光源として用い、63±3℃内の試験機の中で、光源から25cmの距離に試料(反射鏡)を正対させて設置し、紫外線を照射した。
【0080】
また、上記の各試験の前後で反射率の評価も行った。反射率の評価は、日立分光光度計U−4100を用い、420nm〜700nmの可視光領域において、30度入射における反射率を測定して行った。
【0081】
図2〜図7の各試験での外観の評価において、“◎”は、外観上欠陥がなく良好であることを示し、“○”は、良好であるが注視すると確認できる程度の部分的な欠陥があることを示し、“×”は、明らかな欠陥があることを示す。また、テープによる評価において、“◎”は、テープによる剥離がなく良好であることを示し、“○”は、良好だが注視すると確認できる程度の微小な剥離があることを示し、“×”は、完全なる膜の剥離があることを示す。
【0082】
さらに、反射率の評価において、“◎”は、どの環境試験後についても、420nm〜700nmの可視光領域における平均反射率が90%以上であることを示し、“×”は、3つの環境試験後の少なくともいずれかに、上記の平均反射率が90%を下回る結果となったものがあることを示す。
【0083】
比較例1、2、3、8より、酸化セリウム膜を密着層の第1の層として用いれば、高温多湿環境に強い傾向を見出すことができた。しかし、高温環境下では、外観上明らかな欠陥があり、耐久性(耐熱性)を維持することができない。また、密着層を酸化セリウム膜の1層のみで構成した場合、耐光性試験において密着性が低下している。したがって、酸化セリウム膜を密着層の第1の層として用いるだけでは、耐湿性、耐熱性、耐光性を兼ね備えることができない。
【0084】
また、比較例4〜7、9のように、密着層の第1の層として酸化セリウム膜以外の膜を用いた場合、高温多湿環境下において膜の密着性が低下している。特に、比較例7のように、密着層の第1の層に二酸化珪素膜を用いた場合は、高温多湿環境下での樹脂基板との密着性が低下している。
【0085】
また、比較例10のように、一般的に、高温環境に強く、機械的強度が強いとされる二酸化珪素を密着層の第2の層とする構成では、外観異状は見られなかったが、膜の密着性に劣る結果となっている。
【0086】
これに対して、実施例1〜17の結果より、以下のことが言える。まず、密着層2の第1の層2aが酸化セリウム膜であることは、高温多湿環境下における耐久性向上および密着性向上に著しい効果がある。また、第2の層2bが酸化アルミニウム膜であることは、高温多湿環境下および高温環境下の両者において、第1の層2aと第3の層2cとの密着性を維持できる効果を著しく発揮し、耐光性も発揮する。さらに、第2の層2bとアルミニウムによって形成される反射層3との間に第3の層2cが介在することにより、第2の層2bと反射層3との密着性を向上させ、かつ、耐熱性を向上させる効果を著しく発揮する。
【0087】
また、比較例4〜6のように、密着層に酸化セリウム膜を含まない場合、可視光領域での平均反射率90%以上を確保できていない。ここで、図8は、実施例1の反射鏡における、各試験前後での波長に対する反射率の変化と、比較例4の反射鏡における、耐湿性試験後の、波長に対する反射率の変化とを示している。同図に示すように、実施例1では、耐熱性試験、耐湿性試験、耐光性試験のいずれを行った後でも、試験前(初期)のものから反射率がほとんど低下しておらず、しかも、420nm〜700nmの可視光領域で平均反射率90%以上を確保できているが、比較例4では、耐湿性試験後、可視光領域で平均反射率90%以上を確保できていない。なお、他の実施例2〜17における反射率の変化についても、実施例1と同様の変化を示すことがわかっている。
【0088】
以上のことから、本発明の膜構成によれば、耐湿性、耐熱性、耐光性を全て兼ね備えた高い耐久性能を持つ反射鏡を実現することができると言える。そして、例えば車載用途など、使用環境が厳しい状況下でも、膜の剥離やクラック等の機械的劣化、反射率低下などの機能的劣化を抑えることができると言える。
【0089】
さらに、図9は、実施例1および比較例1の各反射鏡についての耐塩性試験(塩水噴霧試験(MIL−M−13508C))の結果を示している。耐塩性試験では、35℃の環境にて濃度5%の塩水を反射鏡に噴霧しながら24時間以上放置した後、上記と同様の外観の評価およびテープによる評価を行った。
【0090】
同図より、比較例1では、テープテストで膜は剥がれなかったものの、試験直後の外観検査において部分的な剥離が起こっていることが確認できた。これに対して、実施例1では、テープテスト、外観検査ともに異常は見られず、さらに耐塩性も向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、例えば、車載用途で、ルームミラーやヘッドアップディスプレイの照明光学系の反射ミラーなど、耐湿性、耐熱性、耐光性の全てが求められ、厳しい環境下で使用される反射鏡に利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 樹脂基板
2 密着層
2a 第1の層
2b 第2の層
2c 第3の層
3 反射層
4 誘電体層
4a 第1の低屈折率層
4b 高屈折率層
4c 第2の低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上に、密着層、アルミニウム膜からなる反射層、誘電体層をこの順で積層してなり、
前記密着層は、3層で構成されているとともに、前記樹脂基板側から、第1の層、第2の層、第3の層をこの順で積層してなり、
前記第1の層は、酸化セリウム膜で構成されており、
前記第2の層は、酸化アルミニウム膜で構成されていることを特徴とするアルミニウム表面反射鏡。
【請求項2】
前記密着層の前記第3の層は、酸化セリウム膜、または二酸化珪素を含有する膜で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム表面反射鏡。
【請求項3】
前記誘電体層は、低屈折率層と高屈折率層とを積層した誘電体多層膜で構成されており、
前記低屈折率層は、二酸化珪素を含有する層で構成されており、
前記高屈折率層は、酸化チタンを含有する層、酸化ジルコニウムからなる層、酸化タンタルからなる層のいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム表面反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−221208(P2011−221208A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89208(P2010−89208)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】