説明

アルミニウム錯体と分子内閉環反応における触媒としてのその使用

同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を閉環反応させた場合に、閉環化合物のみならず閉環しなかった化合物の光学異性体の比率を豊富化させる方法を提供すること。一般式[All(L1l(L2m(Lh)nkで表される特定のアルミニウム錯体存在下に、同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を閉環反応させることを特徴とする光学異性体の比率を豊富化させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料等の素材として有用であり、メントールの重要な合成前駆体であるイソプレゴール及びその類似化合物の製造方法に関するものである。本発明は、新規な不斉アルミニウム錯体を触媒とし、同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を閉環反応させ、閉環して生成する化合物のd体又はl体のいずれかの比率、又は閉環反応しない光学異性体混合物のd体又はl体のいずれかの比率を豊富化させることができる。
特に、低エナンチオ過剰率を有するシトロネラールより、一方の立体異性体のみを優先的に反応させ、前記光学異性体の比率を豊富化することによりシトロネラールを光学分割することができる。又は、このような基質選択的な閉環反応により、閉環反応しない特定の光学異性体の比率が豊富化されたイソプレゴールを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、メントール、特にl−メントールは、清涼感のある香料として非常に重要でその用途は多岐にわたっている。l−メントールを得る方法として、dl−メントールを光学分割する方法と、不斉合成法が知られている(合成香料、印藤元一著、化学工業日報社、106〜114頁)。不斉合成法によるl−メントールの製造工程においては、前駆体であるl−イソプレゴールを水素化してl−メントールが得られるが、このl−イソプレゴールを合成する工程において、d−シトロネラールの選択的閉環反応が重要である。
【0003】
d−シトロネラールの選択的閉環反応については、古くから多くの方法が広く知られている。アルミニウム錯体を触媒として用いた高選択的反応として、近年、2,6−ジフェニルフェノキシ部位から誘導される配位子を有したアルミニウム錯体を用いた高選択的閉環反応(特開2002−212121号公報)が見出されている。その他、フェノキシ部位を有する化合物から誘導される配位子を有したアルミニウム錯体を触媒として用いた閉環反応(WO2006/069659、WO2006/092433、DE102005023953)や、シロキシ部位を有したアルミニウム錯体を触媒として用いた閉環反応も報告されている(WO2007/039342)。しかし、光学活性なアルミニウム錯体を用いてラセミ体のシトロネラールより片方の光学異性体のみを選択的に環化させる反応の報告は無い。また、酒石酸由来の不斉配位子であるジオール骨格を有するアルミニウム触媒については多くの報告例があるが(US6166260、Synlett,1998,1291−1293、Tetrahedron:Asymmetry 1991,Vol.2,No.12,1295−1304、CROATIA CHEMICA ACTA,1996,69,459−484、Russian Chemical Bulletin,2000,49,460−465)、いずれもカチオン性錯体、若しくはハロゲン基、若しくはアミノヒドロキシ基といったの特定の置換基を有するもののみである。アルミニウム:酒石酸由来の不斉配位子であるジオールの比が1:1で、アルキル基若しくはアルコキシ基を有する中性錯体、又はアルミニウム:ジオール比が2:3であるアルミニウム中性錯体が報告されている例は無い。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、新規な不斉アルミニウム錯体を触媒として用い、分子内でカルボニル−エン閉環反応を行い、生成する化合物若しくは残存する化合物の特定の光学異性体の比率を豊富化させ、光学純度が高められた目的の光学活性アルコール若しくは光学活性オレフィンアルデヒドを得る方法、特にシトロネラールを高選択的閉環反応によって光学分割し、l−イソプレゴール及びl−シトロネラール、又はd−イソプレゴール及びd−シトロネラールを得る方法を提供することである。
【0005】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の触媒を用いることにより、不斉配位子の立体に対応したシトロネラールを優先的に閉環させ、dlエナンチオ選択率の向上を伴い、更にイソプレゴール、イソイソプレゴール、ネオイソプレゴール、ネオイソイソプレゴールの4種の異性体の内、イソプレゴールが異性体比80%以上の高選択率で、高収率で得られることを見いだし、さらに検討を重ねて本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち本発明は以下の各発明を包含する。
〔1〕下記一般式(1’)で示されるアルミニウム錯体。
[All(L1l(L2m(Lh)nk (1’)
(式(1’)中、lは1又は2の整数を表し、lが1のときm=0及びn=1の整数を表し、lが2のときm=1及びn=0の整数を表し、kは自然数を表し、L1は下記式(2−A’)又は下記式(2−B’)で表される配位子を表し、L2は下記式(3−A’) 又は(3−B’)で表される配位子を表し、Lhは、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、シロキシ基、アミノ基、フッ素、臭素、又はヨウ素を表す。)
【0007】
【化1】

(式(2−A’)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R1とR2及びR3とR4とは結合して環を形成してもよい。環Aはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。*は、光学活性を示す不斉炭素原子を意味する。
式(2−B’)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R1とR2及びR3とR4とは結合して環を形成してもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。*は、光学活性を示す不斉炭素原子を意味する。
式(3−A’)中、R5、R6、R7、及びR8はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R5とR6及びR7とR8とは結合して環を形成してもよい。環Bはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。
式(3−B’)中、R5、R6、R7、及びR8はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R5とR6及びR7とR8とは結合して環を形成してもよい。Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。)
〔2〕下記一般式(1)で表されるアルミニウム化合物
Al(Lg)3 (1)
(式(1)中、Lgは、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。)、及び下記一般式(2−A)又は下記一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを反応させることを特徴とする〔1〕に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【0008】
【化2】

(式(2−A)中、R1、R2、R3、R4、環A、及び*は〔1〕の式(2−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(2−B)中、R1、R2、R3、R4、Y1、Y2、及び*は〔1〕の式(2−B’)の定義と同じ意味を表す。)
〔3〕さらに、添加物を反応させる〔2〕に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
〔4〕 下記一般式(1)で表されるアルミニウム化合物
Al(Lg)3 (1)
(式(1)中、Lgは、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。)、
下記一般式(2−A)又は下記一般式(2−B)で表されるジオール化合物、及び下記一般式(3−A)又は下記一般式(3−B)で表されるジオール化合物とを反応させることを特徴とする〔1〕に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【0009】
【化3】

(式(2−A)中、R1、R2、R3、R4、環A、及び*は〔1〕の式(2−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(2−B)中、R1、R2、R3、R4、Y1、Y2、及び*は〔1〕の式(2−B’)の定義と同じ意味を表す。
式(3−A)中、R5、R6、R7、R8、及び環Bは〔1〕の式(3−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(3−B)中、R5、R6、R7、R8、Y3、及びY4は〔1〕の式(3−B’)の定義と同じ意味を表す。)
〔5〕一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物が酒石酸由来の光学活性体である〔2〕〜〔4〕に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
〔6〕一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物が酒石酸由来の光学活性体である〔4〕及び〔5〕に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
〔7〕同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を、〔1〕に記載のアルミニウム錯体の存在下に閉環反応させることを特徴とし、閉環して生成する化合物のd体又はl体のいずれかが豊富化されている光学活性化合物の製造方法。
〔8〕同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物が下記一般式(4)で示される化合物である〔7〕に記載の製造方法。
【0010】
【化4】

(式(4)中、jは1又は2の整数を表し、R9、R10、及びR12はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R11は置換基を有していてもよいアルキル基又は保護基で保護されていてもよい水酸基を表し、R13、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、波線はE又はZ配置を表す。)
〔9〕閉環して生成する化合物が下記一般式(5)で示される化合物である〔7〕に記載の製造方法。
【0011】
【化5】

(式(5)中、jは1又は2の整数を表し、R9、R10及びR12はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R11は置換基を有していてもよいアルキル基又は保護基で保護されていてもよい水酸基を表し、R13、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、波線はE又はZ配置を表す。)
〔10〕同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物が光学活性シトロネラールであり、閉環して生成する化合物が光学活性イソプレゴールである〔7〕に記載の製造方法。
〔11〕光学活性イソプレゴールがl−イソプレゴールである〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕光学活性シトロネラールがl−シトロネラールである〔10〕に記載の製造方法。
〔13〕同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を、〔1〕に記載のアルミニウム錯体の存在下に閉環反応させることを特徴とする、光学異性体混合物のうち閉環しないd体又はl体のいずれかを豊富化する方法。
【0012】
本発明によれば、新規なアルミニウム錯体を触媒として使用し、分子内でカルボニル−エン閉環反応を行い、閉環により生成する化合物若しくは未反応のまま残存する化合物の特定の光学異性体の比率を豊富化させ、光学純度が高められた目的の光学活性アルコール若しくは光学活性オレフィンアルデヒドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた固体のNMRチャートを示す。
【図2】図1で示すNMRチャートの低磁場側を拡大したものを示す。
【図3】(R,R)−TADDOLのNMRチャートを示す。
【図4】図3で示すNMRチャートの低磁場側を拡大したものを示す。
【図5】実施例2で得られた固体のNMRチャートを示す。
【図6】図5で示すNMRチャートの低磁場側を拡大したものを示す。
【図7】(R,R)−1−ナフチルタドールのNMRチャートを示す。
【図8】図7で示すNMRチャートの低磁場側を拡大したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるアルミニウム触媒の調製に用いる一般式(1)で表されるアルミニウム化合物において、Lgは、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。
【0015】
Lgで表されるアルキル基としては、直鎖又は分岐の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
Lgで表されるアルコキシ基としては、脂肪族アルコキシ基の他にアリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。脂肪族アルコキシ基としては、直鎖又は分岐の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、炭素数7〜15、好ましくは炭素数7〜11のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、1−フェネチルオキシ基等が挙げられる。
Lgで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0016】
Lgは、同一でも異なっていてもよく、さらには3つのうち2つが同一となっていてもよい。
【0017】
Lgは必ずしも光学活性体である必要はない。
【0018】
一般式(1)で表されるアルミニウム化合物の好ましい例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn−プロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリt−ブチルアルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリn−プロポキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム、トリsec−ブトキシアルミニウム、トリt−ブトキシアルミニウム、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三フッ化アルミニウムなどが挙げられる。
【0019】
一般式(2−A)及び(2−B)で表されるジオール化合物、及びそれらから誘導される一般式(2−A’)及び(2−B’)で表される配位子において、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R1とR2、又はR3とR4とは結合して環を形成してもよい。一般式(2−B)で表されるジオール化合物、及びそれから誘導される一般式(2−B’)で表される配位子において、Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。一般式(2−A)で表されるジオール化合物、及びそれから誘導される一般式(2−A’)で表される配位子において、環Aはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。
【0020】
一般式(3−A)及び(3−B)で表されるジオール化合物、及びそれらから誘導される一般式(3−A’)及び(3−B’)で表される配位子において、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R5とR6、又はR7とR8とは結合して環を形成してもよい。一般式(3−B)で表されるジオール化合物、及びそれから誘導される一般式(3−B’)で表される配位子において、Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換基を有してもいてよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。一般式(3−A)で表されるジオール化合物、及びそれから誘導される一般式(3−A’)で表される配位子において、環Bはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。
【0021】
一般式(2−A)、(2−B)、(3−A)及び(3−B)で表されるジオール化合物、及びそれらから誘導される一般式(2−A’)、(2−B’)、(3−A’)及び(3−B’)で表される配位子において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8で表される基について説明する。
【0022】
置換基を有していてもよいアリール基としては、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基等が挙げられ、アリール基が有する置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0023】
置換基を有していてもよい複素環基としては、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等の炭素数2〜14の脂肪族複素環基;フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の炭素数4〜14の芳香族複素環基等が挙げられる。複素環基が有する置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0024】
置換基を有していてもよい脂肪族鎖としては、直鎖又は分岐の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。脂肪族鎖が有する置換基としては炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0025】
置換基を有していてもよい脂環基としては、炭素数3〜14、好ましくは炭素数3〜8の脂環基が挙げられ、具体的にはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、脂環基が有する置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0026】
一般式(2−B)及び(3−B)で表されるジオール化合物、及びそれらから誘導される一般式(2−B’)及び(3−B’)で表される配位子において、Y1、Y2、Y3、及びY4で表される基について説明する。
【0027】
置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基としては前述のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8と同様の例が挙げられる。
【0028】
アルコキシ基としては、脂肪族アルコキシ基の他にアリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。脂肪族アルコキシ基としては、直鎖又は分岐の炭素数1〜8のアルコキシ基が挙げられ、環構造を有してもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロヘキシル基、n−オクチル基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、炭素数7〜15、好ましくは炭素数7〜11のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、1−フェネチルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
置換基を有してもよいシロキシ基としては、それぞれ炭素数1〜12の炭化水素で置換されたシロキシ基が挙げられ、具体例としてはトリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基、ジメチルtert−ブチルシロキシ基、ジエチルフェニルシロキシ基、ジフェニルtert−ブチルシロキシ基などが挙げられる。シロキシ基が有する置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シリル基、シロキシ基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0030】
カルボキシル基としては、カルボン酸由来の、例えば炭素数2〜18のカルボキシル基が挙げられ、具体的には、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アクリロイルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
一般式(2−A)及び一般式(2−A’)における環A、及び一般式(3−A)及び一般式(3−A’)における環Bについて説明する。
環A及び環Bは、ヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。
【0032】
環A及び環B中のヘテロ元素としては、硫黄、酸素、窒素、ホウ素、珪素、その他メタラサイクルを形成可能な金属元素などが挙げられる。ヘテロ元素は、環A及び環B中に複数存在していてもよく、その場合は同一のヘテロ元素でもよいし、異なるヘテロ元素でもよい。
環A及び環Bは置換基を有していてもよく、またヘテロ元素において置換基を有していてもよい。
【0033】
環A及び環Bとしては、具体的にはベンゼン環、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロヘキセン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ジオキサン環、ジオキサシクロヘプタン環、トリオキサシクロヘプタン環、ラクトン環、ラクタム環、モルホリン環、ピロリジン環、ピペリジン環、テトラヒドロチオフェン環等が挙げられる。
【0034】
これらの環構造が有することができる置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖等が挙げられる。
環A及び環Bが有する置換基や炭素鎖を介して、一般式(2−A)及び一般式(3−A)で表されるジオール化合物並びに一般式(2−A’)及び一般式(3−A’)で表される配位子がポリマー鎖を形成してもよい。
【0035】
本発明の一般式(2−A)及び一般式(3−A)で表されるジオール化合物の好ましい具体例としては、以下に示す化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 一般式(2−A)で表されるジオール化合物は光学活性体である。
一般式(3−A)で表されるジオール化合物は、光学活性体でもよいし、ラセミ体でもよい。
以下の化合物中、Etはエチル基を意味し、以下同様である。
以下の化合物中、*印はポリマー鎖結合を示す。oは1〜500である。
【0036】
【化6】

【0037】
上記の化合物中のRは置換基を表し、Rについての具体例としては以下に示す。上記化合物中の4箇所のRは、同じ置換基でもよく、それぞれ異なる置換基でもよく、4箇所中の2箇所或いは3箇所が同じ置換基でもよい。
以下の置換基中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を意味し、以下同様である。
以下の置換基中、*印は結合点、**印はポリマー鎖結合を示す。oは1〜500である。
【0038】
【化7】

【0039】
一般式(2−A’)及び一般式(3−A’)で表される配位子は、具体的には上記した一般式(2−A)及び一般式(3−A)のジオール化合物の具体例として挙げられた化合物から誘導される配位子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一般式(2−A’)で表される配位子は光学活性体である。
一般式(3−A’)で表される配位子は、光学活性体でもよいし、ラセミ体でもよい。
【0040】
一般式(2−B)及び一般式(3−B)で表されるジオール化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下の化合物中のRは置換基を示し、Rの具体例としては、前記したRの具体例と同じものが挙げられる。以下の化合物中の4箇所のRは、同じ置換基でもよく、それぞれ異なる置換基でもよく、4箇所中の2箇所或いは3箇所が同じ置換基でもよい。
一般式(2−B)で表されるジオール化合物は光学活性体である。
一般式(3−B)で表されるジオール化合物は、光学活性体でもよいし、ラセミ体でもよい。
以下の化合物中、*印はポリマー鎖結合を示す。oは1〜500である。
【0041】
【化8】

【0042】
一般式(2−B’)及び一般式(3−B’)で表される配位子は、具体的には上記した一般式(2−B)及び一般式(3−B)の具体例として挙げられた化合物から誘導される配位子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一般式(2−B’)で表される配位子は光学活性体である。
一般式(3−B’)で表される配位子は、光学活性体でもよいし、ラセミ体でもよい。
【0043】
一般式(1’)で表されるアルミニウム錯体について説明する。
[All(L1l(L2m(Lh)nk (1’)
一般式(1’)中、lは1又は2の整数を表し、lが1のときm=0及びn=1の整数を表し、lが2のときm=1及びn=0の整数を表し、kは自然数、好ましくは1〜10の自然数を表し、L1は一般式(2−A’)又は一般式(2−B’)で表される配位子を表し、L2は一般式(3−A’) 又は一般式(3−B’)で表される配位子を表す。
【0044】
一般式(1’)で表されるアルミニウム錯体において、Lhは、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、シロキシ基、アミノ基、フッ素、臭素、又はヨウ素を示す。
【0045】
アルキル基としては直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0046】
アルコキシ基としては、脂肪族アルコキシ基の他にアリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。脂肪族アルコキシ基としては直鎖又は分岐の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、炭素数7〜15、好ましくは炭素数7〜11のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、1−フェネチルオキシ基等が挙げられる。
【0047】
カルボキシル基としては、カルボン酸由来の、例えば炭素数2〜18のカルボキシル基が挙げられ、具体的には、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アクリロイルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0048】
シロキシ基としては、それぞれ炭素数1〜12の炭化水素で置換されたシロキシ基が挙げられ、具体例としてはトリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基、ジメチルtert−ブチルシロキシ基、ジエチルフェニルシロキシ基、ジフェニルtert−ブチルシロキシ基などが挙げられる。
【0049】
アミノ基としては、例えば無置換のアミノ基及び窒素原子上の水素原子がアミノ保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。アミノ保護基の具体例としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、炭素数1〜8のアシル基、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜15のアリールオキシカルボニル基、炭素数8〜16のアラルキルオキシカルボニル基及び炭素数1〜14のスルホニル基等が挙げられる。
アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキルアミノ基の具体例としては、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリールアミノ基の具体例としては、例えばN−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。
アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキルアミノ基の具体例としては、例えばN−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
アシル基で置換されたアミノ基、即ちアシルアミノ基の具体例としては、例えばホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、アクリロイルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアルコキシカルボニルアミノ基の具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアリールオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、フェノキシカルボニルアミノ基、ナフチルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキルオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
スルホニル基で置換されたアミノ基、即ちスルホニルアミノ基の具体例としては、メタンスルホニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基等が挙げられる。
また、アミノ基はそれぞれ異なるアミノ保護基等の置換基で置換されていてもよく、具体的にはメチルフェニルアミノ基、シクロペンチルp−トリルアミノ基、エチルイソプロピルアミノ基、イソブチルナフチルアミノ基、ベンジルシクロヘキシルアミノ基などが挙げられる。
【0050】
また、Lhによって表されるアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基及びシロキシ基、並びにアミノ保護基の炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基及びスルホニル基は、更に置換基を有していてもよく、具体的には炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜12の複素環基、シリル基、シロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜12のアミド基等が挙げられ、さらに6,6−ナイロン鎖、ビニルポリマー鎖、スチレンポリマー鎖などのポリマー鎖を挙げることができる。
【0051】
Lhは必ずしも光学活性体である必要はない。
【0052】
本発明のアルミニウム錯体の調製法について説明する。
本発明のアルミニウム錯体は、一般式(1)で表されるアルミニウム化合物、及び一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを反応させて得られる。さらに、これに添加物を反応させて得ることができる。
本発明のアルミニウム錯体は、一般式(1)で表されるアルミニウム化合物、一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物、及び一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物とを反応させて得られる。
【0053】
アルミニウム錯体の調製法について、式(1’)において、n=1の場合とn=2の場合にわけて具体的に説明する。
【0054】
式(1’)において、l=1の場合は、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)又はエーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモトルエンなど)等の不活性有機溶媒中で、一般式(1)のアルミニウム化合物と前記アルミニウム化合物に対して0.8〜1.3倍モルの一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを、約−30〜60℃程度の温度範囲で、好ましくは約−10〜40℃程度で、より好ましくは約0〜30℃程度で約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜2時間反応させることにより容易に合成できる。さらに必要であれば、前記アルミニウム化合物に対して0.1〜2倍モルの添加物を添加し、約−30〜60℃程度の温度範囲で、好ましくは約−10〜40℃程度で、より好ましくは約0〜30℃程度で約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜2時間反応させることにより容易に合成できる。
【0055】
一般式(1)のアルミニウム化合物及び一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物は前述の不活性有機溶媒で希釈された溶液を用いてもよい。
【0056】
添加物を使用してアルミニウム錯体を調製する場合は、添加物は、一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを反応させた後に添加して反応させる。添加物は、一般式(1)のアルミニウム化合物や一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物と同時に添加し反応させることはできない。
【0057】
添加物を添加する際には、一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物との反応溶液に、添加物を直接添加してもよいし、添加物を前述の不活性有機溶媒で希釈してから前記反応溶液に添加してもよい。また、一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物との反応溶液を添加物に添加してもよい。
【0058】
式(1’)において、l=2の場合は、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)又はエーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモトルエンなど)等の不活性有機溶媒中で、一般式(1)のアルミニウム化合物と前記アルミニミウム化合物に対して0.8〜1.3倍モルの一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを、約−30〜60℃程度の温度範囲で、好ましくは約−10〜40℃程度で、より好ましくは約0〜30℃程度で約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜2時間反応させる。次に、一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物を前記アルミニウム化合物に対して0.4〜0.7倍モル添加し、約−30〜60℃程度の温度範囲で、好ましくは約−10〜40℃程度で、より好ましくは約0〜30℃程度で約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜2時間反応させることにより容易に合成できる。
【0059】
一般式(1)のアルミニウム化合物、及び一般式(2−A)、一般式(2−B)、一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物は前述の不活性有機溶媒で希釈された溶液を用いてもよい。
【0060】
また、一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物を添加する際には、一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物との反応溶液に、一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物を直接添加してもよいし、一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物を前述の不活性有機溶媒で希釈してから前記反応溶液に添加してもよい。また、一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物との反応溶液を一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物に添加してもよい。
【0061】
一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物と一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物は、一般式(1)のアルミニウム化合物に同時に添加し反応させることはできない。一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物は、必ず一般式(1)のアルミニウム化合物と一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物とを反応させた後に添加し反応させる。
ただし、式(1’)において、l=2であり、かつ一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物と一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物が同一の光学活性体化合物である場合は、一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物と一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物とをわけて一般式(1)のアルミニウム化合物に反応させる必要はなく、一般式(1)のアルミニウム化合物に一般式(2−A)又は一般式(2−B)のジオール化合物と一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物とを同時に反応させてもよい。
つまり、上記不活性有機溶媒中で、一般式(1)のアルミニウム化合物と前記アルミニウム化合物に対して1.3倍モルより大きく、2.0倍モル未満の量の一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物(一般式(3−A)又は一般式(3−B)のジオール化合物でもよい)とを、約−30〜60℃程度の温度範囲で、好ましくは約−10〜40℃程度で、より好ましくは約0〜30℃程度で約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜2時間反応させてもよい。
【0062】
添加物の具体例としては、例えば2,6−ジフェニルフェノール(DPPともいう)、o−フェニルフェノール(2−PPともいう)、フェノール、シクロプロパノール、トリメチルシラノール、tert−ブチルジメチルシラノール、tert−ブタノール、p−ヒドロキシ安息香酸、安息香酸、ベンジルアミン、N−メチルフェニルアミンなどが挙げられる。
【0063】
本発明のアルミニウム錯体を使用し、同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を閉環反応させることができる。本発明のアルミニウム錯体は、特定の基質を選択的に閉環反応させることにより、閉環して生成する化合物のd体又はl体の比率を豊富化させることができ、又、閉環反応せずに残存する前記化合物の光学異性体混合物のd体又はl体の比率を豊富化させることができる。
【0064】
同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物とは、例えば一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
閉環して生成する化合物とは、例えば一般式(5)で示される化合物が挙げられる。
【0065】
本発明の選択的閉環反応に用いられる一般式(4)及び閉環して生成する化合物である一般式(5)で表される化合物について説明する。
一般式(4)及び(5)で表される化合物において、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15で表される置換基を有していてもよいアルキル基としては、直鎖又は分岐の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。これらアルキル基が有する置換基としては、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、トリル基等の炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。
また、R11で表される保護基で保護されていてもよい水酸基の保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基、メトキシカルボニル基等の炭素数1〜8のアシル基;ベンジル基等の炭素数7〜15のアラルキル基;トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等の炭素数3〜30の置換シリル基等が挙げられる。
【0066】
一般式(4)の例としては、シトロネラール、2,6−ジメチル−5−ヘプタナール、2,6,10−トリメチル−5,9−ウンデカジエナール、3,7−ジメチル−2−メチレン−6−オクテナール、3,7,11−トリメチル−6,10−ドデカジエナールなどが挙げられる。好ましくは、光学活性シトロネラールが挙げられ、さらに好ましくはl−シトロネラールが挙げられる。
【0067】
一般式(5)の例としては、イソプレゴール、2−(2−プロペニル)−5−メチルシクロペンタノール、2−(6−メチル−2,5−ヘプタジエン−2−イル)−5−メチルシクロペンタノール、2−(6−メチル−1,5−ヘプタジエン−2−イル)−5−メチルシクロペンタノール、2−メチレン−3−メチル−6−(2−プロペニル)シクロヘキサノール、2−(6−メチル−2,5−ヘプタジエン−2−イル)−5−メチルシクロヘキサノール、2−(6−メチル−1,5−ヘプタジエン−2−イル)−5−メチルシクロヘキサノールなどが挙げられる。好ましくは、光学活性イソプレゴールが挙げられ、さらに好ましくはl−イソプレゴールが挙げられる。
【0068】
次に、選択的閉環反応について説明する。
本発明の光学異性体比を豊富化させる選択的閉環反応について、一般式(2−A)又は一般式(3−A)で表されるジオール化合物として、酒石酸由来の光学活性ジオール化合物である2,2−ジメチル−α,α,α’,α’−テトラフェニル−1,3−ジオキソラン−4,5−ジメタノール(以下、TADDOLともいう)を用いたアルミニウム錯体を用い、シトロネラールの閉環反応によるイソプレゴールの製造を例に挙げて説明すると以下の通りである。
【0069】
【化9】

【0070】
ただし、以下に示す例は本発明をわかりやすく説明するものであり、本発明はこの基質
及び生成物に限定されるものではない。
【0071】
【化10】

上記、Al−TADDOL*cat.は、光学活性TADDOLを使用したアルミニウム錯体を意味する。
【0072】
すなわち、低・中程度の光学純度を有するシトロネラールを本発明のアルミニウム−光学活性ジオール錯体を触媒としてエナンチオ選択的に閉環反応を行うことにより、基質のシトロネラールの光学純度より高い光学純度を有したイソプレゴール及びシトロネラールが生成する。
【0073】
本発明の閉環反応に使用されるアルミニウム触媒の量は、一般式(4)で示される化合物、例えばシトロネラールに対して、アルミニウム1モル原子量換算で約0.05〜10モル%程度、好ましくは、約0.5〜5モル%程度の範囲、更に好ましくは約0.7〜2モル%で使用される。
【0074】
本発明の閉環反応に使用されるアルミニウム触媒の調製方法は、例えば以下の通りである。
(A)(a)予め、反応系中において、一般式(1)のアルミニウム化合物と前記アルミニウム化合物に対して0.8〜1.3倍モルの一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを混合して反応させ、さらに必要であれば前記アルミニウム化合物に対して0.1〜2倍モルの添加物を添加して反応させて触媒を調製した後、シトロネラールを仕込む方法(in situ法)、(b)予め、反応系中において、一般式(1)のアルミニウム化合物と前記アルミニウム化合物に対して0.8〜1.3倍モルの一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを混合して反応させ、さらに前記アルミニウム化合物に対して0.4〜0.7倍モルの一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物を添加して反応させて触媒を調製した後、シトロネラールを仕込む方法(in situ法)、又は(B)予め、上記のように調製された触媒を閉環反応時にシトロネラールとそれぞれ単独に仕込む方法;何れかの方法によっても通常は同等の結果が得られる。
【0075】
閉環反応の温度は、約−30〜50℃程度の範囲で、好ましくは約−10〜30℃程度の範囲で、更に約0〜20℃程度とすることがより好ましく採用され、前記の温度を保ちながら約0.25〜30時間、好ましくは約0.5〜20時間反応させることによって、一般式(5)で示される化合物、例えばイソプレゴールを円滑に製造することができる。
【0076】
本発明における閉環反応は、無溶媒条件下、又は、不活性溶媒存在下で行うことができる。
【0077】
使用される溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、特に限定するものではないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモトルエン等のハロゲン化炭化水素系有機溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系有機溶媒等が挙げられる。これらのうちより好ましくは、トルエン、ヘプタン等の有機溶媒である。
【0078】
また、反応の際に酸化合物や塩基化合物を加えてもよい。酸化合物の具体例としては、塩酸、硫酸、酢酸、シトロネリル酸、ゲラニル酸、ネリル酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピバロイル酸などが挙げられる。塩基化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0079】
これら溶媒の使用量は、シトロネラールの質量に対して約0〜20倍量、好ましくは0.5〜7倍量の範囲である。
【0080】
閉環反応は、窒素ガス又はアルゴンガスなどのような不活性ガス雰囲気下で行うことが、閉環反応の円滑な進行のために好ましい。
【0081】
閉環反応の終了後は、蒸留、晶析、各種クロマトグラフィーなど通常の後処理を単独又は組み合わせることにより反応成績体を精製することができる。また、例えばイソプレゴールの精製においては、深冷分離を行う事なく、単に蒸留による処理を行うことによって高純度のイソプレゴールを得ることができる。更に、蒸留処理後の残留物を酸又はアルカリにて通常の処理を行い、アルミニウム不純物などを除去し、晶析を行うことで配位子の再利用が可能である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を比較例及び実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0083】
生成物の測定は、ガスクロマトグラフィー法(GLC)により行った。条件は以下に述べる通りである。
使用分析機器:島津製作所社製GC−2010ガスクロマトグラフ
カラム: 転化率測定 Agilent社製DB−WAX(0.25mm x 30m)、
光学純度 スペルコ社製beta−DEX−225(0.25mm x 30m)、
beta−DEX−325(0.25mm x 30m)
検出器:FID
なお本発明において使用した各シトロネラールの光学純度は以下の通りである。
d−シトロネラール:97.8%e.e.
l−シトロネラール:96.6%e.e.
ラセミ体シトロネラール:0.74%e.e.
40%e.e. d−シトロネラール:39.8%e.e.
60%e.e. d−シトロネラール:59.6%e.e.
【0084】
(実施例1)アルミニウム触媒の調製
窒素雰囲気、50mlシュレンクに(R,R)−2,2−ジメチル−α,α,α’,α’−テトラフェニル−1,3−ジオキソラン−4,5−ジメタノール(以下(R,R)−タドール若しくは(R,R)−TADDOLともいう)181mg(0.39mmol)を入れ、窒素置換した後、塩化メチレン5ml、トリエチルアルミニウム・ヘキサン溶液0.4ml(0.4mmol、1mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌した後、溶媒を留去して無色〜薄オレンジ色の固体を得た。この得られた固体を1H−NMRにて測定し、タドールの他にアルミニウム錯体のピークを確認した。
1H−NMR(DMSO−d6):−0.49−1.20(m,16H),4.79(s,2H),7.10−7.47(m,16H),7.55(d,5.4Hz,4H).
また、配位子及び錯体のNMRチャートを図1に、低磁場側を拡大したものを図2に示す。
参考として、配位子(R,R)−TADDOLのNMRチャートを図3に、低磁場側を拡大したものを図4に示す。
【0085】
(実施例2)アルミニウム触媒の調製及びd-イソプレゴールの合成
窒素雰囲気、100ml反応フラスコに(R,R)−2,2−ジメチル−α,α,α’,α’−(1−ナフチル)−1,3−ジオキソラン−4,5−ジメタノール(以下(R,R)−1−ナフチルタドール若しくは(R,R)−1−NAPHTADDOLともいう)1.20g(1.80mmol)を入れ、窒素置換した後、ヘプタン24ml、トリエチルアルミニウム・ヘキサン溶液1.9ml(1.9mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌した後、固体を得た。この得られた固体を窒素雰囲気下にて濾過・ヘプタン溶液洗浄し、乾燥後NMRにて配位子の他にアルミニウム錯体のピークを確認した。配位子及び錯体のNMRチャートを図5に、低磁場側を拡大したものを図6に示す。
上記で得られた固体700mgを0〜5℃に冷却したl−シトロネラール1.54g(10mmol)に添加し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlとトルエン2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率90.2%、イソプレゴール選択率は95.8%で、d-n−イソプレゴールとその他の異性体の比率は97.4:2.6であった。
参考として、配位子(R,R)−1−NAPHTADDOLのNMRチャートを図7に、低磁場側を拡大したものを図8に示す。
【0086】
(実施例3)l-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(S,S)−2,2−ジメチル−α,α,α’,α’−(1−ナフチル)−1,3−ジオキソラン−4,5−ジメタノール(以下(S,S)−1−ナフチルタドール若しくは(S,S)−1−NAPHTADDOLともいう)216mg(0.32mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン3ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌して触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、d−シトロネラール1.00g(6.5mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率89.4%、イソプレゴール選択率は87.4%で、l-n−イソプレゴールとその他の異性体の比率は96.1:3.9であった。
【0087】
(実施例4)l-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(S,S)−1−ナフチルタドール216mg(0.32mmol)を入れ、窒素置換した後、ヘプタン3ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌して触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、d−シトロネラール1.00g(6.5mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率74.1%、イソプレゴール選択率は85.0%で、l-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は93.2:6.8であった。
【0088】
(実施例5)d-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール389mg(0.58mmol)を入れ、窒素置換した後、塩化メチレン3ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌して触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、l−シトロネラール1.00g(6.5mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率89.2%、イソプレゴール選択率は90.2%で、d-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は92.9:7.1であった。
【0089】
(実施例6)d-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール389mg(0.58mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン3ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌して触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、l−シトロネラール1.00g(6.5mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率90.9%、イソプレゴール選択率は88.7%で、d-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は97.4:2.6であった。
【0090】
(実施例7)l-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール389mg(0.58mmol)を入れ、窒素置換した後、塩化メチレン3ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて1時間撹拌して触媒溶液を得た。得られた触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、d−シトロネラール1.00g(6.48mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率54.8%、イソプレゴール選択率は75.5%で、l-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は83.2:16.8であった。
【0091】
(実施例8)ラセミシトロネラールからl-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(S,S)−1−ナフチルタドール600mg(0.9mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン11.6ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.5ml(0.5mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、ラセミ体シトロネラール3.86g(25mmol)を滴下し、0〜5℃で7時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率54.1%、イソプレゴール選択率は95.0%で、l-シトロネラールのエナンチオ選択率は23.6%e.e.、l-n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は22.3%e.e.であった。
アルミニウムに対して1.8倍モルの(S,S)−1−ナフチルタドールを配位子として使用した本発明のアルミニウム錯体は、ラセミシトロネラール中のd−シトロネラールを閉環してl−n−イソプレゴールを生成するという選択性に優れていた。
【0092】
(実施例9)ラセミシトロネラールからd-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール600mg(0.9mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン11.6ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.5ml(0.5mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、ラセミ体シトロネラール3.86g(25mmol)を滴下し、0〜5℃で7時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率58.9%、イソプレゴール選択率は93.8%で、d-シトロネラールのエナンチオ選択率は22.0%e.e.、d -n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は21.1%e.e.であった。
アルミニウムに対して1.8倍モルの(R,R)−1−ナフチルタドールを配位子として使用した本発明のアルミニウム錯体は、ラセミシトロネラール中のl−シトロネラールを閉環してd−n−イソプレゴールを生成するという選択性に優れていた。
【0093】
(実施例10)ラセミシトロネラールからd-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール333mg(0.5mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン11.6ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.5ml(0.5mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、ラセミ体シトロネラール3.86g(25mmol)を滴下し、0〜5℃で5時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率46.7%、イソプレゴール選択率は95.3%で、d-シトロネラールのエナンチオ選択率は16.6%e.e.、d -n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は19.8%e.e.であった。
アルミニウムに対して1.0倍モルの(R,R)−1−ナフチルタドールを配位子として使用した本発明のアルミニウム錯体は、ラセミシトロネラール中のl−シトロネラールを閉環してd−n−イソプレゴールを生成するという選択性に優れていた。
【0094】
(実施例11)ラセミシトロネラールからd-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(R,R)−1−ナフチルタドール216mg(0.32mmol)を入れ、窒素置換した後、塩化メチレン7.5ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.32ml(0.32mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、更に系内に2,6−ジフェニルフェノール95.8mg(0.38mmol)を添加して室温にて2時間攪拌し触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、ラセミ体シトロネラール2.5g(16.2mmol)を滴下し、0〜5℃で7時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率39.1%、イソプレゴール選択率は92.2%で、d-シトロネラールのエナンチオ選択率は11.7%e.e.、d -n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は32.7%e.e.であった。
アルミニウムに対して1.0倍モルの(R,R)−1−ナフチルタドール、および1.2倍モルの添加物である2,6−ジフェノールを配位子として使用した本発明のアルミニウム錯体は、ラセミシトロネラール中のl−シトロネラールを閉環してd−n−イソプレゴールを生成するという選択性に優れていた。
【0095】
(実施例12)40%e.e. d-シトロネラールからl-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(S,S)−1−ナフチルタドール600mg(0.9mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン11.6ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.5ml(0.5mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、40%e.e. d-シトロネラール3.86g(25mmol)を滴下し、0〜5℃で7時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率67.2%、イソプレゴール選択率は96.9%で、l-シトロネラールのエナンチオ選択率は12.7%e.e.、l-n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は55.4%e.e.であった。l-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は98.9:1.1であった。
【0096】
(実施例13)60%e.e. d-シトロネラールからl-イソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に(S,S)−1−ナフチルタドール600mg(0.9mmol)を入れ、窒素置換した後、トルエン11.6ml、トリエチルアルミニウム・トルエン溶液0.5ml(0.5mmol,1.0mol/L)を順次加え、室温にて2時間撹拌し、触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、60%e.e. d-シトロネラール3.86g(25mmol)を滴下し、0〜5℃で7時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、基質転化率76.7%、イソプレゴール選択率は94.8%で、l-シトロネラールのエナンチオ選択率は29.0%e.e.、l-n−イソプレゴールのエナンチオ選択率は69.8%e.e.であった。l-n-イソプレゴールとその他の異性体の比率は98.1:1.9であった。
【0097】
(実施例14〜16)アルミニウム触媒によるイソプレゴールの合成
50mlシュレンク管に所定量の一般式(2−A)のジオール化合物(表1中、L12に示す)を入れ、窒素置換した後、溶媒3ml、トリエチルアルミニウム(0.32mmol)を順次加え、室温にて1時間撹拌した。さらに添加物を所定量加えて室温にて1時間撹拌し触媒溶液を得た。触媒溶液を0〜5℃に冷却した後、シトロネラール1.00g(6.48mmol)を滴下し、0〜5℃で1時間撹拌した。反応終了後、水2mlを加えて、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した。
結果を表1に示す。
表中、conv.はシトロネラールの転化率を、sel.はイソプレゴールへの選択率を、n-sel.はn−イソプレゴールの選択率をそれぞれ表す。
表中、Tolはトルエンを示す。
【0098】
表中、(S,S)−1−NAPHTADDOL、DPP、2−PP(2−Phenylphenolともいう)はそれぞれ以下の化合物を表す。
【0099】
【化11】

【0100】
【化12】

上記Additiveは添加物を意味する。
hは時間を表す。
【0101】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1’)で示されるアルミニウム錯体。
[All(L1l(L2m(Lh)nk (1’)
(式(1’)中、lは1又は2の整数を表し、lが1のときm=0及びn=1の整数を表し、lが2のときm=1及びn=0の整数を表し、kは自然数を表し、L1は下記式(2−A’)又は下記式(2−B’)で表される配位子を表し、L2は下記式(3−A’) 又は(3−B’)で表される配位子を表し、Lhは、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、シロキシ基、アミノ基、フッ素、臭素、又はヨウ素を表す。)
【化1】

(式(2−A’)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R1とR2及びR3とR4とは結合して環を形成してもよい。環Aはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。*は、光学活性を示す不斉炭素原子を意味する。
式(2−B’)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R1とR2及びR3とR4とは結合して環を形成してもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。*は、光学活性を示す不斉炭素原子を意味する。
式(3−A’)中、R5、R6、R7、及びR8はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R5とR6及びR7とR8とは結合して環を形成してもよい。環Bはヘテロ元素を有していてもよい3〜8員環である。
式(3−B’)中、R5、R6、R7、及びR8はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、又は置換基を有していてもよい脂環基を表す。また、R5とR6及びR7とR8とは結合して環を形成してもよい。Y3及びY4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族鎖、置換基を有していてもよい脂環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいシロキシ基、又はカルボキシル基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるアルミニウム化合物
Al(Lg)3 (1)
(式(1)中、Lgは、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。)、及び下記一般式(2−A)又は下記一般式(2−B)で表されるジオール化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【化2】

(式(2−A)中、R1、R2、R3、R4、環A、及び*は請求項1の式(2−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(2−B)中、R1、R2、R3、R4、Y1、Y2、及び*は請求項1の式(2−B’)の定義と同じ意味を表す。)
【請求項3】
さらに、添加物を反応させる請求項2に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(1)で表されるアルミニウム化合物
Al(Lg)3 (1)
(式(1)中、Lgは、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。)、
下記一般式(2−A)又は下記一般式(2−B)で表されるジオール化合物、及び下記一般式(3−A)又は下記一般式(3−B)で表されるジオール化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【化3】

(式(2−A)中、R1、R2、R3、R4、環A、及び*は請求項1の式(2−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(2−B)中、R1、R2、R3、R4、Y1、Y2、及び*は請求項1の式(2−B’)の定義と同じ意味を表す。
式(3−A)中、R5、R6、R7、R8、及び環Bは請求項1の式(3−A’)の定義と同じ意味を表す。
式(3−B)中、R5、R6、R7、R8、Y3、及びY4は請求項1の式(3−B’)の定義と同じ意味を表す。)
【請求項5】
一般式(2−A)又は一般式(2−B)で表されるジオール化合物が酒石酸由来の光学活性体である請求項2〜4に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【請求項6】
一般式(3−A)又は一般式(3−B)で表されるジオール化合物が酒石酸由来の光学活性体である請求項4及び5に記載のアルミニウム錯体の製造方法。
【請求項7】
同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を、請求項1に記載のアルミニウム錯体の存在下に閉環反応させることを特徴とし、閉環して生成する化合物のd体又はl体のいずれかが豊富化されている光学活性化合物の製造方法。
【請求項8】
同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物が下記一般式(4)で示される化合物である請求項7に記載の製造方法。
【化4】

(式(4)中、jは1又は2の整数を表し、R9、R10及びR12はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R11は置換基を有していてもよいアルキル基又は保護基で保護されていてもよい水酸基を表し、R13、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、波線はE又はZ配置を表す。)
【請求項9】
閉環して生成する化合物が下記一般式(5)で示される化合物である請求項7に記載の製造方法。
【化5】

(式(5)中、jは1又は2の整数を表し、R9、R10及びR12はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R11は置換基を有していてもよいアルキル基又は保護基で保護されていてもよい水酸基を表し、R13、R14及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、波線はE又はZ配置を表す。)
【請求項10】
同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物が光学活性シトロネラールであり、閉環して生成する化合物が光学活性イソプレゴールである請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
光学活性イソプレゴールがl−イソプレゴールである請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
光学活性シトロネラールがl−シトロネラールである請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
同一分子内にカルボニル−エン閉環反応を行い得るホルミル基と二重結合とを有する化合物の光学異性体混合物を、請求項1に記載のアルミニウム錯体の存在下に閉環反応させることを特徴とする、光学異性体混合物のうち閉環しないd体又はl体のいずれかを豊富化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−512136(P2012−512136A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525769(P2011−525769)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/JP2009/071519
【国際公開番号】WO2010/071231
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】