説明

アルミノシリケートの製造方法

【課題】高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートの安価で効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、Si元素源、アルカリ金属源、Al元素源および水を含む混合物の水熱合成により、CHA構造を有し、Al23に対するSiO2のモル比が5以上のアルミノシリケートを製造する方法において、該反応混合物におけるSi元素に対する1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのモル比が0.001以上0.05以下、かつSi元素に対するアルカリ金属のモル比が0.3以上の条件で水熱合成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノシリケートの製造方法および該方法で製造されたアルミノシリケートを触媒として用いる低級オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミノシリケートは、触媒、吸着材、分離材等の諸種の用途に用いられている。特に、高シリカ(SiO2/Al23モル比が5以上)のCHA構造をもつアルミノシリケート(特許文献1)は、細孔径が小さく、酸強度が大きく、例えばオレフィン製造用の高性能の触媒として期待されている。
【0003】
しかしながら、一般的に、SiO2/Al23モル比が大きいアルミノシリケートは合成が非常に困難であり、特許文献1に記載の方法では、構造規定剤としてN,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオン(以下これを、「TMADA」ということがある。)等の高価な化合物をTMADA/Siモル比で0.13〜0.39もの多量使用を余儀なくされている。それ故、製品は高価とならざるを得ず、それにより用途拡大が阻まれてきた。
【0004】
高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートの製造方法として、特許文献1の改良方法も含めて諸種の提案(特許文献2〜4)がなされている。例えば、特許文献2には、TMADA/Siモル比を0.5程度とし、フッ化水素を添加して水熱合成する方法、特許文献3には、構造規定剤としてN,N,N−トリアルキルシクロヘキシルアンモニウムカチオン(以下これを、「TACHA」ということがある。)/Siモル比を0.18〜0.22、アルカリ金属/Siモル比を0.04〜0.13として水熱合成する方法が提案されている。
【0005】
また、フッ化水素を使用しない方法として、特許文献4には、構造規定剤としてTMADAとN,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオン(以下これを、「TABA」ということがある。)の混合物(TMADA:TABA=1:1〜1:7、TMADA/Siモル比=0.013〜0.1)を用いて水熱合成する方法、特許文献5には、TABA/Siモル比を0.18、アルカリ金属Siモル比を0.21〜0.33、H2O/Siモル比を4.8〜5.0として水熱合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4544538号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0176751号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0100185号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0075656号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0159950号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜5等に記載の方法には諸種の問題があり、必ずしも満足すべき結果は得られていない。すなわち、特許文献1、2に記載の方法では、上記のとおり、高価な構造規定剤を多量に使用する必要があり、また、特許文献2のようにフッ化水素を添加する方法では、特別な材質の反応器が必要となる。特許文献3に記載の方法は低収率(収率:フッ化水素なしで11%程度、フッ化水素添加で30%程度)である。特許文献4に記載の方法は、TMADAに加えTABAも必要となる。特許文献5に記載の方法では、水が少なく、反応混合物の撹拌操作が十分に行えないため合成が極めて困難である。このように、高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートの製造方法に係る諸種の問題は未だ解決されていず、安価で効率的な製造方法の確立が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点が克服された、高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートを安価で効率的に製造する方法の提供を課題とする。また本発明は、当該方法で得られるアルミノシリケートを触媒として用いる低級オレフィンの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水熱合成において、TMADA等の構造規定剤とアルカリ金属の使用量には密接な関係があり、反応混合物中のアルカリ金属/Siモル比を特定の値以上とすれば、TMADA等の構造規定剤の使用量を極めて低く抑えても、高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートが合成可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明の要旨は、次の(1)〜(4)のとおりである。
【0010】
(1)1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、Si元素源、アルカリ金属源、Al元素源および水を含む反応混合物の水熱合成により、CHA構造を有し、Al23に対するSiO2のモル比が5以上のアルミノシリケートを製造する方法であって、該反応混合物におけるSi元素に対する1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのモル比が0.001以上0.05以下、かつSi元素に対するアルカリ金属のモル比が0.3以上であることを特徴とするアルミノシリケートの製造方法。
(2)1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンが、N,N,N−トリアルキルアダマンタンアンモニウムカチオンである、(1)に記載の方法。
(3)前記反応混合物におけるSi元素に対する水のモル比(H2O/モル比)が10以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)有機化合物原料を、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法によって製造されたアルミノシリケートに接触させて、低級オレフィンを製造することを特徴とする低級オレフィンの製造方法。
(5)有機化合物原料がエチレンであり、低級オレフィンがプロピレンである、(3)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フッ化水素を添加することなく、高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートを、安価で効率的に製造することができる。フッ化水素を用いずに製造できることから、合成に用いる容器材質はフッ化水素による腐食を考慮する必要がなくなる。また、高シリカのCHAを安価に合成できることで、例えば、アルミニウムが多い場合は適していなかった用途、すなわち、酸量が少ないアルミノシリケートが適した反応等への触媒としての適用が可能となる。このように、本発明により、高シリカのCHA構造をもつアルミノシリケートの用途の拡大が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた物質のX線回折(XRD)パターンである。
【図2】実施例2で得られた物質のX線回折(XRD)パターンである。
【図3】実施例3で得られた物質のX線回折(XRD)パターンである。
【図4】比較例1で得られた物質のX線回折(XRD)パターンである。
【図5】実施例4で得られた物質のX線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0014】
1.アルミノシリケートの製造方法
本発明のアルミノシリケートの製造方法は、上記のとおり、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、Si元素源、アルカリ金属源、Al元素源および水を含む反応混合物の水熱合成により、CHA構造を有し、Al23に対するSiO2のモル比が5以上のアルミノシリケートを製造する方法であって、該反応混合物におけるSi元素に対する1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのモル比が0.001以上0.05以下、かつSi元素に対するアルカリ金属のモル比が0.3以上であることに特徴をもつものである。
【0015】
先ず、本発明の方法で製造されるCHA構造をもつアルミノシリケート(以下これを、「CHA型アルミノシリケート」ということがある。)の物理化学的性質について説明する。
本発明において、CHA構造とは、International Zeolite Association(以下これを、「IZA」と略称することがある。)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。これは、天然に産出するチャバサイト(chabazite)と同等の結晶構造を有するアルミノシリケートである。
【0016】
CHA構造のアルミノシリケートは、3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。また、そのフレームワーク密度は14.5T/1000Å3である。ここで、フレームワーク密度とは、アルミノシリケートの1000Å3あたりの酸素以外の骨格を構成する元素の数を意味し、この値はアルミノシリケートの構造により決まるものである。なおフレームワーク密度とアルミノシリケートとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
【0017】
アルミノシリケートのAl23に対するSiO2のモル比(SiO2/Al23モル比)は、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また上限は、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
なお、アルミノシリケートのAl23に対するSiO2のモル比は、生成したアルミノシリケート中のSi元素源がすべてSiO2として含まれ、Al元素源がすべてAl23として含まれると仮定して求める値である。
【0018】
このモル比は、後述するとおり、水熱合成における反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比によって決まるものである。かかるSiO2/Al23モル比をもつものを、本明細書において、高シリカのアルミノシリケートという。高シリカのアルミノシリケートは、高度な耐酸性、高い水熱安定性を有する。
【0019】
通常、アルミノシリケートは、酸性条件や水熱条件下に曝されるとアルミニウムがアルミノシリケート骨格から脱離し、脱離するアルミニウムが多い場合にはアルミノシリケートの骨格が崩壊してしまうこともあるが、高シリカのアルミノシリケートはアルミニウムが脱離しにくい。さらに、高シリカとすることで、疎水性となるので、吸着材として用いた際には、炭化水素等の疎水性の分子の吸着が起こりやすくなる。また触媒として用いた際には、疎水性分子が細孔内に入りやすくなるために、疎水性分子の反応が進行しやすくなる。
【0020】
上記物性をもつアルミノシリケートは、特定の組成に調整された、Si元素源、Al元素源、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、アルカリ金属源および水を含む反応混合物を、水熱合成することにより製造できる。ここで「反応混合物」とは、水熱合成に供するための原料混合物を意味する。このとき、反応混合物中に種結晶を存在させてもよく、種結晶存在下で水熱合成を行うのが好ましい。
また、「1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン」は、アルミノシリケートの水熱合成に際し、構造規定剤として用いられる有機化合物である。
【0021】
水熱合成に用いられる反応容器は、それ自体既知の水熱合成に用い得るものであれば特に限定されず、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器であればよい。これに反応混合物を種結晶とともに投入して密閉して加熱し、アルミノシリケートを結晶化させる。
【0022】
反応混合物は、上記のとおり、Si元素源、Al元素源、アルカリ金属源、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンおよび水を含むものである。
【0023】
ここで、Si元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミノシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等が挙げられる。またSi元素源は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等が挙げられる。またAl元素源は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
なお、本発明で製造されるアルミノシリケートは、Al元素以外に、他の元素、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr,Sn、Zn等の元素を含んでいてもよい。これらの元素は、元素源化合物を反応混合物に添加してもよく、水熱合成した後に、担持又は含浸させてもよい。
【0026】
本発明において、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを構造規定剤として用いる。この構造規定剤を用いることにより、アルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性、水熱安定性が向上したアルミノシリケートを結晶化させることができる。
【0027】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンとしては、例えば、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンが好ましい。
N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つの独立したアルキル基は、通常低級アルキル基であり、好ましくはメチル基である。すなわち、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンの中でより好ましいものは、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0028】
かかるカチオンは、CHA型アルミノシリケートの形成に害を及ぼさないアニオンを伴うものである。該アニオンを代表するものには、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩が含まれる。中でも、水酸化物イオンは特に好適に用いられる。
【0029】
本発明において、その他の構造規定剤を本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。
その他の構造規定剤としては、例えば、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、2−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオン、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオン(TABA)、N,N,N−トリアルキルシクロヘキシルアンモニウムカチオン(TACHA)等が挙げられる。
【0030】
ここで、TABAの3つの独立したアルキル基は、通常低級アルキル基であり、好ましくはメチル基である。TABAとして最も好ましいものは、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。またTACHAとして最も好ましいのはN,N,N−メチルジエチルシクロヘキシルアンモニウムカチオンである。
これらのカチオンも、上記と同様に、CHA型アルミノシリケートの形成に害を及ぼさないアニオンを伴うものである。
【0031】
その他の構造規定剤は、1種類のみ使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンとその他の構造規定剤の割合は、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンの合計量に対するその他の構造規定剤の合計量のモル比(その他の構造規定剤/1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンモル比)として、通常1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下である。
【0033】
アルカリ金属源としては、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH等のアルカリ金属水酸化物、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。中でもNaOH、KOHが好適に用いられる。
またアルカリ金属源は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
反応混合物中のSi元素源とAl元素源の割合は、通常、反応混合物中に、原料として仕込んだSi元素源がすべてSiO2として含まれ、Al元素源がすべてAl23として含まれると仮定し、これらの酸化物のモル比(以下、仕込SiO2/Al23モル比という)として表わす。仕込SiO2/Al23モル比は、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また上限は、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0035】
仕込SiO2/Al23モル比がこの範囲にあるとき、緻密なCHA型アルミノシリケートが結晶化する。また、十分な水熱安定性、耐酸性に優れるCHA型アルミノシリケートが得られる。仕込SiO2/Al23モル比が低すぎると、水熱安定性、耐酸性が低下してしまう。仕込SiO2/Al23モル比が高すぎると、Alが必要な、例えば、触媒としての利用や、イオン交換剤としての利用が制限される。
【0036】
反応混合物中の1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンとSi元素源の割合は、Si元素に対する1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのモル比(1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン/Siモル比)として、通常0.001以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、また上限は、通常0.05以下、好ましくは0.045以下、より好ましくは0.04以下である。
【0037】
この値が低すぎると、CHA型ゼオライトの結晶化が起きない。一方、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンが、ゼオライト構造のCHAケージ4つに1つの割合で入る程度の量が存在すれば、結晶化が容易になる。当該カチオンが多くなれば、結晶化は容易になるが、生成物の水熱安定性、耐酸性が低下する。
【0038】
反応混合物中のアルカリ金属源とシリカ源の割合は、Si元素に対するアルカリ金属のモル比(アルカリ金属/Siモル比)として、通常0.3以上、好ましくは0.35以上、より好ましく0.4以上であり、また上限は、通常0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下である。
このときアルカリ金属源を2種類以上混合して使用する場合は、2種類以上のアルカリ金属源の合計量とSi元素のモル比が上記範囲を満たしていればよく、またアルカリ金属源同士の混合比率は特に限定されるものではない。
【0039】
アルカリ金属の量が少なすぎると、CHA型ゼオライトの結晶化が起きない。有機の構造規定剤の量を減らした合成では、通常量の有機の構造規定剤を使用する合成に比べて、アルカリ金属カチオンが必要になる。これはアルカリ金属カチオンが無機の構造規定剤としての働きをするからである。
【0040】
アルカリ金属の量が多すぎると、反応混合物中の水酸化物イオンが増えることになり、アルカリ性が高くなりすぎるため、CHA型ゼオライトの結晶化が起きない。高アルカリ条件では反応混合物を水熱処理しても、シリカ源は溶解した状態で安定であり、結晶化は起こらない。
【0041】
反応混合物中のSi元素源と水の割合は、Si元素に対するH2Oのモル比(H2O/Siモル比)として、通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上であり、また上限は、通常500以下、好ましくは300以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下である。
【0042】
水の割合が少なすぎると、反応混合物の粘性が高くなり、反応混合物の製造中、あるいは水熱合成による結晶化中の撹拌が困難になる。一方、水の割合が高すぎると反応混合物当たりに得られるアルミノシリケートの量が少なくなり、生産性が低くなる。
【0043】
使用する種結晶は、結晶化を促進するものであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためにはCHA型アルミノシリケートが好ましい。種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒子径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、また上限は、通常5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0044】
種結晶は、適当な溶媒、例えば水に分散させて反応混合物に添加してもよいし、分散させずに添加してもよい。
反応混合物中に添加する種結晶の量は特に限定されず、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、また上限は、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0045】
種結晶の量が少なすぎると、CHA構造を指向する前躯体が減ることになるので、CHA構造が得られ難くなる。種結晶が多すぎると、生成物の中に含まれる種結晶の割合が増えることで、反応混合物から新たに製造されるCHAが減ることとなり、生産性が低くなる。
【0046】
種結晶を含む上記反応混合物を、反応容器中で加熱することにより、高シリカのCHA型アルミシリケートの結晶を得ることができる。
加熱温度(反応温度)は特に限定されず、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上であり、また上限は、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。
反応温度が低すぎると、CHA型アルミノシリケートが結晶化しないことがある。また、反応温度が高すぎると、CHA型とは異なるタイプのアルミノシリケートが生成することがある。
【0047】
加熱時間(反応時間)は、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上であり、また上限は、通常は10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは2日以下である。
反応時間が短すぎると、CHA型アルミノシリケートが結晶化しないことがある。また、反応時間が長すぎると、CHA型とは異なるタイプのアルミノシリケートが生成することがある。
【0048】
結晶化時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた反応混合物を上記温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分であるが、必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えてもよい。
【0049】
水熱合成により得られたCHA型アルミノシリケートは、水洗した後に、該アルミノシリケート中の構造規定剤を除去することが好ましい。
構造規定剤の除去方法は特に限定されず、焼成や抽出等のそれ自体既知の通常用いられる方法で行えばよいが、焼成が望ましい。
【0050】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、また上限は、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、更に好ましくは750℃以下である。
【0051】
焼成温度が低すぎると、構造規定剤の残存割合が多くなる傾向があり、アルミノシリケートの細孔容積が小さくなる。また、焼成温度が高すぎると、アルミノシリケートの骨格が崩壊し、結晶性が低下する、または結晶構造を保てなくなることがある。
【0052】
焼成時間は、構造規定剤が十分に取り除かれれば特に限定されないが、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上であり、また上限は、通常24時間以内である。
焼成は、酸素が含まれる雰囲気で行うのが好ましく、通常は、空気雰囲気で行われる。
【0053】
焼成の際の昇温速度は、通常5℃/min以下、好ましくは2℃/min以下、より好ましくは1℃/min以下、更に好ましくは0.5℃/min以下である。また、通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0054】
焼成後の降温速度は、通常6℃/min以下、好ましくは3℃/min以下、より好ましくは2℃/min以下、更に好ましくは1℃/min以下である。また、通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
昇温速度が速すぎると、構造規定剤の燃焼が短時間の間に一気に起き、その際に発生する燃焼熱によってアルミノシリケートの骨格が崩壊し、結晶性が低下する、または結晶構造を保てなくなることがある。
【0055】
かくして調製された高シリカのCHA型アルミノシリケートに、必要に応じて、さらに酸量の低下、金属元素の含浸や担持等の修飾により組成を変える等の処理を施してもよい。酸量の低下処理は、例えばシリル化、水蒸気処理、ジカルボン酸処理等により行えばよい。これら酸量の低下処理、組成の変更は、それ自体既知の通常用いられる方法により行うことができる。
【0056】
また高シリカのCHA型アルミノシリケートは、その構造中のアルミニウムが有する対カチオン(イオン交換サイト)を、触媒などの用途に応じて、既知の方法により所望のイオン型に転換(イオン交換)することができる。触媒として利用する場合、前記イオン交換サイトをプロトン型(H型)に転換して利用することが一般的であるが、用途に応じてイオン交換サイトを、アンモニウムイオンや、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、ランタン、セリウム等の希土類金属、鉄、銅、コバルト、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、チタン、ジルコニウム、クロム、モリブデン、タングステン、亜鉛、等の周期表第4族から12族までの金属のカチオンに交換してもよい。イオン交換させたCHA型アルミノシリケートは1種類で使用しても、2種類以上のものを共存させて使用してもよい。
【0057】
2.低級オレフィンの製造方法
本発明の低級オレフィンの製造方法は、有機化合物原料を、上記方法で製造された高シリカのCHA型アルミノシリケートに接触させて、低級オレフィンを製造することに特徴をもつものである。
ここで、高シリカのCHA型アルミノシリケートは、有機化合物原料から低級オレフィンへの変換反応における触媒活性成分となるものである。この反応において、触媒活性成分として用いられるアルミノシリケートの好ましい物性は、上記のとおりである。
【0058】
この反応に用いる際の高シリカのCHA型アルミノシリケートの細孔径は、好ましくは0.5nm未満である。ここで、細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示すものである。細孔径が0.5nm未満とは、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その直径が0.5nm未満であることを意味し、細孔の形状が楕円形の場合は、短径が0.5nm未満であることを意味する。
【0059】
本発明において用いられるCHA型アルミノシリケートの細孔径が0.5nm以上であると、例えばエチレンからプロピレンを製造する場合、プロピレン以外の副生成物(ブテン、ペンテン等)が多くなる。細孔径が0.5nm未満のアルミノシリケートを用いることにより、エタノールおよび/またはエチレンから高収率でプロピレンを製造することができる。
【0060】
この作用機構の詳細は明らかではないが、強い酸点の発現によりエタノールやエチレンを活性化することができ、また、小さい細孔径によりプロピレンを選択的に生成させることができることによると考えられる。即ち、径0.5nm未満のように小さい細孔であると、目的物であるプロピレンはこの細孔から出てくることができるが、副生成物であるブテンやペンテン等は、分子が大きすぎるために細孔内にとどまったままになっていることが推定される。このようなメカニズムでプロピレンの選択率が改善されると考えられる。
【0061】
なお、触媒活性成分として用いるCHA型アルミノシリケートの細孔径の下限については特に制限はない。
【0062】
触媒活性成分として用いるCHA型アルミノシリケートは、水熱合成後にシリル化、酸処理、スチーミングなどの処理を行ってから用いてもよい。またイオン交換、含浸や担持などの修飾により組成を変えることも可能である。
【0063】
上記触媒活性成分は、そのまま触媒として反応に用いても良いし、有機化合物原料から低級オレフィンへの変換反応に不活性な物質やバインダー等を用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して触媒として用いても良い。該反応に不活性な物質やバインダーとしては、アルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゲル、石英、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0064】
なお、上記した触媒活性成分の組成は、これらの反応に不活性な物質やバインダー等を
含まないCHA型アルミノシリケートのみの組成である。それ故、本発明において、前記の不活性な物質やバインダー等を含む場合は、上記CHA型アルミノシリケートと前記不活性な物質やバインダー等とを合わせて触媒と称し、前記の不活性な物質やバインダー等を含まない場合は、触媒活性成分のみで触媒と称す。
【0065】
本発明において用いられる触媒の粒径は、アルミノシリケートの合成条件により異なるが、通常、平均粒径として0.01μm〜500μmである。触媒の粒径が大き過ぎると、触媒活性を示す表面積が小さくなり、小さ過ぎると取り扱い性が劣るものとなる。この平均粒径は、SEM観察等により求めることができる。
【0066】
本発明の製造方法に用いる有機化合物原料(反応原料)としては、上記方法で製造された高シリカのCHA型アルミノシリケートに接触させることで、低級オレフィンが製造可能なものであれば特に限定されないが、エタノール、エチレン等が特に好ましい。
【0067】
反応原料に用いるエタノールとしては、例えば、エチレンの水和反応により製造されるもの、合成ガスから製造されるもの、植物由来の多糖類を原料として発酵により製造されるもの等の、公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。このとき各製造方法に起因する化合物(特に水)が任意に混合した状態のものをそのまま用いても良いし、精製したエタノールを用いても良い。
【0068】
反応原料に用いるエチレンとしては、例えば、石油供給原料から接触分解法または蒸気分解法等により製造されるもの、石炭のガス化により得られる水素/CO混合ガスを原料としてFT(フィッシャートロプシュ)合成を行うことにより得られるもの、エタンの脱水素法または酸化脱水素法により得られるもの、プロピレンのメタセシス反応およびホモロゲーション反応により得られるもの、MTO(methanol to olefin)反応によって得られるもの、エタノールの脱水反応によって得られるもの等の、公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。このとき各製造方法に起因するエチレン以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いても良いし、精製したエチレンを用いても良い。また、本発明の方法によりプロピレンを製造する際、反応器出口ガス中に含まれるエチレンをリサイクルして用いても良い。
【0069】
有機化合物原料中には、上記エタノールやエチレンの他に、炭素数4以上のオレフィンが存在していても良い。炭素数4以上のオレフィンとしては、例えば、本発明の方法によりプロピレンを製造する際、反応器出口ガス中に含まれるオレフィンをリサイクルして用いても良い。炭素数4以上のオレフィンの一部はプロピレンに変換されるため、このように反応器出口ガス中のオレフィンをリサイクルすることにより、プロピレンの一貫収率を向上させることができる。
【0070】
また、有機化合物原料中にはエタノール以外の含酸素化合物が存在しても良い。エタノール以外の含酸素化合物としては、例えばメタノールやジメチルエーテルが挙げられる。
【0071】
以下に、上記触媒および有機化合物原料(反応原料)を用いる本発明の低級オレフィンの製造反応の操作・条件について説明する。
【0072】
先ず、反応器としては、通常連続式の固定床反応器や流動床反応器、好ましくは流動床反応器が用いられる。
【0073】
なお、流動床反応器に上記触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填しても良い。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径である
ことが好ましい。
【0074】
反応器には、反応に伴う発熱を分散させることを目的に、反応基質(反応原料)を分割して供給しても良い。
【0075】
流動床反応器を選択する場合、反応器に対して触媒の再生器を付設し、反応器から抜き出した触媒を連続的に再生器に送り、再生器において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。
ここで、触媒の再生器としては、反応器から導入された触媒を、酸素を含有した窒素ガスや水蒸気などで処理することにより再生するものが挙げられる。
【0076】
反応器に供給する全供給成分中の有機化合物原料の濃度(即ち、基質濃度)は、本発明の製造方法の目的を達成できれば特に制限はないが、例えばエタノールおよび/またはエチレンを有機化合物原料とし、低級オレフィンとしてプロピレンを製造する場合であれば、その基質濃度に特に制限はないが、通常エタノールとエチレンの和は全供給成分中、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下であり、また下限は、好ましくは5モル%以上である。
【0077】
この基質濃度が高すぎると芳香族化合物やパラフィン類の生成が顕著になり、低級オレフィン収率、例えばプロピレンの収率が低下する傾向がある。また、基質濃度が低すぎると、反応速度が遅くなるため、多量の触媒が必要となり、反応器が大きくなりすぎる傾向がある。従って、このような基質濃度となるように、必要に応じて以下に記載する希釈剤で有機化合物原料、例えばエタノールおよび/またはエチレンを希釈することが好ましい。
【0078】
反応器内には、有機化合物原料、例えばエタノールおよび/またはエチレンの他に、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、および、それらの混合物など、反応に不活性な気体を存在させることができるが、この中でも水(水蒸気)が共存しているのが好ましい。
【0079】
このような希釈剤としては、反応原料に含まれている不純物をそのまま使用しても良いし、別途調製した希釈剤を反応原料と混合して用いても良い。
また、希釈剤は反応器に入れる前に反応原料と混合しても良いし、反応原料とは別に反応器に供給しても良い。
【0080】
反応時の空間速度は、0.01Hr-1〜500Hr-1の間が好ましく、0.1Hr-1〜100Hr-1の間がより好ましい。空間速度が高すぎると反応器出口ガス中のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる傾向がある。また、空間速度が低すぎると、パラフィン類等の好ましくない副生成物が生成し、低級オレフィン収率、例えばプロピレン収率が低下する傾向がある。
【0081】
なお、空間速度とは、触媒活性成分の重量当たりの反応原料(例えばエタノールとエチレンを用いる場合は、エタノールおよび/またはエチレン)の流量であり、ここで触媒活性成分の重量とは触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない触媒活性成分の重量である。また流量は、反応原料の合計(即ち、エタノールとエチレンを用いる場合はその合計)の流量(重量/時間)である。
【0082】
反応温度は、通常200℃以上、好ましくは300℃以上であり、また上限は、通常700℃以下、好ましくは600℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、さらに低級オレフィン収率、例えばプロピレンの収率も低下する。反応温度が高すぎると低級オレフィン、例えばプロピレンの収率が著しく低下する。
【0083】
反応圧力は、絶対圧で、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.7MPa以下である。また、反応圧力の下限は特に制限されないが、通常1kPa以上、好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類等の好ましくない副生成物の生成量が増え、低級オレフィン、例えばプロピレンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0084】
本発明においては、有機化合物原料、例えばエタノールおよび/またはエチレンの転化率(エタノールおよび/またはエチレンから、エタノールとエチレン以外の化合物への転化率)が、好ましくは20%以上95%以下、より好ましくは20%以上85%以下となるような条件で反応を行うことが適当である。
【0085】
この転化率が20%未満では、例えば未反応の有機化合物原料、例えばエタノールまたはエチレンが多く、低級オレフィン、例えばプロピレン収率が低くなる傾向がある。一方、95%を超えると、パラフィン類等の望ましくない副生成物が増え、低級オレフィン、例えばプロピレン収率が低下する傾向がある。
【0086】
流動床反応器で反応を行う場合には、触媒の反応器内の滞留時間と再生器内での滞留時間を調整することにより、好ましい転化率で運転することができる。
【0087】
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物である低級オレフィン、例えばプロピレン、未反応の有機化合物原料、例えばエチレン、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中の低級オレフィン濃度、例えばプロピレン濃度は、通常1〜95重量%、好ましくは2〜90重量%である。
【0088】
反応条件によってはこの混合ガス中にはエタノールが含まれるが、反応器出口ガス中にエタノールを全く含まないような反応条件で反応を行うことが好ましい。それにより、反応生成物と未反応原料との分離が容易になる。この混合ガス中のエチレンは、その少なくとも一部を反応器にリサイクルして反応原料として再利用することが好ましい。
なお、副生成物としては炭素数が4以上のオレフィン類、パラフィン類、芳香族化合物および水が挙げられる。
【0089】
反応器出口ガスは、公知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行えば良い。回収された目的物以外の成分(オレフィン、パラフィン等)の一部または全て、特にエチレンは、上記分離・精製された後に反応原料と混合するか、または直接反応器に供給することでリサイクルするのが好ましい。また、副生成物のうち、反応に不活性な成分は希釈剤として再利用することができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の各例において、X線回折(XRD)パターンは、PANalytical社製のPW1700を用いて得た。X線源はCuKαであり(X線出力:40kV、30mA)、読込幅は0.05°、走査速度は3.0°/minである。
生成したアルミノシリケートのSiO2/Al23モル比は、蛍光X線分析にて測定した。測定には島津製作所社製 島津エネルギー分散型蛍光X線分析装置Rayny EDX−700を用いた。測定は真空度約20〜25Paにて行った。定量分析は、あらかじめ SiO2/Al23モル比が、9、11、18であることが確認できているアルミノシリケートを標準物質として用いて検量線を作成し、定量分析した。分析結果は表1に示した。
【0091】
<実施例1>
25重量%N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムハイドロオキサイド(TMADA OH)水溶液2.5g、1M水酸化ナトリウム水溶液60gおよび水34gを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)1.9gを加えて攪拌した後に、Si元素源としてシリカ濃度40重量%のコロイダルシリカ(スノーテックス40、日産化学工業社製)22.5gを加えて十分攪拌した。さらにシリカの重量に対して5wt%に相当するCHA型アルミノシリケート0.45gを種結晶として加えて、攪拌することにより反応混合物(以下、原料ゲルということがある)を調製した。
【0092】
得られた原料ゲルをオートクレーブに仕込み、タンブリングした状態において160℃、48時間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で一晩乾燥させた。乾燥後に、空気雰囲気下、580℃で焼成し、白色粉末8.5gを得た。
【0093】
原料のSi元素源およびAl元素源が全てNa型アルミノシリケートになった場合の理論収量11.1gから計算される収率は76%であった。
得られた白色粉末のXRDパターンを図1に示す。図1から、生成物はCHA構造を有するアルミノシリケートであることが確認された。
実施例1の原料ゲルの組成、生成物の収率と物性を表1に示す。
【0094】
<実施例2>
実施例1において、1M水酸化ナトリウム水溶液60gおよび水34gを、1M水酸化ナトリウム水溶液45g、水酸化カリウム含量85%の水酸化カリウム(残り15%は主に水和した水分)0.99gおよび水47gに変えた以外は、実施例1と同様の条件で、原料ゲルを調製、加熱し、生成物を濾過、水洗、乾燥後に焼成し、白色粉末7.9gを得た。
【0095】
原料のSi元素源およびAl元素源が全てNa型アルミノシリケートになった場合の理論収量11.1gから計算される収率は71%であった。
得られた白色粉末のXRDパターンを図2に示す。図2から、生成物はCHA構造を有するアルミノシリケートであることが確認された。
実施例2の原料ゲルの組成、生成物の収率と物性を表1に示す。
【0096】
<実施例3>
実施例2において、水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)1.9gを、2.9gに変えた以外は、実施例2と同様の条件で、原料ゲルを調製、加熱し、生成物を濾過、水洗、乾燥後に焼成し、白色粉末10.1gを得た。
【0097】
原料のSi元素源およびAl元素源が全てNa型アルミノシリケートになった場合の理論収量11.9gから計算される収率は85%であった。
得られた白色粉末のXRDパターンを図3に示す。図3から、生成物はCHA構造を有するアルミノシリケートであることが確認された。
実施例3の原料ゲルの組成、生成物の収率と物性を表1に示す。
【0098】
<実施例4>
25重量%N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムハイドロオキサイド(TMADA OH)水溶液14.8g、1M水酸化ナトリウム水溶液145.6gおよび水101gを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)4.45gを加えて攪拌した後に、Si元素源としてヒュームドシリカ(アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル社製) 21.0gを加えて十分攪拌した。さらにシリカの重量に対して10重量%に相当するCHA型アルミノシリケート2.1gを種結晶として加えて、攪拌することにより原料ゲルを調製した。
【0099】
得られた原料ゲルをオートクレーブに仕込み、誘導攪拌した状態において180℃、24時間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で一晩乾燥させた。乾燥後に、空気雰囲気下、580℃で焼成し、白色粉末20.9gを得た。
【0100】
原料のSi元素源およびAl元素源が全てNa型アルミノシリケートになった場合の理論収量27.0gから計算される収率は77%であった。
得られた白色粉末のXRDパターンを図5に示す。図5から、生成物はCHA構造を有するアルミノシリケートであることが確認された。
実施例4の原料ゲルの組成、生成物の収率と物性を表1に示す。
【0101】
<実施例5>
実施例4で得られたCHA構造を有するアルミノシリケートの白色粉末を1M硝酸アンモニウム水溶液中で80℃、1時間のイオン交換を行い、その後ろ過した。ろ過した粉末を再び1M硝酸アンモニウム水溶液中で80℃、1時間のイオン交換を行い、その後、ろ過、乾燥しNH4型アルミノシリケートを得た。その後空気雰囲気下、500℃で焼成しH型アルミノシリケートを得た。
【0102】
このH型アルミノシリケートを触媒として、有機化合物原料としてエチレンから、低級オレフィンとしてプロピレンを合成する反応を実施した。反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、アルミノシリケート100mgと石英砂400mgの混合物を充填した。エチレン30体積%、窒素70体積%の混合ガスをエチレンの重量空間速度が0.73Hr-1なるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。生成物はガスクロマトグラフィーで分析を行った。反応開始から3.3時間でのエチレンの転化率は80%であり、生成物中のプロピレン選択率は54%であった。エチレン転化率、プロピレン選択率は下記式より算出した。

エチレン転化率(%)=〔[反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン流量(mol/Hr)]/反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)〕×100

プロピレン選択率(%)=〔反応器出口プロピレンカーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100

本実施例により、本発明の方法で製造されるアルミノシリケートにエチレンを接触させて、プロピレンを製造できることがわかる。
【0103】
<比較例1>
実施例1において、1M水酸化ナトリウム水溶液60gおよび水34gを、1M水酸化ナトリウム水溶液30gおよび水64gに変えた以外は、実施例1と同様の条件で、原料ゲルを調製、加熱し、生成物を濾過、水洗、乾燥後に焼成し、白色粉末7.8gを得た。
【0104】
原料のSi元素源およびAl元素源が全てNa型アルミノシリケートになった場合の理論収量11.1gから計算される収率は70%であった。
得られた白色粉末のXRDパターンを図4に示す。図4から、CHA構造が若干観測されているものの、主生成物はアモルファスであることが確認された。
比較例1の原料ゲルの組成、生成物の収率と物性を表1に示す。
【0105】
比較例1および実施例1〜3の結果のとおり、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムハイドロオキサイド/Siモル比が0.02と低い場合、アルカリ金属/Siモル比によってCHA構造のアルミノシリケート合成の可否が異なり、アルカリ金属/Siモル比が低い場合(比較例1:0.2)の主生成物はアモルファスとなり、アルカリ金属/Siモル比を高める(実施例1〜3:0.4)ことにより、CHA構造の合成が可能になる。
【0106】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、アルミノシリケートの製造及び使用に係る分野に特に好適に用いることができる。特に、本発明の方法で製造されるアルミノシリケートは、小さい細孔径をもち、結晶が緻密で、高い耐酸性を有しているので、石油化学原料の製造触媒、排ガス処理用触媒、ガス分離や酢酸などの有機物からの水の脱水等のゼオライト分離膜等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、Si元素源、アルカリ金属源、Al元素源および水を含む反応混合物の水熱合成により、CHA構造を有し、Al23に対するSiO2のモル比が5以上のアルミノシリケートを製造する方法であって、該反応混合物におけるSi元素に対する1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのモル比が0.001以上0.05以下、かつSi元素に対するアルカリ金属のモル比が0.3以上であることを特徴とするアルミノシリケートの製造方法。
【請求項2】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンが、N,N,N−トリアルキルアダマンタンアンモニウムカチオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該反応混合物におけるSi元素に対する水のモル比(H2O/モル比)が10以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機化合物原料を、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって製造されたアルミノシリケートに接触させて、低級オレフィンを製造することを特徴とする低級オレフィンの製造方法。
【請求項5】
有機化合物原料がエチレンであり、低級オレフィンがプロピレンである、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−121859(P2011−121859A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251994(P2010−251994)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】