説明

アンギオゲニンを含む経口投与可能な投与形態物及びその使用

本発明は、アンギオゲニンの投与が有益である何らかの障害を治療する方法であって、アンギオゲニンを経口投与する方法を提供する。特に、経口用アンギオゲニンは、担体や賦形剤を必要とせず、或いは、アンギオゲニンの経口バイオアベイラビリティを改善するためにそのタンパク質をカプセル化したり他のメカニズムに付したりする必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経口製剤に関し、詳細には治療剤の経口製剤、特にタンパク質及び治療方法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
治療剤の経口投与は、通常、治療レジメンにおける患者による最適なコンプライアンスを伴い、投薬スケジュールの柔軟性を大きくすることができると共に、注射投与に伴うリスクや不便さ、出費が回避されるため望ましい。しかし、経口経路を利用できるかどうかは、治療剤が口腔内や消化管内で酸や酵素分解に耐え、上皮細胞層を通過して体循環に到達する能力によって制限される。
【0003】
これは、腸内でプロテアーゼ分解を受け、体循環への到達に関して問題を生じることが知られているタンパク質治療剤の場合には特に問題となる。殆ど全ての薬理学的タンパク質は有用な程度には経口投与することができない。特に、インスリンや成長ホルモン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン等のホルモンの場合や、インターフェロンやインターロイキン等のサイトカインの場合、特別な処方を十分に行わずに経口投与できるのは2%に満たないことが知られている。
【0004】
このようなレベルでは、経口投与性の時間的変動や個体間変動が大きくなりがちで、経口投与が非現実的、非経済的又は危険となる。
【0005】
医学的治療においてはタンパク質薬物の重要性が高まっている。しかし、その使用は、タンパク質の大半は注射投与する必要があるという事実によって制限されている。肺経路や経鼻経路、経皮経路等の他の全身投与経路も提案されているが、これらは従来、限られた範囲の剤に対してのみ開発されており、耐性や単回投与で送達し得る化合物の量に関しては制限を受けている。
【0006】
医薬品のバイオアベイラビリティを改善するために種々の試みが為されている。その例としては、サリチル酸塩や脂質−胆汁酸塩混合物、ミセル、グリセリド、アシルカルニチン等の浸透エンハンサーを配合することが挙げられるが、これらは多くの場合、毒性の問題を引き起こすことが分かっている。
【0007】
タンパク質治療剤の場合、経口バイオアベイラビリティを改善させる試みとしては、タンパク質又はペプチドをプロテアーゼ阻害剤(例えば、アプロチニンや大豆トリプシン阻害剤、アマスタチン)と混合して投与治療剤の分解を抑制することが挙げられる。しかし、残念ながら、このようなプロテアーゼ阻害剤は選択的ではなく、該阻害剤によって内在性プロテアーゼも阻害され、望ましくない結果を伴う。タンパク質の経口製剤を提供する他の試みにおいては、腸溶コーティング等の保護コーティングを単独で利用するか、又はそれと共に、タンパク質又はペプチドを、例えば、親水性ポリエチレングリコール部分と親油性アルキル部分とを含む両親媒性オリゴマー又はポリマーに結合させて該ペプチドを化学的に修飾する。しかし、これら技術の成功は非常に限られている。他の方法は胃腸管内での密着結合を緩める賦形剤を添加することであるが、この方法の場合、障壁の低下によって付近の分子全て(細菌を含む)を許容し得るため、耐性の問題が引き起こされる。また、アルギン酸カルシウムでコートしたリポソーム製剤もペプチドの結腸送達に用いられている。しかし、従来、このような方法は適用が限られていることが分かっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の好ましい実施形態の目的は、生物学的作用をもたらすことができる経口タンパク質製剤を提供することである。
【0009】
本明細書に引用する全ての特許又は特許出願を含む全ての文献については、これらを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書では数々の従来文献が参照されているが、そのことは、これらの文献の何れかが当該技術分野における共通一般知識の一部を成すことの自認を構成するものではないことは明白であろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様は、アンギオゲニンの投与が有益である何らかの障害を治療する方法であって、アンギオゲニンを経口投与する方法を提供する。
【0011】
特に期待されるのは、担体や賦形剤を必要とせず、或いは、アンギオゲニンの経口バイオアベイラビリティを改善するためにそのタンパク質をカプセル化したり他のメカニズムに付したりする必要なく、アンギオゲニンを経口投与することである。
【0012】
アンギオゲニンは、血管内皮細胞や大動脈平滑筋細胞、フィブロブラスト、一部の腫瘍(例えば、結腸ガンや卵巣ガン、乳ガン)等の数種類の成長細胞種によって産生される14kDaの非グリコシル化ポリペプチドである。アンギオゲニンは、正常ヒト血漿やウシ血漿、ウシ乳(bovine milk)、マウス血清、ウサギ血清、ブタ血清等の種々の原料から単離されており、また、組換えによって、例えば、ヒト組換えアンギオゲニンやウシ組換えアンギオゲニンとして得ることもできる。
【0013】
アンギオゲニンは多くの疾患や障害に関与している。アンギオゲニンの経口投与から利益を得ることができる、先行技術によって提案されたアンギオゲニン投与を含む治療は全て本発明の範囲内である。
【0014】
先行技術においては、種々の投与経路の長いリストの中の一経路としてアンギオゲニンの経口送達が提案されているが、これまでアンギオゲニンが経口的にバイオアベイラブルであることは示されていない。従って、アンギオゲニンを経口投与するという先行技術の提案を読んだ当業者であれば、アンギオゲニンを腸内で完全な状態に保ち、且つ腸壁を通過させて血流内に到達させるには、担体や賦形剤、カプセル封入又は他の安定化技術が必要であると考えたであろう。そのような操作を必要とせずにアンギオゲニンが経口的にバイオアベイラブルであるという知見は特に予期されておらず、驚くべきことである。
【0015】
特に、アンギオゲニンは食品や食品サプリメントとして、また、栄養補助食品や医薬品として経口投与することができる。アンギオゲニンはヒト組換えアンギオゲニン又はウシ組換えアンギオゲニンであってもよく、如何なる好適な原料(例えば、ミルクや血漿)から抽出してもよい。
【0016】
特に意図するのは、ミルク由来のアンギオゲニン富化分画を含む栄養補助食品組成物の経口投与である。このような分画は、実施例1に記載の方法を利用して、或いは他の好適な手段によって調製することができる。
【0017】
更なる態様は、アンギオゲニンの経口投与形態物を提供する。アンギオゲニンの経口投与形態物はフォリスタチンを含むこともでき、また、アンギオゲニンの経口投与形態物は、フォリスタチンの投与形態物を含むキットとして提供することができる。アンギオゲニンの経口投与形態物は、錠剤、水性若しくは油性懸濁剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤の形態をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アンギオゲニン摂取2時間後及び3時間後に採取した血漿サンプルの一次元SDSポリアクリルアミドゲルを示す。レーン1及び2はそれぞれ、低用量のアンギオゲニン(25mg)摂取2時間後及び3時間後、レーン3及び4はそれぞれ、中用量のアンギオゲニン(75mg)摂取2時間後及び3時間後、レーン5及び6はそれぞれ、高用量のアンギオゲニン(150mg)摂取2時間後及び3時間後に相当する。2時間後及び3時間後の両方において、低用量から高用量になるに従って血中アンギオゲニンレベルが明らかに上昇することが分かる。
【図2】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gで添加し、自由給餌条件下でマウスに1ヶ月給餌し、標準的なげっ歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋重量が増加することを示す。
【図3】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gで添加し、自由給餌条件下でマウスに1ヶ月間給餌し、標準的なげっ歯類用回し車で自由に運動させた場合に、筋線維種の断面積が変化することを示す。対照マウスの群平均を白い棒で表し、アンギオゲニン処理マウスの群平均を黒い棒で表す。標準偏差も記載する。
【図4】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gで添加し、自由給餌条件下でMDXマウスに給餌し、標準的なげっ歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋の筋壊死面積が低減することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一態様は障害の治療に関する。本明細書において「治療する」及び「治療」とは、症状の重度及び/又は頻度の低減、症状及び/又はその原因の除去、症状発生及び/又はその原因の予防、及び障害の改善及び治療を意味する。従って、例えば本発明の障害の「治療」方法は、障害に罹りやすい個体における障害の予防と、臨床的に症状がある個体における障害の治療との両者を含む。
【0020】
本明細書において「治療する」とは、脊椎動物や哺乳類(特にヒト)における症状の治療又は予防のいずれもにも亘り、且つ症状の阻止、即ちその進展を止めること、或いは症状の影響の緩和又は改善、即ち症状の影響を後退させることを含む。
【0021】
本明細書において「予防(prophylaxis)」又は「予防的(prophylactic又はpreventative)治療とは、症状に罹りやすい可能性はあるが未だその症状を有するとは診断されていない被験体において、症状の発生を予防すること、或いは症状のその後の進展を改善することを含む。
【0022】
アンギオゲニンが経口投与可能であることを提案する特許明細書を読んだ当業者であれば、アンギオゲニンのバイオアベイラビリティ改善のためのある種の方法を利用すべきであることは理解されたであろう。
【0023】
アンギオゲニンの投与が提案されている公知の障害や疾患としては、血管新生を必要とするものが挙げられる。従って、哺乳動物における血管網の発達(例えば、心臓発作後の側副血行路における発達)を促進するため、或いは、例えば、関節や他の部位における創傷治癒を促進するためにアンギオゲニンの経口処置が提案されている。アンギオゲニンは他にも多くの活性を有していることが分かっており(例えば、神経保護作用(スブラマニアン(Subramanian)ら、(2007)ヒューマンモレキュラージェネティックスVol.17、No.1、130〜149頁))、また、神経変性疾患(例えば、ALSや運動ニューロン疾患)の治療に有用であることが提案されている(WO2006/054277参照)。アンギオゲニンは、一次活性化T細胞や慢性感染細胞におけるRNAウイルス複製の阻害にも提案されており、レトロウイルスやシストウイルス、ビルナウイルス、レオウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、「アルテリウイルス」、アストロウイルス、カリシウイルス、ピコルナウイルス、ポティウイルス、オルソミクソウイルス、フィロウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルスによるRNA感染症の治療に提案されていると共に、ヒト免疫不全ウイルスの処置にも提案されている(WO2004/106491参照)。本発明者らは、アンギオゲニンの経口投与によってこのような疾患や障害の治療が可能であることを提案する。
【0024】
本発明者らの同時係属出願ではフォリスタチンに関する障害の治療におけるアンギオゲニンの使用、即ち、個体におけるミオスタチンに関連する障害を治療する方法、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織の機能を改善することが可能な障害を治療する方法、個体における筋成長を促進する方法、個体における筋肉の傷害又は使用からの回復を改善する方法、個体における筋力を改善する方法、個体における運動耐容能を改善する方法、個体における筋肉の比率を増加させる方法、個体における脂肪を低減させる方法、及び個体の脂肪/筋肉比を低下させる方法を提案している。このような方法の全てにおいては、第1の態様に係るアンギオゲニンの経口投与を利用することができる。
【0025】
経口投与されるアンギオゲニンの他の使用としては、筋肉量を増加させる方法や骨密度を増加させる方法、筋肉疲労を低減させる方法、ミオスタチンの存在が望ましくない病理作用を引き起こすか、或いはミオスタチンレベルの低下が哺乳動物(好ましくはヒト)において治療効果をもたらすような病態を治療又は予防する方法が挙げられる。また、アンギオゲニンを用いてミオスタチンが調節不全ではない病態を治療することができるが、外因性アンギオゲニンの添加によってフォリスタチン介在による細胞刺激を改善することができる。
【0026】
アンギオゲニンは、被験体の筋肉又は脂肪組織の量、発達又は代謝活性の異常を少なくとも一部の特徴とする病的状態の重症度を軽減するために使用することができる。これを投与することによって、カヘキシア、食欲不振、AIDS消耗症候群、筋ジストロフィー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患、神経筋接合部の疾患、炎症性筋疾患等の消耗性障害の予防、緩和又は重症度の軽減が可能となる。
【0027】
「ミオスタチンに関連する障害」とは、筋肉、骨又はグルコース恒常性の障害を意味し、ミオスタチンの異常に関連する障害が含まれる。
【0028】
筋肉とは、主に力の源として機能する体の組織である。体内の筋肉には3種類ある。即ち、a)骨格筋(動作、姿勢の維持及び呼吸が可能となるように骨格に伝達される力の発生に関与する横紋筋)、b)心筋(心臓の筋肉)、及びc)平滑筋(動脈壁及び腸壁の筋肉)である。第1の態様の方法は特に骨格筋に適用可能であるが、心筋及び/又は平滑筋に対してもある程度の作用をもたらし得る。本明細書で骨格筋について参照する場合には、骨、筋肉及び腱の相互作用を包含すると共に、筋線維及び関節も包含する。
【0029】
アンギオゲニンは、その血管新生活性や及び筋肉への血流を増加させる能力によって心筋に作用することが以前から示唆されているが、この作用は酸化的筋肉(タイプI及びタイプIIa)に限られていた。第1の態様において見られるフォリスタチン介在によるアンギオゲニンの筋肉への作用は、全ての筋線維が影響を受けていることからも分かるように、血管新生に関連するものとは異なっている。
【0030】
健常な個体へのアンギオゲニンの使用案は、運動選手(エリート及びアマチュアの両方)や、ボディビルダー、減量により体格の向上を望む人達、肉体労働者に対して有用であろう。
【0031】
アンギオゲニンの配列及び機能は種を超えて高度に保存されるため、第1の態様の方法は、ミオスタチンの存在が望ましくない病理作用を引き起こすか、或いはミオスタチンレベルの低下が治療効果をもたらす、非ヒト哺乳動物又は鳥類(例えば、家畜(例えば、イヌやネコ)、競技用動物(例えば、ウマ)、食用動物(例えば、ウシやブタ、ヒツジ)、鳥類(例えば、ニワトリやシチメンチョウ、他の狩猟鳥、家禽))にも適用可能である。
【0032】
第1の態様の方法の好ましい実施形態においては、アンギオゲニンの経口投与は、ミルク又は血漿由来のアンギオゲニン富化抽出物の形態で行う。
【0033】
特に、経口投与されるアンギオゲニンは、牛乳又はその分画から、例えば、実施例1に記載のプロセスを利用して調製する。このような分画は、腸内で実質的に分解されることなく全身に作用し得るアンギオゲニンをもたらすことが分かっている。このような分画は、アンギオゲニンのバイオアベイラビリティを向上させるための担体や他のメカニズムを用いることなく、経口にて提供することができる。
【0034】
経口投与されるアンギオゲニンは、組換えアンギオゲニン(特にヒト由来)であってもよく、それを含んでいてもよい。
【0035】
本明細書に記載の「経口送達」又は「経口投与」は、GI管への如何なる投与や送達をも包含し、中咽頭腔への直接投与や、実際の吸収は胃腸管(胃や小腸、大腸等)で行われるペプチド又はポリペプチドの口腔経由の投与を含むことを意図する。本明細書に記載の「経口投与」は、舌下投与(レシピエントの舌の下側への投与(中咽頭腔経由投与の一形態を示す))及び頬側投与(レシピエントの歯と頬との間への投与形態物の投与)を包含する。
【0036】
本明細書においては、「経口送達」と「経口投与」は互いに交換可能に用いられる。
【0037】
アンギオゲニンを機能的な形態で個体に投与した際、それが個体の血流内に存在する場合には、アンギオゲニンは「バイオアベイラブル」であると記載する。「機能的な形態」とは、アンギオゲニンが治療作用を有し得ることを意味する。
【0038】
アンギオゲニンを経口投与すると内在性フォリスタチンと共に作用し得ることが提唱されているが、本発明者らによって、フォリスタチンと共にアンギオゲニンを経口投与(同時又は順次に)すると、フォリスタチン又はアンギオゲニンを単独で投与する場合に比べ相加作用以上の効果が得られることが分かった。
【0039】
従って、フォリスタチンと共にアンギオゲニンを経口投与することが企図される。アンギオゲニンとフォリスタチンの両方を同一又は別々の薬剤で経口投与してもよく、フォリスタチンを他の経路、例えば、非経口経路や経皮パッチ剤によって投与してもよい。
【0040】
アンギオゲニンは医薬品、獣医学的組成物、栄養補助食品組成物又は食品(特に機能性食品)として提供することができる。
【0041】
医薬組成物はヒトに投与するのに好適なものである。獣医学組成物は動物に投与するのに好適なものである。一般に、この種の組成物は精製されたアンギオゲニンを含むか、或いは少なくとも組成物の全成分を確認することができるものであろう。
【0042】
第一態様の方法に使用される経口投与医薬組成物又は獣医学組成物は、1種以上の担体及び任意的に他の治療剤を含むことができる。各担体、希釈剤、補助剤及び/又は補形剤は、医薬的に「許容される」ものであることができる。
【0043】
「医薬的に許容される担体」とは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない材料を意味する。即ち、この材料は、それを含有する医薬組成物中の他の成分の何れとも望ましくない生物学的効果をもたらすことなく、また、有害な形式で相互作用もすることなく、選択された活性剤と共に個体に投与することができる。同様に、本発明において提供される新規化合物の「医薬的に許容される」塩又はエステルは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない塩又はエステルである。
【0044】
本明細書において「医薬担体」とは、剤を被験体に送達するための医薬的に許容される溶媒、懸濁剤又はビヒクルである。担体は、液体でも固体でもよく、意図された投与計画の方法に合わせて選択される。各担体は、生物学的又はそれ以外の点で望ましくないものではないという意味で、医薬的に「許容される」ものでなければならない。即ちこの担体は、有害な反応を全く又は実質的に引き起こすことなく剤と共に被験体に投与することができる。
【0045】
フォリスタチンは経口投与してもよく、非経口投与してもよい。本明細書でフォリスタチンに関連して用いられる「非経口」としては、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、結膜下、腔内、経皮、皮下注射、肺又は鼻腔投与用エアロゾル、又は点滴投与(例えば、浸透圧ポンプによるもの)が挙げられる。
【0046】
アンギオゲニンは、錠剤、水中若しくは油中懸濁液、ロゼンジ剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤として経口投与することができる。このような組成物は、医薬的に洗練された風味のよい製剤を製造するための、甘味剤、風味剤、着色剤及び防腐剤の群から選択される1種以上の剤を含むことができる。好適な甘味剤としては、スクロースやラクトース、グルコース、アスパルテーム、サッカリンが挙げられる。好適な崩壊剤としては、コーンスターチやメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸、寒天が挙げられる。好適な風味剤としては、ハッカ油やウインターグリーン油、チェリー、オレンジ、ラズベリーの各風味剤が挙げられる。好適な防腐剤としては、安息香酸ナトリウムやビタミンE、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、重亜硫酸ナトリウムが挙げられる。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、タルクが挙げられる。好適な徐放剤としては、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリルが挙げられる。錠剤に関しては、錠剤の製造に好適な医薬的に許容される無毒の補形剤との混合物中に当該剤を含むことができる。
【0047】
これらの補形剤は、例えば、(1)炭酸カルシウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の不活性希釈剤、(2)コーンスターチ、アルギン酸等の造粒・崩壊剤、(3)デンプン、ゼラチン、アラビアゴム等の結合剤及び(4)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク等の滑沢剤であることができる。これらの錠剤は、コーティングされていなくても、或いは崩壊及び胃腸管への吸収を遅延させることによって長期間に亘り徐放作用が得れらるように公知の技法でコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリル等の徐放材料を用いることができる。
【0048】
非経口投与用フォリスタチン製剤としては、無菌の水性又は非水性液剤、懸濁剤及び乳剤が挙げられる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)及び注射可能な有機エステル(オレイン酸エチル等)が挙げられる。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝化された媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳化液及び懸濁液が挙げられる。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液やデキストロース加リンゲル液、デキストロ−ス及び塩化ナトリウムが挙げられ、乳酸リンゲル静注用ビヒクルは水分(fluid)と栄養補給剤と電解質補給剤(デキストロース加リンゲル液をベースとするものなど)等を含む。防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、成長因子、不活性ガス等も存在させることができる。
【0049】
本組成物は、治療機能を補足、付加及び向上するための他の活性化合物も含むことができる。本医薬組成物はまた、投与説明書と共に、容器、パック、ディスペンサーに収容されることができる。
【0050】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストは他の治療上有用な剤を含むことができ、また、それらと同時に或いは順次に投与されることができる。この剤としては、成長因子(例えば、BMP、TGF−P、FGF、IGF)やサイトカイン(例えば、インターロイキン及びCDF)、抗生物質、治療される状態に有益な他の治療薬等が挙げられる。
【0051】
アンギオゲニン又はそのアゴニストは、獣医学組成物の形態での使用目的で提供されることができる。これは、例えば、当該技術分野における従来法により調製することができる。
【0052】
投与が容易になり、且つ用量が均一になるように、本獣医学組成物又は医薬組成物を単位投与形態として配合すると特に有利である。本明細書において単位投与形態とは、治療すべき被験体に単位投与するのに適した物理的に分離した単位を指し、各単位は必要な医薬担体と共に所望の治療効果を生じさせるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態の規格は、活性化合物固有の特性及び達成すべき特定の治療効果、更には個体を治療するためにこの種の活性化合物を配合する当該技術分野に存在する制限に関する要求に直接的に依存し、規定される。
【0053】
アンギオゲニン又はそのアゴニストを含む医学組成物又は獣医薬組成物は治療有効量で投与されるべきである。本明細書においてアンギオゲニンの「有効量」とは、所望の生物学的成果を達成するためにミオスタチンの活性を低減させるのに十分な用量である。所望の生物学的成果は、筋量の増加、筋力の増大、代謝の改善、肥満の低減、グルコース恒常性の改善等のいずれかの治療効果であることができる。このような改善は、除脂肪体重及び体脂肪量(二重線走査解析等)、筋力、血清脂質、血清レプチン、血清グルコース、糖化ヘモグロビン、耐糖能及び糖尿病の二次的合併症の改善の各測定等、種々の方法で測定することができる。
【0054】
一般に、治療有効量は、被験体の年齢、状態及び性別に加え、被験体の病状の重症度によって変化し得る。用量は医師が決定することができ、適切な治療効果が認められるように必要に応じて調節することができる。アンギオゲニン又はそのアゴニストの適切な投与用量は、5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mg又は40mg〜60mgの範囲内とすることができる。本組成物は、単回投与又は1日1回、1週間に1回、1ヶ月に1回等の間隔で投与することができる。
【0055】
投与計画は、アンギオゲニン若しくはそのアゴニストの半減期又は患者の状態の重症度に応じて調節することができる。
【0056】
通常、本組成物は投与後のアンギオゲニンの最大循環レベルとなる時間が最大限長くなるように急速(ボーラス)投与量で投与される。急速投与後に持続注入を行うことができる。
【0057】
アンギオゲニンを提供するために本方法が栄養補助食品組成物を利用することも意図されている。本方法において使用するための栄養補助食品組成物が提供される。
【0058】
本明細書において「栄養補助食品」とは、食品から単離・精製される可食製品を意味し、ミルク製品から得られる場合、経口投与した際に生理的利点を示し、また急性・慢性の疾患又は障害の防止又は軽減を提供することを示す製品である。従って、栄養補助食品は、単独或いは食品・飲料に混合されて、食物製剤又はサプリメントの形態とすることができる。
【0059】
機能性食品とは、組成物を添加した結果、それを経口投与した際に生理学的効果が得られたり、急性又は慢性疾患や傷害が保護又は軽減されるようになった食品である。
【0060】
栄養補助食品組成物又は機能性食品は、可溶性粉末、液体又は即席飲料の形態とすることができる。或いは、手軽に食べられるバーや朝食シリアル等の固形物とすることができる。この組成物は種々のフレーバー、ファイバー、甘味料、他の添加物等を含むことができる。
【0061】
前記栄養補助食品は、好ましくは許容される官能的性質(許容される香り、味、風味等)を有し、ビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B11、B12、ビオチン、C、D、E、H及びK、カルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛及び鉄から選択される一以上のビタミン及び/又はミネラルを更に含むことができる。
【0062】
栄養補助食品組成物は従来通りに、例えばタンパク質と他の添加物をブレンドして製造することができる。使用する場合は、乳化剤を含ませることもできる。この時点でビタミン及びミネラルを追加することもできるが、通常は熱による変性を避けるために後で加える。
【0063】
粉末状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、タンパク質を粉末状の追加成分と混和することができる。この粉末は水分量約5重量%未満でなければならない。水、好ましくは逆浸透処理済の水を更に混合して混合液体とすることができる。
【0064】
栄養補助食品組成物を即席液体として提供する場合、バクテリアを低減するために組成物を加熱することができる。液状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、液体混合物を好ましくは無菌状態で適切な容器に充填する。容器への無菌充填は当業界で通常可能な技法により行うことができる。この種の無菌充填に好適な装置は市販されている。
【0065】
本栄養補助食品組成物は一以上の医薬的に許容される担体、希釈剤又は補形剤を含むことが好ましい。このような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファー;グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン等の炭水化物;マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はグリシン等のアミノ酸;酸化防止剤;EDTA等のキレート剤;及び補助剤及び保存剤を含むことができる。
【0066】
本栄養補助食品は、調整粉乳、特に、乳児に投与するために母乳に近づけた調乳とすることができる。このような調乳は、成長障害又は早産若しくは低出生体重児の治療に有用となり得る。本食品を乳児又は小児の認知機能を改善するために投与することができる。
【0067】
本発明の第一の態様の方法に使用されるアンギオゲニンはいかなる原料からも得ることができる。この原料は天然、合成或いは組換体であることができる。組換えアンギオゲニンは、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、マウス等のいかなるの生物種のアンギオゲニン配列に基づくことができる。組換えヒトアンギオゲニンは、R&Dシステムズより入手可能である。
【0068】
アンギオゲニンは、正常なヒト血漿、ウシ血漿、ウシ乳、ウシ血漿並びにマウス、ウサギ及びブタ血清中に存在することが知られている。少なくともヒトアンギオゲニンのDNA配列及びタンパク質配列が入手可能であり、組換えヒトアンギオゲニンはアブノバ・コーポレーション(台湾)より小規模用途用に市販されている。
【0069】
一実施形態においてアンギオゲニンは、商業規模で容易に入手可能なアンギオゲニンの原料としての家畜動物の血漿又はミルクから調製される。
【0070】
ミルクは、授乳中の動物、例えば、ウシ、ヒツジ、スイギュウ、ヤギ、シカ等の反芻動物、ヒト等の霊長類及びブタ等の単胃動物等の非反芻動物のいずれかから得ることができる。好ましい実施形態においては、アンギオゲニンは牛乳から抽出される。アンギオゲニンを産生する動物は、その乳中でヒト又はウシアンギオゲニンを過剰発現するように設計されたトランスジェニック動物であることができる。
【0071】
本発明者らは、泌乳の初日〜14日以内のウシ乳中にアンギオゲニンが最大量又は最も濃厚な量(最高で12mg/L)で存在することを示した。その後、濃度は約1〜2mg/Lという基底水準まで低下する。その後、この濃度はベースレベルの約1〜2mg/Lに落ちる。従って、本発明の方法においては泌乳の最初の14日目以内に得られる牛乳をアンギオゲニン原料として第一〜十一の態様の方法において用いることが好ましい。その後の泌乳から得られた牛乳に残留しているアンギオゲニンの量を考えると、これもやはり第一の態様の方法の原料として使用することができる。
【0072】
本発明の第一の態様の方法に使用されるアンギオゲニンは単離又は精製されたものであることができる。精製又は単離されたアンギオゲニンは、そうでなければ含まれてしまう少なくとも1種の剤又は化合物を実質的に含まない。例えば、単離されたタンパク質は、少なくともその起源となる細胞や組織原料に由来する何らかの細胞性物質又は混入タンパク質を実質的に含まない。「細胞性物質を実質的に含まない」とは、アンギオゲニンの純度が少なくとも50〜59%(w/w)、少なくとも60〜69%(w/w)、少なくとも70〜79%(w/w)、少なくとも80〜89%(w/w)、少なくとも90〜95%又は少なくとも96%、97%、98%、99%若しくは100%(w/w)である調製物を意味する。
【0073】
バクテリア中で調製された組換えアンギオゲニンをアンギオゲニン原料として使用することができ、これをタンパク質凝集体の形態で提供することができる。
【0074】
ウシ乳は何百年もの食物連鎖中の天然産物であり、栄養補助食品として使用されるアンギオゲニンが完全に純粋である必要はない。しかしながら、投与される組成物の量を低減させるためには、アンギオゲニンをミルク中の濃度よりも顕著に濃縮することが好ましい。アンギオゲニンは、ミルク中の濃度の少なくとも10倍の濃度が好ましく、乳中の濃度の20、30、40又は50倍の濃度で投与されることがより好ましい。
【0075】
アンギオゲニンが食品として提供される場合、食品サプリメント、栄養製剤又は調整粉乳の形態をとることができる。
【0076】
当業者であればウシアンギオゲニンの突然変異体が天然に存在し、これを製造できることを理解するであろう。
【0077】
当業者は、使用されるアンギオゲニンを貯蔵安定性、生理活性、循環半減期の改善又は他のいずれかの目的で、当該技術分野において利用可能な方法を用いて修飾することができることを理解するであろう。例えば、貯蔵安定性を改善するために修飾を導入することが望ましいであろう。しかしながら、アンギオゲニンは分解に対する耐性が特に高いためこのような修飾は必ずしも必要ないであろう。
【0078】
第一の態様はアンギオゲニンのアゴニストについて言及する。アゴニストはアンギオゲニンによって活性化される受容体を介して直接的又は間接的な作用をもたらすことができる化合物である。好ましくは、アンギオゲニンアゴニストはアンギオゲニン受容体を介して作用し、好ましくはこの受容体に結合する。当業者は、アンギオゲニンのアゴニストを設計する方法を理解するであろう。好適なアゴニストとしては、アンギオゲニンアゴニスト抗体及び擬似化合物が挙げられる。
【0079】
アンギオゲニン、そのアゴニスト及び変異体を、第一の態様の方法において経口投与される医薬品、特にミルク若しくは血漿由来のアンギオゲニン富化抽出物の形態又は組換えアンギオゲニンの形態の医薬品の製造に使用することができる。
【0080】
特に、経口投与されるアンギオゲニンは牛乳又はその分画から、例えば実施例1に記載するプロセスを利用して調製される。このような分画は、腸内で実質的に分解されることなく全身に作用することができるアンギオゲニンを提供することがわかっている。このような分画は、アンギオゲニンのバイオアベイラビリティを増大させるための担体又は他の機構を用いることなく経口的に提供することができる。
【0081】
アンギオゲニンは内在性フォリスタチンと相互作用することが期待されており(組換えアンギオゲニンが使用される場合)、アンギオゲニン富化抽出物はフォリスタチンも含有している場合がある。本明細書に示すように、アンギオゲニン及びフォリスタチンを共に併用投与(同時又は任意の順序で順次の何れかで)すると相加作用を上回り、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与することを意図した各治療方法が提供される。個体にフォリスタチンが欠乏している状況では、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与(同時又は順次の何れかで)することが特に重要である。フォリスタチンの量は年齢と共に低下するので、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に併用投与することは、特に高齢者の治療に関し意図される。
【0082】
併用投与計画においては、アンギオゲニンを経口投与し、フォリスタチンを経口的又はそれ以外で投与することができる。
【0083】
アンギオゲニンを投与することが望ましくない場合もあり得る。本発明者らは、アンギオゲニンがミルクにて経口投与可能であることを見出したため、上述のような場合に用いる、アンギオゲニンの濃度を低下させたミルクも提供する。
【0084】
一実施形態においては、アンギオゲニンの濃度を低下させたミルクは、ウシ全乳やスキムミルクと比べてアンギオゲニンが40%、50%、60%、70%、80%、90%低いか、又は実質的にアンギオゲニンを含まない。
【0085】
アンギオゲニンを低減させたミルクの製造方法は当業者には明らかであろう。例えば、陽イオン交換カラムや抗アンギオゲニン抗体を含有するイムノアフィニティーカラムを通過させて得たミルクは、該カラムに添加したミルクサンプルと比べてアンギオゲニンが低減しているであろう。また、電気透析によって、アンギオゲニンを含まない(更にはラクトフェリンやラクトペルオキシダーゼも含まない)ミルクが得られることも考えられよう。アンギオゲニン含量を低減させたミルクを製造するための好適な方法は実施例に記載する。
【0086】
第1の態様の説明及びそれに続く特許請求の範囲においては、単語「comprise(含む)」又はその変形である「comprises」や「comprising」は、包含的な意味で用いられる(即ち、記載された特徴の存在を明確にするために用いるのであって、本発明の種々の実施形態における更なる特徴の存在や付加を排除するために用いるのではない)。但し、言葉や必要な意味を表すのに文脈が他の解釈を要求する場合はこの限りではない。
【0087】
本明細書においては、特に文脈にて明確に定められない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は、対応する複数形の言及も包含する。また、値の範囲が表される場合、この範囲にはその上限及び下限、更には上限と下限との間にある全ての値が含まれることは明らかに理解されよう。
【0088】
特に明記しない限り、本明細書で用いる技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する当該技術分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。
【0089】
本発明は本明細書に記載の特定の材料や方法に限定されず、これらは変更も可能であることをはっきりと理解されたい。また、本明細書における専門用語は特定の実施形態を説明する目的のみに用いており、添付した特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲が専門用語によって限定されることを意図していないことも理解されたい。
【0090】
以下の非限定的実施例及び図面のみを参照しつつ、本発明について詳細に説明する。
【実施例】
【0091】
実施例1:スキムミルクからのアンギオゲニン富化分画の調製プロセス
10cm長のカラムにSPセファロースビッグビーズ(GEヘルスケア)をカラム中の全ベッド体積が29.7Lとなるように充填した。ウシスキムミルクを線流量が331cm/h(スキムミルク34L/樹脂(1L)/時)で2時間カラムに流通させ、適用したスキムミルクの体積がカラムに充填した樹脂の68倍となるようにした。
【0092】
2.5カラム体積(CV)の水を線流量147cm/h(バッファー15L/樹脂(1L)/時)、即ち0.25CV/minで10分間加えることにより、カラムに残存するミルクを除去した。
【0093】
アンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画は、2.0%(0.34M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間(即ちブレイクスルー時間)は重複する)とした。
【0094】
次いで、アンギオゲニン富化分画を、2.5%w/v(0.43M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン富化分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間は重複する)とした。
【0095】
最後にラクトフェリン分画(これもアンギオゲニン低減化)を、8.75%w/v(1.5M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させる。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してラクトフェリン分画とした。
【0096】
回収されたアンギオゲニン富化分画は限外ろ過(NMWCO 5kDa)して濃縮し且つ塩分を低減させた。得られた濃縮物を次の使用のために凍結乾燥し、室温で貯蔵した。
【0097】
アンギオゲニン富化分画のアンギオゲニン含有量をSDS−PAGEで分析したところ、この分画は、MALDI−TOF/TOFMSによってアンギオゲニンと同定された(結果は示さず)低分子量(14kDa)タンパク質を57%(タンパク質基準)含むことがわかった。
【0098】
当業者であれば、他の原料に由来或いは他の手段で精製したアンギオゲニンも第一の態様の方法に使用できることを理解するであろう。上の実施例は、次の実験に使用するアンギオゲニンの実際の原料をどのように作製したかを単に示したものであって、いかなる形の限定も意図していない。
【0099】
アンギオゲニン富化分画がある種の作用を有する更なる生物活性成分を含有し得ることが考えられる一方、スキムミルク中の利用可能な量(濃度2%)に匹敵する量のアンギオゲニンがアンギオゲニン富化分画に匹敵する活性を有することが実施例において示された(データは示さず)。
【0100】
実施例2:ヒト血液におけるウシアンギオゲニンの検出
ウシアンギオゲニンが摂取後に血流内に到達し得ることを解析するため、実施例1に記載のアンギオゲニン富化ミルク分画(アンギオゲニン25mg、75mg又は150mgに相当)を2名(duplicate)の被験者に摂取させた。アンギオゲニン用量は、摂取直前に100mLの市販フレーバーミルクにて調整した。摂取前、時間0の血液サンプルを採取した。そして、摂取2時間後及び3時間後に血液サンプルを採取した。
【0101】
アンギオゲニンの存在は、レムリ(Laemmli)の方法(1970、ネイチャー227(5259):680−685)に従って行うSDS−PAGE、及びシプロルビーを用いて製造業者の指示書に従って行う染色によって確認する。例えば、タンパク質分画のアリコートの変性は、SDS PAGEバッファー(通常、2%ドデシル硫酸ナトリウム、10%グリセロール、50mM TrisHCl(pH6.8)、2mM EDTA、140mM β−メルカプトエタノール及び0.01%ブロモフェノールブルーを含有)にて95℃で5分間加熱して行う。変性サンプルをSDS PAGEゲル(供給者より入手可能(例えば、インビトロジェン社のノベックスプレキャストTrisHClゲル))上にロードする。ゲルをSDS PAGE装置内に入れ、ランニングバッファー(Tris塩基:3.03g/L、グリシン:14.4g/L、及びSDS:1.0g/L)を装置の底部ウェル及び頂部ウェルに入れる。電気泳動を200Vで1時間行う。電気泳動後、固定/脱染溶液(10%メタノール及び7%酢酸)を用いてタンパク質をゲル内に固定した後、シプロルビー(インビトロジェン)を用いて少なくとも1時間染色を行う。固定/脱染溶液にてゲルを少なくとも1時間脱染した後、ゲルスキャニングシステムでイメージングを行う。約15kDaにおける明確なバンドの解析によってアンギオゲニンの存在量を求める。
【0102】
アンギオゲニン存在の確認は、SDS PAGE後の抗ウシアンギオゲニン抗体を用いたウェスタンブロッティングによるイムノアフィニティ検出によって行うこともできる。ウシアンギオゲニンを含む生体サンプルを還元剤(2−メルカプトエタノール)の存在下又は非存在下で1×NuPAGE LDSサンプルバッファー(インビトロジェン)に溶解する。次いで、サンプルを95℃で5〜10分間加熱した後、SDS PAGE電気泳動を上述のように行う。電気泳動後、ゲルをタウビン(Towbin)バッファー(25mM Tris、192M グリシン、1%SDS)に10分間入れる。ウェスタン転写手続きにはiBlotTM(インビトロジェン)等の市販の転写デバイスを用い、製造業者の指示に従って転写を行う。iBlotTMアノードスタック(ボトム)をそのパッケージから取り出し、iBlotTMゲル転写デバイスの底部に置く。次に、プレ泳動(pre-run)ゲルをニトロセルロース膜(iBlotTM膜、インビトロジェン)上に配置する。次いで、脱イオン水に浸漬させた1枚のiBlotTM濾紙を予備泳動ゲルの上部に置く。そして、iBlotTMカソードスタック(トップ)をこの予備浸漬濾紙の上部に銅電極側が上に向くようにして置く。次に、iBlotTM使い捨てスポンジを蓋の内側に置いて、iBlotTM転写スタックと確実に接触させる。装置に電圧を25Vで7分間印加する。転写終了時に、ニトロセルロース膜をブロッキング溶液(5%脱脂粉乳を含むTBST)に1時間入れる。その後、膜を一次抗体溶液に移す。この溶液には、5%BSA含有のTBST(10mM TrisHCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05%Tween20)にて抗ウシモノクローナル抗体(例えば、クローン番号1B14D4(忠北大学校(大韓民国、忠北道、清洲)の生化学科))やポリクローナル抗体を好適に希釈したものが含まれる。ニトロセルロース膜を一次抗体溶液中で優しく振盪しながら4℃で一晩インキュベートする。その後、ニトロセルロース膜をTBSTで優しく振盪しながら室温で4回(各5分間)洗浄する。次に、ニトロセルロース膜を、一次抗体を検出するための標識抗体を含有する二次抗体溶液に入れる。抗ウシアンギオゲニンモノクローナル抗体1B14d4の場合には、5%脱脂粉乳含有TBSTで15000分の1に希釈したIRDye 800CWヤギ抗マウスIgG二次抗体(Licor)を用いることができる。この場合、ニトロセルロース膜を二次抗体溶液中で暗所にて室温で45分間インキュベートする。その後、暗所にてニトロセルロース膜をTBSTで優しく振盪しながら室温で4回(各5分間)洗浄する。次に、ニトロセルロース膜をTBS(10mM Tris HCl(pH7.5)、150mM NaCl)で洗浄し、2枚の濾紙(ワットマン)間で乾燥させる。その後、ニトロセルロース膜を赤外線画像装置(リコールオデッセイ)を用いて適切な波長でスキャンする。約15kDaにおける明確なバンドの解析によってアンギオゲニンの具体的な存在量を求める。
【0103】
図1に示すように、2時間後及び3時間後の両方において、低用量から高用量になるに従って血中アンギオゲニンレベルが明らかに上昇することが分かるが、これはアンギオゲニンが経口投与可能であることを示す。
【0104】
実施例3:インビボ動物試験
正常マウスにおけるアンギオゲニンのバイオアベイラビリティを解析するために動物試験を実施した。全ての研究はウエスタン・オーストラリア大学(University of Western Australia)動物倫理委員会の承認済である。
【0105】
各試験期間中、マウスに2種類の飼料、即ち、対照飼料と実施例1に従って調製したウシアンギオゲニン(bアンギオゲニン)富化分画を2.5μg/マウス重量(g)で含む飼料とを摂取させた。正常(C57)及びジストロフィー(mdx)成体(8週齢)雄性マウスについて、各実験用飼料の各マウス株につきn=8で試験を実施した。
【0106】
1ヶ月の摂餌期間中、正常マウスに飼料を自由に摂取させて自発的に運動させた。自発運動のためにマウス用金属車輪をケージ内に設置し、車輪に自転車用歩数計を装着して各マウスの走行距離を記録した。MDXマウスにも同じ1ヶ月の摂餌期間を与えた。別の実験では、mdxマウスに上述した自発運動処置を施すか又は自発運動用車輪を設置しなかった。
【0107】
実験解析:
実験期間中、体重、摂餌量及び筋力(握力試験)をいずれも1週間に2回ずつ測定した。各実験の終了時にマウスをハロタン麻酔下で頸椎脱臼させることにより屠殺した。
【0108】
実験用マウスを用いて、ジストロフィー及び正常筋肉に対し処理を施した結果としての形質変化を確認するために以下の解析を実施する。
【0109】
1)体組成解析:各マウス死骸の皮膚を剥ぎ、その半分を体組成分析に用いた。更に、四頭筋(quad)、前脛骨筋(TA)及び腓腹筋を含む個々の脚部筋肉に加えて腹部の脂肪パッド及び心臓を解剖し、重量を測定して記録し、飼料によって誘導された全体的な形質変化を確認した。
【0110】
2)組織学的解析:骨格筋及び心臓の試料を回収して、両方とも凍結及びパラフィンによって組織学的検査の用意をした。次の筋肉、即ち、四頭筋、前脛骨筋及び横隔膜について組織学的解析を実施する。これらの筋肉に対し、ヘマトキシリン及びエオシン、スダンブラック及び種々の免疫組織化学染色を行う。骨格筋線維の壊死、線維肥大及び筋肉の脂肪含有量を確認する。
【0111】
正常マウスにおけるインビボ実験結果を図2及び3に示す。アンギオゲニン富化分画を2.5μg/gで添加した飼料の場合、対照群と比べて最大50%の筋量増加が誘導される(図2)ことが明らかである。筋量の増加は、遅収縮性酸化的線維に対応する低比率の暗線維以外の殆どのタイプの筋線維の断面積が増加していることによって説明される(図3)。これは、経口摂取した際のアンギオゲニンのバイオアベイラビリティを示しており、アンギオゲニンが腸を通過し、組織レベルで活性であることが分かる。アンギオゲニンをmdxマウスに摂取させた場合、自発運動を行うことができたマウスの筋壊死の比率が低下した(図4)。このことは、アンギオゲニンがmdxマウスへの摂取後にバイオアベイラブルであり、mdxマウスにおける運動による筋破壊作用をアンギオゲニンが阻害できることを示している。これは、アンギオゲニンが、経口投与された場合であってもその治療作用をもたらし得ることを意味する。
【0112】
実施例4:スキムミルクにおけるアンギオゲニンの低減
深さが100mm、体積が30LのカラムにSPビッグビーズ陽イオン交換樹脂(GEヘルスケア)を充填した。カラムの調製は、180L(カラム体積の6倍)の1.0M塩化ナトリウム(1300L/時間)で洗い流した後、180L(カラム体積の6倍)の水(1800L/時間)で洗い流して行った(ミルク及び全ての溶液はpH6.5±1であった)。スキムミルクを樹脂に1300L/時間の速度で添加し、2100L(カラム体積の70倍)を添加するまで行った。スキムミルクのサンプルはカラム添加直前及びカラム溶出直後に回収した。カラム溶出直後に回収したミルクはアンギオゲニン低減ミルクである。スキムミルク及びアンギオゲニン低減ミルクをステンレス鋼トレー内で冷凍、凍結乾燥(温度:50℃、時間:48時間、真空度:1mBar)させた後、気密性ホイルポーチ内に密閉し、解析を行うまで保存した。
【0113】
低圧陽イオン交換クロマトグラフィーでアンギオゲニンを予備濃縮した後、陽イオン交換HPLCで測定した。ミルク粉末(20g)を400mLの水に磁気攪拌棒を用いた攪拌を30分間行って溶解した。ミルク溶液のpHが4.6になるまで塩酸(2M)を添加した。沈殿したカゼインはワットマン#113濾紙及びワットマン#1濾紙による濾過を逐次行うことによって除去し、清澄化した乳清を回収した。30%水酸化ナトリウムを添加してこの乳清のpHを6.2±0.1に調整した。
【0114】
SP Big Bead陽イオン交換樹脂(湿重量:35g)を乳清に添加し、1時間攪拌した。多くのバッチにおいては、使い捨ての10mLカラムに乳清と樹脂を注ぎ込み、樹脂が全てカラム内に堆積するまで行った。カラムを蒸留水で洗い流した後、4M塩化ナトリウム溶液で溶出させた。カラムからの溶出物を280nmでモニターし、タンパク質が全て確実に回収されるようにした。回収した溶出物の量は45gであった。溶出物(200μL)に蒸留水を添加して1000μLに希釈し(これは、HPLCで塩リッチ溶液を適切に解析するのに必要である)、100μLを陽イオン交換HPLCで解析した。スキムミルクに存在するアンギオゲニンの面積は8461mAUxs、アンギオゲニン低減ミルクにおけるアンギオゲニンの面積は893mAUxsであったが、これは、アンギオゲニンの存在量が89.44%低減したことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンギオゲニンの投与が有益である何らかの障害を治療する方法であって、アンギオゲニンを経口投与する方法。
【請求項2】
担体や賦形剤を必要とせず、又はアンギオゲニンの経口バイオアベイラビリティを改善するためにそのタンパク質をカプセル化したり他のメカニズムに付す必要がない、アンギオゲニンを経口投与する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記障害は、代謝性疾患;インスリン依存型(1型)糖尿病;インスリン非依存型(2型)糖尿病;高血糖;耐糖能異常;メタボリック症候群;シンドロームX;外傷若しくは脂肪組織障害若しくは肥満により誘導されるインスリン抵抗性;筋肉及び神経筋障害、筋ジストロフィー;重度若しくは良性X連鎖筋ジストロフィー;肢帯型筋ジストロフィー;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー;筋緊張性ジストロフィー;遠位型筋ジストロフィー;進行性ジストロフィー型眼筋麻痺;眼咽頭筋ジストロフィー;デュシェンヌ型筋ジストロフィー;福山型先天性筋ジストロフィー;筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症:臓器萎縮;虚弱;手根管症候群;鬱血性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性筋強直症;家族性周期性麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン・ランバート症候群;二次性筋無力症;脱神経筋萎縮;発作性筋萎縮症;サルコペニア、カヘキシア、他の筋消耗症候群;骨粗鬆症(特に高齢者及び/又は閉経後の女性);糖質コルチロイドに起因する骨粗鬆症;骨減少症:変形性関節症;骨粗鬆症が関与する骨折;筋肉組織への外傷的又は慢性的傷害;長期の糖質コルチロイド療法に起因する低骨量;早発性腺機能不全;アンドロゲン抑制;ビタミンD欠乏症;二次性副甲状腺機能亢進症;栄養欠乏症;神経性食欲不振症;血管新生の促進が有益となる障害;及び外傷治癒から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アンギオゲニンは組換えアンギオゲニンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アンギオゲニンはウシ乳に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
フォリスタチンを投与することを更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フォリスタチンを非経口投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アンギオゲニンとフォリスタチンを共に投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
経口投与形態であるアンギオゲニン。
【請求項10】
経口投与形態であるフォリスタチン及びアンギオゲニン。
【請求項11】
フォリスタチンと経口投与形態であるアンギオゲニンとを含むキット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公表番号】特表2011−519960(P2011−519960A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508768(P2011−508768)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000602
【国際公開番号】WO2009/137879
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509127343)アグリカルチャー ヴィクトリア サービス ピーティーワイ エルティーディー (6)
【氏名又は名称原語表記】AGRICULTURE VICTORIA SERVICES PTY LTD
【出願人】(509127332)マリー ゴールバーン シーオー−オペレイティブ シーオー.リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】MURRAY GOULBURN CO−OPERATIVE CO.LIMITED
【Fターム(参考)】