説明

アンテナリフレクタ及び電波反射鏡面の修正方法

【課題】 人工衛星に搭載されるアンテナリフレクタの電波反射鏡面は、軽量かつ電波反射性、形状安定性の観点から炭素繊維等を用いた複合材料が使われる。複合材料を電波反射鏡面に適用する場合、その製造過程で半硬化状態の樹脂を硬化させるプロセスが必要であるが、硬化プロセスにおいては複合材料に成形歪が発生するため一般的にリフレクタの鏡面精度が劣化する。
【解決手段】 硬化プロセスによる電波反射鏡面の成形歪の発生箇所に電波反射材を取り付ける。電波反射材の取り付けは接着剤による固定あるいは繊維束の縫合等により行う。電波反射材を局所的に配置することによって電波反射鏡面の形状を修正して、鏡面精度を向上させたアンテナリフレクタを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば人工衛星等に設けられるアンテナリフレクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星搭載用アンテナ等に設けられるリフレクタの電波反射鏡面は、軽量かつ電波反射性、形状安定性の観点から、炭素繊維等を用いた複合材料を素材としていることが一般的である。リフレクタの構造としては、例えば電波反射鏡面の素材を複合材料とし、この複合材料でコア層を両側から圧着したサンドイッチパネル方式、2つのリフレクタを組み合わせたデュアルリフレクタ方式、金属や合成物質にメッキを施したメッシュを電波反射鏡面としたメッシュ方式等、各種の構造がある。
【0003】
複合材料を電波反射鏡面に適用する場合の製造上の特徴として、製造過程で、樹脂を含浸した炭素繊維等の半硬化状態の樹脂を硬化させる硬化プロセスが必要であることが挙げられる。
複合材料中の樹脂を硬化させるプロセスにおいては、複合材料に成形歪が発生するため、一般的にリフレクタの鏡面精度が劣化する。
【0004】
また、複合材料を素材とする電波反射鏡面は背面構造などの剛性を受け持つ部材との接着工程を有するため、接着工程において接着剤の硬化収縮などの影響によって、一般的にリフレクタの鏡面精度が劣化する。
【0005】
このような原因により鏡面精度は劣化していくが、鏡面精度の劣化はリフレクタにおける電波の焦点のずれを発生させ、リフレクタを使用した衛星通信の安定性が低下する。
従来、リフレクタの鏡面精度の劣化を抑えることを目的として、樹脂を含浸したプリプレグを2層にするなど種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−148611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のアンテナリフレクタでは、メンブレンリフレクタにおいて三軸織物に半硬化状態の樹脂を含浸したプリプレグの面同士あるいは裏同士を合わせて二層にすることにより、成形歪による変形を小さくし、鏡面の形状精度の劣化を抑える方法を提案している。
しかしながら、特許文献1で提案された方法は、対象となるリフレクタがメンブレンリフレクタの場合は有効であるが、メンブレンリフレクタ以外の例えばサンドイッチパネル方式のリフレクタには適用できないという課題があった。
【0008】
また、一般的にメンブレンリフレクタは電波反射鏡面と背面構造との接着工程を必要とするが、特許文献1に記載された方法ではこの電波反射鏡面と背面構造との接着工程で発生した鏡面精度の劣化を低減することはできないという課題があった。
【0009】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、通信の安定性を向上させることのできるアンテナリフレクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の人工衛星に搭載されるアンテナリフレクタは、アンテナリフレクタの電波反射鏡面の一領域に、前記電波反射鏡面とは別部品の電波反射材を備える。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、複合材料を鏡面に用いた場合のアンテナリフレクタの製造過程で生ずる鏡面精度の劣化を抑えることができ、アンテナリフレクタを使用した通信の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電波反射鏡面を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電波反射鏡面の正面図を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電波反射鏡面の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る電波反射鏡面の断面拡大図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る電波反射鏡面の部分正面図を示した図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る電波反射鏡面の断面拡大図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係る電波反射鏡面の部分正面図を示した図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る電波反射鏡面の断面拡大図である。
【図9】人工衛星の構成の概略を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図9は一般的な人工衛星を概略的に示したもので、人工衛星の本体50には太陽電池パネル51やアンテナリフレクタ52等が設けられる。アンテナリフレクタ52は、曲面形状の電波反射鏡面1(リフレクタ1ともいう)と、電波反射鏡面1の背面に設けられ電波反射鏡面1を支持する背面構造体53等によって構成されている。
【0014】
図1は実施の形態1の電波反射鏡面1の構成例である。アルミなどのコア材12の両面に表皮材11a及び表皮材11bが接着剤で密着された構成であって、サンドイッチ構造のリフレクタを成している。なお、ここでは、コア材12両面の表皮材11a、11bのうち、表皮材11aの方を電波を反射する電波反射面とする。表皮材11a、11bの材料には、軽量、低熱膨張性による形状安定性の観点からCFRP(炭素繊維複合材料)等の複合材料が使用される。また、コア材12としては、軽量なハニカム構造のもの、即ちハニカムコアが使用される。
【0015】
次に、電波反射鏡面1の製造方法について説明する。熱硬化樹脂を含浸させた炭素繊維織物とコア材を、鏡面型上で加熱硬化することで樹脂が硬化して電波反射鏡面1を形成する。より詳しくは、加熱硬化後の表皮材11a、11bをコア材12の両面に接着剤を介して密着させ、これを過熱してコア材12に表皮材11a、11bを接着させる。このとき、真空引きの圧力と直接の押圧力とを、鏡面成形型上でコア材12及び表皮材11a、11bに加えることにより、表皮材が弾性変形し、コア材12及び表皮材11a、11bの形状誤差が吸収され、表皮材がコア材に密着する。このように、表皮材11a、11bをコア材12に密着させて表皮材11a、11bを弾性変形させることで、加熱硬化時に生じた成形歪が除去し、電波反射鏡面1を理想形状に近づけている。
【0016】
次に、この電波反射鏡面1を背面構造体53と結合することにより、アンテナリフレクタ52が製造される。
【0017】
このようにして製造されるアンテナリフレクタ52の工程上の特徴として、樹脂を含浸した炭素繊維等の半硬化状態の樹脂を加熱により硬化させる硬化プロセスを要することが挙げられる。この硬化プロセスにおいて炭素繊維複合材料に成形歪が発生し、残留した成形歪によって電波反射鏡面1の鏡面精度が劣化する。
【0018】
実施の形態1ではこの成形歪を修正するため、追加部品となる電波反射材2を用いて、局所的に鏡面を補正する。
【0019】
図2は、実施の形態1における電波反射鏡面1の正面図である。図3は、図2におけるA−A断面図である。
図3の断面図で、電波反射鏡面1の一部には硬化プロセスで発生した成形歪20が残留し、この成形歪20によって設計上の鏡面形状100との不一致箇所が生ずる。
実施の形態1では、この不一致箇所に追加部品となる電波反射材2を局所的に追加することで、電波反射鏡面1の電波反射面、すなわち表皮材11aの形状が設計上の鏡面形状100と一致するように修正する。
【0020】
鏡面形状との不一致箇所は、例えばカメラ画像を用いた画像処理により特定する。特定された表皮材11aの箇所に電波反射材2を追加することで形状の修正を行う。
【0021】
表皮材11aと電波反射材2の固定には接着剤3を用いる。
電波反射材2の素材としては、宇宙空間での温度変化による形状安定性の観点から、電波反射鏡面1の表皮材11と同じ素材であることが望ましい。
また、接着剤3には宇宙空間での耐熱性とアウトガスの観点からエポキシ樹脂もしくはシアネート樹脂を用いることが望ましい。
【0022】
以上のように、実施の形態1のアンテナリフレクタでは、硬化プロセスで生じた電波反射面の歪箇所に、電波反射材が接着剤で接着される。これにより、電波反射面の形状が修正されて、通信の安定性を向上させることができる。
【0023】
なお、実施の形態1ではサンドイッチ構造のアンテナリフレクタについて説明したが、電波反射面にメンブレン(膜)を用いたアンテナリフレクタなどこれ以外のアンテナリフレクタに適用してもよく、リフレクタの方式は問わない。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態1では電波反射材2を接着剤で電波反射鏡面の表皮材に接着していたが、実施の形態2では、電波反射材2を繊維束を用い電波反射鏡面に縫合して固定する。
図5は、実施の形態2における電波反射材2を固定した箇所の電波反射鏡面1の正面図を示した図である。ここで、電波反射材2はその周囲を繊維束4を用いて電波反射鏡面1に縫い付けられている。図6は、図5のA-A断面図を示したものである。
電波反射材2の形状および取り付け位置は、電波反射鏡面1の鏡面形状が設計上の鏡面形状と一致しない領域の形状および位置と同じであり、電波反射材2が設計上の鏡面形状と一致するように局所的に配置されている。
縫い付けの方法としては、電波反射鏡面1と電波反射材2に予め繊維束が貫通する程度の穴をあけておき、繊維束を通すことで固定する。
電波反射材2の素材としては、宇宙空間での温度変化による形状安定性の観点から、電波反射鏡面1と同じ素材であることが望ましい。繊維束4には熱膨張率が低い炭素繊維を用いるか、電波透過性を有するケブラー繊維を用いることが望ましい。
【0025】
このように、実施の形態2のアンテナリフレクタでは、硬化プロセスで生じた電波反射面の歪箇所に電波反射材2を繊維束4によって縫い付けるようにした。これにより、追加の接着剤を使用することによる硬化プロセスを経ることなく、電波反射面の形状が修正されて、通信の安定性を向上させることができる。
【0026】
実施の形態3.
実施の形態2では、電波反射材2を繊維束4を用い電波反射鏡面に縫合して固定するようにしたが、実施の形態3では、一方向材繊維強化樹脂5を用いて、電波反射材2を電波反射鏡面1に固定する。
図7は、実施の形態2における電波反射材2を固定した箇所の電波反射鏡面1の正面図を示した図である。ここで、電波反射材2はその周囲を一方向材繊維強化樹脂5を用いて電波反射鏡面1に縫い付けられている。図8は、図7のA-A断面図を示したものである。
電波反射材2の形状および取り付け位置は、電波反射鏡面1の鏡面形状が設計上の鏡面形状と一致しない領域の形状および位置と同じであり、電波反射材2が設計上の鏡面形状と一致するように局所的に配置されている。
縫い付けの方法としては、電波反射鏡面1と電波反射材2に予め一方向材繊維強化樹脂5が貫通する程度の穴をあけておき、一方向材繊維強化樹脂5を通すことで固定する。
電波反射材2の素材としては、宇宙空間での温度変化による形状安定性の観点から、電波反射鏡面1と同じ素材であることが望ましい。
一方向材繊維強化樹脂5としては、例えば熱膨張率が低い炭素繊維強化樹脂か、あるいは電波透過性を有するケブラー繊維強化樹脂を用いることが望ましい。
なお、電波反射材2の固定手順としては、本実施の形態で説明した樹脂硬化前の一方向繊維強化材料を用いてもよいし、実施の形態2と同様に繊維束4を通した後、樹脂を含浸させるという手順でもよい。
【0027】
このように、実施の形態3のアンテナリフレクタでは、硬化プロセスで生じた電波反射面の歪箇所に電波反射材2を一方向材繊維強化樹脂5によって縫い付けるようにした。これにより、電波反射材2の固定を強固にして電波反射面の形状を修正することができ、通信の安定性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 電波反射鏡面、2 電波反射材、3 接着剤、4 繊維束、5 一方向材繊維強化樹脂、11a、11b 表皮材、12 コア材、20 成形歪箇所、50 人工衛星、51 太陽電池パネル、52 アンテナリフレクタ、53 背面構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星に搭載されるアンテナリフレクタの電波反射鏡面の一領域に、前記電波反射鏡面とは別部品の電波反射材を備えることを特徴とするアンテナリフレクタ。
【請求項2】
前記電波反射材は電波反射鏡面の一領域に接着剤で固定されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナリフレクタ。
【請求項3】
前記接着剤はエポキシ樹脂あるいはシアネート樹脂であることを特徴とする請求項2記載のアンテナリフレクタ。
【請求項4】
前記電波反射材は電波反射鏡面の一領域に繊維束で縫合されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナリフレクタ
【請求項5】
前記繊維束はケブラー繊維であることを特徴とする請求項4記載のアンテナリフレクタ。
【請求項6】
前記電波反射材は電波反射鏡面の一領域に一方向繊維強化樹脂で縫合されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナリフレクタ
【請求項7】
前記電波反射鏡面の一領域は、電波反射鏡面に成形された歪箇所であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載のアンテナリフレクタ
【請求項8】
人工衛星に搭載されるアンテナリフレクタの電波反射鏡面に成形された歪箇所に別部品の電波反射材を取り付けることにより前記電波反射鏡面の形状を修正することを特徴とする電波反射鏡面の修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−138777(P2012−138777A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289976(P2010−289976)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】