説明

アンテナ内蔵式電子時計

【課題】指針軸がアンテナを貫通する構造でありながら、高い受信性能を確保可能で十分に薄型のアンテナ内蔵式電子時計を提供する。
【解決手段】アンテナ内蔵式電子時計100は、指針軸12と、指針13と、指針軸12を回転させて指針13を駆動する駆動機構30と、アンテナ基板21とアンテナ基板21上の誘電体22と誘電体22上の放射電極23とを有するパッチアンテナ20と、パッチアンテナ20を用いて衛星信号を受信するGPS受信部26とを備える。パッチアンテナ20は、下側に凹み10aを有し、凹み10aにより薄くなっている中央部よりも凹み10aにより薄くなっていない周縁部が厚い。指針軸12は、パッチアンテナ20の中央部を貫通している。駆動機構30の一部は、凹み10aの内側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナを内蔵したアナログ時刻表示のアンテナ内蔵式電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には厚みが均一のスロットアンテナを内蔵したアンテナ内蔵式電子時計が、特許文献2には厚みが均一のパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)を内蔵したアンテナ内蔵式電子時計が記載されている。いずれのアンテナ内蔵式電子時計でも、その厚み方向においてアンテナと指針とが重なる構造を採る場合には、指針軸はアンテナを貫通する。
【0003】
なお、特許文献3には金属ケースの上に厚みが均一のパッチアンテナを配置したデジタル時刻表示の腕時計が記載されている。また、特許文献4には中央部が薄く周縁部が厚いパッチアンテナ(円環パッチアンテナ)が記載されている。しかし、いずれも、アンテナ内蔵式電子時計に関する技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-213819号公報
【特許文献2】特開平10-197662号公報
【特許文献3】特許2001-27680号公報
【特許文献4】特開2007-129418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載のアンテナ内蔵式電子時計では、アンテナの厚みが均一である。したがって、指針軸がアンテナを貫通する構造を採る場合には、アンテナの厚みの分だけ時計が厚くなる。したがって、時計を薄くするためにはアンテナ全体を薄くせねばならない。しかし、アンテナ全体を薄くすると、アンテナの感度(アンテナゲイン)が著しく低下し、受信性能が低下してしまう。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、指針軸がアンテナを貫通する構造でありながら、高い受信性能を確保可能で十分に薄型のアンテナ内蔵式電子時計を提供することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係るアンテナ内蔵式電子時計は、上下方向に延在する指針軸と、前記指針軸を中心に周回する指針と、前記指針の下側に配置され、前記指針軸を回転させて前記指針を駆動する駆動機構と、前記指針と前記駆動機構との間に配置された非導電性の文字板と、前記文字板と前記駆動機構との間に配置され、前記指針軸の横断面に沿って延在し、グランド電極と、前記グランド電極上の誘電体と、前記誘電体上の放射電極とを有するパッチアンテナと、前記パッチアンテナを用いて無線信号を受信する無線受信部とを備え、前記パッチアンテナは、下側に凹みを有し、前記凹みにより薄くなっている中央部よりも当該凹みにより薄くなっていない周縁部が厚く、前記指針軸は、前記文字板および前記中央部を貫通しており、前記駆動機構の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置することを特徴とする。
このアンテナ内蔵式電子時計でも、指針軸がアンテナを貫通するから、パッチアンテナの分だけ厚くなる。しかし、このパッチアンテナは下側が凹んで中央部が周縁部よりも薄く、薄い中央部を指針軸が貫通し、指針軸を回転させる駆動機構の一部又は全部がパッチアンテナの凹みの内側に位置する。よって、パッチアンテナの装備による時計の厚みの増分を、パッチアンテナの周縁部の厚みよりも薄くすることができる。すなわち、アンテナ全体を薄くすることなく、時計を薄くすることができる。また、パッチアンテナの感度は主に周縁部の厚みに依存するから、周縁部が十分に厚ければ、中央部が薄くても十分に高い感度が得られる。よって、このアンテナ内蔵式電子時計によれば、時計の薄型化と感度の低下の抑制との両立が可能である。すなわち、本発明によれば、指針軸がアンテナを貫通する構造でありながら、高い受信性能を確保可能で十分に薄型のアンテナ内蔵式電子時計を提供することができる。
なお、「指針」としては時針や分針、秒針が挙げられる。また、「パッチアンテナ」は例えばマイクロストリップアンテナである。また、「面に沿って延在」には、当該面の延在方向に延在することや、当該面に直交しない面の延在方向に延在することが含まれる。
【0007】
このアンテナ内蔵式電子時計において、前記駆動機構は、前記指針軸を回転させる輪列を備え、前記輪列の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置するようにしてもよい。なお、輪列に含まれる歯車は単数でも複数でもよい。複数の場合、複数の歯車のうち少なくとも一つの歯車の一部又は全部がパッチアンテナの凹みの内側に位置することになる。さらに、前記駆動機構は、前記輪列を駆動するモーターを備え、前記モーターのコイルの一部又は全部は、前記凹みの内側に位置するようにしてもよい。
【0008】
このアンテナ内蔵式電子時計において、前記誘電体と前記放射電極との間に光発電素子を備え、前記放射電極は透明電極で形成されているようにしてもよい。
このアンテナ内蔵式電子時計によれば、放射電極を介して光発電素子へ光が入射するから、光発電が可能となる。なお、光発電素子を放射電極上に配置すれば、放射電極を透明電極で形成する必要はない。しかし、このように配置すると、受信すべき無線信号が光発電素子で減衰する。この減衰を十分に抑制するためには、受信すべき無線信号の周波数に比較して光発電素子の透明電極を十分に薄くする必要がある。しかし、この薄型化には限度があり、GPS(Global Positioning System)衛星からの無線信号(周波数は1.5GHz程度)の減衰を十分に抑制できる程度に光発電素子の透明電極を薄くすることは困難である。このことから明らかなように、このアンテナ内蔵式電子時計によれば、GPS衛星からの無線信号の受信性能を低下させずに光発電を行うことができる。
【0009】
ところで、剛性や美観の観点から、外装に金属ケースを採用する場合がある。一方、パッチアンテナは、図8に示すように、主にアンテナ側面から電磁波を放射(受信)する。したがって、金属ケースを採用する場合には、所望のアンテナ特性を確保するために、アンテナ側面と金属ケースとを十分に離間させる必要がある。例えば、パッチアンテナの周縁部の厚みが4mmの場合、アンテナ側面と金属ケースとの距離を2〜3mm以上とするのが望ましい。しかし、アンテナ側面と金属ケースとを十分に離間させると、時計が大型化してしまう。また、パッチアンテナでは、グランド電極を大きくするとアンテナ特性が向上することが知られている。しかし、グランド電極を単純に大きくすると時計が大型化してしまう。
【0010】
そこで、上記の各アンテナ内蔵式電子時計において、一部が金属で形成されたケースを備え、前記一部は前記放射電極の下側に位置し、前記グランド電極と前記一部とは電気的に接続されているようにする。
このアンテナ内蔵式電子時計によれば、ケースの金属部分が放射電極の下側に位置するから、十分に高いアンテナ特性を確保しつつ放射電極の周縁とケースとの距離を短くすることができるとともに、グランド電極とケースの金属部分とが電気的に接続されているから、グランド電極を大きくしたのと同様の効果(パッチアンテナの性能向上)を得ることができる。
なお、一部が金属で形成されたケースは、上下方向に延在する筒状の部材であってもよいし、上下方向に延在する筒状の部材と時計の裏蓋とを一体化した容器であってもよい。
【0011】
また、上記の各アンテナ内蔵式電子時計において、前記中央部で前記誘電体と前記グランド電極とを貫通した導通ピンを備え、前記無線受信部は、前記パッチアンテナの下側に配置され、前記導通ピンは、前記放射電極と前記無線受信部とを電気的に接続するようにしてもよい。このアンテナ内蔵式電子時計では、導通ピンがパッチアンテナの周縁部ではなく中央部の誘電体とグランド電極とを貫通するから、誘電体とグランド電極とに孔を形成することによる受信性能の低下を抑制することができる。また、無線受信部をパッチアンテナの凹みの内側に配置しやすいという利点もある。
【0012】
上記の各アンテナ内蔵式電子時計において、前記文字板および前記中央部には日付を表示するための貫通孔が形成され、前記文字板および前記中央部の貫通孔を通じて日付を表示する日付表示機構を備え、前記日付表示機構の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置するようにしてもよい。このアンテナ内蔵式電子時計によれば、日付表示機構の一部又は全部がパッチアンテナの凹みの内側に位置するから、時計の厚みを抑制しつつ、日付を表示することができる。また、貫通孔がパッチアンテナの周縁部ではなく中央部に形成されるから、パッチアンテナに貫通孔を形成することによる受信性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアンテナ内蔵式電子時計100(電子時計100)を含むGPSシステムの全体図である。
【図2】電子時計100の平面図である。
【図3】電子時計100の一部断面図である。
【図4】電子時計100の一部の形状例を示す平面図である。
【図5】電子時計100の一部の分解斜視図である。
【図6】電子時計100の一部の構造を示す平面図である。
【図7】アンテナ厚みとアンテナゲインとの関係を示す図である。
【図8】パッチアンテナの動作原理を説明するための図である。
【図9】電子時計100の回路構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るアンテナ内蔵式電子時計200(電子時計200)の一部断面図である。
【図11】本発明の変形例に係るアンテナ内蔵式電子時計300(電子時計300)の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の好適な実施の形態を、添付図面等を参照しながら詳細に説明する。ただし、各図において、各部の寸法および縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアンテナ内蔵式電子時計100(以下「電子時計100」という)を含むGPSシステムの全体図である。電子時計100は、GPS衛星90からの電波(無線信号)を受信して内部時刻を修正する腕時計であり、腕に接触する面(以下、「裏面」という)の反対側の面(以下「表面」という)に時刻を表示する。なお、以降の説明では、電子時計100の「表」及び「裏」を「上」及び「下」ともいう。
【0016】
GPS衛星90は、地球の上空の所定の軌道上を周回する位置情報衛星であり、1.57542GHzの電波(L1波)に航法メッセージを重畳させて地上に送信している。以降の説明では、航法メッセージが重畳された1.57542GHzの電波を「衛星信号」という。衛星信号は、右旋偏波の円偏波である。
【0017】
現在、約31個のGPS衛星90(図1においては、約31個のうち4個のみを図示)が存在しており、衛星信号がどのGPS衛星90から送信されたかを識別するために、各GPS衛星90はC/Aコード(Coarse/Acquisition Code)と呼ばれる1023chip(1ms周期)の固有のパターンを衛星信号に重畳する。C/Aコードは、各chipが+1又は−1のいずれかでありランダムパターンのように見える。したがって、衛星信号と各C/Aコードのパターンの相関をとることにより、衛星信号に重畳されているC/Aコードを検出することができる。
【0018】
GPS衛星90は原子時計を搭載しており、衛星信号には原子時計で計時された極めて正確な時刻情報(以下、「GPS時刻情報」という)が含まれている。また、地上のコントロールセグメントにより各GPS衛星90に搭載されている原子時計のわずかな時刻誤差が測定されており、衛星信号にはその時刻誤差を補正するための時刻補正パラメータも含まれている。電子時計100は、1つのGPS衛星90から送信された衛星信号を受信し、その中に含まれるGPS時刻情報と時刻補正パラメータを使用して内部時刻を正確な時刻に修正する。
【0019】
衛星信号にはGPS衛星90の軌道上の位置を示す軌道情報も含まれている。電子時計100は、GPS時刻情報と軌道情報を使用して測位計算を行うことができる。測位計算は、電子時計100の内部時刻にある程度の誤差が含まれていることを前提として行われる。すなわち、電子時計100の3次元の位置を特定するためのx,y,zパラメータに加えて時刻誤差も未知数になる。そのため、電子時計100は、一般的には4つ以上のGPS衛星からそれぞれ送信された衛星信号を受信し、その中に含まれるGPS時刻情報と軌道情報を使用して測位計算を行う。
【0020】
図2は電子時計100の平面図であり、図3は電子時計100の一部断面図であり、図4は電子時計の一部の形状例を示す平面図であり、図5は電子時計100の一部の分解斜視図であり、図6は電子時計100の一部の構造を示す平面図である。図2及び図3に示すように、電子時計100は、一部が金属で形成された略円筒状のケース80を備える。
【0021】
ケース80は、表面側に位置する略円筒状のベゼル81と、裏面側に位置する略円筒状の本体82とを有する。本体82はステンレス鋼(SUS)やチタン等の金属で形成されている。ベゼル81は、セラミックやプラスチックなどの非導電部材で形成されており、その内周に沿って、プラスチックで形成された環状のダイヤルリング83が取り付けられている。
【0022】
図3に示すように、ケース80の二つの開口のうち、表面側の開口には表面ガラス84が取り付けられ、裏面側の開口には裏蓋85が取り付けられている。裏蓋85は、金属で形成されたリング状の部分の開口に裏面ガラスを取り付けた構造を有する。なお、裏蓋85が裏面ガラスを有するのは後述の非接触充電を行うためである。
【0023】
また電子時計100は、ケース80の内部に、リチウムイオン電池などの二次電池27と、二次電池27および押さえ板95の下側に配置された充電コイル28とを備える。二次電池27は、外部のコイル(充電器)から裏蓋85の裏面ガラスを介して充電コイル28に送られた電力で充電される。すなわち、非接触充電が行われる。
【0024】
また電子時計100は、ケース80の内部に、非導電性の文字板11と、文字板11を貫通した指針軸12と、指針軸12を中心に周回して予め定められた第1地域の現在時刻を指し示す複数の指針13(秒針13a、分針13b及び時針13c)と、指針軸12を回転させて複数の指針13を駆動する駆動機構30とを備える。
【0025】
駆動機構30は、モーターコイル31などからなるステップモーターと歯車などの輪列とを有し、当該ステップモーターが当該輪列を介して指針13を回転させることにより、複数の指針13を駆動する。具体的には、時針13cは12時間、分針13bは60分、秒針13aは60秒で一周する。以降の説明では、指針が周回する面(指針の可動範囲)を当該指針の「周回面」という。
【0026】
文字板11は、プラスチック(例えばポリカーボーネート)などの非導電性の材料で形成され、その周縁は、上から見るとダイヤルリング83の陰に隠れている。また、指針軸12は上下方向に延在しており、分針13bは秒針13aの下側かつ時針13cの上側に位置し、上下方向において、時針13cの周回面は分針13bの周回面に覆われ、分針13bの周回面は秒針13aの周回面に覆われる。
【0027】
図2及び図3に示すように、電子時計100は、ケース80の内部に、上下方向に延在して文字板11を貫通した複数の指針軸14(14a、14b及び14c)と、指針軸14aを中心に周回する小針(指針)15aと、指針軸14bを中心に周回する小針(指針)15bと、指針軸14cを中心に周回する複数の小針(指針)15cと、複数の指針軸14に対応する複数の駆動機構40とを備える。なお、図3では、複数の駆動機構40のうち、指針軸14cに対応する駆動機構40のみが示されている。
【0028】
小針15a、15b、15c1及び15c2は、時針13cの下側に配置されており、その周回面は、いずれも、上下方向において時針13cの周回面と重なる。駆動機構40は、モーターコイル41などからなるステップモーターと歯車などの輪列とを有し、対応する指針軸14を当該ステップモーターが当該輪列を介して回転させることにより、当該指針軸14を中心に周回する小針を駆動する。
【0029】
小針15aは、日付を指し示すカレンダー針であり、一ヶ月(例えば31日)で一周する。すなわち、電子時計100はカレンダー表示機能を備える。小針15bは、衛星信号の受信中には受信レベルを指し示し、衛星信号の非受信中には電池容量を指し示すレベル針である。すなわち、電子時計100は受信レベル表示機能および電池容量表示機能を備える。複数の小針15cは、予め定められた第2地域の現在時刻を指し示すデュアルタイム針であり、24時間で一周する短針15c2と60分で一周する長針15c1とを含む。すなわち、電子時計100はデュアルタイム表示機能を備える。
【0030】
図3及び図5に示すように、電子時計100は、ケース80の内部に、指針軸12の横断面に沿って延在する略円形のパッチアンテナ10を備える。パッチアンテナ10は、円偏波を受信可能なマイクロストリップアンテナであり、アンテナ基板21と、アンテナ基板21上に配置された誘電体22と、誘電体22上に配置された放射電極(アンテナ電極)23とを有する。
【0031】
アンテナ基板21は、厚みが約0.1mmの金属板(好ましくはステンレス鋼板)であり、指針軸12の横断面に沿って延在し、パッチアンテナ10のグランド電極として機能する。延在方向におけるアンテナ基板21のサイズは、後述の地板38と略同じである。なお、金属板ではなく、基板に金属材料(銀ペースト)を印刷したものをアンテナ基板21として採用してもよい。
【0032】
誘電体22は、波長短縮効果によってパッチアンテナを小型化するための部材であり、指針軸12の横断面に沿って延在する。パッチアンテナは、その外形形状が方形の場合には一辺を半波長とし、円形の場合には直径を約0.58波長とすることで共振するが、誘電体を用いると、波長短縮効果により、より小型でも共振するのである。電子時計100は腕時計であるから、誘電体22としては、比誘電率が10程度の誘電体(例えばセラミック)が好適である。そのような誘電体の入手は容易である。
【0033】
放射電極23は、誘電体22の上面に沿って延在する略円形の金属膜であり、例えば、誘電体22上への金属材料の印刷(例えば銀印刷)で形成される。放射電極23の具体的な形状例としては、図4(A)又は図4(B)に例示するものが挙げられる。これらの図に示すように、1点給電でパッチアンテナを円偏波とするためには、放射電極が二つの縮退分離部を持つようにすればよい。これにより、パッチアンテナは共振周波数を二つ持つことになる。そして、両者の電流位相差が90度となるような1箇所を選んで給電すれば、円偏波が得られる。
【0034】
パッチアンテナ10は、文字板11と駆動機構30及び複数の駆動機構40の各々との間に配置され、下側に凹み10aを有する。すなわち、誘電体22は、パッチアンテナ10が凹み10aを有するように成形されている。具体的には、放射電極23は平板状に形成されており、その下側の誘電体22の上面は放射電極23に沿って平坦であり、誘電体22の下面は中央部が凹んでおり、アンテナ基板21は誘電体22の下面に沿って延在している。パッチアンテナ10において、凹み10aにより薄くなっている中央部の厚みをT2とし、凹み10aにより薄くなっていない周縁部の厚みをT1としたとき、T2<T1である。
【0035】
図6に示すように、上下方向から見ると、凹み10aの内側には、駆動機構30に含まれるモーターコイル31及び輪列と、カレンダー表示用の駆動機構40(指針軸14aに対応する駆動機構40)に含まれるモーターコイル41及び輪列と、デュアルタイム表示用の駆動機構40(指針軸14cに対応する駆動機構40)に含まれるモーターコイル41及び輪列と、受信レベル及び電池容量の表示用の駆動機構40(指針軸14bに対応する駆動機構40)に含まれる輪列とが位置する。
【0036】
これらのモーターコイル及び輪列の各々の上部は、図3に示すように、凹み10aの内側に位置する。つまり、これらのモーターコイル及び輪列は、いずれも、その一部が凹み10aに収まっている。電子時計100が備えるモーターコイル及び輪列のうち、凹み10aに収まっていないもの(全部が凹み10aの外側に位置するもの)は、受信レベル及び電池容量の表示用の駆動機構40(指針軸14bに対応する駆動機構40)に含まれるモーターコイル41のみである。
【0037】
文字板11は、パッチアンテナ10の上面に沿って延在する1枚の平板である。指針軸12と複数の指針軸14との各々は、文字板11の中央部とパッチアンテナ10の中央部とを貫通している。
【0038】
また電子時計100は、図3及び図5に示すように、ケース80の内部に、地板38と、導通ピン24と、回路基板25と、回路基板25に実装されたフラッシュメモリ66、GPS受信部(無線受信部)26及び制御部70とを備える。地板38には、指針軸12を回転させる駆動機構30と複数の指針軸14を回転させる複数の駆動機構40とが取り付けられ、指針軸12と複数の指針軸14との各々は、地板38の上面から突出してパッチアンテナ10及び文字板11を貫通する。
【0039】
導通ピン24は、地板38と誘電体22とアンテナ基板21とを貫通して放射電極23と回路基板25とに接し、放射電極23とGPS受信部26とを電気的に接続する。GPS受信部26は、パッチアンテナ10を用いて無線信号を受信する。なお、導通ピン24によって放射電極23とアンテナ基板21とが短絡することはない。
【0040】
パッチアンテナ10と回路基板25との間の部品のうち、上下方向の長さ(厚み)が最も長い部品は駆動機構30と複数の駆動機構40である。駆動機構30に含まれる部品のうち上下方向の長さ(厚み)が長い部品としては、モーターコイル31と輪列とが挙げられる。駆動機構40に含まれる部品のうち上下方向の長さ(厚み)が長い部品としては、モーターコイル41と輪列とが挙げられる。したがって、モーターコイルや輪列の一部又は全部を凹み10aに収めることは、時計の薄型化に寄与する。
【0041】
電子時計100は、図2に示す竜頭16やボタン17、18及び19を手動操作することにより、少なくとも1つのGPS衛星90からの衛星信号を受信して内部時刻情報の修正を行うモード(時刻情報取得モード)と複数のGPS衛星90からの衛星信号を受信して測位計算を行い内部時刻情報の時差を修正するモード(位置情報取得モード)に設定できるように構成されている。また、電子時計100は、時刻情報取得モードや位置情報取得モードを定期的に(自動的に)実行することもできる。
【0042】
図7は、パッチアンテナにおけるアンテナ厚みとアンテナゲイン(特性)との関係を示す図であり、破線は平坦なパッチアンテナ(以降、「通常形状のパッチアンテナ」という)における上記関係を示し、実線は中央が凹んでいるパッチアンテナ(以降、「凹形状のパッチアンテナ」という)における上記関係を示す。いずれのパッチアンテナも円形であり、アンテナ直径は35mmである。アンテナ厚みは、パッチアンテナの最も薄い部分の厚みであり、通常形状のパッチアンテナでは周縁部の厚みと一致する。また、凹形状のパッチアンテナにおいて、凹み(中央部)の直径は20mm程度、周縁部の厚みは4mm程度に固定されている。
【0043】
図7に示すように、アンテナ厚みを4mm程度から薄くすると、アンテナゲインは、通常形状のパッチアンテナでは急に低下し、凹形状のパッチアンテナでは緩やかに低下する。すなわち、アンテナ厚みを薄くすることによる特性劣化は、通常形状のパッチアンテナでは大きく、凹形状のパッチアンテナでは小さい。例えば、2dB以上のアンテナゲインが必要な場合、通常形状のパッチアンテナでは3mm程度のアンテナ厚みを確保せねばならないのに対して、凹形状のパッチアンテナでは1mm程度のアンテナ厚みで足りる。
【0044】
図8は、パッチアンテナの動作原理を説明するための図であり、図中の矢印は電気力線である。この図に示すように、パッチアンテナを送信アンテナとして使用すると、放射電極の周縁に沿った強い電界(電磁波)が、周縁から空間へ向かって放射される。したがって、通常形状のパッチアンテナにおいてアンテナ厚みを薄くすると、パッチアンテナの周縁部において放射電極とグランド電極とが近くなり、周縁から電磁波が放射され難くなるため、アンテナ特性が劣化する。このような特性劣化は、パッチアンテナを受信アンテナとして使用した場合にも同様に発生する。
【0045】
これに対して、凹形状のパッチアンテナでは、周縁部における放射電極とグランド電極との距離を一定に保ちつつアンテナ厚みを薄くすることができるから、上記の特性劣化を抑制することができる。これが、アンテナ厚みを薄くしたときの特性劣化が、通常形状のパッチアンテナでは大きく、凹形状のパッチアンテナでは小さい理由である。
【0046】
また、放射電極における電圧分布は図中の一点鎖線で示す通りであり、電気力線の向きは、左右で逆向きとなる。したがって、放射電極とグランド電極との間のインピーダンスは、周縁部では高くなり、中央部では低くなる。このことから、中央部に指針軸が貫通する貫通孔を設けてもアンテナ特性はさほど劣化しないことが分かる。
【0047】
以上より、本実施形態では、凹形状のパッチアンテナを採用し、指針軸がパッチアンテナの薄い中央部を貫通し、指針軸を回転させる駆動機構の一部をパッチアンテナの凹みの内側に配置することにより、受信性能を維持しつつ時計の厚みを薄くしている。具体的には、パッチアンテナ10として、中央部の厚みが1mm程度の凹形状のパッチアンテナを採用し、指針軸12及び複数の第2指針軸14がパッチアンテナ10の中央部を貫通し、指針軸12を回転させる駆動機構30と指針軸14を回転させる駆動機構40との一部を凹み10aの内側に配置してある。したがって、時計の厚みは、パッチアンテナを備えない場合よりも中央部の厚みの分だけ厚くなるだけであり、時計のデザインに与える影響を十分に小さく抑制することができる。
【0048】
前述したように、パッチアンテナは、その周縁から電波を放射(受信)する。したがって、全部が金属で形成された金属ケースを採用する場合には、所望のアンテナ特性を確保するために、アンテナ側面と金属ケースとを十分に離間させる必要がある。例えば、パッチアンテナの周縁部の厚みが4mmの場合、アンテナ側面と金属ケースとの距離を2〜3mm以上とするのが望ましい。しかし、アンテナ側面と金属ケースとを十分に離間させると、時計が大型化してしまう。
【0049】
そこで、本実施形態では、本体82のみが金属で形成されたケース80を採用し、本体82が放射電極23の下側に位置するようにケース80とパッチアンテナ10とを配置している。これにより、十分に高いアンテナ特性を確保しつつ放射電極23の周縁とケース80との距離を短くすることができる。
【0050】
一方、パッチアンテナの性能は、グランド電極が大きいほど高くなる。しかし、腕時計のサイズには制約があり、グランド電極を無制限に大きくすることはできない。そこで、本実施形態では、ケース導通板39を介してアンテナ基板21と本体82とを電気的に接続している。これにより、グランド電極を大きくしたのと同様の効果(パッチアンテナ10の性能向上)を得ることができる。なお、アンテナ性能を向上させる観点では、ケース導通板39と本体82とを1箇所で接続するよりも複数個所で接続する方が好ましい。
【0051】
図9は、電子時計100の回路構成を示すブロック図である。
電子時計100は、GPS受信部26及び制御表示部36を含んで構成されている。GPS受信部26は、衛星信号の受信、GPS衛星90の捕捉、位置情報の生成、時刻修正情報の生成等の処理を行う。制御表示部36は、内部時刻情報の保持及び内部時刻情報の修正等の処理を行う。
【0052】
充電コイル28は、充電制御回路29を通じて二次電池27に電力を充電する。電子時計100はレギュレータ34及び35を備え、二次電池27は、レギュレータ34を介して制御表示部36に、レギュレータ35を介してGPS受信部26に駆動電力を供給する。また電子時計100は、二次電池27の電圧を検出する電圧検出回路37を備える。
【0053】
なお、レギュレータ35に代えて、例えば、RF部50(詳細は後述)に駆動電力を供給するレギュレータ35−1と、ベースバンド部60(詳細は後述)に駆動電力を供給するレギュレータ35−2(ともに図示せず)とに分けて設けてもよい。レギュレータ35−1は、RF部50の内部に設けてもよい。
【0054】
GPS受信部26は、パッチアンテナ10及びSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)フィルタ32を含む。パッチアンテナ10は、図3で説明したように、複数のGPS衛星90からの衛星信号を受信するアンテナである。ただし、パッチアンテナ10は衛星信号以外の不要な電波も若干受信してしまうため、SAWフィルタ32は、パッチアンテナ10が受信した信号から衛星信号を抽出する処理を行う。すなわち、SAWフィルタ32は、1.5GHz帯の信号を通過させるバンドパスフィルタとして構成される。
【0055】
また、GPS受信部26は、RF(Radio Frequency:無線周波数)部50とベースバンド部60を含んで構成されている。以下に説明するように、GPS受信部26は、SAWフィルタ32が抽出した1.5GHz帯の衛星信号から航法メッセージに含まれる軌道情報やGPS時刻情報等の衛星情報を取得する処理を行う。
【0056】
RF部50は、LNA(Low Noise Amplifier)51、ミキサ52、VCO(Voltage Controlled Oscillator)53、PLL(Phase Locked Loop)回路54、IFアンプ55、IF(Intermediate Frequency:中間周波数)フィルタ56、ADC(A/D変換器)57等を含んで構成されている。
【0057】
SAWフィルタ32が抽出した衛星信号は、LNA51で増幅される。LNA51で増幅された衛星信号は、ミキサ52でVCO53が出力するクロック信号とミキシングされて中間周波数帯の信号にダウンコンバートされる。PLL回路54は、VCO53の出力クロック信号を分周したクロック信号と基準クロック信号を位相比較してVCO53の出力クロック信号を基準クロック信号に同期させる。その結果、VCO53は基準クロック信号の周波数精度の安定したクロック信号を出力することができる。なお、中間周波数として、例えば、数MHzを選択することができる。
【0058】
ミキサ52でミキシングされた信号は、IFアンプ55で増幅される。ここで、ミキサ52でのミキシングにより、中間周波数帯の信号とともに数GHzの高周波信号も生成される。そのため、IFアンプ55は、中間周波数帯の信号とともに数GHzの高周波信号も増幅する。IFフィルタ56は、中間周波数帯の信号を通過させるとともに、この数GHzの高周波信号を除去する(正確には、所定のレベル以下に減衰させる)。IFフィルタ56を通過した中間周波数帯の信号はADC(A/D変換器)57でデジタル信号に変換される。
【0059】
ベースバンド部60は、DSP(Digital Signal Processor)61、CPU(Central Processing Unit)62、SRAM(Static Random Access Memory)63、RTC(リアルタイムクロック)64を含んで構成されている。また、ベースバンド部60には、温度補償回路付き水晶発振回路(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)65やフラッシュメモリ66等が接続されている。
【0060】
温度補償回路付き水晶発振回路(TCXO)65は、温度に関係なくほぼ一定の周波数の基準クロック信号を生成する。フラッシュメモリ66には、例えば時差情報が記憶されている。時差情報は、時差データ(座標値(例えば、緯度及び経度)に関連づけられたUTCに対する補正量等)が定義された情報である。
【0061】
ベースバンド部60は、時刻情報取得モード又は位置情報取得モードに設定されると、RF部50のADC57が変換したデジタル信号(中間周波数帯の信号)からベースバンド信号を復調する処理を行う。
【0062】
また、ベースバンド部60は、時刻情報取得モード又は位置情報取得モードに設定されると、後述する衛星検索工程において、各C/Aコードと同一のパターンのローカルコードを発生し、ベースバンド信号に含まれる各C/Aコードとローカルコードの相関をとる処理を行う。そして、ベースバンド部60は、各ローカルコードに対する相関値がピークになるようにローカルコードの発生タイミングを調整し、相関値が閾値以上となる場合にはそのローカルコードのGPS衛星90に同期(すなわち、GPS衛星90を捕捉)したものと判断する。ここで、GPSシステムでは、すべてのGPS衛星90が異なるC/Aコードを用いて同一周波数の衛星信号を送信するCDMA(Code Division Multiple Access)方式を採用している。したがって、受信した衛星信号に含まれるC/Aコードを判別することで、捕捉可能なGPS衛星90を検索することができる。
【0063】
また、ベースバンド部60は、時刻情報取得モード又は位置情報取得モードにおいて、捕捉したGPS衛星90の衛星情報を取得するために、当該GPS衛星90のC/Aコードと同一のパターンのローカルコードとベースバンド信号をミキシングする処理を行う。ミキシングされた信号には、捕捉したGPS衛星90の衛星情報を含む航法メッセージが復調される。そして、ベースバンド部60は、航法メッセージの各サブフレームのTLMワード(プリアンブルデータ)を検出し、各サブフレームに含まれる軌道情報やGPS時刻情報等の衛星情報を取得する(例えばSRAM63に記憶する)処理を行う。ここで、GPS時刻情報は、週番号データ(WN)及びZカウントデータであるが、以前に週番号データが取得されている場合にはZカウントデータのみであってもよい。
【0064】
そして、ベースバンド部60は、衛星情報に基づいて、内部時刻情報を修正するために必要な時刻修正情報を生成する。
【0065】
時刻情報取得モードの場合、より具体的には、ベースバンド部60は、GPS時刻情報に基づいて測時計算を行い、時刻修正情報を生成する。時刻情報取得モードにおける時刻修正情報は、例えば、GPS時刻情報そのものであってもよいし、GPS時刻情報と内部時刻情報との時間差の情報であってもよい。
【0066】
一方、位置情報取得モードの場合、より具体的には、ベースバンド部60は、GPS時刻情報や軌道情報に基づいて測位計算を行い、位置情報(より具体的には、受信時に電子時計100が位置する場所の緯度及び経度)を取得する。さらに、ベースバンド部60は、フラッシュメモリ66に記憶されている時差情報を参照し、位置情報により特定される電子時計100の座標値(例えば、緯度及び経度)に関連づけられた時差データを取得する。このようにして、ベースバンド部60は、時刻修正情報として衛星時刻データ(GPS時刻情報)及び時差データを生成する。位置情報取得モードにおける時刻修正情報は、上記の通り、GPS時刻情報と時差データそのものであってもよいが、例えば、GPS時刻情報の代わりに内部時刻情報とGPS時刻情報の時間差のデータであってもよい。
【0067】
なお、ベースバンド部60は、1つのGPS衛星90の衛星情報から時刻修正情報を生成してもよいし、複数のGPS衛星90の衛星情報から時刻修正情報を生成してもよい。
【0068】
また、ベースバンド部60の動作は、温度補償回路付き水晶発振回路(TCXO)65が出力する基準クロック信号に同期する。RTC64は、衛星信号を処理するためのタイミングを生成するものである。このRTC64は、TCXO65から出力される基準クロック信号でカウントアップされる。
【0069】
制御表示部36は、制御部70、駆動回路74及び水晶振動子73を含んで構成されている。
【0070】
制御部70は、記憶部71、RTC(Real Time Clock)72を備え、各種制御を行う。制御部70は、例えばCPUで構成することが可能である。
【0071】
制御部70は、制御信号をGPS受信部26に送り、GPS受信部26の受信動作を制御する。また制御部70は、電圧検出回路37の検出結果に基づいて、レギュレータ34及びレギュレータ35の動作を制御する。また制御部70は、駆動回路74を介してすべての指針の駆動を制御する。
【0072】
記憶部71には内部時刻情報が記憶されている。内部時刻情報は、電子時計100の内部で計時される時刻の情報であり、水晶振動子73及びRTC72によって生成される基準クロック信号によって更新される。したがって、GPS受信部26への電力供給が停止されていても、内部時刻情報を更新して指針の運針を継続することができるようになっている。
【0073】
制御部70は、時刻情報取得モードに設定されると、GPS受信部26の動作を制御し、GPS時刻情報に基づいて内部時刻情報を修正して記憶部71に記憶する。より具体的には、内部時刻情報は、取得したGPS時刻情報にUTCオフセットを加算することで求められるUTC(協定世界時)に修正される。また、制御部70は、位置情報取得モードに設定されると、GPS受信部26の動作を制御し、衛星時刻データ(GPS時刻情報)及び時差データに基づいて、内部時刻情報を修正して記憶部71に記憶する。
【0074】
以上説明したように、電子時計100は、指針軸12と、指針13と、指針軸12を回転させて指針13を駆動する駆動機構30と、複数の指針軸14を回転させて小針15を駆動する複数の駆動機構40と、指針13と駆動機構30及び複数の駆動機構40の各々との間に配置された非導電性の文字板11と、文字板11と駆動機構30及び複数の駆動機構40の各々との間に配置され、アンテナ基板21とアンテナ基板21上の誘電体22と誘電体22上の放射電極23とを有するパッチアンテナ10と、パッチアンテナ10を用いて衛星信号を受信するGPS受信部26とを備え、パッチアンテナ10は、下側に凹み10aを有し、凹み10aにより薄くなっている中央部よりも凹み10aにより薄くなっていない周縁部が厚く、指針軸12は文字板11及びパッチアンテナ10の中央部を貫通し、駆動機構30と複数の駆動機構40との一部は凹み10aの内側に位置する。
【0075】
電子時計100でも、指針軸12がパッチアンテナ10を貫通するから、パッチアンテナ10の分だけ厚くなる。しかし、電子時計100では、パッチアンテナ10は下側が凹んで中央部が周縁部よりも薄く、薄い中央部を指針軸12が貫通し、駆動機構30と複数の駆動機構40との一部がパッチアンテナの凹み10aの内側に位置する。より詳しくは、駆動機構30に含まれるモーターコイル31及び輪列と、二つの駆動機構40に含まれるモーターコイル31と、すべての駆動機構40に含まれる輪列との一部が凹み10aの内側に位置する。
【0076】
したがって、パッチアンテナ10の装備による時計の厚みの増分を、パッチアンテナ10の周縁部の厚み(T1)よりも薄くすることができる。すなわち、アンテナ全体を薄くすることなく、時計を薄くすることができる。また、パッチアンテナの感度は主に周縁部の厚みに依存するから、周縁部が十分に厚ければ、中央部が薄くても十分に高い感度が得られる。よって、電子時計100によれば、時計の薄型化と感度の低下の抑制との両立が可能である。すなわち、電子時計100は、指針軸12と複数の指針軸14とがパッチアンテナ10を貫通する構造でありながら、高い受信性能を確保可能であり、十分に薄型となる。
【0077】
また、電子時計100は、一部(本体82)が金属で形成されたケース80を備え、本体82は、放射電極23の下側に位置し、アンテナ基板21と電気的に接続されている。つまり、ケース80の金属部分が放射電極23の下側に位置するから、十分に高いアンテナ特性を確保しつつ放射電極23の周縁とケース80との距離を短くすることができる。また、アンテナ基板21と本体82とが電気的に接続されているから、グランド電極を大きくしたのと同様の効果(パッチアンテナの性能向上)を得ることができる。
【0078】
また、電子時計100は、導通ピン24を備える。導通ピン24は、パッチアンテナ10の周縁部ではなく中央部で誘電体22とアンテナ基板21とを貫通し、放射電極23とGPS受信部26とを電気的に接続している。したがって、誘電体22とアンテナ基板21とに導通ピン24用の孔を形成することによる受信性能の低下を抑制することができる。なお、本実施形態では、GPS受信部26が回路基板25の下側に設けられているが、回路基板25の上側に設けることも可能であり、この場合には、導通ピン24が周縁部ではなく中央部を貫通することにより、GPS受信部26を凹み10aの内側に配置することが容易となる。
【0079】
[第2実施形態]
図10は、本発明の第2実施形態に係るアンテナ内蔵式電子時計200(以下「電子時計200」という)の一部断面図である。電子時計200は電子時計100と同様の効果を奏するアンテナ内蔵式電子時計であり、小針を備えない点と、非接触充電のための構成に代えてソーラー充電のための構成を備える点で電子時計100と相違する。すなわち、電子時計200は、充電コイル28に代えて、光エネルギーを電力に変換する複数のソーラーセル(光発電素子)を直列接続したソーラーパネル87を備え、ソーラーパネル87で発電した電力で二次電池27を充電する。
【0080】
ソーラーパネル87は、誘電体22と放射電極89との間に配置された平板であり、パッチアンテナ20を構成している。つまり、電子時計200は、パッチアンテナ10に代えてパッチアンテナ20を備え、パッチアンテナ20は、アンテナ基板21及び放射電極23に代えてアンテナ基板88及び放射電極89を備えるとともにソーラーパネル87を備える。パッチアンテナ10が下側に凹み10aを有するように、パッチアンテナ20は下側に凹み20aを有する。
【0081】
また、ソーラーパネル87と回路基板25とはプラスとマイナスの2本の導通バネ91で接続されている。なお、ソーラーパネル87は、文字板11の裏側に一体的に形成されてもよい。
【0082】
放射電極89は、ソーラーパネル87へ光を通すために、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極で形成され、例えばスパッタやインクジェットなどの方法で成形される。したがって、電子時計200では、放射電極89を介してソーラーパネル87へ光が入射し、これによって光発電が可能となる。
【0083】
ところで、ソーラーパネル87を放射電極89上に配置すれば、放射電極89を透明電極で形成する必要はない。しかし、このように配置すると、放射電極89への衛星信号はソーラーパネル87で減衰する。この減衰を十分に抑制するためには、衛星信号の周波数に比較してソーラーパネル87の透明電極を十分に薄くする必要がある。しかし、衛星信号の周波数は1.5GHz程度であり、電波時計で用いられる長波の周波数よりも遥かに高いから、ソーラーパネル87の透明電極を十分に薄くすることは困難である。このため、本実施形態では、放射電極89をソーラーパネル87上に配置している。すなわち、電子時計200によれば、GPS衛星90からの衛星信号の受信性能を低下させずに光発電を行うことができる。
【0084】
また電子時計200は、ケース80に代えてケース99を備える。ケース99は、ベゼル81に代えてベゼル98を備える点でケース80と相違する。ベゼル98は、プラスチックなどの非導電性の材料で形成された円筒状のベゼル本体96の外側に金属で形成された金属カバー97を被せた構造を有する。したがって、ベゼル98とパッチアンテナ20とを近づけても、パッチアンテナ20と金属カバー97との間には十分に長い距離が確保される。よって、電子時計200によれば、受信性能を維持しつつ美観を向上させることができる。
【0085】
アンテナ基板88は、その周縁がケース99の本体82に接している点でアンテナ基板21と相違する。したがって、電子時計200はケース導通板39を備えない。電子時計200では、ケース導通板39を介さずにアンテナ基板88と本体82とが電気的に接続されるから、両者の電気的接続がより強化される。前述したように、パッチアンテナの性能はグランド電極が大きいほど高くなるから、アンテナ基板88と本体82との電気的接続の強化は、パッチアンテナ20の性能向上に寄与する。
【0086】
また電子時計200は、一部が金属で形成された裏蓋85に代えて、全部が金属で形成された裏蓋86を備える。裏蓋86の採用が可能なのは、非接触充電を行わないからである。裏蓋86は、裏蓋85と同様に本体82と接しており、本体82を介してアンテナ基板88と電気的に接続されている。したがって、一部が金属で形成された裏蓋85に代えて全部が金属で形成された裏蓋86を備えることは、パッチアンテナ20の性能の更なる向上に寄与する。
【0087】
なお、電子時計200では、押さえ板95がアンテナ基板88に接している。したがって、押さえ板95として導電性の板材を採用し、押さえ板95と裏蓋86とに接する導電性の裏蓋導通板を設け、アンテナ基板88と裏蓋86とを電気的に接続するようにしてもよい。この場合、アンテナ基板88とケース99の本体82とを接触させずとも、アンテナ基板88と本体82及び裏蓋86との電気的な接続を確保することができる。また、ケース99の全部をプラスチックなどの非導電性の材料で形成してもアンテナ基板88と裏蓋86との電気的な接続を確保することができるという利点もある。
【0088】
ここで、凹み20aをパッチアンテナ20の上側に設けた形態を想定する。この形態では、パッチアンテナ20の上面に沿って文字板が延在し、文字板の凹みの内側で指針13の一部又は全部が周回するように構成することにより、時計の厚みを薄くすることができる。しかし、このように構成すると、誘電体の上面に段差が生じるから、ソーラーパネルを1枚の平板で構成することが困難となる。
【0089】
これに対して、電子時計200では、上面が平坦な誘電体22上にソーラーパネルが配置される。したがって、1枚の平板であるソーラーパネル87を採用可能である。これは、製造コストの抑制に寄与する利点である。
【0090】
また、電子時計200は、小針を備えないから、小針を駆動する駆動機構も備えない。つまり、電子時計200が備えるモーターコイルは、指針13を駆動する駆動機構40に含まれるモーターコイル31のみである。したがって、電子時計200では、凹み20aに収まらないモーターコイルを0個とすることができる。これは、時計の更なる薄型化に寄与する。なお、2個のモーターが協働して指針軸12を回転させるように構成してもよく、その場合でも、モーターの数は十分に少ないから、凹み20aに収まらないモーターコイルを0個とすることができる。
【0091】
[変形例]
上述した各実施形態を以下に例示するように変形してもよい。なお、本発明の範囲には、上述した各実施形態はもちろん、以下に例示する変形例や、以下に例示する変形例および上述した実施形態を適宜に組み合わせて得られる各種の形態も含まれうる。
【0092】
例えば、時計の形状を略円形以外の形状としてもよい。
図11は、本発明の変形例に係るアンテナ内蔵式電子時計300(電子時計300)の平面図である。電子時計300は、外形形状が略円形ではなく略方形である点で電子時計200と異なる。電子時計300が備える文字板92は、外形形状が略方形の平板である。また、電子時計300が備えるパッチアンテナ93は、外形形状が略方形であり、下側の中央に略円形の凹みを有する。なお、略方形のパッチアンテナでは、正方形の放射電極から対角線の二箇所の角を切って縮退分離部としている。また、同様の変形は電子時計100に対しても可能である。
【0093】
また例えば、文字板およびパッチアンテナの中央部に日付を表示するための貫通孔を形成し、形成した貫通孔を通じて日付を表示する日付表示機構を備えるように電子時計200を変形してもよい。すなわち、上述した第1実施形態では図2に示すように指針軸14aが文字板11に印刷された日付を指し示してカレンダー表示が行われるが、これとは違い、1から31までの整数(日付)が印刷された円板状の日車をカレンダー表示用のモーター(図6においては指針軸14aを回転させるモーター)で回転させてカレンダー表示を行う。日車は、パッチアンテナの延在方向においてパッチアンテナの凹み(図6においては凹部14a)の内側に位置し、パッチアンテナの厚み方向においてパッチアンテナと駆動機構との間に位置する。
この場合にも、貫通孔がパッチアンテナの周縁部ではなく中央部に形成されるから、パッチアンテナに貫通孔を形成することによる受信性能の低下を抑制しつつ日付を表示することができる。なお、日付表示機構の一部又は全部がパッチアンテナの凹みの内側に位置するようにするのが好ましい。より詳しくは、日付表示機構に含まれる部品(例えば日車などの輪列やモーターコイル)の一部又は全部をパッチアンテナの凹みの内側に位置させる。こうすることにより、時計の厚みを抑制することができる。
【0094】
また例えば、駆動機構に含まれる輪列の全部がパッチアンテナの凹部の内側に位置するようにしてもよいし、駆動機構に含まれるモーターコイルの全部が当該凹部の内側に位置するようにしてもよいし、駆動機構の全部が当該凹部の内側に位置するようにしてもよい。また例えば、輪列を構成する複数の歯車のうち少なくとも一つの歯車の一部又は全部がパッチアンテナの凹部の内側に位置する一方、モーターコイルの全部が当該凹部の外側に位置するようにしてもよい。これと同様に、モーターコイルの一部又は全部がパッチアンテナの凹部の内側に位置する一方、輪列を構成する複数の歯車の各々の全部が当該凹部の外側に位置するようにしてもよい。
【0095】
また例えば、ベゼル81と本体82とを別体とし、ベゼル81として金属製のベゼルを採用してもよい。金属製のベゼルであっても、本体82と別体であれば、渦電流の影響が低減されるから、アンテナ性能の低下を抑制することができる。
【0096】
また例えば、非接触充電やソーラー充電以外の充電方式を採用してもよい。この場合、第2実施形態と同様に、全部が金属で形成された裏蓋を採用可能である。また、二次電池27に代えてリチウム電池などの一次電池を用いてもよい。
【符号の説明】
【0097】
100,200,300…アンテナ内蔵式電子時計、10,20,93…パッチアンテナ、10a,20a…凹み、11…文字板、12,14…指針軸、13(13a,13b,13c),15(15a,15b,15c(15c1,15c2))…指針、21,88…アンテナ基板、22…誘電体、23,89…放射電極、26…GPS受信部、30,40…駆動機構、80,99…ケース、81,98…ベゼル、82…本体、87…ソーラーパネル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延在する指針軸と、
前記指針軸を中心に周回する指針と、
前記指針の下側に配置され、前記指針軸を回転させて前記指針を駆動する駆動機構と、
前記指針と前記駆動機構との間に配置された非導電性の文字板と、
前記文字板と前記駆動機構との間に配置され、前記指針軸の横断面に沿って延在し、グランド電極と、前記グランド電極上の誘電体と、前記誘電体上の放射電極とを有するパッチアンテナと、
前記パッチアンテナを用いて無線信号を受信する無線受信部とを備え、
前記パッチアンテナは、下側に凹みを有し、前記凹みにより薄くなっている中央部よりも当該凹みにより薄くなっていない周縁部が厚く、
前記指針軸は、前記文字板および前記中央部を貫通しており、
前記駆動機構の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置する、
ことを特徴とするアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記指針軸を回転させる輪列を備え、
前記輪列の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記輪列を駆動するモーターを備え、
前記モーターのコイルの一部又は全部は、前記凹みの内側に位置する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項4】
前記誘電体と前記放射電極との間に光発電素子を備え、
前記放射電極は透明電極で形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項5】
一部が金属で形成されたケースを備え、
前記一部は前記放射電極の下側に位置し、
前記グランド電極と前記一部とは電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項6】
前記中央部で前記誘電体と前記グランド電極とを貫通した導通ピンを備え、
前記無線受信部は、前記パッチアンテナの下側に配置され、
前記導通ピンは、前記放射電極と前記無線受信部とを電気的に接続する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項7】
前記文字板および前記中央部には日付を表示するための貫通孔が形成され、
前記文字板および前記中央部の貫通孔を通じて日付を表示する日付表示機構を備え、
前記日付表示機構の一部又は全部は、前記凹みの内側に位置する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−93211(P2012−93211A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240570(P2010−240570)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】