説明

アンテナ装置、及び、通信装置

【課題】良好な通信特性と機械的強度との両立を実現可能しつつ、結合用電極の小型化に有利な構造を有するアンテナ装置を提供する。
【解決手段】 誘電体の一方の面にグランド2が形成された誘電体基板11と、誘電体基板11のグランド2が形成された面と対向した面に形成された配線25からなり、アンテナ装置と対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極18を備え、結合用電極18は、複数の折り返し部を有し、通信波長の略半分の長さの配線15からなり、配線15のうち、一方の端部に信号の入出力端である接続端子19が形成され、他方の端部がグランド2と電気的に接続される構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の通信波長により、対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行うアンテナ装置、及び、このアンテナ装置が組み込まれた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや小型携帯端末等の電子機器間で、音楽、画像等のデータを、ケーブルやメディアを介さずに無線伝送にて行うシステムが開発されている。このような無線伝送システムには、数cmの近距離で最大560Mbps程度の高速転送が可能なものがある。このような高速転送可能な伝送システムの中で、TransferJet(登録商標)は、通信距離が短いが盗聴される可能性が低く、伝送速度が速いという利点がある。
【0003】
TransferJet(登録商標)では、超近距離を隔てて対応する高周波結合器の電磁界結合によりなしえるもので、その信号品質が高周波結合器の性能に依存する。例えば、特許文献1に記載された高周波結合器は、図9に示すように、一方の面にグランド202を形成したプリント基板201と、プリント基板201のもう一方の面に形成したマイクロストリップ構造のスタブ203と、結合用電極208と、この結合用電極208とスタブ203を接続する金属線207とを備える。また、特許文献1に記載された高周波結合器では、プリント基板201上に、送受信回路205も形成している。また、特許文献1には、プリント基板201上に送受信回路205が形成されていない変形例として、図10に示すような、一方の面にグランド202を形成したプリント基板201と、プリント基板201のもう一方の面に形成したマイクロストリップ構造のスタブ203と、結合用電極208と、この結合用電極208とスタブ203を接続する金属線207とを備える構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−311816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図9のように、特許文献1に記載された高周波結合器では、良好な通信を行うため、板状の結合用電極208の面積を大きくする必要があった。これは通信波長に依存した一定の長さが必要であるためと、結合強度を強くするためには結合用電極208を大きくしなければならないからである。また、金属線207は結合用電極208とスタブ203を所定の位置で接続する必要があるため、作製時に位置合わせ精度が要求される等、プロセス上の問題も生じる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、良好な通信特性と機械的強度との両立を実現可能にしつつ、結合用電極の小型化に有利な構造を有するアンテナ装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このアンテナ装置が組み込まれた通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための手段として、本発明に係るアンテナ装置は、所定の通信波長により、対向する一対の電極間で電磁界結合することで情報通信を行うアンテナ装置であって、誘電体の一方の面にグランド層が形成された基板と、基板のグランド層が形成された面と対向した面に形成された配線からなり、当該アンテナ装置と対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極を備え、結合用電極は、複数の折り返し部を有し、通信波長の略半分の長さの配線からなり、配線のうち、一方の端部が信号の入出力端と接続され、他方の端部が基板に形成されたグランド層と電気的に接続される構造を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る通信装置は、所定の通信波長により、対向する位置に配置された他の通信装置の電極間での電磁界結合で情報通信を行う通信装置であって、誘電体の一方の面にグランド層が形成された基板と、基板のグランド層が形成された面と対向した面に形成された配線からなり、当該アンテナ装置と対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、グランド層と、配線の一方の端部と、それぞれ電気的に接続され、信号の送受信処理を行う送受信処理部とを備え、結合用電極は、複数の折り返し部を有し、通信波長の略半分の長さの配線からなり、配線のうち、送受信処理部と接続されていない端部が基板に形成されたグランド層と電気的に接続される構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、結合用電極が、グランド層が形成された面と対向した面に、複数の折り返し部を有するように形成された配線からなり、配線のうち、一方の端部が信号の入出力端と接続され、他方の端部がグランド層と電気的に接続されているので、良好な機械的強度と、アンテナ装置全体の小型化とを実現することができる。また、本発明は、配線の長さが通信波長の略半分の長さであり、一方の端部が信号の入出力端と接続され、他方の端部がグランド層と接続されているので、配線の中央部で信号レベルが高い状態となることで効率よく基板の厚さ方向に電界の縦波を放出することで、対向する位置に配置された他の結合用電極との間の結合強度が強くなり、良好な通信特性を実現することができる。
【0010】
以上のように、本発明は、良好な通信特性と機械的強度との両立を実現可能しつつ、装置全体の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されたアンテナ装置が組み込まれる通信システムの構成を示す図である。
【図2】本発明が適用されたアンテナ装置である第1の実施形態に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る高周波結合器において、高周波結合器間での通信状態を示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態に係る高周波結合器での中心断面での電界解析結果を示す電界分布図である。
【図5】第1の実施形態に係る高周波結合器の電極面上1mmでの電界解析結果を示す電界分布図である。
【図6】第1の実施形態に係る高周波結合器と基準結合器間の結合強度の解析結果を示す周波数特性図である。
【図7】本発明が適用されたアンテナ装置である変形例に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【図8】変形例に係る高周波結合器と基準結合器間の結合強度の解析結果を示す周波数特性図である。
【図9】従来例に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【図10】従来例に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0013】
<通信システム>
本発明が適用されたアンテナ装置は、対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行う装置であって、例えば図1に示すような、560Mbps程度の高速転送を可能とする通信システム100に組み込まれて使用されるものである。
【0014】
通信システム100は、2つのデータ通信を行う通信装置101、105から構成される。ここで、通信装置101は、結合用電極103を有する高周波結合器102と、送受信回路部104とを備える。また、通信装置105は、結合用電極107を有する高周波結合器106と、送受信回路部108とを備える。
【0015】
図1に示すように通信装置101、105のそれぞれが備える高周波結合器102、106を向かい合わせて配置すると、2つの結合用電極103、107が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパスフィルタのように動作することによって、2つの高周波結合器102、106の間で、例えば560Mbps程度の高速転送を実現するための4〜5GHz帯域の高周波信号を効率よく伝達することができる。
【0016】
ここで、高周波結合器102、106がそれぞれ持つ送受信用の結合用電極103、107は、例えば3cm程度離間して対向して配置され、電界結合が可能である。
【0017】
通信システム100において、例えば、高周波結合器102に接続された送受信回路部104は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいて高周波送信信号を生成し、結合用電極103から結合用電極107へ信号を伝搬する。そして、受信側の高周波結合器106に接続された送受信回路部108は、受信した高周波信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
【0018】
なお、本発明が適用されるアンテナ装置は、上述した4〜5GHz帯域の高周波信号を伝達するものに限定されず、他の周波数帯の信号伝達にも適用可能であるが、以下の具体例では、4〜5GHz帯域の高周波信号を伝達対象として説明する。
【0019】
<高周波結合器>
このような通信システム100に組み込まれるアンテナ装置として、図2に示すような高周波結合器1について説明する。
【0020】
図2では、配線15の接続状態をわかりやすくするために誘電体基板11を透過させて示している。
【0021】
図2に示すように、高周波結合器1は、誘電体基板11の一方の面11aに結合用電極18として機能する配線15と、面11aと対向した他方の面11bにグランド12が形成された構造となっている。
【0022】
また、結合用電極18は、その配線15の一端が、上述した送受信回路部104との接続部となる接続端子部19となり、配線15の他端が接続用スルーホール14を介してグランド12と接続される。結合用電極18は、複数の折り返し部を有する形状、いわゆる九十九折り形状又はミアンダ形状の配線15で形成されており、配線15の配線長が通信波長の略半分の長さに調整されている。
【0023】
このような構成からなる結合用電極18では、下記の評価から明らかなように、接続端子部19から通信波長の1/4離れた位置、すなわち、配線15の中央部15aで、信号レベルが高い状態となり、この部分の電荷と、グランド12を介して反対側の鏡像電荷とが電気双極子として機能する。したがって、結合用電極18では、効率よく基板の厚さ方向に電界の縦波を放出することができ、結果として、対向する位置に配置された他の結合用電極との間の結合強度が強くなり、良好な通信特性を実現することができる。
【0024】
このような構成からなる高周波結合器1は、次のような製造工程によって製造される。まず、誘電体基板11の両面に、導電部材として、例えば銅箔を貼り付けた両面銅箔基板のうち、一方の面11bをグランド12として用い、他方の面11aの銅箔の一部をエッチング処理により取り除き、ミアンダ形状の配線15から構成される結合用電極18を形成する。
【0025】
続いて、配線15の一端にドリルあるいはレーザー加工によりホールを形成し、そのホールをメッキ処理、あるいは導電性ペースト等の導電性材料を充填することで接続用スルーホール14を完成させる。この工程により、誘電体基板11の面11aに形成された結合用電極18を構成する配線15と、誘電体基板11の他方の面11bのグランド12が電気的に接続される。さらに、結合用電極18を構成する配線15のうち、グランド12と接続されていないもう一方の端は接続端子部19となり、上述した送受信回路部104との接続手段に適合する形状に加工することによって、高周波結合器1を完成させる。
【0026】
上記の製造工程により、高周波結合器1は、一枚の両面銅箔基板を処理することで作製可能であり、一方の面11bの全面がグランド12となっているため、配線15とグランド12とを接続する際に、両面のパターンの位置合わせをする必要がなく、配線15の一端に接して接続用スルーホール14を設けることで容易に接続でき、簡易なプロセスにて作製することができる。
【0027】
このように、高周波結合器1は、結合用電極18が、グランド12が形成された面11bと対向した面11aに、ミアンダ形状となるように形成された配線15からなり、配線15のうち、一方の端部が信号の入出力端である接続端子部19を介して送受信回路部104と接続され、他方の端部がグランド12と電気的に接続されているので、良好な機械的強度と、高周波結合器全体の小型化とを実現することができる。
【0028】
このように、機械的強度が強いのは、例えば図9に示すような従来例に係る高周波結合器と比べて、外力によって変形する虞がある金属線207を用いることなく誘電体基板11上に結合用電極18が実装されているからである。また、高周波結合器全体の小型化が図れるのは、必ずしも電極の面積を大きくしなくても、配線15の長さを調整することで結合強度を強くすることができるからである。
【0029】
また、高周波結合器1では、誘電体基板11の材料として、ガラス、紙の基材、あるいはグラスファイバの織布をエポキシ樹脂、フェノール樹脂等で固めた、例えばガラスエポキシ、ガラスコンポジット基板や、低誘電率のポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等や、更にそれらを多孔質化した材料を用いることができる。特に、誘電体基板11は、電気的特性の面からは低誘電率の材料を用いるのが好ましい。
【0030】
また、上述した製造工程において、高周波結合器1では、銅箔を貼り付けた両面基板を用いてエッチング処理により結合用電極18として配線15を形成したが、誘電体基板11の面11a、11bにメッキ、真空蒸着法等により、マスキングした状態で直接形成する、あるいは形成後にエッチングするなどのパターニング処理を施して形成するようにしてもよい。
【0031】
また、結合用電極18の配線15、及びグランド12の材料としては、銅の他に、アルミニウム、金、銀等の良導体を用いることができるが、特にこれら材料に限らず導電率の高い導電体であればいずれも使用することができる。
【0032】
また、結合用電極18は、配線15をミアンダ形状で形成しているので、誘電体基板11の面11aのスペースを有効に活用することができ、高周波結合器1自体の小型化を図ることができる。
【0033】
これは、上述したように、結合用電極18の長さが通信周波数の略1/2波長としているが、これら配線を細く密集させて形成することで結合用電極18の形成スペースを小さくすることができ、高周波結合器の小型化を図ることができるからである。
【0034】
なお、上述のように結合用電極18を構成する配線15の配線パターンは、誘電体基板11のスペースを有効に活用する観点から、形状の異なるミアンダ形状のパターンを複数つなぎ合わせても良く、またL字、円弧状の繰り返しパターン等を用いるようにしてもよい。
【0035】
次に、高周波結合器1の性能を調べるために、アンソフト社製の3次元電磁界シミュレータHFSSを用いて結合強度の解析を行なった。ここで、高周波結合器1の解析モデルとして、次のような条件のものを用いた。誘電体基板11の材料にはポリテトラフルオロエチレンを、また、結合用電極18の導電体の材質には銅を設定した。また、高周波結合器1の大きさは、配線パターンが形成される面11aを6.5mm×6.5mmとし、基板厚みを1.67mmとした。
【0036】
結合強度は、高周波伝送特性を評価するのに用いられるSパラメータの透過特性S21で評価しており、高周波結合器1の信号入出力端となる接続端子部19とグランド12の間を入力ポートとして、一対の高周波結合器のポート間の結合強度S21を算出した。図3は、結合強度S21の解析に用いた高周波結合器間の相対的配置を示したものである。ここで、高周波結合器1の結合用電極18を構成する配線15と、高周波結合器150の電極150aとの中心軸が一致するように対向させて、15mm、100mm間隔をあけた状態で結合強度S21の周波数特性を調べた。なお、この例では一方の高周波結合器150には、板状の電極150aを有し、評価の基準機である基準高周波結合器を用いた。
【0037】
また、高周波結合器1での電界の発生状態を評価するために、高周波結合器1近傍の電界ベクトル分布も調べた。
【0038】
図4は高周波結合器1の4.5GHzでの電界分布を解析したもので、図2の点線Y−Y’を厚み方向に分断した断面での電界分布を示している。この図4から明らかなように、結合用電極18とグランド12間で強い電界分布がみられ、結合用電極18を構成する配線15の中央部15aから外側に向かって円弧上に電界が分布している。
【0039】
図5は高周波結合器1における結合用電極18の形成された面11aから垂直上方向に1mm離れた面での電界分布を示したものである。この図5から明らかなように、結合用電極18を構成する配線15の中央部15aから略同心円状に電界が分布している。
【0040】
これは、結合用電極18を構成する配線15の長さが通信波長の略半分で、この配線15の一端がグランド12と接続された構成、いわゆるショートスタブとなっているので、通信波長の1/4の部分に相当する中央部15aで電界が最大となるからである。このように、高周波結合器1では、結合用電極18の中央部15aを中心に強い電界を発生することを解析にて確認することができた。
【0041】
図6は、高周波結合器1と基準高周波結合器150との間の結合強度S21の解析結果を示したもので、対向距離15mmの通信距離では4.5GHz付近で−22.5dBの結合強度を有し、更に最大強度から3dB減衰した強度を示す周波数帯域である、−3dB帯域幅においては、0.69GHzの広帯域特性が得られた。例えば、TransferJet(登録商標)では、560MHzの帯域幅が必要で、一般に高周波結合器のばらつきや回路基板とのインピーダンス整合の具合により、中心周波数がずれるが、高周波結合器2では必要帯域幅よりも十分に広い帯域幅を有しているので、これらのばらつきの影響を受けず良好な通信が行える。また対向距離100mmの非通信距離では−48dB以下の通信遮断性が得られている。
【0042】
以上のように、第1の実施形態に係る高周波結合器1では、上記のシミュレーションからも明らかなように、良好な通信特性を実現し、さらに、機械的強度との両立を実現可能しつつ、装置全体の小型化を図ることができる。
【0043】
<変形例>
次に、通信システム100に組み込まれるアンテナ装置として、図7に示すような変形例に係る高周波結合器2について説明する。
【0044】
図7は、配線25の接続状態をわかりやすくするために誘電体基板21を透過させて示している。
【0045】
図7に示すように、高周波結合器2は、誘電体基板21の一方の面21aに、結合用電極28として機能する配線25と、配線25と接続されたスタブ27とが形成され、面21aと対向した他方の面21bにグランド22が形成された構造となっている。
【0046】
また、前記結合用電極28は、その配線25の一端が、送受信回路部104との接続部となる接続端子部29となり、配線25の他端が接続用スルーホール24aを介してグランド22と接続される。結合用電極28は、複数の折り返し部を有する形状、九十九折り形状又はミアンダ形状の配線25で形成されており、配線25の配線長が通信波長の略半分の長さに調整されている。
【0047】
このような構成からなる結合用電極28では、下記の評価から明らかなように、接続端子部29から通信波長の1/4離れた位置、すなわち、配線25の中央部25aで、信号レベルが高い状態となり、この部分の電荷と、グランド22を介して反対側の鏡像電荷とが電気双極子として機能する。したがって、結合用電極28では、効率よく基板の厚さ方向に電界の縦波を放出することができ、結果として、対向する位置に配置された他の結合用電極との間の結合強度が強くなり、良好な通信特性を実現することができる。
【0048】
スタブ27は、その一端が、接続端子部29で、結合用電極28と接続され、他端が、接続用スルーホール24bを介してグランド22と接続される。また、スタブ27は、その長さを調整したものを用いることで、結合用電極28が他の電極と電磁界結合する際に、結合強度と帯域幅が所望の条件を満たすようにすることができる。
【0049】
このような構成からなる高周波結合器1は、次のような製造工程によって製造される。まず、誘電体基板21の両面に、導電部材として、例えば銅箔を貼り付けた両面銅箔基板のうち、一方の面21bをグランド22として用い、他方の面21aの銅箔の一部をエッチング処理により取り除き、ミアンダ形状の配線25から構成される結合用電極28と、スタブ27とをそれぞれ形成する。
【0050】
続いて、配線25の一端と、スタブ27の一端とに、ドリルあるいはレーザー加工によりホールをそれぞれ形成し、各ホールをメッキ処理、あるいは導電性ペースト等の導電性材料を充填することで接続用スルーホール24a、24bを完成させる。この工程により、誘電体基板21の面21aに形成された結合用電極28を構成する配線25と、誘電体基板21の他方の面21bのグランド22が電気的に接続される。同様にして、スタブ27とグランド12が電気的に接続される。さらに、結合用電極28を構成する配線25の、グランド22と接続されていないもう一方の端は、スタブ27と接続された接続端子部29となり、上述した送受信回路部104との接続手段に適合する形状に加工することによって、高周波結合器を完成させる。
【0051】
なお、図7に示すように、2つの接続用スルーホール24a、24bが近接するようなパターン形状となる場合は、結合用電極28を構成する配線25、あるいはスタブ27の端部位置を調整して、ひとつの接続用スルーホールを兼用してグランド22に接続することもできる。
【0052】
このように、高周波結合器2は、結合用電極28が、一枚の両面銅箔基板を処理することで作製可能であり、一方の面21bの全面がグランド22となっているため、配線25とグランド22とを接続する際に、両面のパターンの位置合わせをする必要がなく、結合用電極28を構成する配線の一端と、スタブ27の一端とにそれぞれ接して、接続用スルーホール24a、24bを設けることで容易に接続でき、簡易なプロセスにて作製することができる。
【0053】
次に、高周波結合器2の性能を調べるために、アンソフト社製の3次元電磁界シミュレータHFSSを用いて結合強度の解析を行なった。ここで、高周波結合器2の解析モデルとして、次のような条件のものを用いた。誘電体基板21の材料にはポリテトラフルオロエチレンを、また、結合用電極28とスタブ27として用いる導電体の材質には銅を設定した。また、高周波結合器2の大きさは、配線パターンが形成される面21aを6.5mm×6.5mmとし、基板厚みを1.67mmとし、さらに、スタブ27の長さは5.2mmとした。
【0054】
結合強度は、高周波伝送特性を評価するのに用いられるSパラメータの透過特性S21で評価しており、高周波結合器2の信号入出力端となる接続端子部29とグランド22の間を入力ポートとして、一対の高周波結合器のポート間の結合強度S21を算出した。解析に用いた高周波結合器間の相対的配置は、上述した図3に示した条件と同様である。
【0055】
図8は、高周波結合器間の対向距離を15mmとしたときの結合強度S21の周波数特性の解析結果を示したものである。比較のために、スタブ27を有しない高周波結合器1の特性である図6で示した対向距離15mmのときの結合強度も合わせて示した。
【0056】
なお、この例でも一方の高周波結合器には、評価の基準機である基準高周波結合器150を用いている。
【0057】
図8から明らかなように、スタブ27を有した高周波結合器2では、結合強度を高めることができるが、強い結合強度の得られる周波数帯域が狭くなっている。一般に、結合強度の強さと、−3dB帯域幅はトレードオフの関係にあるため、これらのバランスが要求仕様に対して不十分な場合は、高周波結合器2のようにスタブ27を設けて、主にその長さを変えることで、両者のバランスを調整することができる。
【符号の説明】
【0058】
1、2、102、106、150 高周波結合器、11、21 誘電体基板、11a、11b、21a、21b 面、12、22、202 グランド、14、24a、24b 接続用スルーホール、15、25 配線、15a 中央部、18、28、103、107、208 結合用電極、19、29 接続端子部、27、203 スタブ、100 通信システム、101、105 通信装置、104、108 送受信回路部、150a 電極、201 プリント基板、205 送受信回路、207 金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通信波長により、対向する一対の電極間で電磁界結合することで情報通信を行うアンテナ装置において、
誘電体の一方の面にグランド層が形成された基板と、
上記基板の上記グランド層が形成された面と対向した面に形成された配線からなり、当該アンテナ装置と対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極を備え、
上記結合用電極は、複数の折り返し部を有し、通信波長の略半分の長さの配線からなり、該配線のうち、一方の端部に信号の入出力端が形成され、他方の端部が上記基板に形成されたグランド層と電気的に接続される構造を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
上記結合用電極には、上記配線に形成された入出力端から分岐した所定の長さのスタブが接続されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
所定の通信波長により、対向する位置に配置された他の通信装置の電極間での電磁界結合で情報通信を行う通信装置において、
誘電体の一方の面にグランド層が形成された基板と、
上記基板の上記グランド層が形成された面と対向した面に形成された配線からなり、当該アンテナ装置と対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、
上記グランド層と、上記配線の一方の端部と、それぞれ電気的に接続され、信号の送受信処理を行う送受信処理部とを備え、
上記結合用電極は、複数の折り返し部を有し、通信波長の略半分の長さの配線からなり、該配線のうち、上記送受信処理部と接続されていない端部が上記基板に形成されたグランド層と電気的に接続される構造を有することを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−65103(P2012−65103A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206930(P2010−206930)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】