説明

アンテナ装置及びビーム指向特性改善方法

【課題】効率的なアンテナモジュール交換を可能にしつつ、ビーム指向特性の劣化を回避する。
【解決手段】複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナが、前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出する。検出された検出結果からアンテナパターンを計算する。当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する。算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御、または再配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナ装置の冗長系に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、移相器などが実装されたアンテナモジュールを多数並べたアレイアンテナは、その冗長性から、アンテナモジュールの一部が故障してもアレイアンテナ全体としての性能に大きな劣化を生じないという特性を有している。
【0003】
一般的な技術として、このようなアレイアンテナの冗長性を生かすためにアンテナモジュールの動作状況をモニターして、アンテナパターンシミュレーションから求めた許容される故障数に達した時点でアレイアンテナが故障というアラームを出力する技術がある。
【0004】
このような一般的技術の構成例を表すものが図8である。図8を参照するとアレイアンテナ装置50は、アンテナ素子51−1〜51−N、アンテナモジュール52−1〜52−N、分配合成器53、送受信機54、アンテナモニター回路55及びアラーム表示機56を含む。アンテナモニター回路55は、アンテナモジュールの動作状況をモニターし、許容される故障数に達した時点でアラーム表示機56からアラームが出力される。
【0005】
また、例えば、特許文献1には、アンテナモジュールの動作不良を検出するアンテナモニターからの検出結果を用いてアンテナパターンを計算して、その計算結果に基づいてアンテナの特性を判定してアレイアンテナのアラームを出力するという技術が記載されている。
【0006】
このような技術を利用することにより、アレイアンテナに故障が生じたことを知ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平07−070909号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Tsunoda, N. Goto, “Sidelobe Suppression of Planar Array Antenna by the Multistage Decision Method”, IEEE Trans. Antennas Propagation, vol. AP-35, No.9, Sep. 1987.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような技術は、あくまでビーム指向特性(特にサイドローブレベル)から運用限界に達したか達していないかを判定するいわゆるモニター機能を実現するに過ぎない。そのため、運用限界に達した場合には、故障したモジュールそのものを交換する必要がある。また、故障部位によっては急激にビーム指向特性が悪化することがあり、このような場合には頻繁にアンテナモジュールを交換する必要があるという問題が生じる。
【0010】
すなわち、上述したような技術を含む一般的な技術には下記のような2つの問題点が存在していた。
【0011】
第一の問題点は、上記アラームが出力されるごとにアンテナモジュールを交換しなければならない点である。
【0012】
第二の問題点は、アラームが出力されていなくても、故障箇所によっては急激にビーム指向特性が悪化する可能性があるため、アレイアンテナ本来の性能を発揮できない点である。
【0013】
そこで、本発明は、効率的なアンテナモジュール交換を可能にしつつ、ビーム指向特性の劣化を回避することが可能な、アンテナ装置及びビーム指向特性改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点によれば、複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算手段と、前記パターン計算手段の結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、を備え、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナが提供される。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、を備え、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナが提供される。
【0016】
本発明の第3の観点によれば、複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算ステップと、前記パターン計算ステップの結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、を備え、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法が提供される。
【0017】
本発明の第4の観点によれば、複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、を備え、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アンテナモジュールが故障して指向特性が悪化した場合であっても、故障アンテナモジュールを新しいアンテナモジュールに交換することなく、アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を算出し、算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御又は再配置することから、効率的なアンテナモジュール交換を可能にしつつ、ビーム指向特性の劣化を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の基本的構成を表すアンテナ系統図である。
【図2】本発明の実施形態の基本的構成の変形例を表すアンテナ系統図である。
【図3】本発明の実施形態の基本的動作を表すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態を適用した素子分布の一例を表す図である。
【図5】故障前のアンテナパターンシミュレーション結果例を表す図である。
【図6】故障後のアンテナパターンシミュレーション結果例を表す図である。
【図7】本発明を適用したときのアンテナパターンシミュレーション結果例を表す図である。
【図8】一般的な技術を用いた場合のアンテナ系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の実施形態の概略を説明する。本発明の実施形態は、概略、多数のアンテナ素子を配置するアレイアンテナにおいて、アンテナモジュールの故障などによるビーム指向特性の劣化を、故障箇所を考慮してアンテナモジュールを間引くことで、ビーム指向特性の劣化を改善するとともに、アンテナモジュールの交換周期を劇的に削減できるというものである。具体的には、故障箇所を考慮した素子開口分布を計算して、アンテナ制御によりアンテナモジュールの稼動をON/OFFすることで、又は、アンテナモジュールを再配置することで、アンテナの開口分布を変更でき、ビーム指向特性を改善する。これにより、アンテナモジュールの故障によりビーム指向特性が劣化する場合、故障したアンテナモジュールを交換する必要があるという課題が解決できる。
【0021】
以上が本願発明の実施形態の概略である。
【0022】
[実施形態1]
次に、本発明の実施形態1について図面1を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態であるアレイアンテナ装置10を示す系統図である。図1を参照するとアレイアンテナ装置10は、アンテナ素子1−1〜1−N、アンテナモジュール2−1〜2−N、分配合成器3、送受信機4、アンテナ制御器5、アンテナモニター回路6、パターン計算機7、アラーム表示機8及び素子分布計算機9を含む。
【0024】
なお、図1では、アンテナ素子及びこれに対応するアンテナモジュールを3つずつ図示しているがこれはあくまで一例である。アンテナ素子及びこれに対応するアンテナモジュールは、実装する環境や準拠する通信方式に応じて任意の数とすることが可能である。
【0025】
また、図1に示したのは、本実施形態において特に重要な部分のみであり、電源等の図示しない部分や回路等については図示を省略している。
【0026】
アンテナ素子1−1〜1−Nには、それぞれアンテナモジュール2−1〜2−Nが配列されており、これによりアレイアンテナが実現されている。アンテナ素子1−1〜1−Nとしては任意のアンテナ素子を採用することが可能であり、その形状や材質に特に制限は無い。また、アンテナモジュール2−1〜2−Nは、移相器や増幅器等を含むモジュールである。
【0027】
そして、分配合成器3により送受信機4とアンテナモジュール2−1〜2−Nとの間でRF信号(Radio Frequency)を分配及び合成している。
【0028】
アンテナ制御器5はアンテナモジュール2−1〜2−N内に含まれている移相器を所望の移相量に設定するものである。
【0029】
アンテナモニター回路6は、アンテナ素子1−1〜1−Nからアンテナモジュール2−1〜2−Nそれぞれの故障検出を行う回路であり、アンテナモニター回路6は故障有無を把握する。また、アンテナモニター回路6は故障箇所のアドレス情報を保持しており、このアドレス情報をパターン計算機7に渡す。
【0030】
パターン計算機7はアンテナモニター回路6から受け取った故障箇所のアドレス位置の素子を間引いたアレイアンテナモデルで、現状のアンテナパターン計算を行う。そして、アンテナパターン計算を行った後、パターン計算機7はビーム幅、サイドローブレベルなどのビーム指向特性データをアラーム表示機8に伝送する。
【0031】
アラーム表示機8は受取ったビーム指向特性データから良否判定し、その判定結果を表示する。なお、この判定基準は実装する環境等に応じて任意に設定することが可能である。
【0032】
アラーム表示機8においてアラームが表示された場合は、アンテナモニター回路6から故障箇所のアドレスデータが素子分布計算機9に渡される。
【0033】
素子分布計算機9は故障箇所のアドレスを考慮して、現状での最良なアンテナパターンとなるように素子分布を計算する。素子分布計算機9は素子分布計算結果に基づき励振するアンテナモジュール2−1〜2−Nのアドレス情報をアンテナ制御器5に渡す。
【0034】
アンテナ制御器5は素子分布計算機9の結果からアンテナモジュール2−1〜2−Nのうち所望のアンテナモジュールのみが励振するようにアンテナ制御を行う事で、多くの故障が発生しても低サイドローブのアンテナパターンを維持することが可能となる。
【0035】
次に本発明の実施形態の動作について図面を参照して説明する。
【0036】
図1は本発明の系統図を示しているが、この系統図を処理フローチャートに置き換えたものを図3に示す。また、素子分布計算機9の計算条件を模式的に示した図を図4に示す。
【0037】
図1、図3、及び図4を用いて本発明の動作を説明する。
【0038】
まずアレイアンテナ装置10のアンテナモニター回路6が、常時故障状態をモニタリングする(ステップS101)。そして、このモニタリングにより得られるモニター情報はパターン計算機7に対して出力される。
【0039】
このモニター情報には故障箇所のアドレス情報が含まれており、この故障箇所のアドレス情報からパターン計算機7がパターン計算を行い、そのパターン計算結果からその良・否判定を行う(ステップS102)。
【0040】
アンテナパターン計算結果で『良』判定の場合は(ステップS103において『良』)、運用に支障が無い場合なので本処理は終了となる。
【0041】
一方、アンテナパターン計算結果が『否』判定の場合は(ステップS103において『否』)、素子分布計算機9が、故障箇所のアドレス情報に基づいて、現時点での最良な素子分布となるように励振するアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)を決定し、励振するアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)のアドレス情報をアンテナ制御器5に渡す(ステップS104)。
【0042】
そして、アンテナ制御器5は受け取ったアドレス情報を利用してアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)の制御を実施する。
【0043】
本発明の実施形態は、上述のステップS101〜ステップS105の処理を繰り返すことで常に最良なビーム指向特性の状態で運用できる。
【0044】
[実施形態2]
続いて、上述した実施形態1を一部変形した実施形態である実施形態2について説明をする。
【0045】
図1に表される実施形態1のアレイアンテナ装置10では、アンテナパターン計算機7が構成に含まれている。もっとも、素子分布計算機9はその計算過程において指向性計算を行う必要があり、アンテナパターン計算機7の機能を元々有している。そのため、素子分布計算機9はアンテナパターン計算機7の機能を肩代わりすることができる。よって、アンテナパターン計算機7を省略できる。
【0046】
すなわち、実施形態2は実施形態1からアンテナパターン計算機7を省略し、その代わりに素子分布計算機9によってアンテナパターン計算機7の機能を実現させるという実施形態である。
【0047】
図2は本発明の一実施形態であるアレイアンテナ装置20を示す系統図である。図1を参照するとアレイアンテナ装置10は、アンテナ素子1−1〜1−N、アンテナモジュール2−1〜2−N、分配合成器3、送受信機4、アンテナ制御器5、アンテナモニター回路6、アラーム表示機8及び素子分布計算機9を含む。
【0048】
アンテナパターン計算機7の機能を素子分布計算機9が担う以外は、各部とも図1に表されるアレイアンテナ装置10の各部の役割と同じである。よって、再度の詳細な説明は省略する。
【0049】
次に、図3を参照して本実施形態の動作について説明する。
【0050】
まずアレイアンテナ装置10のアンテナモニター回路6が、常時故障状態をモニタリングする(ステップS101)。そして、このモニタリングにより得られるモニター情報は素子分布計算機9に対して出力される。
【0051】
このモニター情報には故障箇所のアドレス情報が含まれており、この故障箇所のアドレス情報から素子分布計算機9がパターン計算を行い、そのパターン計算結果からその良・否判定を行う(ステップS102)。
【0052】
アンテナパターン計算結果で『良』判定の場合は(ステップS103において『良』)、運用に支障が無い場合なので本処理は終了となる。
【0053】
一方、アンテナパターン計算結果が『否』判定の場合は(ステップS103において『否』)、素子分布計算機9が、故障箇所のアドレス情報に基づいて、現時点での最良な素子分布となるように励振するアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)を決定し、励振するアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)のアドレス情報をアンテナ制御器5に渡す(ステップS104)。
【0054】
そして、アンテナ制御器5は受け取ったアドレス情報を利用してアンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)の制御を実施する。
【0055】
本実施形態も実施形態1と同様に、上述のステップS101〜ステップS105の処理を繰り返すことで常に最良なビーム指向特性の状態で運用できる。
【0056】
[計算条件]
次に、ステップS104における、素子分布計算機9の計算条件について説明する。なお、この計算条件は上述の実施形態1及び実施形態2の何れの場合にあっても同様である。すなわち、以下の説明は実施形態1及び実施形態2に共通する内容であるとする。
【0057】
素子分布計算機9には拘束条件を与えることができ、拘束条件から下記2つの計算手法がある。
【0058】
1つはアンテナモジュール位置拘束手法、もう1つはアンテナモジュール個数拘束手法である。
【0059】
一般的にビーム指向特性を制御するためには振幅ウェイトを与える必要がある。振幅ウェイトを与える方法として、アンテナ素子個々の振幅を可変アッテネータなどを利用してテイラー分布特性とする方法が知られている。また、他の方法として、アンテナ素子に給電するアンテナモジュール出力のON/OFFにより制御する素子間引き法が良く知られている。
【0060】
この素子間引き法は、例えば非特許文献1に示されている。本発明の実施形態では、素子間引き法を用いて、アンテナモニターにより得られた故障部位のアドレス情報から、その故障を考慮した素子分布を計算する。そして、計算結果を反映してアンテナモジュール出力をON/OFF制御することにより、アンテナモジュールを交換することなく自動でビーム指向特性を最適化できるアレイアンテナを実現する。今回の説明ではこの素子間引き法を利用した拘束手法を便宜上「アンテナモジュール位置拘束手法」と呼ぶ。
【0061】
また、上記アンテナモジュール位置拘束手法は故障部位を拘束して最良なアンテナパターンとなる素子分布を求めて、アンテナモジュール出力をON/OFFすることでビーム指向特性を最良化する方法であるが、上記の別の形態として故障したアンテナモジュール数を拘束して素子分布を計算し、前記アンテナモジュール出力をON/OFF制御する代わりに故障したアンテナモジュールと稼動しているアンテナモジュールを再配置することでビーム指向特性を最良化できる。今回の説明ではこの素子間引き法を利用した拘束手法を便宜上「アンテナモジュール個数拘束手法」と呼ぶ。
【0062】
図4を参照して上記2手法について説明する。
【0063】
図4にはアンテナモジュール故障時の素子分布例31、アンテナモジュール位置拘束手法を適用した場合の素子分布例32、アンテナモジュール個数拘束手法を適用した場合の素子分布例33を示している。
【0064】
ここで、図中での「○」は現時点で稼動しているアンテナモジュール、図中での「×」は現時点で故障したアンテナモジュール、図中での「丸付きの×」は現時点でアンテナ制御器9によりOFF制御されているアンテナモジュールを示している。
【0065】
第1の手法であるアンテナモジュール位置拘束手法は、故障時の素子分布例31において×で示した故障したアンテナモジュール位置を拘束した状態で素子分布計算機9で素子分布を計算させる。そして、アンテナモジュール(2−1〜2−Nの何れか或いはその組合せ)によって、アンテナモジュール位置拘束手法を適用した場合の素子分布例32に示すように周囲の稼動しているアンテナモジュールをOFF制御(図中では丸付きの×で示す)することで最良なビーム指向特性となる素子分布を実現できる。
【0066】
一方、第2の手法であるアンテナモジュール個数拘束手法は、故障時の素子分布例31において×で示す故障したアンテナモジュールの個数を拘束した状態で素子分布計算機9で素子分布を計算する。
【0067】
アンテナモジュール個数拘束手法を適用した場合の素子分布例33に示すように故障したアンテナモジュール×を素子分布計算結果となるように故障していないアンテナモジュールと交換することで再配置する。
【0068】
このように稼動するアンテナモジュール数を故障数以上に減らすことがないため、利得低下を抑えた最良なビーム指向特性となる素子分布を実現できる。
【0069】
次に実際に本発明の実施形態を実施した場合のビーム指向特性について例を用いて説明する。
【0070】
全く故障箇所が無い場合の指向特性を図5に示す。
【0071】
図5に示されるビーム指向特性41は設計通りのビーム指向性を表している。
【0072】
次に、アンテナモジュールが故障した場合のビーム指向特性であるビーム指向特性42について図6を参照して説明する。
【0073】
設計通りのビーム指向性を表すビーム指向特性41と比べた場合、アンテナモジュールが故障状態ではサイドローブレベルが全体的に悪化しており、誤探知の原因となる。
【0074】
そこで、本発明の実施形態を適用すると、ビーム指向特性は図7のビーム指向特性43のようなビーム指向特性となり、サイドローブレベルはかなり改善できる。
【0075】
上記のように本発明の実施形態では運用を止めることが出来ないような場合や、アンテナモジュールを効率的に使用する場合には非常に有効である。
【0076】
[発明の他の実施の形態]
本発明では素子分布計算機9によりアンテナモニター回路6からの情報をリアルタイムに取り入れて素子分布を再構築する方法を取っている。この点を変形し、あらかじめ計算しておいた複数の素子分布をテーブルとして保存しておく方法を取るようにしてもよい。そして、アンテナモニター回路6からの情報に基づいて故障状態を判断し、現状の故障状態で最も適した素子分布をこのテーブルから呼出す。この方法であっても上述した効果と同様の効果を奏することができる。
【0077】
以上説明した本発明の実施形態は、以下に示すような多くの効果を奏する。
【0078】
第1の効果はアンテナモジュールが故障して指向特性が悪化しても、故障アンテナモジュールの位置を拘束し、一部のアンテナモジュールをOFF制御することで、運用をとめることなく指向特性を改善できることである。
【0079】
その理由は、運用をとめることなく素子分布を再構築するからである。
【0080】
第2の効果は非励振アンテナモジュールの個数を拘束することで、利得低下を最小限に抑えてビーム指向特性を改善できることである。
【0081】
その理由は、アンテナモジュール個数拘束により素子分布を再構築するからである。
【0082】
第3の効果は効率的にアンテナモジュールを交換できることである。
【0083】
その理由は、故障の都度アンテナモジュールを交換する必要がないからである。
【0084】
なお、本発明の実施形態であるアレイアンテナ装置は、ハードウェアにより実現することもできるが、コンピュータをそのアレイアンテナ装置として機能させるためのプログラムをコンピュータがコンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み込んで実行することによっても実現することができる。
【0085】
また、本発明の実施形態によるビーム指向特性改善方法は、ハードウェアにより実現することもできるが、コンピュータにその方法を実行させるためのプログラムをコンピュータがコンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み込んで実行することによっても実現することができる。
【0086】
また、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0087】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0088】
(付記1) 複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算手段と、
前記パターン計算手段の結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【0089】
(付記2) 複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【0090】
(付記3) 付記1又は2に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段は、故障した前記アンテナモジュールを含んだ状態で最良のアンテナパターンになるように素子分布を計算し、
前記素子分布計算の計算結果に基づいてアンテナモジュールの稼動ON/OFFの制御を行うことを特徴とするアレイアンテナ。
【0091】
(付記4) 付記1又は2に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段は、故障したアンテナモジュール数を拘束条件として素子分布を計算し、計算結果の素子分布となるように稼動している前記アンテナモジュールと故障している前記アンテナモジュールを再配置することを特徴とするアレイアンテナ。
【0092】
(付記5) 付記1乃至4の何れか1に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段に変えて、あらかじめ計算しておいた複数の素子分布をテーブルとして備えており、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果から前記テーブル内の素子分布の何れかを呼び出し、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、当該呼び出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【0093】
(付記6) 付記1乃至5の何れか1に記載のアレイアンテナにおいて、
アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達したと判断した場合にアラームを出力するアラーム表示手段を更に備え、
前記素子分布計算手段は前記アラームの出力を契機として動作することを特徴とするアレイアンテナ。
【0094】
(付記7) 複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、
前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算ステップと、
前記パターン計算ステップの結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法。
【0095】
(付記8) 複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、
前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法。
【符号の説明】
【0096】
1−1〜1−N、51−1〜51−N アンテナ素子
2−1〜2−N、52−1〜52−N アンテナモジュール
3、53 分配合成器
4、54 送受信機
5 アンテナ制御器
6、55 アンテナモニター回路
7 パターン計算機
8、56 アラーム表示機
9 素子分布計算機
10、20、50 アレイアンテナ装置
31 故障時の素子分布例
32 アンテナモジュール位置拘束手法を適用した場合の素子分布例
33 アンテナモジュール個数拘束手法を適用した場合の素子分布例
41 故障前のアンテナパターン指向特性例
42 故障後のアンテナパターン指向特性例
43 本発明の実施形態を適用した場合のアンテナパターン指向特性例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算手段と、
前記パターン計算手段の結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項2】
複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナにおいて、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニター手段と、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算手段と、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算手段が算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段は、故障した前記アンテナモジュールを含んだ状態で最良のアンテナパターンになるように素子分布を計算し、
前記素子分布計算の計算結果に基づいてアンテナモジュールの稼動ON/OFFの制御を行うことを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段は、故障したアンテナモジュール数を拘束条件として素子分布を計算し、計算結果の素子分布となるように稼動している前記アンテナモジュールと故障している前記アンテナモジュールを再配置することを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のアレイアンテナにおいて、
前記素子分布計算手段に変えて、あらかじめ計算しておいた複数の素子分布をテーブルとして備えており、
前記アンテナモニター手段により検出された検出結果から前記テーブル内の素子分布の何れかを呼び出し、前記複数のアンテナ素子の素子分布が、当該呼び出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のアレイアンテナにおいて、
アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達したと判断した場合にアラームを出力するアラーム表示手段を更に備え、
前記素子分布計算手段は前記アラームの出力を契機として動作することを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項7】
複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、
前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算するパターン計算ステップと、
前記パターン計算ステップの結果から当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法。
【請求項8】
複数のアンテナ素子と、それぞれが前記アンテナ素子の何れかと接続され前記アンテナ素子をアンテナとして実現させるための複数のアンテナモジュールとを含んだアレイアンテナのビーム指向特性改善方法において、
前記アンテナモジュールをモニターすることにより、各アンテナモジュールの故障を検出するアンテナモニターステップと、
前記アンテナモニターステップにより検出された検出結果からアンテナパターンを計算し、計算した結果当該アレイアンテナのビーム指向特性が予め定めている運用限界に達した場合に、当該アレイアンテナのビーム指向特性を改善するための素子分布を計算する素子分布計算ステップと、
を備え、
前記複数のアンテナ素子の素子分布が、前記素子分布計算ステップが算出した素子分布となるように前記アンテナモジュールを制御することを特徴とするビーム指向特性改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−46224(P2013−46224A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182636(P2011−182636)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】