説明

アンテナ装置

【課題】飛翔体に搭載されるアンテナ装置において、常時、通信電波の通信相手との通信を確保できるようにする。
【解決手段】飛翔体1に搭載され、所定の通信相手20からの電波を受信するアンテナ装置10であって、飛翔体1の周方向に配置される複数のアンテナ3a,3b,3c,3dと、送受信機6と、複数のアンテナのうち、通信相手20の側を向いているアンテナを識別し、該アンテナのみに送受信機を接続するアンテナ切換装置7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体に搭載されるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ロケットなどの飛翔体を地上または飛行機から発射させる場合に、飛翔体を追跡、制御する。そのために、地上の管制局または衛星との間で通信を行うために、飛翔体にはアンテナ装置が搭載される。
【0003】
なお、衛星と飛翔体が通信を行うことで、この衛星を介して、地上にある管制局は、飛翔体と通信を行える。これにより、幅広い通信エリアを確保できる。このような衛星として、例えば、インマルサット通信衛星を用いることが想定される。インマルサット通信衛星は、1980年代から運用されており、上述の衛星としてのインマルサット衛星は、最新の第4世代衛星である。第3世代までのインテルサット衛星は、送信出力、受信感度共に、第4世代衛星に比べて小さく、ロケット搭載受信端末は、実現できなかった。第4世代衛星が運用されるようになり、初めて、ロケット搭載通信端末で通信が可能になった。この衛星は、3機体制で全地球をカバーする方式であり、2008年8月に3号機が打上げられ、2009年2月に各衛星の最終配置が完了したばかりである。
【0004】
本願の先行技術文献として、次の特許文献1〜3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−18330号公報
【特許文献2】特開平9−218231号公報
【特許文献3】特開2006−279712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、飛翔体と衛星または地上の管制局との間で、常時、通信を確保できる飛翔体搭載アンテナ装置が望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、飛翔体に搭載されるアンテナ装置において、常時、通信相手との通信を確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によると、飛翔体に搭載され、所定の通信相手との間で電波を送受信するアンテナ装置であって、
前記飛翔体の周方向に配置される複数のアンテナと、
前記通信相手からの電波を受信信号として処理する送受信機と、
前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いているアンテナを識別し、該アンテナのみに前記送受信機を接続するアンテナ切換装置と、を備える、ことを特徴とするアンテナ装置が提供される。
【0009】
上述した本発明のアンテナ装置では、複数のアンテナのうち、1つのアンテナのみに前記送受信機を接続するので、複数のアンテナ同士の干渉によりアンテナゲインが要求最低値を下回ることを防止できる。これにより、いずれかのアンテナのみに前記送受信機を接続することで、飛翔体の周方向全体にわたって要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によると、前記アンテナ切換装置は、
所定の基準座標系における前記飛翔体の位置および姿勢を検知する位置姿勢検知部と、
前記基準座標系における前記通信相手の位置と、前記飛翔体の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いている前記アンテナを識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナにのみ前記送受信機を接続する制御部と、を有する。
【0011】
このように、前記通信相手の位置と、前記飛翔体の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いている前記アンテナを識別し、識別した前記アンテナのみに前記送受信機を接続することで、通信相手からの送信電波に対し、常時、要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。
【0012】
本発明の別の実施形態によると、前記アンテナ切換装置は、
前記送受信機に接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、前記送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを前記送受信機に接続すべきアンテナであると識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナのみに前記送受信機を接続する制御部と、を有する。
【0013】
このように、前記送受信機に接続中の前記アンテナにより受信した前記電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、前記送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断したら、該隣接するアンテナを前記送受信機に接続することで、通信相手からの送信電波に対し、常時、要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。
【0014】
前記別の実施形態において、好ましくは、前記アンテナ切換装置は、前記飛翔体と前記通信相手との距離を検知する距離検出部と、検出した前記距離に基づいて、前記飛翔体と前記通信相手との距離が基準距離である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する電力推定部と、を備え、
前記識別部は、前記電力推定部が推定した前記電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、前記送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを前記送受信機に接続すべきアンテナであると識別する。
【0015】
このように、前記アンテナ切換装置は、前記飛翔体と前記通信相手との距離を検知する距離検出部と、検出した前記距離に基づいて、前記飛翔体と前記通信相手との距離が基準距離である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する電力推定部と、を備え、推定した前記電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、隣接するアンテナに変わったかを判断するので、前記飛翔体と前記通信相手との距離による受信電波の前記電力値の低下の影響を無くすことができる。即ち、推定した電力値に基づいて、識別部は、送受信機に接続すべきアンテナを識別するので、信頼性が向上する。
【0016】
前記別の実施形態において、さらに好ましくは、前記アンテナ切換装置は、前記飛翔体の姿勢を検出する姿勢検知部を有し、
前記電力推定部は、検知した前記姿勢と前記距離に基づいて、前記飛翔体と前記通信相手との距離が前記基準距離であり、かつ、前記通信相手に対する前記飛翔体の姿勢(即ち、通信相手から見た飛翔体の方向に対する前記飛翔体の姿勢)が基準姿勢である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する。
【0017】
これにより、前記飛翔体の姿勢による受信電波の前記電力値の低下の影響を無くすことができる。即ち、推定した電力値に基づいて、識別部は、送受信機に接続すべきアンテナを識別するので、信頼性が向上する。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態によると、前記アンテナ切換装置は、第1および第2の切換装置を有し、
第1の切換装置は、
所定の基準座標系における前記飛翔体の位置および姿勢を検知する位置姿勢検知部と、
前記基準座標系における前記通信相手の位置と、前記飛翔体の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いている前記アンテナを識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナにのみ送受信機を接続する制御部と、を有し、
第2の切換装置は、
送受信機に接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを送受信機に接続すべきアンテナであると識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナのみに送受信機を接続する制御部と、を有し、
第2の切換装置により識別した前記アンテナで前記通信相手から電波を受信している時に、該受信電波の強度が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置により判断させ、そうである場合、継続して第2の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させる選択装置を備える。
【0019】
このように、第1および第2の切換装置7を組み合わせ、第2の切換装置により識別した前記アンテナで前記通信相手から電波を受信している時に、該受信電波の強度が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置により判断し、そうである場合、継続して第2の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させるので、電波障害や装置の不具合などにより、受信電波の強度が所定値以下になっても、第2の切換装置から第1の切換装置に切り替えることで、継続して、所定値より大きな受信電波の電力値が得られる。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明によると、飛翔体に搭載されるアンテナ装置において、常時、通信電波の通信相手との通信を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の構成を示す。
【図2】(A)は、図1のアンテナ装置が搭載される飛翔体を示し、(B)は、(A)のB−B矢視図であり、(C)は、(B)におけるアンテナゲインの干渉を示す。
【図3】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の構成を示す。
【図4】本発明の第3実施形態によるアンテナ装置の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10の概略構成を示す。図1に示すように、アンテナ装置10は、アンテナ3a,3b,3c,3d、アンテナ切換装置7を備える。
【0024】
複数のアンテナ3a,3b,3c,3dは、飛翔体1の周方向に配置される。各アンテナ3a,3b,3c,3dは、例えばパッチ型アンテナであってよい。図2(A)は、アンテナ3a,3b,3c,3dが搭載された飛翔体1を示し、図2(B)は、図2(A)のB−B矢視図である。図2(B)に示すように、複数のアンテナ3a,3b,3c,3dが間隔をおいて、飛翔体1の軸を回る周方向に配置される。図2(B)において、破曲線aは、アンテナ3aのゲインを示し、破曲線bは、アンテナ3bのゲインを示し、破曲線cは、アンテナ3cのゲインを示し、破曲線dは、アンテナ3dのゲインを示す。隣接する前記アンテナのゲインが重複している箇所では、干渉が起こる。図2(C)は、図2(B)に相当し、ゲイン重複領域Rのゲインを示す。図2(C)に示すように、ゲイン重複領域Rでは、干渉によるアンテナゲインが極度に低下する箇所が現れる。このような干渉は、隣接する前記アンテナを同時に送受信機6に接続した場合に生じる。送受信機6は、通信相手20からの電波を受信信号として処理し、送信信号を生成しアンテナへ出力する。
【0025】
アンテナ切換装置7は、アンテナスイッチ5を有し、アンテナスイッチ5により、各アンテナ3a,3b,3c,3dを送受信機6に接続する。アンテナ切換装置7は、後述のアンテナ切換装置7により制御される。
【0026】
アンテナ切換装置7は、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、位置が分かっている前記通信相手20(例えば、人工衛星または地上にある管制局)の側を向いている前記アンテナを識別し、該アンテナのみに送受信機6を接続するように前記アンテナスイッチ5を制御する。前記アンテナ切換装置7は、位置姿勢検知部9、識別部11、および制御部13を有する。位置姿勢検知部9は、時々刻々と、所定の基準座標系における前記飛翔体1の位置および姿勢を検知する。位置姿勢検知部9は、時々刻々と、飛翔体1に搭載された加速度センサにより加速度を検出し、検出した該加速度から、前記基準座標系における飛翔体1の位置を検出する。また、位置姿勢検知部9は、時々刻々と、ジャイロセンサにより、前記基準座標系における飛翔体1の姿勢を検出する。この姿勢は、飛翔体の軸回りにおける、基準角度からの飛翔体の回転角度であってよい。識別部11は、時々刻々と、前記基準座標系における前記飛翔体1の前記位置および前記姿勢と、前記基準座標系における前記通信相手20の既知の位置に基づいて、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、最も、前記通信相手20の側を向いている前記アンテナを識別する。制御部13は、前記識別部11が識別した前記アンテナのみに送受信機6を接続するようにアンテナスイッチ5を制御する。前記識別部11が識別した前記アンテナ3が変わったら、制御部13は、変わった前記アンテナにのみ送受信機6を接続する。
なお、位置姿勢検知部9は、任意のGPS衛星から受信したGPS信号を用いずに、上述のように前記基準座標系における飛翔体1の位置および速度を検知する第1検知手段として構成してもよいし、上述とは異なり、前第1検知手段を用いずに記GPS信号に基づいて飛翔体1の位置および速度を検知する第2検知手段として構成してもよいし、検知精度を高めるために、前記第1検知手段と第2検知手段を組み合わせて構成してもよい。
【0027】
上述した本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10では、前記飛翔体1の周方向に複数のアンテナ3a,3b,3c,3dを配置し、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、前記通信相手20の側を向いている前記アンテナを識別し、該アンテナのみに送受信機6を接続するので、常時、前記通信相手20の側を向いている前記アンテナ3で通信相手20からの送信電波を受信できる。
また、複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、1つのアンテナのみに送受信機6を接続するので、複数のアンテナ同士の干渉によりアンテナゲインが要求最低値を下回ることを防止できる。これにより、いずれかの前記アンテナのみに送受信機6を接続することで、飛翔体1の周方向全体にわたって要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。具体的には、前記通信相手20の位置と、前記飛翔体1の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、前記通信相手20の側を向いている前記アンテナ3を識別し、識別した該アンテナのみに送受信機6を接続することで、常時、要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。前記要求最低値は、例えば、図2(B)のベクトルGの大きさである。
【0028】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置10の概略構成を示す。第2実施形態のアンテナ装置10は、アンテナ切換装置7の構成が、第1実施形態のアンテナ切換装置7と異なる。第2実施形態のアンテナ装置10の他の構成と動作は、第1実施形態のアンテナ装置10と同じである。
【0029】
アンテナ切換装置7は、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、前記通信相手20の側を向いている前記アンテナを識別し、該アンテナのみに送受信機6を接続するように前記アンテナスイッチ5を制御する。第2実施形態によると、アンテナ切換装置7は、識別部17、および制御部19を有する。識別部17は、時々刻々と、送受信機6に接続されている前記アンテナ(以下、接続中のアンテナという)によって受信した通信相手20からの電波の電力値(以下、受信電波の電力値という)を検出する。また、識別部17は、時々刻々と、前記受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに前記周方向に隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを送受信機6に接続すべきアンテナであると識別する。制御部19は、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、前記識別部17が識別した前記アンテナにのみ送受信機6を接続するように前記アンテナスイッチ5を制御する。
【0030】
識別部17による判断の一例を、次に示す。前記各アンテナについて、該アンテナのアンテナゲインは、図2(B)に示すように、飛翔体1の周方向において一定の分布を持つ。この分布の周方向端部では、周方向にずれる量に対するアンテナゲインの減少率が急激に大きくなる。従って、基準座標系において、飛翔体1が前記周方向(即ち、飛翔体の軸回りの方向)に回転した回転量をジャイロセンサにより時々刻々と検出し、識別部17は、該回転量に対する、接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値の減少率を求め、この減少率が基準値以上になったら、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断する。この場合、識別部17は、該隣接するアンテナを送受信機6に接続するべきアンテナと識別する。これにより、制御部19は、送受信機6に接続するアンテナを、現在接続中のアンテナから、送受信機6を接続するべきアンテナであると識別部17により識別された前記隣接するアンテナに切り替えるように前記アンテナスイッチ5を制御する。
【0031】
好ましくは、アンテナ切換装置7は、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離を検知する距離検出部14と、検出した前記距離に基づいて、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離が基準距離である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する電力推定部15と、を備える。距離検出部14は、例えば、時々刻々と、飛翔体1に搭載された加速度センサにより加速度を検出し、検出した該加速度から、基準座標系における飛翔体1の位置を検出し、該位置と既知である通信相手20の位置とから、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離を検出・算出する。また、電力推定部15は、検出した前記距離と、記憶している前記基準距離と、送受信機6に接続されているアンテナによる受信電波の電力値とに基づいて、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離が前記基準距離である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する。このように推定された電力値に基づいて、識別部17は、上述のように、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに前記周方向に隣接するアンテナに変わったかを判断する。即ち、前記回転量に対する、推定された電力値の減少率を求め、この減少率が基準値以上になったら、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断する。
【0032】
さらに好ましくは、前記アンテナ切換装置7は、前記飛翔体1の姿勢を検出する姿勢検知部16を有する。電力推定部15は、姿勢検知部16が検知した前記姿勢と距離検出部14が検知した前記距離に基づいて、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離が前記基準距離であり、かつ、前記通信相手20に対する前記飛翔体1の姿勢が基準姿勢である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する。このように推定された電力値に基づいて、識別部17は、上述のように、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに前記周方向に隣接するアンテナに変わったかを判断する。即ち、前記回転量に対する、推定された電力値の減少率を求め、この減少率が基準値以上になったら、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断する。
【0033】
なお、アンテナ装置10の動作開始時においては、1つのみの前記アンテナに送受信機6を接続するように、複数の前記アンテナに順番に送受信機6を接続し、最も受信電波の電力値が高かった前記アンテナに送受信機6を接続してよい。この状態から、前記アンテナ切換装置7によるアンテナ切換制御を実行してよい。
【0034】
アンテナ切換装置7が距離検出部14と電力推定部15と姿勢検知部16とを備える場合、識別部17による判断は次のものであってもよい。即ち、前記各アンテナについて、該アンテナのアンテナゲインは、図2(B)に示すように、飛翔体1の周方向において一定の分布を持つ。この分布の周方向端部は、該アンテナと隣接するアンテナのアンテナゲイン分布と重複し、この重複部分(好ましくは、この重複部分の中央)において、当該各アンテナのアンテナゲインは所定の閾値(例えば、第1実施形態で述べた前記要求最低値)となる。従って、識別部17は、電力推定部15が推定した前記受信電波の電力値が、前記飛翔体1と前記通信相手20との距離が前記基準距離であり、かつ、前記通信相手20に対する前記飛翔体1の姿勢が基準姿勢である条件の下で、前記閾値のアンテナゲインで得られる受信電波の電力値より小さくなったら、最も前記通信相手20の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断する。この場合、識別部17は、該隣接するアンテナを送受信機6に接続するべきアンテナと識別する。ここで、該隣接するアンテナは、2つ存在するが、この2つのうちいずれを送受信機6に接続するべきアンテナと識別するかは、ジャイロセンサにより、飛翔体1がその軸回りのいずれの方向に回転しているかを検出し、該検出結果に基づいて識別部17により判断される。これにより、制御部19は、送受信機6に接続するアンテナを、現在接続中のアンテナから、送受信機6に接続するべきアンテナであると識別部17により識別された前記隣接するアンテナに切り替えるように前記アンテナスイッチ5を制御する。
【0035】
本発明の第2実施形態によるアンテナ装置10では、接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったと判断したら、該隣接するアンテナを送受信機6に接続することで、通信相手20からの送信電波に対し、常時、要求最低値以上のアンテナゲインを確保できる。
【0036】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態によるアンテナ装置10の概略構成を示す。第3実施形態のアンテナ装置10は、以下で述べる点が、第1実施形態のアンテナ切換装置7と異なる。第3実施形態のアンテナ装置10の他の構成と動作は、第1実施形態のアンテナ装置10と同じである。
【0037】
図4に示すように、第3実施形態では、アンテナ切換装置7は、第1実施形態によるアンテナ切換装置7(以下、第1の切換装置7aという)と第2実施形態によるアンテナ切換装置7(以下、第2の切換装置7bという)の両方を有する。さらに、第3実施形態では、選択装置21を有する。
【0038】
選択装置21は、第2の切換装置7bにより識別した前記アンテナで前記通信相手20から電波を受信している時に、該受信電波の電力値が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手20の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置7aに判断させ、そうである場合、継続して第2の切換装置7bにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置7aにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させる。即ち、選択装置21は、通常、第1および第2の切換装置7a、7bのうち第2の切換装置7bのみを作動させる。この場合、第2の切換装置7bの識別部17により識別した前記アンテナに、送受信機6を接続するように制御部19がアンテナスイッチ5を制御している。この時に、選択装置21により、該アンテナにより前記通信相手20から受信した電波の強度が、所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手20の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置7aの識別部11により判断させ、そうであると識別部11が判断した場合、継続して第2の切換装置7bの識別部17により、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、そうでないと識別部11が判断した場合、その後に、第1の切換装置7aの識別部11により、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、次いで、第2の切換装置7bにより送受信機6に接続するアンテナを識別させる制御に戻る。
【0039】
なお、識別部11の前記判断では、識別部11は、第1実施形態のように、前記基準座標系における前記飛翔体1の前記位置および前記姿勢と、前記基準座標系における前記通信相手20の既知の位置に基づいて、受信電波の電力値が前記所定値以下となった対象の前記アンテナが、前記複数のアンテナ3a,3b,3c,3dのうち、最も、前記通信相手20の側を向いているアンテナであるかを判断する。そうである場合、継続して第2の切換装置7bにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、一時的に(例えば1回だけ)第1の切換装置7aにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、その後、第2の切換装置7bにより送受信機6に接続するアンテナを識別させる制御に戻る。
【0040】
好ましくは、選択装置21は、第2の切換装置7bの電力推定部15により推定された前記電力値が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手20の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置7aに判断させ、そうである場合、継続して第2の切換装置7bにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置7aにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させる。
【0041】
本発明の第3実施形態によるアンテナ装置10では、第1および第2の切換装置7a、7bを組み合わせ、第2の切換装置7bにより識別した前記アンテナで前記通信相手20から電波を受信している時に、該受信電波の強度が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手20の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置7aにより判断し、そうである場合、引き続いて第2の切換装置7bにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置7aにより、送受信機6に接続するアンテナを識別させるので、電波障害や装置の不具合などにより、受信電波の強度が所定値以下になっても、第2の切換装置7bから第1の切換装置7aに切り替えることで、継続して、所定値より大きな受信電波の電力値が得られる。
【0042】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 飛翔体,3a,3b,3c,3d アンテナ、5 アンテナスイッチ、7 アンテナ切換装置、7a アンテナ切換装置(第1の切換装置),9 位置姿勢検知部、10 アンテナ装置、11 識別部、13 制御部、14 距離検出部、15 電力推定部、16 姿勢検知部、17 識別部、19 制御部、20 通信相手(人工衛星、地上にある管制局)、21 選択装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体に搭載され、所定の通信相手との間で電波を送受信するアンテナ装置であって、
前記飛翔体の周方向に配置される複数のアンテナと、
前記通信相手からの電波を受信信号として処理する送受信機と、
前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いているアンテナを識別し、該アンテナのみに前記送受信機を接続するアンテナ切換装置と、を備える、ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナ切換装置は、
所定の基準座標系における前記飛翔体の位置および姿勢を検知する位置姿勢検知部と、
前記基準座標系における前記通信相手の位置と、前記飛翔体の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いている前記アンテナを識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナにのみ前記送受信機を接続する制御部と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ切換装置は、
前記送受信機に接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、前記送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを前記送受信機に接続すべきアンテナであると識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナのみに前記送受信機を接続する制御部と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナ切換装置は、前記飛翔体と前記通信相手との距離を検知する距離検出部と、検出した前記距離に基づいて、前記飛翔体と前記通信相手との距離が基準距離である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する電力推定部と、を備え、
前記識別部は、前記電力推定部が推定した前記電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、前記送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを前記送受信機に接続すべきアンテナであると識別する、ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナ切換装置は、前記飛翔体の姿勢を検出する姿勢検知部を有し、
前記電力推定部は、検知した前記姿勢と前記距離に基づいて、前記飛翔体と前記通信相手との距離が基準距離であり、かつ、前記通信相手に対する前記飛翔体の姿勢が基準姿勢である場合における前記受信電波の前記電力値を推定する、ことを特徴とする請求項4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナ切換装置は、第1および第2の切換装置を有し、
第1の切換装置は、
所定の基準座標系における前記飛翔体の位置および姿勢を検知する位置姿勢検知部と、
前記基準座標系における前記通信相手の位置と、前記飛翔体の前記位置および前記姿勢とに基づいて、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いている前記アンテナを識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナにのみ送受信機を接続する制御部と、を有し、
第2の切換装置は、
送受信機に接続中の前記アンテナによる受信電波の電力値に基づいて、最も前記通信相手の側を向いている前記アンテナが、送受信機に接続中の前記アンテナから該アンテナに隣接するアンテナに変わったかを判断し、変わったと判断したら、該隣接するアンテナを送受信機に接続すべきアンテナであると識別する識別部と、
前記識別部が識別した前記アンテナのみに送受信機を接続する制御部と、を有し、
第2の切換装置により識別した前記アンテナで前記通信相手から電波を受信している時に、該受信電波の強度が所定値以下になったら、該アンテナが、前記複数のアンテナのうち、前記通信相手の側を向いているアンテナであるかどうかを第1の切換装置により判断させ、そうである場合、継続して第2の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させ、そうでない場合、第1の切換装置により、送受信機に接続するアンテナを識別させる選択装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−24159(P2011−24159A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169762(P2009−169762)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】