説明

アンモオキシム化方法

ケトン又はアルデヒドを、定性一般式(I):MAlPO−5(I)(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;Mは、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属原子であり;M及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒の存在下でアンモニア及び酸素と反応させることを特徴とするレドックスアンモオキシム化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常「AlPO」系と呼ばれるアルミノホスフェートを含むレドックス触媒を用いるアンモオキシム化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlPO化合物は周知であり、例えばUS−4567029に記載されているようにモレキュラーシーブとして及び種々のプロセスのための触媒として用いることが知られている。これらは材料の全体に広がるチャンネルを有していて、それによって材料に非常に大きな表面積が与えられている、触媒反応のために用いることができるナノ多孔性の固体である。基本構造は、アルミニウム、リン、及び酸素原子を含み、アルミニウム原子の一部は1以上の他の原子によって置換されていて必要な触媒活性を与えている。
【0003】
J. M. Thomas及びR. Raja, [ε−カプロラクタム(ナイロン−6の前駆体)の「環境に優しい」1段階接触製造の設計, Proceedings Natl. Acad. Sci. USA, 102, 13732-13736 (2005)];R. Raka, G. Sankar及びJ. M. Thomas, [シクロヘキサノンの温和なアンモオキシム化のための二機能性モレキュラーシーブ触媒:空気及びアンモニアの混合物によるオキシム及びε−カプロラクタムの1段階無溶媒製造, J. Am. Chem. Soc. 123, 8153-8154 (2001)];及びNature (2005年10月、vol. 437; p. 1243)においては、かかるAlPO触媒、具体的には少なくとも2つの活性部位を有し、1つが一般にCo(III)、Mn(III)、又はFe(III)原子をベースとするレドックス部位であり、他方が一般にZn(II)、Mg(II)、又はCo(II)原子をベースとするブレンステッド酸部位であるAlPO触媒を用いてナイロンへの特定の前駆体、特にε−カプロラクタムを製造する方法が記載されている。これらの構造においては、AlPO構造において両方の金属によってアルミニウムが置換されている。2つのタイプの部位は三次元AlPO構造中でよく分離されており、供給材料上で別々に機能する。その結果、シクロヘキサノン供給材料を、現在用いられている多段階工程を用いるのではなく単一の工程で、70%を超えて約80%以下の効率でε−カプロラクタムに転化させることができる。上記のNatureを参照。
【0004】
しかしながら、商業的な目的のためには70%の転化率は不十分であり、したがって上記の文献において提案されている反応は非常に素晴らしく科学的に非常に興味深いものであるが、現在では僅かな商業的価値しかない。
【0005】
更に、他の有用な生成物のための中間体として機能させることができる化合物を製造することが望まれている。これらの中間体としては、オキシム、特にシクロヘキサノン−オキシムが挙げられる。
【0006】
国際特許出願PCT/GB2008/002286において開示されているように、本発明者らは、驚くべきことに、上記に記載の反応において用いる触媒を変性することによって、より良好な収率でアンモオキシム化を行うことができることを見出した。得られるオキシムは、次に周知の反応を用いて所望のε−カプロラクタムに効率的に転化させることができる。
【0007】
特に、国際特許出願PCT/GB2008/002286においては、ケトン又はアルデヒドを、異なる遷移金属原子を含む少なくとも2つの異なるレドックス触媒部位を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒の存在下でアンモニア及び酸素と反応させることを特徴とするレドックスアンモオキシム化方法が開示されている。国際特許出願PCT/GB2008/002286に開示されている触媒は、定性一般式(I)又は(II):
AlPO (I)
又は
SAlPO (II)
(式中、M及びMは、互いに異なり、それぞれレドックス触媒能を有する遷移金属原子を表し;
リン原子の一部は他の等価原子によって置換されていてよい)
を有する。
【0008】
国際特許出願PCT/GB2008/002286に開示されている触媒は例えばアンモオキシム化反応の実施において公知の触媒を凌ぐ改良された触媒特性を与えたが、本発明者らは驚くべきことに国際特許出願PCT/GB2008/002286に開示されているものを凌ぐ改良された触媒特性又は相当な触媒特性を示す新規な触媒を製造した。ここで開示する触媒は、酸化剤として空気を用いてアンモニアによるシクロヘキサノンのアンモオキシム化を行う場合に、シクロヘキサンオキシムに関する高い選択性及び転化率(モル%)を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US−4567029
【特許文献2】国際特許出願PCT/GB2008/002286
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. M. Thomas及びR. Raja, Proceedings Natl. Acad. Sci. USA, 102, 13732-13736 (2005)
【非特許文献2】R. Raka, G. Sankar及びJ. M. Thomas, J. Am. Chem. Soc. 123, 81553-8154 (2001)
【非特許文献3】Nature (2005年10月、vol. 437; p. 1243)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術の問題点及び欠点の少なくとも幾つかに対処し、効率的で選択性のアンモオキシム化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の形態においては、ケトン又はアルデヒドを、定性一般式(I):
AlPO−5 (I)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒の存在下でアンモニア及び酸素と反応させることを特徴とするレドックスアンモオキシム化方法が提供される。
【0013】
本発明の第2の形態においては、定性一般式(I):
AlPO−5 (I)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒が提供される。
【0014】
ここで用いる「定性一般式(I):MAlPO(I)を有するアルミノホスフェート」という用語は、2金属置換アルミノホスフェートモレキュラーシーブ触媒を表すように用いる。アルミノホスフェートは、共通の酸素橋架によって結合している交互のAlO5−及びPO3−四面体から構成される。これらの単位は一緒に組み合わさって種々の二次構築単位を形成し、これが異なる配列で一緒に結合してAlPO−5構造を形成する。レドックス及び活性部位は、少量の骨格アルミニウム及びホスフェートがM及びMイオンで置換される(同形置換)ことによって形成される。これを図1に図式的に例示する。最小(通常は、アルミニウムイオンの約2重量%〜18重量%又は約2〜10重量%、及びリンイオンの約2重量%〜18重量%又は約2〜10重量%)の同形置換のみを行うことによって、通常は良好に分離され(及び通常は単離され)、通常はAlPO骨格全体にわたって実質的に均一に分布されている2つのタイプの活性部位が生成し、これによって2種類の共存するシングルサイトの不均一触媒が生成する。金属含有アルミノホスフェート及びその製造方法は当該技術において公知であり、その詳細を以下に与える。「MAlPO」という用語は当該技術において周知である。例えば、R. Raja, G. Sankar及びJ. M. Thomas, [シクロヘキサノンの温和なアンモオキシム化のための二機能性モレキュラーシーブ触媒:空気及びアンモニアの混合物によるオキシム及びε−カプロラクタムの1段階無溶媒製造, J. Am. Chem. Soc. 123, 8153-8154 (2001)]を参照。
【0015】
「MAlPO−5」タイプの構造という用語は、アルミノホスフェートモレキュラーシーブの開骨格を表すように用いる。かかる構造は当該技術において周知である。
【0016】
「MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合がM原子によって置換されている」という用語は、式(I)中のリン原子の一定割合がM原子によって置換されていて、これによってAlPO骨格中への同形置換が引き起こされていることを表すように用いる。例えば、リン原子の一部をチタン原子によって置換することができる。通常は2〜18重量%、より好ましくは2〜10重量%のリンイオンをMイオンによって置換する。
【0017】
レドックス能を有する金属原子とは、ここでは触媒プロセス中に金属原子の酸化状態が変化するものとして定義される。例えば、Co(III)、Mn(III)等は触媒プロセス中にCo(II)及びMn(II)に還元される。いかなる特定の理論にも縛られないが、酸化状態の変化によって遊離基が形成され(開始段階)、これによって付随して酸素の存在下での遊離基経路を介してケトンがオキシムに酸化されると考えられる。
【0018】
反するように明らかに示されていない限りにおいて、ここで定義するそれぞれの形態を任意の他の1つ又は複数の形態と組み合わせることができる。特に、好ましいか又は有利であると示されている任意の特徴を、好ましいか又は有利であると示されている任意の他の1つ又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0019】
いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、レドックス部位(M)(特にCo(III)及びMn(III))と共にM中心(好ましくはTi(IV))を含ませることによって、4面体M(好ましくはTi(IV))活性部位が生成すると考えられる。これは、拡散反射率UV/可視光の検討によって証明された。これに対して単金属TiAlPO−5触媒においては、特有のピークの広がりが230nmにおいて観察される。これは、8面体チタン種の存在によるものであると考えられる。4面体M(好ましくはTi(IV))に近接近しているMの4面体レドックス活性中心の存在は、レドックス部位の触媒活性及び選択性の両方に相乗的な影響を与え、これによって改良された触媒及び改良されたアンモオキシム化方法が得られることが明らかである。
【0020】
はレドックス触媒能を有する遷移金属原子である。好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、Ru(III)、及びこれらの混合物から選択される。一態様においては、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、及びRu(III)の1つから選択される。より好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、及びこれらの混合物から選択される。更により好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、及びこれらの混合物から選択される。
【0021】
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属である。好ましくは、Mは、少なくとも1つのGe(IV)、Sn(IV)、(IV)の酸化状態の遷移金属、及びこれらの混合物から選択される。例えば、Mは、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の遷移金属であってよい。好ましくは、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される。一態様においては、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、及びV(IV)の1つから選択される。他の態様においては、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物の1つから選択される。より好ましくは、Mは、Ti(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される。更により好ましくは、MはTi(IV)である。
【0022】
一態様においては、Mは、Ti(IV)以外の(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の遷移金属である。
【0023】
他の態様においては、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、Ru(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、(IV)の酸化状態の遷移金属、及びこれらの混合物の少なくとも1つから選択される。好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物の1つから選択される。
【0024】
他の態様においては、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、Ru(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の遷移金属及びこれらの混合物から選択される。好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物の少なくとも1つから選択される。
【0025】
更なる態様においては、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、Ru(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、及びこれらの混合物から選択される。好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、及びこれらの混合物から選択され、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、及びこれらの混合物から選択される。
【0026】
好ましい態様においては、触媒は、CoIIITiIVAlPO、MnIIITiIVAlPO、FeIIITiIVAlPO、CrVITiIVAlPO、CuIIITiIVAlPO、VTiIVAlPO、及びRuIIITiIVAlPOから選択される。より好ましくは、触媒は、CoIIITiIVAlPO及びMnIIITiIVAlPOから選択される。
【0027】
一態様においては、1つのタイプのみのM及び1つのタイプのみのMが触媒中に存在する。他の態様においては、少なくとも2つのタイプのM及び1つのタイプのMが触媒中に存在する。他の態様においては、少なくとも1つのタイプのM及び2つのタイプのMが触媒中に存在する。更に他の態様においては、少なくとも2つのタイプのM及び少なくとも2つのタイプのMが触媒中に存在する。
【0028】
これらの触媒の具体的に好ましい例は、CoIIITiIVAlPO−5又はMnIIITiIVAlPO−5である。これらは、特にアンモオキシム化方法において用いられ、具体的にはシクロヘキサノンのアンモオキシム化において用いられる。
【0029】
本発明の触媒にはケイ素(IV)を含ませることができる。好ましくは、Si(IV)は、MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の少なくとも一定割合を置換する。したがって、本発明の一態様においては、アルミノホスフェートベースのレドックス触媒は、定性一般式(II):
SiAlPO−5 (II)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有する。
【0030】
式(I)に関連してここで記載するM及びMに関する記載は、式(II)中のM及びMにも等しく適用される。
【0031】
金属含有アルミノホスフェート触媒及びその製造方法は当該技術において公知である。例えば、US−A−4,567,029、「多孔質酸化物における触媒活性中心:高選択性の新規な触媒の設計及び性能」, J. M. Thomas及びR. Raja, Chem. Comm., 2001, 675-687、及び「ε−カプロラクタム(ナイロン−6の前駆体)の環境に優しい1段階接触製造の設計」, J. M. Thomas及びR. Raja, PNAS. vol.102/39, 13732-13736において、単一のレドックス触媒部位を含む触媒が記載されている。2つの金属部位を有する触媒は、同様の方法で製造することができる。3つの金属部位を有する触媒も、同様の方法で製造することができる。例えば、ZhouらによるCatal. Lett. 99, 2005, 231を参照。
【0032】
概略では、手順は以下の通りである。まず、リン源(通常は85%のHPO)及び必要量の蒸留脱イオンHOを、例えばテフロンライニングオートクレーブ中においてメカニカルスターラーを用いて例えば穏やかに攪拌(400rpm)して混合する。これに、アルミニウム源(通常はAl(OH))を好ましくはゆっくりと加える。2種類のレドックス金属源(M及びM)を水中に溶解し、次に予め調製したAl−HPO混合物(好ましくは攪拌下)に好ましくはゆっくりと加える。次に、適当な(所望の構造タイプによる)テンプレート(構造規定剤)を、激しい攪拌下(例えば1700rpm)で滴加して導入し、ゲルを例えば298Kにおいて約1〜2時間熟成する。次に、所望の構造タイプを合成するためにゲルを加熱する。例えば、これをテフロンライニングステンレススチールオートクレーブ中に密封し、自生圧下で所望の温度に必要量の時間加熱することができる。固体生成物を(結晶化の後に)好ましくは濾過又は遠心分離によって単離し、大量の蒸留脱イオン水で洗浄し、真空下で乾燥する(90〜120℃)。製造された生成物は、触媒としてそれを使用する前に、例えば550℃において、まず窒素中で4時間、次に乾燥酸素中で16時間か焼する。
【0033】
最終触媒の相純度、構造的完全性、及び結晶化度は、粉末X線回折法(XRD)、X線吸収分光法(XAS)、及び高解像度電子断層撮影法の組み合わせを用いることによって確認することができる。ICP(金属)分析によって正確な化学量論(約±3×10−3の誤差)を求めることができる。
【0034】
ここで、本発明を例示のみの目的で以下の図面を参照して更に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、置換部位の概要図である。
【図2】図2は、AlPO−5中に導入された2種類の金属のX線回折パターンを示す。
【図3】図3は、AlPO−5中に導入された2種類の金属のX線回折パターンを示す。
【図4】図4は、CoMnAlPO−5の走査電子顕微鏡画像を示す。
【図5】図5は、CoTiAlPO−5の走査電子顕微鏡画像を示す。
【図6】図6は、MnTiAlPO−5の走査電子顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明方法においては、ケトン又はアルデヒドをアンモニア及び酸素と反応させる。ケトン又はアルデヒドは、任意のケトン又はアルデヒド、例えばC〜C20ケトン又はC〜C20アルデヒドであってよく、線状、分岐、又は環式であってよい。好ましいケトンは、環式ケトン、例えばC〜C12環式ケトンであり、C及びC12ケトンが最も好ましい。シクロヘキサノンが特に好ましいケトンである。好ましいアルデヒドは、環式又は芳香族環、特にC環を含む。好ましいアルデヒドはベンズアルデヒドである。ケトン又はアルデヒドは、非置換であっても、或いは例えばC〜Cアルキル若しくはアルケニル基、−OH、又はハロゲンによって置換されていてもよい。アンモニアは気体の形態であっても、或いは水のような溶媒中に溶解していてもよい。商業的用途のためには、好ましくは、それは気体の形態である。他の用途においては、それは水酸化アンモニウム水溶液の形態であることが好ましい可能性がある。水酸化アンモニウム水溶液から存在する水以外には、通常は更なる溶媒は必要ないが、所望の場合には用いることができる。更なる溶媒を用いる場合には、それは好ましくは不活性である。酸素は、気体の形態、例えばO又は空気として与える。
【0037】
反応生成物は、一般にケトン又はアルデヒド出発物質に対応するオキシムである。したがって、例えば、シクロヘキサノンをε−カプロラクタムへの前駆体であるシクロヘキサノン−オキシムへアンモオキシム化するために本発明を用いることができる。ε−カプロラクタムそれ自体はナイロン−6への重要な前駆体であり、それに関して大きな成長している市場が存在し、したがってこの反応は特に好ましい。また、これはベンズアルデヒドをベンズアルデヒド−オキシムへアンモオキシム化するために用いることもできる。この反応においては、シクロヘキサノン又はベンズアルデヒドを、アンモニア(好ましくは商業的な用途のためには気体形態であるが、水酸化アンモニウム水溶液の形態であってもよい)及び酸素(純粋酸素又は空気の形態で与えることができる)と、触媒の存在下で反応させる。
【0038】
反応は広範囲の温度及び圧力にわたって起こり、選択される正確な温度及び圧力は本発明には重要ではない。しかしながら、本発明者らは一般に、反応を加熱しながら、例えば40〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは50〜90℃の範囲の温度で行うことを好む。例えば、0.5MPa(5bar)〜10MPa(100bar)、より好ましくは1〜5MPa、最も好ましくは3MPa(30bar)〜3.5MPa(35bar)の圧力が好ましく用いられる。
【0039】
製造されるオキシムは、他の化合物、例えばラクタムに転化させることができる。好適な方法は、ベックマン転位を用いるPNAS 102 (39) 13732-13736に記載されているものである。
【0040】
オキシムは、公知の方法によってε−カプロラクタムに転化させることができる。1つのかかる公知の方法が、K. Weissermel及びH. J. Arpe, Industrial Organic Chemistry 19778, p255に記載されている。
【0041】
本発明方法は、オキシム生成物を予期しなかった高い転化率及び良好な選択率で与える。J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8153-4の表1におけるデータは、6時間において20%以下の転化率を示している。本発明方法は、以下の実施例において記載するように、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、又は少なくとも60%の転化率を達成する。
【0042】
本発明の一形態においては、定性一般式(I):
AlPO−5 (I)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒が提供される。
【0043】
は、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子である。好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、Ru(III)、及びこれらの混合物から選択される。一態様においては、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、及びRu(III)の1つから選択される。より好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、及びこれらの混合物から選択される。更により好ましくは、Mは、Co(III)、Mn(III)、及びこれらの混合物から選択される。
【0044】
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属である。好ましくは、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、(IV)の酸化状態の遷移金属、及びこれらの混合物の少なくとも1つから選択される。例えば、Mは、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の遷移金属であってよい。好ましくは、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される。一態様においては、Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、及びV(IV)の1つから選択される。Mは、Ge(IV)、Sn(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択することができる。より好ましくは、Mは、Ti(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される。更により好ましくは、MはTi(IV)である。
【0045】
好ましい態様においては、触媒は、CoIIITiIVAlPO、MnIIITiIVAlPO、FeIIITiIVAlPO、CrVITiIVAlPO、CuIIITiIVAlPO、VTiIVAlPO、及びRuIIITiIVAlPOから選択される。より好ましくは、触媒は、CoIIITiIVAlPO及びMnIIITiIVAlPOから選択される。
【実施例】
【0046】
以下の非限定的な実施例を参照して本発明を更に示す。
【0047】
構造規定剤(SDA)としてN−メチルジシクロヘキシルアミン(MDCHA)を用いてAlPO−5構造を合成した。水熱合成のために適切なゲル組成、即ちアルミニウム、リン、金属、SDA、及び水の適切な比を用いて開始することによって所望の骨格を達成した。一般的な合成手順を、それぞれの試料に関する具体的な反応条件と共に下記に与える。
【0048】
実験手順:
水酸化アルミニウム(約0.053モル)及びリン酸(0.098モル)をPTFEビーカー内で20mLの水と混合し、20分間攪拌状態に保持して均一な混合物を得た。2金属AlPOに関しては、2種類の金属前駆体を2つの別々のビーカー内で溶解し、攪拌状態に保持した後、アルミニウム/リン混合物に同時に滴加した。得られたゲルを30分間静置して均一化した後、構造規定剤を水の残りと一緒に滴加し、激しい攪拌状態に1時間保持した。次に、ゲルを3つのテフロンライニングオートクレーブ中に分け、140〜200℃において2時間結晶化させた(AFI骨格)。
【0049】
結晶化の後、試料をクエンチし、水で洗浄した後、空気流下550℃において8時間か焼した。次に、得られた試料を窒素下に貯蔵してAlPO骨格中の金属部位の還元を最小にした。具体的な反応条件を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
全ての試料の特性分析を行った。Lenton熱設計管型炉(No.3/01/714)を用いてか焼を行った。Southamptonにおいて、CuKα1放射線:λ=1.54056Åを用いてSiemens D5000回折計上で全ての試料の粉末X線回折を行った。UOP LLC(Honeywell Group)において、Cuチューブを有するScintag XDS 2000を用いて更なる粉末X線回折分析を行った。イタリアのTurin大学の協力によって、拡散反射率UV/可視光及びin-situFT−IRを得た。WinLab 900ソフトウエアを有するPerkin-Elmer Lambda 900 DR UV−Vis−NIR分光計を用いてDR UV/可視光を得て、一方、FT−IRは4cm−1の分離能を有するBruker IFS88上で行った。これらの試験のために、試料を真空下(5×10−4mbar)に配置し、その後550℃にゆっくりと加熱した。DR UV/可視光又はFT−IR分析の準備として、真空を除去して酸素を一晩加えた(130mbar)。アンモニアガスを段階的に加えて2mbar〜50mbarを形成し、FT−IRによる分析をそれぞれの段階において行った。試料の製造中に、炭素被覆によってJSM5910顕微鏡を用いて走査電子顕微鏡測定を行った。Grenobleにおいて、Turin大学の協力によってEXAFS/XANESの基本的結果を行った。
【0054】
触媒反応手順及び分析:
PEEK及びPTFEでライニングした0.1LのParr 4590反応器及び4843 Parrコントローラーの混合装置内において高圧で触媒反応を行い、炎イオン化検出器(FID)を有するVarian Star 3400CXガスクロマトグラフを用いて触媒反応の結果を得た。この方法においては、80℃の初期カラム温度、7分間の保持時間、10分間の保持時間で220℃の最終カラム温度、及び3℃/分の温度上昇速度を用いた。
【0055】
2つのカラムを用いた。カラム1においてはHP1架橋メチルシロキサン(30m×0.32mm×膜圧1μm)を用い、これをアンモオキシム化反応のために用いた。カラム2においてはHP-Innowax架橋ポリエチレングリコール(30m×0.53mm×膜圧1μm)を用い、これをシクロヘキサン及びシクロヘキサノールの酸化のために用いた。それぞれの場合において、注入器は220℃に設定し、検出器は300℃に設定した。
【0056】
表1に示す全ての試料を合成し、粉末X線回折を用いて試験した。これらの回折パターンの幾つかを図2及び3に示す。CelRefを用いてこれらのスペクトルを分析して、hkl値をピークに割り当てた。
【0057】
走査電子顕微鏡測定(SEM)を用いて、合成した試料のより詳細な分析を得た。Hsu及びBalkusによるレポートにおいては、AFI骨格のSEM分析は図4〜6に示すものと同様の球状粒子を示すことが報告されている。彼らが報告する試料は純粋なAlPO−5であり、一方、ここで報告するCoTiAlPO−5、CoMnAlPO−5、及びMnTiAlPO−5のSEM分析は、良好に一致し、同様の形態の粒子を示す。図4〜6に示す3つの画像は、それぞれの試料に関してとった高、中、及び低倍率の画像の例を与え、AlPO−5骨格を示している。更に、下記に示す画像(及び集めた複数の他の画像)も、全試料にわたって一致した粒子の寸法及び形状を示し、他の生成物(例えばTiO)を示すものはなかった、粒径の測定値をとり、表4に示した。これらは試料間で大きく変動し、幾つかの報告は10〜60μmの範囲のAFI粒子を示した。ここで見られる変動は、おそらくは異なる合成条件又は含ませる金属によるものであると思われる。
【0058】
【表4】

【0059】
アンモオキシム化ゲル組成データ:
下記にアンモオキシム化ゲル組成データを列記する。
【0060】
【表4−2】

【0061】
シクロヘキサノンのアンモオキシム化:
触媒(1g)を10g(0.101モル)のシクロヘキサノンと共に反応容器に加えた後、密封し、30barの窒素で20分間パージした。圧力を解除し、23.8g(0.204モル)の水酸化アンモニウム(水中30%)をシリンジによって加えた後、30barの空気を加えた。830rpmで攪拌しながら反応容器を60℃に加熱し、試料を20分間隔で取り出した。試料を遠心分離した後、0.2μLをガスクロマトグラフ中に注入した。
【0062】
触媒反応結果:
か焼した試料について触媒反応試験を行って、シクロヘキサノンのアンモオキシム化を示した。これらの結果を下表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
Parr圧力反応器内において、アンモニア及び空気を用いてシクロヘキサノンをシクロヘキサノンオキシムに転化させた。初期の結果は、CoMnAlPO−5及びCoTiAlPO−5を用いるとオキシムに関する良好な転化率及び選択率を示す。CoTiAlPO−5は、最も良好なターンオーバー(100〜150)も与えながら、最も良好な選択率を与え、反応全体にわたって85%より大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトン又はアルデヒドを、定性一般式(I):
AlPO−5 (I)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属原子であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒の存在下でアンモニア及び酸素と反応させることを特徴とするレドックスアンモオキシム化方法。
【請求項2】
が(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の遷移金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、Ge(IV)、Sn(IV)、Ti(IV)、Re(IV)、V(IV)、及びこれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
がTi(IV)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
触媒が、CoIIITiIVAlPO−5、MnIIITiIVAlPO−5、FeIIITiIVAlPO−5、CrVITiIVAlPO−5、CuIIITiIVAlPO−5、VTiIVAlPO−5、及びRuIIITiIVAlPO−5から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒が、CoIIITiIVAlPO−5、MnIIITiIVAlPO−5、及びFeIIITiIVAlPO−5から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
が、Co(III)、Mn(III)、Fe(III)、Cr(VI)、Cu(III)、V(V)、及びRu(III)から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
が、Co(III)、Mn(III)、及びFe(III)から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アンモニアが水酸化アンモニウム水溶液の形態である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
40〜200℃の温度において行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
50〜90℃の温度において行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
0.5MPa(5bar)〜10MPa(100bar)の圧力において行う、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
出発物質がケトンである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
反応生成物がオキシムである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
シクロヘキサノンをシクロヘキサノン−オキシムに転化させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
オキシムをε−カプロラクタムに転化させる、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
定性一般式(I):
AlPO−5 (I)
(式中、Mは、レドックス触媒能を有する少なくとも1種類の遷移金属原子であり;
は、(IV)の酸化状態の少なくとも1種類の金属であり;
及びMは互いに異なり;MAlPO−5タイプの構造中のリン原子の一定割合はM原子によって置換されている)
を有するアルミノホスフェートベースのレドックス触媒。
【請求項18】
式:COIIITiIVAlPO−5又はMnIIITiIVAlPO−5を有する、請求項17に記載の触媒。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−514628(P2012−514628A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544919(P2011−544919)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000010
【国際公開番号】WO2010/079324
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(510004240)ユニバーシティー・オブ・サザンプトン (2)
【Fターム(参考)】