説明

アンモニア分解剤又はアンモニア含有排ガスの浄化方法。

【課題】 廃水中から大気中に放散されたアンモニア含有排ガス又は半導体製造工程等で使用されたアンモニアガス等の有害アンモニアガスを低温において無害化するためのアンモニア分解剤又はアンモニア含有排ガスを浄化する方法の提供。
【解決手段】 アンモニア含有排ガス中のアンモニアガスを過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンによりアンモニアを20〜100℃程度の低温で分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア含有排ガス等に含まれるアンモニアガスの分解剤又はアンモニア含有排ガスの浄化方法に関する。
より詳しくは、本発明は、廃水中から大気中に放散されたアンモニア含有排ガスあるいは半導体製造工程等で使用されたアンモニアガス等の有害アンモニアガスを低温において無害化するためのアンモニア分解剤又はアンモニア含有排ガスの浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術文献]
【特許文献1】特開昭51−6352号公報
【特許文献2】特開平2−245285号公報
【特許文献3】特開平3−258388号公報
【特許文献4】特開平8−961号公報
【特許文献5】特開2001−187391
【非特許文献1】「無機化学」、垣花秀武外2名著、昭和59年11月5日、(株)廣川書店発行」第150〜151頁
【非特許文献2】「電気化学および工業物理化学」 第70巻第2号 第91〜93頁
【0003】
屎尿あるいは不飽和ニトリル製造の際のアンモニアオキシオデーション反応から排出される廃水等にはアンモニアが含有されており、そのアンモニア含有廃水中のアンモニアは、富栄養化あるいは水質汚濁の原因物質であり、それによる汚染回避のために該廃水は浄化処理される。
その際のアンモニア除去法に関しては、生物法、イオン交換法あるいはアンモニアストリッピング法等があるが、この中において最も簡便な方法はアンモニアストリッピング法とされている。
【0004】
この方法は、それら廃水中のアンモニアを大気中に放散させ、無害化する方法であり、その際には、通常廃水中にアルカリを添加し、大量の空気と接触させてアンモニアを大気中に放散させ、このアンモニア含有空気を浄化処理するものである。
この浄化処理方法としては酸化触媒を用いた接触分解反応による方法があり、その酸化触媒としては、クロム、白金、バナジウム、ニッケル、コバルト等の各種金属を利用することが以前から知られている(特許文献1、2、3)。
【0005】
さらに、アンモニア及びシアンの両ガスを大気中に放散させた排ガスを銅酸化物と他の金属酸化物との混合酸化物を酸化触媒として接触分解反応により浄化することも、その後提案されている(特許文献4)。
しかしながら、それら触媒を利用する接触分解方法は、いずれも250〜350℃程度の温度を必要とする加熱反応であり、本発明者らは、より低温においてアンモニアガスを分解浄化する方法を開発すべく、各種の検討及び先行技術文献の調査を行った。
【0006】
その結果、アンモニアガスが加熱下で酸化銅との下記(式1)の反応で分解することが大分以前から知られている事実を文献から見つけた(非特許文献1)。
NH3+3CuO→3Cu+N2+3H2O (式1)

そのような事実があるもののアンモニアガスの分解浄化技術の開発は、前記したとおり酸化触媒による接触分解反応に集中されており、それにもかかわらず未だもって該分解反応では低温においてアンモニアガスを分解する路は拓かれていない。
【0007】
そのようなことから、本発明者らは、誰もが注目していないアンモニアガスが酸化銅との反応で分解することに着目し、各種金属酸化物によるアンモニアガスの分解を数多く試みた。
その結果、前記非特許文献1に記載の事実とは異なり、分解効率は異なるものの前記酸化銅を含む各種金属酸化物により比較的低温で分解する事実が判明し、かつ極めて分解効率の優れた金属酸化物が存在することも見出した。
すなわち、バナジウム酸化物又はマンガン酸化物がアンモニアガス分解性能に特に優れていることを見出し、既に特許出願した(特願2004−159203)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許出願後も更なる改良を行うべく継続して研究を進めており、アンモニアガス分解性能においてはバナジウム酸化物に比し劣るものの、購入価格が格段に低くかつ乾電池からの廃棄物も存在することからマンガン酸化物のアンモニアガス分解性能に注目した。
そのようなことから、このマンガン酸化物の製造方法について調査したところ、多くの製造方法が存在することが判明したので、製造方法の違いによりアンモニアガスの分解性能に差異があるが否かについて着目し、各種の方法により製造されたマンガン酸化物を用いてアンモニアガス分解性能試験を行った。
【0009】
なお、その製造方法を列挙すると下記のとおりのものがあるが、2酸化マンガンの工業的生産に採用されている方法は(1)の電解による方法である。
(1)硫酸酸性下にある硫酸マンガン溶液の電解による方法
(2)酸化マンガンの酸素存在下における炉中での加熱による方法
(3)硝酸マンガンを200℃前後で長時間加熱する方法
(4)炭酸マンガンと塩素酸カリウムの混合物を300℃程度で加熱する方法
(5)炭酸マンガンの乾式酸化による方法
(6)炭酸マンガンに硝酸アンモニウム添加し加熱する方法
(7)過マンガン酸カリウムとマンガンイオンとを湿式反応させる方法(特許文献5)
(8)過マンガン酸カリウムと硝酸マンガンとを湿式反応させる方法(非特許文献2)
【0010】
その結果、マンガン酸化物のアンモニアガス分解性能はマンガン酸化物の製造方法により差異があり、前記(7)及び(8)をヒントにして、過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを反応させて2酸化マンガンを製造したところ、その2酸化マンガンには、意外にも最もアンモニア分解性能に優れたバナジウム酸化物よりも一段と優れたアンモニアガス分解性能を有することが判明した。
したがって、本発明は、アンモニアガスを低温で、かつ効率的に分解浄化することのできる特定の製法により製造されたマンガン酸化物を有効成分とするアンモニアガス分解剤及び同ガス含有排ガスの浄化方法を提供することを発明の解決すべき課題、すなわち目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決したアンモニア分解剤及びアンモニア含有排ガスの浄化方法を提供するものであり、前者のアンモニア分解剤は、過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンを含有することを特徴とするものである。
また、後者のアンモニア含有排ガスの浄化方法は、過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンによりアンモニアを分解することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においてアンモニア含有排ガスの分解に使用する特定の製法により製造された2酸化マンガンは、各種酸化物の中でも、際だって優れたアンモニア分解性能を有しており、アンモニアと反応することにより、触媒を用いた接触反応によるアンモニアの分解のように250〜350℃というような高温ではなく、60℃程度の低温で、かつ短時間にほぼ100%分解することができる優れたものである。
具体的には、本発明は濃度45,000ppmのアンモニアを60℃程度の低温で、1時間後約100ppmの濃度まで(すなわち、ほぼ100%)分解することができる優れたものである。
【0013】
また、マンガン酸化物とバナジウム酸化物は、前記したとおり各種酸化物の中でもアンモニア分解性能に優れており、既に特許出願しているが、本発明が採用した特定の製法により製造された2酸化マンガンは、そのバナジウム酸化物と比較しても、一段と優れたアンモニア分解性能を有しており、しかもバナジウム酸化物に比較すると格段に安価に入手することができ、この点でも優れている。
なお、本発明が採用した特定の製法により製造された2酸化マンガンは、市販の2酸化マンガンあるいは電解法により製造した2酸化マンガンに比し、アンモニア分解性能が格段に優れていることは勿論であり、そのことは図1に図示するとおりである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための最良の形態を含む、発明の実施の態様に関し詳細に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明のアンモニア含有排ガスの浄化方法においてアンモニアの分解に用いる2酸化マンガンは、特定の方法により製造されたものを用いるものであり、本発明では、これを用いることによりアンモニアを極めて効率的に分解することができる。
【0015】
すなわち、本発明では、アンモニアガスの分解に過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造したものを用いることを特徴とするものである。
その過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとが溶解された溶液、好ましくは水溶液は、両化合物が反応し、2酸化マンガンを生成するものであり、その反応は加温下では比較的円滑に進行し数時間で終了する。
なお、この生成反応の反応温度を後記する70℃以上、反応水溶液の沸点以下の範囲に選定した場合には、反応時間は0.5〜3時間程度を要することになる。
【0016】
その反応の進行状態は、過マンガン酸カリウムの紫色の退色状態を観察することにより把握できる。
すなわち、その反応は、進行するにしたがい過マンガン酸カリウムの存在に伴う紫色が退色し、反応が完全に終了し過マンガン酸カリウムが残存しなくなると紫色が消失するので、反応の進行状態は溶液の変色状態を観察することにより把握できる。
【0017】
この反応時における水溶液中の過マンガン酸カリウム及び硫酸マンガンの濃度については、反応により2酸化マンガンが製造できる限り、特に限定されることはないが、2酸化マンガンの生成反応を効率的に行うには、過マンガン酸カリウムの濃度は1〜32wt%がよく、2〜10wt%が好ましい。
他方、硫酸マンガンの濃度は1〜40wt%がよく、20〜30wt%が好ましい。
【0018】
その反応温度についても、2酸化マンガンが生成する限り、特に限定されることはないが、その反応は加温状態の方が良好に進行するので加熱下が行うのがよく、大気圧下において70℃以上、反応水溶液の沸点以下の範囲で良好に進行するので、エネルギーの効率的利用の点からこの範囲がよい。
なお、反応温度の上限である水溶液の沸点については、水溶液中に過マンガン酸カリウム及び硫酸マンガンが溶解していることにより沸点上昇があるので、その上限温度を具体的温度で示すと120℃程度がよい。
【0019】
過マンガン酸カリウム及び硫酸マンガンの両者を含有する水溶液の調製方法については、その水溶液が調製できる限り、特に制限されることなく各種の方法が使用できることは勿論である。
それには、予め用意した水の中に両化合物を直接添加し溶解する方法、あるいは過マンガン酸カリウムを予め単独で溶解した溶液と硫酸マンガンを予め単独で溶解した溶液とをそれぞれ用意し、その後両溶液を混合する方法等が例示できるが、後者の方が効率的に両化合物を溶解できることから好ましい。
なお、後者の場合においては、両溶液を混合する際、濃度が低い方が両溶液を混合したときに、分散し、凝集し難いので、溶液の濃度が低い点で過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を添加するのが好ましい。
【0020】
生成した2酸化マンガンは、反応終了後反応溶液から分離し、洗浄精製し、乾燥してアンモニア分解剤として使用するのが好ましい。
その際の固液分離、洗浄及び乾燥については、特に限定されることはなく、通常使用されている各種手段が適宜採用できるが、固液分離には濾過、遠心分離、フィルタープレス、真空濾過、洗浄には固液分離後の水洗、固液分離機内での同時水洗、乾燥にはスプレードライヤー、真空乾燥等が例示できる。
【0021】
本発明において浄化対象とする排ガスについては、アンモニアを含有するガスであれば、特に制限されることはなく各種の排ガスに適用可能であり、それには、屎尿あるいは生活排水からのストリッピング排ガス、不飽和ニトリル製造の際のアンモニアオキシオデーション反応における廃水からのストリッピング排ガス、半導体製造工程等において使用後排出された有害アンモニアガス、又は製鉄所においてコークス製造時に発生する有害アンモニアガス含有排ガス等が例示できる。
その浄化対象とする排ガス中のアンモニア濃度は100,000ppm以下がよく、好ましくは5,000ppm以下がよい。
【0022】
そして その分解時の反応温度についても特に制限されることはなく各種温度が採用できるが、本発明の浄化方法の特色が低温でアンモニアを分解できることにあるから、20〜100℃がよく、好ましくは50〜80℃がよい。
さらに、使用する分解反応装置についても特に制限されることなく各種形態の装置が利用可能であり、それには固定床充填方式、ハニカム状フィルター充填方式、あるいは流動床方式等の装置が例示できる。
また、反応時間についても特に制限されることはないが、可能な限り短い方が好ましいので、24時間以内がよく、好ましくは0.5〜2時間がよい。
【実施例1】
【0023】
以下に、本発明のアンモニア分解剤として用いる2酸化マンガンの製造例及びそれを用いたアンモニアガスの分解性能試験例を実施例1として示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
なお、比較例として市販の2酸化マンガン(関東化学社製)及び電解法により製造された2酸化マンガン(東ソー社製)を用いたアンモニアガスの分解性能試験例も合わせて示す。
【0024】
[2酸化マンガンの製造例]
過マンガン酸カリウムを加温した80℃の水に添加して溶解し、濃度2.2%の過マンガン酸カリウム溶液を調製した。
これとは別に用意した水に硫酸マンガンを添加して溶解し、濃度33.3%の硫酸マンガン溶液を調製した。
次いで、過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を添加して両者を攪拌混合し、その後も攪拌を継続して2酸化マンガンの生成反応を行った。
【0025】
その混合を開始してから4時間経過後には過マンガン酸カリウムの残留を示す紫色の着色も消失したので反応を終了させた。
その後、生成した2酸化マンガンを分離するために、濾過を行い、濾過後固体の2酸化マンガンを洗浄するために水洗を行った。
水洗後、2酸化マンガンを乾燥機内に入れ、そこで40℃にて48時間乾燥を行った。
この得られた精製2酸化マンガンをアンモニアガスの分解性能試験に用いた。
【0026】
その際のアンモニア分解試験方法は、以下のとおりである。
[試験方法]
前記製造例で製造した2酸化マンガン、市販の2酸化マンガン及び電解法により製造した2酸化マンガンをそれぞれ10g採取し、容積5,000mLのテトラバックに入れ封印する。
前記封印後、テトラバックにアンモニアガス(窒素雰囲気、濃度5%)を1Lのシリンジで4回採取し、4Lを注入する。
前記注入後、テトラバックの温度を60℃の恒温槽に24時間保持し、図1に示す経過時間後ごとに50mLづつ採取し、その採取したガスのアンモニア濃度を検知管で測定する。
【0027】
その試験結果は、図1に示すとおりであり、それによれば、本発明の2酸化マンガンを用いた場合には、試験開始当初45000ppm有ったアンモニアが試験開始1時間後には100ppm程度に減少していることがわかり、アンモニアが1時間でほぼ100%分解することがわかる。
それに対して、市販の2酸化マンガンあるいは電解法により製造した2酸化マンガンを用いた場合には、24時間後においても100ppmより多い280ppmのアンモニアが残留している。
なお、比較例において使用した2酸化マンガンは共に市販であるが、「市販の2酸化マンガン」と表記したものは、製法が不明のため前記のとおりの表記とした。
【0028】
以上のとおりであるから、この試験結果から、本発明の過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンを有効成分とするアンモニア分解剤が極めて優れたアンモニア分解性能を有することが把握できる。
さらに、そのアンモニア分解が60℃で行われたことからして、本発明のアンモニア分解剤が低温においてアンモニア分解性能を発揮するものであることも理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のアンモニア分解剤によるアンモニア分解性能試験結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンを含有することを特徴とするアンモニア分解剤。
【請求項2】
過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンとを湿式反応させて製造した2酸化マンガンによりアンモニアを分解することを特徴とするアンモニア含有排ガスの浄化方法。
【請求項3】
アンモニアの分解を20〜100℃で行う請求項2に記載のアンモニア含有排ガスの浄化方法。
【請求項4】
アンモニア濃度が100,000ppm以下である請求項2又は3に記載のアンモニア含有排ガスの浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−175376(P2006−175376A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372194(P2004−372194)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】