説明

アンモニア分解触媒及びそれを用いたアンモニア分解方法

【課題】高温下で高濃度のアンモニアを含む反応ガス中のアンモニアを長期間安定して効率よく水素と窒素に分解するためのアンモニア分解用触媒及び方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%、窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で分解するために用いる触媒であって、当該触媒がハニカム状セラミックス製成形体に触媒成分を被覆したことを特徴とするアンモニア分解触媒及び当該触媒を用いたアンモニアの分解方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解して水素を得るためのアンモニア分解触媒及び当該触媒を用いたアンモニアの分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニアを分解し水素を得る技術は多く提案されている。例えば、アンモニア分解触媒としては、鉄と希土類などの酸化物との複合体からなるアンモニア改質触媒が提案されている(特許文献1(請求項1)参照)。当該触媒は金属鉄を用いることで、窒素を触媒中に吸蔵し触媒的作用を奏するものである。当該触媒は、アンモニア分解反応に用いる際には、粉末状として用いられるものである。また、担体に触媒成分を担持させた複合体を用いる例として、例えば、炭素系基材にアルカリ土類金属及び遷移金属からなる群から選択される1種の元素を担持させた複合体触媒を粉体、ペレット状として用いて、500℃〜1200℃でアンモニアを分解して水素を得ようとする技術(特許文献2(請求項1,2)参照)が提案されている。さらに、ルテニウムとアルカリ金属とがアルミナ粒子担体に担持されたアンモニア分解触媒を用いて、低温(500℃〜700℃)でアンモニアを分解して水素を得る技術(特許文献3(請求項1、13、段落[0049]))も提案されている。
【0003】
また、担体に触媒成分を担持させた複合体を用いる例として、触媒成分であるルテニウムをα−アルミナに担持して反応温度300℃〜800℃で、アンモニアを水素と窒素に分解する技術が開示(特許文献4(請求項1、3))されている。当該特許文献4では、触媒の形状について、球状、円柱形が提案されている。
【0004】
ところで、実際の反応器に触媒を充填して使用する場合には、特に粉末状触媒の場合には圧力損失が高くなるために触媒充填量に制限があるという問題がある。さらに、粉末状触媒の場合には、該粉末状触媒が反応器から飛散するという問題がある。一方、球状及び円柱形に成形された触媒の場合には、反応器中の充填状態が不十分であると、反応中に充填触媒自体が反応器内で振動などを起こし、これら振動などにより触媒自体が磨耗して反応率が低下するという問題点がある。また、これまで提案されているような粉末状、球状及び円柱形の触媒を充填しようとすると反応器の形状、並びに、効率的かつ安定な運転条件の選定等において実用上、多くの制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−300314号公報
【特許文献2】特開2001−261302号公報
【特許文献3】特開平10−85601号公報
【特許文献4】特開平08−84910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献等に提案されているような従来技術では、アンモニア濃度、反応温度、原料供給時の空間速度、ガス線速、長時間の連続反応において、実用上十分に満足できるものではなかった。
【0007】
ここで、金属製の成型体基材は熱伝導性に優れ、反応応答性が良く、反応温度、ガス濃度が変化する状況で好ましい性質を有するので、実用性の高い触媒担持用成型体基材として用いることが期待される。本発明者らは、アンモニア、水素及び酸素を含むガスを、触媒成分を金属製成型体基材の一つであるフェライト系またはオーステナイト系ステンレス鋼製成型体に被覆した触媒を用いてアンモニア分解し水素を得る反応を行った。当該反応によると、低温、かつ、短時間においては支障なくアンモニア分解反応を継続することができるが、反応温度が500℃以上において当該分解反応を継続すると、当該成型体が劣化し、触媒用成型体としては好ましくない状態になることが分かった。
【0008】
また、上記先行技術として用いられる粉体状の触媒を用いると、定常使用では問題はないが、反応温度、ガス濃度、ガス線速が変化する条件下では、反応活性において一定の性能を得ることができず、先行技術を適用することが難しいことが分かった。
【0009】
本発明の課題はアンモニアを分解し水素を得る技術において、高温耐久性を有し、かつ、従来提案されていた粉末状、球状及び円柱形触媒における実用上の問題点を克服できるアンモニア分解触媒、及びその触媒を用いたアンモニアの分解方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究の結果、下記構成を見出し、発明を完成した。
【0011】
第一発明は、アンモニア(NH3)量が1〜100体積%、水素(H2)量が0〜10体積%、酸素(O2)量が0〜20体積%、窒素(N2)量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で分解するために用いる触媒であって、当該触媒がハニカム状セラミックス製成形体に触媒成分を被覆したことを特徴とするアンモニア分解触媒である。好ましくは、当該ハニカム状セラミックス製成形体が、コージェライト、ムライトまたは炭化珪素を主成分とするものであり、貫通孔の断面形状は四角形、六角形又は波型形が好ましい。また、前記触媒成分の被覆量はアンモニア分解触媒1リットル当たり0.1〜600gであることが好ましい。
【0012】
第二発明は、前記触媒を用いて、アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%、窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で水素と窒素に分解することを特徴とするアンモニアの分解方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンモニア、水素及び酸素を含むガスを、高温下に、ガス濃度・ガス量が変化する条件下で長時間に渡って安定的にガス中のアンモニアを分解して水素を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第一発明は、アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%、窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で分解するために用いる触媒であって、当該触媒がハニカム状セラミックス製成形体に触媒成分を被覆したことを特徴とするアンモニア分解触媒である。
【0015】
第一発明に用いる反応ガスは、アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%、窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である混合ガスである。
【0016】
アンモニア量は、反応ガス中において1〜100体積%、好ましくは10〜90体積%、更に好ましくは20〜80体積%である。水素量は、反応ガス中において0〜10体積%、好ましくは0〜5体積%である。酸素濃度は、反応ガス中において0〜20体積%、好ましくは4〜16体積%、更に好ましくは6〜12体積%である。なお窒素濃度は、反応ガス中において0〜80体積%、好ましくは0〜50体積%、更に好ましくは0〜40体積%である。但し、この場合、アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%である。また、アンモニアに対する酸素の体積比(酸素/アンモニア)は、0.75未満であり、好ましくは0.1以上0.5以下、さらに好ましくは0.12以上0.3以下である。
【0017】
上記残部としては、水蒸気、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素などが挙げられる。これらの残部成分量は、反応ガス中において0〜5体積%である。
【0018】
前記反応ガス中のアンモニアを分解させる際の反応温度は100〜1200℃、好ましくは100〜1000℃である。反応ガスは触媒に対して、空間速度(SV)で500〜500000hr-1、好ましくは5000〜150000hr-1である。ガス線速(LV)は0.2〜80Nm(ノルマルメートル)/秒である。
【0019】
本発明で用いる成形体は貫通孔を有するセラミックス製であり、好ましくはコージェライト、ムライト又は炭化珪素である。当該セラミックス成形体の貫通孔の断面形状は、四角形、六角形又は波型形が好ましい。
【0020】
当該貫通孔(以下、「セル」と称する場合がある。)の個数は、反応ガスが当該成形体を通過する断面1平方インチ(6.45cm2)当たり100〜900個が好ましく、更に好ましくは当該1平方インチ当たり100〜600個である。当該1平方インチ当たりの貫通孔が、100セル以上であれば当該成型体の幾何学的表面積が大きくなるため反応効率がより向上し、900セル以下であれば、個々のセルが小さくなりすぎず、触媒成分を被覆する際のセル開口部の目詰まりがより抑制される。各貫通孔の隔壁の厚さは2〜20ミル(50.8〜508μm)、好ましくは2〜15ミル(50.8〜381μm)である。
【0021】
当該触媒に用いる触媒成分は、アンモニアを水素に分解することができるものであれば何れのものでも使用することができる。前記触媒成分としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、マンガン、ランタン、セリウム、ネオジム等の遷移金属元素を含むものが好ましい。これらの中でも、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の貴金属元素がより好ましい。これらの触媒成分は適宜、単独、併用して用いることができる。前記触媒成分は触媒1リットル当たり0.1〜600gが好ましく、より好ましくは5〜600g、更に好ましくは50〜500gである(以下、「g/リットル」と称する場合がある)。
【0022】
前記触媒成分は、アルミナ、シリカ、ジルコニアまたはチタニア等の高比表面積を有する耐火性無機酸化物に担持して用いることができる。当該耐火性無機酸化物は、触媒1リットル当たり0〜300gが好ましく、特に触媒成分として遷移金属酸化物を用いる場合は0〜100gがより好ましく、触媒成分として貴金属を含むときは10〜300gがより好ましい(以下、「g/リットル」と称する場合がある)。
【0023】
触媒の調製方法は通常の手段を用いることができ、例えば(1)触媒成分である金属または酸化物を湿式粉砕して得られるスラリーを当該成形体に被覆する方法、(2)触媒成分の水性液を当該成形体に被覆し、場合により乾燥・焼成する方法、(3)触媒成分を耐火性無機酸化物に担持した粉体を湿式粉砕して得られるスラリーを当該成形体に被覆する方法、(4)触媒成分である金属または酸化物と、耐火性無機酸化物とを湿式粉砕して得られるスラリーを当該成形体に被覆する方法、(5)耐火性無機酸化物を湿式粉砕し当該成形体に被覆し、次いで触媒成分を更に被覆する方法等がある。
【0024】
第二発明は、上記触媒を反応ガスの流れに設置し、上記の温度、空間速度等により、アンモニアを分解し、窒素、水素を得るものである。当該触媒は単一のものに限定されるものでなく、場合によっては複数の触媒を用いることもできる。複数の触媒を用いるときは、単一の当該成形体に複数の触媒成分を被覆して用いることもでき、個々の触媒を反応ガスに対して直列、並列に設置して用いることもできる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例と比較例を用いて発明を更に詳細に説明するが本発明の効果を有するものであれば以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.触媒の製造
1−1.触媒A1(実施例1)
γ−アルミナに白金を5質量%担持した粉体(触媒成分A)をボールミルにより湿式粉砕を行い、水分散スラリーを得た。当該スラリーにコージェライトハニカム(横断面が1平方インチ当たり400個のガス流通セルを有している。)を浸漬した後、余剰のスラリーを圧縮空気により吹き飛ばした。次いで、150℃で5時間乾燥した後、500℃で1時間焼成し、触媒A1を得た。当該触媒A1には、触媒1リットル当たり触媒成分Aが200g担持されていた。
【0027】
1−2.触媒B1(実施例2)
γ−アルミナにルテニウムを5質量%担持した粉体(触媒成分B)をボールミルにより湿式粉砕を行い、水分散スラリーを得た。当該スラリーにコージェライトハニカム(横断面が1平方インチ当たり400個のガス流通セルを有している。)を浸漬した後、余剰のスラリーを圧縮空気により吹き飛ばした。次いで、150℃で5時間乾燥した後、450℃で1時間焼成し、触媒成分Bにより被覆したハニカムを得た。次いで、水素(5体積%)/窒素雰囲気下において600℃で1時間、還元処理を行い、触媒B1を得た。当該触媒B1には、触媒1リットル当たり触媒成分Bが250g担持されていた。
【0028】
1−3.触媒a1(比較例1)
実施例1において、コージェライトハニカム担体を、Fe−20Cr−5Alからなるメタルハニカム担体(横断面が1平方インチ当たり400個のガス流通セルを有している。)に変更した以外は、触媒A1の製造(実施例1)と同様の方法で、触媒成分Aにより被覆した触媒a1を得た。当該触媒a1には、触媒1リットル当たり触媒成分Aが180g担持されていた。
【0029】
1−4.触媒b1(比較例2)
実施例2において、コージェライトハニカム担体を、Fe−20Cr−5Alからなるメタルハニカム担体(横断面が1平方インチ当たり400個のガス流通セルを有している。)に変更した以外は、触媒B1の製造(実施例2)と同様の方法で、触媒成分Bにより被覆した触媒b1を得た。当該触媒b1には、触媒1リットル当たり触媒成分Bが、200g担持されていた。
【0030】
2−1.アンモニア分解反応1(触媒評価1)
触媒A1がガス入口側に、触媒B1が出口側になるように反応器に充填し、アンモニア(NH3)が57.1体積%、窒素(N2)が33.3体積%、酸素(O2)が8.9体積%、残部アルゴン(Ar)からなるガスを用いて、反応試験を30時間継続した。触媒入口温度は200℃、ガスのSVは36221hr-1、触媒A1と触媒B1の体積比(A1/B1)1/3でアンモニア分解反応を行った。初期及び30時間反応後のH2収率を表1に示す。30時間反応後のH2収率は、反応開始初期のものと変化がなかった。また、触媒層最高温度は1000℃、触媒層出口温度は470℃で30時間の反応中に変化はなかった。なお、H収率は、以下の式で求めた。また、30時間反応後のコージェライトハニカム触媒を反応器から取り出して観察したところ、セル形状の変形・崩壊等の構造劣化は全く発生していなかった。
【0031】
【数1】

【0032】
【表1】

【0033】
2−2.アンモニア分解反応2(触媒評価2)
触媒a1がガス入口側に、触媒b1が出口側になるように反応器に充填し、アンモニアが57.1体積%、窒素が33.3体積%、酸素が8.9体積%、残部アルゴンからなるガスを用いて反応試験を30時間継続した。触媒入口温度は200℃、SVは34996hr-1、触媒a1と触媒b1の体積比(a1/b1)は1/5でアンモニア分解反応を行った。初期及び30時間反応後のH2収率を表2に示す。メタルハニカム触媒を用いた場合、30時間反応後のH2収率は、反応開始初期のものと比較して明らかな低下がみられた。触媒層最高温度、触媒層出口温度についても、反応開始初期がそれぞれ1000℃、500℃であったものが、30時間反応後は、それぞれ1000℃、565℃に変化がみられた。また、30時間反応後のメタルハニカム触媒を反応器から取り出して観察したところ、セル形状の変形・崩壊等の著しい構造劣化が観察された。
【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明はアンモニア分解反応に適用することができ、アンモニアを分解し水素を得る技術に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%及び窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で分解するために用いる触媒であって、
当該触媒が、ハニカム状セラミックス製成形体に触媒成分を被覆したことを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記ハニカム状セラミックス製成形体が、コージェライト、ムライトまたは炭化珪素を主成分とするものである請求項1記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記ハニカム状セラミックス製成形体が有する貫通孔の断面形状が四角形、六角形又は波型形である請求項1または2記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記触媒成分の被覆量が、アンモニア分解触媒1リットル当たり0.1〜600gである請求項1〜3のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒を用いて、
アンモニア量が1〜100体積%、水素量が0〜10体積%、酸素量が0〜20体積%及び窒素量が0〜80体積%及び残部(アンモニア、水素、酸素、窒素及び残部の合計量が100体積%)である反応ガス中のアンモニアを、反応温度100〜1200℃で水素と窒素に分解することを特徴とするアンモニアの分解方法。

【公開番号】特開2012−5926(P2012−5926A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141930(P2010−141930)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】