説明

アンモニア捕捉薬を使用する処置方法

本発明は、フェニルアセチルグルタミンの尿排泄および/または総尿窒素の測定によって、窒素貯留容態またはアンモニア蓄積障害を処置するために使用されるPBAプロドラッグの用量およびスケジュールを決定し、ならびにPBAプロドラッグの用量を調整する方法を提供する。本発明は、患者の食事性タンパク質摂取量または患者に施した以前の処置に基づいて、PBAプロドラッグの適切な投薬量を選択する方法を提供する。本方法は、経口投与用アンモニア捕捉薬を投与される被験体に対する投与レジメンの選択または修正に適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2008年8月29日に出願された米国仮特許出願第61/093,234号に対する優先権の利益を主張し、この仮特許出願は、本明細書においてその全体が参照として援用される。本出願はまた、2008年8月29日に出願された米国仮特許出願第61/048,830号(発明の名称:「Treating special populations having liver disease with nitrogen−scavenging compounds」、発明者:Sharron Gargosky)に関連する。
【0002】
技術分野
本発明は、身体からの廃棄窒素の排泄(elimination)を補助する化合物を投与する、窒素貯留容態(nitrogen retention state)(特に尿素回路障害(UCD)および肝性脳症(HE)の併発で悪化した肝硬変症)を有する患者の処置に関する。化合物を小分子薬物として経口投与することができ、そして本発明は、患者にかかる化合物を送達させ、適切な投薬量を選択する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
薬物投与は、通常、処置反応の臨床的評価と併せて、血中活性薬物種レベルの測定に基づく。しかし、本発明は、フェニル酢酸(PAA)の一定のプロドラッグについて、プロドラッグ(例えば、PBA)またはプロドラッグから形成されたPAAの血中レベルの測定が信頼できないという証拠に基づく。さらに、血中アンモニアレベルの測定による処置効果の評価も都合が悪い、なぜなら慎重に管理された条件下で複数の血液サンプルを採取することが必要であるからである。血中アンモニアレベルは、食事性タンパク質を含む種々の要因によって影響を受けるので、血中アンモニアレベルは、また薬物が排泄のために動員されるアンモニア量の直接的な測定を提供することができない。本発明は、PBAレベルの測定がその有効性の評価において信頼できないという点で、フェニル酪酸(PBA)のプロドラッグがPBAナトリウムと同様に挙動することを証明している。本発明は、窒素貯留容態を有する患者(特に、肝疾患および肝性脳症の臨床症状を有する患者ならびにUCD患者)における新規の投与方法を提供する。本発明は、特に、遊離するか代謝されてフェニル酢酸を形成するプロドラッグ(すなわち、PAAのプロドラッグ)および代謝されてPBAを形成するプロドラッグに適用可能である。
【0004】
肝性脳症は、肝硬変症または一定の他の肝疾患型を有する患者で頻繁に起こる神経学的徴候スペクトラムをいう。
【0005】
尿素回路障害は、アンモニアからの尿素の合成に必要な酵素または輸送体のいくつかの遺伝性欠損症を含む。尿素回路を図1に示す。図1は、どのようにして一定のアンモニア捕捉薬が過剰なアンモニアの排泄を補助するように作用するのかについても示す。これらの酵素委員会(EC)番号および遺伝型を含む酵素には、以下が含まれる。
・カルバミルリン酸シンテターゼ(CPS;EC番号6.3.4.16;常染色体劣性)、
・オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC;EC番号2.1.3.3;X連鎖した)、
・アルギニノコハク酸シンテターゼ(ASS;EC番号6.3.4.5;常染色体劣性)、
・アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL;EC番号4.3.2.1;常染色体劣性)、
・アルギナーゼ(ARG;EC番号3.5.3.1;常染色体劣性)、および
・N−アセチルグルタミンシンテターゼ(NAGS1;EC番号2.3.1.1;常染色体劣性)
尿素回路酵素欠損症の多数の特徴を模倣するミトコンドリア輸送体欠損容態(state)には、以下が含まれる。
・オルニチントランスロカーゼ欠損症(高オルニチン血症、高アンモニア血症、ホモシトルリン尿症、またはHHH症候群)
・シトリン(アスパルテート・グルタメート輸送体)欠損症
本発明の方法によって処置可能にするUCDおよび肝性脳症の共通の特徴は、体内の過剰な廃棄窒素の蓄積および高アンモニア血症である。正常な個体では、身体の固有の廃棄窒素排泄能力が身体の廃棄窒素産生よりも高いので、廃棄窒素は蓄積されず、アンモニアは有害レベルまで増加しない。窒素貯留容態(UCDまたはHEなど)を有する患者については、相当量のタンパク質を含む通常の食事に基づいた身体の固有の廃棄窒素排泄能力は身体の廃棄窒素産生よりも低い。結果として、窒素貯留障害(nitrogen retention disorder)を有する患者の体内に窒素が増加し、および、通常は血中アンモニアが過剰になる。これは種々の有毒作用を有し、過剰アンモニアの排泄を補助する薬物は、かかる障害の総括的管理ストラテジーの重要な部分である。
【0006】
窒素貯留容態を有する患者におけるアンモニアの有毒レベルへの増加を回避するために、タンパク質の食事性摂取(外因性廃棄窒素の主な供給源)を患者の過剰なアンモニアを排泄させる能力と釣り合わせなければならない。食事性タンパク質を制限することができるが、健康な食事には、特に成長中の小児にとって、有意な量のタンパク質が必要である。したがって、食事性タンパク質摂取量の調節に加えて、窒素の排泄に役立つ薬物を使用してアンモニア増加(高アンモニア血症)を軽減する。処置される患者における過剰なアンモニアを排泄させる能力を、患者の内因性窒素排泄能力(いくらかでもある場合)および窒素捕捉薬によって得られるさらなる窒素排泄能力の量の和と見なすことができる。本発明の方法は、容易に排泄される形態(フェニルアセチルグルタミン(PAGN)など)への変換によって過剰な廃棄窒素およびアンモニアを軽減する種々の異なる薬物を使用する。いくつかの実施形態では、本発明は、in vivoでPAAを形成し、PAAがPAGNに変換され、次いで、尿中に排泄されて過剰な窒素の排泄を補助する経口薬の投薬量を決定または調整する方法に関する。
【0007】
80〜90%の窒素捕捉剤であるフェニル酪酸ナトリウムがPAGNとして尿中に排泄されることを報告した各UCD患者における以前の研究(例えば、非特許文献1;非特許文献2)に基づいて、現在の処置ガイドラインは、典型的には、フェニル酪酸ナトリウムまたは他のPAAプロドラッグのPAGNへの完全な変換(例えば、非特許文献3)を想定しているか、投与(dosing)についての不完全な変換の関連について注釈していない(例えば、非特許文献4)。
【0008】
現在の処置ガイドラインは、PBAナトリウムの形態で投与した場合にPBAが腸から急速に吸収されて短い血中半減期を示すという事実に基づいて、PBAを使用した1日4回の投与を推奨している(Urea Cycle Disorders Conference Group ‘Consensus Statement’ 2001)。
【0009】
フェニル酪酸ナトリウム投与は、現在、投薬量は600mg/kg(体重20kgまでの患者について)を超えるべきでないか、どのような場合でも合計で20グラムを超えるべきでないと推奨されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Brusilow,Pediatric Research,vol.29,147−50(1991)
【非特許文献2】Brusilow and Finkelstien,J.Metabolism,vol.42,1336−39(1993)
【非特許文献3】Berry et al.,J.Pediatrics,vol.138,S56−S61(2001)
【非特許文献4】Singh,Urea Cycle Disorders Conference Group ‘Consensus Statement from a Conference for the Management of Patients with Urea Cycle Disorders’,Suppl to J Pediatrics,vol.138(1),S1−S5(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の実施形態の開示
本発明は、薬物代謝産物であるフェニルアセチルグルタミン(PAGN)の尿排泄および/または総尿中窒素に基づいて経口投与される窒素捕捉薬(フェニル酪酸ナトリウムおよびグリセリルトリ−[4−フェニルブチラート](HPN−100)が含まれる)の計画および用量を決定および調整するための新規のアプローチを提供する。本発明は、その一部が、薬物自体またはこれらの薬物からin vivoで産生された活性種の全身血液レベルに基づいて慣習的に評価されたこれらの薬物の生物学的利用能では、以下に定義の健康なヒトボランティア、肝疾患を有する成人、またはアンモニア捕捉薬を投与されたUCD患者における廃棄窒素の除去または血漿アンモニアの減少を正確に予想されず、そして、経口投与されたフェニル酪酸ナトリウム(NaPBAまたはPBAナトリウム)のPAGNへ、さらに尿中PAGNへの変換は、不完全であり、典型的には、約60〜75%であるという発見に基づく。フェニルブチラートのプロドラッグ(PBA、ブフェニル(登録商標)中の有効成分(フェニル酪酸ナトリウム)であり、少量の不活性成分を含むPBAのナトリウム塩である)はそれ自体がフェニル酢酸(PAA)のプロドラッグであり、特に本明細書中に記載の影響を受けやすい。
【0012】
【化1】

本明細書中で使用する場合、「アンモニア捕捉薬」は、フェニルアセタートを含むかこれに代謝されるクラスの全ての経口投与薬が含まれると定義する。したがって、本用語には、少なくとも、フェニルブチラート、ブフェニル(登録商標)(フェニル酪酸ナトリウム)、アンモナプス(登録商標)、ブチロイルオキシメチル−4−フェニルブチラート、グリセリルトリ−[4−フェニルブチラート](HPN−100)、そのエステル、エーテル、および許容可能な塩、酸、および誘導体が含まれる。これらの薬物は、効率的に代謝されてフェニルアセチルグルタミン(PAGN)を形成するフェニル酢酸をin vivoで提供することによって高レベルの内因性アンモニアを減少させる。PAGNは尿中に効率的に排泄され、1モルのPAAあたり2当量の窒素が除去されてPAGNに変換される。本明細書中の用語フェニル酪酸ナトリウムには、医薬品ブフェニル(登録商標)への言及が含まれると理解され、ブフェニル(登録商標)を、試験被験体がフェニル酪酸ナトリウムで処置される場合に本明細書中の実施例のために使用した。したがって、それらの実施例で使用されるPBAナトリウムの投薬量は、一般に、ブフェニル(登録商標)の投薬量をいい、実施例中のフェニル酪酸ナトリウム量を適宜に解釈すべきである。用語「アンモニア捕捉剤」および「窒素捕捉剤」を本発明で交換可能に使用し、本明細書中に記載の薬物がPAGNの形態の廃棄窒素の排泄によって血中アンモニアを低下させるという事実を反映することに留意のこと。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、体内でPAAに変換することができるプロドラッグを使用する。フェニル酪酸ナトリウム(PBAナトリウム)はかかる薬物の1つであり、体内でのPAAへの酸化機構によって変換される。HPN−100はかかる薬物の別のものである。これは、加水分解されてPBAを放出することができ、次いで、酸化されてPAAを形成することができる。したがって、HPN−100はPBAのプロドラッグであり、PAAのプロドラッグでもある。臨床的証拠により、体内で予想通りにHPN−100がPAAに変換され、次いで、PAAがグルタミン1分子と結合してPAGNに変換され、予測通りに尿中で排泄されることが証明されている。この過程を以下のようにまとめることができる。
【0014】
【化2】

PAGNは主に被験体の尿中に排泄され、排泄されるPAGN1分子あたり2分子のアンモニアを除去する。各HPN−100分子は3個のPAA分子を形成するので、各HPN−100分子は6個のアンモニア分子の排泄を促進することができる。臨床的結果により、HPN−100のPBAおよびPAAへの変換が有効であり、かなり速いことが示唆されているが、目ざましいことに、HPN−100(またはPBAまたはPBA由来のPAA)が体循環に入る前にHPNのPAGNへの変換が起こり得ることが示唆される。結果として、PAAまたはPBAの全身レベルは、アンモニア捕捉剤としてのHPN−100の有効性と確実に相関しない。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明は、PBAのプロドラッグ(HPN−100およびフェニルブチラートの他のエステルが含まれる)を使用する。したがって、PBAプロドラッグはプロドラッグのプロドラッグである。何故なら、PBAがアンモニアを捕捉するように作用し、その後にPAAに変換されるので、PAAのプロドラッグと見なされるからである。いくつかの実施形態では、PBAプロドラッグはフェニルブチラートのエステル(下記のものなど)であり、本発明で用いる好ましいPBAプロドラッグはHPN−100である。これらの化合物を、米国特許第5,968,979号(これらの化合物およびその投与方法の説明について、本明細書中で参考として援用される)に開示の方法によって作製および使用することができる。
【0016】
第2の薬物の「等モル(equal molar)」または「等モル(equimolar)」量を一定量の第1の薬物と共にかその代わりに使用する場合、各薬物の量は、モルベースで計算し、第2の薬物の等モル量はin vivoで等モル量の活性薬物が生成される量となる。薬物の1つがプロドラッグである場合、プロドラッグの量は、典型的には、プロドラッグから形成された活性種のモル量をいう。この活性種は、通常、本明細書中に記載のプロドラッグについてはPAAであり、プロドラッグのモル量は、in vivoでPAAへの完全な変換が生じると仮定した場合のそのプロドラッグ量から体内に形成されると考えられるPAAの量に相当する。したがって、例えば、1分子のHPN−100は、エステル加水分解およびその後の酸化によって代謝されて3分子のPAAを形成することができるので、1モルのHPN−100は3分子のPAAと等モルであると見なされるであろう。同様に、HPN−100が加水分解されて3分子のPBA(および1分子のグリセリン)を形成するので、等モル量のHPN−100はPBAの1/3のモル量であろう。
【0017】
以下の表は、等モル量の一定の関連用量のブフェニル(登録商標)(フェニル酪酸ナトリウム)に相当するHPN−100の量を記載する。PBAナトリウムの用量のHPN−100の用量への変換がその異なる化学的形態に対する補正(すなわち、HPN−100がエステル結合によって3分子のPBAを含むグリセロールからなり、ナトリウムを含まない(PBAナトリウム[g]×0.95=HPN−100[g]))およびHPN−100の比重(1.1g/mLである)の補正を含むことに留意のこと。
【0018】
【表1】

本発明は、式(I):
【0019】
【化3】

(式中、
、R、およびRは、独立して、H、
【0020】
【化4】

であり、
nは0または偶数であり、mは偶数であり、R、R、およびRの少なくとも1はHではない)のプロドラッグを使用することができる。各R、R、またはRについて、nまたはmは独立して選択され、従って、式Iの化合物中のR基、R基、およびR基は同一である必要はない。好ましい化合物は、R、R、およびRがどれもHではなく、頻繁に、特定の実施形態の各nまたはmが同一である(すなわち、R、R、およびRが全て同一である)化合物である。投薬量の減少についてはかかるトリエステルを有する方が先行技術より有利であり、3つ全てのアシル基が同一であることは異性体混合物に関する問題を軽減する。さらに、エステルの加水分解によって遊離したトリオール骨格はグリセロール(非毒性である通常の食事性トリグリセリド構成成分)である。
【0021】
本発明はまた、式II:
【0022】
【化5】

(式中、
RはC〜C10アルキル基であり、
は、
【0023】
【化6】

であり、
nは0または偶数であり、mは偶数である)のフェニルブチラートプロドラッグおよびフェニルアセタートプロドラッグを使用する。
【0024】
式IIでは、Rは、例えば、エチル、プロピル、イソプロピル、およびn−ブチルなどであり得る。
【0025】
本発明の化合物は、アルカン酸部分中に偶数の炭素原子を有するフェニルアルカン酸およびフェニルアルケン酸の同類物のエステル(効率の良いβ酸化過程によって体内でフェニル酢酸に変換することができるフェニル酢酸エステルおよびフェニル酪酸のエステルなどが含まれる)である。したがって、本発明の化合物は、フェニル酢酸のプロドラッグである。nが2または4である場合、エステルはフェニル酪酸のプロドラッグでもある。好ましくは、アルキレンカルボキシラート基またはアルケニレンカルボキシラート基は、24個以下の炭素原子を含むので、nまたはmは24個未満である。いくつかの実施形態では、nおよびmは0、2、4、または6であり、いくつかの好ましい実施形態では、nまたはmは2である。
【0026】
本発明の一定の好ましい実施形態は、HPN−100(式III):
【0027】
【化7】

を使用する。
【0028】
PBAナトリウムのようなプロドラッグの総1日投薬量を、しばしば、適量の活性種を得るのに必要な量(この量が公知であるか、決定することができる場合)にしたがって選択することができる。PBAはPAAのプロドラッグである。したがって、PAAの有効投薬量が公知である場合、PAAに変換され、最終的にPAGNに変換されるPBAの割合を考慮して、PBAの初期用量を選択することができる。被験体がPAAまたは体内でPAAを形成するプロドラッグで処置された場合、有効であった以前の薬物使用量により、新規のPAAのプロドラッグの投薬量の選択のための可能な出発点が得られる。この同じ患者では、PAAと等価と予想される用量で新規のプロドラッグを投与した後、被験体内のPAAレベルをモニタリングし、以前の処置を使用して有効であったPAAの血漿レベルと同じレベルが達成されるまで、プロドラッグの用量を調整することができる。しかし、本発明は、血漿中のPAAレベルおよびPBAレベルが投与されたPBAプロドラッグの用量またはアンモニア排泄と十分に相関せず、PBAプロドラッグの投与レベルのモニタリングのために、プロドラッグの有効性を評価するためのこれらのパラメーターは信頼すべきではないという所見に一部基づく。根底にある理論に拘束されないが、本明細書中でこの効果(すなわち、アンモニア捕捉と血中PBAおよび/またはPAAレベルとの間の一致しない関係)について説明する。
【0029】
以下の表は、3つの臨床試験群由来のデータを提供する。これらのデータは、以下に詳述するように、全群がPAGNの尿排泄に基づいた類似のアンモニア捕捉活性を示したという事実にも関わらず、健康なボランティア、肝硬変症患者、およびUCD患者の間で血漿PAAレベルと血漿PBAレベルとの間に矛盾した関係を示している。全体として、このことは、尿中PAGNが、投与される薬物によって誘導されるアンモニア排除をモニタリングする便利な方法を提供し、この方法は、抜き出した(drawing)血液を必要とせず、血漿アンモニアレベルに影響を及ぼし得る多くの他の要因による影響を受けることなく、投与される窒素捕捉薬によって提供される実際の窒素排除に直接関連する。
【0030】
【表2】

max=最高血漿濃度;Tmax=最高血漿濃度到達時間;AUC24=0〜24時間のAUC;NC=計算せず。
研究にはフェニル酪酸ナトリウム比較集団(comparator arm)を含まなかった。値はHPN−100投薬のみを示す。AUC値は時間0から最後の測定可能な血漿濃度までのAUCを示す。
【0031】
本発明の1つの実施形態は、UCDを有する患者におけるアンモニア捕捉薬の用量の決定および/または調整方法である。それにより、用量は、患者が消費する食事性タンパク質の量、薬物のPAGNへの予想される変換率、および患者の残存する尿素合成能力(もし幾つかあれば)に基づくであろう。必要に応じて、用量の調整は、認められたPAGNの尿排泄および/または総尿窒素(TUN)(2者間の差は患者の内因性の廃棄窒素排泄能力を反映する)に基づくであろう。この内因性能力は、先天性代謝欠損に起因する生得的尿素回路障害を有する一定の患者には存在することができないが、遅発性窒素蓄積障害を有する患者は、一般に、時折その残存尿素合成能力と呼ばれるいくつかの内因性能力を有する。Brusilow,PROGRESS IN LIVER DISEASES,Ch.12,pp.293−309(1995)を参照のこと。被験体の血漿アンモニアレベルも決定することができる。このレベルは、処置プログラム全体の有効性の追跡のための重要なパラメーターであるが、種々の要因(食事性タンパク質および生理学的ストレスなど)および窒素排泄を促進するために使用した薬物の影響を反映する。
【0032】
PAGN排出量と総窒素排出量との間の差、またはアンモニア捕捉薬の非存在下での総尿窒素排出量のいずれかとして、一旦患者の残存する内因性の廃棄窒素排泄能力が決定されると、この患者についての食事性タンパク質の許容量を、投与されるアンモニア捕捉薬の投薬量にしたがって計算することができるか、評価されたタンパク質摂取量を相殺するためのアンモニア捕捉薬の投薬量を調整または計算することができる。
【0033】
別の実施形態は、肝疾患(肝性脳症が含まれる)を有する患者に投与されるべきアンモニア捕捉薬の用量を決定および調整する方法である。それにより、出発用量は、患者が消費する食事性タンパク質の量、薬物のPAGNへの予想される変換率、および患者の残存する尿素合成能力(もし幾つかあれば)に基づくであろう。肝疾患患者における尿素合成能力は一般にUCD患者よりも高いと考えられる一方で、患者の肝疾患の重症度および患者の遺伝性酵素欠損の重症度にそれぞれ応じて、両群において患者間で相当な変動が予想されるであろう。認められたPAGNの尿排泄および総廃棄窒素に基づいた用量を、これらの各患者の特徴に応じて調整するであろう。
【0034】
別の実施形態は、経口PAA形成アンモニア捕捉薬で処置されるUCDまたは肝性脳症患者の食事における許容可能な食事性タンパク質を決定または調整する方法である。それにより、許容可能なタンパク質量を、尿中のPAGN量および総窒素量によって決定するであろう。尿中の総廃棄窒素とPAGNの排泄量との間の差は、患者の内因性廃棄窒素処理(processing)能力を示す。一旦患者の内因性窒素処理能力がわかると、患者の内因性窒素処理能力を使用して、固定された投薬量のアンモニア捕捉薬を投与しながら食事性タンパク質摂取量を調整することができるか、アンモニア捕捉薬の投薬量を、患者の食事性タンパク質からの廃棄窒素の排泄を促進するために必要な量にしたがって決定することができる。食事性タンパク質摂取量を、投与されるPAA形成アンモニア捕捉薬に起因する、PAGNとして排泄される量を超えて被験体が排泄することができる窒素量にしたがって、決定または調整すべきである。これらの計算または調整を行う場合、タンパク質中の約47%の窒素が尿中に排泄される必要のある廃棄窒素となると仮定し(この量は、身体の発育を補助するためにより多くの摂取窒素部分を保持する成長中の患者にはより少ないかもしれない)、そして平均して約16%のタンパク質が窒素であると仮定することが適切である(Brusilow 1991を参照のこと)。
【0035】
かかる決定については、一般に、プロドラッグを、排泄に向けて効率100%でPAGNに変換すると仮定されており(例えば、図1が100%変換を仮定しているBerry et al.,J.Pediatrics 138(1),S56−S61(2001)を参照のこと);ある報告では、約80〜90%のPAAまたはPBAが特定の個体からPAGNとして排泄されることが見出された(Brusilow,Pediatric Research 29(2),147−150(1991))。平均して全変換効率の約60%〜約75%でHPN−100およびフェニルブチラートが共に尿中PAGNに変換されることが現在見出されている(例えば、約60%の変換効率がUCD患者で認められ、約75%の変換が肝硬変症患者で認められた)。従って、この効率係数(efficiency factor)を使用して、これらの薬物の初期投与レベルまたはこれらの薬物を使用する患者に許容可能な食事性タンパク質レベルをより正確に計算または決定することができる。この変換率を考慮すると、1gのHPN−100は、1日あたり約1グラム(約1.3グラム)の食事性タンパク質からの廃棄窒素の排泄を容易にすることができる。PAGNは1分子のPAGNあたり2分子のアンモニアを運び去ることに留意のこと。これらのパラメーターに基づいた計算例を、本明細書中の実施例9および10に示す。
【0036】
1つの態様では、本発明は、患者におけるフェニルアセタートまたはフェニルブチラートからHPN−100またはフェニルブチラートの他のエステルもしくはプロドラッグへの移行(transitioning)方法を提供する。本方法は、患者のフェニルアセタートまたはフェニルブチラートの現在の投薬量に基づいて選択され、プロドラッグを投与された場合に得られるPAGNの排泄レベルに従って調整される初期投薬量のプロドラッグの投与を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、フェニルブチラートからの移行(transition)は単一工程を超える工程で開始され得、PAGNの尿排泄および総窒素によって移行中に捕捉されるアンモニアのモニタリングが可能になるであろう(例えば、頻繁に高アンモニア血症を生じる傾向のある臨床的に「脆弱な」(fragile)患者について)。臨床的に賢明であると判断された場合、本方法は、2工程、3工程、4工程、5工程、または5工程超を使用することができる。各工程では、移行のために使用した工程数に相当するフェニルブチラートの初期投薬量の一部を適切な量(すなわち、等モル量のPBAを送達させるのに必要な量)のHPN−100またはフェニルブチラートの他のプロドラッグに置換する(例えば、移行が3工程で行われる場合、約1/3のフェニルブチラートが各工程でプロドラッグに置換されるであろう)。
【0038】
本発明の別の実施形態は、グリセリルトリエステルまたは他のプロドラッグの形態でのPBAの送達が投与計画をより柔軟にする徐放性を付与するという所見に基づく。フェニル酪酸ナトリウム(PBAナトリウム)を、例えば、典型的には、適切な血漿PAAレベルを維持するために、4〜8時間毎またはさらにより頻繁に投与する。このレジメンは、胃腸管からのフェニルブチラートの迅速な吸収およびPAAへの迅速な代謝的変換を反映する。対照的に、フェニルブチラートのグリセリルトリエステルであるHPN−100は、PBAナトリウムのわずか40%の速度でしか吸収されず、食事などと共に1日3回、さらに1日2回(朝晩など)投与することが可能であることが見出されている。この投与柔軟性は、HPN−100の薬物動態学的(PK)性質および薬力学的(PD)性質が摂食状態または絶食状態で識別不可能であるという事実によってさらに増強される。したがって、エステル形態のPBAプロドラッグを使用して投与頻度を厳格に維持することは重要でなく、便宜上1日あたりの投与数を減少させることができ、投薬量はPBAナトリウムについてのラベル中に推奨されるように食事計画に関連させる必要はない。実際、絶食1日後にHPN−100を食物と共にまたは食物と別に摂取した場合に、HPN−100利用についての薬物動態が非常に類似していたので、HPN−100を食物と共にまたは食物と別に摂取することができる。これにより、フェニルブチラートまたはフェニルアセタートの代わりにHPN−100を用いた際に、より都合の良い処置プロトコールが得られ、且つ患者の服薬遵守が潜在的により高くなる。目ざましいことに、HPN−100およびPBAナトリウムが共にPAAのプロドラッグであるにもかかわらず、PBAナトリウムよりも低い頻度で投与した場合にHPN−100は有効である。典型的には、安定な血漿アンモニアレベルを維持するために、より少ない用量のPBAナトリウムを1日あたり3〜6回投与する必要がある一方で、1日あたり2〜3用量のみのHPN−100投与で類似の結果を達成することができる。以下により詳細に考察したいくつかの実施形態では、HPN−100を1日2回(BID)投与し、いくつかの実施形態では、1日3回(TID)投与する。
【0039】
HPN−100の徐放性のために、HPN−100を摂取する患者は、PBAナトリウム自体を摂取する患者よりも、より持続性ならびにしばしばより低い血漿PBAおよびPAAレベルを有する。このことは、本出願の他の場所でより詳細に考察されている投与(dosing)における、より高い柔軟性(HPN−100の投与後よりもPBAナトリウムの投与後に血漿PBAレベルがより迅速に上下すること)と一致すると考えられる。
【0040】
本発明の他の態様は、身体がPBAナトリウムまたはHPN−100を尿中PAGNに変換する能力を、現在推奨されているPBAナトリウムの最大用量以下の数分の1の用量範囲(several−fold dose range)にわたってしか満たしていないらしいという所見に関する。これにより、患者は、患者のPBAの投薬量と比較して等モル量よりも高い用量のHPN−100を摂取することができるはずである。これにより、現在推奨されているPBAナトリウムの投薬量よりも高い投薬量のHPN−100を患者に投与することができることが示唆され、これは最も高い表示投薬量のPBAナトリウムによってアンモニアレベルが適切に調節されなかった患者に特に有用である。かかる患者は、以前に推奨されていたPBAナトリウム投薬量よりも高い用量のHPN−100を摂取することができる。
【0041】
本発明の他の態様は、以下の詳細な説明および本明細書中に提供した実施例から明らかである。
【0042】
便宜上、本明細書中で考察される被験体へのPAA(フェニル酢酸)、PBA(フェニル酪酸)、またはHPN−100の投与量は、総1日投薬量をいう。これらの化合物が比較的大量の1日量で使用されるので、総1日投薬量を、1日に2回、3回、4回、5回、または6回、または6回を超えて投与することができ、異なる薬物を異なるスケジュールで投与することができる。したがって、総1日投薬量により、関連薬物での処置と比較したある薬物での処置レジメンが的確に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、尿素回路を介し、PAGNに関与する副経路による廃棄窒素の処分を示す。
【図2】図2は、フェニルブチラートの場合に、PBAおよびPAAが活性になるため(すなわち、PAGNに変換してアンモニア捕捉をもたらすため)に体循環に到達しなければならないと仮定する、プロドラッグの薬物動態学的(PK)挙動を説明するための従来のモデルを示す。
【図3】図3は、HPN−100の代謝によってPAAおよびPBAの血漿レベルがより低くなる一方で、等価な薬理学的効果が得られるということを示す本明細書中に記載の所見によって特徴づけられる、PBAナトリウムまたは、PBAおよびPAAに変換することができる他の薬物(HPN−100など)のPK挙動の説明に適合したモデルを示す。従来のモデルと異なり、本モデルはPBA/PAAのPAGNへの「全身前」(pre−systemic)変換が可能であり、これらの代謝産物の血中レベルと廃棄窒素のPAGN媒介排泄との間の矛盾した関係を説明している。
【図4】図4は、PBAまたはHPN−100のいずれかの単回用量投与後の経時的なPAA、PBA、およびPAGNの血漿レベルの変化を示す。図は、PBAプロドラッグ(HPN−100)を使用した場合にPAAのピークレベルがより低く、該プロドラッグを使用した投与24時間後のPAAレベルはより高いことを示す。したがって、プロドラッグは、血漿PAAレベルをより維持させる。
【図5】図5は、実施例3の試験からのアンモニアレベルのデータを示す。
【図6】図6は、体循環に到達する前にプロドラッグ(PBA)をPAGNに変換することができるという所見の解剖学的説明を示す(図3に示すモデルに対応する)。
【図7】図7は、健康な成人において投与後にPBAレベルが比較的迅速に変動する一方で、PAAレベルおよびPAGNレベルはフェニル酪酸ナトリウムでの処置から数日後に極めて安定状態に到達することを示す。
【図8】図8は、健康な成人においてPBA、PAA、およびPAGNレベルが異なる時間に定常状態に到達すること、および肝硬変症患者においてPAAが定常状態レベルに到達するのにより多くの時間を要することを示す。
【図9a】図9a、9b、および9cは、HPN−100で処置した被験体において、被験体におけるHPN−100の用量とPBAまたはPAAいずれかの血漿レベルとの間に相関はほとんどないか全くないことを示す。しかし、図は、PAGNの尿排泄がHPN−100の投薬量と十分に相関することも示す。
【図9b】図9a、9b、および9cは、HPN−100で処置した被験体において、被験体におけるHPN−100の用量とPBAまたはPAAいずれかの血漿レベルとの間に相関はほとんどないか全くないことを示す。しかし、図は、PAGNの尿排泄がHPN−100の投薬量と十分に相関することも示す。
【図9c】図9a、9b、および9cは、HPN−100で処置した被験体において、被験体におけるHPN−100の用量とPBAまたはPAAいずれかの血漿レベルとの間に相関はほとんどないか全くないことを示す。しかし、図は、PAGNの尿排泄がHPN−100の投薬量と十分に相関することも示す。
【図10】図10は、PBAナトリウムまたは等モル投薬量のHPN−100のいずれかで7日間処置した10人のUCD患者についての日夜の血漿アンモニアレベル(時間正規化曲線下面積(すなわち、TN−AUC)または曲線下面積(AUC))を示し、HPN−100がPBAよりも良好にアンモニアレベルを調節したことを示す:AUC(曲線下面積)(総アンモニア曝露の指標である)およびCmax(アンモニアのピーク濃度を測定する)は共に、等モル投薬量のPBAを投与された被験体よりもHPN−100を投与された被験体で低かった。
【図11】図11は、一晩の血漿窒素レベルの管理においてHPN−100がPBAよりも良好に作用したことを示す。
【図12】図12は、そのアンモニアレベルがPBAナトリウムについて十分に調節された患者においてHPN−100が調節(control)を維持したことを証明している。対照的に、PBAナトリウムでの処置にもかかわらず、そのアンモニアレベルが上昇した患者においてHPN−100由来のアンモニア調節の改善によって最も利益のあることが示された。
【図13】図13は、図12のデータをまとめており、PBAナトリウムおよびHPN−100による患者のアンモニアレベルの統計的比較を示す。図は、各患者組についての正常範囲も示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明実施の形態
1つの態様では、本発明は、窒素貯留容態(尿素回路障害および肝性脳症による肝疾患が含まれる)の処置に必要な用量、投与計画、および用量の調整の決定における実務を軽減する。出発用量および計画は、理論的考察(薬物のPAGNへの変換率、患者の食事性タンパク質に起因する廃棄窒素、および変換されてPAGNとして排泄される薬物の比率の評価が含まれる)に基づくであろう。処置開始後、必要に応じて、尿中PAGN排出量の実際の測定または総尿中アンモニアもしくはPAGNのクレアチニンに対する比率のような十分に相関するパラメーターについてさらに用量を調整するであろう。
【0045】
別の態様では、本発明は、患者におけるフェニルブチラートもしくはフェニルアセタートからフェニルブチラート(PAAのプロドラッグである)のプロドラッグ(HPN−100など)または他のエステルもしくはプロドラッグ(本明細書中に示した式IおよびIIの化合物など)への移行方法を提供する。いくつかの理由のために、HPN−100は、アンモニアレベルが高く、且つアンモニア捕捉薬での処置を必要とする多数の患者でPBAナトリウムよりも望ましい薬物であると見なされる。特に、HPN−100は、PBAナトリウムに関連する不快な味が回避され、潜在的に有害なナトリウム摂取が軽減される。大多数の患者(実施例3に記載の臨床試験に参加した10人のUCD患者のうちの9人)において、臨床試験においてPBAナトリウムよりもHPN−100が好ましかった。したがって、アンモニア捕捉薬としてフェニルブチラートで処置されている多数の患者は、フェニルブチラートからHPN−100に移行することが望ましいかもしれない。
【0046】
患者に以前に投与したフェニルブチラートの投薬量に相当するPBA量が得られると考えられるプロドラッグ量を計算することによって、フェニルブチラートからフェニルブチラートのプロドラッグに患者を移行することが医師において論理的であるようにみえる。これにより、ほぼ同一の有効成分(PBA)の血漿レベルが得られると予想されるであろう。次いで、プロドラッグでの新規の処置の有効性を、血中フェニルブチラートレベルのモニタリングによって評価して、PBAを投与した場合に達成されるレベルと同一のレベルを確立することができる。しかし、以下に考察するように、驚いたことに血漿PBAレベルがHPN−100の投薬量やHPN−100またはPBAナトリウムの用量の有効性と十分に相関しないので、このアプローチは適切ではない(PBAナトリウムはフェニルブチラートの酸形態であり、薬剤ブフェニル(登録商標)の一般名であり、典型的にはPBAのナトリウム塩であるブフェニル(登録商標)として投与されることに留意のこと。本明細書中のPBAでの処置という言及には、フェニルブチラートの中性化合物またはフェニルブチラートの塩の投与を含む。典型的には、本明細書中の全実施例において、PBAをブフェニル(登録商標)として投与する)。
【0047】
あるいは、PBAがPAAのプロドラッグであるので、フェニルブチラートプロドラッグの投薬量を、理論的なPAAの形成量にしたがって計算することができる。1分子のPBAが1分子のPAAを生じると予想されるので、この形成量は、PBAの投薬量から計算されると考えられる量と同じ量のはずである。PBAナトリウム(登録薬の形態のPBA(PBAのナトリウム塩))の分子量は186であり、HPN−100の分子量は530であり、勿論、HPN−100から1分子あたり3当量のPBAが得られるので、PBAまたはPAAの1モル量を置換するために1/3のモル量のHPN−100しか必要としないであろう。したがって、1gのPBAナトリウムを0.95グラムのHPN−100に置換することができる。HPN−100が密度1.1g/mLの液体であるので、HPN−100を非希釈液体として使用すると仮定すると、1gのPBAナトリウムは0.87mLのHPN−100に置換されるであろう。これを使用して、PBAナトリウムからHPN−100に移行する患者のためのHPN−100の出発投薬量を選択することができる。あるいは、依然としてブフェニル(登録商標)(フェニル酪酸ナトリウム)を投与していない患者におけるHPN−100の出発用量は、HPN−100として投与した場合の、PBAの尿中PAGNへの変換は不完全であり、平均値が約60〜75%であることが以下により詳細に記載されている、目ざましい所見(実施例2および3を参照のこと)を考慮する必要があるであろう。
【0048】
あるいは、医師は、有効量のPBAを投与した被験体におけるPBAまたはPAAのいずれかの血漿レベルを測定し、PBAまたはPAAと同一の血漿レベルを得るのに十分なプロドラッグの投与によって、PBAプロドラッグの投薬量を決定することができる。次いで、医師は、血中のPBAまたはPAAのいずれかの量をモニタリングして、適量の活性薬物が体内で生じることを確実にすることができる。フェニルブチラートのプロドラッグではフェニルブチラートよりもPAAまたはPBAの血漿濃度がわずかに低くなり、したがって、窒素捕捉効果はより低いと予想され得る。これは、プロドラッグの活性薬物への変換効率が100%未満であり得るからである。したがって、PAAまたはPBAの血漿レベルをモニタリングし、フェニルブチラートの投与によって得られるレベルまでのレベルにプロドラッグ投薬量を増加させることにより、フェニルブチラート投薬量と同一の生理学的効果が得られると予想され得る。しかし、同一のアンモニア捕捉効果を達成するために、フェニルブチラートのプロドラッグの投与の際に認められるPAAまたはPBAの血漿レベルを、有効量のフェニルブチラートによって得られるレベルに適合させる必要はないことが見出された。むしろ、プロドラッグHPN−100の有効性は、PAAまたはPBAの血漿レベルではなく尿中PAGNレベルに相関する。
【0049】
どのようにしてアンモニア捕捉薬またはプロドラッグがin vivoでの予測される挙動を説明するためのモデルが開発されている。図2に示した1つのモデルは、PAAまたはPBAの血中レベルに基づいてHPN−100に適用した場合の薬物有効性を評価するための従来のアプローチを反映する。臨床試験により、HPN−100ではこのモデルから予想され得るPAAおよびPBAの血漿レベルが得られないことが見出された。それにもかかわらず、血中アンモニアレベルの調節および尿を介したPAGNとしてのアンモニアの排泄について、HPN−100は、等モルベースでのPBAと少なくとも同等に有効である。したがって、従来のモデルは、PBAとHPN−100との間のいくつかの重要な代謝の差を説明できない。PBAナトリウムと比較した場合、より高い比率のHPN−100由来のPBAが体循環に入る前に排泄のためのPAGNに変換される(またはPAAもしくはそれに由来するPBA)(図2中の「中心画分(central compartment)」)との仮説を立てた。この重要性および予想されない差の認識は、本発明の一定の態様の基礎をなす。
【0050】
本明細書中に記載の所見に基づき、且つ本開示で概説した改良された作業モデルを図3に示す。このモデルは、体循環に入ることなくHPN−100およびPBAナトリウム由来のPBAをPAGNに変換することができるとの結論を支持する。恐らく、HPN−100またはその初期代謝産物(例えば、R〜Rのうちの1つまたは2つがフェニルブチリル基を示し、R〜Rのうちの残りの1つまたは2つがHを示す式Iの化合物−HPN−100の予想される部分加水分解産物)が肝臓に到達し、体循環に到達する前に肝臓でPAGNに変換され得る。さらに、HPN−100由来のPBAの部分的変換が、PBAを塩として投与した場合に、吸収されるPBAよりも多い(等価であるか潜在的により優れたアンモニア捕捉活性にもかかわらず、PBAナトリウムと比較して、HPN−100投与後に血中PBAレベルがより低いことを説明する所見)。この所見により、PAAまたはPBAの血漿レベルが、HPN−100のようなPBAプロドラッグの有効性の信頼できる指標ではなく、かかるPBAプロドラッグ化合物の投薬量の設定または調整を行うために信頼すべきではないと認識される。本明細書中に示したデータ(例えば、図9にまとめた)はこの影響を証明している。HPN−100で処置した被験体の代替のモニタリング方法が必要であり、これを本明細書中に提供している。
【0051】
さらに、PK/PDモデリング(考察が反映され、図3および図6に示される)は、経口投与した場合にHPN−100がPBAのわずか約40%しか急速に吸収されないことを証明している。結果として、HPN−100から徐放送達効果が得られるにもかかわらず、一旦吸収されると急速にPBAに代謝されるようである。これにより、投与においてかなりの柔軟性が提供され、例えば、4回以上のPBA投与を必要とする場合と同様の安定なアンモニアレベルを得るために、何故HPN−100の投与が例えば、1日に3回、さらに1日に2回でさえよいのかが説明される。
【0052】
予想外の薬物動態学的挙動のこれらの所見を考慮して、血漿PAAおよびPBAのは、HPN−100またはPBAナトリウムでの被験体の処置の評価やモニタリングのために使用すべきではない。HPN−100で処置した被験体の代替のモニタリング方法が必要であり、これを本明細書中に提供している。一例として、HPN−100の50%と85%との間、典型的には、約60〜約75%のHPN−100が尿中PAGNに変換されることが見出されている。UCD患者におけるHPN−100およびPBAナトリウムのこの変換効率は、PBAナトリウムの変換効率が約100%であると一般に仮定されている以前の文献を考慮すると、驚くべきことである。尿中PAGNは、血中の廃棄窒素(例えば、アンモニア)レベルと逆相関することが示されており、従ってHPN−100の有効性が、尿中PAGNを測定することによって評価することができる。HPN−100がクレアチニンレベルにほとんどまたは全く影響を及ぼさないことが見出されている。さらに、健康な成人および窒素貯留容態患者におけるクレアチニンレベルは、典型的にはむしろ安定しているので、経時的な尿中のPAGN排出量の測定、またはPAGNのクレアチニンに対する濃度比の測定(スポット試験で都合良く行うことができる)のいずれかにより、HPN−100の有効性をモニタリングする方法が得られる。したがって、1つの態様では、本発明は、「スポット尿」試験においてPAGNのクレアチニンに対する比を決定する工程を含む、HPN−100での処置の有効性を評価する方法を提供する。臨床試験は、PAGNの尿排泄および尿中のPAGNのクレアチニンに対する比が血中アンモニアレベルと十分に相関し、PAGNの増加またはPAGN/クレアチニン比の増加が血漿アンモニアレベルの減少と相関することを示す。したがって、1つの方法では、HPN−100処置した患者を、尿中PAGN排出量の測定、またはスポット尿試験におけるPAGNのクレアチニンに対する比の測定によってモニタリングする。本方法を使用して、未処置患者、PBAからHPN−100に移行した患者、またはHPN−100で処置した患者の処置をモニタリングすることができる。尿中PAGN排出量レベルの増加、またはスポット試験におけるPAGNのクレアチニンに対する比の増加により、HPN−100または別のPBAプロドラッグを使用する投与レジメンが、過剰なアンモニアの排泄に有望であるかどうかを決定し、2つの処置方法を比較してどちらが特定の被験体により有効であるかを決定する。
【0053】
血漿アンモニアレベルがUCD患者における疾患調節を評価するためにしばしば使用されている一方で、臨床実践場面の外側でHPN−100の投与を最適化するための血漿アンモニアレベルに依存することは、しばしば不便である。さらに、血漿アンモニアレベルは、多数の要因に影響を受け、薬物での処置がいかによく作用するかどうかと無関係に上昇し得る。このことは、食事および他の要因、ならびに使用される薬物用量の適切さを反映する。血漿アンモニアは、食事のタイミング、薬物のタイミング、および種々の他の要因に基づいて、比較的よく制御された場合でさえ、多く変化する。したがって、薬物の影響を有意義に反映させるために、採血の繰り返しによって経時的に血漿アンモニアレベルをモニタリングする必要があり、これは、ある患者の日常的なモニタリングに実用的ではなく、且つアンモニア捕捉薬が作用するかどうかについての情報は直接得られない。他方では、尿中PAGNの測定を日常的なモニタリング法としてより都合良く行うことができる。何故なら、この測定は試験用サンプルを採取するための医学的扶助が必要ないからである。さらに、尿中PAGNが捕捉剤によって得られる廃棄窒素クリアランスを特異的に測定する一方で、アンモニアレベルに影響を及ぼす多数の他の要因によって、窒素捕捉薬の実際の効果に関して誤りに導くようなアンモニア調節を引き起こし得る。したがって、HPN−100の投薬量の有効性を評価するために理論的にはいくつかの異なるパラメーターを測定することができるにもかかわらず、尿中PAGNに基づいた測定のみが窒素捕捉薬の効果の直接的な測定として都合が良く且つ信頼できる。
【0054】
したがって、1つの実施形態では、本発明は、患者の尿中PAGN排泄をモニタリングする工程および必要に応じて血漿アンモニアレベルをチェックする工程から本質的になる、HPN−100でのUCD患者の処置の有効性をモニタリングする方法を提供する。以前のPBA投与レジメンを使用して達成された尿中PAGNレベルに匹敵する尿中PAGNレベルにより、HPN−100処置が、それを置き換えたたPBA処置と同等に有効であったという証拠と見なされるであろう。あるいは、約40μmol/L未満または高くて35μmol/Lの血漿アンモニアレベルは、処置が有効であったことを示すであろう。いくつかの実施形態では、経時的に尿中PAGN排出量を測定するよりもむしろ、スポット試験における尿中のPAGNのクレアチニンに対する比を使用することができる。
【0055】
別の態様では、本発明は、約60%〜約75%のHPN−100またはPBAナトリウムの利用効率係数を提供する。この因子を使用して、いずれかの薬物の出発用量をより正確に決定し、そして/または食事性タンパク質摂取量を予測される尿中PAGNと相関させることができる。
【0056】
1つの態様では、本発明は、フェニルブチラートからHPN−100またはフェニルブチラートの他のエステルもしくはプロドラッグに患者を移行する方法を提供する。本方法は、患者の現在のフェニルブチラートの投薬量に基づいて選択される初期投薬量のプロドラッグを投与する工程を含む。例えば、等モル量のPBAを得るためのHPN−100の必要量を計算し(等モル量)、この等モル量を患者に投与するであろう。PAGNの尿排泄または血漿アンモニアレベルをモニタリングし、以前に使用した有効量のフェニルブチラートまたは別の窒素捕捉薬によって得られるPAGN排泄レベルとほぼ同一のPAGN排泄レベルを確立するために、必要に応じてHPNの投薬量を増減させるであろう。典型的には、PAAまたは別のPAAプロドラッグから本方法で使用するHPN−100に移行する被験体を、移行の前後に尿中PAGN排出量について試験し、以前のPAAプロドラッグ処置が有効であると見なされたと仮定して、以前のPAA薬またはプロドラッグで処置した場合のこの患者由来の尿中PAGN排出量に適合させるために、必要に応じてHPN−100の投薬量を調整するであろう。これにより、等モル量の新規薬物のin vivo効果をモニタリングすることなしにその量の使用に依存する方法よりも、安全且つ有効に新規のプロドラッグに移行される。これにより、PAAまたはPBAをモニタリングし、PAAまたはPBAレベルをフェニル酪酸ナトリウム自体の投与によって得られる相当するレベルに適合させるためにプロドラッグ(すなわち、HPN−100)の投薬量を調整するように試みた場合に得られる可能性のある不正確な投与および潜在的な過剰処置のリスクも回避される。
【0057】
いくつかの実施形態では、フェニルブチラートからの移行を、1つを超える工程で行なうことができ、PAGNの尿排泄および総窒素によって移行中のアンモニア捕捉をモニタリングすることが可能であろう。いくつかの実施形態では、初期投薬量のフェニルブチラートを投与した患者を、複数の工程でフェニルブチラートからフェニルブチラートのプロドラッグに移行する。本方法は、2工程、3工程、4工程、5工程、または5工程超を使用することができる。各工程では、移行のために使用した工程数に相当するフェニルブチラートの初期投薬量の一部を適切な量のHPN−100またはフェニルブチラートの他のプロドラッグに置換する。各工程のための適量は、およそ、プロドラッグが定量的にPBAに変換されると仮定する場合に、等モル量のPBAを得るのに十分な量であり得る。ブフェニル(登録商標)(フェニル酪酸ナトリウム)が約6%の不活性成分を含むので、処方薬の重量よりもむしろ薬物のPBA含有量に基づいた計算に適切であることにも留意のこと。次いで、患者をモニタリングして、アンモニア捕捉効果が得られた量を決定する。次いで、HPN−100(またはプロドラッグ)の量を調整して、患者が十分に調節された場合に、フェニルブチラートの初期投薬量によって達成された排泄PAGNの形態でのほぼ同一のアンモニア排泄量を得ることができる。
【0058】
PBAからHPN−100またはフェニルブチラートの別のエステルに患者を切り換える医師は、有効量のHPN−100によって、フェニル酪酸ナトリウムを投与した場合に認められるPAAまたはPBAレベルほどにはPAAまたはPBAレベルが必ずしも得られないことを承知しているはずである。PAAは、血漿濃度が高い場合にいくらか有毒であると報告されている。Thibault,et al.,Cancer Research,54(7):1690−94(1994)およびCancer,75(12):2932−38(1005)。このことおよび上記のHPN−100の固有の性質を考慮すると、医師はHPN−100の効果を測定するために、PAAまたはPBAの血漿レベルを使用しないことが特に重要である。フェニルブチラートの投与によって得られる血漿PBAまたはPAAレベルに適合するのに十分な量でHPN−100を投与する場合、例えば、HPN−100の用量は不必要に高いかもしれない。
【0059】
未処置患者は、窒素レベルの管理のためにアンモニア捕捉薬による処置をその時点で受けていない患者である。多くの場合に窒素捕捉薬には推奨投薬量レベルが存在し、未処置患者のための正確な投薬量はその範囲よりも狭い可能性がある(例えば、一般により低い)一方で、この投薬量はPBAナトリウムについて推奨される投薬量と比較した場合に等モル量を超え得る。PAAまたはPAAプロドラッグの初期投薬量を、患者が比較的正常な肝機能を有すると仮定して、患者の、食事によるタンパク質摂取量が知られた時点で、当該分野で公知の方法によって計算することができる。Saul W Brusilow,“Phenylacetylglutamine may replace urea as a vehicle for waste nitrogen excretion,” Pediatric Research 29:147−150,(1991)。尿中の総窒素排泄量を測定する方法も公知であり、PAAの供給によって作用する薬物を摂取した被験体の場合、総廃棄窒素は排泄PAGNを含むことになる。
【0060】
消費タンパク質中の約47%の窒素が廃棄窒素に変換され、平均して約16%のタンパク質が窒素であると見積もられている。これらの数量(figure)を使用し、且つHPN−100が効率よくPAGNに変換されると仮定して、1日投薬量が約19gのHPN−100により、約43gの食事性タンパク質由来の廃棄窒素を排泄するための媒介物を提供するであろう。したがって、1gのHPN−100は約2gの食事性タンパク質由来の廃棄窒素を除去することができるであろう。さらに、種々の個別の患者でHPN−100の利用効率が約50%と85%との間であることが評価される場合(本明細書中に開示のように、試験したUCD患者で平均約60〜75%のHPN−100が尿中PAGNに変換されることが見出された)(現在までの臨床的所見と一致する)、これらの要因を使用して所与の被験体について食事性タンパク質摂取量とHPN−100の投与レベルとの間の関係をさらに改良することができる。この改良を使用して、1gのHPN−100は約1グラム(約1.3グラム)の食事性タンパク質の廃棄窒素の除去を補助するであろう。この係数を使用して、食事性タンパク質摂取量が知られるか調節される場合にHPN−100の適切な投薬量を計算することができ、HPN−100を投与された被験体についての許容食事性タンパク質摂取量を計算することができる。
【0061】
本方法を使用して、患者の内因性窒素排泄能力の決定、この内因性能力によって患者が窒素捕捉薬の補助なしに処理することができる食事性タンパク質量の計算、および患者が自力で処理することができる食事性タンパク質量(特定の投薬量のPBAまたはHPN−100のようなPBAプロドラッグを使用した場合に患者が処理できると考えられるタンパク質量)への添加によって患者の推奨1日食事性タンパク質摂取量を確立することもできる。一例としてHPN−100を使用して、評価された有効性60%で使用した約19グラムのHPN−100の最大1日投薬量により、処置された患者は約40gの食事性タンパク質に相当する廃棄窒素を排泄することができるであろう。したがって、本発明は、患者の内因性窒素排泄能力で対処できる量にこのタンパク質量を添加することによって尿素回路障害またはHEを有する患者に適切な食事性タンパク質レベルを確立する方法を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態では、PAAまたはPAAプロドラッグが作用する場合に総排泄廃棄窒素のいくらかを占めるPAGN排泄を測定するのにも有用である。総排泄廃棄窒素からPAGN排泄量を引いたものは尿素回路または他の機構を介した患者の窒素廃棄物の内因性排泄能力を示し、これは、所与の投薬量で患者が管理することができるタンパク質摂取量の決定で役立ち、患者が非常に綿密なモニタリングを必要とするかどうかの理解にも役立つ。窒素廃棄物を排泄する内因性能力は非常に患者に特異的である。次いで、HPN−100の投薬量を、廃棄窒素を排泄させる被験体の内因性能力の決定、被験体の内因性窒素排泄能力に相当する食事性タンパク質量を差し引くこと、および被験体の食事性タンパク質摂取量に基づいて被験体が廃棄窒素のバランスを対処するのに十分なHPN−100の投薬量を得ることによって確立することができる。
【0063】
尿中PAGNの測定に加えて、特定の患者についての全薬物の有効性および食事療法を評価するために、アンモニアの血漿レベルまたは血中レベルを、場合により決定する。アンモニア調節が不適切である場合、実施可能である場合に窒素捕捉薬の投薬量を増加させる必要があり得るか、実効可能である場合に患者の食事性タンパク質摂取量を減少させることができる。
【0064】
いくつかの例では、1モルのHPN−100が3モルのフェニルブチラートを産生することができるという事実によって調整して、HPN−100の投薬量をフェニルブチラートの推奨投与レベルを超えない投薬量に制限することができる。UCDの長期処置のためのPBAナトリウム使用についてのラベルには、1日投薬量が20gを超えないことを推奨している;被験体のサイズに応じて、体重が20kgを超える被験体については9.9〜13.0g/mの範囲の1日投薬量が設定され、20kg以下の体重の被験体については450〜600mg/kgの範囲内の投薬量が示されている。より低い用量のHPN−100によってモル当量ベースでPBAに匹敵するアンモニア捕捉を得ることができる一方で、一定の被験体が適切なアンモニア調節を達成するためにより高い投薬量のHPN−100を選択することが適切であり得る。典型的には、この用量は所与の適応症のためのフェニルブチラートの推奨投薬量範囲を超えない。したがって、上記のモル量のフェニルブチラートに相当するHPN−100量を超えない1日投薬量(HPN−100から3分子のPBAを得ることができるという事実のために補正する)でHPN−100を投与することが適切であり得る。体重が20kgを超える被験体については、HPN−100の投薬量範囲は8.6mL/mと11.2mL/mとの間であろう。体重が20kg未満の被験体については、HPN−100の推奨用量と比較した等モル量の使用に基づいて、約390〜520μL/kg/日の投薬量範囲のHPN−100が適切であろう。等モル量のPBAナトリウム由来の比率を超える比率でHPN−100が有害作用を生じることが示唆される証拠は存在しないので、20g/日のPBAナトリウムの推奨される1日の上限により、PBAナトリウムの推奨量に基づいたHPN−100の1日用量の限度は等モル量のHPN−100(約19gまたは17.4mL)に相当すると示唆される。
【0065】
したがって、1つの実施形態では、本発明は、患者の尿中PAGN排泄および/または血漿アンモニアレベルをモニタリングする工程からなるか、モニタリングする工程から本質的になるHPN−100でのUCD患者の処置の有効性をモニタリングする方法を提供する。以前のPBA投与レジメンを使用して達成された尿中PAGNレベルに匹敵する尿中PAGNレベルは、HPN−100処置は、それが置き換えたPBA処置と有効性が等しいという証拠と見なされるであろう。あるいは、正常(例えば、約40μmol/L未満のレベルまたは多くて35μmol/L)であった血漿アンモニアレベルは、処置が有効であったことを示すであろう。いくつかの実施形態では、経時的に測定した尿中PAGN排出量の使用よりもむしろ、スポット試験における尿中のPAGNのクレアチニンに対する比を使用することができる。
【0066】
しかし、20g/日の承認されたPBA投薬量と比較した場合にHPN−100が等モル用量で毒性を示さず、PBAの20グラムに等価な用量の2〜3倍の投与によってAEをもたらす血中PAAレベルになる可能性が低いことも見出されている。さらに、HPN−100摂取からの許容性はPBAよりもはるかに高く、HPN−100用量とPAGN排出量との間には用量17.4mLまで直線関係が認められている。いくつかの患者または臨床実践場面では、例えば、最大用量のPBAナトリウムにもかかわらず再発性高アンモニア血症を示すUCD患者、身体の要求を支持するために食事性タンパク質の増加が必要なUCD患者、または他の窒素貯留状態を有する患者において、承認されたPBA投薬量を十分に上回るHPN−100用量が有利であると予想される。
【0067】
したがって、別の実施形態では、本発明は、等モル量の推奨される最も高いPBA用量の100%と300%との間に相当するHPN−100の投薬量を使用してHEまたはUCDを有する被験体を処置する方法を提供する。いくつかの実施形態では、適切な投薬量は、推奨される最も高いPBA用量の約120%と180%との間である。他の実施形態では、推奨される最も高いPBA投薬量の等モル量の120〜140%、140〜160%、または160〜180%である。この態様にしたがって、HPN−100の1日投薬量は、57gもの投薬量、約38gまで、約33gまで、約30gまで、または約25gまでの投薬量であり得る。
【0068】
1つの態様では、本発明は、未処置患者の管理のために使用されるPAAまたはPAAプロドラッグ(HPN−100が含まれる)を含む窒素捕捉薬の出発用量または用量範囲を同定し、出発用量または用量範囲を個別に調整する方法であって、
a)予想されるPAGNへの変換効率を考量して、患者の食事性タンパク質負荷にしたがって評価した薬物の初期投薬量を投与する工程、
b)PAAまたはPAAプロドラッグを含む窒素捕捉薬の投与後に総廃棄窒素排泄量を測定する工程、
c)血中アンモニアを測定して、総廃棄窒素の尿排泄の増加が血中アンモニアレベルの調節に十分であるかどうかを決定する工程、および
d)初期投薬量を調整して、アンモニア調節、食事性タンパク質、および患者による総廃棄窒素排泄量、または廃棄PAGNの排泄量に基づいて、PAAまたはPAAプロドラッグを含む窒素捕捉薬の調整投薬量を得る工程を含む、方法を提供する。これらのパラメーターのいずれかまたはそれぞれをモニタリングして、投与されるHPN−100または他の窒素捕捉薬の投薬量を評価することができる。場合により、本方法はまた、HPN−100の初期用量の決定をさらに補助するための、被験体の内因性窒素排泄能力(残存する尿素合成能力)の決定を含む。
【0069】
未処置患者のためのHPN−100の初期投薬量を、患者の食事性タンパク質摂取量に基づいて、排泄される必要がある廃棄窒素量として計算することができる。本明細書中に記載のように測定することができる、患者の内因性廃棄窒素排泄能力を使用して、患者が排泄することができる廃棄窒素に等価な量によってこの量を減少させることができる。HPN−100の適切な出発用量を、窒素捕捉薬を介して管理するのに必要な食事性タンパク質摂取量を評価することによって、そして投与したPBAの尿中PAGNへの予想される変換率を考慮して、患者の内因性窒素排泄能力で対処することができる量を超える、1〜2グラムの食事性タンパク質あたり約1gのHPN−100に等しい薬物用量を提供することによって、計算することができる。本方法は、場合により、尿中PAGN排出量が、予想される廃棄窒素量を占めるかどうかを調査するために、尿中PAGN排出量を評価する工程をさらに含み、そして場合により、許容可能なアンモニアレベルが達成されたことを確実にするために被験体の血漿アンモニアレベルを測定する工程を含むことができる。患者の血漿アンモニアレベルのチェックにより、全処置プログラム(食事および薬物投与が含まれる)の有効性の尺度を提供する。
【0070】
以下の表は、推奨PBAナトリウム投薬量に相当する用量未満(用量1)、用量内(用量2)、用量超(用量3)のHPN−100用量が「対象とする(cover)」(すなわち、得られた廃棄窒素排泄を媒介する)と予想される食事性タンパク質量をまとめている。これは、以下の仮定を考慮している:PAGNに完全に変換される場合に1グラムのPAAは約0.18グラムの廃棄窒素の排泄を媒介すること;HPN−100から放出されたPBAプロドラッグとして送達された60%のPAAがPAGNに変換されること;47%の食事性タンパク質が廃棄窒素として排泄されること;および16%の食事性タンパク質が窒素からなること(Brusilow 1991;Calloway 1971)。食事性タンパク質摂取量、投薬、および廃棄窒素排泄に関連する場合、これらの因子を本発明の目的のために使用することができる。
【0071】
【表3】

本明細書中で使用する場合、血漿アンモニアレベルは、被験体に正常と見なされるレベルまたはレベル未満である場合に許容され、一般に、これは血漿アンモニアレベルが約40μmol/L未満であることを意味するであろう。本明細書中に記載の一定の臨床試験では、被験体の正常上限は、26μmol/Lと35μmol/Lとの間であった。これは、当該分野では、正常アンモニアレベルがどのように測定されるかに厳密に依存して変化すると認識されている。したがって、本明細書中でアンモニアレベルを説明するために使用する場合、「約」は近似値を意味し、典型的には、表示数値の±10%以内である。
【0072】
他の態様では、本発明は、UCDまたはHE患者の適切な出発用量または用量範囲を同定し、以前に窒素捕捉薬で既に処置した患者の管理のために使用される新規の窒素捕捉薬の出発用量または用量範囲を個別に調整する方法であって、
a)新規窒素捕捉薬の初期投薬量(患者の食事性タンパク質負荷および/または以前に使用した窒素捕捉薬と同一の尿中PAGN排泄量が得られると予想される新規薬物の用量にしたがって評価することができる)を投与する工程、
b)新規の薬物の投与後に排泄される総廃棄窒素および/またはPAGNの量を測定する工程、
c)場合により、血中アンモニアを測定して初期投薬量が血中アンモニアレベルを調節するのに十分であるかまたは適切な平均アンモニアレベルを確立するのに十分であるかどうかを決定する工程、および
d)必要に応じて新規の薬物の初期投薬量を調整して、アンモニア調節、食事性タンパク質、および患者によって排泄された総廃棄窒素の量に基づいて、調整投薬量を提供する工程を含む、方法を提供する。PAA、PBA、またはPAGNの血漿レベルに依存せず、好ましくは、血漿アンモニアレベルに依存せずに尿中PAGN量に基づいて初期投薬量を調整する。
【0073】
患者を以前にPAAまたはPAAプロドラッグで処置していた場合、担当医は、同一患者に投与すべき新規のPAAプロドラッグまたはPBAプロドラッグの投薬量を設定するために、以前の処置に全てまたは一部依存し得る。以前の薬物が患者の容態の管理に合理的に有効であった場合、医師は、各プロドラッグがPAAに完全に変換されると仮定すると、PAAと同一の投薬量が得られる投薬量で新規の薬物が患者に投与されるように、以前の薬物を参照して新規のPAAまたはPBAプロドラッグの投薬量を設定することができる。
【0074】
また、上記で考察するように、排泄された総廃棄窒素に加えて、排泄されたPAGNを測定することが時折望ましい。総排泄廃棄窒素からPAGN排泄量を差し引くことは尿素回路または他の機構を介した患者の窒素廃棄物の内因性排泄能力を示し、これは、所与の投薬量で患者が管理することができるタンパク質摂取量の決定で役立ち、患者が非常に綿密なモニタリングを必要とするかどうかの理解にも役立つ。窒素廃棄物を排泄するための内因性能力は患者に非常に特異的である。
【0075】
別の態様では、本発明は、窒素蓄積障害(肝性脳症およびUCDが含まれる)を有する被験体(この患者はPAAまたはPAAプロドラッグを含むアンモニア捕捉薬を摂取している)によって安全に摂取され得る食事性タンパク質量を同定する方法であって、
a)薬物投与後の総廃棄窒素排泄量を測定する工程、
b)尿中廃棄窒素以下の廃棄窒素量が得られるように計算した食事性タンパク質量を決定する工程、および
c)血中アンモニアおよび総廃棄窒素排泄量の測定に基づいて適切に食事性タンパク質および/または薬物投薬量を調整する工程
を含む方法を提供する。
【0076】
被験体が窒素捕捉薬での処置を受ける場合、患者の食事性タンパク質摂取量を定期的に再評価する必要があり得る。これは、多数の因子が、窒素摂取と、窒素排泄と、窒素捕捉薬の投薬量との間のバランスに影響を及ぼすからである。本発明は、患者の窒素排泄レベルの測定に基づいて患者が対処することができる食事性タンパク質量を決定する方法を提供する。本発明は、さらに、尿素回路または他の機構を介した患者の窒素廃棄物の内因性排泄能力の決定を補助するための上記で考察した患者のPAGNレベルの測定に有用であり得る。
【0077】
上記方法では、患者は、尿素回路障害または他の窒素蓄積障害を有する患者であり得る。多数の実施形態では、本方法は、尿素回路障害を有するが、肝機能が比較的正常な患者に適用可能である。
【0078】
上記方法を、PAAまたはPBAの種々のプロドラッグを使用して実施することができる。いくつかの実施形態では、HPN−100は、これらの方法に一般的に好まれるPBAプロドラッグである。
【0079】
別の態様では、本発明は、初期量のフェニルアセタートまたはフェニルブチラートを用いた処置から最終量のPBAプロドラッグを用いた処置に患者を移行する方法であって、
a)フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するための置換量のPBAプロドラッグを決定する工程、
b)フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの一部の代わりに置換量のプロドラッグを用いる工程、および
c)患者によるPAGNの排泄量をモニタリングして、置換量のプロドラッグの有効性を評価する工程
を含む方法を提供する。
【0080】
場合により、本方法は、プロドラッグ量を調整する工程および調整した量のプロドラッグを投与する工程、次いで、PAGN排泄をさらにモニタリングして、調整した量のプロドラッグの有効性を評価する工程を含む。PBAプロドラッグの置換量は、置換されるPBAの量とほぼ等モル量であり得る。
【0081】
本明細書中で広範に考察した理由のために、患者をPAAまたはPBAのプロドラッグ(または新規のプロドラッグ)に移行する場合に、PAAレベルに依存することは誤りに導き得る。必ずしも全身系に入ることなしにPAGNへのプロドラッグの急速な変換の肝臓ベースの機構を利用できることによって、PAAおよびPBAの血漿レベルが効力の予測因子として不十分になるので、患者に投与すべきPAAまたはPBAプロドラッグでの処置の評価およびモニタリングのために、本方法は排泄PAGNに依存する。
【0082】
多くの場合、漸増工程よりもむしろ単一の段階で、例えば、フェニルブチラートからHPN−100または別のPBAプロドラッグに直接患者を移行することが可能である。したがって、全ての以前に使用したPAAまたはPAAプロドラッグを適切な置換量の新規の薬物(PBAプロドラッグ)で置換することができる。しかし、いくつかの状況では(例えば、「脆弱な患者」、PAAまたはPAAプロドラッグの推奨限度または推奨限度付近の投薬量を摂取した患者、および非常に制限された内因性の窒素廃棄物の排泄能力を有する患者、または患者が薬物を代謝または排泄する能力が不確かな状況)、2つ以上の段階または工程で初期薬物からHPN−100のような新規のPBAプロドラッグに移行することが好ましいかもしれない。したがって、2工程、3工程、4工程、または5工程で移行することができ、各工程で、元の薬物の一部(例えば、2工程移行については約半分、3工程移行については約1/3など)を、投与すべき新規のPBAプロドラッグに置換する。このアプローチは、窒素排泄を促進する処置を受けているか窒素排泄を促進する大量の薬物を摂取している間に、高アンモニア血症のエピソードの繰り返しに感受性を示すことが公知の「脆弱な」UCD患者に適切かもしれない。
【0083】
したがって、別の態様では、本発明は、初期量のフェニルアセタートまたはフェニルブチラートを用いた処置から最終量のPBAプロドラッグを用いた処置にUCD患者を移行する方法であって、
a)フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するためのPBAプロドラッグの置換量を決定する工程、
b)フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの代わりに置換量のプロドラッグを用いる工程、および
c)患者における血漿アンモニアレベルをモニタリングして、置換量のプロドラッグの有効性を評価する工程を含む方法を提供する。
【0084】
いくつかの実施形態では、プロドラッグの置換量は、置換されるPBAの量と比較して等モル量である。
【0085】
モニタリング工程中に、患者をフェニルアセタートまたはフェニルブチラートと新規のプロドラッグとの混合物で処置する。比率は、どの移行工程に患者が存在するかに依存する。医師はまた、その後の工程で用いる置換量のプロドラッグの設定における第1の工程の影響に関する情報を使用することができる。したがって、置換量として使用した評価量を第1の工程で投与した場合に予想されるよりもプロドラッグが著しく効果がある場合、次の移行工程で使用される置換量を比例的に減少させることができる。
【0086】
別の態様では、本発明は、「脆弱な患者」(頻繁な症候性高アンモニア血症の病歴を有するUCD患者および/またはおそらく尿素合成能力を持たない新生児発症疾患の病歴を有するUCD患者、またはその薬物代謝能力が不確かであり得る肝機能に重度に障害がある患者)に適切であり得るように、段階的様式でのフェニルアセタート、フェニルブチラート、またはPBAプロドラッグでの処置を開始する方法を提供する。プロドラッグは活性化されて機能する肝機能に依存するので、この過程はより複雑であり得る。したがって、本方法は、好ましくは、以下:
a)患者の食事性窒素摂取量を評価または測定する工程、および/または
b)患者の尿中廃棄窒素排泄の必要性を評価する工程、次いで、
c)PAGN排泄として必要な廃棄窒素クリアランスの一部が得られるように評価された出発用量の薬物を投与する工程、および
d)適切に薬物の用量を増加させ、上記工程を繰り返して維持用量の薬物に到達させる工程
によって例示される段階的様式で行う。
【0087】
本方法はまた、場合により、薬物投与の少なくとも3日後に(その時点で定常状態が達成される)総尿窒素および尿中PAGNを測定する工程を含む。本方法はまた、PAGNに変換される薬物量(少なくとも50%であると予想されるであろう)を計算して、薬物が所望の効果を有するかどうかを決定する工程を含むことができる。薬物の適切な投薬量を、PAGNの排泄量がタンパク質の食事性摂取量から予想される廃棄窒素量をクリアランスするのに十分である投薬量として同定するであろう。この投薬量を患者の内因性窒素排泄能力を考慮して(account for)、調整することができる。
【0088】
単一工程でクリアランスすべき窒素廃棄物の一部を、患者の容態(窒素蓄積障害)の重症度に関して選択することができる。いくつかの実施形態では、クリアランスの補助が必要な廃棄窒素の約50%の除去を目標とすることが適切である。いくつかの実施形態では、本方法は、廃棄窒素の約100%除去を目的とする。
【0089】
別の態様では、本発明は、初期1日投薬量のフェニルブチラートを摂取した患者において、フェニルブチラートからHPN−100に移行する方法であって、
a)初期1日投薬量のフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するのに適切なHPN−100の量を決定する工程、
b)適切なHPN−100の量を、初期1日投薬量のフェニルブチラートから前記HPN−100によって置換された一部に相当する量を差し引いた量に相当する量のフェニルブチラートと共に被験体に投与する工程、
c)被験体のPAGNの排泄レベルを決定して、排泄レベルが減少していないことを確認する工程、および
d)全てのフェニルブチラートがHPN−100に置換されるまで工程a〜cを繰り返す工程
を含む方法を提供する。
【0090】
PAGNの排泄量が減少することが見出された場合、さらなるHPN−100またはさらなるPBAを投与して、患者に適切なPAGN排泄レベルを再確立し、次いで、全PBAがHPN−100に置換されるまで置換工程を継続するであろう。
【0091】
ここで再び、最初の工程で置換されるべきフェニルブチラートの一部は、100%、約1/2、約1/3、または約1/4、またはこれらの間のいくつかの値であり得る。段階的過程の間に、全部未満のフェニルブチラートが第1の工程で置換される場合、患者にHPN−100およびフェニルブチラートの両方を投与する。本明細書中で証明されるように、適切な用量のHPN−100を決定するための適切な方法は、経口送達されるPBAプロドラッグの評価のための信頼性の低い基準のみに基づくよりもむしろ、排泄されたPAGNを考慮する。
【0092】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのフェニルブチラートプロドラッグの投与後に被験体のPAGN排泄率を決定する工程およびPAGN排泄率に基づいて用量投与計画を選択または調整する工程を含む、フェニルブチラートプロドラッグを患者に投与する方法を提供する。化合物は、上記の式I、式II、または式IIIの化合物であり得る。有利には、本明細書中でPBAのプロドラッグとして使用される化合物は、PBAに匹敵する窒素捕捉が達成されるが、処置される被験体でより安定なアンモニアレベルが得られる徐放性の動態学的プロフィールを示す。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、PBAによって達成されるアンモニアレベルの調節に匹敵するアンモニアレベルの調節が得られるが、全身性PBAへの被験体の曝露が非常に低い投薬量で被験体に本明細書中に記載のプロドラッグを投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、被験体は、正常な投与範囲内のPBAの投薬量での処置によって得られる血漿アンモニアレベルに匹敵するかそれを超える血漿アンモニアレベルを維持しながら、PBAへのより低い曝露を証明するPBAの薬物動態学的パラメーター(PBAについてのより低いAUCおよびCmaxを含む)を経験する。HPN−100およびPBAを等モル投薬量でUCD患者に投与した場合、HPN−100を投与した患者は、全体的にみて血漿アンモニアレベルがより低く、PBA曝露もより低かった。
【0093】
【表4】

統計的有意性を証明するために、より大きなデータセットが必要である一方で、これらの容態の希少性に一部起因して、利用可能なデータ量は限られる。にもかかわらず、データは、PBA処置ではアンモニアレベルの調節にあまり有効でなく、且つPBAへの曝露もより大きかった一方で、PBAプロドラッグであるHPN−100は、等モル量の投与によってより良好にアンモニアレベルを調節し、且つPBA曝露レベルもより低かったことを示す。したがって、1つの態様では、本発明は、PBAプロドラッグでUCD患者を処置する方法を提供する。ここで、PBAについてのAUCおよびCmaxによって判断したところ、等モル量のPBAでの処置と比較した場合、このプロドラッグによって患者のPBAへの曝露を増加させることなくPBAよりも良好にアンモニアレベルが調節される。いくつかの実施形態では、処置は、プロドラッグとしてHPN−100を使用し、いくつかの実施形態では、PBA曝露についてのAUCは、PBAを使用するよりもプロドラッグを使用すると少なくとも約20%低いか、プロドラッグでの処置の際のPBAへの曝露は、PBAでの処置と比較して少なくとも約30%低いか、これらの条件の両方はPBA曝露の減少を証明するのに対応している。いくつかの実施形態では、プロドラッグを投与した場合、PBAについてのAUCは約600未満であり、PBAについてのCmaxは約100未満である。好ましくは、プロドラッグにより、平均すると約40μmol/L未満、または多くて35μmol/Lになる血漿アンモニアレベルが得られる。
【0094】
本明細書中でPBAのプロドラッグとして使用した化合物の有利な徐放動態学的プロフィールにより、PBAナトリウムと比較して選択した患者において頻度がより低く、且つ柔軟性がより高い投与が可能である。UCDを有し、且つアンモニアレベルが高い傾向のある全ての患者が原則としてHPN−100のアンモニア捕捉活性から恩恵を受けることができるはずである一方で、尿素合成能力が実質的に残存するUCD患者(例えば、その最初の徴候が数年以上の年齢で起こるUCD、すなわち、新生児期に発症しない患者)は、PBAプロドラッグ(HPN−100など)での1日3回またはさらに1日2回の投与の最良の候補であろう。重症肝疾患患者でさえも尿素合成能力が顕著に残存しているので、肝硬変症患者およびHE患者はまた、頻度の低い投与の候補であろう(Rudman et al.,J.Clin.Invest.1973)。
【0095】
本発明の特定の実施形態には、以下が含まれる。
【0096】
A.HPN−100の初期投薬量の影響をモニタリングする工程を含む、窒素貯留障害の処置が必要な患者のためのHPN−100の有効投薬量を決定する方法であって、その影響のモニタリングが患者の尿中フェニルアセチルグルタミン(PAGN)排出量を決定することから本質的になる、方法。
【0097】
この方法では、未処置患者の初期用量は、投与したPBAの尿中PAGNへの予想される変換率を考慮するであろう。そして、クレアチニン(その1日排泄量が所与の個体で一定である傾向がある)を、尿体積の変化を補正しながら尿パラメーターの測定値を正規化するための基準として使用することができることが他者によって証明されているので、尿中PAGN排出量を尿中PAGNの尿中クレアチニンに対する比として決定することができる。これらの方法では、窒素貯留障害は、慢性肝性脳症または尿素回路障害であり得る。血漿アンモニアレベルをモニタリングして、処置プログラム全体および食事性タンパク質摂取量を調整することもできるが、上記で考察するように、尿中PAGNにより、薬物の廃棄窒素排泄の役割を評価するための好ましい方法が得られる。
【0098】
B.HPN−100の初期投薬量の影響をモニタリングする工程を含む、窒素貯留障害の処置を必要とする患者についてのHPN−100の有効投薬量を決定する方法であって、未処置患者についての初期用量が、投与したPBAの尿中PAGNへの予想される変換率を考慮し、HPN−100の初期投薬量の影響をモニタリングする工程が、患者の尿中フェニルアセチルグルタミン(PAGN)排出量および/または総尿窒素を決定することから本質的になる、方法。これらの方法では、有効投薬量のHPN−100の患者への投与により、好ましくは、患者の血漿アンモニアレベルが正常になる。これは、約35または約40μmol/Lのレベルであり得る。
【0099】
C.約60%〜約75%の利用効率に基づいてHPN−100の投薬量を計算する工程を含む、窒素貯留障害を有する患者についてのHPN−100の出発投薬量を決定する方法。かかる方法では、HPN−100の投薬量を、患者の食事性タンパク質摂取量から計算することができるか、患者の体重および近似成長率から評価することができる。かかる方法では、時折、患者の内因性窒素排泄能力を考慮して必要なアンモニア捕捉量が反映されるようにHPN−100量を調整することによって、患者の残存尿素合成能力を明らかにしてHPN−100の投薬量を減少させる。
【0100】
D.窒素貯留障害を有する患者のためのPAAプロドラッグの投薬量を決定する方法であって、
a)患者の残存尿素合成能力を決定する工程、
b)患者の食事性タンパク質摂取量を決定する工程、
c)a)およびb)から患者の目標尿中PAGN排出量を評価する工程、
d)PAAプロドラッグの尿中PAGNへの約60%〜約75%変換に基づいて目標量の尿中PAGNを動員するために必要なPAAプロドラッグ量を決定する工程
を含む、方法。
【0101】
これらの方法では、PAAプロドラッグはフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容可能な塩であり得るか、または、それはHPN−100であり得る。
【0102】
E.適切な投薬量のPAAプロドラッグを使用してアンモニア貯留障害を有する患者を処置する方法であって、
a)患者の残存尿素合成能力を決定する工程、
b)患者の食事性タンパク質摂取量を決定する工程、
c)a)およびb)から患者の目標尿中PAGN排出量を評価する工程、
d)PAAプロドラッグの尿中PAGNへの約60%〜約75%変換に基づいて目標量の尿中PAGNを動員するために必要なPAAプロドラッグ量を決定する工程、および
e)適切な投薬量のPAAプロドラッグを患者に投与する工程
を含む、方法。
【0103】
これらの方法では、PAAプロドラッグは、しばしば、フェニルブチラートまたはその薬学的に許容可能な塩であるか、またはHPN−100である。
【0104】
G.初期量のフェニルアセタートまたはフェニルブチラートから最終量のHPN−100を使用して患者に対する処置を移行する方法であって、
a)フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するためのHPN−100の置換量を決定する工程、
b)置換量のHPN−100をフェニルアセタートまたはフェニルブチラートの代わりに使用する工程、および
c)患者によって排泄された尿中PAGN量をモニタリングして、置換量のHPN−100の有効性を評価する工程
を含む、方法。
【0105】
これらの方法では、尿中PAGN量の増加はHPN−100量を減少させることができることを示し得る。尿中PAGNの減少はHPN−100量を増加させる必要があることを示し得る。
【0106】
H.初期1日投薬量のフェニルブチラートを摂取した患者に対してフェニルブチラートからHPN−100に移行する方法であって、
a)初期1日投薬量のフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するのに適切なHPN−100の量を決定する工程、
b)適切なHPN−100の量を、初期1日投薬量のフェニルブチラートから前記HPN−100によって置換された一部に相当する量を差し引いた量に相当する量のフェニルブチラートと共に被験体に投与する工程、
c)被験体についての尿中PAGNの排泄レベルを決定する工程、および
d)全てのフェニルブチラートがHPN−100に置換されるまで、工程a〜cを繰り返す工程
を含む、方法。
【0107】
I.段階的様式でフェニルアセタート、フェニルブチラート、またはHPN−100を使用した処置を開始する方法であって、
a)患者についての食事性窒素摂取量を評価または測定する工程、および/または
b)食事および尿素合成能力に基づいて患者に必要な尿中廃棄窒素排泄を評価する工程、次いで
c)投与したPBAの尿中PAGNへの予想される変換率を考慮して、尿中PAGNとして、必要な廃棄窒素クリアランスの一部を提供するために評価した薬物の出発用量を投与する工程、および
d)適当に薬物の用量を増加させ、薬物の維持用量に到達させるために、上記工程を繰り返す工程、
を含む、方法。
【0108】
J.PBAプロドラッグを使用してUCD患者を処置する方法であって、患者にPBAプロドラッグを投与した場合のPBAについてのAUCおよびCmaxによって判定したときに、患者に等モル量のPBAを投与した場合に認められたAUCおよびCmaxと比較した場合、プロドラッグによって、患者のPBAへの曝露を増加させることなく、PBAと比較して当量以上のアンモニアレベルの調節が得られる、方法。
【0109】
これらの方法において、上記PBAプロドラッグは、しばしばHPN−100である。
【0110】
本方法は、PBAプロドラッグHPN−100を使用して窒素貯留障害を有する患者を処置する方法であって、PBA曝露についてのAUCは、PBAを使用する処置と比較して、該プロドラッグを使用した場合の方が、PBAを使用する場合よりも少なくとも約20%または少なくとも約30%低い可能性がある、方法を含む。これは、HPN−100の緩徐な吸収または取り込み特性に関連すると考えられ、この特性は、フェニル酪酸ナトリウムと比較した場合に、より安定なPBA曝露レベルが得られ、且つより低い頻度の投与で有効であるというHPN−100の予想外の利点が得られる。
【0111】
K.窒素貯留障害を有する患者についての適切な食事性タンパク質レベルを決定する方法であって、
a)患者の内因性窒素排泄能力を決定する工程、
b)内因性窒素排泄能力から、窒素捕捉薬の助けなしに患者が処理することができる食事性タンパク質量を計算する工程、
c)次いで、健康および身体の成長に必要なタンパク質量を考慮して、選択された投薬量の窒素捕捉薬の助けで患者が処理することが可能であるはずのタンパク質量を添加して、選択された投薬量の窒素捕捉薬で処置している間に患者が有することができる食事性タンパク質の量に到達させる工程、
を含む、方法。
【0112】
この方法では、窒素捕捉薬はHPN−100であり得る。一般に、HPN−100の選択された投薬量は多くて約19グラム/日であり、このHPN−100量の助けで患者が処理できるはずである食事性タンパク質量は、1gのHPN−100あたり約1グラム(約1.3g)のタンパク質である。
【0113】
L.19g超/日の1日用量のHPN−100を、HEまたはUCDを有する被験体に投与する工程を含む、PBAプロドラッグを使用して患者を処置する方法。場合により、HPN−100の1日用量は約20gと約57gとの間である。
【0114】
M.実質的に残存する尿素合成能力を保持している患者(肝硬変症およびHEを有するほとんどの患者または一生のうちの最初の2年以内に症状を示さないほとんどのUCD患者に当てはまると考えられる)のPBAプロドラッグの投与計画を決定する方法。
【0115】
HPN−100を使用する上記方法では、プロドラッグHPN−100での処置の際のPBAへの曝露は、PBAでの処置と比較して少なくとも約30%低い。また、一般に、プロドラッグを投与した場合、PBAについてのAUCは約600未満であり、PBAについてのCmaxは約100未満である。また、上記方法では、被験体をプロドラッグ(HPN−100であり得る)で処置する場合、被験体は、典型的には、正常血漿アンモニアレベルを達成し、これを維持する。
【0116】
例証のために以下の実施例を示すが、これらは本発明を制限しない。
【0117】
3つのヒト研究および1つの前臨床研究に由来する以下のデータは、血中レベルの測定による従来の薬物の曝露および影響の評価アプローチが、PAGNの尿排泄または血漿アンモニアの減少によって評価される窒素捕捉と相関しないことを例証する。これらのデータは、目ざましいことに、有効量のプロドラッグを使用して認められるPBAまたはPAAの血漿レベルが、類似の有効量のフェニルブチラートを使用して認められたPBAまたはPAAの血漿レベルより遥かに低い可能性があることを証明している。さらに、これらのデータは、出発投薬量の選択におけるPBAナトリウムまたはHPN−100のPAGNへの不完全な変換、塩よりもむしろトリグリセリドとしてのPBA送達の投与計画のための徐放挙動および関連性、ならびにPBAナトリウムについて現在推奨されている用量を超える用量のHPN−100投与を可能にするために必要であることを証明している。これらの後に所見についての生物学的説明が続く。
【実施例】
【0118】
実施例1
健康な成人における単回用量(single dose)の安全性およびPK
その薬物動態学的(PK)および薬力学的(PD)プロフィールを評価するために、HPN−100を24人の健康な成人に単回用量として投与した。薬物動態学的サンプルを、投与前、投与15分後および30分後、ならびに投与1、1.5、2、3、4、6、8、12、24、および48時間後に採取した。以下に考察するように、主要なHPN−100代謝産物であるPBA、PAA、およびPAGNの血漿レベルは、PBAナトリウム投与後よりもHPN−100投与後に非常に低かった。対照的に、PAGNの尿排泄は、2群間で類似しており(PBAナトリウム後に4905+/−1414mgおよびHPN−100後に4130+/−925mg)、認められた差は、24時間で尿回収を中断したことに起因する不完全な回収の人為的結果に拠ることが大きいと判断された(PBAナトリウム投与後のPAGN排泄は24時間でほぼ完全であったが、HPN−100の投与から24時間を超えて持続したことに留意のこと)。したがって、血漿代謝産物濃度は、PBAナトリウムとHPN−100とのアンモニア捕捉活性の比較を正確に反映しなかった。
【0119】
3人の健康な成人ボランティアを、3g/mの投薬量のPBAナトリウムまたはHPN−100のいずれかの単回用量を使用して処置した。PAA、PBA、およびPAGNの血漿レベルを、公知の方法によって12〜24時間定期的にモニタリングした。この結果を図4に示す。これは、各被験体についての曲線を示す(対数スケールであることに留意のこと)。
【0120】
各パネルでは、曲線は、3g/mの投薬量のPBAナトリウムまたはPBAナトリウムの投薬量によって得られるPBAと等モル量のPBAが得られると計算された量のHPN−100を投与した被験体におけるPBA、PAA、またはPAGNレベルの測定値を示す。各物質についての3つの曲線は、特定の投薬量のPBAナトリウムまたはHPN−100を投与した3人の被験体についての曲線である。
【0121】
左のパネルでは、3組の線のうちの上の曲線はPBAレベルを示し、中間の曲線はPAAレベルを示し、下の曲線はPAGNレベルを示す。右のパネルでは、10〜15時間の下から3つの曲線は全てPBAについての曲線であり、15〜25時間の上から3つの曲線はPAGNレベルを示す。PAAレベルはおよそ12時間後に決定されず、一般に、この時間までのPAGN曲線に近かった。
【0122】
実施例2
肝疾患患者へのHPN−100の投与
肝疾患患者におけるその薬物動態学的(PK)および薬力学的(PD)プロフィールを決定するために、肝硬変症(チャイルド・ピュースコアA、B、またはC)を有する肝障害被験体および正常な肝機能を有する性別および年齢が適合した健康な成人のコントロール群に、HPN−100を単回投与(1日目に100mg/kg/日)として経口投与し、7日間連続して1日2回経口投与する(8〜14日目に200mg/kg/日、100mg/kg/投与を2回)という臨床試験を行った。15日目に、被験体にHPN−100(100mg/kg)を単回投与した。PK血液サンプルを、投与前、投与15分後および30分後、1、8、および15日目の投与1、1.5、2、3、4、6、8、12、および24時間後、ならびに1および15日目の投与48時間後に採取した。9〜14日目に、血液サンプルを、午前中の投与前および午前中の投与から2時間後に採取した。1、8、および15日目の投与後0〜4、4〜8、8〜12、および12〜24時間、ならびに1および15日目の投与後24〜48時間に尿を回収した。
【0123】
HPN−100は、全被験体群で主な経路を介して代謝され、代替のHPN−100代謝産物であるPAG(フェニルアセチルグリシン)、PBG(フェニルブチリルグリシン)、およびPBGN(フェニルブチリルグルタミン)は、全血漿サンプルの定量限界未満であった。15日目にこれらの変数に有意差は認められなかったにもかかわらず、PBAおよびPAAの全身曝露(AUC0〜t)およびCmaxの範囲は共にチャイルド・ピュー群Aまたは健康なボランティア群よりもチャイルド・ピュー群BまたはCで高い傾向があった。以下に記載するように、血漿PAAレベルは、チャイルド・ピュー分類と相関した(すなわち、肝疾患がより重篤な患者ほど高かった)。しかし、HPN−100のPAGNへの平均変換率は約75%であり、肝硬変症患者と正常で健康なボランティアの間で差は認められなかった。これは、肝障害が、患者がPBAプロドラッグHPN−100を活性化するかまたは過剰なアンモニアの排泄のためにこれを使用する能力に影響を及ぼさないことを証明していた。したがって、以下により詳細にまとめているように、血漿代謝産物レベルは、HPN−100投薬量と十分に相関せず、健康な成人についてのみ、血漿代謝産物レベルはHPN−100の窒素捕捉効果を正確に反映しなかった。さらに、投与されたPAAからPAGNへの平均変換率は、この患者集団においては平均約75%であった。
【0124】
【表5】

AUC0〜t、時間0から最後の測定可能な濃度までの血漿濃度曲線下面積;CI、信頼区間;Cmax、最高実測血漿濃度;PAA、フェニル酢酸;PBA、フェニル酪酸。
【0125】
複数の投与の間(8〜15日目)、チャイルド・ピュー群Aおよび健康なボランティアと比較して、高い肝障害(チャイルド・ピューB型またはC型)を有する被験体でPBAおよびPAAの全身濃度がより高い傾向があった。PBAと異なり、PAAは複数日の投与の間に血漿中に有意に蓄積した。単回(8日目)投与と複数回投与(15日目:定常状態)との間の差は、被験体の全ての組み合わせにおけるPAAのAUC0〜12およびCmaxについては有意であったが(p<0.001)、PBAでは有意でなかった。15日目の投与後、PAAの曝露範囲は肝障害と有意に相関したが、PBAでは相関しなかった。
【0126】
HPN−100の臨床的効力は、グルタミンのPAAとの結合(conjugation)によってPAGNを形成する、そのアンモニア捕捉能力に依存する。毎日の投与後、PAGNは、排泄される主な代謝産物であった:投与したHPN−100用量の42〜49%が1日目にPAGNとして排泄され、25〜45%が8日目に排泄され、58〜85%が15日目に排泄された。非常に少量のPBAおよびPAAが尿中に排泄された(総HPN−100用量の0.05%以下)。任意のチャイルド・ピュー群と健康なボランティアとの間でPAGNの排泄量に有意差は存在しなかった。2モルのアンモニアが1モルのPAAと組み合わされてPAGNを産生するので、尿中PAGN排泄はHPN−100のアンモニア捕捉能力も示す。本研究において、肝障害は、HPN−100のアンモニア捕捉能力に有意な影響を及ぼさなかった。任意のチャイルド・ピュー群と健康なボランティアとの間でPAGNの排泄量に有意差は認められなかった。本研究において肝障害がHPN−100のアンモニア捕捉能力に有意に影響を及ぼさなかったが、血漿中のPAA蓄積に関連したという所見により、薬物の影響をガイドするための血中代謝産物レベルよりもむしろ尿中PAGN利用の重要性、当然の結果として、本発明の重要性が強調される。なぜなら、上記4つの処置群中の投与されたPAAから尿中PAGNへの平均変換率は、約75%であったという事実があるからである。
【0127】
15日目に投与後(0〜48時間)の尿中PAGN排出量
【0128】
【表6】

PBAおよびPAAの血漿レベル(健康な成人よりも肝疾患患者においてより高い血漿レベルに向かう統計的に有意でない方向の変化を示した)とPAGNの尿排泄との間に関連はなかったことに特に注目すべきである。
【0129】
実施例3
UCDを有する成人へのHPN−100の投与
窒素貯留に関連する臨床状態におけるその薬物動態学的(PK)および薬力学的(PD)プロフィールをさらに調査するために、10人の成人UCD患者を、PBAナトリウムからPBA等モル用量のHPN−100に交換した。被験体は登録前に安定なPBAナトリウムの投与が必要であった。登録の際、全被験体にPBAナトリウムを7日間投与し、次いで、一晩の観察、24時間PKおよびアンモニアの測定、ならびに尿回収のために研究棟(study unit)に入院させた(訪問2−1)。次いで、被験体を、総PBAナトリウム用量に応じて単一工程または複数の工程のいずれかにおいてPBAと等モル用量のHPN−100に変換した。10人の患者のうちの9人を単回工程で変換した。被験体を100%HPN−100用量に1週間保持し、次いで、反復PK(訪問11−1)、アンモニア、および尿回収のために研究棟に再入院させた。
【0130】
以下に詳細にまとめた本研究からの所見は、健康な成人および肝疾患患者のみに関して、血漿代謝産物レベルは、尿中PAGN排泄を反映し、且つ血漿アンモニアの結果によって実証されるアンモニア捕捉活性と十分に相関しないことを証明している。さらに、所見は、尿中PAGNに変換されるPBAナトリウムおよびHPN−100の両方の比率が個体間で非常に変動することを証明している。
【0131】
薬物動態学、アンモニア、および安全性の分析:以下の表にまとめるように、7日間のHPN−100投与によって類似のPAAレベルおよび血漿PAGNレベルが得られたが、PBAモル当量のPBAナトリウム用量と比較してPBAレベルがわずかに低かった。
【0132】
【表7】

AUC0〜24:時間0(投与前)〜24時間の濃度下面積、Cmaxss:定常状態での最高血漿濃度、Cminss:定常状態での最小血漿濃度、A:24時間にわたる排泄量
平均(SD)PBAナトリウム用量=12.6(4.11)g;平均(SD)HPN−100用量=12.3(3.91)g。
【0133】
血中PBAレベルが異なるにもかかわらず、以下の表にまとめているように、2つの処置についてのPAGNの全尿排泄は類似していた。重要且つ、投与した全PBAナトリウムが尿中PAGNに変換される現在の処置ガイドラインに固有の仮定と対照的に、平均で約60%であった投与PAAのPAGNへの変換率は個体間で非常に変動し、PBAナトリウムおよびHPN−100の両方で類似していた。さらに、PBAナトリウムで処置した患者におけるPAGNの尿中排出量が「午後」(6〜12時の尿回収)の間に最高レベルに到達したのに対して、HPN−100処置患者におけるPAGNのピーク排出量は一晩(12〜24時間の尿回収)で起こったという点で、24時間の排泄パターンが異なるようであった。この差は、恐らく、PBAナトリウムと比較した場合の、HPN−100投与後の有効血中濃度についてのPAAの徐放性およびより長い持続時間を反映する。HPN−100は、全ての血液サンプル中で検出できないか、定量限度未満であった。
【0134】
平均PAGN排泄量(μg)についてのPBAナトリウム(フェニル酪酸ナトリウム)対HPN−100の比較
【0135】
【表8】

以下の表にまとめているように、HPN−100後の静脈アンモニアの平均時間正規化曲線下面積(TN−AUC)値は、PBAナトリウムを使用して認められた値よりも一方向に(約31%)低かったが(26.1対38.4μmol/L)、この差は統計的に有意ではなかった(図10)。同様に、HPN−100後のピーク静脈アンモニア濃度は、PBAナトリウムを使用して観察された濃度よりも一方向に(約29%;統計的に有意ではない)低かった(それぞれ、56.3対79.1μmol/L)。
【0136】
静脈アンモニアの正常上限は、研究施設間で26〜35μmol/Lで変動した。各患者のアンモニア値(TN−AUC)の試験により、PBAナトリウムに対してより高いアンモニアレベルを有する患者は、HPN−100の投与後のアンモニア値の減少がより大きいことが証明された(図12)。さらに、HPN−100後の平均アンモニア値(26.1μmol/L)が正常範囲内であった一方で、PBAナトリウム(フェニル酪酸ナトリウム)後の正常上限(ULN)を超えた(38.4μmol/L)(図13)。同様に、正常アンモニア値の平均百分率は、PBAナトリウム処置後の58%からHPN−100処置後の83%に増加した。
【0137】
【表9】

以下の表および図11にまとめているように、UCD患者間のアンモニア曝露のこの減少は、HPN−100を投与した被験体の間でのより良好な一晩の調節を反映する。本研究は、HPN−100を使用してアンモニアについてのAUCおよびCmaxの両方が低下し(総アンモニア曝露の低下を示す)、特に夜において、HPN−100は有意により強力な効果を示した。集団の規模が小さいために統計的に有意ではないが、これは、重要な基準(尿排泄のためにアンモニアを動員する能力)に基づいて等モルベースでHPN−100が少なくとも有効であり、外見上はPBAよりもっと有効であることを証明している。予備段階の結果に基づいて、HPN−100によってより安定なアンモニアレベルも得られ、高アンモニア血症のリスクを軽減させる。この試験では、HPN−100およびPBAナトリウムの両方を経験した10人の被験体のうちの9人がHPN−100の方を好んだ。
【0138】
さらに、この試験では、HPN−100を摂取した患者で重篤な有害作用(SAE)は認められなかった一方で、PBAを投与した2人の被験体は症候性高アンモニア血症を経験し、HPN−100を摂取した被験体の間で報告された有害作用(AE)の総数(5人の被験体が全部で15AEを報告した)は、PBAを摂取した被験体間のAE数(7人の被験体が21AEを報告した)より低かった。
【0139】
以下の表は、等モル比で投与したPBAナトリウムおよびHPN−100についての全比較データをまとめている(n=10)(さらなる詳細については、上記表および図10〜13を参照のこと)。
【0140】
【表10】

サンプルサイズが小さいためにPBAナトリウムとHPN−100との間の差が統計的有意性に到達しなかったが、HPN−100は、等モル投薬量でより有効である明確な傾向を示し、アンモニアレベルの一晩の調節の改善に特に有効であった。
【0141】
図9aは、血中PBAレベルが、投与されたHPN−100投薬量と相関しないことを示す。この図は、PBAについての24時間AUCおよびPBAについてのCmaxをHPN−100投薬量(上のパネル)に対してプロットしている一方で、各患者におけるAUCおよびCmaxを一緒に追跡し、これらはHPN−100用量との関連はないことを示している:高用量のHPN−100を投与した患者で、最高および最低のPBA曝露の両方が生じた。図9bは、PAAのレベルが同様にHPN投薬量と相関しないことを示す。
【0142】
図10は、HPN−100によって全体的に見て廃棄窒素がより良好に調節されたという臨床試験における傾向を示す。
【0143】
図11は、HPN−100を使用して達成される、過剰なアンモニアの夜間の調節の改善を示す。
【0144】
図12は、特にPBAナトリウム(NaPBA)で処置した場合にアンモニアレベルがより高い患者について、HPN−100によってPBAナトリウムより良好に調節される一方で、アンモニアレベルがより低い患者(PBAナトリウムが比較的良好に作用すると考えられる患者)では、HPN−100によって少なくとも類似のアンモニア調節が得られることを示す。PBAナトリウムで処置した場合にアンモニアレベルが約40μmol/Lを超える患者について、等モル投薬量のHPN−100によってより優れたアンモニア調節が得られ、約40μmol/L未満までアンモニアレベルが一貫して減少したことに留意のこと。したがって、PBAナトリウムで処置した場合にそのアンモニアレベルが異常な(例えば、約40μmol/L超)患者について、等モル量のHPN−100を使用してより良好なアンモニア調節を行うことができると予想される。これに基づいて、HPN−100の投薬量を本明細書中に記載のように決定することができる。図13は、この試験においてPBAナトリウムを使用するよりもHPN−100によってアンモニアレベルがより良好に調節され(例えば、平均アンモニアレベルがより低い)、且つ正常上限未満である傾向があることを示す。
【0145】
実施例4
アンモニア調節と尿中PAGN排泄間の関係
上記の実施例(実施例3)に記載のUCD患者における臨床試験の一部として、血漿アンモニアレベルとPAGNの尿排泄との間の関係を試験した。アンモニアレベル(すなわち、アンモニア調節)との一貫した関係を示さなかったPAAまたはPBAの血中レベルと異なり、時間正規化曲線下面積として評価した血中アンモニアは、尿中PAGNと逆の曲線性の関係を示した。すなわち、尿中PAGNが増加するにつれて血漿アンモニアは減少した。さらに、アンモニアと尿中PAGN排泄との間の関係は、PBAナトリウムとHPN−100との間で異ならなかった。これにより、この用量決定方法が生成物形成と無関係であることが示唆された。図5は、尿中PAGN排出量に対しての血漿アンモニアのプロット(TN−AUC)を示す。
【0146】
実施例5
投与計画を使用した実験
上記実施例で認められた単回投与PK/PDモデリングの結果により、HPN−100がPBAナトリウムと比較して徐放性を示すことが示唆された。これにより、投与の柔軟性が増加する可能があり、これを上記のさらなる臨床研究でさらに調査した。これらのうちの1つにおいて、HPN−100を、絶食状態および摂食状態で1日2回投与した。他方では、HPN−100を1日3回食事と共に投与した。1日3回および1日2回の投与のいずれによっても類似の割合の尿中PAGN排泄が得られ、1日3回の投与は、有効なアンモニア調節に関連していることが成人UCD患者で実証された。
【0147】
実施例2では、摂食時HPN−100投与対絶食時HPN−100投与および単回HPN−100投与対複数回HPN−100投与後のPK変数を比較するいくつかの二次統計分析も行った。HPN−100を絶食後(1日目)または摂食時(8日目)に投与した場合、PKやPDの差は認められなかった。したがって、HPN−100を、食事を必要とすることなく有効に投与することができると考えられるが、PBAナトリウム(PBAナトリウム)についてのラベルおよび添付文書には摂食時に摂取すべきであると記載している。絶食状態と摂食状態(8日目対1日目)との間でPAA PK変数は差がないことに加えて、以下の表は複数の投与(15日目対8日目)を使用して生じるPAAの血漿蓄積も示す。
【0148】
【表11】

p=0.64(グループ効果について);†p=0.72(グループ効果について)
‡1日目に、チャイルド・ピュー群Bでn=2および他の全群でn=0;15日目に、群Aでn=4、群Bで2、群Cで1、および群Dで3
AUC0〜12、時間0から投与後12時間までの血漿濃度曲線下面積;AUC0〜t、時間0から最後の測定可能な濃度までの血漿濃度曲線下面積;Cmax、最高実測血漿濃度;CV、変動係数;geo.Mean、幾何平均;n、被験体数;SD、標準偏差;Tmax、最高実測血漿濃度までの時間;t1/2、半減期。
【0149】
実施例6
PK/PDモデリングの結果
ほとんどの薬物の場合、体循環に到達する前に肝臓によって除去および代謝される経口投与された用量の一部(すなわち、初回通過効果)は生物学的に利用可能と見なされない。何故なら、この用量は体循環に入らず、したがって、その標的器官または受容体に到達することができないからである。しかし、これは、本発明に記載のアンモニア捕捉薬には当てはまらない。肝細胞およびおそらく腸細胞はPBAからPAAへの変換およびPAAからPAGNへの変換に必要な酵素を含み、且つ、内臓および体循環中にグルタミンが存在するので、体循環に到達する前に(すなわち、「全身前」(pre−systemically))PBAをPAGNに変換することができ、このPBAはアンモニア捕捉に関して十分に有効である(図6)(すなわち、十分に活性である)可能性が高い。この可能性を検証するために、上記臨床試験由来の血漿および尿代謝産物データ(5000データポイントにわたる)(健康な成人、肝硬変症を有する被験体、およびUCD被験体を含む)に対してNONMEM VI(Icon、Ellicot City、MD.)を使用したPK/PDモデリングを行った。このPK/PDモデリングの結果から図3に示すモデルを確認した。さらに、モデリングによってPBAナトリウムと比較して、HPN−100が徐放性を示すことを検証し、血中PBA/PAAレベルとアンモニアとの間の相関性の低さが説明され、尿中PAGNは用量の調整に重要である。PK/PDモデリングに起因する重要な結論を以下に示した。
1.PBAは、HPN−100対PBAナトリウムの投与後に腸からよりゆっくり吸収される(約40%の速度)(HPN−100およびPBAナトリウムの吸収速度定数および吸収半減期は、それぞれ0.544h−1対1.34h−1および1.27時間対0.52時間である)。
2.PBAナトリウムと比較してHPN−100の投与後のより低いPBAの血漿レベルは、NaPBAよりもHPN−100の投与後に部分的により大量のPBA(31%対1%)が全身前に(PAAおよびPAGNに)変換されることを示す結果を反映する。
3.健康な個体、肝硬変症個体、およびUCD個体を含むデータセットでは、評価されたHPN−100の生物学的利用能に関する共変動として診断を導入し、成人UCD患者と比較して健康な成人で32%のより低く評価されたPBAの生物学的利用能が明らかとなった。肝硬変症患者およびUCD患者は、HPN−100処置後に類似のPBA生物学的利用能を有していた。
【0150】
実施例7
3匹のカニクイザル(Cynomolgous Monkey)におけるADME研究
アンモニア捕捉薬の前臨床的取り扱いを評価するために、600mg/kgの放射性標識PBAナトリウムまたは放射性標識HPN−100のいずれかを単回用量として3頭のカニクイザル(cynomolgous monkey)に投与した。ヒトと同様に(他のほとんどの種と異なる)、これらのサルは、PAAをPAGNに代謝し、それによりPAAのプロドラッグ試験に有用なモデルであるので、これらのサルを選択した。この研究により、実施例1〜3にまとめた臨床的所見を実証し、この実証には以下が含まれていた:(a)PBAナトリウムの経口投与またはHPN−100の経口投与では尿中PAGNに100%変換されなかったこと、(b)血漿PBAおよび血液PAAレベルは尿中PAGN排出量を反映するアンモニア捕捉活性と一貫して相関しなかったこと、および(c)HPN−100はPBAナトリウムと比較して徐放性を示したこと。
【0151】
放射性標識したPBAおよびPAAは、放射性標識したHPN−100の投与後に、むしろゆっくり体循環に入り(PBAについてのCmaxは投与から1.5時間後に達成され(52.2μg/mL)、PAAについてのCmaxは投与から8時間後に達成された(114μg/mL))、これによりヒトで認められた所見(PK/PDモデリングが含まれる)が実証され、HPN−100は体循環や排泄中に本質的に出現しなかった。尿中に排泄されたHPN−100由来の放射性物質の約90%はPAGNであり、投与したHPN−100の39%を占めた。対照的に、PBAナトリウムを経口投与した場合、PAGNは放射性標識物質の23%しか占めず、変化していないPBAがPBAナトリウムの経口投与量の48%を占めた。したがって、経口PBAナトリウムはHPN−100よりも使用効率が低く、予想外に大量のPBAが変化しないまま排泄された。
【0152】
実施例8
生物学的および解剖学的考察
全身の血液によって灌流する標的器官/細胞/受容体(など)に作用するほとんどの薬物と異なり、本発明で対象とされるタイプのアンモニア捕捉薬は標的器官に作用せず、むしろ、PAAがグルタミンと組み合わされてPAGNを形成することによって作用する(図6)。グルタミンが内臓および体循環中に存在し、肝臓はHPN−100またはPBAのPAAへの変換およびその後のPAGNへの変換に関与する全工程を触媒することができる代謝的に活性な器官であるので、現在までに蓄積されたデータ(PK/PDモデリングが含まれる)および解剖学的考慮により、PBA/PAAが体循環に到達する前に(例えば、肝臓内で)顕著な程度にPBA/PAAからPAGNを形成するとの結論が導かれる。HPN−100をPBAプロドラッグとして投与した場合にこれは特に当てはまる。これにより、血漿レベルとアンモニアトラッピング効果との間の相関の低さが説明され、これらのPBAプロドラッグの投与および用量の調整がPAGNの尿排泄および総尿窒素に基づくべきであるという結論が導かれる。図6は、これがどのようにして起こるかを示している。
【0153】
一定の臨床試験、特に、HPN−100とPBAとの比較のために、HPN−100を、特定の患者に適切と見なされると考えられるPBAナトリウム量に等価な(等モルの)用量で投与し、次いで、本明細書中に記載の方法によって投薬量を調整することができる。例えば、HPN−100の用量範囲は、承認されたPBAナトリウム(フェニル酪酸ナトリウム)(NaPBA)の用量範囲と等価なPBAモルに匹敵する。HPN−100を、食事と共に1日3回(TID)投与するであろう。NaPBA用量のHPN−100用量への変換にはその異なる化学的形態の補正(すなわち、HPN−100は3分子のPBAがエステル結合したグリセロールからなり、ナトリウムを含まない)(NaPBA(g)×0.95=HPN−100(g))およびHPN−100の比重(1.1g/mLである)の補正を含むことに留意のこと。
【0154】
【表12】

20gのPBAナトリウムは約17.6gのフェニル酪酸を含む;19gのHPN−100は約17.6gのフェニル酪酸を含む。
【0155】
実施例9
HPN−100の出発投薬量の決定および用量の調整
本明細書中に記載のアンモニア捕捉剤で現在処置されていない窒素貯留容態(例えば、遺伝性尿素回路障害、または肝硬変症)を有する患者を、かかる処置が必要であることを臨床的に決定する。この臨床的決定は、種々の因子(例えば、肝硬変症患者におけるHEの徴候および症状、血中アンモニアレベルの上昇)に基づくであろう。
【0156】
出発投薬量は、臨床的検討材料(残存尿素合成能力の評価(生後数日間に高アンモニア血症(hyperammonia)を発症したUCDの乳児は重要な尿素合成能力を持たないと推定されるであろう)および適切な食事性タンパク質摂取量(すなわち、UCDの乳児は身体の成長を補助するために食事性タンパク質を増加させる必要があるが、肝硬変症患者における長期の食事性タンパク質制限は通常は無効または逆効果である)が含まれる)および本発明に概説した方法に基づく。例えば、残存尿素合成能力が制限された成人をHPN−100の初期投薬量19g/日で処置し、1日あたり約25gのタンパク質を含むタンパク質制限食を与えた。患者のPAGNの1日尿中排出量をモニタリングする。HPN−100の1日摂取量は、分子量約530で19gのHPN−100(0.0358molのHPN−100である)になる。1モルのHPN−100を理論的には3モルのPAAに変換、従って3モルのPAGNに変換することができるので、19gの1日投薬量のHPN−100からin vivoで0.108molのPAGNを生成することができる。PAGNに完全に変換される場合、全PAGNが尿に排泄され、PAGNの理論量は28.4g/日であろう。食事性タンパク質の16%が窒素であり、食事性窒素の約47%が廃棄窒素として排泄される(Brusilowを参照のこと)と仮定すると、この量は、約41グラムの食事性タンパク質に起因する廃棄窒素排泄を媒介するのに十分であろう。
【0157】
しかし、本明細書中で証明されているように、HPN−100は、典型的には、約60%〜75%の効率(典型的には、UCD患者で約60%変換が、肝硬変症患者で約75%変換が見出された)で尿中PAGNに変換されるので、医師は、HPN−100のこの投薬量から1日あたり約17gの尿中PAGN排出量が認められると予想するであろう。これは、約25グラムの食事性タンパク質に相当する−この量は処方量に類似するが、理論量(41グラム)未満である。HPN−100のこの投薬量は理論的に考慮されることが予想されたかもしれない。したがって、60〜75%の効率の調整は処置プログラム全体に顕著に影響を及ぼし、主治医は、効率を知ることにより、この投薬量のHPN−100で管理するための、患者には多すぎるタンパク質を含む食事を患者に提供することを回避することができる。
【0158】
患者をモニタリングする場合、医師が予想するよりも高い尿中PAGNの排出量を認めた場合、HPN−100の投薬量を比例的に減少させる。したがって、21gの尿中PAGN/日が認められる場合、医師はHPN−100の投薬量を(17/21)×19g=15gに減少させる。同様に、尿中PAGN排出量が予想量よりも低い場合(12g/日など)、HPN−100量を増加させるであろう:12gが認められ、且つ17と予想される場合、医師は、HPN−100の投薬量を(17/12)×19g=27g HPN−100/日に調整することができる(この投薬量が患者への投与が安全と見なされる範囲内である場合)。HPN−100の投薬量または食事性タンパク質摂取量のいずれかを調整してこの被験体のための処置計画を最適にすることができる。
【0159】
場合により、尿中PAGN排出量を、尿中PAGN濃度の尿中クレアチニン濃度に対する比として決定することができる。総1日尿中PAGNを決定するよりもむしろ、医師は単一の尿サンプルの試験から総1日尿中PAGNを評価することができるように、クレアチニンレベルは、典型的には、所与の個体が尿体積についての正規化因子を得るのに十分に安定している。
【0160】
医師はまた、患者の血漿アンモニアレベルおよび食事性タンパク質摂取量をモニタリングして、患者の食事性タンパク質摂取量と薬物処置との組み合わせによって適切な治療効果が得られるかどうかを確認することができる。食事性タンパク質摂取量または薬物の投薬量またはその両方を調整して、正常または所望の血漿アンモニアレベル(例えば、約40umol/L未満のレベル)を得ることができる。しかし、本明細書中に記載の観察結果によって証明されるように、医師は、HPN−100の投薬量を調整するか、そうでなければ処置をガイドするために、PAAまたはPBAの血漿レベルを使用しないであろう。何故なら、これらのレベルは投与したHPN−100のアンモニア捕捉効果と十分に相関しないからである。
【0161】
用量19gのHPN−100が不適切であると決定されると(例えば、患者は、患者の尿素合成能力を超える廃棄窒素の排泄およびPAGN排泄が起こると考えられる食事性タンパク質の増加を必要とする)、HPN−100用量を、必要な食事性タンパク質を対象とするのに十分に増加させ、尿中PAGN排泄に基づいた同一の用量調整方法を適用してHPN−100の投薬量を決定するであろう。
【0162】
本質的に全ての尿窒素がPAGNによって説明されると考えられる尿素合成能力がほとんどないか全くない被験体では、アンモニア捕捉効果を、尿中のPAGNレベルの直接測定よりもむしろ総尿窒素(TUN)の測定によってモニタリングすることができる。
【0163】
場合により、PAGNとしての窒素の存在量を差し引くことによって、TUNを尿素合成能力基準として使用することができる。
【0164】
実施例10
すでにPBAナトリウムを投与した患者のためのHPN−100の投薬量の決定
既にPBAナトリウムを投与したHPN−100に移行すべきUCD患者は、食事性タンパク質の評価および尿中PAGN排泄の測定を受けるであろう。
【0165】
患者がPBAナトリウムで適切に調節されていると判断される場合、HPN−100の出発用量は、同量のPAAを送達させるのに必要な量であろう(例えば、19グラムのHPN−100は20グラムのPBAナトリウムに相当するであろう)。その後の用量の調整は、尿中PAGN測定の繰り返しならびに食事性タンパク質およびアンモニアの評価に基づくであろう。しかし、本明細書中に記載の観察結果によって証明されるように、医師は、HPN−100の初期投薬量を決定するか、HPN−100の投薬量を調整するか、または別の方法で処置を指導するために、PAAまたはPBAの血漿レベルを使用しないであろう。何故なら、これらのレベルは投与したHPN−100のアンモニア捕捉効果と十分に相関しないからである。
【0166】
患者がPBAナトリウムで不適切に調節されていることが決定される場合、かかるHPN−100投薬量が別の方法では適切であるという条件で、HPN−100の出発用量を、PBAナトリウム用量よりも多いPAA量が送達されるように選択するであろう。その後の用量の調整は、尿中PAGN測定の繰り返しならびに食事性タンパク質および血漿アンモニアの評価に基づくであろう。しかし、本明細書中に記載の観察結果によって証明されるように、医師は、HPN−100の初期投薬量を決定するか、HPN−100の投薬量を調整するか、または別の方法で処置を指導するために、PAAまたはPBAの血漿レベルを使用しないであろう。何故なら、これらのレベルは投与したHPN−100のアンモニア捕捉効果と十分に相関しないからである。
【0167】
場合により、例えば、高アンモニア血症を繰り返し発症する病歴を有する「脆弱な」UCD患者において、1つを超える工程でPBAナトリウムをHPN−100に変換することができ、それにより、各工程で、PBAナトリウムの用量を漸増用量のHPN−100によって送達されるPAA量に相当する量に減少させるであろう。
【0168】
HPN−100の用量が不適切であると決定されると(例えば、患者は、患者の尿素合成能力を超える廃棄窒素の産生およびPAGN排泄が起こると考えられる食事性タンパク質の増加を必要とする)、HPN−100用量を、必要な食事性タンパク質を対象とするのに十分に増加させ、尿中PAGN排泄に基づいた同一の用量調整方法を適用するであろう。
【0169】
本明細書中に記載の実施例は例示のみを目的とし、本発明を制限すると見なすべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素貯留障害の処置を必要とする患者のためのHPN−100の有効投薬量を決定する方法であって、
HPN−100の初期投薬量の影響をモニタリングする工程であって、前記影響をモニタリングする工程が、前記患者の尿中フェニルアセチルグルタミン(PAGN)排出量の決定から本質的になる、工程;および
前記尿中PAGN排出量から、所望のアンモニア捕捉効果を得るために、前記HPN−100の初期投薬量を調整するかどうかおよび/またはどのようにして調整するのかを決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
尿中PAGN排出量を、尿中PAGNの尿中クレアチニンに対する濃度比として決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記窒素貯留障害が、慢性肝性脳症、または尿素回路障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者に対してHPN−100の有効投薬量を投与する工程が、該患者における正常血漿アンモニアレベルを生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
窒素貯留障害の処置を必要とする患者のためのHPN−100の有効投薬量を決定する方法であって、
HPN−100の初期投薬量の影響をモニタリングする工程であって、前記影響をモニタリングする工程が、前記患者の尿中フェニルアセチルグルタミン(PAGN)排出量および/または総尿中窒素の決定から本質的になる、工程
を含む、方法。
【請求項6】
窒素貯留障害を有する患者のためのHPN−100の投薬量を決定する方法であって、HPN−100のPAGNへの変換についての約60%〜約75%の利用効率に基づいて、前記HPN−100の投薬量を計算する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記HPN−100の投薬量を前記患者の食事性タンパク質摂取量から計算する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記HPN−100の投薬量を、前記患者の残存尿素合成能力を考慮して減少させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アンモニア貯留障害を有する患者のためのPAAプロドラッグの投薬量を決定する方法であって、
a)前記患者の残存尿素合成能力を決定する工程、
b)前記患者の食事性タンパク質摂取量を決定する工程、
c)a)およびb)から前記患者の目標とする尿中PAGN排出量を評価する工程、
d)前記目標とする量の尿中PAGNを得るために必要な前記PAAプロドラッグ量を決定する工程
を含み、
約60%〜約75%の前記PAAプロドラッグが尿中PAGNに変換される、方法。
【請求項10】
前記PAAプロドラッグがフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記PAAプロドラッグがHPN−100である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
適切な投薬量のPAAプロドラッグを使用してアンモニア貯留障害を有する患者を処置する方法であって、
a)前記患者の残存尿素合成能力を決定する工程、
b)前記患者の食事性タンパク質摂取量を決定する工程、
c)a)およびb)から前記患者の目標とする尿中PAGN排出量を評価する工程、
d)約60%〜約75%の前記PAAプロドラッグの尿中PAGNへの変換に基づいて、前記目標とする量の尿中PAGNを動員するのに必要な前記PAAプロドラッグ量を決定する工程、および
e)前記適切な投薬量の前記PAAプロドラッグを前記患者に投与する工程
を含む、方法。
【請求項13】
前記PAAプロドラッグがフェニルブチラートもしくはその薬学的に許容可能な塩、またはHPN−100である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記PAAプロドラッグがHPN−100であり、前記患者が臨床的に重要な残存尿素合成能力を有する患者であり、前記HPN−100を1日に2用量または3用量投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
初期量のフェニルアセタートまたはフェニルブチラートで処置を受けた患者を最終量のHPN−100での処置に移行させる方法であって、
前記フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するためのHPN−100の置換量を決定する工程、
前記置換量の前記HPN−100を前記フェニルアセタートまたはフェニルブチラートの代わりに使用する工程、および
前記患者によって排泄された尿中PAGN量をモニタリングして前記置換量の前記HPN−100の有効性を評価する工程
を含む、方法。
【請求項16】
前記移行により生じる前記尿中PAGN量の増加が、前記HPN−100の量を減少させ得ることを示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
初期1日投薬量のフェニルブチラートを摂取している患者をフェニルブチラートからHPN−100の摂取に移行させる方法であって、
a)前記初期1日投薬量のフェニルブチラートの少なくとも一部を置換するのに適切なHPN−100の量を決定する工程、
b)前記適切なHPN−100の量を、前記初期1日投薬量のフェニルブチラートから前記HPN−100によって置換された一部に相当する量を差し引いた量に相当する量のフェニルブチラートと共に前記被験体に投与する工程、
c)前記被験体についての尿中PAGNの排泄レベルを決定する工程、および
d)全ての前記フェニルブチラートがHPN−100に置換されるまで工程a〜cを繰り返す工程
を含む、方法。
【請求項18】
段階的様式でフェニルアセタート、フェニルブチラート、またはHPN−100で処置を開始する方法であって、
a)患者の食事性窒素摂取量を評価または測定する工程、および/または
b)食事および尿素合成能力に基づいて前記患者に必要な尿中廃棄窒素排泄を評価する工程、次いで
c)投与薬物の60%〜75%がPAGNへ変換するとの評価を考慮して、必要な廃棄窒素クリアランスの一部が尿中PAGNとして得られると評価された、前記薬物の出発用量を投与する工程、および
d)適切に前記薬物の用量を増加させ、前記薬物の維持用量に到達させるために前記複数の工程を繰り返す工程、
を含む、方法。
【請求項19】
PBAプロドラッグでUCD患者を処置する方法であって、前記患者に等モル量のPBAを投与した場合に認められたAUCおよびCmaxと比較した場合の、前記患者に前記PBAプロドラッグを投与した場合のPBAについてのAUCおよびCmaxによって判定されるように、前記患者のPBAへの曝露を増加させることなく、前記プロドラッグによって、PBAと比較して等価であるかまたはそれより良好なレベルのアンモニアが調節される、方法。
【請求項20】
前記PBAプロドラッグがHPN−100である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
PBA曝露についてのAUCが、前記プロドラッグを使用する場合に、PBAを使用する場合よりも少なくとも約20%低い、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記プロドラッグでの処置のときの前記PBAへの曝露は、PBAでの処置と比較して少なくとも約30%低い、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
窒素貯留障害を有する患者に対して適切な食事性タンパク質レベルを決定する方法であって、
前記患者の内因性の窒素排泄能力を決定する工程、
前記内因性の窒素排泄能力から、窒素捕捉薬の助けなしに前記患者が処理することができる食事性タンパク質量を計算する工程、
その後、健康および身体の成長に必要なタンパク質を考慮して、選択された投薬量の窒素捕捉薬の助けで前記患者が処理することが可能であるはずのタンパク質量を添加して、前記選択された投薬量の窒素捕捉薬で処置している間に前記患者が有することができる食事性タンパク質の量に到達させる工程、
を含む、方法。
【請求項24】
前記窒素捕捉薬がHPN−100である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記HPN−100の選択された投薬量が約19g/日までであり、この量のHPN−100の助けで前記患者が処理することができるはずである前記食事性タンパク質の量が、1gのHPN−100あたり約1gのタンパク質である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
PBAプロドラッグで患者を処置する方法であって、19g/日を超える1日用量のHPN−100を、HEまたはUCDを有する被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
前記HPN−100の1日用量が約19gと約57gとの間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
PBAプロドラッグHPN−100を使用して窒素貯留障害を有する患者を処置する方法であって、前記PBAプロドラッグを投与した場合のPBAについてのAUCが約600未満であり、PBAについてのCmaxが約100未満である、方法。
【請求項29】
HPN−100で処置した場合に前記被験体の血漿アンモニアレベルが平均して正常である、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−501329(P2012−501329A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525021(P2011−525021)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/030362
【国際公開番号】WO2009/134460
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(511052347)ユーサイクリッド ファーマ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】