説明

アンモニウム塩含有排水の処理装置

【課題】アンモニウム塩含有排水を電気透析装置によって処理するアンモニウム塩含有排水の処理装置において、カチオン濃縮室における導電率を高くし、電気透析装置の電力消費量を減少させ、効率よくアンモニウム塩含有排水を処理することが可能となるアンモニウム塩含有排水の処理装置を提供する。
【解決手段】電気透析装置10の脱塩室18にアンモニウム塩含有排水が供給され、アニオン濃縮室17から酸含有水が取り出され、カチオン濃縮室19からアンモニア水が取り出されるアンモニウム塩含有排水の処理装置において、該カチオン濃縮室19から取り出されたアンモニア水を該カチオン濃縮室に返送する返送ライン40,44と、アンモニア水に炭酸ガスを吹き込む炭酸ガス吹込槽41とを備えたアンモニウム塩含有排水の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩を含有する排水を処理するアンモニウム塩含有排水の処理装置に係り、特に電気透析装置を用いたアンモニウム塩含有排水の処理装置に関する。詳しくは、金属酸化物の精製工程からのアンモニウム塩含有排水の処理に好適なアンモニウム塩含有排水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体の原料などで用いられている酸化イットリウムを高純度化するために、低純度の酸化イットリウム原石を酸溶解した後に水酸化物もしくは炭酸塩として析出・沈殿させたものを焼成することが行われている。この工程からは、酸溶液と、析出・沈殿させる際の副生成物となるカチオン(炭酸塩として析出させる場合、アンモニウムイオン)含有排水が多量に排出され、その排水は窒素成分を多く含むために、処理を行う必要がある。
【0003】
モナズ鉱からセリウム化合物及び希土類元素化合物を取り出す工程からも、硝酸アンモニウム含有排水が排出され、同様に処理が必要となる。
【0004】
特開平7−163845には、硝酸アンモニウム含有排水を電気透析装置の脱塩室に供給し、アンモニウムイオンを脱塩室からアニオン濃縮室に移動させてアンモニア液として取り出し、硝酸イオンを脱塩室からカチオン濃縮室に移動させて硝酸として取り出すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−163845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気透析装置の脱塩室からカチオン濃縮室に移動したNHは電離度の低いNHとなるので、カチオン濃縮室の導電率が低くなる。これは電圧上昇の原因となり、電気透析装置の電力消費量が多くなる。
【0007】
本発明は、アンモニウム塩含有排水を電気透析装置によって処理するアンモニウム塩含有排水の処理装置において、カチオン濃縮室における導電率を高くし、電気透析装置の電力消費量を減少させ、効率よくアンモニウム塩含有排水を処理することが可能となるアンモニウム塩含有排水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のアンモニウム塩含有排水の処理装置は、陽極及び陰極との間にアニオン交換膜及びカチオン交換膜が配置されることにより脱塩室、アニオン濃縮室及びカチオン濃縮室が形成された電気透析装置を用いたアンモニウム塩含有排水の処理装置であって、該脱塩室にアンモニウム塩含有排水が供給され、該アニオン濃縮室から酸含有水が取り出され、該カチオン濃縮室からアンモニア水が取り出されるアンモニウム塩含有排水の処理装置において、該カチオン濃縮室から取り出されたアンモニア水を該カチオン濃縮室に返送する返送ラインと、アンモニア水に炭酸ガスを吹き込む炭酸ガス吹込手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のアンモニウム塩含有排水の処理装置は、請求項1において、前記返送ラインの途中に前記炭酸ガス吹込手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3のアンモニウム塩含有排水の処理装置は、請求項1又は2において、前記脱塩室から取り出された脱塩水を逆浸透処理する逆浸透膜装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、アンモニウム塩含有排水を電気透析装置の脱塩室に供給し、酸イオンを脱塩室からアニオン濃縮室に移動させ、アンモニウムイオンを脱塩室からカチオン濃縮室(アンモニウムイオン濃縮室)に移動させる。このカチオン濃縮室から取り出されたアンモニア含有水をカチオン濃縮室に返送し、循環させると共に、このアンモニア含有水に対し炭酸ガスを吹き込む。これにより、アンモニア含有水中のアンモニアが炭酸ガスと反応して炭酸アンモニウムとなり、その電離度(解離度)が増加し、電気透析装置のアンモニウムイオン濃縮室内の水の導電率が高くなる。このため、電気透析装置のカチオン濃縮室の導電率が高くなり、電気透析装置の電力消費量が減少する。
【0012】
炭酸ガスは、電気透析装置のカチオン濃縮室に吹き込むと、カチオン濃縮室にガス溜りが生じるおそれがあると共に、カチオン濃縮室のスペースも小さいところから、返送ラインに吹き込まれるのが好ましい。
【0013】
電気透析装置から取り出されたアンモニウム塩濃度の低い脱塩水については、必要に応じ逆浸透膜装置(RO装置)によって脱塩処理することにより、放流基準以下の濃度まで処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明装置の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、アンモニウム塩含有排水を電気透析装置を用いて処理するものである。このアンモニウム塩含有排水としては、酸化イットリウム精製工程排水、モナズ鉱からセリウム化合物、希土類化合物を取り出す工程からの排水など、硝酸アンモニウム含有排水が例示されるが、これに限定されるものではない。例えば、ナイロン原料製造工程から副生する硫酸アンモニウムを硫酸とアンモニアに分離する処理にも適用できる。また、塩化アンモニウム、フッ化アンモニウムなどの含有排水の処理にも適用できる。
【0017】
上記の硝酸アンモニウム含有排水を処理する場合、硝酸アンモニウム含有排水中の硝酸アンモニウム濃度は10〜30wt%特に15〜25wt%程度が好適である。この硝酸アンモニウム含有排水中には、炭酸イオンなどが含まれていても差し支えない。
【0018】
なお、原水を予め遠心分離や膜濾過(例えばUF膜濾過)して金属酸化物、金属炭酸塩などの微粒子を除去しておくのが好ましい。
【0019】
図1は、硝酸アンモニウム含有排水を処理するフローの一例を示している。電気透析装置10は、陽極11と陰極12との間にカチオン交換膜13、アニオン交換膜14を配置したものであるが、この実施の形態ではさらにバイポーラ膜15も配置している。バイポーラ膜は、図示の通り、アニオン交換膜とカチオン交換膜とを積層状としたものであり、アニオン交換膜面が陰極12を指向し、カチオン交換膜面が陽極11を指向するように配置されている。最も陽極11側にはカチオン交換膜13が配置され、陽極11との間が陽極室16となっている。最も陰極12側にはアニオン交換膜14が配置され、陰極12との間が陰極室20となっている。
【0020】
陽極室16側から陰極室20側に向ってカチオン交換膜13、アニオン濃縮室としての硝酸イオン濃縮室17、アニオン交換膜14、脱塩室18、カチオン交換膜13、カチオン濃縮室としてのアンモニウムイオン濃縮室19、バイポーラ膜15、硝酸イオン濃縮室17、アニオン交換膜14、脱塩室18、カチオン交換膜13、アンモニウムイオン濃縮室19、アニオン交換膜14が配置されている。脱塩室18には、後に詳述する通り、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混合充填しておくのが好ましい。
【0021】
原水(硝酸アンモニウム含有排水)は、原水ライン1から脱塩室18に供給され、取出ライン2を経て脱塩水槽3に導入され、ポンプ4、返送ライン5及び前記ライン1を経て脱塩室18に循環される。なお、ライン5から脱塩水取出ライン6が分岐している。
【0022】
硝酸イオンがアニオン交換膜14を透過して脱塩室18から硝酸イオン濃縮室17に移動することにより硝酸イオン濃縮室17に生じた硝酸は、硝酸ライン30から硝酸槽31に導入され、ポンプ32、ライン33を介して硝酸イオン濃縮室17に返送される。ライン33からは硝酸取出ライン34が分岐している。
【0023】
この実施の形態では、アンモニウムイオンがカチオン交換膜13を透過して脱塩室18からアンモニウムイオン濃縮室19に移動することにより、アンモニア及び炭酸水素アンモニウム含有水が生成し、このアンモニア及び炭酸水素アンモニウム含有水がライン40から炭酸ガス吹込槽41に導入され、炭酸ガスが散気管42から吹き込まれる。これにより、アンモニアは重炭酸アンモニウム(炭酸水素アンモニウム)となる。この重炭酸アンモニウム含有水がポンプ43、ライン44を介してアンモニウムイオン濃縮室19へ返送される。ライン44からは重炭酸アンモニウム含有水の取出ライン45が分岐している。炭酸ガスの吹込量は、炭酸ガス吹込槽内のpHが中性例えば6〜8程度となる量が好適である。
【0024】
このように構成されたアンモニウム塩含有排水の処理装置10を用いて硝酸アンモニウム含有排水を処理する場合、運転開始時には各濃縮室17,19、槽31,41には純水を張っておくのが好ましい。また、原水を脱塩室18及び脱塩水槽3に張っておくのが好ましい。
【0025】
陽極室16及び陰極室20には電極反応を起こしにくいNaSO溶液を通液するのが好ましい。
【0026】
脱塩水槽3内の原水をポンプ4、ライン5,1、脱塩室18、ライン2の順に循環させると共に、硝酸イオン濃縮室内の水をライン30、槽31、ポンプ32、ライン33の順に循環させる。また、アンモニウムイオン濃縮室内の水をライン40、炭酸ガス吹込槽41、ポンプ43、ライン44の順に循環させると共に、炭酸ガスを散気管42から炭酸ガス吹込槽41に吹き込み、NHOH成分をNHHCOとする。原水中の硝酸イオンはアニオン交換膜14を透過して硝酸イオン濃縮室17に移動し、アンモニウムイオンはカチオン交換膜13を透過してアンモニウムイオン濃縮室19に移動する。これにより、脱塩室18を通過する原水中の硝酸イオン濃度及びアンモニウムイオン濃度が徐々に低下する。また、硝酸槽31内の硝酸濃度が徐々に上昇し、炭酸ガス吹込槽41内の重炭酸アンモニウムイオン濃度も徐々に上昇する。
【0027】
前述の通り、アンモニウムイオン濃縮室19には、炭酸ガス吹込槽41を経て、NHOH成分がNHHCOとなった液が循環通水されるので、アンモニウムイオン濃縮室19内の導電率が高く、電気透析装置の電力消費量が低減される。
【0028】
なお、このようにバッチ循環処理していると、脱塩水の塩濃度が低くなるために脱塩室18内の抵抗が高くなり、電力消費量が増える。したがって、脱塩室18内にイオン交換樹脂を充填しておき、脱塩室18内の電気抵抗を小さくすることが望ましい。
【0029】
脱塩室18内には、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の双方を混合充填するのが好ましい。カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の合計量に占めるカチオン交換樹脂の割合は90%以下特に40%以下が好ましい。カチオン交換樹脂が少ない方が電流が流れ易く、好ましい。
【0030】
電気透析により所定量以上、例えば90%のイオンをそれぞれ回収したところで、脱塩工程を終了する。脱塩工程を終了するタイミングは、脱塩水の導電率を測定して判断することができる。
【0031】
電気透析装置10により十分に脱塩処理することにより、脱塩水中の硝酸アンモニウム濃度は0.1mol/L以下程度まで低下する。ここまで硝酸アンモニウム濃度が下がっていれば、この脱塩水をRO膜により処理することが可能となる。そこで、脱塩水槽3内の脱塩水を、ライン6からRO装置に供給し、RO処理する。
【0032】
RO処理によりさらに硝酸アンモニウムを90%以上除去したRO処理水を下水・排水処理設備へ放流する。濃縮水については別途処理するか、電気透析装置10の処理に戻す。
【0033】
槽31,41内のHNO溶液、重炭酸アンモニウム溶液を再利用する場合、電気透析によるイオン回収率が90%であるため、規定濃度に満たない分は濃厚な硝酸溶液又は重炭酸アンモニウム溶液を添加して濃度調整する。オンラインで濃度を把握する場合は導電率計、比重計などを用いて濃度を測定し、規定の溶液濃度に調整するのが好ましい。
【0034】
本発明は、金属酸化物の精製工程からの排水を処理し、回収した重炭酸アンモニウム溶液及び硝酸などの酸溶液を該精製工程に再利用する用途に用いるのに好適である。この場合、アンモニウムイオン濃縮室19には、アンモニウムイオンの他、金属イオンも脱塩室18から移動してくるので、回収した重炭酸アンモニウム溶液中に金属イオンが濃縮している可能性がある。そこで、回収した重炭酸アンモニウム溶液をキレート樹脂と接触させ、金属イオンを除去してから再利用することが好ましい。
【0035】
上記実施の形態では、電気透析装置10としてバイポーラ膜を用いたものを採用しているが、特開2003−305475のように、陽極と陰極との間にカチオン交換膜及びアニオン交換膜のみを交互に配列した電気透析装置を用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0037】
[実施例1]
第1図に示すフローに従って、濃度1mol/Lの硝酸アンモニウム溶液の脱塩処理を行った。
【0038】
電気透析装置のアニオン交換膜として(株)アストム製アニオン交換膜「ネオセプタAHA」を用い、カチオン交換膜として(株)アストム製カチオン交換膜「ネオセプタCMB」を用いた。バイポーラ膜は(株)アストム製「BP−1E」を用いた。膜面積は0.46dmとした。陽極にはペルメレック社製Pt被覆Ti電極を用い、陰極にはステンレス304電極を用いた。
【0039】
この電気透析装置として直流電源装置(菊水電子工業(株)コンパクト可変スイッチング電源PAK35−10A)を用い、2.5Aの定電流設定で通電した。電流密度は5.4A/dmである。
【0040】
電気透析装置の運転開始に先立って脱塩室及び原水循環ラインを合計500mLの硝酸アンモニウム溶液で満たした。硝酸イオン濃縮室17及びその循環ラインを150mLの純水で満たした。アンモニウムイオン濃縮室19及びその循環ラインを400mLの純水で満たした。陽極室16と陰極室20にはそれぞれNaSO溶液(濃度5000mg/L)を循環させた。
【0041】
ライン5の原水循環水量を500mL/minとし、ライン33の硝酸溶液循環水量を250mL/minとし、ライン44の重炭酸アンモニウム溶液循環水量を250mL/minとして運転し、炭酸ガス吹込槽41では、pHが中性領域(6〜8)となるように炭酸ガスを吹き込んだ。
【0042】
脱塩水槽3内の脱塩水の硝酸アンモニウム濃度が0.1mol/L以下となるまで約20時間運転行った。運転開始から12時間後までの電気透析装置の通電電圧を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、ライン40を介してアンモニウムイオン濃縮室19から取り出される水中の硝酸アンモニウム以外のアンモニア濃度が1mol/Lであることを想定して、HCOで1mol/Lとなるようにあらかじめ炭酸ガス吹込槽41において純水に炭酸ガスを吹き込んでから運転を開始した。その他の条件は実施例1と同一とした。運転開始から12時間後までの電気透析装置の通電電圧を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
炭酸ガス吹込槽41に炭酸を吹き込まないこと以外は実施例1と同一条件にて運転を行った。その他の条件は実施例1と同一とした。運転開始から12時間後までの電気透析装置の通電電圧を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の通り、実施例1では運転開始から3時間以上経過後、電圧は比較例1よりも低い値となった。なお、実施例2においては、あらかじめ炭酸を吹き込んでおいたため、運転開始直後から実施例1及び比較例1よりも電圧が低くなっている。
【0047】
これに対し、比較例1では、運転開始から2時間が経過するまでは実施例1と同等の通電電圧であったが、それ以降は徐々に通電電圧が上昇し、実施例1との電圧差も次第に大きくなった。なお、比較例1でも、運転開始から2時間経過するまでは、アンモニウムイオンが濃縮室19に移動することにより、通電電圧が徐々に低下する。
【符号の説明】
【0048】
3 原水槽
10 電気透析装置
13 カチオン交換膜
14 アニオン交換膜
41 炭酸ガス吹込槽
42 散気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極との間にアニオン交換膜及びカチオン交換膜が配置されることにより脱塩室、アニオン濃縮室及びカチオン濃縮室が形成された電気透析装置を用いたアンモニウム塩含有排水の処理装置であって、
該脱塩室にアンモニウム塩含有排水が供給され、該アニオン濃縮室から酸含有水が取り出され、該カチオン濃縮室からアンモニア水が取り出されるアンモニウム塩含有排水の処理装置において、
該カチオン濃縮室から取り出されたアンモニア水を該カチオン濃縮室に返送する返送ラインと、
アンモニア水に炭酸ガスを吹き込む炭酸ガス吹込手段と
を備えたことを特徴とするアンモニウム塩含有排水の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記返送ラインの途中に前記炭酸ガス吹込手段が設けられていることを特徴とするアンモニウム塩含有排水の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記脱塩室から取り出された脱塩水を逆浸透処理する逆浸透膜装置を備えたことを特徴とするアンモニウム塩含有排水の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224445(P2011−224445A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94967(P2010−94967)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】