説明

アーク溶射装置およびその制御方法

【課題】アーク溶射における粗大粒子の発生を防止する。
【解決手段】アーク溶射装置100に、第一線材1を長手方向に移動可能に支持する第一チップ112と、第二線材2を長手方向に移動可能に支持する第二チップ114と、
第一線材1を第一チップ112に供給する第一線材供給装置130と、第二線材2を第二チップ114に供給する第二線材供給装置140と、第一チップ112と第二チップ114との間に設定電圧を印加することにより第一線材1の先端部と第二線材2の先端部との間でアーク放電を発生させる電源装置150と、アーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置160と、アーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定するとともにスパイク電圧が発生していると判定した場合には第一供給速度、第二供給速度および設定電圧を変更する制御装置171と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射対象物の表面に金属材料からなる皮膜を形成するアーク溶射装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料からなる二本の線材の先端部に電圧を印加することにより二本の線材の先端部の間にアーク放電を発生させ、アーク放電により生じる熱で二本の線材の先端部を溶融し、二本の線材の先端部が溶融した結果として生じる溶滴(溶融状態の金属材料)を溶射対象物に吹き付けることにより当該溶射対象物の表面に金属材料からなる皮膜を形成するアーク溶射装置は公知となっている。
アーク溶射装置は一般に、金属材料からなる二本の線材をそれぞれ長手方向に移動可能に支持する二つのチップと、二つのチップの間に所定の電圧を印加することにより二本の線材の先端部の間にアーク放電を発生させる電源装置と、二つのチップに二本の線材を供給する線材供給装置と、を具備する。
アーク溶射装置により溶射対象物の表面に形成される皮膜は、例えば溶射対象物の表面の強度(耐摩耗性)を向上する目的等に用いられる。
【0003】
アーク溶射により形成される皮膜の品質(例えば、強度、膜厚の均一性等)を低下させる要因としては、「粗大粒子(スパッタ)」が挙げられる。
「粗大粒子」は、アーク放電により生じる通常の大きさの溶滴よりも過大な溶滴あるいは線材の分離片(周囲が溶融することにより線材から分離された未溶融部分)が溶射対象物の表面に吹き付けられたものである。
粗大粒子は、例えば二本の線材の先端部の間に印加される電流あるいは電圧が一定でない(不安定である)場合、あるいは二本の線材の先端部の間隔(距離)が変動した場合等に発生することが知られている。
皮膜において粗大粒子が形成された部分の強度(より厳密には、剪断密着強度)は他の部分の強度よりも低い。
また、粗大粒子により皮膜の膜厚が不均一になると、膜厚の均一性が要求される用途においてはこれを別途除去する作業(例えば、研削作業)を行う必要が生じ、皮膜の形成コストの増大の要因にもなり得る。
【0004】
このような粗大粒子を防止しつつアーク溶射を可能とする装置あるいは方法としては、特許文献1から特許文献5に記載の装置あるいは方法が知られている。
【0005】
特許文献1に記載の装置は、二本の線材に所定の張力を与えつつ当該二本の線材を二つのチップに一定速度で供給することにより、二本の線材の先端部の間隔を一定に保持する。
【0006】
特許文献2に記載の装置は、二本の線材の間に印加される電圧を一定に保持するとともに二本の線材の間に印加される電流および二本の線材を二つのチップに供給する速度を適宜選択することにより、対象物に形成される皮膜の色を変更する。
【0007】
特許文献3に記載の方法は、アーク長(二本の線材の先端部の間隔)の変化を二本の線材の先端部に印加される電圧の変化として検出し、これを制御装置にフィードバックすることにより二本の線材の供給速度を制御するとともに、電圧検出線(二本の線材の先端部に印加される電圧を検出する配線)に作用する磁束を遮断又は相殺することにより二本の線材の先端部に印加される電圧の検出精度、ひいてはアーク長の測定精度を向上させる。
【0008】
特許文献4に記載の方法は、二本の線材の間に印加される電流値および電圧値を所定のサイクルタイム毎に検出し、検出される電流値および電圧値の数が所定数に達する毎に検出された電流値の平均値(電流平均値)および検出された電圧値の平均値(電圧平均値)を算出し、「電流平均値」と「溶接電流指令値(予め設定された電流の目標値)」との差分(電流誤差)を算出するとともに「電圧平均値」と「溶接電圧指令値(予め設定された電圧の目標値)」との差分(電圧誤差)を算出し、電流誤差および電圧誤差がそれぞれ予め設定された許容範囲内に入るように二本の線材の供給速度を補正するとともに溶接機への電源指令値を補正する方法である。
【0009】
特許文献5に記載の方法は、アーク放電の際に発生する光(アーク光)の照度を検出し、検出されたアーク光の照度と基準情報とを比較し、比較結果に基づいてアーク長(二本の線材の先端部の間隔)を調整する方法である。
【0010】
しかし、特許文献1から特許文献5に記載の装置あるいは方法では、二本の線材の先端部に印加される電圧の低周波成分(長い時間をかけて変動する成分)あるいはアーク光の低周波成分との相関が大きい粗大粒子を防止することは出来るものの、例えば約0.01msecといった高周波成分(ごく短い時間で変動する成分)との相関が大きい粗大粒子を防止することが困難であるという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−315958号公報
【特許文献2】特開平7−252630号公報
【特許文献3】特開平4−127965号公報
【特許文献4】特開平3−86376号公報
【特許文献5】特許第3943380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、粗大粒子の発生を防止することが可能なアーク溶射装置およびアーク溶射装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0014】
即ち、請求項1においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させるとともに前記電源装置に前記設定電圧を変更させる制御装置と、
を具備するものである。
【0015】
請求項2においては、
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0016】
請求項3においては、
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を小さくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を大きくさせるものである。
【0017】
請求項4においては、
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備え、
前記第二線材供給装置は、
前記第二線材を挟持しつつ回転可能な一対の第二ローラと、
前記一対の第二ローラの少なくとも一方を回転駆動する第二モータと、
を備えるものである。
【0018】
請求項5においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させる制御装置と、
を具備するものである。
【0019】
請求項6においては、
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0020】
請求項7においては、
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるものである。
【0021】
請求項8においては、
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備え、
前記第二線材供給装置は、
前記第二線材を挟持しつつ回転可能な一対の第二ローラと、
前記一対の第二ローラの少なくとも一方を回転駆動する第二モータと、
を備えるものである。
【0022】
請求項9においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させる制御装置と、
を具備するものである。
【0023】
請求項10においては、
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0024】
請求項11においては、
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるものである。
【0025】
請求項12においては、
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備えるものである。
【0026】
請求項13においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させるとともに前記電源装置に前記設定電圧を変更させる第一・第二供給速度/設定電圧変更工程と、
を具備するものである。
【0027】
請求項14においては、
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0028】
請求項15においては、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一・第二供給速度/設定電圧変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を小さくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一・第二供給速度/設定電圧変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を大きくさせるものである。
【0029】
請求項16においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させる第一・第二供給速度変更工程と、
を具備するものである。
【0030】
請求項17においては、
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0031】
請求項18においては、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一・第二供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一・第二供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるものである。
【0032】
請求項19においては、
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させる第一供給速度変更工程と、
を具備するものである。
【0033】
請求項20においては、
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定するものである。
【0034】
請求項21においては、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、粗大粒子の発生を防止することが可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るアーク溶射装置の実施の一形態を示す模式図。
【図2】高周波成分制御を行っている場合のアーク電圧を示す図。
【図3】スパイク電圧の例を示す図。
【図4】高周波成分制御を行っていない場合のアーク電圧を示す図。
【図5】(a)高周波成分制御を行っている場合の皮膜を示す図、(b)高周波成分制御を行っていない場合の皮膜を示す図。
【図6】高周波成分制御が粗大粒子の発生および皮膜の剪断密着強度に及ぼす影響を示す図。
【図7】本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図8】本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の別実施形態を示すフロー図。
【図9】本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の別実施形態を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では図1から図6を用いて本発明に係るアーク溶射装置の実施の一形態であるアーク溶射装置100について説明する。
図1に示すアーク溶射装置100は、第一線材1および第二線材2の間に電圧を印加することにより第一線材1および第二線材2の間にアーク放電を発生させ、アーク放電により生じる熱で第一線材1および第二線材2を溶融し、第一線材1および第二線材2が溶融した結果として生じる溶滴3をワーク10に吹き付けることによりワーク10の表面に皮膜4を形成する(溶射する)装置である。
【0038】
第一線材1および第二線材2はそれぞれ本発明に係る第一線材および第二線材の実施の一形態であり、金属材料からなる線状の部材である。
第一線材1および第二線材2を構成する材料の例としては、アルミニウムおよびその合金、亜鉛およびその合金、銅およびその合金、チタンおよびその合金、鉄およびその合金(鋼を含む)、等の導電性を有する金属材料が挙げられる。
第一線材および第二線材を構成する材料は同じ種類(組成)でも良く、異なる種類(組成)でも良い。
また、セラミック充填チューブ(金属材料からなるチューブの内部にセラミックスが充填されたもの)を第一線材および第二線材として用いることにより、サーメット(金属とセラミックスとの複合材料)を溶射することも可能である。
【0039】
溶滴3は第一線材1および第二線材2がアーク放電により生じる熱で溶融することにより生じる溶融状態(液体状)の物質である。
皮膜4はワーク10の表面に吹き付けられた溶滴3が凝固することにより形成される固体状の膜(層)である。
【0040】
ワーク10は皮膜4が形成される対象物(溶射対象物)である。
本実施形態のワーク10は金属板であるが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係るアーク溶射装置は種々の形状の溶射対象物にアーク溶射する(皮膜を形成する)ことが可能である。
【0041】
図1に示す如く、アーク溶射装置100は、アーク発生ヘッド110、キャリアガス供給装置120、第一線材供給装置130、第二線材供給装置140、電源装置150、電圧測定装置160および制御ユニット170を具備する。
【0042】
アーク発生ヘッド110はアーク溶射装置100においてアーク放電を発生させる部分である。
アーク発生ヘッド110は本体部材111、第一チップ112、第一ガイド113、第二チップ114、第二ガイド115およびガスノズル116を備える。
【0043】
本体部材111はアーク発生ヘッド110の主たる構造体を成す部材である。
本実施形態の本体部材111は一対の端面および外周面を有する略円柱形状の部材である。本体部材111にはノズル穴111a、線材供給孔111b・111c、および貫装孔111dが形成される。
ノズル穴111aは本体部材111の下側の端面(下面)に開口する。
線材供給孔111b・111cおよび貫装孔111dの一端部はいずれも本体部材111の上側の端面(上面)に開口し、線材供給孔111b・111cおよび貫装孔111dの他端部はいずれもノズル穴111aに開口する。
【0044】
第一チップ112は本発明に係る第一チップの実施の一形態であり、第一線材1を長手方向に移動可能に支持する部材である。
本実施形態の第一チップ112は導電性を有する金属材料からなる円筒形状の部材である。第一チップ112は本体部材111のノズル穴111aに収容される。より詳細には、第一チップ112の一端部(基部)は線材供給孔111bの上端部(ノズル穴111a側の開口部)に嵌装される。
なお、線材供給孔111bに嵌装された第一チップ112は本体部材111に対して電気的に絶縁されている。
第一チップ112には第一チップ112の一端部(基部)から他端部(先端部)まで貫通する貫通孔が形成される。第一チップ112に形成される貫通孔の直径は第一線材1の直径よりも僅かに大きい。
第一チップ112に形成される貫通孔に第一線材1を通すことにより、第一線材1は第一チップ112に長手方向に移動可能に支持される。
また、第一線材1が第一チップ112に支持されているときには第一チップ112の内周面と第一線材1の外周面とが接触しているので、第一チップ112と第一線材1とが導通している。
【0045】
第一ガイド113は円筒形状の部材である。第一ガイド113の一端部(基部)は線材供給孔111bの上端部(本体部材111の上面側の開口部)に嵌装され、第一ガイド113の他端部(先端部)は本体部材111の上面から外部に突出する。
【0046】
第二チップ114は本発明に係る第二チップの実施の一形態であり、第二線材2を長手方向に移動可能に支持する部材である。
本実施形態の第二チップ114は導電性を有する金属材料からなる円筒形状の部材である。第二チップ114は本体部材111のノズル穴111aに収容される。より詳細には、第二チップ114の一端部(基部)は線材供給孔111cの上端部(ノズル穴111a側の開口部)に嵌装される。
なお、線材供給孔111cに嵌装された第二チップ114は本体部材111に対して電気的に絶縁されている。
第二チップ114には第二チップ114の一端部(基部)から他端部(先端部)まで貫通する貫通孔が形成される。第二チップ114に形成される貫通孔の直径は第二線材2の直径よりも僅かに大きい。
第二チップ114に形成される貫通孔に第二線材2を通すことにより、第二線材2は第二チップ114に長手方向に移動可能に支持される。
また、第二線材2が第二チップ114に支持されているときには第二チップ114の内周面と第二線材2の外周面とが接触しているので、第二チップ114と第二線材2とが導通している。
【0047】
第二ガイド115は円筒形状の部材である。第二ガイド115の一端部(基部)は線材供給孔111cの上端部(本体部材111の上面側の開口部)に嵌装され、第二ガイド115の他端部(先端部)は本体部材111の上面から外部に突出する。
【0048】
ガスノズル116は円筒形状の部材である。ガスノズル116は貫装孔111dに貫装される。ガスノズル116の一端部(先端部)はノズル穴111aの内部に配置され、ガスノズル116の他端部(基端部)は本体部材111の上面から外部に突出する。
【0049】
キャリアガス供給装置120はアーク発生ヘッド110に圧縮されたキャリアガスを供給する装置である。
キャリアガス供給装置120はコンプレッサ121およびガス配管122を備える。
【0050】
コンプレッサ121は吸気ポート121aからキャリアガスを取り込んで圧縮し、圧縮されたキャリアガスを排気ポート121bから排出する装置である。
【0051】
ガス配管122は圧縮されたキャリアガスをコンプレッサ121からアーク発生ヘッド110まで搬送するための配管である。ガス配管122の一端部はコンプレッサ121の排気ポート121bに接続され、ガス配管122の他端部はガスノズル116の他端部(基端部)に接続される。
コンプレッサ121の排気ポート121bから排出された「圧縮されたキャリアガス」は、ガス配管122を経てガスノズル116に到達し、ガスノズル116の一端部(先端部)からノズル穴111aの内部に噴射される。
本実施形態のキャリアガスはエア(大気)であるが、用途あるいは第一線材および第二線材を構成する材料等に応じてアルゴンガス、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、ヘリウムガス、水素ガス、あるいはこれらの混合ガス等を適宜キャリアガスとして用いることが可能である。
【0052】
第一線材供給装置130は本発明に係る第一線材供給装置の実施の一形態であり、第一線材1を第一チップ112に供給する装置である。
第一線材供給装置130は第一リール131、第一駆動ローラ132、第一従動ローラ133および第一モータ134を備える。
【0053】
第一リール131は両端部にフランジ(鍔)が形成された略円柱形状の部材である。第一リール131の外周面には第一線材1が巻回される。第一リール131は図示せぬ構造体等に対して電気的に絶縁された状態で回転可能に軸支される。
【0054】
第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133を合わせたものは本発明に係る一対の第一ローラの実施の一形態である。
第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133はいずれも略円柱形状の部材である。
第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133は、これらの回転軸が互いに平行となるように回転可能に軸支される。なお、第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133は図示せぬ構造体等に対して電気的に絶縁された状態で軸支される。
また、第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133が軸支された状態では、第一駆動ローラ132の外周面および第一従動ローラ133の外周面との間に第一線材1の直径よりも僅かに小さい隙間が形成される。
【0055】
第一モータ134は本発明に係る第一モータの実施の一形態である。
第一モータ134は第一駆動ローラ132を回転駆動する。より詳細には、第一モータ134の駆動軸は第一駆動ローラ132の回転軸に相対回転不能に固定されており、第一モータ134に通電することにより第一モータ134の駆動軸と第一駆動ローラ132とが一体的に回転する。
また、本実施形態の第一モータ134はサーボモータであり、第一モータ134の駆動軸の回転速度(単位時間当たりの回転数)を変更することが可能である。
本実施形態では第一モータ134は第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133のうち第一駆動ローラ132のみを回転駆動するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明に係る第一モータは、本発明に係る一対の第一ローラの両方を回転駆動しても良い。
【0056】
以下では、第一線材1を第一チップ112に供給する手順について説明する。
まず、第一リール131に巻回された第一線材1の先端部(一端部)が第一リール131から引き出され、第一駆動ローラ132の外周面および第一従動ローラ133の外周面との隙間に通される。その結果、第一線材1は第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133により挟持される。
次に、第一線材1の先端部が第一ガイド113、線材供給孔111bおよび第一チップ112に通される。その結果、第一線材1の先端部は第一チップ112に支持された状態でノズル穴111aの内部に到達する。
続いて、第一モータ134に通電することにより第一駆動ローラ132が回転駆動され、第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133により挟持された第一線材1は第一リール131から第一チップ112に向かって供給される(搬送される)。
また、第一モータ134の駆動軸の回転速度を変更することにより、第一線材1を第一チップ112に供給する速度(第一供給速度)を変更することが可能である。
【0057】
第二線材供給装置140は本発明に係る第二線材供給装置の実施の一形態であり、第二線材2を第二チップ114に供給する装置である。
第二線材供給装置140は第二リール141、第二駆動ローラ142、第二従動ローラ143および第二モータ144を備える。
【0058】
第二リール141は両端部にフランジ(鍔)が形成された略円柱形状の部材である。第二リール141の外周面には第二線材2が巻回される。第二リール141は図示せぬ構造体等に対して電気的に絶縁された状態で回転可能に軸支される。
【0059】
第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143を合わせたものは本発明に係る一対の第二ローラの実施の一形態である。
第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143はいずれも略円柱形状の部材である。
第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143は、これらの回転軸が互いに平行となるように回転可能に軸支される。なお、第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143は図示せぬ構造体等に対して電気的に絶縁された状態で軸支される。
また、第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143が軸支された状態では、第二駆動ローラ142の外周面および第二従動ローラ143の外周面との間に第二線材2の直径よりも僅かに小さい隙間が形成される。
【0060】
第二モータ144は本発明に係る第二モータの実施の一形態である。
第二モータ144は第二駆動ローラ142を回転駆動する。より詳細には、第二モータ144の駆動軸は第二駆動ローラ142の回転軸に相対回転不能に固定されており、第二モータ144に通電することにより第二モータ144の駆動軸と第二駆動ローラ142とが一体的に回転する。
また、本実施形態の第二モータ144はサーボモータであり、第二モータ144の駆動軸の回転速度を変更することが可能である。
本実施形態では第二モータ144は第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143のうち第二駆動ローラ142のみを回転駆動するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明に係る第二モータは、一対の第二ローラの両方を回転駆動しても良い。
【0061】
以下では、第二線材2を第二チップ114に供給する手順について説明する。
まず、第二リール141に巻回された第二線材2の先端部(一端部)が第二リール141から引き出され、第二駆動ローラ142の外周面および第二従動ローラ143の外周面との隙間に通される。その結果、第二線材2は第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143により挟持される。
次に、第二線材2の先端部が第二ガイド115、線材供給孔111cおよび第二チップ114に通される。その結果、第二線材2の先端部は第二チップ114に支持された状態でノズル穴111aの内部に到達する。
続いて、第二モータ144に通電することにより第二駆動ローラ142が回転駆動され、第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143により挟持された第二線材2は第二リール141から第二チップ114に向かって供給される(搬送される)。
また、第二モータ144の駆動軸の回転速度を変更することにより、第二線材2を第二チップ114に供給する速度(第二供給速度)を変更することが可能である。
【0062】
電源装置150は本発明に係る電源装置の実施の一形態である。電源装置150は装置本体151、第一印加配線152および第二印加配線153を備える。
【0063】
装置本体151は正極151aおよび負極151bを有し、正極151aと負極151bとの間に設定電圧を印加する。装置本体151は設定電圧を変更することが可能である。
【0064】
第一印加配線152の一端部は正極151aに接続され、第一印加配線152の他端部は第一チップ112に接続される。
第二印加配線153の一端部は負極151bに接続され、第二印加配線153の他端部は第二チップ114に接続される。
【0065】
第一線材1は第一チップ112と導通しているので、第一チップ112は第一印加配線152を介して正極151aに電気的に接続されている。
また、第二線材2は第二チップ114と導通しているので、第二チップ114は第二印加配線153を介して負極151bに電気的に接続されている。
従って、装置本体151が正極151aと負極151bとの間に設定電圧を印加すると、第一チップ112と第二チップ114との間、ひいては第一線材1と第二線材2との間に設定電圧が印加されることとなる。
【0066】
図1に示す如く、本実施形態では、本体部材111のノズル穴111aに収容されている第一チップ112の他端部(先端部)から第二チップ114の他端部(先端部)までの距離は、第一チップ112の一端部(基部)から第二チップ114の一端部(基部)までの距離よりも短い。
また、第一チップ112に支持される第一線材1の長手方向(第一チップ112に形成される貫通孔の長手方向)と、第二チップ114に支持される第二線材2の長手方向(第二チップ114に形成される貫通孔の長手方向)と、は同一平面上に存在する。
従って、第一チップ112に支持される第一線材1の長手方向と第二チップ114に支持される第二線材2の長手方向とは、第一チップ112および第二チップ114の先端部側において第一チップ112および第二チップ114から所定の距離を空けた位置(本実施形態では、第一チップ112および第二チップ114の下方)で交差する。
その結果、第一チップ112に支持される第一線材1の先端部から第二チップ114に支持される第二線材2の先端部までの距離は、それぞれ第一チップ112および第二チップ114の先端部からの突出量が大きくなるほど短くなる。
換言すれば、第一線材1の先端部および第二線材2の先端部は、第一チップ112および第二チップ114の先端部からの突出量が大きくなるほど互いに接近する。
【0067】
第一線材1と第二線材2との間に設定電圧が印加された状態では、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が当該設定電圧に対応して定まる所定の距離よりも短くなったときに第一線材1の先端部と第二線材2の先端部との間でアーク放電が発生する。
第一線材1の先端部および第二線材2の先端部がアーク放電により生じる熱で溶融すると、溶滴3が発生する。
溶滴3はガスノズル116の一端部(先端部)から噴射されるキャリアガスにより吹き飛ばされてワーク10の表面に付着し、再度凝固して皮膜4を形成する。
【0068】
なお、本実施形態では第一チップ112に支持される第一線材1の長手方向と第二チップ114に支持される第二線材2の長手方向とが交差する(第一線材1の長手方向と第二線材2の長手方向とが同一平面上にあり、かつ互いに平行でない)が、本発明はこれに限定されない。
すなわち、第一チップに支持される第一線材の長手方向と第二チップに支持される第二線材の長手方向とがねじれの位置にある(第一線材の長手方向と第二線材の長手方向とが同一平面上に無く、かつ互いに平行でない)場合であっても、第一チップに支持される第一線材と第二チップに支持される第二線材とが互いに最も接近する点(最接近点)における第一線材から第二線材までの距離がアーク放電可能な程度に短ければ良い。
【0069】
本実施形態では第一線材1がアーク放電の陽極としての機能を果たすとともに第二線材2が実質的にアーク放電の陰極としての機能を果たす(第一線材1の電位が第二線材2の電位よりも高くなるように電圧が印加される)が、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る第一線材および第二線材のいずれか一方がアーク放電の陽極としての機能を果たし、他方がアーク放電の陰極としての機能を果たせば良い。
【0070】
電圧測定装置160は本発明に係る電圧測定装置の実施の一形態である。
電圧測定装置160は装置本体161、第一測定配線162および第二測定配線163を備える。
装置本体161は正極161aおよび負極161bを有し、正極161aと負極161bとの間に印加される電圧(正極161aと負極161bとの間の電位差)を経時的に測定する。
ここで、「電圧を経時的に測定する」とは、微小な測定周期(サイクルタイム)毎の電圧を順次測定することを指す。本実施形態の装置本体161は、正極161aと負極161bとの間に印加される0.001msec(1μsec)毎の電圧を測定する。
なお、本発明に係る電圧測定装置が電圧を測定する周期(サイクルタイム)は0.001msecに限定されず、これよりも長い値に設定しても良く、あるいは短い値に設定しても良い。
すなわち、本発明に係る電圧測定装置が電圧を測定する周期が少なくとも後述するスパイク電圧を検出可能な程度に短ければ良く、例えば周期が0.01msec(10μsec)以下であることが望ましい。
【0071】
第一測定配線162の一端部は正極161aに接続され、第一測定配線162の他端部は第一印加配線152の中途部に接続される。
第二測定配線163の一端部は負極161bに接続され、第二測定配線163の他端部は第二印加配線153の中途部に接続される。
従って、装置本体161は第一チップ112と第二チップ114との間の電位差を測定することとなる。以下、装置本体161(電圧測定装置160)により測定される第一チップ112と第二チップ114との間の電位差を「アーク溶射装置100のアーク電圧」という(図3参照)。
【0072】
一般に、アーク溶射においては、二本の線材の先端部の距離が大きくなると二本の線材の間の電位差が大きくなり(上昇し)、二本の線材の先端部の距離が小さくなると二本の線材の間の電位差が小さくなる(下降する)傾向がある。そして、二本の線材の間の電位差が過大となると粗大粒子(スパッタ)が発生する頻度が大きくなる。
従って、アーク溶射において粗大粒子を防止するためには、溶融することにより時々刻々と変動する(更新される)二本の線材の先端部の距離を極力一定に保持することが重要である。
【0073】
制御ユニット170は、電圧測定装置160により測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」に基づいて第一線材1および第二線材2の距離を極力一定に保持するための制御(ひいては、粗大粒子の発生を防止する制御)を行う装置である。
制御ユニット170は制御装置171、入力装置172および表示装置173を備える。
【0074】
制御装置171は本発明に係る制御装置の実施の一形態である。
制御装置171は種々のプログラム等を格納し、これらのプログラム等を展開し、これらのプログラム等に従って所定の演算を行い、当該演算の結果等を記憶することができる。
【0075】
制御装置171は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であっても良く、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であっても良い。
本実施形態の制御装置171は専用品であるが、市販のパーソナルコンピュータやワークステーション等に上記プログラム等を格納したもので達成することも可能である。
制御装置171による演算(第一線材1および第二線材2の距離を極力一定に保持するための制御)の詳細については後述する。
【0076】
制御装置171はキャリアガス供給装置120のコンプレッサ121に接続される。
制御装置171はコンプレッサ121の動作のオン・オフ(キャリアガスの排出の開始およびその停止)を指令する電気信号(排気オン・オフ指令信号)、およびコンプレッサ121が排気ポート121bから排出するキャリアガスの量ひいてはガスノズル116の先端部から噴射される単位時間当たりのキャリアガスの流量を指令する電気信号(ガス流量信号)をコンプレッサ121に送信することが可能である。
コンプレッサ121は、制御装置171から受信した排気オン・オフ指令信号に従って動作の開始および停止を行うとともに、制御装置171から受信したガス流量信号に従って排気ポート121bから排出するキャリアガスの量を調整する。
【0077】
制御装置171は第一線材供給装置130の第一モータ134に接続される。
制御装置171は第一モータ134の駆動軸の回転速度を指令する電気信号(第一モータ指令信号)を第一モータ134に送信することが可能である。
第一モータ134は制御装置171から受信した第一モータ指令信号に対応する回転速度で第一モータ134の駆動軸を回転させる。
【0078】
制御装置171は第二線材供給装置140の第二モータ144に接続される。
制御装置171は第二モータ144の駆動軸の回転速度を指令する電気信号(第二モータ指令信号)を第二モータ144に送信することが可能である。
第二モータ144は制御装置171から受信した第二モータ指令信号に対応する回転速度で第二モータ144の駆動軸を回転させる。
【0079】
制御装置171は電源装置150の装置本体151に接続される。
制御装置171は装置本体151の動作のオン・オフ(正極151aと負極151bとの間への設定電圧の印加の開始およびその停止)を指令する信号(電圧印加信号)を装置本体151に送信することが可能である。
制御装置171は正極151aと負極151bとの間に印加される設定電圧の値を指令する電気信号(設定電圧値信号)を装置本体151に送信することが可能である。
電源装置150の装置本体151は制御装置171から受信した電圧印加信号に従って動作の開始および停止を行うとともに、制御装置171から受信した設定電圧値信号に従って正極151aと負極151bとの間に印加される設定電圧の大きさ(設定電圧値)を調整する。
【0080】
制御装置171は電圧測定装置160の装置本体161に接続される。
制御装置171は装置本体161が経時的に測定する「正極161aと負極161bとの間に印加される電圧」を示す電気信号(測定電圧信号)を装置本体161から受信することが可能である。
【0081】
入力装置172は制御装置171に接続され、作業者がアーク溶射装置100による溶射(ワーク10の表面への皮膜4の形成)に係る種々のデータ・指示等を制御装置171に入力するものである。
本実施形態の入力装置172は専用品であるが、市販のキーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、スイッチ等を用いても同様の目的を達成することが可能である。
【0082】
表示装置173は入力装置172から制御装置171への入力内容、アーク溶射装置100の動作状況等を表示するものである。
本実施形態の表示装置173は専用品であるが、市販のモニターや液晶ディスプレイ等を用いても同様の目的を達成することが可能である。
本実施形態では入力装置172および表示装置173は別体であるが、例えばタッチパネル等を用いることによりこれらを一体とすることも可能である。
【0083】
以下では、制御装置171によるアーク溶射の制御の詳細について説明する。
制御装置171は、第一線材1および第二線材2の間に印加される電圧の低周波成分に基づく制御(以下、「低周波成分制御」という。)、および、第一線材1および第二線材2の間に印加される電圧の高周波成分に基づく制御(以下、「高周波成分制御」という。)の二つの制御を行う。制御装置171による低周波成分制御および高周波成分制御は、いずれも電圧測定装置160により測定された第一チップ112と第二チップ114との間の電位差(電圧)に基づくフィードバック制御である。
【0084】
以下では、制御装置171による二つの制御のうち、制御装置171による低周波成分制御の詳細について説明する。制御装置171による低周波成分制御は、制御装置171に格納されたプログラム(低周波成分制御プログラム)に従って行われる。
【0085】
制御装置171は、電圧測定装置160により測定された第一チップ112と第二チップ114との間の電位差の平均値、すなわち「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」を算出する。
本実施形態では、制御装置171は、電圧測定装置160により経時的に測定された第一チップ112と第二チップ114との間の電位差のうち、所定期間(例えば、「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」を算出する直前の10msecの期間)に含まれるものの移動平均値(より詳細には、単純移動平均値(Simple Moving Average;SMA))を算出し、当該算出された移動平均値を「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」とする。
【0086】
制御装置171は「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」を予め記憶している。
「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」は第一線材1および第二線材2の材質、直径(線径)、第一線材1および第二線材2の供給速度等のパラメータに応じて設定される値であり、理論計算または実験により求められる。
【0087】
制御装置171は「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」と「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」とを比較する。
その結果、「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」から外れている場合には、制御装置171は第一供給速度(第一線材供給装置130が第一線材1を第一チップ112に供給する速度)、第二供給速度(第二線材供給装置140が第二線材2を第二チップ114に供給する速度)、および設定電圧(電源装置150が正極151aと負極151bとの間に印加する電圧)を変更する。
「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」から外れている場合としては、(α)「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合、および、(β)「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合、が挙げられる。
【0088】
(α)「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合、制御装置171は第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が所望の距離(粗大粒子の発生を防止しつつアーク溶射を行うことが可能な距離)よりも大きくなっていると判定し、以下の(α−1)、(α−2)および(α−3)の動作を並行して行う。
(α−1)制御装置171は、第一モータ134の回転速度を大きくする旨の第一モータ指令信号を第一モータ134に送信する。第一モータ134は、受信した第一モータ指令信号に従って第一モータ134の回転速度を大きくする。このように、制御装置171は第一線材供給装置130(第一モータ134)に第一供給速度を大きくさせる。
(α−2)制御装置171は、第二モータ144の回転速度を大きくする旨の第二モータ指令信号を第二モータ144に送信する。第二モータ144は、受信した第二モータ指令信号に従って第二モータ144の回転速度を大きくする。このように、制御装置171は第二線材供給装置140(第二モータ144)に第二供給速度を大きくさせる。
(α−3)制御装置171は、設定電圧の値を小さくする旨の設定電圧値信号を電源装置150の装置本体151に送信する。装置本体151は、受信した設定電圧値信号に従って正極151aと負極151bとの間に印加する設定電圧の値を小さくする。このように、制御装置171は電源装置150(装置本体151)に設定電圧を小さくさせる。
【0089】
上記(α−1)および(α−2)の動作が行われることにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が小さくなる。また、(α−3)の動作が行われることにより、アーク放電が途切れることが防止される。
【0090】
(β)「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合、制御装置171は第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が所望の距離よりも小さくなっていると判定し、以下の(β−1)、(β−2)および(β−3)の動作を並行して行う。
(β−1)制御装置171は、第一モータ134の回転速度を小さくする旨の第一モータ指令信号を第一モータ134に送信する。第一モータ134は、受信した第一モータ指令信号に従って第一モータ134の回転速度を小さくする。このように、制御装置171は第一線材供給装置130(第一モータ134)に第一供給速度を小さくさせる。
(β−2)制御装置171は、第二モータ144の回転速度を小さくする旨の第二モータ指令信号を第二モータ144に送信する。第二モータ144は、受信した第二モータ指令信号に従って第二モータ144の回転速度を小さくする。このように、制御装置171は第二線材供給装置140(第二モータ144)に第二供給速度を小さくさせる。
(β−3)制御装置171は、設定電圧の値を大きくする旨の設定電圧値信号を電源装置150の装置本体151に送信する。装置本体151は、受信した設定電圧値信号に従って正極151aと負極151bとの間に印加する設定電圧の値を大きくする。このように、制御装置171は電源装置150(装置本体151)に設定電圧を大きくさせる。
【0091】
上記(β−1)および(β−2)の動作が行われることにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が大きくなる。また、(β−3)の動作が行われることにより、アーク放電を伴わない短絡(第一線材1の先端部と第二線材2の先端部とが物理的に接触すること)が防止される。
【0092】
制御装置171による低周波成分制御が行われることにより、「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」から外れることを防止する(厳密には、「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の低周波許容範囲」から外れている時間を極力短くする)ことが可能であり、ひいては「アーク溶射装置100のアーク電圧」の低周波成分との相関が大きい粗大粒子を防止することが可能である。
【0093】
以下では、制御装置171による二つの制御のうち、制御装置171による高周波成分制御の詳細について説明する。制御装置171による高周波成分制御は、制御装置171に格納されたプログラム(高周波成分制御プログラム)に従って行われる。
制御装置171による高周波成分制御は先に説明した制御装置171による低周波成分制御と並行して(重畳的に)行われる制御であり、制御装置171による低周波成分制御だけでは発生を完全に防止することができない粗大粒子、すなわち「アーク溶射装置100のアーク電圧」の高周波成分との相関が大きい粗大粒子を防止するための制御である。
【0094】
図2および図4に示す如く、制御装置171は、先に説明した「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」と「上部設定値」との和を算出し、算出された値を「上部スパイク電圧値」とする。
また、制御装置171は、先に説明した「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」と「下部設定値」との差(「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」から「下部設定値」を引いた値)を算出し、算出された値を「下部スパイク電圧値」とする。
なお、以下の説明では、「下部スパイク電圧値」を下限値とするとともに「上部スパイク電圧値」を上限値とする範囲を、「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」という。
【0095】
本実施形態では、「上部設定値」および「下部設定値」はいずれも制御装置171が予め記憶している値である。
「上部設定値」および「下部設定値」は任意に設定することが可能な値であるが、統計学的に有意義な値を「上部設定値」および「下部設定値」として設定することが望ましい。
例えば、予めアーク溶射装置100による溶射実験を行い、当該実験時に測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」のデータを取得し、当該データに基づいて「アーク溶射装置100のアーク電圧」の標準偏差の三倍の値(3σ)を算出し、当該算出された値を「上部設定値」および「下部設定値」として設定することが可能である。
【0096】
制御装置171は「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」と「アーク溶射装置100のアーク電圧」とを比較することにより、「スパイク電圧」が発生しているか否かを判定する。
その結果、「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」から外れている場合には、制御装置171は「スパイク電圧」が発生していると判定し、第一供給速度、第二供給速度、および設定電圧を変更する。
「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」から外れている場合としては、(A)「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合、および、(B)「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合、が挙げられる。
ここで、「スパイク電圧」は、図3に示す如く、非常に短い時間(例えば0.01msec(10μsec)のオーダー)で起こるアーク電圧の急激な変動を指す。
「スパイク電圧」には、図3に示す如きアーク電圧が上昇した後下降するもの(上に凸のスパイク電圧)だけでなく、アーク電圧が下降した後上昇するもの(下に凸のスパイク電圧)も含まれる。
なお、本発明の発明者らは、アーク溶射時のアーク電圧を測定するとともに粗大粒子(スパッタ)が発生する瞬間を高速度カメラで撮影する実験を行うことにより、アーク電圧の移動平均値が比較的安定しているときに発生する粗大粒子と「スパイク電圧」との間に強い相関がある(換言すれば、アーク電圧の低周波成分との相関が小さい粗大粒子が発生する兆候としてスパイク電圧が発生する)ことを確認している。
【0097】
(A)「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合、制御装置171は第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が「不測の事態」に起因して所望の距離よりも大きくなった結果として(上に凸の)スパイク電圧が発生したと判定し、以下の(A−1)、(A−2)および(A−3)の動作を並行して行う。
(A−1)制御装置171は、第一モータ134の回転速度を大きくする旨の第一モータ指令信号を第一モータ134に送信する。第一モータ134は、受信した第一モータ指令信号に従って第一モータ134の回転速度を大きくする。このように、制御装置171は第一線材供給装置130(第一モータ134)に第一供給速度を大きくさせる。
(A−2)制御装置171は、第二モータ144の回転速度を大きくする旨の第二モータ指令信号を第二モータ144に送信する。第二モータ144は、受信した第二モータ指令信号に従って第二モータ144の回転速度を大きくする。このように、制御装置171は第二線材供給装置140(第二モータ144)に第二供給速度を大きくさせる。
(A−3)制御装置171は、設定電圧の値を小さくする旨の設定電圧値信号を電源装置150の装置本体151に送信する。装置本体151は、受信した設定電圧値信号に従って正極151aと負極151bとの間に印加する設定電圧の値を小さくする。このように、制御装置171は電源装置150(装置本体151)に設定電圧を小さくさせる。
【0098】
上記(A−1)および(A−2)の動作が行われることにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が小さくなる。また、(A−3)の動作が行われることにより、アーク放電が途切れることが防止される。
【0099】
(B)「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合、制御装置171は第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が「不測の事態に起因して」所望の距離よりも小さくなった結果として(下に凸の)スパイク電圧が発生したと判定し、以下の(B−1)、(B−2)および(B−3)の動作を並行して行う。
(B−1)制御装置171は、第一モータ134の回転速度を小さくする旨の第一モータ指令信号を第一モータ134に送信する。第一モータ134は、受信した第一モータ指令信号に従って第一モータ134の回転速度を小さくする。このように、制御装置171は第一線材供給装置130(第一モータ134)に第一供給速度を小さくさせる。
(B−2)制御装置171は、第二モータ144の回転速度を小さくする旨の第二モータ指令信号を第二モータ144に送信する。第二モータ144は、受信した第二モータ指令信号に従って第二モータ144の回転速度を小さくする。このように、制御装置171は第二線材供給装置140(第二モータ144)に第一供給速度を小さくさせる。
(B−3)制御装置171は、設定電圧の値を大きくする旨の設定電圧値信号を電源装置150の装置本体151に送信する。装置本体151は、受信した設定電圧値信号に従って正極151aと負極151bとの間に印加する設定電圧の値を大きくする。このように、制御装置171は電源装置150(装置本体151)に設定電圧を大きくさせる。
【0100】
上記(B−1)および(B−2)の動作が行われることにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が大きくなる。また、(B−3)の動作が行われることにより、アーク放電を伴わない短絡(第一線材1の先端部と第二線材2の先端部とが物理的に接触すること)が防止される。
【0101】
制御装置171は、「制御装置171による高周波成分制御」を所定の周期毎に繰り返し行う。「制御装置171による高周波成分制御」を行う周期は任意に設定することが可能であるが、電圧測定装置160がアーク溶射装置100のアーク電圧を測定する周期と同程度であること(例えば、0.01msec(10μsec)以下であること)が望ましい。
【0102】
「アーク溶射装置100のアーク電圧」の高周波成分との相関が大きい粗大粒子が発生する原因となる「不測の事態」の例としては、第一線材1および第二線材2のカール(湾曲)、捻れ、線径の変動(不均一)等が挙げられる。
【0103】
第一線材1および第二線材2のカール、捻れ、線径の変動等は第一線材1および第二線材2がそれぞれ製造過程において第一リール131および第二リール141に巻回されることにより発生する。
第一線材1および第二線材2の自由径、すなわち第一リール131および第二リール141に巻回するための張力等の外力が作用していないときの第一線材1および第二線材2が成す螺旋の直径(≒カールの曲率半径の二倍)は第一リール131および第二リール141の直径に対応する。通常、第一線材1および第二線材2の前端部(第一リール131および第二リール141に巻回されたときに第一リール131および第二リール141の最外周側に位置する端部)の自由径は第一線材1および第二線材2の後端部(第一リール131および第二リール141に巻回されたときに第一リール131および第二リール141の最内周側に位置する端部)よりも大きい。従って、第一線材1および第二線材2の先端部(アーク放電により溶融する部分)の自由径は、アーク溶射の進行とともに徐々に小さくなっていく(一定ではない)。
また、第一リール131および第二リール141に巻回されるときに第一線材1および第二線材2に加わる捻れも一定ではない。
さらに、第一線材1および第二線材2の線径が予め定められた規格の範囲内(あるいは、規格の範囲外)で変動している場合がある。
【0104】
結果として、第一線材1および第二線材2の溶融速度(単位時間当たりに第一線材1および第二線材2が溶融する体積)、第一供給速度および第二供給速度、並びに設定電圧が一定であっても、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離が急激に(短時間で)変動することが起こり得る。
【0105】
第一線材1および第二線材2のカール、捻れ、線径の変動等を別途矯正することは一般に困難である。また、第一線材1および第二線材2のカール、捻れ、線径の変動等を別途矯正することはアーク溶射に係るコストの増大要因となり得る。
【0106】
制御装置171による高周波成分制御を(制御装置171による低周波成分制御に対して重畳的に)行うことにより、第一線材1および第二線材2のカール、捻れ、線径の変動等がある場合でも(制御装置171による低周波成分制御だけでは防止することが不可能な)粗大粒子をも防止することが可能であり、ワーク10に形成される皮膜4の品質(例えば、皮膜4の膜厚の均一性、皮膜4の強度等)が向上する。
【0107】
以下では、図2、図4、図5および図6を用いて、制御装置171による高周波成分制御が皮膜4の品質に及ぼす影響を示す実験(以下「溶射実験」という。)について説明する。
【0108】
「溶射実験」はアーク溶射装置100を用いて行われた。第一線材1および第二線材2の線形径は1.6mm(1.6φ)であり、第一線材1および第二線材2の材質はF−0.1wt%C−12wt%Cr鋼である。ワーク10はアルミニウム合金からなる鋳造品である。
「溶射実験」では、アーク溶射装置100を(1)制御装置171による低周波成分制御および制御装置171による高周波成分制御を重畳的に行う場合、(2)制御装置171による低周波成分制御のみを行う場合(制御装置171による高周波成分制御を行わない場合)、の二つの条件で動作させ(運転し)、各条件についてそれぞれ計200個のワーク10・10・・・にアーク溶射が行われた。
「溶射実験」における電源装置150の設定電圧(の初期値)は30V、電流値は10Aであった。
「溶射実験」における第一供給速度および第二供給速度(の初期値)は80mm/secであった。
皮膜4の評価としては「目視による粗大粒子の有無の判定」および「溶射皮膜の強度測定」が行われた。
「目視による粗大粒子の有無の判定」は、各ワーク10の皮膜4の写真を撮影し、評価者が当該写真を目視し、評価者が当該写真において0.5mm以上の大きさを有する粗大粒子を一個以上発見した場合には「粗大粒子が有る(発生している)」と判定し、0.5mm以上の大きさを有する粗大粒子を一個も発見出来ない場合には「粗大粒子が無い(発生していない)」と判定する、という一連の作業により行われた。
「溶射皮膜の強度測定」は、各ワーク10の皮膜4の剪断密着強度(皮膜4に剪断方向(皮膜4の表面に平行な方向)の力を付与したときに皮膜4がワーク10から剥離される力の大きさ)を測定し、上記(1)および(2)の条件のそれぞれについて測定された剪断密着強度の平均値(相加平均値)を算出する、という一連の作業により行われた。
【0109】
図2に示す如く、(1)制御装置171による低周波成分制御および制御装置171による高周波成分制御を重畳的に行った場合には、電圧測定装置160により経時的に測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」は高周波許容範囲内にほぼ収まっており、スパイク電圧の発生が抑えられている。
これに対して、図3に示す如く、(2)制御装置171による低周波成分制御のみを行った場合には、電圧測定装置160により経時的に測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」は度々高周波許容範囲から外れており、スパイク電圧が頻繁に発生している。
このように、制御装置171による高周波成分制御を行うことによりスパイク電圧の発生を防止する(厳密には、スパイク電圧の発生頻度を下げる)ことが可能である。
【0110】
図5の(a)に示す如く、(1)制御装置171による低周波成分制御および制御装置171による高周波成分制御を重畳的に行った場合には、皮膜4には粗大粒子が見られない。
また、図6に示す如く、(1)制御装置171による低周波成分制御および制御装置171による高周波成分制御を重畳的に行った場合には、粗大粒子の発生確率(={(粗大粒子が発生したワーク10の個数)/(同じ実験条件でアーク溶射されたワーク10の総個数)}×100[%])は0%である。
これに対して、図5の(b)に示す如く、(2)制御装置171による低周波成分制御のみを行った場合には、皮膜4には複数の粗大粒子(図5の(b)において丸で囲まれた部分)が見られる。
また、(2)制御装置171による低周波成分制御のみを行った場合には、粗大粒子の発生確率は1.5%である。
このように、制御装置171による高周波成分制御を行うことにより粗大粒子の発生を防止することが可能である。
【0111】
図6に示す如く、(1)制御装置171による低周波成分制御および制御装置171による高周波成分制御を重畳的に行った場合の皮膜4の剪断密着強度の平均値は89.8MPaである。
これに対して、(2)制御装置171による低周波成分制御のみを行った場合の皮膜4の剪断密着強度の平均値は83.0MPaである。
このように、制御装置171による高周波成分制御を行うことにより、皮膜4の強度(より厳密には、剪断密着強度)が向上する。
【0112】
以上の如く、アーク溶射装置100は、
第一線材1を長手方向に移動可能に支持する第一チップ112と、
第二線材2を長手方向に移動可能に支持する第二チップ114と、
第一線材1を第一チップ112に供給するとともに、第一線材1を第一チップ112に供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置130と、
第二線材2を第二チップ114に供給するとともに、第二線材2を第二チップ114に供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置140と、
第一チップ112と第二チップ114との間に設定電圧を印加することにより第一線材1の先端部と第二線材2の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、設定電圧を変更することが可能な電源装置150と、
第一チップ112と第二チップ114との間の電位差である「アーク溶射装置100のアーク電圧」を経時的に測定する電圧測定装置160と、
電圧測定装置160により測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、スパイク電圧が発生していると判定した場合には第一線材供給装置130に第一供給速度を変更させ、第二線材供給装置140に第二供給速度を変更させるとともに電源装置150に設定電圧を変更させる制御装置171と、
を具備する。
このように構成することにより、粗大粒子の発生を防止することが可能であり、ひいてはワーク10に形成される皮膜4の品質を向上することが可能である。
【0113】
また、制御装置171は、
電圧測定装置160により測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とする「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」から外れている場合には、「スパイク電圧」が発生していると判定する。
このように構成することは、以下の利点を有する。
すなわち、上部設定値および下部設定値の大きさを適宜設定することにより、単なるノイズ電圧とスパイク電圧とを選別し、単なるノイズ電圧に過剰に反応する(制御がビジーになる)ことを防止することが可能である。
【0114】
また、制御装置171は、
「スパイク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合には、第一線材供給装置130に第一供給速度を大きくさせ、第二線材供給装置140に第二供給速度を大きくさせるとともに電源装置150に設定電圧を小さくさせ、
「スパイク電圧」が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合には、第一線材供給装置130に第一供給速度を小さくさせ、第二線材供給装置140に第二供給速度を小さくさせるとともに電源装置150に設定電圧を大きくさせる。
このように構成することにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離を一定に保持することが可能であり、粗大粒子の発生を防止することが可能である。
【0115】
本実施形態では「スパイク電圧」が発生した場合には、制御装置171は第一供給速度、第二供給速度および設定電圧を変更するが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明は、(i)「スパイク電圧」が発生した場合に制御装置が第一供給速度、第二供給速度および設定電圧をいずれも変更する構成(本実施形態に対応する構成)の他、(ii)「スパイク電圧」が発生した場合に制御装置が第一供給速度および第二供給速度を変更する構成(設定電圧については変更しない構成)、あるいは(iii)「スパイク電圧」が発生した場合に制御装置が第一供給速度を変更する構成(第二供給速度および設定電圧については変更しない構成)としても良い。
【0116】
また、第一線材供給装置130は、
第一線材1を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラ(本実施形態では、第一駆動ローラ132および第一従動ローラ133)と、
一対の第一ローラの少なくとも一方(本実施形態では、第一駆動ローラ132)を回転駆動する第一モータ134と、
を備え、
第二線材供給装置140は、
第二線材2を挟持しつつ回転可能な一対の第二ローラ(本実施形態では、第二駆動ローラ142および第二従動ローラ143)と、
一対の第二ローラの少なくとも一方(本実施形態では、第二駆動ローラ142)を回転駆動する第二モータ144と、
を備える。
このように構成することにより、簡便な構成で第一線材1および第二線材2をそれぞれ第一チップ112および第二チップ114に供給することが可能である。
【0117】
以下では、図7を用いて本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態について説明する。
本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態は実質的にはアーク溶射装置100の「制御装置171による高周波成分制御」に対応するものであり、図7に示す如く、判定工程S1100および第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200を具備する。
判定工程S1100は、制御装置171が電圧測定装置160により測定される「アーク溶射装置100のアーク電圧」に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する工程である。制御装置171がスパイク電圧の発生の有無を判定する具体的な方法については「制御装置171による高周波成分制御」において既に説明しているため、省略する。
判定工程S1100において制御装置171が「スパイク電圧が発生している」と判定した場合、第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200に移行する。
判定工程S1100において制御装置171が「スパイク電圧が発生していない」と判定した場合、所定時間経過後に(所定周期毎に)判定工程S1100に移行する。
【0118】
第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200は、制御装置171が第一線材供給装置130に第一供給速度を変更させ、第二線材供給装置140に第二供給速度を変更させるとともに電源装置150に設定電圧を変更させる工程である。
制御装置171が第一線材供給装置130に第一供給速度を変更させ、第二線材供給装置140に第二供給速度を変更させるとともに電源装置150に設定電圧を変更させる具体的な方法については「制御装置171による高周波成分制御」において既に説明しているため、省略する。
第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200が終了したら、所定時間経過後に(所定周期毎に)判定工程S1100に移行する。
【0119】
以上の如く、本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態は、
第一線材1を長手方向に移動可能に支持する第一チップ112と、
第二線材2を長手方向に移動可能に支持する第二チップ114と、
第一線材1を第一チップ112に供給するとともに、第一線材1を第一チップ112に供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置130と、
第二線材2を第二チップ114に供給するとともに、第二線材2を第二チップ114に供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置140と、
第一チップ112と第二チップ114との間に設定電圧を印加することにより第一線材1の先端部と第二線材2の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、設定電圧を変更することが可能な電源装置150と、
第一チップ112と第二チップ114との間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置160と、
を具備するアーク溶射装置100の制御方法であって、
(制御装置171が)電圧測定装置160により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程S1100と、
判定工程S1100においてスパイク電圧が発生していると判定された場合に第一線材供給装置130に第一供給速度を変更させ、第二線材供給装置140に第二供給速度を変更させるとともに電源装置150に設定電圧を変更させる第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200と、
を具備する。
このように構成することにより、粗大粒子の発生を防止することが可能であり、ひいてはワーク10に形成される皮膜4の品質を向上することが可能である。
【0120】
また、本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態は、
判定工程S1100において電圧測定装置160により測定されるアーク電圧が「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに「アーク溶射装置100のアーク電圧の平均値」に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とする「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」から外れている場合には、(制御装置171が)スパイク電圧が発生していると判定する。
このように構成することは、以下の利点を有する。
すなわち、上部設定値および下部設定値の大きさを適宜設定することにより、単なるノイズ電圧とスパイク電圧とを選別し、単なるノイズ電圧に過剰に反応する(制御がビジーになる)ことを防止することが可能である。
【0121】
また、本発明に係るアーク溶射装置の制御方法の実施の一形態は、
スパイク電圧が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の上限値よりも大きい場合には、第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200において第一線材供給装置130に第一供給速度を大きくさせ、第二線材供給装置140に第二供給速度を大きくさせるとともに電源装置150に設定電圧を小さくさせ、
スパイク電圧が「アーク溶射装置100のアーク電圧の高周波許容範囲」の下限値よりも小さい場合には、第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200において第一線材供給装置130に第一供給速度を小さくさせ、第二線材供給装置140に第二供給速度を小さくさせるとともに電源装置150に前記設定電圧を大きくさせる。
このように構成することにより、第一線材1の先端部から第二線材2の先端部までの距離を一定に保持することが可能であり、粗大粒子の発生を防止することが可能である。
【0122】
本実施形態では、判定工程S1100においてスパイク電圧が発生していると判定された場合には、第一・第二供給速度/設定電圧変更工程S1200において第一供給速度、第二供給速度および設定電圧を変更するが、本発明はこれに限定されない。
例えば、図8に示す如く、判定工程S2100においてスパイク電圧が発生していると判定された場合に第一・第二供給速度変更工程S2200において第一供給速度および第二供給速度を変更する構成(設定電圧については変更しない構成)としても良い。
また、図9に示す如く、判定工程S3100においてスパイク電圧が発生していると判定された場合に第一供給速度変更工程S3200第一供給速度を変更する構成(第二供給速度および設定電圧については変更しない構成)としても良い。
【符号の説明】
【0123】
1 第一線材
2 第二線材
3 溶滴
4 皮膜
10 ワーク(溶射対象物)
100 アーク溶射装置
112 第一チップ
114 第二チップ
130 第一線材供給装置
140 第二線材供給装置
150 電源装置
160 電圧測定装置
171 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させるとともに前記電源装置に前記設定電圧を変更させる制御装置と、
を具備するアーク溶射装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項1に記載のアーク溶射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を小さくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を大きくさせる請求項2に記載のアーク溶射装置。
【請求項4】
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備え、
前記第二線材供給装置は、
前記第二線材を挟持しつつ回転可能な一対の第二ローラと、
前記一対の第二ローラの少なくとも一方を回転駆動する第二モータと、
を備える請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のアーク溶射装置。
【請求項5】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させる制御装置と、
を具備するアーク溶射装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項5に記載のアーク溶射装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせる請求項6に記載のアーク溶射装置。
【請求項8】
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備え、
前記第二線材供給装置は、
前記第二線材を挟持しつつ回転可能な一対の第二ローラと、
前記一対の第二ローラの少なくとも一方を回転駆動する第二モータと、
を備える請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載のアーク溶射装置。
【請求項9】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定し、前記スパイク電圧が発生していると判定した場合には前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させる制御装置と、
を具備するアーク溶射装置。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項9に記載のアーク溶射装置。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせる請求項10に記載のアーク溶射装置。
【請求項12】
前記第一線材供給装置は、
前記第一線材を挟持しつつ回転可能な一対の第一ローラと、
前記一対の第一ローラの少なくとも一方を回転駆動する第一モータと、
を備える請求項9から請求項11までのいずれか一項に記載のアーク溶射装置。
【請求項13】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させるとともに前記電源装置に前記設定電圧を変更させる第一・第二供給速度/設定電圧変更工程と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法。
【請求項14】
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項13に記載のアーク溶射装置の制御方法。
【請求項15】
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一・第二供給速度/設定電圧変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を小さくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一・第二供給速度/設定電圧変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせ、前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせるとともに前記電源装置に前記設定電圧を大きくさせる請求項14に記載のアーク溶射装置の制御方法。
【請求項16】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を変更させる第一・第二供給速度変更工程と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法。
【請求項17】
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項16に記載のアーク溶射装置の制御方法。
【請求項18】
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一・第二供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一・第二供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせるとともに前記第二線材供給装置に第二供給速度を小さくさせる請求項17に記載のアーク溶射装置の制御方法。
【請求項19】
第一線材を長手方向に移動可能に支持する第一チップと、
第二線材を長手方向に移動可能に支持する第二チップと、
前記第一線材を前記第一チップに供給するとともに、前記第一線材を前記第一チップに供給する速度である第一供給速度を変更することが可能な第一線材供給装置と、
前記第二線材を前記第二チップに供給するとともに、前記第二線材を前記第二チップに供給する速度である第二供給速度を変更することが可能な第二線材供給装置と、
前記第一チップと第二チップとの間に設定電圧を印加することにより前記第一線材の先端部と第二線材の先端部との間でアーク放電を発生させるとともに、前記設定電圧を変更することが可能な電源装置と、
前記第一チップと第二チップとの間の電位差であるアーク電圧を経時的に測定する電圧測定装置と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法であって、
前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧に基づいてスパイク電圧の発生の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において前記スパイク電圧が発生していると判定された場合に前記第一線材供給装置に第一供給速度を変更させる第一供給速度変更工程と、
を具備するアーク溶射装置の制御方法。
【請求項20】
前記判定工程において前記電圧測定装置により測定されるアーク電圧が前記アーク電圧の平均値から予め設定された下部設定値を引いた値である下部スパイク電圧値を下限値とするとともに前記アーク電圧の平均値に予め設定された上部設定値を加えた値である上部スパイク電圧値を上限値とするアーク電圧の高周波許容範囲から外れている場合には、前記スパイク電圧が発生していると判定する請求項19に記載のアーク溶射装置の制御方法。
【請求項21】
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の上限値よりも大きい場合には、前記第一供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を大きくさせ、
前記スパイク電圧がアーク電圧の高周波許容範囲の下限値よりも小さい場合には、前記第一供給速度変更工程において前記第一線材供給装置に第一供給速度を小さくさせる請求項20に記載のアーク溶射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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