説明

イオントフォレシス用薬剤及びイオントフォレシス用デバイス

【課題】皮膚浸透性に優れる新規なイオントフォレシス用薬剤、及び該薬剤を備えたイオントフォレシス用デバイスの提供。
【解決手段】アニオン部及びカチオン部を有する第一の化合物と、アニオン部又はカチオン部を有する第二の化合物とからなり、前記第一の化合物及び第二の化合物の少なくとも一方が薬剤活性を有し、全体としてアニオン性又はカチオン性であるイオン性複合体を有効成分として含有するイオントフォレシス用薬剤;前記薬剤を保持するための第一のシート11及び第二のシート12を備え、これらの少なくとも一方は前記薬剤を保持し、これらシート中の薬剤に電圧を印加する第一の電極13及び第二の電極14を備えるイオントフォレシス用デバイス1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚透過性に優れたイオントフォレシス用薬剤、及び該薬剤を備えたイオントフォレシス用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イオントフォレシス(Iontophoresis)は、イオン性薬剤を経皮吸収させる際に、電圧を印加してイオン性薬剤の皮膚内への浸透を促進する技術である。アニオン性薬剤はカソード(陰極)から、カチオン性薬剤はアノード(陽極)から皮膚内に浸透し、また皮膚内からは浸透したイオン性薬剤と同じ極性のイオンが抽出される(非特許文献1参照)。
イオントフォレシスは、イオン性薬剤の皮膚内への浸透を促進するので、各種化粧品や、経皮吸収により体内へ投与できる各種医薬品の適用に適している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3469973号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.K.Gupta et al.,J.Pharm.ScI., 87.976(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、イオントフォレシスに適用できるイオン性薬剤としては、これまでに限られたものしか報告されていないのが実情である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、皮膚浸透性に優れる新規なイオントフォレシス用薬剤、及び該薬剤を備えたイオントフォレシス用デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、アニオン部及びカチオン部を有する第一の化合物と、アニオン部又はカチオン部を有する第二の化合物とからなり、前記第一の化合物及び第二の化合物の少なくとも一方が薬剤活性を有し、全体としてアニオン性又はカチオン性であるイオン性複合体を有効成分として含有することを特徴とするイオントフォレシス用薬剤を提供する。
本発明のイオントフォレシス用薬剤は、前記第一の化合物及び/又は第二の化合物が有するアニオン部が、カルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の酸性基が解離して生じたアニオン性基であることが好ましい。
本発明のイオントフォレシス用薬剤は、前記第一の化合物及び/又は第二の化合物が有するカチオン部が、アンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基であることが好ましい。
本発明のイオントフォレシス用薬剤は、前記第一の化合物が下記一般式(I)で表され、前記第二の化合物が下記一般式(II)で表されることが好ましい。
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基であり;Xはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;mは0〜4の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、mが2〜4である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基、あるいはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;nは0〜5の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、nが2〜5である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
本発明のイオントフォレシス用薬剤は、前記イオン性複合体が、前記第一の化合物と前記第二の化合物との、1:1(分子数比)の複合体であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記本発明のイオントフォレシス用薬剤を保持する薬剤保持部、及び該薬剤保持部中の前記イオントフォレシス用薬剤に電圧を印加する電極を備えることを特徴とするイオントフォレシス用デバイスを提供する。
本発明のイオントフォレシス用デバイスは、前記薬剤保持部及び電極がシート状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、皮膚浸透性に優れる新規なイオントフォレシス用薬剤、及び該薬剤を備えたイオントフォレシス用デバイスを提供でき、薬剤の皮膚浸透性を促進することで、優れた薬効が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のデバイスを例示する概略構成図である。
【図2】本発明のデバイスの他の例を示す概略構成図である。
【図3】イオン性複合体の皮膚透過性を確認するための試験装置を例示する概略構成図である。
【図4】実施例1における皮膚透過実験の結果を示すグラフであり、(a)はTXAの累積透過量を、(b)は4MSの累積透過量をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<イオントフォレシス用薬剤>
本発明のイオントフォレシス用薬剤(以下、薬剤と略記する)は、アニオン部及びカチオン部を有する第一の化合物と、アニオン部又はカチオン部を有する第二の化合物とからなり、前記第一の化合物及び第二の化合物の少なくとも一方が薬剤活性を有し、全体としてアニオン性又はカチオン性であるイオン性複合体を有効成分として含有することを特徴とする。
前記イオン性複合体は、第一の化合物と第二の化合物とがイオン結合により結合して形成されるものであるが、さらに、前記イオン結合に関与しないアニオン部又はカチオン部を有することにより、分子全体としてアニオン性又はカチオン性となっているものである。このようにイオン性複合体とすることで、第一の化合物又は第二の化合物単独の場合よりも親油性が高まるので、イオントフォレシスによる皮膚浸透性が向上する。
【0015】
(第一の化合物)
第一の化合物は、一分子中にアニオン部及びカチオン部を有する。
前記アニオン部及びカチオン部は、pH3.5〜8で安定して存在するものが好ましく、pH4.5〜7で安定して存在するものがより好ましい。このような範囲とすることで、イオン性複合体の生体に対する安全性が一層向上する。また、第一の化合物は、カチオン部及びアニオン部を共に有する両性化合物として安定して存在し、後述する第二の化合物と一層安定してイオン性複合体を形成でき、該複合体の皮膚内への浸透が一層容易となる。第一の化合物は、pHが低過ぎるとカチオン性のみを示し易く、pHが高過ぎるとアニオン性のみを示し易い。
【0016】
前記アニオン部としては、アニオン性基及びアニオン性結合が例示できる。アニオン性結合とは、主鎖中又は側鎖中の、アニオンを有する結合のことを指す。
前記アニオン部は、このような条件を満たすものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、酸性基が解離して生じたアニオン性基が例示できる。前記酸性基の好ましいものとしては、カルボン酸基(−C(=O)−OH)、リン酸基(−O−P(=O)(OH))、ポリリン酸基((−O−P(=O)(OH))−OH、kは2以上の整数である)、硫酸基(−O−S(=O)−OH)、硝酸基(−O−N(−O)−OH)及び炭酸基(−O−C(=O)−OH)が例示できる。
【0017】
前記カチオン部としては、カチオン性基及びカチオン性結合が例示できる。カチオン性結合とは、主鎖中又は側鎖中の、カチオンを有する結合のことを指す。
前記カチオン部は、このような条件を満たすものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、アンモニウム基(−N)、スルホニウム基(−S)及びホスホニウム基(−P)が例示できる。さらにこれらの基の一つ以上の水素原子が置換基で置換された基も好ましいものとして例示できる。
【0018】
前記置換基としては、アルキル基、アルケニル基又は水酸基が好ましく、アルキル基又は水酸基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
前記置換基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状又は分岐鎖状である場合には、炭素数が1〜15であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜5であることが特に好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基等が例示できる。環状である場合には、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数は3〜12であることが好ましい。
前記置換基としてのアルケニル基は、前記アルキル基の少なくとも一つの炭素原子間の単結合(C−C)が二重結合(C=C)となったものが例示できる。
前記置換基の数は、特に限定されず、一つでも良いし、複数でも良く、すべての水素原子が前記置換基で置換されていても良い。前記置換基数が複数である場合には、これら置換基はすべて同一でも良く、一部が異なっていても良く、すべて異なっていても良い。一部又はすべてが異なっている場合には、これら置換基の組み合わせは目的に応じて任意に選択できる。
【0019】
第一の化合物におけるアニオン部及びカチオン部の数は、特に限定されないが、アニオン部及びカチオン部の数が同数であることが好ましい。
【0020】
第一の化合物は、生体に対して薬剤活性を有するものでも良いし、有さないものでも良い。ただし、後述する第二の化合物が薬剤活性を有さないものである場合には、第一の化合物は薬剤活性を有するものとする。薬剤活性を有するものとしては、上記条件を満たすものであれば、任意のものが使用でき、医薬品、化粧品又は医薬部外品等の有効成分として使用し得るものが例示できる。
【0021】
好ましいものとして具体的には、医薬品であれば、アモキシシリン、アンピシリン等のペニシリン類;イミペネム等のカルバペネム類;セファクロル、セフォチアム、セフタジジム等のセファム類;ミノサイクリン等のテトラサイクリン類;メシル酸パズフロキサシン等のピリドンカルボン酸類;アシクロビル、バラシクロビル、ザナミビル等の抗ウイルス剤;レボドパ類;L−カルボシステイン;フドステイン;オザグレル;ビンクリスチン;メルファラン;4−アミノ安息香酸等の化合物において、その構造の一部がアニオン部及びカチオン部となったものが例示できる。ただし、これらに限定されるものではない。なお、ここで「化合物の構造の一部がアニオン部及びカチオン部となる」とは、化合物中の構造の一部(例えば、官能基や結合)が、pH調整によって、カチオンやアニオンを有するようになることを指す。これは、以下においても同様である。
【0022】
化粧品や医薬部外品であれば、例えば、皮膚の美白作用を有する成分が特に好適であり、特に好ましいものとして、4−(アミノエチル)−シクロヘキサンカルボン酸(トラネキサム酸)等の構造の一部がアニオン部及びカチオン部となったものが例示できる。
【0023】
また、下記一般式(I)で表される両性化合物も、好ましい第一の化合物として例示できる。
【0024】
【化3】

【0025】
[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基であり;Xはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;mは0〜4の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、mが2〜4である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
【0026】
式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基(以下、アニオン性基含有基と略記する)である。前記アニオン性基で除去された水素イオンの数は特に限定されず、リン酸基、ポリリン酸基等では複数でも良い。
前記アニオン性基含有基としては、前記アニオン性基のみからなるもの、前記アニオン性基が二価の基と結合した一価の基が例示できる。
【0027】
前記二価の基の好ましいものとしては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選択される一種の基から一つの水素原子を除いた基;カルボニル基(−C(=O)−);アミド結合(−NH−C(=O)−);エステル結合(−C(=O)−O−)等が例示できる。
【0028】
水素原子を除く前記アルキル基及びアルケニル基としては、前記カチオン部における置換基としてのアルキル基及びアルケニル基と同様のものが例示できる。
水素原子を除く前記アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が例示できる。
水素原子を除く前記アルコキシ基としては、前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を除く前記アルケニルオキシ基としては、前記アルケニル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を除く前記アリールオキシ基としては、前記アリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
これらの基において、除かれる水素原子の位置は特に限定されない。
【0029】
前記二価の基は、一つ以上の炭素原子が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換されていても良く、この時の置換位置は特に限定されない。
また、前記二価の基は、一つ以上の水素原子が、置換基で置換されていても良く、該置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が例示できる。
【0030】
さらに、複数の前記二価の基同士が結合して形成された二価の基も好ましいものとして例示できる。結合する二価の基の組み合わせは、目的に応じて任意に選択できる。
【0031】
式中、Xはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基(以下、カチオン性基含有基と略記する)である。
前記カチオン性基含有基としては、前記カチオン性基のみからなるもの、前記カチオン性基が二価の基と結合した一価の基が例示できる。そして、二価の基としては、前記アニオン性基含有基における二価の基と同様のものが例示できる。
【0032】
における、水素原子を置換するアルキル基としては、前記カチオン部における置換基としてのアルキル基と同様のものが例示できる。
【0033】
式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子である。
ここで、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基は、前記アニオン性基含有基の二価の基における水素原子を除くものと同様である。
また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示できる。
【0034】
式中、mは0〜4の整数である。
mが2〜4である場合には、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。
mが1〜4である場合には、Rの結合位置は特に限定されない。
【0035】
前記一般式(I)で表される両性化合物の特に好ましいものとしては、4−(アミノエチル)−シクロヘキサンカルボン酸(トラネキサム酸)のカルボン酸基(カルボキシル基)が解離してアニオン(−C(=O)−O)になり、且つアミノ基がアンモニウム基になったものが例示できる。
【0036】
第一の化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0037】
(第二の化合物)
第二の化合物は、アニオン部又はカチオン部を有する。
第二の化合物におけるアニオン部は又はカチオン部は、前記第一の化合物のカチオン部又はアニオン部と、pH3.5〜8で安定してイオン結合を形成するものが好ましく、pH4.5〜7で安定してイオン結合を形成するものがより好ましい。
そのためには、第二の化合物におけるアニオン部又はカチオン部も、pH3.5〜8で安定して存在するものが好ましく、pH4.5〜7で安定して存在するものがより好ましい。第二の化合物は、pHが高過ぎたり、低過ぎたりすると、アニオン性又はカチオン性を喪失し易い。
【0038】
第二の化合物におけるアニオン部及びカチオン部は、第一の化合物における前記アニオン部及びカチオン部と同様である。
【0039】
第二の化合物におけるアニオン部及びカチオン部の数は、特に限定されないが、第二の化合物は、アニオン部のみ又はカチオン部のみを有するものが好ましい。アニオン部及びカチオン部を共に有する場合には、少なくともこれらの数が同数ではないことが必要である。このようにすることで、第二の化合物は、分子全体としてはアニオン性又はカチオン性となり、イオン性複合体の形成が可能となる。
【0040】
第二の化合物は、生体に対して薬剤活性を有するものでも良いし、有さないものでも良い。ただし、第一の化合物が薬剤活性を有さないものである場合には、第二の化合物は薬剤活性を有するものとする。薬剤活性を有するものとしては、上記条件を満たすものであれば、任意のものが使用でき、医薬品、化粧品又は医薬部外品等の有効成分として使用し得るものが例示できる。
【0041】
第二の化合物の好ましいものとして、下記一般式(II)で表される化合物が例示できる。
【0042】
【化4】

【0043】
[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基、あるいはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;nは0〜5の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、nが2〜5である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
【0044】
式中、Xは、前記第一の化合物におけるアニオン性基含有基又はカチオン性基含有基と同様であり、X又はXと同様である。
【0045】
式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、前記第一の化合物におけるRと同様である。
【0046】
式中、nは0〜5の整数である。
nが2〜5である場合には、複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。
nが1〜5である場合には、Rの結合位置は特に限定されない。
【0047】
前記一般式(II)で表される化合物の特に好ましいものとしては、アニオン部を有するものであれば、4−メトキシサリチル酸のカルボン酸基(カルボキシル基)が解離してアニオン(−C(=O)−O)になったものが例示できる。
【0048】
第二の化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0049】
(イオン性複合体)
前記イオン性複合体は、第一の化合物のアニオン部と第二の化合物のカチオン部とのイオン結合により、又は第一の化合物のカチオン部と第二の化合物のアニオン部とのイオン結合により形成される。
そして、イオン性複合体は、これを形成している第一の化合物に、イオン結合に関与していないアニオン部又はカチオン部(以下、それぞれ未結合アニオン部、未結合カチオン部と略記する)が残存することで、全体としては電気的に中性ではなく、アニオン性又はカチオン性となり、電圧の印加により、皮膚内への浸透が可能となる。そして、このようにイオン性複合体とすることで、第一の化合物又は第二の化合物単独の場合よりも炭素数が多くなるなど、親油性が高まるので、イオントフォレシスによる皮膚浸透性が向上する。
【0050】
上記のようにイオン性複合体については、未結合アニオン部又は未結合カチオン部が第一の化合物中に残存するように、第一の化合物及び第二の化合物の組み合わせを選択する。そして、第一の化合物中には、未結合アニオン部及び未結合カチオン部のいずれか一方のみを残存させることが好ましい。イオン性複合体中に、未結合アニオン部及び未結合カチオン部が共に残存していると、イオン性複合体同士の相互作用により、皮膚内への浸透促進効果が低下することがある。したがって、イオン性複合体一分子中における、未結合アニオン部及び未結合カチオン部の数の差が大きいほど好ましい。
【0051】
例えば、第一の化合物中のアニオン部を、イオン結合に関与しないように残存させるためには、第一の化合物中のカチオン部の数と同数以上のアニオン部を有する第二の化合物を使用することが好ましい。そして、第一の化合物中のカチオン部を、イオン結合に関与しないように残存させるためには、第一の化合物中のアニン部の数と同数以上のカチオン部を有する第二の化合物を使用することが好ましい。
【0052】
イオン性複合体中に残存させるアニオン部又はカチオン部の数は特に限定されず、目的に応じて適宜調整すれば良い。
【0053】
イオン性複合体は、通常、炭素数が多い方が、親油性が高くなる点で好ましいが、分子サイズが大きくなり過ぎると、皮膚内への浸透促進効果が低くなってしまう。このような観点から、イオン性複合体の分子量は1000以下であることが好ましい。
【0054】
イオン性複合体を構成する第一の化合物と第二の化合物との分子数の比は、これら化合物中のアニオン部及びカチオン部の数に応じて適宜調整すれば良い。例えば、アニオン部及びカチオン部を一つずつ有する第一の化合物と、アニオン部又はカチオン部を一つ有する第二の化合物とを使用する場合には、これらの分子数の比が1:1であることが好ましい。
【0055】
イオン性複合体としては、前記一般式(I)で表される第一の化合物と、前記一般式(II)で表される第二の化合物との複合体が好ましく、これら化合物の分子数の比が1:1である複合体がより好ましい。
【0056】
イオン性複合体においては、第一の化合物及び第二の化合物の少なくとも一方が薬剤活性を有していれば良いが、両方が薬剤活性を有していても良い。例えば、第一の化合物及び第二の化合物として、同種の薬剤活性を有するものを併用すれば、一度のイオントフォレシスで一層大きな効果が得られるし、異種の薬剤活性を有するものを併用すれば、異なる効果が同時に得られる。例えば、第一の化合物として、4−(アミノエチル)−シクロヘキサンカルボン酸のカルボン酸基(カルボキシル基)が解離してアニオン(−C(=O)−O)になり、且つアミノ基がアンモニウム基になったものを使用し、第二の化合物として、4−メトキシサリチル酸のカルボン酸基(カルボキシル基)が解離してアニオン(−C(=O)−O)になったものを使用した場合、これら化合物は作用機序は異なるものの、いずれも美白効果を有するので、結果として一層大きな美白効果が期待できる。
【0057】
イオン性複合体は、第一の化合物及び第二の化合物を混合することで形成させることができる。この時は、第一の化合物及び第二の化合物を、これらがそれぞれ安定に存在できるpHの条件下で混合することが好ましい。また、所定のpHで第一の化合物となる前駆体(以下、第一の前駆体と略記する)、第二の化合物となる前駆体(以下、第二の前駆体と略記する)を予め混合しておき、この混合物を、第一の化合物及び第二の化合物が安定に存在できるpH条件下に置いても良い。ここで「第一の前駆体」とは、例えば、第一の化合物において、アニオン部及び/又はカチオン部が、pHの影響でこれらの性質を喪失し、電気的に中性になっている状態のものを指す。アニオン部であれば、例えば、pHが酸性域にあることで解離していない状態(カルボン酸基等)にあることを指し、カチオン部であれば、例えば、pHがアルカリ性域にあることで、水素イオンが除去された状態(アミノ基(−NH)等)にあることを指す。「第二の前駆体」も同様である。
第一の化合物及び第二の化合物は、それぞれ水溶液の状態で混合することが好ましい。
【0058】
イオン性複合体は、例えば、電気伝導度測定、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、油水分配率測定等の解析手段で、その存在を確認できる。
電気伝導度を測定する場合には、例えば、検体である水溶液中に電極セルを浸漬させ、極板間に一定の交流電圧を印加した時の、水溶液の電気抵抗によって生じる電圧変化から求められる電気伝導率(導電率)が、第一の化合物及び第二の化合物のいずれにも該当しない値(イオン性複合体に特有の値)であることを確認すれば良い。
HPLCの場合には、検体である水溶液をカラムに導入し、主たる検出物質の溶出時間が、第一の化合物及び第二の化合物のいずれにも該当しない値(イオン性複合体に特有の溶出時間)であることを確認すれば良い。
油水分配率を測定する場合には、例えば、n−オクタノール及び水の二層への移動による濃度分布から求められる油水分配率が、第一の化合物及び第二の化合物のいずれにも該当しない値(イオン性複合体に特有の値)であることを確認すれば良い。
【0059】
本発明の薬剤は、前記イオン性複合体以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の成分を含有しても良い。
前記その他の成分は、薬剤活性を有するものでも良いし、有さないものでも良い。薬剤活性を有するものである場合には、皮膚浸透性のものでも良いし、皮膚非浸透性のものでも良く、これらを併用しても良い。具体的には、前記イオン性複合体とは別途に、イオントフォレシスを適用する部位の皮膚の状態を改善する成分が例示できる。
また、前記その他の成分で、薬剤活性を有さないものとしては、本発明の薬剤を安定化させる成分、保湿剤、保存剤、香料、色素、各種溶媒が例示できる。薬剤を安定化させる成分としては、pH調整剤が例示でき、溶媒としては、水やアルコール類等の各種有機溶媒が例示できる。
【0060】
前記その他の成分は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0061】
<イオントフォレシス用デバイス>
本発明のイオントフォレシス用デバイス(以下、デバイスと略記する)は、上記本発明のイオントフォレシス用薬剤を保持する薬剤保持部、及び該薬剤保持部中の前記イオントフォレシス用薬剤に電圧を印加する電極を備えることを特徴とする
図1は、本発明のデバイスを例示する概略構成図である。
【0062】
ここに示すデバイス1は、第一のシート11、第二のシート12、第一の電極13、第二の電極14、電源15及びフレーム16を備える。これらは、いずれもシート状であるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。ただし、薄型の構成とした方が、デバイスの取り扱い性が向上する点で好ましい。
デバイス1においては、フレーム16上の一部に電源15が積層され、第一の電極13及び第二の電極14は、それぞれ一部が電源15上に、その他の部位がフレーム16上に積層されている。さらに、第一の電極13上には第一のシート11が積層され、第二の電極14上には第二のシート12が積層されている。ただし、第一の電極13及び第二の電極14、並びに第一のシート11及び第二のシート12は、互いに接触しないように離間して配置されている。また、これらは絶縁材を介して接触して配置されていても良い。
電源15、第一の電極13、第一のシート11、第二の電極14及び第二のシート12は、電気的に接続されている。なお、電源15は、フレーム16上の全面に積層されていても良いが、ここに示すように一部に積層されていても電圧の印加に支障は無く、デバイスを簡略化でき、低コストで製造するのに好適である。
【0063】
第一のシート11及び第二のシート12は、薬剤を保持する薬剤保持部であり、これらの少なくとも一方は、本発明の薬剤を保持している。そして、第一の電極13及び第二の電極14のいずれか一方はカソードであり、他方はアノードであって、第一のシート11及び第二のシート12中の薬剤に電圧を印加する。すなわち、第一のシート11及び第二のシート12は、電圧を印加する薬剤を、第一の電極13及び第二の電極14上で保持するものである。カソード上のシートには、アニオン性のイオン性複合体を含有する薬剤が含有され、アノード上のシートには、カチオン性のイオン性複合体を含有する薬剤が含有される。薬剤は、カソード上のシート及びアノード上のシートの両方に保持されていても良いが、いずれか一方のみに保持されていても良い。
【0064】
第一のシート11及び第二のシート12は、皮膚に接触させる部位であり、デバイス1の装着を容易とするために、互いに段差が生じないように配置されていることが好ましい。例えば、第一のシート11、第二のシート12、第一の電極13、第二の電極14及び電源15は、いずれもその厚さは特に限定されないが、第一のシート11及び第一の電極13の合計の厚さと、第二のシート12及び第二の電極14の合計の厚さとを、略同等とすることが好ましい。
【0065】
なかでも、取り扱い性等を考慮すると、第一のシート11及び第二のシート12の厚さは、0.1〜10mmであることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。第一の電極13及び第二の電極14の厚さは、0.1〜5mmであることが好ましく、0.1〜3mmであることがより好ましい。そして、電源15の厚さは、0.1〜5mmであることが好ましく、0.1〜3mmであることがより好ましい。フレーム16の厚さは、これらの厚さや、デバイス1の強度等を考慮して任意に選択できる。
【0066】
第一のシート11及び第一の電極13は略同等の形状であり、これは第二のシート12及び第二の電極14についても同様である。ただし、本発明においてはこれに限定されず、これらシートと電極は、異なる形状でも良い。
ここでは、第一のシート11、第二のシート12、第一の電極13及び第二の電極14の形状は、いずれも略半円形状であるが、これに限定されず、シート及び電極の形状は、デバイスの装着箇所等を考慮して、任意の形状にできる。
また、フレーム16の形状は略楕円形状であり、第一の電極13及び第二の電極14を合わせた形状に対して、同等以上の表面積を有するが、第一の電極13及び第二の電極14の形状に応じて適宜選択すれば良く、デバイス1の構造を安定して維持できる形状であれば特に限定されない。ただし、第一の電極13、第二の電極14及び電源15が露出されない形状であることが好ましい。
【0067】
第一の電極13及び第二の電極14の材質は、カソード又はアノードとして使用し得るものであれば特に限定されない。例えば、カソードであれば、好ましいものとして塩化銀(AgCl)が例示できる。アノードであれば、好ましいものとして銀(Ag)、カーボン(C)が例示できる。
【0068】
第一のシート11及び第二のシート12の薬剤を除く基材は、薬剤を保持でき、イオン性複合体の移動を妨げないものであれば特に限定されないが、導電性を有するものが好ましく、皮膚への接着性を有するものが好ましい。具体的には、導電性のゲルが好ましく、導電体を含有する水溶液と増粘剤とを混合して得られたゲルがより好ましい。このようにすることで、シートとしての形状を安定して維持できると共に、イオン性複合体の皮膚浸透性も一層向上し、シートの皮膚への接着性も良好となる。前記導電体としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩類が例示できる。
また、導電性の基材としては、導電性のゲル以外にも、好ましいものとして炭素繊維が例示できる。
さらに、導電性は薬剤を含有する水溶液でも維持できるので、織布や不職布等も基材として使用できる。
さらに、複数の基材が積層されたものを使用しても良い。
【0069】
第一のシート11及び第二のシート12に水を含有させる場合には、グリセリン等の保湿剤をさらに含有させることが好ましい。
第一のシート11及び第二のシート12は、皮膚に接触させる部位であり、例えば、基材がゲルではない場合などは、露出面の少なくとも一部、好ましくは周縁部が、接着剤の塗布等により、皮膚接着性を有していることが好ましい。
【0070】
第一のシート11及び第二のシート12は、前記基材に本発明の薬剤を保持させることで作製できる。例えば、薬剤を含有する液体を基材に塗布したり、薬剤を含有する液体に基材を浸漬させたり、薬剤を含有する液体を固化させたりすれば良い。前記液体は水溶液であることが好ましい。また、塗布の方法は特に限定されず、任意の方法が適用でき、スプレーによる塗布、プッシュ式ノズルによる塗布、刷毛等の塗布器具による塗布等が例示できる。
【0071】
フレーム16の材質は、デバイス1の構造を安定して維持できるものであれば特に限定されないが、絶縁性が高いものほど好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリエチレン等の樹脂類;織布;不職布が例示でき、複数種類のこれら材質が積層されたものでも良い。
【0072】
電源15は、例えば、0.1〜1mA/cm程度の電流密度を発生できる性能を有するものであれば特に限定されない。なかでも好ましいものとしては、印刷バッテリーが例示できる。
また、ここでは電源として、デバイス内に組み込まれて一体化されたものを示したが、これに限定されず、例えば、電線を通じて電極と接続され、デバイス外に別途設けるようにしても良い
【0073】
第一のシート11、第二のシート12、第一の電極13、第二の電極14、電源15及びフレーム16は、積層時に接着剤を使用するか、又は治具を使用して固定することが好ましい。
【0074】
ここでは、デバイスとして、電極及び薬剤保持部がシート状であるものについて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、電極及び薬剤保持部がシート状ではなく、液状の薬剤を充填するセルに非シート状の電極が接続された構成のものを使用することもできる。
【0075】
図2は、本発明のデバイスの他の例を示す概略構成図である。ここに示すデバイス2は、電源及び電極の配置形態が、デバイス1と異なる。
デバイス2は、第一のシート21、第二のシート22、第一の電極23、第二の電極24、電源25及びフレーム26を備える。また、電源25及び第一の電極23、並びに電源25及び第二の電極24をそれぞれ電気的に接続する導体シート27,27を備える。これらは、いずれもシート状である。第一の電極23及び第二の電極24のいずれか一方はカソードであり、他方はアノードである。
デバイス2においては、フレーム26上に、一体となった電源25、第一の電極23、第二の電極24及び導体シート27が積層されている。そして、第一の電極23の露出面全面を被覆するように、第一のシート21がフレーム26上に積層され、第二の電極24の露出面全面を被覆するように、第二のシート22がフレーム26上に積層されている。導体シート27は、第一のシート21又は第二のシート22によってすべてが被覆されるようになっている。そして、第一のシート21及び第二のシート22は、互いに離間して配置されている。
電源25、第一の電極23、第一のシート21、第二の電極24及び第二のシート22は、電気的に接続されている。
【0076】
第一のシート21及び第二のシート22は、薬剤を保持する薬剤保持部であり、これらの少なくとも一方が本発明の薬剤を保持するようにすれば良い。
【0077】
第一のシート21、第二のシート22、第一の電極23、第二の電極24、電源25及びフレーム26の材質や厚さは、図1に示すデバイス1の場合と同様である。そして、電源25はデバイス1の電源15と同様の性能を有するものであれば良い。
導体シート27の材質は公知のもので良く、厚さは任意に調整でき、電源25と同様の厚さでも良いし、異なる厚さでも良い。
【0078】
第一のシート21及び第二のシート22は共に略半円形状であり、第一の電極23及び第二の電極24は共に長方形状であるが、本発明においてはこれに限定されず、異なる形状でも良いし、シート同士又は電極同士で異なる形状としても良い。
また、フレーム26の形状は、略楕円形状であり、第一のシート21及び第二のシート22を合わせた形状に対して、同等以上の表面積を有する。
【0079】
デバイス2を構成する各要素は、積層時に接着剤を使用するか、又は治具を使用して固定することが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
[実施例1]
【0081】
図3に示す試験装置を使用して、試験片に対するイオン性複合体の皮膚透過性を確認した。ここで、試験装置について説明する。
(1)試験装置
図3は、試験装置を示す概略構成図である。
ここに示す試験装置3は、電源31、電線32、第一セル33及び第二セル34を備える。そして、第一セル33及び第二セル34は、それぞれ電線32で電源31と電気的に接続されている。
第一セル33の内部には、所望の液体試料を充填するための第一充填部33aが設けられており、第一充填部33aの周囲は、水を循環させるための第一循環層33bとなっている。また、第二セル34の内部には、所望の液体試料を充填するための第二充填部34aが設けられており、第二充填部34aの周囲は、水を循環させるための第二循環層34bとなっている。第一充填部33a及び第二充填部34aは、薬剤保持部であり、それぞれ第一ポート332及び第二ポート342を通じて、液体試料の出し入れが可能となっている。そして、第一セル33の外側から第一充填部33aの内部へ、第一の電極33cが突設され、同様に、第二セル34の外側から第二充填部34aの内部へ、第二の電極34cが突設されており、これら電極は、セルの外側でそれぞれ電線32と接続されている。第一の電極33c及び第二の電極34cのいずれか一方はカソードであり、他方はアノードであって、第一充填部33a及び第二充填部34aに充填された液体試料中の薬剤に電圧を印加できるようになっている。
第一セル33の第一充填部33aが開口されている端部331と、第二セル34の第二充填部34aが開口されている端部341は、いずれも試験片を挟持する部位である。
【0082】
試験装置3では、電圧を印加すると、第一充填部33a内の液体試料中にアニオン性のイオン性複合体が含有されていれば、該複合体は試験片を透過した場合、第二充填部34a内に移動する。そして、第二充填部34a内の液体試料中にカチオン性のイオン性複合体が含有されていれば、該複合体は試験片を透過した場合、第一充填部33a内に移動する。
ここでは、第一の電極33cが、塩化銀(AgCl)からなるカソードであり、第二の電極34cが、銀(Ag)からなるアノードであるものを使用した。また、第一セル33及び第二セル34の材質は、通常、各種樹脂類、ガラス等の絶縁性を有するものであるが、ここでは、ガラスとした。
【0083】
(2)イオン性複合体水溶液の調製
まずpH8.8の炭酸水溶液を調製し、これを使用して、濃度が100μmol/mLであるtrans−4−(アミノエチル)−シクロヘキサンカルボン酸(トラネキサム酸、以下、TXAと略記する)水溶液、濃度が50μmol/mLである4−メトキシサリチル酸(以下、4MSと略記する)水溶液をそれぞれ調製した。そして、TXAの濃度が50μmol/mL、4MSの濃度が25μmol/mLとなるように、前記水溶液を混合して、pHが約7.4である、イオン性複合体を含有する水溶液を調製した。ここで、TXAの濃度を4MSの濃度の二倍としたのは、4MSの溶解度が低く、また、検出時のシグナル強度が低いTXAを精度良く検出できるようにするためである。
【0084】
(3)試験片の作製
ペントバルビタールで麻酔し、背面固定したラットの腹部皮膚を摘出し、脂肪を剥離した。これをpH7.4のリン酸緩衝液で30分間水和し、試験片とした。
【0085】
(4)In vitro皮膚透過実験
調製したイオン性複合体水溶液を第一セルの第一充填部33aに充填し、第二セル34の第二充填部34aには、リン酸緩衝液でpHを7.4に調整した水溶液を充填した。そして、前記端部331と、前記端部341とが対向するように、第一セル33及び第二セル34を配置し、角層側を前記端部331に向けて試験片を前記端部331及び341間で挟持し、その状態で固定した。次いで、電流密度0.3mA/cmで一定電流を流して電圧を印加し、途中、第二充填部34a(試験片の真皮側)からサンプリングして、サンプル中のTXA及び4MSの濃度を測定し、これらの試験片に対する累積透過量を算出した。濃度測定は、下記条件でHPLCにより行った。測定結果を図4に示す。図4(a)はTXAの累積透過量を、(b)は4MSの累積透過量をそれぞれ示す。
【0086】
<HPLC条件>
カラム:CAPCELL PAK SCX UG80(4.6mm i.d.×250mm)
移動相:(0.1mol/L KHPO)/(HO/CHCN)=80/20
流量:1.0mL/分
検出波長:TXA−210nm、4MS−250nm
【0087】
[比較例1]
電圧を印加しなかったこと以外は、実施例1と同様に、サンプル中のTXA及び4MSの濃度を測定した。測定結果を図4に示す。
【0088】
図4から明らかなように、実施例1では、TXA及び4MSの累積透過量が時間の経過に伴い、共に増加していた。電圧を印加することで、第一充填部33a内のアニオン性のイオン性複合体は、第一の電極(カソード)33cが設けられた第一セル33より、試験片を角層側から真皮側に透過して、第二の電極(アノード)34cが設けられた第二セル34へ移動していたと考えられ、実施例1では、時間の経過と共に、イオン性複合体が継続的に効率良く試験片を透過したことを示している。これに対し、比較例1では、イオン性複合体の累積透過量はあまり増加していなかった。このように、実施例1は、比較例1よりも明らかにイオン性複合体の皮膚浸透性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、医薬品、化粧品、医薬部外品等を使用する、医療分野、美容分野等で利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1,2・・・イオントフォレシス用デバイス、11,21・・・第一のシート,12,22・・・第二のシート、13,23・・・第一の電極、14,24・・・第二の電極



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン部及びカチオン部を有する第一の化合物と、アニオン部又はカチオン部を有する第二の化合物とからなり、前記第一の化合物及び第二の化合物の少なくとも一方が薬剤活性を有し、全体としてアニオン性又はカチオン性であるイオン性複合体を有効成分として含有することを特徴とするイオントフォレシス用薬剤。
【請求項2】
前記第一の化合物及び/又は第二の化合物が有するアニオン部が、カルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の酸性基が解離して生じたアニオン性基であることを特徴とする請求項1に記載のイオントフォレシス用薬剤。
【請求項3】
前記第一の化合物及び/又は第二の化合物が有するカチオン部が、アンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオントフォレシス用薬剤。
【請求項4】
前記第一の化合物が下記一般式(I)で表され、前記第二の化合物が下記一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用薬剤。
【化1】

[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基であり;Xはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;mは0〜4の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、mが2〜4である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
【化2】

[式中、Xはカルボン酸基、リン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、硝酸基及び炭酸基からなる群から選択される一種の基から水素イオンが除去されたアニオン性基を有する基、あるいはアンモニウム基、スルホニウム基及びホスホニウム基、並びにこれらの一つ以上の水素原子がアルキル基で置換された基からなる群から選択される一種のカチオン性基を有する基であり;nは0〜5の整数であり;Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、水酸基又はハロゲン原子であり、nが2〜5である場合には複数のRは互いに同一でも異なっていても良い。]
【請求項5】
前記イオン性複合体が、前記第一の化合物と前記第二の化合物との、1:1(分子数比)の複合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用薬剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用薬剤を保持する薬剤保持部、及び該薬剤保持部中の前記イオントフォレシス用薬剤に電圧を印加する電極を備えることを特徴とするイオントフォレシス用デバイス。
【請求項7】
前記薬剤保持部及び電極がシート状であることを特徴とする請求項6に記載のイオントフォレシス用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−202577(P2010−202577A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49782(P2009−49782)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】