説明

イオントラップRF電源

【課題】 本発明はイオントラップRF電源に関し、高圧高周波コンデンサを必要とすることなく、スイッチング素子としてのFETトランジスタの耐圧を上げる必要のないイオントラップRF電源を提供することを目的としている。
【解決手段】 パワーアンプ部10からの高周波を空芯コイル3を介してトラップ電極9,エンドギャップ電極11,12からなる2次側共振回路部30に供給するようにしたイオントラップRF電源において、共振エネルギーを瞬時に吸収するエネルギー吸収回路部40を前記空芯コイル3を介して設けるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントラップRF電源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントラップは、イオンを真空中に孤立状態で長時間蓄積できるという機能や、装置が小型で軽量であるという特徴があり、さまざまな分野で広く利用されている。特に、イオン−分子反応の分野では、反応の時間変化を直接観測できるというメリットからその有用性は高く、多くの研究で利用されている。イオントラップは、その内部にイオンを封じ込めるために、トラップ電極にRF(高周波)電源を印加することが行われる。イオントラップに蓄積されたイオンを例えばTOFMS(飛行時間型質量分析計)に出射するためには、前記RF電源を急峻にオフにする必要がある。そして、RF電源をオフにすると、イオントラップに蓄積されたイオンをTOFMSに出射することが可能となる。
【0003】
図5はイオントラップRF電源の従来回路の構成例を示す図である。図において、10はパワーアンプ部、20は共振回路・エネルギー吸収回路部である。パワーアンプ部10と共振回路・エネルギー吸収回路部20間は空芯コイル3で接続されている。パワーアンプ部10において、1は高周波(RF)を出力する発振器、2は該発振器1の出力を増幅するパワーアンプ、3は該パワーアンプ2の出力部に接続された空芯コイル3の1次側巻線(入力巻線)、パワーアンプ2には共振回路・エネルギー吸収回路部20の出力をオン/オフするためのオン/オフ信号が入力されている。
【0004】
空芯コイル3の1次側巻線4を入力巻線、2次側巻線5を共振巻線と呼ぶ。6は共振巻線5の両端に接続されたRFオフスイッチである。このRFオフスイッチ6は、前記RFオン/オフ信号によりオン/オフされる。7a,7bは共振巻線5の両端にそれぞれ直列に接続された高圧高周波コンデンサ、8は共振巻線の一端側に抵抗R1を介して接続された高圧電源である。ここで、高圧電源8を追加しているのは、イオンがイオントラップを通過しやすくするためである。また、抵抗R1を介してエンドギャップ電極11,12に接続されている。
【0005】
9はコンデンサ7aの一端が接続されるトラップ電極、11,12はトラップ電極9を挟むように構成されたエンドギャップ電極である。図より明らかなように、エンドギャップ電極11と12は同電位である。
【0006】
以上の説明より明らかなように、トラップ電源は、トラップ電極9と、空芯コイル3からなる共振部分、パワーアンプ部10、RFを瞬時にオフにするRFオフスイッチ6から構成されている。共振部分は、トラップ電極9と、エンドギャップ電極11,12間の容量と、空芯コイル3の共振巻線5のインダクタンスとで構成されている。パワーアンプ部10は、発振器1と、信号を増幅するパワーアンプ2と、共振回路にエネルギーを供給するための入力巻線4から構成されている。RFをオフにする時のエネルギー吸収回路は、RFオフスイッチ6から構成されており、RFのオフ信号に連動して動作させる。トラップ電極9を高圧電圧にフローティングするために高圧高周波コンデンサ7a,7bを共振回路内に挿入している。このように構成された回路の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0007】
共振巻線5のインダクタンスとトラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間容量で決定される共振周波数を発振器1に設定する。そして、該発振器1から出力される信号をパワーアンプ2に供給する。ここで、パワーアンプ2で電力増幅して入力巻線4にRF電力を供給すると、共振巻線5の両端に高電圧の高周波(RF)が発生する。共振巻線5に発生した高電圧RF波形が高圧高周波コンデンサ7a,7bを介してトラップ電極9に供給される。
【0008】
トラップ電極9、エンドギャップ電極11,12は、高圧高周波コンデンサ7a、7bで直流的に絶縁されているため、RFをかけながら高電圧にフローティングすることが可能である。この状態でRFオフの動作を行わせる。具体的には、パワーアンプ2の出力をオフにし、RFオフスイッチ6をオンにする。
【0009】
ここで、RFオフスイッチ6がない場合、つまりパワーアンプ2からの供給のみをオフにした場合、図6に示すように、共振回路のQで決まる時定数に従ってRFが減衰する。図6において、横軸は時間、縦軸は高周波波形である。図の最上段には、RFオフ信号が示されている。RFオフ信号が“H”レベルになった時に、RFはオフになるように設定されている。RFオフスイッチ6を働かせて共振回路内部にあるエネルギーを強制的に吸収した場合には、図7に示すようにRF電圧の立ち下がり応答が急峻になる。RF電圧の立ち下がりが急峻になると、イオンをイオントラップからTOFMS等に速やかに出射することが可能となる。
【0010】
図8は従来回路の具体的構成例を示す図である。図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、15はRF入力端子、3は該RF信号が印加される空芯コイルである。該空芯コイル3の1次側巻数は例えば3ターン、2次側巻数は例えば50ターン程度である。20aは空芯コイル3の2次側巻線が接続されるエネルギー吸収回路部、20bは入力端子16からエネルギー吸収回路を動作させるためのRFオフ信号をTTLレベルで受けるエネルギー吸収回路部である。R20はRFオフ信号と接地間に設けられた抵抗(1kΩ)である。21はRFオフ信号を入力するインバータよりなるゲート回路(具体的には74LS04IC)である。
【0011】
C1は空芯コイル3の両端に接続された可変コンデンサ(50pF)、C2は空芯コイル3の2次側巻線の一端と直列に接続されるコンデンサ(0.1μF)である。該コンデンサC2の他端は出力端子17に接続されており、この出力端子17からRF信号が出力される。出力されるRF信号は、トラップ電極9(図5参照)に与えられる。出力端子17側には、抵抗R1(500kΩ)を介して高圧電源8が接続されている。18は回路に共通のコモンラインであり、接地されている。
【0012】
ゲート回路21の出力は、抵抗R21(20kΩ)とコンデンサC20(0.001μF)の並列回路に接続され、ゲート回路21の他の出力は、抵抗R24(20kΩ)とコンデンサC21(0.001μF)の並列回路に接続されている。抵抗R22とコンデンサC20の並列回路の他端は、抵抗R22(1kΩ)とトランジスタQ1〜Q3よりなる第1のドライブ回路に接続され、抵抗R24とコンデンサC21の並列回路の他端は、抵抗R23とトランジスタQ4〜Q6よりなる第2のドライブ回路に接続されている。
【0013】
第1のドライブ回路は、抵抗R25(50Ω)を介してスイッチング素子として機能するFET Q7のゲートに接続され、第2のドライブ回路は、抵抗R26(50Ω)を介してスイッチとして機能するFET Q8のゲートに接続されている。FET Q7のドレインは接地され、FET Q8のソースは接地されている。D1,D2はダイオードであり、前記FET Q7,FET Q8と直列に接続されている。そして、ダイオードD1とD2の接続点にRF信号の出力ラインが接続されている。
【0014】
このように構成された回路において、RFオフ信号が入力されると、第1のドライブ回路又は第2のドライブ回路の何れかがアクティブになり、FET Q7又はFET Q8の何れかがオンになり、RF信号ラインを短絡する。つまり、コンデンサC1の両端を短絡することになる。このように構成すれば、RF信号をオフにしたい時に、瞬時にRF信号をオフにすることができる。
【0015】
従来のこの種の技術としては、論文「飛行時間型質量分析計のイオン源として用いるイオントラップの開発」がある(例えば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Mass Spectrom Soc.Jpn(Vol.50.No.2002(217頁〜222頁、FIG4))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述した従来の技術では、トラップ電極9と、エンドギャップ電極10,11を高電圧にフローティングさせるためには、高圧高周波コンデンサ7a,7bを共振回路内部に挿入する必要があった。このため、共振回路は複雑になり効率(入力電力と出力電力の比率)が低下するという問題があった。また、共振巻線に発生する電圧(トラップ電極とエンドギャップ電極に印加される電圧)の振幅電圧がそのままエネルギー吸収回路のFET(図8のQ7,Q8)に印加されるため、FETトランジスタの耐圧を超えるような大きい出力電圧を発生させることができないという問題があった。
【0017】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、高圧高周波コンデンサを必要とすることなく、スイッチング素子としてのFETトランジスタの耐圧を上げる必要のないイオントラップRF電源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)請求項1記載の発明は、パワーアンプ部からの高周波を空芯コイルを介してトラップ電極,エンドギャップ電極からなる2次側共振回路部に供給するようにしたイオントラップRF電源において、共振エネルギーを瞬時に吸収するエネルギー吸収回路部を前記空芯コイルを介して設けたことを特徴とする。
(2)請求項2記載の発明は、前記エネルギー吸収回路部は、前記空芯コイルに第3巻線を設け、この第3巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記エネルギー吸収回路は、前記空芯コイルの1次側巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする。
(4)請求項4記載の発明は、前記エネルギー吸収回路は、前記空芯コイルの1次側巻線に更に第3の巻線を追加し、1次巻線と第3巻線を直列に接続し、この直列に接続した巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(1)請求項1記載の発明によれば、共振回路のエネルギーを吸収するエネルギー吸収回路を設けたので、RF信号を瞬時オフにすることができ、イオントラップに蓄積されたイオンを速やかに質量分析計等に出射することが可能になる。
(2)請求項2記載の発明によれば、空芯コイルに設けた第3巻線をスイッチにより短絡するので、RF信号を瞬時オフにすることができ、イオントラップに蓄積されたイオンを速やかに質量分析計等に出射することができる。本発明によれば、エネルギー吸収回路を空芯コイルに巻回させたコイルから作り出しているので、1次巻線と2次巻線間が絶縁されているので、本質的にフローティングであり、高圧高周波コンデンサを必要とすることなく、スイッチング素子としてのFETトランジスタの耐圧を上げる必要のないイオントラップRF電源を提供することができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、空芯コイルとエネルギー吸収巻線を共用化し、1次巻線をスイッチで短絡する構成にしているので、回路を簡略化することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、空芯コイルに設けたコイルをスイッチにより短絡するものであるので、RF信号を瞬時オフにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態例を示す回路図である。図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。図に示す回路図は、パワーアンプ部10と、共振回路部30と、エネルギー吸収回路部40から構成されている。これらは、空芯コイル3でRF的に結合されている。
【0021】
共振回路部30は、トラップ電極9と、エンドギャップ電極11,12と、空芯コイル3の共振巻線5から構成されている。そして、トラップ電極9と、エンドギャップ電極11,12間に浮遊するコンデンサの容量と、共振巻線5のインダクタンスで決定される周波数で共振現象を起こす回路構成になっている。共振周波数fは、回路のインダクタンスをL、容量をCとすると、よく知られているように、次式で表される。
【0022】
f=1/(2π√(L・C))
また、共振回路部30は、空芯コイル3によりパワーアンプ部10や、エネルギー吸収回路部40と直流的には絶縁されている。
【0023】
パワーアンプ部10は、発振器1と、信号を増幅するパワーアンプ2と、共振回路にエネルギーを供給するための入力巻線4から構成されており、空芯コイル3の入力巻線4から高周波電力を共振回路部30に供給する。
【0024】
エネルギー吸収回路部40は、空芯コイル3のエネルギー吸収巻線17と該エネルギー吸収巻線17を短絡するRFオフスイッチ6から構成されている。共振巻線5とエネルギー吸収巻線17は、空芯コイル3で電磁誘導的に結合されており、RFオフ時の時、共振回路部30に溜まっているエネルギーをエネルギー吸収巻線17で瞬時に吸収することができる。エネルギー吸収巻線17に発生する電圧は、共振巻線5との巻き数比によって決定されるので、RFオフスイッチ6に用いるFETの耐圧を考慮しながら決定する必要がある。この場合において、エネルギー吸収巻線短絡時に、急激な電流が流れることを防ぐために、エネルギー吸収巻線を短絡するループに電流制限用の抵抗を接続するようにしてもよい。
【0025】
空芯コイル3は、入力巻線4と、共振巻線5と、エネルギー吸収巻線17から構成されている。共振巻線5は空芯コイル3の2次巻線としての機能を持ち、エネルギー吸収巻線17は空芯コイル3の3次巻線としての機能を持っている。図2は本発明の空芯コイルの構成例を示す図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、3は空芯巻線であり、入力巻線4と共振巻線5とエネルギー吸収巻線17とが重なり合った形で巻回されている。入力巻線4は、ここでは1ターンの場合を示している。
【0026】
共振回路部30において、エンドギャップ11,12はトラップ電極9を挟む形で配置されている。これらエンドギャップ電極11,12には、共振巻線5の他端が接続されている。共振回路部30は、パワーアンプ部10やエネルギー吸収回路部40とは直流的に絶縁されているため、つまり空芯コイル3で電磁誘導的に結合されているので、エンドギャップ電極11,12には、抵抗R1を介して高圧電源8によって図のA点の接続点を容易にフローティングすることができる。空芯コイル3の1次巻線と2次巻線は直流的に絶縁されているので、図5に示すような直流電位をカットするための高圧高周波コンデンサは必要でなく、その分、回路が簡略化されている。
【0027】
エネルギー吸収回路部40において、17は空芯コイル3内に設けられた第3巻線であり、エネルギー吸収巻線を構成している。6は該エネルギー吸収巻線17の両端を短絡するためのRFオフスイッチである。該RFオフスイッチ6は、RFオフ信号により制御される。このRFオフ信号は、パワーアンプ2にも制御信号として与えられている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0028】
図に示す回路は、共振巻線5のインダクタンスとトラップ電極9とのエンドギャップ電極111,12間の容量で決まる共振周波数になるように、発振器1の周波数を調整する。次に、発振器1のRF信号をパワーアンプ2で電力増幅し、空芯コイル3の入力巻線4に入力する。
【0029】
共振巻線5とトラップ電極9、エンドギャップ電極11,12間容量は、共振回路を構成しているので、トラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間(共振巻線5の両端)には、高周波高電圧の波形が発生する。共振巻線5とトラップ電極9、エンドギャップ電極11,12間で構成する共振回路は、パワーアンプ部10やエネルギー吸収回路部40等、他の部分とは直流的に絶縁してあるので、高圧電源8によって容易に高電圧にフローティングすることができる。
【0030】
この状態で、RFオフ信号をオンにすると、パワーアンプ2がオフになり、共振回路に供給する電力は停止する。また、同時にRFオフスイッチ6がオンになり、空芯コイル3内部に溜まっている高周波エネルギーを瞬時に吸収し、RF振幅を、図7に示すように瞬時に立ち下げることができる。
【0031】
この実施の形態例によれば、共振回路のエネルギーを吸収するエネルギー吸収回路部を設けたので、RF信号を瞬時にオフにすることができ、イオントラップに蓄積されたイオンを速やかに質量分析計等に出射することが可能となる。
【0032】
また、本発明によれば、空芯コイルに設けた第3巻線をスイッチにより短絡するので、RF信号を瞬時オフにすることができ、イオントラップに蓄積されたイオンを速やかに質量分析計等に出射することができる。本発明によれば、エネルギー吸収回路を空芯コイルに巻回させたコイルから作り出しており、1次巻線と2次巻線間が絶縁されているので、本質的にフローティングであり、高圧高周波コンデンサを必要とすることなく、スイッチング素子としてのFETトランジスタの耐圧を上げる必要のないイオントラップRF電源を提供することができる。
【0033】
図3は本発明の第2の実施の形態例を示す回路図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例は、空芯コイル3の1次側の入力巻線をエネルギー吸収巻線としても使用できるようにしたものである。入力巻線動作とエネルギー吸収動作が同時並列に動作することはありえないので、このような動作が可能になる。18は入力巻線とエネルギー吸収巻線とが共用されている共通巻線である。図において、30は共振回路部、50はパワーアンプ・エネルギー吸収回路部である。その他の構成は、図1に示すものと同じである。
【0034】
共振回路部30は、共振巻線5と、トラップ電極9、エンドギャップ電極11,12から構成されている。この回路は、共振巻線5のインダクタンスと、トラップ電極9、エネルギーギャップ電極11,12間容量で決定される共振周波数で共振現象を起こすようになっている。パワーアンプ・エネルギー吸収回路部は50は、共通巻線18を共通に用いるようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0035】
共振巻線5のインダクタンスとトラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間容量で決定する共振周波数になるように発振器1の周波数を調整する。パワーアンプ2を用いてRF信号を電力増幅し、エネルギー吸収巻線(入力巻線兼用)18に入力する。共振巻線5の両端(トラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間)には共振現象で増幅されたRF高電圧が発生する。
【0036】
RFオフ端子からRFオフ信号を入力することにより、パワーアンプ2の動作を停止させ、共振部へのエネルギー供給を停止させる。これと同時に、エネルギー吸収巻線(入力巻線兼用)18をRFオフスイッチ6で短絡し、空芯コイル3に溜まっているRFエネルギーを吸収させ、共振巻線5の両端に発生するRF電圧を瞬時に立ち下げる。
【0037】
この実施の形態例によれば、空芯コイルとエネルギー吸収巻線を共用化し、1次巻線をスイッチで短絡する構成にしているので、回路を簡略化することができる。
図4は本発明の第3の実施の形態例を示す回路図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例も、入力巻線とエネルギー吸収巻線を共通巻線18とした点は同じである。この実施の形態例は、共通巻線18の一端にタップを設けて更にコイルL10を巻いてターン数を増やし、このターン数を増やしたコイルL10と共通巻線18の両端をRFオフスイッチ6で短絡するようにしたものである。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0038】
先ず、共振巻線5のインダクタンスとトラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間容量で決定する共振周波数になるように発振器1の発振周波数を調整する。次に、パワーアンプ2を用いて電力増幅し、共通巻線18に入力する。共振巻線5の両端(トラップ電極9とエンドギャップ電極11,12間)には、共振現象で増幅されたRF高電圧が発生する。RFオフ端子からRFオフ信号を入力させることにより、パワーアンプ2の動作を停止させ、共振部へのエネルギー供給を停止させる。これと同時に、共通巻線18をRFオフスイッチ6で短絡し、空芯コイル3に溜まっているRFエネルギーを吸収させ、共振巻線5の両端に発生するRF電圧を瞬時に立ち下げる。即ち、この実施の形態例は、共通巻線18の途中にタップを設けて入力巻線として使用する時と、エネルギー吸収巻線として使用する時とで、コイルの巻数を変えて使用することができるようにしたものである。
【0039】
この実施の形態例によれば、空芯コイルに設けたコイルをスイッチにより短絡するものであるので、RF信号を瞬時にオフにすることができる。
次に、入力巻線とエネルギー吸収巻線の巻数設定方法について説明する。空芯コイルの入力巻線とエネルギー吸収巻線は兼用のコイルを使用しており、コイルの途中にタップを設けて使用する巻数の設定をしている。入力巻数は、パワーアンプからのエネルギーが効率よく入っていくように入力インピーダンスがシステムインピーダンス(50Ω)になるように設定する必要がある。また、エネルギー吸収巻線はエネルギー吸収回路部に用いるFETの耐圧以下になるような巻数を選ぶ必要がある。このように構成することで、RFオフスイッチとして働くFETを高耐圧破壊から守ることができる。
【0040】
このように、本発明によれば、エネルギー吸収回路を共振巻線と別の巻線とすることにより、直流的に分離されるので、トラップ電極を高電圧にフローティングすることが可能になった。更に、高周波高圧コンデンサが不要になった。
【0041】
また、エネルギー吸収巻線と共振巻線とを分離し、巻数比が自由に設定できるようになったので、RFオフスイッチに用いるFETトランジスタの耐圧を気にせずに、RF出力電圧(トラップ電極−エンドギャップ電極間電圧)を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施の形態例を示す回路図である。
【図2】本発明の空芯コイルの構成例を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態例を示す回路図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態例を示す回路図である。
【図5】従来回路の構成例を示す図である。
【図6】RFオフ波形を示す図である。
【図7】RFオフ波形の他の例を示す図である。
【図8】従来回路の具体的構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 発振器
2 パワーアンプ
3 空芯コイル
4 入力巻線
5 共振巻線
6 RFオフスイッチ
8 高圧電源
9 トラップ電極
10 パワーアンプ部
11 エンドギャップ電極
17 エネルギー吸収巻線
30 共振回路部
40 エネルギー吸収回路部
R1 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーアンプ部からの高周波を空芯コイルを介してトラップ電極,エンドギャップ電極からなる2次側共振回路部に供給するようにしたイオントラップRF電源において、
共振エネルギーを瞬時に吸収するエネルギー吸収回路部を前記空芯コイルを介して設けたことを特徴とするイオントラップRF電源。
【請求項2】
前記エネルギー吸収回路部は、前記空芯コイルに第3巻線を設け、この第3巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする請求項1記載のイオントラップRF電源。
【請求項3】
前記エネルギー吸収回路は、前記空芯コイルの1次側巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする請求項1記載のイオントラップRF電源。
【請求項4】
前記エネルギー吸収回路は、前記空芯コイルの1次側巻線に更に第3の巻線を追加し、1次巻線と第3巻線を直列に接続し、この直列に接続した巻線をスイッチにより短絡するものであることを特徴とする請求項1記載のイオントラップRF電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−202599(P2006−202599A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12712(P2005−12712)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】