説明

イオンビーム伝送システム及びイオンビーム照射装置

【課題】小型で簡素なイオンビーム伝送システムを実現する。
【解決手段】イオンビーム照射ヘッド7内に、高強度レーザー光4aを照射してイオン2を発生させるテープターゲット3と、イオン発生位置の直後に位置するように設置され、テープターゲットから発生したイオンをコリメートしてヘッド外に発出させるキャピラリー基盤1を設けるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム伝送システム及びイオンビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度レーザー光を用いた高速イオン発生技術は、粒子線加速をコンパクトな装置で実現することができるため、従来の大型加速器施設に代わる新たな加速器として注目されている。近年では、テーブルトップサイズの高繰り返しレーザー装置を用いて、百万電子ボルト(MeV:メガエレクトロンボルト)以上のエネルギーを持つイオンビームを発生させている。将来的なレーザーイオン発生装置(加速器)の更なる小型化・高出力化は確実であり、粒子線がん治療などの医療に用いる新たな粒子線加速器として期待されている。
【0003】
しかしながら、レーザー光によるレーザーイオンイオン発生・加速部(レーザーイオン加速器)については飛躍的な技術革新がもたらされているにもかかわらず、レーザー加速したイオンの伝送技術の開発が遅れている。一般に、荷電粒子の収束・伝送には電磁石が用いられるが、陽子などのイオンビームは電子と比較して質量数が大きいために、大型・高出力の電磁石装置を必要とする。レーザー装置によってイオン発生・加速部を小型化しても、イオン伝送装置が大型のままでは、小型な加速器としての優位性は半減してしまうことから、小型のレーザーイオン加速器に適した小型のイオン伝送技術の開発が望まれている。
【0004】
また、粒子線を医学治療に利用する際の重要な条件の1つに、真空で加速される粒子線を大気中に取り出す技術がある。一般には、薄膜窓を介してイオンビームを大気中に伝送するが、この方法では、イオンビームが高エネルギー(陽子ならば20MeV程度以上)であることが必要である。また、薄膜窓を用いない方法では、大型の差動排気系が必要である。従って、数MeV程度のイオンビームを大気中に伝送することができる小型な装置が求められている。
【0005】
【特許文献1】特表2004−525710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザーイオン加速器によって発生したMeV級エネルギーの粒子線の伝送においては、以下に述べる2つの課題がある。
(1)イオンビームの発散角度が数十度程度と広いために、粒子線を収束・コリメートする必要があるが、イオンビームのエネルギーは幅広い連続分布をとるために、電場・磁場による伝送ではエネルギーの違いによって収束距離や偏向半径が異なり、そのために、全エネルギーで一様に伝送することができない。
(2)現在発生しているエネルギーが数MeV程度のイオンビームを真空から大気中へ伝送する新しい技術を開発することが必要である。
【0007】
本発明の1つの目的は、以上のような課題を、小型のレーザーイオン加速器の特長を損なうことなく解決する小型で簡素なイオンビーム伝送システム(伝送手段)を提案することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、小型で簡素なイオンビーム伝送手段を用いて使い勝手の良いイオンビーム照射装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のイオンビーム伝送システムは、イオン発生位置の直後にキャピラリー基盤を設置し、レーザー加速によって発生したイオンをコリメートするように構成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のイオンビーム照射装置は、マニピュレータの先端に設けたイオンビーム照射ヘッド内に、レーザー光を照射してイオンを発生させるテープターゲットと、イオン発生位置の直後に位置するように設置され、テープターゲットから発生したイオンをコリメートしてヘッド外に発出させるキャピラリー基盤を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発生したイオンをキャピラリー基盤によってコリメートしてイオンビームにするように構成したことにより、イオンビーム伝送システムを実現することができ、また、使い勝手の良いイオンビーム照射装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
マニピュレータの先端に設けたイオンビーム照射ヘッド内に、レーザー光を照射してイオンを発生させるテープターゲットと、イオン発生位置の直後に位置するように設置され、テープターゲットから発生したイオンをコリメートしてヘッド外に発出させる複数の貫通孔を備えたキャピラリー基盤を設け、前記レーザー光は、外部からマニピュレータ内を通して前記イオンビーム照射ヘッド内に導くように構成する。
【実施例1】
【0013】
本発明のマイクロキャピラリーによるレーザー加速イオンビーム伝送について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、レーザーイオン加速によってイオンビームを発生させた位置の直後にマイクロキャピラリーを設置することによりイオンビームの発生方向を選別して出力するレーザー加速イオンビーム伝送システムの構成を示す模式図である。
【0015】
この実施例1におけるレーザー加速イオンビーム伝送システムにおいて、キャピラリー基盤1は、直径数センチメートル、厚さ数ミリメートルから数センチメートルの基盤上に、直径が5〜10ミクロンメートル程度のキャピラリーを無数に並列に並べて配置して構成したものである。
【0016】
イオン2の発生は、イオン発生薄膜テープターゲット3上に焦点を結ぶようにレーザー光4を照射するように構成することによって実現する。このようにイオン発生薄膜テープターゲット3に対して高強度のレーザー光4を照射することにより、MeV以上のエネルギーを持ったイオン2が発生する。
【0017】
そして、レーザー加速によってイオン2が発生する位置の直後(レーザー光4が照射される薄膜テープターゲット3のレーザー光照射スポット形成位置の背面から約1cm離れた位置)に前記キヤピラリー基盤1を設置することにより、レーザー加速によって発生したイオン2をコリメートして平行なイオンビーム2aにして出力するように機能させ、電磁石を用いた伝送装置に比べて小型の伝送装置を実現する。イオン発生位置(薄膜テープターット3のレーザー光照射スポット形成位置)とキャピラリー基盤1の間隔は、レーザー光照射によって薄膜テープターゲット3から発生する微小片(デブリ)がキャピラリーに付着して微細孔を目詰まりさせてしまうのを防止する観点から、前述した距離(約1cm)が好適である。
【0018】
図2は、このようなマイクロキャピラリーによるレーザー加速イオンビーム伝送システムを使用して構成したイオンビーム照射装置の模式図である。
【0019】
このイオンビーム照射装置は、基礎部5に設置した多関節マニピュレータ6の先端に設けたイオンビーム照射ヘッド7内でレーザー加速によってイオン2を発生させ、コリメートしたイオンビーム2aを発出させてイオンビーム照射対象物である加工対象物8に照射する構成である。ここで、図示説明は省略するが、基礎部5、多関節マニピュレータ6、イオンビーム照射ヘッド7内は、排気装置によって真空状態に排気するように構成する。
【0020】
レーザー光発生装置9は、大気中に設置され、発出した低強度のレーザー光4を基礎部5に設けた透明窓(図示省略)を通して該基礎部5内に設置したパルス圧縮部10に入力する。パルス圧縮部10は、入力した低強度のレーザー光4をパルス圧縮して高強度レーザー光4aとした後に多関節マニピュレータ6の導光路に向けて出力する。低強度のレーザー光4は、大気中のレーザー光発生装置9から大気中を介して基礎部5内に伝送するのに好都合である。
【0021】
多関節マニピュレータ6は、中空の複数のアーム部材6a〜6eと、これらのアーム部材6a〜6e間を折曲可能に接続する中空の複数の関節部材6f〜6iと、各関節部材6f〜6i内に設置した複数のレーザー光反射鏡6j〜6nを備え、その内部にレーザービーム導光路を形成する。この多関節マニピュレータ6の基端部に位置するアーム部材6aの外端は前記基礎部5に取り付けて固定し、先端部に位置するアーム部材6eの外端にはイオンビーム照射ヘッド7を取り付ける。
【0022】
そして、前記多関節マニピュレータ6は、基礎部5内のレーザー光発生装置9で発生した高強度のレーザー光4aを、アーム部材6aの外端から該アーム部材6aの中空内部のレーザービーム導光路に受入れ、関節部材6f内の反射鏡6j−アーム部材6b−関節部材6g内の反射鏡6k−アーム部材6c−関節部材6h内の反射鏡6m−アーム部材6d−関節部材6i内の反射鏡6n−アーム部材6eを介して導いてイオンビーム照射ヘッド7内に入力するように機能する。
【0023】
イオンビーム照射ヘッド7は、ヘッド筐体7a内に、収束ミラー7bと、前記イオン発生薄膜テープターゲット3を巻回したテープ供給リール7cと、前記テープ供給リール7cから繰り出したイオン発生薄膜テープターゲット3を巻き取るテープ巻き取りリール7dと、前記キャピラリー基盤1を備える。イオン発生薄膜テープターゲット3における高強度レーザー光照射スポットの位置とキャピラリー基盤1の間の間隔は、約1cmとする。
【0024】
そして、前記イオンビーム照射ヘッド7は、アーム部材6eから入力した高強度レーザー光4aを、テープ供給ルール7cから繰り出したイオン発生薄膜テープターゲット3上に焦点を結ぶように収束ミラー7bによって収束し、高強度レーザー光4aが照射されたイオン発生薄膜テープターゲット3から発生するレーザー加速イオン2をイオン発生部の直後に位置するように設けたキャピラリー基盤1によってコリメートして平行なイオンビーム2aにしてヘッド外に発出するように構成する。従って、キャピラリー基盤1は、イオンビーム2aをイオンビーム照射ヘッド7からヘッド外に発出させるためのイオンビーム発出窓としても機能する。
【0025】
このようにイオン発生薄膜テープターゲット3に高強度レーザー光4aを照射して発生させたレーザー加速イオンをイオン発生位置の直後に設置したキャピラリー基盤1を使用してコリメートすることによって発出するイオンビーム照射ヘッド7は、数センチメートル〜数10センチメートルの奥行き寸法に小型化・軽量化することができるので、イオンビーム照射ヘッド7をイオン照射対象物8の直近まで近づけてイオン照射対象物8にイオンビームを照射することができるようになる。
【0026】
このように構成したイオンビーム照射装置は、多関節マニピュレータ6によって支持したイオンビーム照射ヘッド7をイオン照射対象物8の近くまで移動させてキャピラリー基盤1をイオン照射対象物8に対面させることにより、イオンビーム照射ヘッド7内で発生させたイオン2をキャピラリー基盤1によってコリメートして発出させてイオン照射対象物8の所望の照射対象部位に容易に照射することができる。
【0027】
このようなイオンビーム照射装置によれば、従来のイオン照射装置では手の届かないようなイオン照射対象位置にまで、きめ細かなイオン照射を実現することができるようになり、使い勝手の良いイオンビーム照射装置となる。
【0028】
ここで、キャピラリー基盤1について図3を参照して説明する。
【0029】
一般的なキャピラリー基盤1は、キャピラリー基盤1の軸線(テープターゲット3でのイオン発生点3aからキャピラリー基盤1の中心を通る仮想線)に平行な多数の孔を保持した構成(図3のa))となっているが、本実施例1において発生するイオンビームは、その特性上、放射状に放射するイオンビーム2であるため、キャピラリー基盤1へのイオンビーム2の入射角の関係で一部のイオンビーム2aのみの利用となってしまうことから、加工対象物8への照射効率が非常に悪くなる。
【0030】
図3において、イオンビーム2の破線は、キャピラリー基盤1で収束されず、加工対象物8への照射に繋がらなかったイオンビーム2を示している。
【0031】
そこで、本実施例1では、キャピラリー基盤1の軸線に平行な多数の孔を、放射するイオンビーム2の放射角度に沿って、イオンビーム2の中心軸線を中心として傾斜した孔を多数保有する構造(図3のb))とすることで、イオンビーム2の収束効率を高め、加工対象物8への照射効率を高める構成としている。孔の傾斜角度は、過去の平板基盤を用いた実験例から推定すると、0.6度が好ましい角度である。
【0032】
この場合、キャピラリー基盤1の孔は丸穴に限定されるものではなく、傾斜を持った穴を製造するための膜生成、エッチング等の観点から、角孔形状としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のレーザー加速イオンビーム伝送システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例1のイオンビーム照射装置の模式図である。
【図3】本発明の実施例1のキャピラリー基盤の模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1…キャピラリー基盤、2…イオン、2a…イオンビーム、3…薄膜テープターゲット、4…レーザー光、4a…高強度レーザー光、6…多関節マニピュレータ、7…イオンビーム照射ヘッド、9…レーザー光発生装置、10…パルス圧縮部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加速によって発生したイオンをコリメートして伝送するイオンビーム伝送システムにおいて、
イオン発生位置の直後に、貫通孔を有するキャピラリー基盤を設置し、レーザー加速によって発生したイオンを前記貫通孔を通過させることによりコリメートするように構成したことを特徴とするイオンビーム伝送システム。
【請求項2】
請求項1において、前記キャピラリー基盤は複数の貫通孔を備え、この貫通孔は、イオンの進行方向に放射状に広がるように貫通孔軸を配列し、かつ、前記貫通孔軸は、キャピラリー基盤内の途中からイオンの進行方向に平行となるように形成されていることを特徴とするイオンビーム伝送システム。
【請求項3】
レーザー加速によって発生したイオンをコリメートしてマニピュレータの先端に設けたイオンビーム照射ヘッドから発出させてイオン照射対象物に照射するイオンビーム照射装置において、
前記イオンビーム照射ヘッド内に、レーザー光を照射してイオンを発生させるテープターゲットと、イオン発生位置の直後に位置するように設置され、テープターゲットから発生したイオンをコリメートしてヘッド外に発出させるキャピラリー基盤を設けたことを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項4】
請求項3において、前記キャピラリー基盤は複数の貫通孔を備え、この貫通孔は、イオンの進行方向に放射状に広がるように貫通孔軸を配列し、かつ、前記貫通孔軸は、キャピラリー基盤内の途中からイオンの進行方向に平行となるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載のイオンビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−276315(P2009−276315A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130378(P2008−130378)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成19年度文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「光医療産業バレー」拠点創出」(委託業務)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】