説明

イオンビーム照射装置

【課題】 X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームに対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板の帯電を均一性良く抑制することができるイオンビーム照射装置を提供する。
【解決手段】 このイオンビーム照射装置は、イオンビーム2のX方向側の側面に対向する位置に設けられた電極20aを備えている。電極20a内には、Y方向に長い環状の永久磁石24と、その内側に配置されていてY方向に長く永久磁石24とは反対極性の永久磁石26とが設けられている。この装置は更に、両永久磁石24、26間に形成されるトンネル状磁界の領域に電子50を供給する電子源30aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板にイオンビームを照射して、当該基板に例えばイオン注入、配向処理等の処理を施すイオンビーム照射装置に関し、より具体的には、イオンビーム照射に伴う基板の帯電(チャージアップ)を均一性良く抑制する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の上流側近傍において、電子源から発生させた低エネルギー(例えば20eV程度以下)の電子をイオンビームに供給して、当該電子をイオンビームと共に基板に到達させて、イオンビーム照射に伴う基板の帯電を抑制するようにしたイオンビーム照射装置が従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。低エネルギーの電子を供給するのは、当該電子が基板に過剰に供給された場合に、基板の負の帯電電圧を小さく抑制するためである。なお、特許文献1に記載の装置では、プラズマ源から電子を発生させるようにしているが、これも広義では電子源と言うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載のイオンビーム照射装置は、イオンビームに対して一箇所から低エネルギーの電子を比較的集中させて供給するものである。
【0004】
ところが、イオンビーム照射装置には、図1を参照して、イオンビーム2の進行方向Zに実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きいイオンビーム2を基板に照射する装置がある。このようなイオンビーム2は、リボン状(またはシート状)のイオンビームと呼ばれることもある。このようなイオンビーム2を用いる場合は、基板のY方向の寸法も、通常は、イオンビーム2のY方向の寸法WY に応じて大きい。例えば、基板のY方向の寸法は、イオンビーム2のY方向の寸法WY よりも若干小さい程度にされる。
【0005】
上記のようなイオンビーム2に、例えばその側面(主面)3に、特許文献1に記載の技術に従って、一箇所から低エネルギーの電子を供給しても、Y方向に長いイオンビーム2に対して当該電子を偏らずに供給することは難しい。その結果、この電子の偏在が基板の帯電抑制に影響するので、基板の帯電を均一性良く抑制することが難しい。
【0006】
これは、イオンビームに電子を供給する領域には、イオンビーム照射装置を構成する他の機器(例えば分析電磁石)からの漏れ磁界が存在する場合が多く、それ以外にも地磁気が存在するので、電子源から供給される低エネルギーの電子がこれらの磁界に拘束されて電子の偏在が起こり、それによって基板の帯電抑制効果が不均一になるからである。
【0007】
ちなみに、次式からも分かるように、低エネルギーの電子ほど、磁界中でのラーモア半径Rは小さくなるので、電子の偏在が起こりやすい。ここでBは磁束密度、mは電子の質量、Vは電子の引出し電圧(エネルギーに相当)、eは電荷である。例えば、磁束密度Bが3×10-4Tの場合、20eVのエネルギーの電子のラーモア半径Rは約5cmしかない。
【0008】
[数1]
R=(1/B)√(2mV/e)
【0009】
そこでこの発明は、上記のようにX方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームに対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板の帯電を均一性良く抑制することができるイオンビーム照射装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るイオンビーム照射装置の一つは、イオンビームの進行方向に実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを、ホルダに保持された基板に照射するイオンビーム照射装置において、前記ホルダの上流側であって前記イオンビームのX方向側の側面に対向する位置に設けられていて、非磁性体から成る板状の第1の電極と、前記第1の電極の面内に設けられていて、前記イオンビーム側に第1の極性の磁極を有しており、かつ前記Y方向に沿って伸びている環状の第1の永久磁石と、前記第1の電極の面内であって前記環状の第1の永久磁石の内側に、前記第1の永久磁石との間に間隔をあけて設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性とは反対の第2の極性の磁極を有しており、かつ前記Y方向に沿って伸びている第2の永久磁石と、前記第1および第2の永久磁石間に形成される磁界の領域に電子を供給する第1の電子源とを備えていることを特徴としている。
【0011】
このイオンビーム照射装置においては、前記電子源から前記磁界の領域に供給された電子(一次電子)は、前記磁界に捕捉されて、前記磁界の磁力線に巻き付くように螺旋運動をしながら、グラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトによって、前記第1および第2の永久磁石間の環状の空間に沿って環状にドリフト運動する。前記一次電子が前記螺旋運動およびドリフト運動をしている間に、当該一次電子が残留ガス分子と衝突すること等によって、当該一次電子よりも低エネルギーの電子が生成される。この低エネルギー電子の生成は、前記一次電子が環状にドリフト運動をするので、前記Y方向に沿って伸びている広い領域で行われる。
【0012】
上記のようにして生成された低エネルギー電子は、磁界の弱い領域に、即ち第1の電極表面から離れる方向に拡散すると共に、イオンビームの正のビームポテンシャルによって引き寄せられて、イオンビーム内に引き込まれ、イオンビームと共に基板に到達する。
【0013】
上記のような作用によって、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームに対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板の帯電を均一性良く抑制することができる。
【0014】
前記第1の電極にイオンビームを挟んでX方向において対向するように設けられた第2の電極と、当該第2の電極の面内に設けられた第3および第4の永久磁石とを更に備えていても良い。
【0015】
前記第1の電極に、または前記第1および第2の電極間に、直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源を更に備えていても良い。
【0016】
この発明に係るイオンビーム照射装置の他のものは、イオンビームの進行方向に実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを、ホルダに保持された基板に照射するイオンビーム照射装置において、前記ホルダの上流側において前記イオンビームの周囲を取り囲むものであって、非磁性体から成る筒状の電極と、前記電極の面内に前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に第1の極性の磁極を有している環状の第1の永久磁石と、前記電極の面内であって前記第1の永久磁石よりも下流側に、かつ前記第1の永久磁石との間に間隔をあけて、前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性とは反対の第2の極性の磁極を有している環状の第2の永久磁石と、前記電極の面内であって前記第2の永久磁石よりも下流側に、かつ前記第2の永久磁石との間に間隔をあけて、前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性の磁極を有している環状の第3の永久磁石と、前記第1と第2の永久磁石間および前記第2と第3の永久磁石間にそれぞれ形成される磁界の領域に電子を供給する1以上の電子源とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、電子源から供給された電子(一次電子)は、第1および第2の永久磁石間の磁界内で螺旋運動をしながら、第1および第2の永久磁石間を環状にドリフト運動するので、当該螺旋運動およびドリフト運動を利用して、Y方向に沿って伸びている広い領域において低エネルギー電子の生成を行うことができる。その結果、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームに対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板の帯電を均一性良く抑制することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、前記バイアス電源から前記第1の電極に印加するバイアス電圧によって、前記第1の電極の表面付近における電界を制御して、前記E×Bドリフトによる電子のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その結果、基板の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、(a)第3および第4の永久磁石間に形成される環状の磁界、(b)イオンビームを挟んで相対向する第1および第3の永久磁石間に形成される磁界、および、(c)イオンビームを挟んで相対向する第2および第4の永久磁石間に形成される磁界によって、上記電子源から供給された比較的高エネルギーの電子の内で、第1および第2の永久磁石間の磁界を逃れた電子を捕捉することができる。上記電子が第2の電極に衝突して消滅することも期待できる。従って、上記比較的高エネルギーの電子がイオンビームと共に基板に到達するのをより確実に抑制することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、第2の電極側からも、第1の電極側と同様の構成および作用によって、イオンビームに低エネルギーの電子を供給することができるので、イオンビームにより多量の低エネルギー電子をより広い範囲から供給することができる。従って、基板の帯電をより均一性良く抑制することが可能になると共に、イオンビームのビーム電流が大きい場合にも対応することが容易になる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、前記バイアス電源から前記第1および第2の電極間に印加するバイアス電圧によって、両電極間の電界を制御して、両電極の表面付近におけるE×Bドリフトによる電子のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その結果、基板の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、電子源から供給された電子(一次電子)は、第1および第2の永久磁石間ならびに第2および第3の永久磁石間において、これらの永久磁石間の磁界内で螺旋運動をしながら、イオンビームを取り囲むように環状にドリフト運動するので、当該螺旋運動およびドリフト運動を利用して、イオンビームを取り囲む広い領域において低エネルギー電子の生成を行うことができる。その結果、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームに対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板の帯電を均一性良く抑制することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、前記バイアス電源から前記電極に印加するバイアス電圧によって、前記電極の表面付近における電界を制御して、E×Bドリフトによる電子のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その結果、基板の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】リボン状のイオンビームの一例を示す斜視図である。
【図2】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】図2に示す第1の電極および電子源周りの一例を示す斜視図である。
【図4】図2の線A−Aに沿う拡大縦断面図である。
【図5】図4に示す第1の電極等を矢印P方向に見て示す正面図である。
【図6】図5中の領域CにおけるグラディエントBドリフトの方向を示す図である。
【図7】図5中の領域CにおけるE×Bドリフトの方向を示す図である。
【図8】電極および電子源周りの他の例を示す縦断面図である。
【図9】この発明に係るイオンビーム照射装置の他の実施形態を構成する電極および電子源周りの例を示す斜視図である。
【図10】図9の線H−Hに沿う縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図2は、この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す概略平面図である。このイオンビーム照射装置は、イオン源4から引き出されたイオンビーム2を、分析電磁石6によって運動量分析(例えば質量分離)を行った後、処理室10内に導入するよう構成されている。イオン源4から処理室10までのイオンビーム2の経路は、真空容器8等によって真空雰囲気に保たれる。
【0026】
イオンビーム2の進行方向をZ方向とし、このZ方向に実質的に直交する平面内で互いに実質的に直交する2方向をX方向(例えば水平方向)およびY方向(例えば垂直方向)とすると、この実施形態では、イオン源4から、図3も参照して、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きい形状(これは前述したようにリボン状とも呼ばれる)のイオンビーム2を引き出して、イオンビーム2の走査を経ることなく上記形状をしたイオンビーム2を処理室10内に導入するように構成されている。
【0027】
イオンビーム2のX方向の寸法WX は、例えば5cm〜30cm程度、Y方向の寸法WY は、例えば80cm〜200cm程度であるが、これに限られるものではない。
【0028】
分析電磁石6を設けずに、イオン源4から引き出したイオンビーム2を、質量分離を行うことなく、処理室10内に導入するように構成しても良い。
【0029】
また、イオン源4からは、処理室10に導入時よりも小さい寸法のイオンビームを引き出し、途中に設けた走査器によって当該イオンビームをY方向に走査してリボン状のイオンビーム2にした後に、処理室10内に導入するように構成しても良い。
【0030】
処理室10内には、基板14を保持するホルダ12が設けられており、このホルダ12に保持された基板14に上記イオンビーム2を照射して、基板14に例えばイオン注入、配向処理等の処理を施すよう構成されている。
【0031】
ホルダ12および基板14は、この実施形態では、図示しない駆動装置によって、図2中に矢印Gで示すように、イオンビーム2の側面(主面)3に交差する方向に往復駆動される。これによって、基板14の全面にイオンビーム2を照射することができる。
【0032】
基板14は、例えば、半導体基板、ガラス基板、配向膜付基板等であるが、これに限られるものではない。
【0033】
ホルダ12の上流側近傍に、より具体的にはこの実施形態では、処理室10の入口付近の真空容器8内に、第1の電極20aを設けている。
【0034】
図3〜図5も参照して、電極20aは、非磁性体から成る平板状の電極であり、上記リボン状のイオンビーム2のX方向側の一側面(即ち主面)3に間隔をあけて対向する位置に設けられている。この電極20aは、この実施形態では、Y方向を長辺とする長方形状をしている。
【0035】
電極20aは、接地電位でも良いし、後述するバイアス電源56から直流のバイアス電圧VB を印加しても良い。
【0036】
電極20aの主面内に、Y方向に沿って伸びている環状の第1の永久磁石24を設けている。より具体的にはこの実施形態では、永久磁石24は、Y方向を長辺とする長方形の枠状をしているが、それに限られるものではない。例えば、Y方向を長軸とする楕円形、レーストラック形等の形状をしていても良い。この永久磁石24は、イオンビーム2側に第1の極性(この実施形態ではN極)の磁極を有している。
【0037】
永久磁石24は、電極20a内に、図3〜図5等に示す例のように、電極20aの内側(イオンビーム2側を内側、その反対側を外側と言う。以下同様)表面に磁極を露出させるように埋め込んでいても良いし、図10に示す例と同様に、永久磁石24を電極20aの外側から電極20a内にその表面近くまで埋め込んで、永久磁石24の磁極を電極20aの内側表面に露出させないようにしても良い。後述する永久磁石26、64、66についても同様である。
【0038】
電極20aの主面内であって、前記環状の第1の永久磁石24の内側に、当該永久磁石24との間に間隔をあけて、第2の永久磁石26を設けている。この永久磁石26は、Y方向に沿って伸びており、かつ永久磁石24とは反対の第2の極性(この実施形態ではS極)の磁極を有している。
【0039】
永久磁石26は、この実施形態では、その中間に後述する開口22が位置しているために、2本の直線状の永久磁石26に分割しているが、それに限られるものではない。例えば、永久磁石26は、開口22を取り囲んでいて永久磁石24に似た形状をしている環状のものでも良いし、開口22を横にずらして1本の直線状のものにしても良い。後述する永久磁石66についても同様である。
【0040】
両永久磁石24、26の内側の磁極の極性は、共に、上記例とは反対の極性にしても良い。その場合はそれに応じて、図8に示す永久磁石64、66の内側の磁極の極性も、図示例と反対の極性にすれば良い。同様に、図10に示す永久磁石84、86、88の内側の磁極の極性も、共に、図示例と反対の極性にしても良い。いずれの場合も、磁界Bの方向が図示例と反対になるので、後述する電子50のグラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトの方向が図示例と反対になって、電子50が図示例と反対方向に周回することになるだけである。
【0041】
両永久磁石24、26が上記のような構成をしているので、両永久磁石24、26間には、全体として見れば、永久磁石24の平面形状に似た環状をしている磁界が形成される。換言すれば、環状になっていて終端のない閉じたトンネル状磁界が形成される。このトンネル状磁界を、幾つかの磁力線28で代表して表している。
【0042】
このイオンビーム照射装置は、更に、両永久磁石24、26間に形成される上記トンネル状磁界の領域に電子50を供給する第1の電子源30aを備えている。
【0043】
より具体的には、図2、図4に示すように、電子源30aは、上記真空容器8の外側に設けられており、真空容器8を貫通する電子輸送管52を通して、かつ電極20aに設けられた開口22を通して、電極20aの外側(背面側)から上記トンネル状磁界の領域に電子50を供給する。
【0044】
電子源30aは、図4を参照して、この実施形態では、プラズマ生成容器32内にXe、Ar等のガスを導入し、フィラメント34とプラズマ生成容器32との間でアーク放電を生じさせて当該ガスを電離させてプラズマ36を生成し、このプラズマ36から、プラズマ電極38および接地電極40を通して電子50を引き出す構成をしている。41は絶縁物である。
【0045】
フィラメント34はフィラメント電源42によって加熱される。フィラメント34の一端とプラズマ生成容器32との間には、後者を正極側にして直流のアーク電源44が接続されている。プラズマ生成容器32およびそれと同電位のプラズマ電極38と接地電極40との間には、後者を正極側にして、引出し電源46から直流の引出し電圧VE が印加される。この引出し電圧VE によって、電子源30aから引き出す電子50のエネルギーが決まる。例えば、引出し電圧VE は80V〜100V程度であり、従って電子源30aから引き出す電子50のエネルギーは80eV〜100eV程度である。
【0046】
電子源30aから引き出す電子50のエネルギーを上記のように比較的大きくしておくと、前述したように他の機器からの漏れ磁界が存在していても、電子源30aから上記トンネル状磁界への電子50の供給が容易になる。即ち電子50の供給をより効率良く行うことができる。
【0047】
電子源30aは、他のタイプのもの、例えば高周波放電(例えばマイクロ波放電)によってプラズマ36を生成するタイプのものでも良い。後述する第2の電子源30bについても同様である。
【0048】
電極20aには、電子50を上記のように導入するための開口22が設けられている。この開口22は、この実施形態のように、二つに分割された永久磁石26の中間に設ける方が、電子導入の上下左右の対称性が良いので好ましいけれども、それ以外の場所に設けても良い。例えば、前述したように永久磁石26を1本にして、その永久磁石26と永久磁石24との間に開口22を設けても良い。
【0049】
電子輸送管52は、外部の磁界を遮蔽するために、強磁性材(例えばSUS430。SUSはステンレス鋼の略称。以下同様)で構成しておいても良い。そのようにすれば、外部の磁界によって電子50の軌道が乱されるのを抑制して、電子輸送管52内における電子50の輸送効率を高めることができる。
【0050】
このイオンビーム照射装置においては、電子源30aから上記トンネル状磁界の領域に供給された電子(一次電子)50は、その一部分の概略例を図3〜図5に図示しているように、上記トンネル状磁界に捕捉されて、その磁力線28に巻き付くように螺旋運動をしながら、グラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトによって、両永久磁石24、26間の環状の空間に沿って環状にドリフト運動する。即ち、電子50は、図5中に示す環状(図5ではレーストラック状)の連続軌道51をドリフト運動する。
【0051】
図5中の領域Cを例に、上記グラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトを説明する。なお、永久磁石の表面付近における電子のグラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトについては、例えば、特開2007−80691号公報(例えば図3、図7およびそれらの説明参照)および特開2000−260596号公報(例えば図5、図10およびそれらの説明参照)にも記載されている。
【0052】
永久磁石24、26間に形成される磁界をBとすると、図6に示すように、領域Cでは、磁界Bは+Z方向に生じる。また、永久磁石24、26間に形成される磁界Bは、両永久磁石24、26の表面から+X方向に離れるのに従って弱くなるので、−X方向に磁界勾配gradBが生じる。従って電子50は、両者gradBおよびB(これらは共にベクトルである)の外積gradB×Bの方向(図示例では−Y方向)にドリフトする。これがグラディエントBドリフトである。
【0053】
また、イオンビーム2は正のビームポテンシャルVP を持っている。このビームポテンシャルVP の大きさは、イオンビーム2のビーム電流等にもよるが、例えば、数十V〜数百V程度である。従って、電極20aに後述するバイアス電源56からバイアス電圧VB を印加しなくても、即ち電極20aが接地電位であっても、イオンビーム2と電極20aとの間には、図3、図7等に示すように、−X方向に電界Eが生じる。従って電子50は、この電界E(これもベクトルである)と上記磁界Bとの外積E×Bの方向(図示例では−Y方向)にドリフトする。これがE×Bドリフトである。このE×Bドリフトも上記グラディエントBドリフトと同じ方向である。
【0054】
上記領域Cとは磁界Bの向きが逆である領域、例えば図5中の領域Dでは、図6、図7とは逆方向にグラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトが起こる。
【0055】
従って、上記トンネル状磁界の領域に供給された電子50は、螺旋運動をしながら連続軌道51に沿って環状にドリフト運動をする。
【0056】
電子50が磁力線28に巻き付く螺旋運動および上記ドリフト運動をしている間に、当該電子50が残留ガス分子と衝突すること等によって、電子50よりも低エネルギーの電子が生成される。即ち、真空容器8内であってもイオンビーム2の経路付近には残留ガスが必ず存在するので、上記電子50がこの残留ガス分子と衝突して、(a)残留ガス分子を電離させて低エネルギーの二次電子が生じると共に、(b)電子50がエネルギーを失って低エネルギーの電子になる。また、(c)上記のように運動中の電子50の一部が電極20a等の表面に衝突してそこから低エネルギーの二次電子を放出させる。このようにして低エネルギーの電子が生成される。この低エネルギー電子のエネルギーは、例えば、電子50が上記のようなエネルギーの場合、通常は殆どが20eV程度以下、より具体的には10eV程度以下になる。
【0057】
しかも上記低エネルギー電子の生成は、上記電子50が環状にドリフト運動をするので、Y方向に沿って伸びている広い領域で行われる。このようにして広い領域で生成された低エネルギー電子は、磁界の弱い領域に、即ち電極20aの表面から離れる方向に拡散すると共に、イオンビーム2の正のビームポテンシャルVP によって引き寄せられて、イオンビーム2内に引き込まれ、イオンビーム2と共に基板14(図2参照)に到達して、イオンビーム照射に伴う基板14の帯電を抑制する作用を奏する。
【0058】
このようにこのイオンビーム照射装置においては、電子源30aから供給された電子50は、両永久磁石24、26間の磁界内で螺旋運動をしながら環状にドリフト運動するので、当該螺旋運動およびドリフト運動を利用して、Y方向に沿って伸びている広い領域において低エネルギー電子の生成を行うことができる。その結果、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビーム2に対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板14の帯電を均一性良く抑制することができる。
【0059】
また、電子源30aから上記トンネル状磁界の領域に供給された電子50は、上記のように磁力線28に巻き付いて捕捉(トラップ)されるので、比較的高エネルギーの電子50が基板14に到達するのを抑制することができる。基板14に電子が過剰に供給されると、基板14は当該電子のエネルギーに相当する電圧まで負に帯電する可能性があるけれども、上記作用によって比較的高エネルギーの電子が基板14に到達するのを抑制することができるので、基板の負の帯電電圧を小さく抑制することができる。
【0060】
なお、図5では、図示の簡略化のために、開口22の前方に磁力線28を図示していないけれども、磁力線28は広がるので、実際は開口22の前方にも磁力線28は存在する。従って、開口22から放出される電子50は、磁力線28に捕捉されて上記のような螺旋運動およびドリフト運動を行う。磁力線28による電子50の捕捉をより確実に行う等のために、次の手段の一つ以上を採用しても良い。後述する他の実施形態においても同様である。
【0061】
(a)電子輸送管52および電子源30aを電極20aに対してほぼ直角ではなく、例えば図2中に線18で示すように、それらを電極20aに対して斜めに配置しても良い。そのようにすると、より磁界の強い領域に向けて開口22から電子50を放出することができるので、磁力線28による電子50の捕捉をより確実に行うことができる。
【0062】
(b)開口22の一部分に、例えばY方向に長い細い蓋を設けても良い。そのようにすると、開口22から放出される電子50は蓋の左右両側から放出されるようになり、それによってより磁界の強い領域に向けて電子50を放出することができるので、磁力線28による電子の捕捉をより確実に行うことができる。
【0063】
(c)開口22を永久磁石24と26との間に設けても良い。そのようにすると、両永久磁石24、26間の磁界は強く、そこに開口22から電子50を放出することができるので、磁力線28による電子50の捕捉をより確実に行うことができる。なおこの場合は、前述したように、永久磁石26を1本の磁石にすることもできる。
【0064】
上記永久磁石24、26を有する電極20aは、基板14の近くに設けるのが好ましい。そのようにすると、低エネルギー電子を基板14の近くで発生させてそれをイオンビーム2に供給することができるので、低エネルギー電子の移動距離が短くて済み、従って低エネルギー電子を基板14により効率良く供給して、基板14の帯電抑制をより効率良く行うことができる。後述する他の実施形態の場合も同様である。
【0065】
上記電極20aに直流のバイアス電圧VB を印加するバイアス電源56を設けておいても良い。電極20aに印加するバイアス電圧VB の極性は、接地電位に対して負でも良いし正でも良い。図3、図4は負の場合の例を示す。このバイアス電圧VB の絶対値は、例えば、0V〜100V程度であるが、これに限られるものではない。
【0066】
上記バイアス電圧VB によって、電極20aの表面付近における電界を制御して、前記E×Bドリフトによる電子50のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その結果、基板14の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【0067】
例えば、図3、図4に示す例のように、電極20aに負のバイアス電圧VB を印加すると、上記ビームポテンシャルVP にこのバイアス電圧VB が加算されて上記電界Eが大きくなるので、上記E×Bドリフトによる電子50のドリフト速度を大きくして、電子50を速く周回させる(ドリフトさせる)ことができる。それによって、低エネルギー電子の生成を連続軌道51上においてより均一にすることができる。これは例えば、残留ガス圧が高くて電子50が消滅しやすい場合等に有効である。
【0068】
反対に、電極20aに正のバイアス電圧VB を印加すると、上記ビームポテンシャルVP からバイアス電圧VB が減算されて上記電界Eが小さくなるので、上記E×Bドリフトによる電子50のドリフト速度を小さくして、電子50をゆっくり周回させることができる。この場合、ビームポテンシャルVP の絶対値よりもバイアス電圧VB の絶対値を大きくすると、電界Eが図3、図7等に示した例とは逆転してE×Bドリフトの方向も逆転するので、上記グラディエントBドリフトを抑制することもできる。これは例えば、開口22の近くに電子50を多く存在させて、その辺りで低エネルギー電子を多く生成させたい場合等に有効である。
【0069】
図5中に二点鎖線で示す例のように、両永久磁石24、26の背面を覆う板状の磁性体58を設けておいても良い。この磁性体58は、図10に示す磁性体94を平板状にしたようなものである。この磁性体58は、例えばSUS430から成る。このような磁性体58を設けると、上記トンネル状磁界を強化することができると共に、外部への漏れ磁界を小さくすることができる。図8に示す永久磁石64、66についても同様である。
【0070】
次に、他の実施形態を説明する。以下においては、先に説明した実施形態と同一または相当する部分には同一符号を付し、先に説明した実施形態との相違点を主体に説明する。
【0071】
図8に示す実施形態では、上記第1の電極20aに、イオンビーム2を挟んでX方向において対向するように、第2の電極20bを配置している。この電極20bも、非磁性体から成る平板状の電極であり、上記電極20aと実質的に同じ形状をしている。即ち、イオンビーム2を中心にして、第1の電極20aとほぼ対称に、第2の電極20bを配置している。
【0072】
この電極20bは、接地電位でも良いし、電極20aとの間にバイアス電源56からバイアス電圧VB を印加しても良い。これについては後述する。
【0073】
上記第1の永久磁石24と実質的に同じ形状をしている第3の永久磁石64を、電極20bの主面内に、永久磁石24と反対極性で対向するように設けている。即ちこの実施形態では、永久磁石64はイオンビーム2側にS極の磁極を有している。
【0074】
更に、上記第2の永久磁石26と実質的に同じ形状をしている第4の永久磁石66を、電極20bの主面内に、永久磁石26と反対極性で対向するように設けている。即ちこの実施形態では、永久磁石66はイオンビーム2側にN極の磁極を有している。
【0075】
従って、電極20bの内側表面付近にも、電極20a側と同様のトンネル状磁界が形成される。そのトンネル状磁界を、幾つかの磁力線68で代表して表している。
【0076】
更に、イオンビーム2を挟んで相対向する永久磁石24、64間および永久磁石26、66間にもそれぞれ磁界が形成される。それらの磁界を、幾つかの磁力線70、72で代表して表している。これらの磁界は、言わばカーテン状の形状をしている。
【0077】
上記のような永久磁石64、66を有する電極20bを更に設けておくと、(a)第3および第4の永久磁石64、66間に形成される環状の磁界(トンネル状磁界)、(b)イオンビーム2を挟んで相対向する第1および第3の永久磁石24、64間に形成される磁界、および、(c)イオンビーム2を挟んで相対向する第2および第4の永久磁石26、66間に形成される磁界によって、上記電子源30aから供給された比較的高エネルギーの電子(一次電子)50の内で、第1および第2の永久磁石24、26間のトンネル状磁界を逃れた電子を捕捉(トラップ)することができる。上記(a)のトンネル状磁界に電子50が捕捉される作用は、電極20a側について図3〜図7を参照して説明した作用と同様である。上記(b)、(c)の磁界に電子50が捕捉されるのは、当該磁界に電子50が巻き付いて、当該磁界が言わば檻(おり)のような働きをするからである。
【0078】
永久磁石24、26間のトンネル状磁界を逃れた上記電子50が第2の電極20bに衝突して消滅することも期待できる。従って、上記比較的高エネルギーの一次電子50がイオンビーム2と共に基板14に到達するのをより確実に抑制することができる。それによって、基板14の負の帯電電圧上昇をより確実に抑制することができる。
【0079】
上記永久磁石64、66間に形成されるトンネル状磁界の領域に電子50を供給する第2の電子源30bを更に設けておいても良い。
【0080】
この電子源30b、電子50を輸送する電子輸送管52、絶縁物54、電極20bに設けられた開口22は、例えば、図2〜図5を参照して説明した電子源30a、電子輸送管52、絶縁物54、開口22と同様のものであるので、その説明を参照するものとし、ここでは重複説明を省略する。
【0081】
上記電子源30bを設けておくと、第2の電極20b側からも、第1の電極20a側と同様の構成および作用によって、イオンビーム2に低エネルギーの電子を供給することができるので、イオンビーム2により多量の低エネルギー電子をより広い範囲から供給することができる。従って、基板14の帯電をより均一性良く抑制することが可能になると共に、イオンビーム2のビーム電流が大きい場合にも対応することが容易になる。
【0082】
第1および第2の電極20a、20b間に直流のバイアス電圧VB を印加するバイアス電源56を設けておいても良い。このバイアス電圧VB の極性は、図8に示す例のように電極20b側を正にしても良いし、それとは反対に負にしても良い。
【0083】
上記バイアス電圧VB によって、両電極20a、20b間の電界Eを制御して、両電極20a、20bの表面付近におけるE×Bドリフトによる電子50のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その詳細は、図3、図4に示す例について説明したのと同様である。その結果、基板14の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【0084】
図9、図10に示す実施形態のイオンビーム照射装置は、前記ホルダ12(図2参照)の上流側近傍においてイオンビーム2の周囲を取り囲むものであって、非磁性体から成る筒状の電極80を備えている。この電極80を設ける場所のより具体例は、図2に示した電極20a(および20b)と同様の場所である。
【0085】
電極80は、接地電位でも良いし、バイアス電源56から直流のバイアス電圧VB を印加しても良い。
【0086】
電極80は、この実施形態では、XY平面に沿う断面が、Y方向を長辺とする長方形をした四角筒状をしているが、それに限られるものではない。例えば、同断面がY方向を長軸とする楕円形、レーストラック形等の形状をしていても良い。
【0087】
上記電極80の側面(主面)内に、イオンビーム2の周囲を取り囲むように、環状の第1〜第3の永久磁石84、86、88が設けられている。永久磁石86は永久磁石84の下流側に永久磁石84との間に間隔をあけて設けられており、永久磁石88は永久磁石86の下流側に永久磁石86との間に間隔をあけて設けられている。なお、永久磁石86は、この例では、開口22の位置で一部が切れているが、このようなものもこの明細書では環状と呼んでいる。
【0088】
永久磁石84は、イオンビーム2側に第1の極性(この実施形態ではN極)の磁極を有しており、永久磁石86はイオンビーム2側に上記第1の極性とは反対の第2の極性(この実施形態ではS極)の磁極を有しており、永久磁石88はイオンビーム2側に上記第1の極性(N極)の磁極を有している。これらの永久磁石84、86、88の内側の磁極の極性は、全て図示例と反対にしても良いことは前述のとおりである。
【0089】
永久磁石84、86、88が上記のような構成をしているので、永久磁石84、86間には、イオンビーム2を取り囲んでいる第1の環状の磁界が形成される。換言すれば、イオンビーム2を取り囲んでいる第1のトンネル状磁界が形成される。同様に、永久磁石86、88間にも、イオンビーム2を取り囲んでいる第2の環状の磁界が形成される。換言すれば、イオンビーム2を取り囲んでいる第2のトンネル状磁界が形成される。これらのトンネル状磁界を、幾つかの磁力線90、92で代表して表している。
【0090】
この実施形態では、更に、永久磁石84、86間および永久磁石86、88間に形成される上記第1および第2のトンネル状磁界の領域に電子50を供給する電子源30aを備えている。
【0091】
この電子源30a、電子50を輸送する電子輸送管52、それと電極80間の絶縁物(図示省略。図4に示す絶縁物54に相当)、電極80に設けられた開口22は、例えば、図2〜図5を参照して説明した電子源30a、電子輸送管52、絶縁物54、開口22と同様のものであるので、その説明を参照するものとし、ここでは重複説明を省略する。
【0092】
この実施形態の場合は、電子源30aから永久磁石84、86間のトンネル状磁界の領域に供給された電子(一次電子)50は、当該トンネル状磁界に捕捉されて、その磁力線90に巻き付くように螺旋運動をしながら、グラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトによって、永久磁石84、86間の環状の空間に沿って、イオンビーム2を取り囲むように環状にドリフト運動する。同様に電子源30aから永久磁石86、88間のトンネル状磁界の領域に供給された電子(一次電子)50は、当該トンネル状磁界に捕捉されて、その磁力線92に巻き付くように螺旋運動をしながら、グラディエントBドリフトおよびE×Bドリフトによって、永久磁石86、88間の環状の空間に沿って、イオンビーム2を取り囲むように環状にドリフト運動する。両ドリフト運動の詳細は、前述したとおりである。
【0093】
また電子源30aから供給される一次電子50が上記トンネル状磁界に捕捉されるメカニズム、および、上記電子50のドリフト運動等によって低エネルギーの電子が生成されるメカニズムは、前述した実施形態の場合とほぼ同様であるので、ここでは重複説明を省略する。
【0094】
このようにこの実施形態のイオンビーム照射装置においては、電子源30aから供給された電子50は、永久磁石84、86間および永久磁石86、88間において、これらの永久磁石間の磁界内で螺旋運動をしながら、イオンビーム2を取り囲むように環状にドリフト運動するので、当該螺旋運動およびドリフト運動を利用して、イオンビーム2を取り囲む広い領域において低エネルギー電子の生成を行うことができる。その結果、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビーム2に対して低エネルギーの電子を広範囲に供給することができ、それによって基板14の帯電を均一性良く抑制することができる。しかもこの実施形態の場合は、図3、図8に示した実施形態の場合に比べて、イオンビーム2に対して低エネルギーの電子をより広範囲に供給することができ、それによって基板14の帯電をより均一性良く抑制することができる。
【0095】
更にこの実施形態では、図10からも分かるように、永久磁石84、86間の磁界と、永久磁石86、88間の磁界とは互いに逆方向であり、従って電子50のドリフト方向も、永久磁石84、86間におけるドリフトと永久磁石86、88間におけるドリフトとが互いに逆方向になって電子50は互いに逆方向の周回運動をするので(図5に示す実施形態では電子50は一方向に周回する)、電子50の濃淡、ひいては生成される低エネルギー電子の濃淡を相殺しやすくなる。従って、イオンビーム2に低エネルギーの電子をより均一性良く供給することができ、それによって基板14の帯電をより均一性良く抑制することができる。
【0096】
永久磁石84、86、88の背面に、筒状の磁性体94を設けておいても良い。その材質の例、作用効果等は、上記磁性体58の場合と同様である。
【0097】
第2の電子源を設けて、上記電子源30aの反対側からも上記トンネル状磁界に電子50を供給するようにしても良い。その具体的な構成の例、作用効果等は、図8に示した電子源30bの場合と同様である。
【0098】
電極80に直流のバイアス電圧VB を印加するバイアス電源56を設けておいても良い。その極性の例、作用効果等は、図3、図4に示したバイアス電源56の場合と同様である。即ち、上記バイアス電圧VB によって、電極80の表面付近における電界を制御して、E×Bドリフトによる電子50のドリフト速度を制御することができ、それによって低エネルギー電子の生成状況を制御することができる。その結果、基板14の帯電抑制をより効果的に行うことが可能になる。
【0099】
なお、上記第1の電子源30aおよび第2の電子源30bの数は、それぞれ、上記各実施形態において示した一つに限られるものではなく、必要に応じて複数にしても良い。その場合は、当該電子源30a、30bの数に応じて上記電子輸送管52、開口22等を設ければ良い。
【符号の説明】
【0100】
2 イオンビーム
12 ホルダ
14 基板
20a、20b 電極
24、26 永久磁石
30a、30b 電子源
50 電子(一次電子)
56 バイアス電源
64、66 永久磁石
80 電極
84、86、88 永久磁石
【先行技術文献】
【特許文献】
【0101】
【特許文献1】特開平6−203785号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの進行方向に実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを、ホルダに保持された基板に照射するイオンビーム照射装置において、
前記ホルダの上流側であって前記イオンビームのX方向側の側面に対向する位置に設けられていて、非磁性体から成る板状の第1の電極と、
前記第1の電極の面内に設けられていて、前記イオンビーム側に第1の極性の磁極を有しており、かつ前記Y方向に沿って伸びている環状の第1の永久磁石と、
前記第1の電極の面内であって前記環状の第1の永久磁石の内側に、前記第1の永久磁石との間に間隔をあけて設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性とは反対の第2の極性の磁極を有しており、かつ前記Y方向に沿って伸びている第2の永久磁石と、
前記第1および第2の永久磁石間に形成される磁界の領域に電子を供給する第1の電子源とを備えていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項2】
前記第1の電極に直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源を備えている請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項3】
前記第1の電極に前記イオンビームを挟んで前記X方向において対向するように配置されていて、非磁性体から成る板状の第2の電極と、
前記第1の永久磁石と実質的に同じ形状をしていて、前記第2の電極の面内に、前記第1の永久磁石と反対極性で対向するように設けられた第3の永久磁石と、
前記第2の永久磁石と実質的に同じ形状をしていて、前記第2の電極の面内に、前記第2の永久磁石と反対極性で対向するように設けられた第4の永久磁石とを備えている請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項4】
前記第3および第4の永久磁石間に形成される磁界の領域に電子を供給する第2の電子源を備えている請求項3記載のイオンビーム照射装置。
【請求項5】
前記第1および第2の電極間に直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源を備えている請求項3または4記載のイオンビーム照射装置。
【請求項6】
イオンビームの進行方向に実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを、ホルダに保持された基板に照射するイオンビーム照射装置において、
前記ホルダの上流側において前記イオンビームの周囲を取り囲むものであって、非磁性体から成る筒状の電極と、
前記電極の面内に前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に第1の極性の磁極を有している環状の第1の永久磁石と、
前記電極の面内であって前記第1の永久磁石よりも下流側に、かつ前記第1の永久磁石との間に間隔をあけて、前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性とは反対の第2の極性の磁極を有している環状の第2の永久磁石と、
前記電極の面内であって前記第2の永久磁石よりも下流側に、かつ前記第2の永久磁石との間に間隔をあけて、前記イオンビームの周囲を取り囲むように設けられていて、前記イオンビーム側に前記第1の極性の磁極を有している環状の第3の永久磁石と、
前記第1と第2の永久磁石間および前記第2と第3の永久磁石間にそれぞれ形成される磁界の領域に電子を供給する1以上の電子源とを備えていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項7】
前記電極に直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源を備えている請求項6記載のイオンビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−262797(P2010−262797A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111756(P2009−111756)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(507178729)ノベリオンシステムズ株式会社 (3)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】